HR+/HER2-乳がん術後薬物療法におけるアベマシクリブ、その位置付けは?

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 ホルモン受容体陽性/HER2陰性で再発高リスクの乳がんにおける術後薬物療法として、CDK4/6阻害薬アベマシクリブ(商品名:ベージニオ)が2021年12月24日に追加承認を取得した。1月21日「ベージニオに新たな適応症が追加 HR+/HER2-乳癌の術後薬物療法の新しい選択肢とは」と題したメディアセミナー(主催:日本イーライリリー)が開催され、座長として大野 真司氏が登壇、原 文堅氏(ともにがん研究会有明病院)が術後薬物療法における同薬の位置付けについて講演した。

 アベマシクリブは2018年9月に、HR+/HER2-の手術不能または再発乳がんに対する治療薬として承認されている。骨髄での造血管細胞の成熟に関連するCDK6-サイクリンD3よりも、乳がんの増殖に関連するCDK4-サイクリンD1をより高く阻害するため、パルボシクリブと比較して骨髄抑制が軽く、連日内服が可能という点が特徴となっている。用法・用量としては1回150mgの1日2回経口投与であるが、術後薬物療法では投与期間は最大で24ヵ月間、状態に応じて適宜減量することとされた。 

術後薬物療法におけるアベマシクリブの有効性(monarchE試験)

 乳がん―とくにHR+乳がんにおいては、初回診断後5年経過以降も再発リスクがある。再発リスクに応じて、化学療法追加(オンコタイプDXなどの遺伝子検査で判定)、術後内分泌療法の延長(5年→10年)などにより予後は改善してきたが、リンパ節転移の個数が多い場合などの再発高リスクの患者では不十分であった。

 再発高リスクの患者を対象とした国際共同第III相monarchE試験では、術後薬物療法としてのアベマシクリブと内分泌療法による併用療法の有効性を検討。主要評価項目である無浸潤疾患生存期間(iDFS)は、2年時点でアベマシクリブ+内分泌療法群92.6%に対し内分泌療法群89.6%となり、有意にアベマシクリブ併用群で改善がみられた。3年時点では88.6%に対し82.9%とより差が開く形となり、原氏は「フォローアップ期間が延びてその差が広がるということは、それだけ併用療法の有効性が高いことを示している」と話した。

有害事象の頻度、管理は?

 有害事象については、転移・再発乳がんへの治療においてみられたものと同様の傾向で、下痢(82.2%)、好中球減少症(44.6%)、疲労(38.4%)などが多く報告された。日本人サブグループにおいても同様の傾向が報告されている。下痢については、投与初期の1~2サイクル目での報告が多くを占める。「ベージニオ適正使用ガイド」では、グレードに応じた用量調整の考え方が示されており、原氏は適切に休薬・減量をすることでマネジメントは可能との認識を示した。
 その他重大な副作用として、間質性肺疾患、肝機能障害(ALT/AST増加等)、骨髄抑制(好中球減少、白血球減少、貧血等)、静脈血栓塞栓症が挙げられる。原氏は、「適正使用ガイドでは胸部CT検査や肝機能検査、骨髄機能検査などアベマシクリブ投与中に必要な検査とその推奨時期が示されており、われわれはこれを遵守することが求められる」とした。
 間質性肺炎に関しては、monarchE試験の日本人集団では13例認められており、うち治験薬との因果関係が認められたのは1例。グレード2以上であれば投与中止(原則として再投与なし)が求められる。

 静脈血栓塞栓症は、日本人集団では2例報告されている。全体集団解析での発現率は2.3%で多くが非重篤であるが、原氏は「重篤な事象が起こりうるという認識の下で管理していくことが非常に重要」と指摘した。

 最後に同氏は、今後の検討課題として、真に本療法の恩恵に預かることのできる症例を選択するためのバイオマーカー探索、逆にmonarchE試験の対象外症例への適応拡大の可能性の検討、術後に本療法を実施した症例の再発時の治療法の検討を挙げ、講演を締めくくった。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


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JSMO2022の注目演題/日本臨床腫瘍学会

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 2022年1月21日、日本臨床腫瘍学会はオンラインプレスセミナーを開催し、会長の国立がん研究センター中央病院の大江 裕一郎氏らが、第19回学術集会の注目演題などを発表した。

 今回の学術集会のテーマは「Inspiring Asian Collaboration and the Next Generation in Oncology」。アジアとの協力関係と若手の活性化を目指したものだという。2022年2月17~19日に、現地(京都国際会館およびザ・プリンス京都宝ヶ池)開催を基本とし、webライブとオンデマンド配信を組み合わせたハイブリッド形式で行われる。演題数は1,000を超え、4分の1は海外からの演題とのこと。

4つのPresidenstial Session
 選ばれた優秀演題が発表されるPresidentialは1~4までのsessionで行われる。

 Session1は乳がんと婦人科がんで2月17日午前、Session2は肺がんで2月17日午後、Session3は消化器がんで2月18日午前、Session4は造血器腫瘍と希少がんのトピックで2月19日の午前に開催される。

COVID-19関連演題
 COVID-19関連は、主に2つの合同シンポジウムと2つの一般演題セッションで取り上げられる。

 同学会と日本癌学会/日本癌治療学会のがん関連3学会の合同シンポジウム「COVID-19流行のがんマネジメント」が2月17日午後に行われる。ここでは、新型コロナの流行によるがんのマネジメントへの影響について、さまざまな観点から議論する。

 ESMO(欧州臨床腫瘍学会)との合同シンポジウム「Oncology Trial and Practice with/post COVID-19 era」が上記シンポジウムに引き続いて行われる。ここでは海外演者と日本の演者が登壇し、コロナ禍でのがん臨床および治療開発をどのように行うべきかディスカッションが行われる。

 一般演題ではCOVID-19関連Mini Session1と2で国内外の演者による発表が行われる。

HPV関連がん
 2020年にワクチンの積極的勧奨が再開されたHPV関連がんについては、会長企画「HPV関連がんの予防と治療~日本とアジアの現状から見えてくるものとは~」で取り上げる。

 ここではHPVワクチンの安全性や近年増加しているHPV関連中咽頭がんについての新たな知見が紹介される。

(ケアネット)


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2021年に注目された記事は?「ベストPicker アワード」発表

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 ケアネットが運営する、オンコロジーを中心とした医療情報キュレーションサイト「Doctors’Picks」(医師会員限定)は、2021年にサイト上で最も活躍した医師を表彰する「2021年 ベストPicker アワード」を発表した。投稿(Pick)数と他ユーザーからの評価を足した指標を基に毎年行っているもので、2021年に表彰された5名の医師と受賞コメントは以下のとおりとなっている。

◆田中 希宇人氏(日本鋼管病院)
 このたびは「ケアネットDoctors’Picks 2021年ベストPicker」を頂きまして誠に嬉しく思います。昨年もコロナで日常診療も私生活も相当制限された1年でした。このような世界的パンデミック下だからこそ正確で効率的な情報収集と分かりやすい情報発信の重要性を改めて認識することになりました。2022年は新しいことにもチャレンジしつつ、ケアネットさんとも一緒にこれからの令和の医療の発展に引き続き尽力していきたいと思っています。
田中氏のPickした記事

◆寺田 満雄氏(名古屋市立大学病院 乳腺外科)
 2021年からPickerになりましたが、多くの先生がそれぞれの視点から注目すべき論文やニュースを取り上げており、自分では気づかない情報を得られるので、とても有益なサイトだと思います。もっと早く知っていたら、と思いますね。2022年も皆さんに役立ち、専門家同士の議論が生まれるような話題を提供していきたいと思います。
寺田氏のPickした記事

◆下村 昭彦氏(国立国際医療研究センター)
 いつもTwitterのような短文のPickですみません。自分の専門領域とする乳がん薬物療法のPickを中心としながら、COVID-19とがんやSARS-CoV-2ワクチンとがんなど、そのときどきで多くの人の関心のある話題をご紹介できればと思っています。
下村氏のPickした記事

◆吉村 吾郎氏(市立岸和田市民病院)
 「2021年ベストPicker」にお選び頂きありがとうございます。コロナ禍以降、新型コロナウイルス関連のピックアップが多くなっています。今後は、自身の専門である乳癌領域を増やしていく所存です。よろしくお願いします。
吉村氏のPickした記事

◆池田 慧氏 (神奈川県立循環器呼吸器病センター)
 このたびは、2021年ベストPickerにご選出いただき、誠にありがとうございます!自分自身の勉強を兼ねて、臨床寄りの論文ばかりPickして(ときどき宣伝したりして)ますが、少しでも誰かの役に立っているのなら、こんなに嬉しいことはないです。
池田氏のPickした記事

 特設サイトには、受賞者の1人である寺田氏に、医療情報収集と発信のコツを聞いたインタビューも掲載されている。

(ケアネット 杉崎 真名)


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早期乳がんへの術後パルボシクリブ、iDFSに減量・中止の影響は?(PALLAS)/JCO

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 PALLAS試験は、ホルモン受容体(HR)陽性/HER2陰性の早期乳がんの術後補助療法として、標準的な内分泌療法へのCDK4/6阻害薬パルボシクリブ追加の有効性を評価する第III相試験。主要評価項目である無浸潤疾患生存期間(iDFS)の有意な改善は示されておらず、今回、同試験におけるパルボシクリブ減量と中止の影響が評価された。米国・ダナファーバーがん研究所(DFCI)のErica L Mayer氏らがJournal of Clinical Oncology誌オンライン版2022年1月7日号に報告した。

[PALLAS試験概要]
・対象:Stage II/IIIのHR陽性/HER2陰性乳がん患者(診断後12ヵ月以内、内分泌療法による術後補助療法開始後3ヵ月以内)
・試験群:パルボシクリブ(125mg1日1回、3週投与1週休薬、2年間)+標準的内分泌療法(少なくとも5年)
・対照群:標準的内分泌療法(少なくとも5年)単独
・評価項目
[主要評価項目]iDFS
[副次評価項目]非乳房由来の2次がんを除くiDFS、遠隔無再発生存期間(DRFS)、局所無再発生存期間、全生存期間(OS)、安全性

 今回の解析では、毒性、用量変更、および早期中止の継続的なモニタリングが実施され、ベースライン共変量とパルボシクリブの減量および中止までの時間との関連を、競合リスクモデルを用いて分析。ランドマーク解析および逆確率重み付け推定法によりiDFSに対する薬物の持続性と曝露の影響を評価した。

 主な結果は以下のとおり。

・分析対象の5,743例のうち、2,840例が試験群に割り付けられ、パルボシクリブを開始。うち1,199例(42.2%)が2年の間にパルボシクリブを中止した。多くが副作用によるもので(772例、27.2%)、最も一般的だったのは好中球減少症と倦怠感だった。
・内分泌療法の中止について、両群間で差はみられなかった。
・プロトコルで定義されていない理由による中止は、パルボシクリブ開始後最初の3ヵ月間、および最初の暦年で多く、時間の経過とともに減少した。
・より長い期間のパルボシクリブ投与または70%以上の曝露強度と、iDFS改善との間に有意な関係はみられなかった。
・重みづけされたper-protocol解析の結果、パルボシクリブ投与患者と非投与患者の間でiDFSの改善は観察されなかった(ハザード比:0.89、95%信頼区間:0.72~1.11)。

 研究者らは、PALLAS試験におけるパルボシクリブの中止率の高さに着目したものの、今回の解析では両群間で有意なiDFSの差はみられず、パルボシクリブによる治療が不十分なこととiDFSには直接的な関係はないことが示唆されたと結論づけている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


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Mayer EL, et al. J Clin Oncol. 2022 Jan 7:JCO2101918.

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Stage IV乳がんの原発巣切除、OS改善せず(EA2108)/JCO

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 de novo Stage IV乳がんでは、原発巣切除が全生存期間(OS)を改善するとされているが、臨床試験では相反する結果が報告されている。今回、米国・Northwestern UniversityのSeema A. Khan氏らが実施したEA2108試験では、早期の原発巣切除により、局所制御の改善はみられたもののOSは改善せず、QOLには影響がなかったことが示された。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2022年1月7日号に掲載。

 本研究では、4~8ヵ月間の全身療法で病勢進行のなかったde novo Stage IV乳がん患者を、局所療法(原発巣切除および放射線療法)群と全身療法継続群に無作為に割り付け、比較検討した。主要評価項目はOS、副次評価項目は局所制御とQOLとした。

 主な結果は以下のとおり。

・登録された390例のうち256例を無作為に全身療法継続群131例、局所療法群125例に割り付けた。
・3年OSは全身療法継続群67.9%、局所療法群68.4%で差はなかった(ハザード比:1.11、90%CI:0.82〜1.52、p=0.57)。
・OS中央値は全身療法継続群53.1ヵ月(95%CI:47.9~推定不能)、局所療法群54.9ヵ月(95%CI:46.7~推定不能)だった。
・局所の3年病勢進行率は局所療法群で低かった(16.3% vs.39.8%、p<0.001)。
・QOLは両群でほぼ同じだった。

(ケアネット 金沢 浩子)


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Khan SA, et al. J Clin Oncol. 2022 Jan 7;JCO2102006. [Epub ahead of print]

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EA2108試験(Clinical Trials.gov)

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乳がん患者の抑うつ、適切な治療につなげるには?/JAMA

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 地域の腫瘍科診療施設で治療を受けている乳がん患者において、実装科学(implementation science)に基づき日常診療で抑うつ状態のスクリーニングを行う個別化戦略は、抑うつスクリーニング指導のみの治療戦略と比較して、行動療法への紹介に結びつく患者の割合が高く、腫瘍内科の外来受診の頻度は低下することが、米国・カイザーパーマネンテ南カリフォルニア(KPSC)のErin E. Hahn氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌2022年1月4日号で報告された。

米国の6つの地域施設のクラスター無作為化試験

 本研究は、KPSC(南カリフォルニアの450万人以上の会員に包括的な治療を提供する統合保健システム)に所属する6つの医療センターが参加した実践的なクラスター無作為化試験であり、2017年10月1日~2018年9月30日の期間に患者の登録が行われ、最終フォローアップ日は2019年3月31日であった(Regents of the University of Californiaなどの助成を受けた)。

 6つの参加施設は、抑うつ状態に対する個別化介入を受ける群(介入群)または抑うつ状態のスクリーニングの指導のみを受ける群(対照群)に、それぞれ3施設が無作為に割り付けられた。対象は、腫瘍内科で診察を受け、新規の原発性乳がんと診断された患者であった。病期や組織型、性別、人種/民族、併存疾患、その他の臨床的・人口統計学的因子による除外基準は設けられなかった。

 抑うつ状態のスクリーニングプログラムでは、患者は9項目患者健康質問票(9-item Patient Health Questionnaire:PHQ-9)に回答し、アルゴリズムに基づくスコア化で軽度、中等度、重度に分けられ、これらの重症度に応じた行動学的精神保健サービスが紹介された。

 介入群の施設は、抑うつ状態のスクリーニングプログラムの一般的な指導のほか、審査、パフォーマンスデータの評価、診療変更を実装するための支援を受け、診療内容は地域の状況に合わせて行われた。対照群の施設は、スクリーニングプログラムの一般的な指導のみを受けた。

 主要アウトカムは、スクリーニングと紹介が適切に行われた患者の割合とされた。

プライマリケア医、急病診療所、救急診療部の受診に差はない

 1,436例(平均年齢61.5[SD 12.9]歳、女性99%、アジア系/太平洋諸島系18%、黒人17%、ヒスパニック系26%、白人37%、Stage 0~II乳がん82%)が登録され、介入群に744例(男性4例を含む)、対照群に692例(同3例)が割り付けられた。

 抑うつのスクリーニングを受けた患者は、介入群が596例、対照群は3例で、このうち行動医療(behavioral health)へ紹介されたのはそれぞれ59例および1例だった。試験期間中に28例が死亡した(介入群19例、対照群9例、群間差:1.3%[95%信頼区間[CI]:-0.2~2.7])。

 主要アウトカムのイベント発生率は、介入群が7.9%(59/744例)と、対照群の0.1%(1/692例)に比べ有意に高かった(群間差:7.8%、95%CI:5.8~9.8)。

 行動医療を受けた患者は、介入群では紹介を受けた59例のうち44例(75%)、対照群は紹介を受けた1例中1例(100%)であった。

 また、年齢、人種/民族、がんの病期、パートナーの有無、Charlson併存疾患指数で補正したモデルでは、介入群で腫瘍内科の外来受診患者の割合が有意に低かった(補正後率比:0.86、95%CI:0.86~0.89、p=0.001)が、プライマリケア医(1.07、0.93~1.24)、急病診療所(0.84、0.51~1.38)、救急診療部(1.16、0.84~1.62)の受診については、両群間で差は認められなかった。

 著者は、「このプログラムの臨床的有益性や費用対効果を知るために、さらなる研究を要する」としている。

(医学ライター 菅野 守)


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Hahn EE, et al. JAMA. 2022;327:41-49.

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早期乳がん術前化学療法、pCRは代替エンドポイントには役不足/BMJ

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 病理学的完全奏効(pCR)は、無病生存期間(DFS)および全生存期間(OS)のいずれについても、臨床試験の代替エンドポイントとして不十分であることが、イタリア・European Institute of Oncology(IEO)のFabio Conforti氏らが実施した、早期乳がんを対象とする術前化学療法の無作為化臨床試験に関するシステマティックレビューおよびメタ解析で確認された。米国食品医薬品局(FDA)は、早期乳がんの術前化学療法を検証する無作為化臨床試験において、pCRをDFSおよびOSの代替エンドポイントとすることを承認している。しかし、先行のメタ解析(試験数に限界があった)で認められたpCRとDFSおよびOSとの間の強い相関関係は、患者レベルであり試験レベルではなく、pCRを代替エンドポイントとすることについては議論の的となっていた。著者は、「今回示された結果は、pCRを早期乳がん術前化学療法の主要エンドポイントとして規定すべきではないことを示すものである」とまとめている。BMJ誌2021年12月21日号掲載の報告。

54件のRCTをメタ解析、試験レベルで検証

 研究グループは、Medline、EmbaseおよびScopusを用い、2020年12月1日までに発表された、術前化学療法の単独または他の治療(抗HER2薬、標的治療薬、抗血管薬、ビスホスホネート、免疫チェックポイント阻害薬など)との併用を検証した無作為化臨床試験を特定し、pCRとDFSまたはOSの試験レベルでの関連性を解析した。

 治療効果推定値(DFSおよびOSのハザード比、pCRの相対リスク)を対数変換した後、加重回帰解析を実施し、決定係数(R2)を用いて関連性を定量化した。また、実験群における治療法の種類、pCRの定義(乳房およびリンパ節vs.乳房のみ)、疾患の生物学的特性(HER2陽性またはトリプルネガティブ乳がん)によって試験を層別化し、事前に計画されたサブグループ解析の結果の異質性を検証するとともに、DFS/OSのハザード比に関する代替閾値効果についても評価した。

 無作為化臨床試験54件(計3万2,611例)が本解析に組み込まれた。

DFSおよびOSとの関連は弱く、OSの代替エンドポイントとはならず

 pCRの対数(相対リスク)と、DFS(R2=0.14、95%信頼区間[CI]:0.00~0.29)およびOS(0.08、0.00~0.22)の対数(ハザード比)との間に観察された関連性は弱いものであった。全サブグループ解析において、pCRの定義、実験群における治療法の種類、疾患の生物学的特性にかかわらず、同様の結果が得られた。

 代替閾値効果は、DFSに関しては5.19であったが、OSについては推定できなかった。

 3つの感度解析(登録患者200例未満の小規模試験を除外、追跡期間中央値24ヵ月未満の試験を除外、pCRの相対リスクを治療群間のpCR率の絶対差に置き換え)の結果、一貫した結果が確認された。

(医学ライター 吉尾 幸恵)


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Conforti F, et al. BMJ. 2021;375:e066381.

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男性乳がんの予後不良因子は?

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 男性乳がんは稀な疾患であるものの、近年増加傾向がみられている。認知度の低さなどから進行期になってから診断されるケースが多く、生存に寄与する因子や適切な治療戦略については明確になっていない部分が多い。韓国・忠北大学校病院のSungmin Park氏らは、国民健康保険データベースを用いた男性乳がん患者の転帰に関する後ろ向き解析結果を、Journal of Breast Cancer誌オンライン版2021年12月24日号に報告した。

 本研究では、韓国の健康保険データベースを使用して、該当の請求コードをもつ男性乳がん患者を特定、男性乳がんの発生率、生存転帰、およびその予後因子が評価された。最初の請求から1年以内の手術と放射線療法の種類を含む、医療記録と死亡記録がレビューされた。その他、経済状況(≧20パーセンタイル、<20パーセンタイル)、地域(都市部、地方)、チャールソン併存疾患指数(0、1、≧2)、およびBRCA1/2(乳がん遺伝子)テストの実施について情報が収集された。

 主な結果は以下のとおり。

・2005~16年の間に、新たに男性乳がんと診断された患者838例が特定された。
・男性乳がんの診断が最も多かった年齢層は70~74歳で、60〜64歳、65〜69歳が続いた。
・患者の約80%が診断後に乳がんの外科手術を受け、50%以上が化学療法、約68%がタモキシフェンの投与を受けており、トラスツズマブは2008年以降約9%が投与を受けていた。
・追跡期間中央値約5年間(1,769日)において、268例の死亡が確認され、5年生存率は73.7%だった。
・65歳以上の男性は65歳未満の男性よりも全生存期間が短かった(ハザード比:2.454、95%信頼区間:1.909~3.154、p<0.001)。そのほか、併存疾患2つ以上、外科的治療なし、タモキシフェンの投与なし、低所得が、予後不良と関連していた。
・多変量解析の結果、予後不良に関連する最も重要な因子は、併存疾患2つ以上だった(HR:4.439、95%CI:2.084~9.453、p=0.001)。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


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Park SY,et al. J Breast Cancer. 2021 Dec;24:561-568. [Epub ahead of print]

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2021年、がん専門医に読まれた記事は?「Doctors’Picks」ランキング

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 ケアネットが運営する、オンコロジーを中心とした医療情報キュレーションサイト「Doctors’Picks」(医師会員限定)は、2021年にがん専門医によく読まれた記事ランキングを発表した。がん横断的なトピックスやCOVID-19とがんに関連する記事のほか、米国腫瘍学会(ASCO)関連の話題が多くランクインしている。

【1位】おーちゃん先生のASCO2021肺がん領域・オーラルセッション/Doctors’Picks
 6月に行われた米国臨床腫瘍学会(ASCO)。4,500を超える演題から注目すべきものをエキスパート医師がピックアップして紹介。肺がん分野は山口 央氏(埼玉医科大学国際医療センター)が「CheckMate-9LA試験の2年アップデート」「IMpower130、IMpower132、IMpower150 の免疫関連の有害事象を分析」などを選定した。

【2位】がん関連3学会、がん患者への新型コロナワクチン接種のQ&A公開/CareNet.com
 3月末、がん関連3学会(日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会)は合同で「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とがん診療についてQ&A―患者さんと医療従事者向け ワクチン編 第1版―」を公開した。

【3位】ASCO 乳がん 注目演題まとめ(1)オーラル/周術期/Doctors’Picks
 ASCO注目演題、乳がん分野は寺田 満雄氏(名古屋市立大学)が全オーラル演題をチェックしたうえで注目すべき10演題を選定、サマリーと共に紹介した。

【4位】リキッドバイオプシーを用いたがん遺伝子パネル検査が国内で初承認/日経メディカル
 3月、中外製薬は血液検体を用いて固形がんに対する包括的ゲノムプロファイリングを行う検査「FoundationOne Liquid CDx がんゲノムプロファイル」の承認獲得を発表。リキッドバイオプシーを用いたがん遺伝子パネル検査は国内初承認となる。進行固形がん患者を対象に、血液中の循環腫瘍 DNA(ctDNA)を用いて324個のがん関連遺伝子を解析する。

【5位】免疫チェックポイント阻害薬の免疫関連有害事象…メカニズムと緩和戦略/Nature Reviews Drug Discovery
 チェックポイント阻害薬(ICI)治療に関連した免疫関連有害事象(irAE)の発生と、発生を予測するバイオマーカーを特定し、発症を抑制するメカニズムを解説する論文がNature Reviews Drug Discovery誌に掲載された。

6~10位は以下のとおり。
【6位】ASCO 消化器がん 注目演題まとめ/Doctors’Picks
【7位】固形がん患者における新型コロナワクチン接種後の抗体価/Annals of Oncology
【8位】がん免疫療法患者に対するCOVID-19ワクチン接種/SITC
【9位】IMpower150試験、EGFR陽性・肝/脳メタ解析の最終報告/Journal of Thoracic Oncology
【10位】「オンコタイプDX乳がん再発スコアプログラム」の保険適用を了承/中医協

(ケアネット 杉崎 真名)


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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー  CONNECTED PAPERSの活用 その1【「実践的」臨床研究入門】第15回

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本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

関連研究のネットワークを可視化する

 これまで、関連研究レビューのための質の高い2次情報源(連載第3回参照)として、診療ガイドライン、UpToDate®、コクラン・ライブラリーの活用法を解説してきました。今回はその他の有用な情報源として”CONNECTED PAPERS”を紹介します。

 ”CONNECTED PAPERS”は「Key論文」(連載第8回参照)と内容の「類似性」の高い論文をネットワーク化して図示する無料のオンラインツールです。”CONNECTED PAPERS”のホームページのヘッダーにある”About”をクリックすると”How does it work?”とあり、このツールの「からくり」についての説明があります。それによると、ここで言う論文の「類似性」とは、互いに引用している関係に限らないようです。それぞれの論文の引用文献の多くが重複していると関連したトピックを扱っている可能性が高い、と推定するなどして関連研究のネットワークを可視化しているそうです。

 それでは、実際の論文を用いて“CONNECTED PAPERS”を使ってみたいと思います。

 前回読み込んだコクラン・フル・レビュー論文1)ですが、出版年は2007年と10年以上前です。コクラン・ライブラリーで”Version history”を確認すると(連載第13回参照)、このトピックに関する初版のフル・レビュー論文2)は1997年に出版され、現行の2007年版1)はその「アップデート論文」でした。この2つのフル・レビュー論文のコクラン・ライブラリーでの固有IDは”CD002181”と同じですが、筆頭著者が違います1, 2)

 一方、Digital Object Identifier(DOI)は個別のコンテンツ(ここでは論文)の電子データに与えられる恒久的な識別子です。コクラン・ライブラリーでもPubMedでも論文タイトルの直下にDOIが示されています。1997年版2)と2007年版1)のフル・レビュー論文のDOIを比較してみます。

・DOI: 10.1002/14651858.CD002181.pub2(2007年版)1)
・DOI: 10.1002/14651858.CD002181.(1997年版)2)

 「アップデート論文」1)のDOIの末尾には”.pub2”が追記されており、個別の論文ごとの識別子であることがわかります。

 コクラン・ライブラリーを見る限り、2007年版のフル・レビュー論文1)以降はアップデートされていないようです。そこで、このトピックに関して2007年以降に新たなエビデンスが出版されているかを”CONNECTED PAPERS”で調べてみましょう。

 ”CONNECTED PAPERS”の使い方は簡単です。そのホームページを開くと”To start, enter a paper identifier”と注釈のついた検索窓が出てきます。そこに、「Key論文」のタイトルもしくはDOIをコピー&ペーストするだけです。

実際に2007年版のコクラン・フル・レビュー論文1)を「Key論文」として、そのDOIを検索窓にコピー&ペーストしてみます。すると、「Key論文」を中心とした関連研究との関係性がリンクのように可視化されます。 類似の論文は矢印で結ばれ、個々の論文は円型の節点(ノード)で示されます。ノードの大きさは被引用回数の多さを、色は出版年を表しています(色が濃いほど新しい論文)。”CONNECTED PAPERS”を使えば、関連研究の見逃しが減るかもしれません。


【 引用文献 】

講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学統括研究推進センター研究推進部門 教授
昭和大学医学部内科学講座腎臓内科学部門/衛生学公衆衛生学講座 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


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