アベマシクリブ+フルベストラント、HR+/HER2-乳がんのOS延長(MONARCH-2)/ESMO2019

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 ホルモン受容体(HR)陽性HER2陰性進行乳がんを対象とした、CDK4/6阻害薬アベマシクリブ+フルベストラントの併用療法とフルベストラント単独療法との比較試験(MONARCH-2試験)の結果が、スペインで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO2019)で、米国・スタンフォード大学のGeorge W.Sledge氏によって発表された。

・国際共同二重盲検第III相比較試験
・対象:HR陽性HER2陰性乳がんで、術前ホルモン療法中か術後ホルモン療法の12ヵ月以内に再発・病勢進行(PD)が認められた症例、または進行再発がんに対する1次内分泌療法中のPD症例(閉経状況問わず。進行再発がんに対する化学療法薬の投与は認められていない)
・試験群:アベマシクリブ150mg×2回/日+フルベストラント500mg/回(アベマシクリブ群)
・対照群:プラセボ×2回/日+フルベストラント500mg/回(プラセボ群)
・アベマシクリブ群とプラセボ群に2対1の割合で割り付け
・評価項目:
[主要評価項目]主治医判定による無増悪生存期間(PFS)
[副次評価項目]全生存期間(OS)
[探索的解析]化学療法施行までの期間

 主要評価項目のPFSについては、過去に統計学的に有意にアベマシクリブ群が有効であることの発表がなされていた。今回は副次評価項目であるOSの発表がメインであり、これは事前に規定された中間解析の結果である。

 主な結果は以下のとおり。

・今回のアップデートでもPFS中央値はアベマシクリブ群16.9ヵ月、プラセボ群9.3ヵ月、ハザード比(HR):0.536、95%信頼区間(CI):0.445~0.645、p<0.0001とアベマシクリブ群の有意性が再現されていた。
・データカットオフは2019年6月20日で、観察期間中央値は47.7ヵ月。登録症例数はアベマシクリブ群で446例、プラセボ群で223例の合計669例であった。この時点ではまだアベマシクリブ群の17%、プラセボ群の4%の症例で投薬が継続中であった。
・OS中央値は、アベマシクリブ群で46.7ヵ月、プラセボ群で37.3ヵ月と9.4ヵ月の延長が見られ、HRは0.757(95%CI:0.606~0.945)、p=0.0137とアベマシクリブ群が有意にOSを延長していた。この中間解析では、統計学的に意味のあるp値は0.0208と設定されており、今回の解析結果はこれを下回っていた。
・探索的解析である化学療法までの期間中央値は、アベマシクリブ群50.2ヵ月、プラセボ群22.1ヵ月で、HR:0.625(95%CI:0.501~0.779)、p<0.0001と、有意にアベマシクリブ群で延長していた。
・投薬中止後の治療は、分子標的薬がアベマシクリブ群28.5%、プラセボ群43.9%、内分泌療法がアベマシクリブ群41.7%、プラセボ群57.0%で行われ、化学療法がアベマシクリブ群44.8%、プラセボ群61.0%で行われた。逐次的にCDK4/6阻害薬の投与を受けたのは、アベマシクリブ群で5.8%、プラセボ群で17.0%であった。
・安全性については、既報と同様の内容であり、新たな有害事象の発現はなかった。

(ケアネット)


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Sledge GW Jr, et al. JAMA Oncol. 2019 Sep 29. [Epub ahead of print]

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ESMO2019レポート現地速報 乳がん

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2019年9月27日から10月1日まで開催のESMO2019の乳がんトピックを愛知県がんセンター病院 岩田 広治氏が現地バルセロナからオンサイトレビュー。

レポーター紹介

岩田 広治 ( いわた ひろじ ) 氏
愛知県がんセンター病院 副院長・乳腺科部長

転移TN乳がん、GEM/CBDCAにtrilaciclib追加でOSが大きく改善/ESMO2019

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 強力なCDK4/6阻害薬であるtrilaciclibは、その作用機序および前臨床試験から骨髄毒性の抑制および抗腫瘍作用の改善効果が期待されている。今回、転移を有するトリプルネガティブ乳がん(mTNBC)に対する多施設無作為化非盲検第II相試験において、ゲムシタビン/カルボプラチン(GEM/CBDCA)にtrilaciclibを追加することにより、全生存期間(OS)を有意に改善したことが報告された。一方、主要評価項目である好中球減少症の有意な抑制効果は示されなかった。スペインで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO2019)で、米国・Texas Oncology-Baylor Sammons Cancer CenterのJoyce O’Shaughnessy氏が発表。なお、本試験結果はLancet Oncology誌オンライン版9月28日号に同時掲載された。

・対象:再発/転移乳がんに対して0~2レジメンの化学療法を受けたmTNBC患者
・試験群:以下の3群に無作為に割り付け
 グループ1:GEM/CBDCA(Day1、8) 34例
 グループ2:GEM/CBDCA(Day1、8)+trilaciclib(Day1、8) 33例
 グループ3:GEM/CBDCA(Day2、9)+trilaciclib(Day1、2、8、9) 35例
 病勢の進行(PD)もしくは不耐の毒性発現まで21日ごとに投与
・評価項目:
 [主要評価項目]GEM/CBDCAによる好中球減少症の抑制(1サイクル目におけるGrade4の好中球減少症の期間、治療期間におけるGrade4の好中球減少症の発症)
 [副次評価項目]奏効率(ORR)、無増悪生存期間(PFS)、OSなど

 主な結果は以下のとおり。

・52.0%がECOG PS 0、37.3%が化学療法を受けていた。
・追跡期間中央値は10.5ヵ月(範囲:0.1~25.8ヵ月)であった。
・薬物曝露期間の中央値は、グループ1(3.3ヵ月、4サイクル)に比べ、グループ2(5.3ヵ月、7サイクル)およびグループ3(5.5ヵ月、8サイクル)で延長した。
・1サイクル目のGrade4の好中球減少症の平均日数、治療期間におけるGrade4の好中球減少症の患者割合とも有意な差がみられず、trilaciclibによる骨髄抑制の有意な改善は認められなかった。
・ORRは、グループ1の33.3%に対して、グループ2(50.0%)、グループ3(36.7%)とも有意な差はなかった。
・PFSは、グループ1に対してグループ2(HR:0.60、95%信頼区間[CI]:0.30~1.18、p=0.13)およびグループ3(HR:0.59、95%CI:0.30~1.16、p=0.12)で有意な改善は認められなかったが、グループ2と3の合計では改善傾向がみられた(HR:0.59、95%CI:0.33~1.05、p=0.063)。
・OSは、グループ1に対してグループ2(HR:0.33、95%CI:0.15~0.74、p=0.028)、グループ3(HR:0.34、95%CI:0.16~0.70、p=0.0023)、グループ2と3の合計(HR:0.36、95%CI:0.19~0.67、p=0.0015)とも有意に改善した。
・trilaciclib関連の重篤な有害事象はみられなかった。

(ケアネット 金沢 浩子)


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Clinical Trials.gov
Antoinette RT, et al.Lancet Oncol. 2019 September 28[Epub ahead of print]

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エヌトレクチニブ発売、脳転移へのベネフィットに注目

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 臓器横断的ながん治療薬として本邦で2剤目となる低分子チロシンキナーゼ阻害薬エヌトレクチニブ(商品名:ロズリートレク)が販売開始したことを受け、9月5日、都内でメディアセミナー(主催:中外製薬)が開催された。吉野 孝之氏(国立がん研究センター東病院 消化管内科長)が登壇し、同剤の臨床試験結果からみえてきた特徴と、遺伝子別がん治療の今後の見通しについて講演した。

 エヌトレクチニブは、2018年3月に先駆け審査指定を受け、2019年6月に「NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形がん」を適応症とした承認を世界で初めて取得した。すでに承認・販売されているMSI-H固形がんへのペムブロリズマブの適応が、標準的治療が困難な場合に限られるのに対し、NTRK融合遺伝子陽性固形がんであれば治療歴および成人・小児を問わないことが特徴。遺伝子検査にはコンパニオン診断薬として承認されたFoundationOne CDxがんゲノムプロファイルを用いる。

がん種ごとの陽性率は?

 NTRK融合遺伝子陽性率をがん種ごとにみると、成人では唾液腺分泌がん(80~100%)1,2)、乳腺分泌がん(80~100%)3-6)などの希少がんで多く、非小細胞肺がん(0.2~3.3%)7,8)や結腸・直腸がん(0.5~1.5%)7,9-10)、浸潤性乳がん(0.1%)7)などでは少ない。しかし患者の絶対数を考えると、1%であっても相当数の患者がいるという視点も持つ必要があると吉野氏は指摘した。

 一方、小児では、乳児型線維肉腫(87.2~100%)11-14)、3歳未満の非脳幹高悪性度神経膠腫(40%)15)など陽性率の高いがん種が多く、同氏は「小児がんへのインパクトはとくに大きい」と話した。

治療開始後“早く・長く効く”こと、脳転移への高い有効性が特徴

 今回の承認は、成人に対する第II相STARTRK-2試験および小児に対する第Ib相STARTRK-NG試験の結果に基づく。STARTRK-2試験は、NTRK1/2/3ROS1またはALK遺伝子陽性の局所進行/転移性固形がん患者を対象としたバスケット試験。このうち、とくにNTRK陽性患者で著明な効果が確認され、今回の迅速承認につながった経緯がある。

 NTRK有効性評価可能集団は51例。肉腫が13例と最も多く、非小細胞肺がん9例、唾液腺分泌がんおよび乳がんが6例ずつ、甲状腺がんが5例、大腸がん・膵がん・神経内分泌腫瘍が3例ずつと続く。また、何らかの治療歴がある患者が約6割を占めていた。主要評価項目である奏効率(ORR)は56.9%、4例で完全奏功(CR)が確認された。本試験結果だけでは母数が少ないが、がん種ごとに有効性の大きな差はないと評価されている。吉野氏は、とくに奏効例のスイマープロットに着目。初回検査の時点で奏効が確認された症例、治療継続中の症例が多く、「奏功例では早く長く効くことが特徴」と話した。また、ベースライン時の患者背景として、脳転移症例が11例含まれることにも言及。評価対象となった10例での成績は、頭蓋内腫瘍奏効率50%、2例でCRが確認されている。

 Grade3以上の有害事象は多くが5%以下と頻度が低く、貧血が10.7%、体重増加が9.7%でみられた。同氏は、「総じて、副作用は非常に軽いといえる」と述べた。

3学会合同、臓器横断的ゲノム診療のガイドラインを発行予定

 小児・青年期対象のSTARTRK-NG試験においても、エヌトレクチニブの高い有効性が確認されている(ORR:100%)。5例はCNS原発の高悪性度の腫瘍で、うち2例でCRが確認された。周辺組織への浸潤が早い小児がんにおいて、非常に大きなインパクトのある治療法と吉野氏は話し、「どのタイミングで、どんな患者に検査を行い、薬を届けていくかを標準化していく必要がある」とした。

 今回の承認を受け、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本小児血液・がん学会は合同で、『成人・小児進行固形がんにおける臓器横断的ゲノム診療のガイドライン(案)』をホームページ上で公開、パブコメの募集を行った。同ガイドラインは、今回のエヌトレクチニブ承認を受け、2019年3月公開の『ミスマッチ修復機能欠損固形がんに対する診断および免疫チェックポイント阻害薬を用いた診療に関する暫定的臨床提言』を改訂・進化させた内容となっている。「NTRK融合遺伝子の検査はいつ行うべきか?」など、NTRK融合遺伝子の検査・治療についてもCQが設けられ、実践的な診断基準として知見が整理される。

 最後に、同氏はこれまで消化器がん・肺がん領域を対象として行ってきたSCRUM-Japanのがんゲノムスクリーニングプロジェクトが、2019年7月からすべての進行固形がん患者を対象に再スタートしたことを紹介(MONSTAR-SCREEN)16)。リキッドバイオプシーおよび便のプロファイリング(マイクロバイオーム)を活用しながら、臓器によらないTumor-agnosticなバスケット型臨床試験を実施していくという(標的はFGFRHER2ROS1)。承認申請に使用できる前向きレジストリ研究を推進させ、全臓器での治療薬承認を早めていきたいと語り、講演を締めくくった。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【 参考 】
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1)Skalova A, et al.Am J Surg Pathol. 2016;40:3-13.
2)Bishop JA, et al.Hum Pathol. 2013;44:1982-8.
3)Del Castillo M, et al. Am J Surg Pathol. 2015;39:1458-67.
4)Makretsov N, et al. Genes Chromosomes Cancer. 2004;40:152-7.
5)Tognon C, et al. Cancer Cell. 2002;2:367-76.
6)Lae M, et al. Mod Pathol. 2009;22:291-8.
7)Stransky N, et al. Nat Commun. 2014;5:4846.
8)Vaishnavi A, et al. Nat Med. 2013;19:1469-1472.
9)Ardini E, et al. Mol Oncol. 2014;8:1495-507.
10)Creancier L, et al. Cancer Lett. 2015;365:107-11.
11)Knezevich SR, et al. Nat Genet. 1998;18:184-7.
12)Rubin BP, et al. Am J Pathol. 1998;153:1451-8.
13)Bourgeois JM, et al. Am J Surg Pathol. 2000;24:937-46.
14)Chiang S, et al. Am J Surg Pathol. 2018;42:791-798.
15)Wu G, et al. Nat Genet. 2014;46:444-450.
16)国立がん研究センターSCRUM-Japan/MONSTAR-SCREEN

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アテゾリズマブがTNBCに適応拡大、免疫CP阻害薬で初/中外製薬

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 中外製薬株式会社(本社:東京、代表取締役社長CEO:小坂 達朗)は2019年9月20日、PD-L1陽性トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対する免疫チェックポイント阻害薬として国内で初めて、抗PD-L1モノクローナル抗体アテゾリズマブ(商品名:テセントリク)が適応拡大されたことを発表した。PD-L1発現状況の確認は、2019年8月20日にコンパニオン診断薬として適応拡大の承認を取得した、病理検査用キットベンタナOptiView PD-L1(SP142)によって行う。

 今回の適応拡大は、第III相IMpassion130試験の成績に基づく。IMpassion130試験は、全身薬物療法を受けていない切除不能な局所進行または転移のあるTNBC患者を対象に、アテゾリズマブ併用群(アテゾリズマブ+nab-パクリタキセル)とnab-パクリタキセル単独群(プラセボ+nab-パクリタキセル)を比較した多施設共同無作為化プラセボ対照の二重盲検国際共同臨床試験。

 併用群では、ITT(Intent to treat)解析集団およびPD-L1陽性集団において、単独群と比較して主要評価項目であるPFS(無増悪生存期間)の延長を示した(ITT集団のPFS中央値:7.2ヵ月 vs.5.5ヵ月、ハザード比[HR]:0.80、95%信頼区間[CI]:0.69~0.92、p=0.0025/PD-L1陽性集団のPFS中央値:7.5ヵ月 vs.5.0ヵ月、HR:0.62、95%CI:0.49~0.78、p<0.0001)。もう1つの主要評価項目であるOS(全生存期間)については、第2回中間解析時点では、ITT解析集団におけるOS延長について、統計学的な有意差は認められなかった(OS中央値:21.0ヵ月 vs.18.7ヵ月、HR:0.86、95%CI:0.72~1.02、p=0.078)。一方、PD-L1陽性患者において、臨床的に意義のあるOSの延長が認められたものの、階層構造に基づいて統計解析を行う試験デザインであることから、今回の PD-L1陽性患者におけるOSの解析は検証的な位置づけではない(OS中央値:25.0ヵ月 vs.18.0ヵ月、HR:0.71、95%CI:0.54~0.93)。フォローアップは次回の計画されている解析まで継続される。

 併用療法による安全性プロファイルは、これまで各薬剤で認められている安全性プロファイルと一致しており、本併用療法で新たな安全性のシグナルは確認されなかった。なお、同試験におけるアテゾリズマブの用法・用量が840mgの2週間間隔での投与であるため、至適用量製剤として開発が行われ、9月20日付けで840mg製剤の剤形追加についても承認された。

 また、中外製薬株式会社は同日、HER2陽性乳がん患者に対するペルツズマブ(商品名:パージェタ)とトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)の配合皮下注製剤が、両剤の静注製剤に対して非劣性を示したことを発表。配合皮下注製剤の投与には、初回は約8分、2回目以降は約5分を要する。これに対して、両剤の静注製剤を併用投与する場合、初回は約150分、2回目以降は60~150分を要する。本結果は第III相FeDeriCa試験によるもので、詳細は今後開催される医学会で発表される予定。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


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IMpassion130試験(Clinical Trials.gov)
FeDeriCa試験(Clinical Trials.gov)

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高齢者乳がん、カペシタビン術後療法の10年評価/JAMA Oncol

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 カペシタビンの早期高齢乳がん術後補助化学療法における標準療法に対する非劣性を検討した「CALGB 49907試験」の長期10年の追跡結果が、米国・ノースカロライナ大学Lineberger Comprehensive Cancer CenterのHyman B. Muss氏らにより発表された。Journal of Clinical Oncology誌2019年9月10日号掲載の報告。

 同試験の主要解析の結果は、追跡期間中央値2.4年後に報告されており、標準術後化学療法は、カペシタビンとの比較において有意に良好な無再発生存期間(RFS)および全生存期間(OS)を示していた。今回、同グループは、追跡期間中央値11.4年後の結果をアップデート報告した。

 CALGB 49907試験では、65歳以上の早期乳がん患者を、標準術後補助化学療法群(担当医がシクロホスファミド+メトトレキサート+フルオロウラシル、もしくはシクロホスファミド+ドキソルビシンのいずれかを選択)またはカペシタビン群に無作為に割り付け追跡が行われた。ベイジアン・アダプティブ・デザインを用いて試験サンプルサイズを確認し、カペシタビンの非劣性検定を行った。主要評価項目はRFSであった。

 主な結果は以下のとおり。

・試験は、初回サンプルサイズ評価後、被験者633例に達した時点で終了となった。
・RFSは、標準化学療法群で有意に延長したままであった。
・10年時点で、RFSは標準化学療法群56%、カペシタビン群は50%であった(HR:0.80、p=0.03)。
・乳がん特異的生存率は、それぞれ88%、82%であった(HR:0.62、p=0.03)。
・より長期の追跡で、標準化学療法はホルモン受容体陰性の患者では依然としてカペシタビン群に対して優れていたが(HR:0.66、p=0.02)、ホルモン受容体陽性患者では有意差は認められなかった(HR:0.89、p=0.43)。
・集団全体の死亡率は43.9%で(乳がんによる死亡13.1%、乳がん以外による死亡16.4%、原因不明の死亡14.1%)、2次性非乳がんの発生は14.1%であった。

(ケアネット)


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Muss HB, et al. J Clin Oncol. 2019;37:2338-2348.

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閉経後ホルモン療法、5年以上で乳がんリスク増大/Lancet

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 先進国の平均体重の女性では、閉経後ホルモン療法(MHT)を50歳から5年間受けた場合の50~69歳における乳がんリスクの増加は、エストロゲン+プロゲスターゲン毎日投与では約50人に1人であり、エストロゲン+プロゲスターゲンの月に10~14日投与では70人に1人、エストロゲン単独では200人に1人であるとの調査結果が、英国・オックスフォード大学のValerie Beral氏らCollaborative Group on Hormonal Factors in Breast Cancerによって示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2019年8月29日号に掲載された。MHTの種類別の乳がんリスクに関する既報の知見には一貫性がなく、長期的な影響に関する情報は限定的だという。

MHTの種類別の乳がんリスク増加のメタ解析

 研究グループは、MHTの種類別の乳がんリスクに関するエビデンスを、公表・未公表を問わず収集し、関連する無作為化試験のエビデンスをレビューするとともに、メタ解析を行った(Cancer Research UKと英国医学研究会議[MRC]の助成による)。

 主解析には、MHTの種類と使用のタイミングを検討した前向き研究の個々の参加者のデータを用いた。この種類と使用時期に関する完全な情報のある参加者を中心に解析を行った。研究の特定は、1992年1月1日~2018年1月1日の期間に、公式・非公式の情報源を定期的に検索することで行った。

 現MHT使用者では、MHT使用の最終報告から最長5年(平均1.4年)までのデータを解析に含めた。ロジスティック回帰を用いて、特定のMHTの使用者の非使用者との比較における補正リスク比(RR)を算出した。

中止後も、ある程度の過度のリスクが10年以上持続

 フォローアップ期間中に10万8,647例の閉経後女性が乳がんを発症し、発症時の平均年齢は65歳(SD 7)であり、このうち5万5,575例(51%)がMHTを使用していた。完全な情報のある患者では、平均MHT使用期間は、現使用者が10年(6)、元使用者は7年(6)であり、閉経時の平均年齢は50歳(5)、MHT開始時の平均年齢は50歳(6)だった。

 MHTは、膣エストロゲンを除き、乳がんリスクの増加と関連しており、使用期間が長くなるほどリスクが増加し、エストロゲン/プロゲスターゲンはエストロゲン単独に比べリスクが高かった。

 現使用者では、このような過度の乳がんリスクは使用期間が1~4年と短くても明確に認められた(エストロゲン/プロゲスターゲンのRR:1.60、95%信頼区間[CI]:1.52~1.69、エストロゲン単独のRR:1.17、95%CI:1.10~1.26)。

 エストロゲン/プロゲスターゲンの使用期間5~14年の乳がんリスクは、エストロゲン+プロゲスターゲンの毎日使用が、エストロゲン+プロゲスターゲンの月に10~14日の使用よりも高かった(それぞれRR:2.30[95%CI:2.21~2.40]、1.93[1.84~2.01]、異質性のp<0.0001)。

 現使用者の使用期間5~14年における乳がんのRRは、エストロゲン受容体陽性腫瘍が陰性腫瘍よりも高く、MHT開始年齢が40~44歳、45~49歳、50~54歳、55~59歳の女性でほぼ同じであり、60歳以降に開始した女性や肥満の女性では低下した(肥満女性では、エストロゲン単独のMHTによる乳がんリスクの増加はほとんどなかった)。

 MHT中止後も、ある程度の過度のリスクが10年以上持続し、その強度は使用期間の長さに依存しており、使用期間が1年未満の場合はリスクがほとんど増加しなかった。

 著者は「MHTを10年間使用した場合の乳がんリスクの増加は、今回の5年使用のリスクの約2倍に達すると考えられる」としている。

(医学ライター 菅野 守)


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Collaborative Group on Hormonal Factors in Breast Cancer. Lancet. 2019 Aug 29. [Epub ahead of print]

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化学療法誘発性悪心嘔吐に対するオランザピン5mgの追加効果(J-FORCE)/日本がんサポーティブケア学会

化学療法誘発性悪心嘔吐に対するオランザピン5mgの追加効果(J-FORCE)/日本がんサポーティブケア学会

提供元: CareNet.com

 オランザピンは化学療法誘発性悪心嘔吐(CINV)に対して有効であるが、国際的に使用されている用量10mgでは過度の鎮静が懸念されている。NCCNやMASCC/ESMOの制吐療法ガイドラインでは、5mgへの減量について言及しているもののエビデンスはない。わが国では、標準制吐療法へのオランザピン5mgの上乗せ効果を検証した3つの第II相試験が行われ、その有効性が示唆されている。そこで、シスプラチン(CDDP)を含む化学療法に対する標準制吐療法へのオランザピン5mg上乗せの有用性の検証を目的としたプラセボ対照二重盲検無作為化第III相J-FORCE試験が行われた。その結果を第4回日本がんサポーティブケア学会学術集会において、静岡県立静岡がんセンターの安部 正和氏が発表した。

・対象:CDDP50mg/m2 以上を含む高度催吐性化学療法(HEC)を受ける固形がん患者
・試験群:オランザピン5mg(day1~4)+標準制吐療法(パロノセトロン0.75mg[day1]+アプレピタント125mg[day1]、80mg[day2~3]+デキサメタゾン12mg[day1]、8mg[day2~4])
・対照群:プラセボ(day1~4)+標準制吐療法(同上)
・評価項目:[主要評価項目]遅発期CR(Complete Response=嘔吐なし、救済治療なし)割合。[副次評価項目]急性期(CDDP開始~24時間)および全期間(CDDP開始~120時間)のCR割合、各期間のCC(Complete Control=CRかつ悪心なしまたは軽度)割合とTC(Total Control=CRかつ悪心なし)割合、治療成功期間、眠気と食欲不振割合、患者満足度など

 主な結果は以下のとおり。

・710例の患者が登録され、オランザピン群356例、プラセボ群354例に無作為に割り付けられた。安全性解析は706例、有効性解析は705例で行われた。
・遅発期CR割合はオランザピン群79%、プラセボ群66%とオランザピン群で有意に良好であった(p<0.001)。また、その差は13.5%と国際的コンセンサスで有効とされる10%を満たした。
・副次評価項目である急性期および全期間のCR割合、各期間のCC割合はいずれも有意にオランザピン群で良好であった。各期間のTC割合は、急性期を除き有意にオランザピン群で良好であった。
・治療関連有害事象である眠気、口喝、浮遊性めまいはオランザピン群で多くみられた。
・「日中の眠気あり」の頻度は両群で大きな差はなく、「不眠なし」と「食欲低下あり」の頻度はオランザピン群で良好であった。
・患者満足度は、「とても満足・満足」の割合は有意にオランザピン群で良好であった(p<0.001)。

(ケアネット 細田 雅之)


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「乳腺外科医事件」裁判の争点 【後編】

提供元:CareNet.com/企画:協和企画

 手術直後の女性患者への準強制わいせつ罪を問われた執刀医が、逮捕・勾留・起訴された事件。一審では無罪判決が言い渡されたが、検察は控訴し、争いは現在も続いている。この事件に関しては、ネットを中心として被害者とされる女性に対するバッシングと、医療者に対するバッシングがそれぞれ見られる。しかし、本件では「麻酔(注:本件ではプロポフォールやセボフルラン、笑気等が使用されていた)の影響で幻覚を体験した可能性がある」 として無罪判決が下されており、事件の本質からすると、女性も医師もある意味で被害者といえる。

 担当弁護人の1人である水沼 直樹氏に、実際に法廷で論じられた2つの争点について、前・後編で解説いただく本企画。前編に引き続き、今回は術後せん妄の有無についての裁判の経過と、このような事案を防ぐために考えられる医療安全対策を取り上げる。

後編:術後せん妄か否かをめぐり、何が争点となったのか

1.麻酔薬による術後せん妄の可能性

 本件の良性腫瘍摘出術では、麻酔薬としてプロポフォール200mgのほか、笑気ガスとセボフルランを継続的に投与し、鎮痛薬としてペンタゾシン5mg、坐薬等を投与していました(患者:30代前半、体重約50kg)。

 患者には、せん妄の準備因子の1つである脳の器質的障害は認められませんでしたが、誘発因子の1つとされる疼痛については、患者が術後に痛みを訴えています。また、直接因子とされる手術侵襲や上記の麻酔薬、オピオイド(ペンタゾシン)の使用も本件ではあります。

 弁護側証人は、乳房手術は全身麻酔後の覚醒時せん妄リスクが高い(オッズ比:5.19)と報告1)されていることを証言し、また、検察側証人がせん妄の可能性が低い理由の1つとして若年者であることを挙げたことに対し、せん妄の発症には必ずしも年齢による有意差があるわけではないと証言しました。実際に、小児麻酔においても術後せん妄が問題となり2)、学会などでも取り上げられていることも言及しています。

 麻酔薬と性的幻覚の症例報告は世界中にあり3)、プロポフォールについていえば、同薬により生々しい性的幻覚を見たという症例が世界中で報告されています4-7)

2.医師のDNAが患者の乳房に付着する可能性

 執刀医は、手術前に病室で患者の両胸を触診し、術前マーキングを実施していました。また、手術室内でも再度触診し、上級医と術式確認をしながら切開部を狭めるため再マーキング(デザイニング)を行っています。これらの際、医師は通常どおり素手で触診しました。

3.裁判所の判断

 患者が痛みを訴えていたことや術後にバイタルチェックを受けたこと等の記憶が無いこと、専門家の証言等を総合した結果、患者が「せん妄状態に陥っていた可能性は十分にあり、また、せん妄に伴って性的幻覚を体験していた可能性が相応にある」と判断しました。

 また、現場に臨場した警察官が、左胸以外の他の部分からも付着物を採取していれば、何らかの事実が判明でき真相解明につながった可能性がある、という旨が述べられました。

 さらに、検察官は医師が術前に撮影した写真(顔と胸が写っている)を根拠に、医師に性的興味があったと指摘しましたが、これらの写真は、すべてデザイニングされた写真でした。裁判所は、医師が医学的な目的以外で撮影したとはいえないと判断しました。詳細については、拙稿となりますが『医療判例解説 Vol.079』8)にも経緯をまとめています。

4.医療安全対策

 この事件から得られた対策は、3つ考えられるでのはないでしょうか。1つは、患者の回診(とくに女性患者の回診)には、医療者1人で訪室しないことです。あらぬ疑いをかけられたり、また実際に犯行の機会を作ったりせずに済むからです。家族の立ち会いを求めるのも一案です。なお、男性看護師の場合はとくに複雑な問題をはらみますが、せめて術後間もない時期だけでも、男性が1人で訪室しないような工夫をすべきでしょう。

 2つ目は、せん妄の診断基準としてはDSMやICD等がありますが、簡易版のスクリーニングツールも複数あります。CAMは、(1)急激な発症・症状の変動、(2)注意の障害、(3)解体した思考、(4)意識の障害の4項目から構成されるツールで、(1)(2)があり、かつ(3)または(4)があればせん妄と診断するという簡便なツールとなっています。これらを活用し、患者のせん妄を早期に医療機関が把握し、放置しないことが重要です。

 最後に、せん妄の可能性を患者や家族に対して、あらかじめ説明しておくことも重要です。英国立医療技術評価機構(NICE)のガイドラインや、厚生労働省制作の、せん妄に関する啓発動画9)を活用することも一案かと思います

(ケアネット)


【参考】
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1)  Lepousé C et al. Br J Anaesth. 2006;96:747-53.
2)  Morgan E et al. Plast Reconstr Surg. 1990;86:475-8; discussion 479-480.
3)  Schneemilch C et al. Anaesthesist. 2012 ;61:234-41.
4) Balasubramaniam B et al. Anaesthesia. 2003;58:549-53.
5) Yang Z et al. J Anesth. 2016;30:486-8.
6) Martínez Villar ML et al. Rev Esp Anestesiol Reanim. 2000;47:90-2.
7) Marchaisseau V et al. Therapie. 2008;63:141-4.
8) 医療判例解説Vol.079 . 医事法令社;2019.
9) 厚生労働省委託緩和ケア普及啓発事業企画制作/日本サイコオンコロジー学会企画制作協力.『あれ?いつもと様子が違う=せん妄とは?』


講師紹介

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水沼 直樹 ( みずぬま なおき ) 氏
文京あさなぎ法律事務所 弁護士

[略歴]

東北大学法学部・日本大学大学院法務研究科卒業。
都内で法律事務所勤務の後、亀田総合病院の内部専属弁護士を5年超にわたり務め、現在に至る。
東邦大学医学部非常勤講師、日本がん・生殖医療学会(兼理事)、日本睡眠歯科学会(兼倫理委員)、日本法医学会・日本DNA多型学会・日本医事法学会・日本賠償科学会・日本子ども虐待防止学会、日本麻酔科学会医事法制研究会、オートプシー・イメージング学会(兼アドバイザー)、日本医療機関内弁護士協会(代表)の各会員 ほか。医療系学会や医療機関からの医療安全講演も実施している。


前編はこちら

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「乳腺外科医事件」裁判の争点 【前編】

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 手術直後の女性患者への準強制わいせつ罪を問われた執刀医が、逮捕・勾留・起訴された事件。一審では無罪判決が言い渡されたが、検察は控訴し、争いは現在も続いている。この事件に関しては、ネットを中心として被害者とされる女性に対するバッシングと、医療者に対するバッシングがそれぞれ見られる。しかし、本件では「麻酔(注:本件ではプロポフォールやセボフルラン、笑気等が使用されていた)の影響で幻覚を体験した可能性がある」 として無罪判決が下されており、事件の本質からすると、女性も医師もある意味で被害者といえる。

 何が本件の争点となり、このような不幸な事案を防ぐために何ができるのか。担当弁護人の1人である水沼 直樹氏に、実際に法廷で論じられた2つの争点について、前・後編で解説していただく。

前編:科捜研による鑑定に問題点!?

1.事案の概要

 2016年某日、右乳房の良性腫瘍摘出術を受けた患者が、術後30分以内に2度回診した執刀医から、(1)1度目は左胸(健側部)の乳頭付近を舐められた、(2)2度目には患者の左胸を見ながら医師が自慰行為をしていた、との被害を訴えました。同日中に臨場した警察官が、患者の左乳頭部付近を微物採取。鑑定の結果、医師のDNA型と同型のDNAが検出され(DNA濃度:1.612ng/µL)、アミラーゼの陽性反応があったとされました。

2.証拠関係

 検察側の主な証拠は、執刀医が患者を舐めていたという患者の目撃証言と、患者の左乳頭部付近から採取された医師のDNAおよびアミラーゼ陽性という鑑定書でした。

3.争点

 争点は、2つあります。1つは、患者の被害証言(目撃証言)の信用性です。すなわち、患者の被害体験が麻酔薬等によって発症したせん妄による幻覚であるか否か。もう1つは本件鑑定書の信用性、すなわち、科学捜査研究所の鑑定に科学的許容性があるかです。なお、これに付随して、医師のDNAおよびアミラーゼが、上記犯行以外の機会に、患者の左乳頭部等に付着する可能性があるか、が争われました。

4.鑑定の問題点

 本件鑑定には、いくつか問題点がありました。まず、アミラーゼ検査の検査方法の詳細が不明であり、アミラーゼ陽性を示す結果(アガロースゲルの呈色反応結果)の写真がありませんでした。また、結果の確認は検査担当者だけが目視して、「+」とワークシートに記載していました。しかもワークシートは、都度記載するようにと通達に定められているものの、後からまとめて記載した疑いがありました。さらに、ワークシートは「鉛筆」で手書きされており、少なくとも、消しゴムで消して鉛筆で上書きした痕跡(日付や実験日時、ロット番号等を含む記載)が7箇所、消しゴムで消した痕跡が2箇所ありました。

 他方で、DNAの定量検査にも問題がありました。定量検査は、濃度が判明している既知試料(標準試料)と対象となる鑑定試料を同時に測定し、既知試料との比較において定量する検査方法ですが、科学捜査研究所の定量検査は、鑑定試料だけを測定していました。その結果、得られた定量値の正確性が問題となりました。

 さらにもう1つ、陽性反応を呈したアミラーゼ検査のゲル平板やDNA鑑定に用いた抽出試料、定量結果を示す増幅曲線や検量線図等が、2016年のうちに廃棄されており、検証が不可能となっていました。

5.鑑定の信用性に関する主張と裁判所の判断

 裁判所は、ワークシートが鉛筆書きされ、しかも記載が消しゴムで消されていたこと等は、鑑定者の職業意識の低さに由来し、また、検査結果のデータ資料が廃棄されたこと(鑑定者が破棄を阻止しようとしなかったこと)等は、鑑定者の誠実性を疑わせる事情であるとしました。また、標準試料との比較をしないで鑑定試料だけ定量検査した場合に、なぜ検査結果が信用できるのか判然とせず、検査差の信用性には一定の疑義がある等としました。

 後編では、せん妄の可能性に対してどのような判断が下されたか、本件のような事例を防ぐための対策について解説します。

( ケアネット )


講師紹介

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水沼 直樹 ( みずぬま なおき ) 氏
文京あさなぎ法律事務所 弁護士

[略歴]

東北大学法学部・日本大学大学院法務研究科卒業。
都内で法律事務所勤務の後、亀田総合病院の内部専属弁護士を5年超にわたり務め、現在に至る。
東邦大学医学部非常勤講師、日本がん・生殖医療学会(兼理事)、日本睡眠歯科学会(兼倫理委員)、日本法医学会・日本DNA多型学会・日本医事法学会・日本賠償科学会・日本子ども虐待防止学会、日本麻酔科学会医事法制研究会、オートプシー・イメージング学会(兼アドバイザー)、日本医療機関内弁護士協会(代表)の各会員ほか。医療系学会や医療機関からの医療安全講演についても実施している。


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