どれほどのがん患者が疼痛、疲労、精神的苦痛を有し、またそれらに対するケアは行われているのか。米国・がん協会のTenbroeck G. Smith氏らは、地域のがんセンターで治療を受けている患者を対象に、それらの有症率などを調査した。その結果、30~50%のがん患者が、疼痛、疲労および精神的苦痛について、話し合ったり、アドバイスを受けたり、期待した支援を受けたことがないと回答したという。著者は、「これら3つのがん関連症状の管理に関して改善の余地がある」と述べたうえで、それぞれの症状の有症率の高さについても「重要と思われる」と指摘している。Journal of Clinical Oncology誌2019年7月1日号掲載の報告。
研究グループは、米国のCommission on Cancer認定がんセンター17施設から、local/regional乳がん(82%)または大腸がん(18%)の患者を抽出してアンケート調査を行い、2,487例の回答を得た(回答率61%)。
2019年5月31日~6月4日まで5日間にわたり、ASCO2019が開催された。2019年のテーマは“Caring for every patient, Learning from every patient”であった。薬物療法の大きな演題が少なかった代わりに、支持療法やサバイバーケアの演題が多く取り上げられているように感じた。乳がんにおいては直接私たちの実臨床を変えるような試験の発表はなかったが(残念ながらプレナリーセッションもなし)、日常臨床の中で解決しなければならないクリニカルクエスチョンに回答する試験、今後の開発の方向性を示唆する試験の発表が多かったように感じる。その一方で、日本が参加していない試験の報告も多く、わが国の世界の治療開発の中での課題を再認識させられた学会でもあった。乳がんのLocal/Regional口演から2演題、Metastatic口演から5演題を紹介する。
臨床的リスク因子がOncotypeDXによる再発スコアに及ぼす影響(TAILORx追加解析)
OncotypeDXは乳がん組織中の21遺伝子のメッセンジャーRNA発現を解析することにより再発リスクの予測、化学療法の上乗せ効果を予測する検査である。TAILORx試験は、再発スコア(RS)を11以下の低リスク、12~25の中間リスク、25以上の高リスクに分け、中間リスクに対する化学療法の上乗せ効果を検証した第III相試験である。主たる解析結果は昨年のASCOで発表され、中間リスクに対する化学療法の上乗せ効果は認められなかった。サブグループ解析では50歳以下でRSが16~20では2%の、21~25では7%の化学療法上乗せ効果が示唆された(Sparano JA, et al. N Engl J Med.2018;379:111-121.)。今回の発表では、RSに臨床的リスク因子を加えた解析が行われた。臨床的低リスクは3cm以下かつ低グレード、2cm以下かつ中間グレード、1cm以下かつ高グレードと定義され、臨床的低リスクに当てはまらない症例が臨床的高リスクと分類された。臨床的高リスクは30%であった。無病生存期間(disease free survival:DFS)および遠隔無再発生存期間は、RS11~25の中間リスクにおいて臨床リスクによる差を認めなかった。化学療法の有益性が示唆されている50歳以下のRS16~25に限った解析では、RS16~20かつ臨床低リスクでは化学療法上乗せ効果を認めなかった。また、この集団における化学療法の上乗せ効果は化学療法誘発閉経によるものである可能性が示唆された。今回の結果はOncotypeDXの実臨床での使い方に大きな影響を及ぼすものではないが、50歳以下(未閉経)RS16~25の場合に化学療法を上乗せするかどうかの参考にはなりえるかもしれない。本研究の結果は発表同日、論文発表された(Sparano JA, et al. N Engl J Med. 2019;380:2395-2405.)。
MONALEESA-7は閉経前転移乳がんを対象に1次ホルモン療法に対するCDK4/6阻害剤であるribociclibの上乗せをみた第III相試験である。ホルモン療法としてはタモキシフェンもしくはアロマターゼ阻害剤とLHRHアゴニストであるゴセレリンが併用された。前治療としてホルモン療法は許容されておらず、化学療法は1レジメンのみ許容されていた。主要評価項目はPFS、キー副次評価項目としてOSが設定されていた。PFSの結果は昨年のSan Antonio Breast Cancer Symposiumで発表され、ribociclib群で23.8ヵ月に対しプラセボ群で13ヵ月(ハザード比:0.55、95%CI:0.44~0.69、p<0.0001)とribociclib群で良好であり、閉経前の症例においてもこれまでに閉経後を対象として行われてきたCDK4/6阻害剤と同様の上乗せ効果が得られることが示された。今回の発表では観察期間中央値34.6ヵ月時点でのOSの中間解析結果が発表された。生存期間中央値はribociclib群では未達であり、プラセボ群では40.9ヵ月であり、中間解析に割り振られたp値を下回りribociclib群で有意に長かった(ハザード比:0.712、95%CI:0.535~0.948、p=0.00973)。点推定値では、36ヵ月で71.2% vs.64.9%、42ヵ月で70.2% vs.46.9%と観察期間が延長するにつれて差が開いていく傾向を認めた。本試験はCDK4/6の1次治療への上乗せを検証した試験の中で、OSの結果を公表し統計学的有意差を認めた初の試験である。本試験の対象は閉経前であるため、現在の国内で1次治療に使用できるCDK4/6阻害剤に直接応用することはできない。また、中間解析でありイベントが十分に発生していないことなどから、今後の結果については最終解析の結果を待つ必要がある。本試験結果は発表同日New England Journal of Medicine誌に論文公表された( Im SA, et al. N Engl J Med. 2019 Jun 4. [Epub ahead of print])。なお、ribociclibは国内での開発が中止となっているため、本試験には日本からは不参加である。閉経前に対するCDK4/6の国内における開発は非常に重要であり、閉経前後を含めてタモキシフェンにパルボシクリブの上乗せを検証する、日本を含めたアジア共同医師主導治験のPATHWAY試験(UMIN000030816)の症例集積が完了する見込みである。結果の公表が待たれる。
早期乳がんの術後トラスツズマブ治療において、6ヵ月投与は12ヵ月投与に対し非劣性ではないことが、フランス・Centre Paul StraussのXavier Pivot氏らが行った「PHARE試験」の最終解析で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2019年6月6日号に掲載された。本試験の2013年の中間解析では非劣性が確認できず、今回は、事前に規定されたイベント発生数に基づき、予定された最終解析の結果が報告された。
HER2陽性早期乳がんの治療において、トラスツズマブの6ヵ月投与は、12ヵ月投与に対し非劣性であることが、英国・ケンブリッジ大学のHelena M. Earl氏らが行った「PERSEPHONE試験」で示された。研究の成果はLancet誌オンライン版2019年6月6日号に掲載された。術後のトラスツズマブ治療は、HER2陽性早期乳がん患者のアウトカムを有意に改善する。標準的な投与期間は12ヵ月だが、より短い期間でも有効性はほぼ同様で、毒性は軽減し、費用は削減される可能性が示唆されている。