StageII/IIIのHR+HER2-乳がんの術後内分泌療法後、リアルワールドでの再発リスクと治療成績

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 術後内分泌療法を受けたStageII/IIIのHR+HER2-早期乳がん患者における再発リスクをリアルワールドで検討した米国・Sarah Cannon Research InstituteのJoyce O’Shaughnessy氏らの後ろ向き研究の結果、リンパ節転移陰性患者も含め、再発リスクが依然として高いままであることが示された。Breast誌2025年6月号に掲載。

 本研究では、ConcertAI Patient360データベース(1995年1月~2021年4月)を用いて、手術を受け術後内分泌療法を受けた18歳以上のStageII/IIIのHR+HER2-早期乳がん患者を後ろ向きに解析した。再発リスクは、改良されたSTEEP基準による無浸潤疾患生存(iDFS)を用いて評価した。サブ解析で、術後内分泌療法として非ステロイド性アロマターゼ阻害薬(NSAI)を投与された患者とタモキシフェンを投与された患者のiDFS、遠隔無病生存、全生存を評価した。なお、CDK4/6阻害薬については、アベマシクリブが術後補助療法に承認されたのが2021年10月であり、本解析のデータベースのカットオフ日以後のため、投与された患者はいなかった。

 主な結果は以下のとおり。

・全解析コホート(3,133例)において、iDFSイベントリスクは5年時点で26.1%であり、10年時点で45.0%に上昇した。
・StageIIの患者の5年時点および10年時点のiDFSイベントリスクは22.7%および40.5%、StageIIIの患者では40.4%および62.9%であった。また、リンパ節転移陰性患者では22.1%および36.9%、リンパ節転移陽性患者では28.9%および49.4%であった。
・サブ解析において、NSAI±卵巣機能抑制療法がタモキシフェン±卵巣機能抑制療法に比べてiDFSの改善が認められ(ハザード比:0.83、95%信頼区間:0.69~0.98、p=0.031)、この傾向は閉経状態に関係なくみられた。

 著者らは、「このリアルワールドエビデンス研究は、StageIIまたはIIIのHR+HER2-早期乳がん患者の再発リスクが、標準的な術後補助全身療法にもかかわらず、リンパ節転移陰性患者を含めて容認できないほど高いままであることを示しており、この患者集団に対する新たな治療戦略の開発を正当化する」と結論している。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

O’Shaughnessy J, et al. Breast. 2025;81:104437.

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乳がん患者と医師の間に治験情報に関する認識ギャップ/ケアネット・イシュラン共同調査

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 ケアネットとイシュランが共同で実施した、乳がん患者(134人)と乳がん治療に携わる乳腺外科医(62人)を対象にした「治験に関する意識調査(インターネット調査)」の結果、患者側は医師からの治験の提案を期待している一方で、医師は日本国内の治験情報を十分に入手できていないと認識していることが明らかになった。患者の約6割が自身の主治医が国内の治験情報をよく知っていると思うと回答したのに対し、治験情報をよく知っていると回答した医師は1割未満にとどまった。

【調査概要】
患者調査
調査期間:2025年1月31日〜2月8日
調査対象:イシュランメルマガ会員の乳がん患者
回答数:134人
医師調査
調査期間:2025年1月22日〜1月28日
調査対象:ケアネット会員医師(200床以上の医療機関に所属している乳腺外科医)
回答数:62人

 主な結果は以下のとおり。

患者調査
・治験とは何か知っているかを聞いた質問に対し、約74%が知っていると回答した(「よく知っている」が9.0%、「少し知っている」が64.9%)。
・「治験への参加経験」について聞いた質問では、「実際に治験に参加したことがある」が3.7%、「実際に参加しようとしたが、条件が合わずできなかった」が6.0%、「参加を検討するために、医療者に相談したことはある」が2.2%、「参加を考えたが、医療者に相談したことはない」が9.7%であった。
・「日本で行われている乳がんの治験に関する情報」について、自身の主治医がどの程度知っていると思うか聞いた質問では、約63%が主治医はよく知っていると思うと回答した(「ほぼすべて知っていると思う」が37.3%、「3/4くらいは知っていると思う」が25.4%)。
・「治験情報を主治医経由で知った場合の治験への参加意向」を聞いた質問では、約78%が検討すると回答した(「必ず検討する」が30.6%、「まあ検討する」が47.8%)。
・日本で行われている治験に関する情報へのニーズについて聞いた質問では、約81%が情報が欲しいと回答した(「ぜひ欲しい」が46.3%、「まあ欲しい」が34.3%)。

医師調査
・治験への参加経験を聞いた質問では、「治験責任医師として参加したことがある」が11.3%、「治験分担医師として参加したことがある」が61.3%、「協力施設として患者リクルーティングを行ったことがある」が29.0%であった。
・「日本で行われている乳がんの治験に関する情報」について、どの程度知っているか聞いた質問では、よく知っていると回答した医師は約5%にとどまった(「ほぼすべて知っている」が0%、「3/4くらいは知っている」が4.8%)。一方で、「ほぼ知らない」と答えた医師が41.9%と最も多かった。
・自身が診療している患者の病状に合いそうな治験が行われていることを知った場合、患者に提案するかを聞いた質問では、約84%が提案すると回答した(「必ず提案をする」が17.7%、「まあ提案をする」が66.1%)。
・日本で行われている治験情報についてどの程度知りたいと思うか聞いた質問では、「全国の治験情報が知りたい」という回答が62.9%と最も多く、「自分の都道府県の治験情報は知りたい」が22.6%と続いた。
・(治験実施施設が自身の所属施設とは別の場合を前提として)患者から治験参加について相談があった場合にどのように対応するか聞いた質問では、約90%が前向きに対応すると回答した(「必ず前向きに対応する」が43.5%、「まあ前向きに対応する」が46.8%)。

(ケアネット)


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HR+早期乳がんにおける年齢と内分泌療法の中断期間、再発リスクの関係/JCO

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 ホルモン受容体陽性(HR+)早期乳がんにおいて、内分泌療法(ET)のアドヒアランス欠如は、若年患者の生存率の低さの潜在的な原因の1つと考えられるが、ETのアドヒアランス改善が生存にもたらすベネフィットは明確ではない。フランス・パリ・シテ大学のElise Dumas氏らによるフランスの全国コホート研究の結果、とくに34歳以下の患者において厳格なET継続戦略によって得られる生存ベネフィットが示され、ETのアドヒアランス改善のための個別化戦略の必要性が示唆された。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2025年3月5日号への報告。

 本研究では、フランス国民健康データシステムからのデータとtarget trial emulationの手法を用いて、3つのET継続戦略(治療中断期間として30日、90日、または180日以下を許容)について、5年無病生存率(DFS)を観察された(自然な)ET継続群と比較した。

 主な結果は以下のとおり。

・計12万1,601例のHR+早期乳がん患者が解析に含まれ、うち29.8%が診断時に50歳未満であった。
・若年患者は高齢患者よりも DFS が低く、ETを中断する可能性が高かった。
・34歳以下の患者では、厳格な ET継続戦略(中断≦30日)により、観察されたET継続群と比較して 5 年 DFS 率が 74.5% から 78.8%に改善した(4.3%ポイント[95%信頼区間[CI]:2.6 ~7.2])。
・≦90日および≦180日の中断を許容するET継続戦略では、34歳以下の患者における5年DFSベネフィットはそれぞれ1.3%ポイント(95%CI:0.2~3.7)および1.0%ポイント(95%CI:-0.2~3.4)であった。
・対照的に、50歳以上の患者におけるET継続戦略によるDFSベネフィットは、その中断期間にかかわらず、観察されたET継続群と比較して1.9%ポイント以下であった。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【原著論文はこちら】

Dumas E, et al. J Clin Oncol. 2025 Mar 5. [Epub ahead of print]

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乳がんサバイバーは多くの非がん疾患リスクが上昇/筑波大

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 日本の乳がんサバイバーと年齢をマッチさせた一般集団における、がん以外の疾患の発症リスクを調査した結果、乳がんサバイバーは心不全、心房細動、骨折、消化管出血、肺炎、尿路感染症、不安・うつの発症リスクが高く、それらの疾患の多くは乳がんの診断から1年以内に発症するリスクが高いことを、筑波大学の河村 千登星氏らが明らかにした。Lancet Regional Health-Western Pacific誌2025年3月号掲載の報告。

 近年、乳がんの生存率は向上しており、乳がんサバイバーの数も世界的に増加している。乳がんそのものの治療や経過観察に加え、乳がん以外の全般的な健康状態に対する関心も高まっており、欧米の研究では、乳がんサバイバーは心不全や骨折、不安・うつなどを発症するリスクが高いことが報告されている。しかし、日本を含むアジアからの研究は少なく、消化管出血や感染症などの頻度が比較的高くて生命に関連する疾患については世界的にも研究されていない。そこで研究グループは、日本の乳がんサバイバーと一般集団を比較して、がん以外の12種類の代表的な疾患の発症リスクを調査した。

 日本国内の企業の従業員とその家族を対象とするJMDCデータベースを用いて、2005年1月~2019年12月に登録された18~74歳の女性の乳がんサバイバーと、同年齢の乳がんではない対照者を1:4の割合でマッチングさせた。乳がんサバイバーは上記期間に乳がんと診断され、1年以内に手術を受けた患者であった。転移/再発乳がん、肉腫、悪性葉状腫瘍の患者は除外した。2つのグループ間で、6つの心血管系疾患(心筋梗塞、心不全、心房細動、脳梗塞、頭蓋内出血、肺塞栓症)と6つの非心血管系疾患(骨粗鬆症性骨折、その他の骨折[肋骨骨折など]、消化管出血、肺炎、尿路感染症、不安・うつ)の発症リスクを比較した。

 主な結果は以下のとおり。

・解析対象は、乳がんサバイバー2万4,017例と、乳がんではない同年齢の女性9万6,068例(対照群)であった。平均年齢は両群ともに50.5(SD 8.7)歳であった。
・乳がんサバイバー群は、対照群と比較して、心不全(調整ハザード比[aHR]:3.99[95%信頼区間[CI]:2.58~6.16])、消化管出血(3.55[3.10〜4.06])、不安・うつ(3.06[2.86〜3.28])、肺炎(2.69[2.47~2.94])、心房細動(1.83[1.40~2.40])、その他の骨折(1.82[1.65~2.01])、尿路感染症(1.68[1.60~1.77])、骨粗鬆症性骨折(1.63[1.38~1.93])の発症リスクが高かった。
・多くの疾患の発症リスクは、乳がんの診断から1年未満のほうが1年以降(1~10年)よりも高かった。とくに不安・うつは顕著で、1年未満のaHRが5.98(95%CI:5.43~6.60)、1年以降のaHRが1.48(1.34~1.63)であった。骨折リスクは診断から1年以降のほうが高かった。
・初期治療のレジメン別では、アントラサイクリン系およびタキサン系で治療したグループでは、骨粗鬆症性骨折、その他の骨折、消化管出血、肺炎、不安・うつの発症リスクが高い傾向にあり、アントラサイクリン系および抗HER2薬で治療したグループでは心不全のリスクが高い傾向にあった。アロマターゼ阻害薬で治療したグループでは骨粗鬆症性骨折、消化管出血の発症リスクが高い傾向にあった。

 これらの結果より、研究グループは「医療者と患者双方がこれらの疾患のリスクを理解し、検診、予防、早期治療につなげることが重要である」とまとめた。

(ケアネット 森)


【原著論文はこちら】

Kawamura C, et al. Lancet Reg Health West Pac. 2025;56:101519.

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がん術前1ヵ月間の禁煙で合併症が減少~メタ解析

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 がん手術の前に4週間禁煙した患者では、手術が近づいても喫煙していた患者よりも術後合併症が有意に少なかったことを、オーストラリア・ディーキン大学のClement Wong氏らが明らかにした。JAMA Network Open誌2025年3月7日号掲載の報告。

 喫煙は術後合併症のよく知られた危険因子であり、喫煙する患者では合併症リスク増大の懸念から外科手術の延期を検討することもある。しかし、がん患者の手術が延期された場合、患者が禁煙している間に病勢が進行するリスクがある。今回、研究グループはがん患者の喫煙状態や禁煙期間とがん手術後の合併症との関連を調べるために、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。

 Embase、CINAHL、Medline Complete、Cochrane Libraryを2000年1月1日~2023年8月10日に体系的に検索し、喫煙しているがん患者と喫煙していないがん患者の術後合併症を調査した介入研究と観察研究を抽出した。評価項目は、がんの手術前の4週間も喫煙していた患者と4週間は禁煙した患者、手術前の4週間も喫煙していた患者と生涯で一度も喫煙したことがない患者などにおける、あらゆる術後合併症のオッズ比(OR)であった。

●24件のランダム化比較試験の3万9,499例が解析対象となった。肺がんは最も多く研究されたがん種であった。
●手術前の4週間も喫煙していた群は、4週間は禁煙した群および生涯で一度も喫煙したことがない群と比較して、術後合併症のORが高かった。
 -術前4週間も喫煙群vs.4週間は禁煙群のOR:1.31、95%信頼区間(CI):1.10~1.55、1万4,547例(17研究)
 -術前4週間も喫煙群vs.非喫煙群のOR:2.83、95%CI:2.06~3.88、9,726例(14研究)
●手術前の2週間も喫煙していた群と、最後に喫煙したのが2週間~1ヵ月前および2週間~3ヵ月前であった群の術後合併症のORに有意な差はなかったが、点推定では禁煙期間が長いほうが有利であった。
 -術前2週間も喫煙群vs.2週間~1ヵ月前に禁煙群のOR:1.20、95%CI:0.73~1.96、n=3,408(5研究)
 -術前2週間も喫群煙vs.2週間~3ヵ月前に禁煙群のOR:1.19、95%CI:0.89~1.59、n=5,341(10研究)
●手術前の1年間に喫煙していた群の術後合併症のORは、少なくとも1年前に禁煙した群よりも高かった(OR:1.13、95%CI:1.00~1.29、3万1,238例[13研究])。

 研究グループは、手術前の2週間も喫煙していた群と2週間~1ヵ月前および2週間~3ヵ月前に禁煙した群のORに有意差がなかった点について、「短い禁煙期間を比較した研究が少ないことや出版バイアスの可能性により、長い禁煙期間よりも短い禁煙期間を支持する研究が過小評価されている可能性がある」と言及したうえで、「禁煙とがんの術後合併症に関するこのシステマティックレビューおよびメタ解析では、手術の4週間前から禁煙していたがん患者は、手術が近づいても喫煙していた患者よりも術後合併症が少なかった。最適な禁煙期間を特定し、がん手術延期と病勢進行リスクとのトレードオフについての情報を臨床医に提供するためには、さらに質の高いエビデンスが必要である」とまとめた。

(ケアネット 森)


【原著論文はこちら】

Wong C, et al. JAMA Netw Open. 2025;8:e250295.

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
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「乳腺外科医事件」再度の無罪判決と医療現場への示唆

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 手術直後の女性患者への準強制わいせつ罪に問われた執刀医が、逮捕・勾留・起訴された事件。一審では無罪判決となったが、控訴審では懲役2年の実刑判決が東京高裁より言い渡され、執刀医側の上告を受けて出された最高裁判決は「東京高裁への差戻し」。3月12日、この差戻審の判決が出され、無罪とした一審の判決が支持された。担当弁護人の1人である水沼 直樹氏が、これまでの経緯および裁判での争点と、このような事件を防ぐために医療現場でできる対応について解説する。

1.患者側の主張と医師の主張

 2016年5月、30代の女性が右胸部の良性腫瘍摘出術を受けた後、担当医師が病室を訪れ、健側(左胸部)を舐めるなどのわいせつ行為をしたとして、準強制わいせつの疑いで逮捕・起訴されました。患者の左胸部から医師のDNAとアミラーゼが検出されています。

 患者は、術後に2回、同様の行為を受けたと主張している一方で、医師は術後せん妄による性的幻覚の可能性を指摘しています。

2.争点と裁判所の判断

(1)東京地裁(無罪):

 2019年2月、1)患者が「せん妄状態に陥っていた可能性は十分にあり、また、せん妄に伴って性的幻覚を体験していた可能性も相応にある」、2)術前の触診や、上級医とのマーキング時等の唾液飛沫により胸部にDNAやアミラーゼが付着した可能性が否定できない、としました(「乳腺外科医事件」裁判の争点参照)。

(2)東京高裁(有罪):

 2020年7月、1)「せん妄に伴う幻覚は生じていなかった」、2)科学捜査研究所の検査担当者によるワークシートの記載事項の消去、上書き、書き換えには「意図的に鑑定結果をねつ造したとはうかがえず」、「DNA定量検査の結果が信用できないとも断じ難い」としました(「乳腺外科医事件」控訴審、逆転有罪判決の裏側参照)。

(3)最高裁判決(破棄差戻):

 2022年2月、1)検察側証人の「見解は医学的に一般的なものではないことが相当程度うかがわれる」、2)DNA定量検査の正確性についてさらに審理する必要がある、としました(「乳腺外科医事件」最高裁判決を受けて参照)。

3.差戻後控訴審(無罪)

 差戻後の東京高裁は、1)複数の専門家の証言から、麻酔薬等により術後せん妄による性的幻覚の可能性があるとした第一審の判断は不合理ではなく、2)DNA定量検査の値は信頼できるが、触診行為自体や触診時等に飛散した医師の唾液飛沫が患者の胸部に付着した可能性を否定できないとしました。

※2025年3月25日、検察官は上告を放棄し、医師の無罪が確定しました。

4.医療現場への示唆

 本件は、患者の術後せん妄による性的幻覚の可能性が認められました。その点で、医療現場では、せん妄・術後せん妄対策が重要となります。

(1)せん妄は見落としやすい

 医療従事者によるせん妄患者の見落としが多いことが報告されています1)。医療従事者への研修・教育が重要です。

(2)スクリーニング・アセスメントの実施

 せん妄対策が患者の予後に影響します。せん妄のスクリーニング、アセスメントを実施し、早期に医療介入しましょう2)

(3)患者・家族への説明

 せん妄を体験した患者や、せん妄状態に陥った患者を目の当たりにした家族の焦燥感は計り知れません。患者や家族に対してもせん妄教育を行うと良いでしょう。YouTube等にも専門家が制作した多くの啓発動画が存在しています。

(4)回診・訪室の際の注意

 単独での回診は、あらぬ疑いをかけられたり、逆に心ならぬ医療従事者に犯行の機会を与えたりします。他方、常に2名体制で回診・ラウンドすることは現実的に難しいでしょう。そこで、せめて、術後間もないうちだけでも単独回診・巡回を回避することが大切だと考えられます。


参考文献

講師紹介

水沼 直樹 ( みずぬま なおき ) 氏

東京神楽坂法律事務所 弁護士・海事補佐人、福島県立医科大学 特任教授

[略歴] 東北大学法学部・日本大学大学院法務研究科卒業。
都内で法律事務所勤務ののち、亀田総合病院の内部専属弁護士として5年超にわたり勤務したのち,本件弁護を受任したため同院を退職し,現在に至る。
日本がん・生殖医療学会(兼理事)、日本睡眠歯科学会(兼倫理委員)、日本法医学会・日本DNA多型学会・日本医事法学会・日本賠償科学会・日本子ども虐待防止学会、日本麻酔医事法制研究会、日本医療機関内弁護士協会(代表)の各会員ほか。


バックナンバー

6 「乳腺外科医事件」再度の無罪判決と医療現場への示唆

5 「乳腺外科医事件」最高裁判決を受けて~担当弁護人の視点から

4 「乳腺外科医事件」控訴審、逆転有罪判決の裏側~担当弁護人による「判決の争点」解説~【後編】

3 「乳腺外科医事件」控訴審、逆転有罪判決の裏側~担当弁護人による「判決の争点」解説~【前編】

2 「乳腺外科医事件」裁判の争点 【後編】

1 「乳腺外科医事件」裁判の争点 【前編】

化学療法誘発性末梢神経障害の克服に向けた包括的マネジメントの最前線/日本臨床腫瘍学会

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 2025年3月6~8日に第22回日本臨床腫瘍学会学術集会が開催され、8日の緩和ケアに関するシンポジウムでは、「化学療法誘発性末梢神経障害のマネジメント」をテーマに5つの講演が行われた。化学療法誘発性末梢神経障害(chemotherapy-induced peripheral neuropathy:CIPN)は、抗がん剤投与中から投与終了後、長期にわたって患者のQOLに影響を及ぼすものの、いまだ有効な治療の確立に至っていない。そこで、司会の柳原 一広氏(関西電力病院 腫瘍内科)と乾 友浩氏(徳島大学病院 がん診療連携センター)の進行の下、患者のサバイバーシップ支援につなげることを目的としたトピックスが紹介された。

CIPN予防戦略の現状と今後の研究開発への期待

 まず、CIPNの予防に関する最新エビデンスが、華井 明子氏(千葉大学大学院 情報学研究院)より紹介された。『がん薬物療法に伴う末梢神経障害診療ガイドライン2023年版』には、CIPNを誘起する化学療法薬の使用に際し、予防として推奨できるものはないと記載されている。また、抗がん剤の種類によっては投与しないことを推奨する薬剤もあり、状況に応じて運動や冷却の実施が推奨されるものの、強く推奨できる治療法はない。そのため、多くの患者が苦しんでいる現状が指摘された。

 こうした中、手足を冷却または圧迫して局所の循環血流量を低下させることで、抗がん剤をがん細胞に到達させつつ、手足には到達させない戦略がCIPN予防に有効とのエビデンスが散見されており、冷却がやや優位との成績が最近示された。「ただし、冷却の効果は抗がん剤投与中に最大限発揮されるので、投与後数時間経過して出現する症状には効果がない」と、同氏は説明した。

 なお、がん治療中の運動は、心肺機能や筋力、患者報告アウトカムなどを改善するとのエビデンスが確立しているため、有酸素運動や筋力トレーニングが推奨されている。一方、CIPN予防における運動の実施は、本ガイドラインでは推奨の強さ・エビデンスの確実性ともに弱い。同氏は、「それでも治療前のプレハビリテーションにより体力・予備力を高めておくことは有効」とした。また、予防ではなく、CIPN発現例に対する治療であるが、バランス運動、筋力トレーニングおよびストレッチは、いずれも長期的には実施のメリットが大きいとの研究成果が紹介された。

 「CIPNの頻度は抗がん剤の種類はもちろん、評価の時期・指標によっても異なり、患者の生活状況や主観が大きく影響する。そのため、評価方法の標準化がCIPN予防/治療戦略の開発につながるだろう。また、運動プログラムのエビデンスは増え続けていることから、ガイドラインの次期改訂では推奨が変わる可能性もある」と、同氏は期待を示した。

CIPN治療戦略と実臨床への橋渡しに向けた取り組み

 次に、CIPNの治療に関する動向が吉田 陽一郎氏(福岡大学病院 医療情報・データサイエンスセンター 消化器外科)より解説された。『がん薬物療法に伴う末梢神経障害診療ガイドライン 2023年版』で薬物療法として推奨されている薬剤は1剤のみであり、予防ではなく治療のみでの使用が可能となっている。同氏はその根拠となった論文と共に、最新のシステマティックレビュー論文に触れ、「エビデンスが不十分で、本ガイドラインにおける推奨の強さは弱い。CIPNの予防や治療の領域では、プラセボが心理的な影響だけでなく、生理的な変化をもたらすことが知られているため、プラセボ効果を含めたデザインの下で臨床試験を実施することが望まれる」と述べた。

 こうした中、わが国ではCIPN症状が出現した際に投与する薬剤のアンケート調査が、『がん薬物療法に伴う末梢神経障害マネジメントの手引き 2017年版』の公表前後(2015年および2019年)に実施され、使用薬剤の変化が報告されている。近く再調査が行われる予定で、より現実的なマネジメントの理解につながるとのことである。さらに同氏は、わが国の臨床試験の状況や課題点などを説明するとともに、日本がんサポーティブケア学会 神経障害部会が取り組んでいるCIPNに関する教育動画について、「詳細は日本がんサポーティブケア学会のホームページに近日掲載予定で、2025年5月に開催される同学会の学術集会でも告知予定」と紹介した。

がんサバイバーのCIPNに対する鍼灸治療の可能性

 わが国では年間100万例ががんに罹患し、治療後も慢性疼痛、とくにCIPNを訴える患者が増えている。石木 寛人氏(国立がん研究センター中央病院 緩和医療科)は、「乳がんの場合、年間9万例の発症者のうち、5年生存率が90%で、その半数が痛みを抱えているとすれば、毎年約4万例の慢性疼痛患者が発生する。現状では各種鎮痛薬による薬物療法が推奨されているが、痛みの原因を根本的に解決する治療ではないため、非薬物療法のニーズは高まっている」と指摘。

 このような背景もあり、同氏が所属する診療科では1980年代から鍼灸治療を緩和ケアの一環として提供してきた。治療は刺入鍼、非刺入鍼、台座灸、ホットパックを組み合わせ、標治法(症状部位の循環改善を促す局所治療)と本治法(体力賦活を図る全身調整)により、CIPNでは週1回30分、3ヵ月間の施術を基本とし、施術後に患者が自宅で行うセルフケア指導も治療に含まれる。

 同院では、こうした鍼灸治療の乳がん患者における有用性を検証する前向き介入試験を2022年より実施しており、「結果は2025年6月の米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表予定」と、同氏は紹介した。さらに現在、多施設ランダム化比較試験を準備中で、乳がん診療科と鍼灸治療提供施設とのネットワーク作りとして、各施設や学会、企業などと月1回のオンラインミーティングを実施。「円滑な共同研究のためには、まずは互いの人となりや専門性を理解し、強固な連携体制を築いていくことが重要」と強調した。また、鍼灸師が医療機関に出向いて技術交流を行うなど、現場レベルでの連携も進んでいるという。

 これに加え、学会やWebセミナーでの交流会、学術団体同士の相互理解を深める取り組みなど、さまざまな普及活動を進めており、「CIPNに苦しむ患者への新たな治療選択肢を提供できる日は近づいている」と、同氏は意欲を示した。

CIPNマネジメントにおける医療機器の現状と課題

 久保 絵美氏(国立がんセンター東病院 緩和医療科)によると、CIPNのマネジメントには医療機器の活用が重要になるという。ただし、「日・米・欧のガイドラインでCIPN予防/治療における冷却療法や圧迫療法、その他治療法の推奨の強さやエビデンスの質は異なる」と指摘。米国食品医薬品局(FDA)に承認されている機器が紹介されるも一定の評価は得られず、今後も引き続き検証が必要とされた。

 一方、内因性疼痛抑制系の賦活や神経成長因子の調整、抗炎症作用などにより複合的に鎮痛をもたらす交番磁界治療器の有効性が、前臨床試験と共に、同氏が研究責任医師として担当した臨床試験で検討されている。それによると、CIPNの原因となる抗がん剤投与終了後1年以上経過した症状固定患者のtingling(ピリピリ・チクチク)やnumbness(感覚の低下)に関して、一定の効果が示唆され保険収載に至っている。

 同氏は、「医療機器によるCIPNマネジメントは発展途上で、エビデンス不足が課題である。そのため、前臨床データの拡充と共に、治療効果のさらなる検証は必須」と強調した。

脳の神経回路の変化に起因する“痛覚変調性疼痛”の理解と治療戦略

 痛みには侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛に加え、これまで心因性疼痛や非器質的疼痛と呼ばれていた痛覚変調性疼痛がある。川居 利有氏(がん研究会 有明病院 腫瘍精神科)は、「痛覚変調性疼痛はCIPNに付随するものである。たとえば、3ヵ月を超えるような抗がん剤投与後からの手足のしびれ、強い倦怠感、浅眠、めまい・耳鳴り、食欲低下や、抗がん剤投与終了後も症状が改善せずに遷延・悪化すること、また、不安が強くなり、症状に執着し訴えが執拗になることがある。このような患者に遭遇したことはないだろうか」と問い掛けた。

 これは脳神経の可塑的変化により発症、維持される慢性痛で、痛み過敏、睡眠障害、疲労、集中困難、破局思考などを伴う。神経可塑性とは、脳の神経が外部刺激により伝達効率を変化させる能力で、学習や記憶に深く関わる一方、慢性痛では脳の感覚-識別系が抑制され、情動-報酬系、認知-制御系が活性化する。この状態が進むと痛みに対する不安や苦痛が増すばかりか、痛みを軽減する下行性制御系、いわゆるプラセボ回路の機能が低下し、痛みへの自己調節が困難となる。これが不安症や強迫症、治療への期待感の喪失、医療への不信感などにつながるという。

 同氏は、「CIPNは長期間に持続し、そこに神経の可塑的変化による痛覚変調性疼痛が追加されることで、痛みはもとより、うつ病や不安症、自律神経症状も加わり、感情調節機能不全に陥る」と説明。また、「CIPNの慢性化では過敏症状の併発に注意し、急激な症状変化の有無についての詳細な問診が大切である。この状態は単なる“気のせい”ではなく、長期間の心理社会的問題などの蓄積による機能障害が原因」とし、「治療には患者との信頼関係の構築が不可欠で、とくに慢性化したケースでは患者の背景や過去の経験に配慮する必要がある。睡眠や心理的ケアは治療上重要なため、心療内科や精神科への適切な紹介が推奨される。CIPNそのものは治らないが、QOL改善には過敏症状のマネジメントが大切」と結んだ。

(ケアネット)


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HER2陽性転移乳がん、術後放射線療法でOS改善~SEERデータ

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 HER2陽性転移乳がん(MBC)において、抗HER2療法の下での術後放射線療法(PORT)の役割をリアルワールドデータで検討したところ、PORTが全生存期間(OS)をさらに改善していたことがわかった。また、サブグループ解析では、局所進行(T3~4、N2~3)、Grade3、ホルモン受容体(HR)陽性、骨・内臓転移あり、乳房切除を受けた患者において、有意にベネフィットがあることが示唆された。中国・The First Affiliated Hospital of Bengbu Medical UniversityのLing-Xiao Xie氏らがBreast Cancer Research and Treatment誌オンライン版2025年3月14日号で報告した。

 本研究は、2016~20年のSEERデータベースからHER2陽性MBC女性の臨床データについて包含基準および除外基準に従って収集した。PORTが患者の生存に与える影響を評価し、サブグループ解析によりPORTからベネフィットが得られる可能性のある集団を特定した。

 主な結果は以下のとおり。

・SEERデータベースから計541例を解析に組み入れた。
・PORT群の3年OS率は86.7%と、非PORT群の80.2%より有意に高かった(p=0.011)。
・多変量解析では、黒人患者とPORTを受けた患者はOSが長く(p<0.05)、人種とPORTが独立した予後因子であることがわかった。
・サブグループ解析では、乳房切除、局所進行、高悪性度、HR陽性、多臓器転移ありの患者において、PORTがOSをさらに改善することが示唆された(p<0.05)。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Xie LX, et al. Breast Cancer Res Treat. 2025 Mar 14. [Epub ahead of print]

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進行乳がんでのT-DXdの効果と関連するゲノム異常/日本臨床腫瘍学会

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 トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)の効果に関連するゲノム異常の影響については十分に解明されていない。今回、進行乳がん患者の組織検体における包括的ゲノムプロファイリング(CGP)検査データの後ろ向き解析により、CDK4およびCDK12異常がT-DXdへの1次耐性に寄与する可能性が示唆された。第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2025)にて、国立がん研究センター中央病院の山中 太郎氏が発表した。

 本研究では、2019年6月~2024年8月に組織検体のCGP検査を受け、国立がん研究センター・がんゲノム情報管理センター(C-CAT)に登録された進行乳がん患者のデータを後ろ向きに解析した。CGP検査には、NCCオンコパネルシステム、FoundationOne CDx、GenMineTOPが含まれる。T-DXd投与前の検体を用いてCGP検査を受けた患者を対象とし、actionableな遺伝子異常はpathogenic/oncogenicバリアントまたはlikely pathogenic/likely oncogenicバリアントに分類された場合にカウントした。

 主な結果は以下のとおり。

・進行乳がん5,229例のうち、最終的に437例が抽出された。年齢中央値は54歳、HER2は陽性が35.7%、陰性が56.3%、不明が8.7%、エストロゲン受容体は、陽性が62.7%、陰性が32.5%、不明が4.8%であった。最も多かったCGP検査はFoundationOne CDxで89.7%であった。
・actionableな遺伝子異常の頻度が高かったのは、HER2陽性ではTP53異常(71.4%)、ERBB2増幅(70.1%)、PIK3CA異常(50.0%)、MYC異常(28.6%)、HER2陰性ではTP53異常(53.9%)、PIK3CA異常(36.3%)、MYC異常(20.4%)、FGFR1異常(18.8%)、GATA3異常(18.8%)であった。
・無増悪生存期間(PFS)は、ERBB2増幅例で非増幅例より有意に長く(p<0.001)、HER2陽性例では陰性例より有意に長かった(p<0.001)。
・多変量解析の結果、HER2の状態はPFSの延長と有意に関連(ハザード比[HR]:0.33、95%信頼区間[CI]:0.22~0.50、p<0.001)し、CDK4異常(HR:2.18、95%CI:1.06~4.51、p=0.035)およびCDK12異常(HR:2.28、95%CI:1.08~4.79、p=0.030)はPFSの短縮と関連していた。

 山中氏は、「本研究の結果を裏付け、新たな戦略的アプローチを開発するためにさらなる研究が必要」としている。

(ケアネット 金沢 浩子)


固形がん患者における初回治療時CGP検査実施の有用性(UPFRONT)/日本臨床腫瘍学会

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 本邦における包括的ゲノムプロファイリング検査(CGP)は、「標準治療がない、または局所進行もしくは転移が認められ標準治療が終了となった(見込みを含む)」固形がん患者に対して生涯一度に限り保険適用となる。米国では、StageIII以上の固形がんでのFDA承認CGPに対し、治療ラインに制限なく全国的な保険償還がなされており、開発中の新薬や治験へのアクセスを考慮すると、早期に遺伝子情報を把握する意義は今後さらに増大すると考えられる。本邦の固形がん患者を対象に、コンパニオン診断薬(CDx)に加えて全身治療前にCGPを実施する実現性と有用性を評価することを目的に実施された、多施設共同単群非盲検医師主導臨床試験(NCCH1908、UPFRONT試験)の結果を、国立がん研究センター中央病院/慶應義塾大学の水野 孝昭氏が第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2025)で発表した。

・対象:16歳以上の治癒切除不能または再発病変を有する非小細胞肺がん(EGFRALKROS1BRAFのドライバー遺伝子変異なし)、トリプルネガティブ乳がん、胃がん、大腸がん、膵がん、胆道がん患者(前治療歴なし[術前術後補助化学療法は許容]、ECOG PS 0/1、CGP検査に提出可能な腫瘍検体・末梢血検体を有する)
・組み入れ患者の治療の流れ:CGP(医療保険の先進医療特約または自費)→標準治療±分子標的治療(→[保険適用のCGP]→分子標的治療)※1
・評価項目:
[主要評価項目]actionableな遺伝子異常※2に対応する分子標的薬による治療を受ける患者の割合
[重要な副次評価項目]全生存期間(OS)、actionableな遺伝子異常を有する患者の割合、actionableな遺伝子異常に対する標的治療における無増悪生存期間(PFS)など
・追跡期間:24ヵ月(データカットオフ:2024年3月)
※1:保険適用のCGPを受けるかどうかは任意で、本研究では規定なし
※2:actionableな遺伝子異常=厚生労働省「第2回がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議(2019年3月8日)」で示された「資料3-4 治療効果に関するエビデンスレベル分類案」1)におけるエビデンスレベルD以上

 主な結果は以下のとおり。

・2020年6月~2022年3月に201例が登録され、192例がCGPを受けた。
・201例の患者背景は、年齢中央値が62歳(範囲:19~83)、男性が54.2%、がん種は膵がん27.9%/大腸がん24.9%/非小細胞肺がん15.9%/胆道がん11.9%/胃がん8.5%/乳がん6.5%で、術後再発症例は32.8%であった。
・最も多く検出された遺伝子異常はTP53(≧60%)で、KRAS(≧40%)、APCSMAD4ARID1A(いずれも≧10%)などが続いた。また、ERBB2BRAFEGFRなど薬剤に直結する遺伝子異常も、いずれも5%未満ではあるが検出された。
・actionableな遺伝子異常(エビデンスレベルA~D)を有する患者は110例(57.3%)、治療候補薬の推奨あり(エビデンスレベルE以下も含む)の患者は142例(74.0%)であった。
・actionableな遺伝子異常を有する患者の割合をがん種別にみると、膵がん67.9%/非小細胞肺がん65.6%/胆道がん62.5%/大腸がん48.0%/乳がん46.2%/胃がん35.3%であった。
・actionableな遺伝子異常に対応する分子標的薬による治療を受けた患者は14例(7.3%)で、がん種ごとにみると非小細胞肺がん18.8%/膵がん8.9%/胆道がん4.2%/大腸がん4.0%、乳がんおよび大腸がんは0%であった。なお、14例中8例が治験的治療を受けた。
・actionableな遺伝子異常に対する標的治療におけるPFS中央値は3.1ヵ月(95%信頼区間[CI]:1.1~5.8)、奏効率(ORR)は28.6%であった。とくに非小細胞がん患者においてPFSが良好な傾向がみられ、6例中4例がPR(部分奏効)であった。
・全体集団のOS中央値は24.3ヵ月(95%CI:20.2~30.9)であった。
・治療候補薬の推奨があった患者における分子標的治療を受けなかった理由としては、標準治療中の状態悪化が57.0%を占め、32.8%が標準治療中であった。

 水野氏は今回の結果について、初回全身治療時にCGPを受けた固形がん患者のうち、actionableな遺伝子異常に基づく分子標的治療を受けた患者の割合は7.3%であり、本研究実施期間中においては限定的であったが、ドライバー遺伝子陽性症例を除く非小細胞肺がん患者で比較的良好な結果が得られたことから、特定の背景を有する患者においてはCGP早期実施による利益が得られる可能性があるとまとめている。

 講演後の質疑応答において、司会を務めた京都大学の武藤 学氏は、今回の7.3%という結果にはCGPをCDxとして使用したケースは含まれず、治験的治療やCDxがカバーできない治療に進んだ症例が該当するという点に注意が必要と指摘。そのうえで、今後は治験へのアクセスのしやすさの向上、継続した対象者への治験提案、治験の数を増やすなどの方策を練るべきではないかとした。

 本試験に関しては、同時期に標準治療を受けた固形がん患者130例を登録した観察研究が並行して実施されており、今後対照群として比較解析を行うことが計画されている。また、本試験のサブスタディとして、CGPに対する十分な組織のない患者を対象としたUpfront Liquid study、費用対効果分析やQOL評価を行うためのアンケート調査も実施されている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【参考文献・参考サイトはこちら】

1)厚生労働省:第2回がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議(2019年3月8日)「資料3-4 治療効果に関するエビデンスレベル分類案」

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