がん罹患の40%・死亡の44%が予防できる可能性

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 米国におけるがん罹患の約40%とがん死亡の44%が、修正可能なリスク因子に起因していることが新たな研究で明らかになった。とくに喫煙、過体重、飲酒が主要なリスク因子であり、肺がんをはじめとする多くのがんに大きな影響を与えているという。A Cancer Journal for Clinicians誌オンライン版2024年7月11日号の報告。

 米国がん協会(ジョージア州・アトランタ)のFarhad Islami氏らは、2019年(COVID-19流行の影響を避けるため、この年に設定)に米国でがんと診断された30歳以上の成人を対象に、30のがん種について全体および潜在的に修正可能なリスク因子に起因する割合と死亡数を推定した。評価されたリスク因子には、喫煙(現在および過去)、受動喫煙、過体重、飲酒、赤肉および加工肉の摂取、果物や野菜の摂取不足、食物繊維およびカルシウムの摂取不足、運動不足、紫外線、そして7つの発がん性感染症が含まれた。がん罹患数と死亡数は全国をカバーするデータソース、全国調査によるリスク因子の有病率推定値、および公表された大規模なプールまたはメタアナリシスによるがんの関連相対リスクから得た。

 主な結果は以下のとおり。

・2019年における米国の30歳以上の成人における全がん罹患数(非メラノーマを除く)の40.0%(71万3,340/178万1,649例)、全がん死亡数の44.0%(26万2,120/59万5,737例)が評価されたリスク因子に起因すると推定された。
・全がんの罹患/死亡に関連するリスク因子の1位は喫煙(19.3%/28.5%)であり、2位は過体重(7.6%/7.3%)、3位は飲酒(5.4%/4.1%)であった。
・評価対象となった30種のがんのうち、19種類のがんは罹患数および死亡数の2分の1以上が検討された評価されたリスク因子に起因していた。
・リスク因子に起因するがんのうち、肺がんが罹患数(20万1,660例)および死亡数(12万2,740例)とも最多であり、罹患数は女性の乳がん(8万3,840例)、メラノーマ(8万2,710例)、大腸がん(7万8,440例)が続き、死亡数では大腸がん(2万5,800例)、肝がん(1万4,720例)、食道がん(1万3,600例)が続いた。

 著者らは「米国における多数のがん罹患および死亡は、潜在的に修正可能なリスク因子に起因しており、予防策を幅広く公平に実施することにより、がんの負担を大幅に軽減できる可能性がある。喫煙対策としての課税強化、禁煙支援プログラムの拡充、そして健康的な体重維持の推進などが有効だろう。さらに適切な飲酒制限、バランスの取れた食事、定期的な運動もがん予防に有効だ」としている。

(ケアネット 杉崎 真名)


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slami F, et al. CA Cancer J Clin. 2024 Jul 11. [Epub ahead of print]

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NCCNガイドライン推奨の分子標的薬、臨床的有用性は?/BMJ

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 精密医療に基づく腫瘍学(precision oncology)は、とくに進行性の治療抵抗性症例に対するがん治療を変革しつつあるが、多くの遺伝子変異の臨床的重要性は依然として不明とされる。米国・ハーバード大学医学大学院のAriadna Tibau氏らは、National Comprehensive Cancer Network(NCCN)が推奨する分子標的とゲノム標的がん治療薬を、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)の2つの枠組みを用いて評価し、固形がんに対するゲノムに基づく治療薬のうち、患者に高い臨床的有益性をもたらす可能性があるのは約8分の1で、約3分の1は有望ではあるが実質的な有益性は証明されていないことを示した。研究の詳細は、BMJ誌2024年8月20日号で報告された。

標的の有効性と治療薬の臨床的有益性を横断研究で評価

 研究グループは、NCCNが実臨床で推奨しているゲノム標的がん治療薬とその分子標的について、臨床的有益性と有効性を評価する目的で横断研究を行った(Kaiser Permanent Institute for Health Policy and Arnold Venturesなどの助成を受けた)。

 NCCNガイドラインが進行がんに対して推奨しているゲノム標的がん治療薬を対象とした。分子標的の有効性は、ESMO-Scale for Clinical Actionability of Molecular Targets(ESCAT、レベルI~Xの10段階、レベルが低いほど有効性のエビデンスが高度)を用いて評価し、ゲノム標的がん治療薬の臨床的有益性(効果、有害事象、生活の質のデータに基づく)の評価には、ESMO-Magnitude of Clinical Benefit Scale(ESMO-MCBS)を使用した。

 実質的な臨床的有益性(ESMO-MCBSのグレード4または5)を示し、ESCATカテゴリーのレベルIに該当する分子標的を有する薬剤を有益性の高いゲノムに基づくがん治療と判定した。また、ESMO-MCBSのグレードが3で、ESCATカテゴリーのレベルIに該当する分子標的を有する薬剤は、有望ではあるが有益性は証明されていないがん治療と判定した。

FDA承認は60%、第I/II相78%、単群試験76%

 50のドライバー変異を標的とする74のゲノム標的薬に関する411件の推奨について調査した。411件の推奨のうち、米国食品医薬品局(FDA)の承認を得ていたのは246件(60%)で、165件(40%)は適応外使用であった。

 薬剤クラスは、低分子の阻害薬が286件(70%)、免疫療法薬が66件(16%)、抗体製剤が37件(9%)、抗体薬物複合体が14件(3%)だった。がん種は、肺がんが83件(20%)、乳がんが49件(12%)、大腸がんが17件(4%)、前立腺がんが5件(1%)であった。

 ほとんどの推奨(346/411件[84%])は、さまざまな相の臨床試験に基づいていたが、16%(65/411件)は症例報告または前臨床研究のみに依存していた。多くの臨床試験は、第I相または第II相(271/346件[78%])であり、単群試験(262/346件[76%])が多かった。また、主要評価項目は、多くが全奏効率(271/346件[78%])であり、生存率は3%(12/346件)だった。

NCCNガイドラインは実臨床で重要な役割

 ESCATのレベルIは60%(246/411件)であり、レベルIIまたはIIIは35%(142/411件)、レベルIV~Xは6%(23/411件)であった。また、ESMO-MCBSのスコア化が可能であった267試験では、実質的な臨床的有益性(グレード4/5)を示したのはわずか12%(32/267試験)で、グレード3は45%(121/267試験)だった。

 これら2つの枠組みを組み合わせると、約8分の1(12%[32/267試験])の試験が高い有益性を、約3分の1(33%[88/267試験])は有望ではあるが証明されていない有益性を示した。また、NCCNガイドラインが、好ましいとして支持する118個の介入のうち、62個(53%)が高い有益性または有望ではあるが証明されていない有益性を有する治療に分類され、これらの治療はFDAの承認を得る可能性が高かった(61% vs.16%、p<0.001)。

 著者は、「このようにNCCNの推奨と期待される臨床的有益性との一致を確認することは、エビデンスベースのゲノムに基づく治療決定を促進するためにきわめて重要である」とし、「ESMO-MCBSやESCATのような有益性の評価の枠組みは、どのゲノム標的治療が最も質の高いエビデンスに裏付けられているかを見極めるのに役立つ」と述べ、「NCCNガイドラインは実臨床において重要な役割を果たしており、今後ともNCCNの推奨の改善に注力する必要がある」としている。

(医学ライター 菅野 守)


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Tibau A, et al. BMJ. 2024;386:e079126.

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高身長とがんリスク~東アジア人での関連

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 身長とがんリスクの関連が示唆されているが、ほとんどの研究は欧米人を対象としておりアジア人を対象とした研究は少ない。今回、中国・Fudan UniversityのYougen Wu氏らが中国人の前向きコホートで解析したところ、高身長ががん全体、肺がん、食道がん、乳がん、子宮頸がんのリスクと有意に関連していた。さらに、中国・日本・韓国のデータを用いたメンデルランダム化解析により、高身長が肺がんおよび胃がんのリスク因子である可能性が示唆された。Cancer Epidemiology誌2024年10月号に掲載。

 本研究では、中国のChina Kadoorie Biobank(CKB)前向きコホートのデータを用いて観察的解析を実施し、調整後のハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)をCox比例ハザードモデルを用いて推定した。また、CKB、日本のBiobank Japan、韓国のKorean Genome and Epidemiology Studyのデータを用いた2標本メンデルランダム化解析により身長とがんの因果関係を検討した。

 主な結果は以下のとおり。

・追跡期間中央値10.1年で2万2,731例にがんが発生した。
・観察的解析では、ボンフェローニ補正後、身長10cm増加当たりのHRは、がん全体で1.16(95%CI:1.14~1.19、p<0.001)、肺がんで1.18(同:1.12~1.24、p<0.001)、食道がんで1.21(同:1.12~1.30、p<0.001)、乳がんで1.41(同:1.31~1.53、p<0.001)、子宮頸がんで1.29(同:1.15~1.45、p<0.001)で、身長が高いとリスクが有意に上昇した。また、悪性リンパ腫で1.18(同:1.04~1.34、p=0.010)、大腸がんで1.09(同:1.02~1.16、p=0.010)、胃がんで1.07(同:1.00~1.14、p=0.044)で、リスク上昇が示唆された。
・メンデルランダム化解析では、遺伝的に予測される身長の1標準偏差(8.07cm)増加当たりのオッズ比は、肺がんで1.17(95%CI:1.02~1.35、p=0.0244)、胃がんで1.14(同:1.02~1.29、p=0.0233)で、高身長でリスク上昇が示唆された。

(ケアネット 金沢 浩子)


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Wu Y, et al. Cancer Epidemiol. 2024;92:102647.

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自己免疫疾患を有するがん患者、ICIによるirAEリスクは?

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 自己免疫疾患を有するがん患者では、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の投与によって免疫関連有害事象(irAE)が発現する割合は高いものの、これらは軽度で管理可能であり、がんへの反応性には影響がなかったことを、米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのMaria A. Lopez-Olivo氏らが明らかにした。European Journal of Cancer誌2024年8月号掲載の報告。

 自己免疫疾患を有するがん患者は、ICIのランダム化比較試験から除外されていることが多い。そこで研究グループは、自己免疫疾患の既往があり、ICIを投与されたがん患者を含む観察試験と非対照試験のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施し、新規イベントや自己免疫疾患の再燃を含むirAEの発現率、irAEによる入院・死亡などを調査した。

 研究グループは、5つの電子データベースを2023年11月まで検索した。研究の選択、データ収集、質の評価は2人の研究者によって独立して行われた。

 主な結果は以下のとおり。

・解析には、95件の研究から、がんおよび自己免疫疾患の既往を有する2万3,897例が組み込まれた。がん種で多かったのは肺がん(30.7%)、皮膚がん(15.7%)であった。
・自己免疫疾患のある患者は、自己免疫疾患のない患者と比較して、irAEの発現率が高かった(相対リスク:1.3、95%信頼区間[CI]:1.0~1.6)。
・すべてのirAEの統合発現率(自己免疫疾患の再燃または新規イベント)は61%(95%CI:54~68)で、自己免疫疾患の再燃は36%(95%CI:30~43)、新規のirAE発現は23%(95%CI:16~30)であった。
・自己免疫疾患が再燃した患者の半数はGrade3未満であり、乾癬/乾癬性関節炎(39%)、炎症性腸疾患(37%)、関節リウマチ(36%)の患者で多かった。
・irAEが発現した患者の32%は入院を必要とし、irAEの治療として72%にコルチコステロイドが用いられた。irAEによる死亡率は0.07%であった。
・自己免疫疾患のある患者とない患者の間で、ICIに対するがんの反応性に統計的な有意差は認められなかった。

 研究グループは「これらの結果から、ICIは自己免疫疾患を有するがん患者にも使用可能であることが示唆されるが、患者の3分の1以上が自己免疫疾患の再燃を経験したり、入院を必要としたりするため、注意深いモニタリングが必要である。これらの知見は、がん専門医がモニタリングと管理の戦略を改善し、ICI治療の利点を最大化しつつリスクを最小化するための重要な基盤となるものである」とまとめた。

(ケアネット 森 幸子)


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Lopez-Olivo MA, et al. Eur J Cancer. 2024;207:114148.

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がん患者の予後がコンサルトに与える影響~アンケート結果/日本腫瘍循環器学会

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 診療科横断的な治療アプローチの好例として、腫瘍循環器学が挙げられる。がん治療には、治療を遂行する腫瘍医、がん治療による心不全などの副作用に対応する他科の医師、この両者の連携が欠かせない。しかし、両者の“がん患者を救う”という目的は同じであっても、患者の予後を考えた際にどこまで対応するのが適切であるか、については意見が分かれるところである。実際に、がん患者の予後に対する両者の意識を明らかにした報告はなく、がん患者に対し“インターベンション治療などの積極的治療をどこまで行うべきなのか”、“どのタイミングで相談し合うか”などについて、現場ではお互いに頭を悩ませている可能性がある。

 そこで、志賀 太郎氏(がん研有明病院 腫瘍循環器・循環器内科/総合診療部長)が「JOCS創設7年目の今、腫瘍医、循環器医、それぞれの意識は~インターネットを用いた『余命期間と侵襲的循環器治療』に対するアンケート調査結果~」と題し、8月4、5日に開催された第7回日本腫瘍循環器学会学術集会にて、腫瘍医と循環器医の連携意識の差や今後の課題について報告した。

 本講演内で触れているアンケートは志賀氏を筆頭に大倉 裕二氏(新潟県立がんセンター新潟病院腫瘍循環器科)、草場 仁志氏(浜の町病院腫瘍内科 部長)、向井 幹夫氏(大阪がん循環器病予防センター総合健診/循環器病検診部 部長)が設問を作成し、CareNet.com会員医師1,000人(循環器医:500人、腫瘍医:500人)を対象として、2023年11月2~15日にインターネット調査したもの。

*呼吸器、消化器、乳腺外科、血液内科、腫瘍科に属する医師

「腫瘍循環器的治療の介入時、患者予後(余命)を意識する場面」に関するアンケート

<腫瘍医向け>
Q1:進行がん患者に対し、侵襲的な循環器治療を希望するか?
Q2:がんによる予後がどれくらいだとがん患者の循環器的介入を依頼するか?
Q3:カテーテル治療などの侵襲的治療を循環器医に依頼する上で重視していることは何か?

<循環器医向け>
Q1:進行がん患者に対する侵襲的な循環器治療の相談を受けた際、戸惑ったことはあるか?
Q2:がんによる予後がどのくらいだとがん患者に対する侵襲を伴う循環器的介入に積極的か?
Q3:カテーテル治療などの侵襲的治療を行う上で重視していることは何か?

<共通質問>
Q4:コンサルテーションをする上で注意していることは何か?

 アンケート回答の結果は以下のとおり。

・アンケート回答者の年齢別割合は、循環器医(30代:34%、40代:29%、50代:24%、60代:13%)、腫瘍医(30代:30%、40代:29%、50代:26%、60代:14%)で、共に30代が最も多かった。
・腫瘍医の診療科別割合は、消化器科:49%、呼吸器科:21%、乳腺外科:20%、血液内科:8%、腫瘍科:2%であり、呼吸器科は40代、乳腺外科は50代の回答者が多い傾向であった。
・進行がん患者への侵襲的循環器治療について、腫瘍医の33%が希望すると回答し、こうした侵襲的治療の依頼に循環器医の83%が戸惑った経験があると回答した。
・がんによる予後(余命)期間と侵襲的循環器治療の介入について、腫瘍医は「半年から1年未満の期間があれば治療介入を依頼する」と回答した医師が、循環器医は「1~3年未満の期間があれば治療介入する」と回答した医師が最も多かった。
・侵襲的循環器治療を行う上で重視することは、腫瘍医、循環器医いずれにおいても「患者/家族の希望」「がんによる予後(余命)」という回答が多く、一方で「ガイドライン」を重視するという回答は最も少なかった。
・腫瘍循環器領域を問わず、コンサルテーションをするうえで最も注意している点については「医師同志のコミュニケーション方法(対面、電話、カルテ内)」と回答した医師がいずれにおいても最も多かった。また、腫瘍医は「専門家の意向を尊重する」という回答が上位であった。

 この結果を踏まえ、同氏は「余命期間と侵襲的循環器治療に対する腫瘍医と循環器医の意識に違いがあり、腫瘍医は半年以上の予後が期待される場合に侵襲的な循環器治療介入を考慮(依頼)する傾向にあることが明らかになった。こうした違いを理解しつつ連携を深めていくことが肝要」とし、「この差を埋めていく必要性があるのかは不明であるが、このような差があることを伝えていくことにも力を入れていきたい」としている。

(ケアネット 土井 舞子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

日本腫瘍循環器学会

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乳がん遺伝子パネル検査の前向き研究、推奨治療到達率は?(REIWA study)/日本乳癌学会

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 転移・再発乳がんにおけるがん遺伝子パネル検査の有用性を評価する前向き観察研究であるREIWA study(JBCRG C-07)の中間解析結果をもとに、乳がん治療におけるゲノム医療の現状や問題点、今後の展望を東北大学病院の多田 寛氏が第32回日本乳癌学会学術総会のシンポジウムで発表した。

 標準治療が終了した進行・再発乳がん患者を対象に、2019年6月からがん遺伝子パネル検査が保険で利用できるようになった。本研究では、FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル(F1CDx)およびFoundationOne Liquid CDx がんゲノムプロファイル(F1LCDx)を行うことが決定したde novo StageIVまたは転移・再発乳がん患者を2020年1月~2023年7月に前向きに登録し、変異情報、変異にマッチした治療の情報、後治療、予後などの項目を現在も収集している。主要評価項目は遺伝子変異に対応する治療(推奨治療)が存在した集団における推奨治療が施行された割合、および推奨された治験や臨床試験に参加した割合であった。本シンポジウムでは、第2回の中間解析時点の結果やがんゲノム情報管理センター(C-CAT)の乳がん症例データをもとに、転移・再発乳がんに対するゲノム医療の現状と問題点、今後の展望についての考察が示された。

 主な内容は以下のとおり。

・解析対象は576例で、Luminalタイプが310例(53.8%)、HER2タイプが93例(16.1%)、トリプルネガティブタイプが173例(30.0%)であった。年齢中央値は56歳(50歳以上が70.1%)、再発は74.1%、再発後の治療レジメン数中央値は3レジメン、F1CDxが選択されたのは85.2%であった。F1LCDxが選択された群では50歳以上の割合が多く、再発後の治療レジメン数も多かった。
・推奨治療が提示された割合は61.0%(350/574例)で、複数の推奨治療が提示されたのは23例であった。
・全体において、推奨治療(主治医判定)が実際に施行されたのは18.1%(104/574例)であった。
・HER2タイプに対する抗HER2療法など既知のものを除くと、治療到達率は13.8%(78/574例)であった。F1CDx群では14.1%(69/489例)、F1LCDx群では11.8%(10/85例)であった(p=0.543)。
・主要評価項目である推奨治療が存在した集団における推奨治療が施行された割合は29.7%(104/350例)、推奨された治験や臨床試験に参加した割合は4.0%(14/350例)であった。
・治験以外の推奨治療の内訳(n=79)は、免疫チェックポイント阻害薬が29.1%、mTOR阻害薬が21.6%、抗HER2療法が20.2%、PARP阻害薬が13.9%、NTRK阻害薬が5.1%、CDK4/6阻害薬が3.8%、SERDが2.5%、その他が2.5%であった。
・F1LCDxを選択した理由(n=85)は、「組織の保存期間が長い」が49.4%、「生検による組織検体の採取が困難」が32.9%、「組織標本は得られたが解析が困難であった」が24.7%、「遺伝子変化の状態をよりよく理解することができる」が8.2%であった。
・F1CDx/F1LCDx後の治療の選択理由は、「actionableな遺伝子変異がなく承認薬を施行した」が1stラインでは26%、2ndラインでは19.5%、「actionableな遺伝子変異があり対応する治療を施行した」が13.5%/4.3%、「actionableな遺伝子変異があり対応する治験・臨床試験に参加した」が1.9%/1%、「actionableな遺伝子変異があったが対応しない承認薬を施行した」が25.7%/20%であった。

 多田氏は、C-CATについては、「遺伝子変異状況や推奨治療の予測にはC-CATのような大規模なデータベースが有用と考えられる。C-CATの乳がん症例における入力ベースの推奨治療到達率は9.7%であったが、推奨治療薬の薬剤名の未入力が多く、また標的治療に殺細胞性抗がん剤が入力されているなど、入力内容の不十分さが散見される」と見解を示した。

 最後に、「REIWA studyは治療歴や予後情報などがクエリ作業のもとに正確に入力されており、転移・再発乳がんにおけるゲノム医療の貴重なデータとなる。今後、全生存期間や個々の標的治療の治療効果を含めた副次評価項目の解析を行い、がん遺伝子パネルの有用性を正確に評価していく」とまとめた。

(ケアネット 森 幸子)


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乳がん関連リンパ浮腫、日常生活の中のリスク因子

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 乳がん治療後のリンパ浮腫を防ぐために、患者には日常生活における感染や外傷などのリスクを避けることが推奨されている。一方で日常生活の中のリスク因子が乳がん関連リンパ浮腫に及ぼす影響を検討したデータは不足している。米国・ミズーリ大学カンザスシティ校のMei Rosemary Fu氏らは、日常生活におけるリスクの発生状況および乳がん関連リンパ浮腫への影響を調べることを目的とした横断研究を実施し、結果をAnnals of Surgical Oncology誌オンライン版2024年8月1日号に報告した。

 本研究は、米国都市部のがんセンターで登録の3ヵ月以上前に急性期治療(手術、放射線治療、化学療法)を完了しており、転移、再発、またはリンパ系疾患の既往のない21歳以上の女性を対象に実施された。リンパ浮腫リスク軽減行動チェックリスト(The Lymphedema Risk-Reduction Behavior Checklist)を用いて、日常生活における11のリスク因子(感染症、切り傷/引っかき傷、日焼け、油はねまたは蒸気による火傷、虫刺され、ペットによる引っかき傷、爪のキューティクルのカット、重い荷物の運搬/持ち上げ、ショルダーバッグの持ち運び、食料品の持ち運び、ウェイトリフティング)の発生状況を評価。乳がん関連リンパ浮腫への影響を明らかにするために、記述分析、回帰分析、および因子分析を実施した。

 主な結果は以下のとおり。

・567例のデータが収集・解析され、23.46%が乳がん関連リンパ浮腫と診断された。全体の52.73%は5つ超のリスク因子を経験していた。
・感染症(オッズ比[OR]:2.58、95%信頼区間[CI]:1.95~3.42)、切り傷/引っかき傷(2.65、1.97~3.56)、日焼け(1.89、1.39~3.56)、油はねまたは蒸気による火傷(2.08、1.53~3.83)、虫刺され(1.59、1.18~2.13)は乳がん関連リンパ浮腫と有意に関連していた。
・日常生活におけるリスク因子は、皮膚外傷と物の持ち運びに関連する要因に集約され、皮膚外傷リスクは乳がん関連リンパ浮腫と有意に関連していた(B=0.539、z=3.926、OR:1.714、95%CI:1.312~2.250、p<0.001)。
・皮膚外傷リスクが3つ、4つ、または5つある場合、乳がん関連リンパ浮腫の発症オッズはそれぞれ4.31倍、5.14倍、6.94倍に大幅に増加した。
・物の持ち運び関連のリスクは、乳がん関連リンパ浮腫の発症に有意な影響も増分的な影響も与えていなかった。

 著者らは、52.73%の人が5つを超えるリスク因子を経験していることを考慮すると、これらのリスクを完全に回避するのは難しいとし、“乳がん関連リンパ浮腫の日常生活リスクを最小限に抑えるための戦略”として、「日焼けを防ぐために日焼け止め(SPF30以上)を塗るか、長袖の服を着ましょう」「発疹、水疱、赤み、腕の熱感の増加、痛みなどに気づいた場合は、すぐに医師に相談しましょう」など16項目を提示している。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【原著論文はこちら】

Fu MR, et al. Ann Surg Oncol. 2024 Aug 1. [Epub ahead of print]

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両側乳房切除と乳がん死亡率/JAMA Oncol

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 片側乳がん患者に対する両側乳房切除の乳がん死亡率におけるベネフィットは示されていない。今回、カナダ・Women’s College HospitalのVasily Giannakeas氏らによるコホート研究において、両側乳房切除で対側乳がんリスクは有意に低下したが乳がん死亡率は低下しなかったことが報告された。JAMA Oncology誌オンライン版2024年7月25日号に掲載。

 このコホート研究では、SEERプログラムの登録データベースから、2000~19年に診断されたStage0~III片側乳がん(浸潤性乳がんおよび非浸潤性乳がん)の女性を同定し、手術の種類(乳房部分切除、片側乳房切除、両側乳房切除)によりマッチングを行い、対側乳がんおよび乳がん死亡率を20年間追跡した。

 主な結果は以下のとおり。

・研究サンプルは、片側乳がん女性66万1,270例(平均年齢:58.7歳)で、マッチング後、3つの治療群はそれぞれ3万6,028例であった。
・20年間の追跡期間中、対側乳がんが認められたのは乳房部分切除群で766例、片側乳房切除群で728例、両側乳房切除群で97例だった。20年対側乳がんリスクは、乳房部分切除群・片側乳房切除群で6.9%(95%信頼区間[CI]:6.1~7.9)であった。
・累積乳がん死亡率は、対側乳がん発症後15年で32.1%、対側乳がんを発症しなかった患者では14.5%であった(ハザード比:4.00、95%CI:3.52~4.54)。
・乳がん死亡は、乳房部分切除群で3,077例(8.54%)、片側乳房切除群で3,269例(9.07%)、両側乳房切除群で3,062例(8.50%)であった。

 この研究は、対側乳がんを発症すると乳がん死亡リスクが大幅に増加することを示している。一方、両側乳房切除を受けた患者は対側乳がんのリスクが大幅に減少したが、乳房部分切除または片側乳房切除を受けた患者と乳がん死亡率が同程度だった。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Giannakeas V, et al. JAMA Oncol. 2024:e242212.[Epub ahead of print]

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脳転移/髄膜がん腫症を伴うHER2+乳がんへのT-DXd、長期の有効性を評価(ROSET-BM)/日本乳癌学会

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 脳転移や髄膜転移を有するHER2+乳がんに対するトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)の長期の有効性を検討したわが国のレトロスペクティブチャートレビュー研究であるROSET-BM試験において、前回の発表から追跡期間を1年延長したデータ(データカットオフ:2022月10月31日)を、北海道がんセンターの山本 貢氏が第32回日本乳癌学会学術総会で発表した。

 本試験には2020年5月25日~2021年4月30日にT-DXd治療を開始した患者が登録された。評価項目は、全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)、治療成功期間(TTF)で、さらにOSと関連する背景因子を探索するために、Cox比例ハザードモデルを用いて単変量解析および多変量解析を実施した。対象は20歳以上の脳転移または髄膜がん腫症(LMC)を有するHER2+乳がん患者で、臨床試験でT-DXd治療を受けた患者は除外した。

 主な結果は以下のとおり。

・国内62施設で適格基準を満たした104例を解析対象とした。前治療は、2レジメン以下が24%、3レジメン以上が76%、中央値は4レジメンであった。また、PSは2以上が約15%、脳転移は症候性が30.8%であった。
・追跡期間中央値は20.4ヵ月(前回:11.2ヵ月)であった。
・OS中央値は前回と同様に未達であった。1年OS率は74.8%(前回:74.9%)、2年OS率は56.0%(前回:NA)であった。サブグループ解析では、Analytical active脳転移群のOS中央値は27.0ヵ月(95%信頼区間[CI]:16.4~NA)で、Analytical stable脳転移群およびLMC群のOSは中央値に達しなかった(2年OS率:Analytical stable 脳転移群71.6%、LMC群61.6%)。
・PFS中央値は14.6ヵ月(前回:16.1ヵ月)、TTF中央値は9.3ヵ月(前回:9.7ヵ月)と若干減少した。
・ILDによるT-DXdの中止は23.1%(前回:18.3%)と若干増加した。中止までの期間の中央値は5.3ヵ月(95%CI:4.0~8.8)であった。
・多変量解析の結果、OSと有意に相関する背景因子はみつからなかった。

 山本氏は「今回の更新データの解析から、前治療の多い脳転移や髄膜転移のあるHER2+乳がん患者に対するT-DXdの長期の有効性が証明された」と結論した。

(ケアネット 金沢 浩子)


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HR+/HER2-早期乳がんにおける早期再発のリスク因子(WJOG15721B)/日本乳癌学会

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 HR+/HER2-早期乳がん患者における早期再発のリスク因子を探索したWJOG15721B試験の結果、若年、静脈侵襲、病理学的浸潤径、病理学的リンパ節転移の個数などが独立したリスク因子として同定されたことを、国立がん研究センター東病院の綿貫 瑠璃奈氏が第32回日本乳癌学会学術総会で発表した。

 HR+/HER2-乳がんで、術後内分泌療法開始後3年以内の早期に再発した患者の予後は不良であることが報告されている。monarchE試験では再発高リスクのHR+/HER2乳がん患者において内分泌療法にアベマシクリブを加えることで有意に無浸潤疾患生存期間(iDFS)が延長したことが示されている。monarchE試験の適格基準を満たす患者は極めて再発高リスクであり、この基準を満たさない早期再発の高リスク集団が存在する可能性がある。そこで研究グループは、HR+/HER2-乳がんの臨床病理学的因子や周術期治療と術後3年以内の再発との関連を調べ、早期再発のリスク因子を同定することを目的として後方視的多施設共同観察研究を実施した。

 対象は、StageII~IIIのHR+/HER2-乳がんと診断されて手術を受け、2012年1月1日~2017年1月1日に術後内分泌療法を開始した患者であった。術前/術後化学療法の実施の有無については問わなかった。主要評価項目は3年のiDFS割合、副次評価項目はiDFS、全生存期間、3年の無遠隔転移生存(DRFS)割合、DRFSであった。

 予後因子の検討のため、多変量Cox比例ハザード回帰モデルにおいて臨床病理学的因子を説明変数として用いた。iDFSの予測モデルを作成するため、説明変数の有意水準を0.05としたステップワイズ法を用いた多変量Cox比例ハザード回帰モデルによってノモグラムを作成した。

 主な結果は以下のとおり。

●2,732例(年齢中央値:51歳[範囲:23~96])が解析された。StageIIAが1,841例(67.4%)、StageIIBが529例(19.4%)、StageIIIが362例(13.3%)であった。
●術前化学療法を受けたのは23.0%、術後化学療法を受けたのは32.5%で、治療薬は90%超がアントラサイクリン系であった。
●主要評価項目である3年iDFS割合は92.1%(95%信頼区間[CI]:91.1~93.1)であった(追跡期間中央値:7.1年)。
●iDFSに対する多変量解析により、早期再発に関連する統計学的に有意な因子として6つの因子が明らかになった。ハザード(HR)は以下のとおり(括弧内は95%CI)。
【年齢】
・20~39歳vs.40~69歳 HR:1.46(1.09~1.95)、p=0.011
・70歳以上vs.40~69歳 HR:1.73(1.32~2.26)、p<0.001
【核グレード】
・グレード2 vs.グレード1 HR:1.66(1.31~2.11)、p<0.001
・グレード3 vs.グレード1 HR:1.64(1.24~2.19)、p=0.001
【静脈侵襲】
・ありvs.なし HR:1.36(1.04~1.78)、p=0.027
【浸潤径】
・2以上5cm未満vs.2cm未満 HR:1.75(1.35~2.27)、p<0.001
・5cm以上vs.2cm未満 HR:2.07(1.48~2.89)、p<0.001
【リンパ節転移個数】
・1~3 vs.0 HR:1.16(0.92~1.46)、p=0.201
・4以上vs.0 HR:1.70(1.29~2.24)、p<0.001
【術前化学療法歴】
・ありvs.なし HR:2.41(1.90~3.06)、p<0.001。
●両側乳がん、ER、PgR、HER2、Ki-67、リンパ管侵襲は統計学的に有意な因子ではなかった。
●同定された6つの因子で3年および5年iDFS割合を予測するノモグラムを作成したところ、とくに40~69歳と比較して20~39歳は予後が不良であるとともに、70歳以上でも予後が不良であった。術前化学療法を行った患者はそれでもなお予後が不良であった。
●ノモグラムの総ポイントに基づきスコアごとに層別化したiDFSの曲線を作成し、ログランク検定とCox比例ハザードモデルで評価した結果、総ポイントが高いほど予後が不良であった。ノモグラムのC-indexは0.68であった。

 これらの結果より、綿貫氏は「若年、核グレード、静脈浸潤、病理学的浸潤径、病理学的リンパ節転移の個数がHR+/HER2-乳がん患者の早期再発の独立したリスク因子であることが明らかになった。また、臨床医によって術前化学療法が選択された患者は、術前化学療法を行ってもなお早期再発のリスクが高いと考えられる。今回同定された因子を有するHR+/HER2-乳がん患者に対してアベマシクリブが有効かについてはさらなる検証が必要である」とまとめた。

(ケアネット 森 幸子)


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