早期乳がん術前・術後化療にペルツズマブ上乗せ、長期有効性は?(PEONY試験)

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 HER2陽性の早期または局所進行を有するアジア人乳がん患者に対して、術前および術後化学療法にペルツズマブを上乗せした第III相PEONY試験の最終解析の結果、5年間の長期有効性が認められたことを、中国・Fudan University Shanghai Cancer CenterのLiang Huang氏らが明らかにした。Nature Communications誌2024年3月9日号掲載の報告。

・対象:早期または局所進行乳がんのアジア人女性329例
・試験群:ドセタキセル+トラスツズマブ+ペルツズマブ(4サイクル)→手術→FEC療法(3サイクル)→トラスツズマブ+ペルツズマブ(13サイクル)【ペルツズマブ群:219例】
・対照群:ドセタキセル+トラスツズマブ+プラセボ(4サイクル)→手術→FEC療法(3サイクル)→トラスツズマブ+プラセボ(13サイクル)【プラセボ群:110例】

 これまでの本試験の解析では、主要評価項目である盲検下独立中央判定(BICR)による病理学的完全奏効(pCR)は、ペルツズマブ群39.3%、プラセボ群21.8%であり、群間差は17.5%(95%信頼区間[CI]:6.9~28.0%、p=0.001)で、統計学的に有意な差を示したことが報告されている。今回は、副次評価項目である最終的な長期有効性(無イベント生存期間[EFS]、無病生存期間[DFS]、全生存期間[OS])および安全性が報告された。

 主な結果は以下のとおり。

・5年EFS率は、ペルツズマブ群84.8%、プラセボ群73.7%で有意差を認めた(群間差:11.1%、95%CI:1.2~21.0、p=0.027)。
・5年DFS率はそれぞれ86.0%と75.0%、群間差は11.0%(95%CI:1.2~20.7、p=0.028)で有意差を認めた。
・5年OS率では有意差が認められなかった(ペルツズマブ群93.9%、プラセボ群90.0%、群間差3.9%[95%CI:2.9~10.7、p=0.262])。
・術後の抗HER2療法中に発現したGrade3以上の有害事象(AE)の割合は、ペルツズマブ群11.3%、プラセボ群13.1%であった。AEによる死亡はそれぞれ0.9%、1.8%であった。

(ケアネット 森 幸子)


【原著論文はこちら】

Huang L, et al. Nat Commun. 2024;15:2153.

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がん罹患数が著増、がん死は減少~英国の25年/BMJ

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 英国の年齢35~69歳の集団では、1993~2018年の25年間にがん罹患数が大きく増加したのに対し、がんによる死亡率は減少しており、この減少にはがんの予防(喫煙防止策、禁煙プログラムなど)と早期発見(検診プログラムなど)の成功とともに、診断検査の改善やより有効性の高い治療法の開発が寄与している可能性があることが、英国・Cancer Research UKのJon Shelton氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2024年3月13日号に掲載された。

23部位のがんの後ろ向き調査

 研究グループは、1993~2018年の英国の年齢35~69歳の集団における、23の部位のがんの診断数および死亡数を後ろ向きに調査した(特定の研究助成は受けていない)。

 解析には、国家統計局、ウェールズ公衆衛生局、スコットランド公衆衛生局、Northern Ireland Cancer Registry、イングランド国民保健サービスなどのデータを用いた。

 主要アウトカムは、がんの年齢調整罹患率と年齢調整死亡率の経時的変化とした。

前立腺がんと乳がんが増加、ほかは安定的に推移

 35~69歳の年齢層におけるがん罹患数は、男性では1993年の5万5,014例から2018年には8万6,297例へと57%増加し、女性では6万187例から8万8,970例へと48%増加しており、年齢調整罹患率は男女とも年平均で0.8%上昇していた。

 この罹患数の増加は、主に前立腺がん(男性)と乳がん(女性)の増加によるものだった。これら2つの部位を除けば、他のすべてのがんを合わせた年齢調整罹患率は比較的安定的に推移していた。

 肺や喉頭など多くの部位のがんの罹患率が低下しており、これは英国全体の喫煙率の低下に牽引されている可能性が高いと推察された。一方、子宮や腎臓などのがんの罹患率の増加を認めたが、これは過体重/肥満などのリスク因子の保有率が上昇した結果と考えられた。

 また、罹患数の少ない一般的でないがんの傾向については、たとえば悪性黒色腫(年齢調整年間変化率:男性4.15%、女性3.48%)、肝がん(4.68%、3.87%)、口腔がん(3.37%、3.29%)、腎がん(2.65%、2.87%)などの罹患率の増加が顕著であった。

男女とも胃がん死が著明に減少

 25年間のがんによる死亡数は、男性では1993年の3万2,878例から2018年には2万6,322例へと20%減少し、女性では2万8,516例から2万3,719例へと17%減少しており、年齢調整死亡率はすべてのがんを合わせて、男性で37%(年平均で-2.0%)低下し、女性で33%(-1.6%)低下していた。

 死亡率が最も低下したのは、男性では胃がん(年齢調整年間変化率:-5.13%)、中皮腫(-4.17%)、膀胱がん(-3.24%)であり、女性では胃がん(-4.23%)、子宮頸がん(-3.58%)、非ホジキンリンパ腫(-3.24%)だった。罹患率と死亡率の変化の多くは、変化の大きさが比較的小さい場合でも統計学的に有意であった。

 著者は、「喫煙以外のリスク因子の増加が、罹患数の少ない特定のがんの罹患率増加の原因と考えられる」「組織的な集団検診プログラムは、がん罹患率の増加をもたらしたが、英国全体のがん死亡率の減少にも寄与した可能性がある」「この解析の結果は、新型コロナウイルス感染症の影響を含めて、がんの罹患率およびアウトカムの今後10年間の評価基準となるだろう」としている。

(医学ライター 菅野 守)


【原著論文はこちら】

Shelton J, et al. BMJ. 2024;384:e076962.

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BRCA1/2変異陽性者へのMRIサーベイランスで乳がん死亡率は減少するか/JAMA Oncol

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 BRCA1またはBRCA2変異陽性で、MRIサーベイランスプログラムに参加した女性と参加しなかった女性における乳がん死亡率を比較した前向きコホート研究の結果を、ポーランド・Pomeranian Medical UniversityのJan Lubinski氏らがJAMA Oncology誌オンライン版2024年2月29日号で報告した。

 BRCA1またはBRCA2変異陽性の女性が11ヵ国59施設で登録された。参加者は、1995~2015年にベースライン調査票に記入し、2年ごとの追跡調査でスクリーニング歴、がん発症の有無、治療歴や健康状態について記録。登録前に乳がん診断、両側乳房切除、MRIスクリーニング検査を受けている場合は除外された。参加者は、30(またはベースラインの質問票の日付のどちらか遅い方)~75歳(または乳がんによる死亡)まで追跡調査され、データ解析は2023年1月1日~7月31日に行われた。

 Cox比例ハザードモデルを用いて、MRIサーベイランスなしの場合と比較したMRIサーベイランスによる乳がん死亡率のハザード比(HR)と95%信頼区間[CI]を、時間依存性解析により推定した。

 主な結果は以下のとおり。

・計2,488人(BRCA1変異陽性:2,004人、BRCA2変異陽性:484人)の女性(試験開始時の平均年齢:41.2[30~69]歳)が解析に組み入れられた。
・参加者のうち、1,756人(70.6%)が少なくとも1回のMRIスクリーニング検査を受け、732人(29.4%)は受けなかった。
・1,756人における平均MRIスクリーニング検査回数は4.7[1~16]回で、2回以上の検査を受けた1,365人における検査間の平均間隔は0.95[0.1~6.0]年であった。
・平均追跡期間9.2[0.1~24.5]年において、344人(13.8%)が乳がんを発症し、35人(1.4%)が乳がんにより死亡した。
・MRIサーベイランスへの参加と関連した乳がん死亡率の年齢調整HRは、BRCA1変異陽性者では0.20(95%CI:0.10~0.43、p<0.001)、BRCA2変異陽性者では0.87(95%CI:0.10~17.25、p=0.93)であった。

 著者らは、「BRCA1変異陽性の女性において、MRIサーベイランスは乳がん死亡率の有意な低下と関連することが示唆された。BRCA2変異陽性の女性においても同様のベネフィットが得られるかについては、さらなる研究が必要」と結論付けている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【原著論文はこちら】

Lubinski J, et al. JAMA Oncol. 2024:e236944. [Epub ahead of print]

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ICIによる心臓irAE発症タイミングと危険因子~国内RWDより/日本循環器学会

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 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)とは、ご存じのとおり、近年注目されているがん薬物療法で、T細胞活性を増強することによって抗腫瘍効果をもたらし、多くのがん患者の予後を改善させている。しかし、副作用として心筋炎や致死性不整脈など循環器領域の免疫関連有害事象(irAE)の報告も散見される。そこで、稗田 道成氏(九州大学医学部 第一内科 血液・腫瘍・心血管内科)らがLIFE Study1)のデータベースを基に心臓irAEの発生率を調査し、3月8~10日に開催された第88回日本循環器学会学術集会Late Breaking Cohort Studies2において報告した。

 稗田氏らは、大規模なリアルワールドデータを利用することで、心臓irAEを起こしやすい患者タイプ、発症タイミング、リスク因子を明らかにするため、LIFE Studyのデータベースを基にICI治療を受けた2,810例の解析を行い、実臨床で比較的頻度が高い心筋炎、心膜炎、死亡率の高い劇症型心筋炎や致死性不整脈の発症状況を調査した。

 解析には、国内承認されているICIの6剤(抗PD-1抗体[ニボルマブ、ペムブロリズマブ]、抗PD-L1抗体[アテゾリズマブ、デュルバルマブ、アベルマブ]、抗CTLA-4抗体[イピリムマブ]の投与患者が含まれた。

 主な結果は以下のとおり。

・LIFE StudyデータベースからICI治療を受けた2,810例を抽出後、心臓irAEと診断された124例を同定した(ICI治療開始から心臓irAE発症までの期間 3ヵ月未満:69例、3ヵ月以上:55例)。
・124例の平均年齢±SDは70.2±8.0歳、女性は39例(31.5%)であった。
・全心臓irAEの発症率は4.41%で、その発生率は100人年当たり2.02人だった。
・心臓irAEの主な病態として、心膜炎(2.17%)、心室頻拍(1.14%)、心筋炎(0.78%)、心室細動(0.32%)が挙げられた。
・3ヵ月未満で心臓irAEを発症したのは69例(56%)で、その割合はICI治療患者の2.46%、発生率は100人年当たり10.16人であった。
・多重ロジスティック回帰分析の結果、不整脈、慢性心不全、がん転移の有無が心臓irAE発生の独立した危険因子であることが示唆された。また、年齢が高齢になればなるほど心臓irAEのリスクは低下することが判明した。

 同氏は「本解析で明らかになった心臓irAEの発生率は既報の海外データと類似する結果2,3)であったが、日本人の大規模なリアルワールドデータを活用することで、心臓irAEの発生ならびにICI治療患者のリスク因子を実証することができた」とコメントした。

(ケアネット 土井 舞子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

1)九州大学:LIFE Study

2)Salem JE, et al. Lancet Oncol. 2018;19:1579-1589.

3)Dolladille C, et al. Eur Heart J. 2021;42:4964-4977.

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男性乳がん患者、乳がん特異的死亡リスクは?

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 StageI~IIIのホルモン受容体(HR)陽性の男性乳がん患者における乳がん特異的死亡リスクを調査した結果、そのリスクは少なくとも20年間持続することを、アルゼンチン・Grupo Oncologico Cooperativo del SurのJulieta Leone氏らが明らかにした。JAMA Oncology誌オンライン版2024年2月29日号掲載の報告。

 研究グループは、米国国立がん研究所(NCI)のSurveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)の集団ベースのデータを用いて、1990~2008年に乳がんと診断された男性を対象とした観察コホート研究を実施した。累積発生関数を用いて、乳がん特異的死亡および乳がん非特異的死亡の累積リスクに関するベースライン時の変数を推定した。Fine-Gray回帰を用いてあらかじめ選択した変数と乳がん特異的死亡との関連を評価した。

 主な結果は以下のとおり。

・解析にはStageI~III、HR陽性の男性乳がん患者2,836例が組み込まれた。診断時の年齢中央値は67歳(四分位範囲:57~76)、追跡期間中央値は15.41年(同:12.08~18.67)であった。
・乳がん特異的死亡の20年間の累積リスクは、StageIで12.4%、StageIIで26.2%、StageIIIで46.0%であった。
・乳がん特異的死亡リスクのピークは二峰性で、N3で4年後、StageIIIで11年後に認められた。
・診断から5年生存した患者において、乳がん特異的死亡リスクが高かったのは、64歳以上よりも50歳未満、グレード1よりもグレード2または3/4、StageIよりもIIまたはIIIであった。

(ケアネット 森 幸子)


【原著論文はこちら】

Leone J, et al. JAMA Oncol. 2024 Feb 29. [Epub ahead of print]

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de novo転移乳がん、治療を受けない場合の生存期間

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 新規に転移のある乳がん(dnMBC)と診断され、その後治療を受けなかった患者の全生存期間(OS)中央値は2.5ヵ月と、1回以上治療を受けた患者の36.4ヵ月に比べて有意に短かったことが、米国・Duke University Medical CenterのJennifer K. Plichta氏らの研究でわかった。Breast Cancer Research and Treatment誌オンライン版2024年3月5日号に掲載。

 本研究では、2010~16年における成人dnMBC患者を米国・National Cancer Databaseから抽出し、1回以上治療受けた患者(治療あり群)と理由にかかわらず治療を受けなかった患者(治療なし群)に層別化した。OSはKaplan-Meier法を用いて推定し、OSに関連する因子はCox比例ハザードモデルを用いて評価した。

 主な結果は以下のとおり。

・5万3,240例のdnMBC患者のうち、治療ありが92.1%、治療なしが7.9%だった。
・治療なし群は、年齢が高く(中央値:68歳vs.61歳、p<0.001)、合併症スコアが高く(p<0.001)、トリプルネガティブの割合が高く(17.8% vs.12.6%)、疾病負荷が高かった(転移部位2ヵ所以上:未治療38.2% vs.既治療29.2%、p<0.001)。
・OS中央値は治療あり群が36.4ヵ月、治療なし群が2.5ヵ月であった(p<0.001)。
・治療なし群のOS悪化に関連する因子は調整後、高齢、高い合併症スコア、高い腫瘍悪性度、トリプルネガティブ(vs.HR+/HER2-)が挙げられた(すべてp<0.05)。

 本研究の結果、治療を受けなかったdnMBC患者は、高齢で、合併症があり、臨床的にアグレッシブながんが多く、治療なし患者の予後は治療あり患者と同様、選択された患者および疾患特性と関連していた。著者らは「治療しなかったdnMBCの予後は悲惨」としている。

(ケアネット 金沢 浩子)


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Plichta JK, et al. Breast Cancer Res Treat. 2024 Mar 5. [Epub ahead of print]

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カペシタビンによる手足症候群は外用ジクロフェナクで予防?/JCO

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 カペシタビンは、乳がんや消化管がんの治療に用いられるが、頻度の高い副作用の1つに手足症候群があり、減量が必要となることがある。ソラフェニブによる手足症候群の予防には尿素クリームが有用とされているが、カペシタビンによる手足症候群の予防への有用性は明らかになっていない。また、セレコキシブは手足症候群の予防効果があるが長期連用には副作用の懸念が存在する。そこで、全インド医科大学のAkhil Santhosh氏らが、外用ジクロフェナクの手足症候群予防効果を検証する第III相無作為化比較試験を実施した。その結果、外用ジクロフェナクはプラセボと比較して、カペシタビンによる手足症候群を有意に抑制することが示された。本研究結果は、Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2024年2月27日号で報告された。

 本研究は、カペシタビンを用いた治療を受ける乳がんまたは消化管がん患者264例を対象とした。対象患者をジクロフェナク群(1%ジクロフェナクNaゲル1gを1日2回、131例)、プラセボ群(133例)に1対1の割合で無作為に割り付け、12週間または手足症候群の発現まで塗布した。主要評価項目はGrade2/3の手足症候群の発現率、副次評価項目は全Gradeの手足症候群の発現率、手足症候群によりカペシタビンの減量に至った患者の割合などであった。

 主な結果は以下のとおり。

・Grade2/3の手足症候群はプラセボ群で15.0%に発現したのに対し、ジクロフェナク群では3.8%と有意に低率であった(絶対リスク差:11.2%、95%信頼区間[CI]:4.3~18.1、p=0.003)。
・全Gradeの手足症候群はプラセボ群で18.1%に発現したのに対し、ジクロフェナク群では6.1%と有意に低率であった(絶対リスク差:11.9%、95%CI:4.1~19.6、p=0.002)。
・手足症候群によりカペシタビンの減量に至った患者の割合はプラセボ群13.5%に対し、ジクロフェナク群では3.8%と低率であった(絶対リスク差:9.7%、95%CI:3.0~16.4、p=0.005)。

(ケアネット 佐藤 亮)


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Santhosh A, et al. J Clin Oncol. 2024 Feb 27. [Epub ahead of print]

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日本の乳がんの特性・治療・予後の変化~NCD乳がん登録46万例のデータ

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 日本における2004~16年の乳がんの特性・治療・生存の動向について、川崎医科大学の岩本 高行氏らがBreast Cancer誌2024年3月号に報告した。これは、NCD(National Clinical Database)乳がん登録の45万7,878例のデータ(追跡期間中央値5.6年)に基づく日本乳癌学会による予後レポートである。

 2004~08年の症例と2013~16年の症例を比較した主な結果は以下のとおり。

・治療開始年齢の中央値は、2004~08年では57歳、2013~16年では60歳と上昇した。
・Stage0~IIの割合は74.5%から78.3%に増加した。
・エストロゲン受容体陽性の割合は74.8%から77.9%、プロゲステロン受容体陽性の割合は60.5%から68.1%に増加した。
・(術前)術後補助化学療法は、タキサン(T)またはT-シクロホスファミド(C)レジメンは2.4%から8.2%に増加したが、(フルオロウラシル(F))アドリアマイシン(A)C-T/(F)エピルビシン(E)C-Tは18.6%から15.2%、(F)AC/(F)ECレジメンは13.5%から5.0%に減少した。
・術(前)後HER2療法に関しては、トラスツズマブの使用が4.6%から10.5%に増加した。
・センチネルリンパ節生検の実施率は37.1%から60.7%に増加し、腋窩リンパ節郭清の実施率は54.5%から22.6%に減少した。
・HER2陽性乳がん患者では無病生存期間と全生存期間の改善が認められたが、ホルモン受容体陽性、HER2陰性、トリプルネガティブ乳がん患者では明らかな傾向は認められなかった。

(ケアネット 金沢 浩子)


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Iwamoto T, et al. Breast Cancer. 2024;31:185-194.

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進行固形がんのリキッドバイオプシーにおける偽陽性/日本臨床腫瘍学会

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 血漿検体を用いて遺伝子のシークエンス解析を行うリキッドバイオプシーはがん治療で広く用いられている。血漿中にはがん由来のDNAと共に血液由来のDNAも存在するが、通常は結果に影響しない。しかし、加齢などにより、遺伝子異常を持った血液細胞が増殖するクローン性造血(CH)が起こり、これらをがん由来の遺伝子異常と判断することで起こる偽陽性が懸念されている。

 国立がん研究センター東病院の藤澤 孝夫氏らは、進行固形がん患者を対象に血漿と血液細胞(PBMC)のシークエンス解析を行い、血液細胞による偽陽性を回避できる新たなリキッドバイオプシー検査(PBMC-informed LBx)の有用性を評価した。第21回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2024)での発表。

 研究は、固形がんの遺伝子スクリーニングネットワークSCRUM-Japan MONSTAR-SCREEN-2に登録された患者を対象に行われた。抗がん剤治療を行う進行固形がん患者を対象として、ベースラインと治療終了後に検出された遺伝子異常のうち、血液細胞(CH)由来と考えられる遺伝子異常の割合(CH conversion rate)を算出した。

 主な結果は以下のとおり。

・2021年5月~2023年7月に登録され、PBMC-informed LBxによる遺伝子解析結果が得られた1,456例を解析した。
・1,456例からは3,190の病的遺伝子異常が検出され、このうち730(22.9%)がCH由来と分類された。
・CH由来の遺伝子異常が含まれていた遺伝子には、通常CHと関連が深いとされる遺伝子(DNMT3ATET2など) のみならず、固形がんに多く治療標的とされる遺伝子(BRCA2KRASCDK12)なども含まれていた。
・とくに薬剤の治療適応となるBRCA2KRASBRAFでもCH由来の遺伝子異常が含まれていた(それぞれ28.4%、8.4%、5.6%)。

 本発表の結果から、リキッドバイオプシーにおいて検出された遺伝子異常においては、治療標的となるような重要遺伝子においてもCH由来の偽陽性が一定の割合で含まれること、 PBMC-informed LBxを用いることで、より正確に患者ごとの治療標的となる遺伝子異常を評価できる可能性が示唆された。

(ケアネット 細田 雅之)


【参考文献・参考サイトはこちら】

SCRUM-Japan MONSTAR-SCREEN-2(UMIN)

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乳がん周術期ICI治療の最新情報/日本臨床腫瘍学会

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 近年、いくつかのがん種で免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を使用した周術期治療が開発されている。乳がん領域では2022年9月、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対するペムブロリズマブの術前・術後治療が承認されており、他のICIを用いた試験も実施されている。さらにHR+/HER2-乳がんに対する試験も進行中である。第21回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2024)で企画されたシンポジウム「ICIで変わる、周術期治療」で、乳がんの周術期ICI治療の試験成績や進行中の試験などの最新情報を、がん研究会有明病院の尾崎 由記範氏が紹介した。

乳がん周術期ICI治療で現在承認されているのはペムブロリズマブのみ

 近年、切除可能TNBCに対する治療は、術前化学療法を実施し、術後に病理学的に残存病変がある場合はカペシタビンとオラパリブ(BRCA変異がある場合)を投与することが標準治療となっている。そのような中、2022年9月、術前化学療法にペムブロリズマブを上乗せし術後にペムブロリズマブを投与する治療が、国際共同第III相KEYNOTE-522試験の結果を基に承認され、現在の標準治療となっている。KEYNOTE-522試験では、病理学的完全奏効(pCR)率、無イベント生存期間(EFS)が有意に改善し、Stage、PD-L1発現、pCR/non-pCRにかかわらず有効であったことが示されている。一方、non-pCR症例では予後不良であったことから、新たな治療戦略が検討されている(後述)。

 KEYNOTE-522試験については、ペムブロリズマブ群における5年EFS割合の改善が9%であることと、Grade3以上の免疫関連有害事象(irAE)発現割合(術前薬物療法期)が13.0%ということが釣り合うのか、という議論がしばしば行われるが、尾崎氏は、TNBCの再発後の予後が約2年ということを考慮すると釣り合う、との理解だ。本試験では、ペムブロリズマブ群で薬物療法中止例が1割程度増えるが、手術実施割合の低下は1%未満である。これはirAEをしっかり管理することでほとんどの症例で手術可能であることを示しており、リスクベネフィットバランスを議論するうえで非常に重要なデータと考える、と尾崎氏は述べた。

pCR症例の術後ペムブロリズマブは省略可能か?non-pCR症例の術後治療は?

 KEYNOTE-522試験では、術前化学療法+ペムブロリズマブでpCRが得られた症例は予後良好であることから、術後のペムブロリズマブは省略可能ではないかと考える医師が多い。この疑問を解決するために、現在、pCR症例にペムブロリズマブの投与と経過観察を比較するOptimICE-pCR試験が進行中である。

 一方、non-pCR症例に対しては、ペムブロリズマブ単独で十分であると考える医師は少なく、従来使用されてきたカペシタビンやオラパリブ(BRCA変異がある場合)を逐次投与するという施設も増えているという。さらに、より有効な術後治療が検討されており、sacituzumab govitecan+ペムブロリズマブの効果を検討するASCENT-05/OptimICE-RD試験、datopotamab deruxtecan+デュルバルマブの効果を検討するTROPION-Breast03試験が進行中である。

 また、ペムブロリズマブによる術前・術後治療後に再発した症例に対しては、西日本がん研究機構(WJOG)においてペムブロリズマブ+パクリタキセル+ベバシズマブの効果を検討するPRELUDE試験が計画中という。

予後不良症例に対する新規治療戦略や、他のICIを用いた開発が進行中

 TNBCの周術期ICI治療に現在承認されているのはペムブロリズマブのみだが、他の薬剤の試験も実施されている。

 アテゾリズマブについては、術前・術後に投与したIMpassion031試験において、pCRの改善は認められたが、EFSは改善傾向がみられたものの統計学的に有意な改善が認められなかった。しかしながら、対照群がKEYNOTE-522試験と同様のGeparDouze/NSABP-B59試験が進行中であり、結果が注目される。

 術前・術後の両方ではなく、どちらかのみICIを投与するレジメンも検討されている。術前のみの投与については、アテゾリズマブを用いたneoTRIP試験はnegativeだったが、デュルバルマブを用いたGeparNeuvo試験(第II相試験)において、pCRでは差がなかったもののEFSの改善が認められている。術後のみの投与については、アテゾリズマブを用いたAlexandra/IMpassion030試験ではEFSの改善が認められておらず、ペムブロリズマブを用いたSWOG1418/BR006試験は現在進行中である。尾崎氏は、これまでの成績からは術前・術後とも投与することが重要ではないかと考察している。

HR+/HER2-乳がんに対する周術期ICI治療の開発

 TNBCだけではなく、現在、他のサブタイプに対しても周術期ICI治療の開発試験が行われている。高リスクのHR+/HER2-乳がんに対して術前化学療法および術後内分泌療法へのICIの上乗せ効果を検討する試験として、ペムブロリズマブのKEYNOTE-756試験とニボルマブのCheckMate 7FL試験が進行中だが、どちらも有意なpCR率の改善が示されており、EFSの結果が期待される。

 尾崎氏は、これらの開発状況を踏まえ、「乳がん領域においても、今後さらに周術期ICI治療が増えてくる」と期待を示し、講演を終えた。

(ケアネット 金沢 浩子)


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