術後の静脈血栓塞栓リスク、最も高いがんは?

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 がん手術後の静脈血栓塞栓のリスク増加を、がん種別に評価した研究結果が発表された。スウェーデン・カロリンスカ研究所のJohan Bjorklund氏らによる本研究結果は、JAMA Network Open誌2024年2月2日号に掲載された。

 本試験は1998~2016年のスウェーデンの全人口データを用いた後ろ向きコホート研究であった。膀胱がん、乳がん、大腸がん、婦人科がん、腎臓・上部尿路上皮がん、肺がん、前立腺がん、胃・食道がんの8種のがんで手術を受けた全患者を、非がんの一般集団と1対10の割合でマッチさせた。データは2023年2月13日~12月5日に解析された。

 主要アウトカムは、術後1年以内の静脈血栓塞栓イベントの発生率であった。1年以内のイベントの絶対リスクおよびリスク差、退院後イベントの時間依存性変数を調整したハザード比(HR)を算出した。

 主な結果は以下のとおり。

・がん手術群は計43万2,218例で、年齢中央値67歳(四分位範囲[IQR]:58~75歳)、女性68.7%だった。非がん対照群は400万9,343例で、年齢中央値66歳(IQR:57~74歳)、女性69.3%であった。
・静脈血栓塞栓症の1年累積リスクは、すべてのがん手術群で対照群よりも高かった。がん種別にみたリスク差は、膀胱がん2.69パーセントポイント(95%信頼区間[CI]:2.33~3.05)、乳がん0.59(0.55~0.63)、大腸がん1.57(1.50~1.65)、婦人科がん1.32(1.22~1.41)、腎臓・上部尿路がん1.38(1.21~1.55)、肺がん2.61(2.34~2.89)、前立腺がん0.57(0.49~0.66)、胃・食道がん2.13(1.89~2.38%)であった。
・1年HRは、肺がんで最も高かった(HR:8.89、95%CI:5.97~13.22)。
・がん手術群の静脈血栓塞栓リスクは、退院直後にピークに達し、60~90日後にはおおむねプラトーになった。術後30日時点では乳がんを除くすべてのがん手術群におけるHRは対照群の10~30倍だったが、30日を過ぎるとHRはプラトーに達した。しかしながら、前立腺がんを除いて対照群のレベルにまで達することはなかった。深部静脈血栓症についても同様の結果だった。

 研究者らは「がん手術群は静脈血栓塞栓症の1年累積リスクが統計学的に有意に増加しており、手術に伴う最初の増加がプラトーになるまでの期間はがん種によって異なることが示唆された。静脈血栓塞栓イベント予防における過剰治療と過小治療の両方を避けるために、手術外傷、疾患の重症度、および全身化学療法への曝露を考慮して、個別のリスク評価と予防策が必要である」としている。

(ケアネット 杉崎 真名)


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Bjorklund J, et al. JAMA Netw Open. 2024;7:e2354352.

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TN乳がんの長期アウトカム、BRCA1/2変異の影響は

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 トリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者はBRCA1/2遺伝子変異を有する割合が高く、約10〜20%とされている。今回、韓国・Sungkyunkwan University School of MedicineのWoong Ki Park氏らが、TNBC患者の長期アウトカムを後ろ向きに検討したところ、BRCA1/2遺伝子変異が対側乳がん発生のリスク因子であることがわかった。また、対側乳がん発生率は、BRCA1/2変異患者では5年を過ぎても大幅に高かったという。npj Precision Oncology誌オンライン版2024年4月30日号に掲載。

 本研究の対象は、2008年6月~2016年1月に原発性乳がんの手術を受けたTNBC患者953例。追跡期間中央値80.9ヵ月(範囲:3~152ヵ月)における対側乳がん発生率、再発パターン、生存率などの長期アウトカムを評価した。

 主な結果は以下のとおり。

・122例(12.8%)がBRCA1/2遺伝子変異を有していた。
BRCA1/2遺伝子変異のある患者は診断時年齢が有意に若く、乳がん/卵巣がんの家族歴がある傾向が強かった。
・60ヵ月(5年)、120ヵ月(10年)、150ヵ月(12.5年)時点の対側乳がん発生率は、BRCA1/2遺伝子変異のある患者が変異のない患者に比べ有意に高かった(順にp=0.0250、0.0063、0.0184)。
・無病生存期間、全生存期間、乳がん特異的生存期間、無遠隔転移生存期間については、両群間に有意差は認められなかった。
BRCA1/2遺伝子変異は対側乳がん発生の有意なリスク因子であった(HR:6.242、p<0.0001)。
・対側乳がんが発生した29例中24例(82.8%)が再びTNBCと診断され、19例(65.5%)が再発後に化学療法を受けていた。

 これらの結果から、著者らは「TNBC患者において、リスク低減乳房切除術(RRM)のような外科的治療の決定には、適切な遺伝子検査とカウンセリングが重要」とし、さらに「BRCA1/2遺伝子変異のあるTNBC患者では、とくにRRMを受けていない患者において長期サーベイランスが必要」としている。

(ケアネット 金沢 浩子)


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Park WK, et al. NPJ Precis Oncol. 2024;8:96.

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若年乳がんサバイバーにおける2次原発性乳がんのリスク因子/JAMA Oncol

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 40歳以下の原発性乳がんの女性は、それ以降に発症した女性よりも2次原発性乳がんのリスクが高いことが、過去のデータから示唆されている。今回、米国・Harvard T. H. Chan School of Public HealthのKristen D. Brantley氏らが、片側乳房切除術または乳房温存術を受けた40歳以下の乳がん患者を対象に検討したところ、生殖細胞系列遺伝子に病的変異がない女性では2次原発性乳がんの10年発症リスクが約2%であったのに対し、病的変異がある女性では約9%と高かったことが示された。JAMA Oncology誌オンライン版2024年4月11日号に掲載。

 前向きコホート研究のYoung Women’s Breast Cancer Studyには、2006年8月~2015年6月にStage0~III乳がんと診断された40歳以下の女性1,297例が登録された。そのうち、片側乳房切除術または乳房温存術を受けた685例(初回診断時の平均年齢:36歳)について、2次原発性乳がんの累積発症率とそのリスク因子を検討した。人口統計学的データ、遺伝子検査データ、治療データ、転帰データは、患者調査および診療記録から収集した。主要評価項目は 2次原発性乳がんの5年および10年累積発症率だった。

 主な結果は以下のとおり。

・追跡期間中央値10.0年(四分位範囲:7.4~12.1)で17例(2.5%)が2次原発性乳がんを発症した。うち2例は乳房温存術後に同側乳房で発症した。
・原発性乳がんの診断から2次原発性乳がん発症までの期間の中央値は4.2年(四分位範囲:3.3~5.6)であった。
・遺伝子検査を受けた577例において、2次原発性乳がんの10年発症リスクは、生殖細胞系列遺伝子に病的変異のない女性では2.2%、病的変異がある女性では8.9%であった。
・多変量解析では、2次原発性乳がん発症リスクは病的変異がある患者はない患者に比べて高く(部分分布ハザード比[sHR]:5.27、95%信頼区間[CI]:1.43~19.43)、初発乳がんが非浸潤性乳がんの場合は浸潤性乳がんに比べて高かった(sHR:5.61、95%CI:1.52~20.70)。

 本研究の結果、生殖細胞系列遺伝子の病的変異のない若年乳がん患者は、診断後最初の10年間に2次原発性乳がんの発症リスクが低いことが示唆された。著者らは「若年乳がん患者において、生殖細胞系列遺伝子検査で2次原発性乳がん発症リスクが予測され、治療の意思決定やフォローアップケアに役立てるために重要であることを示している」としている。

(ケアネット 金沢 浩子)


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Brantley KD, et al. JAMA Oncol. 2024:e240286. [Epub ahead of print]

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がんスクリーニング試験の主要評価項目、StageIII/IVがん罹患で代替可能か/JAMA

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 がんスクリーニングに関する無作為化試験では一般的に、がん特異的死亡が主要評価項目として用いられている。その代替評価項目としてStageIII~IVのがん罹患を用いるのは、一部のがん種については適切ではないことが、フランス・国際がん研究機関(IARC)のXiaoshuang Feng氏らによる検討で示された。StageIII~IVのがん罹患を代替評価項目として用いると、がんスクリーニング無作為化試験をより早期に終了できる可能性が示唆されていた。著者は、「今回の結果は、多がんスクリーニング検査の臨床試験に影響を及ぼすだろう」と述べている。JAMA誌オンライン版2024年4月7日号掲載の報告。

介入群と比較群との間の減少率を評価

 研究グループは、メタ解析およびシステマティックレビューにて、がんスクリーニング無作為化試験の評価項目としてのがん特異的死亡とStageIII~IVのがん罹患を比較した。

 検討には、2024年2月19日までに出版された欧州、北米およびアジアで行われた41の無作為化試験の論文を包含した。介入群(がんスクリーニングに関する臨床試験でスクリーニング検査が実施された群)と比較群(がんスクリーニングに関する臨床試験の比較群)の参加者数、がん種、がん死者数のデータを抽出し、各臨床試験におけるスクリーニング効果について、がん特異的死亡およびStageIII~IVのがん罹患の介入群と比較群との間の減少率を算出して評価した。

 評価項目としてのがん特異的死亡とStageIII~IVのがん罹患を、ピアソン相関係数(95%信頼区間[CI])、線形回帰および固定効果メタ解析を用いて比較した。

減少率の相関関係、がん種によりばらつき

 解析対象は、乳がん(6件)、大腸がん(11件)、肺がん(12件)、卵巣がん(4件)、前立腺がん(4件)およびその他のがん(4件)のスクリーニングの有益性を検討した無作為化試験であった。

 がん特異的死亡とStageIII~IVがん罹患の減少率の相関関係は、がん種によってばらつきが認められた。

 相関関係は、卵巣がん(ピアソン相関係数p=0.99[95%CI:0.51~1.00])、肺がん(p=0.92[0.72~0.98])で最も強く認められたが、乳がん(p=0.70[-0.26~0.96])は中程度であり、大腸がん(p=0.39[-0.27~0.80])、前立腺がん(p=-0.69[-0.99~0.81])では弱かった。

 線形回帰スロープ(LRS)推定値は、卵巣がん1.15、肺がん0.75、大腸がん0.40、乳がん0.28、また前立腺がんは-3.58であり、StageIII~IVがん罹患の減少の大きさが、がん特異的死亡の発生に異なる大きさの変化をもたらすことが示唆された(不均一性のp=0.004)。

(ケアネット)


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Feng X, et al. JAMA. 2024 Apr 7. [Epub ahead of print]

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乳がん患者のQOLと死亡リスクの関係

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 乳がん患者は生活の質(QOL)に悪影響を及ぼすさまざまな問題を抱えているが、乳がん患者のQOLと死亡リスクとの関連については議論の余地がある。静岡県立静岡がんセンターの鈴木 克喜氏らは、QOLが乳がん患者の予後に与える影響についてシステマティックレビューおよびメタ解析を実施し、結果をBreast Cancer誌オンライン版2024年4月9日号で報告した。

 本研究では、CINAHL、Scopus、PubMedのデータベースを用いて、2022年12月までに発表された乳がん患者のQOLと死亡リスクを評価した観察研究が検索された。

 主な結果は以下のとおり。

・11万9,061件の論文が検索され、6件の観察研究がメタ解析に含まれた。
・身体機能QOL(ハザード比[HR]:1.04、95%信頼区間[CI]:1.01~1.07、p=0.003)、情緒機能QOL(HR:1.01、95%CI:1.00~1.03、p=0.05)、および役割機能QOL(HR:1.01、95%CI:1.00~1.01、p=0.007)は、死亡リスクとの有意な関連が示された。
・一方で、全般的QOL、認知機能QOL、および社会機能QOLは、死亡リスクとの関連が示されなかった。
・治療時点に従い行われたサブグループ解析によると、治療後の身体機能QOLが死亡リスクと関連していた。

 著者らは、身体機能QOL、情緒機能QOL、および役割機能QOLが乳がん患者の死亡リスクと関連したとし、治療後の身体機能QOLは、治療前の身体機能QOLよりも生存期間延長とより有意な関連を示したとまとめている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


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Suzuki K, et al. Breast Cancer. 2024 Apr 9. [Epub ahead of print]

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喫煙と乳がんリスク~日本の9研究のプール解析

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 喫煙と乳がんリスクは生物学的には相関することが妥当であるにもかかわらず、疫学研究では一貫していない。今回、岐阜大学の和田 恵子氏らが9つの前向き研究のプール解析を実施した結果、現喫煙者は50歳になる前に乳がんを発症するリスクが高く、とくに30歳になる前から喫煙するとリスクが高いことが示唆された。副流煙による受動喫煙との関連はみられなかったという。International Journal of Epidemiology誌2024年6月号に掲載。

 本研究は、国立がん研究センターがん対策研究所の「科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」の1つで、1984~94年に開始し8~22年間追跡した9つの前向きコホート研究(計16万6,611人)のプール解析である。喫煙および副流煙に関する情報はベースライン時の自記式質問票から入手した。個々の研究において現在または過去の能動喫煙および受動喫煙の状況別の乳がんの相対リスクを、潜在的交絡因子の調整後にCox回帰を用いて算出し、ランダム効果メタ解析を用いてハザード比(HR)を要約した。

 主な結果は以下のとおり。

・ベースライン時点で閉経前だった6万441人中897人、閉経後だった10万6,170人中1,168人が追跡期間中に乳がんを発症した。
・現喫煙者は喫煙未経験者より50歳になる前に乳がんを発症するリスクが高かった。
・30歳より前に喫煙を開始した喫煙経験者と初産前に開始した喫煙経験者は、50歳以前に乳がんを発症するリスクが高かった。
・成人期または小児期の副流煙曝露と乳がんとの関連はみられなかった。

 本研究の結果、喫煙は閉経前の乳がんリスクを上げる可能性があり、人生の早期からの喫煙はとくに有害である可能性が示唆された。副流煙の影響については「さらなる調査が必要」とした。

(ケアネット 金沢 浩子)


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Wada K, et al. Int J Epidemiol. 2024;53:dyae047.

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HER2+転移乳がん、T-DXd後のtucatinibレジメンの有用性は?

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 トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)の治療歴のあるHER2陽性の転移乳がん患者(活動性脳転移例を含む)の後治療において、経口チロシンキナーゼ阻害薬tucatinibとトラスツズマブおよびカペシタビンの併用(TTC療法)が、臨床的に有意義な転帰と関連していたことを、フランス・Institut de Cancerologie de l’OuestのJean-Sebastien Frenel氏らが明らかにした。JAMA Network Open誌2024年4月1日号掲載の報告。

 研究グループは、T-DXdの治療歴のあるHER2陽性の転移乳がん患者におけるTTC療法後の転帰を調査するためにコホート研究を実施した。対象は、2020年8月1日~2022年12月31日にフランスのがんセンター12施設でT-DXdによる治療を受けた転移乳がん患者全例であった。tucatinib(1日2回300mgを経口投与)とトラスツズマブ(21日ごとに6mg/kgを静脈内投与)およびカペシタビン(21日サイクルの1~14日目に1日2回1,000mg/m2を経口投与)を併用した。主要評価項目は、RECIST v1.1に基づく無増悪生存期間(PFS)、次治療までの期間(TTNT)、全奏効率(ORR)、全生存期間(OS)であった。

 主な結果は以下のとおり。

・合計101例の患者が組み入れられた。年齢中央値は56歳(範囲:31~85)、65歳未満が79例(78.2%)、脳転移があったのは39例(38.6%)でそのうち活動性脳転移は16例であった。
・前治療ライン数の中央値は4(範囲:2~15)で、T-DXdの前治療歴ありは100%、トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)の前治療歴ありは93.1%、トラスツズマブおよび/またはペルツズマブの前治療歴ありは81.2%であった。
・追跡期間中央値11.6ヵ月(95%信頼区間[CI]:10.5~13.4)で、病勢進行により75.2%がTTC療法を中止し、有害事象により24.8%が中止した。
・PFS中央値は4.7ヵ月(95%CI:3.9~5.6)、TTNT中央値は5.2ヵ月(4.5~7.0)、OS中央値は13.4ヵ月(11.1~未到達)であった。
・ORRは32.6%、病勢コントロール率は64.0%であった。
・T-DXd治療の直後にTTC療法を受けた患者のPFS中央値は5.0ヵ月(95%CI:4.2~6.0)、TTNT中央値は5.5ヵ月(4.8~7.2)、OS中央値は13.4ヵ月(11.9~未到達)であった。
・活動性脳転移のある16例のPFS中央値は4.7ヵ月(95%CI:3.0~7.3)、TTNT中央値は5.6ヵ月(4.4~未到達)、OS中央値は12.4ヵ月(8.3~未到達)であった。

 これらの結果より、研究グループは「T-DXd治療歴のあるHER2陽性の転移乳がん患者において、TTC療法は臨床的に意義のある転帰と関連していた。急速に変化する治療環境において、最適な薬剤選択を検討するには前向き試験のデータが必要である」とまとめた。

(ケアネット 森 幸子)


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Frenel JS, et al. JAMA Netw Open. 2024;7:e244435.

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センチネルリンパ節転移乳がん、腋窩リンパ節郭清は省略可?/NEJM

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 臨床的リンパ節転移陰性乳がんで、センチネルリンパ節に肉眼的転移を有する患者では、センチネルリンパ節生検のみを行い、完全腋窩リンパ節郭清を省略した場合、センチネルリンパ節生検+完全腋窩リンパ節郭清に対して、5年無再発生存(RFS)率が非劣性であることが、スウェーデン・カロリンスカ研究所のJana de Bonifaceらが実施した「SENOMAC試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2024年4月4日号で報告された。

5ヵ国の第III相無作為化非劣性試験

 SENOMAC試験は、5ヵ国(スウェーデン、デンマーク、ドイツ、ギリシャ、イタリア)から67病院が参加した第III相無作為化非劣性試験であり、2015年1月~2021年12月に患者の登録を行った(Swedish Research Councilなどの助成を受けた)。

 臨床的リンパ節転移陰性の原発性T1~T3乳がん(T1:腫瘍最大径≦20mm、T2:同 21~50mm、T3:同>50mm)で、センチネルリンパ節に肉眼的転移(転移巣の最大径>2mm)を1または2個有する患者を、センチネルリンパ節生検を行った後、完全腋窩リンパ節郭清を行う群(郭清群)、またはこれを省略する群(センチネルリンパ節生検単独群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。術後補助療法と放射線療法は、各国のガイドラインに準拠して実施した。

 主要評価項目は全生存期間(OS)とした。今回の解析では、副次評価項目であるRFSのper-protocol解析と修正ITT解析のデータが提示された。再発または死亡のハザード比(HR)の95%信頼区間(CI)の上限値が1.44未満の場合に、センチネルリンパ節生検単独群は非劣性と判定することとした。

多くの患者が放射線療法と全身療法を受けた

 登録患者2,766例のうち2,540例がper-protocol集団であり、センチネルリンパ節生検単独群が1,335例(年齢中央値61歳[範囲:20~94])、郭清群が1,205例(61歳[34~90])であった。リンパ節標的体積を含む領域の放射線療法は、センチネルリンパ節生検単独群の1,326例中1,192例(89.9%)、郭清群の1,197例中1,058例(88.4%)で行った。全体で、26例を除きいくつかの全身療法を受けていた。

 追跡期間中央値は46.8ヵ月(範囲:1.5~94.5)であり、全体で191例(センチネルリンパ節生検単独群95例[7.1%]、郭清群96例[8.0%])が再発または死亡した。

 per-protocol集団における推定5年RFS率は、センチネルリンパ節生検単独群が89.7%(95%CI:87.5~91.9)、郭清群は88.7%(86.3~91.1)であり、参加国を補正した再発または死亡のHRは0.89(0.66~1.19)と、95%CIの上限値が非劣性マージンを下回り、非劣性が示された(非劣性のp<0.001)。

修正ITT集団でもほぼ同様の結果

 修正ITT集団における5年RFS率の結果はper-protocol集団とほぼ同様であった(HR:0.89、95%CI:0.67~1.19)。

 ほとんどのサブグループ(per-protocol集団)で、再発または死亡のHRはセンチネルリンパ節生検単独群で良好な傾向を認め、エストロゲン受容体陽性/HER2陽性の患者でとくに良好な傾向にあった(HR:0.26、95%CI:0.07~0.96)。男性は10例(0.4%)と少な過ぎたため、サブグループ解析はできなかった。

 著者は、「本試験の結果は、この患者集団においては、完全腋窩リンパ節郭清を安全に省略できることを示す強固なエビデンスをもたらす」としている。

(医学ライター 菅野 守)


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de Boniface J, et al. N Engl J Med. 2024;390:1163-1175.

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早期TN乳がん、TIL高値ほど予後良好/JAMA

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 術前または術後補助化学療法歴のない早期トリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者において、乳がん組織中の腫瘍浸潤リンパ球(TIL)量が高値ほど、有意に生存率が良好であることを、米国・メイヨー・クリニックのRoberto A. Leon-Ferre氏らが後ろ向きプール解析で明らかにした。乳がん組織中のTIL量と早期TNBC患者のがん再発および死亡との関連は不明であった。著者は、「今回の結果は、乳がん組織中のTIL量が早期TNBC患者の予後因子であることを示すものである」とまとめている。JAMA誌2024年4月2日号掲載の報告。

術前・術後化学療法未実施TNBC患者1,966例の検体で、TIL量と予後の関連を解析

 研究グループは、北米(米国・ミネソタ州ロチェスター、カナダ・ブリティッシュコロンビア州バンクーバー)、欧州(フランス・パリ、リヨン、ビルジュイフ、オランダ・アムステルダム、ロッテルダム、イタリア・ミラノ、パドバ、ジェノバ、スウェーデン・ヨーテボリ)、アジア(日本・東京、韓国・ソウル)の13施設において、1979~2017年にTNBCと診断され、外科手術を受けたが術前または術後補助化学療法を受けなかった(放射線療法の有無は問わない)早期TNBC患者を対象に、切除された乳房の原発腫瘍組織中のTIL量と予後との関連について、個々の患者のデータを後ろ向きにプール解析した(最終追跡調査日は2021年9月27日)。

 主要評価項目は無浸潤疾患生存期間(iDFS)、副次評価項目は無再発生存期間(RFS)、無遠隔再発生存期間(DRFS)、および全生存期間(OS)とし、施設で層別化した多変量Coxモデルを用いて関連性を評価した。

 合計2,211例のデータが得られ、このうち適格基準を満たした1,966例を解析に組み込んだ。

TIL量が多いほど、iDFS率、RFS率、DRFS率、OS率が改善

 1,966例の患者背景は、年齢中央値56歳(四分位範囲[IQR]:39~71)、StageIが55%、TIL量(間質専有面積比率)の中央値は15%(IQR:5~40)であった。1,966例中417例(21%)がTIL量50%以上(年齢中央値41歳[IQR:36~63])、1,300例(66%)が30%未満(59歳[41~72])であった。追跡期間中央値は18年(95%信頼区間[CI]:15~20)であった。

 全体において、各アウトカムに関するイベント数は、iDFSが1,074例(55%)、RFSが940例(48%)、DRFSが832例(42%)、OS(死亡)は803例(41%)であった。

 StageIのTNBCにおいて、5年DRFS率は、TIL量が50%以上の患者では94%(95%CI:91~96)、30%未満の患者では78%(75~80)、5年OS率はそれぞれ95%(92~97)、82%(79~84)であった。

 追跡期間中央値18年時点で、年齢、腫瘍の大きさ、リンパ節転移の有無、組織学的悪性度および放射線治療歴を補正後、TIL量が10%増加するごとに、iDFSイベントリスクは8%(ハザード比[HR]:0.92、95%CI:0.89~0.94)、RFSイベントリスクは10%(0.90、0.87~0.92)、DRFSイベントリスクは13%(0.87、0.84~0.90)、死亡リスクは12%(0.88、0.85~0.91)それぞれ低下し、TIL量の増加とiDFS、RFS、DRFSおよびOSの改善との関連が認められた(尤度比検定のp<10-6)。

(医学ライター 吉尾 幸恵)


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Leon-Ferre RA, et al. JAMA. 2024;331:1135-1144.

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HER2+早期乳がん、PET pCR例の化学療法は省略可?(PHERGain)/Lancet

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 HER2陽性の早期乳がん患者において、18F-FDGを用いたPET検査に基づく病理学的完全奏効(pCR)を評価指標とする、化学療法を追加しないトラスツズマブ+ペルツズマブ併用療法でのde-escalation戦略は、3年無浸潤疾患生存(iDFS)率に優れることが示された。スペイン・International Breast Cancer CenterのJose Manuel Perez-Garcia氏らが、第II相の無作為化非盲検試験「PHERGain試験」の結果を報告した。PHERGain試験は、HER2陽性の早期乳がん患者において、化学療法を追加しないトラスツズマブ+ペルツズマブ併用療法での治療の実現可能性、安全性、有効性を評価するための試験。結果を踏まえて著者は、「この戦略により、HER2陽性の早期乳がん患者の約3分の1が、化学療法を安全に省略可能であることが示された」とまとめている。Lancet誌オンライン版2024年4月3日号掲載の報告。

PET実施はベースラインと治療2サイクル後

 PHERGain試験は、欧州7ヵ国の45病院を通じて行われ、HER2陽性、StageI~IIIAの手術可能な浸潤性乳がんで、PETで評価可能な病変が1つ以上ある患者を、1対4の割合でA群とB群に無作為に割り付けた。

 A群では、ドセタキセル(75mg/m2、静脈内投与)、カルボプラチン(AUC 6、静脈内投与)、トラスツズマブ(600mg固定用量、皮下投与)、およびペルツズマブ(初回投与840mg、その後420mgの維持用量、静脈内投与)(TCHPレジメン)を投与した。

 B群では、トラスツズマブ+ペルツズマブ(±内分泌療法)併用療法を3週ごと投与した。

 無作為化は、ホルモン受容体の状態で層別化。PETはベースラインと治療2サイクル後に実施し、中央判定で評価した。B群の患者は、治療中のPETの結果に従って治療を変更。2サイクル後のPET反応例は、トラスツズマブ+ペルツズマブ(±内分泌療法)併用療法を6サイクル継続し、PET無反応例にはTCHPを6サイクル投与した。術後、B群でpCRを達成した患者は、トラスツズマブ+ペルツズマブ(±内分泌療法)併用療法を10サイクル投与し、pCRを達成しなかった患者は、TCHPを6サイクル、トラスツズマブ+ペルツズマブ(±内分泌療法)併用療法を4サイクル投与した。PET無反応例は、トラスツズマブ+ペルツズマブ(±内分泌療法)併用療法を10サイクル投与した。

 主要評価項目は、治療2サイクル後のB群のpCR(結果は既報[37.9%]1))と、B群の3年iDFS率だった。本論では、後者の結果が報告されている。

有害事象の発現はグループBで低率に

 2017年6月26日~2019年4月24日に、356例が無作為化された(A群71例、B群285例)。手術を受けた患者の割合は、A群が89%(63例)、B群が94%(267例)。2回目の解析時までの追跡期間中央値は43.3ヵ月だった。

 主要評価項目であるB群の3年iDFS率は、94.8%(95%信頼区間[CI]:91.4~97.1)だった(p=0.001)。

 治療関連有害事象(TRAE)および重篤な有害事象(SAE)は、A群がB群より高率だった(Grade3以上発現率:62% vs.33%、SAE:28% vs.14%)。B群のPET反応例でpCRが認められた患者は、Grade3以上のTRAEの発現率は1%と最も低く、SAEはみられなかった。

(医療ジャーナリスト 當麻 あづさ)


【原著論文はこちら】

1)Perez-Garcia JM, et al. Lancet Oncol. 2021;22:858-871.

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