乳がんへのパルボシクリブの効果、PPI併用で損なわれる

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 抗がん剤による消化器症状を緩和するためにプロトンポンプ阻害薬(PPI)が使用されているが、PPIの酸分泌抑制作用は経口抗がん剤のバイオアベイラビリティや臨床効果に悪影響を及ぼす。今回、韓国・Sungkyunkwan UniversityのJu-Eun Lee氏らによる進行乳がん患者を対象としたコホート研究の結果、パルボシクリブにPPIを併用した群では非併用群よりも無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)が短いことが示された。この結果から、パルボシクリブにPPIを併用するとパルボシクリブの治療効果が損なわれる可能性が示唆された。JAMA Network Open誌2023年7月21日号に掲載。

 本研究は、韓国の2016年11月1日~2021年7月31日の全国請求データを用いた後ろ向きコホート研究で、2017年11月1日~2020年7月31日にパルボシクリブを投与された乳がん女性を調べた。パルボシクリブとPPIの処方が33%以上重複した患者をPPI併用群、パルボシクリブ治療期間中に一度もPPIを投与されなかった患者を非併用群とし、1:3の傾向スコアマッチングにより患者を選択した。主要評価項目は臨床的PFSとOSで、Cox比例ハザード回帰を用いてPPI併用のハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定した。

 主な結果は以下のとおり。

・マッチングされた1,310例(PPI併用群:344例、非併用群:966例)のうち、1,108例(84.6%)が50歳以上で、1,111例(84.8%)がレトロゾールとアナストロゾールによる治療(ホルモン感受性)、199例(15.2%)がフルベストラントによる治療(ホルモン抵抗性)を受けていた。
・臨床的PFS中央値は、PPI併用群(25.3ヵ月、95%CI:19.6~33.0)が非併用群(39.8ヵ月、95%CI:34.9~NA)より短く(p<0.001)、HRは1.76(95%CI:1.46~2.13)であった。
・OSについてもPPI併用群のほうが短かった(HR:2.71、95%CI:2.07~3.53)。
・ホルモン感受性および抵抗性治療を受けている患者のどちらにおいても、PPI併用群の臨床的PFSおよびOSは不良であった。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Lee JE, et al. JAMA Netw Open. 2023;6:e2324852.

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双極性障害女性患者における抗精神病薬使用後の乳がんリスク

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 統合失調症女性患者における抗精神病薬使用と乳がんリスクとの関連は、さまざまな疫学データより報告されている。しかし、双極性障害女性患者を対象とした研究は、これまであまり行われていなかった。香港大学のRachel Yui Ki Chu氏らは、双極性障害女性患者における抗精神病薬使用と乳がんリスクとの関連を調査し、統合失調症との比較を行った。その結果、統合失調症女性患者では、第1世代抗精神病薬と乳がんリスクとの関連が認められ、双極性障害女性患者では、第1世代および第2世代抗精神病薬のいずれにおいても、乳がんリスクとの関連が認められた。Psychiatry Research誌8月号の報告。

 香港の公的医療データベースを用いて、双極性障害または統合失調症の18歳以上の女性患者を対象に、ネステッドケースコントロール研究を実施した。incidence density samplingを使用して、乳がんと診断された女性を対照群(最大10例)としてマッチした。

 主な結果は以下のとおり。

・症例群672例(双極性障害:109例)、対照群6,450例(双極性障害:931例)を分析対象に含めた。
・第1世代抗精神病薬と乳がんリスクとの関連は、統合失調症(調整オッズ比[aOR]:1.49、95%信頼区間[CI]:1.17~1.90)または双極性障害(aOR:1.80、95%CI:1.11~2.93)の女性患者のいずれにおいても認められた。
・第2世代抗精神病薬は、双極性障害女性患者のみで乳がんリスクと関連しており(aOR:2.49、95%CI:1.29~4.79)、統合失調症女性患者では有意な関連が認められなかった(aOR:1.10、95%CI:0.88~1.36)。
・抗精神病薬を使用中の双極性障害女性患者の乳がんリスクについては、さらなる研究が必要とされる。

(鷹野 敦夫)


【原著論文はこちら】

Chu RYK, et al. Psychiatry Res. 2023;326:115287.

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出産から5年未満の乳がん、術前化療の効果乏しく再発リスク増/日本乳癌学会

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 閉経前乳がん患者を対象に、最終出産からの経過年数と術前化学療法の感受性を検討した結果、出産から5年未満に診断された患者では術前化学療法の感受性が乏しく、再発率が高かったことを、岡山大学の突沖 貴宏氏が第31回日本乳癌学会学術総会で発表した。

 妊娠・出産から数年以内に乳がんと診断された妊娠関連乳がんの特徴として、腫瘍径が大きい、リンパ節転移やリンパ管侵襲が多い、HR-の割合が高い、病勢が進行した症例が多い、早期例でも遠隔再発リスクが高い、などが報告されている。しかし、妊娠関連乳がんにおける薬物療法の感受性を検討したデータは乏しい。そこで研究グループは、それらの再発率が高い理由として、最終出産からの経過年数が少ない症例は化学療法の効果が乏しいという仮説を立て、最終出産からの経過年数と術前化学療法の感受性の検討を行った。

 対象は2010年1月~2020年12月に術前化学療法を受けた50歳未満の乳がん患者233例であった。出産歴の有無と最終出産からの年数によって、(1)出産歴なし群、(2)最終出産から5年未満群、(3)5年~10年群、(4)10年以上経過群の4群に分け、術前化学療法の画像効果判定、残存腫瘍量(RCB)の関連性を検討した。

 主な結果は以下のとおり。

・解析対象は、出産歴なし群101例(年齢中央値:34.6歳)、5年未満群41例(35.0歳)、5~10年群50例(37.9歳)、10年以上群41例(41.7歳)であった(以下同じ順番)。HER2+は36%、39%、44%、42%で、トリプルネガティブ(TNBC)は38%、37%、41%、17%であった。
・術前化学療法のRECISTによる治療効果判定は、CRが40%、24%、38%、25%、PDが7%、3%、6%、8%で、5年未満群でCRの割合が低かった。サブタイプ別では、HER2+の多くの患者がPR以上の効果を得られていたが、TNBCで出産歴のある患者ではPDの割合が高かった(6%、13%、12%、28%)。
・RCB II/IIIの割合は52%、61%、54%、59%であり、5年未満群でRCBスコアが悪い傾向にあった(p=0.09)。サブタイプ別では、TNBCで出産歴のある患者ではRCB II/IIIの割合が高く(ハザード比[HR]:0.28、95%信頼区間[CI]:0.12~0.56、p<0.001)、術前化学療法の治療効果が悪い可能性が示唆された。出産歴のある症例で比較すると、5年未満のLuminalタイプはRCB II/IIIの割合が高い傾向にあった(HR:0.57、95%CI:0.26~1.14、p=0.102)。
・遠隔再発率は19%、37%、22%、4%であり、5年未満群の再発率が有意に高かった(p<0.01)。サブタイプ別では、TNBCで出産歴のある患者では、TNBCで出産歴のない患者と比べて遠隔再発率が有意に高く(HR:0.28、95%CI:0.12~0.56)、とくに5年未満群のTNBCでnon-CR症例は再発を来しやすかった(HR:0.73、95%CI:0.26~1.75)。

 これらの結果より、突沖氏は「本研究は後ろ向き探索研究であるが、最終出産から5年未満で診断された乳がん症例では化学療法の感受性が乏しいことが示唆され、治療の上乗せが必要となる可能性がある」とまとめた。

(ケアネット 森 幸子)


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HER2低発現乳がんの予後をHER2ゼロと比較~42研究のメタ解析/ESMO Open

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 HER2低発現が乳がん患者の予後に影響を及ぼすかどうか、ベルギー・Institut Jules BordetのChiara Molinelli氏らがメタ解析で検討したところ、ホルモン受容体の発現にかかわらず、転移乳がんおよび早期乳がんのいずれにおいても、HER2低発現はHER2ゼロと比較して若干の全生存期間(OS)改善との関連がみられた。早期乳がんでは、とくにホルモン受容体陽性で、HER2低発現が低いpCR率と関連していた。ESMO Open誌2023年7月4日号に掲載。

 本メタ解析では、HER2低発現乳がんとHER2ゼロ乳がんの生存アウトカムを比較した研究を系統的レビューにより同定し、転移乳がんにおける無増悪生存期間(PFS)・OS、早期乳がんにおける無病生存期間(DFS)・OS・病理学的完全奏効(pCR)について、統合ハザード比(HR)およびオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)をランダム効果モデルで算出した。

 主な結果は以下のとおり。

・同定された1,916研究中、179万7,175例を含む42研究が適格であった。
・早期乳がんでは、HER2低発現はHER2ゼロと比較して、DFS(HR:0.86、95%CI:0.79~0.92、p<0.001)、OS(HR:0.90、95%CI:0.85~0.95、p<0.001)の改善と有意に関連していた。
・OSの改善はHER2低発現患者におけるホルモン受容体陽性と陰性の両集団で観察されたが、DFSの改善はホルモン受容体陽性でのみ観察された。
・HER2低発現は、HER2ゼロと比較して、全集団(OR:0.74、95%CI:0.62~0.88、p=0.001)およびホルモン受容体陽性集団(OR:0.77、95%CI:0.65~0.90、p=0.001)のいずれにおいても、pCR率の低下と有意に関連していた。
・転移乳がんでは、ホルモン受容体の有無にかかわらず、HER2低発現乳がんはHER2ゼロ乳がんと比較してOSが良好であった(HR:0.94、95%CI:0.89~0.98、p=0.008)。
・PFSに有意差は認められなかった。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Molinelli C, et al. ESMO Open. 2023;8:101592.

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HER2陰性転移乳がん1/2次治療の健康関連QOL、エリブリンvs.S-1(RESQ試験)/日本乳癌学会

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 HER2-の転移を有する乳がん(MBC)患者の1次/2次化学療法として、エリブリンと経口フッ化ピリミジン系薬剤S-1(テガフール・ギメラシル・オテラシル カリウム)の健康関連QOL(HRQOL)を検討した結果、エリブリン群のS-1群に対するHRQOLの非劣性は示されなかったものの、無増悪生存期間(PFS)は両群で差はなく、全生存期間(OS)はエリブリン群で延長する傾向にあったことを、虎の門病院の田辺 裕子氏が第31回日本乳癌学会学術総会で発表した。

 エリブリンは、HER2-のMBC患者の3次以降の化学療法としてOSを有意に延長することが報告されているが、1次/2次治療として投与された際のHRQOLや有効性については十分な知見がない。一方で、S-1は1次化学療法としてアントラサイクリン系抗がん剤やタキサン系抗がん剤と同等のOSと、アントラサイクリン系と同等でタキサン系を上回る良好なHRQOLが示されている。そこで、研究グループ(CSPOR-BC)は、HER2-MBC患者を対象に、1次/2次治療としてのエリブリンのS-1に対するHRQOLの非劣性、OSやPFSを検討するために、国内50施設における非盲検無作為化比較第III相試験(RESQ試験、PI:北海道大学病院 高橋 將人氏)を実施した。今回の発表は、サンアントニオ乳がんシンポジウムで2022年に発表したデータをアップデートした最終解析結果であった(データカットオフ日:2022年3月18日)。

・対象:HER2-のMBCで、MBCに対する化学療法が0または1回の患者 302例
・試験群(エリブリン群):1.4mg/m2を3週ごとに1・8日目に静脈内投与(増悪がなければ6サイクル以上継続) 152例
・対照群(S-1群):40~60mgを1日2回 14日経口投与後7日間休薬(増悪がなければ6サイクル以上継続) 148例
・評価項目
[主要評価項目]HRQOL(EORTC QLQ-C30の全般的健康[GHS]スコア)
[副次評価項目]OS、PFS、安全性

 2016年6月~2019年10月に302例を登録し、エリブリン群とS-1群に1対1に無作為に割り付けた。観察期間中央値は2.45年、質問票への回答率は85.6%であった。ベースライン時の患者特性はバランスがとれていて、エリブリン群/S-1群の年齢中央値は61.5歳/60.5歳、MBCに対する化学療法歴なしが68.7%/72.1%、周術期化学療法を含めたアントラサイクリン系+タキサン系の化学療法歴ありが33.6%/41.2%、2年以上の無再発期間が52.2%/50.7%であった。

 主な結果は以下のとおり。

・臨床的に意味のあるGHSスコアを10ポイントとし、10ポイント以上低下した場合を悪化と定義した。1年時のGHSスコアが悪化しなかった割合は、エリブリン群で33.8%(95%信頼区間[CI]:25.1~42.6)、S-1群で33.0%(95%CI:24.6~41.6)、1年時のリスク差は+0.66(95%CI:-12.47~11.16、p=0.077)で、事前に設定した非劣性マージンを超えたため、統計学的な非劣性は示されなかった。一方、GHSスコアの初回悪化までの期間や混合効果モデル解析によるGHSのベースラインから42週の平均変化差はほぼ同等であった。
・OS中央値はエリブリン群2.89年(95%CI:2.27~3.42)、S-1群2.32年(95%CI:2.06~2.56)で、エリブリン群でOSを延長した(ハザード比[HR]:0.72、95%CI:0.54~0.96、p=0.026)。
・PFS中央値はエリブリン群7.57ヵ月(95%CI:5.61~8.30)、S-1群6.75ヵ月(95%CI:5.51~7.80)で、有意差は認めなかった(HR:0.90、95%CI:0.68~1.18、p=0.350)。
・HRQOLにおけるサブグループ解析では、S-1群で身体機能と社会的機能は良い傾向で、エリブリン群で悪心と嘔吐の症状スコアは良い傾向であった。
・安全性は既報と同様であった。

 これらの結果より、田辺氏は「エリブリン群のS-1群に対するHRQOLの非劣性は示せなかったが、QOL悪化までの期間や、時点ごとのQOLスコア解析などを総合的にみると、両群のHRQOLに大きな差はないと考えられる。非劣性が示されなかった原因として、サンプル数不足による検出力低下が考えられる」としたうえで、「エリブリン群では既報の大規模ランダム化比較試験と同様にPFSは延長しなかったが、OSは延長する傾向にあった。これらの結果から、HER2-MBCに対してエリブリンは1次/2次治療の選択肢の1つとして検討しうる」とまとめた。

(ケアネット 森 幸子)


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低再発リスクN1乳がん、局所リンパ節照射なしでも局所再発率低い

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 リンパ節転移1~3個(N1)で再発スコアの低い乳がんでは、手術後に局所リンパ節照射(RNI)を受けなかった患者においても局所再発(LRR)の発生率が低かったことが、第III相SWOG S1007試験の2次解析で示された。米国・エモリー大学のReshma Jagsi氏らが、JAMA Oncology誌オンライン版2023年7月6日号に報告。

 SWOG S1007試験は、1~3個のリンパ節転移を有するオンコタイプDX乳がん再発スコア25以下のホルモン受容体陽性HER2陰性乳がんを対象に、内分泌療法単独群と化学療法後に内分泌療法を行う群に無作為に割り付けた第III相無作為化試験である。この2次解析として、4,871例の放射線治療情報を前向きに収集し、RNI実施割合、LRR発生率および予測因子、局所療法と無浸潤疾患生存(iDFS)との関連(閉経状態、治療、再発リスクスコア、腫瘍の大きさ、転移巣、腋窩手術で調整)を調査した。

 主な結果は以下のとおり。

・放射線治療情報のある4,871例(年齢中央値:57歳、範囲:18~87歳)中、3,947例(81.0%)が放射線治療を受けていた。放射線治療を受け、標的の完全な情報が得られた3,852例中2,274例(59.0%)がRNIを受けた。
・追跡期間中央値6.1年で、LRRの5年累積発生率は、乳房温存手術とRNIを伴う放射線治療を受けた患者では0.85%、乳房温存手術とRNIを伴わない放射線治療を受けた患者では0.55%、乳房切除術後に放射線治療を受けた患者では0.11%、乳房切除術後に放射線治療を受けなかった患者では1.7%であった。化学療法なしの内分泌療法群でも同様にLRR率は低かった。
・RNIによるiDFS率の差はみられなかった(閉経前でのハザード比[HR]:1.03、95%信頼区間[CI]:0.74~1.43、p=0.87、閉経後でのHR:0.85、95%CI:0.68~1.07、p=0.16)。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Jagsi R, et al. JAMA Oncol. 2023 Jul 6. [Epub ahead of print]

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オンコタイプDX乳がん再発スコアプログラム、9月に保険適用へ/エグザクトサイエンス

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 エグザクトサイエンスは、「オンコタイプDX乳がん再発スコアプログラム」の保険適用について、中央社会保険医療協議会が2023年7月5日付けで了承したことを発表した。9月1日に保険収載される見込みという。

 オンコタイプDX乳がん再発スコアプログラムは、オンコタイプDX乳がん再発スコア検査および日本向けに開発されたソフトウエアを組み合わせたプログラム医療機器。ホルモン受容体陽性HER2陰性で、リンパ節転移なし、もしくは3個以内の早期浸潤性乳がんを対象に、遠隔再発リスクを提示し、化学療法の要否の決定を補助するものとして、2021年8月に厚生労働省から薬事承認を受けている。

 オンコタイプDX乳がん再発スコアプログラムの使用により、手術後にどの程度再発しやすいかの予測と併せて、術後薬物療法の検討時にホルモン療法に化学療法を追加するかどうかの意思決定の助けとなる情報を提供する。昭和大学の中村 清吾氏は「意思決定に有用な情報を提供することで、医療者と患者さんが話し合い、手術後の薬の治療をどうするかについて納得して治療方針を決める、いわゆるShared Decision Makingの一助になると期待している」と述べている。

(ケアネット 金沢 浩子)


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de novo StageIV乳がんの初期薬物療法、サブタイプ・薬剤別の効果(JCOG1017副次的解析)/日本乳癌学会

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 治療歴のない(de novo)StageIV乳がんに対する初期薬物療法の効果は術後再発乳がんより良好とされるが、その効果について詳細なデータはない。今回、JCOG1017(薬物療法非抵抗性StageIV乳がんに対する原発巣切除の意義に関するランダム化比較試験)の副次的解析として、de novo StageIV乳がんに対する初期薬物療法の効果と効果予測因子を検討した結果、サブタイプにより治療効果が異なり、とくにPgR、HER2発現の有無および内臓転移の状況が影響している可能性が示唆された。岡山大学の枝園 忠彦氏が第31回日本乳癌学会学術総会で発表した。

 JCOG1017では、1次登録されたde novo StageIV乳がん患者に対し、サブタイプと転移の状況に応じて、以下のいずれかの初期薬物療法を約3ヵ月実施している。
(1)ホルモン療法:ER+かつ生命を脅かす転移なし
(2)weekly パクリタキセル(PTX)療法:ER-/HER2-または生命を脅かす転移あり
(3)トラスツズマブ+ペルツズマブ+ドセタキセル(HPD)療法またはトラスツズマブ+パクリタキセル(HPTX)療法:ER-/HER2+またはER+/HER2+かつ生命を脅かす転移あり

 本解析では、レジメンごとの薬物療法の開始3ヵ月後の治療効果(non-PD割合、奏効割合)、初期薬物療法の効果予測因子を検討した。

 主な結果は以下のとおり。

・約3ヵ月の初期薬物療法を受けた569例におけるnon-PD割合は77.2%で、閉経後およびPgR+で効果が高かった。サブタイプ別にみると、トリプルネガティブ(TN)を基準としたオッズ比(OR)は、ER+/HER2-が0.434(p=0.0439)、ER-/HER2+が3.374(p=0.0201)、ER+/HER2+が0.345(p=0.0153)であった。
・薬剤別のnon-PD割合は、ホルモン療法では、タモキシフェン+LH-RHが68.2%、レトロゾールが75.2%、全体では72.8%であり、内臓転移なし、PgR+、HER2-で効果が高かった。weekly PTX療法では76.1%で、有意な効果予測因子はなかった。HPD療法/HPTX療法では92.7%で、内臓転移ありで効果が高かった。
・569例における奏効割合(CR+PR)は29.0%で、内臓転移ありで効果が高かった。サブタイプ別にみると、TNを基準としたORは、ER+/HER2-が0.368(p=0.0121)、ER-/HER2+が6.499(p<0.0001)、ER+/HER2+が1.428(p=0.3793)であった。
・薬剤別の奏効割合は、ホルモン療法では、タモキシフェン+LH-RHが10.9%、レトロゾールが12.0%、全体では11.6%で、有意な効果予測因子はなかった。weekly PTX療法では36.4%で、有意な効果予測因子はなかった。HPD療法/HPTX療法では81.8%で、内臓転移ありで効果が高かった。
・原発巣と転移巣のcCR割合は、ホルモン療法とweekly PTX療法ではほぼゼロであったが、HPD療法/HPTX療法では原発巣で16.4%、転移巣で11.8%であった。

 本解析の結果から、枝園氏は「サブタイプによって初期薬物療法の治療効果および効果予測因子は異なっていた。PgR、HER2発現の有無および内臓転移の状況が治療効果に影響している可能性があり、これらを考慮した治療戦略構築が必要」とし、「とくにER+/HER2+ではホルモン療法単独の効果は低く、初期薬物療法から分子標的薬の併用が必要」と考察を述べた。

(ケアネット 金沢 浩子)


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T-DXd、脳転移や髄膜がん腫症を有するHER2+乳がんに有効(ROSET-BM)/日本乳癌学会

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 わが国における実臨床データから、脳転移や脳髄膜がん腫症(LMC)を有するHER2陽性(HER2+)乳がんにトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)が有効であることが示唆された。琉球大学の野村 寛徳氏が第31回日本乳癌学会学術総会で発表した。T-DXdはDESTINY-Breast01/03試験において、安定した脳転移を有するHER2+乳がんに対して有望な効果が報告されているが、活動性脳転移やLMCを有する患者におけるデータはまだ限られている。

 本研究(ROSET-BM)はわが国における多機関共同レトロスペクティブチャートレビュー研究である。2020年12月31日時点でHER2+乳がんの治療にT-DXdを使用した医療機関から、2020年5月25日~2021年4月30日にT-DXd治療を受けた脳転移またはLMCを有するHER2+乳がん患者(20歳以上、臨床試験でT-DXd治療を受けた患者は除外)の実臨床データおよび脳画像データを収集した(データカットオフ:2021年10月31日)。評価項目は、治療成功期間(TTF)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、奏効率(ORR)、脳画像による頭蓋内病変(IC)-ORR、IC-臨床的有用率(CBR)など。

 主な結果は以下のとおり。

・国内62施設からの適格基準を満たした104例を解析対象とした。うち89例が評価可能な脳画像データを有していた。
・前治療レジメン数の中央値は4.0(Q1:3.0、Q3:7.0)であった。
・脳転移の随伴症状があった患者は30.8%で、随伴症状に対する薬剤はステロイドが14.4%、抗てんかん薬が10.6%であった。
・脳転移は、LMCを伴わない活動性脳転移が73例、LMCを伴う活動性脳転移が17例、安定した脳転移が6例、LMCのみが2例、判定不能が6例だった。
・全体でのPFS中央値は16.1ヵ月(95%信頼区間[CI]:12.0~NA)、OSは中央値に達しておらず、12 ヵ月OS率は74.9%(同:64.5~82.6)であった。
・脳転移のサブグループ別にみた生存率は、活動性脳転移(T-DXd投与前30日以内に全脳照射を受けた患者を除く)において、PFS中央値が13.4ヵ月、OS中央値は未達だった。また、LMC患者においても、12ヵ月PFS率が60.7%、12ヵ月OS率が87.1%と持続的な全身性疾患のコントロールを示した。
・TTF中央値は9.7ヵ月、間質性肺疾患/肺障害による投与中止は18.3%であった。
・IC-ORRは62.7%、IC-CBR(6ヵ月時点)は70.6%であった。

 野村氏は最後に、転移性脳腫瘍の増大で昏睡状態になった40代の乳がん女性が、T-DXd投与によって昏睡状態の回復および脳転移の改善がみられ、驚愕したという経験を紹介し、「脳転移やLMCを有するHER2+乳がん患者に対して、T-DXdは既報と同様の有効性と臨床的有用性を示した」とまとめた。

(ケアネット 金沢 浩子)


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乳房温存術後の同側再発率、SIB照射vs.標準的照射/Lancet

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 乳房温存手術後の早期乳がんに対する標的体積内同時ブースト(SIB)法を用いた強度変調放射線治療(IMRT)および画像誘導放射線治療(IGRT)では、48Gy SIBは5年後の同側乳房の腫瘍再発(IBTR)率が、逐次照射を行う標準的放射線治療に対し非劣性であり、乳房硬結の発生率も同程度であるが、53Gy SIBではIBTR、硬結とも標準的照射に比べ高率にみられることが、英国・ケンブリッジ大学のCharlotte E. Coles氏らが実施した「IMPORT HIGH試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2023年6月8日号で報告された。

英国の第III相非劣性試験

 IMPORT HIGH試験は、乳房温存手術後の早期乳がんに対するSIB法を用いたIMRTおよびIGRTが、優れた局所コントロールを保持しつつ治療期間を短縮し、毒性を同等かそれ以下に軽減するかの検証を目的とする第III相非盲検無作為化対照比較非劣性試験であり、2009年3月~2015年9月の期間に、英国の39の放射線治療センターと37の関連施設で患者の募集が行われた(Cancer Research UKの助成を受けた)。

 年齢18歳以上、pT1-3、pN0-3a、M0の浸潤がんで、乳房温存手術を受け、局所再発リスクが高い女性が、次の3つの放射線治療に1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。

(1)対照群:全乳房への40Gy 15分割の照射+腫瘍床への光子線を用いた16Gy 8分割の逐次ブースト照射。
(2)試験群1:全乳房への36Gy 15分割の照射、40Gy 15分割の部分照射、腫瘍床への光子線を用いた48Gy 15分割の同時ブースト照射。
(3)試験群2:全乳房への36Gy 15分割の照射、40Gy 15分割の部分照射、腫瘍床への光子線を用いた53Gy 15分割の同時ブースト照射。

 主要評価項目は、intention to treat集団におけるIBTR(浸潤がんまたは非浸潤性乳管がんの発生)であった。対照群の5年IBTR発生率を5%と仮定し、試験群の絶対的過剰が3%以下(両側95%信頼区間[CI]の上限値)の場合に非劣性と判定することとした。

試験群2は、硬結の5年発生率が有意に高い

 2,617例が登録され、対照群に871例(年齢中央値49.4歳)、試験群1に874例(48.9歳)、試験群2に872例(49.2歳)が割り付けられた。ベースラインの全体の腫瘍床の臨床的標的体積の中央値は12.8cm3だった。

 フォローアップ期間中央値74ヵ月の時点で、IBTRイベントは76例で発生し、対照群が20例、試験群1が21例、試験群2は35例だった。5年IBTR発生率は、対照群が1.9%(95%CI:1.2~3.1)、試験群1が2.0%(1.2~3.2)、試験群2は3.2%(2.2~4.7)であった。

 対照群と比較したIBTR発生率の推定絶対差は、試験群1が0.1%(95%CI:-0.8~1.7)、試験群2は1.4%(0.03~3.8)であり、試験群1(同時ブースト照射48Gy 15分割)で対照群に対する非劣性が示された。

 また、乳房の硬結の5年発生率は、対照群が11.5%であったのに対し、試験群1は10.6%(対照群との比較のp=0.40)、試験群2は15.5%(対照群との比較のp=0.015)であった。

 著者は、「再発率は予想よりはるかに低く、全群とも晩期有害作用の発生率も低かった」とまとめ、「本試験は、主要評価項目のイベント発生率がきわめて低かった場合の非劣性の評価の難しさを浮き彫りにしている。SIBは来院回数が少なく安全な治療法であり、53Gy SIBへの線量の増量に利点はないと考えられる」と指摘している。なお、フォローアップは継続中であり、10年後の結果の報告が予定されているという。

(医学ライター 菅野 守)


【原著論文はこちら】

Coles CE, et al. Lancet. 2023 Jun 8. [Epub ahead of print]

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