T-DXd、HER2陽性乳がん2次治療に適応拡大/第一三共

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 第一三共株式会社は2022年11月24日、HER2に対する抗体薬物複合体(ADC)トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd、商品名:エンハーツ)について、「化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能又は再発乳癌」の効能又は効果に係る国内製造販売承認事項一部変更承認を取得したことを発表した。

 本適応は、HER2陽性の再発・転移乳がん患者への2次治療を対象としたグローバル第III相臨床試験(DESTINY-Breast03)の結果に基づくもので、2021年12月に国内製造販売承認事項一部変更承認申請を行っていた。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


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「G-CSF適正使用ガイドライン 2022年版」海外ガイドラインの模倣ではなく、科学的な手法を徹底/日本癌治療学会

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 がん薬物療法はさまざまな有害事象を伴うが、好中球減少は多くの薬剤で頻発する有害事象であり、時に重篤な感染症を引き起こし死に至ることもある。好中球減少と同時に発熱が生じる「発熱性好中球減少症(FN:Febrile Neutropenia)」を防ぐために使用されるのがG-CSF製剤である。

 G-CSF製剤の適正使用に関しては、1994年にASCO(米国臨床腫瘍学会)がガイドラインを作成し、以来、改訂を重ねて、世界中で参照されている。2013年に刊行された「G-CSF適正使用ガイドライン第1版」は、ASCOのガイドラインと歩調を合わせる形で作成され、FNのリスクが高い場合には、G-CSFの「予防投与」を行うことが強く推奨された。日本では、G-CSFの予防投与は一部のがんを除いて保険適用となっておらず、FNが起きてから使う「治療投与」が主流であったが、そんな医療現場に一石を投じることになった。

 そして2022年10月、大幅に改訂された「G-CSF適正使用ガイドライン 第2版」(日本癌治療学会・編)が刊行された。Web版としては4年ぶり、書籍版としては7年ぶりの改訂となる。4年に及ぶ改訂作業を率いた、G-CSF適正使用ガイドライン改訂ワーキンググループ(WG)委員長の高野 利実氏(がん研有明病院 院長補佐)に改訂のポイントを聞いた。

 「今回の改訂における最大の変更点は、『Minds診療ガイドライン作成の手引き』に準拠し、エビデンスに基づく評価を徹底したことです。世界的な潮流であり当然の決断ではあったのですが、がん種によっては、G-CSFのありなしを比較する研究があまりなく、推奨の決定に苦慮しました。『FN発症率20%を基準にG-CSF使用の是非を判断する』という前提が、ASCOのガイドライン等で採用されているのですが、このカットオフに明確な根拠はないため、私たちは、この前提から離れた上で、G-CSFの有用性を評価するために、がん種別にシステマティックレビューを行いました」

 「作業は苦難の連続でしたが、WG委員とシステマティックレビューチームの総勢42名の4年間にわたる努力で、完成させることができました。推奨の強さが1(強い)となったクリニカル・クエスチョン(CQ)は少なく、『弱く推奨する』『有用性は明らかでない』という記述が多くなってしまいましたが、解説文では、G-CSFを使用することの益と害についてのレビュー結果を記載し、現場での判断に役立つように工夫しました」

 「刊行前のパブリックコメントでは『ASCOやNCCNのガイドラインに倣うべきでは』『20%のカットオフの方が使いやすい』といった意見も寄せられましたが、『海外の権威』や『使いやすさ』に安易になびくよりも、科学的に妥当であることを重視しました。結果として、世界に類を見ない新しいガイドラインになりました。疾患によってはエビデンスが乏しいことも明らかになりましたので、これからは、新たなエビデンスを創出していく必要があると認識しています」

『G-CSF適正使用ガイドライン 2022年10月改訂 第2版』
編集/日本癌治療学会
発行/金原出版
B5判 208ページ
定価 3,520円(税込)

(ケアネット 杉崎 真名)


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乳がん治療におけるタキサン3剤の末梢神経障害を比較

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 乳がん治療におけるnab-パクリタキセル、パクリタキセル、ドセタキセルによる化学療法誘発性末梢神経障害の患者報告を比較したコホート研究の結果を、中国・Chinese Academy of Medical Sciences and Peking Union Medical CollegeのHongnan Mo氏らが報告した。化学療法誘発性末梢神経障害はnab-パクリタキセル群よりパクリタキセル群およびドセタキセル群で有意に少なく、nab-パクリタキセルでは主に感覚神経障害である手足のしびれ、パクリタキセルおよびドセタキセルでは主に運動神経障害および自律神経障害が報告された。また、感覚神経障害よりも運動神経障害のほうが早く報告されていた。JAMA Network Open誌2022年11月2日号に掲載。

 本研究は、2019~21年に中国全土の9つの医療センターで実施された前向きコホート研究である。対象は、nab-パクリタキセル、パクリタキセル、ドセタキセルベースのレジメンで治療を受けた入院中の浸潤性乳がん女性1,234例で、overlap propensity score weightingによる重み付けで評価した。2021年12月~2022年5月のデータを解析し、主要評価項目は欧州がん研究治療機関(ERT)のQOL調査票(感覚神経、運動神経、自律神経スケールの20項目)を用いた患者報告による化学療法誘発性末梢神経障害とした。解析には、ベースラインの患者、腫瘍、治療の特性で調整した重回帰モデルを用いた。

 主な結果は以下のとおり。

・1,234例の平均(SD)年齢は50.9(10.4)歳で、nab-パクリタキセルが295例(23.9%)、パクリタキセルが514例(41.7%)、ドセタキセルが425例(34.4%)だった。
・主な症状は、nab-パクリタキセル群では感覚神経に関連する手足のしびれ(81.4%)が多く、パクリタキセル群およびドセタキセル群では運動神経障害(例として、脚力低下はパクリタキセル群47.2%、ドセタキセル群44.4%)、自律神経障害(例として、目のかすみはパクリタキセル群45.7%、ドセタキセル群43.6%)が報告された。
・運動神経障害は、感覚神経障害より早い時期に報告され、症状発現までの中央値はnab-パクリタキセル群0.4週間(95%信頼区間[CI]:0.4~2.3)、パクリタキセル群2.7週間(同:1.7~3.4)、ドセタキセル群5.6週間(同:3.1~6.1)であった。
・患者報告による化学療法誘発性末梢神経障害のリスクは、nab-パクリタキセル群に比べてパクリタキセル群(ハザード比[HR]:0.59、95%CI:0.41~0.87、p=0.008)とドセタキセル群(HR:0.65、95%CI:0.45~0.94、p=0.02)で低く、感覚的不快感も、nab-パクリタキセル群と比べて、パクリタキセル群(HR:0.44、95%CI:0.30~0.64、p<0.001)およびドセタキセル群(HR:0.52、95%CI:0.36~0.75、p<0.001)で低かった。しかし、運動神経障害や自律神経障害を報告するリスクは、nab-パクリタキセル群に比べ、パクリタキセル群、ドセタキセル群が低くはなかった。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Mo H, et al. JAMA Netw Open. 2022;5:e2239788.

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新経口薬camizestrant、ER+進行乳がんでフルベストラントに対しPFS延長/AZ

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 アストラゼネカは2022年11月8日、次世代経口選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)であるcamizestrantが、進行乳がんに対して内分泌療法による治療歴があり、エストロゲン受容体(ER)陽性の局所進行または転移乳がんを有する閉経後の患者を対象に、フルベストラント500mgと比較して、75mgおよび150mgの両用量で主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)において、統計学的に有意かつ臨床的に意義のある延長を示したと発表した。なお、camizestrantの忍容性は良好であり、安全性プロファイルは過去の試験で認められたものと一貫しており、新たな安全性上の懸念は確認されていない。

 camizestrantは、強力で経口投与可能なSERDかつERへの完全拮抗薬であり、ER活性型変異を含む幅広い前臨床モデルで抗がん活性を示している。第I相臨床試験(SERENA-1試験)では、camizestrantの忍容性が良好であり、単剤療法またはCDK4/6阻害薬パルボシクリブとの併用療法として投与したときに有望な抗腫瘍プロファイルを有することが示されている。

 今回結果が発表されたSERENA-2試験は、ER陽性HER2陰性の進行乳がん患者を対象に、複数の用量のcamizestrantをフルベストラントと比較して評価する、無作為化非盲検並行群間多施設共同第II相臨床試験。主要評価項目は、フルベストラント(500mg)との比較によるcamizestrant(75mg)のPFS、およびフルベストラントとの比較によるcamizestrant(150mg)のPFSであり、Response Evaluation Criteria In Solid Tumours(RECIST)ガイドライン第1.1版の定義に従い評価される。240例をcamizestrant群またはフルベストラント群に無作為に割り付け、病勢進行が認められるまで治療を実施した。副次評価項目は、24週目の安全性、客観的奏効率および臨床的ベネフィット率(CBR)など。本試験の詳しい結果は、今後の医学学会で発表される予定となっている。

 また、一次治療中にESR1遺伝子変異が検出されたHR陽性の転移乳がん患者を対象にcamizestrantとCDK4/6阻害剤(パルボシクリブまたはアベマシクリブ)の併用療法を評価する検証的第III相臨床試験であるSERENA-6試験や、HR陽性の局所進行または転移乳がんへの一次治療におけるcamizestrantとパルボシクリブの併用療法を評価する第III相SERENA-4試験などが実施されており、SERENA-6試験の適応症は米国食品医薬品局(FDA)よりファストトラック指定を付与されている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


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乳がんの再発恐怖を認知行動療法アプリが軽減/名古屋市⽴⼤学ほか

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 患者⾃⾝で認知⾏動療法を実施できるスマートフォンアプリを⽤いることで、乳がん患者の再発に対する恐怖が軽減したことを、名古屋市⽴⼤学⼤学院精神・認知・⾏動医学分野の明智 ⿓男氏らの共同研究グループが発表した。スマートフォンのアプリを用いることで通院などの負担を⼤きく軽減でき、場所や時間を選ばずに苦痛を和らげるための医療を受けられるようになることが期待される。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版11月2日掲載の報告。

 先⾏研究において、問題解決療法アプリ「解決アプリ」と⾏動活性化療法アプリ「元気アプリ」(下欄参照)を京都⼤学、国立精神・神経医療研究センターが共同で開発し、乳がん患者の再発に対する恐怖を和らげる可能性があることが⼩規模の臨床試験で⽰されていた。本研究では、乳がん患者を、通常の治療に加えて上記2つのアプリを使⽤する群と使⽤しない群に無作為に割り付け、8週後に再発に対する恐怖が和らぐかどうかを検討した。

 参加対象は20~49歳の女性で、⼿術後1年以上再発のない乳がん患者。主要評価項目は8週までの再発恐怖で、副次的評価項目は24週までの抑うつと心理的ニード(⼼理的側⾯に関するケアの必要性)、外傷後成長などであった。

 主な結果は以下のとおり。

・447例が研究に参加し、アプリ使⽤群223例とアプリを使⽤しない群224例に割り付けられた。年齢の中央値は45歳で、約半数はフルタイムで就労していた。
・アプリを使用しない群に比べ、アプリ使⽤群では、開始から4週時点で再発に対する恐怖が統計学的に有意に下がり、その効果は8週時点においても継続した(p<0.001)。8週と24週における再発恐怖に差はみられなかったことから、その効果は24週時点も継続している可能性がある。
・抑うつと⼼理的ニードもアプリ使用群では有意に改善し、24週まで継続した(それぞれp<0.05)。外傷後成長では有意差はみられなかった。
・⼀部の参加者に聞き取り調査を⾏った結果、副作⽤はみられなかった。

 研究グループは、「分散型臨床試験という新たな研究基盤を開発して研究を行った結果、多くのフルタイムで就労されている方に参加いただくことができた。これは、がんの治療のみならず、患者さんの生活の質の向上に必要な支持療法を受けながら、仕事も両立させることを可能とすることを意味する。今後、分散型臨床試験の基盤を広く社会に実装していくことで、患者さんの負担を、体力的な側面のみならず、時間的にも経済的にも軽減しながら、支持療法の開発を加速することが可能である」とコメントした。

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<解決アプリ>7つのセッション(1つの導入セッション、4つの問題解決療法の5段階を学習するセッション、1つのトレーニングセッション、1つのエピローグセッション)から構成される。最短で4週間で完了でき、各セッションに要する時間は30分程度。患者の日常生活上の問題を分類し、具体的に達成可能な目標を定め、解決策をブレインストーミングし、解決策のメリットとデメリットを比較して、最終的に実際にやってみたい解決策を選ぶ方法を習得していく。
<元気アプリ>2セッション(行わなくなった行動に気づき再挑戦するセッションと新たな行動に挑戦するセッション)から構成される。終了までに最短で2週間、標準で8週間を要する。各セッションに要する時間は週30分程度。「行動が変われば気分も変わる」という原理に基づき、喜びや達成感のある活動をすることの重要性についての学習を行い、やめてしまった楽しい活動や今までやったことのない楽しそう/新しそうな活動を実際にやってみて、その結果を評価するということを繰り返す。
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(ケアネット 森 幸子)


【原著論文はこちら】

Akechi T, et al. J Clin Oncol. 2022 Nov 2. [Epub ahead of print]

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ガーダントヘルスジャパン、Guardant360 CDxでエスアールエルと業務提携

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 ガーダントヘルスジャパンとエスアールエルは、固形がん患者を対象とした包括的がんゲノムプロファイリング(CGP)用リキッドバイオプシー検査Guardant360 CDx がん遺伝子パネル(Guardant360CDx)のサービス提供のために業務提携契約を締結した。

 ガーダントヘルスジャパンは、今回の業務提携によりSRLの遺伝子検査領域におけるロジスティックスならびにネットワーク、サービスを活用することが可能となる。SRLが医療機関から検体を受理してから14日を目途に、国立がん研究センター、がんゲノム情報管理センター(C-CAT)およびGuardant360 CDxがん遺伝子パネル検査ポータルに解析結果を提供する。

 Guardant360 CDxは、米国食品医薬品局(FDA)から2020年8月、日本では2022年3月10日に、すべての固形がんに対する包括的リキッドバイオプシーとして承認を取得している。また、わが国のコンパニオン診断としては、2021年12月にKRAS G12C阻害薬ソトラシブの切除不能非小細胞肺がん、2022年3月にペムブロリズマブのMSI-High固形がんおよびニボルマブのMSI-High結腸・直腸がんに承認されている。

(ケアネット 細田 雅之)


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LINEを使った患者報告システムを副作用マネジメントに活かす/日本癌治療学会

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 薬剤の副作用は、医師の評価と患者の捉え方が大きく異なるケースが多いことは以前から報告されていた。PRO(Patient Reported Outcome)とは、医師の評価を経ず、患者自身が副作用を報告するシステムを指し、これを電子的に行うePRO(electronic Patient Reported Outcome:電子的な患者報告アウトカム)取得システムが世界各地で開発され、実際の運用や効果測定のための臨床試験が行われている。

 慶應義塾大学が開発した乳がん患者を対象としたePROについて、同大外科学教室の林田 哲氏が第60回日本癌治療学会学術集会(10月20~22日)上で発表した。

 このePROはLINEを利用しており、対象となる乳がん患者はシステムから送られてくる症状に関する問いかけに返信し、そのデータがプラットフォームに蓄積され、適切な患者管理や副作用マネジメントに役立てる、というもの。システムへの登録はLINEの「友だち追加」、返信は症状の重さをタップで選択するだけ、と非常に簡便に使えることが特徴だ。「化学療法」「ホルモン療法」「転移・再発」などの治療別に送付頻度や質問内容のパターンが設定されており、事前に医療者が設定する。また、質問は有害事象評価の国際規格であるCommon Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)に基づいており、国際標準に合致したデータとしても利用できる。

 この「LINE ePRO」の受容度を見たAQUARIUS試験では、73例の患者が登録され、観察期間中央値435日(84~656日)のあいだに収集されたレポート総数は1万6,417件、1人あたり平均224件だった。年代別に見ると、60歳以上の層でも回答数は若年層と同等かそれ以上であり、LINEの浸透度を背景とした、高い受容度を確認できたという。

 AQUARIUS試験を受け、現在進行中のLIBRA試験は、HR+/HER2-の進行再発乳がん患者60例を対象とした前向き試験。アベマシクリブ投与後に、副作用としてとくに頻度が高い下痢に対してePRO報告システムを使用した症状のモニタリングを行ったうえで、がん専門看護師からの助言の有無を比較する試験デザイン。治療期間中の下痢の程度や頻度を抑制可能かどうかの検証を行うことを目的とする。現時点で半数程度の患者登録が終わっており、来年の終了、発表を見込んでいるという。

(ケアネット 杉崎 真名)


【参考文献・参考サイトはこちら】

Hayashida T, et al. Cancer science. 2022;113:1722-1730.

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転移乳がんへの局所療法はescalationなのか?/日本癌治療学会

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 転移乳がんに対する積極的な局所療法の追加は、がんが治癒しなくても薬剤使用量を減らすことができればescalationではなくde-escalationかもしれない。第60回日本癌治療学会学術集会(10月20~22日)において、岡山大学の枝園 忠彦氏は「転移乳がんに対する局所療法はescalationかde-escalationか?」と題した講演で、3つのクリニカルクエスチョンについて前向き試験の結果を検証し、転移乳がんにおける局所療法の意義について考察した。

 転移乳がんにおいて治癒は難しいが、ある特定の患者ではきわめて長期生存する可能性があり、近年そのような症例が増えてきているという。枝園氏はその背景として、PETなどの画像検査の進歩により術後早期に微小転移の描出が可能となったこと、薬物療法が目まぐるしく進歩していること、麻酔や手術が低侵襲で安全になってきていること、SBRT(体幹部定位放射線治療)が保険適用され根治照射が可能になったことを挙げた。この状況の下、3つのクリニカルクエスチョン(CQ)について考察した。

CQ1 転移乳がんに対する局所療法は生存期間を延長するか?(escalationとしての局所療法の意義)
 de novo StageIV乳がんに対して原発巣切除を行うかどうかは、すでに4つの臨床試験(ECOG2018、India、MF07-01、POSITIVE)でいずれも生存期間を延長しないことが明らかになっており、現時点でescalationとして原発巣切除をする意義はないと考えられると枝園氏は述べた。なお、一連の臨床試験の最後となるJCOG1017試験は、今年8月に追跡期間が終了し、現在主たる解析中で来年結果を報告予定という。

 一方、オリゴ転移に対する局所療法の効果については、杏林大学の井本 滋氏らによるアジアでの後ろ向き研究において、局所療法を加えた症例、単発病変症例、無病生存期間が長い症例で予後が良いことが示されている。前向き試験も世界で実施されている。SABR-COMET試験はオリゴ転移(5個以下)に対する積極的な放射線療法を検討した試験で、SBRT群が通常の放射線療法に比べ、無増悪生存期間だけでなく全生存期間の延長も認められた。ただし、本試験には乳がん症例は15~20%しか含まれていない。

 それに対し、乳がんのオリゴ転移(4個以下)に対するSBRTの効果を検討したNRG-BR002試験では、SBRTによる有意な予後の延長は認められなかった。しかしながら、本試験で薬物療法がしっかりなされているのか疑わしく、また転移検索でPET検査を実施していないため転移が本当に4個以下だったのか曖昧であることから、この試験結果によって「オリゴ転移に対する局所療法は有効ではない」という結論にはなっていないという。

 国内でも、枝園氏らがオリゴ転移(3個以下)を有する進行乳がんに対する根治的局所療法追加の意義を検証するランダム化比較試験(JCOG2110)の計画書を作成中で、年末もしくは来年早々に登録を開始予定である。

CQ2 転移乳がんに対する局所療法は局所の状態を改善するか?(escalationとしての局所療法の意義)
 このCQに関するデータとしては、de-novo StageIV乳がんに対する原発巣切除のデータしかないが、局所コントロールは手術ありで非常に良好で、手術なしに比べて局所の悪化を半分以下に抑えている。また、先進国であるECOGの試験では、手術なしでも4分の3は局所が悪化しておらず、枝園氏は、全例に対して局所コントロールの目的で手術が必要というわけではないとしている。手術ありのほうが術創の影響などで18ヵ月後にQOLスコアが悪化したという試験結果もある。

CQ3 転移乳がんは治癒するか?(de-escalationとしての局所療法の意義)
 枝園氏は、転移乳がんが局所切除によって本当に治癒するのであれば、薬物療法を中止できることからde-escalationなのではないかと述べ、自身が経験したホルモン陰性HER2陽性StageIV乳がんの52歳の女性の経過を紹介した。本症例ではトラスツズマブの投与で転移巣が完全奏効(CR)し、原発巣の残存病変については切除した。その後トラスツズマブを継続し、再燃がみられないため中止、そのまま無治療で8年間再燃していないことから、この手術はde-escalationとなったのではないかと考察している。

 また、転移乳がんに対する薬物療法の効果はサブタイプによって大きく異なり、たとえば1次治療におけるCR率はHER2陽性では28%、ER陽性ではわずか2%である。薬物療法だけでCRを達成できるなら局所療法は不要であり、それらを見極めたうえで局所療法をうまく使わないといけないと枝園氏は述べた。

 さらに、CRを達成したら薬物を中止できるのかという問いに関して、枝園氏は、データとして出すことはできないが、HER2陽性転移乳がんに1次治療としてトラスツズマブを投与しCRを達成した患者において、投与中止患者の80%が10年以上生存していたとのJCOGの多施設後ろ向き研究のデータを提示した。

 最後に、枝園氏は3つのCQを総括したうえで「それぞれのescalation、de-escalationで良し悪しがあり、もう少しデータが必要ではないか」と述べ、講演を終えた。

(ケアネット 金沢 浩子)


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センチネルリンパ節転移乳がん、ALNDとRNIの必要性についての検討/日本癌治療学会

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 センチネルリンパ節転移陽性乳がんにおいて、腋窩リンパ節郭清(ALND)や領域リンパ節照射(RNI)がどのような症例で必要となるのかについては議論がある。Sentinel Node Navigation Surgery研究会では、センチネルリンパ節転移陽性例において、センチネルリンパ節生検(SNB)単独群とSNB後の腋窩リンパ節郭清(ALND)群を比較する多施設共同前向きコホート研究を実施。井本 滋氏(杏林大学)が、第60回日本癌治療学会学術集会(10月20~22日)で結果を報告した。

 本研究では、cT1-3N0-1M0の女性乳がん患者を対象とし、組織学的または分子生物学的診断で1~3個のセンチネルリンパ節微小転移またはマクロ転移陽性が確認された場合に、医師の裁量でSNB単独またはALNDの追加を決定した。SNB前後の化学療法は可とし、両側および遊離腫瘍細胞(ITC)の症例は除外された。

 主要評価項目はSNB群における5年局所再発率、副次評価項目は5年全生存率(OS)。SNB群とALND群を比較するために、傾向スコアマッチング(PSM)が行われた。

 主な結果は以下のとおり。

・2013~16年に国内27施設から888例が登録された。871例の適格例のうち、SNB群が308例、ALND群が563例だった。
・臨床病理学的背景について、センチネルリンパ節マッピングは色素が約9割/アイソトープが約7割、OSNAが2~6%程度使われており、浸潤性乳管がん(IDC)が約9割、術前/術後化学療法はALND群でやや多い傾向がみられた。内分泌療法が両群で約8割と比較的多く実施されていた。
・観察期間中央値6.3年でのSNB群における5年局所再発率は2.7%(95%信頼区間[CI]:1.4~5.4%)、5年OSは97.6%(95%CI:94.9~98.8%)だった。
・初回治療、転移巣のサイズ、臨床病期、手術の種類、リンパ節転移数について両群間で差がみられ、これらの因子について調整してPSMが行われた。
・PSMの結果、SNB群とALND群で209例ずつがマッチングされた。そのうち343例(82%)が初回治療として手術を受けていた。温存術が225例(54%)、全切除が193例(46%)で施行されていた。
・センチネルリンパ節転移の数は1個が366例(88%)を占め、2個が48例(11%)、3個が4例(1%)だった。マクロ転移と微小転移はそれぞれ271例(65%)と147例(35%)で診断された。
・376例(90%)がLuminalタイプで、領域リンパ節照射(RNI)はSNB群42例(20%)、ALND群13例(6%)で施行されていた。
・5年局所再発率はSNB群で2.1%(95%CI:0.8~5.3%)、ALND群で2.0%(95%CI:0.8~5.5%)だった。
・5年局所再発率はALNDあり/ALNDなしおよびRNIあり/RNIなしで差はみられなかった。

 井本氏は本結果より、センチネルリンパ節1個転移症例での腋窩治療はSNBのみで問題がないであろうとまとめた。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


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HER2低発現乳がんに対するNACの効果/日本癌治療学会

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 乳がんのHER2発現は免疫染色法で0~3+に分類され、0、1+、2+で遺伝子増幅がない場合はHER2陰性として治療方針が決定されるが、近年、HER2低発現例は術前化学療法(NAC)の有効性からHER2非発現例とは異なるグループであることが示唆されている。甲南医療センター乳腺外科(前兵庫県立がんセンター)の高尾 信太郎氏は、HER2低発現乳がんとHER2非発現乳がんにおけるNAC施行後の有効性と予後の違いを比較検討し、第60回日本癌治療学会学術集会(10月20~22日)で発表した。

 高尾氏らは、2002年7月~2021年7月に、兵庫県立がんセンターでNAC施行後に手術を受けた乳がん患者530例を、免疫染色法およびFISH法で、HER2非発現群(IHC0)、HER2低発現群(IHC1+またはIHC2+でFISH-)、HER2陽性群(IHC3+または2でFISH+)の3群に分け、そのうちHER2非発現群とHER2低発現群の特徴、NACの有効性、5-FU系経口抗がん剤による術後化学療法の有効性を後方視的に検討した。

 主な結果は以下のとおり。

・530例中、HER2非発現群が114例(21.5%)、HER2低発現群が228例(43.0%)であった。
・ホルモン受容体陽性(HR+)は、HER2非発現群で61例(53.5%)、HER2低発現群で167例(73.2%)であった(p=0.000418)。
・腫瘍径、リンパ節転移、組織系分布、手術方法は両群で差はみられなかった。
・NACの有効性:
 -全奏効率(ORR):HER2非発現群85.1%、HER2低発現群84.2%、p=0.958
 -臨床的完全奏功(cCR)率:HER2非発現群24.6%、HER2低発現群14.0%、p=0.0237
 -病理学的完全奏効(pCR)率:HER2非発現群23.7%、HER2低発現群10.1%(p<0.01)
 -HR+/-にかかわらず、ORRは両群で同等であったが、cCRおよびpCRはHER2非発現群よりもHER2低発現群で低い傾向にあった。
・ログランク検定の結果、無病生存期間(DFS)および全生存期間(OS)は両群で有意差はみられなかった(それぞれp=0.593、p=0.168)。HR+/-にかかわらず同様の結果であった。
・pCRを達成した群では、non-pCR群に比べてDFS、OSが良好であった。HER2非発現群、HER2低発現群の両群で同様の結果であった。
・non-pCRであった292例中62例(HER2非発現群16例、HER2低発現群46例)が5-FU系経口抗がん剤による術後化学療法を施行したが、両群ともに有意なDFSおよびOSの改善はみられなかった(それぞれp=0.723、p=0.938)。
・NAC後non-pCR症例のうち、同一症例でNAC前後にHER2発現を調べた146例において、HER2発現の不一致率は26.0%であった。NAC前はHER2非発現でNAC後にHER2低発現に変化したのは40.0%、NAC前後でHER2低発現を維持したのは80.2%であった。この傾向はHR+で顕著であった。
・NAC前はHER2非発現でNAC後にHER2低発現に変化した群、およびNAC前後でHER2低発現を維持した群ではDFSが良好な傾向を示した(それぞれp=0.125、p=0.205)。
・NAC前後のDFSおよびOSは、NAC前においてはHER2非発現群とHER2低発現群に差はみられなかったが(それぞれp=0.1469、p=0.260)、NAC後においてはHER2非発現群よりもHER2低発現群のほうが有意に良好であった(それぞれp=0.0114、p=0.00344)。

 高尾氏は、「NAC前ではHER2非発現群とHER2低発現群で予後に差はなかったが、NAC後non-pCR症例にHER2発現を再検討した結果、両群に明らかな予後の差がみられた。これはNAC後のnon-pCR症例の治療方針を考えるうえで非常に重要な所見であり、さらに詳しい解析を行いたい」と述べた。

(ケアネット 森 幸子)


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