HER2低発現進行乳がんへのT-DXd、患者報告アウトカム(DESTINY-Breast04)/ESMO2022

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 HER2低発現で既治療の進行乳がん患者に対する、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)と治験医師選択の化学療法(TPC)を比較した第III相DESTINY-Breast04試験における、患者報告アウトカムの解析結果が報告された。米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの上野 直人氏が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で発表した。

 DESTINY-Breast04試験では、T-Dxd群でHR+コホートにおけるPFS中央値(10.1ヵ月vs.5.4ヵ月、HR:0.51、p<0.0001)およびOS中央値(23.9ヵ月vs.17.5ヵ月、HR:0.64、p=0.0028)を有意に改善した。安全性については、Grade3以上のTEAEはT-Dxd群53% vs.TPC群67%で発生し、T-Dxd群で多くみられた治療関連TEAEは、吐き気(73% vs.24%)、倦怠感(48% vs.42%)、TPC群では好中球減少症(33% vs.51%)だった。

・対象:HER2低発現(IHC 1+またはIHC 2+/ISH-)、1~2ラインの化学療法歴のある切除不能および/または転移を有する乳がん患者(ホルモン受容体陽性[HR+]の場合は内分泌療法抵抗性) 557例
 以下の2群に2対1の割合で無作為に割り付け
・試験群(T-DXd群):T-DXdを3週間間隔で5.4mg/kg投与 373例
・対照群(TPC群):治験医師選択の化学療法(カペシタビン、エリブリン、ゲムシタビン、パクリタキセル、ナブパクリタキセルのいずれか) 184例
・評価項目:
[主要評価項目]HR+患者における無増悪生存期間(PFS)
[副次評価項目]全例におけるPFS、HR+患者および全例における全生存期間(OS)、安全性、HR+患者における患者報告アウトカム(PRO)など
・PROの測定:EORTC QLQ-C30、EORTC QLQ-BR23およびEQ-5D-5Lの質問票を用いて、3サイクル目までは各サイクルごと、以降は2サイクルごと、治療終了40日後、3ヵ月後に実施。ベースラインからの変化および決定的な悪化までの時間(TDD)が評価された。悪化は10点以上の増加と定義された。

 主な結果は以下のとおり。

・HR+コホートは、T-Dxd群331例vs.TPC群163例。年齢中央値は56.8歳vs.55.7歳、IHC 1+の患者が両群とも約58%を、前治療はCDK4/6阻害薬が約70%を占めた。
・両群とも、ベースラインで92%超、2~27サイクルでは80%超の質問票遵守率だった。
・ベースラインでの平均GHSスコアは、T-Dxd群36.3±21.8 vs.TPC群37.8±22.5だった。
・QLQ-C30のGHS/QOLの平均変化量は、T-Dxd群では27サイクルまで安定(±10点)しており、TPC群では13サイクルまで安定していた。
・倦怠感については、両群ともに治療中全サイクルを通じてQLQ-C30のスコア変化は<10点で安定していた。吐き気については、T-Dxd群で早期サイクルで<10点のスコア上昇がみられたが、7サイクル以降は減少し、安定的なスコアとなっていた。
・GHS/QOLのTDD中央値はT-DXd群11.4ヵ月vs.TPC群7.5ヵ月(ハザード比[HR]:
0.69、95%信頼区間[CI]:0.52~0.92、p=0.0096)で、吐き気を除くすべての事前に規定したQLQ-C30サブスケールにおいてT-DXdの方がTDDが長く、痛みについてのTDD中央値はT-DXd群16.4ヵ月vs.TPC群6.1ヵ月(HR:0.40、95%CI:0.30~0.54、p<0.0001)だった。

 上野氏は、今回の結果はT-DXdによる治療がTPCと比較してGHS/QOLスコアを長く維持し、QOLベネフィットを示したとし、患者視点でのQOLの向上が、DESTINY-Breast04試験の有効性・安全性を裏付けているとコメントした。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【参考文献・参考サイトはこちら】

1)Modi S, et al. N Engl J Med. 2022 Jul 7;387:9-20.

2)DESTINY-Breast04試験(Clinical Trials.gov)

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TILsを有するTN乳がんへの術前ニボルマブ±イピリムマブ、高い免疫活性示す(BELLINI)/ESMO2022

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 術前化学療法への免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の追加による、早期トリプルネガティブ(TN)乳がん患者の転帰改善が報告されているが、どのような患者にICIが有効なのか、そしてどのような患者で術前化学療法のde-escalationが可能なのかは分かっていない。また早期TN乳がんでは、抗PD-1抗体への抗CTLA-4抗体の追加は検討されていない。オランダ・Netherlands Cancer InstituteのMarleen Kok氏らは、ニボルマブ±低用量イピリムマブの投与が、TILsを有するTN乳がんにおいて免疫応答を誘発するという仮説の検証を目的として、第II相非無作為化バスケット試験(BELLINI試験)を実施。その最初の結果を欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で発表した。

・対象:T1c~T3、TILs≧5%のTN乳がん患者 31例
・試験群:
ニボルマブ群(NIVO群):ニボルマブ(240mg)×2サイクル 16例
ニボルマブ+イピリムマブ群(NIVO+IPI群):ニボルマブ(240mg)×2サイクル+イピリムマブ(1mg/kg)×1サイクル 15例
※両群ともにTIL5~10%:5例、TIL11~49%:5例、TIL≧50%:5例
※両群ともに4週間後患者は術前化学療法あるいは手術を受ける
・評価項目:
[主要評価項目]4週間後のCD8+T細胞および/またはIFN-γ発現の2倍変化で定義される免疫活性化
[副次評価項目]安全性、放射線学的反応(RECIST1.1)、トランスレーショナル解析
※Simonの2段階デザインにより、30%の患者で免疫活性が確認された場合、コホートの拡大が可能となる。

 主な結果は以下のとおり。

・ベースライン時点の年齢中央値はNIVO群48歳、NIVO+IPI群50歳。grade3腫瘍が93.8%、73.3%。BRCA1/2変異有が18.8%、20.0%だった。無作為化されていないため、NIVO群ではN0が81.3%と最も多かったのに対し、NIVO+IPI群ではN1が60.0%と最も多かった。
・4週間後の放射線学的部分奏効(PR)は7/31例(23%)で認められ、うちNIVO群3例(19%)、NIVO+IPI群4例(27%)であった。また、7例のうち3例はTIL≧50%、4例はTIL11~49%だった。
・主要評価項目である4週間後の免疫活性化はNIVO群8例(53.3%)、NIVO+IPI群9例(60.0%)でみられ、コホート拡大基準(30%)を満たした。
・PRを示した患者ではベースライン時点のIFN-γ発現量が多かった(p=0.014)。
・ベースライン時点のCD8+T細胞レベルは奏効と相関しなかったが、空間解析により、CD8+T細胞が腫瘍細胞により隣接していることが奏効と強く関連していることが明らかになった(p=0.0014)。
・ベースライン時点では全体の83%の患者でctDNA陽性が確認されたが、4週間後のctDNAクリアランスは24%の患者で確認された。
・安全性については、Grade3以上の有害事象はNIVO群1例(6%、甲状腺機能亢進症)、NIVO+IPI群1例(7%、糖尿病)のみであった。

 Kok氏らは、TILsを有するTN乳がん患者の多くが、わずか4週間のICI投与で免疫活性の上昇を示し、臨床効果が得られたことから、TN乳がん患者に対する術前化学療法なしのICI投与の可能性が示唆されたと結論付けている。そのうえで同氏は今後の展望として、NIVO群vs. NIVO+IPI群のシングルセル解析や、TIL>50%・N0の患者群における6週間のニボルマブ+イピリムマブ投与後手術を行った場合のpCR率の評価が必要とした。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【参考文献・参考サイトはこちら】

BELLINI試験(Clinical Trials.gov)

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HER2低発現のHR+転移乳がんに対するSGの有効性(TROPiCS-02)/ESMO2022

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 複数の治療歴があるHR+/HER2-転移乳がん患者に対する抗体薬物複合体sacituzumab govitecan(SG)の有用性を評価する第III相TROPiCS-02試験で、SGが医師選択治療(TPC)より無増悪生存期間(PFS)を改善したことがASCO2022で報告されている。今回、本試験の事後解析として、HER2低発現(IHC1+、またはIHC2+かつISH陰性)患者とHER2 IHC0患者に分けて評価した結果について、ドイツ・Heidelberg UniversityのFrederik Marme氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で発表した。

・対象:転移または局所再発した切除不能のHR+/HER2-乳がんで、転移後に内分泌療法またはタキサンまたはCDK4/6阻害薬による治療歴が1ライン以上、化学療法による治療歴が2~4ラインの成人患者
・試験群:SG(1、8日目に10mg/kg、21日ごと)を病勢進行または許容できない毒性が認められるまで静注
・対照群:TPC(カペシタビン、エリブリン、ビノレルビン、ゲムシタビンから選択)
・評価項目:
[主要評価項目]盲検下独立中央評価委員会によるPFS
[副次評価項目]全生存期間、客観的奏効率(ORR)、奏効持続期間、クリニカルベネフィット率、患者報告アウトカム、安全性

 今回の解析において、ITT集団(543例)におけるHER2発現状況をIHCおよびISHで後ろ向きに評価したところ、HER2 IHC0患者が217例(SG群101例、TPC群116例)とHER2低発現患者が283例(SG群149例、TPC群134例)であった。なお、HER2陽性と判明した患者(SG群22例、TPC群21例)は本解析から除外した。

 主な結果は以下のとおり。

・HER2 IHC0患者とHER2低発現患者におけるベースライン特性はITT集団と類似していた。
・PFS中央値は、HER2低発現患者ではSG群6.4ヵ月、TPS群4.2ヵ月(HR:0.58、95%CI:0.42~0.79、p<0.001)、HER2 IHC0患者ではSG群5.0ヵ月、TPC群3.4ヵ月(HR:0.72、95%CI:0.51~1.00、p=0.05)だった。
・ORRは、HER2低発現患者ではSG群26%、TPS群12%(オッズ比:2.52、95%CI:1.33~4.78)、HER2 IHC0患者ではSG群16%、TPC群15%(オッズ比:1.10、95%CI:0.52~2.30)だった。
・HER2低発現患者、HER2 IHC0患者におけるSGの安全性プロファイルは、試験全体や他の試験と同様で、管理可能だった。

 Marme氏は、「ITT集団と同様、HER2低発現およびHER2 IHC0のHR+/HER2-転移乳がんにおいて、SGはTPCに比べてアウトカムを改善した。IHCスコアにかかわらず、SGはHR+/HER2-転移乳がんに対する有効な治療選択肢と考えるべき」と結論した。

(ケアネット 金沢 浩子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

TROPiCS-02試験(Clinical Trials.gov)

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HR+/HER2+進行乳がんへのアベマシクリブ+トラスツズマブ+フルベストラント、OS最終結果(monarcHER)/ESMO2022

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 ホルモン受容体(HR)陽性/HER2陽性(HR+/HER2+)の進行乳がんに対する、アベマシクリブ+トラスツズマブ+フルベストラントの3剤併用療法が、トラスツズマブ+化学療法と比較して数値的に全生存期間(OS)を改善した。フランス・Gustave RoussyのFabrice Andre氏が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で第II相monarcHER試験の最終解析結果を発表した。

 同試験については、すでに主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)を3剤併用群で有意に改善したことが報告されている1)

・対象:HR+/HER2+進行乳がんで、抗HER2療法を2ライン以上受けており(T-DM1とタキサン系抗がん剤の治療歴は必須)、さらにCDK4/6阻害薬とフルベストラントは未投与である患者237例
・試験群:アベマシクリブ+トラスツズマブ+フルベストラント(ATF群)またはアベマシクリブ+トラスツズマブ(AT群)
・対照群:トラスツズマブ+主治医選択の化学療法(TC群)
・評価項目:
[主要評価項目]ATF群とTC群における主治医評価による無増悪生存期間(PFS)の比較
(ATF群とTC群の比較で有意差が認められた場合、次にAT群とTC群の比較をする段階的な設定)
[副次評価項目]全生存期間(OS)、奏効率(ORR)、安全性、患者報告アウトカム、体内薬物動態 

 主な結果は以下のとおり。

・2016年5月~2018年2月に14ヵ国、75施設から患者が登録された。
・追跡期間中央値は52.9ヵ月であった(データカットオフ2022年3月31日)。
・OS中央値はATF群31.1ヵ月、AT群29.2ヵ月、TC群20.7ヵ月だった。ATF群vs.TC群のハザード比(HR):0.71(95%信頼区間[CI]:0.48~1.05、両側p=0.086)、AT群vs.TC群のHR:0.84(95%CI:0.57~1.23、両側p=0.365)。
・事前設定されたすべてのサブグループにおいて、アベマシクリブ投与によるOSベネフィットが観察された。
・乳がんの内因性サブタイプが予後に与える影響を評価するため探索的RNAシーケンス解析が行われ、luminalタイプはnon-luminalタイプと比較して、より長い PFS(8.6ヵ月vs. 5.4ヵ月、HR:0.54、95%CI:0.38~0.79)、およびOS(31.7ヵ月vs.19.7ヵ月、HR :0.68、95%CI :0.46~1.00)と関連していた。
・更新された PFS および安全性は、一次解析結果と一致していた(データカットオフ2019年4月8日)。

 ディスカッサントを務めた韓国・Asan Medical CenterのSung-Bae Kim氏は、この化学療法を行わない3剤併用療法が複数治療歴のあるHR+/HER2+進行乳がんの治療オプションの1つになることが示唆されたとコメントした。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【原著論文はこちら】

1)Tolaney SM ,et al. Lancet Oncol. 2020;21:763-775.

2)monarcHER試験(Clinical Trials.gov)

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乳がん周術期に新しい選択肢/リムパーザ錠適応追加

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HER2陰性乳がんの周術期に新しい選択肢

 2022年9月5日、アストラゼネカは、都内にて「早期乳がん治療におけるリムパーザの役割」をテーマにメディアセミナーを開催した。

BRCA遺伝子変異陽性がんで使用されるリムパーザ

 リムパーザはBRCA1および/またはBRCA2遺伝子の変異などの相同組換え修復(HRR)の欠損を有する腫瘍細胞において、PARPを阻害し、DNAの修復を阻止することでがん細胞死を誘導する。

 日本では2018年1月に「白金系抗悪性腫瘍剤感受性の再発卵巣癌における維持療法」を効能・効果として承認され、同年7月に「がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌」を適応として乳がん治療での使用が承認された。そのほかにもBRCA遺伝子変異陽性の卵巣がんにおける初回化学療法後の維持療法などさまざまながんで使用されている薬剤である。

 そして、2022年8月24日、リムパーザは「BRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性で再発高リスクの乳がんにおける術後薬物療法」で追加承認を取得した。

早期乳がん患者を対象としたOlympiA試験

 セミナーでは国際共同第III相試験、OlympiA試験について、愛知県がんセンター副院長・乳腺科部長、岩田 広治氏が詳しく説明した。

 OlympiA試験は国際共同第III相試験であり、日本人140名を含む生殖細胞系列BRCA1/2遺伝子変異陽性HER2陰性の早期乳がん患者1,836名が対象。

 主な選択基準はStageII~IIIのHER2陰性(HR+ or トリプルネガティブ)でありBRCA1/2遺伝子変異陽性、そして標準的な化学療法を受けた患者であり、リムパーザ投与群とプラセボ投与群に1:1で割り付けられた。

 主要評価項目である無浸潤疾患生存期間(iDFS)は12ヵ月、24ヵ月、36ヵ月時点でそれぞれリムパーザ投与群で93.3%、89.2%、85.9%、プラセボ投与群で88.4%、81.5%、77.1%であった。観察期間中央値はリムパーザ投与群で2.3年、プラセボ投与群で2.5年であった。ハザード比は0.58(95%信頼区間[CI]:0.490~0.816)、p=0.0000073であり、リムパーザ投与群でIDFSの有意な延長が検証された。

 安全性に関して、リムパーザ投与群で10%以上の頻度で認められた有害事象は悪心、疲労、貧血、嘔吐、頭痛などであった。特徴的な有害事象としては貧血が挙げられる。リムパーザ投与群で貧血は全Gradeで23.6%、≧Grade3で8.7%認められた。周術期に使用しても貧血には注意する必要がある。また、嘔吐などの消化器毒性にも同じく注意が必要である、と岩田氏は指摘した。

周術期の新たな選択肢

 リムパーザの効能追加により、乳がん周術期の治療選択はどう変わっていくのか。「これまではエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2発現などを見て治療を組み立てていたが、今後はBRCA遺伝子変異の有無を確認する必要が出てきた。初回の乳がん診断確定時、つまり周術期のBRCA検査の意義は遺伝性乳がん卵巣がん症候群の確定診断のみであった。しかし、リムパーザの効能追加によってコンパニオン診断としての意義が加わることになる。今後はBRCA検査を実施し、陽性であれば術式選択と同時にリスク低減手術を考慮する。そして、再発高リスクならリムパーザを投与する、という流れで乳がん治療を組み立てていく必要があると考えている」と岩田氏は強く訴え、セミナーを終了した。

(ケアネット)


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抗体薬物複合体SG、HR+/HER2-転移乳がんのOSを改善(TROPiCS-02)/ESMO2022

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 複数の治療歴があるHR+/HER2-転移乳がん患者に対して、抗体薬物複合体sacituzumab govitecan(SG)と医師選択治療(TPC)を比較した第III相TROPiCS-02試験において、SGが無増悪生存期間(PFS)を有意に改善(HR:0.66、95%CI:0.53~0.83)したことはASCO2022で報告されている。今回、事前に予定されていた全生存期間(OS)の第2回中間解析の結果について、米国・UCSF Helen Diller Family Comprehensive Cancer CenterのHope S. Rugo氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で報告した。

 本試験におけるOSの第1回中間解析(293イベント発生時点)では、SGによる改善傾向がみられたもののデータがmatureしていなかった。今回発表された第2回中間解析(データカットオフ:2022年7月1日)は、390イベントの発生後に行われ、追跡期間中央値は12.5ヵ月だった。

・対象:転移または局所再発した切除不能のHR+/HER2-乳がんで、転移後に内分泌療法またはタキサンまたはCDK4/6阻害薬による治療歴が1ライン以上、化学療法による治療歴が2~4ラインの成人患者 543例
・試験群:SG(1、8日目に10mg/kg、21日ごと)を病勢進行または許容できない毒性が認められるまで静注 272例
・対照群:TPC(カペシタビン、エリブリン、ビノレルビン、ゲムシタビンから選択)271例
・評価項目:
[主要評価項目]盲検下独立中央評価委員会によるPFS
[副次評価項目]OS、客観的奏効率(ORR)、奏効持続期間(DOR)、クリニカルベネフィット率(CBR)、患者報告アウトカム(PRO)、安全性

 主な結果は以下のとおり。

・OS中央値は、SG群(14.4ヵ月)がTPC群(11.2ヵ月)より3.2ヵ月長く、死亡リスクが21%低かった(HR:0.79、95%CI:0.65~0.96、p=0.020)。
・TPCに対するSGのベネフィットは、化学療法3ライン以上の症例、内臓転移症例を含む事前に規定されたサブグループで同様だった。
・SG群はTPC群と比較して、ORR(オッズ比:1.63、95%CI:1.03~2.56、p=0.035)、CBR(オッズ比:1.80、95%CI:1.23~2.63、p=0.003)が有意に高かった。
・DOR中央値は、SG群(8.1ヵ月)がTPC群(5.6ヵ月)より延長した。
・SG群では健康関連QOLが有意に良好で、疲労およびglobal health status/QOLスケールの悪化までの時間(TTD)をTPCより有意に延長した。
・本解析におけるSGの安全性プロファイルは、これまでの試験と同様であり、新たな安全性シグナルは確認されなかった。

 Rugo氏は、「本試験におけるTPCに対するSGの統計学的に有意で臨床的に意味のあるベネフィットは、前治療歴のあるHR+/HER2-転移乳がん患者に対する新たな治療としてSGを支持する」とした。

(ケアネット 金沢 浩子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

TROPiCS-02試験(Clinical Trials.gov)

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アベマシクリブ+アロマターゼ阻害薬、進行乳がんのOS改善傾向(MONARCH 3)/ESMO2022

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 HR+/HER2-進行乳がん1次治療での非ステロイド性アロマターゼ阻害薬(NSAI)へのアベマシクリブの上乗せ効果を検討した国際共同第III相MONARCH 3試験では、主要評価項目の無増悪生存期間(PFS)はアベマシクリブ併用群が有意に延長したことがすでに報告されている。今回、副次評価項目の全生存期間(OS)の第2回中間解析を行った結果、アベマシクリブ上乗せによりITT集団、内臓転移患者ともにOS中央値が12ヵ月以上延長したことが報告された。ただし、どちらも事前に規定された統計学的有意性は示されなかった。米国・Mayo ClinicのMatthew P. Goetz氏が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で発表した。

・対象:転移/局所再発のHR+HER2-乳がんの閉経後女性で、転移/局所再発後に全身療法を受けたことのない患者 493例
・試験群(アベマシクリブ群):アベマシクリブ150mg1日2回+NSAI(アナスロトゾール1mgまたはレトロゾール2.5mg)1日1回を病勢進行するまで投与 328例
・対照群(プラセボ群):プラセボ+NSAI 165例
・評価項目:
[主要評価項目]主治医判定によるPFS
[副次評価項目]OS、奏効率、安全性

 本試験の第2回中間解析は、ITT集団において約252イベント(最終OS解析予定イベントの80%)の発生後に実施することが事前に規定されていた。なお、OSの有意性の評価には、層別log-rank検定および事前に定義したエラー消費手法を用いている。

 主な結果は以下のとおり。

・第2回中間解析(データカットオフ:2021年7月2日、追跡期間中央値:5.8年)において、ITT集団のOS中央値はアベマシクリブ群67.1ヵ月、プラセボ群54.5ヵ月(HR:0.754、95%CI:0.584~0.974)と12.6ヵ月の差が認められたが、α消費手法による有意差を示す閾値に到達しなかった(p=0.0301)。また、OS改善傾向はどのサブグループでも同様にみられた。なお、病勢進行後にCKD4/6阻害薬を投与した患者の割合はアベマシクリブ群10.1%、プラセボ群31.5%だった。
・内臓転移患者のOS中央値はアベマシクリブ群65.1ヵ月、プラセボ群48.8ヵ月(HR:0.708、95%CI:0.508~0.985)と16.3ヵ月の差が認められたが、有意差は示されなかった(p=0.0392)。
・ITT集団のPFS中央値はアベマシクリブ群29.0ヵ月、プラセボ群14.8ヵ月(HR:0.518、95%CI:0.415~0.648、p<0.0001)であった。
・ITT集団の無化学療法生存期間(CFS)中央値は、アベマシクリブ群46.7ヵ月、プラセボ群30.6ヵ月(HR:0.636、95%CI:0.505~0.801)であった。

・アベマシクリブの長期投与による新たな安全性シグナルはみられなかった。

 本試験はフォローアップ継続中で、最終OS解析は2023年に予定されている。

(ケアネット 金沢 浩子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

MONARCH 3試験(Clinical Trials.gov)

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ESMO2022スタート!注目演題を特設サイトでチェック

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 9月9日~13日(現地時間)まで、欧州最大の腫瘍学会であるESMO2022(欧州臨床腫瘍学会年次総会)が、フランス・パリとオンラインのハイブリッド形式で開催される。すでに公式サイト上では、プログラムと一部の演題を除いたアブストラクトがオープンしている。

 ケアネットが運営する、オンコロジーを中心とした医療情報キュレーションサイト「Doctors’Picks」(医師会員限定)では、ESMO2022のスタートにあわせ、数多くの演題の中から、複数のエキスパートが選定した「注目演題」をピックアップ。会期にあわせてオープンした特設サイトにおいて、「肺がん」「消化器がん」「乳がん」「泌尿器がん」のがん種別に、見どころポイントとともに紹介している。

 学会終了後は、視聴レポートやまとめ記事なども続々アップしていく予定だ。

Doctors’Picks ESMO2022特設サイト

(ケアネット 杉崎 真名)


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乳腺密度とサブタイプ、予後の関連~日本人女性患者の検討から

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 高濃度乳房は乳がんリスクが高いというコンセンサスは得られている一方で、乳腺密度と乳がんサブタイプの関連については相反する報告がある。聖路加国際病院の山田 大輔氏らは、日本人女性の乳腺密度ごとの乳がんサブタイプの傾向を調査し、生存率を解析。Clinical breast cancer誌2022年8月号に報告した。

 2007~08年にかけて,聖路加国際病院でマンモグラフィ検査を受け,病理診断を受けた浸潤性乳がんの日本人患者1,258例が対象。乳腺密度(高濃度乳房、非高濃度乳房)を初回のマンモグラフィー所見に基づいて分類し、がんのサブタイプと比較した。高濃度乳房と非高濃度乳房の患者について、それぞれ5年および10年生存率に関する情報をカルテレビューにより収集した。統計解析は、乳腺密度とがんのサブタイプについてピアソンのカイ二乗検定を用いて行った。死亡に対する乳腺密度の影響については、多変量Cox比例ハザードモデルを用いて検討され、調整ハザード比が算出された。

 主な結果は以下のとおり。

・乳がんのサブタイプと乳腺密度の間に有意差は認められなかった(p=0.08)。
・5年生存率(log-rank検定のp=0.09)および10年生存率(log-rank検定のp=0.31)は、乳腺密度によって有意差はなかった。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【原著論文はこちら】

Yamada D, et al. Clin Breast Cancer. 2022;22:560-566.

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朝食時刻と乳がんリスクが関連

提供元:CareNet.com

 1日の食事のサイクルと乳がんの関連が指摘されている。スペイン・Barcelona Institute for Global HealthのAnna Palomar-Cros氏らが朝食時刻および夜間絶食時間と乳がんリスクとの関連について検討したところ、閉経前女性では朝食時刻が遅いほど乳がんリスクが高いことが示唆された。Frontiers in Nutrition誌2022年8月11日号に掲載。

 本研究では、2008~13年に実施されたスペインのマルチケースコントロール研究(MCC-Spain)における乳がん症例1,181例と対照1,326例のデータを解析した。中年期の毎日の食事のサイクルは電話インタビューで聴取した。朝食時刻および夜間絶食時間と乳がんリスクとの関連について、ロジスティック回帰を用いてオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を推定した。年齢、センター、教育、乳がん家族歴、初経年齢、子供の数、母乳育児、初産年齢、BMI、避妊薬使用、ホルモン補充療法で調整し、閉経状態で層別した。

 主な結果は以下のとおり。

・朝食時刻が遅くなるほど乳がんリスクが増加したが、有意ではなかった(1時間当たりのOR:1.05、95% CI:0.95~1.16)。
・この関連は閉経前女性で強く、朝食時刻が1時間遅くなるごとに乳がんリスクが18%増加した(OR:1.18、95%CI:1.01~1.40)。閉経後女性ではこの関連はみられなかった。
・朝食時刻を調整しても、夜間絶食時間と乳がんリスクとの関連はみられなかった。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Palomar-Cros A, et al. Front Nutr. 2022;9:941477.

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