CDK4/6阻害薬+ETで増悪したHR+/HER2-転移乳がん、パルボシクリブ継続投与は有効か(PACE)/SABCS2022

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 CDK4/6阻害薬+内分泌療法(ET)による治療で増悪した、ホルモン受容体陽性/HER2陰性(HR+/HER2-)転移乳がん(MBC)患者において、CDK4/6阻害薬を継続投与すべきかは明らかでない。増悪後、フルベストラントへの変更を伴うパルボシクリブの継続が、フルベストラント単独への変更よりも転帰を改善するかどうかを前向きに評価し、パルボシクリブ・フルベストラント・アベルマブの3剤投与の活性を探る第II相PACE試験の結果を、米国・ダナ・ファーバーがん研究所のErica L. Mayer氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2022)で発表した。

・対象:CDK4/6阻害薬+ETで増悪したHR+/HER2-MBC患者(MBCに対するETが≦2ライン/化学療法が0~1ライン、フルベストラント治療歴なし)
・試験群
フルベストラント+パルボシクリブ群(F+P群):フルベストラント 500mg+パルボシクリブ 125mg 111例
フルベストラント+パルボシクリブ+アベルマブ群(F+P+A群):フルベストラント 500mg+パルボシクリブ 125mg+アベルマブ 10mg/kg 54例
・対照群(F群):フルベストラント 500mg 55例
・評価項目:
[主要評価項目]F+P群とF群のRECIST評価による無増悪生存期間(PFS)の比較
[副次評価項目]F+P+A群とF群のPFSの比較、奏効に関するエンドポイント、安全性、ESR1/PIK3CA/Rbなどのあらかじめ定義された分子的サブグループにおける転帰
※ctDNA解析のための血液は、ベースライン時、腫瘍評価時(8週ごと)、進行時に採取された。

 主な結果は以下のとおり。

・2017年9月~2022年2月に米国の13施設から220例が組み入れられ、F群:F+P群:F+P+A群に1:2:1の割合で無作為に割り付けられた。2022年7月のデータロック時点での追跡期間中央値は23.6ヵ月。
・ベースライン特性は3群でバランスがとれており、全体の年齢中央値は57(25~83)歳、閉経後が81%、de novo症例が40%、内臓転移例が60%だった。前治療で使用されたCDK4/6阻害薬はパルボシクリブが91%を占め、前治療(CDK4/6+ET)からの期間は>12ヵ月が76%だった。16%がMBCに対する化学療法歴を有していた。
・PFS中央値は、F群4.8ヵ月に対しF+P群4.6ヵ月(ハザード比[HR]:1.11、90%信頼区間[CI]:0.74~1.66、p=0.62)で改善はみられなかった。
・F群と比較したF+P+A群のPFS中央値は、8.1ヵ月でHR:0.75、90%CI:0.47~1.20、p=0.23だった。
・PFSのサブグループ解析の結果、最初のCDK4/6阻害薬による治療から本試験の治療までの間に化学療法などの他治療を受けていた患者および内分泌療法抵抗性の患者でパルボシクリブ継続のベネフィットがある傾向がみられた。
・ベースライン時の分子的サブグループ別にPFSをみると、ESR1およびPIK3CA変異を有する患者でパルボシクリブ継続のベネフィットがある傾向がみられた。
・奏効率(ORR)はF群10.8% vs.F+P群13.7% vs.F+P+A群17.9%、臨床的ベネフィット率(CBR)は29.1% vs.32.4% vs.35.2%だった。
・Grade3以上の有害事象について、F+P群でみられたのは好中球減少症(32.7%)、貧血(4.5%)、疲労(1.8%)など。F+P+A群でみられたのは好中球減少症(49.1%)、疲労(5.7%)などだった。
・免疫関連有害事象の発生率は低く、予期せぬ有害事象は報告されていない。

 ctDNAおよび血中循環腫瘍細胞(CTC)の連続サンプルの評価が継続中で、変異や耐性と治療効果の関連、および免疫療法に感受性のあるマーカーが探索される予定となっている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


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2022年、がん専門医に読まれた記事は?Doctors’Picksランキング

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 ケアネットが運営する、オンコロジーを中心とした医療情報キュレーションサイト「Doctors’Picks」は、2022年を通して、がん専門医によく読まれた記事ランキングを発表した。1位は新型コロナに関する話題だったが、その他は肺がん分野の話題が多数ランク入りしたほか、がん横断的なトピックスである新たな免疫療法の開発に関する話題(4位)や、米国臨床腫瘍学会(ASCO2022)でプレナリーセッションに登壇した国立がんセンター東病院 消化管内科長・吉野 孝之氏の演題(6位)も大きな注目を集めた。

【1位】3回目接種を受けた医療従事者の新型コロナ感染率は?(1/11)/JAMA
 2022年1月10日にJAMA誌に掲載された、イスラエルの医療従事者におけるSARS-CoV-2感染の発生率とBNT162b2ワクチンの3回目接種との関連についての研究。ブースター接種から約1ヵ月間におけるSARS-CoV-2感染のハザード比は、2回接種者と比較して0.07(95%CI:0.02~0.20)と有意に低下することが示された。

【2位】PD-L1高発現の1次治療、ICIにChemoを上乗せしてもOSの延長なし?(3/24)/Annals of Oncology
 PD-L1高発現の非扁平上皮非小細胞肺がん(Nsq-NSCLC)の1次治療において、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)に化学療法を上乗せする効果を見た試験。結果として上乗せ効果は認められなかったという。

【3位】小細胞肺がん、アテゾリズマブ+化学療法+tiragolumabの成績/SKYSCRAPER-02(5/28)/ASCO
 ASCO2022で発表された、進展型小細胞肺がんの標準療法の1つであるアテゾリズマブ+カルボプラチン/エトポシドの併用療法に、抗TIGIT抗体tiragolumab追加併用の有効性を見たSKYSCRAPER-02試験。主要評価項目である全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)の延長は示されなかったという。

【4位】PD-1阻害薬を超える!?新たな免疫療法PD1-IL2v開発の基礎(10/4)/nature
 PD-1を発現しているT細胞特異的に、IL-2R(βとγ)アゴニスト作用を持つ新たな免疫療法として、PD1-IL2vという薬剤が開発されたという報告。PD-1治療抵抗性のメラノーマに対して、PD-1阻害薬と比較しても圧倒的な効果を発揮したという、その作用機序を解説。

【5位】おーちゃん先生のASCO2022 肺癌領域・オーラルセッションの予習 9000番台(5/30)/Doctors’Picks
 ASCO2022で発表される数千の演題の中から注目すべきものをエキスパート医師が事前にピックアップして紹介する恒例企画。肺がん分野は山口 央氏(埼玉医科大学国際医療センター)がオーラルセッションを全解説した。

 6~10位は以下のとおり。

【6位】国立がんセンター東病院・吉野 孝之氏がプレナリーセッション登壇(6/2)/ASCO

【7位】進行NSCLC、PD-1/L1阻害薬PD後のペムブロリズマブ継続の意義(2/7)/Clinical Cancer Research

【8位】転移のある大腸がん、原発巣部位とゲノム異常の解析結果(5/9)/Target Oncol

【9位】EGFR陽性NSCLCに対するオシメルチニブ/アファチニブ交替療法の有効性(4/13)/Lung Cancer

【10位】ctDNAの臨床応用に関するESMOの推奨事項(7/14)/ESMO

(ケアネット 杉崎 真名)


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capivasertib+フルベストラント、CDK4/6治療歴によらずAI耐性進行乳がんでPFS延長(CAPItello-291)/SABCS2022

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 アロマターゼ阻害薬(AI)耐性のエスロトゲン受容体(ER)陽性/HER2陰性進行・再発(ABC)乳がん患者において、AKT阻害薬capivasertib+フルベストラントが、プラセボ+フルベストラントと比較して無増悪生存期間(PFS)を約2倍に延長した。日本を含むグローバル第III相CAPItello-291試験の結果を、英国・王立マーズデン病院のNicholas Turner氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2022)で発表した。なお、本療法については第II相FAKTION試験で閉経後女性患者において全生存期間(OS)とPFSを有意に改善したことが報告されているが、CDK4/6阻害薬治療歴のある患者は含まれていなかった。

・対象:閉経前/後のER+/HER-の進行・再発乳がん患者(AI投与中/後に再発・進行、ABCに対する治療歴として≦2ラインの内分泌療法・≦1ラインの化学療法、CDK4/6阻害薬治療歴ありも可、SERD・mTOR阻害薬・PI3K阻害薬・AKT阻害薬の治療歴ありは不可、HbA1c<8.0%)
・試験群(Capi群):capivasertib 400mgを4日間投与3日間休薬で1日2回経口投与+フルベストラント500mg 355例
・対照群(プラセボ群):プラセボ+フルベストラント 353例
・評価項目:
[主要評価項目]全体集団およびAKT経路に変異(≧1のPIK3CAAKT1PTEN遺伝子変異)を有する患者におけるPFS
[主要副次評価項目]全体集団およびAKT経路に変異を有する患者におけるOS、奏効率(ORR)
[層別化因子]肝転移の有無、CDK4/6阻害薬治療歴の有無、地域

 主な結果は以下のとおり。

・ベースライン特性は両群でバランスがとれており、年齢中央値はCapi群59歳vs.プラセボ群58歳、女性が両群とも約99%を占め、閉経後患者は81% vs.74%、アジア人が両群とも約27%、肝転移ありが44% vs.43%だった。
・前治療歴は1ラインのABCに対する内分泌療法歴ありが81% vs.71%、CDK4/6阻害薬治療歴ありが両群とも約69%だった。また術前/術後化学療法歴ありが51% vs.48%だった。
・AKT経路に変異を有する患者は44% vs.38%だった。
・全体集団におけるPFS中央値は、プラセボ群3.6ヵ月に対しCapi群7.2ヵ月(ハザード比[HR]:0.60、95%信頼区間[CI]:0.51~0.71、両側p<0.001)となり、Capi群で有意に改善した。
・AKT経路に変異を有する患者におけるPFS中央値は、プラセボ群3.1ヵ月に対しCapi群7.3ヵ月(HR:0.50、95%CI:0.38~0.65、両側p<0.001)となり、Capi群で有意に改善した。
・サブグループ別にPFSをみると、肝転移の有無およびCDK4/6阻害薬治療歴の有無を問わず、Capi群で改善がみられた。
・全体集団におけるORRはプラセボ群12.2%に対しCapi群22.9%(オッズ比[OR]:2.19、95%CI:1.42~3.36)だった。
・AKT経路に変異を有する患者におけるORRはプラセボ群9.7%に対しCapi群28.8%(OR:3.93、95%CI:1.93~8.04)だった。
・immatureなデータではあるが、全体集団におけるOSのHRは0.74(95%CI:0.56~0.98)、AKT経路に変異を有する患者におけるOSのHRは0.69(95%CI:0.45~1.05)だった。
・Capi群で多く報告されたGrade3以上の有害事象は、下痢(9.3% vs.0.3%)、斑状丘疹(6.2% vs.0%)、発疹(5.4% vs.0.3%)、高血糖(2.3% vs.0.3%)だった。治療中止につながる有害事象の発生は、13.0% vs.2.3%だった。

 Turner氏は「capivasertib+フルベストラント併用療法は、内分泌療法ベースのレジメンで治療し進行したホルモン受容体陽性進行・再発乳がん患者における将来の治療オプションになる可能性がある」と結論付けた。OSフォローアップは進行中である。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【参考文献・参考サイトはこちら】

CAPItello-291試験(ClinicalTrials.gov)

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T-DXd、HER2+進行乳がん2次治療でOSを有意に改善(DESTINY-Breast03)/Lancet

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 米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のSara A. Hurvitz氏らは、第III相非盲検無作為化試験「DESTINY-Breast03試験」のアップデート解析を行い、転移のあるHER2陽性乳がん患者において、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)はトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)と比較して全生存期間(OS)を有意に改善したことを報告した。また、先の中間解析で、T-DXdが2次治療の標準治療に位置付けられるに至った無増悪生存期間(PFS)中央値(未到達)について、今回の解析で、研究グループが知りうる限り「最長値(28.8ヵ月)が示された」ことを報告した。著者は、「今回のアップデート解析で、2次治療の標準治療としてのT-DXdを再確認した。また、T-DXdの管理可能な安全性プロファイルを、より長期にわたる治療期間において確認できた」と述べている。Lancet誌オンライン版2022年12月6日号掲載の報告。

T-DXd vs.T-DM1の有効性と安全性を比較評価

 DESTINY-Breast03試験は、T-DXd vs.T-DM1の有効性および安全性の比較を目的とし、北米、アジア、欧州、オーストラリアおよび南米の169試験施設で行われた。

 18歳以上、HER2陽性で切除不能または転移のある乳がんで、トラスツズマブおよびタキサン系抗がん剤で既治療、ECOG PSが0~1、RECIST v1.1に基づく測定可能病変が1つ以上ある患者を適格とした。

 患者は無作為に1対1の割合で、T-DXd 5.4mg/kgまたはT-DM1 3.6mg/kgを受ける群に割り付けられ、両群とも3週ごとに静脈内投与を受けた。無作為化は、ホルモン受容体の状態(陽性または陰性)、ペルツズマブの既治療、内臓系疾患による層別化を伴い、双方向ウェブベースシステムを通じて行われた。各階層内でバランスを考慮したブロック無作為化法が用いられた。患者と研究者は、受けた治療についてはマスキングされなかった。

 主要評価項目はPFSで、盲検化され独立した中央レビューで評価した。主な副次評価項目はOSで、今回の事前に規定された2回目となるOS中間解析(データカットオフ日2022年7月25日)では、OS、有効性、安全性のアップデート結果が報告された。有効性解析は、全解析データを用いて行われ、安全性解析は、無作為化を受け、少なくとも1回試験薬の投与を受けたすべての患者を対象とした。

PFSは28.8ヵ月vs.6.8ヵ月、OSのT-DXd vs.T-DM1のハザード比は0.64

 2018年7月20日~2020年6月23日に、699例が適格性のスクリーニングを受け、524例が登録、T-DXd群(261例)、T-DM1群(263例)に無作為に割り付けられた。

 2022年7月25日時点で治療を継続していたのは、T-DXd群75例(29%)、T-DM1群18例(7%)であった。試験追跡期間中央値は、T-DXd群28.4ヵ月(四分位範囲[IQR]:22.1~32.9)、T-DM1群26.5ヵ月(14.5~31.3)。

 主要評価項目のPFS中央値は、T-DXd群28.8ヵ月(95%信頼区間[CI]:22.4~37.9)、T-DM1群6.8ヵ月(5.6~8.2)であった(ハザード比[HR]:0.33、95%CI:0.26~0.43、名目上のp<0.0001)。

 OS期間中央値は両群とも未到達であったが、T-DXd群はOSイベント例72例(28%)で未到達(95%CI:40.5ヵ月~推定不能)、T-DM1群は同97例(37%)で未到達(34.0ヵ月~推定不能)であった(HR:0.64、95%CI:0.47~0.87、p=0.0037)。

 Grade3以上の治療による有害事象発現例数は、T-DXd群145例(56%)、T-DM1群135例(52%)で、両群で同程度であった。判定に基づく薬物関連の間質性肺疾患または肺炎の発生は、T-DXd群39例(15%)、T-DM1群8例(3%)。Grade4/5のイベントは両群共に報告されなかった。

(ケアネット)


【原著論文はこちら】

Hurvitz SA, et al. Lancet. 2022 Dec 6. [Epub ahead of print]

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HR+/HER2低発現早期乳がんの術前療法としてのT-DXdの有用性(TALENT)/SABCS2022

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 ホルモン受容体陽性(HR+)かつHER2低発現の早期乳がん患者の術前補助療法として、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)±内分泌療法の有効性と安全性を検討した医師主導第II相TRIO-US B-12 TALENT試験の結果、良好なpCR率とORRが得られたことを、米国・Massachussetts General Hospital、Harvard Medical SchoolのAditya Bardia氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS 2022)で発表した。

・対象:HR+かつHER2低発現(IHC1+またはIHC2+でFISH-)で、手術可能なStage II~IIIの男性または閉経前/閉経後女性の乳がん患者 58例
・治療方法:
[T-DXd単独群]T-DXdを3週間間隔で5.4mg/kg投与 29例
[内分泌療法併用群]T-DXdを3週間間隔で5.4mg/kg投与+アナストロゾール錠1mg、1日1回投与(男性および閉経前女性にはGnRHアナログも投与) 29例
・サイクル数:当初は6サイクルであったが、2022年2月に新規登録者と手術実施患者では8サイクルに修正された。
・評価項目:
[主要評価項目]病理学的完全奏効(pCR)率(ypT0/is ypN0)
[副次評価項目]奏効率(ORR)、HER2発現の変化を含む腫瘍バイオマーカー、安全性
・層別化因子:HER2発現、閉経状態

 主な結果は以下のとおり。

・2020年9月~2022年10月の間に、T-DXd単独群では29例中14例が6サイクルの治療を、7例が8サイクルの治療を完了して手術を受け、4例が治療中であった。内分泌療法併用群では29例中13例が6サイクルの治療を、8例が8サイクルの治療を完了して手術を受け、5例が治療中であった。
・ベースライン時における年齢中央値はT-DXD単独群が59歳、内分泌療法併用群が55歳であった。T-DXD単独群ではStage IIAが27.6%、Stage IIBが44.8%、Stage IIIAが24.1%、Stage IIIBが3.4%で、内分泌療法併用群ではStage IIAが37.9%、Stage IIBが51.7%、Stage IIIAが10.3%、Stage IIIBが0%であった。HER2発現は、T-DXD単独群ではIHC1+が75.9%、2+が13.8%で、内分泌療法併用群ではIHC1+が86.2%、2+が6.9%であった。リンパ節転移陽性はT-DXD単独群が51.7%、内分泌療法併用群が55.2%であった。またKi-67値が30%以上の患者はT-DXD単独群が55.2%、内分泌療法併用群が65.5%であった。
・ORRは、T-DXD単独群で68%(CR:8%、PR:60%)、内分泌療法併用群では58%(CR:8%、PR:50%)であった。
・ベースライン時から手術までの間に、T-DXd投与により49%の患者のHER2発現(IHC)が変化した。このうち88%でHER2発現が低下した。
・T-DXd投与後の残存腫瘍量(RCB)は、T-DXD単独群のRCB 0/Iが15%(0:5%、I:10%)、内分泌療法併用群のRCB 0/Iも15%(I:15%)であった。
・T-DXdに関連するGrade3以上の有害事象は、T-DXD単独群では嘔気、倦怠感、下痢、頭痛、嘔吐、低カリウム血症、好中球減少、脱水、白血球減少で、内分泌療法併用群では倦怠感、嘔吐、下痢、頭痛、低カリウム血症であった。
・間質性肺炎は、1例(Grade2)で生じ、治療中止後に回復した。

 Bardia氏は、これらの結果から「本研究により、HR+かつHER2低発現の早期乳がん患者の術前補助療法として、T-DXdは有望な臨床効果が期待できることが示された。内分泌療法の上乗せによる効果の増強は認められなかったが、症例が少ないことに注意が必要である」とまとめた。

(ケアネット 森 幸子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

TALENT(ClinicalTrials.gov)

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妊娠希望で乳がん術後内分泌療法を一時中断した場合の再発リスク(POSITIVE)/SABCS2022

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 HR陽性早期乳がんの若年女性において、妊娠を希望して術後補助内分泌療法を一時中断した場合のアウトカムを検討した前向き試験はない。今回、内分泌療法を2年間中断した場合の乳がん再発の観点から見た安全性について、前向き単群試験のPOSITIVE試験で検討した結果、短期的には再発リスクに影響がないことが示唆された。米国・Dana-Farber Cancer InstituteのAnn H. Partridge氏が、サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2022)で発表した。

・対象:術後補助内分泌療法を18~30ヵ月間受けたStageI~IIIのHR陽性乳がん患者で、妊娠を希望し内分泌療法を中断する42歳以下の閉経前女性
・方法:内分泌療法を、wash out期間(3ヵ月)を含み、妊娠企図、妊娠、出産、授乳で2年間中断し、再開後5~10年追跡
・評価項目:
[主要評価項目]乳がん無発症期間(BCFI)
[副次評価項目]妊娠および出生児のアウトカムなど

 主な結果は以下のとおり。

・2014年12月~2019年12月に518例が登録された。登録時の年齢中央値は37歳(範囲:27~43歳)、75%が出産歴がなく、94%がStage I/IIであった。内分泌療法はタモキシフェン単独が最も多く(42%)、次いでタモキシフェン+卵巣機能抑制(36%)で、62%が術前もしくは術後化学療法を受けていた。
・追跡期間中央値41ヵ月においてBCFIイベントが44例に発生し、3年間累積発生率は8.9%だった。これはSOFT/TEXT試験(Breast. 2020)の対照コホートで算出した9.2%と同様だった。
・妊娠アウトカムを評価した497例中368例(74%)が1回以上妊娠し、317例(64%)が1回以上出産し、365児が誕生した。
・その後の内分泌療法は、競合リスク分析によると76%が再開し、8%は再開前に再発/死亡し、15%は再開していなかった。

 Partridge氏は「これらのデータは、若年の乳がん女性の治療とフォローアップに、患者中心の生殖医療を取り入れる必要があることを強調している」と述べた。なお、本試験は、内分泌療法の再開と乳がんのアウトカムをモニターするために、2029年までフォローアップ予定という。

(ケアネット 金沢 浩子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

POSITIVE(ClinicalTrials.gov)

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術前化療でリンパ節転移が陰性化した乳がんのALND省略後の再発、SLNBとTADの比較(OPBC-04/EUBREAST-06/OMA)/SABCS2022

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 リンパ節転移陽性乳がんで術前化学療法により転移が陰性化した患者において、診断がセンチネルリンパ節生検(SLNB)単独または標的腋窩郭清(TAD)併用のいずれであっても、腋窩リンパ節郭清(ALND)省略後の早期腋窩再発が非常にまれであったことを、米国・Memorial Sloan Kettering Cancer CenterのGiacomo Montagna氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2022)で発表した。再発率は、標的腋窩郭清併用でもセンチネルリンパ節生検単独より有意に低くはなかったという。

 4つの前向き試験で、術前化学療法後にリンパ節転移陽性の患者においてセンチネルリンパ節生検の偽陰性率が10%を超えることが示されているが、これらの試験では全例が腋窩リンパ節郭清を実施しているため腋窩再発のデータはない。標的腋窩郭清により偽陰性率の低下が報告されているが、腋窩再発率の低下につながるかどうかは不明である。またこの設定で、腋窩病期診断のためにセンチネルリンパ節生検単独と標的腋窩郭清併用のいずれを用いるべきかコンセンサスは得られていない。今回Montagna氏らは、術前化学療法でリンパ節の病理学的完全奏効を達成し腋窩リンパ節郭清を省略した、リンパ節転移陽性乳がん患者の大規模なリアルワールド集団において、腋窩の局所浸潤再発率を評価し、さらにデュアルトレーサーマッピングによるセンチネルリンパ節生検もしくは標的腋窩郭清後の腋窩再発率を比較した。

 本研究の対象は、T1-4かつN1-3(生検による)で、術前化学療法後にデュアルトレーサーマッピングによるセンチネルリンパ節生検もしくは標的腋窩郭清(センチネルリンパ節生検との併用、デュアルトレーサーマッピングの有無は問わない)による診断で病理学的にリンパ節転移陰性だった乳がん患者。腋窩再発、局所再発、あらゆる浸潤性再発(局所もしくは遠隔)の累積発生率を競合リスク分析で解析し、さらにセンチネルリンパ節生検と標的腋窩郭清の3年累積発生率をGray検定で比較した。

 主な結果は以下のとおり。

・2013年4月~2020年12月に適格となった1,144例(センチネルリンパ節生検666例、標的腋窩郭清478例)を評価した。年齢中央値は50歳、臨床的T2が57%、臨床的N1が95%、HER2陽性が54%であった。
・術前化学療法レジメンはセンチネルリンパ節生検群と標的腋窩郭清群で違いが見られた。
・センチネルリンパ節の摘出個数の中央値は、センチネルリンパ節生検群4個(IQR:3~5)、標的腋窩郭清群3個(四分位範囲[IQR]:2~4)だった(p<0.001)。リンパ節の平均摘出個数も同様に標的腋窩郭清群が少なかった。
・リンパ節放射線治療実施は、センチネルリンパ節生検78%、標的腋窩郭清85%だった(p=0.005)。
・腋窩再発率は、全体で3年時0.65%(95%信頼区間[CI]:0.29~1.3)、5年時1.0%(同:0.49~2.0)だった。3年腋窩再発率はセンチネルリンパ節生検(0.8%)と標的腋窩郭清(0.5%)で差がなかった(p=0.55)。
・局所再発率は、全体で3年時1.5%(95%CI:0.83~2.4)、5年時2.7%(同:1.6~4.1)だった。3年局所再発率はセンチネルリンパ節生検(1.9%)と標的腋窩郭清(0.8%)で差がなかった(p=0.19)。
・浸潤性再発率は、全体で3年時7.5%(95%CI:5.9~9.3)で、5年時10%(同:8.3~13)だった。3年浸潤性再発率はセンチネルリンパ節生検(7.3%)と標的腋窩郭清(7.3%)で差がなかった(p=0.60)。

 Montagna氏は「これらの結果は、術前化学療法でリンパ節転移陰性となった患者でのリンパ節郭清省略を支持している」と結論した。

(ケアネット 金沢 浩子)


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HER2+進行乳がん2次治療でのT-DXd、OSがT-DM1に対し36%改善(DESTINY-Breast03)/SABCS2022

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 トラスツズマブおよびタキサン系薬剤の前治療歴があり、HER2+の切除不能または転移を有する乳がん患者に対する、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)とトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)を比較した第III相DESTINY-Breast03試験のアップデート解析において、T-DXd群では全生存期間(OS)が36%改善したことを、米国・University of California Los AngelesのSara A. Hurvitz氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2022)で発表した。なお、この結果はLancet誌オンライン版2022年12月6日号に同時掲載された。

 これまで、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2021)でDESTINY-Breast03試験の中間解析結果が発表され、T-DXd群ではT-DM1群よりも主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)が有意に延長したことが示されていた。副次評価項目のOSは両群ともに未到達であったため、今回初めてOSに関する解析が行われた。

・対象:トラスツズマブおよびタキサン系薬剤の前治療歴があり、HER2+(IHCスコア3+、またはIHCスコア2+かつISH+)の切除不能または転移を有する乳がん患者524例
・試験群(T-DXd群):T-DXdを3週間間隔で5.4mg/kg投与 261例
・対照群(T-DM1群):T-DM1を3週間間隔で3.6mg/kg投与 263例
・評価項目:
[主要評価項目]盲検下独立中央評価委員会(BICR)によるPFS
[副次評価項目]OS、BICRおよび治験医師などの判定による奏効率(ORR)、BICRによる奏効期間(DOR)、安全性

 主な結果は以下のとおり。

・追跡期間中央値は、T-DXd群で28.4ヵ月(0.0~46.9ヵ月)、T-DM1群で26.5ヵ月(0.0~45.0ヵ月)であった(データカットオフ:2022年7月25日)。
・治療期間中央値は、T-DXd群で18.2ヵ月(0.7~44.0ヵ月)、T-DM1群で6.9ヵ月(0.7~39.3ヵ月)であった。
・T-DXd群の年齢中央値は54.3歳、HR+が50.2%で、T-DM1群の年齢中央値は54.2歳、HR+が51.0%であった。両群ともにアジア系が約60%で、過去に中央値2ラインの化学療法歴を有していた。
・両群ともにOSの中央値には達しておらず、T-DXd群の95%信頼区間(CI)は40.5~NE、T-DM1群の95%CIは34.0~NE(ヵ月)であった。
・OSのハザード比(HR)は0.64(95%CI:0.47~0.87、p=0.0037)で、事前に規定されていたp値(0.013)を下回っていた。
・12ヵ月時点のOS率は、T-DXd群94.1%(95%CI:90.4~96.4)vs. T-DM1群86.0%(81.1~89.8)、24ヵ月時点は77.4%(71.7~82.1)vs. 69.9%(63.7~75.2)、36ヵ月時点は69.3%(62.5~75.1)vs. 55.4%(47.4~62.8)であった。
・BICRによるPFS中央値は、T-DXd群28.8ヵ月vs. T-DM1群6.8ヵ月(HR:0.33、95%CI:0.26~0.43、p<0.000001)であった。
・BICRによるORRは、T-DXd群で78.5%(CRは21.1%)、T-DM1群で35.0%(CRは9.5%)であった。
・クリニカルベネフィット率は、T-DXd群で89.3%、T-DM1群で46.4%であった。
・DOR中央値は、T-DXd群で36.6ヵ月、T-DM1群で23.8ヵ月であった。
・治験医師などの判定によるPFS2中央値は、T-DXd群で40.5ヵ月、T-DM1群で25.7ヵ月であった。
・Grade3以上の治療関連有害事象は、T-DXd群で56.4%、T-DM1群で51.7%であった。
・外部判定委員会の判定による薬剤関連の間質性肺疾患は、T-DXd群で15.2%(Grade1:4.3%、Grade2:10.1%、Grade3:0.8%)、T-DM1で3.1%(Grade1:1.5%、Grade2:1.1%、Grade3:0.4%)であった。

 Hurvitz氏は、「トラスツズマブおよびタキサン系薬剤の前治療歴があり、HER2+の切除不能または転移を有する乳がん患者において、T-DM1と比較して、T-DXdで治療を行った群では、臨床的かつ統計学的に有意なOSおよびPFSの改善がみられた。また、長期に及ぶ治療において、安全性プロファイルは管理可能で忍容性も高かった」とまとめた。

(ケアネット 森 幸子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

DESTINY-Breast03(ClinicalTrials.gov)

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HR0.58、camizestrantがER+HER2-進行乳がんでフルベストラントに対しPFS延長(SERENA-2)/SABCS2022

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 ホルモン受容体(ER)陽性/HER2陰性の閉経後進行乳がん(ABC)患者において、次世代経口選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)であるcamizestrantが、フルベストラントと比較して無増悪生存期間(PFS)を統計学的に有意に改善した。第II相SERENA-2試験の結果を、スペイン・Vall d’Hebron University HospitalのMafalda Oliveira氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2022)で発表した。

・対象:ER陽性/ HER2陰性の閉経後進行乳がん患者(1ライン以上の内分泌療法後の再発または進行で、ABCに対するフルベストラントまたは経口SERD治療歴はなく、内分泌療法・化学療法は1ライン以下)
・試験群:
camizestrant75mg(C75)群 74例
camizestrant150mg(C150)群 73例
・対照群:フルベストラント(F)群 73例
・評価項目:
[主要評価項目]PFS
[副次評価項目]24週における臨床的ベネフィット率(CBR24)、奏効率(ORR)、全生存期間(OS)、安全性
[層別化因子]CDK4/6阻害薬による治療歴、肺/肝転移

 主な結果は以下のとおり。

・ベースライン時点での年齢中央値は60.0(35~89)歳、ECOG 0が58.8%、肺/肝転移ありが58.3%、ESR1変異ありが36.7%だった。
・術後内分泌療法歴ありが66.7%、ABCに対しては化学療法ありが19.2%、内分泌療法ありが68.8%。CDK4/6阻害薬による治療歴ありは49.6%だった。
・PFS中央値は、F群3.7ヵ月に対しC75群7.2ヵ月(ハザード比[HR]:0.58、95%信頼区間[CI]:0.41~0.81、p=0.0124)、C150群7.7ヵ月(HR:0.67、95%CI:0.48~0.92、p=0.0161)となり、camizestrantの両用量群で有意に改善した。
・PFSのサブグループ解析の結果、CDK4/6阻害薬による治療歴ありおよび肺/肝転移あり、ベースライン時点でESR1変異を有する患者とER-driven disease(5th ESO-ESMO ABCにより定義)の患者において、camizestrantの両用量はフルベストラントと比較し臨床的に意義のある改善を示した。
・camizestrantの両用量での治療により、ctDNAにおけるESR1変異のレベルがサイクル 2の1日目までに検出不能または検出不能に近いレベルまで低下し、これをサイクル7の 1日目まで維持した。フルベストラントも低下させたが、camizestrantほどの低下はみられなかった。
・ORRはF群11.5%に対しC75群15.7%(オッズ比[OR]:1.43、95%CI:0.63~3.33、両側p=0.4789)、C150群20.3%(OR:1.96、95%CI:0.88~4.51、両側p=0.1675)だった。
・CBR24はF群39.1%に対しC75群48.8%(OR:1.48、95%CI:0.84~2.64、両側p=0.2554)、C150群51.0%(OR:1.62、95%CI:0.91~2.89、両側p=0.1658)だった。
・Grade3以上のTRAEはC75群1.4%、C150群2.7%、F群1.4%で発生。TRAEによる投与中断はC75群14.9%、C150群21.9%で発生したが(F群4.1%)、短期間であった。
・Grade3以上のTEAEとしては、C75群では血圧上昇、C150群では倦怠感・貧血・関節痛・ALT上昇・四肢痛・低ナトリウム血症が報告されている。

 Oliveira氏は「SERENA-2試験は主要評価項目を達成し、camizestrantは75mgと150mg の両用量で、同患者においてフルベストラントと比較してPFSを改善し、またアンメットメディカルニーズとして事前に設定された各サブグループにおいても臨床的に意義のあるPFS改善効果を示した」とまとめた。また、稀にGrade3以上のTRAEが発生し、減量や中断が行われたものの、両用量ともに忍容性は高いとしている。

 SERENA-4およびSERENA-6の2つの第III相試験が進行中となっている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【参考文献・参考サイトはこちら】

SERENA-2試験(ClinicalTrials.gov)

SERENA-4試験(ClinicalTrials.gov)

SERENA-6試験(ClinicalTrials.gov)

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AIで乳がん病変の良悪性鑑別を~非侵襲的かつ鑑別精度の高い手法の開発目指す

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 GEヘルスケア・ジャパン株式会社(以下、GEヘルスケア)と愛媛大学は、乳がんの早期発見・診断精度向上に向けた非侵襲的な検査方法を開発するべく2021年より共同研究を開始している。本研究では同医学部附属病院で得られた乳腺病変のデータに人工知能技術を使用した解析を行っており、その結果、画像データから乳腺病変の良悪性を鑑別できる可能性が示唆された。本結果は、12月6日の記者会見で発表されたもので、将来的に乳がんの診断や治療に伴う身体的負担や心理的不安、検査コストの低減につながる可能性がある。

 乳がん領域において、検診のマンモグラフィ画像から病変検出や良悪性判定するためにCAD(Computer-aided diagnosis)が活用されるなど、人工知能による乳がん発症予測の実現化が期待され、実際に陰性のマンモグラフィ検査後5年以内の乳がん発症リスクを推定できることも報告されている1)。一方、精密検査では超音波検査や乳腺MRIを実施した後、米国放射線専門医会(ACR)が中心となって作成したガイドラインBreast imaging reporting and data system(BI-RADS)を用いて良悪性診断を行うが、人間による腫瘤の形・辺縁の評価や判別には限界があることから、診断方法の確立が望まれている。

 そこで、GEヘルスケアと愛媛大学は「MRIによる各種定量値のマッピング画像を用いた人工知能による新たな乳腺病変の良悪性判定方法」の開発に着手。本研究に当たっている松田 卓也氏(同大学大学院医学系研究科医療情報学講座)らは、Synthetic MRIの“1回の撮像から複数種類の定量値マップが取得できる”という利点を用い、造影前後の乳腺Synthetic MRIのマッピング画像から得たRadiomics特徴量(ヒストグラム特徴量とテクスチャー特徴量)を用いて、機械学習手法による乳腺腫瘤の良悪性鑑別に対する有用性を検討した。造影前後に行った水平断像のSynthetic MRIのsource imageからPD map、T1 map、T2 mapを作成し、それぞれからRadiomics特徴量88種類を抽出させる(88×3×2=528種類)。ただし、機械学習の性能維持のために計528特徴量から100種類の特徴量を選択(次元削減)するなどの処理を行った。

*Radiomics=Radiology(放射線医学)+Omics(すべて+学問)の意。医用画像の(多数の)特徴量を統計解析や機械学習に用いる手法のこと。

 本研究の初期検討結果について、松田 卓也氏は「今後の性能向上(特徴量の追加[そのほかのMRI画像特徴量・臨床的因子]やカテゴリー判定と組み合わせた総合的アルゴリズム)を検討している。臨床応用のためにエビデンスを構築し、更なる検討を重ねていく」とコメント。松田 恵氏(同大学医学部附属病院 放射線部)は「今後、精度を上げていくことで生検が不要になり、医療コスト面からも貢献できる可能性がある」と話した。

(ケアネット 土井 舞子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

1)Yala A, et al. Radiology. 2019;292:60-66.

愛媛大学:人工知能(AI)で、乳腺病変の良悪性鑑別の精度を向上、非侵襲的かつ早期の発見を目指す

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