HER2陽性早期乳がんへのトラスツズマブの上乗せ効果~メタ解析/Lancet Oncol

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 HER2陽性早期乳がんに対する補助化学療法へのトラスツズマブ上乗せによる再発率と死亡率への長期的ベネフィットについて、Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative group(EBCTCG)が7つの無作為化試験のメタ解析により検討した。その結果、トラスツズマブ上乗せにより、患者および腫瘍の特徴にかかわらず、乳がん再発率を34%、乳がん死亡率を33%減少させたことが示唆された。Lancet Oncology誌2021年8月号に掲載。

 本研究は、化学療法+トラスツズマブを化学療法のみと比較した無作為化試験における個々の症例データのメタ解析。リンパ節転移なしまたはありの手術可能な乳がん女性を登録した無作為化試験が含まれる。ベースラインの特徴、最初の遠隔再発と局所再発もしくは2次発がんの日付と部位、死亡の日付と原死因について、各症例のデータを収集した。主要アウトカムは、乳がん再発率、乳がん死亡率、再発なしの死亡率、全死亡率とした。年齢、リンパ節転移の有無、エストロゲン受容体(ER)の状態、試験で層別化し、ITT集団で解析した。トラスツズマブ併用群と化学療法単独群の年間イベント発生率比(RR)とその信頼区間(CI)をlog-rank検定を用いて推定した。

 主な結果は以下のとおり。

・選択基準を満たした無作為化試験は7件、計1万3,864例で、2000年2月~2005年12月に登録された。
・予定治療期間の平均は14.4ヵ月、観察期間中央値は10.7年(四分位範囲:9.5~11.9)だった。
・化学療法単独よりトラスツズマブ併用のほうが、乳がんの再発リスク(RR:0.66、95%CI:0.62~0.71、p<0.0001)および乳がん死亡リスク(RR:0.67、95%CI:0.61~0.73、p<0.0001)が低かった。10年での再発率は絶対値で9.0%(95%CI:7.4~10.7、p<0.0001)減少し、乳がん死亡率では6.4%(95%CI:4.9~7.8、p<0.0001)減少、全死亡率では6.5%(95%CI:5.0~8.0、p<0.0001)減少した。再発なしの死亡率は増加しなかった(0.4%、95%CI:-0.3~1.1、p=0.35)。
・トラスツズマブ上乗せによる再発率の減少は、無作為化後0~1年で最大であり(RR:0.53、99%CI:0.46〜0.61)、2〜4年(RR:0.73、99%CI:0.62〜0.85)および5~9年(RR:0.80、99%CI:0.64~1.01)ではベネフィットが継続し、10年目以降はほとんどフォローアップされていなかった。また、患者および腫瘍の特徴(ERの状態含む)にかかわらず、同様だった。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative group(EBCTCG). Lancet Oncol. 2021;22:1139-1150.

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HER2+乳がん2次治療、T-DXdがT-DM1に対しPFS改善/AZ・第一三共

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 アストラゼネカと第一三共は2021年8月9日、HER2陽性の再発・転移を有する乳がん患者の2次治療における、トラスツズマブ デルクステカン(商品名:エンハーツ、以下T-DXd)の第III相試験(DESTINY-Breast03)の中間解析の結果、主要評価項目を達成したことを発表した。

 DESTINY-Breast03試験は、トラスツズマブとタキサンによる治療歴のあるHER2陽性の切除不能および/または転移を有する乳がん患者を対象に、T-DXdとトラスツズマブ エムタンシン(商品名:カドサイラ、以下T-DM1)の有効性と安全性を直接比較する国際無作為化非盲検第III相試験。主要評価項目は独立データモニタリング委員会(IDMC)評価による無増悪生存期間(PFS)。副次評価項目は全生存期間(OS)、客観的奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、病勢コントロール率(DCR)、クリニカルベネフィット率(CBR)、治験責任医師評価によるPFS、および安全性となっている。DESTINY-Breast03試験には、アジア、ヨーロッパ、北アメリカ、オセアニア、南アメリカから約500例が登録されている。

 中間解析では、主要評価項目であるPFSについて、T-DXdはT-DM1と比較して統計的に有意な改善を示した。またOSデータはimmature(未成熟)であるものの、T-DM1と比較して改善の強い傾向を示している。T-DXdの安全性プロファイルは以前の臨床試験結果と一致しており新たな安全性上の懸念は示されておらず、Grade 4あるいは5の治療関連ILDイベントは確認されていない。

 本試験結果の詳細は、今後学会にて発表され、保健当局と共有される予定となっている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【参考文献・参考サイトはこちら】

DESTINY-Breast03試験(Clinical Trials.gov)

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ペムブロリズマブ併用、PD-L1陽性進行TN乳がんでOS改善/MSD

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 MSDは2021年7月27日、転移を有するトリプルネガティブ乳がん(mTNBC)患者を対象として抗PD-1抗体ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)と化学療法との併用療法を評価する第III相KEYNOTE-355試験において、全生存期間(OS)の改善が認められたことを発表した。

 同試験の最終解析の結果、PD-L1陽性(CPS≧10)のmTNBC患者に対する一次治療として、ペムブロリズマブと化学療法(ナブパクリタキセル、パクリタキセルまたはゲムシタビン/カルボプラチン)との併用療法は、化学療法単独と比較して統計学的に有意かつ臨床的に意味のあるOSの改善が認められた。なお、米国ではFDAが承認した検査で腫瘍にPD-L1の発現が認められる(CPS≧10)切除不能な局所再発または転移を有するトリプルネガティブ乳がんを適応症として、化学療法との併用療法が承認されている。今回のOSの結果は今後主要な学会で発表され、規制当局に提出される予定。

 KEYNOTE-355試験は、化学療法歴のない切除不能な局所再発または転移を有する進行トリプルネガティブ乳がんの患者を対象として、ペムブロリズマブと3種の化学療法のうち1種との併用療法をプラセボと3種の化学療法のうち1種との併用療法と比較する2つのパートからなる、第III相無作為化プラセボ対照試験。主要評価項目はPD-L1陽性(CPS≧1およびCPS≧10)の患者およびすべての被験者(ITT集団)におけるPFSおよびOSであった。このほかの評価項目は客観的奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、病勢コントロール率(DCR)、患者報告アウトカム(PRO)および安全性。

 KEYNOTE-355試験のパート2では、被験者847例を2:1の割合でペムブロリズマブ(200mgを3週間毎)と化学療法(ナブパクリタキセル、パクリタキセルまたはゲムシタビン/カルボプラチンから医師が選択)との併用療法、またはプラセボとナブパクリタキセル、パクリタキセルまたはゲムシタビン/カルボプラチンとの併用療法のいずれかに無作為に割り付けた。各群に登録された被験者のうち、CPS≧1のPD-L1陽性患者は約75%(ペムブロリズマブ+化学療法群566例中425例、プラセボ+化学療法群281例中211例)であり、CPS≧10のPD-L1陽性患者は約38%(ペムブロリズマブ+化学療法群566例中220例、プラセボ+化学療法群281例中103例)であった。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【参考文献・参考サイトはこちら】

KEYNOTE-355試験(Clinical Trials.gov)

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閉経後乳がん術後内分泌療法の延長、5年vs.2年/NEJM

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 術後内分泌療法を5年間受けた閉経後ホルモン受容体陽性乳がん女性において、アロマターゼ阻害薬を5年間延長しても2年間延長と比較して有益性はなく、骨折リスクが増加することが示された。オーストリア・Medical University of ViennaのMichael Gnant氏らが、5年間の術後内分泌療法終了後のアナストロゾールの2年または5年追加の有効性および安全性を比較した第III相臨床試験「Secondary Adjuvant Long-Term Study with Arimidex[anastrozole]:SALSA試験」の結果を報告した。閉経後ホルモン受容体陽性乳がん女性において、アロマターゼ阻害薬による術後内分泌療法の最も有効な治療期間については明らかではなかった。NEJM誌2021年7月29日号掲載の報告。

5年間術後内分泌療法終了後のアナストロゾール2年追加と5年追加を比較

 研究グループは、オーストリアの75施設において、早期のホルモン受容体陽性閉経後浸潤性乳がん(StageI~III)に対して、5年間±12ヵ月の術後内分泌療法(タモキシフェン、アロマターゼ阻害薬またはその両方)を終了し再発が認められない80歳以下の患者を、アナストロゾール2年間追加投与群(2年群)および5年間追加投与群(5年群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。

 主要評価項目は、無作為化後2年時点(2年群の投与終了時)で本試験に参加しており再発を認めないすべての患者における無病生存期間(DFS)、副次評価項目は全生存(OS)、対側乳がん、2次がん、および臨床的骨折である。

 2004年2月~2010年6月に3,484例が無作為化され、同意が得られなかった14例を除く3,470例が解析対象となった。このうち、有効性解析対象集団は無作為化後2年時点で再発がなく試験を継続していた3,208例(2年群1,603例、5年群1,605例)である。

DFS、OSに有意差はないが、臨床的骨折リスクは5年群が高い

 無作為化後の追跡期間中央値118.0ヵ月(四分位範囲:97.8~121.1)において、無作為化後10年時(2年群の投与終了後8年)のDFSは、2年群73.6%、5年群73.9%、ハザード比(HR)は0.99(95%信頼区間[CI]:0.85~1.15、p=0.90)で差はなかった。

 副次評価項目については、OS、乳がんおよび2次がんの発生に群間差は認められず、サブグループ解析においても特定のサブグループで差はなかった。一方、無作為化後5年時の臨床的骨折リスクは、5年群が2年群より高かった(HR:1.35、95%CI:1.00~1.84)。

 なお、著者は、アロマターゼ阻害薬がアナストロゾールのみであったこと、高リスク患者を対象としていないことなどを研究の限界として挙げている。

(医学ライター 吉尾 幸恵)


【原著論文はこちら】

Gnant M, et al. N Engl J Med. 2021;385:395-405.

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がん化療中の副作用、遠隔モニタリングで症状負荷減少/BMJ

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 Advanced Symptom Management System(ASyMS)を用いたがん治療中の遠隔モニタリングにより、症状の負担が有意に減少することが示された。英国・ストラスクライド大学のRoma Maguire氏が、オーストリア、ギリシャ、ノルウェー、アイルランドおよび英国のがんセンター12施設で実施した無作為化評価者盲検比較試験「eSMART試験」の結果を報告した。ASyMSは、携帯電話を用い化学療法の毒性を24時間体制でリアルタイムにモニタリングし管理するシステムである。著者は、「効果量は“中(medium)”(Cohen’s d=0.5)であったことから、ASyMSは臨床的に有効と考えられる。遠隔モニタリングシステムは、将来の医療サービス、とくにCOVID-19のパンデミックで生じる混合医療提供モデルには不可欠である」とまとめている。BMJ誌2021年7月21日号掲載の報告。

初回または5年ぶりの化学療法を受けるがん患者829例を無作為化し評価

 研究グループは、補助化学療法関連副作用の遠隔モニタリングが、症状の負担やQOLなどに及ぼす影響を評価する目的で、初回または5年ぶりの化学療法を受ける、転移のない乳がん、大腸がん、ホジキン病または非ホジキンリンパ腫患者829例を、ASyMSを用いた治療群(介入群、415例)または標準治療群(対照群、414例)に無作為に割り付け、6サイクルの化学療法を行った。

 介入群は、ASyMSを用い、10種類の症状(悪心・嘔吐、下痢、便秘、粘膜炎、知覚異常、手足の痛み、インフルエンザ様症状/感染症、疲労感、痛み)および最大6種類の追加症状を評価する質問票(Daily Chemotherapy Toxicity Self-Assessment Questionnaire: DCTAQ)に記入した。

 主要評価項目は症状の負担(Memorial Symptom Assessment Scale:MSASで評価)、副次評価項目はそれぞれの評価スケールによる、健康関連QOL(Functional Assessment of Cancer Therapy-General:FACT-G)、支持療法のニーズ(Supportive Care Needs Survey Short-Form:SCNS-SF34)、不安(State-Trait Anxiety Inventory-Revised:STAI-R)、自己効力感(Communication and Attitudinal Self-Efficacy Scale for Cancer:CASE-Cancer)、および労働遂行能力(Work Limitations Questionnaire:WLQ)であった。

ASyMSを用いた副作用の遠隔モニタリングで症状負荷が軽減

 症状の負担(MSAS総スコア)は、介入群では化学療法前(ベースライン)と同程度であったが、対照群ではサイクル1以降、増加した。ベースラインからの変化量は、介入群が低かった(補正後平均群間差:-0.15、95%信頼区間[CI]:-0.19~-0.12、p<0.001、Cohen’s d=0.5)。MSASのサブドメインについても、介入群では対照群と比較し、全体的苦痛指数(-0.21、-0.27~-0.16、p<0.001)、精神症状(-0.16、-0.23~-0.10、p<0.001)、および身体症状(-0.21、-0.26~-0.17、p<0.001)が有意に低いことが示された。

 副次評価項目のベースラインからの変化量については、介入群でFACT-G総スコアは高く(補正後平均群間差:4.06、95%CI:2.65~5.46、p<0.001)、STAI-R特性不安(-1.15、-1.90~-0.41、p=0.003)およびSTAI-R状態不安(-1.13、-2.06~-0.20、p=0.02)は低く、CASE-Cancerスコアは高く(0.81、0.19~1.43、p=0.01)、SCNS-SF34はほとんどのドメイン(性的なニーズ、患者ケアとサポートのニーズ、身体と日常生活のニーズ)が低かった。その他のSCNS-SF34ドメインおよびWLQには有意な差はなかった。

 ASyMSの安全性は良好であった。好中球減少症が介入群で高頻度にみられた。

(ケアネット)


【原著論文はこちら】

Maguire R, et al. BMJ. 2021;374:n1647.

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がん治療の中心静脈アクセスデバイス、完全埋め込み型ポートが有用/Lancet

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 固形腫瘍または血液腫瘍患者の全身性抗がん薬治療(SACT)に使用する中心静脈アクセスデバイス(CVAD)では、完全埋め込み型ポート(PORT)はHickmanトンネル型中心静脈カテーテル(Hickman)や末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)と比較して、合併症の頻度がほぼ半減し、QOLや費用対効果も比較的良好である可能性があることが、英国・グラスゴー大学のJonathan G. Moss氏らが実施した「CAVA試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2021年7月20日号に掲載された。

3つの2群間比較で非劣性または優越性を評価

 研究グループは、悪性腫瘍患者に対するSACTに用いる3つのCVADについて、合併症の発生率や費用、QOLを比較し、受容性、臨床的有効性、費用対効果を評価する目的で、非盲検無作為化対照比較試験を行った(英国国立衛生研究所[NIHR]医療技術評価[HTA]プログラムの助成による)。本試験では、2013年11月~2018年2月の期間に、英国の18の腫瘍科病棟で参加者が募集された。

 対象は、年齢18歳以上、固形腫瘍または血液腫瘍の治療で12週以上のSACTが予測され、最適なCVADに関して臨床的に不確実性が認められる患者であった。

 被験者は、4つの無作為化の選択肢(Hickman対PICC対PORT[2対2対1]、PICC対Hickman[1対1]、PORT対Hickman[1対1]、PORT対PICC[1対1])に基づいて、3つのCVADに割り付けられた。PICCとHickmanの比較では非劣性(マージン:10%)、PORTとHickmanおよびPORTとPICCの比較では優越性(マージン:15%)の評価が行われた。

 主要アウトカムは、デバイスの除去、試験中止、追跡期間1年のうちいずれか先に到達した時点における合併症(デバイス関連の感染症・静脈血栓症・肺塞栓症、静脈血吸引不能、器具の故障など)の発生率とした。

医療サービス提供モデルの改変が課題

 1,061例が登録され、PICC対Hickmanに424例(PICC群212例、Hickman群212例)、PORT対Hickmanに556例(253例、303例)、PORT対PICCに346例(147例、199例)が割り付けられた(Hickman対PICC対PORTの患者は2つの2群間比較に含まれたため、比較対象の患者の総数は無作為化で割り付けられた患者数よりも多く、1,326例[各群の平均年齢の幅59~62歳、女性の割合の幅44~55%]となった)。

 がん種は、固形腫瘍が87~97%で、このうち大腸がんが46~65%、乳がんが11~16%、膵がんが6~15%であり、血液腫瘍は3~13%で、固形腫瘍の患者のうち59~68%に転移病変が認められた。

 Hickmanの留置を最も多く行ったのは放射線科医(46~48%)で、次いで看護師(23~35%)、麻酔科医(13~20%)の順であった。PICC留置の多くは看護師(67~73%)によって行われた。PORT留置は、放射線科医(59~78%)、看護師(2~24%)、麻酔科医(10~11%)の順だった。PORT群の5例が全身麻酔下にデバイスを留置されたが、これ以外はすべて局所麻酔下であった。

 PICC対Hickmanの合併症発生率は、PICC群が52%(110/212例)、Hickman群は49%(103/212例)と同程度であった。両群間の差は10%未満であったが、PICCのHickmanに対する非劣性は確認されず(オッズ比[OR]:1.15、95%信頼区間[CI]:0.78~1.71)、検出力が不十分である可能性が示唆された。

 PORT対Hickmanの合併症発生率は、PORT群が29%(73/253例)と、Hickman群の43%(131/303例)に対して優越性が認められた(OR:0.54、95%CI:0.37~0.77)。また、PORT対PICCでは、PORT群は32%(47/147例)の発生率であり、PICC群の47%(93/199例)に比し優れていた(0.52、0.33~0.83)。

 デバイス特異的なQOLは、PICC群とHickman群に差はなく、PORT群はこの2群に比べ良好であった。一方、PICC群はHickman群よりも総費用が低かった(-1,553ポンド)が、留置期間を考慮すると、週当たりの費用の差は小さくなった(-129ポンド)。PORT群はHickman群に比べ総費用(-45ポンド)が低く、週当たりの費用も安価であった(-47ポンド)が、有意差はなかった。また、PORT群はPICC群に比し総費用が実質的に高額であった(+1,665ポンド)が、週当たりの費用は逆に低かった(-41ポンド、有意差はない)。

 著者は、「これらの知見により、固形腫瘍でSACTが行われる患者の多くは、英国国民保健サービス(NHS)の範囲内でPORT留置を受けるべきであることが示唆される」とまとめ、「現在の課題は、PORTをより適切な時期に、費用対効果が高い方法で施行できるように、医療サービス提供モデルを改変することである」としている。

(医学ライター 菅野 守)


【原著論文はこちら】

Moss JG, et al. Lancet. 2021 Jul 20. [Epub ahead of print]

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アベマシクリブ関連ILD、実臨床での発症率と好発時期は?/日本乳癌学会

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 日本人転移・再発乳がん患者におけるアベマシクリブ関連薬剤性肺障害(ILD)の実臨床での発症率と好発時期について、国内77施設での調査結果が報告された。日本人におけるアベマシクリブ関連ILDの発症率やリスク因子、臨床病理学的特徴を明らかにする目的で進行中のネステッドケースコントロール研究(NOSIDE)の中間報告結果を、昭和大学乳腺外科・先端がん治療研究所の吉沢 あゆは氏が第29回日本乳癌学会学術総会で発表した。

研究概要
 2018年11月~2019年12月にアベマシクリブによる治療が実施された転移・再発乳がん患者を対象に、年齢・性別、アベマシクリブ開始日・終了日、ILD発症(疑いを含む)の有無と発症日等についてアンケート調査を実施(一次調査)。

 7名の中央評価委員による中央評価委員会を7回開催し、アベマシクリブ投与の関連を認めるILD症例を確定した。現在進行中の二次調査ではネステッドケースコントロール研究のデザインを用いてILD症例と、3倍の非ILD症例を抽出し、患者基本情報、既往歴・合併症、乳がん治療歴、アベマシクリブ投与開始前および投与中の身体所見・検査所見、ILD発症後の身体所見、検査所見、治療内容、転帰について詳細な調査を実施。リスク因子の評価などが行われる計画となっている。

・評価項目:
[主要評価項目]ILDの発症率(一次調査)およびリスク因子(二次調査)
[副次評価項目]ILDの好発時期およびILDの重症度、臨床病型、臨床経過(一次調査)

 今回発表された主な結果は以下のとおり。

・国内77施設から1,189例が一次調査に登録された。女性が1,184例(99.6%)、年齢中央値は61(52~70)歳であった。
・各施設から「ILD発症有(疑いも含む)」と報告されたのは76例。そのうち、中央評価委員会によりアベマシクリブ関連ILDと判定されたのは59例(5.0%)であった。
・アベマシクリブ関連ILD発症59例の年齢中央値は66.0(55.0~73.0)歳、内服開始から発症までの期間は91~120日が最も多く、中央値は133.0(86.5~224.0)日であった。
・ILDの臨床病型はOP39例(66.2%)、AIP/DAD23例(22.0%)、NSIP3例(5.1%)、HP3例(5.1%)、その他(肺水腫様)1例(1.7%)であった。
・アベマシクリブ療法の治療ラインについては、1~2ライン目での使用が最も多く半数以上を占めたが、6ライン目での使用も多くみられた。
・CTCAEのGradeは、Grade1が15例(25.4%)、Grade2が29例(49.2%)、Grade3が7例(11.9%)、Grade5が8例(13.6%)であった。
・「薬剤性肺障害の診断・治療の手引き」に基づく重症度は、軽症(PaO2≧80torr)28例(47.5%)、中等症(60torr≦PaO2<80torr)7例(11.9%)、重症(PaO2>60torr[PaO2/ FiO2<300])14例(23.7%)、判定不能10例(16.9%)であった。
・転帰(発症後のCT所見および主治医判断の転帰を参考に、中央評価委員会が総合的に判断)については、治癒8例(13.6%)、軽快29例(49.2%)、悪化1例(1.7%)、死亡8例(13.6%)、不変1例(1.7%)、判定不能1例(1.7%)、未確認11例(18.6%)であった。

 これらの結果を受け演者の吉沢氏は、5.0%というILD発症率は市販後半年の調査結果と比較して3倍程度高いが、MONARCH-2・3試験の日本人集団におけるILD発症率(4.0%)と近い結果であり、本研究結果がより正確なILD発症率に近いと考察した。また、アベマシクリブ内服中はILD発症の可能性を念頭におき、問診、定期的な聴診、胸部X線撮像のほか、KL6やSP-Dのチェックが必要と考察している。発症時期は内服開始後3~4ヵ月に多いが、1年後以降の発症例が認められた点も指摘している。CTCAE Grade3以上を15例(25.5%)に認めており、MONARCH 2・3試験より重症例が多い結果であるが、これらの要因等の評価は現在施行中の二次調査で評価予定である。

 なお二次調査は、2021年10月までの全例データ固定を予定している。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


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非浸潤性乳がんの局所再発におけるTILの影響~メタ解析

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 非浸潤性乳がんのバイオマーカーとしての腫瘍浸潤リンパ球(TIL:Tumor Infiltrating Lymphocyte)の役割を検討するため、ベルギー・Universite Libre de BruxellesのRafael Caparica氏らは、非浸潤性乳がん患者の予後へのTILレベルの影響についてメタ解析で評価した。その結果、高TILの患者は、局所再発(浸潤性または非浸潤性)が起こりやすいが、非浸潤性乳がんでは浸潤性局所再発の可能性は低いことが示された。Breast誌オンライン版2021年7月9日号に掲載。

 著者らは、系統的文献検索により、非浸潤性乳がん患者のTILレベル(高vs.低)による局所再発を評価している研究を特定し、局所再発(浸潤性および非浸潤性)ごとのサブグループ解析を実施した。副次評価項目は、TILレベルと非浸潤性乳がんのサブタイプ、年齢、グレード、壊死との関連だった。各研究からオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を抜き出し、ランダム効果モデルを用いてプール解析を実施した。

 主な結果は以下のとおり。

・7つの研究(3,437例)でメタ解析を実施した。
・高TILの場合、局所再発の可能性が高いが(浸潤性または非浸潤性、2,941例、OR:2.05、95%CI:1.03~4.08、p=0.042)、浸潤性局所再発の可能性は低かった(1,722例、OR:0.69、95%CI:0.49~0.99、p=0.042)。
・高TILは、トリプルネガティブ乳がん(OR:3.84、95%CI:2.23~6.61、p<0.001)、HER2陽性乳がん(OR:6.27、95%CI:4.93~7.97、p<0.001)、高グレード(OR:5.15、95%CI:3.69~7.19、p<0.001)、壊死(OR:3.09、95%CI:2.33~4.10、p<0.001)と関連していた。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Caparica R, et al. Breast. 2021;59:183-192.

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HBOCにおけるリスク低減乳房切除術、実施割合の高い女性は?/日本乳癌学会

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 わが国では2020年4月、乳がんもしくは卵巣がんの既往歴のある遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)女性に対するリスク低減乳房切除術(RRM)とリスク低減卵巣卵管摘出術(RRSO)が保険適用された。今回、保険適用となる前のJOHBOCデータを用いて、HBOC女性のRRM実施状況を分析した結果について、国立病院機構四国がんセンターの大住 省三氏が第29回日本乳癌学会学術総会で報告した。子供がいる女性、乳房のサーベイランスを実施した女性、RRSOを実施した女性では、RRM実施割合が高かったという。

 本調査の対象は、2010~19年にBRCA遺伝学的検査を受け、病的バリアントを有することが判明し、JOHBOCの全国登録に登録されたHBOCの女性748例。大住氏らは、RRM実施割合と、RRM実施と子供の有無、乳房のサーベイランスの有無、RRSOの実施の有無、乳がん既往歴の有無、第2度近親者以内の乳がん家族歴の有無との関係を分析した。さらに、RRMを受けた年齢および遺伝学的検査を受けた年齢を調べた。統計学的有意性はカイ2乗検定とt検定で評価した。

 主な結果は以下のとおり。

BRCA1の病的バリアントを認めたのは437例、BRCA2は307例、4例がどちらも認めた。RRMを受けた女性は計90例(12.0%)で、その割合はBRCA1(67例、15.3%)のほうがBRCA2(23例、7.5%)より有意に高かった(p=0.000)。

・子供あり、乳房のサーベイランスあり、RRSO実施ありの女性は、RRMを受けた割合が高かった。
– 子供の有無:あり13.8% vs.なし7.6%(p=0.038)
– 乳房のサーベイランスの有無:あり19.9% vs.なし8.7%(p=0.000)
– RRSO実施の有無(卵巣がん患者を除く):あり31.4% vs.なし6.8%(p=0.000)
– RRSO実施の有無(卵巣がん患者を除く、RRM後にRRSO実施した女性はRRSO実施なしに分類した場合):あり27.8% vs.なし8.7%(p<0.001)

・乳がん既往歴と家族歴は、RRMを受けた割合に対して有意な影響はみられなかった。
– 乳がん既往歴:あり13.1% vs.なし8.2%(p=0.092)
– 乳がん家族歴:あり15.1% vs.なし9.7%(p=0.054)

・RRMを受けた女性のRRM時の平均年齢(±標準偏差)は42.9(±7.3)歳、遺伝学的検査を受けた年齢では、RRMを受けた女性で平均42.7(±7.1)歳、受けなかった女性で 47.5(±12.2)歳で、受けた女性のほうが約5歳若かった(p=0.00)。

 大住氏は「RRMが保険適用となった2020年から、RRMを受けるHBOCの女性が増えてきている。今回の結果は保険適用前の状況を示しており、2020年以降のRRM実施データとの比較について関心がある」と述べた。

(ケアネット 金沢 浩子)


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乳がんの新サブタイプ、HER2低発現症例の特徴/Lancet Oncol

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 抗HER2抗体薬物複合体の開発により、HER2低発現の患者を含む乳がん患者に新たな治療オプションがもたらされている。この新たなサブタイプの臨床的・分子生物学的特徴は、HER2陰性乳がん患者とどのように異なるのか。ドイツ・University Hospital of Giessen and MarburgのCarsten Denkert氏らが、術前化学療法への反応や予後を含む、HER2低発現症例の特徴をHER2陰性乳がん症例と比較し、Lancet Oncology誌オンライン版2021年7月9日号に報告した。

 研究者らは、2012年7月30日~2019年3月20日に実施された4つの前向き試験(GeparSeptoGeparOctoGeparXGain-2 neoadjuvant)において、併用術前補助化学療法で治療されたHER2非増幅型の原発性乳がん患者2,310例のコホートを対象に、プール解析を実施。HER2検査は、すべての試験で参加者の無作為割り付け前に前向きに行われた。HER2低発現の状態の評価は米国臨床腫瘍学会/米国病理学会のガイドラインに基づき、IHC1+またはIHC2+/ in-situ-と定義され、HER2陰性はIHC0と定義された。

 無病生存率および全生存率のデータは、1,694例(GeparXを除く3試験から)で利用可能であり、追跡期間中央値は46.6ヵ月であった(IQR:35、0~52、3)。2変量および多変量ロジスティック回帰モデルとコックス比例ハザードモデルは、エンドポイントの病理学的完全奏効(pCR)、無病生存率、および全生存率の分析のために事前定義された統計分析計画に基づいて実行された。

 主な結果は以下のとおり。

・2,310の腫瘍のうち計1,098(47.5%)がHER2低発現であり、1,212(52.5%)がHER2陰性であった。
・HER2低発現腫瘍を有する患者1,098例中703例(64.0%)がホルモン受容体陽性であったのに対し、HER2陰性腫瘍を有する患者では1,212例中445例(36.7%)であった(p<0.0001)。
・HER2低発現腫瘍のpCR率は、HER2陰性腫瘍よりも有意に低かった(1,098例中321例[29.2%] vs.1,212例中473例[39.0%]、p=0.0002)。
・また、ホルモン受容体陽性サブグループのpCR率は、HER2低発現腫瘍ではHER2陰性腫瘍と比較して有意に低かった(703例中123例 [17.5%] vs.445例中1053例 [23.6%]、p = 0.024)、しかしホルモン受容体陰性サブグループではこの差はみられなかった(395例中198例 [50.1%] vs.767例中368例 [48.0%]、p=0.21)。
・HER2低発現腫瘍を有する患者は、HER2陰性腫瘍を有する患者よりも有意に長い生存期間を示した(3年無病生存率:83.4%[95%CI:80.5~85.9] vs.76.1% [72.9~79.0]、層別ログランク検定p=0.0084/3年全生存率:91.6%[84.9~93.4] vs.85.8%[83.0~88.1]、層別ログランク検定p=0.0016)。
・ホルモン受容体陰性腫瘍の患者でも生存率にちがいがみられた(3年無病生存率:84.5%[79.5~88.3] vs.74.4%[70.2~78.0]、層別ログランク検定p=0.0076/3年全生存率:90.2%[86.0~93.2] vs.84.3%[80.7~87.3]、層別ログランク検定p=0.016)、ただしホルモン受容体陽性腫瘍の患者ではみられなかった(3年無病生存率:82.8%[79.1~85.9] vs.79.3%[73.9~83.7]、層別ログランク検定p=0.39/3年全生存率:92.3%[89.6~94.4] vs.88.4%[83.8~91.8]、層別ログランク検定p=0.13)。

 研究者らは、これらの結果はHER2低発現腫瘍がHER2陰性腫瘍とは異なり、標準化されたIHC評価によって乳がんの新しいサブグループとして識別できることを示すとまとめている。また、HER2低発現腫瘍には特定の生物学的特徴があり、治療と予後への反応にちがいがみられ、治療抵抗性のホルモン受容体陰性腫瘍でとくにその傾向がみられるとしている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【原著論文はこちら】

Denkert C,et al. Lancet Oncol. 2021 Jul 9:S1470-2045.00301-6.

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