40代日本人女性、乳房構成ごとのマンモグラフィ+超音波の上乗せ効果

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 現在、わが国における乳がん検診は、40歳以上に対する2年に1度の乳房X線検査(マンモグラフィ)が推奨されているが、高濃度乳房ではマンモグラフィによる精度低下が指摘されている。一方、超音波検査は乳房濃度に依存せず安価であり、乳がん検診への導入が期待されるが、有効性評価に関する研究は報告されていない。今回、40代の日本人女性を対象に、乳房構成ごとのマンモグラフィ+超音波検査併用による発見率・感度・特異度等を調べた大規模無作為化試験(J-START)の二次解析結果が報告された。東北大学の原田 成美氏らによるJAMA Network Open誌8月18日号への報告より。

 J-START試験は、40代日本人女性を対象に、マンモグラフィ受診群を対照群、マンモグラフィ検診に超音波検査を加えた群を介入群として、両群に無作為に割り付け、初回とその2年後に同じ検診を受診する無作為化比較試験。第1報として初回検診における感度、特異度、がん発見率についてLancet誌に2016年1月に報告され1)、今回の第2報では「乳房濃度別の感度、特異度解析による超音波検査の評価」が報告された。

 主な結果は以下のとおり。

・2007~20年に宮城県のスクリーニングセンターから登録された1万9,213人の女性(平均年齢:44.5 [SD:2.8]歳)のデータが分析された。
・9,705人が介入群、9,508人が対照群に無作為に割り付けられた。
・1万1,390人(59.3%)が、不均一高濃度または極めて高濃度の乳房を有していた。
・全体で130のがんが発見され、感度は介入群の方が対照群よりも有意に高かった(93.2%[95%CI:87.4~99.0%] vs.66.7%[54.4~78.9%]、p<0.001)。
・乳房構成ごとに感度をみると、高濃度乳房(介入群93.2%[85.7~100.0%] vs.対照群70.6%[55.3~85.9%]、p<0.001) および非高濃度乳房(介入群93.1%[83.9~102.3%] vs.対照群60.9%[40.9~80.8%]、p<0.001)で同様の傾向が観察された。
・1,000回のスクリーニング当たりの中間期がん発生率は、対照群と比較して介入群で低かった(0.5 cancers [0.1~1.0] vs. 2.0 cancers [1.1~2.9]、p=0.004)。
・介入群において、超音波検査のみで検出された浸潤がんの割合は、高濃度乳房(82.4%[56.6~96.2%] vs.41.7%[15.2~72.3%]、p=0.02)および非高濃度乳房(85.7%[42.1~99.6%] vs. 25.0%[5.5~57.2%]、p=0.02)でマンモグラフィ単独の場合よりも有意に高かった。
・ただし、マンモグラフィまたは超音波検査のみの感度は、両群のすべての乳房密度で80%を超えなかった。
・対照群と比較して、特異度は介入群で有意に低かった(91.8%[91.2~92.3%] vs.86.8%[86.2~87.5%]、p<0.001)。
・対照群と比較して、要精検率(13.8%[13.1~14.5%] vs.8.6%[8.0~9.1%]、p<0.001)および生検率(5.5%[5.1~6.0%] vs.2.1%[1.8~2.4%]、p<0.001)は、介入群で有意に高かった。

 研究者らは、この結果は超音波検査の併用が、高濃度乳房と非高濃度乳房どちらにおいても初期段階および浸潤性のがんの検出を改善する可能性を示唆しているとし、乳腺濃度によらず、40〜49歳の女性の乳がんスクリーニング手法として考慮されるべきではないかとまとめている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【原著論文はこちら】

Harada-Shoji N,et al. JAMA Netw Open. 2021;4:e2121505.

【参考文献・参考サイトはこちら】

1)Ohuchi N,et al. Lancet. 2016 Jan 23;387:341-348.

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日本人のがん患者の新型コロナウイルス抗体レベルは低いのか/JAMA Oncol

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 がん患者における新型コロナ抗体レベルは健康成人と比べて低いのか。わが国のがん患者と、非がん罹患者としての医療者のあいだで、血清SARS-CoV-2抗体の状態を比較した国立がんセンター中央病院 矢崎 秀氏らの前向き研究が発表された。

 対象は2020年8月3日~10月30日に、東京周辺の2つのがんセンターから、16歳以上のがん患者と医療者で前向きに登録された。

 評価項目は、がん患者と医療者の血清有病率と抗体レベル。血清陽性の定義は、ヌクレオカプシドIgG(N-IgG)および/またはスパイクIgG(S-IgG)の陽性であった。がん患者は、薬物療法、外科手術、放射線療法などのがん治療を受けている。

 主な結果は以下のとおり。

・がん患者500例(年齢中央値62.5歳、男性55.4%)と医療者1,190例(年齢中央値40歳、男性25.4%)が登録された。
・がん患者の97.8%は固形腫瘍で、1ヵ月以内に抗がん治療を受けていた患者は71.0%であった。
・血清有病率は、がん患者1.0%、医療者0.67%と同等であった(p=0.48)。
・抗体レベルは2種とも、医療者に比べがん患者で有意に低かった(N-IgG抗体:p<0.001、S-IgG抗体:p<0.0001)。
[がん患者における薬物療法と躯体レベルの関係]
・化学療法を受けた患者のN-IgGレベルは、化学療法を受けなかった患者より有意に低かった(p=0.04)。
・免疫チェックポイント阻害薬(ICI)投与を受けた患者の抗体レベルは2種ともICI投与を受けなかった患者より有意に高かった(N-IgGレベル:p=0.02、 S-IgGレベル:p=0.02)。

 この前向き研究では、SARS-CoV-2の血清有病率はがん患者と医療者で差はなかったが、抗体レベルはがん患者で有意に低かった。また、がん患者においては治療薬剤によって抗体レベルに差があった。

 筆者は、がんの合併は、SARS-CoV-2への免疫応答に影響を与える可能性があることを示唆している、と述べている。

(ケアネット)


【原著論文はこちら】

Yazaki S,et.al. JAMA Oncol.2021;7:1141-1148.

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アントラサイクリンベース化療中の乳がん、心保護薬の併用でLVEF低下を予防

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 イタリア・フィレンツェ大学Lorenzo Livi氏らがアントラサイクリンベースの化学療法で治療を受けている乳がん患者の無症候性の心臓損傷を軽減できるかどうかを調査した結果、β遮断薬のビソプロロールやACE阻害薬のラミプリル(日本未承認)を投与することで、がん治療に関連するLVEF低下や心臓リモデリングから保護する可能性を示唆した。JAMA Oncology誌2021年8月26日号オンライン版ブリーフレポートでの報告。

 本研究であるSAFE試験は、イタリアの8施設の腫瘍科で実施された多施設共同無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験で、12ヵ月で心臓評価を完了した最初の174例に関する中間分析。対象者の募集は2015年7月~2020年6月の期間で、中間分析は2020年に実施された。対象者はアントラサイクリンベースのレジメンを使用し、一次または術後の全身療法を受ける兆候があった患者で、事前に心血管疾患の診断を有していた患者は除外された。心臓保護薬としてビソプロロール、ラミプリル、ラミプリルとビソプロロール併用に割り付け、プラセボ群と比較。化学療法の開始から1年間、またはERBB2陽性者はトラスツズマブ療法の終了まで投与を行った。全グループの用量について、ビソプロロール(1日1回5mg)、ラミプリル(1日1回5mg)、プラセボを可能な範囲で体系的に漸増した。

 主要評価項目は、無症状(10%以上悪化)の心筋機能(左心室駆出率[LVEF])と歪み(長軸方向の歪み[GLS:global longitudinal strain])で、2Dおよび3Dの心エコー法で検出した。

 主な結果は以下のとおり。

・対象者は174例の女性(年齢中央値48歳、範囲24〜75歳)だった。
・12ヵ月間の3D心エコーでLVEFの低下状況を確認したところ、プラセボ群で4.4%、ラミプリル群、ビソプロロール群、併用群でそれぞれ3.0%、1.9%、1.3%の低下だった(p=0.01)。
・全体的な長軸方向の歪みは、プラセボ群で6.0%、ラミプリル群とビソプロロール群でそれぞれ1.5%と0.6%悪化したが、併用群では変化しなかった(0.1%の改善、p<0.001)。
・3D心エコーでLVEFが10%以上低下した患者数は、プラセボ群で8例(19%)、ラミプリル群で5例(11.5%)、ビソプロロール群で5例(11.4%)、併用群で3例(6.8%)だった。
・プラセボ群15例(35.7%)は、ラミプリル群(7例:15.9%)、ビソプロロール(6例:13.6%)、および併用群(6例:13.6%)と比較して、GLSが10%以上も悪化を示した(p=0.03)。

(ケアネット 土井 舞子)


【原著論文はこちら】

Livi L, et al. JAMA Oncol. 2021 Aug 26.[Epub ahead of print]

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ペグフィルグラスチムの自動投与デバイスを国内申請/協和キリン

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 協和キリンは、2021年8月30日、テルモと共同開発中の持続型G-CSF製剤ペグフィルグラスチム(製品名:ジーラスタ)の自動投与デバイスについて、がん化学療法による発熱性好中球減少症注の発症抑制を適応症とした製造販売承認申請を厚生労働省に行った。

 今回の申請は、協和キリンが実施した、安全性の評価を目的とする第I相臨床試験の結果に基づくもの。

 ペグフィルグラスチムは、がん化学療法剤投与終了後の翌日以降に投与されるのが通常である。

 同デバイスは、ペグフィルグラスチムが一定時間後に自動で投与される機能を搭載している。そのため、がん化学療法と同日に使用することが可能となり、投与のための通院が不要となる。

 患者の通院負担と医療従事者の業務負担の軽減につながることが期待されている。

(ケアネット 細田 雅之)


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閉経前の進行乳がん1次治療、エベロリムス併用でPFS延長(MIRACLE)/JAMA Oncol

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 選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)投与中に病勢進行したホルモン受容体(HR)陽性/HER2陰性の進行乳がんの閉経前女性を対象とした第II相無作為化試験(MIRACLE)で、レトロゾール単独に対して、エベロリムス併用で無増悪生存期間(PFS)延長が認められた。中国・Chinese Academy of Medical Sciences & Peking Union Medical CollegeのYing Fan氏らがJAMA Oncology誌オンライン版で報告。

 本試験は、2014年12月8日~2018年9月26日に1次治療を実施した対象患者において、レトロゾールとエベロリムス併用をレトロゾール単独と比較した多施設非盲検第II相無作為化試験。2015年1月5日~2019年12月30日にITT解析を実施した。

対象:SERM投与中に病勢進行したHR陽性/HER2陰性の進行乳がんの閉経前女性 199例
試験群:レトロゾール(2.5 mg1日1回経口)+エベロリムス(10 mg1日1回経口)101例
対照群:レトロゾール(2.5 mg1日1回経口)98例
両群とも28日サイクルの1日目にゴセレリン(3.6mg)を皮下投与。レトロゾール単独群の患者は、病勢進行時にエベロリムス併用群へのクロスオーバーが認められた。
主要評価項目:無増悪生存期間(PFS)

 主な結果は以下のとおり。

・対象患者の平均年齢(SD)は44.3歳(6.3歳)だった。
・エベロリムス併用群はレトロゾール単独群に比べ、PFS中央値が有意に延長した(19.4ヵ月[95%CI:16.3~22.0ヵ月]vs.12.9ヵ月[同:7.6~15.7ヵ月]、ハザード比:0.64[同:0.46~0.89]、p=0.008)。
・レトロゾール単独群98例中56例(57.1%)がエベロリムス併用群にクロスオーバーされ、クロスオーバー後のPFS中央値は5.5ヵ月(95%CI:3.8〜8.2ヵ月)だった。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Fan Y, et al. JAMA Oncol. 2021 Aug 26.[Epub ahead of print]

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一部の抗がん剤の投与患者、新型コロナ感染率が低い/JAMA Oncol

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 アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を減少させる可能性のある抗がん剤(mTOR/PI3K阻害薬や代謝拮抗薬など)を投与している患者では、他の抗がん剤の投与患者と比べて有意にSARS-CoV-2感染率が低かったことが、米国・Memorial Sloan Kettering Cancer CenterのMichael B. Foote氏らのコホート研究で示された。JAMA Oncology誌オンライン版2021年8月19日号に掲載。

 本研究ではまず、Library of Integrated Network-Based Cellular Signaturesのデータベースを使用し、細胞株全体でACE2遺伝子の発現低下に関連する抗がん剤を特定した。次に、COVID-19パンデミック中にMemorial Sloan Kettering Cancer Centerでがん治療を受けていた1,701例の後ろ向きコホートについて、ACE2を減少させる抗がん剤での治療がSARS-CoV-2感染のオッズ比(OR)と関連があるかどうかを検討した。対象は、がんの積極的治療を受け、2020年3月10日~5月28日にSARS-CoV-2検査を受けた患者で、主要アウトカムはACE2を減少させる可能性のある抗がん剤による治療とSARS-CoV-2検査陽性との関連とした。

 主な結果は以下のとおり。

・抗がん剤治療を受けているがん患者1,701例(平均年齢±SD:63.1±13.1歳、女性:949例、男性:752例)のSARS-CoV-2感染率を調べた。
・抗がん剤治療後の遺伝子発現シグネチャーのin silico解析により、細胞株全体でのACE2減少に関連する91の化合物が特定された。
・全コホートのうち215例(12.6%)が、mTOR/PI3K阻害薬(エベロリムス、テムシロリムス、alpelisib)、代謝拮抗薬(デシタビン、ゲムシタビン)、有糸分裂阻害薬(カバジタキセル)、その他のキナーゼ阻害薬(ダサチニブ、クリゾチニブ)の8つの薬剤で治療されていた。
・ACE2を減少させる抗がん剤を投与した患者の多変量解析(交絡因子を調整)では、215例中15例(7.0%)がSARS-CoV-2検査陽性、他の抗がん剤を投与した患者では1,486例中191例(12.9%)が陽性だった(OR:0.53、95%CI:0.29~0.88)。
・この関連は、がんの種類やステロイド使用を含んだ多変量解析や、複数の特徴に基づくペア患者を分析した傾向スコアマッチング多変量回帰感度分析でも確認された。
・ゲムシタビン投与はSARS-CoV-2感染の減少と関連していた(OR:0.42、95%CI:0.17~0.87)。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Foote MB, et al. JAMA Oncol. 2021 Aug 19.[Epub ahead of print]

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「遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)ガイドライン」刊行、ポイントは?

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 遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)の診療に関しては、2017年に「遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療の手引き」が刊行されている。HBOC既発症者へのリスク低減手術の保険収載や、膵がん・前立腺がんへのPARP阻害薬の承認など、遺伝子検査に基づく治療・マネジメントがいっそう求められる中、Minds「診療ガイドライン作成マニュアル2017」を遵守する形で、今回新たにガイドラインがまとめられた。2021年8月7日、webセミナー「遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療ガイドライン 2021年版の解説(主催:厚生労働科学研究費補助金[がん対策推進総合研究事業]「ゲノム情報を活用した遺伝性腫瘍の先制的医療提供体制の整備に関する研究」班)が開催され、各領域のポイントが解説された。

遺伝子診断・遺伝カウンセリング領域のポイント

 遺伝子診断・遺伝カウンセリング領域の最も重要なコンセプトは「がん未発症と既発症を区別せず、遺伝的な特性としてHBOCを捉えるという点」と平沢 晃氏(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科臨床遺伝子医療学)。BRCA遺伝情報を知ることのメリットは、(1)本人の治療法の選択、(2)本人のがん予防、(3)血縁者へのがん予防であると整理した。

 現在、手術や検査の対象によって、保険収載と未収載が混在している状況がある。遺伝BQ1ではこれらの状況について整理している。遺伝BQ2では、表「NCCNガイドラインの遺伝学的検査の基準」を掲載し、どのようなクライエントにBRCA遺伝学的検査を推奨するかがまとめられている。平沢氏はこの表のうち、
・乳がんの発症者で
・45歳以下の発症
・50歳以下の発症で条件に当てはまる場合
・60歳以下のトリプルネガティブ乳がん
・年齢を問わず1人以上の近親者が条件に当てはまる場合
・卵巣がん発症者
・男性乳がん
について、2020年よりBRCA遺伝学的検査が保険診療の対象となったことを解説。その他(既知のBRCA1/2の病的バリアントを保持する家系の個人、膵がん、高グレード前立腺がんで条件に当てはまる場合、腫瘍プロフィール検査でBRCA1/2の病的バリアントを認めた場合)は未収載となっている。

 また今回のガイドラインでは、「遺伝BQ10 生殖に関する遺伝カウンセリングにはどのように対応するべきか?」を新設。BRCA病的バリアント保持女性の妊孕性温存への対応フローが掲載されている。

乳がん領域のポイント

 領域リーダーを務めた有賀 智之氏(都立駒込病院乳腺外科)はまず、BRCA遺伝学的検査を推奨する乳がん患者について、従来からの血縁者に乳がんまたは卵巣がん患者がいる場合のほか、膵がん患者がいる場合が追加されたことが大きな変更点とした(乳癌BQ1)。

BRCA病的バリアントを有する乳がん患者に対する乳房温存療法については、2017年版の手引きでは「推奨されない」となっていたのに対し、今回は「条件付きで行わないことを推奨する」と変更された(乳癌CQ3)。背景について同氏は、ガイドライン作成にあたり独自に実施されたメタアナリシスの結果、残存乳房内再発率が散発性乳がん患者と比較して高いこと、この傾向は観察期間が長くなるほど明確になることから、温存乳房内の新規発症リスクは長期に継続するものと推察されたと解説。一方で、生存率の悪化についてのデータは認められなかったことから、上記リスクや継続的なスクリーニングの必要性などを理解したうえで選択する場合は、否定しないという位置づけとした。

 そのほか、RRMについては2020年4月に保険適応となり、乳がん既発症/未発症のいずれにおいても新規乳がんのリスク低減効果が示されている(乳癌CQ1、2)。造影乳房MRIについては、乳がん既発症/未発症のいずれも条件付きで推奨とされたが(乳癌CQ4、5)、乳がんも卵巣がんも未発症の場合BRCA病的バリアント保持者へのサーベイランスは保険未収載となっている。この点について同氏は、未発症者においてもMRIサーベイランスからのベネフィットは得られるので、早期に対応されることを期待したいと話した。

卵巣がん領域のポイント

 卵巣がん領域では、領域リーダーを務めた岡本 愛光氏(東京慈恵会医科大学産婦人科学講座)が登壇、解説を行った。BRCA病的バリアント保持者に対するRRSOについて、標準的な術式として低侵襲(腹腔鏡)手術が推奨され、術中播種を予防するための手術操作が箇条書きで示された(卵巣癌BQ2)。RRSOの際の卵管の病理検索については、SEE-FIMプロトコールに準じることが条件付きで推奨され、条件付きとされた理由として、「STIC検出の臨床的意義が現状不確実であること、標本作成等で病理医の負担が増加することがある」と説明した(卵巣癌CQ2)。

 卵巣がんに対する初回薬物療法としては、BRCA病的バリアント保持者においてもプラチナ製剤併用レジメンによるOSの有意な延長がRCT1報、症例対象研究5報で示されており、本ガイドラインでも推奨が示された(卵巣癌CQ3)。PARP阻害薬については、プラチナ製剤を含む初回化学療法後に奏効した同患者に対し、維持療法としての使用を条件付きで推奨するとされた。条件付きとされた理由は、薬剤費が高額なこと、二次がんを含めた長期合併症に関するデータが乏しいこと、至適投薬期間については不確実性が残ることが挙げられた。

前立腺がん領域のポイント

 「BRCAバリアント陽性前立腺がんの大きな特徴は、診断時からのリンパ節転移・遠隔転移症例が有意に多いこと」と小坂 威雄氏(慶應義塾大学医学部泌尿器科教室)。前立腺がんの早期限局がんでの発見例の予後は非常によいことから、転移前にできるだけ早く見つけることが何よりも重要と話した。現在継続中の試験ではあるものの、大規模コホート研究であるIMPACT研究を根拠として、本ガイドラインでは未発症BRCAバリアントの男性保持者に対して、より低いPSAカットオフ値(3.0ng/mL)を用いて40歳からのサーベイランスを実施することを条件付きで推奨している(前立腺癌CQ1)。

 また、前立腺がんにおいては生殖細胞系列だけでなく、体細胞系列のバリアントを有する症例が約半数いる。「家族歴が全くない転移前立腺がん患者さんの中にもBRCAバリアント保持者がいる可能性が指摘されている」と小坂氏は話し、BRCA遺伝学的検査の実施が推奨される前立腺がん患者の条件として、他のがん種で条件とされている家族歴のほか、「遠隔転移またはリンパ節転移を有する転移性前立腺がん患者」が加えられていることが大きな特徴とした(前立腺癌FQ1)。また治療については、2020年に新規内分泌療法後の転移を有する症例について、PARP阻害薬が保険収載された。同氏は、今後実臨床における有効性データが蓄積していくことが望まれると話した(前立腺癌FQ2)。

膵がん領域のポイント

 膵がんにおいて、BRCAバリアント陽性患者は4~7%と報告されている。BRCA遺伝学的検査の実施が推奨される膵がん患者の条件としては、家族歴のほか、「遠隔転移を有するまたは術後再発」であることが示されている(膵癌FQ1)。尾阪 将人氏(がん研有明病院肝胆膵内科)は、「膵がんの治療選択肢は非常に限られており、遺伝学検査を行うことで選択肢を広げることの意義は大きい」と話した。

BRCAバリアント保持者に対する膵がんのスクリーニングの考え方に関して、同氏は遺伝子変異+膵がん家族歴の聴取が非常に重要と指摘。第一度近親者内に膵がん患者が1人以上おりかつBRCA2陽性の場合SIR(標準化罹患比)が5倍以上、第一度近親者内に膵がん患者が2人以上おりかつBRCA2陽性の場合、SIR(標準化罹患比)が30倍以上というデータを紹介した。本ガイドラインでは、「少なくとも1人の第一度近親者に膵がん家族歴のあるBRCA1、2病的バリアント保持者に対し、MRIまたは超音波内視鏡を用いたスクリーニングを考慮する」とされている(膵癌FQ2)。

 治療については、POLO試験においてBRCA病的バリアントを有するプラチナ感受性切除不能膵がんに対する維持療法としてオラパリブがPFSを延長したことを根拠として、同患者に対する治療を条件付きで推奨している(膵癌CQ1)。同氏は留意点として、推奨文から下記を抜粋した:
・OSの延長効果を認めていないことを患者と共有したうえで投与することが望ましい
BRCA病的バリアントを有する膵がん患者の家系に対しても、継続的な遺伝カウンセリングを実施していくことが望ましい

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【参考文献・参考サイトはこちら】

JOHBOC「【Web版】遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療ガイドライン2021年版のご案内」

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ペムブロリズマブ、MSI-H大腸がんとTN乳がんに適応拡大/MSD

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 MSDは2021年8月25日、抗PD-1抗体ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)について、治癒切除不能な進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する結腸・直腸がん(大腸がん)およびPD-L1陽性のホルモン受容体陰性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がんに関する国内製造販売承認事項一部変更の承認を取得したことを発表した。

治癒切除不能な進行・再発MSI-H大腸がんに対する適応拡大について

 今回の承認は、化学療法歴のない治癒切除不能な進行・再発のミスマッチ修復(MMR)欠損またはMSI-Highを有する結腸・直腸がん患者307例(日本人22例を含む)を対象とする国際共同第III相試験KEYNOTE-177試験のデータ等に基づく。

 同試験において、ペムブロリズマブ群は化学療法群と比較して、主要評価項目の一つである無増悪生存期間(PFS)を有意に延長した(HR:0.60、95%CI:0.45~0.80)。安全性については、安全性解析対象例153例中、ペムブロリズマブ群で高頻度(10%以上)に認められた有害事象は、下痢(24.8%)、疲労(20.9%)、そう痒症(13.7%)、悪心(12.4%)、AST増加(11.1%)、発疹(11.1%)、関節痛(10.5%)および甲状腺機能低下症(10.5%)であった。

PD-L1陽性のHR陰性/HER2陰性の手術不能または再発乳がんに対する適応拡大について

 今回の承認は、転移・再発乳がんに対する化学療法歴のない転移・再発または局所進行性のトリプルネガティブ乳がん患者847例(日本人87例を含む)を対象とした国際共同第III相試験KEYNOTE-355試験のデータ等に基づく。

 同試験において、ペムブロリズマブ+化学療法(ゲムシタビンおよびカルボプラチン、パクリタキセルまたはnab-パクリタキセル)併用群はプラセボ+化学療法併用群に対して、PD-L1陽性(CPS≧10)患者323例(日本人28例を含む)において、主要評価項目の一つである無増悪生存期間(PFS)を有意に延長した(HR:0.65、95%CI:0.49~0.86)。安全性については、PD-L1陽性(CPS≧10)患者における安全性解析対象例219例中、ペムブロリズマブ併用群の主な副作用(20%以上)は、貧血(48.9%)、悪心(41.1%)、好中球減少症(39.7%)、脱毛症(34.7%)、疲労(29.2%)、好中球数減少(23.7%)、下痢(21.9%)、ALT増加(21.5%)および嘔吐(20.1%)であった。

 なお、PD-L1の発現状況を検査するための体外診断薬として、アジレント・テクノロジー株式会社のPD-L1 IHC 22C3 pharmDx「ダコ」が承認されている。

(ケアネット)


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HER2陽性早期乳がんへのトラスツズマブの上乗せ効果~メタ解析/Lancet Oncol

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 HER2陽性早期乳がんに対する補助化学療法へのトラスツズマブ上乗せによる再発率と死亡率への長期的ベネフィットについて、Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative group(EBCTCG)が7つの無作為化試験のメタ解析により検討した。その結果、トラスツズマブ上乗せにより、患者および腫瘍の特徴にかかわらず、乳がん再発率を34%、乳がん死亡率を33%減少させたことが示唆された。Lancet Oncology誌2021年8月号に掲載。

 本研究は、化学療法+トラスツズマブを化学療法のみと比較した無作為化試験における個々の症例データのメタ解析。リンパ節転移なしまたはありの手術可能な乳がん女性を登録した無作為化試験が含まれる。ベースラインの特徴、最初の遠隔再発と局所再発もしくは2次発がんの日付と部位、死亡の日付と原死因について、各症例のデータを収集した。主要アウトカムは、乳がん再発率、乳がん死亡率、再発なしの死亡率、全死亡率とした。年齢、リンパ節転移の有無、エストロゲン受容体(ER)の状態、試験で層別化し、ITT集団で解析した。トラスツズマブ併用群と化学療法単独群の年間イベント発生率比(RR)とその信頼区間(CI)をlog-rank検定を用いて推定した。

 主な結果は以下のとおり。

・選択基準を満たした無作為化試験は7件、計1万3,864例で、2000年2月~2005年12月に登録された。
・予定治療期間の平均は14.4ヵ月、観察期間中央値は10.7年(四分位範囲:9.5~11.9)だった。
・化学療法単独よりトラスツズマブ併用のほうが、乳がんの再発リスク(RR:0.66、95%CI:0.62~0.71、p<0.0001)および乳がん死亡リスク(RR:0.67、95%CI:0.61~0.73、p<0.0001)が低かった。10年での再発率は絶対値で9.0%(95%CI:7.4~10.7、p<0.0001)減少し、乳がん死亡率では6.4%(95%CI:4.9~7.8、p<0.0001)減少、全死亡率では6.5%(95%CI:5.0~8.0、p<0.0001)減少した。再発なしの死亡率は増加しなかった(0.4%、95%CI:-0.3~1.1、p=0.35)。
・トラスツズマブ上乗せによる再発率の減少は、無作為化後0~1年で最大であり(RR:0.53、99%CI:0.46〜0.61)、2〜4年(RR:0.73、99%CI:0.62〜0.85)および5~9年(RR:0.80、99%CI:0.64~1.01)ではベネフィットが継続し、10年目以降はほとんどフォローアップされていなかった。また、患者および腫瘍の特徴(ERの状態含む)にかかわらず、同様だった。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative group(EBCTCG). Lancet Oncol. 2021;22:1139-1150.

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HER2+乳がん2次治療、T-DXdがT-DM1に対しPFS改善/AZ・第一三共

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 アストラゼネカと第一三共は2021年8月9日、HER2陽性の再発・転移を有する乳がん患者の2次治療における、トラスツズマブ デルクステカン(商品名:エンハーツ、以下T-DXd)の第III相試験(DESTINY-Breast03)の中間解析の結果、主要評価項目を達成したことを発表した。

 DESTINY-Breast03試験は、トラスツズマブとタキサンによる治療歴のあるHER2陽性の切除不能および/または転移を有する乳がん患者を対象に、T-DXdとトラスツズマブ エムタンシン(商品名:カドサイラ、以下T-DM1)の有効性と安全性を直接比較する国際無作為化非盲検第III相試験。主要評価項目は独立データモニタリング委員会(IDMC)評価による無増悪生存期間(PFS)。副次評価項目は全生存期間(OS)、客観的奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、病勢コントロール率(DCR)、クリニカルベネフィット率(CBR)、治験責任医師評価によるPFS、および安全性となっている。DESTINY-Breast03試験には、アジア、ヨーロッパ、北アメリカ、オセアニア、南アメリカから約500例が登録されている。

 中間解析では、主要評価項目であるPFSについて、T-DXdはT-DM1と比較して統計的に有意な改善を示した。またOSデータはimmature(未成熟)であるものの、T-DM1と比較して改善の強い傾向を示している。T-DXdの安全性プロファイルは以前の臨床試験結果と一致しており新たな安全性上の懸念は示されておらず、Grade 4あるいは5の治療関連ILDイベントは確認されていない。

 本試験結果の詳細は、今後学会にて発表され、保健当局と共有される予定となっている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【参考文献・参考サイトはこちら】

DESTINY-Breast03試験(Clinical Trials.gov)

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