[ レポーター紹介 ]
猪狩 史江(いがり ふみえ )
2007年 3月 獨協医科大学医学部医学科卒業
2007年 4月 順天堂大学医学部附属浦安病院 臨床研修医
2009年 4月 順天堂大学医学部附属順天堂医院 乳腺科 助手
2017年 3月 順天堂大学大学院医学研究科 博士(医学)課程 修了
2018年 1月 順天堂大学順天堂医院 乳腺科 助教
2019年 4月 順天堂大学順天堂医院 乳腺科 非常勤助教
Cedars Sinai Medical Center Los Angeles U.S.
Visiting Postdoctoral Scientist
2021年 6月 順天堂大学順天堂医院 乳腺科 助教
2021年10月 順天堂大学附属浦安病院 乳腺・内分泌外科 助教
2022年10月 順天堂大学附属浦安病院 乳腺・内分泌外科 准教授
研究テーマは「血液検体による乳がん早期発見法の開発」
私の所属していたラボは、主に乳がんのDNA instabilityに関する研究を行なっています。ゲノム解析技術の進歩により、2007年を境とした、NGSを用いたゲノムシークエンス解読の大幅なコストダウンをきっかけに、ゲノムを用いた研究・臨床応用が加速しました。留学中にも、外注したWGSがこの価格でできるのだと、この大きなコストダウンの波の恩恵を感じることが多々ありました。国際学会でも、リキッドバイオプシーは注目される分野で、数々の臨床試験の報告がなされています。海外では診断のみならず、遺伝情報を元にtargeting therapyまで積極的に行われています。リキッドバイオプシーは、今後乳がん治療において欠かせないツールとなることは間違いないでしょう。
研究テーマは、血液検体による乳がん早期発見法の開発です。リキッドバイオプシーを用いた臨床応用は、患者さんの治療経過においてさまざまなフェーズで活躍できる実用性の高いツールですが、とくに腫瘍量が少ないと推測されるがんの早期発見にはいまだ問題点が山積しています。この問題点を打破すべく、ctDNAのある配列に注目し、それを増幅することで、早期がんで想定される極少量の腫瘍量からでも診断可能な解析法の開発を目指しています。
Cedars-Sinai Medical CenterのBreast Surgeryと協力し、BioBankという臨床サンプルの保存・管理を統括して行うセンターを介して臨床検体の提供を受けました。この仕組みはトランスレーショナルリサーチを行うのにとても簡便でした。Breast SurgeryのChief Directorは、Z0011試験で活躍されたArmando E. Giuliano先生です。留学期間の後半で、臨床見学までさせていただき、とても貴重な経験となりました。この件は、後にレポートしていきます。
施行錯誤する日々、結果を出す難しさと研究の醍醐味
私はまず、乳がん組織検体から抽出したDNAを用いて、われわれが開発したNGSを含む解析フローチャートで実証可能かを検討しました。組織検体からDNAの抽出を行い、ライブラリを作成。NGSを経て得られたデータを用い、バイオインフォマティクス解析を行います。Wet Lab techniqueは外科医であることもあり(?)、慣れてしまえばできるのですが、バイオインフォマティクス解析は、本当に気が遠くなる日々でした。データを出すだけで満足してしまいがちで、得られたデータからの考察が本当に大変でした。さらに、考察のもと、次の研究計画を立てるアイディアが思い浮かびませんでした。ラボの同僚やボスと相談しながら、方向性を間違えないよう舵取りいただき進んでいけたこと、そして基礎研究素人の私にも、ラボミーティングで毎回意見を求めていただいたこともありがたいと思いながら、研究を進めていきました。
乳がん組織検体で、ある程度の結果が得られたので、次に血液検体を用いた解析に移りました。まずDNA抽出に関しても、組織検体と血液検体では、回収量やDNAフラグメントサイズにも差が出てきてしまい、なかなか思うように進みませんでした。途中で留学期間終了を迎えてしまいましたが、帰国後も臨床検体の収集を主に、継続研究をさせていただいております。
大学院生活では、卒業や博士号取得のためにどうしても終わりを見つけなくてはいけませんが、本来基礎研究は終わりのないものです。上手くいくことが少ないながらも、毎日頭を使い、最新の情報をアップデートし、自分で手を動かして実験し、結果を出していく。研究費が取れないと、ラボの運営や自身の生活費にも影響が出る大きな重圧の中、本来研究の醍醐味である好奇心を忘れずに仕事をしている研究者にたくさん出会いました。これも日本との研究環境の違いなのかもしれないなと思いながら、日々刺激を受け続けた研究生活でした。
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