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本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。
前回 、網羅的なPubMed検索を行うために役立つツールであるMeSH(Medical Subject Headings)の概要を説明しました。今回からは、MeSHも活用したPubMed検索式の具体的な作成方法について解説します。
まずは、あなたの「漠然とした臨床上の疑問」であるクリニカル・クエスチョン(CQ)を「具体的で明確な研究課題」であるリサーチ・クエスチョン(RQ)に変換しましょう(連載第1回 参照)。言い換えると、CQをRQの典型的な「鋳型」であるPE(I)COのP(対象)とE(曝露要因)もしくはI(介入)、C(比較対照)、O(アウトカム)に流し込むのです。
ここでは、われわれが最近出版したコクラン・システマティックレビュー (SR: systematic review)論文1) のPICOを例に挙げて、説明します。
検索式はPとI(もしくはE)で構成する
降圧薬の1種であるアルドステロン受容体拮抗薬は、心血管疾患(CVD: cardiovascular disease)発症リスクを低下させることが知られています。しかし、腎機能が廃絶した透析患者では、アルドステロン受容体拮抗薬の作用機序から重篤な高カリウム血症を生じる懸念もあり、その有効性と安全性については確かなエビデンスは確立されていませんでした。このような背景のもと、われわれは下記のCQとRQ(PICO)を立案しました。
CQ:アルドステロン受容体拮抗薬は透析患者の予後を改善するか P:透析患者 I :アルドステロン受容体拮抗薬 C:プラセボもしくは通常治療(アルドステロン受容体拮抗薬なし) O:全死亡、CVD死亡、CVD発症、高カリウム血症、など
このように、RQ(PICO)を立てた後、はじめに押さえておくべき検索式作成のポイントは、下記のとおりです。
まず、PとI(またはE)というRQの2つの構成要素の概念を英語検索ワードに変換して、検索式の構築を考えます。
適切な英語検索ワードの選択については連載第3回 で解説しました。その手順を踏んで、Pの構成要素の概念である「透析」をライフサイエンス辞書 で検索してみると、まず”dialysis”という英語キーワードがヒットします。続いて、前回解説したMeSHも調べてみましょう。MeSHデータベース で”dialysis”を検索すると、リンク のように”Renal Dialysis”や”Dialysis”、”Peritoneal Dialysis”などのMeSH term(統制語)がヒットします。Iのアルドステロン受容体拮抗薬もライフサイエンス辞書 で調べると、”aldosterone receptor antagonist”という英語キーワードが検索されます。同様に、MeSHデータベース で”aldosterone receptor antagonist”をキーワードに検索すると、リンク のように”Mineralocorticoid Receptor Antagonists”がMeSH termでした。
検索式作成におけるもう一つのポイントは、CとOは検索式に一般的には含めない、ということです。なぜなら、CやOはひとつの構成概念では決まらないことが多いからです。実際、今回提示したわれわれのコクランSR1) 論文のRQ(PICO)でも、Cはプラセボもしくは通常治療と2つの概念で構成されています。Oも、ここで記載した4つのアウトカムだけでなく、Summary of findings tableに記載した主要なものだけでも、女性化乳房(アルドステロン受容体拮抗薬の頻度の多い副作用)、左心室重量(心エコーにて評価)と計6つ挙げています1)。また、PubMedでの検索の対象になるのは論文タイトルと抄録ですので、CやOの構成概念は必ずしも記載されていないことが多い、ということもCとOを検索式に含めない理由とされています。
【 引用文献 】
講師紹介
長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏 昭和大学統括研究推進センター研究推進部門 教授 昭和大学医学部内科学講座腎臓内科学部門/衛生学公衆衛生学講座 兼担教授 福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授
[略歴] 1996年昭和大学医学部卒業。 2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。 都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。
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