海外研修留学便り(続編) 【米国就職記(藤井 健夫氏)】第2回

[ レポーター紹介 ]
藤井 健夫(ふじい たけお )

2007年     信州大学医学部卒業
2007-2008年 在沖縄米国海軍病院インターン
2008-2010年 聖路加国際病院初期研修
2010-2013年 聖路加国際病院内科後期研修、チーフレジデント、腫瘍内科専門研修
2013-2015年 MPH, University of Texas School of Public Health/Graduate Research Assistant, University of Texas MD Anderson Cancer Center, Department of Breast Medical Oncology
2015-2016年 Clinical Fellow, University of Texas MD Anderson Cancer Center, Department of Investigational Cancer Therapeutics (Phase I clinical trial department)
2016-2019年 Internal Medicine Resident, University of Hawaii/Research Fellow, University of Hawaii Cancer Center (Ramos Lab)
2019-2022年 Medical Oncology Fellow (Translational Research Track), Cold Spring Harbor Laboratory (Egeblad Lab)/Northwell Health Cancer Institute
2022年-現在 Assistant Clinical Investigator, Women’s Malignancies Branch, National Cancer Institute (NCI), National Institutes of Health (NIH)/ Attending physician, NIH Clinical Center

 

第2回:Physician-Scientist Facultyとしての日々

 前回、アメリカでのFacultyポジション獲得のための就職活動について紹介しました。米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)には、研究経験があり面白いアイデアを持ったPhysician-Scientistに対して、より大きなラボを持って将来のTenure獲得に向けての研究実績を積む期間(最低3年~最高5年間)、ラボスペースや研究資金、ラボスタッフ(ポスドクなど)の採用資金をサポートするシステムがあり、第1回で述べたようにFacultyの就職活動時に十分な研究資金を持っていなかった私ではありましたが、米国国立がん研究所(National Cancer Center:NCI)のFacultyとして働いています。

 臨床のFacultyの場合、何人を診療したか、どれくらいの売上であったかなどの臨床的な貢献で評価されますが、私の評価はそうではなく研究実績であることがこのプログラムの最もユニークな部分です。研究実績がすべてですので、当然どんなに「頑張って」いても結果が出なければ契約の更新は期待できません。私の場合、月曜日がNIH Clinical Center(NIH内の病院)の外来日となっていますが、クリニカルトライアルとセカンドオピニオンのみの外来(NIHでは標準治療は例外を除いて行っていない)であり、1日で診療する患者数は非常に限られています。

 NIH Clinical Center外来の非常にユニークな点は、患者さんの金銭的負担がまったくないことです。NIHで研究目的で行われるすべての診療(診察、血液・画像検査、投薬など)が無料で、さらに遠方からクリニカルトライアルに参加する人には旅費や宿泊費のサポートもあります。NIHは政府機関ですので、当然この形で診療を行うための予算の合意がなされています。

 外来での診療の流れは通常の病院での診療とよく似たものです。患者さんがチェックインすると、まずHematology/Oncologyの臨床フェローもしくはNurse Practitioner(NP)が患者さんの情報を集め、話を聞き、診察をします。指導医であるわれわれは、フェローもしくはNPから患者さんについてのプレゼンテーションを受け、それぞれの症例や治療経過を振り返りながら教育を行います。ディスカッションが終了したら一緒に患者さんを診察して、患者さんやご家族と治療方針や検査方針の話をして、質問に答えて診察終了となります。

 臨床以外の時間はすべて自身のラボでの研究に関連した仕事を行っています。Physician-Scientistとしての仕事内容は大きく分けて以下の3つです。(1)研究プロジェクトや研究データの構築、(2)研究資金の調達、(3)若手の医師や研究者の教育です。(1)に関しては、手を動かして研究を行い、データを出していくことになるのですが、私のようなラボを立ち上げたばかりのPhysician-Scientistの場合、ポスドクだけではなくPrincipal Investigator(PI)である私自身も実際に手を動かして実験を行うことが多いです。実際の実験に加えて、自身の専門エリア外のことや自身で持っていない実験手技などを組み合わせるためにCollaboratorとなるPIとのミーティングをして議論をしたり、新たな薬剤や機材などを取り入れるために外部の会社とのミーティングや研究計画書を書いたりすることも仕事の一部です。

 (2)に関しては私のプログラムではNIHからある程度の研究資金が与えられていますが、何か新たなプロジェクトを始める、大きな実験をする、となった場合は追加での資金獲得が必要となってきます。ここでの特徴的な点は、NIHが持っている研究資金は「内部用資金」と「外部用資金」がまったく別になっており、NIHで働くスタッフは内部用資金のみ申請できるシステムになっています。逆に言うと、内部用資金はNIHのスタッフのみが応募できる資金で、NIH内部での資金獲得競争が繰り広げられます。一方、皆さんが耳にしたことがあるかもしれない「R01」や「Kグラント」などはすべて外部用資金になり、NIHスタッフは応募できません。同じPIでもNIH内と外では研究室を維持していくための資金源がまったく異なるということになります。

 (3)は、研究室に来てくれたポスドクやPre-medical(医学部に入るための準備期間として大学を卒業後に数年研究を行っている人)、Summer Student、PhD Studentなどの研究のサポートと同時に、それぞれのキャリアのサポートも含めたメンターとなることも大きな仕事です。たとえば、昇進判定の際には具体的に誰をメンタリングし、どういう実績を出し、その人たちがその後どこに行ったのか、ということは非常に大切な項目となります。当然、出世するためにメンターをすることになると本末転倒ではあるのですが…。

 今回はNIHでの日常を紹介しました。私自身もまだまだキャリアの途中ではありますが、多くの先輩に助けられ、多くの失敗を経験しながらも少しずつ前に進んでいます。私がこれまでやってきたことで一番意味があったことは「できるだけ多くに人と会って話を聞く」ことです。多くの情報を得てできる限りネットワークを広げることは自身がやりたいことを見つける手助けになりますし、当然実現するための力ともなります。私もいろいろな人に助けられて今の自分があるという経験から、今の自分にできることを次の世代に提供することが自身を助けてくれた先輩に対する恩返しだと考え、積極的に話を聞くことにしています。留学することはあくまでキャリアの通過点であり最終地点ではありません。留学をどのような形で行うか(タイミング、年数、場所など)は人それぞれ違いますが、積極的にいろいろな人に連絡を取って、できるだけ多くの話を聞いてみてはいかがでしょうか。

 


リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その1【「実践的」臨床研究入門】第38回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

E(要因)およびC(比較対照)を測定可能で具体的かつ明確なものにする

 今回からは、Research Question(RQ)のE(要因)およびC(比較対照)を設定する際の要点と実際について解説します。これまでブラッシュアップしてきたわれわれのRQのEおよびCは、現時点では以下のとおりです(連載第34回参照)。

E(曝露要因):食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の遵守
C(比較対照):食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の非遵守

 量的な臨床研究では、この低たんぱく食事療法の遵守という「概念」を測定可能な「変数」に落とし込むことが必要です。「変数」にすることで「概念」を定量化し客観性を持たせることにより、比較が可能になるとともに再現性も担保されるようになります。具体的には、「変数」として測定するための「ものさし」とその基準(しきい値)を、それぞれ決めることが求められます。

 まずは「ものさし」です。低たんぱく食事療法の定量的評価のゴールドスタンダードとしては「食事記録法」が挙げられます。これは、患者が摂取した食事内容を詳細に記録し、その栄養成分を分析する手法です。しかし、「食事記録法」は非常に煩雑で熟練した栄養士も必要であるため、すべての患者で日常的に実施するのは現実的ではありません。そこで、一般に広く用いられているのが、24時間蓄尿中の尿素窒素排泄量から算出される「推定たんぱく質摂取量」です。先行関連研究1)でも、下記の記述のように、このMaroniの式2)と呼ばれる計算式が使用されています。

”Dietary protein intake was estimated on the basis of three consecutive 24-hour urine samples completed before each visit, using the urinary excretion of urea nitrogen as follows:”

「タンパク質摂取量は、尿素窒素の尿中排泄量を用いて、外来受診ごとに行った連続3回の24時間蓄尿検体を用いて、以下のように推定した(筆者による意訳)」

 次に、基準(しきい値)ですが、これまで、「厳格な」低たんぱく食事療法の遵守の程度のしきい値を仮に 0.5g/kg標準体重/日としています。このしきい値は、この架空の臨床シナリオの舞台となっている施設の診療方針に由来するものでした(連載第5回参照)。

 「慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版(日本腎臓学会編)3)」では、慢性腎臓病(CKD)ステージ別のたんぱく質摂取量の基準を下記のとおりに示しています。

CKDG3a:0.8~1.0 g/kg標準体重/日
CKDG3b以降:0.6~0.8 g/kg標準体重/日

 また、重要な関連研究である近年アップデートされたコクラン・システマティック・レビュー論文4)もみてみましょう。この論文では、低たんぱく食(0.5~0.6g/kg/標準体重/日)に加えて超低たんぱく食(0.3~0.4g/kg/標準体重/日)のしきい値も追記されていました(連載第13回参照)。

 これまでのところ、「厳格な」低たんぱく食事療法の遵守の程度のしきい値は明確になってないようです。このように、既知のしきい値が定まっていない場合は、実際の解析データ・セットの「変数」の分布に基づいて、しきい値を設定することがよく行われます。今回のわれわれの解析データ・セットでは、「推定たんぱく質摂取量」が600例余りから取得できました。「推定たんぱく質摂取量」は連続変数(量を表す変数)ですので、その代表値である「中央値」を求めてみると、0.5g/kg標準体重/日と偶然? 架空の診療方針に合致していました(連載第5回参照)。

 「中央値」は、データを大きさの順に並べたときに中央にある値です。連続変数の代表値としては、データ値の総和をデータ数で割った「平均値」も多く使われています。しかし、臨床研究で扱う多くのデータは外れ値が存在する歪んだ分布をとることが多く、連続変数の代表値としては「平均値」よりも「中央値」を用いることが推奨されています。

 そこで、われわれのRQのEとCを以下のように改訂することにします。

E:推定たんぱく質摂取量 0.5g/kg標準体重/日未満
C:推定たんぱく質摂取量 0.5g/kg標準体重/日以上
*外来受診ごとに行った連続3回の24時間蓄尿検体を用いてMaroniの式より算出


【 引用文献 】

講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学統括研究推進センター研究推進部門 教授
昭和大学医学部内科学講座腎臓内科学部門/衛生学公衆衛生学講座 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


バックナンバー

59. 生存時間分析 その5

58. 生存時間分析 その4

57. 生存時間分析 その3

56. 生存時間分析 その2

55. 生存時間分析 その1

54. 線形回帰(重回帰)分析 その5

53. 線形回帰(重回帰)分析 その4

52. 線形回帰(重回帰)分析 その3

51. 線形回帰(重回帰)分析 その2

50. 線形回帰(重回帰)分析 その1

49. いよいよ多変量解析 その2

48. いよいよ多変量解析 その1

47. 何はさておき記述統計 その8

46. 何はさておき記述統計 その7

45. 何はさておき記述統計 その6

44. 何はさておき記述統計 その5

43. 何はさておき記述統計 その4

42. 何はさておき記述統計 その3

41. 何はさておき記述統計 その2

40. 何はさておき記述統計 その1

39. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その2

38. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その1

37. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その2

36. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その1

35. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その2

34. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その1

33. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その8

32. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その7

31. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その6

30. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その5

29. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その4

28. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その3

27. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その2

26. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その1

25. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その5

24. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その4

23. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その3

22. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その2

21. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その1

20. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その3

19. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その2

18. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その1

17. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その3

16.リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その2

15. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その1

14. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その3

13. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その2

12. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用その1

11. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その2

10. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その1

9. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その3

8. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その2

7. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その1

6. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その3

5. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その2

4. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その1

3. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビューその2

2. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー その1

1. 臨床上の疑問とリサーチ・クエスチョン

▼ 一覧をもっと見る

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

 

乳がんの発症経過を解明、予防や治療への活用は【前編】

 7月、Nature誌に「Evolutionary histories of breast cancer and related clones」と題した日本発の論文が掲載され、乳がんの起源となる遺伝子変異が思春期前後に起こっていることが大きな話題となりました。同論文のラストオーサーである小川 誠司氏(京都大学大学院医学研究科)に、前編として今回の研究の背景や結果を解説いただくとともに、後編では中村 清吾氏(昭和大学医学部)との対談形式で、今後の乳がん予防戦略や治療への応用の可能性について議論いただきました。

 

 

[演者紹介]

小川 誠司 (おがわ せいし)

京都大学大学院医学研究科・腫瘍生物学講座 教授


中村 清吾(なかむら せいご)

昭和大学医学部乳腺外科
昭和大学病院ブレストセンター長

 


バックナンバー

2 乳がんの発症経過を解明、予防や治療への活用は【後編】

1 乳がんの発症経過を解明、予防や治療への活用は【前編】

ESMO2023 レポート 乳がん

提供元:CareNet.com

レポーター: 下井 辰徳氏
(国立がん研究センター中央病院 腫瘍内科)

はじめに

 ESMO Congress2023が10月20日から24日の間、スペイン・マドリードで開催されました。155の国から3万3,000人以上の参加者があり、2,600演題を超える研究成果が発表されました。今年は、非常に重要なPhase3試験の結果が数多く報告され、今後の診療に影響を与える興味深い結果も多く報告されました。

 今回は乳がん領域で、非常に話題となったいくつかの演題をピックアップして今後の展望を考えてみたいと思います。

周術期乳がん演題

1)ホルモン受容体陽性(HR+)HER2陰性(HER2-)乳がん

 今年は、術前化学療法を行うようなHR+/HER2-乳がんに対して、周術期に免疫チェックポイント阻害薬を使用するランダム化比較第III相試験が2つ報告されました(CheckMate 7FL試験とKEYNOTE-756試験)。いずれも、主要評価項目である病理学的完全奏効割合(pCR[ypT0/is ypN0])については、免疫チェックポイント阻害薬併用によって向上することが示されました。

CheckMate 7FL試験(NCT04109066、LBA20)

 本試験では、新規発症のER陽性(ER+)/HER2-乳がん(病期T1c~2、N1~2個またはT3~4、N0~2個、Grade2[かつER 1~10%]またはGrade3[かつER≧1%])と診断された早期乳がん患者521例が組み入れられました。患者は抗PD-1抗体のニボルマブ群またはプラセボ群に無作為に割り付けられました。

 術前化学療法相では、患者はニボルマブまたはプラセボとパクリタキセルの併用投与を受け、次いでニボルマブまたはプラセボとAC療法の併用投与を受けました。ニボルマブ360mgを3週ごとに、または240mgを2週ごとに投与されました。手術後、両群の患者は、治験責任医師が選択した内分泌療法を受けました。ニボルマブ投与群では、術後治療としてニボルマブ480mgを4週ごとに7サイクル投与されています。全体として、ニボルマブ群では89%、プラセボ群では91%の患者が手術を受けました。

 結果として、pCR率はニボルマブ群で24.5%、プラセボ群で13.8%(オッズ比[OR]:2.05、95%信頼区間[CI]:1.29~3.27、p=0.0021)であり、統計学的に有意な改善を示しました。とくに、SP142のPD-L1陽性(IC≧1)患者のpCR率はニボルマブ群で44.3%、プラセボ群で20.2%(OR:3.11、95%CI:1.58~6.11)であり、24.1%の差を認めました。

KEYNOTE-756試験(NCT03725059、LBA21)

 本試験では、新規発症のER+/HER2-乳がん(病期T1c~2かつN1~2個、またはT3~4かつN0~2個、Grade3、中央判定)と診断された早期乳がん患者1,278例が組み入れられ、抗PD-1抗体のペムブロリズマブ群またはプラセボ群に無作為に割り付けられました。術前化学療法相では、患者はペムブロリズマブまたはプラセボとパクリタキセルの併用投与を受け、次いでペムブロリズマブまたはプラセボとAC療法またはEC療法の併用投与を受けました。手術後、患者はペムブロリズマブ200mgまたはプラセボを3週間ごとに6ヵ月間投与され、内分泌療法を最長10年間受け、適応があれば放射線療法を受けました。

 本試験の2つの主要評価項目は、ITT集団における最終手術時pCR(ypT0/TisおよびypN0)割合、およびITT集団における治験責任医師評価による無イベント生存期間(EFS)でした。

 主要評価項目のpCR割合は、ペムブロリズマブ群24.3%、プラセボ群15.6%であり、統計学的に有意な改善を示しました(推定差:8.5%[95%CI:4.2~12.8]、p=0.00005)。とくに、75%程度を占める22C3のPD-L1陽性(CPS≧1)患者において、pCR割合の差は9.8%(95%CI:4.4~15.2)であり、PD-L1陰性(CPS<1)患者のpCR割合の差4.5%(95%CI:-0.4~10.1)と比較すると高いように思われました。

 表1にこれらCheckMate 7FL試験とKEYNOTE-756試験の結果をまとめています。いずれも、抗PD-1抗体の併用により、24%程度pCR割合の向上は示されたのですが、これが本当にEFSやOS改善につながるかどうかがまだ未確定のため、長期のフォローが必要になります。

 とくに、HR+乳がんでは、分子生物学的分類であるLuminal A typeではpCRが予後良好因子になっておらず、Luminal B typeでは予後因子だったという、intrinsic subtypeによるpCRの予後における意義が異なる可能性が報告されています1)。このため、今回の両試験における免疫組織化学やGradeで抽出したLuminal B-likeをもとにして、今回の臨床試験の対象集団でpCRがそのまま予後良好因子になるのか、抗PD-1抗体の長期予後における意義がまだ未確定な点が問題です。

 トリプルネガティブ乳がんの周術期治療としてペムブロリズマブの上乗せを評価したKEYNOTE-522試験であっても、pCR向上だけではFDAはペムブロリズマブを承認せず、EFSの結果(今回のESMOでのupdate EFSは5年時点でペムブロリズマブ群で81.3%、プラセボ群72.3%、HR:0.63[95% CI:0.49~0.81])を待ってから承認されたことを踏まえても、ましてER+乳がんに対して、今回のCheckMate 7FL試験とKEYNOTE-756試験の結果だけで、承認まで至る可能性は低そうです。

 もう1つの懸念は、実際に使われるようになった場合の術後内分泌療法です。ハイリスク症例は、monarchE試験に基づいて術後に内分泌療法にアベマシクリブの併用がなされます。今回のESMOで報告された3回目のOS中間解析におけるIDFSは5年時点でアベマシクリブ群83.6%、プラセボ群76.0%、HR:0.680(95%CI:0.599~0.772)と、アベマシクリブの追加効果は長期フォローでも変わっていませんでした。しかし、転移再発乳がんでのニボルマブとアベマシクリブと内分泌療法の併用療法(WJOG11418B NEWFLAME試験2))や、ニボルマブとパルボシクリブとアナストロゾールの術前治療としての併用療法(CheckMate 7A8試験3))では、いずれもGrade3以上の肝機能障害が3割以上に認められ、治療中止に至っているといった結果を踏まえると、将来的には免疫チェックポイント阻害薬とCDK4/6阻害薬、内分泌療法の併用の安全性が懸念されると感じました。

2)トリプルネガティブ乳がん NeoTRIP試験(NCT002620280、LBA19)

 NeoTRIP試験は、TNBC患者を、nab-パクリタキセルとカルボプラチンを8サイクル投与する群(化学療法群)とnab-パクリタキセルとカルボプラチンにアテゾリズマブを追加投与する群(アテゾリズマブ群)に無作為に割り付けた試験です。

 主要評価項目はEFS、副次評価項目はpCR割合で、以前にpCR割合のみが報告されていました。ITT解析において、アテゾリズマブ投与後のpCR割合(48.6%)は、アテゾリズマブ非投与(44.4%;OR:1.18、95%CI:0.74~1.89、p=0.48)と比較して統計学的有意な改善を認めませんでした。多変量解析では、PD-L1発現の有無がpCR率に最も影響する因子でした(OR:2.08)4)

 今回発表のあった、追跡期間中央値54ヵ月後のEFS率は、アテゾリズマブ非投与の化学療法単独群74.9%に対してアテゾリズマブ+化学療法群70.6%でした(HR: 1.076、95%CI:0.670~1.731)。このため、主要評価項目のEFSも統計学的有意差を示せなかったという結果でした。

 アテゾリズマブを使用した術前抗がん剤として、IMpassion 031試験はpCRの改善は認めましたが、DFSやOSは検討できない症例数で、ESMO BC2023における報告では、明らかな有意差を示していませんでした。一方で、KEYNOTE-522の結果は、前述の通りペムブロリズマブ追加でpCRも改善して、EFSも改善していましたので、真逆の結果でした。NeoTRIP試験のKEYNOTE-522試験と異なる点は、術後療法では免疫チェックポイント阻害薬を使用しないこと、術前抗がん剤治療として免疫チェックポイント阻害薬の併用ではアントラサイクリン系薬剤は使用しないこと、異なる免疫チェックポイント阻害薬を使用していることがありましたが、どのくらいこういった要素が影響するかは定かではありません。

転移・再発乳がん演題

1)HR+/HER2-乳がん TROPION-Breast01試験(NCT05104866、LBA11)

 本試験では、手術不能または転移を有するHR+/HER2-(IHC 0、IHC 1+またはIHC 2+、ISH陰性)乳がん患者732例が組み入れられました。ECOG PS 0~1、内分泌療法で進行を認め内分泌療法が適さない患者であり、全身化学療法を1~2ライン受けた患者が対象となっています。患者は、datopotamab deruxtecan(Dato-DXd)(6mg/kgを1日目に投与、3週おき)を投与する群、または医師が選択した化学療法(エリブリン、ビノレルビン、カペシタビン、ゲムシタビン)を投与する群に1:1で無作為に割り付けられました。主要評価項目は、RECISTv1.1に基づく盲検下独立中央判定(BICR)による無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)でした。

 本試験の結果、BICRによるPFS中央値はDato-DXd群6.9ヵ月、医師選択化学療法群4.9ヵ月、HR0.63(95% CI:0.52~0.76、p<0.0001)と、有意にDato-DXd群のPFSが良好でした。奏効割合はDato-DXd群36.4%、医師選択化学療法群22.9%でした。OSについては、イベントが不十分な状況でしたが、Dato-DXd群で良好な傾向が認められ、HR0.84(95% CI:0.62~1.14)でした。

 治療関連有害事象(TRAE)はDato-DXd群で94%、医師選択化学療法群で86%に発生したのですが、Grade 3以上のTRAE割合は、Dato-DXd群で21%対医師選択化学療法群で45%と、Dato-DXd群で低い頻度でした。また、薬剤関連の間質性肺疾患はDato-DXd群で3%、ただしほとんどがGrade 1か2でした。

 これまでにHR+/HER2-(低発現)乳がんに対するランダム化比較第III相試験で、有効性を検証した抗体薬物複合体(ADC:antibody drug conjugate)は3つ目ということになります。HER2低発現に対するT-DXdはすでに保険適用となっていますが、Destiny Breast 04試験の結果、2次治療以降の症例でPFS、OSが医師選択化学療法よりも良好であることが示されています。ESMOではOSのupdate結果が報告され、HR陽性群のT-DXd群の成績は、OS中央値が23.9ヵ月で、HR0.69(95%CI:0.55~0.87)と、これまでの報告の有効性が維持されていました。

 また、TROP2に対するADCとして、sacituzumab govitecan(SG)があり、こちらもTROPiCS-02試験の結果、PFS、OSが医師選択化学療法よりも良好であることが示されています。SGは2023年10月時点で、まだ日本では承認されていませんが、将来的に承認されることが期待されている薬剤です。

 実臨床ではまだDato-DXdは使用できませんが、仮にこれら3剤が使用可能な場合のHR陽性HER2陰性乳がんのADCシークエンスはどうなるでしょうか。

 いずれにせよ、臨床試験で組み入れられた症例はTROPION-Breast01とDestiny Breast04試験は1~2ラインの抗がん剤治療歴がある患者、TROPiCS-02試験は全身化学療法を2~4ライン受けた患者が対象でした。このため、2次治療以降のADCシークエンスが検討されます。HER2低発現であればOS改善効果が証明されている現状では、T-DXdが2次治療では優先されると思います。さらに、3次治療となればSGのほうはOS改善効果が証明されているので、同じTROP2のADCではSGの方が優先されると思います。

 一方で、HER2 0の症例では、現時点ではT-DXdは使用されませんので、2次治療での有効性はDato-DXdが優先され、3次治療でSGが検討されるのかと考えます。今後、現在進行中のDESTINY-Breast06試験の結果により、1次治療や、HER2 0の症例でのT-DXdの有効性が報告されることが期待されます。さらに、ADCのシークエンスが本当に臨床試験通り有効か? という点は非常に議論されているところですので、今後のリアルワールドデータや、臨床研究の結果が待たれます。

2)トリプルネガティブ乳がん BEGONIA試験(NCT03742102、379MO)

 BEGONIA試験は、進行転移トリプルネガティブ乳がん患者として化学療法歴がない患者を対象とした、デュルバルマブとその他の薬剤との併用療法の有効性を複数のコホートで検討するPhaseIb/II試験です。いくつもの試験治療群がありますが、Dato-DXdと抗PD-L1療法であるデュルバルマブの併用療法を検討したアーム7の有効性と安全性については、昨年2022年のサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)において、7.2ヵ月のフォローアップ中央値の結果として報告されていました。PD-L1発現が低い症例が53例(86.9%) (Tumor Area Positivity<10%) ながら、奏効割合は73.6%(61例中39例)という結果でした。

 今回は、追跡期間中央値11.7ヵ月の時点でのフォローアップ結果として、奏効割合に加え、PFSや奏効期間(DoR)が報告されました。BEGONIA試験のアーム7(62例)では、奏効割合は79%(62例中49例)で、6例のCRと43例のPRを含んでいました。PFS中央値は13.8ヵ月(95%CI:11~計算不能[NC])、DoR中央値は15.5ヵ月(95%CI:9.9~NC)、Grade 3以上の治療緊急有害事象(TEAE)は患者の57%に発現していました。最も多くみられたGrade 3以上の有害事象は、アミラーゼ増加(18%)、口内炎(11%)、便秘(2%)、疲労(2%)、嘔吐(2%)、食欲減退(2%)でした。独立委員会によって薬剤関連と判定された間質性肺疾患(ILD)事象は、Grade 2が2件、Grade 1が1件の合計3件でした。結果として、既存のトリプルネガティブ乳がんに対する初回治療の免疫チェックポイント阻害薬の有効性を評価したIMpassion130試験やKEYNOTE-355試験と比較しても、高い奏効割合とPFS中央値でした。

 表3に示すように、ADCとICIの併用は非常に有望と考えられ、今後の開発が期待される結果でした。

終わりに

 今年のESMOは、乳がんに限らず、肺がん、消化器がん、婦人科がん、泌尿器がんと多岐にわたり、日常診療が大きく変わり得る重要な結果が発表されました。日々、SNSでもこの最新の知見をどのように日常診療に組み込んでいくのか、議論がされています。

 われわれも、知識をアップデートしながら、日本における最適治療方針を検討していきたいと考えています。

【 参考文献 】


レポーター紹介

下井 辰徳 ( しもい たつのり ) 氏
国立がん研究センター中央病院 腫瘍内科

海外研修留学便り(続編) 【米国就職記(藤井 健夫氏)】第1回

[ レポーター紹介 ]
藤井 健夫(ふじい たけお )

2007年     信州大学医学部卒業
2007-2008年 在沖縄米国海軍病院インターン
2008-2010年 聖路加国際病院初期研修
2010-2013年 聖路加国際病院内科後期研修、チーフレジデント、腫瘍内科専門研修
2013-2015年 MPH, University of Texas School of Public Health/Graduate Research Assistant, University of Texas MD Anderson Cancer Center, Department of Breast Medical Oncology
2015-2016年 Clinical Fellow, University of Texas MD Anderson Cancer Center, Department of Investigational Cancer Therapeutics (Phase I clinical trial department)
2016-2019年 Internal Medicine Resident, University of Hawaii/Research Fellow, University of Hawaii Cancer Center (Ramos Lab)
2019-2022年 Medical Oncology Fellow (Translational Research Track), Cold Spring Harbor Laboratory (Egeblad Lab)/Northwell Health Cancer Institute
2022年-現在 Assistant Clinical Investigator, Women’s Malignancies Branch, National Cancer Institute (NCI), National Institutes of Health (NIH)/ Attending physician, NIH Clinical Center

 

第1回:アメリカでのFacultyポジション獲得への道のり

 前回、米国・Cold Spring Harbor Laboratoryで腫瘍内科のフェローとして勤務していたときの体験を紹介しました。それから2年ほどが経過し、現在はメリーランド州ベセスダにある米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)内の米国国立がん研究所(National Cancer Institute)で研究室主宰としてInnate Immunityと乳がんの転移に関するTranslational Research Laboratoryを運営しつつ、NIH Clinical Center(NIH内にある診療施設)では指導医として臨床試験に参加している乳がん患者さんを中心に診療を行っています。今回は、前回からの続編として腫瘍内科のフェローシップ修了からアメリカでのFacultyポジションを得るための就職活動とFacultyとしての毎日を2回に分けて紹介します。

 内科のレジデンシーとHematology/Oncologyのフェローシップを修了した後の腫瘍内科医としての道は大きく分けて3つあるかと思います。

(1)Private Practice:研究活動は行わずに、腫瘍内科クリニックなどで標準治療を行う臨床に特化した医師。

(2)Clinical Investigator:臨床試験の主任研究員(Principal Investigator)やそのほかの臨床研究などを行いつつ、日々の臨床に当たる医師。自身が主宰する研究室などは持たずに、研究室が必要な実験や解析などはほかの研究者や医師とCollaborationする形になります。(1)に比べて臨床に当てる時間が少ないことが多いです。

(3)Physician-Scientist/Basic Translational Researcher:この言葉の定義は非常に広く、個々人によって違った意味合いで用いられている印象はありますが、ここでは「自身の研究室を主宰し勤務時間の非常に多くを研究に当てつつ臨床も行っている医師」と定義したいと思います。臨床の時間は(2)よりもさらに少なくなります。

 私は(3)のFacultyポジションが一番の希望でした。しかし、詳細は割愛しますが(3)に応募するのに十分な研究資金はなく(多くの場合、フェロー中に獲得したいくらかのグラントを持ってくることを期待されています)、またそのポジションに値する自分の能力を証明するための実績(実験室での研究に関連した論文など)が非常に限られていたために、(2)と(3)の両方でポジションを探しました。実際、(2)に関してはいくつかの大学病院附属がんセンターから面接やセミナー(自分がこれまでやってきた実績の発表とFacultyとして採用された場合どういうふうに部門に貢献していけるのかということなどに関して40分程度のプレゼンテーション)の招待をいただきましたが、(3)での招待はNIHからのみでした。資金がないにもかかわらずNIHから招待があった理由は次回でお話します。

 上記のとおり、面接はもちろんのこと、セミナーで自身のこれまでの成果のアピールと売り込みをすることが必要なのですが、これらは就職活動全体を通して非常に苦労しました。セミナー用のスライド作りやセミナーでの売り込み文句など、日本人的な「そこまでではないからここはアピールせずに…」のような謙遜(?)が無意識に出てしまうことがあり、セミナーや面接ではできる限り日本人らしさは捨て、自分がこれまで何を成し遂げてきたか、何ができるか、どう貢献できるかを臆することなくアピールすることができるよう、メンターの指導のもとでスライドを作り込み、セミナーの練習を何度も行いました。

 Facultyとしての職探しは数年で修了するレジデンシーやフェローと違い、ある程度長期にわたるプランの提示が必要となります。応募者がしたいことと採用側が求めているものに乖離がある場合は、ポジションのオファーには至りませんが、個人的にはオファーを取るためにやりたくない仕事をやりますというのはお互いにWin-Winの関係にはならないという信念のもと、あくまで自分の求めることを話したうえで先方が私に期待している役割を確認するという作業の繰り返しでした。就職活動の際にはどうしても受け身になりがちな人もいると思いますが、今一度自分がしたいこと、自分が貢献できることを考えてみるのはいかがでしょうか。

 次回は、Facultyとしての日々を紹介したいと思います。

 


AYA世代ER+/HER2-乳がんの臨床学的・病理学的特徴/日本癌治療学会

提供元:CareNet.com

 15~39歳の思春期・若年成人(adolescent and young adult:AYA)世代のがんは、ほかの世代のがんと比べて予後不良であることが多く、異なる特性を有することが指摘されている。そこで、横浜市立大学附属病院の押 正徳氏は、AYA世代のER陽性HER2陰性乳がん患者の特徴を検討し、その結果を第61回日本癌治療学会学術集会(10月19~21日)で発表した。なお、本演題は同学会の優秀演題に選定されている。

 AYA世代の乳がんの特徴として、ホルモン受容体陰性やHER2陽性、トリプルネガティブの割合が高いこと、浸潤やリンパ節転移を伴っている場合が多いことなどが挙げられている。しかし、年齢別の臨床学的・病理学的特徴については依然として不明な点が多い。そこで押氏らは、乳がん患者をAYA世代(40歳未満)、閉経期世代(40~55歳未満)、更年期世代(55~65歳未満)、高齢世代(65歳以上)の4つの年齢群に分類し、その特徴を分析した。

 本研究では、独立した3つの大規模コホートを使用した。
・YCUコホート:横浜市立大学附属病院の2施設で2014~20年に手術を受けた4,562例(うちAYA世代316例[6.9%])
・METABRICコホート:1,903例(うちAYA世代116例[6.1%])
・GSE96058コホート:3,273例(うちAYA世代123例[4.0%])

 臨床病理学的因子の検討にはYCUコホートとMETABRICコホートを用い、生物学的特徴の解析にはMETABRICコホートとGSE96058コホートを用いた。

 主な結果は以下のとおり。

・臨床病理学的因子の検討において、AYA世代はプロゲステロン受容体(PgR)陽性、pN≧1の割合が高かった。
・AYA世代は、がん特異的生存率だけでなく全生存率も不良であった。YCUコホートにおいては、AYA世代のがん特異的生存率は、閉経期世代や更年期世代だけでなく、高齢世代よりも不良であった(p=0.012)。
・生物学的特徴の解析では、エストロゲンの活性度は高齢になるほど低くなった。
・AYA世代ではほかの世代に比べて有意にG2Mチェックポイント、E2Fターゲット、MYCターゲット、mTORC1、小胞体ストレス応答、PI3K/ACT/MTORシグナルなどの細胞増殖や発がんに関連するシグナル経路の活性度が高かった。そのほかの3群は同程度であった。
・AYA世代はDNA修復シグナルやBRCAnessスコアがほかの世代よりも有意に高かった。
・腫瘍微小環境における各免疫細胞の浸潤割合は、各年齢群で異なった。

 これらの結果より、押氏は「AYA世代のER陽性HER2陰性乳がんは、ほかの世代の乳がんと比較して生物学的特徴が異なり、それが予後に影響している可能性がある。その特徴を理解し、AYA世代に特化した治療戦略の開発・検討が必要である」とまとめた。

(ケアネット 森 幸子)


掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

早期TN乳がんの術前・術後ペムブロリズマブによるEFS改善、5年後も持続(KEYNOTE-522)/ESMO2023

提供元:CareNet.com

高リスクの早期トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対して、術前および術後補助療法としてペムブロリズマブの追加を検討したKEYNOTE-522試験では、ペムブロリズマブ追加により病理学的完全奏効率(pCR)および無イベント生存期間(EFS)が有意かつ臨床的に意味のある改善を示したことがすでに報告されている。今回、第6回中間解析(追跡期間中央値63.1ヵ月)でのEFSを解析した結果、pCRの結果にかかわらず、術前化学療法単独と比べて臨床的に意味のあるEFS改善が持続していたことを、英国・Barts Cancer Institute, Queen Mary University LondonのPeter Schmid氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2023)で発表した。全生存期間(OS)の追跡調査は進行中である。

・対象:未治療の転移のないTNBC患者(AJCC/TNM分類でT1c N1-2またはT2-4 N0-2、ECOG PS 0/1)
・試験群:術前に化学療法(カルボプラチン+パクリタキセルを4サイクル後、ドキソルビシン/エピルビシン+シクロホスファミドを4サイクル)+ペムブロリズマブ(200mg、3週ごと)、術後にペムブロリズマブ(200mg、3週ごと)を9サイクルあるいは再発または許容できない毒性発現まで投与(ペムブロリズマブ群、784例)
・対照群: 術前に化学療法(試験群と同様)+プラセボ、術後にプラセボを投与(プラセボ群、390例)
・評価項目:
[主要評価項目]pCR(ypT0/Tis ypN0)、EFS
[副次評価項目]pCR(ypT0 ypN0およびypT0/Tis)、OS、PD-L1陽性例におけるpCR・EFS・OS、安全性

 主な結果は以下のとおり。

・今回の解析(データカットオフ:2023年3月23日)において、EFSイベントがペムブロリズマブ群で18.5%、プラセボ群で27.7%に認められた(ハザード比[HR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.49~0.81)。5年EFS率はペムブロリズマブ群81.3%、プラセボ群72.3%だった。
・ペムブロリズマブによるEFSベネフィットは、PD-L1発現やリンパ節転移の有無など、事前に規定したサブグループで一貫していた。
・事前に規定された非ランダム化探索的解析におけるpCRの結果別の5年EFS率は、pCR例でペムブロリズマブ群92.2% vs.プラセボ群88.2%、非pCR例でペムブロリズマブ群62.6% vs.プラセボ群52.3%であった。
・5年遠隔無増悪/遠隔無再発生存率は、ペムブロリズマブ群84.4%、プラセボ群76.8%であった(HR:0.64、95%CI:0.49~0.84)。

 Schmid氏は「これらの結果は、ペムブロリズマブとプラチナを含む術前補助療法後、pCRの結果によらずペムブロリズマブによる術後補助療法を行うレジメンを、高リスク早期TNBC患者に対する標準治療としてさらに支持する」と述べた。

(ケアネット 金沢 浩子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

KEYNOTE-522試験(Clinical Trials.gov)

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

ER+/HER2-乳がんの術前ニボルマブ、pCRを有意に改善(CheckMate 7FL)/ESMO2023

提供元:CareNet.com

 高リスクのER陽性(+)/HER2陰性(-)早期乳がん患者を対象とした第III相CheckMate 7FL試験の結果、術前化学療法および術後内分泌療法にニボルマブを上乗せすることで、病理学的完全奏効(pCR)率が有意に改善し、さらにPD-L1陽性集団ではより良好であったことを、オーストラリア・Peter MacCallum Cancer CentreのSherene Loi氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2023)で報告した。

・対象:ER+/HER2-、T1c~2 cN1~2またはT3~4 cN0~2、Grade2(かつER 1~10%)またはGrade3(かつER≧1%)の新たに診断された乳がん患者 510例
・試験群(ニボルマブ群):ニボルマブ(3週ごと)+パクリタキセル(毎週)→ニボルマブ+AC療法(隔週または3週ごと)→手術→ニボルマブ(4週ごと)+内分泌療法 257例
・対照群(プラセボ群):プラセボ+パクリタキセル→プラセボ+AC療法→手術→プラセボ+内分泌療法 253例
・評価項目:
[主要評価項目]pCR(ypT0/is ypN0)
[副次評価項目]PD-L1陽性集団のpCR、全体およびPD-L1陽性集団の腫瘍残存率(RCB)、安全性
・層別化因子:PD-L1発現状況、Grade、腋窩リンパ節転移、AC療法の投与スケジュール

 2022年4月に主要評価項目は修正ITT集団のpCR率のみに修正され、PD-L1陽性集団のpCR率は副次評価項目となった。今回がCheckMate 7FL試験結果の初報告で、全体およびPD-L1陽性集団のpCRとRCBが報告された。

 主な結果は以下のとおり。

・ニボルマブ群およびプラセボ群の年齢中央値は50歳/51歳、Grade3が98%/99%以上、StageIII期が46%/42%、PD-L1 IC≧1%が34%/33%、腋窩リンパ節転移陽性が80%/79%で、両群でバランスがとれていた。
・修正ITT集団全体のpCR率は、ニボルマブ群24.5%、プラセボ群13.8%で、ニボルマブ群が有意に高かった(調整差10.5%[95%信頼区間[CI]:4.0~16.9]、オッズ比[OR]:2.05、p=0.0021)。
・PD-L1陽性集団におけるpCR率は、ニボルマブ群44.3%、プラセボ群20.2%(調整差:24.1%[95%CI:10.7~37.5]、OR:3.11)であった。なお、PD-L1陰性集団では14.2%/10.7%であった。
・リンパ節転移の有無、Stage、年齢、AC療法の治療スケジュールにかかわらずニボルマブ群のほうがpCR率は良好であった。
・全体におけるRCB 0~1の割合は、ニボルマブ群30.7%、プラセボ群21.3%(調整差:9.2%[95%CI:2.0~16.5]、OR:1.65)であった。
・PD-L1陽性集団におけるRCB 0~1の割合は、ニボルマブ群54.5%、プラセボ群26.2%(調整差:28.5%[95%CI:14.6~42.4]、OR:3.49)であった。
・Grade3以上の治療関連有害事象は、ニボルマブ群35%、プラセボ群32%に発現し、安全性プロファイルは既報と一致していた。免疫介在性有害事象はニボルマブ群のほうが多かった。ニボルマブ群では死亡が2例(肺炎、肝炎)認められた。

 これらの結果より、Loi氏は「高リスクのER+/HER2-早期乳がん患者の術前化学療法にニボルマブを追加することで、pCRは10.5%改善するとともにRCB 0~1率も9.2%改善した。この恩恵はPD-L1陽性集団でより大きかった。安全性プロファイルはこれまでと同様で、新たな有害事象は報告されなかった」としたうえで「バイオマーカーに関する追加データは今後の学会で発表する予定である」とまとめた。

(ケアネット 森 幸子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

CheckMate 7FL試験(ClinicalTrials.gov)

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

転移乳がんへのDato-DXd、医師選択化療よりPFS延長(TROPION-Breast01)/ESMO2023

提供元:CareNet.com

 化学療法の前治療歴のある手術不能または転移を有するHR陽性(+)/HER2陰性(-)の乳がん患者を対象とした第III相TROPION-Breast01試験の結果、抗TROP2抗体薬物複合体datopotamab deruxtecan(Dato-DXd)は、医師選択化学療法よりも有意に無増悪生存期間(PFS)を延長し、かつGrade3以上の治療関連有害事象(TRAE)は半数以下であったことを、米国・Massachussetts General Hospital/Harvard Medical SchoolのAditya Bardia氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2023)のPresidentialで報告した。

・対象:HR+/HER2-、1~2ラインの全身化学療法歴、内分泌療法で進行または不適、ECOG PS 0~1の手術不能または転移を有する乳がん患者 732例
・試験群:Dato-DXd(6mg/kg、3週ごと)を進行または許容できない毒性が発現するまで継続(Dato-DXd群:365例)
・対照群:医師が選択した化学療法(エリブリン、ビノレルビン、カペシタビン、ゲムシタビン)を進行または許容できない毒性が発現するまで継続(化学療法群:367例)
・評価項目:
[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS、全生存期間(OS)
[副次評価項目]治験担当医評価によるPFS、安全性
・層別化因子:前治療のライン数、地域、CDK4/6阻害薬の治療歴の有無

 Dato-DXdは、第I相TROPION-PanTumor01試験において、手術不能または転移を有するHR+/HER2-の前治療歴のある乳がん患者において有望な活性を示している。今回は、グローバル第III相TROPION-Breast01試験の主要評価項目の1つであるPFSの結果が報告された。

 主な結果は以下のとおり。

・Dato-DXd群と化学療法群の年齢中央値は56歳(範囲:29~86)/54歳(28~86)、白人が49%/46%、アジア系が40%/41%、1ラインの前治療歴が63%/61%、CDK4/6阻害薬の治療歴ありが82%/78%、タキサン系and/orアントラサイクリン系の治療歴ありが90%/92%で、両群でバランスがとれていた。
・データカットオフ(2023年7月17日)時点の追跡期間中央値は10.8ヵ月で、Dato-DXdの93例と化学療法群の39例が治療を継続していた。
・主要評価項目であるBICRによるPFSは、Dato-DXd群6.9ヵ月(95%信頼区間[CI]:5.7~7.4)、化学療法群4.9ヵ月(95%CI:4.2~5.5)であり、Dato-DXd群で有意にPFSが改善された(HR:0.63[95%CI:0.52~0.76]、p<0.0001)。
・年齢、人種、ECOG PS、地域、前治療歴など、すべてのサブグループでDato-DXdのほうが良好なPFSを示した。
・奏効率(ORR)はDato-DXd群36.4%、化学療法群22.9%であった。
・OSは追跡期間中央値9.7ヵ月時点で未成熟であったが、Dato-DXd群で良好な傾向がみられている(ハザード比:0.84[95%CI:0.62~1.14])。OSの結果は引き続き解析を行う予定。
・Grade3以上のTRAEの発現率は、Dato-DXd群21%、化学療法群45%であった。Dato-DXd群では化学療法群よりも減量や投与中断につながるTRAEは少なかった。間質性肺疾患はDato-DXd群で9例(3%)に認められ、うち2例(1%)はGrade3以上であった。死亡は化学療法群で1例認められた。

 これらの結果より、Bardia氏は「TROPION-Breast01試験は主要評価項目を満たし、HR+/HER2-乳がん患者へのDato-DXdはPFSの有意かつ臨床的に意義のある改善を示した。サブグループにおけるPFSの改善と高いORRも得られている。OSも良好な傾向にある。安全性は管理可能で新たな安全性シグナルは確認されなかった。Dato-DXd群ではGrade3以上のTRAEの発現は化学療法群の半分以下であり、減量や投与中断も少なかった」としたうえで、「これらの結果は、Dato-DXdが転移乳がん患者に対する新たな治療オプションとなりうることを支持するものである」とまとめた。


 ディスカッサントを務めた米国・Memorial Sloan Kettering Cancer CenterのSarat Chandarlapaty氏は下記のようにコメントした。
―――――――――――――――――――
 この研究は、HR+で内分泌療法で進行または不適となった患者、および1回以上の全身化学療法を受けた患者を対象としているため、化学療法を受けた転移乳がん患者に対して、新しい化学療法かDato-DXdのどちらが効果的かということである。主要評価項目であるPFSはハザード比0.63で、Dato-DXd群では明確な改善があった。また、全体的には毒性が少なく、Grade3以上のTRAE、とくに血液毒性が少なかったことが報告されている。悪心と口内炎は重症ではないものの増加し、患者にとっては臨床的に重要かもしれない。

 HR+/HER2-乳がんにおいて、化学療法を1~2ライン行ったあとにDato-DXdを処方するのと、さらに化学療法を追加するのとどちらがよいか? 答えはDato-DXdとなった。しかし、私たちにはさらなる未解決の疑問がある。
1.Dato-DXd、sacituzumab govitecan、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)のいずれがよいのか?
2.これら3つの抗HER2抗体薬物複合体のうち、別の薬剤で進行した後に有効性を示すものはあるか?
3.効くかもしれない分子標的薬よりも、Dato-DXdを処方したほうがよいのか?
―――――――――――――――――――

(ケアネット 森 幸子)


掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

ESMO2023速報 乳がん

|企画・制作|ケアネット

2023年10月20~24日に開催されたESMO Congress2023の乳がんトピックをがん研有明病院の尾崎 由記範氏が速報レビュー。


レポーター紹介

尾崎 由記範 ( おざき ゆきのり ) 氏
がん研究会有明病院 乳腺センター 乳腺内科/先端医療開発科


掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)