がん死亡率、ファストフード店の多さと関連

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 住居地を選ぶ際にスーパーや飲食店へのアクセスの良さを考慮する人は少なくない。今回、米国・オーガスタ大学のMalcolm Seth Bevel氏らは米国における飲食店へのアクセス条件が肥満関連のがん死亡率と関係するのかどうかを調査した。近年、野菜などの生鮮食料品が入手困難な地域はFood Desert(食の砂漠)と呼ばれ、一方でファストフード店が多く集中し生鮮食品を取り扱う店が少ない地域はFood Swamp(食品沼)と呼ばれている。

 今回の横断研究では、2012年、2014~15年、2017年、2020年の米国農務省(USDA)のFood Environment Atlasと、2010~20年の米国疾病予防管理センター(CDC)の18歳以上の成人の死亡率データを使用し、Food DesertとFood Swampの両スコアと肥満関連のがん死亡率との関連について調査した。解析には年齢調整した混合効果モデルが用いられ、Food Swampの指標として、食料品店や野菜などの直売所の数に対するファストフードやコンビニの店舗数の比率を計算しスコア化した。Food SwampとFood Desertのスコアが高ければ(20.0~58.0)、その郡は健康的な食品資源が少ないと判定された。また、肥満と関連する13種類のがん(子宮内膜がん、食道腺がん、胃噴門部がん、肝臓がん、腎がん、多発性骨髄腫、髄膜腫、膵臓がん、大腸がん、胆嚢がん、乳がん、卵巣がん、甲状腺がん)による死亡率を人口10万人あたり71.8以上で「高い」とし、人口10万人あたり71.8未満で「低い」と分類した。

 主な結果は以下のとおり。

・米国3,142郡のうち、合計3,038郡(96.7%)がこの分析に含まれ、そのうち758郡(25.0%)で肥満関連のがん死亡率が高かった(四分位範囲[IQR]の“最も高い”範囲)。
・これらの特定の郡ではほかの郡と比べ、非ヒスパニック系黒人住民の割合が高く(3.26%[IQR:0.47~26.35] vs.1.77%[IQR:0.43~8.48])、65歳以上でもその割合が高かった(15.71%[IQR:13.73~18.00] vs.15.40%[IQR:12.82~18.09])。
・また、肥満関連のがん死亡率が高い郡は、低い郡と比較して以下の特徴が挙げられた。
 貧困率が高い(19.00%[IQR:14.20~23.70] vs.14.40%[IQR:11.00~18.50])
 肥満率が高い(33.00%[IQR:32.00~35.00] vs.32.10%[IQR:29.30~33.20])
 糖尿病の罹患率が高い(12.50%[IQR:1:1.00~14.20] vs.10.70%[IQR:9.30~12.40])
・これらの郡では、Food Desert(7.39%[IQR:4.09~11.65] vs.5.99%[IQR:3.47~9.50])およびFood Swamp(19.86%[IQR:13.91?26.40] vs.18.20%[IQR:13.14~24.00])に居住する人の割合が高かった。
・相関分析の結果、Food DesertとFood Swampの両スコアが肥満関連がん死亡率と正の相関関係があり、Food Desertと肥満関連のがん死亡率との間の相関がわずかに高いことが示唆された(Food Desert:ρ=0.12、Food Swamp:ρ=0.08)。しかし、Food DesertとFood Swampの指数スコアはユニークであると決定付けられ、低い係数が与えられた。
・Food Swampスコアが高い郡では、肥満関連のがん死亡のオッズが77%増加した(調整オッズ比:1.77、95%信頼区間:1.43~2.19)。また、Food DesertとFood Swampのスコアの3つのレベル(低-中-高)と肥満関連のがん死亡率との間には、正の用量反応関係も観察された。

(ケアネット 土井 舞子)


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Bevel MS, et al. JAMA Oncol. 2023 May 4. [Epub ahead of print]

【 参考文献・参考サイトはこちら 】

Inoue M, et al. Cancer Causes Control. 2004;15:671-680.

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進行乳がんへのHER3-DXd、効果予測因子は?(ICARUS-BREAST01)/ESMO BREAST 2023

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 HR+/HER2-の進行乳がん患者に対し、HER3を標的としたpatritumab deruxtecan(HER3-DXd)を投与した第II相ICARUS-BREAST01試験において、ベースライン時のHER3+の血中循環腫瘍細胞(CTC)数が多い患者、または1サイクル目でHER3+のCTC数が大きく減少した患者では、治療反応が早期に得られやすい傾向にあったことを、フランス・Gustave RoussyのBarbara Pistilli氏が欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2023、5月11~13日)で報告した。

 これまで、HER3+の再発/転移乳がん患者(HR+/HER2-、HER2+、トリプルネガティブ)に対する第I/II相U31402-A-J101試験において、HER3-DXdの有効性と安全性が示されている。この有用性はすべてのサブタイプで同様であり、HER3-DXdはHER3の発現量にあまり依存しない可能性が示唆されており、HER3-DXdに対する反応性/抵抗性のバイオマーカーは不明である。

 そこで、本試験は複数治療歴のあるHR+/HER2-進行乳がん患者におけるHER3-DXdの予測因子を明らかにすることを目的として現在行われている。データカットオフは2023年2月15日で、今回は3ヵ月奏効率と安全性データが報告された。なお、IHCでのHER3発現状況の登録は、2022年4月21日より削除された。

・対象:CDK4/6阻害薬+内分泌療法歴、1ラインの化学療法歴のあるHR+/HER2-またはHER2低発現の進行乳がん(切除不能の局所進行もしくは転移を有する乳がん)患者
・試験群:HER3-DXd 5.6mg/kg 3週間ごとに静脈内投与(治療前、治療中、治療終了時に腫瘍生検) 
・評価項目:
[主要評価項目]奏効率
[副次評価項目]無増悪生存期間、奏効期間、クリニカルベネフィット率、全生存期間、安全性

 主な結果は以下のとおり。

・データカットオフの時点で85例の患者が試験に参加し、うち56例が評価可能であった。
・ベースライン時の患者特性は、年齢中央値56歳(範囲:28~82歳)、全例が女性、HER3+が51.8%、前治療のライン数中央値2(範囲:1~4)、HER3-DXdのサイクル数中央値8(範囲:1~20)であった。
・3ヵ月奏効率は、部分奏効が28.6%(16例)、病勢安定が53.6%(30例)、進行が17.8%(10例)であった。
・HER3-DXd投与1~2サイクル後に、主にHER3+のCTC数の中央値が減少した。
・HER3-のCTC数と治療効果に関連はなく、病勢進行時もHER3-のCTC数の増加はみられなかった。
・ベースライン時のHER3+のCTC数が多い患者、または1サイクル目でHER3+のCTC数が大きく減少した患者では、治療反応が早期に得られやすい傾向にあったが、統計学的な有意差は認められなかった。
・治療関連有害事象(TRAE)は100%に生じ、多かったものは疲労89.3%、悪心75.0%、下痢46.4%、脱毛44.6、便秘26.8%であった。Grade3以上のTRAEは48.2%で、疲労14.3%、悪心3.6%、下痢3.6%、便秘5.3%であった。間質性肺疾患は1例(1.8%)報告された。

 ICARUS BREAST01試験は現在も進行中であり、さらなる有効性と効果予測因子の解析が行われる予定である。

(ケアネット 森 幸子)


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ICARUS-BREAST試験(Clinical Trials.gov)

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TN乳がんへのHER3-DXd、CelTILスコアが有意に増加(SOLTI TOT-HER3)/ESMO BREAST 2023

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 未治療のHER2-早期乳がん患者に対するHER3を標的とした抗体薬物複合体(ADC)patritumab deruxtecan(HER3-DXd)5.6mg/kgを単回投与した第II相SOLTI TOT-HER3試験(part B)の結果、病理学的完全奏効(pCR)の予測スコアとして開発されたCelTILスコアが有意に増加し、ホルモン受容体の発現状況にかかわらず約30%の奏効率(ORR)が得られたことを、スペイン・Vall d’Hebron University HospitalのA.M. Antunes De Melo e Oliveira氏が欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2023、5月11~13日)で報告した。

 昨年のESMO Breast Cancer 2022において、SOLTI TOT-HER3試験part Aの最終結果が報告され、未治療のHR+/HER2-早期乳がん患者に対するHER3-DXdの術前単回投与は、CelTILスコアの有意な増加と関連し、ORRは45%であった。今回報告されたpart Bでは、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者も登録され、有効性と安全性が検証された。なお、part AではHER3-DXdは6.4mg/kgが投与されたが、part Bでは5.6mg/kgが投与された。

<SOLTI TOT-HER3試験(part B)>
・対象:未治療、HER2-、手術可能(超音波検査またはMRIで腫瘍径≧1cm)、Ki67≧10%の閉経前/後女性および男性乳がん患者
・試験群:HER3-DXd(5.6mg/kg)を単回投与 37例(HR+/HER2-患者20例、TNBC患者17例)
・評価項目:
[主要評価項目]治療前と治療後(サイクル1の21日目)のCelTILスコア(-0.8×tumor cellularity[%]+1.3×TILs[%]:pCRと相関)の変動
[副次評価項目]治療後の超音波検査によるORR、治療前のERBB3 mRNAレベルおよびIHCでのHER3タンパク質発現状況とCelTILスコアの変化など

 主な結果は以下のとおり。

・ベースライン時の患者特性は、年齢中央値:51歳(HR+/HER2-群51歳、TNBC群50歳)、閉経前:54%(60%、47%)、腫瘍径中央値:21mm(21.5mm、26mm)、cN0:76%(85%、65%)、Ki67中央値:30%(20%、70%)であった。
・治療前と比較した治療後のCelTILスコアの変化は、全体では平均差+9.4(p=0.046)で、TNBC群(平均差+17.9)のほうがHR+/HER2-群(平均差+2.2)よりも顕著であった。
・ORRは、全体32%、HR+/HER2-群30%、TNBC群35%で、part Aと同様にCelTILスコアの変化量はORRと関連していた(AUC=0.693、p=0.049)。
・治療前のERBB3 mRNAレベルおよびIHCでのHER3タンパク質発現状況と、CelTILスコアの変化量やORRとの関連はみられなかった。
・PAM50サブタイプは、治療前がLuminal A:9例、Luminal B:7例、HER2-Enriched:4例、Basal-like:17例で、治療後はLuminal A:10例、Luminal B:4例、HER2-Enriched:2例、Basal-like:8例、Nomal-like:6例、No residual tumor:7例であった。
・Gradeを問わない治療関連有害事象(TRAE)は84%(31例)に生じた。多かったものは、悪心65%(24例、うち1例はGrade3)、疲労46%(17例)、脱毛27%(10例)、下痢22%(8例)、便秘14%(5例)、頭痛14%(5例)、トランスアミナーゼ値上昇14%(5例)などで、以前に報告されたものと一致していた。Part Aと比較して、血液毒性および肝毒性の発現率は低かった。間質性肺疾患は報告されなかった。

 現在、HR+/HER2-乳がんを対象に、術前にHER3-DXdを5.6mg/kgを6サイクル投与する第II相SOLTI-VALENTINE試験が実施されている。

(ケアネット 森 幸子)


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TOT-HER3試験(Clinical Trials.gov)

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AI耐性HR+進行乳がんへのcapivasertib上乗せによるPFS改善、サブグループ解析結果(CAPItello-291)/ESMO BREAST 2023

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 アロマターゼ阻害薬(AI)耐性のホルモン受容体陽性(HR+)HER2陰性(HER2-)進行乳がん(切除不能の局所進行乳がんもしくは転移・再発乳がん)に対するフルベストラントへのAKT阻害薬capivasertibの上乗せ効果を検討した第III相CAPItello-291試験。その探索的サブグループ解析の結果、CDK4/6阻害薬治療歴、進行がんへの化学療法歴、肝転移の有無にかかわらず、一貫した無増悪生存期間(PFS)の改善が示された。英国・The Royal Marsden Hospital-ChelseaのNicholas Turner氏が欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2023)で報告した。

 本試験の主要評価項目である全体集団およびAKT経路に変異のある集団におけるPFSの結果は、2022年のサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2022)で報告されている(全体集団でのハザード比[HR]:0.60、AKT経路変異集団でのHR:0.50)。また、全生存期間(OS)はimmatureではあるが、全体集団でのHRが0.74、AKT経路変異集団のHRが0.69であった。今回は事前に計画された探索的サブグループ解析の結果が報告された(データカットオフ:2022年8月15日)。

・対象:男性もしくは閉経前/後の女性のHR+/HER2-の進行乳がん患者(AI投与中/後に再発・進行、進行がんに対して2ライン以下の内分泌療法・1ライン以下の化学療法、CDK4/6阻害薬治療歴ありも許容、SERD・mTOR阻害薬・PI3K阻害薬・AKT阻害薬の治療歴は不可、HbA1c 8.0%未満)
・試験群(capi群):capivasertib(400mg1日2回、4日間投与、3日間休薬)+フルベストラント(500mg) 355例
・対照群(プラセボ群):プラセボ+フルベストラント 353例
・評価項目:
[主要評価項目]全体集団およびAKT経路(PIK3CAAKT1PTENのいずれか1つ以上)に変異のある患者集団におけるPFS
[副次評価項目]全体集団およびAKT経路に変異のある患者集団におけるOS、奏効率(ORR)など
[サブグループ]CDK4/6阻害薬治療歴の有無、進行がんへの化学療法歴の有無、ベースラインにおける肝転移の有無

 今回のサブグループ解析における主な結果は以下のとおり。

・全体集団における各群のPFS中央値および調整HR(95%信頼区間)は以下のとおり。
– CDK4/6阻害薬治療歴
 あり:capi群5.5ヵ月、プラセボ群2.6ヵ月、0.59(0.48~0.72)
 なし:capi群10.9ヵ月、プラセボ群7.2ヵ月、0.64(0.45~0.90)
– 進行がんへの化学療法歴
 あり:capi群3.8ヵ月、プラセボ群2.1ヵ月、0.55(0.36~0.82)
 なし:capi群7.3ヵ月、プラセボ群3.7ヵ月、0.62(0.51~0.75)
– 肝転移
 あり:capi群3.8ヵ月、プラセボ群1.9ヵ月、0.61(0.48~0.78)
 なし:capi群9.2ヵ月、プラセボ群5.5ヵ月、0.60(0.48~0.76)

・CDK4/6阻害薬治療期間について12ヵ月未満と12ヵ月以上で層別解析した結果、治療期間によらずcapi群が有効であることが確認された。

 Turner氏は「フルベストラント単剤の有効性は低く、CDK4/6阻害薬投与後のアンメットニーズを浮き彫りにした。capivasertib+フルベストラントは、CDK4/6阻害薬の使用有無にかかわらず、AI投与中もしくは後に進行したHR+進行乳がんに対する治療選択肢となる可能性がある」とした。

(ケアネット 金沢 浩子)


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CAPItello-291試験(ClinicalTrials.gov)

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閉経後HR+乳がんの術後アナストロゾール、10年vs.5年(AERAS)/JCO

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 閉経後ホルモン受容体(HR)陽性乳がん患者に対する術後のアロマターゼ阻害薬の投与期間について、5年から10年に延長すると無病生存(DFS)率が改善することが、日本の多施設共同無作為化非盲検第III相試験(N-SAS BC 05/AERAS)で示された。岩瀬 拓士氏(日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院)らによる論文が、Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2023年4月20日号に掲載された。

 本試験は、アナストロゾールを5年投与、もしくはタモキシフェンを2~3年投与後にアナストロゾール2~3年投与した閉経後乳がん患者を対象に、アナストロゾールをさらに5年延長した場合の効果を評価した。患者は、アナストロゾールをさらに5年継続する群(継続群)と、アナストロゾールを中止する群(中止群)に無作為に1:1に割り付けた。主要評価項目はDFS(乳がん再発・2次原発がん発生・あらゆる原因での死亡までの期間)、副次評価項目は全生存(OS)、遠隔無病生存(DDFS)、安全性などであった。

 主な結果は以下のとおり。

・2007年11月~2012年11月に117施設から1,697例を登録し、追跡情報が得られた1,593例(継続群787例、中止群806例)をFAS(Full Analysis Set)とした(タモキシフェン治療歴のある144例と放射線照射を伴わない乳房温存手術を受けた259例を含む)。
・5年DFS率は、継続群で91%(95%信頼区間[CI]:89~93)、中止群で86%(同:83~88)であった(ハザード比:0.61、95%CI:0.46~0.82、p<0.0010)。
・アナストロゾール延長により、局所再発(継続群10例、中止群27例)および2次原発がん(継続群27例、中止群52例)の発生率が低下した。
・OS率およびDDFS率に有意差はなかった。
・更年期障害または骨関連の有害事象の発現率は、全Gradeでは中止群よりも継続群で高かったが、Grade3以上では両群とも1%未満であった。

 著者らは、「アナストロゾールまたはタモキシフェンによる5年の治療後にアナストロゾールをさらに5年継続する治療は、忍容性が高く、DFSを改善した。OSには差が認められなかったが、閉経後のHR陽性乳がん患者に対するアナストロゾールの投与延長は治療選択の1つとなりうる」としている。

(ケアネット 金沢 浩子)


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Iwase T, et al. J Clin Oncol. 2023 Apr 20. [Epub ahead of print]

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スタチンでアジア人乳がん患者のがん死亡リスク低下

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 スタチン製剤を服用しているアジア人の乳がん患者では、スタチンを服用していない乳がん患者と比べて、がん関連の死亡リスクが有意に低かったことを、台湾・国立成功大学のWei-Ting Chang氏らが明らかにした。なお、心血管疾患による死亡リスクには有意差はなかった。JAMA Network Open誌4月21日号掲載の報告。

 スタチンは化学療法と併用することで、がんの進行や微小転移を抑制することが報告されていて、乳がんの再発リスクを低減させる可能性が示唆されている。しかし、欧米の乳がん患者とは異なり、アジアの乳がん患者は診断時の年齢が比較的若く、ほとんどが心血管リスク因子を有していないため、スタチンの服用によって生存率が改善するかどうかは不明である。そこで研究グループは、アジア人の乳がん患者において、スタチン使用とがんおよび心血管疾患による死亡リスクとの関連を後方視的に調査した。

 本コホート研究の対象は、台湾の国民健康保険研究データベース(NHIRD)と国民がん登録を用いて、2012年1月~2017年12月までに乳がんと診断された女性患者1万4,902例で、乳がんの診断前6ヵ月以内にスタチンを服用した患者と、スタチンを服用していない患者を比較した。年齢、がんの進行度、抗がん剤治療、併存疾患、社会経済的状況、心血管系薬剤などを傾向スコアマッチング法で適合させ、解析は2022年6月~2023年2月に実施された。主要アウトカムは死亡(全死因、がん、心血管疾患、その他)で、副次的アウトカムは新規発症の急性心不全、急性心筋梗塞や虚血性脳卒中などの動脈イベント、深部静脈血栓症や肺塞栓症などの静脈イベントであった。平均追跡期間は4.10±2.96年であった。

 主な結果は以下のとおり。

・スタチン使用群7,451例(平均年齢64.3±9.4歳)とスタチン非使用群7,451例(平均年齢65.8±10.8歳)がマッチングされた。
・非使用群と比較して、使用群では全死因死亡のリスクが有意に低かった(調整ハザード比[aHR]:0.83、95%信頼区間[CI]:0.77~0.91、p<0.001)。
・がん関連死亡のリスクも、非使用群と比較して、使用群では有意に低かった(aHR:0.83、95%CI:0.75~0.92、p<0.001)。
・心不全、動脈・静脈イベントなどの心血管疾患の発生は少数であり、使用群と非使用群で死亡リスクに有意差は認められなかった。
・時間依存性解析でも、非使用群と比較して、使用群では全死因死亡(aHR:0.32、95%CI:0.28~0.36、p<0.001)およびがん関連死亡(aHR:0.28、95%CI:0.24~0.32、p<0.001)が有意に少なかった。
・これらのリスクは、とくに高用量スタチンを服用している群でさらに低かった。

 これらの結果より、研究グループは「アジア人の乳がん患者を対象としたこのコホート研究では、スタチンの使用は心血管疾患による死亡ではなく、がん関連の死亡リスクの低減と関連していた。今回の結果は、乳がん患者におけるスタチンの使用を支持するエビデンスとなるが、さらなるランダム化試験が必要である」とまとめた。

(ケアネット 森 幸子)


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Chang WT, et al. JAMA Netw Open. 2023;6:e239515.

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若年乳がん患者、出産は予後に影響するのか~日本の傾向スコアマッチング研究

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 若年乳がん患者の出産に関するこれまでの研究は潜在的なバイアスがあり不明な点が多い。今回、聖路加国際病院の越智 友洋氏らが傾向スコアマッチングを用いて、乳がん診断後の出産が予後に及ぼす影響を検討した結果、出産により再発や死亡リスクは増加しないことが示唆された。Breast Cancer誌2023年5月号に掲載。

 本研究は、単施設での後ろ向きコホート研究で、2005~14年に乳がんと診断された45歳以下の患者を対象とし、診断後に出産した患者(出産コホート)104例と出産していない患者(非出産コホート)2,250例で無再発生存率(RFS)および全生存率(OS)を比較した。傾向スコアモデルの共変量は、年齢、腫瘍の大きさ、リンパ節転移の有無、乳がん診断前の分娩回数、エストロゲン受容体およびHER2の発現状態とした。

 主な結果は以下のとおり。

・追跡期間中央値82ヵ月で、出産コホートは非出産コホートよりRFSが有意に長かった(ハザード比[HR]:0.469[0.221~0.992]、p=0.047)が、OSには有意差はなかった(HR:0.208[0.029~1.494]、p=0.119)。

・傾向スコアマッチング後、乳がん診断後の出産はRFS(HR:0.436[0.163~1.164]、p=0.098)およびOS(HR:0.372[0.033~4.134]、p=0.402)と有意な関連はなかった。

(ケアネット 金沢 浩子)


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Ochi T, et al. Breast Cancer. 2023;30:354-363.

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T-DXd、T-DM1不応または抵抗性乳がんに有効/Lancet

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 トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)に対して不応または抵抗性を示すHER2陽性転移のある乳がん患者の治療において、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)は医師が選択した治療と比較して、無増悪生存期間(PFS)が有意に延長し、安全性プロファイルはすでに確立されたものと一致し、新たな安全性シグナルは観察されなかったことが、フランス・パリ・サクレー大学のFabrice Andre氏らが実施した「DESTINY-Breast02試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年4月19日号で報告された。

227施設の無作為化第III相試験

 DESTINY-Breast02試験は、北米、欧州、アジア(日本を含む)、オーストラリア、ブラジル、イスラエル、トルコの227施設が参加した非盲検無作為化第III相試験であり、2018年9月~2020年12月の期間に患者のスクリーニングと無作為割り付けが行われた(Daiichi SankyoとAstraZenecaの助成を受けた)。

 年齢18歳以上、病理学的に切除不能なHER2陽性転移のある乳がんが確認され、T-DM1による治療歴があり、画像所見で病勢の進行が認められ、全身状態が良好な患者(ECOG PSスコア0/1)が、T-DXd(5.4mg/kg、3週ごとに静脈内投与)、または医師の選択による治療を受ける群に、2対1の割合で無作為に割り付けられた。

 医師の選択による治療は、カペシタビン+トラスツズマブまたはカペシタビン+ラパチニブとされ、いずれも21日スケジュールで投与された。

 主要評価項目はPFSであり、最大の解析対象集団(FAS)において盲検下に独立の中央判定で評価が行われた。

OSも良好、14%で完全奏効

 608例が登録され、T-DXd群に406例、医師選択治療群に202例が割り付けられた。それぞれ2例および7例が実際には治療を受けなかったが、608例すべてがFASに含まれた。

 年齢中央値は、T-DXd群が54.2歳(四分位範囲[IQR]:45.5~63.4)、医師選択治療群は54.7歳(48.0~63.0)であり、男性がそれぞれ3例および2例、白人が63%ずつ、アジア人が30%および28%含まれた。フォローアップ期間中央値は、21.5ヵ月および18.6ヵ月だった。

 盲検下独立中央判定によるPFS中央値は、T-DXd群が17.8ヵ月(95%信頼区間[CI]:14.3~20.8)と、医師選択治療群の6.9ヵ月(5.5~8.4)に比べ、有意に延長した(ハザード比[HR]:0.36、95%信頼区間[CI]:0.28~0.45、p<0.0001)。

 全生存期間(OS)中央値は、T-DXd群が39.2ヵ月(95%CI:32.7~評価不能[NE])であり、医師選択治療群の26.5ヵ月(21.0~NE)に比し、有意に延長した(HR:0.66、95%CI:0.50~0.86、p=0.0021[統計学的有意性の境界値:p=0.0040])。また、奏効率は、それぞれ70%(283/406例)および29%(59/202例)であり、内訳は完全奏効が14%(57例)および5%(10例)、部分奏効は56%(226例)および24%(49例)だった。

抗体-薬物複合体による逐次治療の可能性

 頻度の高い治療関連有害事象として、悪心(T-DXd群73%[293/404例]、医師選択治療群37%[73/195例])、嘔吐(38%[152例]、13%[25例])、脱毛(37%[150例]、4%[8例])、疲労(36%[147例]、27%[52例])、下痢(27%[109例]、54%[105例])、手掌・足底発赤知覚不全症候群(2%[7例]、51%[100例])が認められた。

 Grade3以上の治療関連有害事象は、T-DXd群が53%、医師選択治療群は44%で発現し、薬剤関連の間質性肺疾患がそれぞれ10%(42例、Grade5[死亡]の2例を含む)および<1%(1例)でみられた。

 著者は、「われわれの知る限りこの研究は、抗体-薬物複合体が、別の抗体-薬物複合体による治療で病勢が進行した患者において有意な有益性を示した初めての無作為化試験であり、HER2陽性転移のある乳がんや他の患者集団における抗体-薬物複合体の逐次治療に関して、明るい展望をもたらすものである」としている。

(医学ライター 菅野 守)


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Andre F, et al. Lancet. 2023 Apr 19. [Epub ahead of print]

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早期乳がん、アントラサイクリン+タキサン併用が最も有効~メタ解析/Lancet

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 乳がんの再発と死亡の減少にはアントラサイクリン系+タキサン系併用療法が最も有効であり、とくにアントラサイクリン系+タキサン系の累積投与量が多いレジメンで最大の効果を得られることが、英国・オックスフォード大学のJeremy Braybrooke氏らEarly Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group(EBCTCG)が行ったメタ解析で明らかにされた。早期乳がんに対するアントラサイクリン系+タキサン系併用療法は、化学療法を行わない場合と比較して生存を著明に改善するが、アントラサイクリン系薬剤の短期および長期の副作用に対する懸念から、アントラサイクリン系薬剤を含まないタキサン系レジメンの使用が増加しており、有効性が損なわれる可能性があった。

 著者は、「示された結果は、臨床診療やガイドラインにおける最近のトレンドである非アントラサイクリン系化学療法、とくにドセタキセル+シクロホスファミドの4サイクルなどの短期レジメンに対して挑戦的である」と述べ、「本検討は、関連するほぼすべての臨床試験のデータをまとめており、個々の治療の決定、臨床ガイドライン、および将来の臨床試験のデザインに役立つ確かなエビデンスを提供するものである」とまとめている。Lancet誌2023年4月15日号掲載の報告。

アントラサイクリン系およびタキサン系レジメンを評価した無作為化試験86件が対象

 研究グループは、MEDLINE、Embase、Cochrane Library、学会抄録を含むデータベースを用いて、アントラサイクリン系およびタキサン系レジメンを評価したあらゆる言語の無作為化試験86件を特定(最終検索は2022年9月)。タキサン系レジメンとアントラサイクリン系レジメンを比較した無作為化試験の患者個人レベルのメタ解析を行い、本研究グループによる前回のメタ解析を更新するとともに、6つの関連比較に関して解析した。術後または術前補助療法の臨床試験は、2012年1月1日以前に開始されたものであれば対象とした。

 主要アウトカムは、浸潤性乳がんの再発(遠隔、局所、対側乳房の新規原発)、乳がん死、再発を伴わない死亡、全死亡とし、log-rank解析により初回イベント率比(RR)と信頼区間(CI)を算出した。

アントラサイクリン系+タキサン系同時併用が最も再発率が低い

 アントラサイクリン系を含むタキサン系レジメンとアントラサイクリン系を含まないタキサン系レジメンを比較した28件の臨床試験を特定し、23件を適格とした。そのうち15件について、計1万8,103例の女性の個人データが提供された。この15件すべてにおいて、アントラサイクリン系を含むタキサン系レジメンは、アントラサイクリン系を含まないタキサン系レジメンより、再発率が平均14%低かった(RR:0.86、95%CI:0.79~0.93、p=0.0004)。非乳がん死は増加しなかったが、治療を受けた女性700例当たり1例に急性骨髄性白血病の発症が認められた。

 再発率が最も低かったのは、ドセタキセル+シクロホスファミドにアントラサイクリン系の同時併用と、同量のドセタキセル+シクロホスファミドを比較した場合であった(10年再発リスク:12.3% vs.21.0%、リスク差:8.7%[95%CI:4.5~12.9]、RR:0.58[95%CI:0.47~0.73]、p<0.0001)。このグループにおける10年乳がん死亡率は4.2%減少した(95%CI:0.4~8.1、p=0.0034)。

 アントラサイクリン系+タキサン系の順次投与は、ドセタキセル+シクロホスファミドと比較して、再発リスクの有意な低下は認められなかった(RR:0.94、95%CI:0.83~1.06、p=0.30)。

 アントラサイクリン系レジメンとタキサン系レジメンを比較した臨床試験については、44件の適格試験を特定し、このうち35件について計5万2,976例の女性の個人データが提供された。

 アントラサイクリン系レジメンへのタキサン系薬剤の上乗せは、タキサン系薬剤を含まないアントラサイクリン系レジメン(アントラサイクリン系薬剤の累積投与量が同じ)と比較した場合は再発を有意に抑制したが(RR:0.87、95%CI:0.82~0.93、p<0.0001、1万1,167例)、対照群の非タキサン系薬剤の累積投与量をタキサン系薬剤の2倍量にした場合と比較すると再発率の有意な低下は認められなかった(RR:0.96、95%CI:0.90~1.03、p=0.27、1万4,620例)。

 アントラサイクリン系レジメンとタキサン系レジメンの直接比較では、累積投与量が多く、投与強度が高いレジメンがより効果的であることが示された。アントラサイクリン系+タキサン系併用療法の再発抑制効果は、エストロゲン受容体陽性集団とエストロゲン受容体陰性集団で同様であり、年齢、リンパ節転移状態、腫瘍のサイズまたはグレードによって差は認められなかった。

(ケアネット)


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Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group (EBCTCG). Lancet. 2023;401:1277-1292.

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術前AC抵抗性TN乳がん、アテゾリズマブ+nab-PTXが有望/第II相試験

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 トリプルネガティブ乳がん(TNBC)では、抗PD-(L)1抗体による術前療法で病理学的完全奏効(pCR)率が改善されるが、免疫関連有害事象(irAE)の長期持続リスクのためリスク・ベネフィット比の最適化が重要である。最初の術前療法で臨床効果が不十分な場合はpCR率が低い(2~5%)ことから、免疫チェックポイント阻害薬が選択可能かもしれない。今回、米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのClinton Yam氏らは、術前ドキソルビシン+シクロホスファミド(AC)抵抗性のTNBC患者に対して、第2の術前療法としてアテゾリズマブ+nab-パクリタキセルを投与する単群第II相試験を実施し、有望な結果が得られた。Breast Cancer Research and Treatment誌オンライン版2023年4月15日号に掲載。

 本試験の対象は、StageI~IIIのAC抵抗性(AC 4サイクル後に病勢進行もしくは腫瘍体積の80%未満の減少)のTNBCで、第2の術前療法としてアテゾリズマブ(1,200mg、3週ごと4回)+nab-パクリタキセル(100mg/m2、1週ごと12回)を投与後、アテゾリズマブ(1,200mg、3週ごと4回)を投与した。

 主な結果は以下のとおり。

・2016年2月15日~2021年1月29日にAC抵抗性TNBCを37例登録した。
・pCR/residual cancer burden(RCB)-I率は46%だった(ヒストリカルコントロール群:5%)。
・新たな安全性シグナルは観察されなかった。
・7例(19%)がirAEによりアテゾリズマブを中止した。

(ケアネット 金沢 浩子)


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Yam C, et al. Breast Cancer Res Treat. 2023 Apr 15. [Epub ahead of print]

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