アピアランスケアとしての乳房再建

提供元:CareNet.com

 「乳房再建」という言葉自体の一般的な認知度はまだまだ低く、また、米国や韓国と比較して日本における乳房再建率は低いといわれている。そこで、アッヴィ合同会社アラガン・エステティックスは2023年9月27日、乳房再建について、治療の一環のみならず、昨今注目度が高まっている「アピアランスケア」の選択肢の1つとしての側面をより広く周知するために、メディア向けセミナーを開催した。

 セミナーでは、3名の演者が、乳がん罹患者を対象としたアピアランスケアに関する調査結果を紹介するとともに、各専門家による乳房再建の治療現場の動向や、乳がん経験者によるアピアランスケアの体験談等を解説した。

患者の不安を安心に変え、社会につなぐ「アピアランスケア」

 アピアランスケアとは、「医学的・整容的・心理社会的支援を用いて、外見の変化を補完し、外見の変化に起因するがん患者の苦痛を軽減するケア」である。このアピアランスケアの実態として、がん研有明病院の片岡 明美氏(乳腺センター 乳腺外科医長/トータルケアセンター サバイバーシップ支援室長・地域連携室長)は、アラガンとNPO法人エンパワリング ブレストキャンサー(E-BeC)が共同で実施した「乳がん罹患者を対象としたアピアランスケアに関する調査」の結果を紹介した。調査では、アピアランスケアについて「知っている」と回答した人の割合は21%であった。また、乳がんに罹患してから気になった外見の変化について、約半数の人が「手術による傷痕」、約3割の人が「手術による乳房切除(全摘)」「手術(部分切除)による胸の変形」と回答したにもかかわらず、外見の変化に対して乳房再建術を受けた人は1割未満だった。片岡氏は、「患者の乳房再建の認知率が低いことに加え、中には乳房再建のために仕事を休むことが言いづらい、という方もいる。社会としても乳房を再建することを受け入れられるよう、情報発信が大切だと感じている」と述べた。

乳房再建術は年齢にかかわらず必要とされる

 岩平 佳子氏(ブレストサージャリークリニック院長)は、乳房再建術における実症例を紹介し、人工物による乳房再建のメリットを語った。現場の動向については、ブレストサージャリークリニックにおける乳房再建術患者の年代別割合を紹介し、「40~60代の方が多いことは、乳がんの好発年齢から考えると当然ではあるが、注目すべきは70歳以上でも乳房再建術を受ける方がいることだ。高齢者における乳房再建の理由の多くは温泉と介護であり、とくに孫やパートナーと温泉に行く際に外見を気にする方は少なくない。乳房再建は決して若年層だけのものでなく、年齢や地域、社会的状況に関係なくQOLの向上に非常に重要なものだ」と強調した。

乳房再建術におけるハードルとは

 真水 美佳氏(エンパワリング ブレストキャンサー[E-BeC]理事長)は、乳房再建術を受けた自身の経験から、現在はE-BeCで乳房再建術の正しい理解と情報を届ける活動を行っている。E-BeCの調査によると、乳房再建術におけるハードルの1つに地域格差があり、首都圏と比較して地方では「近くに乳房再建術が可能な施設がない、または選択肢が少なく不本意な術式になってしまう」ことから、「社会的に乳房再建に対する認知度・理解度が低く、再建手術を受ける機会が少ない」という課題がうかがえる。真水氏は、「乳房再建術が保険適用になって10年以上経過しているにもかかわらず、いまだそのことを知らない患者が存在する。2013年から実施しているアンケート調査結果からも、地域格差や周囲の無理解について改善されていない。アピアランスケアに向けて、社会全体の理解の向上と医療の均一化が重要だ」と述べた。なお、E-BeCは設立以来、ウェブサイトからの情報発信に加え、年に2~3回のセミナーや月に1回の乳房再建ミーティング(現地/オンラインによるハイブリッド)を開催しているという。

メディアによる情報発信も重要

 認知度が低い乳房再建について、情報格差により知らないままになっている患者を少しでも減らせるような取り組みが重要である。医療従事者だけでなくメディアにおいても、地道に広く周知していくことで、「アピアランスケア」としての乳房再建という情報を患者に届けることが期待される。

(ケアネット 寺井 宏太)


【参考文献・参考サイトはこちら】

乳房再建ナビ

エンパワリング ブレストキャンサー(E-BeC)

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

HR+乳がんで免疫チェックポイント阻害薬が期待できる可能性?/昭和大ほか

提供元:CareNet.com

 HR+/HER2-の転移を有する乳がん患者を対象に、CDK4/6阻害薬アベマシクリブが免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブの効果を増強するメカニズムを調べた医師主導治験の結果、血清サイトカイン解析でTNF関連因子やIL-11の増加、末梢血単核細胞解析で制御性T細胞の低下、肝組織でCD8+リンパ球の浸潤が認められ、CDK4/6阻害薬が免疫チェックポイント阻害薬の免疫活性化と相乗的に働くことを、昭和大学の鶴谷 純司氏や吉村 清氏らの研究グループが明らかにした。Journal for ImmunoTherapy of Cancer誌2023年9月13日号掲載の報告。

 HR+の乳がんでは免疫チェックポイント阻害薬の有効性は乏しいと考えられているが、動物実験ではCDK4/6阻害薬が抗PD-1/PD-L1抗体の効果を相乗的に増加させたことが報告されている。そこで研究グループは、CDK4/6阻害薬で免疫チェックポイント阻害薬の作用を増強することができれば、これまで効果が乏しいとされてきた患者でも有用になり得ると考え、非無作為化多施設共同第II相NEWFLAME試験を行った。

 HR+/HER2-の転移乳がん患者17例を対象に、1次治療または2次治療として、ニボルマブ240mg(2週間ごと)+アベマシクリブ150mg(1日2回)+フルベストラントまたはレトロゾールを投与し、有効性と安全性を評価した。主要評価項目は奏効率(ORR)で、副次的評価項目は安全性、無増悪生存期間、全生存期間であった。

 主な結果は以下のとおり。

・安全性の懸念による試験早期終了までの2019年6月~2020年7月に17例が登録された(フルベストラント群12例[1例除外]、レトロゾール群5例)。
・ORRはフルベストラント群で54.5%(6/11例)、レトロゾール群で40.0%(2/5例)であった。
・Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)は、フルベストラント群で11例(92%)、レトロゾール群で5例(100%)に発現した。最も一般的なGrade3以上のTRAEは好中球減少症(7例[58.3%]、3例[60.0%])で、次いでALT値上昇(5例[41.6%]、2例[40.0%])であった。レトロゾール群では間質性肺疾患による治療関連死が1例発生した。肝臓に関連したGrade3以上の有害事象は7例(58.3%)、3例(60.0%)に発現した。
・血清サイトカイン解析でリンパ球を活性化するTNF関連因子やIL-11の増加、末梢血単核細胞解析で免疫を制御する制御性T細胞の低下、さらに肝障害を起こした肝組織でCD8+リンパ球の浸潤が認められ、CDK4/6阻害薬が免疫チェックポイント阻害薬の免疫活性化と相乗的に働くことが確認された。

 これらの結果より、研究グループは「ニボルマブとアベマシクリブの併用療法は有効であったが、重篤で長引く免疫関連の有害事象が認められた」としたうえで、プレスリリースで「免疫チェックポイント阻害薬の効果を上げる併用薬は重要。免疫活性化のメカニズム解明により、新たな治療法の開発や副作用の低減が期待される」とコメントした。

(ケアネット 森 幸子)


【原著論文はこちら】

Masuda J, et al. J Immunother Cancer. 2023;11:e007126.

【参考文献・参考サイトはこちら】

昭和大学:昭和大学などの研究グループが、細胞周期阻害剤が免疫チェックポイント阻害薬の効果を増強するメカニズムを解明 — あらたな治療法の開発や副作用の低減に期待

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

対側乳がん発症後の死亡リスク上昇、サブタイプで違い

提供元:CareNet.com

 対側乳がん発症後の生存に関する報告は一貫していない。今回、韓国・Dongguk University Ilsan HospitalのHakyoung Kim氏らが、Stage0~III期の原発性乳がん患者における対側乳がん発症と生存の関連を調査した。その結果、対側乳がん発症と全生存期間との関連はみられなかったが、乳がん診断後早期の発症、HR陽性HER2陰性乳がん患者での発症は生存期間との関連が示された。JAMA Network Open誌2023年9月5日号に掲載。

 本コホート研究は、韓国・Asan Medical Centerにおいて、1999~2013年にStage0~IIIの転移のない片側性乳がんと診断され、2018年まで追跡された患者を対象とした。追跡期間中央値は107(四分位範囲:75~143)ヵ月であった。追跡期間中の対側乳がん発症の有無により対側乳がん群となし群に分け、それぞれの生存率を、研究集団全体および対側乳がん発症までの期間と原発乳がんのサブタイプによるサブグループで解析し、時間依存性Cox比例ハザードモデルを用いて比較した。

 主な結果は以下のとおり。

・対象となった乳がん患者1万6,251例は、すべてアジア人(主に韓国人)で平均年齢は48.61(標準偏差:10.06)歳、418例で対側乳がんを発症した。
・全生存率は、対側乳がん群となし群で有意差はなかった(ハザード比[HR]:1.166、95%信頼区間[CI]:0.820~1.657)。
・原発乳がんに対する手術後1.5年以内に対側乳がんを発症した患者では、試験期間中の全死亡リスクが高く(HR:2.014、95%CI:1.044~3.886)、手術後1.5年以降に発症した患者では生存に有意差は認められなかった。
・HR陽性HER2陰性乳がん患者では、対側乳がん群で全死亡リスクが高かった(HR:1.882、95%CI:1.143~3.098)。

 著者らは「これらの結果は、予防的対側乳房切除術の選択肢を検討している患者のカウンセリングに貴重な情報を提供する可能性がある」としている。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Kim H, et al. JAMA Netw Open. 2023;6:e2333557.

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

適切な運動でがん患者の死亡リスク25%減、がん種別にみると?/JCO

提供元:CareNet.com

 がんと運動の関係について、さまざまな研究がなされているが、大規模な集団において、がん種横断的に長期間観察した研究結果は報告されていない。そこで、米国・メモリアルスローンケタリングがんセンターのJessica A. Lavery氏らの研究グループは、がん種横断的に1万1,480例のがん患者を対象として、がんと診断された後の運動習慣と死亡リスクの関係を調べた。その結果、適切な運動を行っていた患者は非運動患者と比べて、全生存期間中央値が5年延長し、全死亡リスクが25%低下した。本研究結果は、Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2023年8月31日号に掲載された。

 前立腺がん、肺がん、大腸がん、卵巣がんのスクリーニング研究(Prostate, Lung, Colorectal and Ovarian [PLCO] Cancer Screening Trial)に参加したがん患者1万1,480例(11がん種)を対象とした。対象患者のがんと診断された後の運動の頻度と死亡の関係を検討した。運動について、米国のガイドラインの基準(中強度以上の運動を週4日以上×平均30分以上および/または高強度の運動を週2回以上×平均20分以上)を満たす患者(適切な運動群)と基準未満の患者(非運動群)の2群に分類し、比較した。主要評価項目は全死亡、副次評価項目はがん死亡、非がん死亡であった。

 主な結果は以下のとおり。

・追跡期間中央値16年時点において、死亡が認められたのは4,665例であった。内訳は、がん死亡が1,940例、非がん死亡が2,725例であった。
・全生存期間中央値は、適切な運動群が19年であったのに対し、非運動群は14年であった。
・多変量解析の結果、適切な運動群は非運動群と比べて、全死亡リスクが有意に25%低下した(ハザード比[HR]:0.75、95%信頼区間[CI]:0.70~0.80)。
・また、適切な運動群は非運動群と比べて、がん死亡リスク(HR:0.79、95%CI:0.72~0.88)と非がん死亡リスク(HR:0.72、95%CI:0.66~0.78)が有意に低下した。
・がん種別のサブグループ解析において、全死亡リスクの有意な低下が認められたがん種は、以下のとおりであった。
 -子宮体がん(HR:0.41、95%CI:0.24~0.72)
 -腎がん(同:0.50、0.31~0.81)
 -頭頸部がん(同:0.62、0.40~0.96)
 -血液がん(同:0.72、0.59~0.89)
 -乳がん(同:0.76、0.63~0.91)
 -前立腺がん(同:0.78、0.70~0.86)
・一方、適切な運動群でがん死亡リスクの有意な低下が認められたがん種は、腎がん(HR:0.34、95%CI:0.15~0.75)、頭頸部がん(HR:0.49、95%CI:0.25~0.96)のみであった。

(ケアネット 佐藤 亮)


【原著論文はこちら】

Lavery JA, et al. J Clin Oncol. 2023 Aug 31. [Epub ahead of print]

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

monarchEの適格基準でも検討、POTENT試験の探索的解析結果

提供元:CareNet.com

 第III相POTENT試験では、エストロゲン受容体(ER)陽性HER2陰性乳がんにおける術後ホルモン療法へのS-1の上乗せ効果が示された。今回、同試験のリスク分類別の探索的解析結果を京都大学の高田 正泰氏らがBreast Cancer Research and Treatment誌オンライン版2023年9月7日号に報告した。

 POTENT試験の対象は、StageI~IIIBのER陽性HER2陰性乳がん患者。S-1併用群(S-1[1日2回経口、3週ごと]+標準的ホルモン療法)と標準的ホルモン療法群に無作為に割り付けられた。

 再発リスク(複合リスク)は、年齢、腫瘍の大きさ、リンパ節転移の有無、グレード、ER発現、Ki-67発現レベルを組み込んだCoxモデルで決定した。複合リスクスコアにより低リスク群(下位四分位数以下、677例)、中リスク群(四分位範囲、767例)、高リスク群(上位四分位数超、453例)に分け、各群におけるS-1の上乗せ効果を評価した。また、monarchE試験の適格基準を満たした患者におけるS-1の上乗せ効果も推定された。

 主な結果は以下のとおり。

・内分泌療法にS-1を追加することで、無浸潤疾患生存(iDFS)イベントは、中リスク群では49%(ハザード比[HR]:0.51、95%信頼区間[CI]:0.33~0.78)、高リスク群では29%(HR:0.71、95%CI:0.49~1.02)減少した。
・低リスク群では、S-1の上乗せ効果は確認できなかった。
・monarchEコホート1基準のうちリンパ節転移1~3個の患者(290例)において、S-1上乗せはiDFSの改善を示した(HR:0.47、95%CI:0.29~0.74)。

 著者らはS-1の上乗せ効果はとくに中リスク群で顕著だったとし、最適な使用法を探るため、さらなる研究が必要とまとめている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【原著論文はこちら】

Takada M, et al. Breast Cancer Res Treat. 2023 Sep 7. [Epub ahead of print]

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

がん遺伝子パネル検査、もっと多く、もっと早く/イルミナ

提供元:CareNet.com

 イルミナは2023年8月31日に、都内でプレスセミナー「がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査の現状と課題」を開催した。演者からは、がん遺伝子パネル検査(包括的がんゲノムプロファイリング[CGP]検査)のさらなる活用と、早期適用についての要望が発せられた。

一般大衆のがんゲノム医療への認知度は低い

 同社メディカルアフェアーズ本部長である猪又 兵衛氏は、2023年5月に同社が一般成人1,000人を対象に行った「がんゲノム医療に対する意識調査」の結果を紹介した。

 がんの根本的な原因について問う質問に対し、「喫煙」「遺伝」「飲酒、偏食」という回答が上位を占め、「遺伝子異常」と認識していた人の割合はそれ以下で5割強にとどまった。また、がんゲノム医療を知っているか、との質問に対し、知っていたと回答した割合は7%であった。

 猪又氏は、「がん患者やその家族など、がんに関わっている方でさえ、がんゲノム検査の認知度とがんへの正しい理解度はまだ低く、さらなる向上の余地がある」と総括した。

今以上に増やせる日本の遺伝子パネル検査の活用機会は

 同社ゼネラルマネジャーのArjuna Kumarasuriyar氏は、世界と日本のCGP活用に関する統計データを示した。

 日本ではCGP検査が保険承認されているものの、希少がんを除き、標準治療終了後という制限がある。制限の中でCGP検査を受けているがん患者は約1万7,000例で、日本における年間の新規がん罹患数の約100万人から換算すると、58対1の比率である。この比率は韓国では10対1、ドイツでは13対1で、CGP検査を受けているがん患者の比率は日本の4〜5倍多い。Kumarasuriyar氏は、「日本では今以上にCGPの活用機会がある」と述べた。

CGPをさらに治療に結び付けるために必要な、基礎・臨床研究の増加

 国立がん研究センターがんゲノム情報管理センター(C-CAT)センター長の河野 隆志氏は、C-CATの実績について紹介した。

 2019年6月以降のC-CATの登録累計は6万人に達する。登録者は増加傾向で、現在は月2,000件程度が新たに登録されている。CGP検査により治療薬が提示された患者は44.5%(1万3,713例)、CGP検査で提示された標的治療薬が投与された患者は9.4%(2,888例)であるという。

 河野氏は、「多くの患者で遺伝子変異が見つかっているが、必ずしも薬剤に紐付いているわけではない。今後は遺伝子と薬剤の関係を導き出す基礎研究と、治療につなげる治験の増加が必要だ」と訴えた。

CGP活用拡大に欠かせない、医師からの提案と診断初期からの適用

 NPO法人パンキャンジャパン理事長の眞島 喜幸氏からは、希少がんと膵臓がん患者のアンケート結果が紹介された。

 希少がんでは治療初期からCGP検査が認められている。しかし、医師からがんゲノム医療の説明を受けた希少がん患者は22.5%しかいない。結果、CGP検査を受けた希少がん患者は12%だった。CGP検査を受けなかった理由の第1位は「医師からの説明がなかった」である。眞島氏は、「患者から検査の要望を切り出せる状況には至っていない。医師からの提案が重要」と述べた。

 また、同氏はCGPの活用時期についても言及した。膵がんではKRASBRCAなど代表的な遺伝子変異が多い。米国のNCCNガイドラインでは、進行膵がんに対し治療初期からCGP検査が推奨されているが、日本では、膵がんでのCGP検査適用は標準治療後である。眞島氏は、「膵がんの治療は待ったなし。現在の制限を解除し、米国のように診断時からCGP検査を活用してゲノム医療につなげたい」と訴えた。

(ケアネット 細田 雅之)


掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

日本におけるSNS上のがん情報、4割超が誤情報

提供元:CareNet.com

 SNSの普及により、患者はがん情報に容易にアクセスできるようになった。しかし、患者の意思決定に悪影響を与えかねない誤情報や有害情報も大量に発信されている。日本のSNSにおけるがん情報はどの程度信頼できるものなのか。これについて調べた名古屋市立大学病院 乳腺外科の呉山 菜梨氏らによる研究結果がJMIR formative research誌オンライン版2023年9月6日号に掲載された。

 研究者らは、Twitter(現:X)上で2022年8~9月に投稿された、日本語の「がん」という言葉を含むツイートを抽出した。1)がんの発生や予後に関する言及、2)行動の推奨・非推奨、3)がん治療の経過や有害事象に関する言及、4)がん研究の成果、5)その他がんに関連する知識・情報、を含むがん関連ツイートを抽出対象とし、「いいね」の数が最も多かった上位100ツイートを選定した。それぞれのツイートについて、日本のがんセンターまたは大学病院で臨床に携わる医師である2名の独立したレビュアーが、情報が事実か誤情報か、有害か安全かを、誤情報と有害なツイートについてはその判断理由とともに評価した。

 主な結果は以下のとおり。

・抽出されたツイートは計6万9,875件であった。上位ツイート100件のうち、誤情報が含まれていたのは44件(44%)、有害情報が含まれていたのは31件(31%)、誤情報と有害情報の両方が含まれていたのは30件(30%)であった。
・誤情報は、証明されていない(38/94、40.4%)、反証されている(19/94、20.2%)、不適切な適用(4/94、4.3%)、エビデンスの強度の誤り(14/94、14.9%)、誤解を招く(18/94、19.1%)、その他の誤情報(1/94、1.1%)に分類された。
・有害情報は安全情報よりも「いいね」される頻度が高く、誤情報がリツイートされる頻度は事実に基づいた情報よりも、有害情報がリツイートされる頻度は安全な情報よりも、それぞれ有意に高かった。
・正確性と有害性を合わせた分析では、「事実-安全」「事実-有害」「誤情報-安全」「誤情報-有害」と評価されたツイートの割合は、それぞれ55%、1%、14%、30%であった。
・「いいね」やリツイートの数が最も多かったのは、「日本では、米国から余った抗がん剤や廃棄される抗がん剤が輸入されているため、がんの死亡率が高い」という誤った情報であった。

 著者らは、「日本では、Twitter上でがんに関連する誤った情報や有害な情報が蔓延していることが明らかであり、この問題に関するヘルスリテラシーと意識を高めることが極めて重要である。さらに、行政機関や医療従事者は、患者やその家族が十分な情報を得たうえで意思決定できるよう、正確な医療情報を提供し続けることが重要である」と結論付けている。

(ケアネット 杉崎 真名)


【原著論文はこちら】

Kureyama N, et al. JMIR Form Res. 2023;7:e49452.

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

9月から保険収載、オンコタイプDXを乳がん治療でどう活用するか

提供元:CareNet.com

 「オンコタイプDX 乳がん再発スコアプログラム」が、9月1日付で保険収載された。これを受けて9月6日、エグザクトサイエンスは「患者さん一人ひとりが納得のいく治療法を~シェアードディシジョンメイキングの時代へ~」と題したプレスセミナーを開催。坂東 裕子氏(筑波大学医学医療系 乳腺内分泌外科)らが登壇し、乳がん治療におけるオンコタイプDXの位置付けやシェアードディシジョンメイキングの重要性について解説・議論が行われた。

化学療法を省略しうる患者とは? 再発スコア結果に基づく考え方

 オンコタイプDX検査によって算出される再発スコア結果(RS)は、早期乳がんにおける術後化学療法の要否の判断材料とすることができる。TAILORx試験とRxPONDER試験の最新結果を基に、リンパ節転移が3個までのHR陽性/HER2陰性早期乳がん患者の治療選択の考え方を坂東氏は以下のように整理した。
N0、RS 0~25
50歳超:内分泌療法は化学内分泌療法に対して非劣性1)
50歳以下:化学内分泌療法の効果はRSが16~25の41~50歳の患者、もしくは臨床リスクの高い患者に限定される1)
N1、RS 0~25
閉経後:化学内分泌療法から得られる効果はない2)
閉経前:化学内分泌療法による5年DRFI(無遠隔再発期間)の上乗せ効果は2.4%であった2)
N0/N1、RS 26~100
実質的に化学療法の効果があると考えられる2)
 RSが0~25の患者は、リンパ節転移の有無によらず80~87%を占めると報告されている3)。このことから坂東氏は「リンパ節転移が陽性だから化学療法をするのではなく、再発スコアをみたうえで化学療法の必要性を判断することで、多くの患者さんが不要な化学療法を省略することができる」と話した。

オンコタイプDX検査によりわかること・わからないこと

 坂東氏はまた、この検査でわかること・わからないことを以下のようにまとめている。
オンコタイプDX検査でわかること
リンパ節転移陰性もしくはリンパ節転移1~3個陽性のHR陽性/HER2陰性乳がんにおける
・内服ホルモン治療のみを5年間行なった場合の9年時点での再発のリスク
・点滴の化学療法を追加することによるメリット(再発リスクがどのくらい減少するか)
オンコタイプDX検査でわからないこと
・リンパ節転移4個以上、HER2陽性、トリプルネガティブの場合の再発率
・内服ホルモン治療を5年以上/卵巣機能抑制治療を併用した場合の再発率
・経口抗がん剤や分子標的治療を追加した場合の再発率やメリット

乳がんの遺伝子検査=BRCA遺伝子検査と考える人が多い

 エグザクトサイエンスが実施した乳がん患者対象のアンケート調査の結果、遺伝子検査でわかるのは「遺伝性乳がんの情報(79%)」、「がんの発症のリスク(63%)」とBRCA遺伝子検査を示唆する回答をした人が多く、「より自分に合った治療を選択できる(35%)」、「再発リスクがわかる(28%)」とオンコタイプDXを含む多遺伝子検査を示唆する回答は少なかった。坂東氏は、「なかには自分で調べてとても詳しい患者さんもいるが、そうでない人のほうが多い。パンフレットなどを用いながら、何がわかる検査なのかをしっかり説明することが重要」とし、そのうえで「再発リスクがどのくらいなら治療をしたいと思うかは人によって異なる。オンコタイプDXはリスクが数字ではっきりと提示されるものなので、これらのデータを使いながら、私たちは今まで以上に患者さんと話をすることが求められている」とした。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【参考文献・参考サイトはこちら】

1) Sparano J, et al. N Engl J Med. 2018;379:111-121.

2) Kalinsky K, et al. Cancer Res. 2021;81:GS3-00.

3) Bello DM, et al. Ann Surg Oncol. 2018;25:2884-2889.

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

がんサバイバーの心不全発症、医療者の知識不足も原因か/日本腫瘍循環器学会

提供元:CareNet.com

 9月30日(土)~10月1日(日)の2日間、神戸にて第6回日本腫瘍循環器学会学術集会が開催される(大会長:平田 健一氏[神戸大学大学院医学研究科 内科学講座 循環器内科学分野])。それに先立ち、大会長による学会の見どころ紹介のほか、実際にがんサバイバーで心不全を発症した女性がつらい胸の内を語った。

がん治療を始める前に、病歴にもっと目を向けてほしかった

 今回のメディアセミナーに患者代表として参加した女性は、10代で悪性リンパ腫の治療のために抗がん剤を使用。それから十数年以上経過した後に健康診断で乳がんを指摘されて乳房温存手術を受けたが、その後にリンパ節転移を認めたため、抗がん剤(計8コース)を行うことになったという。しかし、あと2コースを残し重症心不全を発症した。幸いにも植込み型補助人工心臓(VAD)の臨床試験に参加し、現在に至る。

 この女性は医療機関にかかる際には必ず病歴を申告していたそうだが、治療の際に医療者から“抗がん剤の種類によっては生涯使用できる薬剤量の上限があること”を知らされず、「後になって知った」と話した。今回、過去の治療量が反映されなかったことが原因で心不全を発症したそうだが「乳がん治療のための抗がん剤を始める際は、むくみや動悸については説明があったものの、抗がん剤が心臓に与える影響や病歴について何も触れられなかったことはとても残念だった。5コース目の際に看護師に頻脈を指摘されたがそれ以上のことはなかった。VADは命を救ってくれたが私の人生の救いにはまったくなっていない。日常生活では制約だらけでやりたいことは何もできない」と悔しさをにじませた。「生きるために選択した治療が生きる希望を失う状況を作り出してしまったことは悔しく、残念でならない」とする一方で、「医療者や医療が進歩することを期待している」と医療現場の発展を切に願った。

 これに対し小室氏は、医療界における腫瘍循環器の認知度の低さ、がん治療医と循環器医の連携不足が根本原因とし「彼女の訴えは、治療歴の影響を鑑みて別の抗がん剤治療の選択はなかったのか、心保護薬投与の要否を検討したのかなど、われわれにさまざまな問題を提起してくださった。患者さんががん治療を完遂できるよう研究を進めていきたい」とコメントした。

 前述の女性のような苦しみを抱える患者を産み出さないために、がん治療医にも循環器医にも治療歴の聴取もさることながら、心毒性に注意が必要な薬剤やその対処法を患者と共有しておくことも求められる。そのような情報のアップデートのためにも4年ぶりの現地開催となる本学術集会が診療科の垣根を越え、多くの医療者の意見交換の場となることを期待する。

さまざまな学会と協働し、問題解決に立ち向かう

 大会長の平田氏は「今年3月に発刊されたOnco-cardiologyガイドラインについて、今回のガイドラインセッションにて現状のエビデンスや今後の課題について各執筆者による解説が行われる。これに関し、2022年に発表されたESCのCardio-Oncology Guidelineの筆頭著者であるAlexander Lyon氏(英国・Royal Brompton Hospital)にもお越しいただき、循環器のさまざまなお話を伺う予定」と説明した。また、代表理事の小室 一成氏が本学会の注力している活動内容やその将来展望について代表理事講演で触れることについても説明した。

 主な見どころは以下のとおり。

<代表理事講演>
10月1日(日)13:00~13:30
「日本腫瘍循環器学会の課題と将来展望」
座長:南 博信氏(神戸大学内科学講座 腫瘍・血液内科学分野)
演者:小室 一成氏(東京大学大学院医学系研究科 循環器内科学)

<ガイドラインセッション>
9月30日(土)
14:00~15:30
座長:向井 幹夫氏(大阪国際がんセンター)
   南 博信氏(神戸大学内科学講座 腫瘍・血液内科学分野)
演者:矢野 真吾氏(東京慈恵会医科大学 腫瘍血液内科)
   山田 博胤氏(徳島大学 循環器内科)
   郡司 匡弘氏(東京慈恵会医科大学 腫瘍血液内科)
   澤木 正孝氏(愛知県がんセンター 乳腺科)
   赤澤 宏氏(東京大学 循環器内科)
   朝井 洋晶氏
   (邑楽館林医療企業団 公立館林厚生病院 医療部 内科兼血液・腫瘍内科)
   庄司 正昭氏
   (国立がん研究センター中央病院 総合内科・がん救急科・循環器内科)

15:40~17:10
座長:泉 知里氏(国立循環器病研究センター)
   佐瀬 一洋氏(順天堂大学大学院医学研究科 臨床薬理学)
演者:窓岩 清治氏(東京都済生会中央病院 臨床検査科)
   山内 寛彦氏(がん研有明病院 血液腫瘍科)
   田村 祐大氏(国際医療福祉大学 循環器内科)
   坂東 泰子氏(三重大学大学院医学系研究科 基礎系講座分子生理学分野)
   下村 昭彦氏(国立国際医療研究センター 乳腺・腫瘍内科)

<シンポジウム>
9月30日(土)9:00~10:30
「腫瘍と循環器疾患を繋ぐ鍵:clonal hematopoiesis」

10月1日(日)
9:00~10:30
「がん患者に起こる心血管イベントの予防と早期発見-チーム医療の役割-」/日本がんサポーティブケア学会共同企画
10:40~11:50
「腫瘍循環器をメジャーにするために」/広報委員会企画
13:40~15:10
「免疫チェックポイント阻害薬関連有害事象として心筋炎の最新の理解と対応」
15:20~16:50
「小児・AYAがんサバイバーにおいてがん治療後出現する晩期心毒性への対応」/AYAがんの医療と支援のあり方研究会共同企画
15:20~16:50
「第4期がんプロにおける腫瘍循環器学教育」/学術委員会企画

<Keynote Lecture>
9月30日(土)11:20~12:10
「Onco-cardiology and echocardiography (GLS)」
Speaker:Eun Kyoung Kim氏(Samsung Medical Center)

<ストロークオンコロジー特別企画シンポジウム>
10月1日(日)10:50~11:50
「がん合併脳卒中の治療をどうするか」

 このほか、教育セッションでは双方が学び合い、コミュニケーションをとっていくために必要な知識として、「腫瘍循環器学の基本(1)~循環器専門医からがん専門医へ~」「腫瘍循環器学の基本(2)~がん専門医から循環器専門医へ~」「肺がん治療の現状」「放射線治療と心血管障害」などの講演が行われる。

(ケアネット 土井 舞子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

第6回日本腫瘍循環器学会学術集会

日本臨床腫瘍学会・日本腫瘍循環器学会編集. Onco-cardiologyガイドライン. 南江堂;2023.

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

ER+/HER2-早期乳がんの細胞増殖抑制効果、giredestrant vs.アナストロゾール(coopERA BC)

提供元:CareNet.com

 エストロゲン受容体(ER)+、HER2-の早期乳がんの術前化学療法として、経口選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)のgiredestrantまたはアロマターゼ阻害薬のアナストロゾールを投与した第II相coopERA BC試験の結果、giredestrantはより有意な細胞増殖抑制効果を示し、忍容性は良好であったことを、米国・David Geffen School of MedicineのSara A. Hurvitz氏らが報告した。Lancet Oncology誌2023年9月号の報告。

 coopERA BC試験は、2週間のgiredestrant治療がアナストロゾールよりも強い細胞増殖抑制効果を示すかどうかを検証するためにデザインされた非盲検無作為化対照第II相試験。世界11ヵ国59ヵ所の病院または診療所で実施された。2021年の欧州臨床腫瘍学会で中間解析が報告され、今回は主要解析と最終解析が報告された。

 対象は、cT1c~cT4a-c、閉経後、ER+、HER2-、未治療の早期乳がんで、ECOG PS 0/1、Ki67≧5%の患者であった。参加者は、window of opportunity phaseとして1~14日目にgiredestrant 30mgを1日1回経口投与する群と、アナストロゾール1mgを1日1回経口投与する群に無作為に1対1に割り付けられた。層別化はTステージ、ベースライン時のKi67値、プロゲステロン受容体の状態によって行われた。その後、16週間の術前化学療法として、同じレジメンに加えてパルボシクリブ125mgが1日1回、28日サイクルの1~21日目に経口投与された。主要評価項目は、ベースラインから2週間(window of opportunity phase)のKi67値の変化率であった。

 主な結果は以下のとおり。

・2020年9月4日~2021年6月22日の間に221例の患者が、giredestrant+パルボシクリブ群(112例、年齢中央値62.0歳)とアナストロゾール+パルボシクリブ群(109例、62.0歳)に無作為に割り付けられた。うち194例(88%)は白人であった。
・主要解析(データカットオフ:2021年7月19日)において、Ki67値の平均変化率はgiredestrant群で-75%(95%信頼区間:-80~-70)、アナストロゾール群で-67%(-73~-59)であり、主要評価項目を達成した(p=0.043)。
・最終解析(データカットオフ:2021年11月24日)において、最も多かったGrade3/4の有害事象は好中球減少症(giredestrant+パルボシクリブ群26%[29例]、アナストロゾール+パルボシクリブ群27%[29例])と好中球数の減少(15%[17例]、15%[16例])であった。
・重篤な有害事象はgiredestrant+パルボシクリブ群で4%(5例)、アナストロゾール+パルボシクリブ群で2%(2例)に発現した。治療関連死はなかった。

 これらの結果より、研究グループは「giredestrantは有望な抗増殖・抗腫瘍活性を示し、単剤でもパルボシクリブとの併用でも忍容性は良好であった。この結果は、現在進行中の試験でさらなる検討を行うことを正当化するものである」とまとめた。

(ケアネット 森 幸子)


【原著論文はこちら】

Hurvitz SA, et al. Lancet Oncol. 2023;24:1029-1041.

【参考文献・参考サイトはこちら】

coopERA BC試験(ClinicalTrials.gov)

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)