ピロリ菌感染、がん治療には良い影響か~大幸研究

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 Helicobacter pylori(HP)感染は胃がんの原因と考えられているが、逆にHP陽性の進行胃がん患者の生存率がHP陰性患者よりも高いことがさまざまな国の研究で報告されている。また以前の研究から、HP感染により潜在的な抗腫瘍免疫が維持されることにより、生存期間が延長する可能性が示唆されている。今回、岩手医科大学医歯薬総合研究所の西塚 哲氏らが大幸研究コホートの前向き研究で、すべてのがんの発生率および死亡率を検討した結果、HP陽性者の全がん発生率は陰性者より有意に高かったが、全がん死亡率は同等だった。著者らは、HP感染によるがん診断後の死亡リスク低下の可能性を考察している。PLOS Global Public Health誌2023年2月8日号に掲載。

 本研究の参加者は、2008年6月~2010年5月に名古屋市在住で名古屋大学医学部保健学科(旧・大幸医療センター)に来院した35~69歳の4,982人。抗HP抗体の有無が、がん(胃がん、子宮がん、肺がん、前立腺がん、結腸がん、乳がんなど)の発生率と関連するかどうかを評価し、さらにHP感染が全がん死亡に及ぼす影響も評価した。

 主な結果は以下のとおり。

・1次登録の年齢中央値は53歳(範囲:35~69歳)で、8年間の観察期間中、がんが234例(4.7%)、全死亡が88例(1.8%)にみられた。
・HP陽性者は1,825人(37%)、HP陰性者3,156人(63%)であった。
・出生年が早いほどHP陽性割合が高かった。
・生年月日をマッチさせたコホート(3,376人)では、全がん発生率はHP陽性者がHP陰性者より有意に高かった(p=0.00328)が、全がん死亡率は両者に有意差はなかった(p=0.888)。
・予後因子に関するCox回帰分析の結果、HP陽性者の全がん発生率のハザード比はHP陰性者の1.59倍(95%信頼区間:1.17~2.26)だった。

 著者らは「本研究では、HP陽性者は陰性者よりがん発生率が高かったが、がん死亡率には差がなかったことから、HP陽性者においてがん診断後の死亡リスクが低下したことが示唆される。ほぼすべてのがん患者は最初の診断後に治療を受けることから、HP陽性者のほうが治療による効果が高い可能性がある。この結果は、HP感染ががん診断後の死亡リスクを低下させる可能性を示唆しているかもしれない」としている。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Nishizuka SS, et al. PLOS Glob Public Health. 2023;3:e0001125.

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初回化学療法反応後の維持療法としてのCDK4/6阻害薬の有用性/日本臨床腫瘍学会

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 切除不能または転移のある乳がん患者(MBC)患者に対する初回化学療法反応後の維持療法としての内分泌療法とCDK4/6阻害薬の併用療法が、有望な有効性と管理可能な安全性プロファイルを示したことを、大阪国際がんセンターの藤澤 文絵氏が第20回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2023)で発表した。

 MBC乳がんに対するベバシズマブ+パクリタキセル導入化学療法後の維持療法として、内分泌療法(+カペシタビンあるいはベバシズマブ併用)の有用性が国内多施設無作為化第II相試験(KBCSG-TR12141)、BOOSTER試験2))で報告されている。しかし、内分泌療法+CDK4/6阻害薬併用維持療法の有効性と安全性に関するデータは十分ではない。そこで、藤澤氏らはMBC患者における初回化学療法反応後の維持療法としての内分泌療法+CDK4/6阻害薬の安全性と有効性を調査した。

 本研究はパルボシクリブ(2017年12月)およびアベマシクリブ(2018年11月)が承認されてから2021年10月末までに、初回化学療法反応後の維持療法としてCDK4/6阻害薬が投与された症例を対象として、患者の背景、安全性、CDK4/6阻害薬の有効性を評価した。

 主な結果は以下のとおり。

・CDK4/6阻害薬を投与された179例のうち、初回化学療法の治療効果がSD以上を得られていた26例を対象に解析が行われた。そのうち、初回化学療法でCR/PR/長期SDを得られた状態を維持したまま内分泌療法+CDK4/6阻害薬に変更になったのは12例(安定中切替群)、腫瘍マーカーの上昇または画像検査による若干の病勢進行がみられた後に内分泌療法+CDK4/6阻害薬に変更になったのは14例(増悪傾向切替群)であった。
・安定中切替群と増悪傾向切替群の年齢中央値は65歳 vs.61.5歳、閉経後が10例 vs.7例、StageIVがそれぞれ5例、内臓転移あり9例 vs.13例であった。
・治療成功期間(TTF)中央値は、全患者で8.6ヵ月(95%信頼区間:3.7~29.9)、安定中切替群で22.1ヵ月(3.6~NA)、増悪傾向切替群で7.2ヵ月(2.5~12.6)であった。
・全生存期間(OS)中央値は、全患者で26.7ヵ月(17.8~NA)、安定中切替群で39.3ヵ月(17.8~NA)、増悪傾向切替群で18.3ヵ月(11.8~26.7)であった。
・安定傾向切替群と増悪傾向切替群でみられたGrade3/4の有害事象は、好中球減少6例(50.0%) vs.6例(42.9%)、下痢1例(8.3%) vs.0例、AST/ALT上昇1例(8.3%) vs.1例(7.4%)で、安全性プロファイルは以前の報告と同様であった。

 これらの結果より、藤澤氏は「MBC患者に対する初回化学療法反応後の維持療法としての内分泌療法とCDK4/6阻害薬の併用療法は有望な効果が示されたが、有用性を検証するにはさらに多くの症例と前向き臨床試験が必要である」とまとめた。

(ケアネット 森 幸子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

1)Masuda M, et al. Cancers. 2021;13:4399.

2)Saji S, et al. Lancet Oncol. 2022;23:636-649.

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CDK4/6阻害薬+内分泌療法、HER2低発現乳がんでの有効性/日本臨床腫瘍学会

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 HER2低発現とHER2ゼロの進行乳がん患者において、CDK4/6阻害薬および内分泌療法の効果を比較した結果、両群の無増悪生存期間(PFS)中央値や内分泌療法の治療成功期間(TTF)中央値に有意差はなかったことを、大阪市立総合医療センターの大森 怜於氏が、第20回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2023)で発表した。

 内分泌療法とCDK4/6阻害薬の併用は、ホルモン受容体陽性/HER2陰性の進行・再発乳がんの標準治療となっている。HER2低発現(IHC1+またはIHC2+/ISH-)は新たに注目されている分類だが、HER2低発現乳がんに対する研究はまだ限られている。そこで、HER2ゼロ群とHER2低発現群におけるCDK4/6阻害薬および内分泌療法の効果の比較を行った。

 本研究は、2017年12月~2022年5月にCDK4/6阻害薬を処方された進行乳がん患者の診療データを後方視的に解析するという手法で行われた。内分泌療法の前に化学療法を受けた患者、HER2スコアが不明な患者、初回の画像評価前にCDK4/6阻害薬を中止した患者は除外された。ログランク検定により、CDK4/6阻害薬と内分泌療法によるPFSとTTFの比較を行った。

 主な結果は以下のとおり。

・解析対象となった98例のうち、HER2ゼロが21例、HER2低発現が77例であった。
 -HER2ゼロ群:年齢中央値57歳、閉経後71%、過去の内分泌療法歴なし52%、内臓転移あり52%
 -HER2低発群:年齢中央値63歳、閉経後83%、過去の内分泌療法歴なし51%、内臓転移あり53%
・PFS中央値は、HER2ゼロ群28.9ヵ月(95%信頼区間:12.2~NA)、HER2低発群21.4ヵ月(14.9~31.0)で、有意な差はみられなかった(p=0.555)。
・前治療歴の有無別でもPFS中央値に有意差はみられず、前治療歴なしのHER2ゼロ群15.1ヵ月(7.8~NA)、HER2低発群31.0ヵ月(15.3~NA)であった(p=0.708)。前治療歴ありのHER2ゼロ群28.9ヵ月(2.1~NA)、HER2低発群15.4ヵ月(11.3~30.8)であった(p=0.26)。
・内分泌療法のTTF中央値は、HER2ゼロ群77.6ヵ月(21.6~NA)、HER2低発群41.4ヵ月(31.0~58.3)であり、HER2ゼロ群で長い傾向はあるものの有意差はみられなかった(p=0.192)。
・CDK4/6阻害薬を初回治療として処方されている患者の内分泌療法のTTF中央値は、HER2ゼロ群19.6ヵ月(7.8~NA)、HER2低発群31.0ヵ月(16.3~NA)であった(p=0.842)。2ライン目以降に処方されていた場合は、HER2ゼロ群で137ヵ月(21.6~NA)、HER2低発群(38例)で48ヵ月(34.0~70.4)であった(p=0.059)。
・CDK4/6阻害薬開始後の内分泌療法のTTF中央値は、HER2ゼロ群29.2ヵ月(12.9~NA)、HER2低発群28.7ヵ月(23.2~35.2)であった。

 これらの結果より、大森氏は「HER2ゼロ群とHER2低発現群において、CDK4/6阻害薬投与によるPFS中央値や内分泌療法のTTF中央値に差はみられなかった。しかし、TTF中央値はHER2低発現群で短い傾向にあり、さらなる研究が必要である」とまとめた。

(ケアネット 森 幸子)


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T-DXd、HER2低発現乳がんに適応拡大/第一三共

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 第一三共は2023年3月27日、HER2に対する抗体薬物複合体(ADC)トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd、商品名:エンハーツ)について、「化学療法歴のあるHER2低発現の手術不能又は再発乳癌」の効能又は効果に係る国内製造販売承認事項一部変更承認を取得したことを発表した。

 本適応は、2022年6月開催の米国臨床腫瘍学会(ASCO2022)で発表された、化学療法による前治療を受けたHER2低発現の乳がん患者を対象としたグローバル第III相試験(DESTINY-Breast04)の結果に基づくもので、2022年6月に国内製造販売承認事項一部変更承認申請を行い、優先審査品目に指定されていた。国内において初めてHER2低発現の乳がんを対象に承認された抗HER2療法となる。

 なお、ロシュ・ダイアグノスティックスは、がん組織または細胞中のHER2タンパク検出に用いる組織検査用腫瘍マーカーキット「ベンタナ ultraView パスウェーHER2 (4B5)」の一部変更承認を2023年3月3日に取得している。HER2低発現の乳がん患者を対象としたT-DXdのコンパニオン診断薬として使用することができる。

(ケアネット 森 幸子)


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HER2低発現乳がんへのT-DXd、アジア人集団でも有効性・安全性を確認(DESTINY-Breast04)/日本臨床腫瘍学会

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 化学療法歴を有するHER2低発現の切除不能または転移のある乳がん患者(MBC)に対して、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)と治験医師選択の化学療法(TPC)を比較した第III相DESTINY-Breast04試験のアジア人サブグループ解析において、T-DXd群では全体集団と同様にアジア人集団でも有意に無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)が延長し、管理可能な安全性プロファイルであったことを、昭和大学の鶴谷 純司氏が第20回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2023)で発表した。

 ASCO2022のプレナリーセッションで、HER2低発現のMBC患者に対するDESTINY-Breast04試験の結果が報告されており、T-DXd群ではTPC群と比較してPFSおよびOSを有意に延長し、安全性プロファイルも管理可能であったことが示された。一方、HER2陽性のMBC患者を対象としたDESTINY-Breast03試験のアジア人サブグループ解析では、アジア人においてもT-Dxdの有用性が示され安全性プロファイルも全体集団と一致していたものの、日本人集団においては全体集団およびアジア人集団と比較して薬剤性肺障害(ILD)の報告が多い傾向がみられていた。

[DESTINY-Breast04試験]
・対象:1~2ラインの化学療法歴があり、HER2低発現(IHCスコア1+またはIHCスコア2+かつISH-)のMBC患者557例(うちアジアの国または地域からの登録は213例[38%])。
・試験群(T-DXd群):T-DXdを3週間間隔で5.4mg/kg投与 373例
・対照群(TPC群):カペシタビン、エリブリン、ゲムシタビン、パクリタキセル、nab-パクリタキセルから選択 184例
・評価項目:
[主要評価項目]HR+患者の盲検下独立中央評価委員会(BICR)によるPFS
[副次評価項目]全患者のBICRによるPFS、HR+患者および全患者のOSなど

 今回のサブグループ解析における主な結果は以下のとおり。

・2022年1月11日までに557例が無作為化され、うち213例(38%)がアジアからの参加者であった(日本85例、中国62例、韓国57例、台湾9例)。
・アジア人集団における追跡期間中央値は、T-DXd群16.8ヵ月、TPC群15.4ヵ月であった(全体集団はそれぞれ16.1ヵ月、13.5ヵ月)。
・アジア人集団のベースライン時の患者特性は両群でバランスがとれていた(括弧内は全体集団)。
 -T-DXd群:年齢中央値56.6歳(57.5歳)、IHCスコア1+が61.2%(57.4%)、IHCスコア2+かつISH-が38.8%(42.6%)、HR+が87.1%(89.3%)、HR-が12.9%(10.7%)、中枢神経系転移あり10.2%(6.4%)、肝転移あり68.0%(71.3%)、肺転移あり36.1%(32.2%)
 -TPC群:年齢中央値55.3歳(55.9歳)、IHCスコア1+が57.6%(58.2%)、IHCスコア2+かつISH-が42.4%(41.8%)、HR+が91.0%(90.2%)、HR-が9.1%(9.8%)、中枢神経系転移あり4.5%(4.3%)、肝転移あり59.1%(66.8%)、肺転移あり36.4%(34.2%)
・主要評価項目であるHR+患者のPFS中央値は、アジア人集団ではT-Dxd群10.9ヵ月(95%信頼区間[CI]:8.4~14.7) vs.TPC群5.3ヵ月(4.2~6.8)、ハザード比[HR]:0.41(0.28~0.58)であった(全体集団では10.1ヵ月[9.5~11.5] vs.5.4ヵ月[4.4~7.1]、HR:0.51[0.40~0.64]、p<0.0001)。
・全患者(HR+およびHR-)のPFS中央値は、アジア人集団ではT-Dxd群10.9ヵ月(95%CI:9.0~13.8) vs.TPC群4.6ヵ月(2.8~6.4)、HR:0.38(0.27~0.53)であった(全体集団では9.9ヵ月(9.0~11.3) vs.5.1ヵ月[4.2~6.8]、HR:0.50[0.40~0.63]、p<0.0001)。
・HR+患者のOS中央値は、アジア人集団ではT-Dxd群NE(95%CI:20.8~NE) vs.TPC群19.9ヵ月(16.7~NE)、HR:0.69(0.42~1.11)であった(全体集団では23.9ヵ月[20.8~24.8] vs.17.5ヵ月[15.2~22.4]、HR:0.64[0.48~0.86]、p=0.0028)。
・全患者(HR+およびHR-)のOS中央値は、アジア人集団ではT-Dxd群NE(95%CI:21.7~NE) vs.TPC群19.9ヵ月(15.7~NE)、HR:0.61(0.39~0.95)であった(全体集団では23.4ヵ月[20.0~24.8] vs.16.8ヵ月[14.5~20.0]、HR:0.64[0.49~0.84]、p=0.0010)。
・T-Dxd群の治療中に発現したGrade3以上の有害事象は、全体集団で52.6%、アジア人集団で59.2%であった。アジア人集団で多かったものは、好中球減少症16.3%、貧血12.9%、白血球減少症11.6%などであった(全体集団ではそれぞれ13.7%、8.1%、6.5%)。
・T-Dxd群におけるILDは、全体集団で45例(12.1%)、アジア人集団で21例(14.3%)、日本人集団で15例(26.8%)報告された。アジア人集団においてはGrade4/5の報告はなく、日本人集団においてはGrade3以上の報告はなかった。

 これらの結果より、鶴谷氏は「HER2低発現の乳がん患者を対象としたDESTINY-Breast04試験のアジア人サブグループ解析において、全体集団と同様にT-DXd群ではTPC群と比較して臨床的に意義のあるPFSおよびOSの延長が認められた」としたうえで、安全性については「両群の安全性プロファイルも全体集団と一致していた。ILDはアジア人集団ではGrade4/5の報告はなかったものの、日本人集団では頻度が高い傾向にあり、注意深いモニタリングが必要」とまとめた。

(ケアネット 森 幸子)


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HER2+再発/転移乳がんへのT-DXd、予後予測に有望なバイオマーカー/日本臨床腫瘍学会

 トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)はHER2陽性再発/転移乳がんの2次治療以降に承認されているが、信頼できる予後予測バイオマーカーは十分に確立されていない。今回、T-DXdへの反応と予後を予測する血中炎症マーカーを探索すべく後ろ向きに調査した結果、全身免疫-炎症指数(SII)が全生存期間(OS)と有意に関連し、またリンパ球数(ALC)高値と血小板-リンパ球比(PLR)低値が臨床的有用性と関連する可能性が示された。国立がん研究センター中央病院の大西 舞氏が、第20回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2023)で発表した。

 本研究では、2020年3月~2022年8月に国立がん研究センター中央病院でT-DXdを投与されたHER2陽性再発/転移乳がん患者21例のカルテデータを後ろ向きにレビューした。T-DXd投与前の血液検査データを用いて、好中球-リンパ球比(NLR)、ALC、PLR、リンパ球-単球比(LMR)、単球-リンパ球比(MLR)、SIIを算出した。なお、NLR≧3、ALC≧1,500、PLR≧210、MLR≧0.34、SII≧836を高値とした。

 主な結果は以下のとおり。

・T-DXd投与開始時の年齢中央値は55歳(37~80歳)、追跡期間中央値は350日(69~1,126日)であった。
・エストロゲン受容体(ER)陽性が11例(52%)、ER陰性が10例(48%)とほぼ半数ずつで、内臓転移が20例(95%)、脳転移が8例(38%)に認められた。
・48%の患者が再発/転移乳がんへの5次治療以降に投与されていた。
・臨床的有用性が得られた患者は16例(75%)で、ALC高値(p=0.068)、PLR低値(p=0.0583)と関連する傾向がみられた。
・ALC高値のすべての患者(7例)で臨床的有用性が得られた。
・治療成功期間(TTF)については、ERの有無、脳転移の有無、治療ライン、各炎症マーカーにおける各サブグループ解析で有意差はみられなかった。
・OSは5次治療以降に投与された患者で悪い傾向がみられ、SII高値の患者では有意に悪かった。

 大西氏は、本研究の限界として、後ろ向き研究であり、症例数が少なく多変量解析ではないこと、HER2陽性再発/転移乳がんにおけるカットオフ値が検証されていないことを挙げ、「大規模集団での研究が必要」とした。

(ケアネット 金沢 浩子)


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複雑化する薬剤・治療を横断的に概説、『がん免疫療法ガイドライン』改訂/日本臨床腫瘍学会

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 がんに対する免疫を介在した治療方法(がん免疫療法)は、新しい薬剤の開発および臨床試験の蓄積により近年急速に発展している。CTLA-4やPD-1/PD-L1といった免疫チェックポイントを標的とした免疫チェックポイント阻害薬(ICI)ががん種横断的に承認されているほか、エフェクターT細胞療法や、複数のICIを組み合わせて使う併用療法、ICIと従来の抗がん剤、分子標的薬、血管新生阻害薬、放射線治療等とを組み合わせた治療法も続々と登場している。

 これらのがん免疫療法の基本と指針をまとめた『がん免疫療法ガイドライン』(日本臨床腫瘍学会編)が2023年3月に刊行された。2016年12月の初版、2019年3月の第2版に続く第3版となる。2023年3月16~18日に行われた第20回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2023)上では、二宮 貴一朗氏(岡山大学病院 ゲノム医療総合推進センター)が「第3版改訂のポイント/がん種横断的評価とステートメント」と題した講演で改訂ポイントを解説した。

 「ガイドライン委員会で2021年4月から改訂の議論をはじめ、30名を超える専門医のご協力により2年かけて刊行に至った。本版の特徴としては、新たな治療レジメンを踏まえ、有害事象及びその対処法の改訂を行ったこと、がん種別システマティックレビューを行い、がん種・臓器横断的な臨床疑問を設定し、ステートメントを提示したことだ。第2版にあったがん種別のエビデンスに対する推奨の提示は止め、『エビデンスの強さ』のみを提示することにした。これはがん種ごとに推奨される治療法やレジメンが多岐にわたり、かつ頻繁に改訂されており、臓器別ガイドラインと異なる推奨になることは臨床上望ましくないと判断したためだ」(二宮氏)。

 個別項目における主な改訂点は以下のとおり。

I がん免疫療法の分類と作用機序

・免疫チェックポイント阻害薬→新規薬剤である抗LAG-3抗体薬の解説を追加。
・エフェクターT細胞療法→造血器腫瘍分野で新たに承認されたCAR-T細胞療法に関する解説を改訂。
・複合免疫療法→項目を追加。免疫療法と従来の抗がん薬との組み合わせによる効果などを記載。

II 免疫チェックポイント阻害薬の副作用管理

 医師以外の医療者も読者対象に想定し、新たなエビデンスに基づいた解説に更新。最近注目されており、より重症化する傾向のあるサイトカイン放出症候群の項目を追加。

III がん免疫療法のがん種別エビデンス

 「がんワクチン」など否定的な見解が多い療法についてもシステマティックレビューによるエビデンスの確実性に基づいて解説。各療法の歴史などもあわせて解説。

Ⅳ がん免疫療法における背景疑問(Background Question:BQ)

 BQごとに、がん種によって異なる治療ラインやレジメンを解説。具体的なBQは下記のとおり。

BQ1:進行期悪性腫瘍に対して、免疫チェックポイント阻害薬単剤療法は有効か?
BQ2:進行期悪性腫瘍に対して、免疫チェックポイント阻害薬併用療法は有効か?
BQ3:進行期悪性腫瘍に対して、免疫チェックポイント阻害薬と他剤を併用した複合免疫療法は有効か?
BQ4:悪性腫瘍の根治術後の治療において、免疫チェックポイント阻害薬は有効か?
BQ5:免疫チェックポイント阻害薬の効果予測バイオマーカーとして、PD-L1検査は有用か?

 二宮氏は「他のガイドラインとは異なり、がん種横断的なアプローチを深く知ることのできる1冊となっている。治療や薬剤の増加に伴って多様化してきた有害事象にも紙幅を多く割いた。この分野は現在進行中の臨床試験も数多く、読者と共に情報をアップデートしていきたい」とした。

がん免疫療法ガイドライン』第3版(金原出版)
編集:日本臨床腫瘍学会
定価:3,300円
発行日:2023年3月20日
B5判・264頁・図数:29枚・カラー図数:5枚

(ケアネット 杉崎 真名)


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再発/転移乳がんへのHER3-DXd、HER2低発現/ゼロでの有効性と日本人での安全性~第I/II相試験サブ解析/日本臨床腫瘍学会

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 HER3は乳がんの30~50%に発現しており、HER3を標的とした抗体薬物複合体(ADC)のpatritumab deruxtecan(HER3-DXd)が開発されている。HER3陽性再発/転移乳がんに対する第I/II相U31402-A-J101試験において、本剤の有望な有効性と管理可能な安全性プロファイルを示したことはASCO2022で報告されている。今回、HER2ゼロ(IHC 0)とHER2低発現(IHC 1+、もしくはIHC 2+かつISH-)患者での探索的サブグループ解析と、日本人における安全性について、第20回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2023)で愛知県がんセンターの岩田 広治氏が発表した。

 本試験の対象は、HER3陽性の再発/転移乳がん(HR+/HER2-もしくはHR-/HER2-)182例。HER3-DXd(1.6、3.2、4.8、6.4、8.0mg/kg)を3週間ごとに静脈内投与し、dose expansion phaseでは4.8mg/kgまたは6.4mg/kgを投与した。有効性についてはHR(+/-)とHER2(低発現/ゼロ)によるサブグループ別に奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)などを評価し、安全性については実施国別(日本142例、米国40例)および用量別に解析した。

 今回のサブグループ解析における主な結果は以下のとおり。

・サブグループごとのORR、DOR中央値、PFS中央値(95%信頼区間)は以下のとおりで、多くの治療歴がある再発/転移乳がん患者に対して、HER2発現(低発現/ゼロ)にかかわらず有効性が示された。
<HR+>
 HER2低発現(58例):36.2%、7.2ヵ月、5.8ヵ月(4.1~8.5)
 HER2ゼロ(39例):28.2%、7.0ヵ月、8.2ヵ月(5.8~9.1)
<HR-> 
 HER2低発現(29例):20.7%、4.1ヵ月、4.4ヵ月(2.6~5.6)
 HER2ゼロ(19例):26.3%、8.4ヵ月、8.4ヵ月(3.9~13.9)
・有害事象は、間質性肺炎(ILD)が日本でのみ12例(8.5%)に認められた。Grade5が1例、それ以外の11例はGrade3以下だった。ILD以外の有害事象は日米で同様だった。

 これらの結果について、岩田氏は「これらのデータは、再発/転移乳がん治療のオプションとして、またHER2+およびHER2低発現乳がんに対する他のADCを含む新たな治療とのシーケンスアプローチにおいて、HER3-DXdのさらなる研究を支持する」とまとめた。

(ケアネット 金沢 浩子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

U31402-A-J101試験(Clinical Trials.gov)

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肺がん減少の一方で乳がん・前立腺がんは増加/全米がん統計

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 米国がん協会は、毎年米国における新たながんの罹患数と死亡数を推定して発表している。2023年の最新データがCA Cancer Journal for Clinicians誌2023年1/2月号に掲載された。発表されたデータによると、2023年に米国で新たにがんと診断される人は195万8,310人、がんによる死亡者は60万9,820人と予測されている。死亡者数が最も多いがん種は、男性は肺がん、前立腺がん、大腸がんの順で、女性は肺がん、乳がん、大腸がんの順であった。

 がん罹患率は、がんリスクに関連する行動パターンと、がんスクリーニング検査の使用などの医療行為の変化の両方を反映する。たとえば、1990年代初頭の前立腺がんの罹患率(人口10万人当たり)の急増は、それ以前に検査を受けていなかった男性の間で前立腺特異抗原(PSA)検査が急速に広まった結果、無症候性前立腺がんの検出が急増したことを反映している。その後、高齢男性に対するPSA検査が推奨されなくなったことから罹患数は20年間減少を続けていたが、2014~19年には再度増加に転じ、2023年には9万9,000人の新規罹患者が予測されている。また、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの接種推進によって20代前半の女性の子宮頸がん発症率は2012年から2019年にかけて65%低下した。

 全体としては、女性に比べて男性のほうが罹患率の傾向は良好だった。2015から2019年にかけての女性の肺がん罹患率の減少は男性の2分の1のペース(年1.1%対2.6%)であり、乳がんや子宮体がんの罹患率は増加を続けている。肝臓がんやメラノーマの罹患率は50歳以上の男性では安定、若年男性では減少した。結果として、性差は徐々に縮小し、がん全体の男女の罹患率比は1992年の1.59(95%信頼区間[CI]:1.57~1.61)から2019年には1.14(95%CI:1.14~1.15)まで低下した。ただし、この比率は年齢によって大きく異なり、20~49歳では女性が男性よりも約80%高い一方で、75歳以上では男性が約50%高かった。

 2020年からはCOVID-19感染流行があったにもかかわらず、また他の主要な死因とは対照的に、がん死亡率は2000年代には年1.5%、2015~20年には年2%と減少を続け、1991~2020年までに33%減少し、推定380万人の死亡が回避された。この進歩は喫煙の減少、乳がん・大腸がん・前立腺がん検査の普及、そして治療の進歩を反映したもので、とくに白血病、メラノーマ、腎臓がんの死亡率が急速に減少(2016~20年には年約2%)したことや、肺がんの死亡率減少が加速したことに表れている。すべてのがんを合わせた5年相対生存率は、1970年代半ばに診断された49%から2012~18年に診断された68%に増加した。しかし、死亡率における人種格差が最も大きい乳がん、前立腺がん、子宮体がんの罹患率上昇により、今後の減少の進展は弱まる可能性があるという。

(ケアネット 杉崎 真名)


【原著論文はこちら】

Siegel RL, et al. CA Cancer J Clin. 2023;73:17-48.

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リンパ節転移のないHER2+乳がん、術後PTX+トラスツズマブでの10年生存率/Lancet Oncol

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 リンパ節転移のないHER2陽性(HER2+)乳がんに対するパクリタキセル+トラスツズマブでの術後補助療法の長期アウトカムを調査した非盲検単群第II相試験の10年間の解析結果について、米国・Dana-Farber Cancer InstituteのSara M. Tolaney氏らがLancet Oncology誌2023年3月号で報告した。著者らはこの結果から、「腫瘍サイズが小さくリンパ節転移のないHER2+乳がんの術後補助療法の標準治療として、パクリタキセル+トラスツズマブが妥当である」としている。

 本試験は、米国13都市16施設から、腫瘍の大きさが3cm以下でリンパ節転移のない18歳以上のHER2+乳がんでPS 0~1の患者を対象とした。適格患者には、パクリタキセル(80mg/m2)+トラスツズマブ(負荷量4mg/kg、維持量2mg/kg)の静脈内投与を12週、その後トラスツズマブ(毎週2mg/kgもしくは3週ごとに6mg/kg)を40週投与した。主要評価項目は3年無浸潤疾患生存(iDFS)率で、今回はプロトコールで規定された治療を受けた患者すべてを対象とした10年生存率と、HER2DXゲノムツールを用いた探索的解析の結果を報告した。

 主な結果は以下のとおり。

・2007年10月29日~2010年9月3日に登録された410例中406例がパクリタキセル+トラスツズマブの術後補助療法を受けた。
・登録時の平均年齢は55歳(標準偏差:10.5)、406例中女性が405例(99.8%)、白人が350例(86.2%)、ホルモン受容体陽性が272例(67.0%)だった。
・追跡期間中央値10.8年(四分位範囲:7.1~11.4)で、解析集団406例においてiDFSイベントが31例に観察され、局所同側再発6例(19.4%)、新規の対側乳がん9例(29.0%)、遠隔再発6例(19.4%)、死亡10例(32.3%)であった。
・10年iDFS率は91.3%(95%信頼区間[CI]:88.3~94.4)、10年無再発率は96.3%(95%CI:94.3~98.3)、10年全生存率は94.3%(95%CI:91.8~96.8)、10年乳がん特異的生存率は98.8%(95%CI:97.6~100)であった。
・HER2DXリスクスコアは、iDFS率(10単位増加当たりのハザード比[HR]:1.24、95%CI:1.00~1.52、p=0.047) および無再発期間(HR:1.45、95%CI:1.09~1.93、p=0.011)と有意に関連していた。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Tolaney SM, et al. Lancet Oncol. 2023;24:273-285.

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