再発乳がんへのパルボシクリブ、実臨床での併用薬や次治療は?/日本癌治療学会

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 2017年の承認以来、CDK4/6阻害薬パルボシクリブはホルモン受容体陽性/HER2陰性の手術不能または再発乳がん治療に使用されているが、治療ラインや併用薬、次治療についてのデータは限定的となっている。澤木 正孝氏(愛知県がんセンター)らは、日本におけるパルボシクリブによる治療状況を明らかにするために、リアルワールドデータを用いた後ろ向き観察研究を行い、第59回日本癌治療学会学術集会(10月21~23日)で報告した。

 2017年12月から2021年2月までにMedical Data Vision(MDV)データベースでパルボシクリブが処方された患者の請求データが解析に用いられた。MDVデータベースには439病院(2021年4月時点)が参加しており、DPC病院全体の25%がカバーされている。

 治療成功期間(TTF)中央値は、カプランマイヤー法を使用して推定され、併用内分泌療法についてはパルボシクリブ開始から30日以内を開始日とする乳がん治療として定義された。

 主な結果は以下のとおり。

・MDVデータベースに含まれる乳がんの診断を受けた約44万例のうち、パルボシクリブが投与された1,074例が解析対象とされた。追跡期間中央値は15.9ヵ月。
・患者背景は年齢中央値が64(53~72)歳。女性が99.3%、閉経後が86.4%を占めた。チャールソン併存疾患指数の中央値は8、化学療法施行率は18.2%、術後内分泌療法施行率は52.0%で、45.7%は内分泌療法中あるいは内分泌療法開始1年以内の再発であった。
・パルボシクリブが使用された治療ラインについて、半年ごとに期間を区切って変化をみると、1次治療は22.7%(2017年12月~2018年6月)から42.6%(2020年7月~12月)に増加し、4次治療以降は29.3%(2017年12月~2018年6月)から10.2%(2020年7月~12月)に減少していた。
・併用内分泌療法はフルベストラントとレトロゾールが主に使用され、フルベストラントはLate lineになるほどその使用割合が増加していた。
1次治療(357例):フルベストラント(57.4%)、レトロゾール(34.5%)、エキセメスタン(2.2%)、アナストロゾール(1.7%)、タモキシフェン(0.6%)、トレミフェン(0.3%)、その他(3.4%)
2次治療(336例):フルベストラント(62.8%)、レトロゾール(23.5%)、エキセメスタン(5.1%)、アナストロゾール(3.9%)、タモキシフェン(0.3%)、トレミフェン(0.3%)、その他(4.2%)
3次治療(150例):フルベストラント(66.0%)、レトロゾール(20.0%)、エキセメスタン(6.0%)、アナストロゾール(4.0%)、タモキシフェン(1.3%)、その他(2.7%)
・TTF中央値は1次治療が12.0ヵ月(95%信頼区間[CI]:10.7~14.2)、2次治療が9.8ヵ月(95%CI:8.6~11.9)、3次治療が8.4ヵ月(95%CI:6.8~10.6)だった。
・初回投与量は125mgが82.0%を占め、うち63.5%で1回以上の減量が行われ、32.7%で75 mgまで減量が行われていた。
・パルボシクリブ投与後の次治療については、20~30%で内分泌療法+CDK4/6阻害薬が使用されており、化学療法はLate lineになるほどその使用割合が増加していた。
1次治療でのPAL投与後(194例):内分泌療法+CDK4/6阻害薬(29.4%)、化学療法単独(23.7%)、内分泌療法単独(17.0%)、内分泌療法+mTOR阻害薬(12.9%)、化学療法+ベバシズマブ(12.4%)、化学療法+内分泌療法(2.1%)、その他(2.6%)
2次治療でのPAL投与後(213例):内分泌療法+CDK4/6阻害薬(30.0%)、化学療法単独(29.1%)、内分泌療法+mTOR阻害薬(13.6%)、化学療法+ベバシズマブ(12.7%)、内分泌療法単独(8.9%)、化学療法+内分泌療法(3.8%)、その他(1.9%)
3次治療でのPAL投与後(93例):化学療法単独(35.5%)、内分泌療法+CDK4/6阻害薬(22.6%)、内分泌療法+mTOR阻害薬(15.1%)、内分泌療法単独(12.9%)、化学療法+ベバシズマブ(11.8%)、化学療法+内分泌療法(1.1%)、その他(1.1%)

 澤木氏は、PALOMA-2試験におけるPFS中央値(27.6ヵ月)1)と比較すると本結果におけるTTFは短いが、米国のリアルワールドデータと大きな差はみられないと考察。また、パルボシクリブによる治療後、一定の割合でCDK4/6阻害薬が使用されている点についても、米国でのリアルワールド研究2)において同様の傾向が報告されているとした。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【参考文献・参考サイトはこちら】

1)Rugo HS, et al. Breast Cancer Res Treat. 2019;174:719-729.

2)DeMichele A,et al. Breast Cancer Res. 2021 Mar 24;23:37.

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進むがん遺伝子パネル検査普及と見える課題/日本癌治療学会

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 1万8,329例中607例、8.1%。C-CATに登録されたわが国のがん遺伝子パネル累積検査数と、そこから治療に結び付いた症例数および割合である。

 2021年10月21~23日に開催された第59回日本癌治療学会学術集会のワークショップにおいて、わが国のがん遺伝子パネル検査の現状が発表された。大幅な検査の増加とともに、いくつかの課題が示されている。

検査数も治療に結びついた症例割合も増加

 東北大学の小峰 啓吾氏は、がんゲノム医療中核拠点病院における、がん遺伝子パネル検査の経時的な解析結果を発表した。

 調査は、がんゲノム医療中核拠点病でのがん遺伝子パネル検査を対象に行われ、2019年6月~2020年1月の第1期と、2020年2月~2021年1月の第2期に分けて分析された。

 がん遺伝子パネル検査数は、第1期754例、第2期では2,295例、と第2期で大きく増加した。また、検査から治療に結び付いた症例の割合も、第1期3.7%、第2期7.7%、と第2期で有意に増加した(p<0.001)。

 治療に結び付いた症例の治療内訳では治験がもっとも多く、割合は第1期で2.1%、第2期では4.7%と増加していた。また、治験登録数は治療に結びつく症例数と相関していた(R=0.72)。

 遺伝カウンセリングが推奨された割合についても、第1期2.4%、第2期では11.1%、と第2期で増加した(p<0.001)。

エキスパートパネルの課題はエビデンスレベルの低いケース

 東京大学の鹿毛 秀宣氏は、エキスパートパネルによる推奨治療の一致率に関する前向き調査の結果を発表した。

 調査では、模擬症例50例に対する、がんゲノム医療中核拠点病院から選出された中央委員会の推奨治療と、同病院のエキスパートパネルの推奨治療との一致率が比較された。模擬症例は中央委員会が作成したもの。

 結果、中央委員会とエキスパートパネルの推奨治療の一致率は全体で62%だった。施設ごとの一致率は48~86%で、施設差は大きかった。

 がん種ごとの一致率を見ると、一致率の高いがんは大腸がんの100%、低いがんは子宮頸がんの11%であった。

 遺伝子異常との一致率の関係を見ると、一致率の高いものはROS1融合遺伝子の100%、低いものはTP53の16%であった。

 エビデンスレベルの高さと一致率の見解を見ると、エビデンスレベルが高いほど一致率が高かった(A/R対C/D/E、オッズ比4.4)。上記の子宮頸がん、TP53遺伝子異常もエビデンスレベルは低い。

急がれる課題解決と下支えする医療者への対策

 検査数および治療到達率は経時的に向上している。わが国のがん患者数を考えると、今後さらに拡大していくと予想される。

 検査数の増加以上に重要なのは、治療に結びつく症例を増やすことである。それには、治験の情報共有と登録増加を促す必要がある。また、エビデンスレベルの低いケースに関する情報共有などエキスパートパネルのレベル均てん化も重要だ。

 ただ、こういった順調な経過のもとには、医療者の尽力があるようだ。今後のがん遺伝子パネル検査の増加を考えると、その点も十分な対策を打っていく必要があるだろう。

(ケアネット 細田 雅之)


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乳がん術後の放射線寡分割照射と通常分割照射の急性毒性を比較(HypoG-01)/ESMO2021

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 乳がん術後の放射線療法の照射回数と期間が照射後の安全性に与える影響を検討したHypoG-01試験の結果がフランス・Institut Gustave RoussyのSofia Rivera氏より、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2021)にて発表された。

 同試験はフランス国内で実施された多施設共同の非劣性検証第III相試験である。

・対象:領域リンパ節への放射線照射の対象となる手術後乳がん(リンパ節転移の有無と腫瘍径は問わず、遠隔転移ありは除外)
・試験群(寡分割照射法):総線量40Gyを15回に分割し3週間で放射線照射終了(寡分割群:633例)
・対照群(通常分割照射法):総線量50Gyを25回に分割し5週間で放射線照射終了(通常群:631例)
 両群とも主治医判断でブースト照射の追加は可能
・評価項目:腕のリンパ浮腫などを3年間追跡

 主な結果は以下のとおり。

・年齢中央値は58歳、T1が33%でT2が47%(腫瘍径中央値は27mm)であった。
・乳房切除術は47%、乳房部分切除術は53%、腋窩リンパ節郭清は82%に施行されていた。また、強度変調放射線照射(IMRT)は52%、リアルタイム 3D照射(RT3D)は48%であった。
・放射線照射後1ヵ月間の有害事象は、ほとんどがGrade1/2であった。
・主な事象の発現率は、皮膚炎が寡分割群80%対通常群89%、全身倦怠感は49%対54%、疼痛は42%対47%、嚥下障害は20%対23%、色素沈着は12%対13%、呼吸器障害は16%対22%などで、両群間に大きな差は見られなかった。
・Grade2以上の皮膚炎はBMI25以下の症例に比べ、BMI30を超える症例で多く見られ、寡分割群では29%、通常群48%であった。
・合計18例で重篤な有害事象が発現したが(寡分割群10例、通常群8例)、そのうち治療と関連ありと判断されたのは各群1例ずつであった。

 演者は「15回/3週間での寡分割照射の安全性に関する懸念は見いだされなかった。本試験の長期的な追跡調査も進行中であり、さらにほかの臨床試験データとのメタ解析も計画されている」と締めくくった。

(ケアネット)


【参考文献・参考サイトはこちら】

HypoG-01試験(clinicaltrials.gov)

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術後化療なしのTN乳がん患者、TILとPD-L1で予後を層別化可能/ESMO2021

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 早期トリプルネガティブ(TN)乳がんにおいて、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)とPD-L1を組み合わせると、術後補助化学療法を受けていないTN乳がん患者の予後を層別化できることが示された。間質TIL(sTIL)が30%以上かつPD-L1陰性の患者は予後が良好であり、補助化学療法を省略できる可能性がある。国立がん研究センター中央病院の矢崎 秀氏らは、補助化学療法を受けていない早期TN乳がん患者の予後と、TILとPD-L1、Tertiary lymphoid structures(TLS)の関連を検討した後ろ向き解析の結果を、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2021)で発表した。

 2001~15年に国立がん研究センター中央病院で術後補助化学療法を受けなかったStageI~IIIのTN乳がん患者を特定、sTIL、TLSおよびPD-L1発現状態を手術標本で評価した。sTILとTLSはそれぞれガイドラインと以前の研究に従って評価され、免疫細胞におけるPD-L1の発現状態は、VENTANASP142アッセイによって評価された。

 sTIL-highを≧30%、PD-L1陽性(+)をIC≧1と定義し、4つのグループに分類した:sTIL-high/PD-L1(+)、sTIL-high/PD-L1(+)、sTIL-high/PD-L1(-)、sTIL-high/PD-L1(-)。コックス比例ハザードモデルを使用して、sTIL、TLS、およびPD-L1の予後予測因子としての価値を検討した。

 主な結果は以下のとおり。

・125例が解析対象とされ年齢中央値は68(32~99)歳、69%がT1、85%がリンパ節転移陰性だった。
・sTILの中央値は10%(IQR:0~30)であり、35例(28%)はsTILが30%以上だった。
・36例(29%)がPD-L1陽性、63例(50%)がTLSを示した。
・sTIL-high/PD-L1(+)が28例(22.4%)、sTIL-low/PD-L1(+)が8例(6.4%)、sTIL-high/PD-L1(-)が7例(5.6%)、sTIL-low/PD-L1(-)が82例(65.6%)だった。
・多変量解析の結果、sTIL≧30%は無浸潤疾患生存(iDFS)率の改善と有意に関連し(HR: 0.19、95%信頼区間[CI]:0.059~0.62、p=0.006)、PD-L1陽性はiDFSの悪化と有意に関連していた(HR:3.39、95%CI:1.07~10.8、p=0.039)。一方で、TLSとiDFSの間に関連はみられなかった(HR:0.95、95%CI:0.31~2.91、p=0.93)。
・sTIL-high/PD-L1(-)の腫瘍の患者は最も予後が良好であり(5年iDFS率:100%)、sTIL-low/PD-L1(+)の腫瘍の患者は予後が最も悪かった(5年iDFS率:28.6%、95%CI:4.1~61.2)。
・sTIL-high/PD-L1(+)の腫瘍(5年iDFS率:80.7%、95%CI:56.3~92.3)およびsTIL-low/ PD-L1(-)の腫瘍(5年iDFS率:83.6%、95%CI:72.9~90.4)の患者は中等度の予後だった(p<0.001)。

 研究者らは、sTILとPD-L1はそれぞれ予後の改善と悪化に有意に関連しており、それらの組み合わせで、補助化学療法を受けていないTN乳がんの予後を層別化できるとまとめている。症例の5.6%を占めたsTIL-high/PD-L1(-)の早期TN乳がん患者では、補助化学療法なしで良好な予後を示していた。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


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高齢の進行乳がん、実臨床でのパルボシクリブ上乗せ効果は/ESMO2021

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 米国のリアルワールドデータから、高齢のホルモン受容体陽性HER2陰性(HR+/HER2-)進行乳がん(MBC)患者の1次治療で、パルボシクリブ+レトロゾールがレトロゾール単独に比べて無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)を有意に延長したことが示された。米国・UCSF Helen Diller Family Comprehensive Cancer CenterのHope S. Rugo氏が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2021)で発表した。

 HR+/HER2- MBCに対してはパルボシクリブ+内分泌療法が標準治療となっている。しかし、高齢患者を対象としてパルボシクリブ+内分泌療法と内分泌療法単独の効果を比較したデータは少ない。今回、Rugo氏らは、Flatiron Health(ニューヨーク市)の縦断的データベースを用いたMBC患者の後ろ向き解析を実施した。対象は、2015年2月~2018年9月にHR+/HER2- MBCと診断され、1次治療としてパルボシクリブ+レトロゾール(パルボシクリブ併用群)またはレトロゾール(単独群)による治療を開始した65歳以上の女性796例。治療開始から2018年12月または死亡または最終受診の早い時点まで評価した。PFSは、臨床評価またはX線スキャン/組織生検に基づき、パルボシクリブ+レトロゾールまたはレトロゾール単独による治療開始から死亡または病勢進行までの期間とした。安定化逆確率治療重み付けにより患者特性のバランスがとれた、パルボシクリブ併用群450例と単独群335例を比較した。

 主な結果は以下のとおり。

・両群とも年齢中央値は74.0歳、白人は71%だった。
・PFS中央値は、パルボシクリブ併用群が22.2ヵ月(95%信頼区間[CI]:20.0~30.4)で、単独群(15.8ヵ月、95%CI:12.9~18.9)より有意に長かった(ハザード比[HR]:0.59、95%CI:0.47~0.74、p<0.0001)。
・OS中央値は、パルボシクリブ併用群が未到達(NR)で、単独群(43.4ヵ月、95%CI:30.0~NR)より有意に長かった(HR:0.55、95%CI:0.42~0.72、p<0.0001)。
・これらの結果は、65~74歳と75歳以上に層別しても同様だった。
・腫瘍縮小における最良総合効果は、パルボシクリブ併用群が52.4%で、単独群(22.1%)より有意に高かった(オッズ比:2.0、95%CI:1.4~2.7、p<0.0001)。

 Rugo氏は「この結果は、PALOMA試験の高齢患者で示されたパルボシクリブ+レトロゾールの有効性を補足するもの」としている。

(ケアネット 金沢 浩子)


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NCT04176354(ClincalTrials.gov)

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乳がん1次治療でのパルボシクリブ、PPI併用でPFSが悪化/ESMO2021

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 パルボシクリブで治療された転移を有する乳がん(mBC)患者の後ろ向き観察研究により、プロトンポンプ阻害薬(PPI)を併用していた患者で無増悪生存期間(PFS)が有意に減少していたことがわかった。イタリア・Azienda Ospedaliera Universitaria Santa ChiaraのMarzia Del Re氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2021)で発表した。

 薬剤による上部消化管障害を軽減するため、がん患者ではPPIが広く使用されているが、薬物相互作用により抗がん剤の吸収が阻害され臨床アウトカムに影響を与える恐れがある。パルボシクリブはpH依存性の溶解性を持つ弱塩基の薬剤である。この観察研究では、1次治療でパルボシクリブを投与されたホルモン受容体陽性HER2陰性のmBC患者を後ろ向きに調査した。パルボシクリブ投与中にPPIが投与されていなかった場合は併用なし、パルボシクリブ治療期間の全体または3分の2以上でPPIが投与されていた場合は併用ありと定義した。

 主な結果は以下のとおり。

・合計112例が登録され、PPIの併用なしと併用ありの患者がそれぞれ56例だった。
・内分泌療法感受性の71例ではパルボシクリブ+レトロゾールが、内分泌療法抵抗性の41例ではパルボシクリブ+フルベストラントが投与されていた。
・投与されていたPPIは、ランソプラゾール(42例)、オメプラゾール(11例)、pantoprazole(2例)、エソメプラゾール(1例)だった。
・PPIを併用していた患者は、併用なしの患者と比べてPFSが短かった(14ヵ月vs.38ヵ月、p<0.0001)。
・多変量解析では、PPI併用がPFS短縮の唯一の独立した予測因子であることが確認された(p=0.0002)。
・PFSは、PPI併用なしの内分泌療法感受性mBC患者において、PPI併用患者やPPI併用有無にかかわらず内分泌療法抵抗性の患者と比べて、有意に長かった(p<0.0001)。

 この結果から、研究者らは「パルボシクリブ投与患者には注意してPPIを処方するか、H2受容体拮抗薬やPPIの投与期間を大幅に短くすることが推奨される」とした。

(ケアネット 金沢 浩子)


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HER2陽性早期乳がんへの術前トラスツズマブ+ラパチニブ併用、メタ解析で生存延長示す/ESMO2021

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 HER2陽性早期乳がんの術前補助療法としての化学療法とトラスツズマブ、ラパチニブの併用については、複数の試験で病理学的完全奏効(pCR)率の増加が確認されているが、生存に対する有効性については結果が一致していない。イタリア・パドヴァ大学のValentina Guarneri氏らは、同併用療法の生存に対するベネフィットについてメタ解析を実施し、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2021)で発表した。

 Guarneri氏らは、4つの無作為化比較試験(CHER-LOB、NSABP-B41、NeoALTTO、CALGB40601)から1,410例を本解析の対象とした。4試験の主な違いとしては、CHER-LOB、NSABP-B41試験では術前にアントラサイクリン系・タキサン系薬剤が使用されており、NeoALTTO、CALGB40601試験では術前にタキサン系、術後にアントラサイクリン系薬剤が使用された。またNeoALTTO試験のみ術後に試験時の薬剤が投与され、その他3試験ではトラスツズマブが投与された。
 全試験でトラスツズマブ+ラパチニブ併用群のpCR率の増加がみられたが、生存に関する評価項目の有意な改善がみられたのはCALGB40601試験のみだった。

 メタ解析の主な結果は以下のとおり。

・無再発生存期間(RFS)は、トラスツズマブ単独と比較してトラスツズマブ+ラパチニブ併用群で改善した(ハザード比[HR]:0.62、95%信頼区間[CI]0.46~0.85)。また全生存期間も併用群で改善がみられた(HR:0.65、95%CI:0.43~0.98)。
・組み合わせたすべての治療において、pCRを達成した患者は、手術時に残存病変を有する患者よりもRFS(HR:0.45、95%CI:0.34~0.60)およびOS(HR:0.32、95%CI:0.22~0.48)が良好だった。
・ホルモン受容体陰性の患者では、pCRは再発リスクの65%減少(HR:0.35、95%CI:0.23~0.53)および死亡リスクの73%減少(HR:0.27、95%CI:0.15~0.47)と関連していた。
・ホルモン受容体陽性の患者も、pCRを達成した患者はRFSが改善(HR:0.60、95%CI:0.37~0.97)したが、その効果はホルモン受容体陰性の患者よりも小さかった。

 Guarneri氏は、pCRが予後予測の強力なマーカーであることが確認され、この傾向はとくにホルモン受容体陰性の患者で強くみられるとした。さらにトラスツズマブ単独の場合と比較して、トラスツズマブ+ラパチニブの併用療法は生存に対するベネフィットを示し、pCRをサロゲートマーカーとして、ラパチニブの早期での使用を考慮すべきではないかとまとめている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【参考文献・参考サイトはこちら】

CHER-LOB試験(Clinical Trials.gov)
NSABP-B41試験(Clinical Trials.gov)
NeoALTTO試験(Clinical Trials.gov)
CALGB40601試験(Clinical Trials.gov)

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HR+/HER2+早期乳がん、de-escalateした術前補助療法に適した症例は?(ADAPT TP)/ESMO2021

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 ホルモン受容体陽性HER2陽性(HR+/HER2+)早期乳がんに対するT-DM1(トラスツズマブ エムタンシン)でのde-escalateした術前補助療法において、治療前の腫瘍免疫原性が高いほど病理学的奏効(pCR)率が高く予後良好なことが、ドイツ・West German Study Group(WSG)によるADAPT triple positive(TP)試験で示された。WSGのNadia Harbeck氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2021)で発表した。

 ADAPT TP試験はWSGによる第II相試験で、ADAPTアンブレラ試験の一部である。すでに主要評価項目であるpCR率はT-DM1投与群で40%を超え、副次評価項目の生存アウトカムも良好だったことが報告されている。今回は、もう1つの副次評価項目であるトランスレーショナルリサーチについて、治療前の生検で分析されたバイオマーカーにより検討された。

・対象:HR+/HER2+早期乳がん 375例
・試験群A:T-DM1(3週ごと)12週 119例
・試験群B:T-DM1(3週ごと)+内分泌療法12週 127例
・試験群C:トラスツズマブ(3週ごと)+内分泌療法12週 129例
術後または12週の生検後(pCRが得られない場合)は標準化学療法が推奨され、pCRが得られた場合は化学療法の省略が許容された。
・評価項目
[主要評価項目]pCR率(ypT0/is/ypN0)
[副次評価項目]安全性、5年無浸潤疾患生存(iDFS)率、5年全生存率、トランスレーショナルリサーチ

 早期奏効は、3週時点の生検でKi67が治療前の30%以上減少または低細胞密度(腫瘍細胞数が500個未満)の場合とした。腫瘍浸潤リンパ球とIHCの免疫マーカー(CD8、PD1、PDL1)、PIK3CA変異の有無、遺伝子(RNA)発現を治療前の検体で評価した。

 主な結果は以下のとおり。

・治療前におけるCD8発現やPD-L1発現が良好なpCRと関連し、また、良好なiDFSとより強い関連がみられた。iDFSのハザード比(HR)は、CD8A発現で0.61(95%信頼区間[CI]:0.36~1.01)、CD8 mRNA発現で0.66(95%CI:0.47~0.92)、免疫細胞PD-L1発現で0.32(95%CI:0.10~1.07)だった。
・PIK3CA変異は16.32%に認められ、pCR率および5年iDFS率の低下と関連していた。すべての患者で予後が悪化したが、とくにT-DM1投与患者では5年iDFS率に22%の差があった(野生型90.2%、変異型68.4%、p=0.007)。
・本試験における分子サブタイプは、luminal Aタイプが55.9%、luminal Bタイプが22.69%、HER2-enrichedタイプが21.3%、basal-likeタイプが0.93%であった。pCR率はHER2-enrichedタイプが最も高かったが、5年iDFS率はluminal Aタイプが89.8%と最も高く、HER2-enrichedタイプは80.9%と低かった。

 Harbeck氏は、「HR+/HER2+早期乳がんにおいて、治療前における腫瘍免疫原性はde-escalateした術前補助治療後の高いpCR率と予後良好に関連していた。PIK3CA変異がある患者は、T-DM1を投与し術後に化学療法とトラスツズマブを投与しても予後不良であった。luminal Aタイプの患者は、HER2標的治療後にpCR率が低くても最も予後が良好だった」と結果をまとめ、「今後のde-escalation戦略については、luminal AタイプではpCR率と生存率、HER2-enrichedタイプではpCRによるアプローチが有望」とした。

(ケアネット 金沢 浩子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

ADAPT試験(Clinical Trials.gov)

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先生の大切な人に知らせませんか、乳がん啓発のクラウドファンディング開始

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 YouTubeを中心に、ブレスト・アウェアネスや乳がんに関する情報発信を行っている一般社団法人BC Tubeが、「あなたの手紙で、大切な人にもブレスト・アウェアネスを」と題したクラウドファンディングのプロジェクトを開始させた。プロジェクトを通して、参加者が大切な人への手紙を送ることで、“手紙を受け取った人が自分の健康へ目を向けるきっかけをつくる”ことを目指している。

 一般社団法人BC Tubeは、有志の乳腺科医が集まり、乳がんに関する理解しやすい適切な医療情報を広めることで、人々の乳がんに関する意識を高め、人々の健康と福祉に寄与することを目的として、2020年11月に設立。症状や検査、治療法等についての解説動画をYouTubeに投稿している。

 今回のプロジェクトでは支援者への返礼品として、
・「大切な人に送るための手紙とブレスト・アウェアネスカード」
もしくは
・医療機関、企業、団体等で使用可能な「ブレスト・アウェアネスに関するリーフレットやこれまでのBC Tube動画をまとめたDVD」
が送付される予定。

 このプロジェクトの背景には、いかにして“無関心層”へブレスト・アウェアネスや乳がんのことを知ってもらうかという課題認識があり、多くの人にとって関心の乏しい情報は心に響きにくい一方で、身近な人から言われた一言には、その人の行動を変える大きな力を持つのではないかという想いがある。

 プロジェクトで集まった資金はブレスト・アウェアネスをさらに広めるための活動に活用される予定で、下記の到達目標がそれぞれ設定されている。
1stゴール(100万円達成):リーフレット・DVD作成費用、全国の医療機関にリーフレット・DVD配布費用など
2ndゴール(300万円達成):全国の公共施設にリーフレット・DVD配布費用など
3rdゴール(500万円達成):BC Tubeの継続的な活動費、教育資材作成費(医療従事者向け・教諭向け・小中高生向け)など

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【参考文献・参考サイトはこちら】

「あなたの手紙で、大切な人にもブレスト・アウェアネスを」

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新規の抗HER2抗体薬物複合体、複数の治療歴のあるHER2+乳がんのPFSを延長(TULIP)/ESMO2021

提供元:CareNet.com

 複数の治療歴のある転移を有するHER2陽性乳がんに対し、新規の抗HER2抗体薬物複合体(ADC)であるtrastuzumab-duocarmazine (SYD985)は、従来の標準治療に比較し、有意に無増悪生存期間(PFS)を延長することが示唆された。これは国際共同第III相比較試験であるTULIP試験の結果で、スペイン・Hospital Universitari Vall d’HebronのCristina Saura Manich氏より、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2021)で発表された。SYD985はトラスツズマブにアルキル化剤であるduocarmazineを結合したADC薬である。

・対象:T-DM1または2レジメン以上の抗HER2の治療歴のあるHER2陽性の局所進行または転移を有する症例 437例
・試験群:SYD985(1.2mg/kg)を3週ごとに投与(SYD群 291例)
・対照群:主治医の選択治療(PC群 146例)
治療レジメンはラパチニブ+カペシタビン、トラスツズマブ+カペシタビン、トラスツズマブ+ビノレルビン、トラスツズマブ+エリブリンから選択
・評価項目
[主要評価項目]中央判定によるPFS
[副次評価項目]主治医評価による無イベント生存期間(EFS)と全生存期間(OS)、奏効率、QOL

 主な結果は以下のとおり。

・症例の前治療ライン数の中央値はSYD群が4、PC群が5であった。内訳は、86~89%がトラスツズマブかT-DM1、58~61%がペルツズマブ、1~7%がtucatinib、margetuximab、T-DXdであった。
・年齢中央値はSYD投与群が56歳、PC群は58歳であった。
・中央判定によるPFS中央値は、SYD群が7.0ヵ月、PC群が4.9ヵ月で、ハザード比(HR)は0.64(95%信頼区間[CI]:0.49~0.84)、p=0.002と統計学的に有意であった。
・主治医判定によるPFS中央値は、SYD群が6.9ヵ月、PC群が4.6ヵ月で、HRは0.60(95%CI:0.47~0.74)、p<0.001であった。
・初回中間解析でのOS中央値は、SYD群が20.4ヵ月、PC群が16.3ヵ月、HRは0.83(95%CI:0.62~1.09)、p=0.153であった。
・奏効率はSYD群27.8%、PC群29.5%と、両群間に有意な差はなかった。
・頻度の高い治療関連有害事象は、SYD群では結膜炎(全Grade:38.2%、Grade3以上:5.6%)、角膜炎(全Grade:38.2%、Grade3以上:12.2%)であった。PC群では、下痢(全Grade:35.8%、Grade3以上:2.2%)、好中球減少(全Grade:24.1%、Grade3以上:18.2%)であった。
・さらに、SYD群で間質性肺炎/肺臓炎が7.6%(Grade3以上:2.4%)に認められた。間質性肺炎/肺臓炎により治療中止となったのは5.2%、減量が行われたのは2.1%の症例であった。

 最後に演者は「SYD985は、複数の治療歴のある転移を有するHER2陽性乳がんに対する新しい治療オプションとなり得る」と結んだ。

(ケアネット)


【参考文献・参考サイトはこちら】

TULIP試験(ClinicalTrials.gov)

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