転移乳がんへの局所療法はescalationなのか?/日本癌治療学会

提供元:CareNet.com

 転移乳がんに対する積極的な局所療法の追加は、がんが治癒しなくても薬剤使用量を減らすことができればescalationではなくde-escalationかもしれない。第60回日本癌治療学会学術集会(10月20~22日)において、岡山大学の枝園 忠彦氏は「転移乳がんに対する局所療法はescalationかde-escalationか?」と題した講演で、3つのクリニカルクエスチョンについて前向き試験の結果を検証し、転移乳がんにおける局所療法の意義について考察した。

 転移乳がんにおいて治癒は難しいが、ある特定の患者ではきわめて長期生存する可能性があり、近年そのような症例が増えてきているという。枝園氏はその背景として、PETなどの画像検査の進歩により術後早期に微小転移の描出が可能となったこと、薬物療法が目まぐるしく進歩していること、麻酔や手術が低侵襲で安全になってきていること、SBRT(体幹部定位放射線治療)が保険適用され根治照射が可能になったことを挙げた。この状況の下、3つのクリニカルクエスチョン(CQ)について考察した。

CQ1 転移乳がんに対する局所療法は生存期間を延長するか?(escalationとしての局所療法の意義)
 de novo StageIV乳がんに対して原発巣切除を行うかどうかは、すでに4つの臨床試験(ECOG2018、India、MF07-01、POSITIVE)でいずれも生存期間を延長しないことが明らかになっており、現時点でescalationとして原発巣切除をする意義はないと考えられると枝園氏は述べた。なお、一連の臨床試験の最後となるJCOG1017試験は、今年8月に追跡期間が終了し、現在主たる解析中で来年結果を報告予定という。

 一方、オリゴ転移に対する局所療法の効果については、杏林大学の井本 滋氏らによるアジアでの後ろ向き研究において、局所療法を加えた症例、単発病変症例、無病生存期間が長い症例で予後が良いことが示されている。前向き試験も世界で実施されている。SABR-COMET試験はオリゴ転移(5個以下)に対する積極的な放射線療法を検討した試験で、SBRT群が通常の放射線療法に比べ、無増悪生存期間だけでなく全生存期間の延長も認められた。ただし、本試験には乳がん症例は15~20%しか含まれていない。

 それに対し、乳がんのオリゴ転移(4個以下)に対するSBRTの効果を検討したNRG-BR002試験では、SBRTによる有意な予後の延長は認められなかった。しかしながら、本試験で薬物療法がしっかりなされているのか疑わしく、また転移検索でPET検査を実施していないため転移が本当に4個以下だったのか曖昧であることから、この試験結果によって「オリゴ転移に対する局所療法は有効ではない」という結論にはなっていないという。

 国内でも、枝園氏らがオリゴ転移(3個以下)を有する進行乳がんに対する根治的局所療法追加の意義を検証するランダム化比較試験(JCOG2110)の計画書を作成中で、年末もしくは来年早々に登録を開始予定である。

CQ2 転移乳がんに対する局所療法は局所の状態を改善するか?(escalationとしての局所療法の意義)
 このCQに関するデータとしては、de-novo StageIV乳がんに対する原発巣切除のデータしかないが、局所コントロールは手術ありで非常に良好で、手術なしに比べて局所の悪化を半分以下に抑えている。また、先進国であるECOGの試験では、手術なしでも4分の3は局所が悪化しておらず、枝園氏は、全例に対して局所コントロールの目的で手術が必要というわけではないとしている。手術ありのほうが術創の影響などで18ヵ月後にQOLスコアが悪化したという試験結果もある。

CQ3 転移乳がんは治癒するか?(de-escalationとしての局所療法の意義)
 枝園氏は、転移乳がんが局所切除によって本当に治癒するのであれば、薬物療法を中止できることからde-escalationなのではないかと述べ、自身が経験したホルモン陰性HER2陽性StageIV乳がんの52歳の女性の経過を紹介した。本症例ではトラスツズマブの投与で転移巣が完全奏効(CR)し、原発巣の残存病変については切除した。その後トラスツズマブを継続し、再燃がみられないため中止、そのまま無治療で8年間再燃していないことから、この手術はde-escalationとなったのではないかと考察している。

 また、転移乳がんに対する薬物療法の効果はサブタイプによって大きく異なり、たとえば1次治療におけるCR率はHER2陽性では28%、ER陽性ではわずか2%である。薬物療法だけでCRを達成できるなら局所療法は不要であり、それらを見極めたうえで局所療法をうまく使わないといけないと枝園氏は述べた。

 さらに、CRを達成したら薬物を中止できるのかという問いに関して、枝園氏は、データとして出すことはできないが、HER2陽性転移乳がんに1次治療としてトラスツズマブを投与しCRを達成した患者において、投与中止患者の80%が10年以上生存していたとのJCOGの多施設後ろ向き研究のデータを提示した。

 最後に、枝園氏は3つのCQを総括したうえで「それぞれのescalation、de-escalationで良し悪しがあり、もう少しデータが必要ではないか」と述べ、講演を終えた。

(ケアネット 金沢 浩子)


掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

センチネルリンパ節転移乳がん、ALNDとRNIの必要性についての検討/日本癌治療学会

提供元:CareNet.com

 センチネルリンパ節転移陽性乳がんにおいて、腋窩リンパ節郭清(ALND)や領域リンパ節照射(RNI)がどのような症例で必要となるのかについては議論がある。Sentinel Node Navigation Surgery研究会では、センチネルリンパ節転移陽性例において、センチネルリンパ節生検(SNB)単独群とSNB後の腋窩リンパ節郭清(ALND)群を比較する多施設共同前向きコホート研究を実施。井本 滋氏(杏林大学)が、第60回日本癌治療学会学術集会(10月20~22日)で結果を報告した。

 本研究では、cT1-3N0-1M0の女性乳がん患者を対象とし、組織学的または分子生物学的診断で1~3個のセンチネルリンパ節微小転移またはマクロ転移陽性が確認された場合に、医師の裁量でSNB単独またはALNDの追加を決定した。SNB前後の化学療法は可とし、両側および遊離腫瘍細胞(ITC)の症例は除外された。

 主要評価項目はSNB群における5年局所再発率、副次評価項目は5年全生存率(OS)。SNB群とALND群を比較するために、傾向スコアマッチング(PSM)が行われた。

 主な結果は以下のとおり。

・2013~16年に国内27施設から888例が登録された。871例の適格例のうち、SNB群が308例、ALND群が563例だった。
・臨床病理学的背景について、センチネルリンパ節マッピングは色素が約9割/アイソトープが約7割、OSNAが2~6%程度使われており、浸潤性乳管がん(IDC)が約9割、術前/術後化学療法はALND群でやや多い傾向がみられた。内分泌療法が両群で約8割と比較的多く実施されていた。
・観察期間中央値6.3年でのSNB群における5年局所再発率は2.7%(95%信頼区間[CI]:1.4~5.4%)、5年OSは97.6%(95%CI:94.9~98.8%)だった。
・初回治療、転移巣のサイズ、臨床病期、手術の種類、リンパ節転移数について両群間で差がみられ、これらの因子について調整してPSMが行われた。
・PSMの結果、SNB群とALND群で209例ずつがマッチングされた。そのうち343例(82%)が初回治療として手術を受けていた。温存術が225例(54%)、全切除が193例(46%)で施行されていた。
・センチネルリンパ節転移の数は1個が366例(88%)を占め、2個が48例(11%)、3個が4例(1%)だった。マクロ転移と微小転移はそれぞれ271例(65%)と147例(35%)で診断された。
・376例(90%)がLuminalタイプで、領域リンパ節照射(RNI)はSNB群42例(20%)、ALND群13例(6%)で施行されていた。
・5年局所再発率はSNB群で2.1%(95%CI:0.8~5.3%)、ALND群で2.0%(95%CI:0.8~5.5%)だった。
・5年局所再発率はALNDあり/ALNDなしおよびRNIあり/RNIなしで差はみられなかった。

 井本氏は本結果より、センチネルリンパ節1個転移症例での腋窩治療はSNBのみで問題がないであろうとまとめた。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

HER2低発現乳がんに対するNACの効果/日本癌治療学会

提供元:CareNet.com

 乳がんのHER2発現は免疫染色法で0~3+に分類され、0、1+、2+で遺伝子増幅がない場合はHER2陰性として治療方針が決定されるが、近年、HER2低発現例は術前化学療法(NAC)の有効性からHER2非発現例とは異なるグループであることが示唆されている。甲南医療センター乳腺外科(前兵庫県立がんセンター)の高尾 信太郎氏は、HER2低発現乳がんとHER2非発現乳がんにおけるNAC施行後の有効性と予後の違いを比較検討し、第60回日本癌治療学会学術集会(10月20~22日)で発表した。

 高尾氏らは、2002年7月~2021年7月に、兵庫県立がんセンターでNAC施行後に手術を受けた乳がん患者530例を、免疫染色法およびFISH法で、HER2非発現群(IHC0)、HER2低発現群(IHC1+またはIHC2+でFISH-)、HER2陽性群(IHC3+または2でFISH+)の3群に分け、そのうちHER2非発現群とHER2低発現群の特徴、NACの有効性、5-FU系経口抗がん剤による術後化学療法の有効性を後方視的に検討した。

 主な結果は以下のとおり。

・530例中、HER2非発現群が114例(21.5%)、HER2低発現群が228例(43.0%)であった。
・ホルモン受容体陽性(HR+)は、HER2非発現群で61例(53.5%)、HER2低発現群で167例(73.2%)であった(p=0.000418)。
・腫瘍径、リンパ節転移、組織系分布、手術方法は両群で差はみられなかった。
・NACの有効性:
 -全奏効率(ORR):HER2非発現群85.1%、HER2低発現群84.2%、p=0.958
 -臨床的完全奏功(cCR)率:HER2非発現群24.6%、HER2低発現群14.0%、p=0.0237
 -病理学的完全奏効(pCR)率:HER2非発現群23.7%、HER2低発現群10.1%(p<0.01)
 -HR+/-にかかわらず、ORRは両群で同等であったが、cCRおよびpCRはHER2非発現群よりもHER2低発現群で低い傾向にあった。
・ログランク検定の結果、無病生存期間(DFS)および全生存期間(OS)は両群で有意差はみられなかった(それぞれp=0.593、p=0.168)。HR+/-にかかわらず同様の結果であった。
・pCRを達成した群では、non-pCR群に比べてDFS、OSが良好であった。HER2非発現群、HER2低発現群の両群で同様の結果であった。
・non-pCRであった292例中62例(HER2非発現群16例、HER2低発現群46例)が5-FU系経口抗がん剤による術後化学療法を施行したが、両群ともに有意なDFSおよびOSの改善はみられなかった(それぞれp=0.723、p=0.938)。
・NAC後non-pCR症例のうち、同一症例でNAC前後にHER2発現を調べた146例において、HER2発現の不一致率は26.0%であった。NAC前はHER2非発現でNAC後にHER2低発現に変化したのは40.0%、NAC前後でHER2低発現を維持したのは80.2%であった。この傾向はHR+で顕著であった。
・NAC前はHER2非発現でNAC後にHER2低発現に変化した群、およびNAC前後でHER2低発現を維持した群ではDFSが良好な傾向を示した(それぞれp=0.125、p=0.205)。
・NAC前後のDFSおよびOSは、NAC前においてはHER2非発現群とHER2低発現群に差はみられなかったが(それぞれp=0.1469、p=0.260)、NAC後においてはHER2非発現群よりもHER2低発現群のほうが有意に良好であった(それぞれp=0.0114、p=0.00344)。

 高尾氏は、「NAC前ではHER2非発現群とHER2低発現群で予後に差はなかったが、NAC後non-pCR症例にHER2発現を再検討した結果、両群に明らかな予後の差がみられた。これはNAC後のnon-pCR症例の治療方針を考えるうえで非常に重要な所見であり、さらに詳しい解析を行いたい」と述べた。

(ケアネット 森 幸子)


掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

HER2低発現とHER2陰性乳がん、予後に違いはあるか?

提供元:CareNet.com

 HER2低発現(ERBB2-low)乳がんについて、HER2陰性(ERBB2-0)乳がんと比較してその予後や従来の治療法への反応にどのような違いがあるかはほとんどわかっていない。フランス・Institut de Cancerologie de l’OuestのOmbline de Calbiac氏らは、両者の転帰を比較することを目的にコホート研究を行い、JAMA Network Open誌2022年9月15日号に報告した。

 本研究では、2008~16年にフランスの18の総合がんセンターで治療を受けた転移乳がん(MBC)患者を対象とし、データ解析は2020年7月16日~2022年4月1日に実施された。主要評価項目はHER2低発現(IHCスコアが1+もしくは2+でISH陰性)およびHER2陰性(IHCスコア0)の患者における全生存期間(OS)、副次評価項目は一次治療下での無増悪生存期間(PFS1)とされた。

 主な結果は以下のとおり。

・解析対象とされたMBC患者1万5,054例のうち、4,671例(31%)はHER2低発現、1万383例(69%)はHER2陰性だった。
・年齢中央値は60.0(22.0~103.0)歳。
・ホルモン受容体陽性患者(1万2,271例)のうち4,083例(33.0%)がHER2低発現だったのに対し、トリプルネガティブ乳がん患者(2,783例)では588例(21.0%)だった。
・追跡期間中央値49.5ヵ月におけるOS中央値は、HER2低発現群38.0ヵ月(95%信頼区間[CI]:36.4~40.5ヵ月)vs.HER2陰性群33.9ヵ月(95%CI:32.9~34.9ヵ月)だった(p<0.001)。
・年齢、内臓転移、転移部位の数、de novo疾患、治療期間、およびホルモン受容体の状態で調整後、HER2低発現群では、HER2陰性群と比較してOSがわずかに良好だった(調整ハザード比[HR]:0.95、95%CI:0.91~0.99、p=0.02)。
・一方、PFS1はHER2の発現状態によって違いはみられなかった(調整HR:0.99、95% CI:0.95~1.02、p=0.45)。
・ホルモン受容体の状態と一次治療の種類による多変量解析では、OSとPFS1に有意差はみられなかった。

 著者らは、HER2低発現MBC患者ではHER2陰性MBC患者と比較してOSがわずかに良好だったが、PFS1に差はみられなかったとし、治療選択の助けとなる可能性があるとまとめている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【原著論文はこちら】

de Calbiac O, et al. JAMA Netw Open. 2022;5:e2231170.

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

高齢乳がんサバイバー、CRP高値が認知機能障害に関連/JCO

提供元:CareNet.com

 高齢の乳がんサバイバーと非がん対照者のC反応性蛋白(CRP)値とその後の認知機能を調査した大規模前向き全国コホート研究の結果、サバイバーは対照群と比べて長期にわたりCRPが高く、CRPが高かったサバイバーは認知機能障害を発症する可能性が高かった。米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のJudith E. Carroll氏らが、Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2022年9月30日号で報告した。

 本研究は、2010年9月~2020年3月、60歳以上で乳がん(Stage0~III)と診断された女性と、がんではない対照者を登録した(認知症、神経障害、他のがんを有する女性は除外)。評価は全身療法前(対照群では登録前)および年1回の来院時に行い、60ヵ月まで追跡した。認知機能は、Functional Assessment of Cancer Therapy-Cognitive Function(FACT-Cog)および神経心理学的検査を用いて測定した。各訪問時におけるCRPを自然対数(ln-CRP)に変換し、サバイバーと対照者の差を混合線形効果モデルで検定した。その後の認知機能に対するln-CRPの方向性効果をランダム効果-遅延変動モデルで検証した。すべてのモデルで年齢、人種、研究施設、認知予備能、肥満、併存疾患について調整し、2次解析ではうつ病や不安障害が結果に影響を与えるかどうかを評価した。

 主な結果は以下のとおり。

・対象となったのはCRP検体と追跡データを有する乳がんサバイバー400人と対照者329人で、平均年齢67.7歳(範囲:60~90歳)だった。サバイバーのうちStageIが60.9%、エストロゲン受容体陽性が87.6%だった。
・ベースライン、12ヵ月時点、24ヵ月時点、60ヵ月時点の調整後ln-CRPの平均は、サバイバーが対照群より有意に高かった(すべてp<0.05)。
・サバイバーでは、調整後ln-CRPが高いほどその後の来院時の自己報告の認知能力が低かったが、対照者ではそうではなかった(相互作用のp=0.008)。また、その影響はうつ病や不安障害によって変わらなかった。
・調整後FACT-Cogスコアは、CRPが3.0mg/Lおよび10.0mg/Lの場合、サバイバーは対照群よりそれぞれ9.5および14.2ポイント低かった。
・神経心理学的検査の成績はサバイバーが対照群より悪く、Trails B検査のみCRPとの有意な相互作用がみられた。

 今回の高齢の乳がんサバイバーにおけるCRPとその後の認知機能の関連から、慢性炎症が認知機能障害の発症に関与している可能性が示唆される。著者らは「CRP検査はサバイバーのケアにおいて臨床的に有用かもしれない」としている。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Carroll JE, et al. J Clin Oncol. 2022 Sep 30. [Epub ahead of print]

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

遺族にNGな声かけとは…「遺族ケアガイドライン」発刊

提供元:CareNet.com

 2022年6月、日本サイコオンコロジー学会と日本がんサポーティブケア学会の合同編集により「遺族ケアガイドライン」が発刊された。本ガイドラインには“がん等の身体疾患によって重要他者を失った遺族が経験する精神心理的苦痛の診療とケアに関するガイドライン”とあるが、がんにかかわらず死別を経験した誰もが必要とするケアについて書かれているため、ぜひ医療者も自身の経験を照らし合わせながら、自分ごととして読んで欲しい一冊である。

 だが、本邦初となるこのガイドラインをどのように読み解けばいいのか、非専門医にとっては難しい。そこで、なぜこのガイドラインが必要なのか、とくに読んでおくべき項目や臨床での実践の仕方などを伺うため、日本サイコオンコロジー学会ガイドライン策定委員会の遺族ケア小委員会委員長を務めた松岡 弘道氏(国立がん研究センター中央病院精神腫瘍科/支持療法開発センター)を取材した。

ガイドラインの概要

 本書は4つに章立てられ、II章は医療者全般向けで、たとえば、「遺族とのコミュニケーション」(p29)には、役に立たない援助遺族に対して慎みたい言葉の一例が掲載されている。III章は専門医向けになっており、臨床疑問(いわゆるClinical questionのような疑問)2点として、非薬物療法に関する「複雑性悲嘆の認知行動療法」と薬物療法に関する「一般的な薬物療法、特に向精神薬の使い方について」が盛り込まれている。第IV章は今後の検討課題や用語集などの資料が集約されている。

遺族の心、喪失と回復を行ったり来たり

 人の死というは“家族”という単位だけではなく、友人、恋人や同性愛者のパートナーのように社会的に公認されていない間柄でも生じ(公認されない悲嘆)、生きている限り誰もが必ず経験する。そして皮肉なことに、患者家族という言葉は患者が生存している時点の表現であり、亡くなった瞬間から“遺族”になる。そんな遺族の心のケアは緩和ケアの主たる要素として位置付けられるが、多くの場合は自分自身の力で死別後の悲しみから回復していく。ところが、死別の急性期にみられる強い悲嘆反応が長期的に持続し、社会生活や精神健康など重要な機能の障害をきたす『複雑性悲嘆(CG:complicated grief)』という状態になる方もいる。CGの特徴である“6ヵ月以上の期間を経ても強度に症状が継続していること、故人への強い思慕やとらわれなど複雑性悲嘆特有の症状が非常に苦痛で圧倒されるほど極度に激しいこと、それらにより日常生活に支障をきたしていること”の3点が重要視されるが、この場合は「薬物治療の必要性はない」と説明した。

 一方でうつ病と診断される場合には、専門医による治療が必要になる。これを踏まえ松岡氏は「非専門医であっても通常の悲嘆反応なのかCGなのか、はたまた精神疾患なのかを見極めるためにも、CG・大うつ病性障害(MDD)・心的外傷後ストレス障害(PTSD)の併存と相違(p54図1)、悲嘆のプロセス(p15図1:死別へのコーピングの二重過程モデル)を踏まえ、通常の悲嘆反応がどのようなものなのかを理解しておいて欲しい」と強調した。

医師ができる援助と“役に立たない”援助

 死別後の遺族の支援は「ビリーブメントケア(日本ではグリーフケア)」と呼ばれる。その担い手には医師も含まれ、遺族の辛さをなんとかするために言葉かけをする場面もあるだろう。そんな時に慎みたい言葉が『寿命だったのよ』『いつまでも悲しまないで』などのフレーズで、遺族が傷つく言葉の代表例である。言葉かけしたくも言葉が見つからないときは、正直にその旨を伝えることが良いとされる。一方、遺族から見て有用とされるのは、話し合いや感情を出す機会を持つことである。

 そのような機会を提供する施設が国内でも設立されつつあるが、現時点で約50施設
(と、まだまだ多くの遺族が頼るには程遠い数である。この状況を踏まえ、同氏は「医師や医療者には患者の心理社会的背景を意識したうえで診療や支援にあたって欲しいが、実際には多忙を極める医師がここまで介入することは難しい」と話し、「遺族の状況によってソーシャルワーカーなどに任せる」ことも必要であると話した。

 なお、メンタルヘルスの専門家(精神科医、心療内科医、公認心理師など)に紹介すべき遺族もいる。それらをハイリスク群とし、特徴を以下のように示す。

<強い死別反応に関連する遺族のリスク因子>(p62 表4より)
(1)遺族の個人的背景
・うつ病などの精神疾患の既往、虐待やネグレクト
・アルコール、物質使用障害
・死別後の睡眠障害
・近親者(とくに配偶者や子供の死)
・生前の患者に対する強い依存、不安定な愛着関係や葛藤
・低い教育歴、経済的困窮
・ソーシャルサポートの乏しさや社会的孤立

(2)治療に関連した要因
・治療に対する負担感や葛藤
・副介護者の不在など、介護者のサポート不足
・治療やケアに関する医療者への不満や怒り
・治療や関わりに関する後悔
・積極的治療介入(集中治療、心肺蘇生術、気管内挿管)の実施の有無

(3)死に関連した要因
・病院での死
・ホスピス在院日数が短い
・予測よりも早い死、突然の死
・死への準備や受容が不十分
・「望ましい死」であったかどうか
・緩和ケアや終末期の患者のQOLに対する遺族の評価

 上記を踏まえたうえで、遺族をサポートする必要がある。

不定愁訴を訴える患者、実は誰かを亡くしているかも

 一般内科には不定愁訴で来院される方も多いだろうが、「遺族になって不定愁訴を訴える」ケースがあるそうで、それを医療者が把握するためにも、原因不明の症状を訴える患者には、問診時に問いかけることも重要だと話した。

<表5 遺族の心身症の代表例>(p64より一部抜粋)
1.呼吸器系(気管支喘息、過換気症候群など)
2.循環器系(本態性高血圧症など)
3.消化器系(胃・十二指腸潰瘍、機能性ディスペプシア、過敏性腸症候群など)
4.内分泌・代謝系(神経性過食症、単純性肥満症など)
5.神経・筋肉系(緊張型頭痛、片頭痛など)
6.その他(線維筋痛症、慢性蕁麻疹、アトピー性皮膚炎など)

 最後に同氏は高齢化社会特有の問題である『別れのないさよなら』について言及し、「これは死別のような確実な喪失とは異なり、あいまいで終結をみることのない喪失に対して提唱されたもの。高齢化が進み認知症患者の割合が高くなると『別れのないさよなら』も増える。そのような家族へのケアも今後の課題として取り上げていきたい」と締めくくった。

書籍紹介『遺族ケアガイドライン』

(ケアネット 土井 舞子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

日本サイコオンコロジー学会/日本がんサポーティブケア学会編. 遺族ケアガイドライン.金原出版;2022.

遺族外来・家族ケア外来・グリーフケア外来・遺族会のある病院リスト

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

男性乳がんの予後予測因子

提供元:CareNet.com

 毎年診断される乳がんのうち、男性が0.5~1%を占めている。今回、男性乳がんの予後予測因子について、米国・MedStar Georgetown University HospitalのOlutayo A. Sogunro氏らが後ろ向きチャートレビューを実施したところ、死亡リスクが高かったのは、高齢、糖尿病、心房細動、末期腎不全、PS 3、低分化腺がん、転移ありだった。なお、男性の乳がん患者では女性の乳がんと比べ、全生存率が低かった。Journal of Surgical Research誌オンライン版2022年9月28日号に掲載。

 本研究は、2010~21年における男性乳がんの後ろ向きチャートレビューで、人口統計、併存疾患、がんの特性、再発、死亡を収集した。Cox比例ハザード回帰モデルを使用して予後因子を決定し、カプランマイヤー曲線を用いて生存率を評価した。

 主な結果は以下のとおり。

・男性乳がん患者47例が特定された。受診時の平均年齢は64.1歳、アフリカ系米国人28例(59.6%)、白人が14例(29.8%)だった。
・大多数(89.4%)が浸潤性乳管がんで、T1が40.4%、T2が38.3%だった。3例(6.4%)が再発、8例(17%)が死亡した。
・エンドポイントとして死亡率を用いると、死亡リスクが高かったのは、76.1歳以上(ハザード比:1.13、p=0.004)、糖尿病(同:5.45、p=0.023)、心房細動(同:8.0、p=0.009)、末期腎不全(同:6.47、p=0.023)、ECOG PS 3(同:7.92、p=0.024)、低分化腺がん(同:7.21、p=0.033)、転移あり(HR:30.94、p=0.015)だった。
・3年全生存率は79.2%だった。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Sogunro OA, et al. J Surg Res. 2022 Sep 28.[Epub ahead of print]

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

乳房温存手術後の遠隔再発と局所再発を最小にするマージンを検討/BMJ

提供元:CareNet.com

 早期浸潤性乳がんの乳房温存手術においてマージン状態が遠隔再発と関連するかどうか、また局所再発リスクと遠隔再発リスクの両方を最小にするために必要なマージンについて、英国・リーズ大学のJames R. Bundred氏らが系統的レビューとメタ解析により検討し報告した。BMJ誌2022年9月21日号に掲載。

 本研究では、Medline(PubMed)、Embase、Proquestのデータベースから、乳房温存手術(StageI~III)を受けた乳がん患者を対象にマージン状況との関連でアウトカムを推定可能な追跡期間60ヵ月以上の研究を検索した。非浸潤性乳管がん(DCIS)の患者、術前化学療法を受けた患者、乳房切除術を受けた患者を除外し、断端陽性(tumour on ink)、断端近接(no tumour on inkだが2mm未満)、断端陰性(2mm以上)に分類した。

 主な結果は以下のとおり。

・1980年1月1日~2021年12月31日の68研究、11万2,140例の乳がん患者が適格とされた。
・これらの研究全体では、患者の9.4%(95%信頼区間[CI]:6.8~12.8)が断端陽性、17.8%(同:13.0~23.9)が断端陽性または断端近接であった。
・遠隔再発率は、断端陽性で25.4%(同:14.5~40.6)、断端陽性または断端近接で8.4%(同:4.4~15.5)、断端陰性で7.4%(同:3.9~13.6)であった。
・断端陽性は断端陰性と比較して、遠隔再発リスク(ハザード比[HR]:2.10、95%CI:1.65~2.69、p<0.001)および局所再発リスク(HR:1.98、95%CI:1.66~2.36、p<0.001)とも高かった。
・術後化学療法および放射線療法の調整後、断端近接は断端陰性と比較して遠隔再発リスク(HR:1.38、95%CI:1.13~1.69、p<0.001)および局所再発リスク(HR:2.09、95%CI:1.39~3.13、p<0.001)とも高かった。
・2010年以降に発表された5研究では、遠隔再発リスクは断端陰性と比べて、断端陽性(HR:2.41、95%CI:1.81~3.21、p<0.001)および断端陽性または断端近接(HR:1.44、95%CI:1.22~1.71、p<0.001)で高かった。

 今回のメタ解析の結果、早期浸潤性乳がんの乳房温存術後の患者において、断端陽性または断端近接の場合は遠隔再発リスクおよび局所再発リスクが高かった。著者らは「外科医は、1mm以上で最小のクリアマージンを達成することを目指すべき」としている。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Bundred JR, et al. BMJ. 2022;378:e070346.

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

ペムブロリズマブ、高リスク早期TN乳がんへの術前・術後療法に適応拡大/MSD

提供元:CareNet.com

 MSD株式会社は2022年9月26日、抗PD-1抗体ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)について、「ホルモン受容体陰性かつHER2陰性で再発高リスクの乳癌における術前・術後薬物療法」の効能または効果で、国内製造販売承認事項一部変更の承認を取得したことを発表した。

 今回の承認は、ホルモン受容体陰性かつHER2陰性で再発高リスクの周術期の乳がん患者1,174例(日本人76例を含む)を対象とし、術前薬物療法としてのペムブロリズマブと化学療法との併用療法、および術後薬物療法としてのペムブロリズマブ単独療法の有効性と安全性を、術前薬物療法としてのプラセボと化学療法との併用療法、および術後薬物療法としてのプラセボ投与を対照として評価した国際共同第III相試験(KEYNOTE-522試験)の結果に基づいている。

 本試験において、術前のペムブロリズマブと化学療法との併用療法および術後のペムブロリズマブ単独投与は、術前のプラセボと化学療法との併用療法および術後のプラセボ投与と比較して主要評価項目の1つである無イベント生存期間(EFS)を有意に延長した(ハザード比[HR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.48~0.82、p=0.00031)。安全性については、安全性解析対象例783例中774例(98.9%)(日本人45例中45例を含む)に副作用が認められた。主な副作用(20%以上)は、悪心495例(63.2%)、脱毛症471例(60.2%)、貧血429例(54.8%)、好中球減少症367例(46.9%)、疲労330例(42.1%)、下痢238例(30.4%)、ALT増加204例(26.1%)、嘔吐200例(25.5%)、無力症198例(25.3%)、発疹196例(25.0%)、便秘188例(24.0%)、好中球数減少185例(23.6%)、AST増加157例(20.1%)だった。

<製品概要>
・販売名:キイトルーダ点滴静注100mg
・一般名:ペムブロリズマブ(遺伝子組換え)
・効能・効果:ホルモン受容体陰性かつHER2陰性で再発高リスクの乳癌における術前・術後薬物療法
・用法・用量:
通常、成人にはペムブロリズマブ(遺伝子組換え)として1回200mgを3週間間隔または1回400mgを6週間間隔で30分間かけて点滴静注する。投与回数は、3週間間隔投与の場合、術前薬物療法は8回まで、術後薬物療法は9回まで、6週間間隔投与の場合、術前薬物療法は4回まで、術後薬物療法は5回までとする。
・承認取得日:2022年9月26日

(ケアネット 遊佐 なつみ)


掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

閉経後乳がん術後内分泌療法の延長、6年vs.3年(DATA)/ESMO2022

提供元:CareNet.com

 術後に2~3年のタモキシフェン投与を受け、無病状態にあったホルモン受容体(HR)陽性の閉経後乳がん患者において、続いてアナストロゾールを投与した場合の効果を複数の期間で検討した結果が報告された。オランダ・マーストリヒト大学病院のVivianne Tjan-Heijnen氏が、第III相非盲検無作為化比較試験(DATA試験)の最終解析結果を、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で発表した。

・対象:ER+および/またはPR+、2~3年の術後タモキシフェン投与を受け、再発のない閉経後乳がん患者1,660例
・試験群:
アナストロゾール(1mg/日)を6年間投与 827例
アナストロゾール(1mg/日)を3年間投与 833例
・評価項目:
[主要評価項目]無作為化後3年以降の調整無病生存率(aDFS)
[副次評価項目]調整全生存期間(aOS)
[層別化因子]リンパ節転移の状態、ホルモン受容体・HER2の発現状況、タモキシフェンの投与期間

 主な結果は以下のとおり。

・2006年6月~2009年8月にオランダの79施設から1,660例が登録され、6年群(827例)または3年群(833例)に無作為に割り付けられた。
・調整追跡期間中央値は10.1年であった。
・ベースライン時の特性は両群でバランスがとれており、ER+およびPR+が6年群75.8% vs.3年群76.0%、pN1が52.5% vs.54.9%だった。
・10年aDFSは6年群で69.1% vs.3年群で66.0%となり、統計学的に有意な差は認められなかった(ハザード比[HR]:0.86、95%信頼区間[CI]:0.72~1.01、p=0.073)。
・10年aDFSのサブグループ解析の結果、ER+およびPR+の患者において、6年群で70.8% vs.3年群で64.4%(HR:0.77、95%CI:0.63~0.93)だったのに対し、ER+またはPR+の患者では、63.7% vs.70.9%(HR:1.22、95%CI:0.86~1.73)だった(相互作用のp=0.018)。さらに、ER+およびPR+かつリンパ節転移陽性の患者では68.7% vs.60.7%(HR:0.74、95%CI:0.59~0.93、p=0.011)、ER+およびPR+かつリンパ節転移陽性かつ腫瘍サイズ≧2cmの患者では70.0% vs.56.4%(HR:0.64、95%CI:0.47~0.88、p=0.005)だった。
・aOSは6年群で80.9% vs.3年群で79.2%となり、統計学的に有意な差は認められなかった(HR:0.93、95%CI:0.75~1.16、p=0.53)。
・aOSのサブグループ解析の結果、ER+およびPR+の患者においては6年群で82.7% vs.3年群で78.7%(HR:0.83、95%CI:0.65~1.07)、ER+またはPR+の患者では、75.2% vs.81.0%(HR:1.33、95%CI:0.86~2.05)だった(相互作用のp=0.051)。

 Tjan-Heijnen氏は結論として、ホルモン受容体陽性乳がんのすべての閉経後女性において、アロマターゼ阻害薬による5年以上の延長治療を行うことは推奨できないとした。ただし、ホルモン受容体の状態(ER+およびPR+)、リンパ節転移の状態(リンパ節転移陽性)については、延長治療を行うにあたっての予測因子となる可能性があるとしている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【参考文献・参考サイトはこちら】

DATA試験(Clinical Trials.gov)

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)