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『高齢者のがん薬物療法ガイドライン 改訂第2版』が2026年3月25日に発刊され、第23回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2026)のシンポジウムで全17項目のクリニカルクエスチョン(CQ)が解説された。乳腺領域からは、HER2陽性(CQ12)、トリプルネガティブ(CQ13)、ホルモン受容体陽性HER2陰性(CQ14)の高齢者の周術期乳がんの薬物療法に関する計3つのCQが設定された。
CQ12 高齢者HER2陽性乳がん周術期治療には、どのような治療が推奨されるか?
HER2陽性乳がん術後の標準治療は、化学療法と抗HER2モノクローナル抗体トラスツズマブの併用療法である。しかし、高齢者では治療利益と化学療法やトラスツズマブの忍容性のバランスが問題となるため、化学療法とトラスツズマブの併用、化学療法のみ、トラスツズマブのみ、経過観察など治療選択が割れやすい。本CQでは、高齢者HER2陽性乳がん患者の周術期治療の実臨床における個別化治療と意思決定を支えるため、(1)トラスツズマブ+化学療法、(2)トラスツズマブ単剤、(3)トラスツズマブ+ペルツズマブ+化学療法の3つに分けて評価を行った。
(1)トラスツズマブ+化学療法
推奨:高齢者HER2陽性乳がん周術期治療には、トラスツズマブ+化学療法を強く推奨する。
推奨のタイプ:当該介入の強い推奨
エビデンスの強さ:A
4件のランダム化比較試験(RCT)(HERA、BCIRG006、NSABP B-31/N9831統合解析)で、トラスツズマブ+化学療法群は化学療法単独群に比べ、全生存期間(OS)および無病生存期間(DFS)が改善した。これらは高齢者のみを対象とした試験ではないが、60歳以上のサブグループにおいても良好であり、高齢者でも治療利益は大きいと考えられた。トラスツズマブの併用により心不全や心機能低下が有意に増加したが、その多くは可逆的であった。OS・DFSの延長について、トラスツズマブ+化学療法の益は大きく一貫していることから、化学療法単独よりも優れていると評価された。
(2)トラスツズマブ単剤
推奨:化学療法の忍容性がない場合には、トラスツズマブ単剤が選択肢となりうる。
推奨のタイプ:当該介入または比較対照のいずれかについての条件付きの推奨
エビデンスの強さ:B
わが国で行われた70歳以上の高齢者HER2陽性乳がん患者を対象としたRCT(RESPECT)において、トラスツズマブ単剤群は化学療法併用群と比べ、OS・DFSの非劣性は統計学的に示されなかった。トラスツズマブ単剤群では治療開始12ヵ月においてQOL低下が少なかった。Grade3以上の有害事象は化学療法併用群において有意に多く生じていた。1件のRCTに限られるが日本人高齢者を対象として直接性が高く、結果に対する不確実性は少ないと評価された。
(3)トラスツズマブ+ペルツズマブ+化学療法
推奨:再発リスクが高く、全身状態良好で化学療法に十分耐えうる状況に限り、トラスツズマブ+ペルツズマブ+化学療法が選択肢となりうる。
推奨のタイプ:当該介入または比較対照のいずれかについての条件付きの推奨
エビデンスの強さ:C
1件のRCT(APHINITY)において、トラスツズマブ+ペルツズマブ+化学療法群はトラスツズマブ+化学療法群と比べてOSの有意差は認められなかった一方、ペルツズマブ追加により無浸潤疾患生存期間(iDFS)は有意に改善し、とくにリンパ節転移陽性例ではハザード比0.72と良好な上乗せ効果が示された。Grade3以上の有害事象はペルツズマブ追加により6%増加した。下痢によるQOL低下もみられたが、永続的な有害事象ではなかった。1件のRCTに限られ、高齢者に特化した試験ではないが、ペルツズマブによる予後改善が期待でき、かつ十分な忍容性があると判断される患者では検討しうると評価された。
CQ13 高齢者の周術期トリプルネガティブ乳がんに対して、免疫チェックポイント阻害薬の使用は推奨されるか?
推奨:周術期トリプルネガティブ高齢者乳がんに対して、免疫チェックポイント阻害薬の併用を弱く推奨する。
推奨のタイプ:当該介入の条件付きの推奨
エビデンスの強さ:C
トリプルネガティブ乳がんの周術期標準治療は化学療法であるが、近年では再発高リスク症例に対して免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を併用したレジメンも推奨されている。高齢者では、治療効果と有害事象のバランスが重視されるため、ICIの使用推奨を検討することは臨床的に重要である。そこで本CQでは、高齢者トリプルネガティブ乳がんで、ICIを含む薬物治療を実施した群(介入群)とICIを含まない薬物治療または経過観察の群(対照群)のアウトカムを評価した。OS・DFSを指標とした2件のRCT(KEYNOTE-522、IMpassion031)および関連サブ解析において、OSには有意差を認めなかったが(文献検索期間終了後にOS改善の報告あり)、DFSはKEYNOTE-522では介入群で有意な延長を認め、IMpassion031でも延長傾向が示された。Grade3以上の有害事象の頻度に差はなかった。免疫関連有害事象(irAE)は介入群で増加したが、AE of special interestの定義が異なったため、評価には限界があった。ICI併用による持続的なQOL低下は認めなかった。根拠となる試験には全身状態が良好な高齢者が一部含まれるのみで、高齢者におけるエビデンスは十分ではないと評価された。
CQ14 ホルモン受容体陽性HER2陰性高齢者乳がんの術後内分泌療法にアベマシクリブやS-1の併用は推奨されるか?
ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がん術後の標準治療は内分泌療法であるが、再発リスクが高い場合は追加治療が検討される。近年では内分泌療法にアベマシクリブやS-1を併用する新たな治療戦略が登場している。これらの薬剤は作用機序ならびに治療効果、有害事象のプロファイルが異なることから、本CQでは(1)内分泌療法+アベマシクリブ、(2)内分泌療法+S-1に分けて、それぞれを内分泌療法単独と比較した。
(1)アベマシクリブ
推奨:ホルモン受容体陽性HER2陰性高齢者乳がんの術後内分泌療法として、再発リスクが高く治療に耐えうる状況に限り、アベマシクリブが選択肢となりうる。
推奨のタイプ:当該介入または比較対照のいずれかについての条件付きの推奨
エビデンスの強さ:C
1件のRCT(monarchE)において、内分泌療法+アベマシクリブ群は内分泌療法のみの群と比べてOSの有意差は認められなかった(文献検索期間終了後にOS改善の報告あり)が、iDFSはアベマシクリブ追加により有意に改善した。Grade3以上の有害事象は併用群で増加した。下痢などは高齢者で問題となりやすく、休薬・減量を含めた管理を要した。本試験は高齢者に特化したものではないが、アベマシクリブ併用による再発抑制効果は示される一方、有害事象増加にも留意が必要であり、高齢者への適用は個別に判断すべきと評価された。
(2)S-1
推奨:再発高リスクホルモン受容体陽性HER2陰性高齢者乳がんの術後内分泌療法へのS-1併用は、患者の全身状態やリスク・ベネフィットを総合的に考慮したうえで行うことが望ましい。
推奨のタイプ:当該介入または比較対照のいずれかについての条件付きの推奨
エビデンスの強さ:C
1件のRCT(POTENT)において、内分泌療法+S-1群は内分泌療法のみの群と比べてOSの有意差は認められなかったが、iDFSはS-1追加により有意に改善した。Grade3以上の有害事象は併用群で好中球減少(8%)、下痢(2%)などが報告された。1件のRCTに限られ、かつ高齢者に特化した試験ではないという限界を有するもののS-1併用による再発抑制効果は示唆されている一方、毒性増加のリスクもあることから高齢者に対する適用は個別に判断すべきと考えられた。
(ケアネット 森)
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