乳がん術後放射線療法、左側と右側で虚血性心疾患リスクに差

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 乳がん術後放射線療法の部位(左側vs.右側)と虚血性心疾患リスクとの関連を調査した後ろ向きコホート研究の結果、ベースライン時の心血管リスクが高い患者では、左側乳房への放射線療法(左側RT)は、右側乳房への放射線療法(右側RT)と比較して虚血性心疾患リスクの上昇と関連したことを、韓国・Ajou University School of MedicineのChung Seung Yeun氏らが示した。JAMA Network Open誌2026年9月2日号掲載の報告。

 研究グループは、韓国国民健康保険公団のデータベースを用いて、全国規模の後ろ向きコホート研究を実施した。対象は、2002年1月1日~2018年12月31日に乳がんの術後放射線療法を受け、過去3年間に虚血性心疾患の診断歴がない女性2万3,305例とした。心血管リスク因子として、(1)55歳以上、(2)肥満(BMI≧25)、(3)現在または過去の喫煙、(4)高血圧、(5)糖尿病、(6)脂質異常症の6項目を評価した。主要評価項目は新規発症の虚血性心疾患とし、競合リスクを考慮して累積発生率を推定し、Fine-Grayモデルを用いて部分分布ハザード比(sHR)を算出した。追跡期間中央値は4.3年であった。

 主な結果は以下のとおり。

・解析対象は2万3,305例で、平均年齢は51.7歳であった。ほとんどの患者は心血管リスク因子が0~2項目であり、3項目以上の患者は少数であった。
・左側RTを受けた患者は1万1,723例(50.3%)、右側RTを受けた患者は1万1,582例(49.7%)であった。
・全体集団において、左側RTは右側RTと比較して虚血性心疾患リスクの有意な上昇と関連していた(sHR:1.11、95%信頼区間[CI]:1.01~1.22、p=0.04)。
・ベースライン時の心血管リスク因子が0~2項目の群では、左側RTと右側RTの間で虚血性心疾患リスクに統計学的に有意な差は認められなかった。
・心血管リスク因子が3項目の群では、左側RTは右側RTと比較して虚血性心疾患リスクが有意に高かった(調整sHR:1.37、95%CI:1.10~1.71、Gray検定のp=0.004)。8年累積発生率は左側20.3%、右側15.2%であり、絶対リスクで5.1ポイントの差が認められた。
・心血管リスク因子が4~5項目の群では、左側RTと右側RT間の虚血性心疾患リスクの差は統計学的に有意ではなかった。研究グループはこの理由について、これらの群では症例数が少なく、信頼区間が広くなったためと考察している。

 研究グループは、「本研究で用いた心血管リスク因子数は患者の病歴のみで計算できるため、高リスク患者を特定するための実用的な指標となる可能性がある」としたうえで、「これらの結果は、ベースライン時に心血管リスクが高い患者には集中的な心保護と積極的な心血管管理を優先すべきであることを示唆している」とまとめた。

(ケアネット 森)


【原著論文はこちら】

Chung SY, et al. JAMA Netw Open. 2026;9:e2631356.

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早期TNBCのMRD検出、tissue-free vs.tumor-informed ctDNAアッセイ/JAMA Oncol

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 分子残存病変(MRD)検出は、再発リスクの層別化や術後療法の選択への応用が期待されている。しかし、これまでのエビデンスの多くは、腫瘍組織が必要なtumor-informedアッセイによるものであり、原発腫瘍のシーケンス解析が不要なtissue-free血中循環腫瘍DNA(ctDNA)アッセイの精度は十分に検証されていない。今回、英国・Royal Marsden HospitalのNiamh Cunningham氏が早期トリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者におけるtissue-free ctDNAアッセイを評価した結果、ctDNAの検出は再発と強く関連し、再発までのリードタイムはmultivariant tumor-informedアッセイと同程度であったという。JAMA Oncology誌オンライン版2026年8月13日号に掲載。

 本研究は、多施設共同第II相試験c-TRAK TNのctDNAサーベイランス期間に参加した、再発リスクが中~高のTNBC患者を対象とする予後・探索的解析である。術後療法終了後、3ヵ月ごとに最長2年間血漿検体を採取し、デジタルPCR(dPCR)により前向きにctDNAを解析した。今回、同検体を用いて、がん特異的メチル化パターンに基づくtissue-free ctDNAアッセイを後ろ向きに実施し、dPCRおよび全エクソームシーケンスに基づくmultivariant tumor-informedアッセイと比較した。

 主な結果は以下のとおり。

・解析には159例(平均年齢51.4歳、全例が女性)から採取した1,026検体を使用した。
・tissue-freeアッセイにより、54例(34.0%)でctDNAが検出され、その検出は再発リスクと強い関連を示した(ハザード比[HR]:27.2、95%信頼区間[CI]:13.7~54.2、p<0.001)。
・tissue-freeアッセイとdPCRの両方でctDNAが検出された患者(42例)のうち、14例(33.3%)がtissue-freeアッセイでより早期に検出され、dPCRによる検出がtissue-freeアッセイによる検出より早い患者はいなかった。
・再発までのリードタイム中央値は、tissue-freeアッセイが7.9ヵ月、dPCRが5.8ヵ月であった(HR:0.57、95%CI:0.34~0.95、p=0.03)。
・tissue-freeアッセイとmultivariant tumor-informedアッセイとの一致度は良好であった。
・両方のアッセイで検出された患者(133例中41例)のうち、41例中12例(29.3%)がmultivariant tumor-informedアッセイでctDNAがより早期に検出され、1例(2.4%)がtissue-freeアッセイでより早期に検出された。
・再発までのリードタイムの中央値は、tissue-freeアッセイで7.6ヵ月、multivariant tumor-informedアッセイで7.1ヵ月だった(HR:1.46、95%CI:0.87~2.44、p=0.15)。

 これらの結果から著者らは、「tissue-free ctDNAアッセイは、tumor-informedアッセイが実施できない患者における実用的な代替手段としての使用を支持する結果である」とまとめている。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Cunningham N, et al. JAMA Oncol. 2026 Aug 13. [Epub ahead of print]

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T-DXdおよびDato-DXd、転移乳がん患者への1次治療に承認取得/第一三共

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 第一三共は2026年9月16日、抗HER2抗体薬物複合体(ADC)トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd、商品名:エンハーツ)および抗TROP-2 ADCダトポタマブ デルクステカン(Dato-DXd、商品名:ダトロウェイ)について、転移乳がん患者への1次治療に係る2つの製造販売承認事項一部変更承認を取得したと発表した。T-DXdはペルツズマブとの併用療法における「HER2陽性の手術不能又は再発乳癌」、Dato-DXdは「ホルモン受容体陰性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌」について、それぞれ一部変更承認を取得した。

 T-DXdの本承認は、2025年6月開催の米国臨床腫瘍学会(ASCO 2025)で発表された、ペルツズマブ併用下のHER2陽性転移乳がん患者への1次治療を対象とする、グローバル第III相試験(DESTINY-Breast09)の結果に基づく。また、Dato-DXdの本承認は、2025年10月開催の欧州臨床腫瘍学会(ESMO 2025)で発表された、免疫療法による治療の対象とならない未治療の転移または局所再発の手術不能なトリプルネガティブ乳がん患者への1次治療を対象としたグローバル第III相試験(TROPION-Breast02)の結果に基づく。

(ケアネット 室井 宏仁)


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パルボシクリブ、HR+HER2+乳がん導入療法後の維持療法に適応拡大/ファイザー

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 ファイザーは2026年9月16日、CDK4/6阻害薬パルボシクリブ(商品名:イブランス)について、「ホルモン受容体陽性かつHER2陽性の手術不能又は再発乳癌における化学療法後の維持療法」に対する製造販売承認事項一部変更承認を取得したことを発表した。

 本承認は、ホルモン受容体陽性HER2陽性(HR+HER2+)の転移乳がんを対象とした無作為化非盲検第III相試験であるPATINA(AFT-38)試験の結果に基づく。同試験において、導入療法(中央値6サイクル)を受けた試験参加者は、1次維持療法として抗HER2療法(トラスツズマブ単独、またはトラスツズマブ+ペルツズマブ)および内分泌療法+パルボシクリブ併用群(n=261)と、抗HER2療法および内分泌療法群(n=257)に無作為に割り付けられた。

 主要評価項目は、治験担当医師評価による無増悪生存期間であり、導入療法後に抗HER2療法および内分泌療法にパルボシクリブを併用投与することで、抗HER2療法と内分泌療法のみの場合と比較して、疾患進行または死亡のリスクが24%低下することが示された(ハザード比:0.76[95%信頼区間:0.59~0.97]、片側非層別log-rank検定のp=0.0134)。

 PATINA試験におけるパルボシクリブの安全性および忍容性は既知の安全性プロファイルと一致しており、パルボシクリブで最も一般的に報告された有害事象は、白血球減少や好中球数減少などの血液学的毒性であった。血液学的以外の有害事象としては、下痢、感染症、口内炎、疲労などがあり、これらはおおむね軽度から中等度の重症度であった。

<製品概要>
商品名:イブランス錠25mg、同錠125mg
一般名:パルボシクリブ
効能又は効果:
ホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌
ホルモン受容体陽性かつHER2陽性の手術不能又は再発乳癌における化学療法後の維持療法
用法及び用量:
<ホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌>
内分泌療法剤との併用において、通常、成人にはパルボシクリブとして1日1回125mgを3週間連続して経口投与し、その後1週間休薬する。これを1サイクルとして投与を繰り返す。なお、患者の状態により適宜減量する。
<ホルモン受容体陽性かつHER2陽性の手術不能又は再発乳癌における化学療法後の維持療法>
トラスツズマブ(遺伝子組換え)、ペルツズマブ(遺伝子組換え)及び内分泌療法剤、又はトラスツズマブ(遺伝子組換え)及び内分泌療法剤との併用において、通常、成人にはパルボシクリブとして1日1回125mgを3週間連続して経口投与し、その後1週間休薬する。これを1サイクルとして投与を繰り返す。なお、患者の状態により適宜減量する。
製造販売承認取得日:2017年9月27日
薬価収載日:2017年11月22日
発売年月日:2017年12月15日
効能又は効果、用法及び用量追加の承認年月日:2026年9月16日
製造販売元:ファイザー株式会社

(ケアネット 遊佐 なつみ)


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HR+/HER2-乳がん、2回目の同側局所再発後の転帰

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 早期乳がん患者において、局所再発(LRR)は遠隔転移および乳がん関連死亡リスクの増加と関連しているが、2回連続して同側LRRが発生した場合の転帰に関するデータはきわめて少ない。今回、イタリア・European Institute of OncologyのMonica Milano氏らは、ホルモン受容体陽性/HER2陰性(HR+/HER2-)乳がんで2回の同側LRRを経験した患者の転帰について単施設コホート研究で評価した。その結果、約半数の患者で7年以内に無浸潤性乳がん生存(IBCFS)イベントが発生し、とくに内分泌療法抵抗性や胸壁・領域リンパ節再発で予後不良の傾向が示された。eClinicalMedicine誌2026年8月31日号に掲載。

 本研究は、European Institute of Oncologyのデータベースを用いた単施設コホート研究で、対象は、2001年1月~2025年9月に2回目の同側LRRを経験した18歳以上のHR+/HER2-乳がん患者とした。評価項目はIBCFSおよび無遠隔再発生存(DRFS)であった。

 主な結果は以下のとおり。

・対象患者111例の年齢中央値(四分位範囲)は、初回診断時47歳(41~53)、初回LRR時54歳(46~61)、2回目LRR手術時61歳(52~68)であった。
・2回目LRRの部位は、乳房49例(44%)、胸壁または乳房切除瘢痕34例(31%)、領域リンパ節26例(23%)、複数部位2例(2%)であった。
・2回目LRRは77例(69%)で内分泌療法抵抗性と判定された。全体で16例(14%)が(術前または術後)化学療法を受け、109例(98%)が術後内分泌療法を受けた。CDK4/6阻害薬は6例(5%)に投与された。
・追跡期間中央値は6.3年(95%信頼区間[CI]:4.7~7.9)で、IBCFSイベントは57件、DRFSイベントは40件であった。
・IBCFS中央値は6.8年(95%CI:4.8~7.6)で、IBCFS率は3年時67.6%(同:58.7~77.7)、5年時58.6%(同:48.9~70.2)であった。
・DRFS中央値は9.6年(95%CI:6.9~未到達)であった。DRFS率は3年時80.4%(同:72.8~88.7)、5年時71.8%(同:62.8~82.1)であった。
・内分泌療法感受性LRRにおけるIBCFS中央値は8.6年(95%CI:4.6~未到達)、内分泌療法抵抗性LRRで5.3年(同:4.0~6.9)であった。再発部位別では、乳房6.8年(同:4.8~未到達)、リンパ節6.4年(同:1.4~未到達)、胸壁5.1年(同:4.0~未到達)であった。

 今回の結果について、著者らは「2回のLRRの転帰が、腫瘍の生物学的特性、とくに内分泌療法抵抗性および再発部位によって大きく左右されることを示唆している」とし、「内分泌療法抵抗性または非実質性疾患において、化学療法や新たな内分泌療法を含む治療強化戦略の必要性を裏付けている」とまとめている。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Milano M, et al. EClinicalMedicine. 2026;99:104174.

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T-DXd関連ILD、日本人の胃がん・乳がん患者で死亡例に多い所見は?

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 トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)に関連する間質性肺疾患(ILD)/肺臓炎は、治療継続や生命予後に関わる重要な有害事象である。そこで、愛知県がんセンター呼吸器内科の藤原 豊氏らは、日本人の乳がんおよび胃がん患者を対象とした市販後全例調査のデータを用いて、独立したILD判定委員会により判定されたT-DXd関連ILDの臨床的・画像的特徴を検討した。その結果、多くは軽度~中等度で副腎皮質ステロイドに反応した一方、びまん性肺胞傷害(DAD)パターンは死亡例に多くみられた。本研究結果は、The Oncologist誌オンライン版2026年9月7日号に掲載された。

 本研究は、T-DXd投与を受けた日本人の乳がんおよび胃がん患者を対象とした市販後全例調査の事後解析である。T-DXd関連ILDが疑われた症例を、独立した判定委員会が評価、解析した。評価項目は、患者背景、臨床的特徴、画像所見、発症時期、治療介入、発症から最長12ヵ月まで追跡した転帰などであった。

 主な結果は以下のとおり。


・T-DXdが投与された患者は2,801例で、内訳は乳がん1,731例、胃がん1,070例であった。このうち、T-DXd関連ILD疑いの421例が判定委員会で評価され、381例がT-DXd関連ILDと判定された(乳がん278例、胃がん103例)。
・T-DXd関連ILDと判定された381例の年齢中央値は65.0歳、女性が75.1%、喫煙歴を有する患者は28.3%であった。
・ILDは観察期間を通じて発症しており、T-DXd開始後12ヵ月以降の死亡例も含まれていた。明確な発症時期の集中はみられず、発症までの期間はCTCAE Grade間で差を認めなかった。
・画像パターンは、器質化肺炎が67.7%と最も多く、次いで過敏性肺炎14.2%、DAD 12.6%であった。
・最悪時のCTCAE GradeはGrade1/2が78.2%を占め、多くは軽度~中等度であった。
・Grade5のILDは30例(7.9%)に発生した。Grade5症例で最も多い画像パターンはDADで、30例中26例に認められた。
・全体の回復割合は83.5%であった。副腎皮質ステロイドは54.6%に使用され、そのうち79.3%で効果が認められた。
・DADパターンの7例では、高用量副腎皮質ステロイドおよび追加免疫抑制薬による治療が有効ではなかった。

 本研究結果について著者らは、日本人の乳がんおよび胃がん患者におけるT-DXd関連ILDの多くは軽度~中等度で副腎皮質ステロイドに反応したが、DADパターンは死亡率の高さと関連していた、とまとめた。また、致死的なT-DXd関連ILDを抑制するためには、慎重なモニタリング、早期認識、速やかな副腎皮質ステロイド治療が重要であると述べている。

(ケアネット 杉崎 真名)


【原著論文はこちら】

Fujiwara Y, et al. Oncologist. 2026 Sep 7. [Epub ahead of print]

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制吐目的のオランザピン、糖尿病患者にも厳格管理下で投与可能へ/日本癌治療学会

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 2026年8月25日、日本癌治療学会制吐薬適正使用ガイドライン改訂ワーキンググループ(以下、WG)は、「制吐目的としてのオランザピン投与時の血糖管理」について、ガイドライン速報版として公開した。同日に厚生労働省から添付文書の改訂指示が発出され、経口薬のオランザピンについては、警告が新設されると同時に禁忌の項が改訂された。

 同ワーキンググループの安部 正和氏(浜松医科大学医学部産婦人科)は、本公表に至る経緯や臨床現場への期待について、以下のように本稿へコメントを寄せている。

 「私と国立がん研究センター中央病院薬剤部の橋本 浩伸先生、矢内 貴子先生が中心となってシスプラチンレジメンを対象に行ったJ-FORCE試験、乳がんのAC療法を対象に日本で行われたJTOP-B試験、米国で行われたALLIANCE試験の3試験によって、オランザピンを含む4剤併用療法は、日本・米国・欧州のガイドラインにて、高度催吐性化学療法に対する標準制吐療法になりました。これまで日本でのみ糖尿病患者への投与が禁忌であったことから、国内の糖尿病患者さんだけがオランザピンを含む制吐療法を受けることができませんでした。

 この臨床課題について、私と橋本先生は2年前に、日本がんサポーティブケア学会のCINV部会のミッションとしてオランザピンの糖尿病患者への投与禁忌解除を掲げ、活動を開始しました。CINV部会および制吐薬適正使用ガイドラインの関係者からの協力もいただき、オランザピンの治験データ、国内で行われたオランザピン5mgを含む制吐療法を検証した第III相試験の血糖値データ、オランザピンを使用した国内外のランダム化比較試験の文献、海外のオランザピンの添付文書、教科書的記載などを調査し、厚生労働省医薬局医薬安全対策課と医薬品医療機器総合機構(PMDA)の方と安全な使用条件について検討を重ね、ようやく今回の添付文書に至りました。

 抗がん剤に伴う悪心・嘔吐は患者さんがつらいだけではなく、コントロールが悪いと生命予後が短くなることが示されています。日本の糖尿病患者さんの制吐療法においてオランザピンが使用できることになったことは非常に喜ばしいことである一方で、安全に使用できることが非常に重要です。がん治療に関わる医療者の皆さまにおかれましては、WGが発出したガイドライン速報版の内容を十分確認の上、安全かつ適正な使用をお願いいたします」

添付文書の改訂点

【警告】
<抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)>
糖尿病又はその既往のある患者へ本剤を投与する場合には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合以外は投与しないこと。また、本剤投与前及び投与期間中は、毎日頻回に血糖値のモニタリングの管理を行い、本剤投与後も血糖値が安定するまではモニタリングを継続するなど患者の状態を継続的に観察するとともに、投与期間を通じて、緊急時に十分に対応できる体制を整えた上で投与すること。

【禁忌】
糖尿病の患者、糖尿病の既往歴のある患者

<統合失調症、双極性障害における躁症状及びうつ症状の改善>
糖尿病の患者、糖尿病の既往歴のある患者

厳格な血糖管理と入院管理の徹底

 今回示された臨床管理の主なポイントは以下のとおり。

・入院治療の適応:糖尿病またはその既往のある患者に制吐目的でオランザピンを投与する場合、血糖コントロールが安定していることを確認のうえ、入院管理で化学療法を行う。外来治療が可能な化学療法(AC療法や中等度催吐性化学療法など)であっても、高度催吐性リスクであるシスプラチンを含む化学療法と同様に入院管理で実施する。

・事前コンサルト:化学療法前の検査で糖尿病が判明した場合や血糖コントロール不良例では、あらかじめ内分泌内科・糖尿病内科へコンサルトを行い、十分なコントロールを得た上で治療を開始する。

・血糖管理:日常臨床で行われているスライディングスケール(毎食前±眠前の1日3〜4回の血糖測定)を用いた厳格な血糖管理を行う。

・入院(投与)期間と退院基準:標準制吐療法のオランザピン投与日数(1〜4日目の4日間)を遵守し、追加投与が必要な場合も入院管理を継続して必要最低限にとどめる。オランザピンおよび併用するデキサメタゾンの投与期間・投与量に留意し、食前血糖値200mg/dL未満など血糖値が安定した状態を確認して退院を計画する。

・退院後の外来管理・緊急対応:自己血糖測定(SMBG)患者での食前血糖値200mg/dL以上の継続・300mg/dL以上の高血糖時、SMBGが保険診療上できない患者での口渇・多尿・倦怠感などの発現時には、夜間・休日を問わず受診している医療機関に連絡・受診するよう指導を徹底する。カルテへの明確な記載や院内マニュアルを整備し、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の安全管理体制と同様に、多科・多職種による安全管理体制の構築を推奨する。

禁忌解除の要望が実現

 多元受容体拮抗薬(MARTA)で非定型抗精神病薬のオランザピンは、発売開始後の公知申請によって、2017年に抗悪性腫瘍剤(シスプラチンなど)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)に対する効果的な制吐薬として承認されている。また、2023年10月に改訂された『制吐薬適正使用ガイドライン第3版』では急性期・遅発期ともに有効な新たな制吐薬として使用可能になった点などが反映されたことで、現在では臨床で広く浸透している。その一方で、重大な副作用として著しい血糖値の上昇や糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡等が報告されていたことから、「糖尿病またはその既往のある患者には投与禁忌」とされ、糖尿病歴のある患者が化学療法を行う際に、制吐対策が限定される状況であった。しかし、これまで報告されている本薬の有効性を検証した臨床試験において、「重篤な高血糖関連事象は報告されていない」「本薬を含む4剤併用の制吐療法は、国内外のガイドラインにおいて高度催吐性リスクの化学療法に対する標準制吐療法になっているが、本邦のみ本薬が糖尿病患者に対して禁忌」であることを踏まえ、WGにより禁忌解除の要望書を2026年4月9日付けで厚生労働省に提出。医薬品医療機器総合機構(PMDA)の評価でも支持を受け、今回、「抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)」の効能に対しては、禁忌を解除し、慎重投与可能と判断されるに至った。

 今回の速報版は、ガイドライン上の既存の推奨内容を変更するものではないが、糖尿病またはその既往のある患者であっても、適切な厳格管理体制を整えることでオランザピンを制吐目的で安全に投与・活用できるようにするための具体的な管理手順および留意点を取りまとめたものである。

薬物動態と臨床試験データ

 さらに速報版では、制吐目的での短期投与に関する薬理学的データや臨床試験成績も提示されている。オランザピンの半減期は約33時間であり、定常状態に達するには約1週間(約163時間)を要するため、標準的な4〜6日間の連続投与時点では血中濃度が上がり切っていない状態にある。また、日本国内で実施された各種ランダム化比較試験(J-FORCE試験、JTOP-B試験、肺がんカルボプラチン試験など)のデータにおいて、制吐薬としてオランザピンを短期間併用した群と対照群との間で、Grade3〜4の重篤な高血糖発現率に大きな差は認められていない。

 制吐目的での短期投与における高血糖関連有害事象のエビデンスがまだ十分に集積されていない現状を踏まえ、本速報版では臨床現場でより安全にオランザピンを使用するための慎重なリスク管理体制が提示された形だ。

(ケアネット 土井 舞子)

【参考文献・参考サイトはこちら】

日本癌治療学会:制吐目的としてのオランザピン投与時の血糖管理について(制吐薬適正使用ガイドライン速報版)

厚生労働省:オランザピンの「使用上の注意」の改訂について(令和8年7月29日 医薬安全対策課)

日本癌治療学会:がんちスタジオ

Hashimoto H, et al. Lancet Oncol. 2020;21:242-249.

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卵巣予備能がHR+/HER2-乳がんの術後化学療法ベネフィットを予測/Ann Oncol

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 21遺伝子アッセイ(オンコタイプDX)の再発スコアが25以下のHR+/HER2-乳がん患者を対象に、術後の内分泌療法と内分泌療法+化学療法(化学内分泌療法)を比較した第III相RxPONDER試験の55歳未満を対象とするバイオマーカー解析の結果、超高感度アッセイを用いて測定した卵巣予備能の指標である抗ミュラー管ホルモン(AMH)が化学療法追加のベネフィットを予測し、AMHが低値の患者では化学療法追加によるベネフィットが認められなかったことを、米国・エモリー大学のKevin Kalinsky氏らが示した。Annals of Oncology誌2026年9月号掲載の報告。

 RxPONDER試験では、リンパ節転移1~3個、再発スコアが25以下のHR+/HER2-乳がん患者を、術後に内分泌療法単独を受ける群または化学内分泌療法を受ける群に無作為に割り付けた。その結果、閉経後患者においては化学療法追加のベネフィットは認められなかった一方、閉経前患者ではベネフィットが示されている。しかし、同試験では閉経前患者における卵巣機能抑制の併用率が低く、化学療法によるベネフィットのかなりの部分が化学療法そのものの抗腫瘍作用ではなく、化学療法に伴う卵巣機能抑制を介した内分泌学的作用によるのではないかと示唆されている。そこで本解析では、化学療法追加によるベネフィットを予測する因子をさらに検討するため、卵巣予備能に関連するホルモンを評価した。

 解析対象は、55歳未満で治療前の血清検体が利用可能であった1,556例とした。治療前の血清エストラジオール、プロゲステロン、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、AMH、インヒビンB(INHB)を盲検下で評価した。評価項目は無浸潤疾患生存期間(iDFS)および無遠隔再発生存期間(DRFS)とし、再発スコアで調整したCox回帰モデルを用いて、治療割り付けと各ホルモン指標の交互作用を検討した。

 主な結果は以下のとおり。

・解析対象1,556例のうち、閉経前は1,221例、閉経後は335例であった。追跡期間中央値は8.0年。
・解析対象全体では、内分泌療法単独群と比較して、化学内分泌療法群ではiDFSが有意に改善した。年齢別では、50歳未満では化学内分泌療法の有意なベネフィットが認められたが、50~54歳では有意ではなかった。ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)は以下のとおり。
 -解析対象全体 HR:0.65、95%CI:0.50~0.85、調整後のp=0.0066
 -50歳未満 HR:0.47、95%CI:0.33~0.67、調整後のp=0.0004
 -50~54歳 HR:1.02、95%CI:0.68~1.54、調整後のp=0.95
・閉経前患者では化学内分泌療法によるiDFSのベネフィットが認められたが、閉経後患者では認められなかった。
 -閉経前 HR:0.55、95%CI:0.41~0.75、調整後のp=0.0009
 -閉経後 HR:1.18、95%CI:0.67~2.07、調整後のp=0.72
・AMH値と治療割り付けの交互作用は有意であり(調整後のp=0.0034)、AMH値によって化学療法追加による治療効果が異なることが示された。
・AMH値10pg/mL以上の群では、化学内分泌療法によりiDFSが有意に改善し、5年iDFSの絶対利益は8.5%であった。AMH値10pg/mL未満の群では化学療法の追加による有意なベネフィットは認められなかった。
 -AMH値10pg/mL以上 HR:0.46、95%CI:0.33~0.65、調整後のp=0.00012
 -AMH値10pg/mL未満 HR:1.27、95%CI:0.81~1.99、調整後のp=0.47
・DRFSについても同様であり、AMH値10pg/mL以上の群では化学内分泌療法のベネフィットが認められ、AMH値10pg/mL未満の群では認められなかった。
・INHB値12pg/mL以上の群ではiDFSで化学療法追加のベネフィットが認められ、DRFSでも同様の傾向がみられた。一方、INHB値12pg/mL未満群ではiDFSのベネフィットは認められなかった。
・エストラジオール、プロゲステロン、FSH値は化学内分泌療法のベネフィットを予測する因子ではなく、LH値は弱い予測能を示すにとどまった。

 研究グループは「55歳未満の患者を対象とする本解析において、ベースラインのAMH値が10pg/mL未満の参加者は化学内分泌療法による恩恵を受けなかった。AMH値は、閉経状態、年齢、その他のホルモン値よりも、化学内分泌療法の有効性を示す有意に優れた指標であった。適切な超高感度アッセイを用いた卵巣予備能の測定は、閉経状態が不明確な患者において、化学療法を安全に省略できる患者の特定に役立つ可能性がある」とまとめた。

(ケアネット 森)


【原著論文はこちら】

Kalinsky K, et al. Ann Oncol. 2026;37:1220-1229.

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乳がん治療の変遷と今後【温故知新30年】

提供元:CareNet.com

2026年、ケアネットは創立30周年を迎えました。30年で医療はどう変わったのか。第一人者が振り返る各疾患領域の進歩と、今後への示唆。



講師紹介

岩田 広治 ( いわた ひろじ ) 氏
名古屋市立大学大学院医学研究科 臨床研究戦略部 特任教授


30年間における乳がん患者数の急増と社会現象

 30年前(1996年)、私は名古屋市立大学外科医局で乳腺内分泌外科の助手をしていた。その当時、大学の乳がん症例は年間30例ほどであり、着任したばかりの胸部外科の教授との面談で、「将来は乳腺診療一本でやっていきたい」と話をしたら、「乳腺を専門にするだけではやっていけないよ」と諭された。その後、乳がん患者数の急増により、生涯で女性の8人に1人が乳がんになり、年間の新規乳がん患者数は10万人を超える時代になった。

 乳がんに対する学会活動も、30年前は日本乳癌学会の黎明期であり(1993年が第1回学術総会)、日本臨床腫瘍学会はまだ産声を上げていなかった。対策型乳がん検診にマンモグラフィ(MMG)が導入されたのは2000年であり、30年前は視触診のみ行われていた。しかし、患者数の増加とともにさまざまな市民活動が始まった。MMG検診普及事業と連携して海外で行われていたピンクリボン運動が2002年に朝日新聞主催で開始された。

 MD Andersonなど米国のCancer Centerから導入されたチーム医療の考え方は瞬く間に日本中に広がり、今では常識的な体制になっている。2013年に女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)でリスク低減乳房切除(RRM)を受けたことをきっかけに、HBOCの認知度が高まり、それとともに学会活動(2016年 日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構[JOHBOC]設立)も始まった。HBOC診断のためのBRCA遺伝学的検査、RRM、リスク低減卵巣卵管切除(RRSO)の保険適用などは日本独自の画期的な取り組みである。がん医療の進歩は治療だけでなく、取り巻く社会環境、医療環境も大きく変化したと感じる。

30年前の標準治療(架空症例)

症例
60歳女性、しこりを自覚して外科を受診
診断
視触診、MMG、超音波検査でしこりを認識し、摘出生検で乳がんと診断
治療(手術)
腋窩リンパ節腫大はないが、乳房全摘術+腋窩郭清術を施行
病理結果
浸潤径:2cm、腋窩リンパ節転移:1/25、ER陽性・PgR陽性(HER2測定は標準的に行われていなかった)
治療(薬物療法)
術後は再発予防のために、AC療法(アドリアマイシン+エンドキサン)4回点滴投与し、その後TAMを2年間内服。術後は1年ごとにCT、骨シンチなどで再発チェックを行う

30年間の局所治療の進歩

1)手術療法の進歩

 30年前は、乳がんであれば全例腋窩郭清術が行われ、多くの患者さんが術後上腕浮腫の合併によりQOLが低下した。革新的な進歩はセンチネルリンパ節生検(SLNB)の導入である。米国で開始されたSLNBの概念は1998年に日本へ紹介され、2003年に先進医療として開始、2010年に保険承認された。その後SLNBの適応が少しずつ広がり、一部の症例ではSLNB陽性でも郭清しないことが標準治療となっている。

 乳房に対する手術療法の変化は、1990年代後半から2000年代前半にかけて乳房温存療法が急速に広がったことだ。背景には乳房部分切除+放射線治療の有効性が国際的に確立したこと、ガイドラインの普及、検診MMGの導入で小さながんが発見されるようになったことが挙げられる。同時に、マスコミは温存率の高い病院を『いい病院』とするようなキャンペーンを打ち上げた。これにより各病院は温存率を上げるために、無理をして乳房を残し(温存率90%の病院もあった)、結果として断端陽性症例が増加し、乳房内再発例が増えたことは負の歴史である。その後は全摘+再建術の普及により、乳房温存率は適切な数字に落ち着いている。

 再建手術の普及により、治す時代から整容性も追求する時代になった。2013年に日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会(JOPBS)が設立され、同年乳房再建用シリコンインプラントが保険適用となった。2006年に保険適用になった自家組織(腹直筋皮弁、広背筋皮弁など)による乳房再建とともに、乳房再建術が標準治療として認知される時代である。

2)放射線治療の進歩

 乳がん患者への放射線治療は、温存術が広まると同時に全国に普及した。乳房を残す手術をした場合には、残存乳房に放射線照射をすることが標準治療である。またリンパ節転移が4個以上の再発ハイリスク患者では、胸壁+鎖骨上照射(PMRT)で生存率の改善が認められ、放射線照射を受ける患者数は増加した。30年間、放射線治療方法自体に大きなパラダイムチェンジはないが、術後照射回数が25回から16回への過分割照射のエビデンスが出て、回数を減らす方向に向かっている。転移・再発治療における放射線治療については、脳転移に対する体幹部定位放射線治療(SBRT)や、重要臓器を避けて照射する強度変調放射線治療(IMRT)など技術の進歩によって、痛みの緩和をベースにさまざまな場面で放射線治療が導入されることが多い。

3)全身薬物療法の進歩

 この30年で薬物療法の革新的な進歩には目を見張るものがある。30年前に使えた薬は抗がん剤が数種類、ホルモン剤はタモキシフェン、分子標的薬という概念はなく、乳がんをサブタイプで考えることもなかった。この30年で使用可能になった薬剤を示す

 周術期に全身薬物療法を行うタイミングも、2000年代前半から術前化学療法の臨床試験が国内外で活発に行われた。得られた多くの知見によって、より個別化した適応が現在の標準治療と位置付けられる。サブタイプに分けて考え、ER陽性HER2陰性のLuminal typeは原則手術先行であり、手術の結果で得られた臨床病理学的所見とともに、多遺伝子アッセイ(Oncotype DX)によって化学療法の必要性を判断する時代である。ER陰性HER2陽性のHER2 typeやtriple negative(TN)typeでは、術前化学療法が積極的に行われる。術前化学療法後の病理診断でpCRであった症例の予後はきわめて良好であり、non-pCR症例では予後の改善を目的に、術後追加治療(HER2 typeではT-DM1、TN typeではカペシタビン)を加えるのが標準治療である。

 転移再発乳がん治療では、新規薬剤開発と並行して生存期間の延長が顕著である。30年前、HER2 typeの再発後生存期間は2年に満たなかったのが、多くの抗HER2薬の導入により今では6年を超える生命予後が期待できる。なかには完治したのではないかと思われるケースも存在する。Luminal typeは長くホルモン治療単独の時代が続いたが、CDK4/6阻害薬が承認され、バイオマーカーによる薬剤選択が標準化したことで今後の生存期間延長が期待できる。TN typeでは免疫チェックポイント阻害薬、ADC(抗TROP-2 ADC、T-DXd)の開発で抗がん剤しか手段がない状態が改善した。

私にとってのパラダイムシフト・イノベーション

 2002年に始まったHERA study(術後トラスツズマブの有効性を評価する国際共同治験)へ参加したこと、患者登録とASCOでの発表(2005年)でスタンディングオベーションを現場で体験したこと、そしてNEJM誌への共著者として掲載されたことで人生が変わった。臨床研究(試験)による標準治療構築、新薬開発の道は今も続き、JCOG乳がんグループ代表を2010年から14年間務めた。その間、並行して多くの企業とともに日本に導入された数々の新薬開発にも携わり、たくさんの仲間とともに標準治療を変える臨床試験を立案、実行してきたことはかけがえのない財産である。

次の5年で乳がん診療はどう変わっていくか

 最も注目しているのはMRD(minimal residual disease)研究である。周術期薬物療法は、臨床病理学的因子やOncotype DXに基づき、再発リスクを鑑みて薬剤選択をしてきた。しかし、無治療でも再発しない方が多数存在することも事実である。残念ながら今まではそれを予測できないために、多くの患者さんに治療が行われてきた。今、高感度MRD assayにより、術後MRD陰性の方の予後はきわめて良好なことが判明しつつある。術前治療の効果判定、術後の予後予測、再発予防治療の選択などにMRD assayが導入される時代が、すぐそこまで来ている。

 もう一つの注目は人工知能(AI)の導入である。画像診断、病理診断ではAI導入による臨床試験の結果(positive)も報告され、一般診療に導入される夜明け前の状態だ。さまざまな場面での薬剤選択も、gene signatureで予測していた時代から、膨大な遺伝子情報から導き出されたアルゴリズムによるAI pathologyで、薬剤の必要性を判断する時代が来ると予想する。安価で簡便な方法であり、技術進歩による歩みは止まらないだろう。

最後に、世界の中での日本を俯瞰した時、東アジア各国の台頭により日本のプレゼンスが弱くなっている。新薬開発分野、標準治療構築のための国際協働の枠組みに日本がはじかれることのないように、医療体制・医学教育全体の見直しが急務だと考えている。

がんの既往歴/家族歴のある女性、原発性肺がんリスク高い

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 喫煙歴にかかわらず、がんの既往歴や家族歴を有する成人女性では、新規に原発性肺がんを発症するリスクが有意に高まることが、米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)East BayのCarissa A. Villanueva氏らによる大規模後ろ向き研究で明らかになった。JTCVS Open誌2026年8月号に掲載。

 本研究は、Kaiser Permanente Northern Californiaの2010年1月1日〜2022年12月31日の電子健康記録データを用いた。研究開始時点で肺がんの既往がない18歳以上の成人女性で、期間中に1年以上の加入歴を有する約280万例を抽出。喫煙状況、人種/民族、年齢、Charlson併存疾患指数、近隣困窮指数で調整したターゲット最大尤度推定法を用い、がん既往歴または家族歴を有する患者における新規原発性肺がんの有病率比(PR)を算出した。

 主な結果は以下のとおり。

・選択基準を満たした成人女性280万例が解析に組み入れられた。
・何らかのがん既往歴がある女性では、原発性肺がんの有病率が88%増加した(PR:1.88、95%信頼区間[CI]:1.84〜1.92)。
・がんの家族歴がある女性においても、原発性肺がんの有病率増加が認められた(PR:1.23、95%CI:1.20〜1.26)。
・とくに、乳がん、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんの既往歴がある女性において、その後の原発性肺がん有病率増加と有意な関連が示された。

 著者らは、「がんの既往歴および家族歴は、将来の原発性肺がん発症リスク上昇と強い関連を示したことから、今回の対象集団においては、喫煙歴だけでは新規原発性肺がんの臨床的疑いを判断するには不十分であることが示唆される。肺がんスクリーニングツールの適用に関するガイドラインの再評価および拡充が賢明だろう」と提言している。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Villanueva CA, et al. JTCVS Open. 2026;32:101823.

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