cN0乳がんのセンチネルリンパ節生検省略、リアルワールドで見逃されるpN+の割合は?

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 INSEMA試験やSOUND試験の結果から、乳房温存術を受けるHR+/HER2-の臨床的腋窩リンパ節転移陰性(cN0)早期乳がんの一部の患者では、センチネルリンパ節生検(SNB)は安全に省略可能であるとされつつある。しかし、リンパ節転移の有無は術後治療の選択に極めて大きな影響を及ぼすため、SNB省略のde-escalation戦略の妥当性については依然として議論の余地がある。そこで、Nikolas Tauber氏(ドイツ・University Hospital Schleswig-Holstein)らは、INSEMA試験の基準を満たす患者にSNBを行い、その病理学的結果や術後治療への影響を解析することで、SNB省略時の影響をリアルワールドで推計した。その結果がEuropean Journal of Surgical Oncology誌2025年8月14日号に掲載された。

 本研究は、ドイツの大学の乳がんセンター3施設を対象とした後ろ向き多施設コホート研究であり、2020~24年にHR+/HER2-乳がんと診断され、INSEMA試験の基準(cT1、グレード1~2、50歳以上、cN0、乳房温存術を施行)を満たす867例を解析した。病理学的リンパ節転移陽性(pN+)の割合、術後に上方修正された病期やグレードの割合、術後治療への影響を評価した。

 主な結果は以下のとおり。

・患者の内訳は、50~60歳が305例、61~70歳が275例、71~80歳が236例、80歳超が51例であった。
・SNBによってpN+と診断されたのは124例(14.3%)であった。
・微小転移と孤立性腫瘍細胞を除外した場合、SNBを省略すると見逃される転移の割合は10.5%であった。この割合は、INSEMA試験やSOUND試験とほぼ同等であった。
・pN+は、若年、腫瘍径が大きい、Ki67値が高い患者で多かった。
・pN+となった124例のうち101例で化学療法やCDK4/6阻害薬、放射線照射などの術後治療が新たに考慮された。
・SNBで病期やグレードが術後に上方修正された割合は18.8%であり、もしSNBを省略していた場合には2次的にSNBが必要になった可能性があった。
・CDK4/6阻害薬の適応症例における再発予防に必要な手術数は、年齢と腫瘍径によって大きく異なり、111~333例に1例であった。

 これらの結果より、研究グループは「一部の患者ではSNBの省略は安全であると考えられる。しかし、今回のリアルワールドデータの解析では、遺伝子発現プロファイルなど他の予後予測ツールを併用しない限り、腋窩リンパ節の評価は依然として個別の治療方針の決定に重要であることを示唆している」とまとめた。

(ケアネット 森)


【原著論文はこちら】

Tauber N, et al. Eur J Surg Oncol. 2025;51:110392.

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T-DXd、化学療法未治療のHER2低発現/超低発現の乳がんに承認取得/第一三共

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 第一三共は2025年8月25日、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd、商品名:エンハーツ)について、日本において「ホルモン受容体陽性かつHER2低発現又は超低発現の手術不能又は再発乳癌」の効能又は効果に係る製造販売承認事項一部変更承認を取得したことを発表した。

 本適応は、2024年6月開催の米国臨床腫瘍学会(ASCO2024)で発表された、化学療法未治療のホルモン受容体陽性かつ、HER2低発現またはHER2超低発現の転移再発乳がん患者を対象としたグローバル第III相臨床試験(DESTINY-Breast06)の結果に基づくもので、化学療法未治療のHER2低発現またはHER2超低発現の乳がんを対象に承認された日本で初めての抗HER2療法となる。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


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転移乳がんへのT-DXd後治療、アウトカムを比較

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 転移乳がん(MBC)に対し、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)投与後の治療選択について十分なデータはない。米国・ダナ・ファーバーがん研究所のPaolo Tarantino氏らによる、電子カルテ由来のデータベースを用いた後ろ向き解析の結果、T-DXd投与後の追加治療(後治療)によるアウトカムは、MBCのサブタイプおよび投与された治療レジメンによって有意に異なることが明らかになった。また、T-DXd直後にサシツズマブ ゴビテカン(SG)を使用した場合、すべてのサブタイプで実臨床での無増悪生存期間(rwPFS)が比較的短く、T-DXdとの一定程度の交差耐性の可能性が示唆された。Journal of the National Cancer Institute誌オンライン版8月14日号掲載の報告。

 本研究では、米国における全国規模の電子カルテ由来の匿名化データベースを用いて、2019年12月~2023年9月にT-DXd治療を開始し、T-DXd投与後に追加治療を受けた転移乳がん(MBC)患者のデータをレビューした。T-DXd投与前に一度でもHER2陽性であればHER2陽性、T-DXd投与前に一度もHER2陽性でなければHER2陰性として分類した。T-DXd後の治療におけるrwPFSおよび全生存期間(OS)を、カプランマイヤー法およびログランク検定を用いて比較した。

 主な結果は以下のとおり。

・T-DXd投与後に追加治療を受けた患者793例を特定した。
・T-DXd投与後の追加治療のアウトカムはサブタイプにより有意に異なっていた(p<0.001)。各サブタイプのrwPFS中央値は以下のとおり:
【HER2陽性MBC】4.6ヵ月
【ホルモン受容体(HR)陽性/HER2陰性MBC】3.4ヵ月
【トリプルネガティブMBC】2.8ヵ月
・また、T-DXd投与後の追加治療のアウトカムは治療レジメンによっても有意に異なっていた(p<0.001)。各サブタイプおよび各レジメンごとのrwPFS中央値は以下のとおり。
【HER2陽性MBC】内分泌治療レジメン:6.7ヵ月、SG:2.3ヵ月
【HR陽性/HER2陰性MBC】エリブリン:5.9ヵ月、SG:2.5ヵ月
【トリプルネガティブMBC患者】ほとんどの治療レジメンでrwPFSが3ヵ月以下と予後不良。SG:3ヵ月、エリブリン:2ヵ月、多剤併用化学療法:2.5ヵ月

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【原著論文はこちら】

Tarantino P, et al. J Natl Cancer Inst. 2025 Aug 14. [Epub ahead of print]

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転移乳がんへのCDK4/6阻害薬、1次治療と2次治療でOSに差なし~メタ解析

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 CDK4/6阻害薬は、HR+/HER2-転移乳がんに対して、1次治療での使用が2次治療での使用より無増悪生存期間(PFS)の改善が認められたことから、1次治療としてガイドラインで推奨されている。一方、1次治療からの使用は累積毒性とコストの増加に関連することがSONIA試験で示唆されており、1次治療と2次治療の生存期間を比較したデータは少ない。今回、ブラジル・サンパウロ大学のLis Victoria Ravani氏/米国・マサチューセッツ総合病院のZahra Bagheri氏らがメタ解析を行った結果、2次治療での使用は1次治療からの使用と比べ、PFS2(無作為化から2次治療で進行するまでの期間)は悪化したが、全生存期間(OS)は同等であることが示唆された。Breast Cancer Research誌2025年8月13日号に掲載。

 本研究は、PubMed、Embase、Cochrane、学会プロシーディングを検索し、CDK4/6阻害薬による1次治療と2次治療の両方もしくはどちらかを受けた患者を含む観察研究および無作為化試験の系統的レビューおよびメタ解析を行った。1次治療からCDK4/6阻害薬を投与された患者は1次治療群に、1次治療でCDK4/6薬を投与されず2次治療から投与された患者は2次治療群に割り付けた。PFS2とOSをプール解析し、さらに試験デザインによる感度分析も行った。

 主な結果は以下のとおり。

・7,602例を対象とした9件の研究(無作為化試験5件、観察研究4件)が組み入れられ、6,475例(85.1%)が1次治療からCDK4/6阻害薬を投与され、1,127例(14.8%)が2次治療で投与された。
・1次治療群は2次治療群より有意にPFS2が長かったが(ハザード比[HR]:2.08、95%信頼区間[CI]:1.90~2.27)、RCTのみの感度分析では有意差は認められなかった(HR:1.10、95%CI:0.94~1.30)。
・OSは、1次治療群と2次治療群で有意差は認められず(HR:1.09、95%CI:1.00~1.18)、RCTのみの感度分析でも有意差は認められなかった(HR:1.03、95%CI:0.84~1.26)。

 著者らは「本結果は、2次治療から1次治療への治療シフトは毒性とコストは増加するが普遍的に転帰を改善する、という想定に異議を唱えるものである」と結論している。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Ravani LV, et al. Breast Cancer Res. 2025;27:146.

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早期乳がん、5年以上の内分泌療法後にAI投与5年で遠隔再発27%減/Lancet

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 術後内分泌療法を5年以上施行した患者にアロマターゼ阻害薬療法(AIT)を追加で5年間実施することにより、順守率がかなり低かったにもかかわらず、その後の遠隔再発率は約25%減少した。英国・オックスフォード大学のJeremy Braybrooke氏らEarly Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group(EBCTCG)がメタ解析で明らかにした。エストロゲン受容体(ER)陽性早期乳がんの閉経後女性において、5年間のタモキシフェン術後内分泌療法は15年再発率と死亡率を大幅に低下させ、AITはさらに効果的である。研究グループは、少なくとも5年間の内分泌療法後に再発のない女性を対象に、AIT追加の有効性を評価した。著者は、「死亡への影響を直接評価するには、より長期の追跡調査が必要と考えられる」とまとめている。Lancet誌2025年8月9日号掲載の報告。

5年以上の内分泌療法後の患者をAIT追加と追加治療なしに無作為化した試験をメタ解析

 研究グループは、いずれも5年以上のタモキシフェン単独、AIT単独、またはタモキシフェン後AITの投与を完了した閉経後ER陽性早期乳がん患者を、さらに数年間のAITを追加した群(AIT群)と追加治療なし群(無治療群)に無作為化した2010年1月1日より前に開始された試験について、患者個人レベルのメタ解析を行った。

 主要評価項目は、浸潤性乳がんの再発(局所再発、遠隔転移、対側新規発症)、乳がん死亡、その他の原因による死亡、および全死因死亡とし、ITT解析(割り付け順守の有無にかかわらず、年齢、リンパ節転移の有無、試験で層別化し、非関連死時点で打ち切り)によりイベント率比(RR)を算出した。

 1995年12月15日~2014年5月21日に2万5,100例が登録された無作為化試験12件が解析対象となり、このうち適格患者2万2,031例が解析に組み込まれた。

AIT後に5年間のAIT追加で、再発および遠隔再発が最も減少

 AIT群は無治療群と比較して、再発率が27%低下した(RR:0.73、95%信頼区間[CI]:0.67~0.80、p<0.0001)。この低下は、タモキシフェン単独療法歴のある患者のほうがAIT治療歴のある患者より大きく、また、AITを5年追加した試験のほうが2~3年追加した試験より無治療群との差が大きかった。

 AIT治療歴のある患者でAITを5年追加した患者(追加試験開始後の追跡期間中央値:8.1年、四分位範囲:6.0~10.0)では、再発(RR:0.71[95%CI:0.61~0.81、p<0.0001]、診断後5~15年のリスク:11.6%vs.15.2%)、ならびに遠隔再発(0.73[0.61~0.88、p=0.0010]、6.6%vs.8.6%)が有意に減少し、乳がん死は有意ではないものの減少した(RR:0.90[0.70~1.15、p=0.40]、4.4%vs.5.0%)。

 腫瘍の特性は、5~15年までの再発率の相対的減少に明確な影響を及ぼさなかったが、AIT 10年間とAIT 5年間の再発率の絶対減少は、リンパ節転移陽性例(リスク:16.3%vs.20.1%)のほうがリンパ節転移陰性例(9.1%vs.11.8%)より大きかった。

 AITの5年間追加により、5年後の骨折リスクが増加した(RR:1.35[95%CI:1.13~1.61、p=0.0009]、4.6%vs.3.4%)。

 割り付けられた治療の非順守率は高かった(プラセボ対照試験の場合に、AIT追加群39.0%vs.プラセボ群37.6%)。

(医学ライター 吉尾 幸恵)


【原著論文はこちら】

Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group (EBCTCG). Lancet. 2025;406:603-614.

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早期乳がんの生存率、乳房温存療法vs.全切除術~単施設9千例で解析

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 米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのMin Yi氏らが、単施設における早期乳がんの初回治療での乳房温存療法(乳房部分切除後に放射線照射)と乳房全切除術について、全生存期間(OS)、無遠隔転移生存期間(DMFS)、局所領域再発(LRR)、乳がん特異的生存期間を比較したところ、同程度であることが示唆された。Annals of Surgical Oncology誌オンライン版2025年8月11日号に掲載。

 本研究は、2000年1月1日~2014年12月31日に初回治療として手術を受けたT1-2、N0-1、M0の乳がん女性8,967例を対象とした。傾向スコアに基づく逆確率重み付け(IPW)を用いて、全コホートおよびサブセット解析(Stageとホルモン受容体の有無の組み合わせ)における生存モデルでの交絡を排除した。

 主な結果は以下のとおり。

・2005年から2013年にかけて、50歳未満における乳房全切除術の割合が39.7%から59.9%(p<0.001)に増加した。
・追跡期間中央値6.1年において、乳房温存療法を受けた患者または乳房全切除術後に放射線照射を受けた患者は、乳房全切除術のみ受けた患者と比較して、乳がん特異的生存期間がわずかに悪化したが、OS、DMFS、LRR率は同等であった。
・サブセット解析では、OS、DMFS、乳がん特異的生存期間において、乳房全切除術のみ受けた患者と乳房温存療法を受けた患者に有意差は認められなかった。
・Stage Iのトリプルネガティブ乳がん患者では、乳房温存療法を受けた患者は乳房全切除術を受けた患者よりもLRR率が低かった(相対リスク:0.5、p=0.02)。

(ケアネット 金沢 浩子)


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Yi M, et al. Ann Surg Oncol. 2025 Aug 11. [Epub ahead of print]

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70歳以上のER+/HER2-高リスク乳がん、術後化学療法追加は有益か/Lancet

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 genomic grade index(GGI)高リスクのエストロゲン受容体(ER)陽性HER2陰性(ER+/HER2-)の70歳以上乳がん女性患者において、術後内分泌療法への化学療法追加は、生存ベネフィットをもたらさず有害事象の増加と関連していた。フランス・Institut CurieのEtienne Brain氏らGERICO&UCBG/Unicancerが第III相無作為化優越性試験の結果を報告した。70歳以上のER+/HER2-浸潤性乳がん女性において、標準的な術後補助療法は内分泌療法である。術後化学療法については、高齢乳がん患者に関するエビデンスは少なく、エビデンスの不足は主にER+患者に関係していることから、研究グループは進展するゲノムシグネチャーの技術がER+乳がん患者における術後化学療法の選択改善に役立つ可能性があるとして、高い予後識別能のエビデンスレベルを有するGGI検査を活用して被験者を絞り込み、本検討を行った。結果を踏まえて著者は、「試験結果は、高齢乳がん患者群における術後内分泌療法への化学療法追加のベネフィット・リスクバランスについて、重要なデータを提供するものであった」とまとめている。Lancet誌2025年8月2日号掲載の報告。

GGI高リスクのER+/HER2-乳がん患者を対象に試験

 試験は、フランスおよびベルギーの84医療施設で、70歳以上、ER+/HER2-の原発乳がんまたは局所再発で、完全切除後かつ全身治療前の女性患者を対象に行われた。GGI検査(Ipsogen開発)は中央判定で、パラフィン包埋腫瘍組織を用いてRT-PCR法により8つの遺伝子を調べて行われた。

 GGI高リスクであった患者を、タキサンベースまたはアントラサイクリンベースの術後化学療法を3週ごと4サイクル、その後に内分泌療法を受ける群(化学療法群)、または内分泌療法のみを受ける群(化学療法なし群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。無作為化では、フレイルの状態(G8スクリーニングツールスコアで14以下vs.14超)、リンパ節転移(転移ありvs.転移なし)、試験施設による層別化も行われた。

 主要評価項目は、全生存期間(OS)であった。

化学療法あり・なし群のOS、統計学的有意差なし

 2012年4月12日~2016年4月14日に1,969例がGGIに関するスクリーニングを受け、高リスクであった1,089例が化学療法群(541例)または化学療法なし群(548例)に無作為化された。年齢中央値は75.1歳(四分位範囲[IQR]:72.5~78.7)、フレイル(G8スコア14以下)が認められた患者は437例(40%)であった。化学療法群では281例(52%)がタキサンベース、148例(27%)がアントラサイクリンベースのレジメンを受けた(111例[21%]は化学療法を受けなかった)。

 追跡期間中央値7.8年(95%信頼区間[CI]:7.5~7.8)において、OS率は、化学療法群が4年時点90.5%(95%CI:87.6~92.8)、8年時点72.7%(67.8~77.0)、化学療法なし群は4年時点89.3%(86.2~91.6)、8年時点68.3%(63.3~72.7)であった(層別化log-rank検定のp=0.2100、ハザード比:0.83[95%CI:0.63~1.11])。OSの絶対群間差は統計学的に有意ではなく、4年時点1.3%ポイント(95%CI:-2.4~5.0)、8年時点4.5%ポイント(-2.1~11.1)であった。

 安全性の解析結果は、化学療法なし群のほうが好ましいものであった。Grade3以上の有害事象が少なくとも1件発現したのは、化学療法なし群では52/548例(9%)であった(治療に関連しない死亡1例含む)が、化学療法群は183/541例(34%)であった(死亡3例、うち1例は治療に関連)。

(ケアネット)


【原著論文はこちら】

Brain E, et al. Lancet. 2025;406:489-500.

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オランザピンの制吐薬としての普及率は?ガイドライン発刊後の状況を聞く

提供元:CareNet.com

 『制吐薬適正使用ガイドライン 2023年10月改訂第3版』が発刊され、約2年が経過しようとしている。改訂による大きな変更点の一つは、“高度催吐性リスク抗がん薬に対するオランザピン5mgの使用を強く推奨する“ことであったが、今現在での医師や医療者への改訂点の普及率はどの程度だろうか。前回の取材に応じた青儀 健二郎氏(四国がんセンター乳腺外科 臨床研究推進部長)が、日本癌治療学会のWebアンケート調査「初回調査結果報告書」とケアネットがCareNet.com医師会員を対象に行ったアンケート「ガイドライン発刊から6ヵ月が経過した現在の制吐薬の使用状況について」を踏まえ、実臨床での実態や適正使用の普及に対する課題を語った。

 なお、日本癌治療学会は『制吐薬適正使用ガイドライン』普及率に関するWebアンケート調査(第2回)』を現在実施しており、医師・看護師・薬剤師の方々からのアンケート回答を募集している(回答期間は2025年8月22日まで)。

発刊6ヵ月後にはオランザピン処方の意義浸透か

 ガイドライン発刊直前に行われた日本癌治療学会による初回調査は、制吐療法の情報均てん化などの検討を考慮するため、論文等で公表されているエビデンスと実診療の乖離(Evidence-Practice Gap:EPG)の程度、職種、診療科、所属施設ごとの結果を解析した。その調査とケアネットが独自で行った調査を比較し、青儀氏は「乳がん治療での制吐薬処方に関し、われわれの初回調査ではFECでの4剤の処方率は16.8%だった。ガイドライン発刊から半年後の(CareNet.com)調査では、90%以上(該当レジメンを使用する全員に処方している:44%、患者背景を考慮して処方している:50%)であることが明らかとなり、オランザピンを推奨する意義が結果となってみられた印象」と話した。全体的にオランザピン処方の際に患者背景を考慮して処方していると回答した割合が多かった理由について、同氏は「糖尿病や耐糖能異常に加え、ふらつきのリスクを有する、睡眠薬を服用中の患者に処方しづいからではないか」とコメントした。

患者の吐き気への不安と医師の処方不安、優先順位を間違えてはいけない

 オランザピンが向精神薬の位置付けで使用される薬剤であることが処方を慎重にさせる要因と考えられるが、実際に処方医が感じる不安は「糖尿病に禁忌」「耐糖能異常」に対してであることが今回の調査から明らかになった。これについて同氏は、「すでに制吐薬としてステロイドを処方している患者はステロイドによる耐糖能異常リスクを有している。また、オランザピンが推奨される以前より化学療法中の耐糖能異常に対するフォロー不足は問題視されていたので、このフォロー体制をしっかり構築したうえで、オランザピン投与を行ってほしい」とコメント。「オランザピンの制吐薬としての有用性の理解が進めばこの問題はクリアできるのではないか」と有害事象の発生を観察、コントロールしながら使用する価値について説明した。ただし、禁忌とされる糖尿病患者への対応については、従来の3剤併用療法を行うことがガイドラインに示されている(CQ1「高度催吐性リスク抗がん薬の悪心・嘔吐予防として、3剤併用療法[5-HT3受容体拮抗薬+NK1受容体拮抗薬+デキサメタゾン]へのオランザピンの追加・併用は推奨されるか?」参照)。

 また、実臨床で多く経験する傾眠への具体的な対応策として、「推奨は5mgではあるが、今後、各施設での使用経験や研究などを基に日本人に適切な投与量を決定していきたい。たとえば、当院ではオランザピン5mgを処方する際、調節できるように2.5mg×2錠で処方している。薬剤師と相談し、副作用を回避しつつ制吐に対する効果が得られるのであれば、2.5mgで処方している」と述べた。

適切な制吐薬治療の普及に必要なツール

 学会側の調査項目の1つである患者報告アウトカム(Patient-Reported Outcome:PRO)の利用状況や頻度については、「PROについてはまだまだ開発途上。臨床研究などでPROを活用して有害事象を拾い上げることについては広がりつつある。さまざまなPROが出てきていることからも、今後の臨床研究に欠かせないツールになっていくことは間違いないだろう。患者の情報が一つひとつアップデートされて入ってくることが重要なポイント」と述べた。その一方で、PROには紙媒体のものとネット環境が必要なものがあるが、後者はセキュリティー問題やコスト面の影響がある。「紙媒体での評価にも十分な有用性が示されている。当院ではICI投与患者の免疫関連副作用(immune-related Adverse Events:irAE)に関する評価ツールを導入しているが、ネット導入のハードルが高いことから紙媒体で実施している」と述べ、「現状、PROが限られた施設や学会でしか利用されていないため、抗がん剤全般での利用を広めていくことが次の課題」と説明し、まずは紙媒体で評価を進めていくことを推奨した。

 最後に同氏は「制吐療法については、単に処方薬を増やすことが良いとは考えていない。次回の改訂までに綿密な使い分けができるようなエビデンスが出てくるのではないか」と締めくくった。

<日本癌治療学会アンケート概要>

調査内容:発刊直前と発刊1年後に同じ項目のアンケートを実施することで、ガイドラインによる診療動向の変化を調査
実施期間:2023年10月2~18日
調査方法:インターネット
対象:日本癌治療学会ほか、各学会(日本臨床腫瘍学会、日本サイコオンコロジー学会、日本がんサポーティブケア学会、日本放射線腫瘍学会、日本医療薬学会、日本がん看護学会)所属の1,276人

《CareNet.comアンケート概要》

調査内容:ガイドライン発刊から6ヵ月経過時点の制吐薬の使用状況について
実施期間:2024年5月23~29日
調査方法:インターネット
対象:20床以上の施設に所属するケアネット会員医師206人(乳腺外科:50人、血液内科:50人、呼吸器科:52人、消化器科:36人、外科:18人)

(ケアネット 土井 舞子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

日本癌治療学会:「制吐薬適正使用ガイドライン」普及率に関するWebアンケート調査(第2回)へのご協力のお願い

日本癌治療学会:『制吐薬適正使用ガイドライン 2023年10月改訂第3版』Web版公開のお知らせ

日本癌治療学会:「制吐薬適正使用ガイドライン2023年10月改訂第3版」Webアンケート調査 初回調査結果報告書

患者報告アウトカム(Patient-Reported Outcome:PRO)評価関連 特設ページ

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HER2+炎症性乳がん、術前アントラサイクリン上乗せは有用か?

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 HER2陽性乳がんの術前療法にアントラサイクリンを追加することによるベネフィットは、無作為化臨床試験において示されなかったが、炎症性乳がんにおける有効性は明らかになっていない。HER2陽性の炎症性乳がんを対象とした後ろ向き研究の結果、術前療法でのアントラサイクリン追加は病理学的完全奏効(pCR)との関連は示されなかったものの、疾患コントロール期間の延長に寄与する可能性が示唆された。米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの岩瀬 俊明氏らによるBreast Cancer Research and Treatment誌オンライン版2025年8月2日号への報告。

 2014~21年に、MDアンダーソンがんセンター、IBCネットワーク関連施設、ダナ・ファーバーがん研究所にて術前療法と胸筋温存乳房切除術を受けたHER2陽性原発性炎症性乳がん患者を対象に後方視的な検討が行われた。主要評価項目はpCR率、副次評価項目には、局所・領域再発までの期間(TLRR)、無イベント生存期間(EFS)、全生存期間(OS)が含まれた。単変量解析および多変量解析が、臨床的に関連する交絡因子を調整したうえで実施された。

 主な結果は以下のとおり。

・対象となった101例のうち、39例はドセタキセル+カルボプラチン+トラスツズマブ+ペルツズマブ併用療法(TCHP)を受け、62例はドセタキセル+トラスツズマブ+ペルツズマブ+ドキソルビシン+シクロホスファミド併用療法(THP-AC)を受けた。追跡期間中央値は3.02年であった。
・pCR率は治療レジメン間で有意差を認めなかった(TCHP:48.7%vs.THP-AC:53.2%、p=0.659)。
・年齢とエストロゲン受容体の状態で調整した多変量ロジスティック回帰分析において、pCR率と治療レジメンの間に関連はみられなかった。
・一方、多変量Cox比例ハザードモデルでは、THP-AC群においてTLRR(ハザード比[HR]:0.279、95%信頼区間[CI]:0.102~0.765、p=0.0131)およびEFS(HR:0.462、95%CI:0.228~0.936、p=0.032)が有意に良好であったが、全生存期間(OS)には差を認めなかった。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【原著論文はこちら】

Iwase T, et al. Breast Cancer Res Treat. 2025 Aug 2. [Epub ahead of print]

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monarchE適格基準を満たす乳がんの予後、サブグループ間でばらつき

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 monarchE試験において、高リスクHR+/HER2-早期乳がんに対する術後内分泌療法へのアベマシクリブ追加のベネフィットが示されているが、高リスク患者のサブグループごとの再発リスクの差異については不明である。そこで、国立がん研究センター中央病院の星野 舞氏らは自施設の症例を対象に、monarchEコホート1の適格基準(リンパ節転移4個以上、リンパ節転移1~3個で腫瘍径5cm超または組織学的グレード3)のサブグループ別に予後を解析したところ、ばらつきがあることが示された。Breast Cancer誌オンライン版2025年7月28日号に掲載。

 本研究は、2017年1月~2019年8月に国立がん研究センターで手術を受けたHR+/HER2-乳がん患者989例を後ろ向きに解析した。患者を非適格群(monarchEコホート1適格基準を満たさない)、N1+>5cm群(腫瘍径5cm超かつリンパ節転移1~3個)、N1+G3群(組織学的グレード3かつリンパ節転移1~3個)、≧N2群(リンパ節転移4個以上)の4群に分け、無浸潤疾患生存期間(iDFS)、遠隔無病生存期間、全生存期間を含む生存アウトカムを、Kaplan-MeierモデルおよびCox比例ハザードモデルを用いて解析した。

 主な結果は以下のとおり。

・5年iDFS率は、非適格群94.7%、N1+>5cm群88.9%、N1+G3群83.3%、≧N2群77.3%であった(p<0.001)。
・多変量解析では、予後不良因子としてN1+G3(ハザード比[HR]:3.38、p=0.005)、≧N2(HR:3.39、p<0.001)、術前化学療法(HR:2.71、p=0.003)が同定された。

 これらの結果から著者らは、「HR+/HER2-乳がんにおける術後療法のベネフィットを最適化するために、個別のリスク評価が鍵となるだろう」とまとめている。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Hoshino M, et al. Breast Cancer. 2025 Jul 28. [Epub ahead of print]

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