乳がん領域におけるがん遺伝子パネル検査後の治療到達割合(C-CATデータ)/日本乳癌学会

提供元:CareNet.com

 2019年のがん遺伝子パネル検査の保険適用から5年が経過したが、治療到達割合の低さ、二次的所見の提供のあり方、人材育成や体制整備、高額な検査費用などの課題が指摘されている。京都府立医科大学の森田 翠氏らは、とくに臨床医として現場で感じる課題として「治療到達割合の低さ」に着目。がんゲノム情報管理センター(C-CAT)に登録されたデータを用いて本人乳がん患者における遺伝子変異の頻度、エビデンスレベルの高い実施可能な治療への到達割合などを解析し、結果を第32回日本乳癌学会学術総会で発表した。

 本研究では、2019年6月~2023年12月のC-CATデータ“Breast”3,900例から葉状腫瘍、血管肉腫などを除いた“Breast Cancer”3,776例を対象とした。臨床医が求める薬剤到達割合の基準を、
・既存のコンパニオン診断では治療に結び付いていないこと
・がん遺伝子パネル検査で初めて治療に結び付くもの
・日本のPMDA承認薬であること
と定義し、さらに基準1(乳がんを対象とした第III相試験が施行されているという従来の基準)と基準2(臓器横断的承認で、第I/II相試験も可とする新しい基準)を設定した。

 主な結果は以下のとおり。

・患者背景は、年齢中央値56歳、40~50代が54.8%を占め、すでにコンパニオン診断によりgBRCA1陽性と診断されていた症例が2.5%、gBRCA2陽性が4.3%であった。パネル検査はFoundationOne CDxが72.3%、FoundationOne Liquid CDxが16.7%、OncoGuide NCCオンコパネルシステムが10.6%で使用されていた。
・検出された遺伝子変異はTP53が58.1%と最も多く、PIK3CAが36.0%、MYCが18.7%、CCNDIが15.0%、GATA3が13.8%と続いた。
・検出頻度上位100の遺伝子変異について2024年の最新状況に基づき薬剤到達割合をシミュレーションした結果、PIK3CAの変異(検出頻度:36.0%)は基準1、2ともに19.0%(推奨される薬剤:カピバセルチブ+フルベストラント)、ERBB2の増幅(13.7%)はHER2陰性乳がんにおいて基準1、2ともに3.4%(抗HER2薬)、PTENの変異と欠失(13.4%)は基準1、2ともに5.0%(カピバセルチブ+フルベストラント)、AKT1の変異(7.9%)は基準1、2ともに3.4%(カピバセルチブ+フルベストラント)、NTRK1の遺伝子融合(2.6%)は基準2のみで0.05%(エヌトレクチニブ、ラロトレクチニブ)、BRAFV600E(1.4%)は基準2のみで0.21%(ダブラフェニブ+トラメチニブ、ダブラフェニブ、トラメチニブ)であった。
・全体として、基準1を満たしたのは28.4%で、うち3.4%はHER2陰性乳がんにおけるERBB2増幅に対する抗HER2薬の適応、25.0%はAKT経路(PIK3CA/AKT1/PTEN)の遺伝子異常に対するカピバセルチブの適応であった。基準2を満たしたのは37.9%で、基準1からの増加分のうち9.2%はTMB-H、MSI-Hに対するペムブロリズマブの適応、0.3%はBRAF V600E、NTRK fusionsに対する各薬剤の適応であった。
・PMDA非承認薬については、企業あるいは医師主導の治験に結び付いた症例は、C-CATデータから検出しうる範囲内で、全体で25例(0.7%)であった。
・AKT経路の遺伝子変異を有する症例は全体で944例(25%)、ER陽性HER2陰性乳がんでは最大で50.9%を占めた。3遺伝子の包含関係については、重複する症例もあるが、PIK3CAが719例、AKT1が129例、PTENが190例であった。

 森田氏は、HER2陰性乳がんにおけるERBB2増幅について、術前化学療法後にHER2が陽転化した割合が同じく3.4%であった過去の報告1)に触れ、偽陰性であった可能性を指摘。またAKT経路の遺伝子異常に対するカピバセルチブの適応については、FoundationOneをCDxで使用する際に現状では臨床現場で課題があること、働き方改革の観点からは、CGP検査の前倒しよりも3因子に限った小パネル検査を開発することを提案。TMB-H、MSI-Hに対するペムブロリズマブ、BRAF V600E、NTRK fusionsに対する各薬剤の適応については臓器横断的承認であり、承認の根拠となった臨床試験に乳がん症例が含まれておらず、臨床医が自信を持ってこれらの薬剤を使えるかというと疑問が残ると考察した。したがって、現状ではCGP検査による薬剤到達割合は、臨床医の実感どおり非常に低いことが本研究により示された。乳がん診療におけるがんゲノム医療の現状は、現場の負担と患者の期待が大きいことに比して薬剤への到達割合に課題が山積しているとし、今後は臨床医を対象に定期的に広くアンケート調査を実施することなどで、現場の状況を反映していくことも必要ではないかとして講演を締めくくった。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【参考文献・参考サイトはこちら】

1)N Niikura, et al. Ann Oncol.2016;27:480-487.

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

重要性を増すゲノム診療科、その将来ビジョン/日本動脈硬化学会

提供元:CareNet.com

 2023年に議員立法として成立した“良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律”、通称「ゲノム医療推進法」。詳細についての議論はこれから進んでいく模様だが、循環器領域においては、2022年度の診療報酬改定により動脈硬化に関連する難病への遺伝学的検査の対象疾患が拡大され、4疾患(家族性高コレステロール血症、原発性高カイロミクロン血症、無βリポタンパク血症、家族性低βリポタンパク血症1[ホモ接合体])の遺伝学的検査を含む複数の脂質異常症疾患が保険適用された。

 そこで今回、厚生労働省のゲノム医療推進法基本計画ワーキンググループ委員である吉田 雅幸氏(東京医科歯科大学遺伝子診療科 科長/日本動脈硬化学会副理事長)が『我が国におけるゲノム医療と動脈硬化性疾患の遺伝子診断』と題し、遺伝子診断で直面する課題や将来展望について、プレスセミナーで話をした(主催:日本動脈硬化学会)。

遺伝診断の将来ビジョン

 もしも、自分の家族が遺伝性大腸がんや遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)、希少な遺伝性疾患に罹患したら、ご自身の遺伝子検査をどの施設で受けられるかご存じだろうか。あるいは患者から遺伝子検査の相談を受けたら、紹介先などを即答できるだろうか-。一般的に遺伝性疾患の多くは原因不明で、仮に遺伝子疾患が疑われても患者はどこの病院や診療科へ受診するのが適切なのかわからないことが多い。吉田氏は「ゲノム医療の現場で生じている診断・治療に至る長い道のり“Diagnostic Odessey”に多くの時間を費やすのは、原因不明な希少疾患や未診断疾患で苦しむ患者やその家族。そのうえ、患者側が遺伝子診断の可能な施設を見つける手立てもない」と述べ、遺伝専門医にすぐにたどり着けない現状が希少疾患や難病などの早期診断・治療の足かせになっているとして問題提起した。

 現在、政府が主導となりゲノム医療等実現推進協議会からタスクフォースを設置し、オールジャパン体制の下でゲノム医療の社会実装のために10万人の全ゲノムを解析して医療へ応用させることを目的とした「全ゲノム解析等実行計画2022」プロジェクトが進められている。策定計画によると、“全ゲノム解析等を実施し、解析結果の日常診療への導入による患者への還元をはじめ、質の高い情報基盤を構築することで、がん・難病などの克服に繋げていくこと”が狙いである。その一方で、100万人規模のゲノム解析研究を目指す英国などの諸外国と水準をそろえていくこと、ゲノム医療の社会実装には、患者・市民参画(Patient and Public Involvement:PPI)や倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues:ELSI)の推進も併せて望まれるため、法令上の措置を含めた具体的な方策が必要とされている。

患者-医療者双方のため、遺伝子検査の実績を可視化させよう

 このプロジェクトを実装していくためには、国民のゲノム医療へのアクセス確保が急務とされることから、同氏は「▽ゲノム医療の標榜診療科の制定、▽ゲノム医療関連人材の育成、▽患者・市民のゲノム医療・研究への参画」の3つを挙げた。たとえば、昨今の診療報酬点数表に収載されている遺伝性疾患数は、約10年前と比較し191疾患と大幅に増加しているにもかかわらず、ゲノム診療科を標榜する施設の開示がなされていない。同氏は「診療実績を可視化させることでその実績が院内でも周知され、診療科間の連携強化につながる。また、現在では診療報酬の請求からDPCへ反映されるため、そうなればNDB(National Database)におけるゲノム医療の利活用促進にもつながる」と強調した。また、日本動脈硬化学会のホームページに掲載されている『家族性高コレステロール血症(FH)の紹介可能な施設等一覧』では、FHに限られるが、遺伝学的検査の実施有無に関して近隣施設を検索することが可能であるため、「患者に外部施設を紹介する際などに参考になる」ことを説明した。

 なお、同氏の所属施設である東京医科歯科大学の場合、遺伝子診療科において内科各科、小児科、外科、腫瘍センター、女性診療科、泌尿器科、耳鼻科が連携を取り、“横串”を通す診療各科横断的な遺伝子診療を実施している。

遺伝専門医や認定カウンセラー不足、他県や他施設で補い合う

 ゲノム医療では、リスクなどがわかるように説明する必要があるため、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラー(非医師)による説明が欠かせない。ところが、前者は総医師数(医療施設従事者数:約31万人)のわずか0.53%(1,894人、2024年2月時点)、カウンセラーに至っては389人、5県で不在、9県で1人ずつしか在籍していないという。「このような人材不足をカバーするために、他県や関連病院との連携もさることながら、オンライン診療を駆使していく予定」と説明し、「将来的な治療との結びつきのためにも遺伝子解析は必要。循環器領域でいうPCSK9の遺伝子変異解析がそれにあたるが、エクソソーム解析(全ゲノムの5%)自体が砂金を探すようなプロジェクトとも言えるため、遺伝性疾患に対する治療薬の開発、遺伝学的検査の保険収載が進みつつあるなか、標榜診療科の策定や人材育成が必要となるだろう」とまとめた。

(ケアネット 土井 舞子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

難病情報センター

厚生労働省:第6回ゲノム医療基本計画 WG

日本動脈硬化学会:家族性高コレステロール血症の紹介可能な施設等一覧

日本動脈硬化学会:家族性高コレステロール血症に関する保険診療での遺伝子解析検査について

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

HER2+乳がん脳転移例へのT-DXd、PFSとOS(TUXEDO-1最終解析)

提供元:CareNet.com

 活動性脳転移を有するHER2+乳がん患者に対するトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)の効果を検討した第II相TUXEDO-1試験において、主要評価項目の頭蓋内奏効率は73.3%と高かったことが報告されている。今回、本試験における無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)の最終解析の結果をオーストリア・ウイーン医科大学のRupert Bartsch氏らが報告した。Neuro-Oncology誌オンライン版2024年6月4日号に掲載。

 本試験は、2020年7月~2021年7月にトラスツズマブまたはペルツズマブの投与歴のあるHER2+乳がんで新たに診断または進行した活動性脳転移を有する15例(女性14例、男性1例)に対して、T-DXdを3週ごとに投与した。主要評価項目は頭蓋内奏効率、副次評価項目はPFS、OS、安全性、QOL、神経認知機能であった。

 主な結果は以下のとおり。

・追跡期間中央値26.5ヵ月の時点で、PFS中央値は21ヵ月(95%信頼区間:13.3~NR)、OS中央値は未到達(同:22.2~NR)であった。
・新たな安全性シグナルはみられなかった。
・Grade3の有害事象で最も多かったのは疲労(20%)、Grade2の間質性肺疾患とGrade3の症候性左室駆出率低下が各1例に認められた。
・QOLは治療期間中維持された。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Bartsch R, et al. Neuro Oncol. 2024 Jul 4. [Epub ahead of print]

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

AKT阻害薬カピバセルチブ、使用のポイントと今後への期待/AZ

提供元:CareNet.com

 アストラゼネカは、カピバセルチブ(商品名:トルカプ)について、「HR+HER2- 転移・再発乳癌治療の新たな一手~世界初のAKT阻害薬カピバセルチブとは?~」と題したメディアセミナーを2024年6月21日に開催した。

 本セミナーでは、がん研有明病院 乳腺センター センター長の上野 貴之氏より、カピバセルチブの臨床成績および遺伝子検査の現状について語られた。

カピバセルチブの作用機序

 閉経後ホルモン受容体(HR)陽性HER2陰性転移・再発乳がんに対する1次内分泌療法として、非ステロイド性アロマターゼ阻害薬とCDK4/6阻害薬の併用が標準的に使用されているが、2次内分泌療法の最適な治療選択は確立されていない。そこでAKT阻害薬カピバセルチブなどの新たな治療選択肢が期待されている。

 カピバセルチブは、PI3K/AKT/PTENシグナル伝達経路にあるAKTを阻害する。AKTの活性化が、がん細胞の生存や増殖を促進し、内分泌療法に対する抵抗性に関与するといわれており、HR陽性乳がん患者ではこれらの遺伝子変異が観察されることから治療ターゲットとして注目されている。AKTを阻害することで経路全体を抑えることができ、ホルモン療法に対する耐性を克服し、がん治療の効果を高めることが期待されている。

カピバセルチブの臨床成績

 アロマターゼ阻害薬を含む内分泌療法後に増悪した、エストロゲン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がん患者を対象とした、第III相試験(CAPItello-291試験)について紹介された。患者背景を見ると、約70%の患者がCDK4/6阻害薬による前治療を受けており、PIK3CAAKT1PTEN遺伝子のいずれかの変異がある患者は約40%、変異がない患者は約56~62%であり、約15%は変異の有無が不明である。

 有効性については、PIK3CAAKT1PTEN遺伝子変異が1つ以上認められる集団において、カピバセルチブとフルベストラント(商品名:フェソロデックス)の併用療法が、フルベストラント単剤療法と比較し、病勢進行または死亡のリスクを50%低下させることが示された(ハザード比:0.50、95%信頼区間:0.38~0.65、p<0.001、無増悪生存期間[PFS]中央値:7.3ヵ月vs.3.1ヵ月)。上野氏は「カピバセルチブ併用群では投与開始2~4ヵ月後のPFSの落ち込みの抑制が見られる。早期の治療効果判定は、医師と患者間の良好な関係を保つうえでも重要なポイントだ」と語った。

 安全性については主に高血糖、下痢、皮膚障害に触れ、「有害事象のマネジメントは早めに対応しながら、必要に応じて休薬や減量による用量調節が重要である。また本剤の用法は4日間連続して服薬し、その後3日間の休薬を1サイクルとしているため、飲み間違えないよう注意が必要だ」と上野氏は解説した。

遺伝子検査の現状

 カピバセルチブを投与するに当たってはPIK3CAAKT1またはPTEN遺伝子変異を有する患者が対象とされる。この遺伝子変異を検出するためには「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」によるコンパニオン診断が必要であるが、コンパニオン診断可能施設は、がんゲノム医療の中核拠点病院や拠点病院、連携病院と限られる。同氏は、「自施設で検査ができない場合は連携病院などに依頼しなければならない点が課題である。今後はより依頼しやすい連携がつくられることが望まれる」と述べている。

(ケアネット 寺井 宏太)


【参考文献・参考サイトはこちら】

日本乳癌学会編. 乳癌診療ガイドライン2022年版 2024年3月WEB改訂版

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

早期TN乳がんの術前・術後ペムブロリズマブ、QOLの評価(KEYNOTE-522)

提供元:CareNet.com

 早期トリプルネガティブ乳がん(TNBC)への術前・術後のペムブロリズマブ追加を検討したKEYNOTE-522試験で、主要評価項目の病理学的完全奏効と無イベント生存期間の有意な改善はすでに報告されている。今回、副次評価項目の患者報告アウトカムにおいてペムブロリズマブ追加による実質的な差は認められなかったことを、シンガポール・国立がんセンターのRebecca Dent氏らがJournal of the National Cancer Institute誌オンライン版2024年6月24日号で報告した。

 本試験の対象は、治療歴のない高リスク早期TNBC患者で、術前にペムブロリズマブ(3週ごと)+パクリタキセル+カルボプラチンを4サイクル投与後、ペムブロリズマブ+シクロホスファミド+ドキソルビシン(またはエピルビシン)を4サイクル、術後にペムブロリズマブを最長9サイクル投与する群と、術前に化学療法+プラセボ、術後にプラセボを投与する群に2対1に無作為に割り付けられた。事前に規定された副次評価項目のEORTC QLQ-C30およびQLQ-BR23について、ベースライン(術前、術後の1サイクル目の1日目)から、完遂率/コンプライアンス率60%/80%以上であった最後の週までの変化の最小二乗平均の群間差を縦断モデルで評価した。

 主な結果は以下のとおり。

・完遂率/コンプライアンス率が60%/80%以上の最後の週は、術前では21週、術後では24週であった。
・術前では、ベースラインから21週目までの変化の最小二乗平均の群間差(ペムブロリズマブ+化学療法[762例]vs.プラセボ+化学療法[383例])は、GHS/QOLが-1.04(95%信頼区間[CI]:-3.46~1.38)、情緒機能が-0.69(同:-3.13~1.75)、身体機能が-2.85(同:-5.11~-0.60)であった。
・術後では、ベースラインから24週目までの変化の最小二乗平均の群間差(ペムブロリズマブ[539例]vs.プラセボ[308例])は、GHS/QOLが-0.41(95%CI:-2.60~1.77)、情緒機能が-0.60(同:-2.99~1.79)、身体機能が-1.57(同:-3.36~0.21)であった。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Dent R, et al. J Natl Cancer Inst. 2024:djae129. [Epub ahead of print]

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

転移乳がんへのCDK4/6阻害薬+内分泌療法の効果、HER2ゼロと低発現で解析(PALOMA-2、PALOMA-3)

提供元:CareNet.com

 CDK4/6阻害薬と内分泌療法の併用は、転移を有するHR+/HER2-乳がんに対する1次治療として推奨されているが、HER2低発現とHER2ゼロのそれぞれに対する効果は不明である。今回、米国・Duke University School of MedicineのHuiyue Li氏らが、PALOMA-2試験とPALOMA-3試験の2次解析で、HR+でHER2低発現またはHER2ゼロの転移乳がんにおけるCDK4/6阻害薬と内分泌療法併用の有効性を評価したところ、HER2低発現患者で無増悪生存期間(PFS)の有意な改善が認められた。一方、HER2ゼロ患者では、前治療の内分泌療法で進行した患者では有意なPFS改善が認められたが、1次治療では有意ではなかった。eBioMedicine誌2024年6月10日号に掲載。

 本解析の対象は、2013年2月から2014年8月までにPALOMA-2またはPALOMA-3試験に登録されたIHCおよび/またはISHの結果が入手可能な17ヵ国のHR+/HER2-乳がんの女性1,186例で、HER2低発現はIHC 1+またはIHC 2+かつISH陰性、HER2ゼロはIHC 0とした。PALOMA-2試験は、HR+転移乳がんの1次治療におけるパルボシクリブ+レトロゾール群とプラセボ+レトロゾール群の二重盲検無作為化比較試験、PALOMA-3試験は、内分泌療法で進行/再発した患者におけるパルボシクリブ+フルベストラント群とプラセボ+フルベストラント群の二重盲検無作為化比較試験である。主要評価項目は、治験責任医師評価によるPFSであった。Kaplan-Meier法およびCox比例ハザードモデルを用いて、HER2ゼロおよび低発現患者における治療とPFSとの関連を推定した。

 主な結果は以下のとおり。

■PALOMA-2試験(HR+転移乳がんの1次治療)
・666例中、HER2ゼロは153例、HER2低発現は513例であった。
・HER2ゼロ集団では、パルボシクリブ+レトロゾール群とプラセボ+レトロゾール群でPFSに有意差は認められなかった(ハザード比[HR]:0.79、95%信頼区間[CI]:0.48~1.30、p=0.34)。
・HER2低発現集団では、パルボシクリブ+レトロゾール群でPFSが有意に改善した(HR:0.52、95%CI:0.41~0.66、p<0.0001)。

■PALOMA-3試験(内分泌療法で進行/再発した患者)
・520例中、HER2ゼロは153例、HER2低発現は367例であった。
・HER2ゼロ集団(HR:0.54、95%CI:0.30~0.95、p=0.034)およびHER2低発現集団(HR:0.39、95%CI:0.28~0.54、p<0.0001)とも、パルボシクリブ+フルベストラント群がプラセボ+フルベストラント群に対して有意にPFSを改善した。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Li H, et al. EBioMedicine. 2024;105:105186.

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

T1N0のHER2+乳がんへの術後トラスツズマブ、生存ベネフィットは

提供元:CareNet.com

 腫瘍径が小さく、リンパ節転移のないHER2陽性乳がん患者において、化学療法の有無にかかわらず術後トラスツズマブ療法が無浸潤疾患生存期間(iDFS)を有意に改善することが、米国臨床腫瘍学会のデータベースを用いた多施設共同後ろ向き解析により示された。米国・オハイオ大学のKai C. C. Johnson氏らによるNPJ Breast Cancer誌2024年6月19日号への報告より。

 米国臨床腫瘍学会のCancerLinQデータベースを用いて、2010~21年の間に診断され、局所療法のみまたは局所療法+術後トラスツズマブ療法(+/-化学療法)を受けたT1a~c、N0のHER2陽性乳がん患者の生存転帰が比較された。主要評価項目はiDFSと全生存期間(OS)であった。

 主な結果は以下のとおり。

・適格基準を満たした1,184例のうち、436例は局所療法のみ、169例は術後トラスツズマブ単剤療法、579例は術後トラスツズマブ+化学療法を受けていた。
・ベースライン特性は3群でバランスがとれており、年齢中央値が60.4(18.9~95.4)歳、ホルモン受容体陽性が54.9%、T1mic:1.2%/T1a:17.1%/T1b:27.4%/T1c:51.9%であった。
・単変量解析の結果、化学療法の有無にかかわらず術後トラスツズマブ療法を受けた場合、iDFS(ハザード比[HR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.57~0.93、p=0.003)およびOS(0.63、0.41~0.95、p=0.023)の有意な改善が認められ、多変量解析においても有意な改善が認められた。
・3群単変量解析の結果、局所療法のみと比較して術後トラスツズマブ単剤療法(HR:0.51、95%CI:0.33~0.79、p=0.003)および術後トラスツズマブ+化学療法(0.75、0.58~0.97、p=0.027)でiDFSの有意な改善が認められた。
・サブグループ解析の結果、T1b/T1cの患者ではiDFSとOSのいずれにおいても明らかなベネフィットがみられたが、T1aの患者ではみられなかった。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【原著論文はこちら】

Johnson KCC, et al. NPJ Breast Cancer. 2024;10:49.

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

導入化学療法後の転移HER2-乳がん、ペムブロリズマブ維持療法で効果持続

提供元:CareNet.com

 転移のあるHER2-炎症性乳がんおよび炎症性乳がんではないトリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者において、導入化学療法後、ペムブロリズマブ単剤での維持療法で治療効果が持続したことが、米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンター/ハワイ大学の岩瀬 俊明氏らによる第II相試験で示された。さらにバイオマーカー試験で、ベースライン時にT細胞クローナリティーが高い患者では、ペムブロリズマブ維持療法により病勢コントロール期間の延長がみられた。Clinical Cancer Research誌2024年6月3日号に掲載。

 本試験では、3サイクル以上の化学療法で完全奏効、部分奏効、病勢安定(SD)を達成したHER2-乳がん患者を対象に、PD-L1発現の有無にかかわらずペムブロリズマブ200mgを2年間、もしくは進行/忍容できない毒性発現まで3週ごとに投与した。評価項目は、4ヵ月病勢コントロール率(DCR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間、血中反応バイオマーカーなどであった。

 主な結果は以下のとおり。

・43例中11例が転移のあるHER2-炎症性乳がん、32例が炎症性乳がん以外のTNBCであった。
・4ヵ月DCRは58.1%(95%信頼区間:43.4~72.9)、全患者のPFS中央値は4.8ヵ月(同:3.0~7.1)であった。
・毒性プロファイルは以前のペムブロリズマブ単剤療法試験と同様であった。
・ベースライン時にT細胞クローナリティーが高い患者は低い患者よりもペムブロリズマブ治療でのPFSが長かった(10.4ヵ月vs.3.6ヵ月、p=0.04)。
・SDを達成した患者は達成しなかった患者よりT細胞クローナリティーが治療中に有意に増加した(平均増加率:20% vs.5.9%、p=0.04)。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Iwase T, et al. Clin Cancer Res. 2024;30:2424-2432.

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

高リスク早期TN乳がんに術後アベルマブ1年投与でOS改善、DFSは改善せず(A-BRAVE)/ASCO2024

提供元:CareNet.com

 高リスクの早期トリプルネガティブ乳がん(TNBC)における抗PD-L1抗体アベルマブ1年投与の術後補助療法は、観察群と比べ無病生存期間(DFS)を有意に改善しなかったが、全生存期間(OS)を有意に改善した。医師主導で実施された多施設共同無作為化第III相A-BRAVE試験の結果について、イタリア・Padova大学のPierfranco Conte氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)で発表した。

・対象:治癒目的で手術および術前/術後化学療法を完了した高リスクのTNBC
 A層-手術後、pN1/pT2、pN0-3/pT3-4、pN2-3/any pT
 B層-術前化学療法後、乳房/腋窩リンパ節に浸潤性残存病変あり
・試験群:アベルマブ(10mg/kg静注)を2週ごと52週間投与
・対照群:観察
・評価項目:
[主要評価項目]DFS、B層におけるDFS
[副次評価項目]OS、PD-L1陽性例におけるDFS、安全性

 主な結果は以下のとおり。

・2016年6月~2020年10月にイタリアの64施設および英国の6施設から477例が登録され、無作為に割り付けられた。直後に11例が同意を取り下げたため、アベルマブ群235例、対照群231例で試験開始した。A層はアベルマブ群40例/対照群43例、B層はアベルマブ群195例/対照群が188例だった。
・追跡期間中央値52.1ヵ月において、3年DFS率はアベルマブ群が68.3%と対照群63.2%より5.1%増加したが、DFSの有意な改善はみられなかった(ハザード比[HR]:0.81、95%信頼区間[CI]:0.61~1.09、p=0.172)。B層における3年DFS率についても、6.2%増加したが有意な改善はみられなかった(HR:0.80、95%CI:0.58~1.10、p=0.170)。
・3年OS率はアベルマブ群が84.8%と対照群76.3%より8.5%増加し、OSの有意な改善が認められた(HR:0.66、95%CI:0.45~0.97、p=0.035)。
・事後探索的解析の遠隔無病生存期間(DDFS)において、3年DDFS率がアベルマブ群で7.5%改善し、有意な改善が認められた(HR:0.70、95%CI:0.50~0.96、p=0.0277)。
・アベルマブ群における有害事象による投与中止は20例(30.8%)で、そのうち免疫関連有害事象による投与中止は17例だった。

 Conte氏は、「遠隔転移リスクが30%減少し、死亡リスクが34%減少したことから、術前療法後に浸潤性残存病変あり、もしくは術後に高リスクの早期TNBC患者において、アベルマブが役割を有する可能性が示唆される」とまとめた。

(ケアネット 金沢 浩子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

A-BRAVE試験(ClinicalTrials.gov)

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

早期乳がん術前Dato-DXd+デュルバルマブ、33%が化学療法をスキップ可(I-SPY2.2)/ASCO2024

提供元:CareNet.com

 70遺伝子シグネチャー(MammaPrint)で高リスクのStageII/IIIの早期乳がんの術前療法として、抗TROP2抗体薬物複合体datopotamab deruxtecan(Dato-DXd)+デュルバルマブ併用療法を4サイクル投与した第II相I-SPY2.2試験の結果、33%の患者が化学療法を行わずに手術が可能となったことを、米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校のRebecca A. Shatsky氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)で発表した。

 I-SPY2.2試験は、高リスク早期乳がんの術前療法を評価する多施設共同第II相プラットフォーム連続多段階ランダム割付試験(Sequential Multiple Assignment Randomized Trials:SMART)で、患者が最大の病理学的完全奏効(pCR)を得るための個別化医療を提供することを目的としている。ブロックAでDato-DXd+デュルバルマブを4サイクル投与し、MRIと生検でpCRが予測された場合は早期に手術を受けることができ、予測されない場合は化学療法や標的療法を行うブロックB/Cに進む。今回は、ブロックAの結果が報告された。
※連続多段階ランダム割付試験:連続する多段階のランダム割り付けを通して、一連の動的治療計画を立てるためのデザイン

 患者(すべてHER2-)は、免疫反応、DNA修復不全(DRD)、ホルモン受容体の状況に基づいて、(1)HR陽性/免疫陰性/DRD陰性、(2)HR陰性/免疫陰性/DRD陰性、(3)免疫陽性、(4)免疫陰性/DRD陽性、(5)HR+、(6)HR-の6つの腫瘍反応予測サブタイプ(RPS)に分類された。主要評価項目はpCRの達成であった。

 主な結果は以下のとおり。

・2022年9月~2023年8月に106例がブロックAに登録された。年齢中央値は50.0歳(範囲:25.0~77.0)、HR-が60.4%であった。
・ブロックA終了後、33%(35例)が化学療法を受けることなく早期に手術に進むことができた。
・Dato-DXd+デュルバルマブ治療後のRPS分類によるpCR率(95%信頼区間)と事前に設定された閾値は下記のとおり。
 (1)HR陽性/免疫陰性/DRD陰性(25例):3%(0~7)、閾値15%
 (2)HR陰性/免疫陰性/DRD陰性(23例):13%(3~23)、閾値15%
 (3)免疫陽性(47例):65%(47~83)、閾値40%
 (4)免疫陰性/DRD陽性(11例):24%(4~44)、閾値40%
 (5)HR+(42例):18%(6~30)、閾値15%
 (6)HR-(64例):44%(32~56)、閾値40%
・(3)の免疫陽性のサブタイプ(HR+もHR-も含む)のみが第III相試験へ進むための「卒業」の閾値に到達した。
・安全性プロファイルは既知のものと同様であった。多く発現した有害事象(AE)は、悪心、口内炎、疲労、発疹、便秘、脱毛などで、Grade3以上のAEはまれであった。間質性肺疾患は1例に発現した。

(ケアネット 森 幸子)


掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)