家族性乳がんリスクの高い女性、BMI・身体活動・飲酒のガイドライン推奨順守でリスク低下

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 米国がん協会(ACS)のがん予防ガイドライン2020年版における体重(BMI)、身体活動、飲酒に関する推奨事項を順守することで、閉経後女性および家族性乳がんリスクの高い女性の乳がんリスクが減少する可能性が、米国・コロンビア大学のAshley M. Geczik氏らの研究で示唆された。Breast Cancer Research and Treatment誌オンライン版2022年7月2日号に掲載。

 これまでに、ACSガイドライン2012年版の推奨の順守で乳がんリスクが低下する可能性を示唆した研究はあるが、家族性および遺伝性乳がんリスクが高い女性におけるエビデンスは少ない。本研究では、Breast Cancer Family Registry(BCFR)を用いて、9,615人の女性を対象にACSガイドライン2020年版におけるBMI、身体活動、飲酒に関する推奨の順守と乳がんリスクについて検討した。Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、全体におけるハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)、さらにBRCA1およびBRCA2の病的バリアントの有無、乳がんの家族歴、閉経状態、エストロゲン受容体(ER)で層別したHRと95%CIを、算出した。

 主な結果は以下のとおり。

・12.9年(中央値)の間に浸潤性乳がんまたはin situ乳がんが618例に発生した。
・ACSガイドラインの推奨を順守していない女性(55人)と比較して、順守している女性(563人)は、乳がんリスクが27%低かった(HR:0.73、95%CI:0.55~0.97)。
・このリスク低下は、第一度近親者に乳がん罹患歴のある女性(HR:0.68、95% CI:0.50~0.93)、BRCA1またはBRCA2の病的バリアントを有しない女性(HR:0.71、95%CI:0.53~0.95)、閉経後女性(HR:0.63、95%CI:0.44~0.89)、およびER陽性乳がん(HR:0.63、95%CI:0.40~0.98) において有意であった。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Geczik AM, et al. Breast Cancer Res Treat. 2022 Jul 2. [Epub ahead of print]

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「乳癌診療ガイドライン」4年ぶり全面改訂、ポイントは?/日本乳癌学会

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 4年ぶりに乳癌診療ガイドラインが全面改訂され、第30回日本乳癌学会学術総会で「乳癌診療ガイドライン2022年版 改定のポイント」と題したプログラムが開催された。本稿では、治療編(薬物療法、外科療法、放射線療法)の主な改訂点について紹介する。治療編全体における改訂点として、今版では冒頭に「総説」を追加。病気/サブタイプ別の治療方針のシェーマや各CQ/BQ/FRQの治療における位置付けを解説し、治療全体の流れを理解できる構成となっている。

薬物療法:術後アベマシクリブ&S-1、周術期免疫療法等についてCQ新設

 薬物療法については遠山 竜也氏(名古屋市立大学)が登壇し、6つの新設CQを中心に解説。まず、早期乳がんに対するエスカレーション治療として、術後のアベマシクリブとS-1について2つのCQが新設された。アベマシクリブはmonarchE試験の結果から、ホルモン受容体陽性/HER2陰性で再発高リスクの患者に対する術後療法として「内分泌療法にアベマシクリブを2年間併用することを強く推奨」(CQ6)。S-1は現在承認申請中であるものの、POTENT試験の結果に基づき「内分泌療法にS-1を1年間併用することを強く推奨」した(CQ5)。両療法における“再発高リスク”の考え方についてはそれぞれ適格基準の表を挿入したほか、総説でその位置づけを解説。遠山氏は「POTENT試験のほうが対象が広いので、そちらにしか該当しない症例にはS-1を、両基準に合致する症例は副作用のプロファイルや投与期間を考慮して使っていくことになるのではないか」と述べた。

 周術期の免疫療法として、現在承認申請中ではあるが、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対するペムブロリズマブについてもCQが新設された。KEYNOTE-522試験の結果に基づき、周術期TNBCに対して「ペムブロリズマブの投与を弱く推奨」している(CQ16)。“弱く”という表現になった理由について同氏は、有害事象があること、どのような患者に対して投与すべきかに充分なコンセンサスがないことを指摘。「今回は先取りして取り上げ、このような表現となっているが、承認されたときには改めてディスカッションが必要」とした。

 閉経前のホルモン受容体陽性/HER2陰性転移・再発乳がんに対する一次治療としてのCDK4/6阻害薬について、今回初めてCQが設けられた。日本で承認済のパルボシクリブ・アベマシクリブについては閉経後患者対象の試験でPFS改善が報告されているが、リボシクリブについてのMONALEESA-7試験では閉経前の患者でPFSおよびOSが改善している。併用薬については、タモキシフェンとの併用群でQT延長がみられたことでFDA承認が見送られていることから、本ガイドラインにおいても非ステロイド性アロマターゼ阻害薬との併用が推奨された(CQ18)。

 その他、「残存病変に基づく治療選択」として、術後のカペシタビン(HER2陰性)とT-DM1(HER2陽性)について2つのCQが新設されている(CQ10、CQ13)。

外科療法:NAC後センチネルリンパ節生検について一部推奨内容を変更

 九冨 五郎氏(札幌医科大学)は外科療法における今回の改訂の目玉としてCQ2を挙げた。まずCQ2aでは、術前化学療法(NAC)前後の臨床的リンパ節転移陰性(cN0)乳がんに対する腋窩リンパ節郭清省略を目的としたセンチネルリンパ節生検について、2018年版では“弱く”推奨していたものを、今版では“強く”推奨に変更している。理由について同氏は、「新しい強力なデータが出たわけではないが、日常診療で9割近い先生が実施しているのなら、それはもう“強い”推奨ではないか、というボードでの議論を経て、変更している」と解説した。

 臨床的リンパ節転移陽性(cN+)でNAC 後cN0の症例に対しては、今回新たにtailored axillary surgery (TAS)を行う場合について推奨を追加。「TASによる腋窩リンパ節郭清省略を行うことを弱く推奨」とされた(CQ2b)。九冨氏は、現在targeted axillary dissection (TAD)の妥当性を検討する前向き試験が国内で進行中であることに触れ、「こういったデータが出てくれば、またガイドラインの記述も変わってくる可能性がある」とした。

 Stage IV乳がんに対する原発巣切除については、今版ではメタ解析の結果を考慮して「予後の改善を目的とした原発巣切除は行わないことを強く推奨(CQ4a)」としたほか、「局所制御を目的とした原発巣切除は行うことを弱く推奨(CQ4b)」とされた。

 また、今後保険収載される可能性を考慮し、乳房再建法としての脂肪注入について新規のFRQが追加された。「細心の注意のもとに行ってもよい」という記述となっている(FRQ6)。

 2018年版で8つあったCQは今版では4つとなり、それぞれFRQやBQに変更して取り上げられている。例えば低リスクDCISに対する非切除の意義については、日本も含め現在複数の無作為化試験や観察研究が進行中であることから、今版ではFRQとして記述された(FRQ1)。九冨氏は外科領域では大規模な無作為化試験が組みづらくエビデンスレベルが低いのが現状としたうえで、日本での試験もいくつか進行中で、日本からの発信が増えていくことに期待したいと締めくくった。

放射線療法:寡分割照射推奨の対象者を拡大、APBIを非推奨→条件付きで推奨へ

 放射線療法における今版での改訂・新設事項は以下の通り。吉村 通央氏(京都大学)がそれぞれの根拠となったデータとともに解説した。
改訂:CQ1 寡分割全乳房照射/CQ3 APBI/ CQ5 腋窩LN転移1~3個のPMRT
新設:BQ7 腫瘍径大および断端陽性のPMRT/FRQ2 RNI or PMRTの寡分割照射/ FRQ6オリゴ転移に対するSBRT

 寡分割全乳房照射については、メタアナリシスの結果、局所再発率や全生存率、整容性に有意差はなく、急性皮膚障害についてはむしろ寡分割で低下しており、今版では「50歳以上、T1-2、化学療法を行っていない」という3条件以外の患者、これまで記載のなかったDCIS症例に対しても、寡分割照射を強く推奨している(CQ1)。

 APBIの治療成績については4年間で長期の報告が複数出ており、それらのメタアナリシス結果から、若年ではない低リスク症例に十分な精度管理のもとで行うなどの条件付きで、非推奨から弱い推奨へ変更された(CQ3)。なお術中照射については、「全乳房照射より局所再発率が高いが全生存率には差がないことを説明した上で希望する患者に行うこと」とされた。

 腋窩LN転移1~3個の患者に対するPMRTについては、EBCTCGや観察研究のメタアナリシスが行われている。それらを基に、ASCO/ASTRO/SSO PMRTガイドライン2016では、局所・領域再発率や乳がん死亡率を低下させるが、再発リスクの低い患者では害が益を上回る症例もあり、患者ごとに適応を決めるべきとされている。2018年版では、推奨の強さが合意に至らなかったが、今版では合意率は71%ではあったが「弱い推奨」に変更された。

 リンパ節転移陰性で腫瘍径が大きい場合もしくは術後断端陽性の場合について、2018年版までは明記がなかったが、今版で初めて明記され、「PMRTを行うことが望ましい」とされた(BQ7)。

 その他、2つのFRQが新設されている。1つ目は領域リンパ節照射あるいはPMRTにおける寡分割照射についてで、無作為化試験では治療効果・有害事象に有意差はなく、急性期皮膚炎は軽いことが報告されており、「エビデンスは十分ではないが総合的に検討して、行うことを考慮してもよい」とされた(FRQ2)。吉村氏は、新型コロナ流行の影響で、実際多くの施設でこの2年間は16回照射としていた状況があるとし、とくに有害事象は報告されていないと話した。

 もう1つはオリゴ転移に対するSBRTについてで、無作為化第II相試験(SABR-COMET)の結果SBRTの追加で治療成績が良好との報告がある。同試験における乳がん症例は18%であることに注意が必要ではあるが、St Gallen2021でも80%以上のパネル医師がT2N1M1で根治を目指して局所治療を加えると回答している。そこで今版では、「症例を選択した上で考慮してもよい」とされている。ただし、今年のASCOで発表されたBR002試験の結果がネガティブだったことから、吉村氏は「今後の方向性に注意が必要」と指摘した。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【参考文献・参考サイトはこちら】

日本乳癌学会編. 乳癌診療ガイドライン1 治療編 2022年版. 金原出版;2022.

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がんの緩和ケア、放射線・神経ブロック治療普及のセミナー開催

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 働くがん患者を企業と一緒に支援する厚生労働省の取り組み「がん対策推進 企業アクション」は、6月28日、「がん治療における緩和ケア」をテーマとしたメディア向けセミナーを開催した。これは、6月9日に厚生労働省が医療者への啓蒙と一般患者への説明用として、がんにおける緩和ケアを説明する資料1)を作成し、都道府県衛生主管部(局)、がん診療連携拠点病院等の病院長、日本医師会を通じて広報をはじめたことを受けたもの。資料は、心理的・精神的ケアを含めて診断時から緩和ケアが受けられること、痛みへの対応としてオピオイド等の使用だけでなく放射線治療や神経ブロック等の活用を促すこと、が主な内容となっている。

 セミナーの冒頭では、がん対策推進 企業アクション議長の中川 恵一氏(東京大学 総合放射線腫瘍学講座 特任教授)が「日本国内では年間100万人ががんに罹患し、38万人が命を落としている。その3分の1は働く世代であり、この年代にも緩和ケアは重要なテーマ。日本はこの分野において遅れが目立つ」と述べた。「これまで、日本では治すことが最優先され、癒すという観点が後手になりがちだった。緩和ケアも進行がんの終末期患者を中心に行われてきたが、2006年に制定されたがん対策基本法に基づき、あらゆる種類・進行状態のがん患者に提供するよう医療者への働きかけを進めており、今回の資料作成もその一環だ」と説明した。加えて、「がんの疼痛緩和の基本はオピオイド等の処方だが、それが効かない場合には放射線治療や神経ブロックが有効であり、その周知や実施を進めることが患者のQOLの維持・改善のために必要だ」とした。

 その後、沖縄徳洲会病院の服部 政治氏(疼痛治療科統括 部長)が「がん疼痛治療の現状」と題した講演を行った。服部氏が積極的に行っている疼痛緩和目的の神経ブロックは、全国の実施回数が年間300回と非常に少ない水準に留まっている。服部氏は「がんの疼痛には鎮痛薬の内服や皮下注、手術・放射線治療、そして神経ブロック療法・脊髄鎮痛法がある。治療初期は鎮痛薬、それが効かなくなったら放射線、最後に神経ブロックと直線的に各手法が提供されているのが現状」と説明した。そして、「疼痛緩和のためモルヒネを大量投与されているケースにおいて神経ブロックを行うことで痛みを軽減させ、モルヒネの投与量を10分の1程度まで減らせることが複数のデータで示されている。神経ブロックを施術したことで終末期患者が在宅診療に切り替えられた例もあるが、オピオイドの投与量は一気には減らせないため、大量投与になる前の初期から、複数の緩和ケアの手法を組み合わせて提供することが有効だ」と説明した。そして、現状の課題として「20年ほど前まで一般的だった神経ブロック・脊髄鎮痛法が行われなくなった結果、施術できる医師、研修できる施設が減っている。鎮痛薬に偏った日本における緩和ケアの課題感を共有し、人材育成を進めることが重要だ」と強調した。

(ケアネット 杉崎 真名)


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1)がんの緩和ケアに関する資材の周知について/厚生労働省

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TN乳がん1次治療でのペムブロリズマブ+化学療法、日本人でのOSとPFS(KEYNOTE-355)/日本乳癌学会

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 手術不能の局所再発/転移を有するPD-L1陽性(CPS≧10)のトリプルネガティブ(TN)乳がんの1次治療で、ペムブロリズマブ+化学療法をプラセボ+化学療法と比較した国際共同第III相KEYNOTE-355試験において、無増悪生存(PFS)および全生存(OS)を有意に改善したことはすでに報告されている。また、本試験の日本人患者のサブグループ解析は、2019年12月11日のデータカットオフ時点の中間解析でPFSが全体集団と大きな乖離がなかったことが2020年の日本乳癌学会で発表されている。今回、2021年6月15日のデータカットオフ時点における日本人患者での有効性と安全性の結果について、聖マリアンナ医科大学の津川 浩一郎氏が第30回日本乳癌学会学術総会で発表した。

・対象:未治療の手術不能な局所再発/転移を有するPD-L1陽性のTN乳がん患者(18歳以上、PS 0/1)847例(日本人87例)
・試験群:ペムブロリズマブ+化学療法(ナブパクリタキセル、パクリタキセル、ゲムシタビン/カルボプラチンのいずれか)566例(日本人61例、うち2例が治療中)
・対照群:プラセボ+化学療法 281例(日本人26例)
・評価項目:
[主要評価項目]PD-L1陽性患者(CPS≧10およびCPS≧1)とITT集団におけるPFSとOS
[副次評価項目]奏効率、奏効期間、病勢コントロール率、安全性

 主な結果は以下のとおり。

・ベースライン時の特性について、日本人集団では全体集団に比べてPS 0が多かった。また、併用する化学療法はゲムシタビン/カルボプラチンが多く、周術期(術前・術後)化学療法とは異なる患者が多かった。
・OSについては、ハザード比(HR)がCPS≧10の患者群で0.36(95%CI:0.14~0.89)と全体集団と同様に改善を示した。CPS≧1の患者群では、全体集団では有意な改善が示されなかったが、日本人集団では0.52(同:0.30~0.91)と改善を認め、ITT解析でも0.46(同:0.28~0.77)と改善が認められた(注:国内での保険適用はCPS≧10の患者)。
・PFSのHRは、CPS≧10の患者群で0.52(同:0.20~1.34)、CPS≧1の患者群で0.61(同:0.35~1.06)、ITT集団で0.64(同:0.39~1.05)だった。
・Grade3~4の治療関連有害事象(AE)は、日本人集団でペムブロリズマブ群85.2%、プラセボ群84.6%に発現し、全体集団よりやや多かったが、いずれも管理可能だった。ペムブロリズマブ群のほうが多かったAEは、味覚異常、食欲低下、口内炎、皮膚炎などであった。

 これらの結果から、津川氏は「手術不能の局所再発/転移を有するPD-L1陽性のTN乳がんの日本人患者におけるペムブロリズマブ+化学療法が支持される」と結論した。

(ケアネット 金沢 浩子)


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KEYNOTE-355試験(Clinicaltrials.gov)

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gBRCA変異陽性HER2-早期乳がんへの術後オラパリブ、日本人解析結果(OlympiA)/日本乳癌学会

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 gBRCA変異陽性、HER2陰性、再発高リスクの早期乳がん患者に対する術後薬物療法としてのオラパリブをプラセボと比較した国際共同第III相OlympiA試験において、主要解析(データカットオフ:2020年3月)で無浸潤疾患生存期間(iDFS)および遠隔無再発生存期間(DDFS)の有意な延長が示され、さらに第2回中間解析(データカットオフ:2021年7月)で全生存期間(OS)の有意な延長が示されている。今回、主要解析(データカットオフ:2020年3月)における日本人患者集団の有効性と安全性について、聖路加国際病院の山内 英子氏が第30回日本乳癌学会学術総会で発表した。

・対象:局所治療および6サイクル以上の化学療法が終了したgBRCA変異陽性、HER2陰性 (HR陽性またはトリプルネガティブ)の再発高リスクの早期乳がん患者 1,836例(日本人140例)
・試験群:オラパリブ(300mg、1日2回)を1年間投与 921例(日本人64例)
・対照群:プラセボ(1日2回)を1年間投与 915例(日本人76例)
・評価項目:
[主要評価項目]iDFS
[副次評価項目]DDFS、OS、安全性など

 主な結果は以下のとおり。

・患者背景は、日本人集団と全体集団とも両群間でバランスがとれていた。ただし、白金製剤を含む化学療法による前治療は、国内で承認されていないため海外とは大きな差があった。
・オラパリブによるIDFSのベネフィットは、日本人集団(HR:0.50、95%CI:0.18~1.24)と全体集団(HR:0.58、95%CI:0.46~0.74、p<0.0001)とで同様だった。
・オラパリブによるDDFSのベネフィットも、日本人集団(HR:0.41、95% CI:0.11~1.16)と全体集団(HR:0.57、95%CI:0.44~0.74、p<0.0001)とで同様だった。
・主なGrade3以上の有害事象は、貧血、好中球減少、白血球減少で、貧血については本研究では輸血を必要とした症例はなかった。
・日本人集団における有害事象の発現状況は、オラパリブにおける既知の安全性情報、全体集団と同様だった。

 山内氏は、「OlympiA試験は国別のサブグループ解析に対する検出力を有してなかったが、今回の日本人集団における有効性および安全性の結果は、gBRCA変異陽性HER2陰性再発高リスク早期乳がんの日本人患者における術後薬物療法としてのオラパリブの臨床的ベネフィットを裏付けるものであった」と結論した。

(ケアネット 金沢 浩子)


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OlympiA試験(Clinicaltrials.gov)

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乳がん術後放射線治療の皮膚障害予防に、カテキン剤塗布が有望

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 乳がん患者にとってアンメットニーズとされている術後放射線治療による放射線皮膚障害(RID)について、緑茶に多く含まれるカテキン(epigallocatechin-3-gallate:EGCG)を主成分とした溶剤の予防的塗布が有効であることが示された。中国・山東第一医科大学のHanxi Zhao氏らによる第II相無作為化試験の結果で、EGCG溶液の予防的塗布により、RIDの発生率と重症度が大幅に低下したという。安全性プロファイルの忍容性も高かった。結果を踏まえて著者は、「RIDリスクがある乳がん患者にとって、便利で忍容性が高い有効な選択肢となる可能性がある」と述べている。JAMA Dermatology誌オンライン版2022年6月1日号掲載の報告。

 研究グループは、乳がん術後に放射線治療を受ける患者における、EGCG溶液塗布が、RIDの発生を抑制するかを調べる第II相二重盲検プラセボ対照無作為化試験を実施した。2014年11月~2019年6月に山東がん病院研究所で術後放射線治療を受ける180例が試験に登録された。

 被験者は2対1の割合で、放射線治療1日目~同治療完了後2週間まで、放射線の全照射野にEGCG溶液(660μmol/L)塗布を受ける群またはプラセボ(0.9%塩化ナトリウム溶液)塗布を受ける群に割り付けられ、追跡を受けた。データ解析は、2019年9月~2020年1月に行われた。

 主要評価項目は、Grade2以上(Radiation Therapy Oncology Groupスケールによる定義で、数値が大きいほど悪化)のRIDの発生率。副次評価項目は、RID指数(RIDI)、症状指数、赤外線サーモグラフィーで測定した皮膚温および安全性などであった。

 主な結果は以下のとおり。

・全適格患者180例のうち、165例(EGCG溶液塗布群111例、プラセボ群54例、年齢中央値46歳[範囲:26~67])が有効性の評価を受けた。
・Grade2以上のRID発生率は、プラセボ群(72.2%、95%信頼区間[CI]:60.3~84.1)よりEGCG群(50.5%、41.2~59.8)で有意に低かった(p=0.008)。
・EGCG群の平均RIDIは、プラセボ群よりも有意に低かった。さらに、症状指数もEGCG群で有意に低かった。
・EGCG治療関連の有害事象は4例(3.6%)で報告された。3例(2.7%)がGrade1の刺すような痛み、1例(0.9%)はかゆみであった。

(ケアネット)


【原著論文はこちら】

Zhao H, et al. JAMA Dermatol. 2022 Jun 1. [Epub ahead of print]

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ASCO2022オンデマンド配信中、特設サイトで注目演題レビューを配信

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 6月3日~7日(現地時間)まで、世界最大の腫瘍学会であるASCO2022(米国臨床腫瘍学会年次総会)が、米国シカゴとオンラインのハイブリッド形式で開催された。会期終了後の現在も、プレナリーセッションを含むほぼすべての演題のスライドと動画がASCOサイトで公開されている。

 ケアネットが運営する、オンコロジーを中心とした医療情報キュレーションサイト「Doctors’Picks」では、ASCO2022のスタートにあわせた特設サイトを公開。会期前にエキスパートから寄せられた「注目演題」を紹介するほか、会期終了後には各演題の結果を受けた追加コメントや、臓器別に結果をまとめたレビュー、ASCOでの発表と同時掲載された論文を紹介する記事などが集まっている。

 現在までにアップされているエキスパート医師が解説する、臓器別の注目演題レビューはこちら(リンク先のDoctors’Picksは医師会員限定)。

肺がん/国立がん研究センター中央病院・大熊 裕介氏

肺がんエキスパート向け/埼玉医科大学国際医療センター・山口 央氏

乳がん/国立がん研究センター中央病院・下井 辰徳氏

下部消化管/高知大学・佐竹 悠良氏

上部消化管/国立がん研究センター中央病院・加藤 健氏

 ASCOは次回2023年6月も、シカゴとオンラインのハイブリッド開催が予定されている。

(ケアネット 杉崎 真名)


【参考文献・参考サイトはこちら】

Doctors’Picks ASCO2022特設サイト

Doctors’Picks

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乳がん検出の違い、3Dマンモvs.デジタルマンモ/JAMA

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 乳がんスクリーニングにおける、デジタル乳房トモシンセシス(DBT)とマンモグラフィの検出の違いを比較した結果、浸潤性中間期乳がんリスクについては有意差が認められなかったが、「きわめて高濃度乳房で乳がんリスクが高い」女性(試験集団の3.6%)の進行乳がんリスク低下については有意な関連が示された。一方で、試験集団の96.4%の女性(非高濃度乳房、不均一な高濃度乳房、またはきわめて高濃度乳房だがリスクが高くない)で、有意差は観察されなかった。米国・カリフォルニア大学のKarla Kerlikowske氏らが、コホート研究の結果を報告した。DBTは女性の高濃度乳房のがん検出を改善することを期待して開発されたものだが、浸潤性中間期乳がんおよび進行乳がん、乳がん死亡と関連する中間アウトカムについて、高濃度乳房および乳がんリスク別に評価する研究が必要とされていた。JAMA誌2022年6月14日号掲載の報告。

浸潤性中間期乳がんと進行乳がんの発生率を高濃度乳房と乳がんリスクで検討

 研究グループは、米国乳がんサーベイランス・コンソーシアム(BCSC)の44施設において、2011~18年にデジタルマンモグラフィまたはDBTによるスクリーニングを受け、2019年まで州または地域のがん登録との連携によりがん診断の追跡調査を受けた、乳がんまたは乳腺切除の既往がない40~79歳の女性50万4,427例について解析した。

 BI-RADS分類(ほぼ全体が脂肪性、散在性(線維腺)、不均一な高濃度乳房、きわめて高濃度乳房の4区分)とBCSC 5年乳がんリスク指標(1.67%未満[乳がん低~平均リスク]、1.67%以上[乳がん高リスク]の2区分)を用い、マンモグラフィ検査後12ヵ月以内の浸潤性中間期乳がんおよび進行乳がん(病理学的ステージがII以上)の発生頻度(スクリーニング1,000件当たり)を、いずれも逆確率重み付け法により推定した。

 解析対象の女性50万4,427例におけるスクリーニング件数は、デジタルマンモグラフィが100万3,900件、DBTが37万5,189件で、マンモグラフィ検査時の年齢中央値は58歳(IQR:50~65)であった。

DBTとマンモグラフィで有意差なし、一部でDBTは進行乳がんのリスク低下に有用

 スクリーニング件数1,000件当たりの浸潤性中間期乳がんの発生率は、DBT vs.デジタルマンモグラフィの比較において有意差は認められなかった(全体でそれぞれ0.57 vs.0.61、群間差:-0.04、95%信頼区間[CI]:-0.14~0.06、p=0.43)。また、高濃度乳房で乳がん低~平均リスクの83万6,250件すべて、または乳がん高リスクの41万3,061件すべてにおいても、有意差は認められなかった。

 進行乳がんの発生頻度は、BI-RADS分類の「ほぼ全体が脂肪性」「散在性(線維腺)」「不均一な高濃度乳房」に該当する女性では、乳がん低~平均リスクまたは高リスクを問わず、DBTとマンモグラフィで有意差は確認されなかった。しかし、「きわめて高濃度乳房」で乳がん高リスクの女性(試験集団の3.6%)では、DBTのほうがマンモグラフィより有意に低かった(DBT群1万3,291件vs.マンモグラフィ群3万1,300件、1,000件当たり0.27 vs.0.80、群間差:-0.53[95%CI:-0.97~-0.10])。「きわめて高濃度乳房」で乳がん低~平均リスクの女性では、有意差は確認されなかった(1万611件vs.3万7,796件、0.54 vs.0.42、0.12[-0.09~0.32])。

(医学ライター 吉尾 幸恵)


【原著論文はこちら】

Kerlikowske K, et al. JAMA. 2022;327:2220-2230.

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Luminal Aの低リスク乳がん患者、術後放射線療法を省略できる可能性(LUMINA)/ASCO2022

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 乳房温存術後、内分泌療法のみで治療された55歳以上のLuminal A(Ki67低値)、T1N0の女性乳がん患者では、5年局所再発リスクが非常に低く、放射線療法を省略できる可能性が示唆された。通常、術後放射線療法は局所再発リスクを減らすために実施されるが、急性および晩期毒性が報告されている。カナダ・マクマスター大学のTimothy Joseph Whelan氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2022 ASCO Annual Meeting)で前向き多施設共同コホート研究の結果を報告した。

・対象:Luminal A(ER≧1%、PR>20%、HER2陰性)、≧55歳、切除マージン≧1mm、組織学的グレード1~2、内分泌療法歴と乳房温存術歴のあるT1N0浸潤性乳管がん患者
・試験デザイン:International Ki67 Working Groupの推奨に従い、免疫組織染色法でKi67を検出、Ki67≦13.25%の患者を試験に登録し、放射線療法なしの群に割り当てた
・治療とフォローアップ:内分泌療法はアロマターゼ阻害薬あるいはタモキシフェンを5年以上投与。はじめの2年は半年に一度、以降は年に1回のフォローアップを実施、また年1回のマンモグラフィを実施した
・評価項目:
[主要評価項目]局所再発(LR:浸潤がんもしくは非浸潤がん)
[副次評価項目]対側乳がん、いずれかの再発、全生存期間(OS)、無病生存期間(DFS)

 主な結果は以下のとおり。

・2013年8月~2017年7月まで、カナダの26施設から500例が解析対象とされた。追跡期間中央値は5年。
・ベースライン特性は、年齢中央値が67歳、腫瘍径中央値は1.1cm、組織学的グレード1が66%、内分泌療法はアロマターゼ阻害薬が59%だった。
・5年時点のLR率は2.3%(95%信頼区間[CI]:1.3~3.8)で、事前に設定された境界値(<5%)を満たした。
・5年時点の対側乳がん率は1.9%(95%CI:1.1~3.2)、いずれかの再発率が2.7%(95%CI:1.6~4.1)だった。
・5年OS率は97.2%(95%CI:95.9~98.4)、5年DFS率は89.9%(95%CI:87.5~92.2)だった。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【参考文献・参考サイトはこちら】

LUMINA試験(Clinical Trials.gov)

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HER2低発現進行乳がん、T-DXdでPFSとOSが延長(DESTINY-Breast04)/NEJM

提供元:CareNet.com

 HER2低発現の再発・転移のある乳がん患者において、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)は医師選択の化学療法と比較し、無増悪生存(PFS)期間および全生存(OS)期間を有意に延長させることが、第III相臨床試験「DESTINY-Breast04試験」で示された。米国・スローン・ケタリング記念がんセンターのShanu Modi氏らが報告した。HER2の増幅や過剰発現を伴わない乳がんの中には、治療の標的となる低レベルのHER2を発現しているものが多く存在するが、現在用いられているHER2療法はこれら「HER2低発現」のがん患者には効果がなかった。NEJM誌オンライン版2022年6月5日号掲載の報告。

T-DXdの有効性および安全性を医師選択化学療法と比較

 研究グループは、2018年12月27日~2021年12月31日の期間に、1~2ラインの化学療法歴があるHER2低発現(IHCスコア1+、またはIHCスコア2+かつISH-)の再発・転移のある乳がん患者を、T-DXd群または化学療法群(カペシタビン、エリブリン、ゲムシタビン、パクリタキセル、ナブパクリタキセルのいずれかを医師が選択)に、2対1の割合で無作為に割り付けた。

 主要評価項目は、盲検化独立中央評価委員会(BICR)判定によるホルモン受容体(HR)陽性患者におけるPFS、主要な副次評価項目は全例におけるPFS、HR陽性患者および全例におけるOSであった。

HR陽性例でも全例でも、T-DXdでPFSが約1.9倍、OSが約1.4倍に

 無作為化された患者557例のうち、494例(88.7%)がHR陽性、63例(11.3%)がHR陰性であった。

 HR陽性患者におけるPFS期間中央値はT-DXd群10.1ヵ月(95%信頼区間[CI]:9.5~11.5)、化学療法群5.4ヵ月(4.4~7.1)であり(ハザード比[HR]:0.51、95%CI:0.40~0.64、層別log-rank検定のp<0.001)、OS期間中央値はそれぞれ23.9ヵ月(95%CI:20.8~24.8)、17.5ヵ月(15.2~22.4)であった(HR:0.64、95%CI:0.48~0.86、p=0.003)。

 また、全例におけるPFS期間中央値はT-DXd群9.9ヵ月(95%CI:9.0~11.3)、化学療法群5.1ヵ月(4.2~6.8)であり(HR:0.50、95%CI:0.40~0.63、p<0.001)、OS期間中央値はそれぞれ23.4ヵ月(20.0~24.8)、16.8ヵ月(14.5~20.0)であった(HR:0.64、95%CI:0.49~0.84、p=0.001)。

 Grade3以上の有害事象の発現率はT-DXd群52.6%、化学療法群67.4%であり、T-DXd群では薬剤関連間質性肺疾患/肺炎が12.1%(Grade5が0.8%)に発現した。

(医学ライター 吉尾 幸恵)


【原著論文はこちら】

Modi S, et al. N Engl J Med. 2022 Jun 5. [Epub ahead of print]

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