早期TN乳がん、術前後のアテゾリズマブ追加でEFS・DFS・OS改善(IMpassion031)/ESMO BREAST 2023

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 未治療の早期トリプルネガティブ(TN)乳がんにおける術前化学療法へのアテゾリズマブ追加および術後のアテゾリズマブ投与の有用性を検討した第III相IMpassion031試験の最終解析で、副次評価項目である無イベント生存期間(EFS)、無病生存期間(DFS)、全生存期間(OS)の改善が示された。また探索的解析から、手術時に病理学的完全奏効(pCR)が得られた患者は予後良好なこと、pCRが得られず血中循環腫瘍DNA(ctDNA)が残存していた患者は予後不良なことが示された。ブラジル・Hospital Sao Lucas da PUCRSのCarlos H. Barrios氏が欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2023、5月11~13日)で報告した。

 本試験の主要評価項目であるpCR率については、PD-L1の有無(SP142によるIC:1%未満vs.1%以上)にかかわらず、アテゾリズマブ群が57.6%とプラセボ群(41.1%)に比べて有意に(p=0.0044)改善したことが報告されている。今回は、副次評価項目であるEFS、DFS、OS、安全性について最後の患者登録から3年後の最終解析と探索的バイオマーカー解析について報告された。

・対象:原発巣が2cmを超える未治療のStageII~IIIの早期TN乳がん患者333例
・試験群(アテゾリズマブ群、165例):術前にアテゾリズマブ(840mg、2週ごと)+nab-パクリタキセル(毎週)12週間投与後、アテゾリズマブ+ドキソルビシン+シクロホスファミド(2週ごと)8週間投与。術後、アテゾリズマブ(1,200mg、3週ごと)を11サイクル実施
・対照群(プラセボ群、168例):術前にプラセボ+nab-パクリタキセル12週間投与後、プラセボ+ドキソルビシン+シクロホスファミド8週間投与し手術を実施
(両群ともpCR未達の患者は、術後補助化学療法を許容)

 主な結果は以下のとおり。

・追跡期間中央値40ヵ月前後(アテゾリズマブ群40.3ヵ月、プラセボ群39.4ヵ月)における最終解析において、pCRが得られず術後補助化学療法を受けたのは、アテゾリズマブ群70例中14例(20%)、プラセボ群99例中33例(33%)であった。
・ITT集団におけるEFSのハザード比(HR)は0.76(95%信頼区間[CI]:0.47~1.21)で、PD-L1陽性(IC 1%以上)の患者では0.56(同:0.26~1.20)であった。
・DFSのHRは0.76(95%CI:0.44~1.30)で、PD-L1患者では0.57(同:0.23~1.43)であった。
・OSのHRは0.56(95%CI:0.30~1.04)で、PD-L1陽性患者では0.71(同:0.26~1.91)であった。
・pCR状況別のEFSの探索的解析では、pCRが得られた患者では両群共に長期のEFSが良好であったが、pCRが得られなかった患者では両群共にEFSが不良で、pCRが長期予後を大きく左右していた。
・アテゾリズマブにおける新たな安全性シグナルや治療関連死はみられなかった。
・ctDNAにおける探索的解析によると、ctDNA陽性率はベースラインの94%から手術時に12%と減少し、ctDNA消失率はアテゾリズマブ群89%、プラセボ群86%と両群で同様だった。消失しなかった患者はpCRが得られなかった。
・手術時にpCRが得られずctDNAが陽性だった患者はDFS、OSが不良だったが、アテゾリズマブ群でOSの数値的な改善がみられた(HR:0.31、95%CI:0.03~2.67)。

 Barrios氏は「早期TN乳がんに対して、術前化学療法へのアテゾリズマブ追加で有意なpCRベネフィットが得られ、EFS、DFS、OSの改善につながった」とした。

(ケアネット 金沢 浩子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

IMpassion031試験(ClinicalTrials.gov)

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進行TN乳がんへのペムブロリズマブ+化療、臨床的有用性が得られ化療中止した例やimAE発現例でも有効(KEYNOTE-355)/ESMO BREAST 2023

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 手術不能な局所再発または転移・再発トリプルネガティブ(TN)乳がんの1次治療においてペムブロリズマブ+化学療法をプラセボ+化学療法と比較した第III相KEYNOTE-355試験の探索的解析の結果、ペムブロリズマブ+化学療法により臨床的有用性が得られた患者でペムブロリズマブの最終投与前に化学療法を中止した患者、また免疫介在性有害事象(imAE)発現患者において、CPSにかかわらず、無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)が改善したことが示された。米国・UCSF Helen Diller Family Comprehensive Cancer Center のHope S. Rugo氏が欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2023、5月11~13日)で報告した。

 本試験では、PD-L1 CPS 10以上の患者において、ペムブロリズマブ+化学療法により統計学的に有意かつ臨床的に意味のあるPFSとOSの改善が示されたことが報告されている。今回は、ペムブロリズマブ+化学療法を受け完全奏効(CR)もしくは部分奏効(PR)を達成または病勢安定(SD)を24週以上持続した患者、すなわち臨床的有用性が得られた患者のうちペムブロリズマブ最終投与前21日より前に化学療法を中止した患者におけるPFSとOSを評価した。さらに、ペムブロリズマブ+化学療法を受けた患者でimAEが1件以上発現した患者においても評価した。

・対象:PD-L1陽性の手術不能な局所再発もしくは転移・再発TN乳がん(ECOG PS 0/1)
・試験群:ペムブロリズマブ(200mg、3週ごと)+化学療法(ナブパクリタキセル、パクリタキセル、ゲムシタビン/カルボプラチンのうちいずれか)
・対照群:プラセボ+化学療法

 今回の探索的解析における主な結果は以下のとおり。

・2021年6月15日のデータカットオフ時点で、ペムブロリズマブ+化学療法の治療を受け臨床的有用性が得られた患者において、ペムブロリズマブ投与中止前に化学療法を中止した患者および全体でのペムブロリズマブ投与期間中央値、化学療法期間中央値、PFS中央値、OS中央値は、順に以下のとおりで、CPSに関係なくPFS、OSとも上回っていた。
– 治療を受けた全患者
 化学療法中止例(92例):14.1ヵ月 6.0ヵ月 14.5ヵ月 32.9ヵ月
 全体(317例)     : 9.4ヵ月 7.9ヵ月 11.6ヵ月 26.4ヵ月
– CPS 1以上の患者
 化学療法中止例(70例):15.3ヵ月 5.9ヵ月 18.7ヵ月 34.5ヵ月
 全体(249例)     : 9.4ヵ月 8.2ヵ月 11.7ヵ月 26.6ヵ月
– CPS 10以上の患者
 化学療法中止例(46例):20.8ヵ月 6.8ヵ月 36.7ヵ月 未到達
 全体(143例)     :11.1ヵ月 8.5ヵ月 14.4ヵ月 34.4ヵ月

・imAE発現患者および全体におけるペムブロリズマブ投与期間中央値、化学療法期間中央値、PFS中央値、OS中央値は、順に以下のとおりで、imAE発現患者でPFS、OSとも上回っていた。
– 治療を受けた全患者
 imAE発現例(149例):8.8ヵ月 7.2ヵ月 9.7ヵ月 23.9ヵ月
 全体(562例)    :5.6ヵ月 5.1ヵ月 7.5ヵ月 17.2ヵ月
– CPS 1以上の患者
 imAE発現例(109例):8.8ヵ月 7.3ヵ月 9.8ヵ月 26.3ヵ月
 全体(421例)    :5.9ヵ月 5.1ヵ月 7.6ヵ月 17.6ヵ月
– CPS 10以上の患者
 imAE発現例(64例):10.4ヵ月 8.4ヵ月 11.8ヵ月 35.6ヵ月
 全体(219例)   : 7.6ヵ月 5.8ヵ月  9.7ヵ月 22.8ヵ月

 今回の解析から、ペムブロリズマブ+化学療法で臨床的有用性が得られた患者において、PD-L1発現レベルにかかわらず、化学療法中止後もペムブロリズマブは有用であることが示唆された。この結果から、Rugo氏は「臨床的有用性が得られて化学療法を中止した患者において、ペムブロリズマブ継続が適している」とした。

(ケアネット 金沢 浩子)


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KEYNOTE-355試験(ClinicalTrials.gov)

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乳がん術後妊娠希望で内分泌療法を一時中断、再発リスクは?/NEJM

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 ホルモン受容体陽性の早期乳がん既往患者(42歳以下等の条件あり)において、妊娠を試みるための内分泌療法の一時的な中断は、乳がんイベントの短期リスクを増大しなかったことを、米国・ダナファーバーがん研究所のAnn H. Partridge氏らが報告した。これまで乳がん後に妊娠を試みるために内分泌療法を一時中断した女性の、再発リスクに関する前向きデータは不足していた。今回の結果を踏まえて著者は、「長期安全性の情報を確認するために、さらなる追跡調査が必要である」とまとめている。NEJM誌2023年5月4日号掲載の報告。

妊娠希望で内分泌療法を一時中断、乳がんイベント発生数を評価

 研究グループは、国際多施設共同研究者主導の単群試験で、乳がんを有した若い女性で妊娠を試みるために術後補助内分泌療法の一時中断を評価した。

 42歳以下、乳がんStageI、IIまたはIIIで、術後補助内分泌療法期間が18~30ヵ月の妊娠を希望する女性を適格とした。

 主要評価項目は、追跡期間中の乳がんイベント(同側または局所の浸潤性乳がん、遠隔再発、対側浸潤性乳がんの発生と定義)発生数であった。主要解析は、追跡期間1,600患者年後に実施することが計画された。事前に規定した安全性の閾値は、同一期間中の乳がんイベント発生数が46件とした。

 一時中断群の乳がんアウトカムを、本試験の組み入れ基準に該当すると思われた外部の女性コホート(対照群)と比較した。

63.8%が出産、乳がん再発リスクは事前規定の安全性閾値内

 2014年12月~2019年12月に、516例が有効性に関する主要解析に包含された。年齢中央値は37歳、乳がん診断から試験登録までの期間中央値は29ヵ月であり、93.4%が乳がんStageIまたはIIであった。

 妊娠について追跡した497例において、368例(74.0%)が1回以上妊娠し、317例(63.8%)が1人以上の生児を出産した。

 追跡期間1,638患者年(追跡期間中央値41ヵ月)において、乳がんイベントを発生した患者は44例で、安全性閾値を上回らなかった。

 乳がんイベント3年発生率は、一時中断群8.9%(95%信頼区間[CI]:6.3~11.6)、対照群9.2%(7.6~10.8)であった。絶対群間差は-0.2ポイント(95%CI:-3.1~2.8)、補正後ハザード比は0.81(95%CI:0.57~1.15)であった。

(ケアネット)


【原著論文はこちら】

Partridge AH, et al. N Engl J Med. 2023;388:1645-1656.

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AI耐性HR+進行乳がんへのcapivasertib上乗せによるPFS改善、サブグループ解析結果(CAPItello-291)/ESMO BREAST 2023

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 アロマターゼ阻害薬(AI)耐性のホルモン受容体陽性(HR+)HER2陰性(HER2-)進行乳がん(切除不能の局所進行乳がんもしくは転移・再発乳がん)に対するフルベストラントへのAKT阻害薬capivasertibの上乗せ効果を検討した第III相CAPItello-291試験。その探索的サブグループ解析の結果、CDK4/6阻害薬治療歴、進行がんへの化学療法歴、肝転移の有無にかかわらず、一貫した無増悪生存期間(PFS)の改善が示された。英国・The Royal Marsden Hospital-ChelseaのNicholas Turner氏が欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2023)で報告した。

 本試験の主要評価項目である全体集団およびAKT経路に変異のある集団におけるPFSの結果は、2022年のサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2022)で報告されている(全体集団でのハザード比[HR]:0.60、AKT経路変異集団でのHR:0.50)。また、全生存期間(OS)はimmatureではあるが、全体集団でのHRが0.74、AKT経路変異集団のHRが0.69であった。今回は事前に計画された探索的サブグループ解析の結果が報告された(データカットオフ:2022年8月15日)。

・対象:男性もしくは閉経前/後の女性のHR+/HER2-の進行乳がん患者(AI投与中/後に再発・進行、進行がんに対して2ライン以下の内分泌療法・1ライン以下の化学療法、CDK4/6阻害薬治療歴ありも許容、SERD・mTOR阻害薬・PI3K阻害薬・AKT阻害薬の治療歴は不可、HbA1c 8.0%未満)
・試験群(capi群):capivasertib(400mg1日2回、4日間投与、3日間休薬)+フルベストラント(500mg) 355例
・対照群(プラセボ群):プラセボ+フルベストラント 353例
・評価項目:
[主要評価項目]全体集団およびAKT経路(PIK3CAAKT1PTENのいずれか1つ以上)に変異のある患者集団におけるPFS
[副次評価項目]全体集団およびAKT経路に変異のある患者集団におけるOS、奏効率(ORR)など
[サブグループ]CDK4/6阻害薬治療歴の有無、進行がんへの化学療法歴の有無、ベースラインにおける肝転移の有無

 今回のサブグループ解析における主な結果は以下のとおり。

・全体集団における各群のPFS中央値および調整HR(95%信頼区間)は以下のとおり。
– CDK4/6阻害薬治療歴
 あり:capi群5.5ヵ月、プラセボ群2.6ヵ月、0.59(0.48~0.72)
 なし:capi群10.9ヵ月、プラセボ群7.2ヵ月、0.64(0.45~0.90)
– 進行がんへの化学療法歴
 あり:capi群3.8ヵ月、プラセボ群2.1ヵ月、0.55(0.36~0.82)
 なし:capi群7.3ヵ月、プラセボ群3.7ヵ月、0.62(0.51~0.75)
– 肝転移
 あり:capi群3.8ヵ月、プラセボ群1.9ヵ月、0.61(0.48~0.78)
 なし:capi群9.2ヵ月、プラセボ群5.5ヵ月、0.60(0.48~0.76)

・CDK4/6阻害薬治療期間について12ヵ月未満と12ヵ月以上で層別解析した結果、治療期間によらずcapi群が有効であることが確認された。

 Turner氏は「フルベストラント単剤の有効性は低く、CDK4/6阻害薬投与後のアンメットニーズを浮き彫りにした。capivasertib+フルベストラントは、CDK4/6阻害薬の使用有無にかかわらず、AI投与中もしくは後に進行したHR+進行乳がんに対する治療選択肢となる可能性がある」とした。

(ケアネット 金沢 浩子)


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CAPItello-291試験(ClinicalTrials.gov)

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閉経後HR+乳がんの術後アナストロゾール、10年vs.5年(AERAS)/JCO

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 閉経後ホルモン受容体(HR)陽性乳がん患者に対する術後のアロマターゼ阻害薬の投与期間について、5年から10年に延長すると無病生存(DFS)率が改善することが、日本の多施設共同無作為化非盲検第III相試験(N-SAS BC 05/AERAS)で示された。岩瀬 拓士氏(日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院)らによる論文が、Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2023年4月20日号に掲載された。

 本試験は、アナストロゾールを5年投与、もしくはタモキシフェンを2~3年投与後にアナストロゾール2~3年投与した閉経後乳がん患者を対象に、アナストロゾールをさらに5年延長した場合の効果を評価した。患者は、アナストロゾールをさらに5年継続する群(継続群)と、アナストロゾールを中止する群(中止群)に無作為に1:1に割り付けた。主要評価項目はDFS(乳がん再発・2次原発がん発生・あらゆる原因での死亡までの期間)、副次評価項目は全生存(OS)、遠隔無病生存(DDFS)、安全性などであった。

 主な結果は以下のとおり。

・2007年11月~2012年11月に117施設から1,697例を登録し、追跡情報が得られた1,593例(継続群787例、中止群806例)をFAS(Full Analysis Set)とした(タモキシフェン治療歴のある144例と放射線照射を伴わない乳房温存手術を受けた259例を含む)。
・5年DFS率は、継続群で91%(95%信頼区間[CI]:89~93)、中止群で86%(同:83~88)であった(ハザード比:0.61、95%CI:0.46~0.82、p<0.0010)。
・アナストロゾール延長により、局所再発(継続群10例、中止群27例)および2次原発がん(継続群27例、中止群52例)の発生率が低下した。
・OS率およびDDFS率に有意差はなかった。
・更年期障害または骨関連の有害事象の発現率は、全Gradeでは中止群よりも継続群で高かったが、Grade3以上では両群とも1%未満であった。

 著者らは、「アナストロゾールまたはタモキシフェンによる5年の治療後にアナストロゾールをさらに5年継続する治療は、忍容性が高く、DFSを改善した。OSには差が認められなかったが、閉経後のHR陽性乳がん患者に対するアナストロゾールの投与延長は治療選択の1つとなりうる」としている。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Iwase T, et al. J Clin Oncol. 2023 Apr 20. [Epub ahead of print]

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スタチンでアジア人乳がん患者のがん死亡リスク低下

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 スタチン製剤を服用しているアジア人の乳がん患者では、スタチンを服用していない乳がん患者と比べて、がん関連の死亡リスクが有意に低かったことを、台湾・国立成功大学のWei-Ting Chang氏らが明らかにした。なお、心血管疾患による死亡リスクには有意差はなかった。JAMA Network Open誌4月21日号掲載の報告。

 スタチンは化学療法と併用することで、がんの進行や微小転移を抑制することが報告されていて、乳がんの再発リスクを低減させる可能性が示唆されている。しかし、欧米の乳がん患者とは異なり、アジアの乳がん患者は診断時の年齢が比較的若く、ほとんどが心血管リスク因子を有していないため、スタチンの服用によって生存率が改善するかどうかは不明である。そこで研究グループは、アジア人の乳がん患者において、スタチン使用とがんおよび心血管疾患による死亡リスクとの関連を後方視的に調査した。

 本コホート研究の対象は、台湾の国民健康保険研究データベース(NHIRD)と国民がん登録を用いて、2012年1月~2017年12月までに乳がんと診断された女性患者1万4,902例で、乳がんの診断前6ヵ月以内にスタチンを服用した患者と、スタチンを服用していない患者を比較した。年齢、がんの進行度、抗がん剤治療、併存疾患、社会経済的状況、心血管系薬剤などを傾向スコアマッチング法で適合させ、解析は2022年6月~2023年2月に実施された。主要アウトカムは死亡(全死因、がん、心血管疾患、その他)で、副次的アウトカムは新規発症の急性心不全、急性心筋梗塞や虚血性脳卒中などの動脈イベント、深部静脈血栓症や肺塞栓症などの静脈イベントであった。平均追跡期間は4.10±2.96年であった。

 主な結果は以下のとおり。

・スタチン使用群7,451例(平均年齢64.3±9.4歳)とスタチン非使用群7,451例(平均年齢65.8±10.8歳)がマッチングされた。
・非使用群と比較して、使用群では全死因死亡のリスクが有意に低かった(調整ハザード比[aHR]:0.83、95%信頼区間[CI]:0.77~0.91、p<0.001)。
・がん関連死亡のリスクも、非使用群と比較して、使用群では有意に低かった(aHR:0.83、95%CI:0.75~0.92、p<0.001)。
・心不全、動脈・静脈イベントなどの心血管疾患の発生は少数であり、使用群と非使用群で死亡リスクに有意差は認められなかった。
・時間依存性解析でも、非使用群と比較して、使用群では全死因死亡(aHR:0.32、95%CI:0.28~0.36、p<0.001)およびがん関連死亡(aHR:0.28、95%CI:0.24~0.32、p<0.001)が有意に少なかった。
・これらのリスクは、とくに高用量スタチンを服用している群でさらに低かった。

 これらの結果より、研究グループは「アジア人の乳がん患者を対象としたこのコホート研究では、スタチンの使用は心血管疾患による死亡ではなく、がん関連の死亡リスクの低減と関連していた。今回の結果は、乳がん患者におけるスタチンの使用を支持するエビデンスとなるが、さらなるランダム化試験が必要である」とまとめた。

(ケアネット 森 幸子)


【原著論文はこちら】

Chang WT, et al. JAMA Netw Open. 2023;6:e239515.

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若年乳がん患者、出産は予後に影響するのか~日本の傾向スコアマッチング研究

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 若年乳がん患者の出産に関するこれまでの研究は潜在的なバイアスがあり不明な点が多い。今回、聖路加国際病院の越智 友洋氏らが傾向スコアマッチングを用いて、乳がん診断後の出産が予後に及ぼす影響を検討した結果、出産により再発や死亡リスクは増加しないことが示唆された。Breast Cancer誌2023年5月号に掲載。

 本研究は、単施設での後ろ向きコホート研究で、2005~14年に乳がんと診断された45歳以下の患者を対象とし、診断後に出産した患者(出産コホート)104例と出産していない患者(非出産コホート)2,250例で無再発生存率(RFS)および全生存率(OS)を比較した。傾向スコアモデルの共変量は、年齢、腫瘍の大きさ、リンパ節転移の有無、乳がん診断前の分娩回数、エストロゲン受容体およびHER2の発現状態とした。

 主な結果は以下のとおり。

・追跡期間中央値82ヵ月で、出産コホートは非出産コホートよりRFSが有意に長かった(ハザード比[HR]:0.469[0.221~0.992]、p=0.047)が、OSには有意差はなかった(HR:0.208[0.029~1.494]、p=0.119)。

・傾向スコアマッチング後、乳がん診断後の出産はRFS(HR:0.436[0.163~1.164]、p=0.098)およびOS(HR:0.372[0.033~4.134]、p=0.402)と有意な関連はなかった。

(ケアネット 金沢 浩子)


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Ochi T, et al. Breast Cancer. 2023;30:354-363.

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T-DXd、T-DM1不応または抵抗性乳がんに有効/Lancet

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 トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)に対して不応または抵抗性を示すHER2陽性転移のある乳がん患者の治療において、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)は医師が選択した治療と比較して、無増悪生存期間(PFS)が有意に延長し、安全性プロファイルはすでに確立されたものと一致し、新たな安全性シグナルは観察されなかったことが、フランス・パリ・サクレー大学のFabrice Andre氏らが実施した「DESTINY-Breast02試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年4月19日号で報告された。

227施設の無作為化第III相試験

 DESTINY-Breast02試験は、北米、欧州、アジア(日本を含む)、オーストラリア、ブラジル、イスラエル、トルコの227施設が参加した非盲検無作為化第III相試験であり、2018年9月~2020年12月の期間に患者のスクリーニングと無作為割り付けが行われた(Daiichi SankyoとAstraZenecaの助成を受けた)。

 年齢18歳以上、病理学的に切除不能なHER2陽性転移のある乳がんが確認され、T-DM1による治療歴があり、画像所見で病勢の進行が認められ、全身状態が良好な患者(ECOG PSスコア0/1)が、T-DXd(5.4mg/kg、3週ごとに静脈内投与)、または医師の選択による治療を受ける群に、2対1の割合で無作為に割り付けられた。

 医師の選択による治療は、カペシタビン+トラスツズマブまたはカペシタビン+ラパチニブとされ、いずれも21日スケジュールで投与された。

 主要評価項目はPFSであり、最大の解析対象集団(FAS)において盲検下に独立の中央判定で評価が行われた。

OSも良好、14%で完全奏効

 608例が登録され、T-DXd群に406例、医師選択治療群に202例が割り付けられた。それぞれ2例および7例が実際には治療を受けなかったが、608例すべてがFASに含まれた。

 年齢中央値は、T-DXd群が54.2歳(四分位範囲[IQR]:45.5~63.4)、医師選択治療群は54.7歳(48.0~63.0)であり、男性がそれぞれ3例および2例、白人が63%ずつ、アジア人が30%および28%含まれた。フォローアップ期間中央値は、21.5ヵ月および18.6ヵ月だった。

 盲検下独立中央判定によるPFS中央値は、T-DXd群が17.8ヵ月(95%信頼区間[CI]:14.3~20.8)と、医師選択治療群の6.9ヵ月(5.5~8.4)に比べ、有意に延長した(ハザード比[HR]:0.36、95%信頼区間[CI]:0.28~0.45、p<0.0001)。

 全生存期間(OS)中央値は、T-DXd群が39.2ヵ月(95%CI:32.7~評価不能[NE])であり、医師選択治療群の26.5ヵ月(21.0~NE)に比し、有意に延長した(HR:0.66、95%CI:0.50~0.86、p=0.0021[統計学的有意性の境界値:p=0.0040])。また、奏効率は、それぞれ70%(283/406例)および29%(59/202例)であり、内訳は完全奏効が14%(57例)および5%(10例)、部分奏効は56%(226例)および24%(49例)だった。

抗体-薬物複合体による逐次治療の可能性

 頻度の高い治療関連有害事象として、悪心(T-DXd群73%[293/404例]、医師選択治療群37%[73/195例])、嘔吐(38%[152例]、13%[25例])、脱毛(37%[150例]、4%[8例])、疲労(36%[147例]、27%[52例])、下痢(27%[109例]、54%[105例])、手掌・足底発赤知覚不全症候群(2%[7例]、51%[100例])が認められた。

 Grade3以上の治療関連有害事象は、T-DXd群が53%、医師選択治療群は44%で発現し、薬剤関連の間質性肺疾患がそれぞれ10%(42例、Grade5[死亡]の2例を含む)および<1%(1例)でみられた。

 著者は、「われわれの知る限りこの研究は、抗体-薬物複合体が、別の抗体-薬物複合体による治療で病勢が進行した患者において有意な有益性を示した初めての無作為化試験であり、HER2陽性転移のある乳がんや他の患者集団における抗体-薬物複合体の逐次治療に関して、明るい展望をもたらすものである」としている。

(医学ライター 菅野 守)


【原著論文はこちら】

Andre F, et al. Lancet. 2023 Apr 19. [Epub ahead of print]

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早期乳がん、アントラサイクリン+タキサン併用が最も有効~メタ解析/Lancet

提供元:CareNet.com

 乳がんの再発と死亡の減少にはアントラサイクリン系+タキサン系併用療法が最も有効であり、とくにアントラサイクリン系+タキサン系の累積投与量が多いレジメンで最大の効果を得られることが、英国・オックスフォード大学のJeremy Braybrooke氏らEarly Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group(EBCTCG)が行ったメタ解析で明らかにされた。早期乳がんに対するアントラサイクリン系+タキサン系併用療法は、化学療法を行わない場合と比較して生存を著明に改善するが、アントラサイクリン系薬剤の短期および長期の副作用に対する懸念から、アントラサイクリン系薬剤を含まないタキサン系レジメンの使用が増加しており、有効性が損なわれる可能性があった。

 著者は、「示された結果は、臨床診療やガイドラインにおける最近のトレンドである非アントラサイクリン系化学療法、とくにドセタキセル+シクロホスファミドの4サイクルなどの短期レジメンに対して挑戦的である」と述べ、「本検討は、関連するほぼすべての臨床試験のデータをまとめており、個々の治療の決定、臨床ガイドライン、および将来の臨床試験のデザインに役立つ確かなエビデンスを提供するものである」とまとめている。Lancet誌2023年4月15日号掲載の報告。

アントラサイクリン系およびタキサン系レジメンを評価した無作為化試験86件が対象

 研究グループは、MEDLINE、Embase、Cochrane Library、学会抄録を含むデータベースを用いて、アントラサイクリン系およびタキサン系レジメンを評価したあらゆる言語の無作為化試験86件を特定(最終検索は2022年9月)。タキサン系レジメンとアントラサイクリン系レジメンを比較した無作為化試験の患者個人レベルのメタ解析を行い、本研究グループによる前回のメタ解析を更新するとともに、6つの関連比較に関して解析した。術後または術前補助療法の臨床試験は、2012年1月1日以前に開始されたものであれば対象とした。

 主要アウトカムは、浸潤性乳がんの再発(遠隔、局所、対側乳房の新規原発)、乳がん死、再発を伴わない死亡、全死亡とし、log-rank解析により初回イベント率比(RR)と信頼区間(CI)を算出した。

アントラサイクリン系+タキサン系同時併用が最も再発率が低い

 アントラサイクリン系を含むタキサン系レジメンとアントラサイクリン系を含まないタキサン系レジメンを比較した28件の臨床試験を特定し、23件を適格とした。そのうち15件について、計1万8,103例の女性の個人データが提供された。この15件すべてにおいて、アントラサイクリン系を含むタキサン系レジメンは、アントラサイクリン系を含まないタキサン系レジメンより、再発率が平均14%低かった(RR:0.86、95%CI:0.79~0.93、p=0.0004)。非乳がん死は増加しなかったが、治療を受けた女性700例当たり1例に急性骨髄性白血病の発症が認められた。

 再発率が最も低かったのは、ドセタキセル+シクロホスファミドにアントラサイクリン系の同時併用と、同量のドセタキセル+シクロホスファミドを比較した場合であった(10年再発リスク:12.3% vs.21.0%、リスク差:8.7%[95%CI:4.5~12.9]、RR:0.58[95%CI:0.47~0.73]、p<0.0001)。このグループにおける10年乳がん死亡率は4.2%減少した(95%CI:0.4~8.1、p=0.0034)。

 アントラサイクリン系+タキサン系の順次投与は、ドセタキセル+シクロホスファミドと比較して、再発リスクの有意な低下は認められなかった(RR:0.94、95%CI:0.83~1.06、p=0.30)。

 アントラサイクリン系レジメンとタキサン系レジメンを比較した臨床試験については、44件の適格試験を特定し、このうち35件について計5万2,976例の女性の個人データが提供された。

 アントラサイクリン系レジメンへのタキサン系薬剤の上乗せは、タキサン系薬剤を含まないアントラサイクリン系レジメン(アントラサイクリン系薬剤の累積投与量が同じ)と比較した場合は再発を有意に抑制したが(RR:0.87、95%CI:0.82~0.93、p<0.0001、1万1,167例)、対照群の非タキサン系薬剤の累積投与量をタキサン系薬剤の2倍量にした場合と比較すると再発率の有意な低下は認められなかった(RR:0.96、95%CI:0.90~1.03、p=0.27、1万4,620例)。

 アントラサイクリン系レジメンとタキサン系レジメンの直接比較では、累積投与量が多く、投与強度が高いレジメンがより効果的であることが示された。アントラサイクリン系+タキサン系併用療法の再発抑制効果は、エストロゲン受容体陽性集団とエストロゲン受容体陰性集団で同様であり、年齢、リンパ節転移状態、腫瘍のサイズまたはグレードによって差は認められなかった。

(ケアネット)


【原著論文はこちら】

Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group (EBCTCG). Lancet. 2023;401:1277-1292.

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術前AC抵抗性TN乳がん、アテゾリズマブ+nab-PTXが有望/第II相試験

提供元:CareNet.com

 トリプルネガティブ乳がん(TNBC)では、抗PD-(L)1抗体による術前療法で病理学的完全奏効(pCR)率が改善されるが、免疫関連有害事象(irAE)の長期持続リスクのためリスク・ベネフィット比の最適化が重要である。最初の術前療法で臨床効果が不十分な場合はpCR率が低い(2~5%)ことから、免疫チェックポイント阻害薬が選択可能かもしれない。今回、米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのClinton Yam氏らは、術前ドキソルビシン+シクロホスファミド(AC)抵抗性のTNBC患者に対して、第2の術前療法としてアテゾリズマブ+nab-パクリタキセルを投与する単群第II相試験を実施し、有望な結果が得られた。Breast Cancer Research and Treatment誌オンライン版2023年4月15日号に掲載。

 本試験の対象は、StageI~IIIのAC抵抗性(AC 4サイクル後に病勢進行もしくは腫瘍体積の80%未満の減少)のTNBCで、第2の術前療法としてアテゾリズマブ(1,200mg、3週ごと4回)+nab-パクリタキセル(100mg/m2、1週ごと12回)を投与後、アテゾリズマブ(1,200mg、3週ごと4回)を投与した。

 主な結果は以下のとおり。

・2016年2月15日~2021年1月29日にAC抵抗性TNBCを37例登録した。
・pCR/residual cancer burden(RCB)-I率は46%だった(ヒストリカルコントロール群:5%)。
・新たな安全性シグナルは観察されなかった。
・7例(19%)がirAEによりアテゾリズマブを中止した。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Yam C, et al. Breast Cancer Res Treat. 2023 Apr 15. [Epub ahead of print]

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