T-DXd単剤療法におけるILD発生状況、9試験のプール解析結果/ESMO Open

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 間質性肺疾患(ILD)/肺炎は、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)に関連する重要な有害事象である。米国・マウントサイナイ医科大学のC A Powell氏らは、T-DXd単剤療法に関する9つの第I相および第II相試験のプール解析を実施し、ILD/肺炎のリスクを評価した。ESMO Open誌2022年8月10日号に掲載。

 治験責任医師が評価したILD/肺炎について、独立判定委員会が後ろ向きにレビューし、薬剤関連ILD/肺炎と判定された事象について要約した。

 主な結果は以下のとおり。

・解析対象は1,150例(乳がん44.3%、胃がん25.6%、肺がん17.7%、大腸がん9.3%、その他のがん3.0%)。
・治療期間中央値は5.8ヵ月(0.7~56.3)、前治療歴中央値は4ライン(1~27)だった。
・薬剤関連ILD/肺炎の発生率は15.4%(Grade5:2.2%)だった。
・ほとんどのILD/肺炎症例が低Grade(Grade1または2:77.4%)で、87.0%がT-DXdの初回投与から12ヵ月以内(中央値:5.4ヵ月[0.1~46.8])に最初のイベントを経験していた。
・データレビューによると、判定されたILD/肺炎の発症日は、53.2%で治験責任医師が特定した日よりも早かった(発症日の差の中央値:43日[1~499])。
・ステップワイズCox回帰分析により、薬剤関連ILD/肺炎リスク上昇に関連するいくつかのベースライン因子が同定された:年齢65歳未満、日本での登録、T-DXd用量>6.4 mg/kg、酸素飽和度<95%、中度/重度の腎障害、肺合併症、初診から4年以上経過していること。

 著者らは、今回の解析の結果、ILD/肺炎の発生率は15.4%であり、その多くは低悪性度で治療開始後12ヵ月に発生したものであったとまとめている。T-DXd治療のリスクとベネフィットの評価は肯定的であるが、一部の患者ではILD/肺炎の発症リスクが高まっている可能性があり、ILD/肺炎リスク因子を確認するためのさらなる調査が必要とし、ILD/pneumonitis に対する綿密なモニタリングと積極的な管理がすべての患者に求められるとしている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【原著論文はこちら】

Powell CA, et al. ESMO Open. 2022;7:100554.

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『がん医療におけるせん妄ガイドライン 』第2版の主な改訂点を解説

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 日本サイコオンコロジー学会 / 日本がんサポーティブケア学会編『がん医療におけるこころのケアガイドラインシリーズ 1 がん患者におけるせん妄ガイドライン 2022年版』(金原出版)を刊行した。2019年の初版に続く改訂2版となる。改訂作業にあたった京都大学医学部附属病院緩和ケアセンター/緩和医療科 精神科医の谷向 仁氏に、主な変更点やポイントを聞いた。

 がん患者さんは精神的な問題を抱えることが多いのですが、その対応は医療者個人の診療経験などによってばらつきが認められています。この経験による判断はもちろん大切なのですが、一方でさまざまなバイアスによる影響も懸念されます。

 『がん医療におけるこころのケアガイドラインシリーズ』は、がん患者さんの精神的問題に対する対応法の基本となる部分の均てん化を図ることを目的として、多くの医療分野で近年使用されている「Minds診療ガイドライン作成マニュアル」に基づきまとめられています。

 2019年の『せん妄ガイドライン』初版にはじまり、今夏刊行の『患者-医療者間のコミュニケーションガイドライン』『遺族ケアガイドライン』、そして現在シリーズ4冊目となる不安と抑うつをテーマとした『がん患者の気持ちのつらさ(仮)』を作成中です。

がん患者に特有のせん妄について主に解説

 せん妄とは、身体的異常や使用薬剤が直接的原因となって引き起こされる意識障害です。あらゆる疾患で起こり得るものですが、がん患者ではその頻度が高く、特に終末期がん患者では80~90%に認められると報告されています。また、骨転移に伴う高カルシウム血症や脳転移、症状緩和の目的で使用されるオピオイドやステロイドなど、がん患者に特有ともいえる背景を有します。さらには、がん患者のみならず家族をも含めてのケアが重要となります。

 本ガイドラインではこのようながん特有のせん妄に関するトピックに対して、がん患者でのこれまでの質の高い研究報告を中心にシステマティックレビューを行い、検討したものをまとめています。

終末期せん妄へのケアや病院組織としての対応と臨床の手引きの新設およびせん妄予防視点の臨床疑問を追加

 せん妄ガイドライン2019年版を発刊以後、その内容について多くの紹介の機会を頂きました。その際、さまざまなコメントと共に、今後の改定に際しての要望も頂いておりました。今回の改訂版では、それらの貴重なご意見を可能な限り採用して補強するように努めました。第2版の主な改訂点は主に以下の通りです。

1)総論5「終末期せん妄のケアとゴール」の章を新設
2)総論6「病院の組織としてせん妄にどう取り組むか」の章を新設
3)III章の臨床疑問に「1.予防のための非薬物療法」「2.予防のための抗精神病薬」「6.症状軽減のためのトラゾドン」の3つを追加
4)IV章「臨床の手引き」を新設

 せん妄は発症後の対応が中心であった一昔前と異なり、近年では「せん妄を発症させない」予防が非常に重要と考えられるようになってきています。2020年度診療報酬改定で新設された「せん妄ハイリスクケア加算」はまさにせん妄予防を評価するという流れを反映したものです。せん妄予防では医師、看護師、薬剤師など多職種によるチーム医療、そして、組織としての取り組みが非常に重要となります。

 また、ガイドラインの結果を臨床にどのように活かすことができるかという具体的な手引きの要望も多く聞かれたことから、まず薬物療法についての解説を加えました。さらに、可逆性のせん妄対応とは大きく異なり、不可逆性の転帰が多い終末期せん妄に対する解説を充実させました。

がん診療に携わるすべての医療者に

 がん患者さんのせん妄に初めに遭遇するのは、せん妄診療を行う精神科医や心療内科医ではなく、がん治療に携わる医療者です。また、予防、早期発見と対応(原因検索とその対応)が大切であり、これらをチームで展開することが求められます。がん治療に携わる医師はもちろんのこと、看護師、薬剤師の方々などがん医療に携わるすべての医療者に手に取っていただき、日々の診療に役立てていただきたいと思っています。

書籍紹介『がん患者におけるせん妄ガイドライン 2022年版』

(ケアネット 杉崎 真名)


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オラパリブ、BRCA変異陽性HER2-乳がん術後療法に適応拡大/アストラゼネカ

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 アストラゼネカは2022年8月25日、PARP阻害薬オラパリブ(商品名:リムパーザ)について、「BRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性で再発高リスクの乳癌における術後薬物療法」の適応症を対象に、8月24日付で厚生労働省より承認を取得したことを発表した。

 今回の承認は第III相OlympiA試験の結果に基づくもので、オラパリブはプラセボと比較して主要評価項目である浸潤性疾患のない生存期間(iDFS)の統計学的に有意かつ臨床的に意義のある延長を示した。具体的には、浸潤性乳がんの再発、二次がん、または死亡リスクを42%低下させた(ハザード比[HR]:0.58、99.5%信頼区間[CI]:0.41~0.82、p<0.0001)。

 副次評価項目においては、2回目の全生存期間(OS)中間解析において、プラセボと比較してOSの統計学的に有意かつ臨床的に意義のある延長を示し、死亡リスクを32%低下させた(HR:0.68、98.5%CI:0.47~0.97、p=0.009)。なお、同試験におけるオラパリブの安全性および忍容性プロファイルは、過去の臨床試験のプロファイルと一貫していた。

<製品概要>
・販売名:リムパーザ錠 100mg、リムパーザ錠 150mg
・一般名:オラパリブ
・効能・効果:BRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性で再発高リスクの乳がんにおける術後薬物療法
・用法・用量:通常、成人にはオラパリブとして1回300mgを1日2回、経口投与する。ただし、術後薬物療法の場合、投与期間は1年間までとする。なお、患者の状態により適宜減量する。
・製造販売承認日:2022年8月24日

(ケアネット 遊佐 なつみ)


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乳がんリスク、初経から妊娠までの身体活動量との関連

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 初経から最初の妊娠までの期間が長いほど乳がんリスクは高くなるが、その期間に予防因子である身体活動量が多いとリスクを相殺できるのだろうか。今回、米国・ペンシルバニア州立大学のDan Lin氏らの研究で、初経から最初の妊娠までの期間の身体活動量と乳がんリスクの低下に関連があることが示された。サブタイプ別ではトリプルネガティブタイプでは関連がみられたが、Luminal AおよびLuminal Bタイプではみられなかった。Cancer Causes & Control誌オンライン版2022年8月20日号に掲載。

 Lin氏らは、California Teachers Study(n=78,940)において、初経から最初の妊娠までの期間における身体活動と乳がんリスクとの関連性を調査した。いくつかの時点におけるレクリエーションの身体活動を登録時に想起してもらい、週当たりの身体活動量(MET・時/週)を計算した。多変量Cox比例ハザードモデルを用いて、ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定した。

 主な結果は以下のとおり。

・21.6年間の追跡調査で浸潤性乳がんが5,157例にみられた。
・初経から最初の妊娠までの期間が長いほど、乳がんリスクが高かった(20年以上vs.15年未満、HR:1.23、95% CI:1.13~1.34)。
・初経から最初の妊娠までの期間に身体活動量(MET・時/週)が多い女性は、浸潤性乳がんのリスクが低かった(40以上vs.9未満、HR:0.89、95%CI:0.83~0.97)。また、トリプルネガティブタイプのリスクが低かった (同40以上vs.9未満、HR:0.53、95%CI:0.32~0.87)が、Luminal AおよびLuminal Bタイプでは関連がなかった。
・初経から最初の妊娠までの期間が15~19年の女性では、身体活動量が多いほど乳がんリスクが低かった(40以上vs.9未満、HR:0.80、95%CI:0.69~0.92)が、15年未満および20年以上の女性では関連がなかった。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Lin D, et al. Cancer Causes Control. 2022 Aug 20. [Epub ahead of print]

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固形がんの第I相試験、20年間で奏効率2倍に/Lancet

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 2000~19年に行われた固形がんに関する第I相臨床試験の奏効率は、治療関連の死亡率を増大することなく2倍近くになっていることが判明した。一方で、同期間の奏効率の改善は、がんの種類、治療薬、試験デザインなどさまざまな要因によるばらつきも認められたという。米国・国立がん研究所(NCI)のDai Chihara氏らが、がん治療評価研究プログラム(Cancer Therapy Evaluation Program:CTEP)の患者データを分析し明らかにした。Lancet誌2022年8月13日号掲載の報告。

治療関連死、Grade3-4毒性、奏効率を評価

 研究グループは、2000年1月1日~2019年5月31日に行われたNCIが資金を提供した研究者主導の固形がんに関する第I相臨床試験のCTEPから患者データを集めて分析した。治療関連死(「おそらく」・「十中八九」・「明確に」治療に起因するGrade5の毒性による)、治療中の全死亡(がん種にかかわらずプロトコール治療中の死亡)、Grade3-4の毒性、全奏効の程度(完全奏効および部分奏効)、対象期間中(2000~05年、2006~12年、2013~19年)の完全奏効率、および経時的傾向を評価した。

 また、がんの種類別、治療薬別奏効率や、がん種別奏効の経時的傾向についても分析した。

 患者のベースライン特性(年齢、性別、全身状態、BMI、アルブミン濃度、ヘモグロビン濃度)および試験登録期間、治療薬、試験デザインと全奏効率との単変量解析を、修正ポアソン回帰モデルに基づくリスク比を用いて評価した。

全期間全奏効率は約12%、完全奏効率は約3%

 被験者総数1万3,847例、試験薬数261、465件のプロトコールについて解析を行った。そのうち、単剤療法は144件(31%)で併用療法は321件(69%)だった。

 全体の治療関連死亡率は、全期間で0.7%(95%信頼区間[CI]:0.5~0.8)だった。治療関連死亡リスクに、全期間で変化はなかった(p=0.52)。試験期間中の治療中の全死亡リスクは、8.0%(95%CI:7.6~8.5)だった。

 最も多く認められたGrade3-4有害イベントは血液学的なもので、1万3,847例のうち、Grade3-4の好中球減少症2,336例(16.9%)、リンパ球減少症1,230例(8.9%)、貧血894例(6.5%)、血小板減少症979例(7.1%)が、それぞれ報告された。

 全試験の全奏効率は、全期間で12.2%(95%CI:11.5~12.8、1,133/9,325例)、完全奏効率は2.7%(2.4~3.0、249/9,325例)だった。全奏効率は2000~05年の9.6%(95%CI:8.7~10.6)から2013~19年の18.0%(15.7~20.5)に、完全奏効率は同じく2.5%(2.0~3.0)から4.3%(3.2~5.7)にそれぞれ上昇した。

 全奏効率は、単剤療法が3.5%(95%CI:2.8~4.2)に対し併用療法が15.8%(15.0~16.8)と高率だった。

 試験薬のクラス別全奏効率は、疾患により異なった。また、抗血管新生薬は、膀胱がん、大腸がん、腎臓がん、卵巣がんで高い全奏効率と関連していた。DNA修復阻害薬は、卵巣がん、膵臓がんで高い全奏効率と関連していた。

 全奏効率の経時的傾向も疾患により大きく異なり、膀胱がん、乳がん、腎臓がん、皮膚がんは著しく改善したが、膵臓がんと大腸がんでは全奏効率は低いまま変わらなかった。

 これらの結果を踏まえて著者は、「第I相臨床試験への参加について、試験前に患者に情報を提供したうえで意思決定を求めることが非常に重要だ」と述べながら、「今回の試験結果は、固形がんの最新の第I相臨床試験の有望なアウトカムをアップデートするものである」とコメントしている。

(医療ジャーナリスト 當麻 あづさ)


【原著論文はこちら】

Chihara D, et al. Lancet. 2022;400:512-521.

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非低リスクの非浸潤性乳管がん、ブースト照射が再発抑制/Lancet

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 乳房温存手術を受けた非低リスクの非浸潤性乳管がん(DCIS)患者において、全乳房照射(WBI)後の腫瘍床へのブースト照射(追加照射)は、Grade2以上の有害事象が増加したものの局所再発が有意に低下することが示された。オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のBoon H. Chua氏らが、多施設共同無作為化非盲検第III相試験「BIG 3-07/TROG 07.01試験」の結果を報告した。DCISに対する乳房温存手術後のWBIは局所再発を減少させるとの強く一貫したエビデンスが、無作為化試験により示されている。一方で、ブースト照射および分割照射の有効性について前向きに検討する必要性が示唆されていた。Lancet誌2022年8月6日号掲載の報告。

DCIS患者の約1,600例、従来型WBI/寡分割WBI後の±ブースト照射で検証

 研究グループは、11ヵ国(オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、カナダ、オランダ、ベルギー、フランス、スイス、イタリア、アイルランド、英国)の136施設において、片側性の非低リスクDCISで乳房温存手術を受けた切除断端1mm以上の18歳以上の女性(50歳未満、症候性、触知可能な腫瘍、腫瘍径15mm以上、多巣性、核グレードが中または高、中心壊死、面疱型、切除断端10mm未満などのうち少なくとも1つのリスク因子を有する)を登録した。

 試験開始前に、各参加施設は3つのカテゴリーのうちいずれか1つへの参加を選択した。カテゴリーAでは、患者を従来型WBI(50Gy/25回)群、寡分割WBI(42.5Gy/16回)群、従来型WBI+ブースト照射(16Gy/8回)群、寡分割WBI+ブースト照射群の4群に、1対1対1対1の割合で無作為に割り付けた。カテゴリーBでは従来型WBI群、従来型WBI+ブースト照射群の2群に、カテゴリーCでは寡分割WBI群、寡分割WBI+ブースト照射群の2群に、それぞれ1対1の割合で無作為に割り付けた。なお、治療の割り付けに関して、患者および医師ともに盲検化されなかった。

 主要評価項目は、局所再発までの期間(主要解析はブースト照射の有効性の評価)、副次評価項目は、乳がん再発までの期間、全生存期間、毒性、整容性(手術および放射線治療後の乳房の外観)であった。

 2007年6月25日~2014年6月30日の期間に、計1,608例が、ブースト照射なし群(805例)またはブースト照射群(803例)に無作為に割り付けられた。従来型WBIは831例、寡分割WBIは777例に実施された。

5年無局所再発率は、ブースト照射なし92.7% vs.ブースト照射あり97.1%

 追跡期間中央値6.6年において、5年無局所再発率はブースト照射なし群92.7%(95%信頼区間[CI]:90.6~94.4%)、ブースト照射群97.1%(95.6~98.1%)であった(ハザード比[HR]:0.47、95%CI:0.31~0.72、p<0.001)。

 ブースト照射群はブースト照射なし群より、Grade2以上の乳房痛(14%[95%CI:12~17]vs. 10%[95%CI:8~12]、p=0.003)および硬結(14%[11~16]vs. 6%[5~8]、p<0.001)の発現頻度が高かった。

 著者は、術後補助内分泌療法の順守に関するデータがないこと、民族性に関する情報が収集されておらず一般化可能性は制限される可能性があることを研究の限界として挙げたうえで、「今回の結果は、乳房温存手術を受けた非低リスクDCIS患者において、WBI後のブースト照射を支持するものである」とまとめている。

(医学ライター 吉尾 幸恵)


【原著論文はこちら】

Chua BH, et al. Lancet. 2022;400:431-440.

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『がん医療における患者-医療者間のコミュニケーションガイドライン』 、作成の狙いは?

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 2022年7月、日本サイコオンコロジー学会 / 日本がんサポーティブケア学会編『がん医療におけるこころのケアガイドラインシリーズ 2 がん医療における患者-医療者間のコミュニケーションガイドライン 2022年版』(金原出版)が出版された。本ガイドラインはこれが初版となる。作成にあたった日本サイコオンコロジー学会・コミュニケーション小委員会委員長の秋月 伸哉氏(都立駒込病院・精神腫瘍科)に、作成の狙いやに苦労した点について聞いた。

--本ガイドラインの作成の狙いと経緯は?
 がん医療におけるこころのケアガイドラインシリーズは2019年に『せん妄ガイドライン』初版でスタートしました。この作成準備をはじめた2015年時点から、続けて『患者-医療者間のコミュニケーション』をガイドライン化する構想はあったのです。ただ、『せん妄』に比べてガイドライン化のハードルが高く、出版までに時間がかかった、という事情があります。

--作成で苦労された点は?
 まずは「臨床疑問(CQ)や推奨の強さの設定」に苦労しました。コミュニケーションというエビデンスが少なく、白黒付けにくい分野をテーマにしているため、ある程度予想はしていましたが、委員会内や外部学会の方との議論が長引く場面が多々ありました。

 たとえば、患者が質問しやすくするための「質問促進リスト」を渡すことがその後の治療に益をもたらすか、といったCQであれば、「渡すか、渡さないか」なので検証する試験を設計できますが、これが「根治しない病気であることを伝える」といったコミュニケーションのパーツの益害を問うとなると、試験として設計しにくく、先行研究がほとんどありません。でもそうした細部も重要なので、できる限りエビデンスを集め、盛り込むように努力しました。

 もう一つは、「アウトカムの設定」です。一般のガイドラインでは「患者の生存期間延長に寄与する治療法」が推奨される、というシンプルな構図があります。しかし、コミュニケーションそれ自体は治療ではないので、「医療者への信頼増強」や「適切な治療へのアクセス」といった間接的な寄与、社会的にあるべき情報伝達といった複数のアウトカムを総合して評価する必要がありました。

--エビデンス確立が難しい分野で、敢えて「ガイドライン」にされた理由は?
 医療者のあいだで「患者コミュニケーションは重要な医療技術である」という統一見解はあっても、それに関する先行研究は少なく、難渋しました。しかし、患者側からのニーズは非常に強いことも感じており、完全なものでなくても、今ある知見をガイドラインとしてまとめ、世に出すことに意味があると考えました。

 がん患者とのコミュニケーションでは、再発や予後といった、非常に厳しい情報を伝えねばならない場面が多々あります。決して一律に「こうすべき」とは決められない分野ですが、現場の医療者は日々悩みながら判断し、実行しています。そうしたときに少しでも判断の助けになるものをつくりたい、という思いで取り組みました。

 「診療の手引き」など、ガイドラインの体裁をとらない推奨事項のまとめ方もありますが、ガイドラインはその後の標準治療となるもので、インパクトが強い。今後の改訂の機会にまた議論ができますし、医療者教育を考える際にも検討しやすくなります。そうした波及効果に期待しています。

--一番手にとってほしい層は?
 がん診療に関わる医師、とくに若手の方が今後のがん診療を支える中心なので、まずはそうした方々ですね。それに患者さん自身や患者さんの支援団体の方が読んでいただいても、医療者とのやり取りをより深く捉えるヒントになると思います。

【書籍紹介】がん医療におけるこころのケアガイドラインシリーズ 2 がん医療における患者-医療者間のコミュニケーション ガイドライン 2022年版
https://www.carenet.com/store/book/cg003800_index.html

(ケアネット 杉崎 真名)


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乳がんの予後、右側と左側で異なる?

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 乳がんの発生率は右側より左側が多いと報告されているが、予後や術前補助化学療法への反応に違いはあるのだろうか。今回、米国・University of North CarolinaのYara Abdou氏らが左側乳がんと右側乳がんの予後や臨床病理学的、遺伝学的特性の違いを調査したところ、左側乳がんは右側乳がんと比べて遺伝子プロファイルが増殖的で、術前補助化学療法への奏効率が低く、予後がやや不良であることが示された。Scientific Reports誌2022年8月4日号に掲載。

 乳がんの側性に関しては、約80年前(1940年)に初めて左側乳がんの頻度が高いことが報告され、その後も一貫して左側乳がんのほうがわずかに高いことが報告されいる。しかし、根本的な特徴の違いは十分に検討されておらず、その原因についても仮説として、左乳房が大きいこと、右利き女性の左側乳がんの早期発見、右母乳育児などがあるが証明されていない。

 著者らは、Surveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)データベースに1988~2015年に登録された乳がん患者88万1,320例(男性、18歳未満、両側乳がん、DCIS、Stage IV、Stage不明、生存患者を除く)の生存期間と臨床的特徴を調べた。また、Cancer Genome Atlas(TCGA)を用い、1,062例の遺伝子および臨床的特徴を探索した。さらにRoswell Park Comprehensive Cancer Centerで2009~13年に術前補助化学治療を受けた155例の単施設コホートでの後ろ向き調査を実施し、病理学的完全奏効(pCR)による特性をまとめた(pCRはypT0/isN0と定義)。

 主な結果は以下のとおり。

・左側乳がんは右側乳がんより多かった(SEER:50.8% vs.49.2%、TCGA:52.0% vs.48.0%、単施設:50.3% vs.49.7%)。
・臨床病理学的な違いは認められなかった。
・SEERコホートでは、左側乳がんは右側乳がんに比べ、悪性度、Stage、腫瘍サブタイプの調整後も全生存が不良であった(ハザード比:1.05、95%信頼区間:1.01~1.08、p=0.011)。TCGAコホートおよび単施設コホートでは全生存に有意差は認められなかった。
・G2Mチェックポイント、有糸分裂紡錘体、E2Fターゲット、MYCターゲットなどの細胞増殖および細胞周期関連遺伝子は、左側乳がんにおいて右側乳がんより有意に濃縮されていた。
・術前補助化学治療を受けた155例の単施設コホートにおいて、左側乳がんは右側乳がんよりpCR率が低かった(15.4% vs.29.9%、p=0.036)。

(ケアネット 金沢 浩子)


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Abdou Y, et al. Sci Rep. 2022;12:13377.

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術前化学療法におけるHER2低発現乳がんの特徴

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 術前化学療法におけるHER2低発現乳がんの臨床像、病理学的完全奏効(pCR)、予後について後ろ向きに評価したところ、ホルモン受容体(HR)の有無により臨床像や治療への奏効が異なることが示された。中国・鄭州大学人民病院のYingbo Shao氏らが、Annals of Surgical Oncology誌オンライン版2022年8月6日号で報告。

 本研究では、2017年1月~2019年12月に術前化学療法を受けたHER2陰性乳がん患者314例をHER2低発現患者とHER2ゼロ患者の2群に分け、後ろ向きに評価した。

 主な結果は以下のとおり。

・HR陽性(HR+)乳がん患者におけるHER2低発現患者の割合は、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)における割合より高かった。
・HR+乳がん患者において、HER2低発現患者はHER2ゼロ患者に比べてリンパ節転移が少なく(p=0.023)、Stageが早期だった(p=0.015)。ただし、TNBC患者においてはHER2低発現患者のStageが進行していた(p=0.028)。
・pCRをypTis/0ypN0と定義した場合、コホート全体、HR+乳がん、TNBCで、HER2低発現患者とHER2ゼロ患者のpCR率に差はなかった。しかし、pCRをypT0ypN0と定義した場合のpCR率は、コホート全体(24.3% vs.36.4%、p=0.032)およびHR+患者(18.7% vs.32.1%、p=0.035)において、HER2低発現患者においてHER2ゼロ患者より有意に低かった。
・多変量解析により、HER2の発現(低発現vs.ゼロ) が、HR+乳がんにおけるpCRの独立した予測因子であることが示された(p=0.013)。
・コホート全体、HR+乳がん、TNBCにおいて、HER2低発現患者と HER2ゼロ患者で、3年無病生存期間と全生存期間に統計学的有意差は認められなかった。

(ケアネット 金沢 浩子)


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Shao Y, et al. Ann Surg Oncol. 2022 Aug 6.[Epub ahead of print]

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外科医の手術経験数に男女格差/岐阜大

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 外科医不足が深刻化しているなか、外科医に占める女性の割合は増加している。しかし、指導的立場にある女性は極端に少ないとされる。

 大阪医科薬科大学の河野 恵美子氏、東京大学の野村 幸世氏、岐阜大学の吉田 和弘氏らの研究グループは、女性外科医の手術修練に着目。日本の外科医の手術の95%以上が収録されているNational Clinical Databaseを用いて、6術式(胆嚢摘出術・虫垂切除術・幽門側胃切除術・結腸右半切除術・低位前方切除術・膵頭十二指腸切除術)における外科医1人あたりの執刀数を男女間で比較した。

 その結果、全ての術式で女性外科医は男性外科医より執刀数が少ないことが判明した。格差は手術難易度が高いほど顕著であり、経験年数の増大とともに拡大する傾向にあった。

 今回の研究で、研究者は「女性も一定以上の手術手技を獲得し、指導的立場で日本の外科診療を担っていくことが本来のあるべき姿。本研究結果が外科におけるジェンダー平等と女性のエンパワーメントの実現につながることを期待している」とコメントしている。

 この研究成果はJAMA Surgery誌2022年7月27日号にオンライン掲載された。

(ケアネット 細田 雅之)


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Kono E, et al. JAMA Surg. 2022Jul 27.[Epub ahead of print]

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