何はさておき記述統計 その5【「実践的」臨床研究入門】第44回

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本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

2群の生存時間曲線を比較する

 今回は、無料の統計解析ソフトであるEZR(Eazy R)を用いて前回作成したKaplan-Meier曲線と統計解析(Log-rank検定)結果の出力を確認して解説します。

 まず、Kaplan-Meier曲線(図1)ですが、低たんぱく食厳格遵守群(Treat=1)は赤線で、低たんぱく食非厳格遵守群(Treat=0)は黒線で表示されています。

図1

 デフォルトのオプション設定で指定されているとおり(連載第43回参照)、「打ち切り」は「ヒゲ」で表され(連載第42回参照)、また各時点での観察対象となるat risk集団(連載第35回参照)のサンプル数が”Number at risk”として示されています。

 生存時間解析の結果の要約とLog-rank検定の結果は、EZRのRコマンダー出力ウィンドウの最後に表示されています(図2)。

図2

 低たんぱく食厳格遵守群(Treat=1)、低たんぱく食非厳格遵守群(Treat=0)のサンプル数はそれぞれ212例、426例で、右端に表されているのが両群間の生存時間曲線の比較検定(Log-rank検定)のp値です。生存期間中央値と95%信頼区間はそれぞれNA(not available)と表示されています。生存期間中央値は、Kaplan-Meier曲線で生存率(イベント非発生率)が50%となる値(期間)です。Kaplan-Meier曲線(図1)をみてわかるように、両群とも観察期間終了時(5年)に50%以上の対象が生存(イベント非発生)しているので、生存時間中央値およびその95%信頼区間は求めることができません。

 それでは、ここで簡単に統計学的仮説検定とp値の考え方について解説します。

 統計学的仮説検定は論理学の背理法に基づいて進めて行きます。ここでのわれわれの仮説、「低たんぱく食厳格遵守と低たんぱく食非厳格遵守で、末期腎不全の発症率に差がある」を検証する場合、次のように考えます。

 まず、検証したい仮説の否定を考え、「低たんぱく食厳格遵守と低たんぱく食非厳格遵守で、末期腎不全の発症率に差がない」、とします。これを帰無仮説(差なし仮説)と言います。

 p値のpはprobabilityのpでまさに確率であり、0から1の値をとります。p値とは、帰無仮説が正しいと仮定したときに、実際に標本から得られたデータ以上に帰無仮説から離れたデータが得られる確率を表した値、のことです。p値が非常に小さな場合、帰無仮説が誤っている(帰無仮説を棄却)とし、統計学的有意差がある、と判断します。統計学的に有意であると判断する基準を有意水準と言いますが、一般的には0.05(5%)に設定されます。これは5%未満の誤りであれば許容できる、という一般的な感覚から慣習で決められた数値です。

 統計学的仮説検定の手法は扱うデータ(変数)の型によって異なります。ここで扱う生存時間、生存時間曲線の比較では一般的にLog-rank検定が用いられることが多いです。

 さて、低たんぱく食厳格遵守群(Treat=1)と低たんぱく食非厳格遵守群(Treat=0)の生存時間曲線の比較検定(Log-rank検定)のp値は0.0657と有意水準0.05を上回っていました。したがって、「低たんぱく食厳格遵守と低たんぱく食非厳格遵守で、末期腎不全の発症率に差がない」という帰無仮説は棄却できません。さらに言うと、統計学的に有意差はないものの、生存時間曲線の見た目からは低たんぱく食厳格遵守群(Treat=1)より低たんぱく食非厳格遵守群(Treat=0)の方が予後が良さそうにも見えます。

 生存時間曲線の比較検定(Log-rank検定)の結果からは、われわれの仮説に沿った解析結果が得られませんでした。ここで研究は終了(継続断念)でしょうか。次回からは、観察研究においてExposure(曝露要因)とOutcome(アウトカム)の関連や因果関係を歪める「交絡(因子)」について解説します。


講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学臨床疫学研究所 所長・教授
昭和大学医学部衛生学・公衆衛生学講座/内科学講座腎臓内科学部門 兼担教授

福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


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何はさておき記述統計 その4【「実践的」臨床研究入門】第43回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

仮想データ・セットを用いてKaplan-Meier曲線を描いてみる

 前々回は簡単なエクセル関数を使って仮想データ・セットから発生率を計算し、前回は手計算によるKaplan-Meier曲線の描き方を説明しました。今回は、いよいよ仮想データ・セットを用いて実際にKaplan-Meier曲線を描いてみます。

 今後、実際の統計解析手法については無料の統計解析ソフトであるEZR(Eazy R)の操作手順を交えて解説していきます。まずはEZRの概要とそのインストール方法について簡単に説明します。

 EZRは自治医科大学附属さいたま医療センター血液科の神田 善伸先生が無料統計解析ソフトRに基づいて開発されました。RはR言語というプログラミング言語(スクリプト)を入力しないと動かせないというのが、統計解析初心者にとって最大の障壁になっています。しかし、EZRではマウスなどのポインティングデバイス操作だけで基本的な統計解析を行うことができるgraphic user interfaceを採用しており、ユーザーフレンドリーな統計解析ソフトです。EZRのダウンロードとインストールについては、自治医科大学附属さいたま医療センター血液科のホームページにアクセスし、説明のとおりに行ってください。

 それでは、早速仮想データ・セットからEZRを用いてKaplan-Meier曲線を描いてみましょう。

 仮想データ・セットをダウンロードする

 まずは、Kaplan-Meier曲線の描出に必要なデータを整理し準備します。必要となるデータは以下の3つになります。

・比較する群のデータ
・イベント(アウトカム発生)か打ち切りのデータ
・生存時間(観察期間)のデータ

 これらは、下記に示した仮想データ・セットのB、C、D列にそれぞれ相当します(連載第41回参照)。

・A列:ID
・B列:Treat(1;低たんぱく食厳格遵守群、0;低たんぱく食非厳格遵守群)
・C列:Censor(1;アウトカム発生、0;打ち切り)
・D列:Year(at riskな観察期間)

 次に、インストールしたEZRを起動し、以下の手順で仮想データ・セットを取り込みましょう。

「ファイル」→「データのインポート」→「Excelのデータをインポート」

 仮想データ・セットがインポートできたことを確認したら、下記の手順でKaplan-Meier曲線を作成します。

「統計解析」→「生存時間の解析」→「生存曲線の記述と群間の比較(Logrank検定)」を選択。

 すると、下記のウィンドウが開きますので、以下のとおりにそれぞれ変数を選択します。

・観察期間の変数 ⇒ Year
・イベント(1)、打ち切り(0)の変数 ⇒ Censor
・群別する変数を選択 ⇒ Treat

 その他はとりあえずデフォルト設定のままで結構です。

 変数選択と設定が完了したら、「OK」ボタンをクリックしましょう。

 図のようなKaplan-Meier曲線が描けたでしょうか。


講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学臨床疫学研究所 所長・教授
昭和大学医学部衛生学・公衆衛生学講座/内科学講座腎臓内科学部門 兼担教授

福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


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生存時間と生存時間曲線

 はじめに生存時間とは何かについて説明します。臨床研究におけるアウトカム指標として、生存時間は最も重要なものの1つです。悪性腫瘍だけでなく臓器不全にいたるすべての疾患は、最終的には死亡という転帰を迎えます。多くの場合、死亡というアウトカム(イベント)が発生するまでの時間の長さがどの程度であるか、が最も重要となります。なお、生存時間とは死亡にいたるまでの時間だけでなく、あるイベント発生までの時間を示すこともあります。

 臨床研究においてはKaplan-Meier法による生存率の計算が行われることが一般的です。ここでは、Kaplan-Meier曲線の描き方について具体的に解説します。Kaplan-Meier法では、新たにイベントが発生するごとに生存率が繰り返し再計算されます。これまで説明してきた「打ち切り」という事象も考慮しながら(連載第37回第41回参照)、逆にある時点までイベントを発生しない確率を考えてみるのです。別の言い方をすれば、ある時点までイベントを発生しない確率を生存割合として、グラフに表示していくことを考えていきます。

 図に示したように、たとえば10人の患者の生存割合を12ヵ月にわたって観察した場合を考えてみます。

 1ヵ月目までは全員生存していたとすると、生存割合は1(100%)となり、Kaplan-Meier曲線は下がりません。

 1ヵ月目に1人死亡したとします。10人中9人が生存しているので、1ヵ月目の生存割合は、9/10=0.90(90%)となり、グラフに示すと図に示したようになります。

 3ヵ月目にもう1人死亡したとします。1ヵ月目までに生存割合が9/10=0.90に下がっています。3ヵ月目の時点では9人中8人が生存しているので、この時点での生存割合は、9/10×8/9=0.80(80%)となりグラフにすると図に示したとおりです。

 次に、5ヵ月目に1人「打ち切り」になったとします。この時点で残っている人数は8人ですが、この時点では誰も死亡していないので5ヵ月目の生存割合は、3ヵ月目と変わらず0.80(80%)となり、Kaplan-Meier曲線も下がりません。「打ち切り」があったことを示す「しるし」として、Kaplan-Meier曲線上に小さな縦棒を表示することが慣例とされており、一般的にこれを「ヒゲ」と呼びます。

 6ヵ月目、7ヵ月目にもそれぞれ1人ずつ「打ち切り」があったとします。6ヵ月目まで残っている人数は7人、7ヵ月目まで残っている人数は6人ですが、3ヵ月目以降は誰も死亡していないので6ヵ月目、7ヵ月目の生存割合は5ヵ月目までと変わらず0.80(80%)となり、Kaplan-Meier曲線も下がりません。

 9ヵ月目に1人死亡したとすると、この時点では5人中4人が生存していることになりますので、7ヵ月目までの生存割合0.80に4/5をかけて、9ヵ月目の生存割合は0.64(64%)となります。

 11ヵ月目には更に1人死亡したとします。この時点では4人中3人が生存していることになりますので、9ヵ月目までの生存割合0.64(64%)に3/4をかけて、11ヵ月目の生存割合は0.48(48%)となります。

 ここまでお示ししたように、イベントが発生するたびに、その時点までに残っていた人数を分母にして、生存割合の低下を計算することにより、「打ち切り」を考慮した解析を行うことができるのです。


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長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
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1996年昭和大学医学部卒業。
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BRCA1/2変異陽性者へのMRIサーベイランスで乳がん死亡率は減少するか/JAMA Oncol

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 BRCA1またはBRCA2変異陽性で、MRIサーベイランスプログラムに参加した女性と参加しなかった女性における乳がん死亡率を比較した前向きコホート研究の結果を、ポーランド・Pomeranian Medical UniversityのJan Lubinski氏らがJAMA Oncology誌オンライン版2024年2月29日号で報告した。

 BRCA1またはBRCA2変異陽性の女性が11ヵ国59施設で登録された。参加者は、1995~2015年にベースライン調査票に記入し、2年ごとの追跡調査でスクリーニング歴、がん発症の有無、治療歴や健康状態について記録。登録前に乳がん診断、両側乳房切除、MRIスクリーニング検査を受けている場合は除外された。参加者は、30(またはベースラインの質問票の日付のどちらか遅い方)~75歳(または乳がんによる死亡)まで追跡調査され、データ解析は2023年1月1日~7月31日に行われた。

 Cox比例ハザードモデルを用いて、MRIサーベイランスなしの場合と比較したMRIサーベイランスによる乳がん死亡率のハザード比(HR)と95%信頼区間[CI]を、時間依存性解析により推定した。

 主な結果は以下のとおり。

・計2,488人(BRCA1変異陽性:2,004人、BRCA2変異陽性:484人)の女性(試験開始時の平均年齢:41.2[30~69]歳)が解析に組み入れられた。
・参加者のうち、1,756人(70.6%)が少なくとも1回のMRIスクリーニング検査を受け、732人(29.4%)は受けなかった。
・1,756人における平均MRIスクリーニング検査回数は4.7[1~16]回で、2回以上の検査を受けた1,365人における検査間の平均間隔は0.95[0.1~6.0]年であった。
・平均追跡期間9.2[0.1~24.5]年において、344人(13.8%)が乳がんを発症し、35人(1.4%)が乳がんにより死亡した。
・MRIサーベイランスへの参加と関連した乳がん死亡率の年齢調整HRは、BRCA1変異陽性者では0.20(95%CI:0.10~0.43、p<0.001)、BRCA2変異陽性者では0.87(95%CI:0.10~17.25、p=0.93)であった。

 著者らは、「BRCA1変異陽性の女性において、MRIサーベイランスは乳がん死亡率の有意な低下と関連することが示唆された。BRCA2変異陽性の女性においても同様のベネフィットが得られるかについては、さらなる研究が必要」と結論付けている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【原著論文はこちら】

Lubinski J, et al. JAMA Oncol. 2024:e236944. [Epub ahead of print]

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

ICIによる心臓irAE発症タイミングと危険因子~国内RWDより/日本循環器学会

提供元:CareNet.com

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)とは、ご存じのとおり、近年注目されているがん薬物療法で、T細胞活性を増強することによって抗腫瘍効果をもたらし、多くのがん患者の予後を改善させている。しかし、副作用として心筋炎や致死性不整脈など循環器領域の免疫関連有害事象(irAE)の報告も散見される。そこで、稗田 道成氏(九州大学医学部 第一内科 血液・腫瘍・心血管内科)らがLIFE Study1)のデータベースを基に心臓irAEの発生率を調査し、3月8~10日に開催された第88回日本循環器学会学術集会Late Breaking Cohort Studies2において報告した。

 稗田氏らは、大規模なリアルワールドデータを利用することで、心臓irAEを起こしやすい患者タイプ、発症タイミング、リスク因子を明らかにするため、LIFE Studyのデータベースを基にICI治療を受けた2,810例の解析を行い、実臨床で比較的頻度が高い心筋炎、心膜炎、死亡率の高い劇症型心筋炎や致死性不整脈の発症状況を調査した。

 解析には、国内承認されているICIの6剤(抗PD-1抗体[ニボルマブ、ペムブロリズマブ]、抗PD-L1抗体[アテゾリズマブ、デュルバルマブ、アベルマブ]、抗CTLA-4抗体[イピリムマブ]の投与患者が含まれた。

 主な結果は以下のとおり。

・LIFE StudyデータベースからICI治療を受けた2,810例を抽出後、心臓irAEと診断された124例を同定した(ICI治療開始から心臓irAE発症までの期間 3ヵ月未満:69例、3ヵ月以上:55例)。
・124例の平均年齢±SDは70.2±8.0歳、女性は39例(31.5%)であった。
・全心臓irAEの発症率は4.41%で、その発生率は100人年当たり2.02人だった。
・心臓irAEの主な病態として、心膜炎(2.17%)、心室頻拍(1.14%)、心筋炎(0.78%)、心室細動(0.32%)が挙げられた。
・3ヵ月未満で心臓irAEを発症したのは69例(56%)で、その割合はICI治療患者の2.46%、発生率は100人年当たり10.16人であった。
・多重ロジスティック回帰分析の結果、不整脈、慢性心不全、がん転移の有無が心臓irAE発生の独立した危険因子であることが示唆された。また、年齢が高齢になればなるほど心臓irAEのリスクは低下することが判明した。

 同氏は「本解析で明らかになった心臓irAEの発生率は既報の海外データと類似する結果2,3)であったが、日本人の大規模なリアルワールドデータを活用することで、心臓irAEの発生ならびにICI治療患者のリスク因子を実証することができた」とコメントした。

(ケアネット 土井 舞子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

1)九州大学:LIFE Study

2)Salem JE, et al. Lancet Oncol. 2018;19:1579-1589.

3)Dolladille C, et al. Eur Heart J. 2021;42:4964-4977.

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

何はさておき記述統計 その2【「実践的」臨床研究入門】第41回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

仮想データ・セットを用いて発生率を計算してみる

 今回は早速、仮想データ・セットを用いて、われわれのRQのプライマリアウトカムである末期腎不全の発生率を実際に計算してみましょう。はじめに、今回提供する仮想データ・セットの内容について説明します(仮想データ・セット[エクセルファイル]は下記よりダウンロード可能です)。

 仮想データ・セットをダウンロードする

※ダウンロードできない場合は、右クリックして「名前をつけてリンク先を保存」を選択してください。

・A列:ID
・B列:Treat(1;低たんぱく食厳格遵守群、0;低たんぱく食非厳格遵守群)
・C列:Censor(1;アウトカム発生、0;打ち切り)
・D列:Year(at riskな観察期間)

 Treatという変数を作り、推定たんぱく質摂取量 0.5g/kg標準体重/日未満というE(曝露要因)の定義を満たすか否かで(連載第40回参照)、低たんぱく食厳格遵守群、低たんぱく食非厳格遵守群の2群に分類しています。変数Censorには、アウトカム発生を1、打ち切りを0として観察期間内でのアウトカム発生の有無の情報が入力してあります(連載第37回第40回参照)。人年法による発生率の計算式は下記のとおりでした(連載第37回第40回参照)。

発生率=一定の観察期間内のアウトカム発生数÷at risk集団の観察期間の合計

 まず分子であるアウトカム発生数を、解析対象集団全体および、低たんぱく食厳格遵守群、低たんぱく食非厳格遵守群、それぞれで計算します。Excel関数のSUMおよびSUMIFを使用します。合計を算出するSUM(合計範囲)を用いた以下の式で、解析対象集団全体のアウトカム発生数が計算されます。

・=SUM(C:C)

 また、検索範囲におけるある条件を満たす合計を算出するSUMIF(検索範囲、検索条件、合計範囲)を用いた以下の式で、低たんぱく食厳格遵守群、低たんぱく食非厳格遵守群、それぞれの群でのアウトカム発生数が計算できます。

・=SUMIF(B:B、1、C:C)
・=SUMIF(B:B、0、C:C)

 計算の結果、アウトカム発生数はそれぞれ以下のとおりになります。

・解析対象集団全体 185イベント
・低たんぱく食厳格遵守群 70イベント
・低たんぱく食非厳格遵守群 115イベント

 次に、分母となるat risk集団の観察期間の合計を解析対象集団全体および、低たんぱく食厳格遵守群、低たんぱく食非厳格遵守群でそれぞれ計算しましょう。同様にSUM、SUMIF関数を用います。

・=SUM(D:D)
・=SUMIF(B:B、1、D:D)
・=SUMIF(B:B、0、D:D)

 at risk集団の観察期間の合計(小数点第1位表示)はそれぞれ以下のとおりになったでしょうか。

・解析対象集団全体 2476.4人年
・低たんぱく食厳格遵守群 776.0人年
・低たんぱく食非厳格遵守群 1700.4人年

 それでは上述した発生率の式に1,000を掛けて、1,000人年当たりの発生率をそれぞれの集団で求めてみましょう。

・解析対象集団全体 74.7イベント/1,000人年
・低たんぱく食厳格遵守群 90.2イベント/1,000人年
・低たんぱく食非厳格遵守群 67.6イベント/1,000人年

 次回からは生存時間曲線の比較について、筆者らが出版した英文臨床研究論文の実例や、仮想データ・セットを用いた実際の統計解析方法を解説します。


講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学統括研究推進センター研究推進部門 教授
昭和大学医学部内科学講座腎臓内科学部門/衛生学公衆衛生学講座 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


バックナンバー

51. 線形回帰(重回帰)分析 その2

50. 線形回帰(重回帰)分析 その1

49. いよいよ多変量解析 その2

48. いよいよ多変量解析 その1

47. 何はさておき記述統計 その8

46. 何はさておき記述統計 その7

45. 何はさておき記述統計 その6

44. 何はさておき記述統計 その5

43. 何はさておき記述統計 その4

42. 何はさておき記述統計 その3

41. 何はさておき記述統計 その2

40. 何はさておき記述統計 その1

39. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その2

38. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その1

37. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その2

36. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その1

35. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その2

34. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その1

33. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その8

32. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その7

31. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その6

30. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その5

29. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その4

28. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その3

27. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その2

26. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その1

25. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その5

24. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その4

23. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その3

22. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その2

21. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その1

20. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その3

19. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その2

18. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その1

17. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その3

16.リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その2

15. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その1

14. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その3

13. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その2

12. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用その1

11. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その2

10. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その1

9. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その3

8. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その2

7. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その1

6. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その3

5. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その2

4. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その1

3. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビューその2

2. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー その1

1. 臨床上の疑問とリサーチ・クエスチョン

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何はさておき記述統計 その1【「実践的」臨床研究入門】第40回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

いきなり!多変量解析?

 臨床研究における統計解析というと、みなさんはいきなり多変量解析を行ったり、臨床研究といえば多変量解析というようなイメージを持っていないでしょうか。重回帰分析、ロジスティック回帰分析、Cox回帰分析などの多変量解析のさまざまな手法を用いたことがある方や、学会などでこれらの統計解析手法を聞いたこと、論文で目にしたことがある方は多いでしょう。しかし、統計解析手法を正しく選択するためには、変数やアウトカム指標の型をよく知ることが必要となります。また、いきなり多変量解析に飛びつく前に、まずは変数やアウトカム指標の型を意識して正しく記述すること(記述統計)が重要です。

 今回からは、具体的な統計解析手法について、筆者らが行い英文論文化された臨床研究の実例などを引用して解説します。また、架空の臨床シナリオを元に立案したClinical Question(CQ)とResearch Question(RQ)に基づいた仮想データ・セットを用いて、統計解析の実際についても実践的に説明したいと思います。

 まずはここで、これまでブラッシュアップしてきたわれわれのRQの研究デザイン、セッティング、およびPECOについて整理します。

CQ:食事療法を遵守すると非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病患者の腎予後は改善するのだろうか
D(研究デザイン):(後ろ向き)コホート研究
S(セッティング):単施設外来
P(対象):慢性腎臓病(CKD)患者
組み入れ基準:診療ガイドライン1)で定義されるCKD患者
除外基準:ネフローゼ症候群、透析導入(または腎移植)された患者
E(曝露要因):推定たんぱく質摂取量 0.5g/kg標準体重/日未満
C(比較対照):推定たんぱく質摂取量 0.5g/kg標準体重/日以上
*外来受診ごとに行った連続3回の24時間蓄尿検体を用いてMaroniの式より算出
O(アウトカム):1)末期腎不全(慢性透析療法への導入もしくは先行的腎移植)
*打ち切り(末期腎不全発症前の死亡、転院、研究参加同意撤回などによる研究からの離脱)
2)糸球体濾過量(GFR)低下速度

 われわれのRQのプライマリアウトカムは末期腎不全であり、アウトカム指標はその発生率となります。発生率は下記の計算式で求められるのでした(連載第37回参照)。

発生率=一定の観察期間内のアウトカム発生数÷at risk集団の観察期間の合計

 実際の臨床研究論文では、発生率は人年法という手法を用いて、1,000人を1年間観察すると(1,000人年)何件アウトカム(イベント)が発生したか、という形式で記述されることが多いです。

 以下に、筆者らが2023年に出版した臨床研究論文2)の実際の記述を示します。CKD患者において血清鉄代謝マーカーの1つであるトランスフェリン飽和度(TSAT)レベルと心血管疾患(CVD)およびうっ血性心不全(CHF)の発生リスクの関連を検討した論文です。Resultsの”Incidence of outcome measures”という小見出しで以下のように記載しました。

“Supplementary Fig. S1 shows the incidence rates of CVD and CHF events based on serum TSAT levels. The overall incidence rates of CVD and CHF in the analysed participants were 26.7 and 12.0 events/1000 person-year, respectively. Participants with TSAT <20% had the highest incidence rates of CVD and CHF (33.9 and 16.5 events/1000 person-year, respectively). Conversely, the incidence rates of CVD and CHF were lowest in those with TSAT >40% (17.2 and 6.2 events/1000 person-year, respectively).”

「補足図S1は、血清TSAT値に基づくCVDおよびCHFイベントの発生率を示している。全解析対象者におけるCVDおよびCHFの発生率は、それぞれ26.7および12.0イベント/1,000人年であった。TSATが20%未満の参加者でCVDおよびCHFの発生率が最も高かった(それぞれ33.9と16.5イベント/1,000人年)。一方、CVDとCHFの発症率はTSATが40%以上の患者で最も低かった(それぞれ17.2および6.2イベント/1,000人年)。(筆者による意訳)」

 この論文記載のポイントは、血清TSAT値20%未満(診療ガイドライン3)で鉄補充療法開始が推奨される基準値)のCKD患者において、CVDおよびCHFの発症率が最も高い、という記述統計の結果がまず示されたということです。

 次回からは仮想データ・セットを用いて、具体的な統計解析方法についても解説をしていきます。


【 引用文献 】

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長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学統括研究推進センター研究推進部門 教授
昭和大学医学部内科学講座腎臓内科学部門/衛生学公衆衛生学講座 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


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32. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その7

31. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その6

30. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その5

29. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その4

28. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その3

27. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その2

26. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その1

25. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その5

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23. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その3

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14. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その3

13. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その2

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11. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その2

10. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その1

9. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その3

8. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その2

7. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その1

6. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その3

5. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その2

4. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その1

3. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビューその2

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その2【「実践的」臨床研究入門】第39回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

C(比較対照)をおかなければ因果関係(影響や効果など)はわからない

 まずは、よくある? CMのお話です。 ◯◯サプリメントを飲み続けてやせた人の経験談をもとに、

◯◯サプリメントを飲んだ! やせた! ◯◯サプリメントはダイエットに効いた!? 「※個人の感想です」

 誰もが「眉唾」な話、と思うのではないでしょうか。なぜなら、ダイエットに成功したのは、サプリメント(だけ)ではなく、食事制限や運動などによる効果の結果かもしれないからです。

 このような3段論法まがいの誤った論理展開を、(雨乞い)3「た」論法、と呼びます。これは、東京医科歯科大学名誉教授(臨床薬理学・生物統計学)であられた故佐久間 昭先生が著書で述べられた、以下の文章に由来するようです。

雨乞いの太鼓を叩いた、雨が降った、故に雨乞いの太鼓が雨を降らせた?

 雨乞いの太鼓は雨が降るまで続けられるでしょうし、降り止まない雨はありませんよね。したがって、雨乞いの太鼓と降雨に因果関係があると言うのは問題がある、とすることには異論はないでしょう。

 臨床現場における薬剤などの治療効果判定でも同じです。なんらかの疾患(症状)に、ある薬剤を投与し、効果? がみられたケースだけを取り上げて、単純に「使った、治った、効いた」とするのも、また3「た」論法です。C(比較対照)をおかなければ、E(曝露要因)もしくはI(介入)とO(アウトカム)との関連や因果関係(影響や効果)は検証できないのです。

 それでは、理想的なCとはどのようなものでしょうか。理想的なC、比較対照群とは、臨床研究でOとの関連や因果関係(影響や効果)を検証したいEもしくはI以外の「背景要因」がまったく同じ集団、となります。「背景要因」は測定可能なものと測定できないものに分けられます。

 測定可能な背景要因には、臨床研究論文のTabel 1.でよく記述されている以下のような要因が挙げられます。

年齢、性別、併存疾患、BMI、各種検査所見、等々

 一方、背景要因には、日常臨床では測定不可能なものも多々あります。たとえば、以下のような要因です。

遺伝的背景、生活習慣、社会経済因子、等々

 理想的なC、比較対照群を設定するためには「ドラえもん」のひみつ道具のひとつである「コピーロボット」が必要だよね、と筆者はよく説明しています。「コピーロボット」はその鼻を押すことで、押した人間(動物)とそっくりなコピーとなるロボットです。「ドラえもん」どんぴしゃり世代の筆者にとっては、わかり易い説明だと思っているのですが、最近の若い方にはピンとこないかもしれません…。

 今のところ「コピーロボット」が存在しないこの世の中では、同じ個人が「同時にあるE」もしくは「Iがあった場合となかった場合」を比較することはできません(反事実モデル)。ランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)では、ランダム(無作為)割付により、IとCの間の背景要因が測定可能なものだけでなく測定不可能なものも均衡化することが期待され、反事実モデルを推定しているのです(連載第6回参照)。

 われわれが計画しているのは観察研究のひとつである(後ろ向き)コホート研究です(連載第37回参照)。観察研究でも、皆さんが大好きな多変量解析やマッチングなどの手法を用いてRCTと同様に、反事実モデルの推定を試みています。言い換えると、多変量解析モデルなどの統計学的手法を用いて、いわゆる「交絡因子」を制御し、EとOとの関連や因果関係を検証しているのです。

 次回からは、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、具体的な統計解析手法についても解説していきます。


講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学統括研究推進センター研究推進部門 教授
昭和大学医学部内科学講座腎臓内科学部門/衛生学公衆衛生学講座 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


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51. 線形回帰(重回帰)分析 その2

50. 線形回帰(重回帰)分析 その1

49. いよいよ多変量解析 その2

48. いよいよ多変量解析 その1

47. 何はさておき記述統計 その8

46. 何はさておき記述統計 その7

45. 何はさておき記述統計 その6

44. 何はさておき記述統計 その5

43. 何はさておき記述統計 その4

42. 何はさておき記述統計 その3

41. 何はさておき記述統計 その2

40. 何はさておき記述統計 その1

39. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その2

38. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その1

37. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その2

36. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その1

35. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その2

34. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その1

33. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その8

32. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その7

31. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その6

30. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その5

29. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その4

28. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その3

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6. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その3

5. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その2

4. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その1

3. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビューその2

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1. 臨床上の疑問とリサーチ・クエスチョン

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転移乳がんのエリブリン2投2休、後治療のPFSを有意に延長/日本癌治療学会

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 転移を有する乳がん患者にエリブリンを標準スケジュールである21日周期(21日ごとに1・8日目に投与:2投1休)で投与する場合と比較して、28日周期(28日ごとに1・8日目に投与:2投2休)の投与は後治療の無増悪生存期間(PFS)を有意に延長し、全生存期間(OS)は有意差はなかったものの延長傾向にあったことを、市立四日市病院の水野 豊氏が第61回日本癌治療学会学術集会(10月19~21日)で発表した。

 エリブリンは腫瘍免疫微小環境の改善効果により、後治療の良好な効果が推測されている。しかし、血液毒性などの有害事象のため標準の21日周期では治療の中断・中止を余儀なくされることがある。これまでエリブリンを1・15日目に投与する28日周期の投与スケジュールにおけるPFSはすでに報告されているが、異なる投与スケジュールが後治療の効果に与える影響を調べた研究はなかった。そこで水野氏らは、エリブリンの異なる治療スケジュールと後治療のPFSの関連を評価するために研究を実施した。

 エリブリン治療はまず標準スケジュールである21日周期の1・8日目投与で開始し、2サイクル目の1日目に好中球数が1,500mm3以上であれば標準スケジュールを継続し(2投1休群)、1,500mm3未満であった場合は28日周期の1・8日目投与に変更してその後も28日周期を継続した(2投2休群)。3サイクル目以降も同様に1日目の好中球数が1,500mm3以上かどうかでスケジュールを検討した。

 対象は、転移を有する乳がん患者81例(うちde novo StageIVが23例[28%])で、年齢中央値は67歳(範囲:39~90歳)であった。主な転移部位は骨(48%)、肝臓(40%)、所属リンパ節(38%)、肺(32%)。ER/PgR陽性が63%、トリプルネガティブが37%。前治療の化学療法歴なしが31%、1ラインが44%、2ライン以上が25%であった。

 主な結果は以下のとおり。

<エリブリン治療>
・奏効率は9%、病勢コントロール率は30%、臨床的有用率は56%であった。
・全体のPFS中央値は6.3ヵ月(95%信頼区間[CI]:5.5~8.6)であった。治療スケジュール別のPFS中央値は、2投1休群(49例)が6.1ヵ月(95%CI:3.4~8.4)、2投2休群(32例)が8.6ヵ月(95%CI:5.1~13.0)で有意差は認められなかったものの延長傾向にあった(p=0.149)。
・全体のOS中央値は20.6ヵ月(95%CI:14.6~27.1)であった。2投1休群は17.1ヵ月(95%CI:10.2~21.1)、2投2休群は27.1ヵ月(95%CI:14.6~30.9)で、PFSと同様に有意差は認められなかったものの延長傾向にあった(p=0.0833)。

<後治療>
・後治療を行ったのは47例で、多かったレジメンはパクリタキセル+ベバシズマブ(32%)、AC/EC療法(19%)、カペシタビン±シクロホスファミド(13%)、S-1(11%)、内分泌療法(11%)などであった。
・全体のPFS中央値は4.9ヵ月(95%CI:3.0~8.1)であった。2投1休群は3.3ヵ月(95%CI:2.8~5.6)であった一方、2投2休群では10.4ヵ月(95%CI:2.1~14.5)で有意に改善した(p=0.0195)。
・OS中央値は2投1休群17.1ヵ月(95%CI:10.9~21.1)、2投2休群28.5ヵ月(95%CI:14.6~53.5)で延長傾向にあった(p=0.0965)。

 これらの結果より、水野氏は「エリブリンの標準とは異なる2投2休の投与スケジュールはPFSおよびOSを延長させ、さらに後治療にも好影響をもたらす」とまとめるとともに、質疑応答で「十分に血球を回復させるために2週間休薬することが重要だと考える。好中球数が減少していたとしてもしっかりと回復させる期間が得られ、それによって後治療に好影響をもたらすのではないか」と見解を述べた。

(ケアネット 森 幸子)


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進行/転移TN乳がん1次治療でのDato-DXd+デュルバルマブ、11.7ヵ月時点で奏効率79%(BEGONIA)/ESMO2023

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 進行/転移トリプルネガティブ乳がん(TNBC)の1次治療として、抗TROP2抗体薬物複合体datopotamab deruxtecan(Dato-DXd)と抗PD-L1抗体デュルバルマブの併用を検討するBEGONIA試験のArm7では、追跡期間中央値7.2ヵ月で74%の奏効率(ORR)が得られている。今回、追跡期間中央値11.7ヵ月の解析でORRが79%であったことを、英国・Barts Cancer Institute, Queen Mary University of LondonのPeter Schmid氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2023)で報告した。

 BEGONIA試験は、進行/転移TNBCの1次治療として、デュルバルマブと他の薬剤との併用による新たな治療を検討するために、2つのPartで構成された第Ib/II相試験である。

・対象:StageIVに対する治療歴のない切除不能な進行/転移TN乳がん
・方法:Dato-DXd 6mg/kg+デュルバルマブ1,120mg(3週ごと、静脈内投与)を病勢進行もしくは許容できない毒性発現まで投与
・評価項目:
[主要評価項目]安全性、忍容性
[副次評価項目]ORR、奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間

 主な結果は以下のとおり。

・2023年2月2日のデータカットオフ時点で、Dato-DXd+デュルバルマブの治療を受けた62例中29例(47%)が治療継続中で、追跡期間中央値は11.7ヵ月(範囲:2~20ヵ月)であった。ベースライン時の年齢中央値は53歳、60%に内臓転移があり、PD-L1低値が87%であった。
・ORRは79%(95%信頼区間[CI]:66.8~88.3)で、完全奏効6例、部分奏効43例だった。抗腫瘍効果はPD-L1レベルにかかわらず認められた。
・DOR中央値は15.5ヵ月(95%CI:9.92~NC)、PFS中央値は13.8ヵ月(同:11.0~NC)であった。
・最も多くみられた有害事象(AE)は消化管系で概してGradeは低かった。
・Dato-DXd減量の原因となるAEは口内炎(65%)が最も多かった。
・治療関連間質性肺疾患/肺炎が3例(5%)に発現した(Grade2が2例、Grade1が1例)。
・下痢(13%)、好中球減少症(5%)の発現率は低かった。

 Schmid氏は「進行/転移TNBCの1次治療におけるDato-DXdとデュルバルマブの併用は、追跡期間中央値11.7ヵ月時点で、PD-L1発現にかかわらず引き続き強固で持続的な奏効を示した。新たな安全性シグナルはみられず、管理可能な安全性プロファイルを示した」と結論した。現在、PD-L1高値集団を対象としたArm8(Dato-DXd+デュルバルマブ)の登録を行っている。

(ケアネット 金沢 浩子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

BEGONIA試験(Clinical Trials.gov)

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