ESMO2024 レポート 乳がん

提供元:CareNet.com

レポーター: 下村 昭彦氏
(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 乳腺・腫瘍内科/がん総合内科)

 2024年9月13日から17日まで5日間にわたり、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)がハイブリッド形式で開催された。COVID-19の流行以降、多くの国際学会がハイブリッド形式を維持しており、日本にいながら最新情報を得られるようになったのは非常に喜ばしい。その一方で、参加費は年々上がる一方で、今回はバーチャル参加のみの会員価格で1,160ユーロ(なんと日本円では18万円超え)。日本から参加された多くの先生方がいらっしゃったが、渡航費含めると相当の金額がかかったと思われる…。

 それはさておき、今年のESMOは「ガイドラインが書き換わる発表です」と前置きされる発表など、臨床に大きなインパクトを与えるものが多かった。日本からもオーラル、そしてAnnals of Oncology(ESMO/JSMOの機関誌)に同時掲載の演題があるなど、非常に充実していた。本稿では、日本からの演題も含めて5題を概説する。

KEYNOTE-522試験

 本試験は、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)を対象とした術前化学療法にペムブロリズマブを上乗せすることの効果を見た二重盲検化プラセボ対照第III相試験である。カルボプラチン+パクリタキセル4コースのち、ACまたはEC 4コースが行われ、ペムブロリズマブもしくはプラセボが併用された。病理学的完全奏効(pCR)と無イベント生存(EFS)でペムブロリズマブ群が有意に優れ、すでに標準治療となっている。今回は全生存(OS)の結果が発表された。

 アップデートされたEFSは、両群ともに中央値には到達せず、ハザード比(HR):0.75、95%信頼区間(CI):0.51~0.83、5年目のEFSがペムブロリズマブ群で81.2%、プラセボ群で72.2%であり、これまでの結果と変わりなかった。OSも中央値には到達せず、HR:0.66(95%CI:0.50~0.87、p=0.00150)、5年OSが86.6% vs.81.7%と、ペムブロリズマブ群で有意に良好であった(有意水準α=0.00503)。また、pCRの有無によるOSもこれまでに発表されたEFSと同様であり、non-pCRであってもペムブロリズマブ群で良好な結果であった。

 この結果から、StageII以上のTNBCに対してはペムブロリズマブを併用した術前化学療法を行うことが強固たるものとなった。

DESTINY-Breast12試験

 本試験は脳転移を有する/有さないHER2陽性転移乳がん患者に対するトラスツズマブ・デルクステカン(T-DXd)の有効性を確認した第IIIb/IV相試験である。脳転移を有するアームと脳転移を有さないアームが独立して収集され、主に脳転移を有する症例におけるT-DXdの有効性の結果が発表された。脳転移アームには263例の患者が登録され、うち157例が安定した脳転移、106例が活動性の脳転移を有した。活動性の脳転移のうち治療歴のない患者が39例、治療歴があり増悪した患者が67例であった。主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)、その他の評価項目として脳転移のPFS(CNS PFS)などが含まれた。脳転移を有する症例のPFS中央値は17.3ヵ月(95%CI:13.7~22.1)、12ヵ月PFSは61.6%と非常に良好な成績であり、これまでの臨床試験と遜色なかった。活動性の脳転移を有するサブグループでも同等の成績であったが、治療歴のないグループでは12ヵ月PFSが47.0%とやや劣る可能性が示唆された。12ヵ月時点のCNS PFSは58.9%(95%CI:51.9~65.3)とこちらも良好な結果であった。安定した脳転移/活動性の脳転移の間で差は見られなかった。

 測定可能病変を有する症例における奏効率は64.1%(95%CI:57.5~70.8)、測定可能な脳転移を有する症例における奏効率は71.7%(95%CI:64.2~79.3)であった。OSは脳転移のある症例とない症例で差を認めなかった。

 この結果からT-DXdの脳転移に対する有効性は確立したものと言ってよいであろう。これまで(とくに活動性の)脳転移に対する治療は手術/放射線の局所治療が基本であったが、今後はT-DXdによる全身薬物療法が積極的な選択肢になりうる。

CAPItello-290試験

 カピバセルチブは、すでにPI3K-AKT経路の遺伝子変化を有するホルモン受容体陽性(HR+)/HER2陰性(HER2-)転移乳がんに対して、フルベストラントとの併用において有効性が示され、実臨床下で使用されている。本試験は転移TNBCを対象として、1次治療としてパクリタキセルにカピバセルチブを併用することの有効性を検証した二重盲検化プラセボ対照第III相試験である。818例の患者が登録され、主要評価項目は全体集団におけるOSならびにPIK3CA/AKT1/PTEN変異のある集団におけるOSであった。結果はそれぞれ17.7ヵ月(カピバセルチブ群)vs. 18.0ヵ月(プラセボ群)(HR:0.92、95%CI:0.78~1.08、p=0.3239)、20.4ヵ月vs. 20.4ヵ月(HR:1.05、95%CI:0.77~1.43、p=0.7602)であった。PFSはそれぞれ5.6ヵ月vs. 5.1ヵ月(HR:0.72、95%CI:0.61~0.84)、7.5ヵ月vs. 5.6ヵ月(HR:0.70、95%CI:0.52~0.95)と、カピバセルチブ群で良好な傾向を認めた。奏効率もカピバセルチブ群で10%程度良好であった。しかしながら、主要評価項目を達成できなかったことで、IPATunity130試験(ipatasertibのTNBC1次治療における上乗せ効果を見た試験で、PFSを達成できなかった)と同様の結果となり、TNBCにおけるAKT阻害薬の開発は困難であることが再確認された。

ICARUS-BREAST01試験

 本試験は抗HER3抗体であるpatritumabにderuxtecanを結合した抗体医薬複合体(ADC)であるpatritumab deruxtecan(HER3-ADC)の有効性をHR+/HER2-転移乳がんを対象に検討した第II相試験である。本試験はCDK4/6阻害薬、1ラインの化学療法歴があり、T-DXdによる治療歴のないHR+/HER2-転移乳がんを対象として行われた単アームの試験であり、主治医判定の奏効率が主要評価項目とされた。99例の患者が登録され、HER2ステータスは約40%で0であった。HER3の発現が測定され、約50%の症例で75%以上の染色が認められた。主要評価項目の奏効率は53.5%(95%CI:43.2~63.6)であり、内訳はCR:2%(0.2~7.1)、PR:51.5%(41.3~61.7)、SD:37.4%(27.8~47.7)、PD:7.1%(2.9~14.0)であった。SDを含めた臨床的有用率は62.6%(52.3~72.1)と、高い有効性を認めた。

 有害事象は倦怠感、悪心、下痢、好中球減少が10%以上でG3となり、それなりの毒性を認めた。探索的な項目でHER3の発現との相関が検討されたが、HER3の発現とHER3-DXdの有効性の間に相関は認められなかった。肺がん、乳がんでの開発が進められており、目の離せない薬剤の1つである。

ERICA試験(WJOG14320B)

 最後に昭和大学先端がん治療研究所の酒井 瞳先生が発表した、T-DXdの悪心に対するオランザピンの有効性を証明した二重盲検化プラセボ対象第II相試験であるERICA試験を紹介する。T-DXdは悪心、嘔吐のコントロールに難渋することのある薬剤である(個人差が非常に大きいとは思うが…)。本試験では、5-HT3拮抗薬、デキサメタゾンをday1に投与し、オランザピン5mgまたはプラセボをday1から6まで投与するデザインとして、166例の患者が登録された。主要評価項目は遅発期(投与後24時間から120時間まで)におけるCR率(悪心・嘔吐ならびに制吐薬のレスキュー使用がない)とされた。両群で80%の症例が5-HT3拮抗薬としてパロノセトロンが使用され、残りはグラニセトロンが使用された。

 遅発期CR率はオランザピン70.0%、プラセボ56.1%で、その差は13.9%(95%CI:6.9~20.7、p=0.047)と、統計学的有意にオランザピン群で良好であった。有害事象として眠気、高血糖がオランザピン群で多かったが、G3以上は認めずコントロール可能と考えられる。

 制吐薬としてのオランザピンの使用はT-DXdの制吐療法における標準治療になったと言えるだろう。


レポーター紹介

下村 昭彦 ( しもむら あきひこ ) 氏
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 乳腺・腫瘍内科/がん総合内科

遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療ガイドライン2024年版―多診療科、多職種および当事者でのコンセンサスー(山内 英子 氏)

3年ぶりに改訂された「遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療ガイドライン」の改訂ポイントを中心に、エビデンスに基づくHBOC診療の最新の考え方を、同ガイドライン部会委員長を務めた山内 英子氏(ハワイ大学がんセンター)が解説します。



[演者紹介]

山内 英子 (やまうち ひでこ)

ハワイ大学がんセンター教授



バックナンバー

4. 遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療ガイドライン2024年版―多診療科、多職種および当事者でのコンセンサスー「山内 英子氏」

3. 乳癌診療ガイドライン2022年版 改訂のポイント~外科療法「九冨 五郎氏」

2. 乳癌診療ガイドライン2022年版 改訂のポイント~薬物療法【Chap2】「遠山 竜也 氏」

1. 乳癌診療ガイドライン2022年版 改訂のポイント~薬物療法【Chap1】「遠山 竜也 氏」

ESMO2024速報 乳がん

|企画・制作|ケアネット

2024年9月13~17日に開催されたESMO Congress2024の乳がんトピックを国立がん研究センター中央病院の下井 辰徳氏が速報レビュー。


レポーター紹介

下井 辰徳 ( しもい たつのり ) 氏
国立がん研究センター中央病院 腫瘍内科


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未治療TN乳がんへのカピバセルチブ、化学療法への上乗せ効果示さず(CAPItello-290)/ESMO2024

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 切除不能な局所進行または転移を有する未治療のトリプルネガティブ(TN)乳がん患者を対象に、1次治療としてのカピバセルチブ+パクリタキセル併用療法の有効性および安全性を、プラセボ+パクリタキセルと比較した第III相CAPItello-290試験の結果、全生存期間(OS)は有意に改善しなかったものの、無増悪生存期間(PFS)の改善は認められたことを、米国・UT Southwestern Medical CenterのHeather L. McArthur氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)で発表した。

・試験デザイン:第III相無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験
・対象:切除不能な局所進行または転移を有し、全身療法を受けていないTN乳がん患者。6ヵ月以内(タキサン系の場合は12ヵ月以内)の術前・術後化学療法歴がある患者は除外された。
・試験群(カピバセルチブ群):カピバセルチブ 400mgを1日2回(4週間サイクルの1~3週目の2~5日目)+パクリタキセル 80mg/m2(4週間サイクルの1~3週目の1日目) 404例
・対照群(プラセボ群):プラセボを1日2回(4週間サイクルの1~3週目の2~5日目)+パクリタキセル 80mg/m2(4週間サイクルの1~3週目の1日目) 408例
・評価項目:
[主要評価項目]全患者集団およびPIK3CA/AKT1/PTEN遺伝子変異を有する患者集団におけるOS
[主要副次評価項目]全患者集団およびPIK3CA/AKT1/PTEN変異を有する患者集団におけるPFS、安全性
・層別化因子:内臓転移の有無、術前または術後化学療法歴の有無、地域
・データカットオフ:2024年3月18日

 主な結果は以下のとおり。

・2019年7月~2022年2月に812例がランダム化された。
・年齢中央値はカピバセルチブ群が54.0(範囲:26~85)歳、プラセボ群が53.0(範囲:25~87)歳、閉経後が65.1%および64.2%、内臓転移ありが70.3%および69.6%、de novoが39.9%および41.2%、術前または術後化学療法歴があったのは両群とも50.0%であった。
PIK3CA/AKT1/PTEN変異を認めたのは、カピバセルチブ群30.7%(124例)、プラセボ群30.6%(125例)であった。
・全患者集団におけるOS中央値は、カピバセルチブ群17.7ヵ月(95%信頼区間[CI]:15.6~20.3)、プラセボ群18.0ヵ月(95%CI:15.3~20.3)であった(ハザード比[HR]:0.92[95%CI:0.78~1.08]、p=0.3239)。
PIK3CA/AKT1/PTEN変異を有する集団におけるOSは、カピバセルチブ群20.4ヵ月(95%CI:15.7~23.4)、プラセボ群20.4ヵ月(95%CI:14.6~26.9)であった(HR:1.05[95%CI:0.77~1.43]、p=0.7602)。
・全患者集団におけるPFS中央値は、カピバセルチブ群5.6ヵ月(95%CI:5.4~7.1)、プラセボ群5.1ヵ月(95%CI:3.9~5.4)であった(HR:0.72[95%CI:0.61~0.84])。
PIK3CA/AKT1/PTEN変異を有する集団におけるPFS中央値は、カピバセルチブ群7.5ヵ月(95%CI:5.6~9.3)、プラセボ群5.6ヵ月(95%CI:5.3~5.7)であった(HR:0.70[95%CI:0.52~0.95])。
・全患者集団における奏効率(ORR)は、カピバセルチブ群50.1%、プラセボ群37.6%であった(オッズ比[OR]:1.68[95%CI:1.27~2.23])。完全奏効(CR)は2.2%および1.2%、部分奏効(PR)は47.9%および36.3%であった。
PIK3CA/AKT1/PTEN変異を有する集団におけるORRは、カピバセルチブ群54.1%、プラセボ群41.9%であった(OR:1.63[95%CI:0.99~2.72])。CRは2.5%および1.6%、PRは51.6%および40.3%であった。
・全患者集団における有害事象は、カピバセルチブ群98.0%(うちGrade3以上が58.0%)、プラセボ群95.1%(うちGrade3以上が38.8%)に発現した。新たな安全シグナルは認められなかった。

(ケアネット 森)


【参考文献・参考サイトはこちら】

CAPItello-290試験(ClinicalTrials.gov)

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乳がん脳転移例へのT-DXd、安定/活動性によらず良好な結果(DESTINY-Breast12)/ESMO2024

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 脳転移の有無を問わず、前治療歴のあるHER2陽性(+)の転移を有する乳がん患者を対象とした第IIIb/IV相DESTINY-Breast12試験の結果、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)は脳転移を伴う患者で全身および中枢神経系における良好な抗腫瘍活性を示し、その活性は持続的であったことを、米国・ダナファーバーがん研究所のNancy U. Lin氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)で発表し、Nature Medicine誌オンライン版2024年9月13日号に同時掲載された。

 これまで、T-DXdのDESTINY-Breast01、02、03試験において、ベースライン時に脳転移があるHER2+乳がん患者の探索的プール解析の結果、既治療で安定した脳転移患者および未治療で活動性の脳転移患者で高い頭蓋内奏効率(ORR)が得られたことが報告されている。DESTINY-Breast12試験は、ベースライン時に脳転移がある患者とない患者の2つの別々のコホートによって、脳転移の有無を問わずにT-DXdの有効性と安全性を前向きに評価した非比較研究である。対象は、抗HER2療法の前治療歴があるHER2+の転移乳がん患者であった。脳転移を有するHER2+の転移乳がん患者を含めたT-DXdの前向き研究としては最大規模となる。最終データカットオフは2024年2月8日。

 主な結果は以下のとおり。

コホート1(脳転移例)
・既治療で安定状態、または即時の局所治療を必要としない活動性(未治療、既治療/増悪)の脳転移を有するHER2+の転移乳がん患者263例に、T-DXd 5.4mg/kgを3週ごとに投与した。データカットオフ時点の追跡期間中央値は15.4(範囲:0.1~33.0)ヵ月であった。
・年齢中央値は52(範囲:28~86)歳、HR+が62.7%、測定可能な病変が75.3%であった。転移に対する前治療のライン数中央値は1.0(範囲:0~4)で0ラインが7.6%、1ラインが50.2%、2ラインが41.4%、≧3ラインが0.8%であった。頭蓋内放射線治療歴のある患者において、最後の頭蓋内放射線治療から治療開始までの期間の中央値は164日であった。
・コホート1の主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)中央値は17.3ヵ月(95%信頼区間[CI]:13.7~22.1)であった。12ヵ月PFS率は全体が61.6%(54.9~67.6)、安定状態群が62.9%(54.0~70.5)、活動性群が59.6%(49.0~68.7)であった。活動性群のうち、未治療群は47.0%(29.6~62.7)、既治療/増悪群が66.7%(53.4~76.9)であった。
・12ヵ月中枢神経系PFS率は58.9%(95%CI:51.9~65.3)であった。安定状態群(57.8%[48.2~66.1])と活動性群(60.1%[49.2~69.4])は同等であった。
・ORRは51.7%(95%CI:45.7~57.8)で、完全奏効(CR)は4.2%、部分奏効(PR)は47.5%であった。安定状態群のORRは49.7%(41.9~57.5)、活動性群のORRは54.7%(45.2~64.2)であった。
・中枢神経系ORRは、全体が71.7%(95%CI:64.2~79.3)、安定状態群が79.2%(70.2~88.3)、活動性群が62.3%(50.1~74.5)であった。活動性群のうち、未治療群は82.6%(67.1~98.1)、既治療/増悪群は50.0%(34.1~65.9)であった。
・12ヵ月全生存(OS)率は90.3%(95%CI:85.9~93.4)であった。
・Grade3以上の有害事象は51.0%に発現した。治験責任医師が報告した間質性肺疾患/肺臓炎は16%(うちGrade3以上が3.0%)であった。

コホート2(非脳転移例)
・脳転移を有さないHER2+の転移乳がん患者241例に、T-DXd 5.4mg/kgを3週ごとに投与した。データカットオフ時点の追跡期間中央値は16.1(範囲:0.8~28.4)ヵ月であった。
・年齢中央値は54(範囲:24~87)歳、HR+が62.2%、測定可能な病変が89.2%であった。転移に対する前治療のライン数中央値は1.0(範囲:0~4)で0ラインが7.5%、1ラインが51.5%、2ラインが39.8%、≧3ラインが1.2%であった。
・コホート2の主要評価項目であるORRは62.7%(95%CI:56.5~68.8)で、CRが9.5%、PRが53.1%であった。
・12ヵ月OS率は90.6%(95%CI:86.0~93.8)であった。
・Grade3以上の有害事象は49.0%に発現した。治験責任医師が報告した間質性肺疾患/肺臓炎は12.9%(うちGrade3以上が1.2%)であった。

(ケアネット 森)


【参考文献・参考サイトはこちら】

Harbeck N, et al. Nat Med. 2024 Sep 13. [Epub ahead of print]

DESTINY-Breast12試験(ClinicalTrials.gov)

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この20年間、18~26歳で急増しているがんは?

提供元:CareNet.com

 過去20年間の生活習慣の変化により、若者ががんの危険因子にさらされる機会が増えている可能性があるが、データベースによる研究報告はない。今回、イタリア・Institute of Biochemistry and Cell Biology, National Council of ResearchのAlessandro Cavazzani氏らが、米国・国立がん研究所のがん登録データベース(SEER22)を用いて、部位別のがん罹患率の2000~20年の傾向を調べたところ、18~26歳の女性における膵がん罹患率の平均年変化率が最も高く、年に10%近く増加していた。BMC Medicine誌2024年9月4日号に掲載。

 本研究では、SEER22から2000~20年のがん罹患データ(1,018万3,928例)を収集し、膵がん、胃がん、肺/気管支がん、脳/その他の神経系のがん、骨髄腫、大腸がん、悪性黒色腫、子宮頸がん、卵巣がん、乳がん、前立腺がん、精巣がんの罹患率の平均年変化率を、性別・年代別(18~34歳、35~54歳、55歳以上)に算出した。さらに18~34歳を18~26歳および27~34歳に分けて算出した。

 主な結果は以下のとおり。

・すべてのがんの中で18~34歳の女性の膵がん罹患率の平均年変化率が6.22%(95%信頼区間[CI]:5.2~7.24、p<0.0001)と最も高かった。
・胃がん、多発性骨髄腫、大腸がんにおいても、18~34歳の女性が最も高かった。
・18~34歳の年代を18~26歳と27~34歳に分けて算出すると、18~26歳における膵がん罹患率の平均年変化率は、女性が9.37%(95%CI:7.36~11.41、p<0.0001)と、男性の4.43%(95%CI:2.36~6.53、p<0.0001)に比べて2倍以上だった。27~34歳の女性(4.46%、95%CI:3.62~5.31、p<0.0001)は男性と同様だった。

 著者らは、「致死率の高いがんにおける新たなリスク集団を知ることは、早期発見と効果的な疾患管理のためにきわめて重要」としている。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】
(ご覧いただくには [ CareNet.com ]の会員登録が必要です)

Cavazzani A, et al. BMC Med. 2024;22:363.

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乳がんに対する術前免疫チェックポイント阻害薬の有効性と今後の展望【後編】(尾崎 由記範氏)

乳がん領域の免疫チェックポイント阻害薬治療がトピックとなっている中、乳がん診療に携わる医師が知っておきたい内容について、尾崎 由記範氏(がん研有明病院)が解説します。前半では免疫チェックポイント阻害薬の概要や再発高リスクの切除可能トリプルネガディブ乳がんに対するペムブロリズマブの有効性について紹介し、後半では免疫関連有害事象や今後の開発展望について紹介します。

[演者紹介]

尾崎 由記範 (おざき ゆきのり)

がん研有明病院 乳腺センター 乳腺内科/先端医療開発科



バックナンバー

前編: 乳がんに対する術前免疫チェックポイント阻害薬の有効性と今後の展望
後編:乳がんに対する術前免疫チェックポイント阻害薬の有効性と今後の展望

乳がんに対する術前免疫チェックポイント阻害薬の有効性と今後の展望【前編】(尾崎 由記範氏)

乳がん領域の免疫チェックポイント阻害薬治療がトピックとなっている中、乳がん診療に携わる医師が知っておきたい内容について、尾崎 由記範氏(がん研有明病院)が解説します。前半では免疫チェックポイント阻害薬の概要や再発高リスクの切除可能トリプルネガディブ乳がんに対するペムブロリズマブの有効性について紹介し、後半では免疫関連有害事象や今後の開発展望について紹介します。

[演者紹介]

尾崎 由記範 (おざき ゆきのり)

がん研有明病院 乳腺センター 乳腺内科/先端医療開発科



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前編: 乳がんに対する術前免疫チェックポイント阻害薬の有効性と今後の展望
後編:乳がんに対する術前免疫チェックポイント阻害薬の有効性と今後の展望

海外研修留学便り【米国留学記(寺田 満雄氏)】第4回

[レポーター紹介 ]
寺田 満雄(てらだ みつお)

2013年  3月 名古屋市立大学医学部医学科 卒業
2013年  4月    蒲郡市民病院(臨床研修医)
2015年  4月    名古屋市立西部医療センター 外科(外科レジデント)
2017年  4月    愛知県がんセンター 乳腺科(レジデント)
2019年  4月    名古屋市立大学大学院 医学研究科 乳腺外科学分野(臨床研究医)
                       名古屋市立大学大学院 医学研究科 博士課程
2019年  6月    名古屋大学 分子細胞免疫学 (特別研究員)(上記と兼務)
2022年10月  名古屋市立大学大学院 医学研究科 乳腺外科学分野(病院助教)
2023年  8月    Department of Medicine and UPMC Hillman Cancer Center
                       (Post-doctoral associate)
2023年  9月    名古屋市立大学大学院 医学研究科 乳腺外科学分野(研究員)(上記と兼務)

夏休みは1ヵ月取得。でも結果を出している人はハードワーク

ハロウィンでご近所にTrick or Treat

 米国での生活で一番違うと感じることは、休日らしい休日を過ごすことができること(うちのラボはその限りでないこともありますが…それはご愛嬌)。これは国による違いというよりも、研究職なので当直・待機、外勤がないことに起因するものかもしれません。それでもオンとオフは日本よりははっきりしている印象を受けます。ボスは臨床医でもありますが、夏休みは1ヵ月ほど休暇をとっています。ですが、忘れてはいけないのは、結果を出している人たちにはハードワーカーも多いことです。集中と効率化とハードワークです。これは私が勝手に抱いていたイメージとは異なるものでした。

 休日は子どもが楽しめるようなイベントがたくさんあります。ハロウィン、クリスマス、イースターといった季節のイベントやスポーツ(スケート、テニス、バスケ、サッカー、アイスホッケーetc.)や釣りの教室が開催されていたりと休日もそれはそれで忙しかったりします。これらの運営は、Donation文化の賜物なのだろうと認識しています。私自身も、無料で教会のESL(外国人のための英語教室)に通わせてもらったり、そこが主催するイベントに家族でお邪魔したりと日本に帰ったら何かに寄付したいと思うようになったぐらいにはDonation文化にもお世話になっています。

地元アイスホッケーチーム Penguins主催の子ども向けアイスホッケー教室

 さまざまなイベントごとも然り、子どもに優しい国だとも感じます。子どもを連れているだけでスーパーで優しく対応してもらえたりするので、あえて連れて行ったり…。また日本にいた時よりも家族で過ごす時間が格段に多くなりました。これはなかなかできなかったので、嬉しい環境です。そして、慣れない異国の地、英語環境で妻のサポートには本当に感謝しています。子どもたちも私のわがままで連れてきたわけですが、やはり子どもたちのほうが大人よりも環境への適応は早く、日本の学校との違いに戸惑うことも多いのも親ばかりで、彼らは学校生活をエンジョイしてくれています。

 

 

留学のメリットとデメリット、現時点で言えるのは…

PNC park stadium。地元Pirates vs Dodgers(大谷選手所属)戦

 帰ってからの自分のキャリアは、まだ私自身もよくわかりませんが、これから留学を考えている方に、現在私が感じているメリットとデメリットを綴ろうと思います。メリットはやはり日本とは違う研究の体制を学ぶことができることだと思います。これは臨床研究で留学しても同じに思います。同じだなと感じることもあれば、やはりそうでないところもあります。あとは人脈形成ではないでしょうか。少し別枠ですが、完全に日本式臨床医の働き方枠に囚われてしまっていた自分を、ワークライフバランスも考えたうえで少し冷静にみることができるようになったこともメリットかもしれません(見方によってはデメリットかも…しれないですが)。当たり前だと思っていた日本での勤務状況をラボの人に伝えても、現実味がないらしく話を信じてもらえなかったことも(笑)。

 デメリットは、金銭的な話はもちろんありますが、キャリア面で考えると、今まで続けていたキャリアが一時中断すること。私自身積み上げてきたものが多くあるわけではないですが、すべてをうまく継続することは難しく感じています。もちろん留学先の忙しさと余裕によると思いますが、私の場合は、少し手が回らなくなってしまっているものがあるのは正直なところです。臨床のブランクも長くなりそうなこともあり、帰った後にどうしよう…というのは、割と大きな悩みです。ですが、いったん慣れた環境から離れることで、見える世界は広がったことは間違いありません。留学したことに一切の後悔がないということは言えます。自分の将来はもう少し米国滞在中に考えてみようと思います。

 今回が連載最終回となりますが、お付き合いいただきありがとうございました。少しでもこれから留学を検討している方のお役に立つことができれば幸いです。

  


バックナンバー

第1回: 乳腺外科医の自分がメラノーマのTRに強い研究室へ留学を決めた理由
第2回:ほぼ全例で網羅的解析を実施、日本との違いを感じる研究環境
第3回:ラボでの分業、実際どうやっている?
第4回:夏休みは1ヵ月取得。でも結果を出している人はハードワーク

ASCO2024 レポート 乳がん

提供元:CareNet.com

レポーター: 下村 昭彦氏
(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 乳腺・腫瘍内科/がん総合内科)

 

 2024年5月31日~6月4日まで5日間にわたり、ASCO2024がハイブリッド形式で開催された。昨年も人が戻ってきている感じはあったが、会場の雰囲気はコロナ流行前と変わりなくなっていた。一方、日本からの参加者は若干少なかったように思われる。これは航空運賃の高騰に加えて、円安の影響が大きいと思われる(今回私が行ったときは1ドル160円!! 奮発した150ドルのステーキがなんと24,000円に…。来年は費用面で行けない可能性も出てきました…)。 

 さて、本題に戻ると、今回のASCOのテーマは“The Art and Science of Cancer Care:From Comfort to Cure”であった。乳がんの演題は日本の臨床に大きなインパクトを与えるものが大きく、とくにPlenary sessionの前に1演題のためだけに独立して行われたセッションで発表されたDESTINY-Breast06試験は早朝7:30のセッションにもかかわらず、満席であった。日本からは乳がんのオーラルが2演題あり、日本の実力も垣間見ることとなった。本稿では、日本からの演題も含めて5題を概説する。

DESTINY-Breast06試験

 トラスツズマブ・デルクステカン(T-DXd)は日本で開発が開始され、現在グローバルで最も使われている抗体薬物複合体(ADC)の1つと言っても過言ではない。乳がんではHER2陽性乳がんで開発され、現在はHER2低発現乳がんにおける2次化学療法としてのエビデンスに基づいて適応拡大されている。20年近く乳がんの世界で用いられてきたサブタイプの概念を大きく変えることになった薬剤である。

 T-DXdのHER2低発現乳がんの1次化学療法としての有効性を検証したのがDESTINY-Breast06(DB-06)試験である。この試験では、ホルモン受容体陽性HER2低発現の乳がんにおいて、T-DXdの主治医選択化学療法に対する無増悪生存期間(PFS)における優越性が検証された。この試験のもう1つの大きな特徴は、HER2超低発現(ultra-low)の乳がんに対する有効性についても探索的に検討したことである。HER2超低発現とは、これまで免疫組織化学染色においてHER2 0と診断されてきた腫瘍のうち、わずかでもHER2染色があるものを指す。本試験では866例(うちHER2低発現713例、超低発現が152例)の患者がT-DXdと主治医選択治療(TPC)に1:1に割り付けられた。

 主要評価項目はHER2低発現におけるPFSで13.2ヵ月 vs. 8.1ヵ月(ハザード比[HR]:0.62、95%信頼区間[CI]:0.51~0.74、p<0.0001)とT-DXd群の優越性が示された。ITT集団においても同様の傾向であった。HER2超低発現の集団については探索的項目であるが、PFSは13.2ヵ月 vs.8.3ヵ月(HR:0.78、95%CI:0.50~1.21)とHER2低発現の集団と遜色ない結果であった。一方、全生存期間(OS)についてはHER2低発現でHR:0.83、HER2超低発現でHR:0.75であり、いずれも有意差はつかなかった。有害事象は既知のとおりであるが、薬剤性肺障害(ILD)はany gradeで11.3%であった。

 2次化学療法の試験であるDESTINY-Breast 04試験ではOSの優越性も示されているため、OSの優越性が示されていない状況で毒性の強い薬剤をより早いラインで使うかどうかは議論が必要であろう。また、HER2超低発現の病理評価の標準化についても課題が残される。

postMONARCH試験

 こちらも待望の試験である。日本国内で使えるCDK4/6阻害薬であるアベマシクリブのbeyond PD(progressive disease)を証明した初の試験である。これまでMAINTAIN試験で(phase2ではあるが)、CDK4/6阻害薬の治療後のribociclibの有効性が示されていたが、ribociclibは日本国内では未承認なため、エビデンスを活用することができなかった。postMONARCH試験では、転移乳がん、もしくは術後治療としてホルモン療法(転移乳がんはAI剤)とCDK4/6阻害薬を使用後にPDもしくは再発となった368例の患者を対象に、フルベストラント+アベマシクリブ/プラセボに1:1に割り付けられた。術後CDK4/6阻害薬後の再発が適格となっていたが残念ながら全体で2例のみであり、プラクティスへの参考にはならなかった。前治療のCDK4/6阻害薬はパルボシクリブが60%と最も多く、ついでribociclibで、アベマシクリブは両群とも8%含まれた。

 主要評価項目は主治医判断のPFSで、6.0ヵ月 vs. 5.3ヵ月(HR:0.73、95%CI :0.57~0.95、p=0.02)とアベマシクリブ群で良好であった。盲検化PFSが副次評価項目に設定されていたが、面白いことに12.9ヵ月 vs.5.6ヵ月(HR:0.55、95%CI:0.39~0.77、p=0.0004)と主治医判断よりも良い結果となった。有害事象はこれまでの臨床試験と変わりはなかった。この試験の結果をもって、自信を持ってホルモン療法の2次治療としてフルベストラント+アベマシクリブを実施できるようになったと言える。

JBCRG-06/EMERALD試験

 さて、日本からの試験も紹介する。研究代表者である神奈川県立がんセンターの山下 年成先生が口演された。本試験はHER2陽性転移乳がんの初回治療として、標準治療であるトラスツズマブ+ペルツズマブ+タキサン(HPT)療法に対して、トラスツズマブ+ペルツズマブ+エリブリン療法が非劣性であることを証明した。446例の患者が登録され、1:1に割り付けられた。ホルモン受容体は60%が陽性であり、PSは80%以上が0であった。初発StageIVが60%を占めていた。

 主要評価項目のPFSはHPT群12.9ヵ月 vs.エリブリン群14.0ヵ月(HR:0.95、95%CI:0.76~1.19、p=0.6817)で非劣性マージンの1.33を下回り、エリブリン群の非劣性が示された。化学療法併用期間の中央値はエリブリン群が28.1週、HPT群は約20週であり、エリブリン群で長かった。OSもHR:1.09(95%CI:0.76~1.58、p=0.7258)と両群間の差を認めなかった。毒性については末梢神経障害がエリブリン群で61.2% vs. HPT群で52.8%(G3に限ると9.8% vs.4.1%)と、エリブリン群で多かった。治療期間が長いことの影響があると思われるが、less toxic newと言ってよいかどうかは悩ましいところである。HER2陽性乳がんにおけるエリブリン併用療法は1つの標準治療になったと言えるが、実臨床での使用はタキサンアレルギーの症例などに限られるかもしれない。

ER低発現乳がんにおける術後ホルモン療法

 こちらはデータベースを使った後ろ向き研究であり臨床試験ではないが、実臨床の疑問に重要なものであるため取り上げる。米国のがんデータベースからStageI~IIIでER 1~10%の症例を抽出し、術後ホルモン療法の実施率と予後を検討したものである。データベースから7,018例の対象症例が抽出され、42%の症例が術後ホルモン療法を省略されていた。ホルモン療法実施群と非実施群におけるOSは3年OSが92.3% vs.89.1%であり、HR:1.25、95%CI:1.05~1.48、p=0.01と実施群で良い傾向にあった。後ろ向き研究ではあるが、ER低発現であっても術後ホルモン療法に意義がある可能性が提示されたことは、今後の術後治療の選択にとって重要な情報である。

PRO-DUCE試験

 最後に日本からのもう1つの口演であるPRO-DUCE試験を紹介する。これは治療薬の臨床試験ではなく、ePROが患者のQOLに影響するかを検証した試験である。関西医科大学の木川 雄一郎先生によって発表された。本試験はT-DXdによる治療を受ける患者を対象として、ePRO+SpO2/体温の介入が通常ケアと比較してQOLに影響するかを比較した。主要評価項目はベースラインから治療開始24週後のEORTC QLQ-C30を用いたglobal health scoreの変化であり、ePRO群では-2.4、通常ケア群では-10.4であり、両群間の差は8.0(90%CI:0.2~15.8、p=0.091)と統計学的に有意にePRO群で良好であった。その他の項目では倦怠感はePRO群で良好であったが、悪心/嘔吐は両群間の差は認めなかった。この研究は日本から乳がんにおいてePROが有効であることを示した初の試験である。ePROは世界的にも必須のものとなっており、今後の発展が期待される。


レポーター紹介

下村 昭彦 ( しもむら あきひこ ) 氏
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院
 乳腺・腫瘍内科/がん総合内科