
[レポーター紹介]
矢崎 秀(やざき しゅう)

2012年 3月 日本大学医学部 卒業
2012年 4月 聖路加国際病院 初期研修医
2014年 4月 聖路加国際病院 内科専門研修医
2015年 4月 聖路加国際病院 内科チーフレジデント
2016年 4月 聖路加国際病院 腫瘍内科フェロー
2019年 4月 国立がん研究センター中央病院 腫瘍内科・先端医療科 がん専門修練医
2021年 4月 国立がん研究センター中央病院 国際開発部門・腫瘍内科 研究員
2023年 6月 Memorial Sloan Kettering Cancer Center,
Department of Radiation Oncology, Research Fellow
Memorial Sloan Kettering Cancer Center(MSKCC)の研究環境
海外研究留学の目的の1つとして、有名誌に掲載されるような論文を発表することが挙げられます。私が所属するMSKCCからも日々多くの論文が有名誌に公表されています。では、MSKCCの研究環境の強みはどのような点にあるのでしょうか?
世界中から集まる優秀な研究者(ポスドク)の能力、質が高く豊富な臨床検体、潤沢な研究費、最先端の技術といったさまざまな要因が考えられますが、MSKCCには施設としての強みが2つあると感じています。
まずは、臨床ゲノム情報が統合されたデータベースの存在です。MSKCC開発のがん遺伝子パネル検査であるMSK-IMPACTのシークエンスデータと臨床病理情報が統合されており、これらは仮説の設定や得られた結果のバリデーションに力を発揮します。最近では、カルテ記載や病理、放射線レポートといった非構造化テキストから情報を自動抽出することで、より詳細なデータを効率的に活用できるようになっています。
次に、コアファシリティ部門の充実です。フローサイトメトリーや次世代シークエンスを行うコア部門に加え、シングルセル解析や空間トランスクリプトーム解析を行う部門まであります。これらの解析は専用サイトからオーダーが可能で、専門家が確立したプロトコールで高品質の実験や解析を実施してくれます。コア部門に依頼することで、人的資源や時間の節約となり、効率的にさまざまな解析を行うことができます。
最近のポスドク事情

次に、ポスドクの研究生活についてお話したいと思います。私自身、こちらでは臨床業務がないため肉体的な負担は軽減されました。職場ではオンオフがはっきりしており、業務時間は研究に集中し、それ以外の時間は自分の趣味や家族との時間を楽しむことができます。
しかし、金銭面では厳しい状況があります。コロナ禍以降、米国ではインフレが進行し物価が高騰しています。とくにニューヨークは家賃を含めた生活費が全米でもトップクラスに高く、NIH基準のサラリーでの生活は厳しいものがあります(とくに家族連れの場合はなおさらです)。
2023年12月には、近隣のマウントサイナイ医科大学のポスドクが給与や福利厚生の見直しを求めてストライキを行いました。この動きはMSKCCを含む近隣の研究施設にも波及し、ポスドクの待遇改善に向けた取り組みが進められています。

それでも、海外のトップ施設で世界中の研究者と切磋琢磨しながら研究生活を送ることは非常に貴重な経験です。この環境で得られるスキルや経験は、今後のキャリアを発展させるうえで大きな糧となると信じ日々努力しています。幸いニューヨークには多くの日本人研究者や駐在員の方々がおり、皆で助け合い、励まし合いながら、楽しく生活しています。また、ニューヨークはスポーツやアートなどのエンタメも充実しており、市民は無料で楽しめるものも多く、研究以外の時間も充実しています。
バックナンバー