
[ レポーター紹介 ]
山下 奈真(やました なみ )

2002年3月 東北大学医学部卒業
2002年4月 麻生飯塚病院(初期研修医、外科系後期研修医、外科医員)
2008年4月 済生会福岡総合病院 外科
2009年4月 九州大学大学院医学系研究科外科系専攻博士課程
2013年4月 九州大学大学院 消化器・総合外科 乳腺グループ
2015年4月 九州大学大学院 九州連携臨床腫瘍学
2017年4月 九州大学大学院 消化器・総合外科 乳腺グループ
2019年6月 Dana-Farber Cancer Institute(DFCI), Medical Oncology, Postdoctoral fellow
一般外科・乳腺外科での臨床医としての経験、大学院進学を経て、米国Dana-Farber Cancer Instituteに留学中の山下 奈真氏に、米国での研究環境、キャリア構築、ボストンでの生活などについてレポートいただきます。第3回ではCOVID-19の流行によって大きな影響を受けた留学生活、その中で生まれた新たな活動についてお伺いしました。
留学中にまさかのCOVID-19
COVID-19で世界中が未曽有の事態に陥った2020年。ボストンでは2020年3月23日から本格的なquarantineが開始されました。およそ3ヵ月は生活必需品の購入、運動目的の外出以外はできず、一日言葉を発することなく終わる日もたびたびありました。実験室も物品管理目的の入室しか許可されず、インキュベーターのCO2供給も停止され、完全に実験ができない状況に陥りました。このような異常事態の中、研究をしに渡米したにもかかわらず、実験もできず、日本にいるときのように診療することもできず、自分の社会的存在意義が揺らぐ感覚を多くのポスドクが感じたことは確かです。
何かできることはないか、という想いからBC Tube誕生
ただ、悪いことばかりではありませんでした。同僚の乳腺外科医の発案で、少しでも社会の役に立つことはできないかと皆で考え、多くの人に1)分かりやすさ、2)正確さ、3)アクセスしやすさを兼ね揃えたブレストアウェアネス・乳がんの医療情報を届けるという目的で「一般社団法人BC Tube」としてYouTubeチャンネル「乳がん大事典【BC Tube編集部】」で情報発信を開始しました。本取組の中心となる動画の制作は、複数名の乳がん専門医(コアメンバー)で十分に議論を行った上で行い、さらにコアメンバーとは独立した複数乳腺科医によるピアレビュー制を導入し、科学的妥当性を担保しています。
市民・患者さんからなる後援会の事前視聴も加え、内容の理解しやすさにも配慮した上で最終的に動画のアップロードを行いました。これはまさにPPI(Patient and Public Involvement):患者・市民参画の実践により医療の受け手、いわば当事者である患者や市民の声を医学研究や臨床試験の分野に取り入れることで、より良い医学・医療を実現しようという試みです。

また各種SNSを用いて動画拡散、乳がん啓発活動も行っています。現在計36本の動画をアップロードし、チャンネル登録者数も3,000人を超えるまでになりました。その他ボストンにはさまざまな分野のエキスパートである留学生が集いますので、歯科医、整形外科医、放射線科医等と次々コラボ動画も実現しました。COVID-19による閉塞感が漂う中、本活動を通じて、多くの方々と繋がり、高い熱量で仕事をすることができたことは何物にも代え難い経験となりました。

昨日までの普通を突如失い、今何ができて、今何をしなければいけないのか? COVID-19とボストン留学がなければ考えもしなかったことでしょう。今日できることを一つづつ丁寧に積み上げていきたいと思います。
【参考】
