T-DXd、脳転移や髄膜がん腫症を有するHER2+乳がんに有効(ROSET-BM)/日本乳癌学会

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 わが国における実臨床データから、脳転移や脳髄膜がん腫症(LMC)を有するHER2陽性(HER2+)乳がんにトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)が有効であることが示唆された。琉球大学の野村 寛徳氏が第31回日本乳癌学会学術総会で発表した。T-DXdはDESTINY-Breast01/03試験において、安定した脳転移を有するHER2+乳がんに対して有望な効果が報告されているが、活動性脳転移やLMCを有する患者におけるデータはまだ限られている。

 本研究(ROSET-BM)はわが国における多機関共同レトロスペクティブチャートレビュー研究である。2020年12月31日時点でHER2+乳がんの治療にT-DXdを使用した医療機関から、2020年5月25日~2021年4月30日にT-DXd治療を受けた脳転移またはLMCを有するHER2+乳がん患者(20歳以上、臨床試験でT-DXd治療を受けた患者は除外)の実臨床データおよび脳画像データを収集した(データカットオフ:2021年10月31日)。評価項目は、治療成功期間(TTF)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、奏効率(ORR)、脳画像による頭蓋内病変(IC)-ORR、IC-臨床的有用率(CBR)など。

 主な結果は以下のとおり。

・国内62施設からの適格基準を満たした104例を解析対象とした。うち89例が評価可能な脳画像データを有していた。
・前治療レジメン数の中央値は4.0(Q1:3.0、Q3:7.0)であった。
・脳転移の随伴症状があった患者は30.8%で、随伴症状に対する薬剤はステロイドが14.4%、抗てんかん薬が10.6%であった。
・脳転移は、LMCを伴わない活動性脳転移が73例、LMCを伴う活動性脳転移が17例、安定した脳転移が6例、LMCのみが2例、判定不能が6例だった。
・全体でのPFS中央値は16.1ヵ月(95%信頼区間[CI]:12.0~NA)、OSは中央値に達しておらず、12 ヵ月OS率は74.9%(同:64.5~82.6)であった。
・脳転移のサブグループ別にみた生存率は、活動性脳転移(T-DXd投与前30日以内に全脳照射を受けた患者を除く)において、PFS中央値が13.4ヵ月、OS中央値は未達だった。また、LMC患者においても、12ヵ月PFS率が60.7%、12ヵ月OS率が87.1%と持続的な全身性疾患のコントロールを示した。
・TTF中央値は9.7ヵ月、間質性肺疾患/肺障害による投与中止は18.3%であった。
・IC-ORRは62.7%、IC-CBR(6ヵ月時点)は70.6%であった。

 野村氏は最後に、転移性脳腫瘍の増大で昏睡状態になった40代の乳がん女性が、T-DXd投与によって昏睡状態の回復および脳転移の改善がみられ、驚愕したという経験を紹介し、「脳転移やLMCを有するHER2+乳がん患者に対して、T-DXdは既報と同様の有効性と臨床的有用性を示した」とまとめた。

(ケアネット 金沢 浩子)


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乳房温存術後の同側再発率、SIB照射vs.標準的照射/Lancet

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 乳房温存手術後の早期乳がんに対する標的体積内同時ブースト(SIB)法を用いた強度変調放射線治療(IMRT)および画像誘導放射線治療(IGRT)では、48Gy SIBは5年後の同側乳房の腫瘍再発(IBTR)率が、逐次照射を行う標準的放射線治療に対し非劣性であり、乳房硬結の発生率も同程度であるが、53Gy SIBではIBTR、硬結とも標準的照射に比べ高率にみられることが、英国・ケンブリッジ大学のCharlotte E. Coles氏らが実施した「IMPORT HIGH試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2023年6月8日号で報告された。

英国の第III相非劣性試験

 IMPORT HIGH試験は、乳房温存手術後の早期乳がんに対するSIB法を用いたIMRTおよびIGRTが、優れた局所コントロールを保持しつつ治療期間を短縮し、毒性を同等かそれ以下に軽減するかの検証を目的とする第III相非盲検無作為化対照比較非劣性試験であり、2009年3月~2015年9月の期間に、英国の39の放射線治療センターと37の関連施設で患者の募集が行われた(Cancer Research UKの助成を受けた)。

 年齢18歳以上、pT1-3、pN0-3a、M0の浸潤がんで、乳房温存手術を受け、局所再発リスクが高い女性が、次の3つの放射線治療に1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。

(1)対照群:全乳房への40Gy 15分割の照射+腫瘍床への光子線を用いた16Gy 8分割の逐次ブースト照射。
(2)試験群1:全乳房への36Gy 15分割の照射、40Gy 15分割の部分照射、腫瘍床への光子線を用いた48Gy 15分割の同時ブースト照射。
(3)試験群2:全乳房への36Gy 15分割の照射、40Gy 15分割の部分照射、腫瘍床への光子線を用いた53Gy 15分割の同時ブースト照射。

 主要評価項目は、intention to treat集団におけるIBTR(浸潤がんまたは非浸潤性乳管がんの発生)であった。対照群の5年IBTR発生率を5%と仮定し、試験群の絶対的過剰が3%以下(両側95%信頼区間[CI]の上限値)の場合に非劣性と判定することとした。

試験群2は、硬結の5年発生率が有意に高い

 2,617例が登録され、対照群に871例(年齢中央値49.4歳)、試験群1に874例(48.9歳)、試験群2に872例(49.2歳)が割り付けられた。ベースラインの全体の腫瘍床の臨床的標的体積の中央値は12.8cm3だった。

 フォローアップ期間中央値74ヵ月の時点で、IBTRイベントは76例で発生し、対照群が20例、試験群1が21例、試験群2は35例だった。5年IBTR発生率は、対照群が1.9%(95%CI:1.2~3.1)、試験群1が2.0%(1.2~3.2)、試験群2は3.2%(2.2~4.7)であった。

 対照群と比較したIBTR発生率の推定絶対差は、試験群1が0.1%(95%CI:-0.8~1.7)、試験群2は1.4%(0.03~3.8)であり、試験群1(同時ブースト照射48Gy 15分割)で対照群に対する非劣性が示された。

 また、乳房の硬結の5年発生率は、対照群が11.5%であったのに対し、試験群1は10.6%(対照群との比較のp=0.40)、試験群2は15.5%(対照群との比較のp=0.015)であった。

 著者は、「再発率は予想よりはるかに低く、全群とも晩期有害作用の発生率も低かった」とまとめ、「本試験は、主要評価項目のイベント発生率がきわめて低かった場合の非劣性の評価の難しさを浮き彫りにしている。SIBは来院回数が少なく安全な治療法であり、53Gy SIBへの線量の増量に利点はないと考えられる」と指摘している。なお、フォローアップは継続中であり、10年後の結果の報告が予定されているという。

(医学ライター 菅野 守)


【原著論文はこちら】

Coles CE, et al. Lancet. 2023 Jun 8. [Epub ahead of print]

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早期乳がんの死亡率、どのくらい下がったのか/BMJ

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 英国・オックスフォード大学のCarolyn Taylor氏らは、National Cancer Registration and Analysis Service(NCRAS)のデータを用いた観察コホート研究を行い、早期浸潤性乳がん女性の予後は1990年代以降大幅に改善され、ほとんどの人が長期がんサバイバーとなっているものの、依然として少数例で予後不良リスクが伴うことを報告した。早期浸潤性乳がん診断後の乳がん死亡リスクは、過去数十年間で低下しているが、その低下の程度は不明であり、また低下は特定の特性を持つ患者に限定されるのか、すべての患者に当てはまるのか不明であった。BMJ誌2023年6月13日号掲載の報告。

英国の早期浸潤性乳がん患者約51万例について解析

 研究グループは、NCRASのデータを用いて、1993年1月~2015年12月に英国において早期浸潤性乳がん(乳房のみ、または腋窩リンパ節陽性であるが遠隔転移なし)の診断で登録された患者51万2,447例を特定し、2020年12月まで追跡調査を行った。

 主要評価項目は、乳がん年間死亡率および累積死亡リスクとした。診断時暦年、診断時年齢、エストロゲン受容体(ER)陽性/陰性、HER2陽性/陰性、腫瘍径、腫瘍悪性度、リンパ節転移数、スクリーニングの有無などにより層別し解析を行った。診断時暦年は1993~99年、2000~04年、2005~09年、2010~15年のカテゴリーに分けた。

診断特性の違いで、5年累積乳がん死亡率は3%未満群~20%以上群とばらつき

 乳がん年間粗死亡率は、いずれの診断年カテゴリーでも、診断後2年間に増加し3年目にピークとなり、その後は低下した。また、乳がん年間死亡率ならびに累積死亡リスクは、診断時暦年が近年になるほど低下した。

 乳がん5年粗死亡率は、1993~99年に診断された女性で14.4%(95%信頼区間[CI]:14.2~14.6)であったが、2010~15年に診断された女性では4.9%(4.8~5.0)であった。

 ER陽性/陰性別の補正後乳がん年間死亡率も、全体およびほぼすべてのサブグループ(診断時年齢層、スクリーニングの有無、腫瘍径、リンパ節転移数、悪性度別)で診断時暦年が近年になるほど低下し、1993~99年に診断された群に比べて2010~15年に診断された群では、ER陽性で約3分の1、ER陰性で約2分の1であった。

 2010~15年に診断された女性のみについて解析した場合、5年累積乳がん死亡率は異なる特性の組み合わせによって大きなばらつきがあり、女性の62.8%(15万3,006例中9万6,085例)を占める特性群の5年累積乳がん死亡率は3%未満である一方、4.6%(15万3,006例中6,962例)の特性群では20%以上であった。

 これらの結果を踏まえて著者は、「より最近の年代に診断された患者群の5年乳がん死亡リスクは、今日の患者の乳がん死亡リスクの推定に使用できるだろう」とまとめている。

(医学ライター 吉尾 幸恵)


【原著論文はこちら】

Taylor C, et al. BMJ. 2023;381:e074684.

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転移乳がんへのカペシタビン、固定用量vs.標準用量(X-7/7)/ASCO2023

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 転移を有する乳がん(MBC)患者を対象としたX-7/7試験において、カペシタビンの固定用量(1,500mg 1日2回 7日間投与後7日間休薬)は、体表面積に基づく用量(1,250mg/m2 1日2回 14日間投与後7日間休薬)と比較して、無増悪生存期間(PFS)や全生存期間(OS)に差はなく、手足症候群などの有害事象の発生率が低かったことを、米国・カンザス大学がんセンターのQamar J. Khan氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)で発表した。

 MBCは継続的な治療が必要となるため毒性の少ない治療が望まれているが、FDAに承認されているカペシタビンの用量では忍容性が低く、中止率が高いという懸念がある。そこで研究グループは、体表面積に関係なく固定用量のカペシタビンを投与した場合の有効性と安全性を、標準用量と比較するランダム化試験を実施した。

・対象:内分泌療法または化学療法の治療歴のある転移を有する乳がんの女性(HER2+患者ではトラスツズマブを併用)
・試験群(固定7/7群):カペシタビン1,500mg 1日2回 7日間投与→7日間休薬 80例
・対照群(標準14/7群):カペシタビン1,250mg/m2 1日2回 14日間投与→7日間休薬 73例
・評価項目
[主要評価項目]3ヵ月PFS率
[副次評価項目]PFS、OS、奏効率(ORR)、安全性

 主な結果は以下のとおり。

・2015年10月~2021年4月にMBC患者153例を固定7/7群と標準14/7群に1対1に無作為に割り付けた。ベースライン時の患者特性は同等で、年齢中央値60歳、内臓転移ありが44%、HR+HER2-が78%、HER2+が11%、トリプルネガティブが11%、化学療法の前治療歴なしが65%、測定可能な病変を有していたのは67%であった。
・PFS中央値は、固定7/7群で8.7ヵ月(95%信頼区間[CI]:6.4~11.6)、標準14/7群で12.1ヵ月(同:8.9~16.3)であった(p=0.98)。
・固定7/7群および標準14/7群のPFS率はそれぞれ下記のとおりであった。
 -3ヵ月PFS率:76%、76%、p=0.99
 -6ヵ月PFS率:39%、50%、p=0.23
 -24ヵ月PFS率:25%、23%、p=0.77
 -36ヵ月PFS率:11%、0%、p=0.24
・ORRは固定7/7群8.9%、標準14/7群19.6%であった(p=0.11)。
・OS中央値は、固定7/7群19.8ヵ月(95%CI:12.9~28.3)、標準14/7群17.5ヵ月(同:12.5~34.0)であった(p=0.17)。
・固定7/7群および標準14/7群のOS率はそれぞれ下記のとおりであった。
 -3ヵ月OS率:94%、85%、p=0.16
 -12ヵ月OS率:56%、63%、p=0.59
 -24ヵ月OS率:30%、33%、p=0.85
 -36ヵ月OS率:23%、23%、p=1.00
 -48ヵ月OS率:17%、14%、p=0.82
・Grade3~4の有害事象は、固定7/7群で11.3%、標準14/7群で27.4%に生じた(p=0.02)。Grade2~4の有害事象のうち、下痢は2.5%/20.5%(p=0.0008)、手足症候群は3.8%/15.1%(p=0.0019)、口内炎は0%/5.5%(p=0.0001)、好中球減少は21.3%/27.4%(p=0.68)であった。

 これらの結果より、Khan氏は「MBCの治療で有効性を維持しながら毒性を最小化するために、カペシタビン1,500mg 1日2回 7日間投与後7日間休薬する固定用量は有用なオプションとなる可能性がある」とまとめた。

(ケアネット 森 幸子)

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X7-7試験(Clinical Trials.gov)

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がん遺伝子検査、よく受けるがん種・人種は?/JAMA

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 米国・スタンフォード大学のAllison W. Kurian氏らは、2013~19年に同国カリフォルニア州とジョージア州でがんと診断された患者のうち、生殖細胞系列遺伝子検査を受けた患者の割合が6.8%とごくわずかであり、非ヒスパニック系白人に比べ、黒人、ヒスパニック系、アジア系の患者ではより低いことを示した。同検査は遺伝性のがんリスクを明らかにし、遺伝学的な標的治療を可能にすることで、がん患者の生存率を向上させるが、米国ではどのくらいの患者が受けているかは、これまで知られていなかった。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2023年6月5日号で報告された。

SEERレジストリを用いた米国2州の観察研究

 研究グループは、Surveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)レジストリのデータを用いて、カリフォルニア州とジョージア州でがんの診断を受けた年齢20歳以上の患者を対象に、生殖細胞系列遺伝子検査の実施状況とその結果を調査する目的で観察研究を行った(米国国立がん研究所[NCI]などの助成を受けた)。

 主要アウトカムは、がんの診断から2年以内の生殖細胞系列遺伝子検査の実施であった。がんリスクの上昇と関連するバリアント(病原性バリアント)およびがんリスクとの関連が知られていないバリアント(不確実なバリアント)を含む、各遺伝子のシークエンシングの結果を評価した。

 遺伝子は、乳がんや卵巣がん、消化器がん、その他のがんなどの主要ながんとの関連、および診療ガイドラインが生殖細胞系列遺伝子検査を推奨しているか否かによって分類された。

検査実施率、全体6.8%、大腸がん5.6%、肺がん0.3%

 2013年1月1日~2019年3月31日の期間に、2州でがんと診断された136万9,602例のうち、生殖細胞系列遺伝子検査を受けていたのは9万3,052例(6.8%、95%信頼区間[CI]:6.8~6.8)であった。

 同検査を受けた患者の割合は、がん種によってばらつきがみられ、男性乳がんが50.0%と最も高く、次いで卵巣がん38.6%、女性乳がん26.0%、多重がん7.5%、子宮体がん6.4%、膵がん5.6%、大腸がん5.6%、前立腺がん1.1%、肺がん0.3%の順であった。

 ロジスティック回帰モデルによる解析では、男性乳がん、卵巣がん、女性乳がんの患者のうち検査を受けた患者の割合は、非ヒスパニック系白人が31%(95%CI:30~31)であったのに対し、他の人種・民族では低く、黒人25%(24~25)、ヒスパニック系23%(23~23)、アジア系22%(21~22)であった(χ2検定のp<0.001)。

 病原性バリアントの67.5~94.9%は、診療ガイドラインで検査が推奨されている遺伝子で同定され、68.3~83.8%は、診断されたがん種と関連する遺伝子で同定された。

 著者は、「遺伝子検査の実施率は経時的に上昇したが、2021年においても、診療ガイドラインで推奨されている卵巣、男性乳房、膵臓などの特定のがん種については100%を大幅に下回っていた。生殖細胞系列の遺伝子のがんスクリーニング、予防的手術、標的治療により生存率が向上することは臨床試験で実証されていることから、生殖細胞系列遺伝子検査の実施率の低さが、がん死亡率の上昇に寄与している可能性がある」と指摘している。

(医学ライター 菅野 守)


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Kurian AW, et al. JAMA. 2023 Jun 5. [Epub ahead of print]

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TN乳がんのHER2発現状況、生検時期によって変動/ASCO2023

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 HER2の発現状況は変動的であり、HER2低発現ではないIHC 0のトリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者が病勢進行時に生検を繰り返し行うことでHER2低発現となる可能性があることを、米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)で、米国・マサチューセッツ総合病院のYael Bar氏が発表した。

 第III相DESTINY-Breast04試験サブグループ解析において、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)はTNBCを含むHER2低発現で転移を有する乳がん患者の無増悪生存期間と全生存期間を有意に改善した。しかし、T-DXdのFDA承認はHER2低発現であってTNBCではないため、HER2低発現かどうかを特定することは臨床的に重要である。

 先行研究では、TNBCにおけるHER2発現状況は不均一で時間の経過とともに変動することが示唆されているが、TNBC患者がHER2低発現の結果を得るために繰り返し生検を受ける意義があるかどうかは不明である。そこで研究グループは、TNBC患者における生検の実施回数とHER2発現状況の相関、生検を繰り返して行う意義、生検時期によるHER2発現状況の変動の評価を行った。

 研究グループは、2000~22年に単一施設で治療を受けたTNBC(ER/PR<10%、HER2陰性)患者512例のデータを後方視的に解析した。HER2の発現状況が不明または不確定の患者は除外された。HER2低発現は、IHCスコア1+またはIHCスコア2+かつISH-と定義された。生検は実施時期や実施方法に基づいて分類された。

 患者の年齢中央値は52歳(範囲:25~97歳)、50歳以上が46%、ER低発現(1~10%)が13%、術前化学療法実施が54%であった。StageIが28%、StageIIが48%、StageIIIが14%、StageIVが8%、不明が1%で、生検の実施回数は1回が38%、2回が45%、3回が9%、4回が6%、5回以上が2%であった。

 主な結果は以下のとおり。

・生検の合計実施回数が増えるにつれて、HER2低発現の結果を少なくとも1回示した患者の割合が増加した。生検を計1回実施した患者では59%、計2回では73%、計3回と計4回では83%、計5回以上では100%であった。
・以前の生検でHER2ゼロだった患者は、次の生検を受けるたびにその3分の1が新たにHER2低発現の結果を示した。
・同一患者の異なるタイミングの生検を分析した結果、HER2ゼロ→HER2低発現、HER2低発現→HER2ゼロの変動が主に認められ、その変動の可能性は早期に実施した生検と転移が進んだ状態で実施した生検の間で最も大きかった。転移が進んだ状態の生検は、HER2ゼロ→HER2低発現となる割合が高かった。
・術前化学療法の有無はHER2発現状況の変動に影響を与えなかった。

 これらの結果より、Bar氏は「TNBC患者においてHER2発現状況は変動的であった。T-DXdの適応がない患者でも、生検を繰り返すことで新たにHER2低発現の結果を得られる可能性があるため、実施可能かつ安全であるのであれば検討してもよいと考える。また、何らかの理由で生検を行った場合は再検査を行うべきである」とまとめた。

(ケアネット 森 幸子)


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DESTINY-Breast04試験(ClinicalTrials.gov)

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HR+/HER2-転移乳がんへのSG、より長い追跡期間でも有用性持続(TROPiCS-02)/ASCO2023

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 複数の治療歴があるHR+/HER2-転移乳がん患者に対して、sacituzumab govitecan(SG)を医師選択治療(TPC)と比較した第III相TROPiCS-02試験において、SGが無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)を有意に改善し、HER2低発現例においても改善がみられたことがすでに報告されている。今回、探索的解析として、より長い追跡期間(12.75ヵ月)におけるPFSとOS、さらにHER2低発現におけるPFSとOSの解析結果を、米国・Dana-Farber Cancer InstituteのSara M. Tolaney氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)で発表した。

 本試験において、SGがPFSを有意に改善(ハザード比[HR]:0.66、95%信頼区間[CI]:0.53~0.83)したことはASCO2022で、OSについてはプロトコールでの最終解析である第2回中間解析の結果、有意に改善(HR:0.79、95%CI:0.65~0.96)したことがESMO2022で発表されている。また、HER2低発現例においてPFSが有意に改善(HR:0.58、95%CI:0.42~0.79)したこともESMO2022で発表されている。今回、探索的解析として、追跡期間を延長し解析した結果が発表された。

・対象:転移または局所再発した切除不能のHR+/HER2-乳がんで、転移後に内分泌療法またはタキサンまたはCDK4/6阻害薬による治療歴が1ライン以上、化学療法による治療歴が2~4ラインの成人患者
・試験群:SG(1、8日目に10mg/kg、21日ごと)を病勢進行または許容できない毒性が認められるまで静注 272例
・対照群:TPC(カペシタビン、ビノレルビン、ゲムシタビン、エリブリンから選択)271例
・評価項目:
[主要評価項目]盲検下独立中央評価委員会によるPFS
[副次評価項目]OS、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、臨床的有用率(CBR)、安全性など

 主な結果は以下のとおり。

・データカットオフ(2022年12月1日)時点で、追跡期間中央値は12.75ヵ月となった。
・PFS中央値はSG群5.5ヵ月、TPC群4.0ヵ月で、引き続きPFSの改善を示した(HR:0.65、95%CI:0.53~0.81、nominal p=0.0001)。
・OS中央値はSG群14.5ヵ月、TPC群11.2ヵ月で、OSも引き続き改善を示した(HR:0.79、95%CI:0.65~0.95、nominal p=0.0133)。12ヵ月OS率は、SG群60.9%、TPC群47.1%、18ヵ月OS率はSG群39.2%、TPC群31.7%、24ヵ月OS率はSG群25.7%、TPC群21.1%であった。
・HER2 IHC別のPFSは、HER2低発現(HR:0.60、95%CI:0.44~0.82)およびHER2ゼロ(HR:0.70、95%CI:0.51~0.98)ともSG群で有意に改善がみられた。
・HER2 IHC別のOSは、HER2低発現(HR:0.75、95%CI:0.57~0.97)およびHER2ゼロ(HR:0.85、95%CI:0.63~1.14)ともSG群で改善がみられた。
・ORR、CBRも引き続き改善を示し、DORは延長した。
・延長された追跡期間に新たな安全性シグナルはみられなかった。

 Tolaney氏は「本試験の追加された追跡期間においてもSGの有用性が持続したことにより、治療歴のある内分泌療法抵抗性のHR+/HER2-転移乳がんに対して、SGが重要で新たな治療であることがさらに補強された」と結論した。

(ケアネット 金沢 浩子)


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TROPiCS-02試験(ClinicalTrials.gov)

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転移乳がんへのADC後のADC投与、交差耐性の可能性/ASCO2023

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 米国では転移を有するHR+/HER2-およびトリプルネガティブ(TN)乳がんにsacituzumab govitecan(SG)が、またHER2低発現乳がんにトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)が承認され、複数の抗体薬物複合体(ADC)が適応となる患者が増えている。しかし、ADCは抗体標的やペイロードにより交差耐性の可能性があるため、最適な投与順序は不明である。今回、転移を有するHER2-乳がんに対して調査したところ、2剤目のADCに対して交差耐性を示す患者がいる一方、1剤目と抗体標的が異なる場合など、2剤目でも持続的な奏効を示す患者もいることがわかった。米国・Massachusetts General Hospital Cancer CenterのRachel Occhiogrosso Abelman氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)で報告した。

 本試験の対象は、HER2+を除いた転移を有する乳がんに対して ADCを2剤以上投与された患者とした。なおトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)はADCに含めていない。2剤目のADCにおける最初の病期再分類時もしくはその前に病勢進行(PD)となった場合に「交差耐性」と定義し、1剤目と2剤目の抗体標的およびペイロードの違いによる交差耐性を調べた。また、サブグループ別に各状況での無増悪生存期間(PFS)を調べた。

 主な結果は以下のとおり。

・2014年8月~2023年2月に193例にADCが投与され、うち35例が2剤以上投与されていた(HR+/HER2-:15例、TN:20例、HER2低発現:24例)。抗体標的の種類は、1剤目はHER2が8例、Trop2が26例、その他が1例で、2剤目はHER2が14例、Trop2が19例、その他は2例だった。ペイロードの種類は、1剤目は35例すべてがトポイソメラーゼ阻害薬、2剤目はトポイソメラーゼ阻害薬31例、微小管阻害薬とその他がそれぞれ2例だった。
・交差耐性は、1剤目と2剤目が同じ抗体標的でペイロードが異なる場合は12例中8例(66.7%)、抗体標的もペイロードも異なる場合は19例中8例(42.1%)に認められた。
・PFS中央値は、HR+/HER2-乳がんでは1剤目が6.9ヵ月、2剤目が2.4ヵ月(p=0.051)、TN乳がんでは1剤目が8.2ヵ月、2剤目が3.0ヵ月(p=0.004)と2剤目が短かった。
・T-DXdとSGの投与順別のPFS中央値は、HR+/HER2-乳がんでは、SG→T-DXdの場合、SGが4.9ヵ月、T-DXdが2.8ヵ月、T-DXd→SGの場合、T-DXdが7.1ヵ月、SGが2.4ヵ月だった。TN乳がんでは、SG→T-DXdの場合、SGが9.1ヵ月、T-DXdが2.6ヵ月、T-DXd→SGの場合、T-DXdがNA、SGが2.2ヵ月だった。

 Abelman氏は「最適なADC投与順序を導くために、これらの結果を検証して耐性機序を調べるさらなる研究が必要」と述べた。

(ケアネット 金沢 浩子)


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HR+/HER2-進行乳がんへのパルボシクリブ、2次治療での継続は有効か(PALMIRA)/ASCO2023

提供元:CareNet.com

 HR+/HER2-進行乳がん1次治療でパルボシクリブ+内分泌療法で奏効後に進行した患者の2次治療において、パルボシクリブを1次治療と異なる内分泌療法(2次内分泌療法)と併用しても、2次内分泌療法単独に比べ無増悪生存期間(PFS)を有意に改善しなかったことが第II相PALMIRA試験で示された。スペイン・Medica Scientia Innovation Research(MEDSIR)のAntonio Llombart-Cussac氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)で発表した。

・対象:HR+/HER2-進行乳がんの1次治療としてパルボシクリブ+内分泌療法(アロマターゼ阻害薬もしくはフルベストラント)を受け、臨床的有用性(奏効または24週間以上の安定)が得られた後に進行した患者、もしくはパルボシクリブベースの術後補助療法を12ヵ月以上受けた後、治療終了後12ヵ月以内に進行した患者 198例
・試験群(パルボシクリブ+ET群):パルボシクリブ+2次内分泌療法(1次内分泌療法に応じてレトロゾールまたはフルベストラント)136例
・対照群(ET群): 2次内分泌療法単独 62例
・評価項目:
[主要評価項目]治験責任医師によるPFS
[副次評価項目]全奏効率(ORR)、臨床的有用率(CBR)、全生存期間(OS)、安全性など

 主な結果は以下のとおり。

・2019年4月~2022年10月に適格患者198例を2:1に無作為に割り付けた。データカットオフ(2023年2月2日)時点で追跡期間中央値は13.2ヵ月だった。
・治験責任医師評価によるPFS中央値は、パルボシクリブ+ET群4.9ヵ月、ET群3.6ヵ月で、PFSの改善はみられなかった(ハザード比[HR]:0.84、95%信頼区間[CI]:0.66~1.07、両側検定p=0.149)。
・すべてのサブグループのPFSにおいても同様だった。
・6ヵ月PFS率は、パルボシクリブ+ET群が42.1%、ET群が29.1%であった。
・内臓転移の有無別のPFSも、あり(121例)でのHRが0.79(95%CI:0.59~1.06、両側検定p=0.112)、なし(77例)でのHRが0.94(95%CI:0.62~1.42、両側検定p=0.767)と有意な改善はみられなかった。
・以前のパルボシクリブ治療期間別のPFSも、6~18ヵ月(28例)でのHRが0.93(95%CI:0.50~1.73、両側検定p=0.815)、12ヵ月以上(170例)でのHRが0.83(95%CI:0.63~1.07、両側検定p=0.154)と有意な改善はみられなかった。
・ORRおよびCBRに有意差はみられなかった。
・OSにおけるHRは1.06(95%CI:0.75~1.51、両側検定p=0.738)であった。
・新たな安全性シグナルは確認されなかった。

 現在、CDK4/6阻害薬の継続投与により大きなベネフィットを受ける患者を調べるために、多くのバイオマーカー研究プログラムが進行している。

(ケアネット 金沢 浩子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

PALMIRA試験(ClinicalTrials.gov)

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既治療・転移乳がんへのHER3-DXd、幅広いHER3発現状況で有用/ASCO2023

提供元:CareNet.com

 複数治療歴のあるER+およびトリプルネガティブ(TN)の局所進行または転移を有する乳がん(MBC)患者を対象とした第II相試験の結果、HER3を標的としたpatritumab deruxtecan(HER3-DXd)の有効性は、幅広いHER3発現状況で認められたことを、米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)で、米国・Sarah Cannon Research InstituteのErika P. Hamilton氏が発表した。

 MBC患者はHER3が高値であることが多いが、HER3過剰発現はがんの進行や生存率の低下と関連することが報告されている。また、HER3-DXdの有効性は乳がんのサブタイプやHER3発現状況にあまり依存しない可能性が示唆されている。本試験は、HER3-DXd投与で最大の効果が得られる患者群を特定するために、パートA、パートB、パートZの3パートで実施されている。今回はパートAとして、特定のバイオマーカー(ER/PR/HER2/HER3)が発現した患者における有効性と安全性が検討された(データカットオフ:2022年9月6日)。

・対象:18歳以上の男性または女性、HER2-、ECOG PS 0/1で下記のいずれかを満たすMBC患者
1)HR+患者:0~2ラインの化学療法歴+内分泌療法±CDK4/6阻害薬による治療歴がある
2)HR-患者(TN):1~3ラインの化学療法歴がある
・試験群:HER3-DXd 5.6mg/kg 3週間ごとに静脈内投与 60例
・評価項目:
[主要評価項目]奏効率(ORR)、6ヵ月無増悪生存(PFS)率
[副次評価項目]奏効期間(DOR)、臨床的有用率(CBR)、安全性・忍容性 など

 主な結果は以下のとおり。

・女性98.3%(男性は1例[1.7%])、18歳超65歳未満が71.7%、前治療ライン数中央値3(範囲:1~9)であった。StageIVが21.7%、BRCA1変異が3.3%、BRCA2変異が1.7%であった。ベースライン時のER高発現(10%超)/低発現(1~10%)/陰性(0%)はそれぞれ50.0%/2.1%/47.9%、PR高発現(10%超)/低発現(1~10%)/陰性(0%)はそれぞれ45.8%/6.3%/47.9%、TNは39.6%であった。
・ベースライン時にHER3発現が評価可能であった47例のうち、HER3-high(75%以上)が63.8%、HER3-low(25~74%)が27.7%、HER3-negative(25%未満)が8.5%であった。
・治療期間中央値は5.2ヵ月(範囲:0.7~15.2)で、43.3%の患者がHER3-DXdを6ヵ月以上継続していた。
・全体のORRは35.0%(95%信頼区間:23.1~48.1)、CBRは43.3%(同:30.6~56.8)であった。HER3-highではそれぞれ33.3%/40.0%、HER3-lowでは46.2%/53.8%、HER3-negativeは症例は少ないものの50.0%/50.0%であった。
・全体の6ヵ月以上のDOR達成は47.6%、HER3-highでは40.0%、HER3-lowでは33.3%、HER3-negativeでは100%であった。
・HER3-highとHER3-lowでORRとCBRに有意差はみられなかった。
・治療関連有害事象(TRAE)は93.3%に認められ、Grade3/4が31.7%であった。主なものは、悪心、疲労、下痢、嘔吐、貧血、脱毛であった。7%(4例)に重篤なTRAEが生じ、内訳は間質性肺疾患、悪心・嘔吐、肺炎、血小板減少症であった。

 これらの結果より、Hamilton氏は「複数の治療を重ねてきたER+およびTNのMBC患者において、HER3-DXdの有効性は幅広いHER3発現状況で認められた。Grade3/4のTRAEは少なく、管理可能な安全性プロファイルであった。この解析結果は、HER3-DXdがサブタイプにかかわらずMBSの治療パラダイムに参入する可能性を裏付けるものである」とまとめた。

 なお、パートBではパートAのER/PR/HER2/HER3発現状況に基づいたサブグループで有効性を解析し、パートZではHER2+でT-DXd治療歴のあるMBC患者21例を追加登録して有効性を解析する予定。

(ケアネット 森 幸子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

NCT04699630(Clinical Trials.gov)

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