高リスク早期TN乳がんへの術前・術後ペムブロリズマブ追加、日本のサブグループにおけるOS解析結果(KEYNOTE-522)/日本乳癌学会

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 高リスク早期トリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者において、ペムブロリズマブ+化学療法による術前療法およびペムブロリズマブによる術後療法は、術前化学療法単独と比較して、病理学的完全奏効(pCR)割合および無イベント生存期間(EFS)を統計学的有意に改善し、7回目の中間解析報告(データカットオフ:2024年3月22日)において全生存期間(OS)についてもベネフィットが示されたことが報告されている(5年OS率:86.6%vs.81.7%、p=0.002)。今回、7回目の中間解析の日本におけるサブグループ解析結果を、がん研究会有明病院の高野 利実氏が第33回日本乳癌学会学術総会で発表した。

・対象:T1c、N1~2またはT2~4、N0~2で、治療歴のないECOG PS 0/1の高リスク早期TNBC患者(18歳以上)
・試験群:ペムブロリズマブ(200mg、3週ごと)+パクリタキセル(80mg/m2、週1回)+カルボプラチン(AUC 1.5、週1回またはAUC 5、3週ごと)を4サイクル投与後、ペムブロリズマブ+シクロホスファミド(600mg/m2)+ドキソルビシン(60mg/m2)またはエピルビシン(90mg/m2)を3週ごとに4サイクル投与し、術後療法としてペムブロリズマブを3週ごとに最長9サイクル投与(ペムブロリズマブ群)
・対照群:術前に化学療法+プラセボ、術後にプラセボを投与(プラセボ群)
・評価項目:
[主要評価項目]pCR(ypT0/Tis ypN0)、EFS
[副次評価項目]全生存期間(OS)、安全性など

 主な結果は以下のとおり。

・日本で登録されたのは76例で、ペムブロリズマブ群に45例、プラセボ群に31例が割り付けられた。
・ベースラインの患者特性は、全体集団と比較してPD-L1陽性の患者が若干少なく(日本:ペムブロリズマブ群71.1%vs.プラセボ群74.2%/全体集団:83.7%vs.81.3%)、毎週投与のカルボプラチンの使用割合が高かった(日本:80.0%vs.77.4%/全体集団:57.3%vs. 57.2%)。また日本では、T3/T4の症例(24.4%vs.16.1%)およびリンパ節転移陽性の症例(53.3%vs.41.9%)がペムブロリズマブ群で多い傾向がみられた。
・5年EFS率は、ペムブロリズマブ群84.4%vs.プラセボ群73.2%、ハザード比(HR):0.54、95%信頼区間(CI):0.20~1.50であった(全体集団では81.2%vs.72.2%、HR:0.65、95%CI:0.51~0.83)。
・5年OS率は、ペムブロリズマブ群88.9%vs.プラセボ群86.5%、HR:0.82、95%CI:0.22~3.04であった(全体集団では86.6%vs.81.7%、HR:0.66、95%CI:0.50~0.87)。
・5年EFS率について、pCRが得られた症例ではペムブロリズマブ群95.8%(24例)vs.プラセボ群100%(15例)、pCRが得られなかった症例では71.4%(21例)vs.46.7%(16例)であった。
・5年OS率について、pCRが得られた症例ではペムブロリズマブ群95.8%vs.プラセボ群100%、pCRが得られなかった症例では81.0%vs.73.7%であった。
・Grade3~4の治療関連有害事象の発現率は、ペムブロリズマブ群82.2%vs.プラセボ群76.7%(全体集団では77.1%vs.73.3%)、うち治療中止に至ったのは24.4%vs.16.7%であった。プラセボ群と比較して多くみられたのは(全Grade)、貧血(75.6%vs.63.3%)、味覚障害(44.4%vs.23.3%)、皮疹(40.0%vs.10.0%)などであった。
・Grade3~4の免疫関連有害事象の発現率は、ペムブロリズマブ群20.0%vs.プラセボ群3.3%であった(全体集団では13.0%vs.1.5%)。

 高野氏は、日本のサブグループ解析結果について、症例数が少ないためこの結果をもって統計学的な判断はできないが、OSはグローバルの全体集団と同様にペムブロリズマブ群で良好な傾向を示したとし、EFSについても6年以上のフォローアップで引き続き有効な傾向を示しているとまとめた。また安全性についても、既知のプロファイルと同様の結果が確認されたとしている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


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ER+/HER2-進行乳がんへのimlunestrant、日本人サブグループ解析結果(EMBER-3)/日本乳癌学会

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 アロマターゼ阻害薬単剤またはCDK4/6阻害薬との併用による治療中もしくは治療後に病勢進行が認められた、ESR1変異陽性のエストロゲン受容体(ER)陽性HER2陰性(ER+/HER2-)進行乳がん患者において、経口選択的ER分解薬(SERD)imlunestrant単剤療法が、標準内分泌療法と比較して無増悪生存期間(PFS)を有意に延長したことが第III相EMBER-3試験の結果として報告されている。今回、同試験の日本人サブグループ解析結果を、千葉県がんセンターの中村 力也氏が第33回日本乳癌学会学術総会で発表した。

・対象:アロマターゼ阻害薬±CDK4/6阻害薬による治療中もしくは治療後(12ヵ月以内)に病勢進行が認められたER+/HER2-進行乳がん患者
・試験群(imlunestrant群):imlunestrant単剤療法(1日1回400mg)
・試験群(imlunestrant+アベマシクリブ群):imlunestrant(1日1回400mg)+アベマシクリブ(1日2回150mg)
・対照群(標準内分泌療法群):治験医師がエキセメスタンまたはフルベストラントから選択
・評価項目:
[主要評価項目]治験医師評価によるPFS(ESR1変異陽性患者および全患者におけるimlunestrant群vs.標準内分泌療法群、全患者におけるimlunestrant+アベマシクリブ群vs.imlunestrant群)
[重要な副次評価項目]全生存期間(OS)、奏効率(ORR)、安全性など
・データカットオフ:2024年6月24日

 主な結果は以下のとおり。

・79例が1:1:1の割合で無作為化され、imlunestrant群に31例、imlunestrant+アベマシクリブ群に24例、標準内分泌療法群に24例が割り付けられた。
・ベースラインの患者特性は3群でバランスがとれており、おおむねグローバルの全体集団と同様であったが、ESR1変異陽性患者の割合は若干低かった(imlunestrant群35%vs.imlunestrant+アベマシクリブ群17%vs.標準内分泌療法群25%)。また、CDK4/6阻害薬による治療歴を有する患者がグローバルでは6割程度だったのに対し、日本人集団では19%vs.29%vs.17%と少ない傾向であった。
ESR1変異陽性患者における治験医師評価によるPFS中央値は、imlunestrant群11.1ヵ月vs.標準内分泌療法群7.0ヵ月(ハザード比[HR]:0.26、95%信頼区間[CI]:0.05~1.31)であった。
・全患者における治験医師評価によるPFS中央値は、imlunestrant群11.1ヵ月vs.標準内分泌療法群7.6ヵ月(HR:1.22、95%CI:0.59~2.50)、imlunestrant+アベマシクリブ群11.2ヵ月vs.imlunestrant群11.1ヵ月(HR:0.75、95%CI:0.34~1.66)であった。
・測定可能病変を有する患者におけるORRは、全患者ではimlunestrant群13%(3/23例)vs.標準内分泌療法群5%(1/19例)、imlunestrant+アベマシクリブ群17%(3/18例)vs.imlunestrant群15%(3/20例)、ESR1変異陽性患者ではimlunestrant群29%(2/7例)vs.標準内分泌療法群0%(NA)であった。
・Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)の発現率は、imlunestrant群10%vs.imlunestrant+アベマシクリブ群61%vs.標準内分泌療法群13%であり、グローバルと比較してimlunestrant+アベマシクリブ群での発現が多い傾向がみられた。同群における有害事象による減量・治療中止も日本人集団で多く(それぞれ61%、17%)、主に下痢やALT上昇によるものであった。
・Grade3以上のTRAEでimlunestrant+アベマシクリブ群で多くみられたのは、ALT上昇(22%)、皮疹、白血球減少、好中球減少(いずれも13%)、下痢、AST上昇(いずれも9%)などであった。

 中村氏は、ESR1変異陽性のER+/HER2-進行乳がんに対するimlunestrant単剤療法はグローバルと同様に日本人集団でもPFSの改善が確認されたとし、良好な安全性プロファイルを示したとまとめている。なお、OS解析は進行中である。ESR1変異の有無を問わない全患者に対するimlunestrant単剤療法と比較したimlunestrant+アベマシクリブ併用療法についても、グローバルと同様にPFSの数値的な改善がみられたとし、安全性はこれまでのアベマシクリブ+内分泌療法併用でみられたプロファイルと同様で、imlunestrant併用による追加の毒性は示されていないとしている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


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わが国の乳房部分切除術後の長期予後と局所再発のリスク因子~約9千例の後ろ向き研究/日本乳癌学会

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 近年の乳がん治療の進歩によって、乳房部分切除術後の局所再発率と生存率が変化していることが推測される。また、乳房部分切除術の手技は国や解剖学的な違いによって異なり、国や人種の違いが局所再発リスクのパターンに影響する可能性がある。今回、聖路加国際病院の喜多 久美子氏らは、日本のリアルワールドデータを用いた多施設共同コホート研究で、近年の日本における乳房部分切除術後の局所再発率と予後、局所再発のリスク因子を検討し、第33回日本乳癌学会学術総会で報告した。本研究より、発症時若年、腫瘍径2cm以上、高Ki-67、脈管侵襲、術後療法や放射線療法を受けていないことが局所再発のリスク因子であり、術後療法はすべてのサブタイプで局所再発リスク低減に寄与することが示唆されたという。

 本研究は多施設共同後ろ向きコホート研究で、2014~18年に国内25施設でStage0~III乳がんで乳房部分切除術を受けた患者を登録した。評価項目は、局所再発率、無病生存期間(DFS)、全生存期間(OS)であった。

 主な結果は以下のとおり。

・計8,897例を登録し、平均年齢は57.1歳、99.8%がアジア系であり、59.4%がT1、51.0%がStage I、70.2%がER+/HER2-であった。治療は化学療法が31.1%、放射線療法は86.7%で実施されていた。切除断端陽性は7.3%にみられた。
・追跡期間中央値は6.6年で、10年局所再発率は4.6%、DFS率は86.2%、OS率は94.1%であった。
・局所再発率はStage I、DCIS、II、IIIの順に良好で、最も良好なサブタイプはER+/HER2-であった。
・切除断端陽性と放射線治療なしは局所再発と有意に関連していた。
・多変量解析の結果、以下の因子で局所再発リスクとの関連がみられた。
 - 発症時40歳未満・腫瘍径2cm以上・高Ki-67:ER+/HER2-で高リスクと関連
 - ER+:全集団で低リスクと関連
 - 脈管侵襲:トリプルネガティブで高リスクと関連
 - 術後療法:すべてのサブタイプで低リスクと関連
 - 術前化学療法:ER+/HER2-で高リスクと関連
 - 放射線療法:すべてのサブタイプで低リスクと関連
 - 内分泌療法(ER+/HER2-のみ):低リスクと関連

 喜多氏は「直接比較はできないが、ヒストリカルデータと比較して局所再発率は改善しており、治療や放射線療法の進歩、術前画像診断技術の向上によるのではないか」と考察した。また、ER+/HER2-で術前化学療法を受けた患者で局所再発率が高かったことから、「EBCTCGメタ解析でも同様の傾向が観察されたため、とくにER+/HER2-において術前化学療法後の局所再発を減少させるため、慎重な手術計画が必要かもしれない」と指摘した。最後に喜多氏は、「近年におけるわれわれのデータはわが国の乳房部分切除術の予後が以前より改善していることを示しており、毎年多くの新規全身療法が導入されるなか、最適な手術戦略を検討する際には最新データを反映させる必要がある」と述べ講演を終えた。

(ケアネット 金沢 浩子)


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早期手術を受けなかったDCIS、同側浸潤性乳がんの8年累積発生率/BMJ

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 診断後早期(6ヵ月以内)に手術を受けなかった非浸潤性乳管がん(DCIS)患者のコホートにおいて、同側乳房浸潤がんの8年累積発生率は8~14%の範囲であることが、米国・デューク大学医療センターのMarc D. Ryser氏らによる観察コホート研究の結果で示された。同国のDCISに対する現行ガイドラインのコンコーダントケア(concordant care、患者の意に即したケア)では、診断時に手術を行うことが義務付けられている。一方で、手術を受けなかった場合の長期予後については、ほとんど明らかになっていなかった。今回の検討では、将来の浸潤がんのリスクは、疾患(腫瘍)関連および患者関連の両方の因子と関連していたことも示され、著者は、「手術を受けなかったDCIS患者集団に対する、効果的なリスク層別化ツールと共同意思決定が不可欠である」とまとめている。BMJ誌2025年7月8日号掲載の報告。

診断時年齢中央値63歳1,780例を追跡

 研究グループは、初期手術を受けなかったDCISの女性患者における同側浸潤性乳がんリスクを明らかにするため、2008~15年に、原発性DCISと診断された患者の医療記録および全米がんレジストリーから直接抽出したデータを用いて、観察コホート研究を行った。

 米国外科学会と共同で行われた2018 Commission on Cancer Special Study on DCISの認定施設1,330ヵ所を対象とし、針生検で原発性DCISと診断され、診断後6ヵ月時点で生存しており、浸潤性乳管がんは認められず手術を受けていなかった女性患者1,780例についてデータが収集された。

 主要評価項目は同側浸潤性乳がん、副次評価項目は乳がん死であった。

 進行中のアクティブモニタリング試験の適格基準に基づくリスク群(低リスク群[画像診断検出時40歳以上、核グレード分類Grade1/2、HR陽性のDCIS]、高リスク群[その他の場合])別によるサブグループ解析も行った。

 1,780例の診断時年齢中央値は63歳、追跡期間中央値は53.3ヵ月であった。腫瘍グレードは898/1,533例(59%)が低~中グレードであり、HR陽性は1,342/1,530例(88%)であった。675/1,780例(38%)は6ヵ月以降に少なくとも1回の同側乳がん手術を受けていた。

8年累積発生率10.7%、低リスク群は8.5%、高リスク群は13.9%

 全1,780例において、同側浸潤性乳がんは115件(6.5%)、乳がん死は29例(1.6%)で発生した。同側浸潤性乳がんの8年累積発生率は10.7%(95%信頼区間[CI]:8.4~12.8)であった。

 浸潤性乳がんの発生率は、疾患関連および患者関連の因子によって異なっており、同側浸潤性乳がんの8年累積発生率は、低リスク群の女性(650例)では8.5%(95%CI:4.7~12.1)、高リスク群の女性(833例)では13.9%(10.5~17.2)であった。

 8年疾患特異的生存(DSS)率は、全集団では96.4%(95%CI:95.0~97.9)、低リスク群では98.1%(96.7~99.6)であった。

(ケアネット)


【原著論文はこちら】

Ryser MD, et al. BMJ. 2025;390:e083542.

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HR+/HER2-乳がんで術後S-1が本当に必要な再発リスク群は?/日本乳癌学会

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 経口フッ化ピリミジン系薬剤S-1(テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)は、POTENT試験によって、HR+/HER2-乳がんに対する標準的な術後内分泌療法に1年間併用することで再発抑制効果が高まることが示され、2022年11月に適応が拡大した。しかし、POTENT試験の適格基準はStageI~IIIBと幅広く、再発リスク群によっては追加利益が得られないという報告もあるため、S-1の追加投与が本当に必要な患者に関する検討が求められていた。名古屋大学医学部附属病院の豊田 千裕氏らの研究グループは、S-1適応拡大以前の症例によるPOTENT試験に準じた適格基準別の予後を比較してS-1追加投与の意義について検討し、その結果を第33回日本乳癌学会学術総会で発表した。

 まず、名古屋大学医学部附属病院における、HR+/HER2-乳がんの術後補助療法としてのS-1併用の現状を報告した。

S-1併用の現状
・2022年9月~2024年9月に根治術を施行した原発性乳がんのうち、ER+/HER2-浸潤性乳がんのPOTENT適格(かつmonarchE不適格)で、術後補助療法として実際にS-1を併用したのは54例であった。
・年齢中央値は56歳、観察期間中央値は17ヵ月、周術期化学療法施行が22.2%であった。POTENT試験の適格が79.6%、一部適格(2)が11.1%、一部適格(1)が5.6%、その他3.7%であった。
・現在もS-1内服中が48.1%、減量なく完遂が24.1%、一段階減量で完遂が16.7%、中止が11.1%であった。中止理由は薬剤性肺炎または放射線肺臓炎疑い、肝機能異常(Grade2)、皮疹(Grade2)、悪心(Grade1/2)であり、Grade3以上の重篤な有害事象は認めなかった。
・現時点で再発症例は認めていない。

 小括として、S-1併用療法においてGrade3以上の重篤な副作用は認められなかったことや完遂率の高さについて触れたうえで、後半では名古屋大学医学部附属病院におけるS-1適応拡大前のHR+/HER2-乳がん症例(=S-1非併用症例)のPOTENT試験に準じた適格基準別の予後について報告した。

S-1適応拡大前の症例における予後比較
・2017年11月~2022年11月に根治術を施行したStageI~IIIBのHR+/HER2-浸潤性乳がんのうち、術後補助療法を施行して追跡可能であったのは520例であった。年齢中央値は54歳、観察期間中央値は53ヵ月であった。
・POTENT試験の適格基準に準じて分類した結果、適格群42.3%、一部適格(2)群7.1%、一部適格(1)群3.7%、適格なし群46.7%であった。そのうち周術期に経静脈的化学療法を施行した患者はそれぞれ45.5%、24.3%、0%、0.4%であった。
・5年全生存(OS)率は、適格群96.8%、一部適格群92.6%、適格なし群98.1%で有意差は認めなかった。一方、5年無病生存(DFS)率はそれぞれ90.2%、98.2%、98.9%と適格群では適格なし群よりも有意に不良であり(p<0.001)、適格群では再発抑制を目的とした術後補助療法の必要性が示唆された。
・全体集団をPOTENT試験の追加解析の複合リスク評価に応じてgroup1(低リスク群)、group2(中間リスク群)、group3(高リスク群)の3群に分類したサブグループ解析では、5年OS率はgroup1が97.8%、group2が96.9%、group3が97.9%で有意差は認めなかった。一方、5年DFS率はそれぞれ98.5%、89.2%、83.8%とgroup3では有意に不良であり、高リスク群では再発抑制を目的とした術後補助療法の必要性が示唆された。
・POTENT適格患者からmonarchE適格患者(腋窩リンパ節転移数が多いハイリスク患者)を除いたnon-monarchE群の5年OS率は、group1が97.7%、group2が87.8%、group3が78.8%であり、non-monarchE群でも中間および高リスク群で不良であった。
・non-monarchE群を複合リスク別に分類し、術後の点滴静注化学療法の有無で比較した場合のDFS率は、group1では化学療法ありのグループのほうが不良な傾向にあったが(p=0.07)、group2および3では差を認めなかった(p=0.349およびp=0.618)。
・non-monarchE群で術後の点滴静注化学療法を行わなかった場合は、group1のDFSが良好であった。

 これらの結果より、豊田氏は「本研究は観察期間が短く他病死も多かったことから、今後も長期フォローアップが望まれる」としたうえで、「HR+/HER2-乳がんにおける再発高リスク群では、術後補助療法にS-1を併用することで再発率を有意に低下させる可能性がある。患者背景やリスク評価を踏まえた適応選択が、S-1補助療法の最大の効果を引き出すために重要」とまとめた。

※POTENT試験の適格基準:以下の条件を満たすStageI~IIIBの症例

(ケアネット 森)


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術前療法でリンパ節転移陰転の乳がん、照射は省略できるか/NEJM

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 乳がん治療では、病理学的に腋窩リンパ節転移陽性の患者における領域リンパ節照射の有益性が確立しているが、術前補助化学療法後に病理学的にリンパ節転移なし(ypN0)の患者でも有益かは不明だという。米国・AdventHealth Cancer InstituteのEleftherios P. Mamounas氏らは、無作為化第III相試験「NSABP B-51-Radiation Therapy Oncology Group 1304試験」において、術前補助化学療法後に腋窩リンパ節転移陰性となった患者では、術後補助療法として領域リンパ節照射を追加しても、浸潤性乳がんの再発または乳がん死のリスクは低下しないことを示した。研究の成果は、NEJM誌2025年6月5日号で報告された。

7ヵ国の無作為化第III相試験

 NSABP B-51-Radiation Therapy Oncology Group 1304試験は、日本を含む7ヵ国で実施され、2013年8月~2020年12月に参加者を登録した(米国国立衛生研究所[NIH]の助成を受けた)。

 臨床病期T1~T3 N1 M0の切除可能な乳がんで、生検で病理学的に腋窩リンパ節転移陽性と確認され、標準的な術前補助化学療法(アントラサイクリン系またはタキサン系[あるいはこれら両方]をベースとするレジメン)を8週間以上受け、HER2陽性例は抗HER2療法も受けており、手術時に病理学的に腋窩リンパ節転移陰性(ypN0)であった患者を対象とした。

 被験者を、領域リンパ節照射(総線量50 Gy、25分割)を受ける群、またはこれを受けない群に無作為に割り付けた。

 主要評価項目は、浸潤性乳がんの再発または乳がん死のない期間(浸潤性乳がん無再発期間)であり、副次評価項目は、局所・領域リンパ節無再発期間、無遠隔再発期間、無病生存期間、全生存期間などとし、安全性の評価も行った。

副次評価項目にも有意差はない

 1,641例を登録し、照射群に820例、非照射群に821例を割り付けた。全体の年齢中央値は52歳(四分位範囲:44~60)で、40.3%が50歳未満であった。59.9%が臨床的T2腫瘍(腫瘍径2~5cm)、53.2%がホルモン受容体陽性、56.7%がHER2陽性で、79.0%がトリプルネガティブまたはHER2陽性のがんであった。78.2%で病理学的完全奏効(乳房とリンパ節)が得られ、57.7%が乳房の部分切除術、42.3%が全摘術を受け、55.4%でセンチネルリンパ節生検が行われた。

 1,556例(照射群772例、非照射群784例)を主解析の対象とした。追跡期間中央値59.5ヵ月の時点で、主要評価項目のイベントは109件発生した(照射群50件[6.5%]、非照射群59件[7.5%])。領域リンパ節照射は、浸潤性乳がん無再発期間の有意な延長をもたらさなかった(ハザード比[HR]:0.88[95%信頼区間[CI]:0.60~1.28、p=0.51])。

 また、主要評価項目のイベントのない生存率の点推定値は、照射群が92.7%、非照射群は91.8%であった。

 照射群では、局所・領域リンパ節無再発期間(HR:0.57[95%CI:0.21~1.54])、無遠隔再発期間(1.00[0.67~1.51])、無病生存期間(1.06[0.79~1.44])、全生存期間(1.12[0.75~1.68])についても、改善効果はみられなかった。

Grade3の放射線皮膚炎は5.7%

 プロトコールで規定された治療関連の死亡の報告はなく、予期せぬ有害事象は認めなかった。Grade4の有害事象は、照射群で0.5%、非照射群で0.1%に、Grade3はそれぞれ10.0%および6.5%に発現した。最も頻度の高いGrade3の有害事象は放射線皮膚炎で、照射群の5.7%、非照射群でも3.3%に発現した。

 著者は、「本試験は、生検で腋窩リンパ節転移が確認された患者では、術前補助化学療法でypN0に達した場合に、領域リンパ節照射を行っても、5年後の腫瘍学的なアウトカムは改善しないことを示している」「これらの結果は、術前補助化学療法を受けた患者ではリンパ節の病理学的な反応に基づいて領域リンパ節照射の実施を決められるという治療戦略への転換を支持するものである」「長期的なアウトカムの評価のために追跡調査を継続中である」としている。

(医学ライター 菅野 守)


【原著論文はこちら】

Mamounas EP, et al. N Engl J Med. 2025;392:2113-2124.

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術前化療後の乳房温存術、断端陽性で再発リスク3倍~日本人1,813例での研究

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 術前化学療法後に乳房温存療法(乳房温存手術および放射線療法)を受けた乳がん患者において、切除断端陽性例では温存乳房内再発リスクが3.1倍であったことが、1,813例を対象にした日本の多施設共同後ろ向き研究で示された。大阪はびきの医療センターの石飛 真人氏らがBreast Cancer誌オンライン版2025年6月9日号で発表した。

 本研究の対象は、新たにStageI~III乳がんと診断され、術前化学療法後に乳房温存療法を受けた1,813例で、切除断端の状態が温存乳房内再発に与える影響を評価した。

 主な結果は以下のとおり。

・追跡期間中央値8.0年(範囲:0.1~17.0)において、8年温存乳房内無再発生存率は95.9%であった。切除断端陽性例(87.6%)は陰性例(96.2%)と比べて有意に低かった(p=0.010)。
・多変量解析では、切除断端の状態が温存乳房内無再発生存率と有意に関連することが示された(ハザード比:3.1、95%信頼区間:1.3~7.2、p=0.0081)。

 今回の結果は、術前化学療法を受けずに最初から手術を行った症例での結果と一致する結果であった。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Ishitobi M, et al. Breast Cancer. 2025 Jun 9. [Epub ahead of print]

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軽症の免疫チェックポイント阻害薬関連肺臓炎へのステロイド、3週vs.6週(PROTECT)/ASCO2025

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 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が広く使用されるようになり、免疫関連有害事象(irAE)マネジメントの重要性が高まっている。irAEのなかで比較的多いものの1つに、薬剤性肺障害(免疫関連肺臓炎)がある。免疫関連肺臓炎の治療としては、一般的にステロイドが用いられるが、適切な治療期間は明らかになっていない。そこで、免疫関連肺臓炎に対するステロイド治療の期間を検討する無作為化比較試験「PROTECT試験」が本邦で実施された。米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)において、藤本 大智氏(兵庫医科大学)が本試験の結果を報告した。本試験において、ステロイド治療期間を3週間とする治療レジメンは、6週間の治療レジメンに対する非劣性が示されなかった。

 軽症の免疫関連肺臓炎に対する治療について、各種ガイドラインに記載されているステロイド治療期間は無作為化比較試験によって評価されたものではなく、専門家の意見により4~6週間と設定されている。また、軽症の免疫関連肺臓炎は死亡率が低く、長期のステロイド治療はICIの効果を損なう可能性が考えられ、有害事象を増加させる懸念がある。そこで、PROTECT試験では、ステロイド治療期間を3週間に短縮することが可能であるか検討した。

・試験デザイン:国内無作為化比較試験
・対象:ICIを投与中または投与後に、Grade1/2の免疫関連肺臓炎(CTCAE第5版)が認められた患者
・試験群(3週群):プレドニゾロンを3週間かけて漸減・中止 51例
・対照群(6週群):プレドニゾロンを6週間かけて漸減・中止 55例(1例は解析から除外)
・評価項目:
[主要評価項目]治療成功割合(ステロイド治療開始から8週後までSpO2≧90%[room air]、かつステロイドの増量・延長が必要な免疫関連肺臓炎の悪化・再燃なし)
[副次評価項目]ステロイド中止までの期間、全生存期間(OS)、安全性など

 主な結果は以下のとおり。

・全体として男性の割合が高く、3週群76%、6週群85%であった。喫煙歴のある患者も多く、過去喫煙または現喫煙の割合は、それぞれ88%、83%であった。PS0/1/2の割合は、それぞれ27%/65%/8%、20%/72%/7%であった。肺がんの割合は、それぞれ59%、56%であった。
・主要評価項目の治療成功割合は、3週群66.7%、6週群85.2%であり、3週群の6週群に対する非劣性は検証されなかった(群間差:-18.5%、80%信頼区間[CI]:-29.0~-7.9、非劣性のp=0.629[非劣性マージン:-16%])。
・試験全体期間中における肺臓炎の再燃または悪化割合は、3週群41.1%、6週群24.1%であり、3週群が多かった(p=0.046)。
・ステロイド治療中止までの期間中央値は、3週群25日(95%CI:21~30)、6週群41日(同:41~42)であり、有意差はみられなかった(ハザード比[HR]:0.98、95%CI:0.63~1.52)。3週群では肺臓炎の再燃や悪化により、ステロイドの再開や増量に至った患者が多く、両群の生存曲線は交差した。
・OS中央値は両群共に未到達で、有意差はみられなかった(HR:1.03、95%CI:0.46~2.29)。
・Grade3以上の有害事象の発現割合は、3週群12%、6週群24%であり、3週群のほうが少ない傾向にあった。ステロイドの中止や減量に至った有害事象、死亡に至った有害事象はいずれの群にも認められなかった。高血糖(35%vs.50%)、皮膚障害(2%vs.13%)は6週群に多い傾向にあった。
・間質性肺疾患に関する簡易健康状態質問票「K-BILD(King’s Brief Intestinal Lung Disease)質問票」に基づくQOLは、3週群と比べて6週群のほうが良好な傾向にあった。

 本結果について、藤本氏は「ガイドラインに採用されている6週間のステロイド治療レジメンは、エビデンスに基づく免疫関連肺臓炎に対する標準治療であることを支持するものである」とまとめた。

(ケアネット 佐藤 亮)


【参考文献・参考サイトはこちら】

PROTECT試験(jRCT)

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ESR1変異のER+/HER2-進行乳がん、vepdegestrant vs.フルベストラント(VERITAC-2)/NEJM

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 既治療のエストロゲン受容体(ER)陽性・HER2陰性の進行乳がん患者において、フルベストラントと比較してvepdegestrant(ユビキチン・プロテアソーム系を利用した標的タンパク質分解誘導キメラ分子[PROTAC]、経口ER分解薬)は、全患者では無増悪生存期間(PFS)の改善を認めなかったものの、エストロゲン受容体遺伝子(ESR1)変異を有するサブグループではPFSの有意な延長が認められ、安全性プロファイルも良好であることが、フランス・Institut de Cancerologie de l’Ouest Angers-NantesのMario Campone氏らVERITAC-2 Study Groupが実施した「VERITAC-2試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年5月31日号に掲載された。

25ヵ国の非盲検無作為化第III相試験

 VERITAC-2試験は、日本を含む25ヵ国213施設が参加した非盲検無作為化第III相試験であり、2023年3月~2024年10月に患者を登録した(PfizerとArvinasの助成を受けた)。

 年齢18歳以上、外科的切除や放射線治療の適応がないER陽性、HER2陰性の局所・領域再発または転移を有する乳がんで、サイクリン依存性キナーゼ阻害薬(CDK4/6阻害薬)療法1ライン+内分泌療法1ライン(1ラインの追加まで可)の治療歴のある患者を対象とした。

 被験者を、vepdegestrant(200mg、28日を1サイクルとし、毎日1回)を経口投与する群、またはフルベストラント(500mg、1サイクル目は1および15日目、2サイクル目以降は1日目)を筋肉内注射する群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。

 主要評価項目はPFSとし、ESR1変異を有する患者と全患者について、盲検下独立中央判定で評価した。

OS中央値は両群とも未到達

 624例を登録し、vepdegestrant群に313例、フルベストラント群に311例を割り付けた。全体の99.5%が女性で、年齢中央値は60.0歳であり、63.1%が臓器障害を伴う内臓転移を有し、全例が進行または転移を認める病変に対する治療を受けており、前治療ライン数は1が79.0%、2が20.4%であった。また、270例(43.3%)がESR1変異を有していた(vepdegestrant群136例、フルベストラント134例)。

ESR1変異例におけるPFS中央値は、フルベストラント群が2.1ヵ月(95%信頼区間[CI]:1.9~3.5)であったのに対し、vepdegestrant群は5.0ヵ月(3.7~7.4)と有意に延長した(ハザード比[HR]:0.58[95%CI:0.43~0.78]、p<0.001)。

 一方、全患者のPFS中央値は、vepdegestrant群が3.8ヵ月(95%CI:3.7~5.3)、フルベストラント群は3.6ヵ月(2.6~4.0)であり、両群間に有意な差を認めなかった(HR:0.83[95%CI:0.69~1.01]、p=0.07)。

 全生存期間(OS)中央値は、両群とも未到達であった。また、盲検下独立中央判定によるESR1変異例の奏効率(完全奏効、部分奏効)は、vepdegestrant群18.6%、フルベストラント群4.0%であり、試験担当医師判定の値とほぼ一致していた。

Grade3/4の有害事象23.4%、投与中止2.9%

 vepdegestrant群で頻度の高い有害事象は、疲労感(26.6%)、ALT値上昇(14.4%)、AST値上昇(14.4%)、悪心(13.5%)、貧血(12.2%)であり、ほとんどがGrade1または2であった。消化器関連有害事象の発現率は低かった。

 Grade3/4の有害事象は、vepdegestrant群で23.4%、フルベストラント群で17.6%に発現し、このうち最も頻度が高かったのは、それぞれ好中球減少(1.9%)と低カリウム血症(1.9%)、および貧血(3.3%)とAST値上昇(2.6%)であった。担当医によって治療関連と判定された有害事象は、vepdegestrant群で56.7%、フルベストラント群で40.4%に発現し、このうちGrade3/4はそれぞれ7.7%および2.9%だった。

 重篤な有害事象は、vepdegestrant群で10.3%、フルベストラント群で9.1%に発現した。有害事象による死亡は、vepdegestrant群で8例、フルベストラント群で2例にみられたが、担当医が治療関連と判定したものはなかった。また、QT延長を、それぞれ9.9%および1.3%に認めたが、臨床的続発症は発生しなかった。恒久的な投与中止に至った有害事象は、それぞれ2.9%および0.7%に発現した。

 著者は、「本試験の知見は、現在、治療選択肢が限られているこれらの患者において、異なる作用機序と、良好な安全性プロファイルを有する新たな内分泌療法としてのvepdegestrantを支持するものである」としている。

(医学ライター 菅野 守)


【原著論文はこちら】

Campone M, et al. N Engl J Med. 2025 May 31. [Epub ahead of print]

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HER2+早期乳がん術前療法、de-escalation戦略3試験の統合解析結果/ASCO2025

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 HER2陽性(HER2+)早期乳がんに対し、パクリタキセル+抗HER2抗体薬による12週の術前補助療法は有効性と忍容性に優れ、5年生存率も極めて良好であった。さらにStageI~IIの患者においては、ほかの臨床的・分子的因子を考慮したうえで、化学療法省略もしくは抗体薬物複合体(ADC)による治療を考慮できる可能性が示唆された。de-escalation戦略を検討したWest German Study Group(WSG)による3件の無作為化比較試験(ADAPT-HR-/HER2+試験、ADAPT-HR+/HER2+試験、TP-II試験)の統合解析結果を、ドイツ・ハンブルグ大学のMonika Karla Graeser氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)で発表した。

<各試験の概要>

■ADAPT-HR-/HER2+試験(134例)
遠隔転移のないHR-/HER2+乳がん患者を対象に、12週間の術前補助療法としてトラスツズマブ+ペルツズマブ(T+P群)、トラスツズマブ+ペルツズマブ+パクリタキセル(T+P+pac群)に5:2の割合で無作為に割り付け
■ADAPT-HR+/HER2+試験(375例)
遠隔転移のないHR+/HER2+乳がん患者を対象に、12週間の術前補助療法としてトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1群)、T-DM1+内分泌療法(T-DM1+ET群)、T+ET群に1:1:1の割合で無作為に割り付け
■TP-II試験(207例)
遠隔転移のないHR+/HER2+乳がん患者を対象に、12週間の術前補助療法としてT+P+ET群、T+P+pac群に1:1の割合で無作為に割り付け
 主要評価項目はいずれも病理学的完全奏効(pCR)で、生存成績は副次評価項目であった。

 主な結果は以下のとおり。

・3つの試験から計713例のデータが集められ、術前全身化学療法あり(sCTx群)149例、術前全身化学療法なし/ADC(sCTx-free/ADC群)564例であった。
・ベースラインの患者特性は、>50歳がsCTx群59.7%vs.sCTx-free/ADC群52.7%、StageI が74.5%vs.76.6%、HR+が71.8%vs.84.3%、cT2~4が56.4%vs.55.1%、cN1~3が28.2%vs.32.1%、Grade3が55.7%vs.74.3%であった。
・術後pCR達成症例がsCTx群66.4%vs.sCTx-free/ADC群31.4%、術後化学療法ありが47.1%vs.88.4%であった。
・追跡期間中央値60.7ヵ月における生存成績は以下のとおり。
[5年無浸潤疾患生存(iDFS)率]
sCTx群96.4%vs.sCTx-free/ADC群88.2%(ハザード比[HR]:0.56、95%信頼区間[CI]:0.29~1.08、p=0. 083)
[5年全生存(OS)率]
97.8%vs.96.8%(HR:0.88、95%CI:0.36~2.11、p=0.775)
・pCR達成状況別にみた生存成績は以下のとおり。
[5年iDFS率]
-pCR例:sCTx群97.8%vs.sCTx-free/ADC群93.7%(HR:0.76、95%CI:0.27~2.12、p=0.609)
-non-pCR例:93.3%vs.85.5%(HR:0.77、95%CI:0.31~1.94、p=0.587)
[5年OS率]
-pCR例:98.9%vs.98.7%(HR:1.10、95%CI:0.28~4.32、p=0.895)
-non-pCR例:95.5%vs.95.8%(HR:1.49、95%CI:0.44~5.03、p=0.523)
・iDFSと関連する臨床的因子を検討した多変量解析の結果、sCTx群ではpCR([vs.non- pCR]HR:0.14、p=0.013)、sCTx-free/ADC群ではpCR([vs.non- pCR]HR:0.51、p=0.026)、cN1([vs.cN0]HR:2.31、p<0.001)と有意に関連していた。
・sCTx-free/ADC群における、pCR後の5年iDFS率に対する術後化学療法実施の有意なベネフィットは確認されなかった(5年iDFS率:術後化学療法あり94.0%vs.なし93.2%、HR:1.25、95%CI:0.39~4.00、p=0.712)。

 Graeser氏は、化学療法を省略した術前補助療法群において、pCR達成例で良好な生存成績が得られたことは、さらなるde-escalation戦略検討の基盤となるとし、術前補助療法としてのトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)を評価する現在進行中のADAPT-HER2-IV試験への期待を示した。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


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