HR+/HER2-進行乳がん、ESR1変異検査を行うタイミングは?(PADA-1)/ESMO BREAST 2025

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 第III相PADA-1試験では、ホルモン受容体陽性(HR+)/HER2陰性(HER2-)進行乳がんに対する1次治療としてアロマターゼ阻害薬とパルボシクリブの併用療法を受けた患者のうち、疾患進行前に血液中で検出されたESR1変異を有する患者において、フルベストラントとパルボシクリブ併用療法への早期切り替えの臨床的有用性が示されている。フランス・キュリー研究所のFrancois Clement Bidard氏は、欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2025、5月15~17日)で同試験の2次解析結果を発表し、血中ESR1変異累積発現率は約40%で、その検出時期は一様でなく、治療開始後6ヵ月以内の検出例は少数であり、3年以降は減少することが確認された。

 本研究では、アロマターゼ阻害薬とパルボシクリブの併用による1次治療中の、転移を有するHR+/HER2-乳がん患者1,017例が対象とされた。組み入れ時、1ヵ月後、その後2ヵ月後おきにリキッドバイオプシーで採取した血中循環腫瘍DNA(ctDNA)からdroplet digital PCR(ddPCR)を用いてESR1変異の状況がモニタリングされ、以下の2群に分類された:
・疾患進行が認められたが血中ESR1変異を認めなかった395例
・画像診断による病勢進行の有無にかかわらず血中ESR1変異上昇が認められた283例
 ESR1変異発現の関連因子を評価するために、2項ロジスティック回帰分析を用いた。

 主な結果は以下のとおり。

・PADA-1試験における血中ESR1変異の累積発現率は、評価可能な患者の41.7%であった。
・血中ESR1変異の検出には経時的なばらつきがあり、アロマターゼ阻害薬とパルボシクリブの投与開始後6ヵ月間はほとんど検出されず、また投与開始後3年経過すると発現率は減少した。
・以下のベースライン因子は、疾患進行が認められたが血中ESR1変異を認めなかった症例との比較において、血中ESR1変異上昇と独立して関連が認められた:
骨転移あり(骨転移のみのオッズ比[OR]:2.7[95%信頼区間:1.5~4.8]、骨転移+他臓器転移のOR:2.1[1.3~3.4])
エストロゲン受容体発現の高さ([10%増加ごとに]OR:1.1[1.01~1.3])
年齢の若さ([10歳若いごとに]OR:1.3[1.1~1.45])
LDH高値(OR:1.6[1.1~2.3])

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【参考文献・参考サイトはこちら】

PADA-1試験(ClinicalTrials.gov)

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【追悼】変わる乳がん診療と乳腺外科医の役割~中村 清吾氏に聞く

 昭和医科大学の中村 清吾氏が2025年5月9日、逝去されました。同氏には「乳がん診療Front line」の監修を立ち上げの2019年から務めていただき、いつも温かく的確なご助言を賜りました。謹んで哀悼の意を表します。
 本動画は2025年4月11日に収録しましたが、公開準備中に訃報に接したため、ご家族にご承諾いただき公開いたしました。

 乳房切除+腋窩郭清のメスでがんを治そうとする時代から、全身療法の時代となり非手術の可能性を追求する時代となっています。中村 清吾氏が、自身の医師生活43年と乳がん診療の変遷を振り返るとともに、最新のNCCNガイドラインでHBOCから表記が変更されたHBOPPC診療の最新情報について解説します。

日本に国際標準の乳がん診療を導入するために~医師生活43年と実践


HBOCからHBOPPCへ~最新情報と今後の展望


 中村 清吾 氏ご出演動画

【手技動画】中村清吾|右乳房温存術 センチネルリンパ節生検

【手技動画】中村清吾|(左側) センチネルリンパ節生検・皮下乳腺全摘術(右側) 乳房温存手術後の残存乳腺切除術・エキスパンダー挿入術

なぜハワイにNCI指定がんセンターがあるのか?「上野 直人氏 / 中村 清吾氏」

乳がんの発症経過を解明、予防や治療への活用は「小川 誠司氏 / 中村 清吾氏」

デジタルパソロジーの現在と今後の展望「飯塚 統氏 / 中村 清吾氏」

臨床応用近づく 乳房超音波診断へのAIの導入~展望と課題「林田 哲氏 / 中村 清吾氏」

乳がん診療における人工知能の活用について「中村 清吾氏 / 高野 敦司氏」

HBOC予防的切除の保険適応後、医師に求められている役割


CT検査による将来のがんリスク、飲酒や過体重と同程度?

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 米国では、年間6,200万人の患者に対して約9,300万件のCT検査が行われている。CT検査は診断に役立つが、被曝によってがんリスクを高める可能性がある。2009年の分析では、2007年の米国におけるCTの使用により将来約2万9,000件のがんが発症するとの推定が報告されたが、2007年以降、年間に実施されるCT検査数は30%以上増加しているという。

 CT使用に関連する将来的ながん発症率の予測値を更新するため、カリフォルニア大学サンフランシスコ校疫学・生物統計学部のRebecca Smith-Bindman氏らは、2018年1月~2020年12月にカリフォルニア大学国際CT線量レジストリの検査データ12万1,212件を使用し、リスクモデルを用いた分析を実行した。放射線シミュレーションで18の臓器の線量を推定し、国立がん研究所の放射線リスク評価ツールを使用して将来的な放射線誘発がんリスクを予測した。データ解析は2023年10月~2024年10月に実施された。JAMA Internal Medicine誌オンライン版2025年4月14日号掲載の報告。

 主な結果は以下のとおり。

・米国において2023年に推定6,151万人が9,300万件のCT検査を受けた。そのうち257万人(4.2%)が小児、5,894万人(95.8%)が成人、3,260万人(53.0%)が女性だった。
・これらの検査から、約10万3,000件の放射線誘発がんの発症が予測された。放射線誘発がんリスクは小児と青少年で高かったものの、成人におけるCT検査の活用率の高さによって、放射線誘発がん症例のほとんど(9万3,000件、91%)が成人によるものだった。
・がん種別で多かったがんは、肺がん(2万2,400件)、大腸がん(8,700件)、白血病(7,900件)、膀胱がん(7,100件)で、女性患者では乳がんが2番目に多かった(5,700件)。
・検査部位別では、成人では、腹部および骨盤CT検査によるものが最多(3万7,500件、37%)で、次いで胸部CT検査(2万1,500件、21%)が続いた。小児においては頭部CT検査が最多だった(53%)。
・CT検査1回当たりのがんリスクは1歳未満の小児で最も高く、たとえば15~17歳の女子のがんリスクは1,000回当たり2件だったのに対し、1歳未満の女子では1,000回当たり20件だった。
・小児は検査1回当たりのリスクが高かったものの、高齢者はCT検査の実施頻度が高く、全体では成人のリスクが高かった。たとえば、モデル予測では50~59歳の成人におけるCT検査の実施頻度ががん発生予測数(女性1万400件、男性9,300件)と最も高い相関関係にあったことが示された。

 研究者らは「本研究では、現在のCT利用状況と放射線線量レベルに基づいて、2023年のCT検査が被曝患者の生涯にわたって約10万3,000件の将来のがんを引き起こすと推定された。現在の診療慣行が継続された場合、CT関連がんは最終的に年間新規がん診断の5%を占める可能性があり、そうなるとCTはアルコール摂取(5.4%)や体重過多(7.6%)といったほかの重要なリスク要因と同等になるだろう」とした。

 一方、研究に関連しないほかの専門家からは「この研究は放射線被曝によるがんリスクの推定モデルであり、特定のCTスキャンと個々のがん症例との直接的な因果関係を示すものではないことに注意が必要だ」、「10万人のがん患者増という数字は憂慮すべきものだが、個人の生涯におけるがん発症リスクとしてはわずかな追加リスクに過ぎない」、「この結果は医師が必要と判断した場合にもCT検査を避けるべきだという意味ではない」といったコメントが寄せられている1)

(ケアネット 杉崎 真名)


【原著論文はこちら】

Smith-Bindman R, et al. JAMA Intern Med. 2025 Apr 14.[Epub ahead of print]

【参考文献・参考サイトはこちら】

1)As CT Use Rises, So Does Projected Risk for Future Cancers/Medscape

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通院費増で遺伝子変異に関連した治験への参加率が低下、制度拡充が必要/国立がん研究センター

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 がんの臨床試験(治験)では、地域の医療機関が参加条件に該当した患者を治験実施施設に紹介することが一般的だ。患者は自宅から離れた治験実施施設に通わねばならないケースも多く、時間的・経済的負担が生じる。国立がん研究センター中央病院 先端医療科の上原 悠治氏、小山 隆文氏らは、施設までの通院費と治験の参加可能性が関連するかを検討する後ろ向きコホート研究を行った。

 2020~22年に、がん遺伝子パネル検査後に国立がん研究センター中央病院に治験目的で紹介された進行固形腫瘍患者1,127例を対象に、通院費と治験参加状況の関連を調査した。主要評価項目は遺伝子変異に関連した治験への参加、副次評価項目は遺伝子変異とは関連しない治験への参加だった。多変量ロジスティック回帰分析により、移動費用と治験参加率との関連を評価した。本研究の結果はESMO Real World Data and Digital Oncology誌オンライン版2025年2月25日号に掲載された。

 主な結果は以下のとおり。

・1,127例のうち、127例(11%)は遺伝子変異に関連した治験に参加し、114例(10%)は遺伝子変異とは関連しない治験に参加した。
・通院費(公共交通機関の往復料金)の中央値は17ドル(約2,000円:2022年、研究開始時の為替レート[1ドル=120円]で計算)だった。多変量解析の結果、通院費が100ドル(約1万2,000円)以上の患者は、100ドル未満の患者と比較して、遺伝子変異に関連する治験に参加する割合が有意に低いことが示された(7%vs.13%、オッズ比[OR]:0.51、95%信頼区間[CI]:0.30~0.88)。
・遺伝子変異に関連する治験への参加する割合は、通院費が100ドル未満、100~200ドル未満、200ドル以上と増加するにつれ低下した(13%vs.9%vs.6%、OR:0.70、95%CI:0.28~1.52、OR:0.46、95%CI:0.22~0.85)。
・通院費は遺伝子変異とは関連しない治験へ参加する割合には影響を与えなかった。遺伝子変異に関連する治験の参加者は初回診察予約から治験参加までの期間の中央値が、遺伝子変異とは関連しない治験の参加者よりも短かった(21日vs.31日、p=0.006)。

 この結果を受けた上原氏のコメントは以下のとおり。

 「現在、国立がん研究センターでは、治験参加者への『被験者負担軽減費』として通院の負担を軽減する制度がある。しかし、当制度は参加者の居住地にかかわらず一律で、遠方に住む参加者は交通費の負担が重くなる傾向にある。本邦で治験を実施している多くのがんセンターや大学病院でも、こうした負担軽減費の相場は1回の通院あたり7,000~1万円程度となっており、通院費が遠方から治験を検討している患者の大きな負担となっていることが予想された。

 米国の場合、2018年に出た米国食品医薬品局(FDA)のガイダンス1)で、通院費、宿泊費等の合理的な費用を支給することは治験参加者に対して不当な影響を及ばさない(=治験に参加する強い誘引にならない)旨が示されており、全額支給を行う医療機関も増えてきている。同様の制度を本邦で検討する際、実際に高額な通院費が治験に入る際の障壁になっていないかどうか検討するために計画したのが本研究だ。

 結果として、がんの遺伝子変異に関連する一治験において、通院費負担が大きくなるほど参加する割合が低下することが確認された。遺伝子変異とは関連しない一治験では傾向が見出されなかったのは、遺伝子変異に関連する治験に比べて治験参加までの期間が長く、その間に病態が進行して参加できなくなる、などの背景があったと考察している。

 本邦における治験へのアクセスの地域格差を解消するため、この結果をもとに、参加者の居住地に応じた被験者負担を軽減する制度の必要性が感じられた。今後は、患者個々の社会的因子を考慮した通院費の負担感など、より詳細な因子を調査することも検討している。また、オンライン診療などを活用する分散型臨床試験(DCT)の導入が別のアプローチの解決策となる可能性がある。」

(ケアネット 杉崎 真名)


【参考文献・参考サイトはこちら】

1)Payment and Reimbursement to Research Subjects/FDA

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カピバセルチブ使用時の高血糖・糖尿病ケトアシドーシス発現についての注意喚起/日本糖尿病学会

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 「内分泌療法後に増悪したPIK3CAAKT1またはPTEN遺伝子変異を有するホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がん」を適応症として2024年5月に発売された経口AKT阻害薬カピバセルチブについて、日本糖尿病学会では2025年4月15日、高血糖・糖尿病ケトアシドーシス(DKA)発現についての注意喚起1)を発出した。以下に抜粋するとともに、これを受けて同日発表された日本乳癌学会からの見解2)についても紹介する。

 インスリンシグナル伝達のマスターレギュレーターであるAKTを阻害するカピバセルチブにより、インスリン抵抗性が誘導され高血糖を発現するリスクが想定される。実際に臨床試験(CAPItello-291試験)3)では有害事象として16.9%に高血糖を認めており、わが国における市販直後調査(2024月5月22日~2024年11月21日)でも高血糖関連事象が33例報告され、そのうち1例がDKAにより死亡している(推定使用患者数約350例)。

 臨床成績を踏まえ、適正使用ガイド4)においては、投与開始後1ヵ月間は2週間ごと、その後も1ヵ月ごとの空腹時血糖値の測定、3ヵ月ごとのHbA1cの測定が推奨されていた。しかしながらとくに注意すべき点として、投与開始1日目から高血糖の発現の可能性があること(高血糖発現の中央値:15日、範囲:1~367日)、一部の症例でDKAを発症すること、また、国内市販後ではもともと非糖尿病者であったにもかかわらず、カピバセルチブ投与を開始後、DKAを発症し、大量のインスリン(100単位/時間)投与によっても血糖マネジメントが不十分で死亡に至った症例が報告されていることが挙げられる

 CAPItello-291試験では、1型糖尿病またはインスリンの投与を必要とする2型糖尿病患者およびHbA1c 8.0%以上の患者は除外されていたことから、インスリン分泌が高度に低下した症例へのカピバセルチブ投与の際には、投与初日からのより綿密な血糖値などのモニタリング、食欲不振などの消化器症状を含めた問診および診察、ならびに原疾患治療にあたる医師と糖尿病を専門とする医師(不在の場合は担当内科医)の適切な連携が重要であると思われる。急激な血糖値上昇のリスクや大量のインスリン投与を要する可能性も想定し、診療にあたっていただきたい。

 日本糖尿病学会からの注意喚起発出を受け、日本乳癌学会からも補足事項として見解が発表された。補足事項では、上記下線部分の症例に加え、同様にDKAを発症した症例がもう1症例あるとし、これらの症例はそれぞれ再発病変に対する10次治療、8次治療としてカピバセルチブが投与されているとした。乳がん診療医においては、CAPItello-291試験の適応基準(主に2次治療から3次治療での使用)に沿った治療を行うよう注意喚起するとともに、以下の見解を示している。

・CAPItello-291試験の適応基準を守った場合でも高血糖やDKAが発生する可能性はあり、注意深い経過観察が必要であることには変わりないが、その場合の検査スケジュールは推奨されているものでよいと思われる。
・やむを得ずCAPItello-291試験の適応基準外の投与となった場合には、検査や診察を含め厳重な経過観察が必要。
・また、高血糖に関してGrade2以上の有害事象が発生した場合は、関係各科と緊密に連絡をとりながら厳重な経過観察が必要。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【参考文献・参考サイトはこちら】

1)日本糖尿病学会:AKT阻害薬カピバセルチブ使用時の高血糖・糖尿病ケトアシドーシス発現についての注意喚起

2)日本乳癌学会:日本糖尿病学会からの注意喚起「AKT 阻害薬カピバセルチブ使用時の高血糖・糖尿病ケトアシドーシス発現について」

3)CAPItello-291試験(ClinicalTrials.gov)

4)アストラゼネカ医療関係者向けサイト「安全性情報(トルカプ)」

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日本の男性乳がんの生存率、女性乳がんと比較~12府県のがん登録データ

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 男性乳がんと女性乳がんの予後を比較した研究の結果は一貫しておらず、わが国において男性乳がんと女性乳がんの予後を大規模集団で比較した研究はほとんどない。今回、愛知県がんセンターのDaisy Sibale Mojoo氏らが12府県のがん登録データを用いて検討した結果、男女の乳がんの純生存率が同程度であることが示された。Cancer Science誌オンライン版2025年3月3日号に掲載。

 本研究では、宮城県、山形県、栃木県、新潟県、福井県、愛知県、滋賀県、大阪府、鳥取県、山口県、長崎県、熊本県において1993~2011年に診断された乳がん18万1,540例(うち男性1,058例、0.6%)を解析した。5年および10年の純生存率(net survival:がん以外の死亡がなかったと仮定した場合の生存率)を推定し、性別、期間(1993〜97年、1998〜2002年、2003〜06年、2007〜11年)、年齢(50歳未満、50〜69歳、70〜99歳)、病期、組織型で層別化した。過剰ハザード比(EHR)は、期間、年齢、病期、組織型で調整した。これらの因子間の異質性の評価にはコクランのQ検定を用いた。

 主な結果は以下のとおり。

・男性乳がん全体の5年および10年純生存率推定値はそれぞれ90.7%(95%信頼区間[CI]:86.3~93.7)および83.7%(同:72.2~90.8)、女性乳がん全体ではそれぞれ88.3%(同:88.1~88.5)および79.1%(同:78.7~79.4)であった。
・男性乳がんの生存は女性乳がんと同程度であり、EHRは5年生存で0.88(95%CI:0.70~1.09)、10年生存で0.86(同:0.69~1.07)であった。
・異質性の分析では、これらの層において生存率に有意な性差は認められなかった。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Sibale Mojoo D, et al. Cancer Sci. 2025 Mar 31. [Epub ahead of print]

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StageII/IIIのHR+HER2-乳がんの術後内分泌療法後、リアルワールドでの再発リスクと治療成績

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 術後内分泌療法を受けたStageII/IIIのHR+HER2-早期乳がん患者における再発リスクをリアルワールドで検討した米国・Sarah Cannon Research InstituteのJoyce O’Shaughnessy氏らの後ろ向き研究の結果、リンパ節転移陰性患者も含め、再発リスクが依然として高いままであることが示された。Breast誌2025年6月号に掲載。

 本研究では、ConcertAI Patient360データベース(1995年1月~2021年4月)を用いて、手術を受け術後内分泌療法を受けた18歳以上のStageII/IIIのHR+HER2-早期乳がん患者を後ろ向きに解析した。再発リスクは、改良されたSTEEP基準による無浸潤疾患生存(iDFS)を用いて評価した。サブ解析で、術後内分泌療法として非ステロイド性アロマターゼ阻害薬(NSAI)を投与された患者とタモキシフェンを投与された患者のiDFS、遠隔無病生存、全生存を評価した。なお、CDK4/6阻害薬については、アベマシクリブが術後補助療法に承認されたのが2021年10月であり、本解析のデータベースのカットオフ日以後のため、投与された患者はいなかった。

 主な結果は以下のとおり。

・全解析コホート(3,133例)において、iDFSイベントリスクは5年時点で26.1%であり、10年時点で45.0%に上昇した。
・StageIIの患者の5年時点および10年時点のiDFSイベントリスクは22.7%および40.5%、StageIIIの患者では40.4%および62.9%であった。また、リンパ節転移陰性患者では22.1%および36.9%、リンパ節転移陽性患者では28.9%および49.4%であった。
・サブ解析において、NSAI±卵巣機能抑制療法がタモキシフェン±卵巣機能抑制療法に比べてiDFSの改善が認められ(ハザード比:0.83、95%信頼区間:0.69~0.98、p=0.031)、この傾向は閉経状態に関係なくみられた。

 著者らは、「このリアルワールドエビデンス研究は、StageIIまたはIIIのHR+HER2-早期乳がん患者の再発リスクが、標準的な術後補助全身療法にもかかわらず、リンパ節転移陰性患者を含めて容認できないほど高いままであることを示しており、この患者集団に対する新たな治療戦略の開発を正当化する」と結論している。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

O’Shaughnessy J, et al. Breast. 2025;81:104437.

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乳がん患者と医師の間に治験情報に関する認識ギャップ/ケアネット・イシュラン共同調査

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 ケアネットとイシュランが共同で実施した、乳がん患者(134人)と乳がん治療に携わる乳腺外科医(62人)を対象にした「治験に関する意識調査(インターネット調査)」の結果、患者側は医師からの治験の提案を期待している一方で、医師は日本国内の治験情報を十分に入手できていないと認識していることが明らかになった。患者の約6割が自身の主治医が国内の治験情報をよく知っていると思うと回答したのに対し、治験情報をよく知っていると回答した医師は1割未満にとどまった。

【調査概要】
患者調査
調査期間:2025年1月31日〜2月8日
調査対象:イシュランメルマガ会員の乳がん患者
回答数:134人
医師調査
調査期間:2025年1月22日〜1月28日
調査対象:ケアネット会員医師(200床以上の医療機関に所属している乳腺外科医)
回答数:62人

 主な結果は以下のとおり。

患者調査
・治験とは何か知っているかを聞いた質問に対し、約74%が知っていると回答した(「よく知っている」が9.0%、「少し知っている」が64.9%)。
・「治験への参加経験」について聞いた質問では、「実際に治験に参加したことがある」が3.7%、「実際に参加しようとしたが、条件が合わずできなかった」が6.0%、「参加を検討するために、医療者に相談したことはある」が2.2%、「参加を考えたが、医療者に相談したことはない」が9.7%であった。
・「日本で行われている乳がんの治験に関する情報」について、自身の主治医がどの程度知っていると思うか聞いた質問では、約63%が主治医はよく知っていると思うと回答した(「ほぼすべて知っていると思う」が37.3%、「3/4くらいは知っていると思う」が25.4%)。
・「治験情報を主治医経由で知った場合の治験への参加意向」を聞いた質問では、約78%が検討すると回答した(「必ず検討する」が30.6%、「まあ検討する」が47.8%)。
・日本で行われている治験に関する情報へのニーズについて聞いた質問では、約81%が情報が欲しいと回答した(「ぜひ欲しい」が46.3%、「まあ欲しい」が34.3%)。

医師調査
・治験への参加経験を聞いた質問では、「治験責任医師として参加したことがある」が11.3%、「治験分担医師として参加したことがある」が61.3%、「協力施設として患者リクルーティングを行ったことがある」が29.0%であった。
・「日本で行われている乳がんの治験に関する情報」について、どの程度知っているか聞いた質問では、よく知っていると回答した医師は約5%にとどまった(「ほぼすべて知っている」が0%、「3/4くらいは知っている」が4.8%)。一方で、「ほぼ知らない」と答えた医師が41.9%と最も多かった。
・自身が診療している患者の病状に合いそうな治験が行われていることを知った場合、患者に提案するかを聞いた質問では、約84%が提案すると回答した(「必ず提案をする」が17.7%、「まあ提案をする」が66.1%)。
・日本で行われている治験情報についてどの程度知りたいと思うか聞いた質問では、「全国の治験情報が知りたい」という回答が62.9%と最も多く、「自分の都道府県の治験情報は知りたい」が22.6%と続いた。
・(治験実施施設が自身の所属施設とは別の場合を前提として)患者から治験参加について相談があった場合にどのように対応するか聞いた質問では、約90%が前向きに対応すると回答した(「必ず前向きに対応する」が43.5%、「まあ前向きに対応する」が46.8%)。

(ケアネット)


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HR+早期乳がんにおける年齢と内分泌療法の中断期間、再発リスクの関係/JCO

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 ホルモン受容体陽性(HR+)早期乳がんにおいて、内分泌療法(ET)のアドヒアランス欠如は、若年患者の生存率の低さの潜在的な原因の1つと考えられるが、ETのアドヒアランス改善が生存にもたらすベネフィットは明確ではない。フランス・パリ・シテ大学のElise Dumas氏らによるフランスの全国コホート研究の結果、とくに34歳以下の患者において厳格なET継続戦略によって得られる生存ベネフィットが示され、ETのアドヒアランス改善のための個別化戦略の必要性が示唆された。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2025年3月5日号への報告。

 本研究では、フランス国民健康データシステムからのデータとtarget trial emulationの手法を用いて、3つのET継続戦略(治療中断期間として30日、90日、または180日以下を許容)について、5年無病生存率(DFS)を観察された(自然な)ET継続群と比較した。

 主な結果は以下のとおり。

・計12万1,601例のHR+早期乳がん患者が解析に含まれ、うち29.8%が診断時に50歳未満であった。
・若年患者は高齢患者よりも DFS が低く、ETを中断する可能性が高かった。
・34歳以下の患者では、厳格な ET継続戦略(中断≦30日)により、観察されたET継続群と比較して 5 年 DFS 率が 74.5% から 78.8%に改善した(4.3%ポイント[95%信頼区間[CI]:2.6 ~7.2])。
・≦90日および≦180日の中断を許容するET継続戦略では、34歳以下の患者における5年DFSベネフィットはそれぞれ1.3%ポイント(95%CI:0.2~3.7)および1.0%ポイント(95%CI:-0.2~3.4)であった。
・対照的に、50歳以上の患者におけるET継続戦略によるDFSベネフィットは、その中断期間にかかわらず、観察されたET継続群と比較して1.9%ポイント以下であった。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【原著論文はこちら】

Dumas E, et al. J Clin Oncol. 2025 Mar 5. [Epub ahead of print]

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乳がんサバイバーは多くの非がん疾患リスクが上昇/筑波大

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 日本の乳がんサバイバーと年齢をマッチさせた一般集団における、がん以外の疾患の発症リスクを調査した結果、乳がんサバイバーは心不全、心房細動、骨折、消化管出血、肺炎、尿路感染症、不安・うつの発症リスクが高く、それらの疾患の多くは乳がんの診断から1年以内に発症するリスクが高いことを、筑波大学の河村 千登星氏らが明らかにした。Lancet Regional Health-Western Pacific誌2025年3月号掲載の報告。

 近年、乳がんの生存率は向上しており、乳がんサバイバーの数も世界的に増加している。乳がんそのものの治療や経過観察に加え、乳がん以外の全般的な健康状態に対する関心も高まっており、欧米の研究では、乳がんサバイバーは心不全や骨折、不安・うつなどを発症するリスクが高いことが報告されている。しかし、日本を含むアジアからの研究は少なく、消化管出血や感染症などの頻度が比較的高くて生命に関連する疾患については世界的にも研究されていない。そこで研究グループは、日本の乳がんサバイバーと一般集団を比較して、がん以外の12種類の代表的な疾患の発症リスクを調査した。

 日本国内の企業の従業員とその家族を対象とするJMDCデータベースを用いて、2005年1月~2019年12月に登録された18~74歳の女性の乳がんサバイバーと、同年齢の乳がんではない対照者を1:4の割合でマッチングさせた。乳がんサバイバーは上記期間に乳がんと診断され、1年以内に手術を受けた患者であった。転移/再発乳がん、肉腫、悪性葉状腫瘍の患者は除外した。2つのグループ間で、6つの心血管系疾患(心筋梗塞、心不全、心房細動、脳梗塞、頭蓋内出血、肺塞栓症)と6つの非心血管系疾患(骨粗鬆症性骨折、その他の骨折[肋骨骨折など]、消化管出血、肺炎、尿路感染症、不安・うつ)の発症リスクを比較した。

 主な結果は以下のとおり。

・解析対象は、乳がんサバイバー2万4,017例と、乳がんではない同年齢の女性9万6,068例(対照群)であった。平均年齢は両群ともに50.5(SD 8.7)歳であった。
・乳がんサバイバー群は、対照群と比較して、心不全(調整ハザード比[aHR]:3.99[95%信頼区間[CI]:2.58~6.16])、消化管出血(3.55[3.10〜4.06])、不安・うつ(3.06[2.86〜3.28])、肺炎(2.69[2.47~2.94])、心房細動(1.83[1.40~2.40])、その他の骨折(1.82[1.65~2.01])、尿路感染症(1.68[1.60~1.77])、骨粗鬆症性骨折(1.63[1.38~1.93])の発症リスクが高かった。
・多くの疾患の発症リスクは、乳がんの診断から1年未満のほうが1年以降(1~10年)よりも高かった。とくに不安・うつは顕著で、1年未満のaHRが5.98(95%CI:5.43~6.60)、1年以降のaHRが1.48(1.34~1.63)であった。骨折リスクは診断から1年以降のほうが高かった。
・初期治療のレジメン別では、アントラサイクリン系およびタキサン系で治療したグループでは、骨粗鬆症性骨折、その他の骨折、消化管出血、肺炎、不安・うつの発症リスクが高い傾向にあり、アントラサイクリン系および抗HER2薬で治療したグループでは心不全のリスクが高い傾向にあった。アロマターゼ阻害薬で治療したグループでは骨粗鬆症性骨折、消化管出血の発症リスクが高い傾向にあった。

 これらの結果より、研究グループは「医療者と患者双方がこれらの疾患のリスクを理解し、検診、予防、早期治療につなげることが重要である」とまとめた。

(ケアネット 森)


【原著論文はこちら】

Kawamura C, et al. Lancet Reg Health West Pac. 2025;56:101519.

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