リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その1【「実践的」臨床研究入門】第18回

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本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

 前回は、個別の論文(1次情報)を調べるときによく用いられる代表的な検索データベースの違いについて解説しました。今回からは、学術誌、個別の論文、論文著者の影響力や評価の指標の違いについて解説します。

学術誌の影響力の指標

 皆さんご存知のインパクトファクター(Impact factor:IF)は、個別の論文ではなく、その論文が掲載された学術誌の影響力の指標です。IFの定義をあらためて紹介すると、「対象年の前2年間に、当該学術誌に掲載された論文の対象年の平均引用回数」となります。少しわかりにくいと思いますので、下記に当該学術誌の対象年(2020年)のIFの計算式を示します。

・A=当該学術誌が2018、2019年に掲載した論文数                          ・B=当該学術誌の2018年、2019年の掲載論文が2020年に引用された回数                         ・当該学術誌のIF(2020年)=B÷A

 前回、代表的な論文検索データベースのひとつとして紹介したWeb of Scienceは IFが付与されている学術誌をすべて収載しています。言い換えると、IFはWeb of Science収載論文から算出されているということです。個々の学術誌のIFはWeb of Scienceと同様にクラリベイト・アナリティクスが提供するJournal Citation Reports(JCR)で調べられます(有料契約公開)。一方、Elsevierが提供する検索データベースであるScopusでは、IFと類似したCiteScoreという指標で学術誌の影響力を表しています。CiteScoreとIFの違いは、上記計算式の掲載論文数カウント期間が2年間ではなく3年間であることです。また、CiteScoreはScopus収載論文から算出されます。その結果、学術誌によっては両者の点数に乖離が生じることがありますが、現在のところはIFの方がCiteScoreより広く認知されているでしょう。

インパクトファクターをPubMedで表示する方法

 JCRは大学などの研究教育施設では機関契約しているところも多いと思います。しかし、無料で各々の学術誌のIFを調べるためには、その雑誌のホームページで確認するなど少し手間がかかります。実は、個別の論文が掲載された学術誌のIFはPubMedでも表示することができます。そのためには、WebブラウザのGoogle Chromeの拡張機能である“Pubmed Impact Factor”のインストールが必要です。“Pubmed Impact Factor”は無料ですので、ぜひインストールしてみてください。

 “Pubmed Impact Factor”のインストールに成功したら、PubMedのトップページを開いてみましょう。試しに、われわれのリサーチ・クエスチョン(RQ)の「Key論文」のひとつであるコクラン・フル・レビュー論文1)の最新版(連載第13回参照)を検索してみます。検索窓に「Key論文」のタイトルもしくはDOI(連載第15回参照)をコピー&ペーストして、“Search”をクリックします。すると、下記またはリンクのように学術誌名の横のカッコ内にIFの数値と“JCR Quartile”が追加で表示されるようになります。

Cochrane Database Syst Rev (IF: 9.27; Q1)

 “JCR Quartile” Q1とは、その学術誌が含まれる研究分野(Cochrane Database Syst RevはJCRでMEDICINE, GENERAL & INTERNALというカテゴリに分類されています)で、Quartile(四分位範囲)のトップ25%以内に位置しているということを示しています。

 繰り返しますが、今回解説したIFやCiteScoreは学術誌の影響力の指標であって、その学術誌に掲載された個別の論文や著者の影響力や評価の指標ではありません。IFが高い学術誌は、投稿論文数が多く査読も厳しいので採択率も低く、掲載された論文の質は概ね高いとは言えるでしょう。だからと言って、高IF学術誌に掲載された論文の研究結果を鵜呑みにはせず、自身でよく読み込んでキチンと吟味することが重要です。

 また、IFやCiteScoreの絶対値を異なる研究分野間で比較することは難しいとされています。なぜなら、研究分野ごとに学術誌の数、年間の出版論文数や研究者の数などが違うからです。一方、“JCR Quartile”は、その研究分野での当該学術誌の相対的な位置付けの指標なので、影響度の異なる研究分野間での比較にも使えます。

 今回紹介したIF、CiteScoreやJCR Quartileという学術誌の影響力の指標は、いずれも被引用回数に基づいたものです。関連研究レビューの際に、論文の信頼性、妥当性の評価のひとつの指標として参考にしてみてください。

 


【 引用文献 】

講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学統括研究推進センター研究推進部門 教授
昭和大学医学部内科学講座腎臓内科学部門/衛生学公衆衛生学講座 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


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「乳腺外科医事件」最高裁判決を受けて~担当弁護人の視点から

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 手術直後の女性患者への準強制わいせつ罪を問われた執刀医が、逮捕・勾留・起訴された事件。一審では無罪判決となったが、再審では懲役2年の実刑判決が東京高裁より言い渡されていた。執刀医側の上告を受けて出された今回の最高裁判決は「東京高裁への差し戻し」。弁護人の1人である水沼 直樹氏に、実際に法廷で論じられた争点と今後について解説いただく。

1.事件概要

(1)概要

 本件は、2016年5月、右胸部の良性腫瘍(再発)摘出術を受けた患者Aが、術後約30分間に2度回診に訪れた執刀医Xから、健側の右胸部を舐められたと訴えたことから始まった事件です。科学捜査研究所は、Aの右胸からXのDNA型と一致するDNA(定量値1.612ng/μL)が検出され、またアミラーゼ検査が陽性であったと鑑定しています。

 これに対し、Xは、Aの被害申告は、Aが術後せん妄(覚醒時せん妄)により幻覚を体験したに過ぎない、と逮捕当初から一貫して主張しています。当時の患者がせん妄状態にあり幻覚体験をしたか否か、検出されたDNA定量検査の結果を信用できるかが争われました。

(2)裁判の経緯

 東京地裁では、当時の患者がせん妄により幻覚体験をした可能性があることを主な根拠に、事件そのものがなかったと推認して無罪判決を言い渡しました(詳細は「判決の争点」前編後編を参照)。

 これに対して東京高裁は、DSM-5等により診断した弁護側証人の証言の信用性を否定し、診断基準を使用せずせん妄による幻覚の可能性を否定した検察側証人の証言の信用性を肯定して、懲役2年の実刑判決を言い渡しました(詳細は「控訴審、逆転有罪判決の裏側」前編後編を参照)。なお、東京高裁はDNA定量値については一切証拠調べをしませんでした(詳細は脚注1))。

2.上告での活動

 弁護人は、上告するとともに、10名を超える専門家(大学教授を中心としたDNAの専門家およびせん妄の専門家)の意見書を提出しました。その要旨は、当時のAがせん妄状態にあり幻覚体験していた可能性が高いこと、DNA定量検査は検査原理に反し検査結果に信用性がないこと、鉛筆書きのワークシートが消しゴムで消されたり加筆されたりしており、科学鑑定とは言い難いこと、DNA抽出液が廃棄されているなど再現性がない等の意見が寄せられました(詳細は「判決の争点」前編を参照)。

3.最高裁判決内容

 最高裁は、東京高裁が信用できるとした検察側証人の「見解が医学的に一般的なものではないことが相当程度うかがわれる」として、その証言の信用性を否定しました。他方で、DNAが多量に付着しているとすると、A証言の信用性が肯定できると見る余地もあるため、本件DNA定量検査が検査原理に反して実施されていたことや、標準資料の増幅曲線や検量線が作成されていないことが検査結果にどのような影響を与えるのか、いまだ不明なところがあるため、これを審理する必要があるとして、原判決を破棄し、東京高裁に差し戻しました。

4.最高裁判決の評価

 本判決に対しては、さまざまな評価があります(脚注1-2))。しかし少なくとも、一審で検査プロトコルに反したリアルタイムPCRの定量検査の結果に科学的信頼性のないことを専門家が証言しており、新たな証拠調べをする必要性が乏しいと思われます。また、アミラーゼ検査が陽性であったことを示す写真もゲル平板も存在しませんので、アミラーゼ検査が陽性であった証拠は、鉛筆書きされたワークシートの「+」との記載と、鉛筆書きして消しゴムで消したり書き直したりした検査担当者の法廷証言しかありません。

 このような事実関係に鑑みれば、本件については、最高裁は、新たに東京高裁で審理を求めるまでもなくすでに提出されている証拠を基に、破棄自判して無罪とすべきであったと思います(その意味で本判決は不当判決だと考えています)。

 なお、検察官は、控訴審の段階で、検査ノートを鉛筆書きして良いとの書籍等を証拠請求していますが、これらが明らかに科学的常識に反していることはいうまでもありません。

5.今後の動向

 今後は、最高裁が指示した、DNA定量検査の結果である1.612ng/μLの正確性、その意味合い等について、東京高裁で審理されることとなります。そして、その結果を前提に、せん妄状態にあり幻覚体験をしたことが疑われるAの証言がどこまで事実として認定できるのか、すなわち被害体験が事実であったといえるのかどうかを、新たな裁判官で構成された東京高裁が判断することになります。

◆脚注

1)令和4(2022)年2月19日付東京新聞26面では、元東京高裁部総括判事の門野 博弁護士が『「まだ、科学鑑定で有罪にできる道がある」と検察側に助け舟を出したような印象だ。今回の事件ではDNA型鑑定に使われた試料が廃棄され再鑑定ができない上、実験記録が鉛筆で書かれるなど、捜査の過程に不備がある。科学的証拠の有罪の根拠とするには理論に寸分の緩みもあってはならず、最高裁がこの問題点に言及しなかったのは残念だ。』と述べたと報道されている

2)江川 紹子氏著『“手術後わいせつ事件”の最高裁判断に江川紹子が疑義…「疑わしきは検察の利益」でよいのか』では「最高裁は、肝心の点で判断を避け、結論を先送りして、高裁に委ねた。最高裁が役割を放棄した以上、高裁は司法の責任において、司法における「科学的な証拠」とは何か、という問題に正面から向き合ってほしい。」と述べている

( ケアネット )


講師紹介

水沼 直樹 ( みずぬま なおき ) 氏

東京神楽坂法律事務所 弁護士、東邦大学医学部・埼玉医科大学医学部国際医療センター・鳥取大学医学部 非常勤講

[略歴] 東北大学法学部・日本大学大学院法務研究科卒業。
都内で法律事務所勤務ののち、亀田総合病院の内部専属弁護士として5年超にわたり勤務したのち,本件弁護を受任したため同院を退職し,現在に至る。
日本がん・生殖医療学会(兼理事)、日本睡眠歯科学会(兼倫理委員)、日本法医学会・日本DNA多型学会・日本医事法学会・日本賠償科学会・日本子ども虐待防止学会、日本麻酔医事法制研究会、日本医療機関内弁護士協会(代表)の各会員ほか。

リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その1【「実践的」臨床研究入門】第12回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

 

コクラン共同計画とコクラン・ライブラリー

 コクラン共同計画は英国の国民保健サービス(National Health Service:NHS)の一環として1992年に開始された国際的な医療評価プロジェクトです。コクラン・ライブラリーはコクラン共同計画が提供する検索ツールで、コクラン・システマティック・レビュー(systematic review:SR)のデータベース(Cochrane Database of Systematic Reviews:CDSR)を中心として構成され、データは年4回更新されています。CDSRはフル・レビュー論文(Cochrane Reviews)と現在進行中のSRのプロトコール論文(Cochrane Protocols)から成ります。

 コクラン・ライブラリーには、ランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)をはじめとする個々の臨床試験の論文や学会抄録、また臨床試験登録情報などが収録されている文献情報データベース(Cochrane Central Register of Controlled Trials:CENTRAL)も含まれています。

コクラン・ライブラリーを活用した関連研究レビューの実際

 コクラン・ライブラリーはボランティアにより、Abstract(抄録)や非医療従事者向けのまとめであるPlain language summaryの一般語訳など、一部に日本語化がなされていますが、検索は英語のキーワードを用いて行います。第3回で、RQのP(対象)とE(曝露要因)もしくはI(介入)の適切な英語検索ワードを選択することの重要性を説明しました。その際に、われわれのRQのEである「低たんぱく食」の英訳は”low protein diet”が該当することがわかりました。ここでは、この”low protein diet”という英語検索ワードを使用して、コクラン・ライブラリーでわれわれのRQに関連する先行SRの検索を行ってみます。

 コクラン・ライブラリーのホームページを開くと、右上方に検索窓があります。”Title Abstract Keyword”というデフォルトの検索設定はそのままに、”low protein diet”というキーワードを入力して検索してみます。すると、Cochrane ReviewsとしてデフォルトではRelevancy(関連度順)にフル・レビュー論文(Cochrane Reviews)のタイトル(和訳は筆者による意訳)が表示されます。 本稿執筆時点(2021年9月)では、下記の4編のフル・レビュー論文が検索結果としてリストアップされました。現在進行中のSRのプロトコール論文(Cochrane Protocols)はゼロ編と示されます。ちなみにCENTRALの検索結果では435編の臨床試験の書誌情報が検索結果として挙げられました。

1.Low protein diets for non‐diabetic adults with chronic kidney disease
(慢性腎臓病を有する非糖尿病成人のための低たんぱく食)
2.Protein restriction for children with chronic kidney disease
(慢性腎臓病の小児に対するたんぱく制限)
3.Protein restriction for diabetic renal disease
(糖尿病性腎疾患に対するたんぱく摂取制限)
4.Correction of chronic metabolic acidosis for chronic kidney disease patients
(慢性腎臓病患者の慢性代謝性アシドーシスの改善)

 われわれのRQのP(対象)は成人ですので、2は読み込まなくとも良さそうです。4はこのフル・レビュー論文のPICOの情報(”Show PICOsBETA”をクリックすると表示される)をみると、I(介入)は”low protein diet”ではなく、”sodium bicarbonate(炭酸水素ナトリウム)”という代謝性アシドーシスの治療薬なので、こちらもわれわれのRQの関連SRには該当しません。

 次回からは1と3の2編のフル・レビュー論文を読み込んで、われわれのRQをさらにブラッシュアップしたいと思います。


講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学統括研究推進センター研究推進部門 教授
昭和大学医学部内科学講座腎臓内科学部門/衛生学公衆衛生学講座 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


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ESMO2021速報 乳がん

|企画・制作|ケアネット

2021年9月16日から21日まで開催されたESMO Congress2021での乳がん領域の旬なトピックを、がん研究会有明病院の原 文堅氏がレビュー。


レポーター紹介

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原 文堅 ( はら ふみかた ) 氏
がん研究会有明病院 乳腺センター


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