日医・中川会長「身体が震えるほどの怒り」、乳腺外科医の控訴審判決

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 15日、日本医師会の記者会見で、今村 聡副会長が乳腺外科医の控訴審判決に関する日医の見解について言及した。

一審無罪から一転、控訴審では懲役2年の有罪判決

 手術直後の女性患者への準強制わいせつ罪に問われた執刀医が、逮捕勾留・起訴された事件では、一審で無罪判決が言い渡されたが、検察は控訴。7月13日に控訴審判決が行われた。東京高等裁判所は、一審の無罪判決を破棄し、懲役2年の実刑判決を言い渡した。

 報道によれば、控訴審判決ではせん妄の診断基準について、学術的にコンセンサスが得られているDSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版)に当てはめずに、独自の基準でせん妄や幻覚の可能性を否定した医師の見解が採用されたというという。

 今村氏は、自身の麻酔科医としての経験も踏まえ、「全身麻酔からの回復過程で生じるせん妄や幻覚は、患者にとって非常にリアルな実体験になる。現実と幻覚の区別が付かなくなる場面は、全国の医療機関で起こる可能性がある」とし、実際にそのような場面では、医療従事者が患者の精神的ケアに当たっていると説明した。

日本医師会として、判決に抗議する姿勢を明確に示した

 今回の裁判で大きな争点となっているのは、(1)患者の被害証言に対する術後せん妄の影響、(2)検体の鑑定に関する科学的許容性の2点だ。今村氏は、「鑑定結果は再現性に乏しく、ずさんと思わずにいられないデータ。今回の判決は、世間での常識から大きく乖離している」と語気を強めた。

 最も危惧されているのは、医師への有罪判決の確定によって、医療機関や医療従事者が、全身麻酔下での手術に安心して携われなくなる恐れがあることだ。「医療機関の運営や勤務医の就労環境に影響が出ることは、結果的に患者の健康にも悪影響を及ぼしかねない。医師代表の機関として、有罪判決には非常に強く抗議をしていきたい」と同氏はあらためて強調した。

 「医療機関としては、全身麻酔をかける前に、患者本人とご家族に、せん妄・幻覚の可能性などについて十分な説明をしていく必要が当然ある。こういったことを徹底していかなければならない」とまとめた。

 今回の判決について、中川 俊男会長は、「聞いたとき、身体が震えるほどの怒りを覚えた。今回の判決はきわめて遺憾であることを明確に申し上げる」と語り、日本医師会として、今後、医師側を全力で支援する姿勢を示した。

(ケアネット 堀間 莉穂)


【参考文献・参考サイトはこちら】

乳腺外科医控訴審判決に関する日医の見解について(日本医師会)

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男性のBRCA変異、1と2でがん発症に違い/JAMA Oncol

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 生殖細胞系列BRCA1/2の病原性変異体(pathogenic variant:PV)を持つ男性のがん早期発見とリスク低減のために、イタリア・Sapienza University of RomeのValentina Silvestri氏らは、BRCA1BRCA2のそれぞれのPVキャリアにおけるがんスペクトルと頻度を調査した。その結果、がん発症者(とくに乳がん、前立腺がん、膵がん)および複数の原発腫瘍発症者は、BRCA1 PVキャリアよりBRCA2 PVキャリアである可能性が高かった。JAMA Oncology誌オンライン版2020年7月2日号に掲載。

 本研究は後ろ向きコホート研究で、Consortium of Investigators of Modifiers of BRCA1/2(CIMBA)を通じて共同研究している世界33ヵ国53グループにより、1966~2017年にがん遺伝学クリニックで集めた18歳以上の6,902人(BRCA1 PVキャリア3,651人、BRCA2 PVキャリア3,251人)が対象。臨床データと病理学的特徴を収集した。オッズ比(OR)はすべて、年齢、出身国、初回面接の暦年で調整した。

 主な結果は以下のとおり。

・対象の男性6,902人(年齢中央値:51.6歳、範囲:18~100歳)のうち、1,376人(19.9%)に1,634件のがんが診断され、1,376人中922人(67%)がBRCA2 PVキャリアであった。
・何らかのがんを発症した人は、BRCA1 PVキャリアよりBRCA2 PVキャリアの可能性が高く(OR:3.23、95%信頼区間[CI]:2.81~3.70、p<0.001)、原発腫瘍が2つ発症(OR:7.97、95%CI:5.47~11.60、p<0.001)および3つ発症(OR:19.60、95%CI:4.64~82.89、p<0.001)でも同様であった。
・乳がん(OR:5.47、95%CI:4.06~7.37、p<0.001)および前立腺がん(OR:1.39、95%CI:1.09~1.78、p=0.008)の頻度は、BRCA2 PVキャリアである可能性と関連していた。
・乳がん、前立腺がん以外では、膵がんがBRCA2 PVキャリアである可能性が高く(OR:3.00、95%CI:1.55~5.81、p=0.001)、大腸がんはBRCA2 PVキャリアである可能性が低かった(OR:0.47、95%CI:0.29~0.78、p=0.003)。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Silvestri V, et al. JAMA Oncol. 2020 Jul 2. [Epub ahead of print]

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ASCO2020レポート 乳がん

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レポーター:下村 昭彦氏(国立国際医療研究センター がん総合診療センター 乳腺・腫瘍内科)

 2020年5月29日から6月2日まで5日間にわたり、ASCO2020が例年どおりシカゴマコーミックプレイスで開催される予定であった。しかしながら、COVID-19の流行により、今年は初のVirtual Annual Meetingが行われた。5月29日より一般演題やポスターはオンデマンドで視聴できるようになり、ハイライトセッションおよびプレナリーセッションは、ライブ配信+オンデマンドで視聴できた。2020年のテーマは“Unite & Conquer: Accelerating Progress Together”であった。プレナリーセッションを中心に、標準治療が変わる演題が多数報告された。乳がんにおいてもプレナリーセッション1題、口演17演題が発表され、標準治療を変えるもの、標準治療を変えないものの長年の臨床的疑問に一定の答えを出すものが発表された。乳がんの演題について、プレナリーセッションの1題、Local/Adjuvant口演から1演題、Metastaticから2演題を紹介する。

初発IV期乳がんに対する原発巣切除の全生存期間に対する影響(E2108試験)

 日常臨床においては初発IV期乳がんに対して原発巣切除が行われている場合もある。後ろ向き研究では切除した場合に全生存期間が良好な傾向が示されているが、バイアスを含んでおり前向き試験が複数計画された。

 インドで行われた試験では、全身治療を行った後に手術群と非手術群にランダム化された。この試験では全生存期間(overall survival:OS)の差は認められなかった。さらに、トルコで行われた試験では全身治療前にランダム化され手術群で5年生存割合が良好な傾向を認めた。このように相反する結果であり、原発巣切除の意義については結論が出ていない状況であった。

 E2108試験は1次登録をした後に4〜8ヵ月の全身治療を行い、病勢進行が認められなかった症例を手術群と全身治療継続群に1対1にランダム化された。368例が登録され、258例がランダム化され、125例が手術群に、131例が全身治療継続群に割り付けられた。主要評価項目はOSで、53ヵ月の観察期間中央値で、生存期間中央値が54ヵ月、ハザード比1.09(90%CI:0.80~1.49、p=0.63)で両群間に有意差は認められなかった。副次評価項目の無増悪生存期間(progression-free survival:PFS)でも両群間の差は認められず、生存曲線もほぼ重なっている状態であった。サブタイプ別のサブグループ解析ではホルモン受容体陽性HER2陰性、HER2陽性では差を認めなかったが、トリプルネガティブ乳がん(triple negative breast cancer:TNBC)ではハザード比3.50(95%CI:1.16~10.57)で、手術群で有意に悪かった。これはおそらく進行の速いTNBCにおいては全身治療の継続が重要であるということを示唆しているのであろう。局所の病変進行については手術群で良好な傾向であった。QOLは両群で変化がなかった。

 今回の試験はネガティブであったが、この結果をもって初発IV期乳がんに対する原発巣切除に意義がないと判断することはできない。E2108は開始後に進捗が悪く、プロトコール改訂が行われサンプルサイズが減らされた。JCOG1017(研究事務局:岡山大学 枝園 忠彦氏)は同様の試験であるが、570例が1次登録され、全身治療で進行しなかった407例がランダム化されている。また、ランダム化までの期間が日常臨床で効果判定を行うことの多い3ヵ月に設定されている。JCOG1017の試験結果が得られた後に、あらためてこれまでの試験を総括し、原発巣切除の意義について議論する必要があるだろう。

HER2陽性乳がんの術後化学療法におけるT-DM1+ペルツズマブとトラスツズマブ+ペルツズマブ+タキサンの比較第III相試験(KAITLIN試験)

 HER2陽性乳がんにおけるペルツズマブの術後化学療法における上乗せ効果はAPHINITY試験で示されており、リンパ節転移陽性であればペルツズマブを上乗せすることが現在の標準治療となっている。本試験は、トラスツズマブに微小管阻害薬であるエムタンシンを結合した抗体医薬複合体であるT-DM1の術後化学療法における有用性(トラスツズマブ+タキサンと置き換えることが可能であるか)を検証した第III相試験である。

 本試験ではHER2陽性でリンパ節転移陽性(N+)もしくはリンパ節転移陰性でホルモン受容体陰性かつT2以上の症例を対象として、1,846例が3~4サイクルのAC療法とトラスツズマブ+ペルツズマブ+タキサン(THP群)またはT-DM1+ペルツズマブ群(KP群)にランダム化された。主要評価項目はリンパ節転移陽性例およびITT集団における無浸潤疾患生存(invasive disease-free survival:IDFS)の2つとされた。

 918例がTHP群、928例がKP群に割り付けられた。約90%がN+であった。腫瘍経はT1が約30%、T2が約60%であった。ホルモン受容体は56%程度で陽性であった。1つ目の主要評価項目であるN+における3年IDFSはTHP群で94.1%、KP群で92.8%(HR:0.97、95%CI:0.71~1.32、p=0.8270)でありKP群の優越性は示せなかった。ITT集団でも同様の結果であった。PROではKP群で良好な傾向を認めたが、有害事象中止、グレード3/4の肝障害、神経障害はKP群で多かった。心毒性はTHP群で多かった。本試験は2014年の1月から2015年の6月まで登録されている。T-DM1とタキサン+トラスツズマブをHER2陽性転移乳がんの初回治療で検討したMARIANNE試験は2015年に最初の解析結果が発表されており、T-DM1のタキサン+トラスツズマブに対する優越性は示せていなかった。

 イベントの多く発生する転移乳がんにおいてネガティブであったことを考えると、よりハイリスクのN+が多く含まれるとはいえ、術後のセッティングで優越性を示すことは困難であったと予想される。また、APHINITY試験のときにも感じたことであるが、HER2陽性早期乳がんの予後はかなり良くなっているため、このセッティングにおける術後治療のエスカレーションは限界が来ていると考えても良いかも知れない。今後はKATHERINE試験やTNBCにおけるCREATE-X試験などのように、術前治療で治療感受性を判断し、治療効果が不十分な対象に対して別の治療アプローチを行うことがエスカレーションにおいては重要であろう。

TNBC1次治療における化学療法へのペムブロリズマブの上乗せ(KEYNOTE-355試験)

 2018年の欧州臨床腫瘍学会でTNBC1次治療におけるアルブミン結合パクリタキセル(nab-PTX)に対する抗PD-L1抗体であるアテゾリズマブの上乗せを検討したIMpassion130試験の結果が発表され、ITT集団とPD-L1陽性群においてPFSの延長を示し、PD-L1陽性群におけるOS延長の期待が示された。これを受けて、わが国においてもPD-L1陽性TNBCに対しアテゾリズマブが承認された。他がん種ではすでに広く使われるようになっていた免疫チェックポイント阻害薬が、乳がんの日常臨床に登場した。

 ペムブロリズマブは抗PD-1抗体であり、TNBC初回化学療法へのペムブロリズマブの有効性を検証した試験がKEYNOTE-355試験である。847例がランダム化され、566例がペムブロリズマブ群に、281例がプラセボ群に2対1に割り付けられた。化学療法として、タキサン(nab-PTXまたはパクリタキセル)およびゲムシタビン+カルボプラチンが許容され、それぞれ約45%と55%であった。割り付け調整因子にPD-L1陽性細胞割合(CPS)1%以上または未満が含まれた。主要評価項目はPD-L1陽性集団(CPS≧1%および10%)とITT集団におけるPFS、ならびに同OSとされた。両群において、CPS≧1%は約75%、CPS≧10%は40%弱であった。

 CPS≧10%集団において、PFSは9.7ヵ月vs.5.6ヵ月(HR:0.65、95%CI:0.49~0.86、p=0.0012)と統計学的有意差をもってペムブロリズマブ群で良好であった。CPS≧1%集団においては7.6ヵ月vs.5.6ヵ月(HR:0.74、95%CI:0.61~0.90、p=0.0014※)と統計学的有意差は示せなかった。ITT集団においてもペムブロリズマブの上乗せを示すことはできなかった。有害事象のプロファイルは両群間で大きな差は認めなかったが、甲状腺機能障害や肺臓炎など、免疫関連有害事象と考えられるものについてはペムブロリズマブ群で多い傾向にあった。これは、これまでに他がん種でみられた、もしくはTNBCにおけるアテゾリズマブでみられたものと同様の傾向であった。本試験の結果を受けて、TNBC初回治療の際にはアテゾリズマブまたはペムブロリズマブを化学療法と併用することが選択肢として加わった。これら2剤はPD-L1の評価方法が異なっていることに注意が必要である。

 また、アテゾリズマブ、ペムブロリズマブいずれもTNBCに対する術前化学療法に併用することで病理学的完全奏効率を改善することが示されており、将来術前(および術後)に免疫チェックポイント阻害薬を使用した後に再発した場合、どのような治療戦略を取っていくかが今後の課題の一つとなる。

※p<0.00111で有意

ホルモン受容体陽性HER2陰性進行・再発乳がん1次治療におけるフルベストラント+パルボシクリブとレトロゾール+パルボシクリブを比較するランダム化第II相試験(PARSIFAL試験)

 ホルモン受容体陽性HER2陰性進行・再発乳がんの1次治療においては、アロマターゼ阻害薬(AI)とCDK4/6阻害薬(パルボシクリブ[Palbo]、アベマシクリブ、ribociclib)の併用がPFSを延長することが示されており、現在の標準治療となっている。また、内分泌療法で進行した場合、2次治療でフルベストラント(Ful)とCDK4/6阻害薬の併用が標準治療である。内分泌療法単剤では初発IV期乳がんを対象とした第III相試験であるFALCON試験においてFulとAI(アナストロゾール)が比較され、ITT集団でFulがAIと比較してPFSにおいて優っていることが示された。

 これらの試験結果から、1次治療においてCDK4/6阻害薬と併用すべきはAIか、それともFulであるか、という臨床疑問が生まれた。PARSIFAL試験はこの仮説の可能性を探ることを目的として計画されたランダム化第II相試験である。転移・再発乳がんに対する治療歴のない症例が対象となり、486例がFul+Palbo群243例とレトロゾール(LET)+Palbo群243例に1対1に割り付けられた。閉経前も登録可能で、卵巣機能抑制の併用が求められたが、割合としては7〜8%しか含まれなかった。PFSにおいてFul+Palbo群で9.3ヵ月の上乗せを仮定し、優越性を検証するデザインとされたが、優越性が検証できなかった場合には非劣性(非劣性マージン1.21)を検証するとされた。主要評価項目である研究者評価PFSにおいて、LET+Palbo群で32.8ヵ月、Ful+Palbo群で27.9ヵ月(HR:1.13、95%CI:0.89~1.45、p=0.321)であり、優越性はおろか、非劣性を示すこともできなかった(95%CIの上限が非劣性マージンである1.21を上回っている)。FALCON試験においてはサブグループ解析において臓器転移がある場合は有意差がなく、臓器転移がない場合に有意であったことから同様の解析が行われたが、いずれも差は認めず、臓器転移がある場合にはLET+Palboで良い傾向を認めた。再発と初発IV期のサブグループ解析でも両群間の差は認めなかった。副次評価項目である3年OSにおいて、LET+Palbo群で77.1%、Ful+Palbo群で79.4%(HR:1、95%CI:0.68~1.48、p=0.986)であり、こちらも両群間の差は認めなかった。有害事象も大きな差はみられなかった。Ful+CDK4/6阻害薬は初回治療として最強なのではないか、と期待して行われた第II相試験であるが、残念ながらその傾向を感じることすらできなかった。サブグループ解析では前治療(すなわち術後治療)としてAIが行われていた場合にFul+Palboが良い傾向を示したが(有意差なし)、これはAIに長期に曝露されることで約30%程度でESR1の変異を獲得するからと考えられる。

 AIによる治療歴がないとESR1の変異は数%でしか検出されない。エストロゲン受容体そのものの発現量を減らすというFulの作用機序は、ホルモン感受性が低下してから本領を発揮するのかもしれない。


レポーター紹介

下村 昭彦 ( しもむら あきひこ ) 氏
国立国際医療研究センター がん総合診療センター 乳腺・腫瘍内科

ドセタキセルベースの乳がん術後化療、BMIでベネフィットに差/JCO

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 タキサンなどの脂溶性薬剤は、脂肪組織に対して高い親和性を持ち、分布容積が増す。大規模アジュバント試験BIG 2-98の再分析が実施され、ベースライン時のBMIにより、乳がん患者におけるドセタキセルベースの術後化学療法のベネフィットが異なる可能性が示唆された。ベルギー・Laboratory for Translational Breast Cancer ResearchのChristine Desmedt氏らが、Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2020年7月2日号に報告した。

 BIG 2-98は、リンパ節転移陽性乳がん患者の術後化学療法として、ドセタキセルベースと非ドセタキセルベースの治療法を比較したインターグループ無作為化第III相試験。今回、研究者らは同試験の全患者(2,887例)のデータを後ろ向きに再分析し、ベースライン時のBMI値に従って、ドセタキセルベースの術後化学療法のベネフィットが非ドセタキセルベースの術後化学療法と異なるかどうかを評価した。

 BMI(kg/m2)は以下のように分類されている。

・やせ型:18.5~<25.0
・過体重:25.0 ~<30.0
・肥満:30.0 以上

 主要評価項目は無病生存期間(DFS)、副次評価項目は全生存期間(OS)。二次交互作用として、治療法、BMI、およびエストロゲン受容体(ER)の発現状態について評価された。

 主な結果は以下のとおり。

・非ドセタキセル群では、BMIに応じたDFSまたはOSの違いはみられなかったが、ドセタキセル群では、BMI分類が上がるにつれ、DFSおよびOSの低下が観察された。
・DFSおよびOSの調整ハザード比は、過体重 vs.やせ型で1.12(95%信頼区間[CI]:0.98~1.50、p=0.21)および1.27(95%CI:1.01~1.60、p=0.04)。肥満 vs.やせ型で1.32(95%CI:1.08~1.62、p=0.007)および1.63(95%CI:1.27~2.09、p<0.001)であった。
・ER陰性とER陽性を別々に検討した場合、およびドセタキセルの相対用量強度(RDI)≧85%の患者のみを検討した場合にも、同様の結果が得られた。
・治療効果に対するBMIおよびER状態の共修正の役割は、DFS(調整後のp=0.06)およびOS(調整後のp=0.04)で明らかであった。

 研究者らは、ベースライン時のBMIによるドセタキセルに対する反応の違いが強調される結果とまとめている。乳がんにおけるタキサン使用のリスクベネフィット比の、身体組成に基づく再評価が求められるとし、今回の結果は追加試験による確認が必要としている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【原著論文はこちら】

Desmedt C, et al. J Clin Oncol. 2020 Jul 2. [Epub ahead of print]

【参考文献・参考サイトはこちら】

BIG 2-98試験(Clinicaltrials.gov)

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緑茶・コーヒー・アルコールと乳がんリスク~日本人女性

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 日本の全国多施設前向きコホート研究であるJapan Collaborative Cohort Study for Evaluation of Cancer Risk(JACC)Studyにおいて、緑茶・コーヒー・アルコールと乳がんリスクの関連を調べた結果、アルコール摂取と乳がんリスク増加との関連がみられた一方、乳がんリスクとの関連の結論が出ていない緑茶やコーヒーについては関連がみられなかった。Asian Pacific Journal of Cancer Prevention誌2020年6月1日号に掲載。

 本研究の対象は、JACC Studyにおける国内24地域の40〜79歳の日本人女性3万3,396人。20年以上の追跡期間中に乳がんが255例に発症した。乳がんリスクと緑茶、コーヒー、アルコールの摂取の間の独立した関連性を評価するために、多変量ロジスティック回帰分析を行った。緑茶とコーヒーについては、毎日摂取しない人を基準として、毎日摂取する人のオッズ比(OR)を算出した。アルコール摂取については、摂取しない人を基準として、週当たりの摂取頻度(1回未満、1~2回、3~4回、毎日)およびアルコールの種類(日本酒、ビール、ワイン、ウイスキー)別のORを算出した。

 主な結果は以下のとおり。

・最も多く摂取されていたのは緑茶(参加者の81.6%)で、次いでコーヒー(34.7%)、アルコール(23.6%)であった。
・緑茶(OR:1.15、95%信頼区間[CI]:0.82~1.60)およびコーヒー(OR:0.84、95%CI:0.64~1.10)の摂取量と乳がんリスクの間に有意な関連はみられなかった。
・アルコール摂取は、乳がんリスクが有意に増加し(OR:1.46、95%CI:1.11~1.92)、週1回以下の飲酒でも乳がんリスクが増加した(OR:2.07、95%CI:1.39~3.09)。
・アルコールの種類別では、日本酒とビールでは有意な増加はみられなかった。ワイン(OR:1.79、95%CI:0.99~3.23)とウイスキー(OR:1.68、95%CI:0.91~3.08)ではORが高かったが、統計学的に有意ではなかった。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Sinnadurai S, et al. Asian Pac J Cancer Prev. 2020;21:1701-1707.

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COVID-19、がん患者の全死亡率への影響/Lancet

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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患したがん患者のデータが不足している中、米国・Advanced Cancer Research GroupのNicole M. Kuderer氏らによる検討で、COVID-19に罹患したがん患者の30日全死因死亡率は高く、一般的なリスク因子(年齢、男性、喫煙歴など)、およびがん患者に特異な因子(ECOG PS、活動性など)との関連性が明らかにされた。今回の結果を踏まえて著者は、「さらなる長期追跡を行い、がん患者の転帰へのCOVID-19の影響を、特異的がん治療の継続可能性も含めて、明らかにする必要がある」とまとめている。Lancet誌2020年6月20日号掲載の報告。

米国・カナダ・スペインの患者について分析

 研究グループは、COVID-19罹患のがん患者コホートの転帰を特徴付け、死亡および疾患重症化の潜在的予測因子を特定するコホート研究を行った。

 COVID-19 and Cancer Consortium(CCC19)データベースから、SARS-CoV-2感染確定例で、活動性がんおよびがん既往歴のある18歳以上の米国・カナダ・スペインの匿名化患者データを集めて分析した。各患者のデータは、2020年3月17日~4月16日の間にベースラインデータが入力され、フォローアップデータは5月7日まで入力されていた。

 収集・分析したのは、ベースラインの臨床状態、治療歴、がんの診断・治療、COVID-19の経過。主要エンドポイントは、COVID-19診断後30日間の全死因死亡とした。

 転帰と潜在予後変数の関連性を、年齢、性別、喫煙状態、肥満について補正後のロジスティック回帰分析を用いて評価した。

人種、肥満、がん種、がん治療、直近手術は死亡と関連せず

 試験期間中にCCC19データベースには1,035件の記録が入力され、解析の適格基準を満たした患者928例について分析した。被験者の年齢中央値は66歳(IQR:57~76)、279例(30%)が75歳以上で、男性患者は468例(50%)であった。

 最も一般的にみられた悪性腫瘍は、乳がん(191例[21%])および前立腺がん(152例[16%])。366例(39%)の患者が抗がん剤の治療中で、396例(43%)が活動性(測定可能)がん患者であった。

 2020年5月7日の解析時点で、死亡は121例(13%)であった。年齢等補正後ロジスティック回帰分析の結果、30日死亡増大の関連独立因子は、加齢(10歳増につき、年齢等補正後オッズ比[OR]:1.84、95%信頼区間[CI]:1.53~2.21)、男性(1.63、1.07~2.48)、喫煙状態(元喫煙者vs.非喫煙者の同1.60、1.03~2.47)、併存疾患数(2 vs.なしの同4.50、1.33~15.28)、ECOG PS 2以上(2 vs.0または1の同3.89、2.11~7.18)、活動性がん(進行vs.寛解の同:5.20、2.77~9.77)、アジスロマイシン+ヒドロキシクロロキン投与(vs.非投与の同:2.93、1.79~4.79、適応症による交絡は除外できなかった)であった。

 また、米国北東部の住民と比較して、カナダの住民(年齢等補正後OR:0.24、95%CI:0.07~0.84)、米国中西部の住民(0.50、0.28~0.90)の30日全死因死亡率は低かった。人種・民族、肥満状態、がんのタイプ、抗がん剤治療のタイプ、直近の手術について死亡との関連は認められなかった。

(ケアネット)


【参考文献・参考サイトはこちら】

Kuderer NM, et al. Lancet. 2020;395:1907-1918.

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乳がん術後補助療法の非順守が血清検査で判明、再発リスクは2倍/JCO

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 乳がん術後補助療法のタモキシフェン治療へのノンアドヒアランス(非順守)は、医師に認識されていないことが多い。今回、フランス・Institut Gustave RoussyのBarbara Pistilli氏らが、タモキシフェン治療の非順守率を血清検査で生化学的に調べたところ、自己申告では順守であっても順守していない患者が多いことがわかった。また、非順守患者では短期における遠隔無再発生存期間(DDFS)が順守患者より有意に短いことが示された。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2020年6月22日号に掲載。

 本研究の対象は、大規模前向き研究であるCancer Toxicities(CANTO)研究(NCT01993498)に登録された閉経前女性1,177例。生化学的非順守は処方1年後の血清タモキシフェン値が60ng/mL未満とした。同時に自己申告による非順守について半構造化面接で調査した。診断時の年齢、TNM病期分類、手術の種類、化学療法の有無、サイズに基づく傾向スコアを用いた逆確率加重モデルおよびCox比例ハザードモデルにより生存分析を行った。

 主な結果は以下のとおり。

・血清タモキシフェン検査において、設定したアドヒアランスの閾値を下回った患者は16.0%(188例)で、患者申告による非順守率(12.3%)より高かった。
・血清タモキシフェン検査で非順守であった188例のうち55%の患者は、自己申告では順守としていた。
・血清タモキシフェン検査から中央値24.2ヵ月の追跡期間後、生化学的非順守であった患者のDDFSは有意に短く(調整ハザード比:2.31、95%CI:1.05〜5.06、p=0.036)、順守患者では95.4%の患者が3年間遠隔再発なく生存していたのに対し、非順守コホートでは89.5%だった。

 著者らは、「薬剤モニタリングは、処方どおりにタモキシフェンを服用せず、転帰不良のリスクがある患者を迅速に特定するために有用かもしれない」と考察している。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Pistilli B, et al. J Clin Oncol. 2020 Jun 22:JCO1901758. [Epub ahead of print]

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閉経後乳がん患者、術後AI+スタチンが再発リスク低下と関連

提供元:CareNet.com

 スタチンの使用は、術後アロマターゼ阻害薬(AI)治療を受けている閉経後乳がん患者において、再発リスクの低下と関連していた。デンマーク・オーフス大学病院のSixten Harborg氏らが、集団ベースのコホート研究結果を、Breast Cancer Research and Treatment誌オンライン版2020年6月22日号に報告した。

 研究者らは、2007~2017年にI~III期のホルモン受容体陽性乳がんと診断された閉経後のすべての患者を登録。術後AI治療が実施された。デンマーク国立処方レジストリから、スタチンの処方(診断後1年以上の処方)を確認し、生物学的潜伏期間を考慮し6ヵ月後からの時変曝露としてモデル化した。

 追跡調査は診断7ヵ月後に始まり、再発、死亡、移住、5年経過のいずれかの最初のイベント、または2018年9月25日まで継続された。5年後の再発発生率を推定し、Cox回帰モデルを使用して、調整ハザード比(HR)を算出し、スタチン曝露群と非曝露群を比較した。

 主な結果は以下のとおり。

・14,773例の適格患者が登録された。
・5年間の追跡期間中に、スタチン曝露群では3,163人年当たり32件の再発があり、非曝露群では45,655人年あたり612件の再発があった(1,000人年当たりの発生率:10.12[95%CI:6.92~14.28] vs.13.40[95%CI:12.36~14.51])。
・多変量モデルでは、スタチンへの曝露が5年間の乳がん再発率の低下と関連していた(調整HR:0.72[95%CI:0.50~1.04])。
・脂溶性スタチンへの曝露のみを考慮した場合にも、結果は同様であった(調整HR:0.70 [95%CI:0.48~1.02])。

 研究者らは、交絡因子としてBMIや術後AI治療のアドヒアランスの影響などを考慮できていない点を本研究の限界として挙げつつも、AI治療を受けた早期乳がん患者が、術後レジメンに脂溶性スタチンを追加することでさらにベネフィットを得る可能性があると結んでいる。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【原著論文はこちら】

Harborg S, et al. Breast Cancer Res Treat. 2020 Jun 22. [Epub ahead of print]

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オリゴ転移乳がんの生存延長に最善の治療を検討

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 中国・Chinese Academy of Medical Sciences and Peking Union Medical College のBo Lan氏らの研究から、頭蓋外オリゴ転移乳がんの予後は比較的良好であり、転移病変の外科的切除が無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)を大きく改善する可能性が示された。International Journal of Cancer誌オンライン版2020年6月14日号に掲載。

 本研究では、頭蓋外オリゴ転移の臨床的特徴と予後因子および最善の治療方法を特定することを目的に、2009~14年、中国・National Cancer Centerで頭蓋外オリゴ転移乳がんと診断された術後入院患者50例を対象に調査した。オリゴ転移乳がんは、転移病変が3個以下で1つの臓器に限局している転移乳がんと定義し、de novo StageIVと局所再発は除外した。

 主な結果は以下のとおり。

・PFS中央値は15.2ヵ月、OS中央値は78.9ヵ月、2年PFS率は40%、5年OS率は58%であった。
・標準全身治療+転移病変すべての外科的切除による1次治療が、PFS延長(ハザード比[HR]:0.32、95%信頼区間[CI]:0.14~0.73、p=0.006)およびOS延長(HR:0.35、95%CI:0.14~0.86、p=0.022)の独立した予後因子であった。
・サブグループ解析により、無病期間が24ヵ月以上、転移病変が1つのみ、ホルモン受容体陽性の症例で切除が有用な可能性が高いことが示された。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Lan B, et al. Int J Cancer. 2020 Jun 14. [Epub ahead of print]

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早期乳がんのサブタイプ別生存期間、長期追跡結果

提供元:CareNet.com

 早期乳がんの免疫組織化学(IHC)に基づくサブタイプ別の生存期間について、イタリア・IRCCS-Ospedale Policlinico San Martino/ジェノバ大学のElisa Zanardi氏らが長期にフォローアップした。その結果、このサブタイプの定義が長期予後の層別化に妥当であることが示された。Oncology Research and Treatment誌オンライン版2020年6月8日号に掲載。

 本研究は、1985~90年にStage I~IIIの乳がんと診断された女性200例のコホートで検討した。サブタイプと全生存期間(OS)および乳がん関連生存期間の関連を、多変量モデルを用いて評価した。

 主な結果は以下のとおり。

・乳がんのサブタイプ別の割合は、luminal A-likeが42.0%、luminal B-like/HER2陰性が32.5%、HER2陽性が8.5%、トリプルネガティブが17.0%であった。
・腫瘍径2cm超が53.0%、リンパ節転移ありが47.5%であった。
・追跡期間中央値18.7年(範囲:0.3〜32.0年)の間に140例が死亡した(乳がん関連死亡は75例)。
・OS中央値はluminal A-likeが最も長く(21.2年、95%信頼区間[CI]:17.4~24.9)、luminal B-like/HER2陰性は乳がん関連生存期間の悪化と有意に関連していた(調整ハザード比[HR]:1.86、95%CI:1.09~3.16)。
・多変量解析で、腫瘍径2cm超(2cm以下に対するHR:1.71、95%CI:1.03~2.84)およびリンパ節転移あり(転移なしに対するHR:2.19、95%CI:1.03~4.65)が乳がん関連生存期間に影響していた。

 著者らは、「分子プロファイリングなど、より精密な方法が広く利用可能になるまで、IHCに基づくサブタイプが乳がんの治療アルゴリズムに使用されるだろう」と述べている。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Zanardi E, et al. Oncol Res Treat. 2020 Jun 8:1-9. [Epub ahead of print]

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