HER2陽性乳がんに、トラスツズマブ デルクステカン発売/第一三共

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 第一三共は、トラスツズマブ デルクステカン(商品名:エンハーツ)、HER2に対する抗体薬物複合体(ADC)について、2020年5月25日、国内で新発売したと発表。

 同剤は、T-DM1治療を受けたHER2陽性の再発・転移性乳がん患者を対象としたグローバル第II相臨床試験(DESTINY-Breast01、北米、欧州及び日本を含むアジアで実施)の結果に基づき、2020年3月に「化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能又は再発乳癌(標準的な治療が困難な場合に限る)」を適応として、国内製造販売承認を取得した。

製品概要
・販売名:エンハーツ点滴静注用100mg
・一般名:トラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組換え)
・効能又は効果:化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能又は再発乳癌(標準的な治療が困難な場合に限る)
・用法及び用量:通常、成人にはトラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組換え)として1回5.4mg/kg(体重)を90分かけて3週間間隔で点滴静注する。なお、初回投与の忍容性が良好であれば2回目以降の投与時間は30分間まで短縮できる。
・薬価:エンハーツ点滴静注用100mg :100mg 1瓶 165,074円

(ケアネット 細田 雅之)


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乳がん患者、治療開始の遅れが生存に及ぼす影響

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 早期乳がん患者では、乳がんと診断されてから術前化学療法開始までが61日以上となると、死亡リスクの増加と関連することが示唆された。これまでに、手術や術後化学療法開始の遅れが生存に影響することが報告されてきたが、術前化学療法を必要とする患者は一般的に高リスクの腫瘍を有するため、より影響が大きい可能性が考えられた。ブラジル・Hospital Beneficencia PortuguesaのDebora de Melo Gagliato氏らは、米国・MDアンダーソンがんセンターで術前化学療法を受けた早期乳がん患者のデータを解析した。Oncologist誌オンライン版2020年5月20日号掲載の報告より。

 研究者らは、1995年1月~2015年12月にMDアンダーソンがんセンターで術前化学療法を受けた原発性浸潤性乳がん患者(Stage I~III)を特定。乳がんと診断されてから術前化学療法までの時間(日数)に従って、3つのサブグループに分類した:0~30日、31~60日、および≧61日。主要評価項目は全生存期間(OS)、記述統計とCox比例ハザードモデルが用いられた。

 主な結果は以下のとおり。

・5,137例の患者が登録された。追跡期間中央値は6.5年。
・5年OSの推定値は、診断から術前化学療法までの時間ごとに、0~30日:87%、31~60日:85%、≧61日:83%であった(p=0.006)。
・多変量解析では、0~30日と比較して61日以上となると死亡リスクが増加した(31~60日:ハザード比[HR]=1.05、95%信頼区間[CI]=0.92~1.19、≧61日:HR = 1.28、95%CI=1.06~1.54)。
・層別解析では、術前化学療法開始の遅れと死亡リスク増加との関連は、Stage I、II(31~60日:HR=1.22、95%CI=1.02~1.47、≧61日:HR =1.41、95%CI=1.07~1.86)およびHER2陽性(≧61日:HR=1.86、95%CI:1.21~2.86)の患者で有意に認められた。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【原著論文はこちら】

Gagliato DM, et al. Oncologist. 2020 May 20. [Epub ahead of print]

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高齢者のがん、発症前に歩行速度が急激に減少

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 高齢者におけるがん診断前と後におけるサルコペニアの尺度の減少度をがんではない高齢者と比較した場合、診断前に歩行速度の減少度が大きいことがわかった。米国・アラバマ大学のGrant R. Williams氏らが報告した。JAMA Network Open誌2020年5月1日号に掲載。

 著者らは、サルコペニアの3つの尺度(四肢除脂肪量[ALM]、握力、歩行速度)について、がんと診断された高齢者の診断前の減少度と診断後の減少度を、がんではない高齢者の減少度と比較し、さらにサルコペニアの尺度とがん患者の全生存率および主な身体障害との関連を評価した。

 このコホート研究は、Health, Aging, and Body Composition研究の参加者(ペンシルベニア州ピッツバーグおよびテネシー州メンフィスとその周辺の白人のメディケア被保険者とすべての黒人居住者のランダムサンプルから募集した70~79歳の地域住民3,075人)を対象とし、1997年1月から2013年12月まで17年間観察した。データは2018年5月~2020年2月に分析した。年に一度、ALM、握力、歩行速度を調査し、線形混合効果モデルを使用して、それぞれの変化についてがん発症者の診断前と診断後、非がん発症者で比較した。さらに、サルコペニアの尺度とがん診断日からの全生存および主な身体障害との関連について、多変量Cox回帰を用いて評価した。

 主な結果は以下のとおり。

・3,075人のうち、男性が1,491人(48.5%)、黒人が1,281人(41.7%)、平均年齢は74.1(SD:2.9)歳であった。
・研究開始から7年の間に515人(16.7%)ががんを発症した。多いがんは前立腺がん(117人、23.2%)、大腸がん(63人、12.5%)、肺がん(61人、12.1%)、乳がん(61人、12.1%)で、165人(32.0%)に転移が認められた。
・がん発症者の診断前の各尺度の減少率は、非がん発症者と比べ、歩行速度では大きかった(β=-0.02、95%CI:-0.03~-0.01、p<0.001)が、ALM(β=-0.02、95%CI:-0.07~0.04、p=0.49)、握力(β=-0.21、95%CI:-0.43~0、p=0.05)は差がなかった。
・がん発症者の診断後の各尺度の減少率は、非がん発症者に比べ、ALMでは大きかった(β=-0.14、95%CI:-0.23〜-0.05、p<0.001)が、握力(β=-0.02、95%CI:-0.37〜0.33、p=0.92)、歩行速度(β=0、95%CI:-0.01〜0.02、p=0.51)は差がなかった。
・転移のある患者では、がん診断後のALMの減少率が最も大きかった(β=-0.32、95%CI:-0.53〜-0.10、p=0.003)。
・歩行速度が遅いと、死亡率が44%増加(HR:1.44、95%CI:1.05〜1.98、p=0.02)、身体障害が70%増加(HR:1.70、95%CI:1.08〜2.68、p=0.02)したが、ALMや握力が低い場合には死亡率と身体障害の増加は認められなかった。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Williams GR, et al. JAMA Netw Open. 2020;3:e204783.

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早期乳がん術後放射線療法、26Gy/5回/1週が有用か/Lancet

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 早期乳がんの初回手術後の局所放射線療法では、5年後の局所コントロールおよび正常組織への影響に関する安全性について、総線量26Gyの5分割1週間照射は、標準的な40Gyの15分割3週間照射に対し非劣性であることが、英国・ノースミッドランズ大学病院のAdrian Murray Brunt氏らの「FAST-Forward試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2020年4月28日号に掲載された。早期乳がんの術後放射線療法は、従来、1.8~2.0Gy/日を週5日間、5週間以上照射する方法が標準であったが、カナダや英国、次いで中国とデンマークの無作為化第III相試験により、2.7Gy/日の15または16分割照射の安全性と有効性が示されている。さらに、最近では、5分割の1週間照射の長期アウトカムが報告され、早期乳がんにおける根治的放射線療法のいっそうの簡便化の可能性が示唆されている。

再発率を比較する英国の無作為化非劣性試験

 本研究は、英国の97施設(放射線センター47施設、紹介先病院50施設)が参加した非盲検無作為化第III相非劣性試験であり、2011年11月~2014年6月の期間に患者登録が行われた(英国国立衛生研究所[NIHR]医療技術評価プログラムの助成による)。

 対象は、年齢18歳以上の男女で、浸潤性乳がん(pT1~3、pN0~1、M0)に対して、乳房温存術または乳房切除術(乳房再建術も可)を受けた患者であった。

 被験者は、次の3群に1対1対1の割合で無作為に割り付けられ、全乳房と胸壁への照射が行われた。1)総線量40Gy/15分割(1回2.67Gy)/3週間、2)総線量27Gy/5分割(1回5.4Gy)/1週間、3)総線量26Gy/5分割(1回5.2Gy)/1週間。

 主要エンドポイントは同側乳房の腫瘍再発とし、同側乳腺、皮膚、切除後の胸壁に発生した浸潤性乳がんまたは非浸潤性乳管がん(DCIS)と定義された。40Gy照射で主要エンドポイントが5年間で2%に発生すると推定し、5分割スケジュールの5年発生率の増加が1.6%を超えない場合に非劣性と判定することとした。また、正常組織への影響を、医師と患者が評価し、写真を用いた評価も行った。

5年再発率:2.1% vs.1.7% vs.1.4%

 4,096例が登録され、40Gy群に1,361例(年齢中央値60歳[IQR:53~66、範囲:29~89]、男性6例[0.4%])、27Gy群に1,367例(61歳[53~67、25~90]、2例[0.1%])、26Gy群に1,368例(61歳[52~66、25~89]、4例[0.3%])が割り付けられた。

 フォローアップ期間中央値71.5ヵ月(IQR:71.3~71.7)の時点で、同側乳がん再発は79例(40Gy群31例、27Gy群27例、26Gy群21例)に認められた。40Gy群との比較におけるハザード比(HR)は、27Gy群が0.86(95%信頼区間[CI]:0.51~1.44)、26Gy群は0.67(0.38~1.16)であった。

 40Gy群の5年同側乳がん再発率は2.1%(95%CI:1.4~3.1)であり(予測された再発率は2%)、27Gy群は1.7%(1.2~2.6)、26Gy群は1.4%(0.9~2.2)であった。40Gy群と27Gy群との推定絶対差は-0.3%(-1.0~0.9)(非劣性:p=0.0022)、26Gy群との推定絶対差は-0.7%(-1.3~0.3)(非劣性:p=0.00019)であった。これらの上限信頼限界は、27Gy群と26Gy群は40Gy群と比較して、同側乳がんの再発率が1.6%を超えて増加しないことを示しており、2つの5分割スケジュールの40Gy/15分割に対する非劣性が確かめられた。

 局所領域再発、遠隔再発、無病生存、全生存は、3群で類似しており、有意な差は認められなかった。

 5年後の時点で、医師評価による乳房と胸壁の正常組織への中等度~著明な影響は、40Gy群が986例中98例(9.9%)、27Gy群は1,005例中155例(15.4%)、26Gy群は1,020例中121例(11.9%)で報告された。40Gy群と27Gy群の間には有意差がみられた(p=0.0003)が、40Gy群と26Gy群には有意な差はなかった(p=0.17)。

 1~5年の期間における、医師評価による乳房と胸壁の正常組織への中等度~著明な晩発性の影響(萎縮、硬化、毛細血管拡張症、浮腫)のリスクに関して、40Gy群と比較したオッズ比(OR)は、27Gy群が1.55(95%CI:1.32~1.83、p<0.0001)と有意に増加したが、26Gy群は1.12(0.94~1.34、p=0.20)であり、有意な差はみられなかった。また、患者および写真による正常組織への晩発性の影響の評価では、40Gy群に比べ27Gy群はリスクが高かったが、26Gy群は高くなかった。

 著者は、「本試験と以前の寡分割照射の試験の一貫した結果は、部分または全乳房への術後放射線療法を要する切除可能な乳がん女性の新たな標準治療として、総線量26Gyの5日間分割照射の選択を支持する」としている。

(医学ライター 菅野 守)


【原著論文はこちら】

Brunt AM, et al. Lancet. 2020 Apr 28. [Epub ahead of print]

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早期乳がんの術後AIの服薬アドヒアランス/JCO

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 早期乳がんの術後補助療法におけるアロマターゼ阻害薬(AI)の服薬アドヒアランスは一般に低く、再発リスクにつながる。今回、大規模な長期無作為化試験(SWOG S1105)の結果、AIのアドヒアランス失敗率が高いこと、週2回のテキストメッセージ受信ではアドヒアランスが改善しなかったことを米国・コロンビア大学のDawn L. Hershman氏らが報告した。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2020年5月5日号に掲載。

 本試験は、米国の40施設においてテキストメッセージ(TM)群とテキストメッセージなし(No-TM)群を比較した無作為化試験。対象は、AI投与が36ヵ月以上計画され、30日以上服薬している早期乳がんの閉経後女性で、メッセージは週2回、36ヵ月送信した。メッセージの内容は服薬アドヒアランスの障壁の克服にフォーカスし、行動のきっかけ、薬物治療の効果に関するステートメント、AI服用の推奨などで、3ヵ月ごとに評価した。主要アウトカムは、アドヒアランス失敗(AF)までの期間(time to adherence failure)で、AFは、尿中AI代謝物の検査で、<10ng/mL、検出不能、検体提出なしのいずれかの場合と定義した。層別log-rank検定、複数の感度分析により評価した。

 主な結果は以下のとおり。

・2012年5月~2013年9月に計724例の患者が登録され、そのうち702例(TM群348例、No-TM群354例)がベースラインで対象となった。
・1次解析ではAFまでの期間に差は見られなかった(3年AF率:TM群81.9% vs. No-TM群85.6%、HR:0.89、95%CI:0.76~1.05、p=0.18)。複数の感度分析でも同様に有意差は見られなかった。
・自己報告によるAFまでの期間(3年AF率:TM群10.4% vs.No-TM群10.3%、HR:1.16、95%CI:0.69~1.98、p=0.57)、施設報告によるAFまでの期間(21.9% vs.18.9%、HR:1.31、95%CI:0.86~2.01、p=0.21)も差はなかった。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Hershman DL, et al. J Clin Oncol. 2020 May 5:JCO1902699. [Epub ahead of print]

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海外研修留学便り EORTC留学記(高橋 侑子氏)[第3回]

[ レポーター紹介 ]
高橋 侑子(たかはし ゆうこ)

2010年03月 岡山大学 医学部医学科卒業
2010年04月 亀田総合病院 ジュニアレジデント
2012年04月 聖路加国際病院 乳腺外科 シニアレジデント
2015年04月 聖路加国際病院 乳腺外科 フェロー
2016年05月 岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 呼吸器・乳腺内分泌外科学
2018年10月 国立がん研究センター中央病院 JCOG運営事務局 レジデント
2019年08月 European Organisation for Research and Treatment of Cancer (EORTC) フェロー

 ヨーロッパ最大の多施設共同臨床研究グループEORTC(European Organisation for Research and Treatment of Cancer)に留学中の高橋 侑子氏に、fellowとしての研修の日々、大規模臨床試験を推進する現場からのリアルな情報をレポートいただきます。

時間外勤務が少ない理由はどこに?

 EORTCでは勤務時間管理が徹底されています。規定の勤務時間外で勤務することも可能ですが、多くのスタッフは17時~19時頃には帰宅します。自分がその日、フロアで最後に帰宅する場合、そのフロアのすべての部屋の確認、すべてのPCの電源、戸締りを確認し、フロアの出入り口のアラームを設定する義務があります。このシステムもあり、遅くまで残っているスタッフは少ないです。また、日々の勤務は、毎日細かく勤務内容を記録することが義務付けられています(たとえば、「XX日:XX時間XXの試験についてXXの役割で貢献した」などです)。勤務状況や同僚の疲労に関する配慮はヨーロッパの方が進んでいると思います。終了後はそれぞれ食事に行ったり帰宅したりしています。

 土日は施設全体にアラームが設定されており、アラームを解除しなければ建物内に入れないようになっています。週末は、ベルギーでは日曜日は多くの商店やスーパー、レストランが閉まっているので、公園や自宅で家族と過ごす人が多いです。したがって金曜夜や土曜日に色々と活動する人が多いです。

国際共同試験はどのようにして立案されているのか、学ぶ日々

 現在取り組んでいる業務内容は、主に3つあります。

  1) すでに開始しているEORTCの臨床試験の運用
  2) 新規試験の立案の議論への参加
  3) EORTCとJCOGの国際共同研究の推進

 EORTCでは各々の臨床試験ごとにプロジェクトチームが形成されています。チームメンバーは主に医師、統計学者、project manager、data manager、clinical scientist、clinical operation manager、fellowなど平均しておよそ10名程度で構成されています。現在すでに進行中、または追跡中の試験についてはこのチームメンバーの一員として、登録されたケースについてdata managerと話合うmedical reviewや、プロトコール 改訂作業などを中心に参加しています。

 定期的に開催されるチームミーティングでは、各国での臨床試験に関する法整備、施設開設へ向けての規制条件などが話し合われるので、この場で、国際共同試験を行う場合の各国の規制条件について学んでいます。

 また、立案段階の試験内容の議論について、fellowも一緒に参加することが多々あります。立案段階の試験では、研究責任医師、統計学者、資金提供元(製薬会社や企業など)が、計画中の試験の科学的な意義、統計解析方法、運営方法、研究資金の見積もりと獲得方法などについて議論します。

 私の留学の主な目的が、立案段階の議論に参加し、新規国際共同試験がどのようなことを考慮して立案されているのかを学ぶことでしたので、会議の準備など、この業務に今最も時間を割いています。EORTCで臨床試験を行うことが決定した場合、fellowは主に、試験開始にむけてプロトコール 関連文書を分担して作成します。

 一方、私に課せられた留学のもう一つの目的は、JCOGとの共同研究を継続して推進することです。私がYoung InvestigatorとしてJCOGやEORTCの臨床試験グループの先生方に相談させていただきながら、現在共同研究を計画中です。上に述べた1)や2)の業務に携わる中で学んだことを生かして、実践する場であると考えています。実際には立案の段階で、資金の獲得や、国際的に科学的価値のある試験内容をどのように立案していくかなど、さまざまな困難がありますが、このJCOGとEORTCの双方の間に立って立案計画する経験を通して、最も多くのことを学ばせていただいています。


COVID-19流行下で不安募らせるがん患者、医師は受け身から能動へ?

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 がん患者の自分が感染したら致命的なのではないか、治療を延期しても大丈夫なのか、この発熱は副作用かそれとも感染か―。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への感染が拡大する中、がん患者の不安は大きくなってしまっている。エビデンスが十分とはいえない中、また医師自身にも感染リスクがある中で、治療においてどのような判断をし、コミュニケーションを図っていけばよいのか。4月21日、「新型コロナ感染症の拡大を受け、がん患者・家族が知りたいこと」(主催:一般社団法人CancerX)と題したオンラインセッションが開催され、腫瘍科や感染症科など各科の専門医らが、患者および患者家族からの質問に答える形で議論を行った。

がんの既往があると重症化リスクが高いのか?と聞かれたら

 大須賀 覚氏(アラバマ大学バーミンハム校脳神経外科)は、現状のデータだけでは十分とは言えないとしたうえで、「すべてのがん患者さんが同じように重症化リスクが高いとはかぎらない」と説明。英国・NHSによるClinical guideから、とくに脆弱とされる状況を挙げた:
• 化学療法を現在受けている
• 肺がんで、放射線治療を受けている
• 血液または骨髄のがん(白血病、リンパ腫、骨髄腫)に罹患している
• がんに対する免疫療法または他の継続的な抗体治療を受けている
• その他、免疫系に影響するタンパク質キナーゼ阻害薬やPARP阻害薬などの分子標的療法を受けている
• 6ヵ月以内に骨髄移植や幹細胞移植を受けた人、または現在、免疫抑制剤の投与を受けている
• 60歳以上の高齢
• がん以外の持病がある(心・血管系疾患、糖尿病、高血圧、呼吸器疾患など)
 市中に感染が蔓延している状況下では、病院へ行く頻度が高い人はやはり感染リスクが高くなるとして、治療によるベネフィットを考慮したうえで、受診の機会をどうコントロールしていくかが重要になると話した。

感染のリスクと治療のベネフィットを、どう考えるか

 大曲 貴夫氏(国立国際医療研究センター病院国際感染症センター)は今後の流行の状況について、「いま来ている波が落ち着いたとしても、また次の波に警戒しなければならない」とし、ある程度長い期間、寄せては返しを繰り返すのではないかと話した。先がみえない状況の中で、治療延期の判断、延期期間をどう考えていけばよいのか。

 勝俣 範之氏(日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科)は、「がん治療の延期・中止は非常に慎重に行うべき」として、病状が安定していて、半年に一度などのフォローアップの患者さんで、たとえば1ヵ月後に延期する、といったところから始めていると話した。

 大須賀氏は、医療資源が確保できず安全な治療自体が行えない場合、いま治療を実施することによって感染リスクが高まると判断される場合は延期・治療法の変更が検討されるとし、治療自体の緊急性や効果といった個別の状況のほか、地域での感染状況などから総合的に判断されるというのが現状の世界での基本的見解だろうと話した。

 そして、もし治療の延期や変更を決めた場合には、「なぜ延期/変更されたのかを患者さんが理解しないといけないし、医師は理解できるように説明できないといけない」と上野 直人氏(テキサス大学MDアンダーソンがんセンター乳腺腫瘍内科)。会場の参加医師からは、貴重な受診機会を効率的なものにするために、平時以上に、患者さんに事前に質問事項をメモして来院するよう伝えるべきではという声も聞かれた。

続く緊張と感染への不安で食事がとれなくなっている患者も

 秋山 正子氏(認定NPO法人マギーズ東京)は、感染を心配しすぎて過敏になり、食事や水分をまともにとれていないような状況もある、と指摘。電話相談などを受けていると、家にずっと閉じこもる状況下で緊張状態になり、身体をうまく休めることができなくなっている人もいるという。

 天野 慎介氏(一般社団法人 全国がん患者連合会)は、「まず自分がストレスを感じていることを認めて受け入れる」ことが重要と話した。そのうえで、日本心理学会によるアウトブレイク下での精神的ストレスを軽減させるための考え方(もしも「距離を保つ」ことを求められたなら:あなた自身の安全のために)について、その一部を紹介した:
• 信頼できる情報を獲得する
• 日々のルーティンを作り,それを守る
• 他者とのヴァーチャルなつながりをもつ
• 健康的なライフスタイルを維持する

つながらない代表電話、医師ができる積極的アプローチとは

 がん治療中に発熱した場合、それが化学療法による副作用なのか、あるいは感染の疑いがあるのか、患者自身が判断するのは不可能で、味覚障害や下痢なども、鑑別が難しい。佐々木 治一郎氏(北里大学病院 集学的がん診療センター)は、「がん治療中の患者さんに関しては、発熱などの何らかの症状があった場合、保健所ではなく、まず主治医に連絡してもらうようにしている」と話した。

 しかし現在、多くの病院で代表電話は非常につながりにくい状況になっている。会場からは、各病院でもがん相談支援センターの直通電話は比較的かかりやすいといった情報が提供された。佐々木氏は、「自粛して1人あるいは家族だけと自宅にいる患者さんに、何らかの支援を提供できるよう動いていくときなのではないか」とし、医師は普段は受け身で相談を受けているが、今はこちらから電話をするなど、積極的なアプローチが必要なのではないかと話した。

正しい情報にアクセスし、適切なサポートにたどり着いてもらうために

 「10秒息を止められれば大丈夫」「水を飲めば予防できる」など、驚くようなデマが拡散し、そして思った以上に患者さんたちはそういった情報に翻弄されてしまっていると勝俣氏。信頼できる情報にアクセスできるように、医療者がサポートしていく必要性を呼び掛けた。また秋山氏は、「直接ではなくても、電話やネットなどのツールを活用し、誰かとつながって話すことで、かなり不安が軽減する」とし、電話相談の窓口などを活用してほしいと話した。本セッション中に登壇者や参加者から提供された情報源や相談窓口について、下記に紹介する。

■新型コロナウイルスに関する情報
臨床腫瘍学会「がん診療と新型コロナウイルス感染症:がん患者さん向けQ&A」
チームオンコロジー「新型コロナウイルス(COVID-19)関連リンク集」
日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT)「新型コロナウイルス情報リンク集」
大須賀 覚先生のnote

■相談窓口など
マギーズ東京「メールやお電話などのご案内」
日本臨床心理士会「新型コロナこころの健康相談電話のご案内」
厚生労働省「新型コロナウイルス感染症関連SNS心の相談」

(ケアネット 遊佐 なつみ)


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COVID-19、各国腫瘍関連学会ががん治療のガイドラインを発表

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 新型コロナウイルスの感染流行を受け、がん患者を感染から守り、治療をどう継続していくかについて、世界各国の腫瘍関連学会が提言やガイドラインを発表している。4月22日時点で発表されたもののなかから、主だったものをまとめた。国内でも、がん診療全般におけるガイドライン制定が見込まれている。

米国臨床腫瘍学会(ASCO)
 がんとCOVID-19に関連する基本情報・これまでに発表された論文へのリンクのほか、専門家によるPPEやマスク装着をテーマとした動画セミナーを無料で公開している。
https://www.asco.org/asco-coronavirus-information

欧州臨床腫瘍学会(ESMO)
 サイト上でがん種別、患者管理、緩和ケアなどの各種ガイドラインを発表するほか、がん種別に患者に対する治療の優先度分けを提示している。
https://www.esmo.org/covid-19-and-cancer

腫瘍外科学会(SSO)
 乳がん、大腸がん、泌尿器がん、メラノーマなど、がん種ごとの患者の分類と治療の優先順位を提示。専門家によるポッドキャストを使ったヘルプガイドも公開している。
https://www.surgonc.org/resources/covid-19-resources/

欧州腫瘍外科学会(ESSO)
 緊急の場合以外のクリニック受診を避けること、オンライン診療を取り入れること、など5つの項目の提言を行っている。
https://www.essoweb.org/news/esso-statement-covid-19/

米国外科学会(ACS)
 がんを中心に各領域別に手術の優先順位についての考え方をまとめたトリアージガイドラインを公開している。
https://www.facs.org/covid-19/clinical-guidance/elective-case

米国腫瘍放射線学会(ASTRO)
 COVID-19推奨事項をはじめ、臨床的意思決定に直接関連する20項目のQ&A、有用な医学論文やウエブサイトへのリンクを掲載する。
https://www.astro.org/Daily-Practice/COVID-19-Recommendations-and-Information

欧州腫瘍放射線学会(ESTRO)
 会長による声明のほか、関連する論文、資料などがまとめられている。
https://www.estro.org/About/Newsroom/COVID-19-and-Radiotherapy

(ケアネット 杉崎 真名)


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新型コロナ陽性および疑い患者への外科手術について、12学会が共同提言/日本外科学会など

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 日本医学会連合、日本外科学会をはじめとする外科系12学会は4月1日、連名で「新型コロナウイルス陽性および疑い患者に対する外科手術に関する提言」を発出した。流行下での手術トリアージの目安のほか、気管挿管・抜管時のリスク回避策など、医療従事者の感染リスク防止のための方策がまとめられている。

 本提言の内容は以下の通り:
・患者および術式選択について
・個人用防護具(PPE:Personal Protective Equipment)について
・気管挿管・抜管時のリスク回避について
・その他の手術リスクについて
・手術後の対応について
・帰宅時の対応について
・緊急手術について

 なお、今後の状況に応じて提言は適宜見直されるとし、日本外科学会では4月14日に外科手術トリアージ表の改訂版を発表。4月21日には、提言の中で推奨された排煙装置の使用について、日本外科教育研究会により「新型コロナウイルス感染症とサージカルスモーク」の解説が提供されていることを紹介。この解説では、サージカルスモークによる感染を防ぐため、関連の参考文献とともに医療用マスクや排煙装置の防護法などについて記載されている。

 日本外科学会ホームページでは、「新型コロナウイルス(COVID-19)特設ページ」が設けられており、これらの情報が随時更新されている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


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がん患者のVTE治療、アピキサバンは低分子ヘパリンに非劣性/NEJM

提供元:CareNet.com

 がん患者の静脈血栓塞栓症(VTE)の治療において、直接経口抗凝固薬(DOAC)アピキサバンは、低分子ヘパリン(LMWH)ダルテパリン皮下投与と比較して、VTE再発に関して非劣性で、消化管の大出血のリスクを増加させないことが、イタリア・ペルージャ大学のGiancarlo Agnelli氏らが行った「Caravaggio試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2020年3月29日号に掲載された。現行の主要なガイドラインでは、がん患者のVTE治療にはLMWHが推奨され、最近、DOACであるエドキサバンとリバーロキサバンの使用の考慮が追加されたが、これらのDOACは出血のリスクが高いため有益性は限定的だという。

LMWHと比較する無作為化非劣性試験

 本研究は、がん患者のVTE治療におけるアピキサバンのダルテパリンに対する非劣性を検証する医師主導の非盲検無作為化非劣性試験である(Bristol-Myers SquibbとPfizerの提携組織の助成による)。

 対象は、年齢18歳以上、症候性または急性の近位型深部静脈血栓症(DVT)または肺塞栓症(PE)を有するがん患者であった。これらの患者が、アピキサバン群(10mg[1日2回]、7日間経口投与後、5mg[1日2回]を投与)、またはダルテパリン群(200 IU/kg[1日1回]、1ヵ月皮下投与後、150 IU/kg[1日1回]を投与)に無作為に割り付けられ、6ヵ月の治療が行われた。

 有効性の主要アウトカムは、試験期間中に客観的に確定されたVTE再発(症候性のDVTまたはPEの再発)とした。安全性の主要アウトカムは大出血であった。事前に規定された非劣性マージンは、ハザード比(HR)の両側95%信頼区間(CI)上限値2.00とした。

VTE再発:5.6% vs.7.9%、大出血:3.8% vs.4.0%

 2017年4月~2019年6月までに、欧州9ヵ国、イスラエル、米国の119施設に1,155例が登録された。アピキサバン群が576例(平均年齢67.2[SD 11.3]歳、男性292例[50.7%])、ダルテパリン群は579例(67.2[10.9]歳、276例[47.7%])であった。治療期間中央値は、アピキサバン群が178日(IQR:106~183)、ダルテパリン群は175日(79~183)だった(p=0.15)。

 ベースラインのPE±DVTは、アピキサバン群が52.8%、ダルテパリン群は57.7%、DVTはそれぞれ47.2%、42.3%、症候性DVTまたはPEは、79.9%、80.3%であった。また、活動性のがんは、アピキサバン群が97.0%、ダルテパリン群は97.6%、局所進行・再発または転移を有するがんは、それぞれ67.5%、68.4%だった。

 VTE再発は、アピキサバン群が576例中32例(5.6%)、ダルテパリン群は579例中46例(7.9%)で認められ、アピキサバン群のダルテパリン群に対する非劣性が確認され、優越性は示されなかった(ハザード比[HR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.37~1.07、非劣性のp<0.001、優越性のp=0.09)。

 このうち、DVT再発は、アピキサバン群が576例中13例(2.3%)、ダルテパリン群は579例中15例(2.6%)で発生し(HR:0.87、95%CI:0.34~2.21)、PE再発はそれぞれ576例中19例(3.3%)および579例中32例(5.5%)で発生した(0.54、0.29~1.03)。

 大出血は、アピキサバン群が576例中22例(3.8%)、ダルテパリン群は579例中23例(4.0%)で発生し、両群間に有意な差はみられなかった(HR:0.82、95%CI:0.40~1.69、p=0.60)。消化管大出血は、アピキサバン群が576例中11例(1.9%)、ダルテパリン群は579例中10例(1.7%)で発生した(1.05、0.44~2.50)。

 また、臨床的に重要な非大出血(アピキサバン群576例中52例[9.0%]vs.ダルテパリン群579例中35例[6.0%]、HR:1.42、95%CI:0.88~2.30)や、全死因死亡(576例中135例[23.4%]vs.579例中153例[26.4%]、0.82、0.62~1.09)の発生にも、両群間に差はなかった。

 著者は、「これらのがん患者におけるアピキサバンの良好な安全性プロファイルは、一般集団のVTE治療におけるアピキサバンの無作為化試験の結果と一致する。これらの知見を合わせると、消化器がんを含め、アピキサバンが適応となるVTEを有するがん患者の割合が拡大する可能性がある」と指摘している。

(医学ライター 菅野 守)


【原著論文はこちら】

Agnelli G, et al. N Engl J Med. 2020 Mar 29. [Epub ahead of print]

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