HER2低発現乳がんへのtrastuzumab deruxtecanの効果と安全性/JCO

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 trastuzumab deruxtecan(T-DXd)は2019年12月、米国食品医薬品局(FDA)より「転移乳がんに対する治療として2つ以上の抗HER2療法を受けたHER2陽性の手術不能または転移乳がん」に対して迅速承認された。今回、HER2低発現(IHC 1+もしくは2+ / ISH-)の乳がん患者における推奨展開用量(RDE)の効果と安全性について、米国・Memorial Sloan Kettering Cancer CenterのShanu Modi氏らがJournal of Clinical Oncology誌オンライン版2020年2月14日号で報告。本剤の有望な抗腫瘍活性が示され、毒性は消化管または血液毒性がほとんどだったが、重要なリスクとして間質性肺疾患(ILD)が特定された。

 本試験の適格患者は、標準治療に不応/不耐の進行/転移HER2低発現乳がん患者(米国は18歳以上、日本は20歳以上)。T-DXdを、同意の撤回、許容できない毒性発現、または病勢進行まで、3週ごとに1回、5.4または6.4mg/kgを静脈内投与し、抗腫瘍活性と安全性を評価した。

 主な結果は以下のとおり。

・2016年8月~2018年8月に54例が登録され、RDEで1回以上T-DXdを投与した。
・前治療の中央値は7.5であった。
・独立中央判定による奏効率は20/54(37.0%、95%CI:24.3~51.3%)、奏効期間中央値は10.4ヵ月(95%CI:8.8ヵ月~未達)であった。
・治療関連有害事象(TEAE)は、患者のほとんど(53/54、98.1%)で1つ以上認められた(Grade3以上:34/54、63.0%)。
・Grade3以上の主な(5%以上)TEAEは、好中球減少症、血小板減少症、白血球減少症、貧血、低K血症、AST上昇、食欲不振、下痢などであった。
・6.4mg/kgで治療された3例で、T-DXdによる間質性肺疾患(ILD)/肺臓炎関連の致死的イベントを認めた(独立中央判定委員会による)。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Modi S, et al. J Clin Oncol. 2020 Feb 14:JCO1902318. [Epub ahead of print]

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日本人HER2+早期乳がんへのトラスツズマブ、長期予後解析(JBCRG-cohort study 01)

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 日本人のHER2陽性早期乳がん患者に対する、周術期のトラスツズマブ療法による5年および10年時の予後への影響が評価された。大規模試験において予後改善が示されてきたが、日本人患者における長期的有効性は明らかではない。また、新たな抗HER2薬などが登場する中で、治療を強化すべき患者と、軽減すべき患者の判断基準が課題となっている。そのため、治療選択のための再発予測モデルの構築が試みられた。天理よろづ相談所病院の山城 大泰氏らによる、Breast Cancer誌オンライン版2020年2月14日号掲載の報告より。

 本研究は、浸潤性HER2陽性乳がんI~IIIC期と組織学的に診断され、周術期にトラスツズマブによる治療を少なくとも10ヵ月以上受けた20歳以上の患者を対象とした観察研究。主要評価項目は無病生存期間(DFS)、副次評価項目は全生存期間(OS)であった。

 主な結果は以下のとおり。

・2009年7月~2016年6月の間に、国内56施設から2,024例を登録。適格基準を満たさなかった43例を除き、1,981例が解析対象とされた。
・ベースライン時の治療歴は、術前化学療法を35.4%、術後化学療法を99.6%が受けていた。トラスツズマブ投与は術前のみが1.3%、術前および術後が22.2%、術後のみが76.5%であった。乳房温存術を51.6%、乳房切除術を48.4%が受けていた。また、術後ホルモン療法は48.2%、術後放射線療法は57.5%が受けていた。
・追跡期間中央値は80.9ヵ月(5.0~132.2ヵ月、平均80.2ヵ月)。
・5年DFS率は88.9%(95%信頼区間[CI]:87.5~90.3%)、10年DFS率は82.4%(95%CI:79.2~85.6%)。
・5年OS率は96%(95%CI:95.1~96.9%)、10年DFS率は92.7%(95%CI:91.1~94.3%)。
・多変量解析により、再発のリスク因子は≧70歳、≧T2、臨床的に認められたリンパ節転移、組織学的腫瘍径>1cm、組織学的に認められたリンパ節転移(≧n2)、および術前治療の実施であった。
・標準治療下での5年再発率は、構築された再発予測モデルでスコアが3以上の患者で10%超と推定された。

 著者らは、単群の観察研究データに基づくことの限界に触れたうえで、この再発予測モデルがI~IIIC期の患者の治療選択を改善する可能性があると結んでいる。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【原著論文はこちら】

Yamashiro H, et al. Breast Cancer. 2020 Feb 14. [Epub ahead of print]

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転移TN乳がん1次治療、PTXにcapivasertib追加でPFSとOS延長(PAKT)/JCO

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 トリプルネガティブ乳がん(TNBC)においてはPI3K/AKTシグナル伝達経路の活性化が頻繁にみられる。TNBCの1次治療でパクリタキセル(PTX)にAKT阻害薬capivasertibを追加したときの有効性と安全性を評価した二重盲検プラセボ対照無作為化第II相試験(PAKT試験)で、capivasertib追加で無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)が著明に延長し、とくにPIK3CA/AKT1/PTEN変異TNBCではより顕著であったことを英国・クイーンメアリー大学のPeter Schmid氏らが報告した。Journal of Clinical Oncology誌2020年2月10日号に掲載。

 本試験の対象は未治療の転移を有するTNBCの女性140例。1サイクル28日間でPTX 90mg/m2(1、8、15日目)+capivasertib(400mg、1日2回)またはPTX+プラセボ(2~5、9~12、16~19日)に無作為に1対1に割り付け、病勢進行または許容できない毒性発現まで投与した。主要評価項目はPFS、副次評価項目はOSのほか、PIK3CA/AKT1/PTEN変異によるサブグループでのPFSおよびOS、腫瘍縮小効果、安全性であった。

 主な結果は以下のとおり。

・PFS中央値は、capivasertib+PTXが5.9ヵ月、プラセボ+PTXが4.2ヵ月であった(ハザード比[HR]:0.74、95%信頼区間[CI]:0.50〜1.08、片側p=0.06、事前に定義された有意水準は片側p=0.10)。
・OS中央値は、capivasertib+PTXが19.1ヵ月、プラセボ+PTXが12.6ヵ月であった(HR:0.61、95%CI:0.37〜0.99、両側p=0.04)。
PIK3CA/AKT1/PTEN変異患者(28例)のPFS中央値は、capivasertib+PTXが9.3ヵ月、プラセボ+PTXが3.7ヵ月であった(HR:0.30、95%CI:0.11〜0.79、両側p=0.01)。
・Grade3以上の主な有害事象は、下痢(capivasertib+PTX vs.プラセボ+PTX:13% vs.1%)、感染症(4% vs.1%)、好中球減少症(3% vs.3%)、発疹(4% vs.0%)、疲労(4% vs.0%)であった。

(ケアネット 金沢 浩子)


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Schmid P, et al. J Clin Oncol. 2020;38:423-433.

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低脂肪食で乳がん死亡リスクは減るか~無作為化比較/JCO

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 食事による脂肪摂取量と乳がんの関連について、観察研究では結果が一貫していない。米国・Harbor-UCLA Medical CenterのRowan T. Chlebowski氏らは、乳がん発症における低脂肪食の影響を検討したWomen’s Health Initiative(WHI)Dietary Modification(DM)試験の追加解析で、乳がん後の死亡リスクとの関連を検討した。その結果、閉経後女性において、野菜、果物、穀物の摂取を増やした低脂肪の食事パターンが、乳がんによる死亡リスクを減らす可能性が示唆された。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2020年2月7日号に掲載。

 WHI DM試験の対象は、米国の40施設において、乳がんの既往がなく食事性脂肪でエネルギーの32%以上を摂取している50~79歳の閉経後女性4万8,835人。通常の食事群(60%)もしくは食事介入群(40%)に無作為に割り付けた。

 主な結果は以下のとおり。

・食事介入8.5年における乳がん発症および乳がんによる死亡は、介入群で低かったが有意ではなかった。一方、乳がん後の死亡は、介入期間中および16.1年(中央値)のフォローアップ期間を通して有意に低かった。

・長期フォローアップ後(中央値:19.6年)も、介入群における乳がん後の死亡の有意な低下は持続した(359例[0.12%]vs.652例[0.14%]、HR:0.85、95%CI:0.74〜0.96、p=0.01)。また、乳がんによる死亡の低下も有意になった(132例[年当たりリスク0.037%]vs.251例[0.047%]、HR:0.79、95%CI:0.64〜0.97、p=0.02)。

(ケアネット 金沢 浩子)


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Chlebowski RT, et al. J Clin Oncol. 2020 Feb 7:JCO1900435. [Epub ahead of print]

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成人後に5kg増えると閉経前乳がんリスクは?~63万人のプール解析

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 女性は成人初期以降に体重が大きく増減することがある。これまでに体の大きさと閉経前乳がんリスクとの関係は報告されているが、体重変化と閉経前乳がんリスクとの関係は不明である。今回、英国・The Institute of Cancer ResearchのMinouk J. Schoemaker氏らが、17件の前向き研究の個人データをプール解析したところ、成人初期の体重に関係なく、成人初期から45〜54歳までの体重増加が閉経前乳がんリスクの低下と関連することが示唆された。International Journal of Cancer誌オンライン版2020年2月3日号に掲載。

 本研究では、成人初期の体重、体重変化時期、他の乳がんリスク因子、乳がんサブタイプを考慮し、体重変化と閉経前乳がんリスクとの関連を調査した。ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)は、Cox回帰を用いて評価した。

 主な結果は以下のとおり。

・62万8,463人の女性のうち、1万886人が閉経前に乳がんと診断された。
・18〜24歳時の体重および他の乳がんリスク因子で調整したモデルにおいて、18〜24歳から35〜44歳まで、もしくは45〜54歳までの体重増加が乳がん全体(例:45〜54歳までの5kg増当たりのHR:0.96、95%CI:0.95~0.98)およびエストロゲン受容体(ER)陽性乳がん(45~54歳までの5kg増当たりのHR:0.96、95%CI:0.94~0.98)と逆相関することが示された。
・25~34歳からの体重増加はER陽性乳がんのみと逆相関し、35~44歳からの体重増加はリスクと関連していなかった。
・これらの体重増加はいずれもER陰性乳がんリスクとは関連していなかった。
・体重減少については、成人初期の体重を調整すると、全体またはER有無別のリスクと関連していなかった。

 なお、日本人女性コホートのプール解析では、閉経前乳がんとBMIとの間に正の関連がみられたとの報告(Wada K, et al. Ann Oncol. 2014;25:519-524.)があることから、日本人女性では欧米人女性とは傾向が異なる可能性もある。

(ケアネット 金沢 浩子)


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Schoemaker MJ, et al. Int J Cancer. 2020 Feb 3. [Epub ahead of print]

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フルベストラント+capivasertib、AI耐性進行乳がんでPFS延長(FAKTION)/Lancet Oncol

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3d illustration shows breast cancer with lymphatics, medically 3D illustration on pink background

 capivasertibは、セリン/スレオニンキナーゼAKTの3つのアイソフォームすべてを強力に阻害するAKT阻害薬である。本剤の無作為化二重盲検プラセボ対照第II相試験(FAKTION試験)において、アロマターゼ阻害薬(AI)に耐性の進行乳がん患者に対し、フルベストラントにcapivasertibを追加することで無増悪生存期間(PFS)が有意に延長することを、英国・カーディフ大学のRobert H. Jones氏らが報告した。Lancet Oncology誌オンライン版2020年2月5日号に掲載。

 本試験の対象は、英国の19病院において、18歳以上、ECOG PS 0〜2、エストロゲン受容体(ER)陽性、HER2陰性で、AIで再発/進行した手術不能の転移/局所進行乳がんの閉経後女性。登録された参加者は無作為に1対1に割り付けられ、病勢進行、許容できない毒性、追跡不能、同意の撤回まで、フルベストラント500mg(1日目)を28日ごとに投与(1サイクル目の15日目に負荷用量を追加)、capivasertib 400mgまたはプラセボを4日間投与3日間休薬の週間スケジュール(1サイクル目の15日目から開始)で1日2回経口投与した。主要評価項目はPFS(片側α:0.20)。参加者募集は終了し、試験は追跡期間中である。

 主な結果は以下のとおり。

・2015年3月16日~2018年3月6日にスクリーニングされた183例中140例(76%)が適格基準を満たし、フルベストラント+capivasertib(capivasertib 群、69例)またはフルベストラント+プラセボ(プラセボ群、71例)に無作為に割り付けられた。
・PFSの追跡期間中央値は4.9ヵ月であった(IQR:1.6〜11.6)。
・PFSの初回解析時(2019年1月30日)までにPFSイベントが112例に発生し、capivasertib群は69例中49例(71%)、プラセボ群は71例中63例(89%)であった。
・PFS中央値はcapivasertib群が10.3ヵ月(95%CI:5.0~13.2)、プラセボ群が4.8ヵ月(同:3.1~7.7)で、未調整のハザード比(HR)は0.58(95%CI: 0.39~0.84)でcapivasertib群が優位であった(両側p=0.0044、片側log rank検定p=0.0018)。
・Grade3/4の主な有害事象は、高血圧(capivasertib群69例中22例[32%]vs.プラセボ群71例中17例[24%]、下痢(10例[14%]vs.3例[4%])、発疹(14例[20%]vs. 0例)、感染症(4例[6%]vs. 2例[3%])、疲労(1例[1%]vs.3例[4%])であった。
・重篤な有害事象はcapivasertib群でのみ発生し、急性腎障害(2例)、下痢(3例)、発疹(2例)、高血糖(1例)、意識喪失(1例)、敗血症(1例)、嘔吐(1例)であった。
・非定型肺炎による死亡1例は、capivasertibの治療関連と評価された。
・capivasertib群のもう1例の死亡原因は不明で、それ以外の両群における死亡(capivasertib群19例、プラセボ群31例)はすべて疾患関連であった。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Jones RH, et al. Lancet Oncol. 2020 Feb 5. [Epub ahead of print]

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がん患者さんのための「男の整容本」ダウンロード可能に

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 資生堂は2月4日、日本対がん協会の協力で小冊子「男の整容本」を発行した。がん治療の副作用による外見上の変化(肌や頭皮の乾燥、眉の脱毛など)は女性だけでなく、男性にも現れる。それらをカバーするために、化粧に不慣れな場合であっても試すことができるよう、簡単でわかりやすいテクニックや美容情報がまとめられている。

 治療の進歩や早期発見により、がんと向き合って過ごす期間が長くなる傾向にあり、就労をしながら通院しているがん患者も増加している。「男の整容本」では、外出時やビジネスシーンなどで役立てられるよう、男性のために考えられたテクニックを全15ページでわかりやすくアドバイス。外見ケアを実際に体験した男性患者からの声として、「もうすぐ仕事に復帰するので、眉を描いたら、やっとスーツ姿の自分が想像できた」、「化粧に抵抗があったが、思っていたより自然で外出が気楽になった」などが紹介されている。

<小冊子の概要>

1. タイトル:「男の整容本」(ホームページからダウンロード可能)
2. 内容:
 Section 1 男の眉メイク
 Section 2 男の肌色カバー
 Section 3 男の頭髪ケア
 Section 4 男の肌ケア
 Section 5 男の唇ケア
 Section 6 男の手指ケア
3. 発行:2020年2月4日(火) *価格は無料

 同社は2019年10月に女性向け美容情報の小冊子「がん患者さんのためのBeauty Book」を発行しており、こちらも上記ホームページからダウンロードが可能。また、医療従事者用の専用ページも設けられており、医療従事者向け・患者向けそれぞれの外見ケアセミナー(無料)への申し込みが可能となっている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


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化学療法誘発性悪心・嘔吐にオランザピン5mgは有効か(J-FORCE)/Lancet Oncol

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 オランザピンは、化学療法誘発性悪心・嘔吐にアプレピタント、パロノセトロン、デキサメタゾンの3剤からなる標準制吐療法への追加が推奨されるが、その用量は10mgである。オランザピン5mgは、複数の第II相試験で10mgと同等の活性と良好な安全性プロファイルが示されている。国立がん研究センター中央病院の橋本 浩伸氏らは、シスプラチンベース化学療法による悪心・嘔吐の予防における、オランザピン5mg追加の有効性を評価する無作為化二重盲検プラセボ対照第III相J-FORCE試験を実施した。Lancet Oncology誌オンライン版2019年12月11日号掲載の報告。

 J-FORCE試験は国内26施設で行われた。対象は、シスプラチン(50mg/m2以上)の初回治療を受ける、造血器悪性腫瘍を除く悪性腫瘍患者。年齢は20~75歳。ECOG PSは0〜2。対象患者は、アプレピタント、パロノセトロン、デキサメタゾンに加え、オランザピン5mg/日またはプラセボを投与する群に1対1に無作為に割り付けられた。主要評価項目は、完全奏効(遅延期[24~120時間]において嘔吐がなく、レスキュー薬を使用しない)患者の割合とした。

 主な結果は以下のとおり。

・2017年2月9日~2018年7月13日に、710例の患者が登録された。
・356例がオランザピン5mg群に、354例がプラセボ群に無作為に割り付けられた。
・完全奏効患者の割合は、オランザピン5mg群79%(354例中280例)、プラセボ群66%(351例中231例)と、オランザピン5mg群で有意に多かった(p<0.0001)。
・オランザピン群で、治療に関連したGrade3の便秘、Grade3の傾眠がそれぞれ1例に発現した。

 筆者らは、「標準制吐療法であるアプレピタント、パロノセトロン、デキサメタゾンへのオランザピン5mgの追加は、シスプラチンベース化学療法患者の新たな標準制吐療法となりうる」と述べている。

(ケアネット 細田 雅之)


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Hashimoto H, et al. Lancet Oncol. 2019 Dec 11. [Epub ahead of print]

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乳がん治療、ガイドラインに従わないときの生存率

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 乳がん治療において、ガイドラインで推奨される治療を受け入れない乳がん患者もいる。もしガイドラインに従わない場合、生存率にどの程度影響するのだろうか。今回、シンガポールゲノム研究所のPeh Joo Ho氏らは、大規模な乳がん患者集団において推奨治療の非順守の予測因子および生存率への影響を検討した。その結果、ガイドラインで推奨された手術や放射線療法を順守しない場合、全生存が2倍以上悪化し、ガイドラインによる適切な治療に従うことの重要性が強調された。また、高齢患者でも同様の結果が得られ、推奨治療により恩恵を受ける可能性が示唆された。Scientific Reports誌2020年1月28日号に掲載。

 本研究の対象は、2005~15年にシンガポールで乳がんと診断された患者のうち、転移のない乳がん患者1万9,241例で、3,158例(16%)が診断後10年以内に死亡した(生存期間中央値:5.8年)。シンガポールの公立病院では、一般にNCCNガイドラインとザンクトガレン2005コンセンサスに従っている。ロジスティック回帰を用いた治療非順守と因子との関連、パラメトリック生存モデルフレームワークを用いた治療非順守が全生存に及ぼす影響を検討した。

 主な結果は以下のとおり。

・治療非順守率が最も高かった治療は化学療法(18%)であった。
・化学療法、放射線療法、内分泌療法が順守されない予測因子は、年齢、腫瘍の大きさ、リンパ節転移、サブタイプ(放射線療法を除く)であった。
・手術拒否に関連する因子は、年齢とサブタイプであった。
・治療非順守は、手術(ハザード比[HR]:2.26、95%信頼区間[CI]:1.80~2.83)、化学療法(HR:1.25、95%CI:1.11~1.41)、放射線療法(HR:2.28、95%CI:1.94~2.69)、内分泌療法(HR:1.70、95%CI:1.41~2.04)において全生存が悪化した。
・ガイドラインが通常適用されない高齢患者でも同様の結果が得られた。

(ケアネット 金沢 浩子)


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Ho PJ, et al. Sci Rep. 2020;10:1330.

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「患者力」を上げるため、医師ができること

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 ネット上の情報に振り回され、代替医療に頼ろうとする患者、自分で何も考えようとせず、すべてお任せの患者、どんな治療も拒否する患者…。本人がそう言うならば仕方がないとあきらめる前に、医師にできることはあるのか。2020年1月12~13日、「第1回医療者がリードする患者力向上ワークショップ」(主催:オンコロジー推進プロジェクト、共催:Educational Solution Seminar、アストラゼネカ)が開催された。本稿では、東 光久氏(福島県立医科大学白河総合診療アカデミー)、上野 直人氏(テキサス大学MDアンダーソンがんセンター)、守田 亮氏(秋田厚生医療センター)による講演の内容を紹介する。

まず患者の自己解決力を信じ、自信を与え、力をつける手伝いをする

 「患者力を高める」、「患者をエンパワメントすべき」。近年よく耳にするようになったこれらの言葉だが、具体的に何を指すのか。東氏はまず、この2つの言葉について以下のようにまとめた。

「患者力」とは
 自分の病気を医療者任せにせず、自分事として受け止め、いろいろな知識を習得したり、医療者と十分なコミュニケーションを通じて信頼関係を築き、人生を前向きに生きようとする患者の姿勢

「Patient Empowerment」とは
 患者が、患者力を自主的に発揮できるように、医療者が援助すること

「前回何を話したか覚えていますか?」から診察をスタートしてみる

 自身もがんを経験した上野氏は、「振り返ると私自身も決して高い“患者力”を持った患者ではなかった」と話す。専門医の自分でさえ難しかった感情のコントロールや後悔のない選択を、医療従事者はどうやってサポートしていけばよいのか。同氏は患者力を高めるために重要なスキルを、「コミュニケーション」「情報の吟味」「自己主張」の3つに分けて、患者力向上に向けて医療者ができることについて具体的に整理した。

コミュニケーション
・焦らせない、慢性疾患のスタンスで接する(決断を急がせない/急かす態度をとらない/パソコンをいじりながら話さない):同氏は、医師の中には「早く決めてほしい」という気持ちが顔に出ている人もいると指摘。
・医師が話した内容を取得させる(録音・録画・同伴者と来院することを推奨):医師のほうから、録音の準備をしてきたらどうですか?と声がけする。
・質問上手にさせる(質問をあらかじめ準備させる/質問のために別の時間を設定/質問を評価する):質問票を作ってくるように言って、質問が明確でないときはどこが明確でないのかを指摘する=ともにスキルアップ。

情報の吟味
・話す内容をできる限り分かりやすくする(専門用語は原則禁止だが、キーワードは専門用語と一般用語を両方伝える/図を多用):専門用語を正しく伝えることで、検索したときにヒットする情報が大きく変わる。
・医師が話した内容を消化させる(医療者に説明してみてもらう←間違いや勘違いがあれば指摘/家族や友人に自分で説明してもらう):毎回診察のはじめに、前回何を話したか覚えているかを確認する。
・標準治療の意味を理解させる(標準治療かそうでないかを説明/標準治療でない場合は、その理由をていねいに説明/臨床試験とは何かを説明):あらかじめ優良なサイトを紹介する、気になった情報があればプリントアウトして持ってきてほしいと伝えることも重要。

自己主張
・治療法を自分で選べるようにサポート(選択肢を数多く与えるだけではなく、優先順位とともに伝える):なぜその優先順位なのかを説明する。
・自分の希望を伝えられるようサポート(価値観・職歴・趣味を知る努力):価値観は常に変化するので、治療開始直後の希望が変化していないとはかぎらない。医療者は常に患者から情報を引き出す努力が必要。
・恐れないチャレンジをサポート(標準治療と臨床試験の違いを教育/臨床試験のオプションを提示/セカンドオピニオンについての教育と提示):ただし、人には詳しく聞きたい気分のときと聞きたくない気分のときがある。最初に「今日は詳しく聞きたいですか?」と尋ねるのも一手。

劇的な治療効果が、医師の目を曇らせている?

 「先生、皮膚にボツボツができて辛いです…」「この薬を使うと出る患者さんが多いんです。これだけ治療効果があるので、やめるのはもったいないですよ」。こんな診察風景に覚えはないだろうか。守田氏は、近年分子標的薬による治療の進歩が著しい肺がん領域を例に、医師と患者が感じる副作用のギャップについて講演した。

 肺がん領域で使われるEGFR-TKIの副作用で多くみられるのが下痢や皮疹、爪の異常だが、生存に大きな影響は及ぼさないという点で医師は治療効果をどうしても優先させがちになる。しかし、がん患者が感じる副作用の“つらさ”についてのアンケート 1) では、皮膚や爪の異常に対して感じるつらさは決して小さくなかった。さらにそのつらさを医療者に伝えたかという問いに対して、4割が伝えていないと答えていた。

 また、同アンケートで約8割以上の人が「医療者に伝えられなかった」と答えたのが、“経済的なつらさ”だった。同氏が診療に従事する秋田県では農業従事者が多く、ある時期は集中的に働かないと年間収入が激減するので、その期間中は抗がん剤を休みたいという申し出があったという。治療効果という観点ではマイナスであっても、治療を続けていく患者自身にとっては譲れない点であるケースもありうる。そして、医師が真摯に「治すために」と強調するほど、経済的な問題点は言い出しにくくなってしまう。

 医師は臨床試験における担当医判断による有害事象の発生状況を判断基準とすることが多いが、客観的評価であるCTCAEと患者自身の主観的な訴え(patient report)の間には差があることが報告されている 2) 。守田氏は、この隙間を埋めるために、医師のほか各職種がそれぞれの専門性を生かして患者力向上に取り組んでいくことが重要として、講演を締めくくった。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【参考文献・参考サイトはこちら】

1)塩野義製薬.患者のつらさ実態調査;2014.

2)Basch E, et al. N Engl J Med. 2010;362:865-9.

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