がんサバイバーの心不全発症、医療者の知識不足も原因か/日本腫瘍循環器学会

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 9月30日(土)~10月1日(日)の2日間、神戸にて第6回日本腫瘍循環器学会学術集会が開催される(大会長:平田 健一氏[神戸大学大学院医学研究科 内科学講座 循環器内科学分野])。それに先立ち、大会長による学会の見どころ紹介のほか、実際にがんサバイバーで心不全を発症した女性がつらい胸の内を語った。

がん治療を始める前に、病歴にもっと目を向けてほしかった

 今回のメディアセミナーに患者代表として参加した女性は、10代で悪性リンパ腫の治療のために抗がん剤を使用。それから十数年以上経過した後に健康診断で乳がんを指摘されて乳房温存手術を受けたが、その後にリンパ節転移を認めたため、抗がん剤(計8コース)を行うことになったという。しかし、あと2コースを残し重症心不全を発症した。幸いにも植込み型補助人工心臓(VAD)の臨床試験に参加し、現在に至る。

 この女性は医療機関にかかる際には必ず病歴を申告していたそうだが、治療の際に医療者から“抗がん剤の種類によっては生涯使用できる薬剤量の上限があること”を知らされず、「後になって知った」と話した。今回、過去の治療量が反映されなかったことが原因で心不全を発症したそうだが「乳がん治療のための抗がん剤を始める際は、むくみや動悸については説明があったものの、抗がん剤が心臓に与える影響や病歴について何も触れられなかったことはとても残念だった。5コース目の際に看護師に頻脈を指摘されたがそれ以上のことはなかった。VADは命を救ってくれたが私の人生の救いにはまったくなっていない。日常生活では制約だらけでやりたいことは何もできない」と悔しさをにじませた。「生きるために選択した治療が生きる希望を失う状況を作り出してしまったことは悔しく、残念でならない」とする一方で、「医療者や医療が進歩することを期待している」と医療現場の発展を切に願った。

 これに対し小室氏は、医療界における腫瘍循環器の認知度の低さ、がん治療医と循環器医の連携不足が根本原因とし「彼女の訴えは、治療歴の影響を鑑みて別の抗がん剤治療の選択はなかったのか、心保護薬投与の要否を検討したのかなど、われわれにさまざまな問題を提起してくださった。患者さんががん治療を完遂できるよう研究を進めていきたい」とコメントした。

 前述の女性のような苦しみを抱える患者を産み出さないために、がん治療医にも循環器医にも治療歴の聴取もさることながら、心毒性に注意が必要な薬剤やその対処法を患者と共有しておくことも求められる。そのような情報のアップデートのためにも4年ぶりの現地開催となる本学術集会が診療科の垣根を越え、多くの医療者の意見交換の場となることを期待する。

さまざまな学会と協働し、問題解決に立ち向かう

 大会長の平田氏は「今年3月に発刊されたOnco-cardiologyガイドラインについて、今回のガイドラインセッションにて現状のエビデンスや今後の課題について各執筆者による解説が行われる。これに関し、2022年に発表されたESCのCardio-Oncology Guidelineの筆頭著者であるAlexander Lyon氏(英国・Royal Brompton Hospital)にもお越しいただき、循環器のさまざまなお話を伺う予定」と説明した。また、代表理事の小室 一成氏が本学会の注力している活動内容やその将来展望について代表理事講演で触れることについても説明した。

 主な見どころは以下のとおり。

<代表理事講演>
10月1日(日)13:00~13:30
「日本腫瘍循環器学会の課題と将来展望」
座長:南 博信氏(神戸大学内科学講座 腫瘍・血液内科学分野)
演者:小室 一成氏(東京大学大学院医学系研究科 循環器内科学)

<ガイドラインセッション>
9月30日(土)
14:00~15:30
座長:向井 幹夫氏(大阪国際がんセンター)
   南 博信氏(神戸大学内科学講座 腫瘍・血液内科学分野)
演者:矢野 真吾氏(東京慈恵会医科大学 腫瘍血液内科)
   山田 博胤氏(徳島大学 循環器内科)
   郡司 匡弘氏(東京慈恵会医科大学 腫瘍血液内科)
   澤木 正孝氏(愛知県がんセンター 乳腺科)
   赤澤 宏氏(東京大学 循環器内科)
   朝井 洋晶氏
   (邑楽館林医療企業団 公立館林厚生病院 医療部 内科兼血液・腫瘍内科)
   庄司 正昭氏
   (国立がん研究センター中央病院 総合内科・がん救急科・循環器内科)

15:40~17:10
座長:泉 知里氏(国立循環器病研究センター)
   佐瀬 一洋氏(順天堂大学大学院医学研究科 臨床薬理学)
演者:窓岩 清治氏(東京都済生会中央病院 臨床検査科)
   山内 寛彦氏(がん研有明病院 血液腫瘍科)
   田村 祐大氏(国際医療福祉大学 循環器内科)
   坂東 泰子氏(三重大学大学院医学系研究科 基礎系講座分子生理学分野)
   下村 昭彦氏(国立国際医療研究センター 乳腺・腫瘍内科)

<シンポジウム>
9月30日(土)9:00~10:30
「腫瘍と循環器疾患を繋ぐ鍵:clonal hematopoiesis」

10月1日(日)
9:00~10:30
「がん患者に起こる心血管イベントの予防と早期発見-チーム医療の役割-」/日本がんサポーティブケア学会共同企画
10:40~11:50
「腫瘍循環器をメジャーにするために」/広報委員会企画
13:40~15:10
「免疫チェックポイント阻害薬関連有害事象として心筋炎の最新の理解と対応」
15:20~16:50
「小児・AYAがんサバイバーにおいてがん治療後出現する晩期心毒性への対応」/AYAがんの医療と支援のあり方研究会共同企画
15:20~16:50
「第4期がんプロにおける腫瘍循環器学教育」/学術委員会企画

<Keynote Lecture>
9月30日(土)11:20~12:10
「Onco-cardiology and echocardiography (GLS)」
Speaker:Eun Kyoung Kim氏(Samsung Medical Center)

<ストロークオンコロジー特別企画シンポジウム>
10月1日(日)10:50~11:50
「がん合併脳卒中の治療をどうするか」

 このほか、教育セッションでは双方が学び合い、コミュニケーションをとっていくために必要な知識として、「腫瘍循環器学の基本(1)~循環器専門医からがん専門医へ~」「腫瘍循環器学の基本(2)~がん専門医から循環器専門医へ~」「肺がん治療の現状」「放射線治療と心血管障害」などの講演が行われる。

(ケアネット 土井 舞子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

第6回日本腫瘍循環器学会学術集会

日本臨床腫瘍学会・日本腫瘍循環器学会編集. Onco-cardiologyガイドライン. 南江堂;2023.

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ER+/HER2-早期乳がんの細胞増殖抑制効果、giredestrant vs.アナストロゾール(coopERA BC)

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 エストロゲン受容体(ER)+、HER2-の早期乳がんの術前化学療法として、経口選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)のgiredestrantまたはアロマターゼ阻害薬のアナストロゾールを投与した第II相coopERA BC試験の結果、giredestrantはより有意な細胞増殖抑制効果を示し、忍容性は良好であったことを、米国・David Geffen School of MedicineのSara A. Hurvitz氏らが報告した。Lancet Oncology誌2023年9月号の報告。

 coopERA BC試験は、2週間のgiredestrant治療がアナストロゾールよりも強い細胞増殖抑制効果を示すかどうかを検証するためにデザインされた非盲検無作為化対照第II相試験。世界11ヵ国59ヵ所の病院または診療所で実施された。2021年の欧州臨床腫瘍学会で中間解析が報告され、今回は主要解析と最終解析が報告された。

 対象は、cT1c~cT4a-c、閉経後、ER+、HER2-、未治療の早期乳がんで、ECOG PS 0/1、Ki67≧5%の患者であった。参加者は、window of opportunity phaseとして1~14日目にgiredestrant 30mgを1日1回経口投与する群と、アナストロゾール1mgを1日1回経口投与する群に無作為に1対1に割り付けられた。層別化はTステージ、ベースライン時のKi67値、プロゲステロン受容体の状態によって行われた。その後、16週間の術前化学療法として、同じレジメンに加えてパルボシクリブ125mgが1日1回、28日サイクルの1~21日目に経口投与された。主要評価項目は、ベースラインから2週間(window of opportunity phase)のKi67値の変化率であった。

 主な結果は以下のとおり。

・2020年9月4日~2021年6月22日の間に221例の患者が、giredestrant+パルボシクリブ群(112例、年齢中央値62.0歳)とアナストロゾール+パルボシクリブ群(109例、62.0歳)に無作為に割り付けられた。うち194例(88%)は白人であった。
・主要解析(データカットオフ:2021年7月19日)において、Ki67値の平均変化率はgiredestrant群で-75%(95%信頼区間:-80~-70)、アナストロゾール群で-67%(-73~-59)であり、主要評価項目を達成した(p=0.043)。
・最終解析(データカットオフ:2021年11月24日)において、最も多かったGrade3/4の有害事象は好中球減少症(giredestrant+パルボシクリブ群26%[29例]、アナストロゾール+パルボシクリブ群27%[29例])と好中球数の減少(15%[17例]、15%[16例])であった。
・重篤な有害事象はgiredestrant+パルボシクリブ群で4%(5例)、アナストロゾール+パルボシクリブ群で2%(2例)に発現した。治療関連死はなかった。

 これらの結果より、研究グループは「giredestrantは有望な抗増殖・抗腫瘍活性を示し、単剤でもパルボシクリブとの併用でも忍容性は良好であった。この結果は、現在進行中の試験でさらなる検討を行うことを正当化するものである」とまとめた。

(ケアネット 森 幸子)


【原著論文はこちら】

Hurvitz SA, et al. Lancet Oncol. 2023;24:1029-1041.

【参考文献・参考サイトはこちら】

coopERA BC試験(ClinicalTrials.gov)

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各固形がんにおけるHER2低発現の割合は/Ann Oncol

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 新たに定義されたカテゴリーであるHER2低発現(IHC 2+/ISH-またはIHC 1+)は、多くの固形がんで認められることが明らかになった。米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのBurak Uzunparmak氏らによるAnnals of Oncology誌オンライン版2023年8月22日号掲載の報告より。

 本研究では、進行または転移を有する固形がん患者4,701例を対象に、IHC法によるHER2発現状態を評価した。また乳房と胃/食道の原発および転移腫瘍のペアサンプルにおいて、IHC法およびISH法によるHER2発現状態を評価した。

 主な結果は以下のとおり。

・HER2発現(IHC 1~3+)は全体の半数(49.8%)で認められ、HER2低発現は多くのがん種で認められた:乳がん47.1%、胃/食道がん34.6%、唾液腺がん50.0%、肺がん46.9%、子宮内膜がん46.5%、尿路上皮がん46%、胆嚢がん45.5%。
・乳がん629例、胃/食道がん25例における原発腫瘍と転移腫瘍のペアサンプルが評価された。
・乳がん原発腫瘍でHER2陰性(IHC 0)の34.6%およびHER2低発現の38.1%が、転移腫瘍におけるHER2ステータスの不一致を示した。原発腫瘍でHER2陽性(IHC 3+および/またはISH+)の84.1%は転移腫瘍のHER2ステータスに変化がなかった。
・サンプル数が少ないものの、胃/食道がん原発腫瘍でHER2陰性の95.2%は転移腫瘍のHER2ステータスに変化がなかった。
・非乳がんおよび非胃/食道がんにおいて、HER2 IHC検査を受けた1,553例のNGSデータが解析され、ERBB2遺伝子増幅は117例(7.5%)で確認された。
ERBB2遺伝子増幅のない1,436例のうち、512例(35.7%)がIHC法でいずれかのレベルのHER2発現を示した。

 著者らは、HER2低発現が腫瘍の種類を問わず頻繁に認められることが明らかになったとし、HER2低発現固形がん患者の多くがHER2標的治療から利益を得られる可能性があると結論付けた。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【原著論文はこちら】

Uzunparmak B, et al. Ann Oncol. 2023 Aug 22. [Epub ahead of print]

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ER+/HER2-乳がん、Ki-67と21遺伝子再発スコアの関連

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 エストロゲン受容体(ER)陽性HER2陰性(ER+/HER2-)乳がんにおいて、21遺伝子再発スコア(RS)高値とKi-67高値はどちらも予後不良因子であるが、これらのバイオマーカーによる違いが指摘されている。今回、韓国・Hallym UniversityのJanghee Lee氏らは、ER+/HER2-乳がん患者におけるKi-67とRSとの関連、Ki-67と無再発生存期間(RFS)との関連を調べた。その結果、Ki-67とRSに中等度の相関が観察され、RSの低い患者においてKi-67高発現がsecondary endocrine resistanceリスク上昇と関連していた。JAMA Network Open誌2023年8月30日号に掲載。

 本コホート研究は、韓国の2つの病院で2010年3月~2020年12月に21遺伝子RS検査を受け、ER+/HER2-乳がんの治療を受けた女性を対象とした。Ki-67とRFSとの関連はCox比例ハザード回帰モデル、Ki-67とsecondary endocrine resistanceとの関連はバイナリロジスティック回帰モデルを用いて検討した。Ki-67は20%以上を高発現、RS 25以下を低リスクとした。secondary endocrine resistanceは、術後内分泌療法開始2年以降の再発および5年の術後内分泌療法終了後1年以内の再発と定義した。

 主な結果は以下のとおり。

・対象患者2,295例(平均年齢:49.8歳、標準偏差:9.3歳)のうち、1,948例(84.9%)が低リスク、1,425例(62.1%)がKi-67低発現であった。追跡期間中央値は40ヵ月(範囲:0~140ヵ月)。
・RSとKi-67は中等度の相関を示した(R=0.455、p<0.001)。
・Ki-67低発現患者のうち94.1%は低リスクだったが、Ki-67高発現患者では低リスクは69.8%だった。
・低リスク患者では、Ki-67によってRFSが有意に異なっていた(低値98.5% vs.高値96.5%、p=0.002)。
・化学療法なしの低リスク患者1,807例では、Ki-67高値が再発と独立して関連していた(ハザード比:2.51、95%信頼区間[CI]:1.27~4.96、p=0.008)。
・3年以降の再発率はKi-67によって有意に差があった(低値98.7% vs.高値95.7%、p=0.003)が、3年以内の再発率は変わらなかった(低値99.3% vs.高値99.3%、p=0.90)。
・Ki-67は、化学療法なしの低リスク患者におけるsecondary endocrine resistanceと関連していた(オッズ比:2.49、95%CI:1.13~5.50、p=0.02)。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Lee J, et al. JAMA Netw Open. 2023;6:e2330961.

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検診で寿命が延びるがんは?

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 一般的に行われているがん検診により、寿命が延びるのかどうかは不明である。今回、ノルウェー・オスロ大学のMichael Bretthauer氏らが、乳がん検診のマンモグラフィ、大腸がん検診の大腸内視鏡検査・S状結腸鏡検査・便潜血検査、肺がん検診の肺CT検査、前立腺がん検診のPSA検査の6種類の検診について、検診を受けた群と受けなかった群で全生存率と推定寿命を比較した無作為化試験をメタ解析した結果、寿命が有意に増加したのはS状結腸鏡検査による大腸がん検診のみであったことがわかった。JAMA Internal Medicine誌オンライン版2023年8月28日号に掲載。

 一般的に使用されている上記の6種類のがん検診について、検診を受けた群と受けなかった群を9年以上追跡し、全死亡率および推定寿命を比較した無作為化試験の系統的レビューおよびメタ解析を実施した。論文の検索はMEDLINEおよびCochrane libraryデータベースで2022年10月12日まで実施した。検診を受けた群と受けなかった群でみられた生存期間の差を検診による寿命の増加とし、各検診による寿命の増加日数と95%信頼区間(CI)をメタ解析または単一の無作為化試験から算出した。

 主な結果は以下のとおり。

・計211万1,958人が対象となった。
・追跡期間中央値は、CT検査、PSA検査、大腸内視鏡検査で10年、マンモグラフィで13年、S状結腸鏡検査、便潜血検査で15年であった。
・検診で寿命に有意な増加がみられたのはS状結腸鏡検査のみであった(110日、95%CI:0~274日)。
・マンモグラフィ(0日、95%CI:-190~237日)、PSA検査(37日、95%CI:-37~73日)、大腸内視鏡検査(37日、95%CI:-146~146日)、毎年または隔年の便潜血検査(0日、95%CI:-70.7~70.7日)、肺CT検査(107日、95%CI:-286~430日)において有意差はみられなかった。

 著者らは「このメタ解析の結果から、現在のエビデンスでは、S状結腸鏡検査による大腸がん検診を除き、一般的ながん検診による寿命延長を証明できないことが示唆された」としている。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Bretthauer M, et al. JAMA Intern Med. 2023 Aug 28. [Epub ahead of print]

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化療後の閉経前乳がんへのタモキシフェン+卵巣機能抑制、長期結果は(ASTRRA)

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 手術および術前または術後化学療法後の閉経前エストロゲン受容体(ER)陽性乳がん患者に対する、タモキシフェン(TAM)+卵巣機能抑制(OFS)併用の有効性を検討するASTRRA試験について、追跡期間中央値8年の長期解析結果を、韓国・Asan Medical CenterのSoo Yeon Baek氏らがJournal of Clinical Oncology誌オンライン版2023年8月22日号に報告した。

 ASTRRA試験では、閉経前または化学療法後に卵巣機能が回復した45歳未満の女性1,483例が、5年間のTAM単独投与(TAM群)と、5年間のTAM投与と2年間のOFS併用(TAM+OFS群)に1:1の割合で無作為に割り付けられた。

 主要評価項目は無病生存期間(DFS)、副次評価項目は全生存期間(OS)であった。

 主な結果は以下のとおり。

・追跡期間中央値106.4ヵ月の時点で、TAM+OFS群ではDFSイベントの発生率が連続的に有意に減少した。
・8年DFS率はTAM+OFS群で85.4%、TAM群で80.2%だった(ハザード比[HR]:0.67、95%信頼区間[CI]:0.51~0.87)。
・OS率はTAM+OFS群で96.5%、TAM群で95.3%と高く、両群間で有意差はなかった(HR:0.78、95%CI:0.49~1.25)。

 著者らはTAM+OFS併用による一貫性のあるDFSベネフィットが得られたとし、同患者集団に対するOFS追加を考慮すべきであることが示唆されたとまとめている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


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Baek SY, et al. J Clin Oncol. 2023 Aug 22. [Epub ahead of print]

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既治療のHR+/HER2-転移乳がんへのSG、OSを改善(TROPiCS-02)/Lancet

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 sacituzumab govitecan(SG)は、ヒト化抗Trop-2モノクローナル抗体と、トポイソメラーゼ阻害薬イリノテカンの活性代謝産物SN-38を結合した抗体薬物複合体。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のHope S. Rugo氏らは、「TROPiCS-02試験」において、既治療のホルモン受容体陽性(HR+)/HER2陰性(HER2-)の切除不能な局所再発または転移のある乳がんの治療では、本薬は標準的な化学療法と比較して、全生存期間(OS)を有意に延長し、管理可能な安全性プロファイルを有することを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年8月23日号で報告された。

9ヵ国の非盲検無作為化第III相試験

 TROPiCS-02試験は、北米と欧州の9ヵ国91施設が参加した非盲検無作為化第III相試験であり、2019年5月~2021年4月に患者を登録した(Gilead Sciencesの助成を受けた)。

 対象は、HR+/HER2-の切除不能な局所再発または転移のある乳がんで、内分泌療法、タキサン系薬剤、CDK4/6阻害薬による治療を1つ以上受け、転移病変に対し2~4レジメンの化学療法を受けており、年齢18歳以上で全身状態が良好な(ECOG PS 0/1)患者であった。

 被験者を、sacituzumab govitecan(10mg/kg、21日ごとに1日目と8日目)または化学療法の静脈内投与を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。化学療法群は、担当医の選択でエリブリン、ビノレルビン、カペシタビン、ゲムシタビンのいずれかの単剤投与を受けた。

 主要評価項目は、無増悪生存期間(PFS、すでに発表済みで、本論では報告がない)で、主な副次評価項目はOS、客観的奏効率(ORR)、患者報告アウトカムであった。

 543例を登録し、sacituzumab govitecan群に272例(年齢中央値57歳[四分位範囲[IQR]:49~65]、男性2例)、化学療法群に271例(55歳[48~63]、3例)を割り付けた。全体の進行病変に対する化学療法のレジメン数中央値は3(IQR:2~3)で、86%が6ヵ月以上にわたり転移病変に対する内分泌療法を受けていた。

ORR、全般的健康感/QOLも良好

 追跡期間中央値12.5ヵ月(IQR:6.4~18.8)の時点で390例が死亡した。OS中央値は、化学療法群が11.2ヵ月(95%信頼区間[CI]:10.1~12.7)であったのに対し、sacituzumab govitecan群は14.4ヵ月(13.0~15.7)と有意に改善した(ハザード比[HR]:0.79、95%CI:0.65~0.96、p=0.020)。生存に関するsacituzumab govitecan群の有益性は、Trop-2の発現レベルに基づくサブグループのすべてで認められた。

 また、ORRは、化学療法群の14%(部分奏効38例)と比較して、sacituzumab govitecan群は21%(完全奏効2例、部分奏効55例)と有意に優れた(オッズ比[OR]:1.63、95%CI:1.03~2.56、p=0.035)。奏効期間中央値は、sacituzumab govitecan群が8.1ヵ月、化学療法群は5.6ヵ月だった。

 全般的健康感(global health status)/QOLが悪化するまでの期間は、化学療法群が3.0ヵ月であったのに対し、sacituzumab govitecan群は4.3ヵ月であり、有意に良好であった(HR:0.75、95%CI:0.61~0.92、p=0.0059)。また、倦怠感が悪化するまでの期間も、sacituzumab govitecan群で有意に長かった(2.2ヵ月 vs.1.4ヵ月、HR:0.73、95%CI:0.60~0.89、p=0.0021)。

 sacituzumab govitecanの安全性プロファイルは、先行研究との一貫性が認められた。sacituzumab govitecan群の1例で、治療関連の致死的有害事象(好中球減少性大腸炎に起因する敗血症性ショック)が発現した。

 著者は、「これらのデータは、前治療歴を有する内分泌療法抵抗性のHR+/HER2-の転移乳がんの新たな治療選択肢としてのsacituzumab govitecanを支持するものである」としている。なお、sacituzumab govitecanは、米国では2023年2月、EUでは2023年7月に、内分泌療法ベースの治療と転移病変に対する2つ以上の全身療法を受けたHR+/HER2-の切除不能な局所再発または転移のある乳がんの治療法として承認されている。

(医学ライター 菅野 守)


【原著論文はこちら】

Rugo HS, et al. Lancet. 2023 Aug 23. [Epub ahead of print]

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50歳未満のがん、この10年で急速に増加したがんは?

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 1990年代以降、世界の多くの地域において50歳未満で発症する早期発症がんが増加して世界的な問題となっているが、特定のがん種に限定されない早期発症がんの新たなデータは限られている。そこで、シンガポール国立大学のBenjamin Koh氏らによる米国の住民ベースのコホート研究の結果、2010年から2019年にかけて早期発症がんの罹患率は有意に増加し、とくに消化器がんは最も急速に増加していたことが明らかになった。JAMA Oncology誌2023年8月16日号掲載の報告。

 研究グループは、米国における早期発症がんの変化を明らかにし、罹患率が急増しているがん種を調査するために住民ベースのコホート研究を行った。解析には、2010年1月1日~2019年12月31日の米国国立がん研究所(NCI)のSurveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)の17レジストリのデータを用い、人口10万人当たりの年齢標準化罹患率を算出した。年齢標準化罹患率の年間変化率(APC)はjoinpoint回帰法を用いて推定した。データ解析は2022年10月16日~2023年5月23日に行われた。

 主な結果は以下のとおり。

・解析には、早期発症がん患者56万2,145例が組み込まれた。うち57.7%が40~49歳で、62.5%が女性であった。
・2010年から2019年にかけて、50歳未満の早期発症がんの罹患率は増加していたが(APC:0.28%、95%信頼区間[CI]:0.09~0.47、p=0.01)、50歳以上のがん罹患率は減少していた(APC:-0.87%、95%CI:-1.06~-0.67、p<0.001)。
・早期発症がんは女性では増加していたが(APC:0.67%、95%CI:0.39~0.94、p=0.001)、男性では減少していた(APC:-0.37%、95%CI:-0.51~-0.22、p<0.001)。
・2019年の早期発症がんの罹患数が最も多かったのは乳がん(1万2,649例)であった。
・早期発症がんの罹患率が最も急速に増加したのは、消化器がん(APC:2.16%、95%CI: 1.66~2.67、p<0.001)であった。次いで泌尿器系がん(APC:1.34%、95%CI:0.61~2.07、p=0.003)、女性の生殖器系がん(APC:0.93%、95%CI:0.32~1.55、p=0.008)であった。
・消化器がんのうち、罹患率が最も急速に増加していたのは、虫垂がん(APC:15.61%、95%CI:9.21~22.38、p<0.001)、肝内胆管がん(APC:8.12%、95%CI:4.94~11.39、p<0.001)、膵臓がん(APC:2.53%、95%CI:1.69~3.38、p<0.001)であった。
・早期発症がんの罹患率が減少していたのは、呼吸器がん(APC:-4.57%、95%CI:-5.30~-3.83、p<0.001)、男性の生殖器系がん(APC:-1.75%、95%CI:-2.40~-1.10、p<0.001)、脳・神経系がん(APC:-0.99%、95%CI:-1.67~-0.32、p=0.01)であった。

 これらの結果より、研究グループは「このコホート研究において、早期発症がんの罹患率は2010年から2019年にかけて増加していた。2019年の罹患数は乳がんが最も多かったが、消化器がんは最も急速に増加していた。これらのデータは、サーベイランスおよび資金調達の優先順位の策定に役立つ可能性がある」とまとめた。

(ケアネット 森 幸子)


【原著論文はこちら】

Koh B, et al. JAMA Netw Open. 2023;6:e2328171.

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飲酒で発症リスクが上がるがん、下がるがん~女性80万人の前向き研究

提供元:CareNet.com

 アルコール摂取は一部のがん発症リスクの増加や減少に関連していると考えられている。今回、英国・オックスフォード大学のSarah Floud氏らが、前向き研究であるUK Million Women Studyで調査したところ、アルコール摂取量が増えると、上部気道・消化管がん、乳がん、大腸がん、膵臓がんのリスクが増加し、甲状腺がん、非ホジキンリンパ腫、腎細胞がん、多発性骨髄腫のリスクが低下する可能性が示された。また、この関連は、上部気道・消化器がんを除いて、喫煙、BMI、更年期ホルモン療法による変化はなかった。BMC Cancer誌2023年8月16日号に掲載。

 本研究では、がん既往のない閉経後女性123万3,177人(平均年齢56歳)において、中央値1998年(四分位範囲:1998~99年)での飲酒量の報告をがん発症の記録とリンクさせた。非飲酒と1杯/週未満の女性(43万8,056人)を除外した79万5,121人について、ベースライン時の飲酒量(ワイン1杯、ビール半パイント[284mL]、蒸留酒1メジャー[30mL]を1杯と換算)に応じて4つのカテゴリー(週当たり1~2杯、3~6杯、7~14杯、15杯以上)に分類。Cox比例ハザードモデルで、21種類のがんにおける飲酒量ごとの調整相対リスク(RR)と95%信頼区間(CI)を推定した。喫煙、BMI、更年期ホルモン療法との相互作用の統計学的有意性は多重検定を考慮し評価した。

 主な結果は以下のとおり。

・調査した79万5,121人の平均飲酒量は週6.7杯(SD:6.4杯)だった。
・17年(SD:5年)の追跡調査中に14万203人ががんを発症した。
・飲酒と上部気道・消化器がん(食道扁平上皮がん、口腔がん、咽頭がん、喉頭がん)リスクとの間に強い関連がみられた(1杯/日当たりのRR:1.38、95%CI:1.31~1.46)。
・乳がん、大腸がん、膵臓がんと飲酒との間に中程度の正相関がみられた(1杯/日当たりの RR:乳がん1.12[95%CI:1.10~1.14]、大腸がん1.10[同:1.07~1.13]、膵臓がん1.08[同:1.02~1.13])。
・甲状腺がん、非ホジキンリンパ腫、腎細胞がん、多発性骨髄腫と飲酒との間に中程度の逆相関がみられた(1杯/日当たりのRR:甲状腺がん0.79[95%CI:0.70~0.89]、非ホジキンリンパ腫0.91[同:0.86~0.95]、腎細胞がん0.88[同:0.83~0.94]、0.90[同:0.84~0.97])。
・上部気道・消化器がんでは、飲酒と喫煙の間に有意な相互作用がみられた(1杯/日当たりのRR:現在喫煙者1.66[95%CI:1.54~1.79]、過去喫煙者1.23[同:1.11~1.36]、非喫煙者1.12[同:1.01~1.25])。
・BMIおよび更年期ホルモン療法は飲酒関連リスクに有意な変化をもたらさなかった。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Floud S, et al. BMC Cancer. 2023;23:758.

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Luminal A乳がん、温存術後の放射線療法は省略可?/NEJM

提供元:CareNet.com

 T1N0(腫瘍径2cm未満、リンパ節転移陰性)、Grade1/2のLuminal Aタイプ乳がんで、乳房温存手術を行った55歳以上の患者において、術後放射線療法を実施しない場合でも5年局所再発率は2.3%と低かったことが、カナダ・Hamilton Health SciencesのTimothy J. Whelan氏らが500例を対象に行った前向きコホート試験の結果で示された。術後放射線療法は、乳房温存手術後の局所再発リスクを低減するために行われるが、利便性が低く、高額で、短期・長期の副作用を伴う。臨床病理学的因子のみでは、放射線療法の省略が可能な局所再発リスクが低い女性の同定に有用ではない。分子的に定義された乳がんの内因性サブタイプは、付加的な予後情報を得られる可能性があることから、本試験が行われた。NEJM誌2023年8月17日号掲載の報告。

Ki67指数13.25%以下の患者を対象に、放射線療法を未実施

 研究グループは、T1N0、Grade1/2のLuminal Aタイプ乳がん(定義:エストロゲン受容体陽性率1%以上、プロゲステロン受容体陽性率20%超、ヒト上皮成長因子受容体2陰性、Ki67指数13.25%以下)で乳房温存手術を行い、術後に内分泌療法を受けた55歳以上の女性を対象に前向きコホート試験を行った。Ki67の免疫組織化学的解析は中央で実施。Ki67指数が13.25%以下の患者を試験に組み入れ、放射線療法を実施しなかった。

 主要アウトカムは、同側乳房の局所再発とした。放射線腫瘍医と乳がん患者の協議のうえで、5年時点の累積発生率の両側90%信頼区間(CI)の上限が5%未満であれば、5年局所再発のリスクは許容範囲であるとした。

5年局所再発率の90%CI上限は3.8%、事前規定の5%未満内

 2013年8月~2017年7月に登録した740例のうち、臨床的基準を満たした500例を対象に試験を行った。

 試験参加後5年時点で、局所再発が報告された患者は2.3%(90%CI:1.3~3.8、95%CI:1.2~4.1)であり、事前規定の上限を超えず、5年局所再発リスクは許容範囲だった。

 対側乳房の乳がん発生率は1.9%(90%CI:1.1~3.2)で、局所、領域、遠隔を問わないすべての再発率は2.7%(1.6~4.1)だった。

(医療ジャーナリスト 當麻 あづさ)


【原著論文はこちら】

Whelan TJ, et al. N Engl J Med. 2023;389:612-619.

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