がん患者、新型コロナワクチン接種後の抗体価が低い/Ann Oncol

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 がん治療を受けている固形腫瘍患者はCOVID-19ワクチン接種後の抗体価が低く、2回以降の接種が健常者以上に重要になる、という報告が相次いでいる。

 Annals Oncology誌2021年4月28号オンライン版に「LETTER TO THE EDITOR」として掲載されたフランスの研究では、固形腫瘍患者194例と 健常者の対照群31例にファイザーの新型コロナワクチン「BNT162b2」 を接種。初回接種時、2回目接種時(3~4週後)、2回目接種後3~4週目(6~8週後)に抗体値を測定し、陽性判定を行った。

 主な結果は以下のとおり。

・2021年1月18日~3月15日までに194例中122例(64.4%)が少なくとも2回の判定を受けた。年齢中央値は69.5歳(44~90歳)、男性64例(52.5%)、女性58例(47.5%)だった。
・122例中105例(86.0%)は化学療法±分子標的薬療法を受けていた。
・2回目接種時(3、4週後)は58例(47.5%、95%信頼区間:38.4~56.8)、2回目接種後3~4週目(6~8週後)は分析可能な40例(95.2%、83.8~99.4)が抗体陽性だった。
・対照群は、2回目接種時(3、4週後)は13例(100.0%、75.3~100.0)、2回目接種後3~4週目(6~8週後)は24例(100.0%、85.7~99.4)が抗体陽性であり、固形腫瘍患者は健常者と比べ陽性率が有意に低かった。またいずれの時点でも抗体価中央値は固形腫瘍患者で有意に低かった。
・化学療法を受けた患者は、受けていない患者や分子標的薬療法のみの患者と比べ、2回目接種時(3、4週後)に抗体陽性となった患者が少なかった(42.9%vs. 76.5%、p=0.016)。

 研究者らは、がん患者は免疫不全状態であることが多く、ワクチン単回の接種では反応が弱い、または反応しない割合が高いことを考慮して、初回接種後少なくとも6~8週間は引き続き厳格な感染予防措置をとること、化学療法を受けている患者はとくに2回目接種のスケジュールを厳守すること、3回目以降の接種の有効性を検討する必要があることを示唆している。

(ケアネット 杉崎 真名)


【原著論文はこちら】

Barriere J, et al. Ann Oncol. 2021 Apr 28. [Epub ahead of print]

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低・中リスクのHER2+早期乳がん、術後トラスツズマブは9週投与も検討可か/ESMO BREAST 2021

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 低および中リスクのHER2陽性早期乳がん患者において、術後トラスツズマブの投与期間を9週間に短縮した場合の、良好な長期結果が示された。1年間の投与が標準であることには変わりないものの、トラスツズマブへのアクセスが制限される状況やLVEF低下などで投与継続が難しい場合には、より短期間の投与が選択肢となる可能性がある。イタリア・パドヴァ大学のPierfranco Conte氏が、short-HER試験の長期解析結果を欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer Virtual Congress 2021、2021年5月5~8日)で報告した。

 short-HER試験は、HER2 陽性早期乳がん患者をトラスツマブと化学療法による術後補助療法1年投与群と9週間投与群に無作為に割り付けて比較した非劣性試験。非劣性マージンは無病生存期間(DFS)のハザード比(HR)<1.29と設定された。主要解析では、DFSのHRは1.13(90%信頼区間[CI]:0.89~1.42)であったため、非劣性は示されなかった1)。しかし、Grade2以上の心血管有害事象は9週間投与群で有意に少なかった(HR:0.32、95%CI:0.21~0.50、p<0.0001)。

 今回、主要評価項目の1つである全生存期間(OS)ならびに、3つのリスクカテゴリーごとのDFSのアップデートデータが発表された。

[3つのリスクカテゴリー]
低リスク:pT<2cm および pN0
中間リスク: pT<2cmおよびpN1-3またはpT>2cmおよびpN0-3
高リスク: pN4+

 主な結果は以下のとおり。

・1年投与群に627例、9週投与群に626例が割り付けられた。
・追跡期間中央値8.7年で、DFSイベントの発生は237件。1年投与群116件 vs. 9週投与群121件であった(HR:1.09、90%CI:0.88~1.35)。
・OSイベントの発生は109件。1年投与群51件 vs. 9週投与群58件であった(HR:1.18、90%CI:0.86~1.62)。
・リスクカテゴリーごとの5年DFS率は、低リスクカテゴリー(37.5%)で1年投与群91% vs. 9週投与群91%(HR:0.91、90%CI:0.60~1.38)、中間リスクカテゴリー(47.1%)で88% vs. 89%(HR 0.88、90%CI:0.63~1.21)、高リスクカテゴリー(15.4%)で82% vs. 64%(HR 2.06、90%CI:1.36~3.13)であった。
・リスクカテゴリーごとの5年OS率は、低リスクカテゴリーで1年投与群97% vs. 9週投与群99%(HR:0.57、90%CI:0.27~1.13)、中間リスクカテゴリーで96% vs.95%(HR: 1.14、90%CI:0.68~1.89)、高リスクカテゴリーで95% vs. 91%(HR:1.09、90%CI:0.75~1.359)であった。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【参考文献・参考サイトはこちら】

1)Conte P,et al. Ann Oncol. 2018 Dec 1;29:2328-2333.

short-HER試験(Clinical Trials.gov)

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高齢の早期乳がん患者への化学療法の効果は?

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 高リスクの早期乳がんでは化学療法によりアウトカムが改善されるが、高齢者にはほとんど投与されない。今回、英国・The Royal Marsden Hospital NHS Foundation TrustのAlistair Ring氏らは、高齢の高リスク早期乳がん患者の化学療法による効果を検討したところ、転移を有する再発のリスクは化学療法で低下したが、生存期間延長が示されたのはエストロゲン受容体(ER)陰性乳がんのみであった。また、QOLへの影響は大きかったが一時的だった。British Journal of Cancer誌オンライン版2021年5月10日号に掲載。

 本研究は、70歳以上の手術可能な原発性浸潤性乳がん(T1-3および一部のT4b、N0-1、M0)患者を対象とした多施設前向き観察研究で、化学療法(±トラスツズマブ)の使用と生存期間・QOLについて調査した。ベースライン時の年齢・健康状態(fit/vulnerable/frail)・病期の相違について傾向スコアマッチングで調整した。

 主な結果は以下のとおり。

・英国の56センターで2013~18年に3,416例が登録され、手術を受けた2,811例のうち1,520例(54%)が高リスクの早期乳がんで、2,059例(73%)で健康状態がfitだった。
・高リスクの早期乳がんでfitだった1,100例中306例(27.8%)が化学療法を受けた。
・年齢・病期・健康状態をマッチさせていない高リスク例(1,498例、調整後ハザード比[HR]:0.36、95%CI:0.19~0.68)およびマッチさせた高リスク例(541例、調整後HR:0.43、95%CI:0.20~0.92)において、化学療法により転移を有する再発のリスクが減少した。しかし、どちらも全生存期間(OS)および乳がん特異的生存期間(BCSS)の改善はみられなかった。
・ER陰性乳がん患者では、化学療法により生存率が改善した(OSのHR:0.20、95%CI:0.08~0.49、BCSSのHR:0.12、95%CI:0.03~0.44)。
・QOLに一時的な負の影響がみられた。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Ring A, et al. Br J Cancer. 2021 May 10. [Epub ahead of print]

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monarchE試験で報告された3つの重要なAE、その特徴と転帰/ESMO BREAST 2021

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 monarchE試験において、ホルモン受容体(HR)陽性HER2陰性の高リスク早期乳がんに対する術後内分泌療法(ET)とアベマシクリブの併用は、無浸潤疾患生存期間(iDFS)の有意な改善を示した。同試験では、ET単独群と比較してアベマシクリブ併用群で静脈血栓塞栓症(VTE)、アミノトランスフェラーゼ上昇(EAT)、間質性肺疾患(ILD)が頻繁に報告されており、その特徴と転帰についての詳細解析結果を、京都大学の戸井 雅和氏が、欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer Virtual Congress 2021、2021年5月5~8日)で報告した。

 安全性解析の対象は、少なくとも1回の投薬を受けた5,591例(アベマシクリブ併用群2,791例、ET単独2,800例)で、VTEの病歴のある患者は除外された。アベマシクリブによる治療期間中央値は19.1ヵ月(データカットオフは2020年7月8日)。試験プロトコルにはあらかじめ有害事象(AE)の管理ガイダンスが含まれていた。

 主な結果は以下のとおり。

[VTE]
・ET群16例(0.6%)に対しアベマシクリブ群67例(2.4%)でVTE が報告され、37例(1.3%)がGrade3以上、主に肺塞栓症(0.9%)であった。
・肺塞栓症発症者の約1/3が重篤ではなく、入院の必要はなかった。死亡例も報告されていない。
・VTEイベントはほとんどが単回の発生であった(88.1%)。
・多くの患者でVTE発生後もアベマシクリブ投与が継続され、57%が用量変更なしだったが、19.4%で主にGrade3以上であったことを理由に投与が中止された。
・94%の患者に抗凝固薬が投与され、管理は良好であった。
・最初のETでタモキシフェンが投与された患者では、アロマターゼ阻害薬が投与された患者と比較してVTE発症が多かった(4.1% vs.1.7%)。
・Grade3以上のVTEは、BMI≧25の患者でBMI<25の患者と比較して多く発生する傾向がみられた(1.8% vs.0.6%)。
・最初のVTEイベント発生までの期間中央値は両群とも6ヵ月以内であった。
[EAT]
・ET群181例(6.5%)に対しアベマシクリブ群356例(12.8%)でEATが報告され、87例(3.1%)がGrade3以上、85%が単回の発生であった。
・多くの患者でEAT発生後も投与が継続され、Grade3以上の患者の71%が用量変更なし/減量で継続、16%で投与が中止された。
・Grade3以上の患者は全員、用量変更あるいは投与中止により回復し、薬物性肝障害を起こした患者はいなかった。
・Grade3以上のEAT発生までの期間中央値はアベマシクリブ群3ヵ月以内、ET群4ヵ月以内であった。
・アベマシクリブ群でのGrade3以上のALT/AST上昇は、安全性解析集団全体と比較してアジア人集団で多い傾向がみられた(2.4%/1.8% vs. 4.2%/3.1%)。
[ILD]
・ET群34例(1.2%)に対しアベマシクリブ群82例(2.9%)でILDが報告されたが、多くが無症候性で軽度であった。重篤なILDイベントはアベマシクリブ群で14例(0.5%)発生し、1例が死亡した。
・両群でほとんどのILDが単回の発生であった(>97%)。
・多くの患者でILD発生後もアベマシクリブ投与が継続されたが、23%で主にGrade2以上であったことを理由に投与が中止された。
・アベマシクリブ群のILD発症者の52%でステロイド/抗生物質が投与された。
・アベマシクリブ群で、Grade2以上のILDは47%が最初の180日間に発現していた。
・アベマシクリブ群でのILDは、安全性解析集団全体と比較してアジア人集団で多い傾向がみられたが、無症候性が多く、Grade2以上やSAE、治療中断の発生率は全体と同程度であった。

 VTE、EAT、ILDの多くは最初の6ヵ月間に発生しており、アベマシクリブによる長期的な治療の累積影響やリスク増加は認められず、用量調整と標準的な薬物治療により管理可能と結論づけられている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【参考文献・参考サイトはこちら】

monarchE試験(Clinical Trials.gov)

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高リスク早期乳がん術後内分泌療法へのアベマシクリブ追加、アジア人での解析(monarchE)/ESMO BREAST 2021

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 高リスクのホルモン受容体陽性HER2陰性(HR+/HER2-)早期乳がんの術後補助療法において、CDK4/6阻害薬アベマシクリブと内分泌療法(ET)併用は、アジア人集団においても無浸潤疾患生存期間(iDFS)と遠隔無転移生存期間(DRFS)を有意に改善することが認められた。monarchE試験におけるアジア人での解析結果を、シンガポール国立がんセンターのYoon-Sim Yap氏が欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer Virtual Congress 2021、2021年5月5~8日)で発表した。

 monarchE試験は、再発リスクの高いHR+/HER2-の早期乳がん患者を対象に、術後補助療法としてアベマシクリブ+ET群とET単独群に1:1に無作為に割り付けた第III相試験で、主要評価項目はiDFS、副次評価項目はDRFS、全生存期間(OS)、安全性、患者報告アウトカム、薬物動態。すでにITT集団で、アベマシクリブ+ET群におけるiDFS(HR:0.713、95%CI:0.583~0.871、p=0.0009)およびDRFS(HR:0.687、95%CI:0.551~0.858、p=0.0009)の有意な改善が報告されている。今回、ITT集団5,637例のうちアジア(中国、香港、日本、韓国、シンガポール、台湾)の患者1,155例(アベマシクリブ+ET群:573例、ET単独群:582例)について有効性と安全性を解析、アジア以外の患者4,482例(アベマシクリブ+ET群:2,235例、ET単独群:2,247例)でのデータと共に発表した。

 主な結果は以下のとおり。

・iDFSはアベマシクリブ+ET群で有意に改善し(HR:0.777、95%CI:0.493~1.227)、2年iDFS率はアベマシクリブ+ET群93.2%、ET単独群90.1%で、非アジア人と同等だった。
・DRFSも有意な改善が認められ(HR:0.758、95%CI:0.455~1.264)、2年DRFS率はアベマシクリブ+ET群94.4%、ET単独群91.7%で、非アジア人と同等だった。
・アベマシクリブ+ET群において最も多かった有害事象は下痢(89.5%)で、ほとんどがGrade1(55.8%)もしくはGrade2(28.7%)だった。下痢のために用量調節した患者の割合はアジア人のほうが非アジア人より低かった。
・アベマシクリブ+ET群におけるGrade3以上の有害事象および重篤な有害事象の発現率は、53.5%および12.1%だった(ET単独群:10.5%および6.3%)。アジア人は非アジア人と比べて、Geade3以上の好中球減少症(31.5% vs.15.5%)および白血球減少症(21.2% vs.8.3%)の発現率が高く、用量調節した患者の割合が高かった。
・アベマシクリブ+ET群における間質性肺疾患の発現率は、全Gradeではアジア人(6.6%)が非アジア人(2.0%)より高かったが、Grade3以上ではアジア人(0.3%)と非アジア人(0.4%)でほぼ同等だった。
・アベマシクリブ+ET群の14.5%の患者が、有害事象のためにアベマシクリブまたはすべての治療を中止した。
・ITT集団と同様、用量調節したほとんどの患者が治療継続可能だった。

 本試験はOSの最終評価まで継続されており、アジア人でのさらなるフォローアップが求められる。

(ケアネット 金沢 浩子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

monarchE試験(Clinical Trials.gov)

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HER2+進行乳がんへのT-DXdによるILDの特徴/ESMO BREAST 2021

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 既治療のHER2陽性進行乳がんに高い有効性を示すトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)のリスクとして間質性肺疾患(ILD)がある。本剤の第I/II相試験で発現したILDの特徴を解析したところ、承認用量ではほとんどの場合、低Gradeで、治療開始から12ヵ月以内に発現し、12ヵ月を超えるとリスクが低下することがわかった。米国・マウントサイナイ医科大学のCharles A. Powell氏が、欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer Virtual Congress 2021、2021年5月5~8日)で報告した。

 本研究では、2015~18年に登録された2つの第I相試験(DS8201-A-J101、DS8201-A-A104)および第II相DESTINY-Breast01試験において、承認用法・用量でのT-DXd単剤療法(5.4mg/kg、3週間ごと)を受けたHER2陽性進行乳がん患者の胸部画像と臨床データを独立判定委員会が後ろ向きにレビューし、薬物関連と判定したILDを報告した(データカットオフ:2020年6月8日)。

 主な結果は以下のとおり。

・解析対象は245例(第I相:61例、第II相:184例)、T-DXd治療期間中央値は9.7ヵ月(範囲:0.7〜40.3)だった。
・38例(15.5%)に薬物関連ILDが発現し、ほとんどがGrade1または2(30例、12.2%)だった。Grade3および4が1例(0.4%)ずつ、Grade5が6例(2.4%)だった。
・最初にILDが発現するまでの期間の中央値は5.6ヵ月(範囲:1.1〜20.8)で、38例中37例(97%)が12ヵ月以内に発現した。
・患者の42%が12ヵ月以上治療されたが、12ヵ月以降にILDを新規に発現するリスクは低かった。
・独立判定委員会の評価では、44件中27件(61%)のILDの発現時期は、治験医師による報告よりも早かった(中央値の差:52日、範囲:1〜288)。
・Grade2~4の24件中14件(58.3%)、Grade5の6件中3件(50%)で全身性ステロイドを投与された。ILD発現から全身性ステロイドの投与開始までの期間の中央値は25.0日(範囲:1~87)だった。
・44件中43件は、改訂された毒性管理ガイドラインを臨床試験で使用した2019年12月15日より前に発現していた。

 これらの結果から、高GradeのILDを防ぐには、早期発見および最新のガイドラインによる適切な管理が重要であると結論した。

(ケアネット 金沢 浩子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

DS8201-A-J101(Clinical Trials.gov)

DS8201-A-A104(Clinical Trials.gov)

DESTINY-Breast01試験(Clinical Trials.gov)

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乳房温存術が切除術より生存率が高いのは独立した効果か

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 術後放射線療法を伴う乳房温存術が、放射線療法を伴わない乳房切除術より生存率が高いことがコホート研究で示されているが、独立した効果なのか、選択バイアスの結果なのかは不明である。今回、スウェーデン・Capio St Goran’s HospitalのJana de Boniface氏らは、重要な交絡因子である併存疾患および社会経済的状態の補正後も、乳房温存術の生存ベネフィットがみられるかどうか検討した。JAMA Surgery誌オンライン版2021年5月5日号に掲載。

 本研究は、前向きに収集されたスウェーデンの全国的なデータ(National Breast Cancer Quality Registerからの全国的な臨床データ、National Board of Health and WelfareのPatient Registersからの併存疾患データ、Statistics Swedenからの個人レベルの教育と収入のデータ)を使用したコホート研究。スウェーデンで2008~17年にT1-2 N0-2の浸潤性乳がんと診断され手術を受けたすべての女性を対象に、放射線療法ありの乳房温存術、放射線療法なしの乳房切除術、放射線療法ありの乳房切除術の3群に分け、全生存率(OS)と乳がん特異的生存率(BCSS)を比較した。

 主な結果は以下のとおり。

・計4万8,986例のうち、放射線療法ありの乳房温存術が2万9,367例(59.9%)、放射線療法なしの乳房切除術が1万2,413例(25.3%)、放射線療法ありの乳房切除術が7,206例(14.7%)で、観察期間中央値は6.28年(範囲:0.01~11.70)だった。
・全死亡は6,573例、乳がんによる死亡は2,313例で、5年OSが91.1%(95%CI:90.8~91.3)、5年BCSSが96.3%(95%CI:96.1~96.4)だった。
・放射線療法なしの乳房切除術を受けた女性は、年齢が高く、教育レベルと収入は低かった。
・乳房切除術を実施した2つの群では、放射線療法の有無に関係なく併存疾患の負荷が大きかった。
・すべての共変量の補正後、OSおよびBCSSは、放射線療法ありの乳房温存術に比べ、放射線療法なしの乳房切除術(OSのハザード比[HR]:1.79、95%CI:1.66~1.92、BCSSのHR:1.66、95%CI:1.45~1.90)および放射線療法なしの乳房切除術(OSのHR:1.24、95%CI:1.13~1.37、BCSSのHR:1.26、95%CI:1.08~1.46)で有意に悪かった。

 本研究では、これまで測定されていなかった併存疾患および社会経済的状態の補正後も、放射線療法を伴う乳房温存術が、乳房切除術(放射線療法の有無に関係なく)より生存率が高いことが示された。著者らは「どちらの治療も妥当な選択肢であれば、乳房切除術が乳房温存術と同等と見なされるべきではない」と結論している。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

de Boniface J, et al. JAMA Surg. 2021 May 5. [Epub ahead of print]

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新規抗体薬物複合体SG、転移TN乳がんに有効/NEJM

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 転移を有するトリプルネガティブ(TN)乳がん患者において、新規の抗体薬物複合体(ADC)sacituzumab govitecan(SG)は化学療法単剤と比較して、無増悪生存(PFS)期間および全生存(OS)期間を有意に延長した。ただし、骨髄抑制と下痢の発現頻度は、SGのほうが高かった。米国・マサチューセッツ総合病院がんセンターのAditya Bardia氏らが、7ヵ国88施設で実施した無作為化評価者盲検第III相試験「ASCENT試験」の結果を報告した。SGは、乳がんの多くに発現しているヒト栄養膜細胞表面抗原2(Trop-2)を標的とするsacituzumabを、イリノテカンの活性代謝物SN-38(トポイソメラーゼI阻害薬)と独自の加水分解性リンカーを介して結合させた抗Trop-2 ADCで、これまで第I/II相試験で転移のある上皮がんにおける有効性、安全性が評価され、第III相試験実施を後押しする結果が得られていた。NEJM誌2021年4月22日号掲載の報告。

転移を有するTN乳がん患者で脳転移はない468例、SGと化学療法単剤を比較

 研究グループは、2ライン以上の化学療法歴がある再発/難治性の転移を有するTN乳がん患者を、SG群(10mg/kgを21日サイクルのday1、8に点滴投与)、または化学療法群(主治医選択によりエリブリン、ビノレルビン、カペシタビン、ゲムシタビンのいずれか単剤を投与)に、1対1の割合で無作為に割り付け追跡評価した。

 主要評価項目は、脳転移のない患者におけるPFS(盲検化中央判定)で、副次評価項目は、OS、PFS(治験責任医師判定)、客観的奏効率(ORR)、安全性であった。

 2017年11月~2019年9月に529例を登録。このうち、脳転移のない患者は468例(SG群235例、化学療法単剤群233例)で、年齢中央値は54歳、全例にタキサン使用歴があった。

PFSはSG群5.6ヵ月、化学療法単剤群1.7ヵ月、OSはそれぞれ12.1ヵ月、6.7ヵ月

 PFS期間中央値は、SG群5.6ヵ月(95%信頼区間[CI]:4.3~6.3、イベント166件)、化学療法単剤群1.7ヵ月(1.5~2.6、150件)であった(病勢増悪または死亡のハザード比[HR]:0.41、95%CI:0.32~0.52、p<0.001)。

 OS期間中央値は、SG群12.1ヵ月(95%CI:10.7~14.0)、化学療法単剤群6.7ヵ月(5.8~7.7)であった(死亡のHR:0.48、95%CI:0.38~0.59、p<0.001)。ORRは、SG群35%、化学療法単剤群5%であった。

 Grade3以上の主な治療関連有害事象は、好中球減少症(SG群51%、化学療法単剤群33%)、白血球減少症(10%、5%)、下痢(10%、1%未満)、貧血(8%、5%)、発熱性好中球減少症(6%、2%)であった。有害事象による死亡は各群3例報告されたが、SG投与に関連した死亡は認められなかった。

(医学ライター 吉尾 幸恵)


【原著論文はこちら】

Bardia A, et al. N Engl J Med. 2021;384:1529-1541.

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転移乳がんのOS、サブタイプ別の経年変化/ESMO Open

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 転移を有する乳がん(MBC)の治療はこの10年で大きく進歩している。フランス・Gustave RoussyのThomas Grinda氏らが、全国的コホートであるESME(Epidemio-Strategy-Medico-Economical)-MBCのデータを用いて、2008~17年におけるMBCの全生存期間(OS)の変化をサブタイプ別に評価した結果、HER2陽性患者では改善し続けていることが示された。ESMO Open誌2021年4月22日号に掲載。

 ESME-MBCでは、フランスのがんセンター18施設で2008年以降に治療を開始したすべてのMBC患者のデータを収集している。この研究では、全体(2万446例)およびサブタイプごとのOSを調査した。サブタイプ別の患者数は、ホルモン受容体陽性(HR+)/HER2陰性(HER2-)患者が1万3,590例、HER2陽性(HER2+)患者が3,919例、トリプルネガティブ(TNBC)患者が2,937例。MBC診断年などの共変量で多変量解析を実施し、経年的なOS改善の可能性、MBC診断後に新規上市薬剤が投与された割合を評価した。

 主な結果は以下のとおり。

・コホート全体の追跡期間中央値は65.5ヵ月(95%CI:64.6~66.7)だった。
・MBC診断年は、OSにおける強力な独立予後因子であった(2008年に対する2016年のハザード比[HR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.82~0.97、p=0.009)。この効果はHER2+患者(同HR:0.52、95%CI:0.42~0.66、p<0.001)の改善の影響が大きく、TNBC患者(同HR:0.93、95%CI:0.77~1.11、p=0.41)やHR+/HER2-患者(同HR:1.02、95%CI:0.91~1.13、p=0.41)においては持続的な効果はなかった。
・MBC診断年にかかわらず、HER2+患者における新規抗HER2薬が投与された割合は非常に大きかったが(2016年以降、患者の70%超がペルツズマブを投与されていた)、HR+/HER2-患者におけるエベロリムスとエリブリン、TNBC患者におけるエリブリンが投与された割合はどれも3分の1未満だった。

 著者らは「おそらく、実臨床への浸透度が高い主要な抗HER2薬の上市に関連してHER2+MBC患者のOSが劇的に改善したが、他のサブタイプでは改善はみられなかった」と述べている。なお、CDK4/6阻害薬が投与された割合は急速に増加しているが、このコホートではまだその影響を評価できないという。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Grinda T, et al. ESMO Open. 2021;6:100114.

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全がん・がん種別の10年生存率を初集計/国立がん研究センター

提供元:CareNet.com

 国立がん研究センターは、全国のがん診療連携拠点病院等から収集した院内がん登録情報を用いて、2008年に診断された患者の10年生存率を発表した。がん診療連携拠点病院等をはじめとする国内240施設約24万例の登録データを集計したもので、10年生存率が発表されるのは初、既存の10年生存率集計としては最大規模となる。

 がん種別には、胃がん、大腸がん、肝細胞がん・肝内胆管がん、小細胞肺がん・非小細胞肺がん、女性乳がん、食道がん、膵臓がん、前立腺がん、子宮頸がん・子宮内膜がん、膀胱がん。肺がんや子宮がんをさらに分類した上で、Stage別のデータも集計された。

 全がんの10年相対生存率は59.4%、がん種別で最も10年生存率が高かったのは前立腺がん(98.7%)、女性の乳がん(87.5%)、子宮内膜がん(83.0%)が続いた。最も低かったのは膵臓がん(6.5%)、続いて小細胞肺がん(9.1%)、肝内胆管がん(10.9%)となった。

 リリースでは、これまで治癒の目安として5年生存率が用いられることが多かったが、肝細胞がんなど、がんによっては5年以降も長期的にフォローアップしていくことが必要、としている。

誰もが使える「がん登録生存率集計結果閲覧システム」を公開

 あわせて、3年・5年生存率データを簡易に検索できる「院内がん登録生存率集計結果閲覧システム」が公開された。

 このシステムでは、胃がん、大腸がん、結腸がん、直腸がん、肝がん(肝細胞がん・肝内胆管癌)、肺がん(小細胞肺がん・非小細胞肺がん)、乳がん、食道がん、膵臓がん、前立腺がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、膀胱がん、甲状腺乳頭・濾胞がん、甲状腺未分化がん、甲状腺髄様がん、胆嚢がん、喉頭がん、腎がん、腎盂尿管がん、卵巣がんについてがん種類の生存率を検索できる。さらに詳細条件として性別、Stage(全体or Ⅳ期)、年齢、手術の有無の条件を設定したうえで、細かく調べることもできる。

(ケアネット 杉崎 真名)


【参考文献・参考サイトはこちら】

がん診療連携拠点病院等 院内がん登録生存率集計結果閲覧システム初公開 /国立がん研究センター

院内がん登録生存率集計結果閲覧システム

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