BRCA変異乳がん患者、妊娠による予後への影響/JCO

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 BRCA変異を有する若年乳がん患者にとって、妊娠は安全であることを示す結果が明らかとなった。乳がん後の妊娠および妊娠による乳がん予後への影響を調べた国際多施設共同後ろ向きコホート試験の結果を、イタリア・ジェノバ大学のMatteo Lambertini氏らが、Journal of Clinical Oncology誌2020年9月10日号に報告した。

 2000年1月~2012年12月に、浸潤性早期乳がんと診断された、40歳以下の生殖細胞系列BRCA遺伝子変異を有する患者が本研究に組み入れられた。主要評価項目は、妊娠率、および乳がん後の妊娠の有無による患者間の無病生存期間(DFS)。副次的評価項目は、妊娠のアウトカムと全生存期間(OS)であった。生存時間分析は、既知の予後因子を制御するGuarantee-Time Bias(GTB)を考慮して調整された。

 主な結果は以下のとおり。

・生殖細胞系列BRCA遺伝子変異を有する1,252例(BRCA1:811例、BRCA2:430例、 BRCA1 / 2:11例)のうち195例が、乳がん後に少なくとも1回の妊娠を経験した(10年の妊娠率:19%、95%信頼区間[CI]:17~22%)。
・人工流産および流産は、それぞれ16例(8.2%)および20例(10.3%)で発生した。出産した150例(76.9%;乳児170人)のうち、妊娠合併症が13例(11.6%)、先天性異常は2例(1.8%)発生した。
・乳がん診断後の追跡期間中央値8.3年における、妊娠コホートと非妊娠コホートの間で、DFS(調整ハザード比[HR]:0.87、95%CI:0.61~1.23、p=0.41)およびOS(調整HR:0.88、95%CI:0.50~1.56、p=0.66)の差はみられなかった。

 研究者らは、生殖細胞系列BRCA遺伝子変異を有する患者の乳がん後の妊娠は、母親の予後を明らかに悪化させることなく安全であり、良好な胎児転帰と関連したと結論づけている。そのうえでこれらの結果は、将来の妊娠・出産について、BRCA変異を有する乳がん患者に安心感をもたらすものとまとめている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)

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Lambertini M, et al. J Clin Oncol. 2020 Sep 10;38:3012-3023.

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乳がんに対するsiRNA核酸医薬候補、医師主導治験開始/がん研有明病院

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 がん研究会有明病院は9月2日、東京大学医科学研究所らと共同研究を進めてきたsiRNA核酸医薬候補の乳がん治療薬(SRN-14/GL2-800)を用いて、医師主導治験(First In Human 試験)を開始したことを発表した。

 SRN-14/GL2-800は、幹細胞関連転写因子であるPR domain containing 14 (PRDM14)分子に対する、キメラ型siRNAとそのナノキャリアーから構成される化合物。川崎市産業振興財団ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)、東京大学、東京大学医科学研究所が共同で開発した。

 治療標的となるPRDM14分子は、人体のほぼすべての正常組織では発現がないことから、その発現を押さえても副作用が少ないと考えられる。一方で、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)を含む乳がんの症例の半数以上で発現が高いことが明らかになっている。腫瘍組織以外では、胚性幹細胞と原始生殖細胞に一過性に発現することが知られている。PRDM14 分子は細胞の核で発現する分子であることから、これを標的とする低分子化合物や抗体の開発は極めて難しく、遺伝子配列情報から開発が可能な核酸医薬品の開発が行われた経緯がある。

 キメラ型siRNAとは、siRNA がRISC複合体上で mRNA と対合する際に最重要なシード配列に相当する部分を DNA に置換したsiRNA であり、siRNA とノックダウン効果が同等であることが証明されている。RNase に対する耐性が高く血清中で安定であり、免疫応答誘導性が低く、保護基を必要としないため代謝産物が生命体由来のものとなる。

 SRN-14 は、特許出願技術であるsiRNA 配列探索プログラム1)を基盤に治療用配列を選定した、極めて標的分子に対する特異性が高い siRNA。核酸ナノキャリアーである、分岐型 PEG-ポリオルニチンブロックポリマー(GL2-800)は、核酸と単分散(均一の粒形分布)を示す安定な複合体を形成し、高い安全性、優れた血中滞留性とがん組織への高い集積性を示す2)。事前に実施された非臨床試験において、TNBC に由来する乳がん細胞を用いた同所移植モデル、肺転移モデルを作成し、治験薬である SRN-14/GL2-800 を静脈注射で投与したところ、乳がん細胞で形成される腫瘍サイズの縮小、および肺の転移巣形成の抑制が認められた。さらに、毒性試験において重篤な有害事象は見られなかった3,4)

 本治験は、SRN-14/GL2-800 を、ヒトに対して初めて投与する医師主導治験(第I相)で、治癒的切除不能または遠隔転移を有する再発乳がんで化学療法の全身投与適応となる患者に対して用量漸増法で行われる。主要評価項目である安全性、SRN-14/GL2-800 投与後の薬物動態の確認の他、副次的に SRN14/GL2-800 の薬効についても検討を行う予定となっている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【参考文献・参考サイトはこちら】

1)Ui-Tei K,et al. Nucleic Acids Res. 2008 Apr;36:2136-51.

2)Watanabe S,et al. Nat Commun. 2019 Apr 24;10:1894. [Epub ahead of print]

3)Taniguchi H, et al. Cancer Res. 2018; 78(13 Suppl).

4)Taniguchi H, et al. Oncotarget. 2017 Jul 18;8:46856-46874.

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高齢の早期乳がん、術後放射線療法は省略可能か?

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 高齢の早期乳がん患者において、乳房温存手術後の放射線療法が省略可能かについては議論がある。米国・ヴァンダービルト大学医療センターのFei Wang氏らは、70歳以上の乳がん患者11万例以上のデータを解析し、放射線療法実施の有無による生存への影響を評価した。International Journal of Cancer誌オンライン版2020年8月24日号に掲載の報告より。

 対象は米国国立がんデータベースに登録され、2004~2014年に乳房温存手術を受けた、70歳以上、T1-2N0-1M0の女性乳がん患者。多変量Cox比例ハザードモデルを使用して、3、5、10年時の死亡率と乳房温存手術後の放射線療法との関連についてハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推定した。

 主な結果は以下のとおり。

・11万5,516例のデータが分析された。
・放射線療法を受けなかった患者は、放射線療法を受けた患者よりも死亡率が高く(5年生存率:71.2% vs.83.8%)、3年死亡率の多変量補正後ハザード比(HR)は1.65(95%信頼区間[CI]:1.57~1.72)、 5年死亡率のHRは1.53(1.47~1.58)、10年死亡率のHRは1.43(1.39~1.48)であった。
・この関連は、内分泌療法または化学療法の有無、期間やその他の臨床的特徴によるすべての層別化分析において、また90歳以上の患者においても観察され、放射線療法を行わない患者の5年死亡率は40~65%増加した。
・内分泌療法を受けたT1N0およびエストロゲン受容体陽性の患者に限定した傾向スコア層別化分析においても、この正の関連性が持続した(5年死亡率のHR:1.47 [1.39~1.57])。

 著者らは、本研究ではT1N0およびエストロゲン受容体陽性の患者においても、放射線療法の省略は死亡率の増加と関連したとし、放射線療法の省略は普遍的な実践とはなりえないのではないかとまとめている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


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Wang F, et al. Int J Cancer. 2020 Aug 24. [Epub ahead of print]

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COVID-19流行下、3次医療機関でのがん患者の入院は安全か/JCO

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 オーストリア・ウィーンの3次医療機関で、COVID-19に対する政府や施設の感染対策実施後に、入院中のがん患者のSARS-CoV-2感染率を調査したところ、一般集団と同様であり、また、がん以外の患者よりも低かったことが報告された。今回の結果から、人口全体および施設の厳格な感染対策が実施された場合には、大規模な3次医療機関において積極的ながん治療や通院が実現可能で安全であることが示唆された。Medical University of ViennaのAnna S. Berghoff氏らによる報告が、Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2020年8月14日号に掲載された。

 本研究の対象は、2020年3月21日~5月4日、当院で定期的に鼻腔または咽頭スワブを用いたRT-PCRによりSARS-CoV-2 RNAを検査していたがん患者。このコホートでの結果を、代表的な全国ランダムサンプル研究のコホート(対照コホート1)および当院のがん以外の患者のコホート(対照コホート2)のSARS-CoV-2の感染率と比較した。

 主な結果は以下のとおり。

・連続した1,016例のがん患者に1,688回のSARS-CoV-2検査を実施した。1,016例中270例(26.6%)がネオアジュバントまたはアジュバント治療を受け、560例(55.1%)が緩和療法を受けていた。
・1,016例中53例(5.2%)がCOVID-19の疑われる症状を自己申告し、4例(0.4%)でSARS-CoV-2が検出された。SARS-CoV-2陽性の4例とも当科での検査時には無症状で、2人は症候性COVID-19から回復した患者であった。また4例中3例で、陽性判定から14〜56日後に陰性となった。
・がんコホートの対照コホート1に対するSARS-CoV-2感染の推定オッズ比は1.013(95%CI:0.209〜4.272、p=1)、対照コホート2のがんコホートに対する推定オッズ比は18.333(95%CI:6.056〜74.157)であった。

 著者らは「無症状のウイルス保有者を発見し、ウイルス蔓延を回避するために、がん患者の定期的なSARS-CoV-2検査が勧められる」としている。

(ケアネット 金沢 浩子)


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Berghoff AS, et al. J Clin Oncol. 2020 Aug 14. [Epub ahead of print]

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早期乳がんの放射線療法による長期予後、術中vs.術後外来/BMJ

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 早期乳がん患者において、乳房温存手術(乳腺腫瘍摘出術)と併せて行う術中放射線療法(TARGIT-IORT)は、術後全乳房外部放射線療法(EBRT)に代わる有効な放射線療法であることが示された。長期のがん抑制効果はEBRTに引けを取らないものであり、一方で非乳がん死亡率は低かった。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのJayant S. Vaidya氏らによる無作為化試験「TARGIT-A試験」の結果で、本試験の早期結果においては、TARGIT-IORTの利点として通院頻度が少なく済むこと、QOLの改善、副作用が少ないことなどが示されていた。結果を踏まえて著者は、「乳房温存手術が予定されている場合、適格患者とTARGIT-IORTについて話をすべきであろう」と提言している。BMJ誌2020年8月19日号掲載の報告。

早期乳がん2,298例をTARGIT-IORTとEBRTに無作為割り付け

 研究グループは、TARGIT-IORTの有効性がEBRTに代わりうるものかを調べる前向き非盲検無作為化試験を行った。英国、欧州、オーストラリア、米国、カナダの10ヵ国32センターで、3.5cm以下、cN0-N1の浸潤性乳管がんである45歳以上の女性患者2,298例を登録し、乳房温存療法の適格性を検討した後、術前に無作為化を行い(中央でブロック層別化)、TARGIT-IORTまたはEBRTに1対1の割合で割り付けた。

 EBRT群には全乳房への標準的な分割照射コース(3~6週間)が行われた。TARGIT-IORT群には同一麻酔下で乳腺腫瘍摘出後ただちに照射が行われ、ほとんどの患者(約80%)は1回のみの照射だった。なお、術後の組織病理学的検査で高リスク因子が疑われる所見が認められた場合は、EBRTの追加照射が行われた(約20%)。

 主要評価項目は、5年局所再発率(両群間の絶対差の非劣性マージン2.5%以内と定義)と長期生存アウトカムであった。

5年局所再発率の差は1.16%、その他要因の死亡率はTARGIT-IORT群が有意に低値

 2000年3月24日~2012年6月25日に、1,140例がTARGIT-IORT群に、1,158例がEBRT群に無作為に割り付けられた。5年完遂フォローアップ時の局所再発リスクは、EBRT群0.95%に対し、TARGIT-IORT群2.11%で、TARGIT-IORTのEBRTに対する非劣性が示された(群間差:1.16%、90%信頼区間[CI]:0.32~1.99)。

 最初の5年間で、TARGIT-IORTはEBRTよりも局所再発が13例多く報告された(24/1,140例vs.11/1,158例)が、死亡は14例少なかった(42/1,140例vs.56/1,158例)。

 長期追跡(中央値8.6年、最長18.90年、四分位範囲:7.0~10.6)では、局所無再発生存について、統計学的に有意差はみられなかった(ハザード比[HR]:1.13、95%CI:0.91~1.41、p=0.28)。また、乳房温存生存(0.96、0.78~1.19、p=0.74)、遠隔無病生存(0.88、0.69~1.12、p=0.30)、全生存(0.82、0.63~1.05、p=0.13)、および乳がん死亡率(1.12、0.78~1.60、p=0.54)でも有意差は認められなかったが、その他の死因による死亡率はTARGIT-IORT群で有意に低かった(0.59、0.40~0.86、p=0.005)。

(ケアネット)


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Vaidya JS, et al. BMJ. 2020;370:m2836.

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ペムブロリズマブ、6週ごと投与の用法・用量を追加/MSD

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 MSDは、2020年8月21日、抗PD-1抗体ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)のすべての効能・効果における用法・用量について、単剤または併用療法を問わず、これまでの「1回200mgを3週間間隔で30分間かけて点滴静注する」に加えて、「1回400mgを6週間間隔で30分間かけて点滴静注する」が追加となったと発表。

 今回の用法・用量追加は、薬物動態シミュレーション、曝露量と有効性または安全性との関係に基づいて検討した結果、新規用法・用量である1回400mgを6週間間隔で投与した場合の有効性または安全性は、既承認の用法・用量である1回200mgを3週間間隔で投与した場合と明確な差異がないと予測され、承認に至ったもの。

 ペムブロリズマブは、2017年2月15日に国内で販売を開始した。これまでに「悪性黒色腫」「切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」「再発または難治性の古典的ホジキンリンパ腫」「がん化学療法後に増悪した根治切除不能な尿路上皮癌」「がん化学療法後に増悪した進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る)」「根治切除不能又は転移性の腎細胞癌」「再発又は遠隔転移を有する頭頸部癌」の効能・効果について承認を取得している。また、乳がん、大腸がん、前立腺がん、肝細胞がん、小細胞肺がん、子宮頸がん、進行固形がんなどを対象とした後期臨床試験が進行中である。

(ケアネット 細田雅之)


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がん治療で心疾患リスクを伴う患者の実態と対策法/日本循環器学会

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 第84回日本循環器学会学術集会(2020年7月27日~8月2日)で佐瀬 一洋氏(順天堂大学大学院臨床薬理学 教授/早稲田大学医療レギュラトリーサイエンス研究所)が「腫瘍循環器診療の拡がりとCardio-Oncology Rehabilitation(CORE)」について発表。がんを克服した患者の心血管疾患発症リスクやその予防策について講演した。

循環器医がおさえておくべき、がん治療の新たなる概念-サバイバーシップ

 がん医療の進歩により、がんは不治の病ではなくなりつつある。言い換えるとがん治療の進歩により生命予後が伸びる患者、がんサバイバーが増えているのである。とくに米国ではがんサバイバーの急激な増加が大きな社会問題となっており、2015年時点で1,500万人だった患者は、今後10年でさらに1,000万人の増加が見込まれる。

 たとえば小児がんサバイバーの長期予後調査1)では、がん化学療法により悪性リンパ腫を克服したものの、その副作用が原因とされる虚血性心疾患(CAD)や慢性心不全(CHF)を発症して死亡に繋がるなどの心血管疾患が問題として浮き彫りとなった。成人がんサバイバーでも同様の件が問題視されており、長期予後と循環器疾患に関する論文2)によると、乳がん患者の長期予後は大幅に改善したものの「心血管疾患による死亡はその他リスク因子の2倍以上である。乳がん診断時の年齢が66歳未満では乳がんによる累計死亡割合が高かった一方で、66歳以上では心血管疾患(CVD)による死亡割合が増加3)し、循環器疾患の既往があると累計死亡割合はがんとCVDが逆転した」と佐瀬氏はコメントした。

心疾患に影響するがん治療を理解する

 この逆転現象はがん治療関連心血管疾患(CTRCD:Cancer Therapeutics-Related Cardiac Dysfunction)が原因とされ、このような患者は治療薬などが原因で心血管疾患リスクが高くなるため、がんサバイバーのなかでも発症予防のリハビリなどを必要とする。同氏は「がん治療により生命予後が良くなるだけではなく、その後のサバイバーシップに対する循環器ケアの重要性が明らかになってきた」と話し、がんサバイバーに影響を及ぼす心毒性を有する薬を以下のように挙げた。

●アントラサイクリン系:蓄積毒性があるため、生涯投与量が体表面積あたり400mg/m2を超えるあたりから指数関数的にCHFリスクが上昇する
●分子標的薬:HER2阻害薬はアントラサイクリン系と同時投与することで相乗的に心機能へ影響するため、逐次投与が必要。チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)は世代が新しくなるにつれ血栓症リスクが問題となる
●免疫チェックポイント阻害薬:PD-1阻害薬とCTLA-4阻害薬併用による劇症心筋炎の死亡報告4)が報告されている

 これまでのガイドラインでは、薬剤の影響について各診療科での統一感のなさが問題だったが、2017年のASCOで発表された論文5)を機に変革を迎えつつある。心不全の場合、日本循環器学会が発刊する『腫瘍循環器系の指針および診療ガイドライン』において、がん治療の開始前に危険因子(Stage A)を同定する、ハイリスク患者とハイリスク治療ではバイオマーカーや画像診断で無症候性心機能障害(Stage B)を早期発見・治療する、症候性心不全(Stage C/D)はGLに従って対応するなど整備がされつつある。しかしながら、プロテアソーム阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬のような新規薬剤は未対応であり、今後の課題として残されている。

循環器医からがんサバイバーへのアプローチが鍵

 がん治療が心機能へ影響する限り、これからの循環器医は従来型の虚血性心疾患と並行して新しい危険因子CTRCDを確認するため「がん治療の既往について問診しなければならない」とし、「患者に何かが起こってから対処するのではなく腫瘍科医と連携する体制が必要。そこでCardio-Oncologyが重要性を増している」と述べた。

 最後に、Cardio-Oncologyを発展させていくため「病院内でのチームとしてなのか、腫瘍-循環器外来としてなのか、資源が足りない地域では医療連携として行っていくのか、状況に応じた連携の進め方が重要。循環器疾患がボトルネックとなり、がん治療を経た患者については、腫瘍科医からプライマリケア医への引き継ぎ、もしくは心血管疾患リスクが高まると予想される症例は循環器医が引き継いでケアを行っていくことが求められる。これからの循環器医にはがんサバイバーやCTRCDに対するCORE6)を含めた対応が期待されている」と締めくくった。

■参考
1)Armstrong G, et al. N Engl J Med. 2016;374:833-842.
2)Ptnaik JL, et al. Breast Cancer Res. 2011 Jun 20;13:R64.
3)Abdel-Qadir H, et al. JAMA Cardiol. 2017;2:88-93.
4)Johnson DB, et al. N Engl J Med. 2016;375:1749-1755.
5)Almenian SH, et al. J Clin Oncol. 2017;35:893-911.
6)Sase K, et al. J Cardiol.2020 Jul 28;S0914-5087(20)30255-0.
日本循環器学会:心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2012年改訂版)

(ケアネット 土井 舞子)


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T-DM1、HER2陽性早期乳がんの術後薬物療法に適応追加/中外製薬

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 中外製薬は、抗HER2抗体チューブリン重合阻害剤複合体トラスツズマブ エムタンシン(商品名:カドサイラ、以下T-DM1)について、「HER2陽性の乳癌における術後薬物療法」に対する適応追加の承認を8月21日に取得したことを発表した。手術前の薬物療法で病理学的完全奏効(pCR)が得られなかったHER2陽性早期乳がんに対して、術後薬物療法の新たな選択肢となる。

 今回の承認は、海外で実施された非盲検ランダム化第III相国際共同臨床試験(KATHERINE試験)の成績に基づく。本試験では、トラスツズマブを含む術前薬物療法でpCRが得られなかったHER2陽性早期乳がん1,486例を対象に、術後薬物療法としてのT-DM1の有効性と安全性をトラスツズマブと比較した。その結果、主要評価項目である浸潤性疾患のない生存期間(IDFS)について、トラスツズマブに対する優越性が認められた(非層別ハザード比:0.50、95%信頼区間:0.39~0.64、p<0.0001)。また、本試験におけるT-DM1の安全性は、転移を有するHER2陽性乳がんにおける治療で認められている安全性プロファイルと同様であり、忍容性が認められた。

【添付文書情報】(下線部分が追加)
■効能・効果
・HER2陽性の手術不能又は再発乳癌
HER2陽性の乳癌における術後薬物療法

■効能・効果に関連する注意
〈効能共通〉
1. HER2陽性の検査は、十分な経験を有する病理医又は検査施設において実施すること。
2. 本剤は、トラスツズマブ(遺伝子組換え)及びタキサン系抗悪性腫瘍剤による化学療法の治療歴のある患者に投与すること。
3. 本剤の術前薬物療法における有効性及び安全性は確立していない。
〈HER2陽性の乳癌における術後薬物療法〉

4. 術前薬物療法により病理学的完全奏効(pCR)が認められなかった患者に投与すること。
5. 臨床試験に組み入れられた患者のpCRの定義等について、「17. 臨床成績」の項の内容を熟知し、本剤の有効性及び安全性を十分に理解した上で、適応患者の選択を行うこと。

■用法・用量
通常、成人にはトラスツズマブ エムタンシン(遺伝子組換え)として1回3.6 mg/kg(体重)を3週間間隔で点滴静注する。
ただし、術後薬物療法の場合には、投与回数は14回までとする。

(ケアネット 金沢 浩子)


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「乳腺外科医事件」控訴審、逆転有罪判決の裏側~担当弁護人による「判決の争点」解説~ 【後編】

提供元:CareNet.com/企画:協和企画

 手術直後の女性患者への準強制わいせつ罪を問われた執刀医が、逮捕・勾留・起訴された事件。一審では無罪判決となったが、再審では懲役2年の実刑判決が東京高裁より言い渡された。一転して逆転有罪判決となった経緯には何があったのか。弁護人の1人である水沼 直樹氏に、実際に法廷で論じられた争点について、前・後編で解説いただく。

 後編では、紙数の範囲内で弁護側推薦の精神科医の証言と判決を取り上げる(前編はこちら)。

後編:弁護側の精神科医の証言と判決

1.弁護側証人の証人尋問の骨子

 せん妄は、急性の脳機能不全であり、ベースは意識・注意の障害である。既知のリスクファクターがなくともせん妄の発症率は28%ほどあり1)、幻覚発症率も数割程度2),3)との報告がある。せん妄は直線的に回復するのではなく、日内で変動する。DSM−5等の診断基準に照らすと、患者は術後約30分の間、過活動型または混合型のせん妄状態であった。

 せん妄のサブタイプ(過活動型、低活動型、混合型)と重症度とは一致せず、いずれも幻覚体験することはあり、幻覚が記憶に残りうる3)。自己の臨床経験では、患者が壁に人がいると言ってスマホで写真撮影した症例があり、患者は一部の幻覚を記憶していた。せん妄により普段慣れている事を幻覚体験することがあり(作業せん妄)、自動車セールスマンの患者がベッドの枕に向かって自動車セールスをしていた症例がある。患者に声をかけると「いま商談中ですので」と遮られた。さらに、自転車に乗るといった意識的な処理なしに機能する「手続記憶」があり、LINEは手続記憶としてせん妄下で操作可能である。「警察に捕まる」と家族にLINEした症例がある。

2.控訴審判決

(1)せん妄について

 被害者の証言は、わいせつ被害の不快感、屈辱感を感じる一方で医師がそうするはずがないという生々しいもので、迫真性があり強い証明力がある。「ぶっ殺してやる。」との発言*1の有無自体、看護師の証言によるため信用性判断は慎重に行うべきで、カルテに「不安言動はみられた」との記載があるが「せん妄」との記載がなく「術後覚醒良好」と記載されていることから、患者が当該発言をしたか疑問がある。検察側証人はせん妄の専門の研究者ではないが臨床経験が豊富で信用性が高い。弁護側証人は患者の認識能力が劣る場面のみ取り上げ中立性に疑問がある*2。事件から2年以上経過した今、患者が看護師から受けたケアを覚えていないのは止むを得ない。当時の患者はせん妄ではないか、せん妄だとしても幻覚を体験していない。

(2)科学鑑定について

ア アミラーゼ検査の結果は、相応の専門性、技量のある科捜研研究員が適切な器具等を用いて検査した以上、あえて虚偽の証言する必要性がないから、アミラーゼ陽性を示す客観資料がなくとも、信用性は否定されない。

イ DNA定量検査は、標準資料(ママ)の増幅曲線および検量図(ママ)等が保存されずとも、また(9箇所の)ワークシートの消去や書き直しがあっても、信用性は否定されない。唾液は遠くに飛ばず下に落ちると思われ、手術助手より遠位にいた執刀医の唾液だけが検出されており、唾液飛沫が付着したとは考えにくい。

3.このような事案を防ぐために

 被告・弁護側は今回の高裁判決を不服として上告しており、本件については最高裁で争われることになります。今後このような事案を防ぐために、医療従事者単身での回診、見回りは回避し、とくに男性看護師の場合、術後間もない時だけでも単独訪室を避けましょう。また、せん妄診断について手順を再確認してみませんか4)。さらに、手術中待機中の家族に、せん妄に関する動画5)を視聴してもらうなど、マンパワーをかけずに啓蒙することも一案です。

  • *1:術後に看護師が被害者の検温を行おうとしたところ、被害者が「ふざけんな、ぶっ殺してやる」と発言したと看護師が証言している
  • *2:DSM−5は、意識障害等の認識能力が劣る点を診断するものであり、判決は弁護側証人の証言を曲解していると言える

( ケアネット )


参考

講師紹介

水沼 直樹 ( みずぬま なおき ) 氏東京神楽坂法律事務所 弁護士、東邦大学医学部ほか非常勤講師

[略歴] 東北大学法学部・日本大学大学院法務研究科卒業。
都内で法律事務所勤務ののち、亀田総合病院の内部専属弁護士として5年超にわたり勤務したのち,本件弁護を受任したため同院を退職し,現在に至る。
日本がん・生殖医療学会(兼理事)、日本睡眠歯科学会(兼倫理委員)、日本法医学会・日本DNA多型学会・日本医事法学会・日本賠償科学会・日本子ども虐待防止学会、日本麻酔医事法制研究会、オートプシー・イメージング学会(兼アドバイザ)、日本医療機関内弁護士協会(代表)の各会員ほか。

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若年性乳がん、高出生体重と親の子癇前症が関連

提供元:CareNet.com

 若年性乳がんと母親の周産期および出生後における曝露因子との関連について、米国・国立環境衛生科学研究所のMary V Diaz-Santana氏らが調査したところ、母親が妊娠時に子癇前症であった場合と高出生体重の場合に若年性乳がんリスクが高い可能性があることが示唆された。Breast Cancer Research誌2020年8月13日号に掲載。

 本研究(Two Sister Study)は姉妹をマッチさせたケースコントロール研究で、ケースは50歳になる前に非浸潤性乳管がんまたは浸潤性乳がんと診断された女性、コントロールは乳がんを発症した同じ年齢まで乳がんではなかった姉妹とした。リスク因子として、母親の妊娠時における子癇前症・喫煙・妊娠高血圧・ジエチルスチルベストロールの使用・妊娠糖尿病、低出生体重(5.5ポンド未満)、高出生体重(8.8ポンド超)、短い妊娠期間(38週未満)、母乳育児、乳幼児期の大豆粉乳摂取を検討した。

 主な結果は以下のとおり。

・条件付きロジスティック回帰分析では、高出生体重(オッズ比[OR]:1.59、95%信頼区間[CI]:1.07~2.36)と母親の妊娠時における子癇前症(調整後OR:1.92、95%CI:0.824~4.5162)が若年性乳がんリスクと関連していた。浸潤性乳がんに限定した場合、子癇前症との関連はより大きかった(OR:2.87、95%CI:1.08~7.59)。
・ケースのみの分析から、母親が妊娠時に子癇前症で若年性乳がんを発症した女性は、エストロゲン受容体陰性のオッズが高かった(OR:2.27、95%CI:1.05~4.92)。

(ケアネット 金沢 浩子)


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Diaz-Santana MV, et al. Breast Cancer Res. 2020;22:88.

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