「乳腺外科医事件」控訴審、逆転有罪判決の裏側~担当弁護人による「判決の争点」解説~ 【後編】

提供元:CareNet.com/企画:協和企画

 手術直後の女性患者への準強制わいせつ罪を問われた執刀医が、逮捕・勾留・起訴された事件。一審では無罪判決となったが、再審では懲役2年の実刑判決が東京高裁より言い渡された。一転して逆転有罪判決となった経緯には何があったのか。弁護人の1人である水沼 直樹氏に、実際に法廷で論じられた争点について、前・後編で解説いただく。

 後編では、紙数の範囲内で弁護側推薦の精神科医の証言と判決を取り上げる(前編はこちら)。

後編:弁護側の精神科医の証言と判決

1.弁護側証人の証人尋問の骨子

 せん妄は、急性の脳機能不全であり、ベースは意識・注意の障害である。既知のリスクファクターがなくともせん妄の発症率は28%ほどあり1)、幻覚発症率も数割程度2),3)との報告がある。せん妄は直線的に回復するのではなく、日内で変動する。DSM−5等の診断基準に照らすと、患者は術後約30分の間、過活動型または混合型のせん妄状態であった。

 せん妄のサブタイプ(過活動型、低活動型、混合型)と重症度とは一致せず、いずれも幻覚体験することはあり、幻覚が記憶に残りうる3)。自己の臨床経験では、患者が壁に人がいると言ってスマホで写真撮影した症例があり、患者は一部の幻覚を記憶していた。せん妄により普段慣れている事を幻覚体験することがあり(作業せん妄)、自動車セールスマンの患者がベッドの枕に向かって自動車セールスをしていた症例がある。患者に声をかけると「いま商談中ですので」と遮られた。さらに、自転車に乗るといった意識的な処理なしに機能する「手続記憶」があり、LINEは手続記憶としてせん妄下で操作可能である。「警察に捕まる」と家族にLINEした症例がある。

2.控訴審判決

(1)せん妄について

 被害者の証言は、わいせつ被害の不快感、屈辱感を感じる一方で医師がそうするはずがないという生々しいもので、迫真性があり強い証明力がある。「ぶっ殺してやる。」との発言*1の有無自体、看護師の証言によるため信用性判断は慎重に行うべきで、カルテに「不安言動はみられた」との記載があるが「せん妄」との記載がなく「術後覚醒良好」と記載されていることから、患者が当該発言をしたか疑問がある。検察側証人はせん妄の専門の研究者ではないが臨床経験が豊富で信用性が高い。弁護側証人は患者の認識能力が劣る場面のみ取り上げ中立性に疑問がある*2。事件から2年以上経過した今、患者が看護師から受けたケアを覚えていないのは止むを得ない。当時の患者はせん妄ではないか、せん妄だとしても幻覚を体験していない。

(2)科学鑑定について

ア アミラーゼ検査の結果は、相応の専門性、技量のある科捜研研究員が適切な器具等を用いて検査した以上、あえて虚偽の証言する必要性がないから、アミラーゼ陽性を示す客観資料がなくとも、信用性は否定されない。

イ DNA定量検査は、標準資料(ママ)の増幅曲線および検量図(ママ)等が保存されずとも、また(9箇所の)ワークシートの消去や書き直しがあっても、信用性は否定されない。唾液は遠くに飛ばず下に落ちると思われ、手術助手より遠位にいた執刀医の唾液だけが検出されており、唾液飛沫が付着したとは考えにくい。

3.このような事案を防ぐために

 被告・弁護側は今回の高裁判決を不服として上告しており、本件については最高裁で争われることになります。今後このような事案を防ぐために、医療従事者単身での回診、見回りは回避し、とくに男性看護師の場合、術後間もないときだけでも単独訪室を避けましょう。また、せん妄診断について手順を再確認してみませんか4)。さらに、手術中待機中の家族に、せん妄に関する動画5)を視聴してもらうなど、マンパワーをかけずに啓蒙することも一案です。

  • *1:術後に看護師が被害者の検温を行おうとしたところ、被害者が「ふざけんな、ぶっ殺してやる」と発言したと看護師が証言している
  • *2:DSM−5は、意識障害等の認識能力が劣る点を診断するものであり、判決は弁護側証人の証言を曲解していると言える


参考

講師紹介

水沼 直樹 ( みずぬま なおき ) 氏東京神楽坂法律事務所 弁護士、東邦大学医学部ほか非常勤講師

[略歴] 東北大学法学部・日本大学大学院法務研究科卒業。
都内で法律事務所勤務ののち、亀田総合病院の内部専属弁護士として5年超にわたり勤務したのち,本件弁護を受任したため同院を退職し,現在に至る。
日本がん・生殖医療学会(兼理事)、日本睡眠歯科学会(兼倫理委員)、日本法医学会・日本DNA多型学会・日本医事法学会・日本賠償科学会・日本子ども虐待防止学会、日本麻酔医事法制研究会、オートプシー・イメージング学会(兼アドバイザ)、日本医療機関内弁護士協会(代表)の各会員ほか。

前編はこちらから

「乳腺外科医事件」控訴審、逆転有罪判決の裏側~担当弁護人による「判決の争点」解説~ 【後編】

提供元:CareNet.com/企画:協和企画

 手術直後の女性患者への準強制わいせつ罪に問われた執刀医が、逮捕・勾留・起訴された事件。一審では無罪判決となったが、控訴審では懲役2年の実刑判決が東京高裁より言い渡された。一転して逆転有罪判決となった経緯には何があったのか。弁護人の1人である水沼 直樹氏に、実際に法廷で論じられた争点について、前・後編で解説いただく。

 後編では、紙数の範囲内で弁護側推薦の精神科医の証言と判決を取り上げる(前編はこちら)。

後編:弁護側の精神科医の証言と判決

1.弁護側証人の証人尋問の骨子

 せん妄は、急性の脳機能不全であり、ベースは意識・注意の障害である。既知のリスクファクターがなくともせん妄の発症率は28%ほどあり1)、幻覚発症率も数割程度2),3)との報告がある。せん妄は直線的に回復するのではなく、日内で変動する。DSM-V等の診断基準に照らすと、患者は術後約30分の間、過活動型または混合型のせん妄状態であった。

 せん妄のサブタイプ(過活動型、低活動型、混合型)と重症度とは一致せず、いずれも幻覚体験することはあり、幻覚が記憶に残りうる3)。自己の臨床経験では、患者が壁に人がいると言ってスマホで写真撮影した症例があり、患者は一部の幻覚を記憶していた。せん妄により普段慣れている事を幻覚体験することがあり(作業せん妄)、自動車セールスマンの患者がベッドの枕に向かって自動車セールスをしていた症例がある。患者に声をかけると「いま商談中ですので」と遮られた。さらに、自転車に乗るといった意識的な処理なしに機能する「手続記憶」があり、LINEは手続記憶としてせん妄下で操作可能である。「警察に捕まる」と家族にLINEした症例がある。

2.控訴審判決

(1)せん妄について

 被害者の証言は、わいせつ被害の不快感、屈辱感を感じる一方で医師がそうするはずがないという生々しいもので、迫真性があり強い証明力がある。「ぶっ殺してやる」との発言*1の有無自体、看護師の証言によるため信用性判断は慎重に行うべきで、カルテに「不安言動はみられた」との記載があるが「せん妄」との記載がなく「術後覚醒良好」と記載されていることから、患者が当該発言をしたか疑問がある。検察側証人はせん妄の専門の研究者ではないが臨床経験が豊富で信用性が高い。弁護側証人は患者の認識能力が劣る場面のみ取り上げ中立性に疑問がある*2。事件から2年以上経過した今、患者が看護師から受けたケアを覚えていないのは止むを得ない。当時の患者はせん妄ではないか、せん妄だとしても幻覚を体験していない。

(2)科学鑑定について

ア アミラーゼ検査の結果は、相応の専門性、技量のある科捜研研究員が適切な器具等を用いて検査した以上、あえて虚偽の証言する必要性がないから、アミラーゼ陽性を示す客観資料がなくとも、信用性は否定されない。

イ DNA定量検査は、標準資料(ママ)の増幅曲線および検量図(ママ)等が保存されずとも、また(9箇所の)ワークシートの消去や書き直しがあっても、信用性は否定されない。唾液は遠くに飛ばず下に落ちると思われ、手術助手より遠位にいた執刀医の唾液だけが検出されており、唾液飛沫が付着したとは考えにくい。

3.このような事案を防ぐために

 被告・弁護側は今回の高裁判決を不服として上告しており、本件については最高裁で争われることになります。今後このような事案を防ぐために、医療従事者単身での回診、見回りは回避し、とくに男性看護師の場合、術後間もないときだけでも単独訪室を避けましょう。また、せん妄診断について手順を再確認してみませんか4)。さらに、手術中待機中の家族に、せん妄に関する動画5)を視聴してもらう等、マンパワーをかけずに啓蒙することも一案です。

  • *1:術後に看護師が被害者の検温を行おうとしたところ、被害者が「ふざけんな、ぶっ殺してやる」と発言したと看護師が証言している
  • *2:DSM-Vは、意識障害等の認識能力が劣る点を診断するものであり、判決は弁護側証人の証言を曲解していると言える

参考

講師紹介

水沼 直樹 ( みずぬま なおき ) 氏東京神楽坂法律事務所 弁護士、東邦大学医学部ほか非常勤講師

[略歴] 東北大学法学部・日本大学大学院法務研究科卒業。
都内で法律事務所勤務ののち、亀田総合病院の内部専属弁護士として5年超にわたり勤務したのち,本件弁護を受任したため同院を退職し,現在に至る。
日本がん・生殖医療学会(兼理事)、日本睡眠歯科学会(兼倫理委員)、日本法医学会・日本DNA多型学会・日本医事法学会・日本賠償科学会・日本子ども虐待防止学会、日本麻酔医事法制研究会、オートプシー・イメージング学会(兼アドバイザ)、日本医療機関内弁護士協会(代表)の各会員ほか。

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6 「乳腺外科医事件」再度の無罪判決と医療現場への示唆

5 「乳腺外科医事件」最高裁判決を受けて~担当弁護人の視点から

4 「乳腺外科医事件」控訴審、逆転有罪判決の裏側~担当弁護人による「判決の争点」解説~【後編】

3 「乳腺外科医事件」控訴審、逆転有罪判決の裏側~担当弁護人による「判決の争点」解説~【前編】

2 「乳腺外科医事件」裁判の争点 【後編】

1 「乳腺外科医事件」裁判の争点 【前編】

若年性乳がん、高出生体重と親の子癇前症が関連

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 若年性乳がんと母親の周産期および出生後における曝露因子との関連について、米国・国立環境衛生科学研究所のMary V Diaz-Santana氏らが調査したところ、母親が妊娠時に子癇前症であった場合と高出生体重の場合に若年性乳がんリスクが高い可能性があることが示唆された。Breast Cancer Research誌2020年8月13日号に掲載。

 本研究(Two Sister Study)は姉妹をマッチさせたケースコントロール研究で、ケースは50歳になる前に非浸潤性乳管がんまたは浸潤性乳がんと診断された女性、コントロールは乳がんを発症した同じ年齢まで乳がんではなかった姉妹とした。リスク因子として、母親の妊娠時における子癇前症・喫煙・妊娠高血圧・ジエチルスチルベストロールの使用・妊娠糖尿病、低出生体重(5.5ポンド未満)、高出生体重(8.8ポンド超)、短い妊娠期間(38週未満)、母乳育児、乳幼児期の大豆粉乳摂取を検討した。

 主な結果は以下のとおり。

・条件付きロジスティック回帰分析では、高出生体重(オッズ比[OR]:1.59、95%信頼区間[CI]:1.07~2.36)と母親の妊娠時における子癇前症(調整後OR:1.92、95%CI:0.824~4.5162)が若年性乳がんリスクと関連していた。浸潤性乳がんに限定した場合、子癇前症との関連はより大きかった(OR:2.87、95%CI:1.08~7.59)。
・ケースのみの分析から、母親が妊娠時に子癇前症で若年性乳がんを発症した女性は、エストロゲン受容体陰性のオッズが高かった(OR:2.27、95%CI:1.05~4.92)。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Diaz-Santana MV, et al. Breast Cancer Res. 2020;22:88.

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TN乳がんの術後補助療法、パクリタキセル+カルボプラチンでDFS改善/JAMA Oncol

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 手術可能なトリプルネガティブ(TN)乳がんへの術後補助療法において、パクリタキセルとカルボプラチンの併用が標準レジメンより5年無病生存率が有意に高かったことが、無作為化第III相試験(PATTERN試験)で示された。中国・Fudan University Shanghai Cancer CenterのKe-Da Yu氏らが報告した。JAMA Oncology誌オンライン版2020年8月13日号に掲載。

 本試験は中国の9施設のがんセンターと病院で実施された。対象患者は2011年7月1日~2016年4月30日に登録し、データはITT集団で2019年12月1日~2020年1月31日に解析した。

・対象: 18~70歳の手術可能なTN乳がんの女性(病理学的に確認された局所リンパ節転移のある患者もしくは原発腫瘍径10mm超のリンパ節転移のない患者)で、除外基準は、転移ありもしくは局所進行の患者、TNではない乳がん患者、術前治療(化学療法、放射線療法)を受けた患者
・試験群: 1、8、15日目にパクリタキセル80mg/m2+カルボプラチン(AUC 2)、28日ごと6サイクル投与(PCb群)
・対照群:シクロホスファミド500mg/m2+エピルビシン100mg/m2+フルオロウラシル500mg/m2を3週ごと3サイクル投与後、ドセタキセル100mg/m2を3週ごと3サイクル投与(CEF-T群)
・評価項目:
[主要評価項目]無病生存期間(DFS)
[副次評価項目]全生存期間、遠隔DFS、無再発生存期間、BRCA1/2もしくは相同組換え修復(HRR)関連遺伝子の変異がある患者のDFS 、毒性

 主な結果は以下のとおり。

・手術可能なTN乳がん患者647例(平均年齢[SD]:51[44~57]歳)をCEF-T群(322例)またはPCb群(325例)に無作為に割り付けた。
・中央値62ヵ月の追跡期間で、PCb群はCEF-T群よりDFSが長かった(5年DFS:86.5% vs.80.3%、ハザード比[HR]:0.65、95%CI:0.44~0.96、p=0.03)。遠隔DFSと無再発生存期間でも同様の結果が認められた。
・全生存期間は統計学的な有意差がみられなかった(HR:0.71、95%CI:0.42~1.22、p=0.22)。
・サブグループ解析では、BRCA1/2変異のある患者のDFSのHRは0.44(95%CI:0.15~1.31、p=0.14)、HRR関連遺伝子変異のある患者では0.39(95%CI:0.15~0.99、p=0.04)であった。
・安全性データは既知の安全性プロファイルと一致していた。

 著者らは、「これらの結果から、手術可能なTN乳がん患者においてパクリタキセルとカルボプラチンの併用が術後補助化学療法の代替の選択肢となりうることが示唆される。分子分類の時代においては、PCbが有効なTN乳がんのサブセットをさらに調べる必要がある」としている。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Yu KD, et al. JAMA Oncol. 2020 Aug 13. [Epub ahead of print]

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(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

「乳腺外科医事件」控訴審、逆転有罪判決の裏側~担当弁護人による「判決の争点」解説~【前編】

提供元:CareNet.com/企画:協和企画

 手術直後の女性患者への準強制わいせつ罪に問われた執刀医が、逮捕・勾留・起訴された事件。一審では無罪判決となったが、控訴審では懲役2年の実刑判決が東京高裁より言い渡された。一転して逆転有罪判決となった経緯には何があったのか。弁護人の1人である水沼 直樹氏に、実際に法廷で論じられた争点について、前・後編で解説いただく。

前編:経緯と検察側証人の証言

1.事案の概要

 2016年5月、右側の良性の乳腺腫瘍摘出術を受けた30代の女性患者が、術後30分以内に2度回診に来た執刀医からわいせつ行為を受けたと訴えたところ、患者の健側胸部から執刀医と同型のDNA型が検出され、アミラーゼ検査が陽性となった本件について、東京地裁は2019年2月20日無罪判決を言い渡しましたが*、東京高裁は2020年7月13日懲役2年の実刑判決を言い渡しました。

2.経緯

 検察官は、控訴趣意書(本文50頁)の約3分の2を割いてDNA定量検査およびアミラーゼ検査が科学的に問題ないことを主張し、検査時に作成するワークシートが鉛筆書きで良いといった某大学の「化学実験の指針」や検査人に問題がない旨の意見書等を証拠提出しました。

 これに対して、弁護人は、 DNA定量検査の際の増幅曲線や検量線図が検査ごとに必要である等と主張したり、上記「化学実験の指針」には、「字を消しゴム(訂正インク)を使って消したりまたは逆に塗りつぶしたりしてはならない」等の記載があることを反証し,検察側の意見者が矛盾する論文を執筆していた事実等を証拠請求しました。

3.控訴審での動き

 東京高裁は、患者が当時せん妄状態であったか、せん妄状態でLINE送信が可能か、幻覚を体験し得るか、について関心があると明言し、専門家証人を推薦するよう指示しました。

 そこで、検察官が精神科医1名を、弁護人が精神科医と集中治療医1名ずつを推薦したところ、東京高裁は2名の精神科医だけを証人採用しました。

4.検察側証人の証言

(1)主尋問の骨子

 自分はせん妄の専門家ではないが、救急センター兼任教授としてせん妄患者を診ている。せん妄は、アルコールの酩酊とパラレルに考えられ、アルコール酩酊者がBinderの分類でいう病的酩酊→複雑酩酊→単純酩酊と移行するように、せん妄も過活動型→混合型→低活動型と移行する。幻覚は、過活動型と混合型でみられるものの、記憶に残らない。低活動型の場合、意識障害がなく周囲の状況を理解でき、後から出来事を思い出せるが、幻覚体験をすることはない。前後不覚状態ではLINEを打てず、患者がLINEを打つという合目的的な行動をとっている点で、患者はせん妄状態ではない。患者の訴えは、性被害者の訴えの典型である。今回調べたところ、世界的に医師の性犯罪が問題となっていた。

(2)反対尋問の骨子

 せん妄の論文執筆、研究、学会発表等の経験は一切ない。せん妄とアルコール酩酊をパラレルに考えたのは、模式的に説明するためで、証人としては今後これを医学的論文等で公表したいと考えている。低活動型せん妄で幻覚が生じないことの出典はない。緩和ケアを基礎とするせん妄の診断基準・統計と本件とでは質が違う。せん妄の診断に際して見当識障害のあることが大前提とは言えない。本件患者は直線的に時事刻々と目覚めた。

 後編では,弁護側証人の証言,控訴審判決を中心に解説します。

*:詳細は、本サイト『「乳腺外科医事件」の判決の裏側』(前編/後編)を、または「医療判例解説」Vol.79をご覧ください。

後編はこちら


講師紹介

水沼 直樹 ( みずぬま なおき ) 氏東京神楽坂法律事務所 弁護士、東邦大学医学部ほか非常勤講師

[略歴] 東北大学法学部・日本大学大学院法務研究科卒業。
都内で法律事務所勤務ののち、亀田総合病院の内部専属弁護士として5年超にわたり勤務したのち,本件弁護を受任したため同院を退職し,現在に至る。
日本がん・生殖医療学会(兼理事)、日本睡眠歯科学会(兼倫理委員)、日本法医学会・日本DNA多型学会・日本医事法学会・日本賠償科学会・日本子ども虐待防止学会、日本麻酔医事法制研究会、オートプシー・イメージング学会(兼アドバイザ)、日本医療機関内弁護士協会(代表)の各会員ほか。


バックナンバー

6 「乳腺外科医事件」再度の無罪判決と医療現場への示唆

5 「乳腺外科医事件」最高裁判決を受けて~担当弁護人の視点から

4 「乳腺外科医事件」控訴審、逆転有罪判決の裏側~担当弁護人による「判決の争点」解説~【後編】

3 「乳腺外科医事件」控訴審、逆転有罪判決の裏側~担当弁護人による「判決の争点」解説~【前編】

2 「乳腺外科医事件」裁判の争点 【後編】

1 「乳腺外科医事件」裁判の争点 【前編】

乳がん関連リンパ浮腫、リンパ節照射より腋窩手術の種類が影響/JCO

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 乳がん関連リンパ浮腫について、腋窩手術の種類と領域リンパ節照射(RLNR)による影響を検討したところ、センチネルリンパ節生検(SLNB)、腋窩リンパ節郭清(ALND)ともRLNR追加でリンパ浮腫発現率は増加しなかった。また、ALND単独のほうが、SLNBにRLNRを追加するよりリンパ浮腫リスクが高かったことが、米国・ハーバード大学医学大学院のGeorge E. Naoum氏らによる前向きスクリーニング研究の長期結果で示された。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2020年7月30日号に掲載。

 本試験では、2005~18年にマサチューセッツ総合病院で治療を受けた浸潤性乳がん患者1,815例を、SLNB単独群、SLNB+RLNR群、ALND単独群、ALND+RLNR群の4群に分け、術前および治療後観察期間にperometerで上肢容積を測定した。術後3ヵ月以降に患側上肢容積が術前に比べて10%以上増加した場合をリンパ浮腫とした。

 主な結果は以下のとおり。

・各治療群の対象例数は、SLNB単独群1,340例、SLNB+RLNR群121例、ALND単独群91例、ALND+RLNR群263例であった。
・全体における診断後の観察期間中央値は52.7ヵ月であった。
・リンパ浮腫の5年累積発現率は、SLNB単独群8.0%、SLNB+RLNR群10.7%、ALND単独群24.9%、ALND+RLNR群30.1%であった。
・年齢、BMI、手術、再建タイプを調整した多変量Coxモデルによる解析において、ALND単独群はSLNB+RLNR群に比べてリンパ浮腫リスクが有意に高かった(ハザード比[HR]:2.66、p=0.02)。SLNB単独群とSLNB+RLNR群の間(HR:1.33、p=0.44)、ALND+RLNR群とALND単独群の間(HR:1.20、p=0.49)に有意差はみられなかった。
・5年局所再発率は、SLNB単独群2.3%、SLNB+RLNR群0%、ALND単独群3.8%、ALND+RLNR群2.8%でほぼ同じだった。

 著者らは、「RLNRはリンパ浮腫リスクを高めるが、リンパ浮腫の主要なリスク因子は腋窩手術の種類である」と結論している。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Naoum GE, et al. J Clin Oncol. 2020 Jul 30. [Epub ahead of print]

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(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

コロナ禍、がん診断の遅れで5年後がん死増加の恐れ/Lancet Oncol

提供元:CareNet.com

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が、がん死に影響するとの報告が英国から寄せられた。同国ではCOVID-19のパンデミックにより2020年3月に全国的なロックダウンが導入されて以降、がん検診は中断、定期的な診断・診療も延期され、緊急性の高い症候性患者のみに対して診断・治療が行われているという。英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のCamille Maringe氏らは、診断の遅れが主ながん患者の生存率にどのような影響を及ぼすのかモデリング研究にて検討し、回避可能ながん死が相当数増加すると予想されることを明らかにした。結果を踏まえて著者は、「緊急の政策介入が必要である。とくに、COVID-19パンデミックのがん患者への影響を軽減するため、定期的な診断サービスの確保を管理する必要がある」とまとめている。Lancet Oncology誌オンライン版2020年7月20日号掲載の報告。

 研究グループは、英国の国民保健サービス(NHS)のがん登録および病院管理データを用い、2010年1月1日~12月31日の間に乳がん、大腸がんまたは食道がんと診断され2014年12月31日までの追跡データがある、または、2012年1月1日~12月31日の間に肺がんと診断され2015年12月31日までの追跡データがある15~84歳の患者を特定し、物理的距離を確保する対策が開始された2020年3月16日から1年間の診断遅延が及ぼす影響について解析した。

 診断遅延の生存に対する2次的影響をモデル化するため、通常のスクリーニングと紹介の経路での患者を、診断時の病期がより進行していることと関連する緊急経路に割り当て、最良から最悪まで3つのシナリオについて、診断後1、3、5年時点でのがんに起因する追加死亡および全損失生存年数(YLL)を算出し、パンデミック前のデータと比較した。

 主な結果は以下のとおり。

・乳がん患者3万2,583例、大腸がん患者2万4,975例、食道がん患者6,744例、肺がん患者2万9,305例が解析に組み込まれた。
・乳がんでは、診断後5年時までの乳がん死が7.9~9.6%(追加死亡相当で281例[95%信頼区間[CI]:266~295]~344例[329~358])増加すると推定された。
・同様に、大腸がんでは15.3~16.6%(追加死亡1,445例[95%CI:1,392~1,591]~1,563例[1,534~1,592])、肺がんでは4.8~5.3%(追加死亡1,235例[1,220~1,254]~1,372例[1,343~1,401])、食道がんでは5.8~6.0%(追加死亡330例[324~335]~342例[336~348])、それぞれ増加すると推定された。
・これら4種のがんについての5年間の追加死亡は、3つのシナリオ全体で3,291~3,621例であり、追加YLLは5万9,204~6万3,229年と推定された。

(ケアネット)


【原著論文はこちら】

Maringe C, et al. Lancet Oncol. 2020 Jul 20. [Epub ahead of print]

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

がん患者の脱毛軽減に有用な頭皮冷却装置、国内初の製造販売承認

提供元:CareNet.com

 2020年7月10日、「抗がん剤治療の副作用による脱毛を低減・抑制する国産初の『頭皮冷却装置』発表記者会見」が開催された(株式会社毛髪クリニックリーブ21主催)。小林 忠男氏(大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 招へい教授)が「乳がん化学療法患者さんにおけるリーブ21 CellGuard(セルガード、頭皮冷却装置)を用いた脱毛の軽減化について」を、渡邉 隆紀氏(仙台医療センター乳腺外科医長)が「乳がんにおける化学療法と脱毛の問題点」について講演した。

 がん化学療法に伴う容姿変化が原因で治療介入に対し消極的となる患者も存在する。そのような患者のサポートを行う上でエビデンスが集約され治療に役立つのが、「がん患者に対するアピアランスケアの手引き」である。これには脱毛をはじめ、爪の変形や皮膚への色素沈着などへの対応法がまとめられ、たとえば、脱毛に関しては“CQ1:脱毛の予防や重症度の軽減に頭皮冷却は有用か”の項で、頭皮冷却の推奨はC1a(科学的根拠はないが、行うように勧められる)とされている。しかし、日本は海外に比べ、医療施設への頭皮冷却装置の導入が遅れているのが現状であるー。

頭皮冷却装置でがん患者の満足度アップ

 小林氏は化学療法に誘発される脱毛(CIA:Chemotherapy induced-alopecia)のメカニズムについて、頭皮冷却の理論的根拠(温度低下により血管が収縮→血流低下により薬剤濃度低下、または反応速度低下→毛根細胞生存の維持)や脱毛頻度の高い抗がん剤開発と頭皮冷却の歴史を交えて解説。CIAが女性患者にもたらす影響として以下を述べた。

●身体的また精神的な悪影響
●心理学的な症状
●ボディイメージの低下
●乳房を失うよりも強いトラウマ
●QOLの低下:Identityと個性に強い影響を及ぼす
●治療後も持続的な髪質の変化(くせ毛・量・太さ)

 これらの悩みを解決するべく誕生したのがセルガードであり、この特徴として、「制御付き頭皮冷却のデジタルシステムである。頭皮温度を氷点下で維持することで毛根周囲の血管を収縮させて、毛根周辺毛細血管に到達する抗がん剤の量を抑制することができる。また、1台で2名が利用でき外来化学療法に有用」と説明した。上田 美幸氏らが第18回日本乳癌学会学術総会(2010年)で報告した『頭皮冷却キャップ装着に伴う変化 患者満足度アンケート』によると、装着の問題、使用中の気分不快、頭痛について調査し大多数で満足が得られているほか、加藤乳腺クリニックの29例を対象とした調査では、NCI-CTC scale Grade0は8例、Grade1は17例、Grade2は4例という結果が得られた。これを踏まえ同氏は、「セルガードによる頭皮冷却法がCIAに効果的であると証明された。今後、患者のQOLを向上させるだけではなく、より良い治療へ貢献する可能性がある」と語った。

脱毛に関する不安、患者と医療者で大きな差

 脱毛の臨床的な見解を示した渡邉氏は、がん化学療法を受けた患者の苦痛調査1,2,3,4)から「脱毛は、この30年間で常に上位に位置するほど患者の大きな悩み。また、別の調査5)でも治療時の不安において、患者は脱毛を4番目に挙げる一方、看護師は9番目、医師は12番目に挙げた」と、がん患者・看護師・医師の認識の乖離を指摘。なかでも、乳がんは患者の増加、初発年齢の若さ、適格な診断・予後の良さに加え、近年では外来化学療法が主流となっているが、体毛すべてに影響を及ぼす乳がん再発予防の治療は患者に大きな負担をもたらしている。同氏らが行った調査6)によると乳がん患者が脱毛した場合、再発毛しても頭髪8割以上の回復は60%、頭髪5~8割の回復は25%、頭髪5割未満の回復は15%で、再発毛不良部位は前頭部と頭頂部が圧倒的に多いことが明らかになった。また、ウイッグの使用期間は平均12.5±9.7ヵ月で、60ヵ月以上もウィッグを手放せない患者も存在した。このことから同氏は「脱毛程度の軽減、再発毛の促進に頭皮冷却装置の効果を期待する」と締めくくった。

日本人向け脱毛防止装置で苦痛開放へ

 日本での冷却装置導入の遅れに注目したリーブ21代表取締役社長の岡村 勝正氏は、「女性にとって乳がん治療はがん告知、乳房、髪の毛を失う三重の苦しみがあると言われている。欧米で発売されている頭皮冷却装置は日本人に適さないことから、脱毛で悩む日本人を救うため開発を行った」とし、「同製品は本年秋頃、全国のがん診療連携拠点病院に対してプロモーションを予定している」と話した。

■参考
リーブ21:頭皮冷却装置<セルガード> 
1)Coates A, et al. Eur J Cancer Clin Oncol. 1983;19:203-208.
2)Griffin AM, et al. Ann Oncol. 1996;7:189-195.
3)Dennert MB, et al. Br J Cancer. 1997;76:1055-1061.
4)Carelle N, et al. Cancer. 2002;95:155-163.
5)Mulders M, et al. Eur J Oncol Nurs. 2008;12:97-102.
6)Watanabe T, et al. PLoS One.2019;14:e0208118.

(ケアネット 土井 舞子)


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閉経後ホルモン補充療法、乳がんへの長期影響は?/JAMA

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 2件の無作為化試験の長期フォローアップの解析から、子宮摘出術を受けた女性において、結合型エストロゲン(CEE)単独療法を受けた患者群はプラセボ群と比較して、乳がん発生率および乳がん死亡率の低下と有意に関連していることが明らかにされた。また、子宮温存療法を受けた女性において、CEE+メドロキシプロゲステロン酢酸エステル(MPA)療法を受けた患者群はプラセボ群と比較して、乳がん発生率は有意に高く、乳がん死亡率に有意な差はみられなかった。米国・Harbor-UCLA Medical CenterのRowan T. Chlebowski氏らによる報告で、これまで閉経後ホルモン療法の乳がんへの影響は、観察研究と無作為化試験の所見が一致せず結論には至っていなかったことから、一般閉経後女性を対象としたホルモン補充療法の大規模前向き無作為化試験「Women’s Health Initiative」参加者の長期追跡評価試験を行い、CEE+MPA療法またはCEE単独療法の乳がん発生・死亡への影響を調べる検討を行った。JAMA誌2020年7月28日号掲載の報告。

CEE単独またはCEE+MPA療法の対プラセボ評価を20年超追跡

 2件のプラセボ対照無作為化試験の長期追跡評価は、乳がんの既往がなく、ベースラインのマンモグラフィで陰性が確認された50~79歳の閉経後女性2万7,347例を対象に行われた。対象者は、1993~98年に米国内40ヵ所のセンターで登録され、2017年12月31日まで追跡を受けた。

 このうち、子宮が温存されている1万6,608例を対象とした試験では、8,506例がCEE 0.625mg/日+MPA 2.5mg/日を投与され、8,102例がプラセボを投与された。また、子宮摘出術を受けていた1万739例を対象とした試験では、5,310例がCEE 0.625mg/日単独投与を、5,429例がプラセボ投与を受けた。

 CEE+MPA試験は、中央値5.6年後の2002年に中止となり、CEE単独試験は中央値7.2年後の2004年に中止となっている。

 主要評価項目は、乳がんの発生(プロトコールは有害性についての主要モニタリングアウトカムと規定)、副次評価項目は、乳がん死および乳がん後の死亡であった。

 対象者2万7,347例はベースラインの平均年齢63.4(SD 7.2)歳で、累積フォローアップ中央値20年超において98%以上の死亡情報の入手・利用が可能であった。

子宮摘出CEE単独は発生率・死亡率とも低下、子宮温存CEE+MPAは発生率上昇

 子宮摘出術を受けていた1万739例において、CEE単独療法はプラセボと比較して、統計学的に有意に乳がんの発生率が低かった(238例[年率0.30%]vs.296例[0.37%]、ハザード比[HR]:0.78、95%信頼区間[CI]:0.65~0.93、p=0.005)。また、乳がん死も統計学的に有意に低率だった(30例[0.031%]vs.46例[0.046%]、0.60、0.37~0.97、p=0.04)。

 対照的に、子宮が温存されていた1万6,608例において、CEE+MPA療法はプラセボと比較して、統計学的に有意に乳がんの発生率が高く(584例[年率0.45%]vs.447例[0.36%]、HR:1.28、95%CI:1.13~1.45、p<0.001)、乳がん死の有意差はみられなかった(71例[0.045%]vs.53例[0.035%]、1.35、0.94~1.95、p=0.11)。

(ケアネット)


【原著論文はこちら】

Chlebowski RT, et al. JAMA. 2020;324:369-380.

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併存症のある高齢乳がん患者、補助化学療法と生存は関連するか/JAMA Oncol

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 複数の併存疾患を有する高齢乳がん患者において、補助化学療法は生存と関連するのか。米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのNina Tamirisa氏らは、併存疾患を有する70歳以上の乳がん患者を対象に、補助化学療法と生存の関連を評価する、後ろ向きの大規模コホート研究を実施した。JAMA Oncology誌オンライン版2020年7月16日号に掲載の報告より。

 対象は米国国立がんデータベースに登録された、70歳以上のエストロゲン受容体陽性、ERBB2陰性、Charlson/Deyo併存疾患指数が2または3の乳がん患者。2010年1月1日~2014年12月31日にリンパ節転移陽性乳がんの手術を受けていた。

 年齢、併存症スコア、施設タイプ、施設の場所、病理学的TおよびN分類、補助内分泌療法と放射線療法の有無に基づく傾向スコアを用いた、二重ロバストCox比例ハザード回帰モデルにより、補助化学療法と全生存との関連が推定された。データ分析期間は、2018年12月13日~2020年4月28日。

 主な結果は以下のとおり。

・データベースに含まれる計244万5,870例のうち、1,592例(平均年齢:77.5[SD 5.5]歳、女性:96.9%)が包含基準を満たした。
・これらの患者のうち、350例(22.0%)で化学療法が実施され、1,242例(78.0%)では実施されなかった。
・化学療法グループと比較して、化学療法なしのグループは若く(平均年齢:74 vs.78歳、p<0.001)、原発腫瘍が大きく(pT3/T4:72例[20.6%] vs.182例 [14.7%]、p = 0.005)、リンパ節転移数が多かった(pN3:75例[21.4%]vs.81例[6.5%]、pN1:182例[52.0%]vs.936例[75.4%]、p<0.001)。
・化学療法グループでより多く、他の術後療法も行われていた:内分泌療法(309例 [88.3%] vs.1,025例[82.5%]、p=0.01)、放射線療法(236例[67.4%]vs.540例[43.5%]、p<0.001)。
・追跡期間中央値43.1ヵ月(95%CI:39.6~46.5ヵ月)において、化学療法グループと化学療法なしのグループの全生存期間中央値に、統計的有意差はみられなかった(78.9ヵ月[95%CI:78.9ヵ月~NR]vs.62.7ヵ月[95%CI:56.2ヵ月~NR]、p = 0.13)。
・潜在的な交絡因子で調整後、化学療法の実施と生存率改善が関連した(ハザード比:0.67、95%CI:0.48~0.93、p=0.02)。

 著者らは、複数の併存症を有するリンパ節転移陽性、エストロゲン受容体陽性の高齢乳がん患者において、化学療法の実施が全生存期間の改善に関連することが明らかになったとし、選択バイアスによる調整後これらの結果が得られたことからは、補助化学療法から治療効果が得られる可能性が高い患者を医師が慎重に選択したことが示唆されていると結論づけている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【原著論文はこちら】

Tamirisa N, et al. JAMA Oncol. 2020 Jul 16. [Epub ahead of print]

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