進行TN乳がん1次治療でのアテゾリズマブ+nab-PTX、OSの最終解析(IMpassion130)/ESMO2020

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 進行トリプルネガティブ乳がん(TNBC)への1次治療として、抗PD-L1抗体アテゾリズマブとnab-パクリタキセル(PTX)の併用療法を検討した第III相IMpower130試験における最終解析における全生存期間(OS)の結果が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Virtual Congress 2020)で報告された。ITT集団ではOSにおける有意差は認められなかったが、PD-L1陽性患者ではOSの改善がみられたことを、米国・University of Pittsburgh Medical Center Hillman Cancer CenterのLeisha A.Emens氏が発表した。

 本試験の無増悪生存期間(PFS)については、すでに2018年のNEJM誌で報告されており、ITT集団でのハザード比(HR)が0.80(95%信頼区間[CI]:0.69~0.92、p=0.002)、PD-L1陽性患者のHRが0.62(95%CI:0.49~0.78、p<0.001)といずれもアテゾリズマブ併用群の有効性が示されている。また、OSについては、第1回中間解析(データカットオフ2018年4月17日)では、ITT集団でのHRが0.84(95%CI:0.69~1.02、p=0.0840)、PD-L1陽性患者でのHRが0.62(95%CI:0.45~0.86)、第2回中間解析(データカットオフ2019年1月2日)では、ITT集団でのHRが0.86(95%CI:0.72~1.02、p=0.078)、PD-L1陽性患者でのHRが0.71(95%CI:0.54~0.93)であった。

・対象:未治療の転移有りまたは切除不能な局所進行TNBC患者(ECOG PS 0~1)
・試験群(アテゾリズマブ併用群):アテゾリズマブ840mg(1、15日目)+nab-PTX 100mg/m2(1、8、15日目)、28日ごと 451例
・対照群(プラセボ群):プラセボ(1、15日目)+nab-PTX 100mg/m2(1、8、15日目)、28日ごと 451例
・主要評価項目:ITT集団およびPD-L1陽性患者におけるPFSとOS

 主な結果は以下のとおり。

・最終解析のデータカットオフは2020年4月14日で、OS観察期間中央値は18.8ヵ月。
・OS中央値は、ITT集団ではアテゾリズマブ併用群21.0ヵ月、プラセボ群18.7ヵ月(HR:0.87、95%CI:0.75~1.02、p=0.077)で有意な差は認められなかったが、PD-L1陽性患者ではアテゾリズマブ併用群25.4ヵ月、プラセボ群17.9ヵ月(HR:0.67、95%CI:0.53~0.86)と改善が認められた(ただし、事前規定された階層に基づく解析ではない)。
・Grade3/4の有害事象発現率は、アテゾリズマブ併用群51%、プラセボ群43%、重篤な有害事象発現率はアテゾリズマブ併用群24%、プラセボ群19%であった。
・追加の観察期間においても、アテゾリズマブ併用群では安全性と忍容性を維持していた。

(ケアネット 金沢 浩子)


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新規抗体薬物複合体SG、TN乳がんのPFSとOSを延長(ASCENT)/ESMO2020

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 転移を有するトリプルネガティブ乳がん(mTNBC)に対する新規の抗体薬物複合体(ADC)sacituzumab-govitecan (SG)の国際第III相試験の結果が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Virtual Congress 2020)で、米国・マサチューセッツ総合病院がんセンターのAditya Bardia氏から発表された。

 このSGは、多くの固形腫瘍の細胞表面に発現するタンパクTrop-2を標的とするADCで、複数の治療歴を有するmTNBCに対し、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)を有意に改善することが報告された。

・対象:mTNBCに対する化学療法剤治療を2ライン以上(中央値4ライン)受けている患者529例で、免疫チェックポイント阻害薬やPARP阻害薬の既治療例も含まれる。
・試験群:SG 10mg/kgをday1、8に投与し、1週休薬の3週間隔での点滴投与(SG群)
・対照群:主治医選択の単剤化学療法(エリブリン、カペシタビン、ゲムシタビン、ビノレルビン)(CT群)
・評価項目:
[主要評価項目]脳転移のない症例を対象にした盲検下中央判定によるPFS
[副次評価項目]脳転移がある症例を含む全症例のPFS、脳転移のない症例を対象にしたOSと奏効率、安全性、奏効期間など

 なお、本試験はデータ安全性モニタリング委員会の勧告により、早期の有効中止となっている。

 主な結果は以下のとおり。

・SG群には、脳転移あり32例を含む267例が、CT群には脳転移あり29例を含む262例が登録された。
・脳転移なし集団におけるPFS中央値は、SG群5.6ヵ月、CT群1.7ヵ月で、HRが0.41(95%CI:0.32~0.52、p<0.0001)と、有意にSG群で良好であった。
・OS中央値は、SG群で12.1ヵ月、CT群6.7ヵ月、HRが0.48(95%CI:0.38~0.59、p<0.0001)と、同様に有意にSG群で良好であった。
・奏効率は、SG群35%、CT群5%と、有意にSG群で高かった(p<0.0001)。
・SG群の安全性プロファイルは過去の報告と同様であり、忍容性は良好であった。
・Grade3以上の主な治療関連有害事象は、好中球減少症がSG群で51%、CT群で33%、下痢が10% vs.1%未満、発熱性好中球減少症が6% vs.2%であった。
・SG群では、治療中止となった有害事象の発現率は、4.7%であり(CT群は5.4%)、重度の心血管系毒性はなく、治療関連死もなかった。CT群では治療関連死が1例に発生した。

 Bardia氏は「SGは既治療のmTNBC患者に対する新たな標準治療として考慮すべきである」と結んだ。

(ケアネット)


【参考文献・参考サイトはこちら】

ASCENT試験(ClinicalTrials.gov)

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alpelisib+フルベストラント、PIK3CA陽性進行乳がんに対するOS最終結果(SOLAR-1)/ESMO2020

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 ホルモン受容体陽性/HER2陰性(HR+/HER2-)、PIK3CA変異陽性の進行乳がんに対する、α特異的PI3K阻害薬alpelisibとフルベストラントの併用療法は、統計学的有意差には達しなかったものの、フルベストラント単剤療法と比較し全生存期間(OS)を7.9ヵ月延長した。フランス・Institut Gustave RoussyのFabrice Andre氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Virtual Congress 2020)で第III相SOLAR-1試験のOS最終結果を発表した。

 HR+/HER2-乳がん患者の約40%がPIK3CA変異を有し、予後不良と関連する。主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)は、プラセボ群5.7ヵ月に対しalpelisib+フルベストラント併用群11.0ヵ月と有意な改善を示し(ハザード比[HR]:0.65、 95%信頼区間[CI]:0.50~0.85、片側検定p=0.00065)、米国FDA は2019年5月、欧州委員会は2020年7月に同併用療法を承認している。

・対象:ホルモン療法中/後に再発/進行した、HR+/HER2-乳がん患者(閉経後女性および男性、再発後の化学療法歴なし、ECOG PS≦1)をPIK3CA変異陽性および陰性コホートに分類
・試験群:PIK3CA変異陽性患者を以下の2群に1対1の割合で無作為に割り付け
alpelisib併用群:28日を1サイクルとし、alpelisib(300mg/日)、フルベストラント(1サイクル目のみ500mgを1日目と15日目、以降1日目)投与 169例
プラセボ群:28日を1サイクルとし、プラセボ+フルベストラント(1サイクル目のみ500mgを1日目と15日目、以降1日目)投与 172例
・評価項目:
[主要評価項目]PIK3CA陽性コホートにおけるPFS
[主要副次評価項目]PIK3CA陽性コホートにおけるOS
[副次評価項目]客観的奏効率(ORR)、クリニカルベネフィット率(CBR)、安全性など

 主な結果は以下のとおり。

・本OS解析のデータカットオフ日(2020年4月23日)時点で、死亡は181例、治療継続中の症例は併用群21例(12.4%)、プラセボ群7例(4.1%)であった。
・追跡期間中央値30.8ヵ月におけるOS中央値は併用群39.3ヵ月 vs. プラセボ群31.4ヵ月(HR:0.86、95%CI:0.64~1.15、片側検定p=0.15)で、事前に設定された境界値(片側検定p≦0.0161)を満たさなかった。
・OSのサブグループ解析の結果、肺および/または肝転移を有する患者(84例vs.86例)におけるOS中央値は併用群37.2ヵ月 vs. プラセボ群22.8ヵ月(HR:0.68、95%CI:0.46~1.00)。血漿ctDNAによるPIK3CA陽性患者(92例vs.94例)におけるOS中央値は併用群34.4ヵ月 vs. プラセボ群25.2ヵ月(HR:0.74、95%CI:0.51~1.08)であった。
・化学療法開始までの期間の中央値は、併用群23.3ヵ月 vs.プラセボ群14.8ヵ月で(HR:0.72、 95%CI:0.54~0.95)、併用群で8.5ヵ月長かった。
・PFS2(無作為化から、全死因死亡あるいは試験治療中止後の最初の抗腫瘍療法における疾患進行までの期間)は、併用群22.8ヵ月 vs.プラセボ群18.2ヵ月(HR:0.80、 95%CI:0.62~1.03)であった。
・安全性についての長期追跡結果(追跡期間中央値42.4ヵ月)は、以前の報告と一致していた。頻度の高いGrade3/4の有害事象(AE)は、高血糖(併用群37.0% vs.プラセボ群<1%)、皮疹(9.9% vs.<1%)、下痢(7.0% vs.<1%)であった。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【参考文献・参考サイトはこちら】

SOLAR-1試験(Clinical Trials.gov)

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早期乳がん/DCISへの寡分割照射による乳房硬結リスク(DBCG HYPO試験)/JCO

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 Danish Breast Cancer Group(DBCG)では、1982年以来、早期乳がんに対する放射線療法の標準レジメンは50Gy/25回である。今回、デンマーク・Aarhus University HospitalのBirgitte V. Offersen氏らは、リンパ節転移陰性乳がんまたは非浸潤性乳管がん(DCIS)に対する放射線療法において、40Gy/15回の寡分割照射が標準の50Gy/25回に比べて3年の乳房硬結が増加しないかどうかを検討するDBCG HYPO試験(無作為化第III相試験)を実施した。その結果、乳房硬結は増加せず、9年局所領域再発リスクは低いことが示唆された。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2020年9月10日号に掲載。

 本試験の対象は、リンパ節転移陰性乳がんまたはDCISで乳房温存手術を受けた40歳超の1,882例で、50Gy/25回または40Gy/15回の放射線療法に無作為に割り付けた。主要評価項目は、局所領域再発に関して非劣性と仮定して、3年のGrade2〜3の乳房硬結とした。

 主な結果は以下のとおり。

・2009〜14年に、8施設から1,854例(50 Gy群:937例、40 Gy群:917例)が登録された(リンパ節転移陰性乳がん:1,608例、DCIS:246例)。
・3年乳房硬結率は、50Gy群で11.8%(95%CI:9.7〜14.1%)、40Gy群で9.0%(95%CI:7.2〜11.1%)で、硬結リスクは増加しなかった(リスク差:-2.7%、95%CI:-5.6〜0.2%、p=0.07)。
・毛細血管拡張、色素脱失、瘢痕、乳房浮腫、痛みの発現率は低く、美容上のアウトカムと乳房外観における患者満足度はどちらの群も同様に高いか、40Gy群で50Gy群より良かった。
・9年局所領域再発リスクは、50Gy群で3.3%(95%CI:2.0〜5.0%)、40Gy群で3.0%(95%CI:1.9〜4.5%)であった(リスク差:-0.3%、95%CI:-2.3〜1.7%)。
・9年全生存率は、50Gy群で93.4%(95%CI:91.1〜95.1%)、40Gy群で93.4%(95%CI:91.0〜95.2%)と同等であった。
・放射線治療による心臓および肺疾患はまれであり、分割療法による影響はなかった。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Offersen BV, et al. J Clin Oncol. 2020 Sep 10. [Epub ahead of print]

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BRCA変異乳がん患者、妊娠による予後への影響/JCO

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 BRCA変異を有する若年乳がん患者にとって、妊娠は安全であることを示す結果が明らかとなった。乳がん後の妊娠および妊娠による乳がん予後への影響を調べた国際多施設共同後ろ向きコホート試験の結果を、イタリア・ジェノバ大学のMatteo Lambertini氏らが、Journal of Clinical Oncology誌2020年9月10日号に報告した。

 2000年1月~2012年12月に、浸潤性早期乳がんと診断された、40歳以下の生殖細胞系列BRCA遺伝子変異を有する患者が本研究に組み入れられた。主要評価項目は、妊娠率、および乳がん後の妊娠の有無による患者間の無病生存期間(DFS)。副次的評価項目は、妊娠のアウトカムと全生存期間(OS)であった。生存時間分析は、既知の予後因子を制御するGuarantee-Time Bias(GTB)を考慮して調整された。

 主な結果は以下のとおり。

・生殖細胞系列BRCA遺伝子変異を有する1,252例(BRCA1:811例、BRCA2:430例、 BRCA1 / 2:11例)のうち195例が、乳がん後に少なくとも1回の妊娠を経験した(10年の妊娠率:19%、95%信頼区間[CI]:17~22%)。
・人工流産および流産は、それぞれ16例(8.2%)および20例(10.3%)で発生した。出産した150例(76.9%;乳児170人)のうち、妊娠合併症が13例(11.6%)、先天性異常は2例(1.8%)発生した。
・乳がん診断後の追跡期間中央値8.3年における、妊娠コホートと非妊娠コホートの間で、DFS(調整ハザード比[HR]:0.87、95%CI:0.61~1.23、p=0.41)およびOS(調整HR:0.88、95%CI:0.50~1.56、p=0.66)の差はみられなかった。

 研究者らは、生殖細胞系列BRCA遺伝子変異を有する患者の乳がん後の妊娠は、母親の予後を明らかに悪化させることなく安全であり、良好な胎児転帰と関連したと結論づけている。そのうえでこれらの結果は、将来の妊娠・出産について、BRCA変異を有する乳がん患者に安心感をもたらすものとまとめている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)

【原著論文はこちら】

Lambertini M, et al. J Clin Oncol. 2020 Sep 10;38:3012-3023.

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BRCA変異乳がん患者、妊娠による予後への影響/JCO

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 BRCA変異を有する若年乳がん患者にとって、妊娠は安全であることを示す結果が明らかとなった。乳がん後の妊娠および妊娠による乳がん予後への影響を調べた国際多施設共同後ろ向きコホート試験の結果を、イタリア・ジェノバ大学のMatteo Lambertini氏らが、Journal of Clinical Oncology誌2020年9月10日号に報告した。

 2000年1月~2012年12月に、浸潤性早期乳がんと診断された、40歳以下の生殖細胞系列BRCA遺伝子変異を有する患者が本研究に組み入れられた。主要評価項目は、妊娠率、および乳がん後の妊娠の有無による患者間の無病生存期間(DFS)。副次的評価項目は、妊娠のアウトカムと全生存期間(OS)であった。生存時間分析は、既知の予後因子を制御するGuarantee-Time Bias(GTB)を考慮して調整された。

 主な結果は以下のとおり。

・生殖細胞系列BRCA遺伝子変異を有する1,252例(BRCA1:811例、BRCA2:430例、 BRCA1 / 2:11例)のうち195例が、乳がん後に少なくとも1回の妊娠を経験した(10年の妊娠率:19%、95%信頼区間[CI]:17~22%)。
・人工流産および流産は、それぞれ16例(8.2%)および20例(10.3%)で発生した。出産した150例(76.9%;乳児170人)のうち、妊娠合併症が13例(11.6%)、先天性異常は2例(1.8%)発生した。
・乳がん診断後の追跡期間中央値8.3年における、妊娠コホートと非妊娠コホートの間で、DFS(調整ハザード比[HR]:0.87、95%CI:0.61~1.23、p=0.41)およびOS(調整HR:0.88、95%CI:0.50~1.56、p=0.66)の差はみられなかった。

 研究者らは、生殖細胞系列BRCA遺伝子変異を有する患者の乳がん後の妊娠は、母親の予後を明らかに悪化させることなく安全であり、良好な胎児転帰と関連したと結論づけている。そのうえでこれらの結果は、将来の妊娠・出産について、BRCA変異を有する乳がん患者に安心感をもたらすものとまとめている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)

【原著論文はこちら】

Lambertini M, et al. J Clin Oncol. 2020 Sep 10;38:3012-3023.

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乳がんに対するsiRNA核酸医薬候補、医師主導治験開始/がん研有明病院

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 がん研究会有明病院は9月2日、東京大学医科学研究所らと共同研究を進めてきたsiRNA核酸医薬候補の乳がん治療薬(SRN-14/GL2-800)を用いて、医師主導治験(First In Human 試験)を開始したことを発表した。

 SRN-14/GL2-800は、幹細胞関連転写因子であるPR domain containing 14 (PRDM14)分子に対する、キメラ型siRNAとそのナノキャリアーから構成される化合物。川崎市産業振興財団ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)、東京大学、東京大学医科学研究所が共同で開発した。

 治療標的となるPRDM14分子は、人体のほぼすべての正常組織では発現がないことから、その発現を押さえても副作用が少ないと考えられる。一方で、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)を含む乳がんの症例の半数以上で発現が高いことが明らかになっている。腫瘍組織以外では、胚性幹細胞と原始生殖細胞に一過性に発現することが知られている。PRDM14 分子は細胞の核で発現する分子であることから、これを標的とする低分子化合物や抗体の開発は極めて難しく、遺伝子配列情報から開発が可能な核酸医薬品の開発が行われた経緯がある。

 キメラ型siRNAとは、siRNA がRISC複合体上で mRNA と対合する際に最重要なシード配列に相当する部分を DNA に置換したsiRNA であり、siRNA とノックダウン効果が同等であることが証明されている。RNase に対する耐性が高く血清中で安定であり、免疫応答誘導性が低く、保護基を必要としないため代謝産物が生命体由来のものとなる。

 SRN-14 は、特許出願技術であるsiRNA 配列探索プログラム1)を基盤に治療用配列を選定した、極めて標的分子に対する特異性が高い siRNA。核酸ナノキャリアーである、分岐型 PEG-ポリオルニチンブロックポリマー(GL2-800)は、核酸と単分散(均一の粒形分布)を示す安定な複合体を形成し、高い安全性、優れた血中滞留性とがん組織への高い集積性を示す2)。事前に実施された非臨床試験において、TNBC に由来する乳がん細胞を用いた同所移植モデル、肺転移モデルを作成し、治験薬である SRN-14/GL2-800 を静脈注射で投与したところ、乳がん細胞で形成される腫瘍サイズの縮小、および肺の転移巣形成の抑制が認められた。さらに、毒性試験において重篤な有害事象は見られなかった3,4)

 本治験は、SRN-14/GL2-800 を、ヒトに対して初めて投与する医師主導治験(第I相)で、治癒的切除不能または遠隔転移を有する再発乳がんで化学療法の全身投与適応となる患者に対して用量漸増法で行われる。主要評価項目である安全性、SRN-14/GL2-800 投与後の薬物動態の確認の他、副次的に SRN14/GL2-800 の薬効についても検討を行う予定となっている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【参考文献・参考サイトはこちら】

1)Ui-Tei K,et al. Nucleic Acids Res. 2008 Apr;36:2136-51.

2)Watanabe S,et al. Nat Commun. 2019 Apr 24;10:1894. [Epub ahead of print]

3)Taniguchi H, et al. Cancer Res. 2018; 78(13 Suppl).

4)Taniguchi H, et al. Oncotarget. 2017 Jul 18;8:46856-46874.

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高齢の早期乳がん、術後放射線療法は省略可能か?

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 高齢の早期乳がん患者において、乳房温存手術後の放射線療法が省略可能かについては議論がある。米国・ヴァンダービルト大学医療センターのFei Wang氏らは、70歳以上の乳がん患者11万例以上のデータを解析し、放射線療法実施の有無による生存への影響を評価した。International Journal of Cancer誌オンライン版2020年8月24日号に掲載の報告より。

 対象は米国国立がんデータベースに登録され、2004~2014年に乳房温存手術を受けた、70歳以上、T1-2N0-1M0の女性乳がん患者。多変量Cox比例ハザードモデルを使用して、3、5、10年時の死亡率と乳房温存手術後の放射線療法との関連についてハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推定した。

 主な結果は以下のとおり。

・11万5,516例のデータが分析された。
・放射線療法を受けなかった患者は、放射線療法を受けた患者よりも死亡率が高く(5年生存率:71.2% vs.83.8%)、3年死亡率の多変量補正後ハザード比(HR)は1.65(95%信頼区間[CI]:1.57~1.72)、 5年死亡率のHRは1.53(1.47~1.58)、10年死亡率のHRは1.43(1.39~1.48)であった。
・この関連は、内分泌療法または化学療法の有無、期間やその他の臨床的特徴によるすべての層別化分析において、また90歳以上の患者においても観察され、放射線療法を行わない患者の5年死亡率は40~65%増加した。
・内分泌療法を受けたT1N0およびエストロゲン受容体陽性の患者に限定した傾向スコア層別化分析においても、この正の関連性が持続した(5年死亡率のHR:1.47 [1.39~1.57])。

 著者らは、本研究ではT1N0およびエストロゲン受容体陽性の患者においても、放射線療法の省略は死亡率の増加と関連したとし、放射線療法の省略は普遍的な実践とはなりえないのではないかとまとめている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【原著論文はこちら】

Wang F, et al. Int J Cancer. 2020 Aug 24. [Epub ahead of print]

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COVID-19流行下、3次医療機関でのがん患者の入院は安全か/JCO

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 オーストリア・ウィーンの3次医療機関で、COVID-19に対する政府や施設の感染対策実施後に、入院中のがん患者のSARS-CoV-2感染率を調査したところ、一般集団と同様であり、また、がん以外の患者よりも低かったことが報告された。今回の結果から、人口全体および施設の厳格な感染対策が実施された場合には、大規模な3次医療機関において積極的ながん治療や通院が実現可能で安全であることが示唆された。Medical University of ViennaのAnna S. Berghoff氏らによる報告が、Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2020年8月14日号に掲載された。

 本研究の対象は、2020年3月21日~5月4日、当院で定期的に鼻腔または咽頭スワブを用いたRT-PCRによりSARS-CoV-2 RNAを検査していたがん患者。このコホートでの結果を、代表的な全国ランダムサンプル研究のコホート(対照コホート1)および当院のがん以外の患者のコホート(対照コホート2)のSARS-CoV-2の感染率と比較した。

 主な結果は以下のとおり。

・連続した1,016例のがん患者に1,688回のSARS-CoV-2検査を実施した。1,016例中270例(26.6%)がネオアジュバントまたはアジュバント治療を受け、560例(55.1%)が緩和療法を受けていた。
・1,016例中53例(5.2%)がCOVID-19の疑われる症状を自己申告し、4例(0.4%)でSARS-CoV-2が検出された。SARS-CoV-2陽性の4例とも当科での検査時には無症状で、2人は症候性COVID-19から回復した患者であった。また4例中3例で、陽性判定から14〜56日後に陰性となった。
・がんコホートの対照コホート1に対するSARS-CoV-2感染の推定オッズ比は1.013(95%CI:0.209〜4.272、p=1)、対照コホート2のがんコホートに対する推定オッズ比は18.333(95%CI:6.056〜74.157)であった。

 著者らは「無症状のウイルス保有者を発見し、ウイルス蔓延を回避するために、がん患者の定期的なSARS-CoV-2検査が勧められる」としている。

(ケアネット 金沢 浩子)


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Berghoff AS, et al. J Clin Oncol. 2020 Aug 14. [Epub ahead of print]

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早期乳がんの放射線療法による長期予後、術中vs.術後外来/BMJ

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 早期乳がん患者において、乳房温存手術(乳腺腫瘍摘出術)と併せて行う術中放射線療法(TARGIT-IORT)は、術後全乳房外部放射線療法(EBRT)に代わる有効な放射線療法であることが示された。長期のがん抑制効果はEBRTに引けを取らないものであり、一方で非乳がん死亡率は低かった。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのJayant S. Vaidya氏らによる無作為化試験「TARGIT-A試験」の結果で、本試験の早期結果においては、TARGIT-IORTの利点として通院頻度が少なく済むこと、QOLの改善、副作用が少ないことなどが示されていた。結果を踏まえて著者は、「乳房温存手術が予定されている場合、適格患者とTARGIT-IORTについて話をすべきであろう」と提言している。BMJ誌2020年8月19日号掲載の報告。

早期乳がん2,298例をTARGIT-IORTとEBRTに無作為割り付け

 研究グループは、TARGIT-IORTの有効性がEBRTに代わりうるものかを調べる前向き非盲検無作為化試験を行った。英国、欧州、オーストラリア、米国、カナダの10ヵ国32センターで、3.5cm以下、cN0-N1の浸潤性乳管がんである45歳以上の女性患者2,298例を登録し、乳房温存療法の適格性を検討した後、術前に無作為化を行い(中央でブロック層別化)、TARGIT-IORTまたはEBRTに1対1の割合で割り付けた。

 EBRT群には全乳房への標準的な分割照射コース(3~6週間)が行われた。TARGIT-IORT群には同一麻酔下で乳腺腫瘍摘出後ただちに照射が行われ、ほとんどの患者(約80%)は1回のみの照射だった。なお、術後の組織病理学的検査で高リスク因子が疑われる所見が認められた場合は、EBRTの追加照射が行われた(約20%)。

 主要評価項目は、5年局所再発率(両群間の絶対差の非劣性マージン2.5%以内と定義)と長期生存アウトカムであった。

5年局所再発率の差は1.16%、その他要因の死亡率はTARGIT-IORT群が有意に低値

 2000年3月24日~2012年6月25日に、1,140例がTARGIT-IORT群に、1,158例がEBRT群に無作為に割り付けられた。5年完遂フォローアップ時の局所再発リスクは、EBRT群0.95%に対し、TARGIT-IORT群2.11%で、TARGIT-IORTのEBRTに対する非劣性が示された(群間差:1.16%、90%信頼区間[CI]:0.32~1.99)。

 最初の5年間で、TARGIT-IORTはEBRTよりも局所再発が13例多く報告された(24/1,140例vs.11/1,158例)が、死亡は14例少なかった(42/1,140例vs.56/1,158例)。

 長期追跡(中央値8.6年、最長18.90年、四分位範囲:7.0~10.6)では、局所無再発生存について、統計学的に有意差はみられなかった(ハザード比[HR]:1.13、95%CI:0.91~1.41、p=0.28)。また、乳房温存生存(0.96、0.78~1.19、p=0.74)、遠隔無病生存(0.88、0.69~1.12、p=0.30)、全生存(0.82、0.63~1.05、p=0.13)、および乳がん死亡率(1.12、0.78~1.60、p=0.54)でも有意差は認められなかったが、その他の死因による死亡率はTARGIT-IORT群で有意に低かった(0.59、0.40~0.86、p=0.005)。

(ケアネット)


【原著論文はこちら】

Vaidya JS, et al. BMJ. 2020;370:m2836.

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