ペムブロリズマブ、6週ごと投与の用法・用量を追加/MSD

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 MSDは、2020年8月21日、抗PD-1抗体ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)のすべての効能・効果における用法・用量について、単剤または併用療法を問わず、これまでの「1回200mgを3週間間隔で30分間かけて点滴静注する」に加えて、「1回400mgを6週間間隔で30分間かけて点滴静注する」が追加となったと発表。

 今回の用法・用量追加は、薬物動態シミュレーション、曝露量と有効性または安全性との関係に基づいて検討した結果、新規用法・用量である1回400mgを6週間間隔で投与した場合の有効性または安全性は、既承認の用法・用量である1回200mgを3週間間隔で投与した場合と明確な差異がないと予測され、承認に至ったもの。

 ペムブロリズマブは、2017年2月15日に国内で販売を開始した。これまでに「悪性黒色腫」「切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」「再発または難治性の古典的ホジキンリンパ腫」「がん化学療法後に増悪した根治切除不能な尿路上皮癌」「がん化学療法後に増悪した進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る)」「根治切除不能又は転移性の腎細胞癌」「再発又は遠隔転移を有する頭頸部癌」の効能・効果について承認を取得している。また、乳がん、大腸がん、前立腺がん、肝細胞がん、小細胞肺がん、子宮頸がん、進行固形がんなどを対象とした後期臨床試験が進行中である。

(ケアネット 細田雅之)


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がん治療で心疾患リスクを伴う患者の実態と対策法/日本循環器学会

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 第84回日本循環器学会学術集会(2020年7月27日~8月2日)で佐瀬 一洋氏(順天堂大学大学院臨床薬理学 教授/早稲田大学医療レギュラトリーサイエンス研究所)が「腫瘍循環器診療の拡がりとCardio-Oncology Rehabilitation(CORE)」について発表。がんを克服した患者の心血管疾患発症リスクやその予防策について講演した。

循環器医がおさえておくべき、がん治療の新たなる概念-サバイバーシップ

 がん医療の進歩により、がんは不治の病ではなくなりつつある。言い換えるとがん治療の進歩により生命予後が伸びる患者、がんサバイバーが増えているのである。とくに米国ではがんサバイバーの急激な増加が大きな社会問題となっており、2015年時点で1,500万人だった患者は、今後10年でさらに1,000万人の増加が見込まれる。

 たとえば小児がんサバイバーの長期予後調査1)では、がん化学療法により悪性リンパ腫を克服したものの、その副作用が原因とされる虚血性心疾患(CAD)や慢性心不全(CHF)を発症して死亡に繋がるなどの心血管疾患が問題として浮き彫りとなった。成人がんサバイバーでも同様の件が問題視されており、長期予後と循環器疾患に関する論文2)によると、乳がん患者の長期予後は大幅に改善したものの「心血管疾患による死亡はその他リスク因子の2倍以上である。乳がん診断時の年齢が66歳未満では乳がんによる累計死亡割合が高かった一方で、66歳以上では心血管疾患(CVD)による死亡割合が増加3)し、循環器疾患の既往があると累計死亡割合はがんとCVDが逆転した」と佐瀬氏はコメントした。

心疾患に影響するがん治療を理解する

 この逆転現象はがん治療関連心血管疾患(CTRCD:Cancer Therapeutics-Related Cardiac Dysfunction)が原因とされ、このような患者は治療薬などが原因で心血管疾患リスクが高くなるため、がんサバイバーのなかでも発症予防のリハビリなどを必要とする。同氏は「がん治療により生命予後が良くなるだけではなく、その後のサバイバーシップに対する循環器ケアの重要性が明らかになってきた」と話し、がんサバイバーに影響を及ぼす心毒性を有する薬を以下のように挙げた。

●アントラサイクリン系:蓄積毒性があるため、生涯投与量が体表面積あたり400mg/m2を超えるあたりから指数関数的にCHFリスクが上昇する
●分子標的薬:HER2阻害薬はアントラサイクリン系と同時投与することで相乗的に心機能へ影響するため、逐次投与が必要。チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)は世代が新しくなるにつれ血栓症リスクが問題となる
●免疫チェックポイント阻害薬:PD-1阻害薬とCTLA-4阻害薬併用による劇症心筋炎の死亡報告4)が報告されている

 これまでのガイドラインでは、薬剤の影響について各診療科での統一感のなさが問題だったが、2017年のASCOで発表された論文5)を機に変革を迎えつつある。心不全の場合、日本循環器学会が発刊する『腫瘍循環器系の指針および診療ガイドライン』において、がん治療の開始前に危険因子(Stage A)を同定する、ハイリスク患者とハイリスク治療ではバイオマーカーや画像診断で無症候性心機能障害(Stage B)を早期発見・治療する、症候性心不全(Stage C/D)はGLに従って対応するなど整備がされつつある。しかしながら、プロテアソーム阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬のような新規薬剤は未対応であり、今後の課題として残されている。

循環器医からがんサバイバーへのアプローチが鍵

 がん治療が心機能へ影響する限り、これからの循環器医は従来型の虚血性心疾患と並行して新しい危険因子CTRCDを確認するため「がん治療の既往について問診しなければならない」とし、「患者に何かが起こってから対処するのではなく腫瘍科医と連携する体制が必要。そこでCardio-Oncologyが重要性を増している」と述べた。

 最後に、Cardio-Oncologyを発展させていくため「病院内でのチームとしてなのか、腫瘍-循環器外来としてなのか、資源が足りない地域では医療連携として行っていくのか、状況に応じた連携の進め方が重要。循環器疾患がボトルネックとなり、がん治療を経た患者については、腫瘍科医からプライマリケア医への引き継ぎ、もしくは心血管疾患リスクが高まると予想される症例は循環器医が引き継いでケアを行っていくことが求められる。これからの循環器医にはがんサバイバーやCTRCDに対するCORE6)を含めた対応が期待されている」と締めくくった。

■参考
1)Armstrong G, et al. N Engl J Med. 2016;374:833-842.
2)Ptnaik JL, et al. Breast Cancer Res. 2011 Jun 20;13:R64.
3)Abdel-Qadir H, et al. JAMA Cardiol. 2017;2:88-93.
4)Johnson DB, et al. N Engl J Med. 2016;375:1749-1755.
5)Almenian SH, et al. J Clin Oncol. 2017;35:893-911.
6)Sase K, et al. J Cardiol.2020 Jul 28;S0914-5087(20)30255-0.
日本循環器学会:心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2012年改訂版)

(ケアネット 土井 舞子)


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T-DM1、HER2陽性早期乳がんの術後薬物療法に適応追加/中外製薬

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 中外製薬は、抗HER2抗体チューブリン重合阻害剤複合体トラスツズマブ エムタンシン(商品名:カドサイラ、以下T-DM1)について、「HER2陽性の乳癌における術後薬物療法」に対する適応追加の承認を8月21日に取得したことを発表した。手術前の薬物療法で病理学的完全奏効(pCR)が得られなかったHER2陽性早期乳がんに対して、術後薬物療法の新たな選択肢となる。

 今回の承認は、海外で実施された非盲検ランダム化第III相国際共同臨床試験(KATHERINE試験)の成績に基づく。本試験では、トラスツズマブを含む術前薬物療法でpCRが得られなかったHER2陽性早期乳がん1,486例を対象に、術後薬物療法としてのT-DM1の有効性と安全性をトラスツズマブと比較した。その結果、主要評価項目である浸潤性疾患のない生存期間(IDFS)について、トラスツズマブに対する優越性が認められた(非層別ハザード比:0.50、95%信頼区間:0.39~0.64、p<0.0001)。また、本試験におけるT-DM1の安全性は、転移を有するHER2陽性乳がんにおける治療で認められている安全性プロファイルと同様であり、忍容性が認められた。

【添付文書情報】(下線部分が追加)
■効能・効果
・HER2陽性の手術不能又は再発乳癌
HER2陽性の乳癌における術後薬物療法

■効能・効果に関連する注意
〈効能共通〉
1. HER2陽性の検査は、十分な経験を有する病理医又は検査施設において実施すること。
2. 本剤は、トラスツズマブ(遺伝子組換え)及びタキサン系抗悪性腫瘍剤による化学療法の治療歴のある患者に投与すること。
3. 本剤の術前薬物療法における有効性及び安全性は確立していない。
〈HER2陽性の乳癌における術後薬物療法〉

4. 術前薬物療法により病理学的完全奏効(pCR)が認められなかった患者に投与すること。
5. 臨床試験に組み入れられた患者のpCRの定義等について、「17. 臨床成績」の項の内容を熟知し、本剤の有効性及び安全性を十分に理解した上で、適応患者の選択を行うこと。

■用法・用量
通常、成人にはトラスツズマブ エムタンシン(遺伝子組換え)として1回3.6 mg/kg(体重)を3週間間隔で点滴静注する。
ただし、術後薬物療法の場合には、投与回数は14回までとする。

(ケアネット 金沢 浩子)


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「乳腺外科医事件」控訴審、逆転有罪判決の裏側~担当弁護人による「判決の争点」解説~ 【後編】

提供元:CareNet.com/企画:協和企画

 手術直後の女性患者への準強制わいせつ罪を問われた執刀医が、逮捕・勾留・起訴された事件。一審では無罪判決となったが、再審では懲役2年の実刑判決が東京高裁より言い渡された。一転して逆転有罪判決となった経緯には何があったのか。弁護人の1人である水沼 直樹氏に、実際に法廷で論じられた争点について、前・後編で解説いただく。

 後編では、紙数の範囲内で弁護側推薦の精神科医の証言と判決を取り上げる(前編はこちら)。

後編:弁護側の精神科医の証言と判決

1.弁護側証人の証人尋問の骨子

 せん妄は、急性の脳機能不全であり、ベースは意識・注意の障害である。既知のリスクファクターがなくともせん妄の発症率は28%ほどあり1)、幻覚発症率も数割程度2),3)との報告がある。せん妄は直線的に回復するのではなく、日内で変動する。DSM−5等の診断基準に照らすと、患者は術後約30分の間、過活動型または混合型のせん妄状態であった。

 せん妄のサブタイプ(過活動型、低活動型、混合型)と重症度とは一致せず、いずれも幻覚体験することはあり、幻覚が記憶に残りうる3)。自己の臨床経験では、患者が壁に人がいると言ってスマホで写真撮影した症例があり、患者は一部の幻覚を記憶していた。せん妄により普段慣れている事を幻覚体験することがあり(作業せん妄)、自動車セールスマンの患者がベッドの枕に向かって自動車セールスをしていた症例がある。患者に声をかけると「いま商談中ですので」と遮られた。さらに、自転車に乗るといった意識的な処理なしに機能する「手続記憶」があり、LINEは手続記憶としてせん妄下で操作可能である。「警察に捕まる」と家族にLINEした症例がある。

2.控訴審判決

(1)せん妄について

 被害者の証言は、わいせつ被害の不快感、屈辱感を感じる一方で医師がそうするはずがないという生々しいもので、迫真性があり強い証明力がある。「ぶっ殺してやる。」との発言*1の有無自体、看護師の証言によるため信用性判断は慎重に行うべきで、カルテに「不安言動はみられた」との記載があるが「せん妄」との記載がなく「術後覚醒良好」と記載されていることから、患者が当該発言をしたか疑問がある。検察側証人はせん妄の専門の研究者ではないが臨床経験が豊富で信用性が高い。弁護側証人は患者の認識能力が劣る場面のみ取り上げ中立性に疑問がある*2。事件から2年以上経過した今、患者が看護師から受けたケアを覚えていないのは止むを得ない。当時の患者はせん妄ではないか、せん妄だとしても幻覚を体験していない。

(2)科学鑑定について

ア アミラーゼ検査の結果は、相応の専門性、技量のある科捜研研究員が適切な器具等を用いて検査した以上、あえて虚偽の証言する必要性がないから、アミラーゼ陽性を示す客観資料がなくとも、信用性は否定されない。

イ DNA定量検査は、標準資料(ママ)の増幅曲線および検量図(ママ)等が保存されずとも、また(9箇所の)ワークシートの消去や書き直しがあっても、信用性は否定されない。唾液は遠くに飛ばず下に落ちると思われ、手術助手より遠位にいた執刀医の唾液だけが検出されており、唾液飛沫が付着したとは考えにくい。

3.このような事案を防ぐために

 被告・弁護側は今回の高裁判決を不服として上告しており、本件については最高裁で争われることになります。今後このような事案を防ぐために、医療従事者単身での回診、見回りは回避し、とくに男性看護師の場合、術後間もないときだけでも単独訪室を避けましょう。また、せん妄診断について手順を再確認してみませんか4)。さらに、手術中待機中の家族に、せん妄に関する動画5)を視聴してもらうなど、マンパワーをかけずに啓蒙することも一案です。

  • *1:術後に看護師が被害者の検温を行おうとしたところ、被害者が「ふざけんな、ぶっ殺してやる」と発言したと看護師が証言している
  • *2:DSM−5は、意識障害等の認識能力が劣る点を診断するものであり、判決は弁護側証人の証言を曲解していると言える


参考

講師紹介

水沼 直樹 ( みずぬま なおき ) 氏東京神楽坂法律事務所 弁護士、東邦大学医学部ほか非常勤講師

[略歴] 東北大学法学部・日本大学大学院法務研究科卒業。
都内で法律事務所勤務ののち、亀田総合病院の内部専属弁護士として5年超にわたり勤務したのち,本件弁護を受任したため同院を退職し,現在に至る。
日本がん・生殖医療学会(兼理事)、日本睡眠歯科学会(兼倫理委員)、日本法医学会・日本DNA多型学会・日本医事法学会・日本賠償科学会・日本子ども虐待防止学会、日本麻酔医事法制研究会、オートプシー・イメージング学会(兼アドバイザ)、日本医療機関内弁護士協会(代表)の各会員ほか。

前編はこちらから

「乳腺外科医事件」控訴審、逆転有罪判決の裏側~担当弁護人による「判決の争点」解説~ 【後編】

提供元:CareNet.com/企画:協和企画

 手術直後の女性患者への準強制わいせつ罪に問われた執刀医が、逮捕・勾留・起訴された事件。一審では無罪判決となったが、控訴審では懲役2年の実刑判決が東京高裁より言い渡された。一転して逆転有罪判決となった経緯には何があったのか。弁護人の1人である水沼 直樹氏に、実際に法廷で論じられた争点について、前・後編で解説いただく。

 後編では、紙数の範囲内で弁護側推薦の精神科医の証言と判決を取り上げる(前編はこちら)。

後編:弁護側の精神科医の証言と判決

1.弁護側証人の証人尋問の骨子

 せん妄は、急性の脳機能不全であり、ベースは意識・注意の障害である。既知のリスクファクターがなくともせん妄の発症率は28%ほどあり1)、幻覚発症率も数割程度2),3)との報告がある。せん妄は直線的に回復するのではなく、日内で変動する。DSM-V等の診断基準に照らすと、患者は術後約30分の間、過活動型または混合型のせん妄状態であった。

 せん妄のサブタイプ(過活動型、低活動型、混合型)と重症度とは一致せず、いずれも幻覚体験することはあり、幻覚が記憶に残りうる3)。自己の臨床経験では、患者が壁に人がいると言ってスマホで写真撮影した症例があり、患者は一部の幻覚を記憶していた。せん妄により普段慣れている事を幻覚体験することがあり(作業せん妄)、自動車セールスマンの患者がベッドの枕に向かって自動車セールスをしていた症例がある。患者に声をかけると「いま商談中ですので」と遮られた。さらに、自転車に乗るといった意識的な処理なしに機能する「手続記憶」があり、LINEは手続記憶としてせん妄下で操作可能である。「警察に捕まる」と家族にLINEした症例がある。

2.控訴審判決

(1)せん妄について

 被害者の証言は、わいせつ被害の不快感、屈辱感を感じる一方で医師がそうするはずがないという生々しいもので、迫真性があり強い証明力がある。「ぶっ殺してやる」との発言*1の有無自体、看護師の証言によるため信用性判断は慎重に行うべきで、カルテに「不安言動はみられた」との記載があるが「せん妄」との記載がなく「術後覚醒良好」と記載されていることから、患者が当該発言をしたか疑問がある。検察側証人はせん妄の専門の研究者ではないが臨床経験が豊富で信用性が高い。弁護側証人は患者の認識能力が劣る場面のみ取り上げ中立性に疑問がある*2。事件から2年以上経過した今、患者が看護師から受けたケアを覚えていないのは止むを得ない。当時の患者はせん妄ではないか、せん妄だとしても幻覚を体験していない。

(2)科学鑑定について

ア アミラーゼ検査の結果は、相応の専門性、技量のある科捜研研究員が適切な器具等を用いて検査した以上、あえて虚偽の証言する必要性がないから、アミラーゼ陽性を示す客観資料がなくとも、信用性は否定されない。

イ DNA定量検査は、標準資料(ママ)の増幅曲線および検量図(ママ)等が保存されずとも、また(9箇所の)ワークシートの消去や書き直しがあっても、信用性は否定されない。唾液は遠くに飛ばず下に落ちると思われ、手術助手より遠位にいた執刀医の唾液だけが検出されており、唾液飛沫が付着したとは考えにくい。

3.このような事案を防ぐために

 被告・弁護側は今回の高裁判決を不服として上告しており、本件については最高裁で争われることになります。今後このような事案を防ぐために、医療従事者単身での回診、見回りは回避し、とくに男性看護師の場合、術後間もないときだけでも単独訪室を避けましょう。また、せん妄診断について手順を再確認してみませんか4)。さらに、手術中待機中の家族に、せん妄に関する動画5)を視聴してもらう等、マンパワーをかけずに啓蒙することも一案です。

  • *1:術後に看護師が被害者の検温を行おうとしたところ、被害者が「ふざけんな、ぶっ殺してやる」と発言したと看護師が証言している
  • *2:DSM-Vは、意識障害等の認識能力が劣る点を診断するものであり、判決は弁護側証人の証言を曲解していると言える

参考

講師紹介

水沼 直樹 ( みずぬま なおき ) 氏東京神楽坂法律事務所 弁護士、東邦大学医学部ほか非常勤講師

[略歴] 東北大学法学部・日本大学大学院法務研究科卒業。
都内で法律事務所勤務ののち、亀田総合病院の内部専属弁護士として5年超にわたり勤務したのち,本件弁護を受任したため同院を退職し,現在に至る。
日本がん・生殖医療学会(兼理事)、日本睡眠歯科学会(兼倫理委員)、日本法医学会・日本DNA多型学会・日本医事法学会・日本賠償科学会・日本子ども虐待防止学会、日本麻酔医事法制研究会、オートプシー・イメージング学会(兼アドバイザ)、日本医療機関内弁護士協会(代表)の各会員ほか。

前編はこちらから


バックナンバー

6 「乳腺外科医事件」再度の無罪判決と医療現場への示唆

5 「乳腺外科医事件」最高裁判決を受けて~担当弁護人の視点から

4 「乳腺外科医事件」控訴審、逆転有罪判決の裏側~担当弁護人による「判決の争点」解説~【後編】

3 「乳腺外科医事件」控訴審、逆転有罪判決の裏側~担当弁護人による「判決の争点」解説~【前編】

2 「乳腺外科医事件」裁判の争点 【後編】

1 「乳腺外科医事件」裁判の争点 【前編】

若年性乳がん、高出生体重と親の子癇前症が関連

提供元:CareNet.com

 若年性乳がんと母親の周産期および出生後における曝露因子との関連について、米国・国立環境衛生科学研究所のMary V Diaz-Santana氏らが調査したところ、母親が妊娠時に子癇前症であった場合と高出生体重の場合に若年性乳がんリスクが高い可能性があることが示唆された。Breast Cancer Research誌2020年8月13日号に掲載。

 本研究(Two Sister Study)は姉妹をマッチさせたケースコントロール研究で、ケースは50歳になる前に非浸潤性乳管がんまたは浸潤性乳がんと診断された女性、コントロールは乳がんを発症した同じ年齢まで乳がんではなかった姉妹とした。リスク因子として、母親の妊娠時における子癇前症・喫煙・妊娠高血圧・ジエチルスチルベストロールの使用・妊娠糖尿病、低出生体重(5.5ポンド未満)、高出生体重(8.8ポンド超)、短い妊娠期間(38週未満)、母乳育児、乳幼児期の大豆粉乳摂取を検討した。

 主な結果は以下のとおり。

・条件付きロジスティック回帰分析では、高出生体重(オッズ比[OR]:1.59、95%信頼区間[CI]:1.07~2.36)と母親の妊娠時における子癇前症(調整後OR:1.92、95%CI:0.824~4.5162)が若年性乳がんリスクと関連していた。浸潤性乳がんに限定した場合、子癇前症との関連はより大きかった(OR:2.87、95%CI:1.08~7.59)。
・ケースのみの分析から、母親が妊娠時に子癇前症で若年性乳がんを発症した女性は、エストロゲン受容体陰性のオッズが高かった(OR:2.27、95%CI:1.05~4.92)。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Diaz-Santana MV, et al. Breast Cancer Res. 2020;22:88.

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TN乳がんの術後補助療法、パクリタキセル+カルボプラチンでDFS改善/JAMA Oncol

提供元:CareNet.com

 手術可能なトリプルネガティブ(TN)乳がんへの術後補助療法において、パクリタキセルとカルボプラチンの併用が標準レジメンより5年無病生存率が有意に高かったことが、無作為化第III相試験(PATTERN試験)で示された。中国・Fudan University Shanghai Cancer CenterのKe-Da Yu氏らが報告した。JAMA Oncology誌オンライン版2020年8月13日号に掲載。

 本試験は中国の9施設のがんセンターと病院で実施された。対象患者は2011年7月1日~2016年4月30日に登録し、データはITT集団で2019年12月1日~2020年1月31日に解析した。

・対象: 18~70歳の手術可能なTN乳がんの女性(病理学的に確認された局所リンパ節転移のある患者もしくは原発腫瘍径10mm超のリンパ節転移のない患者)で、除外基準は、転移ありもしくは局所進行の患者、TNではない乳がん患者、術前治療(化学療法、放射線療法)を受けた患者
・試験群: 1、8、15日目にパクリタキセル80mg/m2+カルボプラチン(AUC 2)、28日ごと6サイクル投与(PCb群)
・対照群:シクロホスファミド500mg/m2+エピルビシン100mg/m2+フルオロウラシル500mg/m2を3週ごと3サイクル投与後、ドセタキセル100mg/m2を3週ごと3サイクル投与(CEF-T群)
・評価項目:
[主要評価項目]無病生存期間(DFS)
[副次評価項目]全生存期間、遠隔DFS、無再発生存期間、BRCA1/2もしくは相同組換え修復(HRR)関連遺伝子の変異がある患者のDFS 、毒性

 主な結果は以下のとおり。

・手術可能なTN乳がん患者647例(平均年齢[SD]:51[44~57]歳)をCEF-T群(322例)またはPCb群(325例)に無作為に割り付けた。
・中央値62ヵ月の追跡期間で、PCb群はCEF-T群よりDFSが長かった(5年DFS:86.5% vs.80.3%、ハザード比[HR]:0.65、95%CI:0.44~0.96、p=0.03)。遠隔DFSと無再発生存期間でも同様の結果が認められた。
・全生存期間は統計学的な有意差がみられなかった(HR:0.71、95%CI:0.42~1.22、p=0.22)。
・サブグループ解析では、BRCA1/2変異のある患者のDFSのHRは0.44(95%CI:0.15~1.31、p=0.14)、HRR関連遺伝子変異のある患者では0.39(95%CI:0.15~0.99、p=0.04)であった。
・安全性データは既知の安全性プロファイルと一致していた。

 著者らは、「これらの結果から、手術可能なTN乳がん患者においてパクリタキセルとカルボプラチンの併用が術後補助化学療法の代替の選択肢となりうることが示唆される。分子分類の時代においては、PCbが有効なTN乳がんのサブセットをさらに調べる必要がある」としている。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Yu KD, et al. JAMA Oncol. 2020 Aug 13. [Epub ahead of print]

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「乳腺外科医事件」控訴審、逆転有罪判決の裏側~担当弁護人による「判決の争点」解説~【前編】

提供元:CareNet.com/企画:協和企画

 手術直後の女性患者への準強制わいせつ罪に問われた執刀医が、逮捕・勾留・起訴された事件。一審では無罪判決となったが、控訴審では懲役2年の実刑判決が東京高裁より言い渡された。一転して逆転有罪判決となった経緯には何があったのか。弁護人の1人である水沼 直樹氏に、実際に法廷で論じられた争点について、前・後編で解説いただく。

前編:経緯と検察側証人の証言

1.事案の概要

 2016年5月、右側の良性の乳腺腫瘍摘出術を受けた30代の女性患者が、術後30分以内に2度回診に来た執刀医からわいせつ行為を受けたと訴えたところ、患者の健側胸部から執刀医と同型のDNA型が検出され、アミラーゼ検査が陽性となった本件について、東京地裁は2019年2月20日無罪判決を言い渡しましたが*、東京高裁は2020年7月13日懲役2年の実刑判決を言い渡しました。

2.経緯

 検察官は、控訴趣意書(本文50頁)の約3分の2を割いてDNA定量検査およびアミラーゼ検査が科学的に問題ないことを主張し、検査時に作成するワークシートが鉛筆書きで良いといった某大学の「化学実験の指針」や検査人に問題がない旨の意見書等を証拠提出しました。

 これに対して、弁護人は、 DNA定量検査の際の増幅曲線や検量線図が検査ごとに必要である等と主張したり、上記「化学実験の指針」には、「字を消しゴム(訂正インク)を使って消したりまたは逆に塗りつぶしたりしてはならない」等の記載があることを反証し,検察側の意見者が矛盾する論文を執筆していた事実等を証拠請求しました。

3.控訴審での動き

 東京高裁は、患者が当時せん妄状態であったか、せん妄状態でLINE送信が可能か、幻覚を体験し得るか、について関心があると明言し、専門家証人を推薦するよう指示しました。

 そこで、検察官が精神科医1名を、弁護人が精神科医と集中治療医1名ずつを推薦したところ、東京高裁は2名の精神科医だけを証人採用しました。

4.検察側証人の証言

(1)主尋問の骨子

 自分はせん妄の専門家ではないが、救急センター兼任教授としてせん妄患者を診ている。せん妄は、アルコールの酩酊とパラレルに考えられ、アルコール酩酊者がBinderの分類でいう病的酩酊→複雑酩酊→単純酩酊と移行するように、せん妄も過活動型→混合型→低活動型と移行する。幻覚は、過活動型と混合型でみられるものの、記憶に残らない。低活動型の場合、意識障害がなく周囲の状況を理解でき、後から出来事を思い出せるが、幻覚体験をすることはない。前後不覚状態ではLINEを打てず、患者がLINEを打つという合目的的な行動をとっている点で、患者はせん妄状態ではない。患者の訴えは、性被害者の訴えの典型である。今回調べたところ、世界的に医師の性犯罪が問題となっていた。

(2)反対尋問の骨子

 せん妄の論文執筆、研究、学会発表等の経験は一切ない。せん妄とアルコール酩酊をパラレルに考えたのは、模式的に説明するためで、証人としては今後これを医学的論文等で公表したいと考えている。低活動型せん妄で幻覚が生じないことの出典はない。緩和ケアを基礎とするせん妄の診断基準・統計と本件とでは質が違う。せん妄の診断に際して見当識障害のあることが大前提とは言えない。本件患者は直線的に時事刻々と目覚めた。

 後編では,弁護側証人の証言,控訴審判決を中心に解説します。

*:詳細は、本サイト『「乳腺外科医事件」の判決の裏側』(前編/後編)を、または「医療判例解説」Vol.79をご覧ください。

後編はこちら


講師紹介

水沼 直樹 ( みずぬま なおき ) 氏東京神楽坂法律事務所 弁護士、東邦大学医学部ほか非常勤講師

[略歴] 東北大学法学部・日本大学大学院法務研究科卒業。
都内で法律事務所勤務ののち、亀田総合病院の内部専属弁護士として5年超にわたり勤務したのち,本件弁護を受任したため同院を退職し,現在に至る。
日本がん・生殖医療学会(兼理事)、日本睡眠歯科学会(兼倫理委員)、日本法医学会・日本DNA多型学会・日本医事法学会・日本賠償科学会・日本子ども虐待防止学会、日本麻酔医事法制研究会、オートプシー・イメージング学会(兼アドバイザ)、日本医療機関内弁護士協会(代表)の各会員ほか。


バックナンバー

6 「乳腺外科医事件」再度の無罪判決と医療現場への示唆

5 「乳腺外科医事件」最高裁判決を受けて~担当弁護人の視点から

4 「乳腺外科医事件」控訴審、逆転有罪判決の裏側~担当弁護人による「判決の争点」解説~【後編】

3 「乳腺外科医事件」控訴審、逆転有罪判決の裏側~担当弁護人による「判決の争点」解説~【前編】

2 「乳腺外科医事件」裁判の争点 【後編】

1 「乳腺外科医事件」裁判の争点 【前編】

乳がん関連リンパ浮腫、リンパ節照射より腋窩手術の種類が影響/JCO

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 乳がん関連リンパ浮腫について、腋窩手術の種類と領域リンパ節照射(RLNR)による影響を検討したところ、センチネルリンパ節生検(SLNB)、腋窩リンパ節郭清(ALND)ともRLNR追加でリンパ浮腫発現率は増加しなかった。また、ALND単独のほうが、SLNBにRLNRを追加するよりリンパ浮腫リスクが高かったことが、米国・ハーバード大学医学大学院のGeorge E. Naoum氏らによる前向きスクリーニング研究の長期結果で示された。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2020年7月30日号に掲載。

 本試験では、2005~18年にマサチューセッツ総合病院で治療を受けた浸潤性乳がん患者1,815例を、SLNB単独群、SLNB+RLNR群、ALND単独群、ALND+RLNR群の4群に分け、術前および治療後観察期間にperometerで上肢容積を測定した。術後3ヵ月以降に患側上肢容積が術前に比べて10%以上増加した場合をリンパ浮腫とした。

 主な結果は以下のとおり。

・各治療群の対象例数は、SLNB単独群1,340例、SLNB+RLNR群121例、ALND単独群91例、ALND+RLNR群263例であった。
・全体における診断後の観察期間中央値は52.7ヵ月であった。
・リンパ浮腫の5年累積発現率は、SLNB単独群8.0%、SLNB+RLNR群10.7%、ALND単独群24.9%、ALND+RLNR群30.1%であった。
・年齢、BMI、手術、再建タイプを調整した多変量Coxモデルによる解析において、ALND単独群はSLNB+RLNR群に比べてリンパ浮腫リスクが有意に高かった(ハザード比[HR]:2.66、p=0.02)。SLNB単独群とSLNB+RLNR群の間(HR:1.33、p=0.44)、ALND+RLNR群とALND単独群の間(HR:1.20、p=0.49)に有意差はみられなかった。
・5年局所再発率は、SLNB単独群2.3%、SLNB+RLNR群0%、ALND単独群3.8%、ALND+RLNR群2.8%でほぼ同じだった。

 著者らは、「RLNRはリンパ浮腫リスクを高めるが、リンパ浮腫の主要なリスク因子は腋窩手術の種類である」と結論している。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Naoum GE, et al. J Clin Oncol. 2020 Jul 30. [Epub ahead of print]

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コロナ禍、がん診断の遅れで5年後がん死増加の恐れ/Lancet Oncol

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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が、がん死に影響するとの報告が英国から寄せられた。同国ではCOVID-19のパンデミックにより2020年3月に全国的なロックダウンが導入されて以降、がん検診は中断、定期的な診断・診療も延期され、緊急性の高い症候性患者のみに対して診断・治療が行われているという。英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のCamille Maringe氏らは、診断の遅れが主ながん患者の生存率にどのような影響を及ぼすのかモデリング研究にて検討し、回避可能ながん死が相当数増加すると予想されることを明らかにした。結果を踏まえて著者は、「緊急の政策介入が必要である。とくに、COVID-19パンデミックのがん患者への影響を軽減するため、定期的な診断サービスの確保を管理する必要がある」とまとめている。Lancet Oncology誌オンライン版2020年7月20日号掲載の報告。

 研究グループは、英国の国民保健サービス(NHS)のがん登録および病院管理データを用い、2010年1月1日~12月31日の間に乳がん、大腸がんまたは食道がんと診断され2014年12月31日までの追跡データがある、または、2012年1月1日~12月31日の間に肺がんと診断され2015年12月31日までの追跡データがある15~84歳の患者を特定し、物理的距離を確保する対策が開始された2020年3月16日から1年間の診断遅延が及ぼす影響について解析した。

 診断遅延の生存に対する2次的影響をモデル化するため、通常のスクリーニングと紹介の経路での患者を、診断時の病期がより進行していることと関連する緊急経路に割り当て、最良から最悪まで3つのシナリオについて、診断後1、3、5年時点でのがんに起因する追加死亡および全損失生存年数(YLL)を算出し、パンデミック前のデータと比較した。

 主な結果は以下のとおり。

・乳がん患者3万2,583例、大腸がん患者2万4,975例、食道がん患者6,744例、肺がん患者2万9,305例が解析に組み込まれた。
・乳がんでは、診断後5年時までの乳がん死が7.9~9.6%(追加死亡相当で281例[95%信頼区間[CI]:266~295]~344例[329~358])増加すると推定された。
・同様に、大腸がんでは15.3~16.6%(追加死亡1,445例[95%CI:1,392~1,591]~1,563例[1,534~1,592])、肺がんでは4.8~5.3%(追加死亡1,235例[1,220~1,254]~1,372例[1,343~1,401])、食道がんでは5.8~6.0%(追加死亡330例[324~335]~342例[336~348])、それぞれ増加すると推定された。
・これら4種のがんについての5年間の追加死亡は、3つのシナリオ全体で3,291~3,621例であり、追加YLLは5万9,204~6万3,229年と推定された。

(ケアネット)


【原著論文はこちら】

Maringe C, et al. Lancet Oncol. 2020 Jul 20. [Epub ahead of print]

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