ロジスティック回帰分析 その3【「実践的」臨床研究入門】第62回

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本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

ロジスティック回帰モデルによる交絡因子調整の実際

 前回までロジスティック回帰モデルの基本的な考え方を説明しました。今回は実際に仮想データ・セットを用いて、EZR(Easy R)を使用したロジスティック回帰モデルによる交絡因子の調整方法について解説します。

 はじめに、以下の手順で仮想データ・セットをEZRにインポートします。

 仮想データ・セットをダウンロードする

「ファイル」→「データのインポート」→「Excelのデータをインポート」

次にメニューバーから

「統計解析」→「名義変数の解析」→「二値変数に対する多変量解析(ロジスティック回帰)」

を選択すると、下図のポップアップウィンドウが開きます。

モデル名には「Logistic_treat」などと入力

モデル式は以下のように選択します(連載第60回参照)。

目的変数(左辺):treat(厳格低たんぱく食の遵守の有無)

説明変数(右辺):下記のtreat以外のすべての説明変数(交絡因子)を「+」でつないで選択

・age(年齢)、sex(性別)、dm(糖尿病の有無)、sbp(血圧)、eGFR(ベースラインeGFR)、Loge_UP(蛋白尿定量_対数変換)、albumin(血清アルブミン値)、hemoglobin(ヘモグロビン値)

・age+sex+dm+sbp+eGFR+Loge_UP+albumin+hemoglobin

「OK」をクリックすると、EZRのRコマンダー出力ウィンドウに下記のコードが表示されます。

Logistic_treat <- glm(treat ~ age + sex + dm + sbp + eGFR + Loge_UP + albumin + hemoglobin , family=binomial(logit), data=Dataset)

 このコードの概要は以下です(連載第60回第61回参照)。

「Dataset」というデータを使用し、2値のカテゴリ変数である「treat」を目的変数として、~以下の8つの説明変数(交絡因子)で説明するロジスティック回帰分析(binomial(logit))を実行し、その計算結果を「Logistic_treat」というモデル名で保存

 多変量ロジスティック回帰分析の結果は出力ウィンドウの最後に表示されており、説明変数ごとの調整オッズ比(odds ratio:OR)と95%信頼区間(95% confidence interval:95%CI)およびp値が示されています(下図)。ちなみにこの出力結果のp値の表記法は科学的記数法と言われるもので、たとえば”e-04″は10の-4乗(0.0001)を表しています。したがってageのp値は、1.25×0.0001=0.000125となり有意水準0.05を下回っています。

 この表の結果の臨床的解釈を以下のように考えてみました。

・age(年齢):調整OR 0.969(95%CI:0.953~0.984)

・年齢が1歳増えるごとにtreat=1(厳格低たんぱく食の遵守あり)のORが3.1%(1-0.969)低下。

・高齢になるほど、低栄養などの懸念から厳格低たんぱく食の導入・継続は慎重となる可能性があります。

・dm(糖尿病の有無):調整OR 0.532(95%CI:0.360~0.787)

・糖尿病あり(dm=1)はなし(dm=0)に比べて、treat=1のORが47%(1-0.532)低い。

・糖尿病併発例では非糖尿病例と比べて、厳格低たんぱく食の導入・継続が困難である可能性が示唆されます。

・sbp(血圧):調整OR 0.982(95%CI:0.972~0.992)

・血圧が1mmHg高いほどtreat=1のORが1.8%(1-0.982)低い。

※変化幅を10倍(10mmHg)にしたほうがイメージしやすいかもしれません。その場合は推定値を10乗(0.98210≒0.834)します。

・血圧が10mmHg高いほどtreat=1のORが16.6%(1-0.834)低い。

・血圧管理の悪い例では、厳格低たんぱく食の導入・継続が困難な可能性が考えられます。

・eGFR(ベースラインeGFR):調整OR 0.961(95%CI:0.945~0.977)

・eGFRが1単位高いごとに、treat=1のORが約3.9%(1-0.961)低下。

・腎機能低下が進むほど、厳格低たんぱく食の導入・継続がなされている可能性があります。

・Loge_UP(蛋白尿定量_対数変換):OR 0.550(95%CI:0.426~0.710)

・蛋白尿が増えると(自然対数e倍)、treat=1のORが45%(1-0.550)低下。

・蛋白尿が多い例ほど、厳格低たんぱく食の導入・継続がなされている可能性があります。

※なお、ネフローゼ症候群は今回の研究対象からは除外されています(連載第40回参照)。

・albumin(血清アルブミン値):OR 0.231(95%CI:0.140~0.380)

・hemoglobin(ヘモグロビン値):OR 0.802(95%CI:0.730~0.881)

・ 血清アルブミン値が1単位(g/dL)、ヘモグロビン値が1単位(g/dL)増加するごとに、treat=1のORがそれぞれ76.9%(1-0.231)、19.8%(1-0.802)低下。

・血清アルブミン値が低いほど、ヘモグロビン値が低いほど、厳格低たんぱく食の導入・継続がなされているという結果ですが、横断的なベースラインデータの解析であり、逆因果の可能性に注意が必要です。

 

講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和医科大学臨床疫学研究所 所長・教授
昭和医科大学大学院医学研究科 衛生学・公衆衛生学分野/腎臓内科学分野 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学(現昭和医科大学)医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


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18. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その1

17. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その3

16.リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その2

15. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その1

14. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その3

13. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その2

12. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用その1

11. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その2

10. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その1

9. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その3

8. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その2

7. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その1

6. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その3

5. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その2

4. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その1

3. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビューその2

2. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー その1

1. 臨床上の疑問とリサーチ・クエスチョン

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海外研修留学便り【米国留学記(松永 有紀氏)】第1回

[レポーター紹介]
松永 有紀(まつなが ゆき)

大分大学医学部医学科 卒業
東京大学医学部附属病院 初期研修
昭和大学病院 乳腺外科 助教(医科)
がん研究会NEXT-Ganken プログラム Clinical Research Fellow
がん研究会有明病院 乳腺外科 医員
テキサス大学サウスウェスタン医療センター シモンズ総合がんセンター 博士研究員

テキサス大学への留学が決まった経緯

附属病院から見たダラスの街

 テキサス州ダラスにあるUT Southwestern Medical Centerでpostdoctoral researcherをしている松永有紀と申します。2024年の初めから留学生活が始まり、ちょうど2年が経ちました。今年4月からはAmerican Cancer Societyのpostdoctoral fellowshipをいただけることとなり、何事もなければ残り2年ちょっとのダラス滞在予定です。今回は、留学に至るまでの経緯や採用プロセス、そして渡米までの準備についてご紹介したいと思います。

 大学院での学位研究以降、ER陽性乳がんに関する基礎研究に取り組んできました。絶対に海外留学をするという強い覚悟が最初からあったわけではありませんが、いつか機会があれば、と考えながら、大学院時代から英語の勉強は細く長く続けていました。といっても、海外ドラマを英語字幕で観たり、日本のドラマを英語字幕付きで観て表現を覚えたりする程度の、ゆるい取り組みです。今振り返ると、この時期にもう少しきちんと、独り言でもいいので英語を話す練習をしておけばよかったと思います。渡米後、相手の言っていることは分かるのに、自分の言いたいことがスムーズに口から出てこない時期が、想像以上に長く続きました。

 がん研有明病院での勤務が最終年に差しかかった2023年9月末、現在所属しているラボがポスドクを募集していると、上司の先生を通して教えていただきました。前任のポスドクが退職されたことに伴う臨時募集で、研究テーマもすでに決まっており、予算も確保されているとのことでした。テーマはER陽性乳がんに関するもので、自分のこれまでのバックグラウンドや興味にも合致していました。給料をいただけて、ダラスという都市名も聞き覚えがあり、日本からの直行便もある、ということで応募を決めました。

 メールで数回やり取りをした後、現在のボスとのWeb面談が行われました。面談では、これまでの研究内容について15分ほどプレゼンをし、その後に質疑応答がありました。その場で1月からの採用が決まりましたが、この時点で勤務開始まで3ヵ月しかありません。

渡米時全荷物

 その後は、ビザの手続き、担当患者さんの引き継ぎ、アメリカでの生活立ち上げの準備などを、留学経験のある先生方や乳腺センターの先生方、当時アメリカ留学中だった高橋 洋子先生、そして現在のラボに留学されていた上本先生に多大なサポートをいただきながら、なんとか進めていきました。医局やお世話になった方々へのご挨拶、引っ越し準備、役所での各種手続きなど、常に何かに追われているような日々でした。

 採用プロセスや渡航準備に際し、がん研有明病院、昭和医科大学の先生方には大変お世話になりました。急な留学にもかかわらず多くの励ましと温かい後押しを受け、送り出していただきました。

 行きの機内では氷入りのsparkling waterを頼んだのに、氷入りのtomato juiceが出てきて、この英語力でやっていけるのか心から不安になりましたが、なんとか予定通りの日程でダラスでのポスドク生活を開始することができました。

 


バックナンバー

1 海外研修留学便り【米国留学記(松永 有紀氏)】第1回

海外研修留学便り 【フランス留学記(尾崎 由記範氏)】第4回

レポーター紹介 ]
尾崎 由記範おざき ゆきのり

2008年慶應義塾大学医学部、2022年東京医科歯科大学大学院を卒業。
2014年より虎の門病院、2020年よりがん研究会 有明病院 乳腺センター 乳腺内科勤務、先端医療開発科併任。
乳腺を専門とする腫瘍内科医としてがん薬物療法、臨床研究、新規治療戦略の開発に従事している。

帰国後も留学先での関係性をいかに維持するか

Breast Unitのメンバーと滞在中最終ミーティングにて

 フランス留学から帰国してしばらく経ちました。パリで過ごした日々は、今振り返っても非常に新鮮で、私自身の価値観に影響し(帰国してからは美味しいバゲットを探し求め、買い回っています!)、また臨床医・研究者としての視野を大きく広げてくれた時間であったと感じています。

 多様な文化的背景や価値観をもつ多国籍チームにおいて議論を重ねる現地での経験は、自身の思考様式を相対化する貴重な機会となりました。日本では自分の意見を明言しない場面がよくありますが、国際共同研究では自身の考えや感じていることを言語化し、相手に伝えることが求められます。そのプロセスは時に時間を要しますが、合意形成のために重要なプロセスであると考えるようになりました。

 3ヵ月で何かを達成することは難しいので、本当の勝負は「帰国してからいかに関係性を維持できるか」であると考えています。帰国後の現在も数週間に一度のオンラインミーティングを重ねながら、複数のプロジェクトを同時並行で進めています。さらに、帰国後に新たな共同研究のお誘いをいただく機会もあり、留学で築いた関係性が確実に次の展開へと広がっていることを実感しています。

 欧米諸国で進められている「共同研究の輪」は、制度や資金だけで成り立っているのではなく、個人的なつながり、すなわち顔が見える関係性の上に築かれていることを改めて学びました。それ以来、海外の先生方から共同研究のお誘いをいただいた際に私が留意していることは、まずはオンラインであっても顔を合わせ、自分の声と表情でコミュニケーションをとることです。そして、相手の考えや立場を理解しようとしていることを率直に伝えることです。こうした人としてのつながりと信頼関係があってこそ、共同研究は成立し、さらに継続していくのであろうと考えています。

国内での連携をより一層大切にしていく姿勢も不可欠

October Roseイベント, Gustave Roussyのメインホールにて

 一方で、海外との関係性以上に、日本国内でこれまでどのような研究やデータ創出が積み重ねられてきたのかを深く理解することの重要性も、改めて強く感じました。国際共同研究の場では、「日本は何を持っているのか」「どのような強みがあるのか」が常に問われます。国内で築かれてきた臨床・研究の実績、蓄積、研究体制の歴史や文化を理解していなければ、対等に議論することは難しいです。また、当然ながら国内の先生方との連携がなければ、海外とのネットワークに意味はありません。国内で築かれてきた土台を理解し、その強みを世界に広め、そして新たな知見を共同で創出してく、そのためには、国内の先生方との連携をより一層大切にしていく姿勢が不可欠であると実感しています。これまで支えてくださった先生方への敬意と感謝を忘れず、謙虚に学び続ける姿勢を持ち続けたいと考えています。

 今回の留学で得たものは、バゲットに対する愛着だけでなく、国境を越えて協働するネットワーク、積極的なコミュニケーションに基づく信頼関係の重要性を常に意識する感覚だと思います。フランス滞在を新たなスタートとして、こうしたつながりを継続し、時間をかけて広げていくことが、これからの自分の役割でもあると感じています。

 


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4 海外研修留学便り【フランス留学記(尾崎 由記範氏)】第4回

3 海外研修留学便り【フランス留学記(尾崎 由記範氏)】第3回

2 海外研修留学便り【フランス留学記(尾崎 由記範氏)】第2回

1 海外研修留学便り【フランス留学記(尾崎 由記範氏)】第1回

ロジスティック回帰分析 その2【「実践的」臨床研究入門】第61回

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本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

ロジスティック回帰モデルの基本的な考え方 その2

 オッズ比(odds ratio:OR)はロジスティック回帰モデルにおいて、ある事象の起こりやすさが説明変数の影響によって、どの程度変化するかを示す重要な指標として用いられます。今回は前回のオッズの解説に引き続き、ORについて説明します。

 オッズは「ある事象が起こる確率と起こらない確率の比」であり、Aという事象が起こる確率をp(A)とした場合、事象Aのオッズは

でした。ORは2つの群のオッズの比であり、事象Aがある群で起こる確率をp(A)、別の群で起こる確率をq(A)とした場合、

となり、ORの取りうる値の範囲はオッズと同様に0から∞になります(連載第60回参照)。

 ここからは、ロジスティック回帰モデルの考え方の説明に戻ります。前回解説したように、ロジスティック回帰モデルの基本的な形は、以下のような数式で表されます。

 今回も、われわれのResearch Question(RQ)を題材に具体的な事例で解説します(連載第60回参照)。

 たとえば、「厳格低たんぱく食の遵守あり」という事象Aの起こりやすさを、対象患者特性の1つである、糖尿病(DM)の有無でORを用いて比較することを考えてみます。

 DMありの場合に事象Aの起こる確率がp(A)、DMなしの場合の事象Aの起こる確率がq(A)だとした場合、そのロジットはそれぞれ下記の数式になります(連載第60回参照)。

 次に求めるのは、DMの有無による事象AのORの対数(log OR)です。高校の数学で習った次の公式を用いると、

 DMの有無による事象AのORの対数(log OR)は、下記のように計算できます。

 ORの値の取りうる範囲はオッズと同様に0から∞ですが、その対数(log OR)をとることで-∞から∞の範囲の値として扱えるようになります。

 上記の式のとおり、DMの有無による事象AのORの対数(log OR)は、DMあり・なしの項以外はすべて相殺されて、DMの項の回帰係数b1となります。

 また、これも高校の数学で習った次の公式より、

 xの自然対数をyとした場合、xは自然対数の底eのy乗となります。したがって、DMの有無による事象AのORは、eb1として、計算で求めることができるのです。

 では、この計算式から得られるORはどのように解釈できるでしょうか。ロジスティック回帰モデルを用いた多変量解析により、交絡因子を調整して算出されたORは「調整OR」です。これは、注目している説明変数(DMの有無)以外の交絡因子(年齢、性別、血圧、eGFR、蛋白尿定量、血清アルブミン値、ヘモグロビン値)の影響を統計学的に制御し、それらがすべて同一であるとみなした条件下で、注目している説明変数(DMの有無)のみが変化した場合の事象AのORを示しています。そのため、単純な2群比較で求めたORよりも、交絡となりうる要因の影響をある程度取り除いた、より信頼性の高い指標として解釈できます。

 

講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和医科大学臨床疫学研究所 所長・教授
昭和医科大学大学院医学研究科 衛生学・公衆衛生学分野/腎臓内科学分野 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学(現昭和医科大学)医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
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1. 臨床上の疑問とリサーチ・クエスチョン

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海外研修留学便り【米国留学記(高橋 洋子氏)】第4回

[レポーター紹介]
高橋 洋子(たかはし ようこ)

山形大学医学部 卒業
東京医療センター 外科研修医
慶應義塾大学 一般・消化器外科 乳腺班
国際医療福祉大学/医療法人順和会 山王病院 乳腺外科
帝京大学医学部 外科
がん研究会有明病院 乳腺外科
University of Hawai`i Cancer Center, Translational and Clinical Research, Cancer Biology, Research Scholar

 早いもので、この連載も最終回となりました。留学を開始してから2年が経過し、最初の1年は目の前のことに必死でしたが、ようやく少し立ち止まって振り返る余裕が出てきたように感じています。

「サンキュー」の国、アメリカ

マウイ島・ハレアカラ国立公園からのサンセット
天気を確認し日帰りで友達とマウイ島へ。気軽に近隣の島に行き、そして島々で異なる大自然に触れることができるのもハワイに住んでいる醍醐味です。

 日本では「アメリカには敬語がない」と聞いたことがありましたが、実際に来てみると、メールのやり取り1つをとっても非常に気を使う文化だと感じました。渡米当初、日本語を直訳したような表現でメールを返信したところ、そのストレートさに驚いたアメリカ人もいたようで、軽く注意を受けたことがあります。ただ、この経験はその後の生活に大いに役立ちました。

 アメリカでは、とにかく感謝の言葉を口にします。「メールをくれてありがとう」「対応してくれてありがとう」、さらには相手が遅刻した場合でも「Thank you for your patience」と伝えます。日本であれば「すみません」と言ってしまいそうな場面が、こちらでは「サンキュー」になる。この違いはとても象徴的だと感じました。

 また、「アメリカ人はあまり働かない」と言われることもありますが、実際には仕事の分業化が徹底されているだけだと思います。契約に基づいて役割が明確に決められており、それ以外の仕事に手を出さないという考え方です。日本人のように「他人の仕事を手伝う」という文化はやや乏しい一方で、上司が部下の仕事を管理し、仕事が円滑に回る仕組みを作ることが重視されています。こうした背景を理解すると、自分自身も少し楽になるように感じました。なお、私の勤務先はがんセンターということもあり、ハワイという土地のイメージとは異なり、仕事のスピードは非常に速く、時に日本より早いと感じる場面も多々ありました。

ハワイでの留学生活2年目、留学後のキャリアをどう考えるか

友人とのハイキングは探検気分で楽しんでいます。この日はオアフ島の東側、ジュラシックパークなど映画の撮影に使用されたエリアを一望できる絶景へ。さまざまなGreenとBlueを見られるのはハワイならではの景色。

 留学2年目になると、「帰国後はどうするのか」と聞かれることが増えてきます。日本人医師の場合、大学医局や病院に戻る方が多い一方で、世界中から集まるポスドクたちは、アメリカに残って研究職を探したり、製薬企業などのIndustryに進んだりと、選択肢はさまざまです。近年の政治情勢の変化を受け、ヨーロッパでのポジションを模索するという話も珍しくありません。すべてはタイミングだと思いますが、次のステップへと世界に飛び出していく仲間たちの背中から学ぶことも多いと感じています。

 仕事が早く終わった同僚は、「本国では忙しくてできなかったが、今は毎日夕方から子どもと過ごしている」と話してくれました。私自身も、家族や友人が日本のものをたくさん持って訪ねてきてくれたり、頻繁には会えないからこそ感謝の気持ちを言葉にして伝えたりと、日本にいたときとは少し違った形で家族や人とのつながりを感じています。こうした経験もまた、留学だからこそ得られる貴重な学びの1つだと感じています。

 留学の形は人それぞれですが、「留学した」という事実そのものにとらわれる必要はないと思います。自分は何をしたいのか、キャリアを一時中断してまで得たいものは何か、その留学先での経験は自分のVisionやMissionにどのようにつながるのか。可能であれば、実際にそのラボで働いている人に直接話を聞くことを強く勧めます。そして、隣の芝生は青く見えるものです。自分の選んだ道を信じ、前に進むことが何より大切なのではないかと思っています。

 この留学記のお話をいただいたことは突然でしたが、自分自身を振り返る良い機会となり、貴重な経験ができたことに感謝しています。本連載を通じて何か感じることがありましたら、お気軽にご連絡いただければ幸いです。

 


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4 海外研修留学便り【米国留学記(高橋 洋子氏)】第4回

3 海外研修留学便り【米国留学記(高橋 洋子氏)】第3回

2 海外研修留学便り【米国留学記(高橋 洋子氏)】第2回

1 海外研修留学便り【米国留学記(高橋 洋子氏)】第1回

ロジスティック回帰分析 その1【「実践的」臨床研究入門】第60回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

ロジスティック回帰モデルの基本的な考え方

 今回からは、ロジスティック回帰を用いた多変量解析について解説します。以前説明した線形回帰(重回帰)ではアウトカム指標は連続変数でしたが、ロジスティック回帰ではアウトカム指標が2値のカテゴリ変数の場合に適用されます(連載第50回参照)。それでは、下記に示したわれわれのResearch Ques-tion(RQ)を題材にして、ロジスティック回帰の実際について考えてみます(連載第49回参照)。

・P(対象):慢性腎臓病(CKD)患者
・E(要因):厳格低たんぱく食の遵守あり
・C(対照):厳格低たんぱく食の遵守なし
・O(アウトカム):1)末期腎不全(透析導入)、2)糸球体濾過量(GFR)低下速度
・交絡因子:年齢、性別、糖尿病の有無、血圧、eGFR、蛋白尿定量、血清アルブミン値、ヘモグロビン値

 これまで厳格低たんぱく食の遵守というEと、末期腎不全、GFR低下速度というOとの関連について、それぞれ生存時間分析、線形回帰(重回帰)分析を用いた多変量解析で交絡因子を調整して検討しました。今回は、Eである厳格低たんぱく食の遵守の有無(2値のカテゴリ変数)をアウトカム指標におき、ロジスティック回帰を用いて交絡因子として挙げた種々の患者背景要因を調整したうえで、Eという診療パターンが「起こりやすい」患者特性について検討します。

 ロジスティック回帰モデルの考え方として、まずオッズについて説明します。オッズとは「ある事象が起こる確率と起こらない確率の比」で表される指標です。今回の題材では、Aという事象、「厳格低たんぱく食の遵守あり」が起こる確率をp(A)とすると、Aという事象が起こらない、すなわち「厳格低たんぱく食の遵守なし」である確率は1-p(A)で表されます。

 したがって、事象Aのオッズは

 という数式で表されます。

 p(A)の取りうる範囲は確率ですので0から1までの値であり、1を超えたり負の値になったりすることはありません。ここでp(A)を目的変数として、複数の説明変数からこれを推測することを考えます。たとえば説明変数として連続変数xをおき、xの値が変動するとp(A)になる確率が大きくなったり小さくなったりする関係があるとします。たとえば、年齢という連続変数が大きくなる、高齢になるほど、p(A)、すなわち「厳格低たんぱく食の遵守あり」の確率が低くなる、というような関係です。

 ある目的変数を複数の説明変数によって推測する、ということを線形回帰(重回帰)分析ですでに説明しました(連載第52回参照)。

上記の重回帰式yの取りうる範囲は-∞から∞です。

 しかし今回この左辺に置きたいのはAという事象が起こる確率p(A)であり、その取りうる範囲は0から1までの値であり、左辺と右辺の取りうる範囲が揃いません。そこで、先ほど説明したオッズの出番です。

 事象Aのオッズは

 であり、p(A)の取りうる範囲は0から1でしたので、数式から事象Aであるオッズの取りうる値は0から∞になります。しかし、重回帰式yの取りうる範囲は-∞から∞ですので、まだ左辺と右辺の取りうる範囲は一致しません。そこでさらに、オッズの自然対数をとるロジット変換を行い、事象Aのロジットを求めると下記の数式になります。

 ロジット変換を行うと、その取りうる範囲は-∞から∞となります。このロジットを目的変数として左辺に置き、右辺に重回帰式を当てはめることにより、下記の数式で示すように、ようやく左辺と右辺で取りうる範囲が揃います。

 この数式がロジスティック回帰モデルの基本形です。左辺は事象Aが起こる確率p(A)のロジット(対数オッズ)を示します。右辺は切片aと複数の説明変数xiのそれぞれの回帰係数biの項の総和と残差eで表されます。

 この数式を用いて、重回帰分析と同様に複数の独立変数と2値のカテゴリ変数である目的変数との関連を検討することが、ロジスティック回帰分析を用いた多変量解析の基本的な考え方です。

 

講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和医科大学臨床疫学研究所 所長・教授
昭和医科大学大学院医学研究科 衛生学・公衆衛生学分野/腎臓内科学分野 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学(現昭和医科大学)医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


バックナンバー

62. ロジスティック回帰分析 その3

61. ロジスティック回帰分析 その2

60. ロジスティック回帰分析 その1

59. 生存時間分析 その5

58. 生存時間分析 その4

57. 生存時間分析 その3

56. 生存時間分析 その2

55. 生存時間分析 その1

54. 線形回帰(重回帰)分析 その5

53. 線形回帰(重回帰)分析 その4

52. 線形回帰(重回帰)分析 その3

51. 線形回帰(重回帰)分析 その2

50. 線形回帰(重回帰)分析 その1

49. いよいよ多変量解析 その2

48. いよいよ多変量解析 その1

47. 何はさておき記述統計 その8

46. 何はさておき記述統計 その7

45. 何はさておき記述統計 その6

44. 何はさておき記述統計 その5

43. 何はさておき記述統計 その4

42. 何はさておき記述統計 その3

41. 何はさておき記述統計 その2

40. 何はさておき記述統計 その1

39. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その2

38. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その1

37. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その2

36. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その1

35. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その2

34. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その1

33. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その8

32. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その7

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28. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その3

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20. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その3

19. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その2

18. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その1

17. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その3

16.リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その2

15. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その1

14. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その3

13. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その2

12. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用その1

11. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その2

10. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その1

9. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その3

8. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その2

7. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その1

6. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その3

5. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その2

4. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その1

3. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビューその2

2. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー その1

1. 臨床上の疑問とリサーチ・クエスチョン

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海外研修留学便り 【フランス留学記(尾崎 由記範氏)】第3回

[ レポーター紹介 ]
尾崎 由記範おざき ゆきのり

2008年慶應義塾大学医学部、2022年東京医科歯科大学大学院を卒業。
2014年より虎の門病院、2020年よりがん研究会 有明病院 乳腺センター 乳腺内科勤務、先端医療開発科併任。
乳腺を専門とする腫瘍内科医としてがん薬物療法、臨床研究、新規治療戦略の開発に従事している。

第3回:国際共同プロジェクトへの挑戦

 

 

 


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1 海外研修留学便り【フランス留学記(尾崎 由記範氏)】第1回

海外研修留学便り 【フランス留学記(尾崎 由記範氏)】第2回

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尾崎 由記範おざき ゆきのり

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乳腺を専門とする腫瘍内科医としてがん薬物療法、臨床研究、新規治療戦略の開発に従事している。

第2回:フランスの医療制度と生活

 

 

 


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尾崎 由記範おざき ゆきのり

2008年慶應義塾大学医学部、2022年東京医科歯科大学大学院を卒業。
2014年より虎の門病院、2020年よりがん研究会 有明病院 乳腺センター 乳腺内科勤務、先端医療開発科併任。
乳腺を専門とする腫瘍内科医としてがん薬物療法、臨床研究、新規治療戦略の開発に従事している。

第1回:Gustave Roussy留学のきっかけ

 

 

 


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ESMO2025 レポート 乳がん(転移再発乳がん編)

提供元:CareNet.com

レポーター: 下井 辰徳氏
(国立がん研究センター中央病院 腫瘍内科)

 2025年10月17~21日にドイツ・ベルリンで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)では、3万7,000名を超える参加者、3,000演題弱の発表があり、乳がんの分野でも、現在の標準治療を大きく変える可能性のある複数の画期的な試験結果が発表された。

 とくに、抗体薬物複合体(ADC)、CDK4/6阻害薬、およびホルモン受容体陽性乳がんに対する新規分子標的治療に関する発表が注目を集めた。臨床的影響が大きい主要10演題を早期乳がん編・転移再発乳がん編に分けて紹介する。

[目次]転移再発乳がん編

ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がん
 1.evERA
 2.VIKTORIA-1

HER2陽性乳がん
 3.DESTINY-Breast09

トリプルネガティブ乳がん
 4.ASCENT-03
 5.TROPION-Breast02

ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がん

1.evERA:ESR1陽性HR+/HER2-転移乳がんに対するgiredestrant(経口SERD)+エベロリムス併用療法の有効性の報告

 evERAは、ホルモン受容体(ER)陽性、HER2陰性の進行/転移乳がん患者に対する新規経口SERD「giredestrant(ギレデストラント)」にエベロリムス(mTOR阻害薬)併用の、対照群として医師選択の内分泌療法(エキセメスタン/タモキシフェン/フルベストラント)+エベロリムスに対する、有効性と安全性を検証した国際第III相臨床試験である。対象は、CDK4/6阻害薬による治療歴があるER陽性/HER2陰性進行/転移乳がん患者(ESR1変異陽性も含む)であった。373例が参加し、日本人患者も参加していた。

 ITT集団において、giredestrant+エベロリムス群の無増悪生存期間(PFS)中央値は8.77ヵ月(95%信頼区間[CI]:6.60~9.59)に対し、対照群(内分泌療法+エベロリムス)では 5.49ヵ月(95%CI:4.01~5.59)(ハザード比[HR]:0.56、95%CI:0.44~0.71、p<0.0001)であり、統計学的有意にgiredestrant群のPFSが良好であった。ESR1変異陽性サブ集団では、PFS中央値が9.99ヵ月(95%CI:8.08~12.94)に対し、対照群で5.45ヵ月(95%CI:3.75~5.62)、PFSのHR:0.38(95%CI:0.27~0.54、p<0.0001)であり、統計学的有意にgiredestrant群のPFSが良好であった。

 全生存期間(OS)データは未成熟だが、ITT集団ではHR:0.69(95%CI:0.47~1.00、p=0.0473)、ESR1変異陽性ではHR:0.62(95%CI:0.38~1.02、p=0.0566)と、良好な傾向であった。安全性については、giredestrant+エベロリムス併用群は、既知の薬剤プロファイルに準じた有害事象(AE)が観察され、新たな安全信号は確認されていないと報告。主要な有害事象としては、口内炎(stomatitis)、下痢、貧血など、エベロリムスでよく知られた有害事象が中心であり、giredestrantに特徴的な有害事象としてはGrade 1/2の徐脈(3.8%)であり、忍容性は良好と報告されていた。

 日本ではあまり積極的に使用されていないエキセメスタンなどの内分泌療法とエベロリムスの併用療法であるが、欧米ではCDK4/6阻害薬治療後の2次治療での主要な選択肢になっている。このため、evERAの結果を受けて、今後のCDK4/6阻害薬による治療で病勢進行した場合の主要な選択肢としてgiredestrantとエベロリムスが期待される結果となった。PFSとOSのトレンドとしては、ESR1変異のある症例での有効性に、ITTも引っ張られている様子で、ESR1変異のない集団では試験治療群と対照群のPFSやOSの差はほとんどない様子であった。このため、これまでのほかの経口SERD同様に、ESR1変異のある症例での承認を目指していくことと思われる。

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2.VIKTORIA-1:PAM経路(PI3K/AKT/mTOR)阻害によるホルモン耐性乳がんの克服

 VIKTORIA-1は、CDK4/6阻害薬とアロマターゼ阻害薬による治療後に進行したHR+/HER2-/PIK3CA野生型進行乳がん患者を対象とした第III相ランダム化試験である。VIKTORIA-1にはPIK3CA変異コホートもあるが、今回は報告されていない。392例の患者が、「gedatolisib(ゲダトリシブ)」(PI3K/mTORC1/mTORC2阻害薬、点滴)+パルボシクリブ+フルベストラント(3剤併用群)、gedatolisib +フルベストラント(2剤併用群)、またはフルベストラント単独群にランダム割付された。

 3剤併用群は、フルベストラント単独群と比較して、HR:0.24、95%CI:0.17~0.35、p<0.0001と、PFSを改善させた。PFSの中央値は3剤併用群9.3ヵ月に対してフルベストラント単独群2.0ヵ月(差:+7.3ヵ月)であった。2剤併用群は、フルベストラント単独群と比較して、HR:0.33(95%CI:0.24~0.48、p<0.0001)と、PFSを改善させた。PFSの中央値は2剤併用群7.4ヵ月に対してフルベストラント単独群2.0ヵ月であった。

 gedatolisibベースの治療は良好に忍容され、治療関連有害事象により中止した患者はごく少数であった。

 これまでも、CDK4/6阻害薬耐性HR+乳がん患者に対して、PAM経路標的化は新しい治療戦略を提供することを示唆してきた。gedatolisibの二重特異的阻害特性により、より強力な細胞周期制御と耐性機序の同時阻害が期待されるが、VIKTORIA-1の結果は、トリプレット療法がこの高度に耐性のある患者集団に対してとくに有望であることを示唆した。CDK4/6阻害薬の治療後にCDK4/6阻害薬のbeyond progressionの使用の有効性を示したpostMONARCHやMAINTAINは別のCDK4/6阻害薬からの変更が主体であったが、VIKTORIA-1で3剤併用群のパルボシクリブ併用の症例のうち約4割はパルボシクリブによる前治療歴があり、パルボシクリブのシークエンスでもある程度上乗せ効果が期待できる可能性を示唆している。また、VIKTORIA-1は日本では実施されておらず、今後はドラッグロスの1つとなる可能性が懸念される。

 来年度以降の1次、2次内分泌療法のシークエンス(予想)は以下のとおり。

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HER2陽性乳がん

3.DESTINY-Breast09サブグループ解析:サブグループによらずT-DXd+PERが標準治療に

 DESTINY-Breast09(第III相、トラスツズマブ デルクステカン[T-DXd]+ペルツズマブ[T-DXd+PER群]vs.標準療法:タキサン+トラスツズマブ+ペルツズマブ[THP群])は、ASCO2025で、すでにその主要評価項目が発表され、T-DXd+PER群のTHP群に対するPFSの優越性が検証された。今回ESMO Congress 2025では、すべてのサブグループでT-DXd+ペルツズマブがPFSを大きく延長したことが報告された。T-DXd+PER群のPFSのHRや中央値は既存標準治療を大きく上回る結果で、今後、1次治療の標準になる可能性が示された。

サブグループ解析結果のまとめを以下に示す。

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トリプルネガティブ乳がん

4.ASCENT-03:PD-L1陰性のTNBCの初回治療にサシツズマブ ゴビテカンが名乗りを上げる

 ASCENT-03は、免疫療法が適応とならないPD-L1陰性またはPD-1/PD-L1阻害薬不適格の未治療転移トリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者を対象とした第III相ランダム化試験である。558例が、サシツズマブ ゴビテカン(SG)群または化学療法(パクリタキセル、アルブミン懸濁パクリタキセル、またはゲムシタビン+カルボプラチン)群にランダム割付された。

 中央値13.2ヵ月のフォローアップで、PFSの中央値はSG群で9.7ヵ月、化学療法群で6.9ヵ月(HR:0.62、p<0.0001)であり、統計学的有意にPFSの改善を示した。奏効期間(DOR)の中央値はSG群で12.2ヵ月、化学療法群で7.2ヵ月で、SG群で著しく長かった。奏効率(ORR)は両群で同程度であった(48%vs.46%)。発表時点でOSデータはまだ未成熟であったが、試験としては、対照群では2次治療以降で希望者は企業提供によりSG治療のクロスオーバーが可能であった。このため、82%が2次治療以降でSGを受けたとされる。

 有害事象は、SG群の好中球数減少など、これまでに知られている内容から大きな違いはなかった。約40~60%の転移TNBC患者はPD-L1陰性であり、そういった患者に対するより有効な治療が期待されている。本試験結果は、現在2次治療以降で使用されているSGが初回治療の標準治療となりうる可能性を示した重要な結果であった。

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5.TROPION-Breast02:もう1つのADC TNBC初回治療成績

 TROPION-Breast02は、免疫療法が適応とならない未治療の転移・局所再発TNBC患者644例を対象に、抗TROP2 ADC「ダトポタマブ デルクステカン(Dato-DXd)」の1次治療としての有効性・安全性を主治医選択の化学療法と比較した国際第III相試験である。主要評価項目はPFSとOSであった。

 結果として、PFS中央値はDato-DXd群10.8ヵ月、化学療法群5.6ヵ月であり、PFSのHR :0.57(95%CI:0.47~0.69、p<0.0001)、OS中央値はDato-DXd群23.7ヵ月、化学療法群18.7ヵ月であり、OSのHR:0.79(95%CI:0.64~0.98、p=0.0291)と、いずれも統計学的有意にDato-DXd群が良好であった。ORRもDato-DXd群62.5%、化学療法群29.3%と、Dato-DXd群が良好であった。安全性としては主なGrade3以上有害事象は口内炎・粘膜炎、視覚障害であり、これまでの報告に比べて新たな有害事象報告は認めなかった。

 以下に、ASCENT-03とTROPION-Breast02の違いをまとめる。

 なお、対照群の治療内容が異なるため、奏効率も各試験で異なっている。ASCENT-03は人道的配慮から、企業が対照群の病勢進行後のSGを提供することでクロスオーバーを許容しており、OSの差が検出されづらくなっていた。一方でTROPION-Breast02はクロスオーバーが実質的に不可能であるため、OSの差が中間解析の段階で検証されたと思われる。奏効率に関しては、試験治療群の結果を見る限りでは、Dato-DXdのほうが高いように思われた。来年以降将来的には、PD-L1陽性群ではSG+ペムブロリズマブがASCENT-04に基づいて初回治療として検討され、PD-L1陰性群ではSGまたはDato-DXdが検討される時代になると想定される。その際には、SGまたはDato-DXdのいずれを優先するか、次治療で別のTROP2 ADCへのシークエンスをどうするか、HER2低発現でT-DXdへのシークエンスをどうするか、などの検討が生まれるだろう。現時点でのデータの状況であれば、SGまたはDato-DXdのいずれを優先するかについては、有害事象の違いを考慮する必要があるが、OS利益がはっきりしているDato-DXdのほうに分があるように思われる。

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終わりに

 今回のESMO Congress2025では、数多くのランダム化第III相試験の結果が報告され、実臨床を大きく変える研究結果が報告された。各試験の限界や問題点を考慮しつつ、来年以降の標準治療のあるべき姿と、生まれてきた新たなクリニカルクエスチョンに関して、創出すべきエビデンスを考えていきたいと思う。

 


レポーター紹介

下井 辰徳 ( しもい たつのり )
国立がん研究センター中央病院 腫瘍内科