ESMO2025速報 乳がん

|企画・制作|ケアネット

2025年10月17~21日に開催されたESMO Congress2025の乳がんトピックを、がん研有明病院の尾崎 由記範氏が速報レビュー。


レポーター紹介

尾崎 由記範 ( おざき ゆきのり ) 氏
がん研究会有明病院 乳腺センター 乳腺内科/先端医療開発科


掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

海外研修留学便り【米国留学記(高橋 洋子氏)】第3回

[レポーター紹介]
高橋 洋子(たかはし ようこ)

山形大学医学部 卒業
東京医療センター 外科研修医
慶應義塾大学 一般・消化器外科 乳腺班
国際医療福祉大学/医療法人順和会 山王病院 乳腺外科
帝京大学医学部 外科
がん研究会有明病院 乳腺外科
University of Hawai`i Cancer Center, Translational and Clinical Research, Cancer Biology, Research Scholar

米国ハワイでのがん研究の実際、重要な担い手となっているのは

 私の所属する University of Hawai`i Cancer Centerでは、PI(Principal Investigator)に数名の研究員が所属し、研究費に応じて複数のプロジェクトを進める形が一般的です。もともとハワイ大学は、ハワイや環太平洋エリアという地理的優位性を活かした海洋研究で成果を上げており、Cancer CenterでもPopulation Scienceという統計や疫学の研究が盛んに行われてきました。しかし近年では、基礎研究の成果も目立つようになっています。

 実際の研究を担うのは PhD studentやポスドク、そして学生ボランティアです。文化の違いもありますが、米国の大学生のプレゼンテーション能力は高く、またポスドクは長期に渡って研究に従事しており、研究をリードする能力にも優れています。ただし、ハワイは生活費が全米トップ3に入るほど高いため、一定期間を過ごした後に米国本土に戻る研究者も多く見かけます。

当センターはwet labを囲むようにデスクが配置してあります。ポスドクは2人で1部屋、PIは個室を使用しています。

 学生ボランティアは、将来の進路に有利な研究経験やネットワーク作りが主な目的です。米国の医学部進学は非常に競争が激しく、大学でのGPA(日本の内申書に当たる)が高いことがまず条件となります。GPAが低い場合には、再度大学に入り直して成績を取り直す方もいます。また、病院や研究への貢献度も重視され、medical schoolに進学するため、MCATという日本の共通テストに相当する試験も受けます。資料を見せてもらったところ、臨床試験の知識や生物学、遺伝学など、日本の国家試験レベルに近い内容も含まれており、非常に驚きました。このような背景のもと、CV(Curriculum Vitae)を整えるためにラボワークをボランティアとして行う学生も多く、ラボから見ても無料で仕事をしてもらえるため、互いにメリットのある関係となっています。ここは日本の医学部進学との大きな違いだと感じます。

 

研究費確保と米国の現状

wet labの室内。この日は研究助手さんが学生ボランティアにいろいろと教えていました

 この記事を書いている2025年10月7日現在、日本でいう「つなぎ予算」が議会で承認されなかったため、米国連邦政府はシャットダウンを始めて1週間が経過しました。essential worker以外は自宅待機となり、給与は再開時に支払われる(らしい)状況ですが、未払いとなっています。テレビやラジオでは、「誰がnon-essential workerなのか」といった皮肉も聞こえてきます。

 米国のPIは常にグラント申請書類の作成に追われています。前述のポスドクをはじめ、チーム全体で研究を進めながら申請書類も作成しており、その膨大な作業量には圧倒されます。支給される金額は日本とは桁違いで、RO1と呼ばれる大規模プロジェクトでは、5年間で年間数百万ドル規模の資金が得られることもあります。しかし現状では連邦施設の閉鎖に伴いグラント審査も一時停止となり、学長からは前日に「シャットダウンが現実になる」とのメールが届きました。予想される影響として、グラント審査の凍結や資金配布の遅延、さらにはグラントの金額が大きいだけに、ラボで雇用しているスタッフへの給与支払いの遅れも考えられる、とありました。政権交代からわずか8ヵ月しか経っていないうちに、ワシントンから最も遠いハワイにも直接影響が及んでいることを日々実感しています。ラボには現金の確保を指示され、困ったときには大学に相談するよう連絡がありました。こうした変化の速さも含め、米国で研究を行う現実を肌で感じる日々です。

日米の研究文化の違い

当センターと地域communityを繋ぐイベントを定期的に開催しています。この日は乳がんサバイバーの方ががんについて、そしてcancer researchの大切さを伝えるイベントでした。地元のメディアに取り上げていただいたり、施設への寄付につながるイベントでもあり、本当にその貢献度には頭が下がります

 日本の研究環境と比較すると、米国では自主性やリーダーシップが非常に重視されます。PhD studentやポスドクは、研究の計画から実施、結果の分析、プレゼンテーションまで主体的に行い、PIはサポートと資金確保に専念しています。一方、日本ではPIがより実務を管理するケースが多く、学生やポスドクが主体的に研究を進める文化は少ないように感じます。また、米国ではボランティアを含む学生の貢献度が研究者としての評価やキャリア形成に直結している点も大きな違いです。

 こうした環境は自由度が高い反面、自己管理能力や計画力を強く求められます。とくに留学生にとっては、英語でのコミュニケーションや報告も求められるため、日本での研究生活とは異なる学びや挑戦が毎日あります。

 

 

 


バックナンバー

3 海外研修留学便り【米国留学記(高橋 洋子氏)】第3回

2 海外研修留学便り【米国留学記(高橋 洋子氏)】第2回

1 海外研修留学便り【米国留学記(高橋 洋子氏)】第1回

海外研修留学便り【米国留学記(高橋 洋子氏)】第2回

[レポーター紹介]
高橋 洋子(たかはし ようこ)

山形大学医学部 卒業
東京医療センター 外科研修医
慶應義塾大学 一般・消化器外科 乳腺班
国際医療福祉大学/医療法人順和会 山王病院 乳腺外科
帝京大学医学部 外科
がん研究会有明病院 乳腺外科
University of Hawai`i Cancer Center, Translational and Clinical Research, Cancer Biology, Research Scholar

アクセプトされた論文と投稿を断念した論文、論文執筆の面白さと難しさ

 私は現在、乳がんに関する研究に取り組んでおり、主に gene signature に関する研究を進めるのと並行して、炎症性乳がんに関するレビュー論文の執筆も行いました。幸運にも、このレビュー論文は npj Breast Cancer にアクセプトされ、出版に至りました。さまざまな論文を読みながら執筆を進める中で、新しい論文が次々に発表されるという、レビュー論文ならではのスピード感のある世界を経験することができました。

 渡米直後には、新しくチームに加わり、CDK4/6阻害薬に関するレビュー論文を中心となって作成し、投稿寸前まで進めたのですが、同じテーマの論文が狙っていた雑誌で先に出版されてしまい、チームで相談のうえ、投稿を断念した経験もあります。早く完成させた分、正直心が折れそうになりましたが、これも研究の現実として受け入れるしかないと感じました。

 gene signature に関する研究は、PIと共に働いてきた先生の基礎データを基に仮説を立てて進めました。製薬会社から提供された臨床試験データを用いて解析を行いましたが、残念ながら仮説を支持する明確な結果は得られず、わずかな傾向は見られたものの、結果としてはネガティブであり、公表には至りませんでした。留学直後から取り掛かり、時間をかけてデータ解析まで進めただけに、正直ネガティブデータとして公表できないかと模索しましたが、今後の研究展開を考えると、現時点で発表するべきではないと判断しました。

 ハワイでの研究生活については、よく「憧れる」と言われますが、実際にはワイキキに行くこともほとんどなく、地元の人々との生活が中心のため、観光気分を味わうことはほぼありません(笑)。ただし、気候は素晴らしく、毎日青い空を見られることは、研究でネガティブな結果が出ても少し救われるところでもあります。

研究の合間に週末はラボの仲間と月一でハイキングに。住む前はハワイのイメージといえば海でしたが、米国人にとってのハワイの島々は、絶景を伴うハイキングスポットだそうです

この日は日の出の時間に10人程度で集まってハイキング。岩に穴が空いているlocalのみぞ知るハイキングスポットへ

現在注目されている米国での研究トピック

実はハワイ大学のバレーボールチームは全米大学1位を2年連続でとったこともある強豪。卒業後イタリアプロリーグに進む人もいるほど。この日はがん関連のイベントがありCancer Centerメンバー数十人で、スペシャルシートへ。昨シーズンは優勝とはなりませんでしたが、勝利をおさめた瞬間です!

 米国での研究トピックとしては、やはり AI は外せません。私が現在行っている研究の1つは AI を用いた乳がん診断ですが、渡米前にもがん研究会と Google 社で行った研究に従事し AI 診断の難しさを感じていました。しかし、米国で画像を見てみると、高濃度乳房は少なく、AI 診断の可能性を強く感じます。近年では ChatGPT のような生成 AI も研究支援やデータ解析など幅広い用途で活用されており、臨床・研究の双方で注目されています。

 一方で、政策による補助金削減は組織にも大きな影響を及ぼしており、ハワイ大学でも新規採用の凍結や、バチェラー以上の学歴者のみ採用可能といった変化が見られます。渡米してまだ半年程度ですが、日々大きな環境変化を肌で感じています。また、入国審査がいつ厳しくなるかわからないため、大学では海外からの学生やスタッフに対して原則米国を出ることを認めない方針が取られており、日本に帰ることもなかなか叶いません。

 こうした状況の中でも、日々の研究や執筆を通じて新しい知見を得ることは、臨床経験とはまた異なる学びを与えてくれます。特に乳がん分野では、遺伝子解析や AI の活用といった新しい技術が急速に進展しており、これらを臨床に応用するための研究は今後ますます重要になると感じています。 

 

 

 


バックナンバー

3 海外研修留学便り【米国留学記(高橋 洋子氏)】第3回

2 海外研修留学便り【米国留学記(高橋 洋子氏)】第2回

1 海外研修留学便り【米国留学記(高橋 洋子氏)】第1回

海外研修留学便り【米国留学記(高橋 洋子氏)】第1回

[レポーター紹介]
高橋 洋子(たかはし ようこ)

山形大学医学部 卒業
東京医療センター 外科研修医
慶應義塾大学 一般・消化器外科 乳腺班
国際医療福祉大学/医療法人順和会 山王病院 乳腺外科
帝京大学医学部 外科
がん研究会有明病院 乳腺外科
University of Hawai`i Cancer Center, Translational and Clinical Research, Cancer Biology, Research Scholar

 2023年9月より、米国のUniversity of Hawai`i Cancer Centerに留学しています。この連載の機会をいただきましたので、今後数回にわたり、私の留学経験や研究生活について共有させていただきます。

留学は本当に必要か、40代になってからの留学は遅いのか?

 医師として留学をすることは珍しくありませんが、その目的やタイミングについては人それぞれであり、正解はないことを自分の留学を通じて実感しています。

 私は慶應義塾大学病院で後期研修を受けていた際、基礎研究に従事する機会を得て、ドラッグデリバリーシステムについて、乳がん細胞株やマウスを使った研究に取り組みました。しかし、数年の研究を経て、臨床に専念し、患者さんとの関わりの中で医師としての充実感を感じていました。臨床試験の結果に基づき、治療法が日々進化するのを目の当たりにするうちに、臨床研究への興味が深まりました。

 がん研究会有明病院での勤務を通じて、臨床試験や研究が患者さんにどれほど影響を与えるかを実感し、研究の重要性を強く認識するようになりました。患者さんに研究や臨床試験の重要性を伝える中で、「がんになったことで、他の患者を助けるための道を切り開けるとは思わなかった」と言われたことがありました。この言葉を聞いたとき、医師として患者さんを救うことの素晴らしさと、さらに研究を通じてより多くの患者さんを救う可能性があることに気づかされました。

留学のモチベーション

 正直なところ、留学に対して興味はありましたが、留学が自分の人生に必須だとは考えていませんでした。しかしさまざまな経験を通じて、医師としてだけでなく人間としても成長でき、研究を通じて乳がん診療に貢献できるのであれば、それは外科医としての立場とは異なる方法で患者さんを救うことにつながるのではないかと感じるようになりました。このように、自分が医師として成長し、研究者として新たな貢献ができるかもしれないという希望が、留学を決意する大きな動機となりました。

チャンスは突然やってきた

University of Hawai`i Cancer Center正面玄関より
ハワイ大学マノア校は山側にありますが、Cacner Centerは海に面したKaka’akoキャンパスにあります。開放感があり吹き抜けの構造となっており気持ちがいい建物です

 University of Hawai`i Cancer Centerで新しい研究室が立ち上がるという話を聞き、臨床経験を活かした研究ができるのではないかと感じ、面接を受けることを決意しました。受け入れが決まったとき、まさか40代で留学をするとは思っていなかったので自分でも非常に驚きました。そして、非常に光栄なことだとも感じました。

 日本で奨学金を得て留学をしようとすると40歳未満が対象のものが多く、1つの目安は40歳になります。しかし、準備中に米国では年齢が問題にならないことを再認識しました。「年齢は数字に過ぎない」という言葉があるように、年齢が理由で不利になることはありませんでした。私が日本の乳腺外科医であったことが、こちらでの研究に役立っている場面もあり、その経験を求められることに感謝しています。

 

 

留学の準備と英語能力の証明

 留学が決まった後、正式な受け入れ許可を得るために必要な事務手続きが続きました。その中で英語能力の証明が求められ、TOEFLやTOEICのスコア、あるいは大学職員とのインタビューが必要でした。私は英語を勉強することを趣味として続けており、中学生の頃からNHKラジオ講座を聴いたり、カンファレンスなど英語に触れる機会を大切にしてきました。そのおかげで、面接も問題なくクリアできたと思います。ただ、自己アピールに不安があった私は、友人から「YouTubeで英語のinterview動画を見てみると良い」とアドバイスを受け、それが非常に役立ちました。日本の文化では謙遜が美徳とされますが、自己アピールの重要性を学んだことは貴重な経験でした。

研究に対する背景とアプローチ

 米国に来てから何度も説明してきたことの1つは、日本では専門医であっても、実際には画像診断に関わることが多いということです。とくに乳がん領域では、マンモグラフィ、超音波、MRIなど、米国では放射線科医が担当する読影を乳腺外科医が行うことが一般的でした。

 現在私は、乳がんの薬物治療だけでなく、診断技術の向上を目指す研究にも携わっています。University of Hawai`i Cancer Centerは、NIH(国立衛生研究所)関連のがんセンターとして、太平洋地域唯一の学術機関であり、ハワイを含むグアムやマーシャル諸島など、異なる文化や歴史を持つ地域をカバーしています。私の研究の一部は、乳がんの薬物治療に関するものですが、診断技術の向上にも力を入れています。実は、ハワイ以外の島嶼地域にはマンモグラフィ装置を管理する体制が整っていないため、どのように診断を円滑に進めるか、AIを活用した読影技術や新たな診断方法の開発にも関わっています。日本での経験を活かして、乳がん診断や治療に関わる研究を進められることは大きな幸運であり、40代後半で臨床医としての経験を積んできたからこそ、期待される役割を果たすことができると感じています。

ある日の帰宅時の空
風が強かったこの日は雲がなんとも言えない景色を作り出していました。localのお友達からも写真が送られてきた日でした

Cancer Centerからの夕日
この日は残って仕事をしていたところ、お隣のラボの人に「夕日を見に行ったほうがいい」と声をかけられました

留学生活の現実

ハロウィンのひとこま
ハロウィンの職場は気合いがすごい。カルチャーの違いを感じることは日々あり、それを楽しんでいます

 留学を決めた後、ハワイで生活を始めると、想像以上の挑戦が待ち受けていました。青空と透き通る海、美しい夕陽が日々の風景として広がる一方で、物価の高さやホームレス問題が深刻であることも実感しています。ハワイは楽園のような場所でありながら、現実の厳しさも抱えていることを、生活を通して学びました。また、かつて王国だったハワイという土地の歴史やその光と闇に触れる機会もあり、これらもまた留学生活の一部として貴重な経験となっています。

 

 

  

 

 

 


バックナンバー

3 海外研修留学便り【米国留学記(高橋 洋子氏)】第3回

2 海外研修留学便り【米国留学記(高橋 洋子氏)】第2回

1 海外研修留学便り【米国留学記(高橋 洋子氏)】第1回

ASCO2025 レポート 乳がん

提供元:CareNet.com

レポーター: 下村 昭彦氏
(国立健康危機管理研究機構 国立国際医療研究センター病院 がん総合内科/乳腺・腫瘍内科)

 

 2025年5月30日~6月3日にかけて開催されたASCO2025は、”Driving Knowledge to Action:Building a Better Future”というテーマで実施された。昨年つらい思いをした円安も若干改善され(1ドル145円前後)、航空運賃の高騰は変わらないものの、若干参加しやすくなったと言えるだろうか(とはいえ、ハンバーガーとコーラで2,500円はつらい…)。

 乳がん領域では明日からの臨床が変わる演題が多数公表された。トラスツズマブ・デルクステカン(T-DXd)の試験は昨年に引き続き、Plenary session押し出しの早朝専用セッションが設けられていた。本稿では、日常臨床を変える4演題と、日本からの発表の1演題を概説する。

SERENA-6試験

 ホルモン受容体(HR)陽性HER2陰性進行乳がんでは、内分泌耐性をどう乗り越えるかが重要な話題となっており、ASCO2025でも複数の演題が発表された。

 SERENA-6試験は、HR陽性HER2陰性進行乳がんにおいて、アロマターゼ阻害薬(AI)+CDK4/6阻害薬(CDK4/6i)治療中に循環腫瘍DNA(ctDNA)で検出されたESR1変異を有する患者を対象とした盲検化ランダム化第III相試験である。この試験では、画像上の病勢進行(PD)前にAIを経口選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)であるcamizestrantに切り替えることで無増悪生存期間(PFS)の改善が得られるかを検証した。

 主要評価項目である主治医評価によるPFSは、16.0ヵ月vs.9.2ヵ月(ハザード比[HR]:0.44(95%信頼区間[CI]:0.31~0.60、p<0.00001)とcamizestrant群で有意に良好であった。副次評価項目のPFS2(次治療でPDとなるまでの期間)についてもHR:0.52(95%CI:0.33~0.81、p=0.0038)とcamizestrant群で有意に良好であった。また、EORTC QLQ-C30を用いたQOL評価では、QOL悪化をイベントとしたtime to deterioration(TTD)がエンドポイントとされ、TTD中央値が23.0ヵ月vs.6.4ヵ月(HR:0.53、95%CI:0.33~0.82、p<0.001)とcamizestrant群で有意に良好であった。Grade3以上の有害事象は33.2%にみられたが、忍容性はおおむね良好であり、ctDNAを用いた個別化介入の有用性を示した重要な結果といえる。なお、この結果はNew England Journal of Medicine(NEJM)に同日掲載された(Bidard FC, et al. N Engl J Med. 2025 Jun 1. [Epub ahead of print])。

 ctDNAでESR1変異の出現をモニタリングし画像PDとなる前に治療を変更する戦略は、すでにPADA-1試験でその有効性が示され期待されている(Bidard FC, et al. Lancet Oncol.2022;23:1367-1377. )。PADA-1試験ではSERDとして注射剤のフルベストラントが使用された。SERENA-6試験では経口SERDが用いられており、効果ならびに投与の簡便性の向上が期待される画期的な試験であると言える。その一方で、本試験の結果を日常臨床で用いるには多くの懸念点が残る。ESR1変異の出現をモニタリングして治療を変更する群と変更しない群を比較する試験というのは、治療戦略(画像PDを待つか待たないか)を比較する試験である。PADA-1試験ではAI継続群でフルベストラント+CDK4/6iへのクロスオーバーが許容されていたが、SERENA-6試験ではcamizestrant±CDK4/6iにクロスオーバーされているのはわずかに3%である。本来は「早く治療変更するか」「画像PDを待って治療変更するか」を比較するべき試験であるにもかかわらず、クロスオーバーされないということは戦略を比較する試験とはなっていない、と言わざるを得ない。ESR1変異はAI耐性の予測因子であり、AI群でPFSが短いことは当然の帰結である。

 PFS2の結果についてもcamizestrantへのクロスオーバーがなく他の経口SERDがどの程度使用されたか不明である以上、評価が困難である(camizestrant群では常に薬剤の使用ラインが多いため、比較できない)。本試験のデザインでは、真にこの戦略が有効であるかどうかは、全生存期間(OS)の結果を見なければ判断できないが、それも後治療に不均衡があれば評価できない。QOLについてもTTDがcamizestrant群で良好なのは当然で、AI群のほうが早く病勢進行するため、症状出現によるQOL低下で説明できる。

 さらなる問題はESR1変異を検出するctDNA検査を2~3ヵ月ごとに行うコストの問題である。本試験ではリキッドバイオプシーとしてGuardant360が使用されていたが、非常に高価である。ESR1に特化した独自アッセイの開発とバリデーションが必要である。またESR1のサーベイランスに参加した3,256例のうち、ESR1変異が検出されたのは548例(画像PDを伴うものを含む)、ランダム化されたのは315例と10%弱である。果たしてこの10%のために高価な検査を定期的に実施することが有効であろうか? またサーベイランス期間中にESR1変異が検出されず、PDともならなかった患者は1,949例である。CDK4/6i併用1次内分泌療法のPFSが30ヵ月程度と考えられる中で、全例にctDNAの評価をし続けるのか? 本試験結果を日常臨床に用いるには、OSを含めた「戦略の有効性」の証明と、ctDNAサーベイランスの対象となる症例群の絞り込みが必要であろう。

VERITAC-2試験

 内分泌耐性をこれまでと異なる作用機序で克服しようとしたのがVERITAC-2試験である。vepdegestrantはPROTACと呼ばれる薬剤であり、エストロゲン受容体(ER)のユビキチン化を促進してERを分解する新たな機序を有する。VERITAC-2試験は、vepdegestrantの2次治療における有効性を検証した非盲検ランダム化第III相試験である。ESR1にフォーカスしたSERENA-6試験と異なり、作用機序そのものが違う薬剤の効果を確認している。前治療として1レジメンまでの内分泌療法歴がある患者を対象に、vepdegestrantとフルベストラントが比較された。

 主要評価項目であるESR1変異陽性集団における盲検下独立中央判定(BICR)によるPFSは、5.0ヵ月vs.2.1ヵ月(HR:0.57、95%CI:0.42~0.77、p<0.001)とvepdegestrant群で有意に良好であった。一方、もう1つの主要評価項目である全患者集団におけるPFSは3.7ヵ月vs. 3.6ヵ月(HR:0.83、95%CI:0.68~1.02、p=0.07)と両群間の有意差を認めなかった。主治医評価によるPFSも同様の結果であった。有害事象はGrade 3以上が23%vs.18%とvepdegestrant群でやや多い傾向であり、倦怠感の頻度が最も高かった。本試験もNEJMに同日掲載された(Campone M, et al. N Engl J Med. 2025 May 31. [Epub ahead of print])。

 PROTACはこれまでの内分泌療法とはまったく異なる機序で効果を発揮する薬剤で、今後が期待される。一方で、なぜERを分解する作用を有する薬剤にもかかわらず(ESR1変異の有無にかかわらず効果が期待できると考えられる)、ESR1変異を有する場合にのみフルベストラントに対する優越性を示せたのかは、現時点では不明である。また、今後臨床に応用するには試験デザインに課題が残る。CDK4/6i併用内分泌療法後の治療としては、PIK3CAAKT1PTENなどの変異の有無によって、SERDとAKT阻害薬(Turner NC, et al. N Engl J Med. 2023;388:2058-2070.)やPI3K阻害薬(Andre F, et al. N Engl J Med 2019;380:1929-1940.)、あるいはCDK4/6iの併用(Kalinsky K, et al. J Clin Oncol. 2025;43:1101-1112.)が行われる。CDK4/6i後の治療として内分泌療法単独が選択されることは多くなく、vepdegestrantも他の分子標的薬との併用療法の開発が期待される。

DESTINY-Breast09(DB-09)試験

 HER2陽性進行乳がんの治療は、2010年代はじめのペルツズマブ、トラスツズマブ・エムタンシン(T-DM1)の承認で大きく変化したが(Swain SM, et al. N Engl J Med. 2015;372:724-734.Verma S, et al. N Engl J Med. 2012;367:1783-1791.)、2019年のT-DXdの登場はまた新たに大きく地図を塗り替えた(Modi S, et al. N Engl J Med. 2020;382:610-621.Cortes J, et al. N Engl J Med. 2022;386:1143-1154.)。T-DXdはHER2陽性乳がんに対する試験で既存治療と比較して圧倒的な有効性を示し、2次治療以降の標準治療となっている。一方で、血球減少や悪心、またT-DXdを特徴付ける有害事象である薬剤性肺障害(ILD)など、長期間有効であるからこそ悩ましい有害事象の管理が必要である。

 DB-09試験は、HER2陽性進行/転移乳がんの初回治療として、T-DXd+ペルツズマブ(T-DXd+P)併用の有効性を検証した非盲検ランダム化第III相試験である。対照群は標準治療であるタキサン+トラスツズマブ+ペルツズマブ(THP)で、主要評価項目はBICRによるPFSであった。

 結果は、PFS中央値40.7ヵ月vs.26.9ヵ月(HR:0.56、95%CI:0.44~0.71、p<0.00001)とT-DXd+P群がTHP群に対して圧倒的に良好な結果となった。主治医判定のPFSではTHP群のPFSが若干悪く(20.7ヵ月、95%CI:17.3~23.5)、非盲検化試験であることによるバイアスの存在が疑われるものの、傾向としてはBICRと同様であった。また、奏効率(ORR)は85.1%vs.78.6%で、PRの割合は70%と両群間で差がないものの、CRは15.1%vs.8.5%とT-DXd+P群で良好であった。OSはimmatureなものの、HR:0.84(95%CI:0.59~1.19)とT-DXd+P群でやや良好な傾向がみられた。後治療としてTHP群ではT-DXdやT-DM1などの抗体薬物複合体(ADC)が用いられている割合が多かったが、T-DXd+P群では抗HER2抗体を含むレジメンが多かった。2次治療までのPFSであるPFS2もHR:0.60(95%CI:0.45~0.79、p=0.00038)と、T-DXd+Pで良好であった。Grade 3以上の毒性の頻度は両群間で差はなかったが、 ILDの発現頻度は12.1%vs.1.0%とT-DXd+P群で多いものの大多数はGrade 2までであり、大きな安全性の懸念はないと考えられた。

 実臨床で使う中で、THPは非常に有効な治療であることは臨床医全員が実感していることだと思う。DB-09試験の結果から、T-DXd+P療法はHER2陽性初回治療の新たな選択肢となる可能性が示された。一方で、いくつかの懸念点が残る。DB-09試験ではペルツズマブを併用しないT-DXd群が設定されていたが、その結果はまだ発表されていない。ペルツズマブを併用しないことで、有害事象が軽減する可能性がある。また、T-DXd±P群では毒性によるT-DXd中止後に、抗HER2抗体による維持療法が許容されていたが、実際に維持療法が行われた症例はわずか8.7%であった。一方で、THP群の約70%は毒性もしくは別の理由(タキサンは通常6~10コースの投与後に中止する)でタキサンが中止されている。THP群でタキサン中止後はHP(ほとんど有害事象が気にならない)による維持療法を実施するが、現在は皮下注製剤があり投与時間も大幅に短縮されている。したがって、T-DXd+Pの有効性は圧倒的であるものの、有害事象が継続し、さらに時間毒性という点ではTHPに軍配が上がると言わざるを得ない。有効な治療でありPFSが非常に長いからこそ、いかに患者負担を減らすことができるかが今後の課題となる。

ASCENT-04試験

 PD-L1陽性進行トリプルネガティブ乳がん(TNBC)は、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)併用化学療法により予後が改善したが(Cortes J, et al. N Engl J Med. 2022;387:217-226.Schmid P, N Engl J Med.2018;379:2108-2121.)、それでも十分ではない。また、TNBCに対してはサシツズマブ・ゴビテカン(SG)(Bardia A, et al. N Engl J Med.2021;384:1529-1541.)や、HER2低発現に対するT-DXd(Modi S, et al. N Engl J Med.2022;387:9-20.)など、ADCの導入により予後の改善が期待される。では、PD-L1陽性進行TNBCに対してADCとICIの併用は有用なのであろうか。

 ASCENT-04試験は、未治療のPD-L1陽性進行TNBCに対して、SG+ペムブロリズマブ(P)併用の有効性を検証した非盲検ランダム化第III相試験である。比較対照は化学療法+Pで、主要評価項目であるBICR評価によるPFSは、SG+P群で11.2ヵ月 vs.7.8ヵ月(HR:0.65、95%CI:0.51~0.84、p<0.001)と、SG+P群で有意に良好であった。主治医評価PFSも同様であった。OSはHR:0.89(95%CI:0.62~1.29)とSG+P群で良さそうな傾向はみられたものの、immatureで統計学的な差は認めなかった。ORRは60%vs.53%とSG+P群でやや良好な傾向がみられ、とくにCRが13%vs.8%とSG+P群で多かった。安全性については、Grade 3以上の下痢(10%vs.2%)がSG+P群で多かった以外に両群間に差はなく、好中球減少症(約65%)や過敏反応(約20%)など予測された毒性がみられたが、許容範囲内であった。本試験の結果をもって、SG+P療法はPD-L1陽性進行TNBCの初回治療における新たな標準療法となった。

CECILIA試験

 最後に日本から発表された試験を紹介する。タキサンによる末梢神経障害(CIPN)は対処の難しい有害事象であり、冷却や圧迫による予防が試みられている(Hanai A, et al. J Natl Cancer Inst. 2018;110:141-148.Tsuyuki S, et al.Breast. 2019;47:22-27.)。一方、冷却による苦痛で予防を継続できない患者も少なくない。CECILIA試験は、パクリタキセルによるCIPN予防のために四肢冷却装置を用いる際に、13℃と25℃の冷却温度における有効性を検証したランダム化比較試験である。パクリタキセルによる治療を受ける乳がん患者を対象に、13℃による冷却の25℃(最低限の予防効果が期待される冷却温度)に対する優越性を検証するデザインとなっている。主要評価項目はパクリタキセル終了時点でのPNQ(patient neurotoxicity questionnaire)スコアD以上の割合とされた。

 結果は、25℃群で29.3%(95%CI:19.4~21.0)、13℃群で33.3%(95%CI:22.8~45.2)、p=0.76と両群間の差は検出されなかった。他の評価項目であるパクリタキセル終了3ヵ月時点でのPNQスコアD以上は25℃で16.2%、13℃で32.0%(p=0.035)と25℃で少ない傾向を認めた。CTCAE、患者報告CTCAEによるGrade 2以上のCIPNは両群間に差がなかった。手足の表面温度は13℃群で低かった。これらから、CIPN予防として手足を冷却する際には25℃で十分な可能性があるが、あくまでも13℃の優越性を検証する試験で、優越性を示せなかったという結果であり、真の至適温度については今後も検討が必要である。


レポーター紹介

下村 昭彦 ( しもむら あきひこ ) 氏
国立健康危機管理研究機構 国立国際医療研究センター病院
 がん総合内科/乳腺・腫瘍内科

ASCO2025 FLASH 乳がん

|企画・制作|ケアネット

2025年5月30日~6月3日(現地時間)に開催の世界最大のがん学会、米国臨床腫瘍学会(ASCO 2025)。ここで発表された旬な乳がんのトピックを、がん研有明病院の尾崎 由記範氏がレビューします。


レポーター紹介

尾崎 由記範 ( おざき ゆきのり ) 氏
がん研究会有明病院 乳腺センター 乳腺内科/先端医療開発科


掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

線形回帰(重回帰)分析 その5【「実践的」臨床研究入門】第54回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

重回帰分析の前提条件・留意点の検証と結果の記述

 前回は、重回帰分析におけるEZR(Eazy R)の操作手順と解析結果の解釈について仮想データ・セットを用いて説明しました。今回は、EZRを用いた重回帰分析の前提条件および留意点の検証方法を解説し、解析結果のまとめを示します。

重回帰分析モデルの前提条件と留意点

 重回帰分析モデルには下記のようないくつかの前提条件(連載第52回参照)や留意点があります。

前提条件
・線形性:目的変数と説明変数に線形性(直線的な関係)があること。
 ⇒残差-予測値プロットで確認します。
・残差の正規性:残差(予測値と実測値の差)が正規分布に従うこと。
 ⇒Q-Qプロットで確認します。

留意点
・多重共線性:説明変数同士が強く相関していること。多重共線性があると、回帰係数の推定が不安定になる。
 ⇒VIF(Variance Inflation Factor)の値で確認します。

 それでは、実際にEZRの下記の操作手順でこれらの前提条件や留意点を検証してみましょう(連載第53回参照)。

仮想データ・セットの取り込み

 仮想データ・セットをダウンロードする

※ダウンロードできない場合は、右クリックして「名前をつけてリンク先を保存」を選択してください。

・「ファイル」→「データのインポート」→「Excelのデータをインポート」

重回帰分析の実行

・「統計解析」→「連続変数の解析」→「線形回帰(単回帰、重回帰)」の順でメニューバーを選択。
・ポップアップウィンドウにて、下図のように目的変数および説明変数を指定し、モデル名(例:「重回帰分析_GFR変化量」)を入力。
・オプションで「基本的診断プロットを表示する」にチェックを入れ、「OK」をクリック。

基本的診断プロットによる前提条件の確認

 「基本的診断プロットを表示する」をチェックすると、4つのプロット(グラフ)が表示されます。ここでは、下記の2つのプロットの出力結果を解説します。

・残差-予測値プロット(Residuals vs.Fitted)

 y軸が残差(実測値-予測値)、x軸が重回帰分析モデルの予測値。残差が0を中心に特定のパターンを持たず、おおむねランダムに分布し、赤い平滑曲線が水平に近ければ、線形性が保たれていると考えられます。

・Q-Qプロット(Q-Q Residuals)

 残差が正規分布に従っていれば、プロット上の点は y=x の直線上にほぼ沿って並びます。

重回帰分析結果で重回帰分析モデルの前提条件を確認

 EZRの出力ウィンドウには各説明変数のVIFが表示されます(下図)。

・VIF

 いずれの説明変数のVIFも5未満(多重共線性がほとんどない)であることが確認できます。

 以上の検証から、この重回帰分析モデルの前提条件(線形性と残差の正規性)は満たしており、多重共線性の問題もほとんどないと考えられました。

 ここであらためて、GFR変化量(diff_eGFR5)を厳格低たんぱく食の遵守の有無(treat)で層別し、要約してみましょう(下図参照)。

・「統計解析」→「連続変数の解析」→「連続変数の要約」の順でメニューバーを選択。
・開いたポップアップウィンドウの変数(1つ以上選択)は「diff_eGFR5」を指定。
・さらに、層別変数のボタンをクリックし、ポップアップウィンドウの層別変数(1つ選択)で「treat」を指定。
・「OK」をクリックすると、EZRの出力ウィンドウに下に示した解析結果が表示されます。

 それでは、前回の重回帰分析結果の解釈も併せて、解析結果の記述を下記のようにまとめてみました。

・GFR変化量の推定平均値(SD)は、厳格低たんぱく食遵守群と非遵守群で、それぞれ-12.5(4.41)、-16.1(4.49)mL/分/1.73m2であった。
・重回帰分析結果から、GFR変化量には遵守群と非遵守群間で2.03(95%CI:1.61〜2.45)mL/分/1.73m2の差が認められた(連載第53回参照)。
※SD:Standard deviation(標準偏差)、95%CI:95% confidence interval(95%信頼区間)


講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和医科大学臨床疫学研究所 所長・教授
昭和医科大学大学院医学研究科 衛生学・公衆衛生学分野/腎臓内科学分野 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学(現昭和医科大学)医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


バックナンバー

59. 生存時間分析 その5

58. 生存時間分析 その4

57. 生存時間分析 その3

56. 生存時間分析 その2

55. 生存時間分析 その1

54. 線形回帰(重回帰)分析 その5

53. 線形回帰(重回帰)分析 その4

52. 線形回帰(重回帰)分析 その3

51. 線形回帰(重回帰)分析 その2

50. 線形回帰(重回帰)分析 その1

49. いよいよ多変量解析 その2

48. いよいよ多変量解析 その1

47. 何はさておき記述統計 その8

46. 何はさておき記述統計 その7

45. 何はさておき記述統計 その6

44. 何はさておき記述統計 その5

43. 何はさておき記述統計 その4

42. 何はさておき記述統計 その3

41. 何はさておき記述統計 その2

40. 何はさておき記述統計 その1

39. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その2

38. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その1

37. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その2

36. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その1

35. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その2

34. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その1

33. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その8

32. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その7

31. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その6

30. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その5

29. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その4

28. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その3

27. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その2

26. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その1

25. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その5

24. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その4

23. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その3

22. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その2

21. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その1

20. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その3

19. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その2

18. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その1

17. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その3

16.リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その2

15. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その1

14. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その3

13. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その2

12. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用その1

11. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その2

10. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その1

9. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その3

8. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その2

7. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その1

6. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その3

5. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その2

4. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その1

3. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビューその2

2. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー その1

1. 臨床上の疑問とリサーチ・クエスチョン

▼ 一覧をもっと見る

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

 

線形回帰(重回帰)分析 その4【「実践的」臨床研究入門】第53回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

重回帰分析の実際

 前回は重回帰分析の考え方を説明しました。今回は実際に仮想データ・セットを用いて、EZR(Eazy R)を使用した重回帰分析の操作手順と結果の解釈について解説します。

仮想データ・セットの取り込み

 仮想データ・セットをダウンロードする

※ダウンロードできない場合は、右クリックして「名前をつけてリンク先を保存」を選択してください。

 まずは以下の手順で仮想データ・セットをEZRに取り込みましょう。

・「ファイル」→「データのインポート」→「Excelのデータをインポート」

重回帰分析の実行

 次に

・「統計解析」→「連続変数の解析」→「線形回帰(単回帰、重回帰)」

 の順にメニューバーを選択すると、ポップアップウィンドウが開きます(下図)。

・モデル名:「重回帰分析_GFR変化量」などと入力します。
・目的変数(1つ選択):「diff_eGFR5」を選択します。

※「diff_eGFR5」は、われわれのResearch Question(RQ)のセカンダリアウトカム(O)に設定されている、ベースラインから5年後の糸球体濾過量(GFR)変化量(低下速度)(連載第49回参照)。

・説明変数(1つ以上選択):以下の複数の変数を選択します(連載第46回第48回第49回第52回参照)。

※複数の変数を選択するには、キーボードの「Ctrl」キーを押しながらクリックします。

・検証したい要因(E):treat(厳格低たんぱく食の遵守の有無)
・交絡因子:age (年齢)、sex(性別)、dm(糖尿病の有無)、sbp(血圧)、eGFR(ベースラインeGFR)、Loge_UP(蛋白尿定量_対数変換)、albumin(血清アルブミン値)、hemoglobin(ヘモグロビン値)

重回帰分析結果の確認

 「OK」をクリックすると、EZRの出力ウィンドウに下に示したコードが表示されます。

・lm(diff_eGFR5~age+albumin+dm+eGFR+hemoglobin+Loge_UP+sbp+sex+treat, da-ta=Dataset)

 このコードの意味は下記のとおりです(連載第52回参照)。

・lm:線形回帰モデル(Linear Model)関数を用いて重回帰分析を実行。
・diff_eGFR5~age+albumin+dm+eGFR+hemoglobin+Loge_UP+sbp+sex+treat:
・左辺の目的変数(diff_eGFR5)を右辺の説明変数(複数の交絡因子+E)で予測する重回帰モデルの「式」を指定。
・data=Dataset:解析に使用するデータ・セット名(Dataset)。

 重回帰分析の主要な結果である、回帰係数とその統計量は下図のように表示されます。

 ここでは、検証したい要因(E)であるtreat(厳格低たんぱく食の遵守の有無)の解析結果に注目します。

・回帰係数推定値:2.03(以下、数値はすべて有効数字3桁で丸めています)。
・95%信頼区間(95% confidence interval:95%CI):1.61~2.45
・P値:2.99e-20=2.99×10-20(連載第51回参照)
※p値は通常、小数点以下3桁までの記載が推奨されます。非常に小さな値の場合、「p<0.001」と上限を示す形で表記するのが一般的です(連載第51回参照)。

重回帰分析結果の解釈

 この結果の解釈は以下の通りです。

・厳格低たんぱく食遵守群(treat=1)は非遵守群(treat=0)と比較して、「diff_eGFR5」が統計学的有意(p<0.001)に2.03mL/分/1.73m2高い。

 したがって、

・厳格な低たんぱく食の遵守は、種々の交絡因子を調整したうえでもGFR低下速度を抑制する可能性を示唆する。

 という解釈になります。


講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和医科大学臨床疫学研究所 所長・教授
昭和医科大学大学院医学研究科 衛生学・公衆衛生学分野/腎臓内科学分野 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


バックナンバー

59. 生存時間分析 その5

58. 生存時間分析 その4

57. 生存時間分析 その3

56. 生存時間分析 その2

55. 生存時間分析 その1

54. 線形回帰(重回帰)分析 その5

53. 線形回帰(重回帰)分析 その4

52. 線形回帰(重回帰)分析 その3

51. 線形回帰(重回帰)分析 その2

50. 線形回帰(重回帰)分析 その1

49. いよいよ多変量解析 その2

48. いよいよ多変量解析 その1

47. 何はさておき記述統計 その8

46. 何はさておき記述統計 その7

45. 何はさておき記述統計 その6

44. 何はさておき記述統計 その5

43. 何はさておき記述統計 その4

42. 何はさておき記述統計 その3

41. 何はさておき記述統計 その2

40. 何はさておき記述統計 その1

39. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その2

38. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その1

37. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その2

36. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その1

35. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その2

34. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その1

33. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その8

32. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その7

31. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その6

30. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その5

29. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その4

28. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その3

27. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その2

26. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その1

25. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その5

24. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その4

23. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その3

22. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その2

21. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その1

20. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その3

19. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その2

18. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その1

17. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その3

16.リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その2

15. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その1

14. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その3

13. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その2

12. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用その1

11. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その2

10. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その1

9. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その3

8. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その2

7. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その1

6. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その3

5. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その2

4. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その1

3. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビューその2

2. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー その1

1. 臨床上の疑問とリサーチ・クエスチョン

▼ 一覧をもっと見る

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

 

線形回帰(重回帰)分析 その3【「実践的」臨床研究入門】第52回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

重回帰分析の考え方

 前回解説したのは、線形回帰のうち、1つの目的変数に対して1つの説明変数を用いる「単回帰」分析でした。今回からは、複数の説明変数を扱うことができる「重回帰分析」について説明します。

 重回帰式は、ある目的変数が複数の説明変数によってどのように影響されているかを数式で示したものです。重回帰式は下記のような数式で示され、目的変数yが切片aと複数の説明変数xiのそれぞれの回帰係数biの項の総和と残差eで表されます(連載第51回参照)。

・y=a+b1x1+b2x2+…+bixi+e

 「重回帰分析」の目的変数は連続変数に限定されますが(連載第49回参照)、説明変数は連続変数以外のカテゴリ変数、たとえば2値変数も適用可能です。

 ここで、残差eについて簡単に説明します。上記の重回帰式をeを左辺にして変形すると、以下のようになります。

・e=y-(a+b1x1+b2x2+…+bixi)

 残差eとは上記の式のとおり、実際に観察された目的変数yと重回帰モデルで予測された値(a+b1x1+b2x2+…+bixi)の差分として定義されます。残差が小さいほど重回帰モデルのデータへの適合度が高いことを示しています。また、「残差の正規性(残差が正規分布していること)」が「重回帰分析」の前提条件になります。

 それでは、われわれのResearch Question(RQ)を重回帰式に当てはめて考えてみましょう(連載第49回参照)。

 ここでは、「低たんぱく食の遵守」が、連続変数である糸球体濾過量(GFR)の低下速度に影響を与えているかどうかを検証します。検証したい要因(E)である「低たんぱく食の遵守」と、アウトカム(O)である「GFR低下速度」の関連を歪める可能性のある交絡因子として、以下の要因を挙げ、重回帰分析による調整を試みます。

・年齢、性別、糖尿病の有無、血圧、ベースラインeGFR、蛋白尿定量、血清アルブミン値、ヘモグロビン値

 Oである「GFR低下速度」を重回帰式によって表すと、下記のようになります。

・「GFR低下速度」=a+b1「低たんぱく食の遵守」+b2「年齢」+b3「性別」+b4「糖尿病の有無」+b5「血圧」+b6「ベースラインeGFR」+b7「蛋白尿定量」+b8「血清アルブミン値」+b9「ヘモグロビン値」+e

 すなわち、目的変数yである「GFR低下速度」は、切片aと主たる要因である「低たんぱく食の遵守」と以下の交絡因子(「年齢」、「性別」、「糖尿病の有無」、「血圧」、「ベースラインeGFR」、「蛋白尿定量」、「血清アルブミン値」、「ヘモグロビン値」)とそれぞれの回帰係数の項と残差eの総和で表されます。

 ここで必要な仮定が「重回帰分析」における線形性の前提です。重回帰モデルでは、上述の式で表したように説明変数と目的変数の間に直線的な関係があると仮定します。つまり、説明変数が 1 単位変化すると、目的変数が常に一定の割合で増減するということです。この線形性の前提は、前述の「残差の正規性」を確認することで検証できます。

 「重回帰分析」を用いた多変量解析結果の解釈について、われわれの RQ を適用した重回帰式を用いて具体的に説明します。O である「GFR低下速度」が、検証したい E である「低たんぱく食の遵守」のあり・なしでどの程度違うのかを考えてみます。

 「低たんぱく食の遵守」あり、の場合は下記の式で示したとおり、その回帰係数b1の項は残ります。

・「GFR低下速度」=a+b1「低たんぱく食の遵守の程度(あり=1)」+b2「年齢」+b3「性別」+b4「糖尿病の有無」+b5「血圧」+b6「ベースラインeGFR」+b7「蛋白尿定量」+b8「血清アルブミン値」+b9「ヘモグロビン値」+e

 一方、「低たんぱく食の遵守」なし、の場合は下記の式で示したように、その回帰係数b1はゼロとの積になるため、項は消えます。

・「GFR低下速度」=a+b1「低たんぱく食の遵守の程度(なし=0)」+b2「年齢」+b3「性別」+b4「糖尿病の有無」+b5「血圧」+b6「ベースラインeGFR」+b7「蛋白尿定量」+b8「血清アルブミン値」+b9「ヘモグロビン値」+e

 多変量解析を行うことにより、その他の交絡因子の影響はすべて一定に保ったうえで(他の説明変数の影響を除外して)分析ができます。したがって、他の交絡因子を調整したうえでの、「低たんぱく食の遵守」あり(なし、と比較して1単位増加)の場合の、「GFR低下速度」に与える影響は、回帰係数b1で表されるのです。


講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学臨床疫学研究所 所長・教授
昭和大学大学院医学研究科 衛生学・公衆衛生学分野/腎臓内科学分野 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


バックナンバー

59. 生存時間分析 その5

58. 生存時間分析 その4

57. 生存時間分析 その3

56. 生存時間分析 その2

55. 生存時間分析 その1

54. 線形回帰(重回帰)分析 その5

53. 線形回帰(重回帰)分析 その4

52. 線形回帰(重回帰)分析 その3

51. 線形回帰(重回帰)分析 その2

50. 線形回帰(重回帰)分析 その1

49. いよいよ多変量解析 その2

48. いよいよ多変量解析 その1

47. 何はさておき記述統計 その8

46. 何はさておき記述統計 その7

45. 何はさておき記述統計 その6

44. 何はさておき記述統計 その5

43. 何はさておき記述統計 その4

42. 何はさておき記述統計 その3

41. 何はさておき記述統計 その2

40. 何はさておき記述統計 その1

39. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その2

38. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その1

37. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その2

36. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その1

35. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その2

34. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その1

33. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その8

32. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その7

31. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その6

30. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その5

29. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その4

28. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その3

27. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その2

26. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その1

25. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その5

24. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その4

23. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その3

22. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その2

21. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その1

20. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その3

19. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その2

18. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その1

17. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その3

16.リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その2

15. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その1

14. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その3

13. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その2

12. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用その1

11. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その2

10. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その1

9. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その3

8. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その2

7. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その1

6. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その3

5. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その2

4. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その1

3. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビューその2

2. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー その1

1. 臨床上の疑問とリサーチ・クエスチョン

▼ 一覧をもっと見る

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

 

線形回帰(重回帰)分析 その2【「実践的」臨床研究入門】第51回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

直線回帰

 一方の連続変数x(説明変数)が大きくなると、他方の連続変数y(目的変数)が直線的に増加する、もしくは減少するような関係を直線回帰(linear regression)といいます。すなわち、説明変数xと目的変数yの関係がy=a+bx の式で表されます。これは中学校の数学で勉強する1次方程式です。bは回帰直線の傾き(回帰係数)で、xの値が1増加すると、yがどの程度増加するかを表しています。aは切片でxが0の時のyの値であり、回帰直線がy軸と交差する点のyの値に相当します。この式を用いてデータに最もよく合う1次方程式を求める、言い換えると、最も適当なa、bの値を決める、ということを考えます。

 前回、「2つの連続変数間の直線的な関係」を表す散布図を描き、最小二乗法を用いた回帰直線を描く手順を示しました(連載第50回参照)。今回は、前回描いた回帰直線の切片aと回帰係数bの求め方と結果の解釈について解説します。

 まず、以下の手順で仮想データ・セットをEZR(Eazy R)に取り込みます。

 仮想データ・セットをダウンロードする

※ダウンロードできない場合は、右クリックして「名前をつけてリンク先を保存」を選択してください。

・「ファイル」→「データのインポート」→「Excelのデータをインポート」

 次に

・「統計解析」→「連続変数の解析」→「線形回帰(単回帰、重回帰)」

 を選択、ポップアップウィンドウ(下図)のとおり、目的変数は「diff_eGFR5」を、説明変数は「age」を指定します。

※「diff_eGFR5」は、われわれのResearch Question(RQ)のセカンダリO(アウトカム)に設定されている、ベースラインから5年後の糸球体濾過量(GFR)変化量

 「OK」をクリックすると。EZRの出力ウィンドウに下図の結果が表示されます。

 “Intercept”は切片であり、y=a+bxにおける“a”の値です。“Intercept”の推定値は-12.6(以下、可読性を高めるために数値はすべて有効数字3桁で丸めます)とありますが、これは説明変数xが0の場合の目的変数yの推定値です。

 説明変数「age」の目的変数「diff_eGFR5」に対する回帰係数推定値は-0.038と表されています。これは説明変数「age」が1単位(1歳)増加した時の目的変数「diff_eGFR5」の変化量を示しており、回帰係数が負の値であるので、説明変数と目的変数は負の相関関係にあることを意味します。

 95%信頼区間(95%confidence interval:95%CI)の上限〜下限は-0.007〜-0.069で0をまたいでいません。またp値は1.57e-02と表記されています。この表記法は科学的記数法と呼ばれるもので、”e-02″は10の-2乗(0.01)を表しており、1.57×0.01=0.0157となり有意水準0.05を下回っています。ここのp値は回帰係数が0であるという帰無仮説が棄却される確率です(連載第44回参照)。p値が0.05未満であるので、説明変数「age」は目的変数「diff_eGFR5」に対して統計学的に有意な影響を与えていると判断されます。

 結果の解釈をまとめると下記のようになります。

・切片:-12.6⇒年齢が0の場合のベースラインから5年後の糸球体濾過量(GFR)変化量「diff_eGFR5」の推定値です。
・回帰係数:-0.038⇒年齢が1歳増加すると、「diff_eGFR5」は-0.038減少すると推定されます(p<0.05)。


講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学臨床疫学研究所 所長・教授
昭和大学大学院医学研究科 衛生学・公衆衛生学分野/腎臓内科学分野 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


バックナンバー

59. 生存時間分析 その5

58. 生存時間分析 その4

57. 生存時間分析 その3

56. 生存時間分析 その2

55. 生存時間分析 その1

54. 線形回帰(重回帰)分析 その5

53. 線形回帰(重回帰)分析 その4

52. 線形回帰(重回帰)分析 その3

51. 線形回帰(重回帰)分析 その2

50. 線形回帰(重回帰)分析 その1

49. いよいよ多変量解析 その2

48. いよいよ多変量解析 その1

47. 何はさておき記述統計 その8

46. 何はさておき記述統計 その7

45. 何はさておき記述統計 その6

44. 何はさておき記述統計 その5

43. 何はさておき記述統計 その4

42. 何はさておき記述統計 その3

41. 何はさておき記述統計 その2

40. 何はさておき記述統計 その1

39. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その2

38. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その1

37. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その2

36. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その1

35. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その2

34. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その1

33. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その8

32. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その7

31. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その6

30. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その5

29. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その4

28. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その3

27. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その2

26. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その1

25. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その5

24. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その4

23. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その3

22. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その2

21. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その1

20. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その3

19. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その2

18. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その1

17. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その3

16.リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その2

15. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その1

14. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その3

13. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その2

12. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用その1

11. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その2

10. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その1

9. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その3

8. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その2

7. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その1

6. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その3

5. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その2

4. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その1

3. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビューその2

2. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー その1

1. 臨床上の疑問とリサーチ・クエスチョン

▼ 一覧をもっと見る

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)