乳がんに対する術前免疫チェックポイント阻害薬の有効性と今後の展望【後編】(尾崎 由記範氏)

乳がん領域の免疫チェックポイント阻害薬治療がトピックとなっている中、乳がん診療に携わる医師が知っておきたい内容について、尾崎 由記範氏(がん研有明病院)が解説します。前半では免疫チェックポイント阻害薬の概要や再発高リスクの切除可能トリプルネガディブ乳がんに対するペムブロリズマブの有効性について紹介し、後半では免疫関連有害事象や今後の開発展望について紹介します。

[演者紹介]

尾崎 由記範 (おざき ゆきのり)

がん研有明病院 乳腺センター 乳腺内科/先端医療開発科



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前編: 乳がんに対する術前免疫チェックポイント阻害薬の有効性と今後の展望
後編:乳がんに対する術前免疫チェックポイント阻害薬の有効性と今後の展望

乳がんに対する術前免疫チェックポイント阻害薬の有効性と今後の展望【前編】(尾崎 由記範氏)

乳がん領域の免疫チェックポイント阻害薬治療がトピックとなっている中、乳がん診療に携わる医師が知っておきたい内容について、尾崎 由記範氏(がん研有明病院)が解説します。前半では免疫チェックポイント阻害薬の概要や再発高リスクの切除可能トリプルネガディブ乳がんに対するペムブロリズマブの有効性について紹介し、後半では免疫関連有害事象や今後の開発展望について紹介します。

[演者紹介]

尾崎 由記範 (おざき ゆきのり)

がん研有明病院 乳腺センター 乳腺内科/先端医療開発科



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前編: 乳がんに対する術前免疫チェックポイント阻害薬の有効性と今後の展望
後編:乳がんに対する術前免疫チェックポイント阻害薬の有効性と今後の展望

海外研修留学便り【米国留学記(寺田 満雄氏)】第4回

[レポーター紹介 ]
寺田 満雄(てらだ みつお)

2013年  3月 名古屋市立大学医学部医学科 卒業
2013年  4月    蒲郡市民病院(臨床研修医)
2015年  4月    名古屋市立西部医療センター 外科(外科レジデント)
2017年  4月    愛知県がんセンター 乳腺科(レジデント)
2019年  4月    名古屋市立大学大学院 医学研究科 乳腺外科学分野(臨床研究医)
                       名古屋市立大学大学院 医学研究科 博士課程
2019年  6月    名古屋大学 分子細胞免疫学 (特別研究員)(上記と兼務)
2022年10月  名古屋市立大学大学院 医学研究科 乳腺外科学分野(病院助教)
2023年  8月    Department of Medicine and UPMC Hillman Cancer Center
                       (Post-doctoral associate)
2023年  9月    名古屋市立大学大学院 医学研究科 乳腺外科学分野(研究員)(上記と兼務)

夏休みは1ヵ月取得。でも結果を出している人はハードワーク

ハロウィンでご近所にTrick or Treat

 米国での生活で一番違うと感じることは、休日らしい休日を過ごすことができること(うちのラボはその限りでないこともありますが…それはご愛嬌)。これは国による違いというよりも、研究職なので当直・待機、外勤がないことに起因するものかもしれません。それでもオンとオフは日本よりははっきりしている印象を受けます。ボスは臨床医でもありますが、夏休みは1ヵ月ほど休暇をとっています。ですが、忘れてはいけないのは、結果を出している人たちにはハードワーカーも多いことです。集中と効率化とハードワークです。これは私が勝手に抱いていたイメージとは異なるものでした。

 休日は子どもが楽しめるようなイベントがたくさんあります。ハロウィン、クリスマス、イースターといった季節のイベントやスポーツ(スケート、テニス、バスケ、サッカー、アイスホッケーetc.)や釣りの教室が開催されていたりと休日もそれはそれで忙しかったりします。これらの運営は、Donation文化の賜物なのだろうと認識しています。私自身も、無料で教会のESL(外国人のための英語教室)に通わせてもらったり、そこが主催するイベントに家族でお邪魔したりと日本に帰ったら何かに寄付したいと思うようになったぐらいにはDonation文化にもお世話になっています。

地元アイスホッケーチーム Penguins主催の子ども向けアイスホッケー教室

 さまざまなイベントごとも然り、子どもに優しい国だとも感じます。子どもを連れているだけでスーパーで優しく対応してもらえたりするので、あえて連れて行ったり…。また日本にいた時よりも家族で過ごす時間が格段に多くなりました。これはなかなかできなかったので、嬉しい環境です。そして、慣れない異国の地、英語環境で妻のサポートには本当に感謝しています。子どもたちも私のわがままで連れてきたわけですが、やはり子どもたちのほうが大人よりも環境への適応は早く、日本の学校との違いに戸惑うことも多いのも親ばかりで、彼らは学校生活をエンジョイしてくれています。

 

 

留学のメリットとデメリット、現時点で言えるのは…

PNC park stadium。地元Pirates vs Dodgers(大谷選手所属)戦

 帰ってからの自分のキャリアは、まだ私自身もよくわかりませんが、これから留学を考えている方に、現在私が感じているメリットとデメリットを綴ろうと思います。メリットはやはり日本とは違う研究の体制を学ぶことができることだと思います。これは臨床研究で留学しても同じに思います。同じだなと感じることもあれば、やはりそうでないところもあります。あとは人脈形成ではないでしょうか。少し別枠ですが、完全に日本式臨床医の働き方枠に囚われてしまっていた自分を、ワークライフバランスも考えたうえで少し冷静にみることができるようになったこともメリットかもしれません(見方によってはデメリットかも…しれないですが)。当たり前だと思っていた日本での勤務状況をラボの人に伝えても、現実味がないらしく話を信じてもらえなかったことも(笑)。

 デメリットは、金銭的な話はもちろんありますが、キャリア面で考えると、今まで続けていたキャリアが一時中断すること。私自身積み上げてきたものが多くあるわけではないですが、すべてをうまく継続することは難しく感じています。もちろん留学先の忙しさと余裕によると思いますが、私の場合は、少し手が回らなくなってしまっているものがあるのは正直なところです。臨床のブランクも長くなりそうなこともあり、帰った後にどうしよう…というのは、割と大きな悩みです。ですが、いったん慣れた環境から離れることで、見える世界は広がったことは間違いありません。留学したことに一切の後悔がないということは言えます。自分の将来はもう少し米国滞在中に考えてみようと思います。

 今回が連載最終回となりますが、お付き合いいただきありがとうございました。少しでもこれから留学を検討している方のお役に立つことができれば幸いです。

  


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第1回: 乳腺外科医の自分がメラノーマのTRに強い研究室へ留学を決めた理由
第2回:ほぼ全例で網羅的解析を実施、日本との違いを感じる研究環境
第3回:ラボでの分業、実際どうやっている?
第4回:夏休みは1ヵ月取得。でも結果を出している人はハードワーク

ASCO2024 レポート 乳がん

提供元:CareNet.com

レポーター: 下村 昭彦氏
(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 乳腺・腫瘍内科/がん総合内科)

 

 2024年5月31日~6月4日まで5日間にわたり、ASCO2024がハイブリッド形式で開催された。昨年も人が戻ってきている感じはあったが、会場の雰囲気はコロナ流行前と変わりなくなっていた。一方、日本からの参加者は若干少なかったように思われる。これは航空運賃の高騰に加えて、円安の影響が大きいと思われる(今回私が行ったときは1ドル160円!! 奮発した150ドルのステーキがなんと24,000円に…。来年は費用面で行けない可能性も出てきました…)。 

 さて、本題に戻ると、今回のASCOのテーマは“The Art and Science of Cancer Care:From Comfort to Cure”であった。乳がんの演題は日本の臨床に大きなインパクトを与えるものが大きく、とくにPlenary sessionの前に1演題のためだけに独立して行われたセッションで発表されたDESTINY-Breast06試験は早朝7:30のセッションにもかかわらず、満席であった。日本からは乳がんのオーラルが2演題あり、日本の実力も垣間見ることとなった。本稿では、日本からの演題も含めて5題を概説する。

DESTINY-Breast06試験

 トラスツズマブ・デルクステカン(T-DXd)は日本で開発が開始され、現在グローバルで最も使われている抗体薬物複合体(ADC)の1つと言っても過言ではない。乳がんではHER2陽性乳がんで開発され、現在はHER2低発現乳がんにおける2次化学療法としてのエビデンスに基づいて適応拡大されている。20年近く乳がんの世界で用いられてきたサブタイプの概念を大きく変えることになった薬剤である。

 T-DXdのHER2低発現乳がんの1次化学療法としての有効性を検証したのがDESTINY-Breast06(DB-06)試験である。この試験では、ホルモン受容体陽性HER2低発現の乳がんにおいて、T-DXdの主治医選択化学療法に対する無増悪生存期間(PFS)における優越性が検証された。この試験のもう1つの大きな特徴は、HER2超低発現(ultra-low)の乳がんに対する有効性についても探索的に検討したことである。HER2超低発現とは、これまで免疫組織化学染色においてHER2 0と診断されてきた腫瘍のうち、わずかでもHER2染色があるものを指す。本試験では866例(うちHER2低発現713例、超低発現が152例)の患者がT-DXdと主治医選択治療(TPC)に1:1に割り付けられた。

 主要評価項目はHER2低発現におけるPFSで13.2ヵ月 vs. 8.1ヵ月(ハザード比[HR]:0.62、95%信頼区間[CI]:0.51~0.74、p<0.0001)とT-DXd群の優越性が示された。ITT集団においても同様の傾向であった。HER2超低発現の集団については探索的項目であるが、PFSは13.2ヵ月 vs.8.3ヵ月(HR:0.78、95%CI:0.50~1.21)とHER2低発現の集団と遜色ない結果であった。一方、全生存期間(OS)についてはHER2低発現でHR:0.83、HER2超低発現でHR:0.75であり、いずれも有意差はつかなかった。有害事象は既知のとおりであるが、薬剤性肺障害(ILD)はany gradeで11.3%であった。

 2次化学療法の試験であるDESTINY-Breast 04試験ではOSの優越性も示されているため、OSの優越性が示されていない状況で毒性の強い薬剤をより早いラインで使うかどうかは議論が必要であろう。また、HER2超低発現の病理評価の標準化についても課題が残される。

postMONARCH試験

 こちらも待望の試験である。日本国内で使えるCDK4/6阻害薬であるアベマシクリブのbeyond PD(progressive disease)を証明した初の試験である。これまでMAINTAIN試験で(phase2ではあるが)、CDK4/6阻害薬の治療後のribociclibの有効性が示されていたが、ribociclibは日本国内では未承認なため、エビデンスを活用することができなかった。postMONARCH試験では、転移乳がん、もしくは術後治療としてホルモン療法(転移乳がんはAI剤)とCDK4/6阻害薬を使用後にPDもしくは再発となった368例の患者を対象に、フルベストラント+アベマシクリブ/プラセボに1:1に割り付けられた。術後CDK4/6阻害薬後の再発が適格となっていたが残念ながら全体で2例のみであり、プラクティスへの参考にはならなかった。前治療のCDK4/6阻害薬はパルボシクリブが60%と最も多く、ついでribociclibで、アベマシクリブは両群とも8%含まれた。

 主要評価項目は主治医判断のPFSで、6.0ヵ月 vs. 5.3ヵ月(HR:0.73、95%CI :0.57~0.95、p=0.02)とアベマシクリブ群で良好であった。盲検化PFSが副次評価項目に設定されていたが、面白いことに12.9ヵ月 vs.5.6ヵ月(HR:0.55、95%CI:0.39~0.77、p=0.0004)と主治医判断よりも良い結果となった。有害事象はこれまでの臨床試験と変わりはなかった。この試験の結果をもって、自信を持ってホルモン療法の2次治療としてフルベストラント+アベマシクリブを実施できるようになったと言える。

JBCRG-06/EMERALD試験

 さて、日本からの試験も紹介する。研究代表者である神奈川県立がんセンターの山下 年成先生が口演された。本試験はHER2陽性転移乳がんの初回治療として、標準治療であるトラスツズマブ+ペルツズマブ+タキサン(HPT)療法に対して、トラスツズマブ+ペルツズマブ+エリブリン療法が非劣性であることを証明した。446例の患者が登録され、1:1に割り付けられた。ホルモン受容体は60%が陽性であり、PSは80%以上が0であった。初発StageIVが60%を占めていた。

 主要評価項目のPFSはHPT群12.9ヵ月 vs.エリブリン群14.0ヵ月(HR:0.95、95%CI:0.76~1.19、p=0.6817)で非劣性マージンの1.33を下回り、エリブリン群の非劣性が示された。化学療法併用期間の中央値はエリブリン群が28.1週、HPT群は約20週であり、エリブリン群で長かった。OSもHR:1.09(95%CI:0.76~1.58、p=0.7258)と両群間の差を認めなかった。毒性については末梢神経障害がエリブリン群で61.2% vs. HPT群で52.8%(G3に限ると9.8% vs.4.1%)と、エリブリン群で多かった。治療期間が長いことの影響があると思われるが、less toxic newと言ってよいかどうかは悩ましいところである。HER2陽性乳がんにおけるエリブリン併用療法は1つの標準治療になったと言えるが、実臨床での使用はタキサンアレルギーの症例などに限られるかもしれない。

ER低発現乳がんにおける術後ホルモン療法

 こちらはデータベースを使った後ろ向き研究であり臨床試験ではないが、実臨床の疑問に重要なものであるため取り上げる。米国のがんデータベースからStageI~IIIでER 1~10%の症例を抽出し、術後ホルモン療法の実施率と予後を検討したものである。データベースから7,018例の対象症例が抽出され、42%の症例が術後ホルモン療法を省略されていた。ホルモン療法実施群と非実施群におけるOSは3年OSが92.3% vs.89.1%であり、HR:1.25、95%CI:1.05~1.48、p=0.01と実施群で良い傾向にあった。後ろ向き研究ではあるが、ER低発現であっても術後ホルモン療法に意義がある可能性が提示されたことは、今後の術後治療の選択にとって重要な情報である。

PRO-DUCE試験

 最後に日本からのもう1つの口演であるPRO-DUCE試験を紹介する。これは治療薬の臨床試験ではなく、ePROが患者のQOLに影響するかを検証した試験である。関西医科大学の木川 雄一郎先生によって発表された。本試験はT-DXdによる治療を受ける患者を対象として、ePRO+SpO2/体温の介入が通常ケアと比較してQOLに影響するかを比較した。主要評価項目はベースラインから治療開始24週後のEORTC QLQ-C30を用いたglobal health scoreの変化であり、ePRO群では-2.4、通常ケア群では-10.4であり、両群間の差は8.0(90%CI:0.2~15.8、p=0.091)と統計学的に有意にePRO群で良好であった。その他の項目では倦怠感はePRO群で良好であったが、悪心/嘔吐は両群間の差は認めなかった。この研究は日本から乳がんにおいてePROが有効であることを示した初の試験である。ePROは世界的にも必須のものとなっており、今後の発展が期待される。


レポーター紹介

下村 昭彦 ( しもむら あきひこ ) 氏
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院
 乳腺・腫瘍内科/がん総合内科

海外研修留学便り【米国留学記(寺田 満雄氏)】第3回

[レポーター紹介 ]
寺田 満雄(てらだ みつお)

2013年  3月 名古屋市立大学医学部医学科 卒業
2013年  4月    蒲郡市民病院(臨床研修医)
2015年  4月    名古屋市立西部医療センター 外科(外科レジデント)
2017年  4月    愛知県がんセンター 乳腺科(レジデント)
2019年  4月    名古屋市立大学大学院 医学研究科 乳腺外科学分野(臨床研究医)
                       名古屋市立大学大学院 医学研究科 博士課程
2019年  6月    名古屋大学 分子細胞免疫学 (特別研究員)(上記と兼務)
2022年10月  名古屋市立大学大学院 医学研究科 乳腺外科学分野(病院助教)
2023年  8月    Department of Medicine and UPMC Hillman Cancer Center
                       (Post-doctoral associate)
2023年  9月    名古屋市立大学大学院 医学研究科 乳腺外科学分野(研究員)(上記と兼務)

ラボでの分業、実際どうやっている?

 よく海外のラボは分業がしっかりされているという話を渡米前に聞いていましたが、実際そのように感じることも多く、その点を中心に実際の研究環境についてお伝えします。Hassane Labは、ポスドクが私を含めて3人、PhD studentが2人、Technicianが2人、バイオインフォマティシャンが1人、あとは実験の方針などを相談できる上司が2人とPIで構成されています。

自宅マンション前の風景。ピッツバーグの冬は雪も多く、寒いです。

 日々、たくさんの臨床試験の検体がラボに運ばれてきますが、それらの処理は基本的にTechnicianが担当しています。腫瘍や生検や手術検体を処理して、scRNA-seqのライブラリー作成までもTechnicianの仕事になっています。これらの行程は非常に時間がかかりますが、ある意味では単純作業なので、Researcherは極力実験などに集中するように、との方針です。

 Researcherは1人が2つほどのプロジェクトを掛け持ちしています。研究の進捗は毎週月曜日にあるResearch meetingで進捗報告をしながら方針を決めていきます(毎週、この準備が非常に大変なのですが…)。基本的には1人で実験をしますが、大きな実験をするときにはラボ中のメンバーが協力して行います。日本でPhD studentだった頃も、実験は1人でやることが多かったこともあり、つい全部1人でやってしまいそうになるのですが、「Mitsuoは人の手伝いはするけど、誰かに手伝いをお願いするのが苦手だから、ちゃんと必要な時は言って」と言われたり…ですが、それぐらいには、お互いの協力体制があるのだと思います。むしろ1人ですべてやることでミスが増える、という認識のようです。

 もう1つ効率化されていると感じたのが、データの管理です。実験データや実験のプロトコル、臨床試験のデータベースなどはすべてクラウド管理をしており、過去データも含め、誰でも確認できるようになっています。またSlackも有効活用されていて、ミーティング以外での情報共有はほぼすべてSlack上で行われています。個人的にはミーティングを重ねるよりも、こちらの方が全体を把握しやすくて好みです(英語が堪能でない私には文章の方が言いたいことも言いやすいし、理解もしやすい)。

大切なのは、“1人で抱え込まずにプロジェクトを進める姿勢”

メラノーマのチャリティマラソンにラボメンバーと家族で参加。

 ラボ内には、scRNA-seqやVISIUM用の機器は揃っていますが、それ以外はどこにでもあるような最低限の機材のみで、ラボのスペース自体は意外と広くありません。施設として特徴的なことは、共通機器が非常に充実していることです。UPMC Hillman Cancer CenterはUniversity of Pittsburghの医療群の1施設です。なかでも免疫学の研究には力をいれており、免疫学だけで1つの研究棟があるぐらいです。実験を行う過程で、さまざまな実験手法や解析手法を用いることになりますが、困った時には共通機器を管理している部門で、機器の使用方法から解析の方法を相談することができます。また、たとえば多重免疫染色を行う際には、染色の条件検討など非常に時間がかかることも多いですが、サンプルと抗体を渡すことで一括して条件検討から染色までを担ってくれる部門もあります。これは非常に助かります。

 このように、ラボ内だけでなく、大学内でも効率的な分業がされていると言えます。自施設内だけでなく、NIHなどの他施設との共同研究も積極的に行っており、1人で抱え込まずに、内へも外へも借りられる手は借りてプロジェクトを進める姿勢が大切だと痛感します。実際問題、やりたいことに集中できる環境というのは、残念ながら日本ではあまり多くはないように思いますので、一番ギャップを感じる部分でもあります。

  


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第1回: 乳腺外科医の自分がメラノーマのTRに強い研究室へ留学を決めた理由
第2回:ほぼ全例で網羅的解析を実施、日本との違いを感じる研究環境
第3回:ラボでの分業、実際どうやっている?
第4回:夏休みは1ヵ月取得。でも結果を出している人はハードワーク

HR+/HER2-転移乳がん、SG+ペムブロリズマブvs.SG(SACI-IO HR+)/ASCO2024

提供元:CareNet.com

 既治療の切除不能な局所進行または転移を有するHR+/HER2-乳がんに対して、sacituzumab govitecan(SG)+ペムブロリズマブを、SG単独と比較した無作為化非盲検第II相SACI-IO HR+試験で、ペムブロリズマブ併用による無増悪生存期間(PFS)の有意な改善は認められなかった。米国・ダナファーバーがん研究所のAna Christina Garrido-Castro氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)で発表した。

 SGはトポイソメラーゼI阻害薬(SN-38)をペイロードとする抗TROP2抗体薬物複合体(ADC)で、その作用機序から抗PD-1抗体との相乗効果が期待されている。

・対象:切除不能な局所進行または転移を有するHR+/HER2-乳がんで、転移後に1ライン以上の内分泌療法歴があるか、術後補助内分泌療法中もしくは12ヵ月以内に進行した患者(活動性脳転移のある患者、トポイソメラーゼI阻害薬ADC、イリノテカン、抗PD-1/L1抗体による治療歴のある患者は除外)
・試験群(併用群):SG(1、8日目に10mg/kg静注)+ペムブロリズマブ(1日目に200mg静注)、21日ごと
・対照群(SG群): SG単独
・評価項目:
[主要評価項目]PFS
[副次評価項目]PD-L1陽性患者のPFS、全生存期間(OS)、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、奏効までの期間(TTOR)、臨床的有用率(CBR)、安全性

 主な結果は以下のとおり。

・治療開始した104例(併用群52例、SG群52例)が解析に組み入れられた。
・年齢中央値は57.0歳(範囲:27.0~81.0歳)、40例(38.5%)がPD-L1陽性(CPS≧1)、56例(69.1%)が術前/術後化学療法歴があり、51例(49.0%)が転移乳がんに対する1ラインの化学療法歴があった。
・追跡期間中央値12.5ヵ月(データカットオフ:2024年3月9日)におけるPFS中央値は併用群が8.12ヵ月で、SG群の6.22ヵ月より数字上は延長したが、統計学的に有意ではなかった(ハザード比[HR]:0.81、95%信頼区間[CI]:0.51~1.28、p=0.37)。
・OSデータはimmatureであるが、OS中央値は併用群18.52ヵ月、SG群17.96ヵ月で有意な差は認められなかった(HR:0.65、95%CI:0.33~1.28、p=0.21)。
・PD-L1陽性(CPS≧1)患者において、PFS中央値は併用群がSG群より4.4ヵ月長く(HR:0.62、95%CI:0.29~1.36、p=0.23)、OS中央値は6ヵ月長く(HR:0.61、95%CI:0.18~2.04、p=0.42)、どちらも有意ではないが併用群で改善傾向が認められた。
・ORRは、併用群21.2%、SG群17.3%で有意な差はなかった(p=0.80)。また、CBR(p=0.84)、DOR(p=0.31)、TTOR(p=0.68)も有意な差は認められなかった。
・主なGrade3以上のTEAE(治療中に発現した有害事象)は、併用群では好中球減少症(54%)、白血球減少症(23%)、リンパ球減少症(12%)、発熱性好中球減少症(6%)、貧血(6%)、下痢(6%)で、単独群では好中球減少症(44%)、貧血(10%)、悪心(10%)、下痢(8%)、白血球減少症(8%)、疲労(6%)、高血圧(6%)であった。

 Garrido-Castro氏は、「これらの結果は、転移を有するPD-L1陽性HR+/HER2-乳がん患者におけるSG+ペムブロリズマブのさらなる検討を支持している。ADCと免疫チェックポイント阻害薬併用によりベネフィットが得られる予測因子を調査するために、追加の研究が必要である」と述べた。

(ケアネット 金沢 浩子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

Saci-IO HR+試験(ClinicalTrials.gov)

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

ASCO2024 FLASH 乳がん

|企画・制作|ケアネット

2024年5月31日~6月4日(現地時間)に開催された世界最大のがん学会、米国臨床腫瘍学会(ASCO2024)。ここで発表された旬な乳がんのトピックを、がん研有明病院の尾崎 由記範氏がレビュー。


レポーター紹介

尾崎 由記範 ( おざき ゆきのり ) 氏
がん研究会有明病院 乳腺センター 乳腺内科/先端医療開発科


掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

転移乳がんへのT-DXd、HER2-ultralowでもPFS延長(DESTINY-Breast06)/ASCO2024

提供元:CareNet.com

 従来のHR陽性(+)かつHER2陰性の転移を有する乳がんのうち、約60~65%がHER2-low(IHC 1+またはIHC 2+/ISH-)、約20~25%がHER2-ultralow(膜染色を認めるIHC 0[IHC >0<1+])とされているため、約85%がトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)が有用である可能性がある。米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)において、HR+かつHER2-lowおよびHER2-ultralowで化学療法未治療の転移・再発乳がん患者を対象とした第III相DESTINY-Breast06試験の結果、T-DXdは化学療法群と比較して、有意に無増悪生存期間(PFS)を延長したことを、イタリア・ミラノ大学のGiuseppe Curigliano氏が発表した。

・試験デザイン:国際共同第III相非盲検無作為化比較試験
・対象:転移に対する治療として1ライン以上の内分泌療法を受け、化学療法は未治療の、HR+かつHER2-low(HER2-ultralowも含む)の転移・再発乳がん患者866例
・試験群(T-DXd群):T-DXd(3週間間隔で5.4mg/kg)を投与 436例
・対照群(TPC群):治験医師選択の化学療法(カペシタビンまたはパクリタキセル、nab-パクリタキセル)を投与 430例
・評価項目:
[主要評価項目]盲検独立中央判定(BICR)によるHER2-low集団のPFS
[主要副次評価項目]BICRによるITT集団(HER2-lowおよびHER2-ultralow)のPFS、HER2-low集団およびITT集団の全生存期間(OS)
・層別化因子:CDK4/6阻害薬の使用有無、HER2発現状況、転移がないときのタキサン使用有無
・データカットオフ:2024年3月18日
※内分泌療法:(1)2ライン以上の内分泌療法±分子標的薬、(2)初回の内分泌療法+CDK4/6阻害薬で6ヵ月以内に病勢進行、(3)術後の内分泌療法開始から24ヵ月以内に再発 のいずれか。

 主な結果は以下のとおり。

・866例がT-DXd群とTPC群に1対1に無作為に割り付けられた。年齢中央値はそれぞれ58.0歳(範囲:28~87)/57.0歳(32~83)、IHC 1+が54.8%/54.4%、IHC 2+/ISH-が26.8%/27.4%、内分泌療法抵抗性が29.4%/32.6%、診断時のde novoが30.5%/30.7%、骨転移のみありが3.0%/3.0%、内臓転移ありが86.2%/84.7%、肝転移ありが67.9%/65.8%であった。
・TPC群では、カペシタビンが59.8%、nab-パクリタキセルが24.4%、パクリタキセルが15.8%に投与された。

ITT集団(HER2-lowおよびHER2-ultralow):866例
・ITT集団におけるPFS中央値は、T-DXd群13.2ヵ月、TPC群8.1ヵ月であり、T-DXd群で統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善を示した(ハザード比[HR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.53~0.75、p<0.0001)。
・12ヵ月OS率は、T-DXd群87.0%、TPC群81.1%であった。
・全奏効率(ORR)は、T-DXd群57.3%(CRが3.0%)、TPC群31.2%(0%)であった。臨床的有用率(CBR)はそれぞれ76.6%、51.9%であった。

HER2-low集団:713例
・主要評価項目であるHER2-low集団におけるPFS中央値は、T-DXd群13.2ヵ月、TPC群8.1ヵ月であり、T-DXd群で統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善を認めた(HR:0.62、95%CI:0.51~0.74、p<0.0001)。
・12ヵ月OS率は、T-DXd群87.6%、TPC群81.7%であった。
・ORRは、T-DXd群56.5%(CRが2.5%)、TPC群32.2%(0%)であった。CBRはそれぞれ76.6%、53.7%であった。
・HER2-low集団のすべてのサブグループ解析においてT-DXd群が良好な結果であった。

HER2-ultralow集団:152例
・HER2-ultralow集団におけるPFS中央値は、T-DXd群13.2ヵ月、TPC群8.3ヵ月であった(HR:0.78、95%CI:0.50~1.21)。
・12ヵ月OS率は、T-DXd群84.0%、TPC群78.7%であった。
・ORRは、T-DXd群61.8%(CRが5.3%)、TPC群26.3%(0%)であった。CBRはそれぞれ76.3%、43.4%であった。

安全性
・新たな安全性シグナルは確認されなかった。
・Grade3以上の試験治療下における有害事象(TEAE)は、T-DXd群40.6%、TPC群31.4%に発現した。T-DXd群で多かったGrade3以上のTEAEは、好中球減少症(20.7%)、白血球減少症(6.9%)、貧血(5.8%)などであった。
・T-DXd群における薬剤関連間質性肺疾患の発現は11.3%で、Grade1が1.6%、Grade2が8.3%、Grade3が0.7%、Grade4が0%、Grade5(死亡)が0.7%であった。

 これらの結果より、Curigliano氏は「本試験によって、T-DXdは、1種類以上の内分泌療法を受けたHR+かつHER2-lowおよびHER2-ultralowの転移・再発乳がん患者の新たな治療選択肢となった」とまとめた。

(ケアネット 森 幸子)


掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

なぜハワイにNCI指定がんセンターがあるのか?【後編】(上野 直人氏 / 中村 清吾氏)

 2022年12月に、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターからハワイ大学に移り、ディレクターとしてトランスレーショナルリサーチの拠点づくりに取り組む上野 直人氏に、ハワイのがん診療・研究の現状や米国における位置づけ、今後のがんセンターの展望をお聞きするとともに(前編)、中村 清吾氏(昭和大学医学部)との対談でハワイでの医療者のリクルートや日本人医療者の研修先としてのハワイについてお話いただきました(後編)。

[演者紹介]

上野 直人 (うえの なおと)

ハワイ大学がんセンター ディレクター


中村 清吾(なかむら せいご)

昭和大学医学部乳腺外科
昭和大学病院ブレストセンター長

 


バックナンバー

前編: なぜハワイにNCI指定がんセンターがあるのか?
後編:なぜハワイにNCI指定がんセンターがあるのか?

海外研修留学便り【米国留学記(寺田 満雄氏)】第2回

[レポーター紹介 ]
寺田 満雄(てらだ みつお)

2013年  3月 名古屋市立大学医学部医学科 卒業
2013年  4月    蒲郡市民病院(臨床研修医)
2015年  4月    名古屋市立西部医療センター 外科(外科レジデント)
2017年  4月    愛知県がんセンター 乳腺科(レジデント)
2019年  4月    名古屋市立大学大学院 医学研究科 乳腺外科学分野(臨床研究医)
                       名古屋市立大学大学院 医学研究科 博士課程
2019年  6月    名古屋大学 分子細胞免疫学 (特別研究員)(上記と兼務)
2022年10月  名古屋市立大学大学院 医学研究科 乳腺外科学分野(病院助教)
2023年  8月    Department of Medicine and UPMC Hillman Cancer Center
                       (Post-doctoral associate)
2023年  9月    名古屋市立大学大学院 医学研究科 乳腺外科学分野(研究員)(上記と兼務)

ほぼ全例で網羅的解析を実施、日本との違いを感じる研究環境

 私の所属している研究室は、臨床試験のTranslational research(TR)を得意としています。PIのHassane先生は皮膚科の臨床医でもあり、自施設を中心に行っている医師主導治験の検体をそのまま自分のラボで処理・解析するスタイルが確立されています。毎日のように臨床試験に参加している患者さんからの検体がラボに届きます。検体は血液サンプル、生検や手術の腫瘍検体、便検体が主です。とくに腫瘍検体に関しては、ほぼ全例をシングルセルRNAシークエンス(scRNA-seqもしくはCITE-seq)の解析に回し、網羅的な解析を行っています。また、同時に腫瘍のFFPEサンプルも保存し、多重免疫染色やVISIUM(空間的遺伝子発現解析)も行うことで、空間的な腫瘍環境の解析を網羅的に行っています。

 これらの網羅的解析は、もちろんかなり高額ではありますが、非常に多くの情報量を研究者に与えてくれます。日本では慎重に適応を検討していた高額な解析を、息をするように行う日々に感覚が麻痺しそうです。もちろんTR含め、研究では仮説をもとに計画を立てることが大切であることは言うまでもないことですが、極端な話、今の世界のレベルでは、網羅的な解析を行えば解決してしまうような仮説は「仮説を立てる」の内に入らないのかもしれないな…と感じています。アイデア勝負でこれに太刀打ちし続けることは容易ではありませんので、今は良い経験をさせてもらっていると感じると同時に、危機感を覚えているのも正直な気持ちです。

現在取り組んでいるプロジェクトは

 私自身が担当しているプロジェクトは現在2つです。それぞれ具体的な内容に言及することはできませんが、1つは当研究室でPublishした研究を深掘りするマウス実験が中心のプロジェクト、もう1つは、メラノーマに対して行われた術前化学療法CMP-001(TLR9アゴニスト)+抗PD-1抗体併用療法の作用メカニズムを解明するプロジェクトです。

 前者は、ターゲットとしている遺伝子が明確にあり、その遺伝子のノックアウトマウスおよびコンディショナルノックアウトマウスモデルを用いて研究を行っています。後者は、前述した網羅的な解析からでてきた仮説を検証するプロジェクトです。よく考えれば当たり前のことではありますが、論文が世に出るタイミングでは、それをもとにした「次の研究」はすでに始まっています。もちろんこれらを形にすることは容易ではなく、タフな仕事ではあるのですが、いかに自分たちだけが抱えているオリジナリティのある研究テーマを先行して進めていくかが大切であることを実感します。

  


バックナンバー

第1回: 乳腺外科医の自分がメラノーマのTRに強い研究室へ留学を決めた理由
第2回:ほぼ全例で網羅的解析を実施、日本との違いを感じる研究環境
第3回:ラボでの分業、実際どうやっている?
第4回:夏休みは1ヵ月取得。でも結果を出している人はハードワーク