がん治療の進歩で注意すべき心血管リスクとその対策/日本医療薬学会

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 近年、腫瘍循環器学という新しい概念が提唱されている。10月24日~11月1日にWeb開催された第30回日本医療薬学会総会のシンポジウム「腫瘍循環器(Onco-Cardiology)学を学ぼう~タスクシェア・シフト時代にマネジメントする薬剤師力の発揮~」において、腫瘍循環器領域の第一人者である向井 幹夫氏(大阪国際がんセンター成人病ドック科主任部長)が「腫瘍循環器学とは?臨床現場で薬剤師に求めること」と題し、腫瘍循環器学における新たな視点について語った。

がん治療の進歩で注意すべき心血管リスクも変化

 がん患者の心血管リスクは、がん治療時の急性期/慢性期心毒性をピークに回復・寛解期には一度低下傾向を示す。しかし、転移・再発に対するがん治療の開始やがんサバイバーとして生き長らえる中で、潜在的心血管リスクの増悪による晩期心毒性によりリスクは再び上向きに転じることが報告1)されている。向井氏はその1つとして、28種がんのがんサバイバーの治療経過と心臓病による死亡リスクの検討2)から、がん診断後から5~10年の時点で全領域のがんサバイバー、なかでも乳がん、皮膚がん(メラノーマ)、前立腺がん患者などの死亡リスクが上昇する報告を示した。同氏は「新規薬剤によるがん治療の進歩とそれに伴う生存率上昇の反面、心毒性が増加していることが影響している」と述べ、最新のがん治療にも心血管リスクが潜んでいる点を指摘した。

投与終了後の経過観察は生涯必要

 がん治療による心毒性・心血管リスクの歴史は1970年代に遡る。殺細胞系抗がん剤アントラサイクリンによる心筋症が明らかになって以降、2000年代には分子標的薬のトラスツズマブにより生じる心筋症が、近年では免疫チェックポイント阻害薬による劇症心筋炎と心血管合併症が問題になっている。さらに、血管新生阻害薬(抗VEGF薬)は心毒性リスクが投与用量に比して増加し、かつ経時的に変化する特徴があり、投与初期には毛細血管攣縮による血圧上昇、数ヵ月後に毛細血管循環障害(密度希薄化)による高血圧症や尿蛋白が出現する。その後、年単位の治療が継続されることでプラーク形成による血栓症・出血が発生し、3~5年の長期治療によって心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な心血管疾患発症に至る。このような症例を実際に目の当たりにした同氏は「がん治療が進歩する一方でこれまでにない晩期合併症が増加している」と危惧した。

 心毒性発症の原因は多様性を示し、がん自体の作用、心血管疾患の既往、ゲノムの関与、そしてがん治療が影響していることから、「心毒性に対し循環器医の介入はもちろんのこと実際に薬剤を扱う薬剤師も、近年頻度が増加しているがん関連血栓症や動脈硬化血管障害(虚血性心疾患)、不整脈などを幅広く理解しておく必要がある」とも述べた。

がんと循環器疾患の共通点、危険因子と発症機序

 がんの危険因子を列挙すると循環器疾患の危険因子との共通項目が非常に多く、たとえば、喫煙、飲酒、食塩摂取、運動不足などが挙げられる。また、がんと動脈硬化発症の機序において、腫瘍が増殖する際の血管新生に影響を及ぼすVEGFは、循環器領域ではプラーク形成にかかわる血管新生や血管内皮障害を起こす。そのほかにもがんの進展と動脈硬化の発症メカニズムには多くの共通点が指摘されており3)、同氏は「遠い存在であったがんと循環器は共通の性格を持つ疾患である」とし、「いずれも生活習慣病として、遺伝子的因子、エピジェネティク因子、環境因子、生活習慣などが原因で酸化ストレス、炎症、増殖、アポトーシス、血管新生などを生じ動脈硬化やがんに発展する。心不全や血栓症などの晩期心毒性はこれらの危険因子を抑えることで発症予防につながることが期待されている」と話した。

薬剤師によるがんサバイバーへの貢献に期待

 このようにがんと循環器のリスクの共通性が解明される一方、増加するがんサバイバーへの対応は現在模索中である。しかし、がん診療をがん発症予防、診断と治療計画、がん治療、がんサバイバーの4つのステージに分けて考えた時、どのステージにおいてもこれから薬剤師が活躍すると同氏は期待を寄せる。とくにがん治療が終わった後のがんサバイバーは、自分を知っていてくれるかかりつけ薬剤師に調剤薬局やドラッグストアで接することになる。そこでは、がんサバイバーが直面する晩期合併症、なかでも晩期心毒性に対応するためにがん診療における薬薬連携による情報交換と幅広い理解が求められている。

 最後に同氏は「腫瘍循環器学を学び、がんと循環器の共通点を知りタスクシフト・シェア時代に対応することで、がんサバイバーの不安を軽減し支援することができるよう薬剤師の皆さまに“薬剤師力”を発揮していただきたい」と締めくくった。

(ケアネット 土井 舞子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

1)Okura Y, et al. Circ J. 2019;83:2191-2202.

2)Sturgeon KM, et al. Eur Heart J. 2019;40:3889-3897.

3)Libby P, et al. Cardiovasc Res. 2019;115:824-829.

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がん治療は4週遅れるごとに死亡率が高まる/BMJ

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 がん治療が4週間遅れるだけで、手術、全身療法、放射線療法の適応となる7つのがんで全体の死亡率が上昇する。カナダ・クイーンズ大学のTimothy P. Hanna氏らが、がん治療の遅延と死亡率上昇との関連を定量化する目的で実施したシステマティックレビューとメタ解析の結果を報告した。がん治療の遅れは転帰に悪影響を及ぼす可能性があるが、その影響の標準推定値はなく、これまでのメタ解析で治療の遅れと死亡/局所管理との関連が示されていたものの、各報告のばらつきが大きくメタ解析に限界があった。著者は、「世界的にがん治療の遅れは医療制度に問題がある。がん治療開始の遅れを最小限にするシステムに焦点を当てた政策が、集団レベルでの生存転帰を改善できるであろう」とまとめている。BMJ誌2020年11月4日号掲載の報告。

7種類のがんに関する34研究、約127万例についてメタ解析

 研究グループは2000年1月1日~2020年4月10日にMedlineで公表された、7つのがん(膀胱がん、乳がん、結腸がん、直腸がん、肺がん、子宮頸がん、頭頸部がん)に対する手術、全身療法または放射線療法の根治的、術前および術後適応の研究を解析に組み込んだ。

 主要評価項目は、各適応症の4週間遅延ごとの全生存(OS)期間のハザード比(HR)であった。遅延は診断から初回治療まで、または1つの治療の完了から次の治療の開始までで評価した。

 主要解析は、主要な予後因子を補正した妥当性の高い研究のみを対象とした。HRは、OSに関する対数線形で推測され、4週間の遅延ごとの影響に換算された。併合効果は、DerSimonian-Laird変量効果モデルを用いて推定した。

13の適応症で治療が4週間遅れるごとに死亡率が上昇

 解析には、17の適応症に関する34件の研究が組み込まれた(計127万2,681例)。放射線療法の適応となる5つのがん、または子宮頸がんの手術に関する妥当性の高いデータは確認できなかった。

 治療の遅延と死亡率上昇との有意な関連性(p<0.05)が、17の適応症のうち13で確認された。

 手術に関しては、4週間の遅延ごとの死亡のHRの範囲が1.06~1.08と、がんの種類を問わず一貫していた(例:結腸切除術は1.06[95%信頼区間[CI]:1.01~1.12]、乳がん手術は1.08[95%CI:1.03~1.13])。全身療法の推定値はばらつきがみられた(HRの範囲:1.01~1.28)。放射線療法の推定値は、頭頸部がんの根治的放射線療法のHRが1.09(95%CI:1.05~1.14)、乳房温存手術の術後放射線療法のHRが0.98(95%CI:0.88~1.09)、子宮頸がんの術後放射線療法のHRが1.23(95%CI:1.00~1.50)であった。

 合併症または機能状態に関する情報が不足していたため、除外された研究の感度解析でも結果は変わらなかった。

(医学ライター 吉尾 幸恵)


【原著論文はこちら】

Hanna TP, et al. BMJ. 2020;371:m4087.

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PALB2病的変異を有する遺伝性乳がん、日本での臨床的特徴は/日本癌治療学会

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 PALB2はBRCA2と相互作用するDNA修復に関連する分子で、PALB2遺伝子変異は乳がん、卵巣がんのリスクを増加させ、すい臓がんとの関連も指摘される。PALB2生殖細胞系列病的遺伝子変異(pathogenic or likely-pathogenic germline variant: PGV)を有する女性の70歳までの乳がんリスクは約35~50%、生涯の乳がんリスクは約5~8倍とされるが1)、その臨床的特徴に関する知見は限られる。樋上 明音氏(京都大学乳腺外科)らは、日本人乳がん患者約2,000例を調査し、PALB2 PGV症例の頻度と臨床的特徴について、第58回日本癌治療学会学術集会(10月22~24日)で報告した。

 対象は、2011年4月~2016年10月に京都大学医学部附属病院および関連施設で同意取得した1,995例。末梢血DNAを用いて乳がん関連11遺伝子についてターゲットシークエンスを行った先行研究2)のデータを元にPALB2に病的変異を認めた症例について乳がんの状況、診断時年齢、他がんの既往・家族歴等の臨床情報を後方視的に調査した。
 
 主な結果は以下のとおり。

・1,995例のうち9例にPALB2遺伝子に病的変異を認めた(0.45%)。
・診断時の年齢中央値は49歳(42~73歳)。サブタイプはLuminal typeが5例(55.6%)、Luminal HER2 typeが1例(11.1%)、TNBCが2例(22.2%)、DCISが1例(11.1%)であった。
・第3度以内の悪性腫瘍の家族歴を有する症例は4例(44.4%)。乳がん・卵巣がんの家族歴があったのは1例で、2人の姉が乳がん、もう1人の姉に境界悪性卵巣腫瘍、母に子宮がんを認めた。膵臓がんの家族歴は1例であり、その症例では大腸がんの家族歴も認めた。その他の症例では肝細胞がん、肺がん、胃がん、大腸がんの家族歴があった。
・9例のうち4例、3バリアントはClinVarでは未報告のものであった。
・非保有者との間で、サブタイプの割合に差はみられなかった。
BRCA1/2PGV症例と比較して、PALB2PGV症例では若年発症者が少なく、乳がん・卵巣がんの家族歴を有する割合が少ない傾向がみられた。
・9例についてCanRisk(家族歴、生活習慣や遺伝子変異、マンモグラフィ密度などによる乳がんまたは卵巣がんの発症リスクの計算モデル)3)を用いたリスク評価を行ったところ、BRCA1/2 遺伝子変異を有する可能性が5%以上(NCCNガイドラインにおける遺伝学的検査の評価対象基準)となったのは2例のみ(22.2%)であった。

 樋上氏は、日本の先行研究4)においてPALB2遺伝子病的変異を有する乳がん患者の頻度が0.40%と本結果と同程度であったことに触れ、他国における結果(ポーランド:0.93%5)、中国:0.67~0.92%6,7))と比較し低い傾向を指摘。未報告のバリアントがみられたことも踏まえ、バリアントの地域差がある可能性について言及した。

 また、NCCNガイドラインにおける遺伝的検査の評価対象基準8)を今回の9症例で検討したところ、4例は該当しなかった。同氏は「BRCA1/2と比較して発症年齢が高く、乳がん・卵巣がんの家族歴が少ないため、散発性乳がんに近く、ハイリスク症例の拾い上げが難しい」とし、パネル検査の増加に伴う診断症例の増加や、PALB2 PGV症例に対するPARP阻害薬適応についての研究が進む中、拾い上げ基準やサーベイランスの最適化が重要と考察している。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【参考文献・参考サイトはこちら】

1)Yang X,et al. J Clin Oncol. 2020 Mar 1;38:674-685.
2)Inagaki-Kawata Y, et al. Commun Biol 3:578, 2020.
3)CanRisk Web Tool
4)Momozawa Y, et al. Nat Commun. 2018 Oct 4;9:4083.
5)Cybulski C, et al. Lancet Oncol. 2015 Jun;16:638-44.
6)Zhou J, et al. Cancer. 2020 Jul 15;126:3202-3208.
7)Wu Y, et al. Breast Cancer Res Treat. 2020 Feb;179:605-614.
8)NCCN Guidelines for Detection, Prevention, & Risk Reduction「Genetic/Familial High-Risk Assessment: Breast and Ovarian Version 1.2021」

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PALB2病的変異を有する遺伝性乳がん、日本での臨床的特徴は/日本癌治療学会

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 PALB2はBRCA2と相互作用するDNA修復に関連する分子で、PALB2遺伝子変異は乳がん、卵巣がんのリスクを増加させ、すい臓がんとの関連も指摘される。PALB2生殖細胞系列病的遺伝子変異(pathogenic or likely-pathogenic germline variant: PGV)を有する女性の70歳までの乳がんリスクは約35~50%、生涯の乳がんリスクは約5~8倍とされるが1)、その臨床的特徴に関する知見は限られる。樋上 明音氏(京都大学乳腺外科)らは、日本人乳がん患者約2,000例を調査し、PALB2 PGV症例の頻度と臨床的特徴について、第58回日本癌治療学会学術集会(10月22~24日)で報告した。

 対象は、2011年4月~2016年10月に京都大学医学部附属病院および関連施設で同意取得した1,995例。末梢血DNAを用いて乳がん関連11遺伝子についてターゲットシークエンスを行った先行研究2)のデータを元にPALB2に病的変異を認めた症例について乳がんの状況、診断時年齢、他がんの既往・家族歴等の臨床情報を後方視的に調査した。
 
 主な結果は以下のとおり。

・1,995例のうち9例にPALB2遺伝子に病的変異を認めた(0.45%)。
・診断時の年齢中央値は49歳(42~73歳)。サブタイプはLuminal typeが5例(55.6%)、Luminal HER2 typeが1例(11.1%)、TNBCが2例(22.2%)、DCISが1例(11.1%)であった。
・第3度以内の悪性腫瘍の家族歴を有する症例は4例(44.4%)。乳がん・卵巣がんの家族歴があったのは1例で、2人の姉が乳がん、もう1人の姉に境界悪性卵巣腫瘍、母に子宮がんを認めた。膵臓がんの家族歴は1例であり、その症例では大腸がんの家族歴も認めた。その他の症例では肝細胞がん、肺がん、胃がん、大腸がんの家族歴があった。
・9例のうち4例、3バリアントはClinVarでは未報告のものであった。
・非保有者との間で、サブタイプの割合に差はみられなかった。
BRCA1/2PGV症例と比較して、PALB2PGV症例では若年発症者が少なく、乳がん・卵巣がんの家族歴を有する割合が少ない傾向がみられた。
・9例についてCanRisk(家族歴、生活習慣や遺伝子変異、マンモグラフィ密度などによる乳がんまたは卵巣がんの発症リスクの計算モデル)3)を用いたリスク評価を行ったところ、BRCA1/2 遺伝子変異を有する可能性が5%以上(NCCNガイドラインにおける遺伝学的検査の評価対象基準)となったのは2例のみ(22.2%)であった。

 樋上氏は、日本の先行研究4)においてPALB2遺伝子病的変異を有する乳がん患者の頻度が0.40%と本結果と同程度であったことに触れ、他国における結果(ポーランド:0.93%5)、中国:0.67~0.92%6,7))と比較し低い傾向を指摘。未報告のバリアントがみられたことも踏まえ、バリアントの地域差がある可能性について言及した。

 また、NCCNガイドラインにおける遺伝的検査の評価対象基準8)を今回の9症例で検討したところ、4例は該当しなかった。同氏は「BRCA1/2と比較して発症年齢が高く、乳がん・卵巣がんの家族歴が少ないため、散発性乳がんに近く、ハイリスク症例の拾い上げが難しい」とし、パネル検査の増加に伴う診断症例の増加や、PALB2 PGV症例に対するPARP阻害薬適応についての研究が進む中、拾い上げ基準やサーベイランスの最適化が重要と考察している。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【参考文献・参考サイトはこちら】

1)Yang X,et al. J Clin Oncol. 2020 Mar 1;38:674-685.
2)Inagaki-Kawata Y, et al. Commun Biol 3:578, 2020.
3)CanRisk Web Tool
4)Momozawa Y, et al. Nat Commun. 2018 Oct 4;9:4083.
5)Cybulski C, et al. Lancet Oncol. 2015 Jun;16:638-44.
6)Zhou J, et al. Cancer. 2020 Jul 15;126:3202-3208.
7)Wu Y, et al. Breast Cancer Res Treat. 2020 Feb;179:605-614.
8)NCCN Guidelines for Detection, Prevention, & Risk Reduction「Genetic/Familial High-Risk Assessment: Breast and Ovarian Version 1.2021」

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ホルモン補充療法の乳がんリスク、治療法と期間で異なる/BMJ

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 英国・ノッティンガム大学のYana Vinogradova氏らの同国コホート内症例対照研究で、ホルモン補充療法(HRT)の乳がんリスクのレベルは、HRTの種類により異なり、併用療法および長期投与で高いことが示された。ただし、メタ解析と比較し、長期のHRTに関連した乳がんのリスク増加は小さく、治療の中止でリスクは顕著に低下することも示されている。先行研究では、長期的なHRTは乳がんのリスク増加と関連しており、治療中止後はリスク増加が減るものの数年間はリスクが高いままであることが、また最近の大規模メタ解析ではHRTに関連した乳がんリスクが予想よりも高いことが示されていた。BMJ誌2020年10月28日号掲載の報告。

治療法と期間別に乳がんリスクをコホート内症例対照研究で評価

 研究グループは、異なるHRTの種類および投与期間と乳がんリスク増大との関連を評価するため、英国のプライマリケア研究データベース、QResearchおよびClinical Practice Research Datalink(CPRD)のデータを用いたコホート内症例対照研究を行った。これらのデータベースは、入院、死亡、社会的剥奪およびがん登録(QResearchのみ)と連携している。

 解析対象は、1998~2018年の期間に乳がんの初回診断を受けた50~79歳の女性9万8,611例(症例群)、およびこの集団と年齢、一般診療、index dateを一致させた女性45万7,498例(対照群)であった。

 主要評価項目は、一般診療記録、死亡記録、入院記録、がん登録に基づく乳がんの診断とし、HRTの種類ごとに患者背景、喫煙状況、アルコール摂取、併存疾患、家族歴、他の処方薬で補正したオッズ比(OR)を算出し評価した。

長期のエストロゲン単独療法とエストロゲン+プロゲステロン併用療法で増加

 症例群3万3,703例(34%)および対照群13万4,391例(31%)が、index dateの1年前にHRTを受けていた。

 HRT使用歴なしと比較し、最近(過去5年未満)の長期(5年以上)使用者では、エストロゲン単独療法(補正後OR:1.15、95%信頼区間[CI]:1.09~1.21)およびエストロゲン+プロゲステロン併用療法(1.79、1.73~1.85)のいずれも乳がんのリスク増加と関連していた。併用するプロゲステロンについては、乳がんのリスク増加はノルエチステロンが最も高く(1.88、1.79~1.99)、ジドロゲステロンが最も低かった(1.24、1.03~1.48)。

 過去(5年以上前)のエストロゲン単独療法の長期使用、および過去の短期(5年未満)エストロゲン+プロゲステロン併用療法は、乳がんのリスク増加との関連は認められなかった。しかし、過去の長期エストロゲン+プロゲステロン併用療法では乳がんのリスクは高いままであった(補正後OR:1.16、95%CI:1.11~1.21)。

 HRT使用歴なしと比較した乳がん発症例の増加(1万人年当たり)は、最近のエストロゲン単独療法使用者では3例(若年女性)~8例(高齢女性)、最近のエストロゲン+プロゲステロン併用療法使用者では9例~36例、過去のエストロゲン+プロゲステロン併用療法使用者では2例~8例と予測された。

 結果を踏まえて著者は、「われわれの研究は、英国におけるさまざまなHRTの使用と乳がんリスク増大に関する一般化可能な新たな推定値を提供するものである」と述べている。

(医学ライター 吉尾 幸恵)


【原著論文はこちら】

Vinogradova Y, et al. BMJ. 2020;371:m3873.

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マンモ検診開始、40歳への引き下げは乳がん死を減少/Lancet Oncol

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 40代から始めるマンモグラフィ検診の乳がん死への効果について、英国で行われた無作為化試験「UK Age試験」の最終結果が、英国・ロンドン大学クイーン・メアリー校のStephen W. Duffy氏らにより公表された。40歳または41歳という、より若い年齢から始める毎年のマンモグラフィ検診は、乳がん死の相対的な減少と関連していることが示されたという。フォローアップ10年以降は有意差がみられなくなっていたが、絶対的減少は変わらなかった。結果を踏まえて著者は、「スクリーニング開始年齢を50歳から40歳に引き下げることは、乳がん死を減少すると思われる」とまとめている。Lancet Oncology誌2020年9月号掲載の報告。

 研究グループは、40~48歳時のマンモグラフィ検診の乳がん死への影響を推定する無作為化試験を行った。英国全土にわたる23ヵ所の乳がん検診施設で被験者を募り、39~41歳の女性を、一般医(GP)で層別化して1対2の割合で無作為に介入群と対照群に割り付けた。

 介入群は、試験に包含された時の年齢から暦年で48歳に達するまで毎年マンモグラフィ検診を受けた。対照群は、国民保健サービスの乳がん検診プログラム(NHSBSP)から案内が来た約50歳時に初回検診を受ける標準ケアを受けた。介入群の女性への受診案内は郵送で行われた。また、対照群は試験参加を認識していなかった。

 主要エンドポイントは、被験者のNHSBSP初回検診前の介入期間中の乳がん死(直接の死因が乳がんであるとコード化されていた)診断であった。

 死亡への影響の時期を調べるため、さまざまなフォローアップ期間での結果を解析した。主要比較は、無作為化状況の準拠にかかわらず全女性を対象に行った(intention-to-treat解析)。本論では、長期的な解析が報告された。

 主な結果は以下のとおり。

・1990年10月14日~1997年9月24日に、16万921例の女性が試験に登録された。
・5万3,883例(33.5%)が介入群に、10万6,953例(66.5%)が対照群に無作為に割り付けられた。
・無作為化から2017年2月28日までのフォローアップの中央値は、22.8年であった。
・フォローアップ10年時点で乳がん死の有意な減少が観察された。介入群83例vs.対照群219例(相対比[RR]:0.75、95%信頼区間[CI]:0.58~0.97、p=0.029)。
・それ以降は有意な減少は認められなかった。介入群126例vs.対照群255例(RR:0.98、95%CI:0.79~1.22、p=0.86)。

(ケアネット)


【原著論文はこちら】

Duffy SW, et al. Lancet Oncol. 2020;21:1165-1172.

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術前療法を受けたHER2+乳がんの術後療法でのDS-8201、第III相試験開始/第一三共・AZ

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 第一三共とアストラゼネカは11月4日、トラスツズマブ デルクステカン(商品名:エンハーツ、開発コード:DS-8201)について、術前療法後に浸潤性残存病変を有する再発リスクの高いHER2陽性の乳がん患者を対象とした第III相試験(DESTINY-Breast05)を北米、欧州、アジアで開始したと発表した。

 本試験は、術前療法を経た手術後に乳房または腋窩リンパ節に浸潤性残存病変を有するHER2陽性乳がん患者のうち、再発リスクが高い患者を対象とした本剤とT-DM1を直接比較する第III相試験。有効性の主要評価項目は無浸潤疾患生存期間(IDFS)、安全性の評価項目は有害事象などで、最大1,600例を登録予定である。

(ケアネット 金沢 浩子)


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COVID-19、エクソソームによる予防と治療の可能性/日本癌治療学会

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 10月に行われた第58回日本癌治療学会学術集会において、医療のさまざまな場面で活用されることが急増するリキッドバイオプシーの現状について、「目を見張る進歩をきたしたリキッドバイオプシー」とのテーマでシンポジウムが行われた。この中で東京医科大学の落谷 孝広氏(分子細胞治療研究部門)は「エクソソームによる新型コロナウイルス感染症の予防と治療」と題し、発表を行った。

 エクソソームとは、細胞から分泌される直径50~150nm程度の物質で、表面には細胞膜由来の脂質やタンパク質、内部には核酸(マイクロRNA、メッセンジャーRNA、DNAなど)やタンパク質など細胞内の物質を含み、細胞間の情報伝達の役割を担うとされる。近年の研究においては、がん細胞由来のエクソソームが、がんの転移に深く関わることも明らかになっている。

 落谷氏は、がん領域を中心に、エクソソームに関する研究が数多く行われている状況を紹介。膀胱がんにおける早期発見と再発検出、前立腺がんにおける診断マーカーや骨転移の診断、乳がんにおける早期発見や薬剤の副反応や予後予測などに使った研究などを紹介した。落谷氏は「がんの早期発見、層別化、個別科医療の実現と、エクソソームはがん治療のあらゆるフェーズで使える可能性を持っている」と述べつつも、現状は研究上での成果が出た段階であり、「健康診断や臨床の現場で使われ、がんの死亡率を下げ、医療費削減に貢献することが最終目標。そのためには今後の大規模治験が欠かせない」と強調した。

 続けてエクソソームを介した情報伝達のシステムはすべての細胞・生物に共通するものだとし、COVID-19のウイルス(SARS-CoV-2)とエクソソームは非常に形状が似通っており、大きさも同等であると指摘。特定のエクソソームのクラスターがCOVID-19重症化の予測因子として使える可能性がある、という研究結果を紹介した。

 落谷氏らの研究チームは、PCR検査でCOVID-19陽性と判定され、入院となった軽症患者31例と健常者10例を対象とし、エクソソームのタンパク質と血液中RNAの2種類に関して網羅的な解析を行い、その後重症化した9例において高値となった複数のRNAを同定した。

 軽症のままだった患者は、陽性判明時点で抗ウイルス応答関連のエクソソームタンパク質が高発現していた。重症化した患者はそれがない一方で、凝固関連エクソソームタンパク質およびRNAと肝障害関連RNAが高発現していた(抗ウイルス応答関連エクソソームタンパク質COPB2の重症化予測因子としてのAUC=1.0、感度・特異度共に100%)。

 落谷氏は、「新型コロナウイルス感染症の重症化の特効薬は存在しない現状では、陽性判定時に重症化リスクによって層別化し、ハイリスク群を徹底管理することが重要。軽症者は早期退院・自宅療養として医療崩壊を食い止めるとともに、経済への影響も最小限にできるはず」とする。

 現在、この研究結果をもとに別の患者集団による検証解析が行われているが、今回同定された分子のいくつかはSARS-CoV-2の治療標的分子や病態との関連が報告されており、単なる血液バイオマーカーとしてだけでなくCOVID-19の重症化メカニズムに関与している可能性が示唆される。このエクソソームやRNAを補充あるいは除去することが新たなCOVID-19治療法の開発につながることも期待されている。

関連サイト
【プレスリリース】東京医科大学医学総合研究所の落谷孝広教授が参画する研究チームが、リキッドバイオプシーを用いたCOVID-19における重症化予測因子の同定/東京医科大学

(ケアネット 杉崎 真名)


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乳がんでの免疫チェックポイント阻害薬の臨床開発はかなり複雑/日本癌治療学会

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 2020年の乳がん診療におけるトピックスの1つとして、トリプルネガティブ(TN)乳がんに対する免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の第III相試験の結果が多く発表されたことが挙げられる。しかし、これらの結果にはまだまだ未知の要因が関係しており、その理解はかなり複雑である。福島県立医科大学の佐治 重衡氏は、これらの試験結果によるディスカッションポイントについて、第58回日本癌治療学会学術集会(10月22~24日)の会長企画シンポジウムにおける「乳癌診療の新たな構築 2020」で解説した。

 乳がんでは腫瘍遺伝子変異量(TMB)が少ないとされ、ICIへの期待は高くはなかった。しかし、2019年にPD-L1陽性進行/再発TN乳がんに対するアテゾリズマブ+nabパクリタキセルが承認され、今後、ペムブロリズマブもKEYNOTE-355試験の結果を基にPD-L1陽性進行/再発TN乳がんに承認される可能性が高い。今回、佐治氏は、乳がんにおけるICI治療でのディスカッションポイントとして、早期乳がんと進行/再発乳がんでICIの効果が異なる点、ICIと組み合わせる化学療法によって異なる点を挙げ、それぞれ解説した。

早期乳がんと進行/再発乳がんでICIの効果が異なるのは?

 早期(Stage II~III)TN乳がんの術前治療としてのアテゾリズマブを検討した第III相試験であるIMpassion031試験がESMO2020で発表された。本試験では、術前治療としてnabパクリタキセルを12週投与後、ドキソルビシン+シクロホスファミド8週投与する群とアテゾリズマブ追加群を比較した結果、術後の病理学的完全奏効(pCR)がアテゾリズマブ追加群で57.6%とプラセボ群(41.1%)より16.5%上乗せされたことが示された。また、この上乗せはPD-L1発現状況にかかわらずみられた。

 ESMO2019で発表されたKEYNOTE-522試験においても、IMpassion031試験とは化学療法(カルボプラチン+パクリタキセルを4サイクル後、ドキソルビシン/エピルビシン+シクロホスファミドを4サイクル)は異なるが、早期TN乳がんの術前治療にペムブロリズマブを追加することによりpCRの上乗せが示された。また、IMpassion031試験と同様に、PD-L1発現状況にかかわらず15%前後の上乗せが示された。どちらもリンパ節転移陽性例のほうが陰性例より上乗せ効果が高かった。

 佐治氏は、この2つの試験結果から、なぜ早期乳がんではPD-L1陰性でも効果があるのか、また、なぜリンパ節転移陽性だとpCRの上乗せが顕著なのか、疑問を呈した。

 まず前者について、佐治氏はESMO2020で発表されたNeoTRIP試験(早期TN乳がんに術前治療としてカルボプラチン+nabパクリタキセルにアテゾリズマブを追加)の結果を提示した。本試験では、術前治療前と途中のペア組織生検からPD-L1の発現変化を調べた結果、アテゾリズマブ併用群では、治療前にPD-L1陰性だった患者のうち64.3%が治療の途中で陽性となったのに対して、プラセボ群では17.7%しか陽性にならなかった。この結果から、佐治氏は、抗PD-L1抗体の併用により原発腫瘍のPD-L1の発現が誘導される可能性を言及した。

リンパ節転移のICIの効果への影響は?

 後者については、治療する時点でリンパ節転移がある場合にICIの効果が顕著であるとするなら、リンパ節転移陽性の患者さんが乳房切除+リンパ節郭清といった手術後にICIを受けるときの効果はどうなるのか、という疑問が生じる。

 これまで術前治療と術後治療は効果が同じという前提で治療を行ってきているが、治療時にリンパ節転移があるほうがICIの効果が高いという仮説が正しいのであれば、術前治療と術後治療においてICIの利益には差があることになってしまう。佐治氏は「もしそうであれば、ICIを使用する時代になったときに手術を含めた治療戦略そのものを変えなければいけない」と述べ、「今後、術後治療でのICIの結果が出てきたとき、リンパ節転移の有無が本当に大事なのかどうかは重要なポイントとなる」と指摘した。

ICIと組み合わせる化学療法の違いで異なる結果

 ICIと組み合わせる化学療法については、これまで、何を選んでもある程度の上乗せを期待できると考えられてきた。しかし、ESMO2020で発表されたIMpassion131試験は、対象が同じ未治療のPD-L1陽性進行/再発TN乳がんであるにもかかわらず、IMpassion130試験と異なる結果であった。すなわち、アテゾリズマブにnabパクリタキセルを組み合わせたIMpassion130試験では、無増悪生存期間(PFS)の上乗せ効果があったのに対し、パクリタキセルを組み合わせたIMpassion131試験では上乗せ効果がなかった。

 この理由として、パクリタキセルの場合はステロイドを投与するためという意見もあるが、KEYNOTE-355試験など、ステロイドを必要とする化学療法との組み合わせがある他の試験では効果がみられているため、よくわかっていないという。佐治氏は、「今後、サブセット解析や細かいデータを見直した結果が発表されたときに、化学療法のペアの問題がどれくらい重要なのかがわかるだろう」と述べた。

 最後に佐治氏は、「進行/再発乳がんではPD-L1陽性例にしか効果がないのに、なぜ早期乳がんではPD-L1の発現によらず効果があるのか。また、早期乳がんにおいてリンパ節転移が治療効果に影響している結果をどう解釈すればよいのか。さらに、どの化学療法を組み合わせて開発していくのか。乳がんにおけるICIの臨床開発は簡単ではなく、やるべきことが多いことがわかった」と課題を述べ、講演を締めくくった。

(ケアネット 金沢 浩子)


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がん診療病院でのCOVID-19クラスター、その教訓は/日本癌治療学会

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 市中感染が広がる状況下では、感染者が院内に入り込む可能性や院内感染発生のリスクが常にある。リスクをいかに減らし、万が一予期せぬ感染者が発覚した場合にどのような対応が必要か、がん診療をどのように維持していけばよいのか。第58回日本癌治療学会学術集会(10月22~24日)で、「COVID-19蔓延期の癌治療―体験と教訓―」と題した会長企画シンポジウムが開かれ、がん診療を担う病院での今春からの経験、実施している対策が相互に共有された。本稿では、加藤 秀則氏(北海道がんセンター)、佐藤 悠城氏(神戸市立医療センター中央市民病院)による発表内容を中心に紹介する。

がんセンターでクラスター発生、背景に何があったか

 北海道がんセンターでは、4月13日に消化器内科病棟で看護師1名と患者1名が発熱、翌日には同病棟勤務の看護師2名も発熱した。当時院内ではPCR検査が実施できなかったため、保健所を通じPCR検査を実施したところ、16日に4名で新型コロナウイルス陽性を確認。これを契機に、同病棟および隣接する泌尿器科(同フロア)の患者、勤務する看護師、医師らの間で集団感染が発生した。厚生労働省クラスター班による調査・指導等を経て、5月16日に看護師1名の感染が確認されたのを最後に、6月13日の終息宣言に至った。

 加藤氏は、クラスターが発生してしまった原因として下記を挙げている:
・病院の収益を確保するため、病床稼働率を上げなければならず病棟は密な状態であった
・がん患者はさまざまな病態で熱発していることも多く、最初からコロナ肺炎を疑わない症例も多い
・がん患者はPSの悪いことも多く、看護師が密着せざるを得ない看護も多い
・築40年程度経過した病院で全体にスペースも狭く、空調も悪く、陰圧室もない
・PCR検査は市の保健所でしか実施できず、疑い症例を自由に、迅速に行える状況ではなかった

 端緒となったと考えられる患者は感染発覚前に、消化器内科から泌尿器科の病室に移っており、その隣室患者および看護した看護師へと伝播していった。加藤氏は、「進行がんで看護必要度の高い患者さんが多く、主に看護師を通して伝播したと考えられる」と話した。感染者の中には清掃やリネン、放射線技師といった病棟横断的に業務を行う者も含まれており、院内感染防止の観点から注意が必要な部分と振り返った。

 また、消化器内科病棟勤務で感染した看護師19名のうち、1回目のPCR検査で陽性となったのは13名。2回目が5名で、症状だけが続き4回目ではじめて陽性となった者も1名いたという。加藤氏は、PCR検査の感度、タイミングの問題も考えていかなければいけないと話した。

外来・病棟それぞれにおける感染対策の改善点

 同センターでは、外来・病棟それぞれにおいて、下記を中心とした感染対策の改善を行っている。

[外来での改善点]
・待合室の3密対策
・入口を1ヵ所にしてサーモグラフィチェック
・発熱者の隔離部屋を用意
・採血室、外来化学療法室の増設
・過密回避、外来診察室の医師と患者の間にスクリーンの設置
・各受付にスクリーンの設置
・CTなどの検査機器、X線照射装置、胃カメラ、ベッドなどは毎回消毒
・電カル、キーボード、マウスのアルコールペーパーでの消毒など職員の衛生意識改善

[病棟での改善点]
・定期入院はすべて事前にPCRと肺CT検査を行い陰性者のみ入院
・PCRは自院の装置、検査会社との契約により件数拡充
・臨時入院は個室隔離し、PCR結果が出るまではPPE対応
・病室は過密対策で稼働を50%にコントロール
・看護師休憩室の増設
・面会の全面禁止

 また、復帰した医療者のメンタルケアの重要性を感じたと加藤氏。感染症から回復して復帰しても、精神的に回復するまでには時間を要したという。「プライバシー保護にも配慮が必要であるし、回復には時間がかかる。専門の心理療法士に依頼し、病院全体を挙げてのケアの必要性を感じた」と話した。

COVID-19患者の在院日数の長さ、ゾーニングの盲点、強い感染力が背景因子に?

 神戸市立医療センター中央市民病院は、地域がん診療拠点病院であるとともに第一種感染症指定医療機関で、神戸市でCOVID-19が初発した3月上旬より、約200例のCOVID-19患者を受け入れている。うち、7例が院内感染によるもの。佐藤氏は、院内感染発生の原因として、1)COVID-19患者の在院日数の長さ、2)ゾーニングの問題、3)強い感染力を挙げて考察した。

 1)については、酸素投与を要した患者における在院日数の中央値は31日、ICU在室日数の中央値は9日と長く、病床がひっ迫していた状況があった。2)10床の感染症病床(陰圧個室)を有し、専門看護師が感染者の看護に従事していたが、ナースステーションと休憩室は一般病床を担当する看護師と共通で、ここで医療従事者間での感染が起こったと推測される。3)同院での院内感染の伝播において重要な役割を果たしたと考えられる患者は、透析患者で当初感染が疑われておらず、せん妄があったことなどからナースステーションでの大声での発話などがあり、PCRでは高ウイルス量が検出されるなどの因子が重なって、複数の医療従事者の感染につながったことが推測される。

多いCOVID-19疑似症、対策はあるのか

 同院では、ビニールシートによる職員の保護等ゾーニングの徹底や、全例PCRを実施する入院前検査のほか、COVID-19合同診療チームを立ち上げて対策にあたっている。重症例はICUで一括管理できるものの、軽症~中等症例はICUを出た後各科の持ち回りになるため、1人の医師が感染者と非感染者の診療を行うことに対するリスクを減らすため、このチームが立ち上げられた。全科から選抜、各科業務を完全に外れ、2週間勤務後1週間の自宅待機を経て復帰する。

 2月はじめから院内感染により病院が機能停止した4月中旬までの約2ヵ月半で、救急外来と感染症外来を受診したCOVID-19疑似症患者は286例に及ぶ。そこで同院では、感染拡大期には感染疑い病棟を設置。PCR検査が陰性であっても、類似症状や胸部異常影がある患者についてはいったん同病棟に収容し、担当医も分ける形をとるようにした。感染対策解除基準のフローを作り、どうしても臨床的な疑いが解除できない患者においては何度でもPCR検査を行い、それまで感染症対応を解除しないという方法をとっている。

「今後のがん診療では、COVID-19疑似症の対応は必須になるのではないかと考えている」と佐藤氏。胸部CTにおいて、一見器質化肺炎が疑われた患者でCOVID-19陽性であった例や、末梢側のすりガラス影がみられる患者で薬剤性肺障害であった例など、いくつか自験例を示して解説した。

 自院の症例約100例でCOVID-19と薬剤性肺障害の背景因子を後ろ向きに比較した結果では、COVID-19症例では陰影のある肺葉数が多いという傾向はみられたものの、大きな臨床所見の差はみられなかった。呼吸器内科医としては、今後これらの鑑別をしっかり行っていかなければならないと話し、またCOVID-19後遺症として罹患後に間質陰影を呈した肺がん症例での治療再開の判断の難しさにも触れ、後遺症に関してもエビデンスの蓄積が待たれるとした。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


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