海外研修留学便り 【米国留学記(藤井 健夫氏)】第3回

[ レポーター紹介 ]
藤井 健夫(ふじい たけお )

2007年     信州大学医学部卒業
2007-2008年 在沖縄米国海軍病院インターン
2008-2010年 聖路加国際病院初期研修
2010-2013年 聖路加国際病院内科後期研修、チーフレジデント、腫瘍内科専門研修
2013-2015年 MPH, University of Texas School of Public Health/Graduate Research Assistant, University of Texas MD Anderson Cancer Center, Department of Breast Medical Oncology
2015-2016年 Clinical Fellow, University of Texas MD Anderson Cancer Center, Department of Investigational Cancer Therapeutics (Phase I clinical trial department)
2016-2019年 Internal Medicine Resident, University of Hawaii/Research Fellow, University of Hawaii Cancer Center (Ramos Lab)
2019年-現在  Medical Oncology Fellow (Translational Research Track), Cold Spring Harbor Laboratory (Egeblad Lab)/Northwell Health Cancer Institute

 テキサス大学MDアンダーソンがんセンターとハワイ大学でのレジデント、フェロー等の経験を経て、現在はCold Spring Harbor Laboratoryで腫瘍内科のフェローとして勤務する藤井健夫氏に、留学後のキャリアプランニングの考え方や、教育プログラム・診療の日米間での違いについて4回にわたってレポートいただきます。第3回では専門分化された米国の臨床システムの中での腫瘍内科医の役割についてお伺いしました。

 

第3回:日本よりも役割分担が明確化された米国の臨床システム

 まず初めに、国が違えばシステムも違いますし文化背景も違います。その違いをもってどちらが「良い」とか「悪い」などの議論は難しいかと思います。ここでは、私が感じる米国と日本での臨床のシステムの違いについてできる限り客観的に述べたいと思います。

入院診療で中心となる“ホスピタリスト”の役割とは

 まず、入院診療に関しては、第2回で述べたホスピタリストが入院主治医になり、腫瘍内科医はコンサルタントとして関わることが多いかと思います(田舎の病院や総合病院から独立したがんセンターなど、例外は存在します)。私が頻繁に感じるのは、米国の医療は日本以上に専門分化されているために、各専門科の医師が他診療科の疾患のマネージメントをする能力を維持するのが難しくなる(その機会がない)ことも多くあります。そのため、内科全般を知っているホスピタリストがチームリーダーとなり、患者さんの病態に応じて必要な専門科にコンサルトをするという形をとっています。各専門科は自分のアセスメントと治療方法のRecommendationをホスピタリストに伝え、ホスピタリストがそのRecommendationsを基にマネージメントを行います。このためわれわれ腫瘍内科医は、ほとんどの場合はがんに関連した問題に関しての診療アドバイスのみをホスピタリストに行います。

 外来に関しては、大きな流れは日本と変わりないように思います。ただ、病棟管理と同様、各専門家が管理できる範囲が狭いために、他科へのコンサルトの閾値は非常に低いように感じます。違いの一つは、一部開業医や田舎の病院を除いて、医師、診療看護師(Nurse Practitioner:NP)もしくはPhysician Assistant(PA)、看護師からなる「外来チーム」として働いていることです。たとえば、大切な話をするとき(CTの結果説明、腫瘍が進行しているという悪いニュースなど)には医師との外来予約がされますが、治療中でも副作用などが少なく安定している人や、治療や疾患に関連した内科的問題(電解質異常、嘔気・嘔吐のフォローなど)はNPやPAが自分たちで外来フォローし、必要に応じて医師に相談する形になっています。これによって医師の一日の外来数がコントロールされています。化学療法投与中も安定していれば、投与前診察など医師の診察は毎回は必要ありません(プロトコールに従って、投与前の血液検査と症状の確認は看護師やNP・PAが行い、化学療法の投与が可能かどうかに困った場合は医師に適宜相談します)。

 

“緊急時の対応”と“誰が主治医になるか”が日本とは大きく異なる

 もう一つ感じる日本との大きな違いは、外来で「緊急」に何かをすることはできないということです。たとえば、外来で患者さんから「朝から呂律がまわらない」と言われたとしても、日本のように電話一本で緊急で画像検査を行うというようなことはできません(何をするにしても保険会社からの事前承認が必要ということも大きく関連しているかと思います)。ですので、日本では腫瘍内科外来でアセスメントしているようなこともすべて救急外来に患者さんを送ることになります。緊急入院も同じです。たとえば外来にいる患者さんが化学療法の副作用で下痢がひどく、入院が必要と判断されても外来から直接入院させることは基本的にはできません。まずは救急外来に患者さんを送り、基本的な検査と処置が救急外来でなされた後に、救急の医者が入院が必要と判断すればホスピタリストに連絡をして、ホスピタリストが自分が主治医として入院させるという流れになります。その後、ホスピタリストから腫瘍内科に連絡が来て、われわれはコンサルタントとして入院中は併診します。日本であれば電話一本で外来から入院させて、腫瘍内科医自身が診療主治医になるということが多くあるかと思います。


海外研修留学便り 【米国留学記(藤井 健夫氏)】第2回

[ レポーター紹介 ]
藤井 健夫(ふじい たけお )

2007年     信州大学医学部卒業
2007-2008年 在沖縄米国海軍病院インターン
2008-2010年 聖路加国際病院初期研修
2010-2013年 聖路加国際病院内科後期研修、チーフレジデント、腫瘍内科専門研修
2013-2015年 MPH, University of Texas School of Public Health/Graduate Research Assistant, University of Texas MD Anderson Cancer Center, Department of Breast Medical Oncology
2015-2016年 Clinical Fellow, University of Texas MD Anderson Cancer Center, Department of Investigational Cancer Therapeutics (Phase I clinical trial department)
2016-2019年 Internal Medicine Resident, University of Hawaii/Research Fellow, University of Hawaii Cancer Center (Ramos Lab)
2019年-現在  Medical Oncology Fellow (Translational Research Track), Cold Spring Harbor Laboratory (Egeblad Lab)/Northwell Health Cancer Institute

 テキサス大学MDアンダーソンがんセンターとハワイ大学でのレジデント、フェロー等の経験を経て、現在はCold Spring Harbor Laboratoryで腫瘍内科のフェローとして勤務する藤井健夫氏に、留学後のキャリアプランニングの考え方や、教育プログラム・診療の日米間での違いについて4回にわたってレポートいただきます。第2回では米国での教育プログラムの特徴的な点についてお伺いしました。

 

第2回:教育プログラムは日米でどんな違いがあるのか

米国での臨床トレーニング、大きな特徴だと感じた点は2つ

 私は腫瘍内科ですので、内科のトレーニングを中心に米国での臨床トレーニングについてお話ししたいと思います。研修は大きく分けて内科全般の基本を学ぶレジデンシー(3年間)とその後に専門科を持ちたい人のためのフェローシップ(科によって1~4年程度)があります。外科の場合はレジデンシーが5年など、科によって年数は違います。最初の3年間で内科全般について学び内科専門医の試験資格が得られ、フェローシップに進まない場合はホスピタリスト(入院患者の主治医として働き例外を除き外来診療は行いません)もしくはプライマリケア医(かかりつけ医として外来診療を行い例外を除き入院診療は行いません)として働きます。

 フェローシップにも共通する私が感じた大きな特徴は2点あります。1点目は外来診療研修です。研修期間すべてを通じて、どのローテーションであっても週に半日は「Continuity clinic」で自分の患者さんの継続診療を行うことが専門医取得に必須となっています。2点目はトレイニー(研修医)とアテンディング(指導医)がはっきりと区別されていることです。研修医のカルテは指導医のCo-signがない限りは正式なカルテとして認められません。このプロセスの中で指導医が研修医のカルテを確認し、必要に応じて修正、教育的指導を継続して行うことで研修医のカルテの質が向上していくという流れです。その他の例としては、乳腺腫瘍内科の外来でContinuity Clinicを行っているのですが、化学療法は研修医がオーダーを指導医に送りサインをもらって初めて有効なものとなります。

臨床医として働くのか、研究者を目指すのか

 ここまでは一般的な話ですが、以下は腫瘍内科に関して将来像によってどのように研修が違ってくるのかということについて述べたいと思います。まず、腫瘍内科のトレーニングと書きましたが、Hematology/Oncologyのフェローシップといわれることがほとんどで、3年のフェローシップ終了後に「血液内科」と「腫瘍内科」の2つの専門医試験受験資格が得られることがほとんどです。血液内科は良/悪性の血液疾患を含み、腫瘍内科は血液を含めた悪性腫瘍全般となります。腫瘍内科は血液悪性疾患も含むのですが、イメージとしては固形がんと考えてもらって大きな間違いはないかと思います。私の場合は乳がんを専門にすることを決めているので、腫瘍内科のみを選択しましたが、多くのフェローは両方取得します。もう一つの違いは、フェローシップ終了後に臨床医として働くのかPhysician Scientistとして研究室を持つようなMDになるのかという違いです。

 臨床医として働く場合がほとんどで、この場合3年間のトレーニングは主に臨床に重点を置き、興味のあるフェローは臨床研究を行ったりもします。一方、将来研究室を持つことを目指すためのトレーニングは研究環境が整ったプログラムでのみ可能であり、1年程度の臨床のトレーニングの後、残りの2年はContinuity Clinic以外は基礎研究を行うことが多いです。基礎研究では2年は短すぎるため、1年間程度フェローを延長して基礎研究を行い、その間に研究者としてやっていくことに値するような論文を書くもしくは研究費をとって初めてJunior Facultyとしての仕事にありつけます。Junior Facultyとして継続して研究費を取る能力を持つことで初めて独立して自分の研究室が持てます。一方で、この期間中に研究費がとれない、あるいは研究費につながるような論文が出ない場合は、独立した研究者としての道はあきらめないといけないということにもなります。


臨床上の疑問とリサーチ・クエスチョン【「実践的」臨床研究入門】第1回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

 

学会抄録締切前に良くある? 風景

指導医A:
そろそろ〇〇学会の抄録締切だね。
外来の慢性腎臓病患者さんに対する食事療法のデータも集まってきたし、何か演題出せないかな。

専攻医B:
データ・セットはもうあるのですか?

指導医A:
うん、このUSBに途中までは入力してあるから、足りないところは補って統計解析してみてよ。

専攻医B:
ところで、何について統計解析すれば良いのですか?

指導医A:
そうだなぁ。あまりよく考えてないけれど、“食事療法と患者予後”みたいな感じでどうかな。
それで、どうにか有意差出してみてよ。よろしくね!

専攻医B:
わかりました、やってみます…(病棟業務で忙しいのに…泣)

 学会抄録締切直前になると、日本全国の病棟や医局でこのような風景がよくみられるのではないでしょうか。 この架空のシナリオに登場した指導医A先生の発言には、丸投げ感満載の若干パワハラ(アカハラ?)チックな面は置いておくとしても、キチンとした臨床研究を実践するうえで、いくつかの問題点があります。

 

クリニカル・クエスチョンとリサーチ・クエスチョン

 クリニカル・クエスチョン(CQ)とは臨床現場で日々生じる「漠然とした臨床上の疑問」です。指導医A先生は「“食事療法と患者予後”みたいな感じ」と言っているので、“食事療法と患者予後”について何かCQを持っているのかもしれません。たとえば、「食事療法を遵守すると慢性腎臓病患者の腎予後は本当に改善するのだろうか」というような。

 リサーチ・クエスチョン(RQ)はこの「漠然とした臨床上の疑問」であるCQを「具体的で明確な研究課題」に落とし込んだものです。別の言い方をすれば、RQとは「臨床研究で明らかにしたい臨床上の疑問を、具体的かつ明確に示した短い文」です。典型的なRQは「ある疾患を有する患者にAという治療を行った場合と、行わなかった場合を比較して生命予後に違いがあるだろうか?」というような疑問文の形をとることが多いです。

 また、RQは以下の4つの要素によって構成されることが一般的です。

Patients(対象)
Exposure(曝露要因)もしくはIntervention(介入)
Comparison(比較対照)
Outcome(アウトカム)

 これらの4つの要素は頭文字を並べてPECOまたはPICOと呼ばれます。このPE(I)COは「漠然とした臨床上の疑問」であるCQを「具体的で明確な研究課題」であるRQに「流し込む」際の、代表的な「鋳型」になります。また、この「鋳型」は臨床研究立案だけでなく臨床研究論文を読み解く際にも有用なツールとなりますので、PE(I)COの要素を意識しながら論文を読んでいただくと良いと思います。

 

臨床上の疑問の定式化:PE(I)CO

 指導医A先生の「“食事療法と患者予後”みたいな感じ」のままでは箸にも棒にもかかりません。この発言を忖度して、前述のとおり推察して考えた仮のCQを「食事療法を遵守すると慢性腎臓病患者の腎予後は改善するのだろうか」、としたとします。このCQをもとに、丸投げされてかわいそうな専攻医B先生の身になって、まずはざっくりとRQの典型的な「鋳型」であるPE(I)COへ「流し込む」ことを考えてみましょう。この手順を「臨床上の疑問の定式化」とも言います。

CQ:食事療法を遵守すると慢性腎臓病患者の腎予後は改善するのだろうか

P:慢性腎臓病患者
E:食事療法の遵守
C:食事療法の非遵守
O:腎予後

 このように、ざっくりとしたRQ(PECO)を立てたあとは、PECOそれぞれの要素を具体的かつ明確なカタチに磨き上げる必要があります。次回は、RQをブラッシュアップする過程について解説します。

 


【 参考文献 】

1)福原俊一. 臨床研究の道標 第2版. 健康医療評価研究機構;2017.
2)木原雅子ほか訳. 医学的研究のデザイン 第4版. メディカル・サイエンス・インターナショナル;2014.
3)矢野 栄二ほか訳. ロスマンの疫学 第2版. 篠原出版新社;2013.
4)中村 好一. 基礎から学ぶ楽しい疫学 第4版. 医学書院;2020.

講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学統括研究推進センター研究推進部門 教授
昭和大学医学部内科学講座腎臓内科学部門/衛生学公衆衛生学講座 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


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(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

第28回日本乳癌学会学術総会 会長インタビュー

提供元:CareNet.com

出演:愛知県がんセンター副院長兼乳腺科部長 岩田 広治氏

2020年10月9日より、第28回日本乳癌学会学術総会がバーチャル開催される。総会の主題は「We Can Do ~making better future~」である。 会長の愛知県がんセンター副院長兼乳腺科部長 岩田 広治氏に総会の趣旨と見どころについて聞いた。

 

総会概要

 

会長特別企画、緊急特別企画etc

 

MeetTheExpert、ポスターツアーetc

 

オフィシャルプログラム、おもてなし企画etc

 

レポーター紹介

岩田 広治 ( いわた ひろじ ) 氏
愛知県がんセンター病院 副院長・乳腺科部長


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ESMO2020速報 乳がん

harasense

|企画・制作|ケアネット

2020年9 月18 ~21日に開催されたESMO Virtual Congress2020の乳がんトピックを、がん研究会有明病院 原 文堅氏が速報レビュー。


レポーター紹介

harasense

原 文堅 ( はら ふみかた ) 氏
がん研究会有明病院 乳腺センター


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海外研修留学便り 【米国留学記(藤井 健夫氏)】第1回

[ レポーター紹介 ]
藤井 健夫(ふじい たけお )

2007年     信州大学医学部卒業
2007-2008年 在沖縄米国海軍病院インターン
2008-2010年 聖路加国際病院初期研修
2010-2013年 聖路加国際病院内科後期研修、チーフレジデント、腫瘍内科専門研修
2013-2015年 MPH, University of Texas School of Public Health/Graduate Research Assistant, University of Texas MD Anderson Cancer Center, Department of Breast Medical Oncology
2015-2016年 Clinical Fellow, University of Texas MD Anderson Cancer Center, Department of Investigational Cancer Therapeutics (Phase I clinical trial department)
2016-2019年 Internal Medicine Resident, University of Hawaii/Research Fellow, University of Hawaii Cancer Center (Ramos Lab)
2019年-現在  Medical Oncology Fellow (Translational Research Track), Cold Spring Harbor Laboratory (Egeblad Lab)/Northwell Health Cancer Institute

  テキサス大学MDアンダーソンがんセンターとハワイ大学でのレジデント、フェロー等の経験を経て、現在はCold Spring Harbor Laboratoryで腫瘍内科のフェローとして勤務する藤井健夫氏に、留学後のキャリアプランニングの考え方や、教育プログラム・診療の日米間での違いについて4回にわたってレポートいただきます。第1回ではご自身が留学を決めた経緯から、留学後のキャリアプランと選択肢についてお伺いしました。

 

第1回:留学をプロセスの1つと考えたとき、その後にはどんな選択肢があるのか?

 ニューヨークにあるCold Spring Harbor Laboratory/Northwell Health Cancer Instituteのプログラムで、腫瘍内科のフェローを行っている藤井健夫と申します。Translational Research Track Programのフェローであり、今年の6月に専門医取得に必要な1年間の臨床研修期間を終え、現在は週に半日の外来以外はCold Spring Harbor Laboratoryで乳がんの転移とTumor Microenvironmentに関する基礎研究を行っています。今回は米国での臨床留学を志した経緯や理由、その準備についてまとめるとともに、留学というプロセスの後にどのような進路があるのかなどキャリアプランニングについて、私の経験を基にお話ししたいと思います。

なぜ、米国での臨床留学を目指したか

 そもそも私が臨床留学を目指したきっかけは(恥ずかしながら)非常にシンプルでありました。医学生の頃より漠然とがんの化学療法に興味はあったもののはっきりとしたビジョンはなく、医学部4年生の時に基礎教室に配属されるカリキュラムを利用してフィラデルフィアに7週間滞在した際、偶然にも当時内科のインターンをしていた日本人の先生と出会い、「日本人が米国で臨床をする」ということと「腫瘍内科」というがん種を問わずに全身治療を学ぶトレーニングがあることを知りました。その後、当時聖路加国際病院のブレストセンター長であった中村清吾先生のご紹介で米国の腫瘍内科を実際に見学する機会も頂き、当時の日本では腫瘍内科という概念はいまほど根付いていなかった状況の中で、これこそが自分のやりたいことであると確信したのでした。この時点では臨床医としての腫瘍内科医のイメージしかないのですが、自分の目指すものはその後大きく変化してきたことは後述したいと思います。

 その後、私自身が行った臨床留学の準備については失敗も含めて書ききれないほどあるのですが、語学や資格試験の準備の他には、「留学のノウハウを知っている人とのつながりを広げる」ということを積極的に行いました。この時に出会った方々のアドバイスや助けがなければ、今の自分はなかったと思います。

日本に帰るか米国に残るか、考えられる選択肢は

 多くの先生方にとって留学はあくまでプロセスであり、渡米の時点では日本に帰ることを想定していると思います。その場合の目的は、日本では体系的に学ぶ機会が少ないものを学ぶこと、アクティビティの高い研究室で研究、技術、論文作成の手法を学び実際に論文を書くことなどが多いかと思います。帰国後のプランも比較的見えやすいかと思います。一方で、(私を含めて)帰国することを想定していない留学もあるかと思います(この場合はもう留学とは呼べないのかもしれませんが…)。研究留学で米国に来た場合も、そこで認められ成果が出たりグラント取得などができればそのままリサーチファカルティとして米国に残るという道もあるかもしれません。米国の製薬会社の研究職に就職するという話も耳にしたことがあります(当然VISAの問題は大きく関わってくるのですがここでは字数の関係で割愛させていただきます)。

 一方、臨床留学で来た場合は、トレーニングを終えた後に臨床医として残るという選択肢と、研究者(ここでは自分の研究室を持ちリサーチをメインにしているMDを想定しています)として残る道があります。また、帰国する際は、国が違うのでシステムも随分違い、こちらでの臨床医としての役割や求められるものが日本と異なる部分も多くあります。そのあたりの違いに関連した苦労話は耳にすることもあります。私自身の現在の研究と臨床のバランスや将来像に関しては、次回以降で述べたいと思います。


海外研修留学便り MDアンダーソン留学記 (喜多久美子氏)[第3回]

[レポーター紹介 ]
喜多 久美子(きだ くみこ)

[ 主な経歴 ]
横須賀共済病院 初期臨床研修修了
横須賀共済病院 外科後期研修修了
北里大学病院 形成外科
横浜市立大学附属市民総合医療センター 乳腺・甲状腺外科
横浜市立大学大学院医学研究科博士課程修了
聖路加国際病院乳腺外科クリニカルフェロー
テキサス大学MDアンダーソンがんセンター Breast Medical Oncology Postdoctoral Fellow  

 テキサス大学MDアンダーソンがんセンター乳腺腫瘍科に研究留学した喜多久美子氏に、留学までの経緯や現地での研究内容、日米の臨床や研究体制の違いなどについて4回にわたってレポートいただきます。 第3回では、受診者の日米差異、医師・患者のディスカッション、電子カルテや自動音声入力の活用、スタッフ配置の効率化についてお伺いしました。

第3回:MDアンダーソンでの乳がん治療の最前線

 


海外研修留学便り EORTC留学記(高橋 侑子氏)[第4回]

[ レポーター紹介 ]
高橋 侑子(たかはし ゆうこ)

2010年03月 岡山大学 医学部医学科卒業
2010年04月 亀田総合病院 ジュニアレジデント
2012年04月 聖路加国際病院 乳腺外科 シニアレジデント
2015年04月 聖路加国際病院 乳腺外科 フェロー
2016年05月 岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 呼吸器・乳腺内分泌外科学
2018年10月 国立がん研究センター中央病院 JCOG運営事務局 レジデント
2019年08月 European Organisation for Research and Treatment of Cancer (EORTC) フェロー

 ヨーロッパ最大の多施設共同臨床研究グループEORTC(European Organisation for Research and Treatment of Cancer)に留学中の高橋 侑子氏に、fellowとしての研修の日々、大規模臨床試験を推進する現場からのリアルな情報をレポートいただきます。

 

研修中に実感、日本とEUで国際共同試験を行う難しさ

 EORTCはEU圏内の複数の国の施設が参加する国際共同試験を主に行っています。試験によっては、北米、南米、アジア、オセアニアの他の臨床試験グループとも共同試験を行っています。乳がんに関しては、EORTCは同じベルギーにheadquarterがあるBIG(Breast International Group)とも共同試験を行なっており、EORTCの試験をglobalで行う場合はEORTCからBIGへ提案し、BIGの枠組みでglobal試験を行うことが多いです。

 今回は、私がEORTCでの研修中に実感した「EUと日本で国際共同試験を行う場合の難しさ」について執筆したいと思います。

 一つ目は研究資金獲得の困難さです。臨床試験の運用にあたり、参加する施設の数、また国の数に応じて運用経費が高くなります。各国の臨床試験施行の制度に合わせた作業が必要になるからです。したがって、複数の国を含む多施設の試験での運用資金は、日本国内のみで行う場合より高額になります。また、世界各国では、各国内の研究に対しての給付金があり、それらに応募することができますが、各国内の研究給付金は国際共同試験での使用を認めていないことがあり、国際共同試験の運用にその獲得した研究費を使用することができない場合があります。したがって、EORTCの試験も多くは企業や財団からの資金提供を受けて行っているのが現状です。企業から研究資金を獲得するにも年々競争率が高くなっていることもあり、EUと日本とで共同試験を企画する場合、この資金獲得が最大の問題になることが多々あります。

標準治療が国によって異なることも。打開策はあるのか

 二つ目は標準治療が国により異なる場合があることです。標準治療が大きく異なることは稀ですが、なかには、国によって承認されている標準治療が異なる場合があります。ある程度のバリエーションを盛り込んだ試験を企画することも可能であり、実際にこの問題を、複数治療選択肢を作ることで解決している試験もあります。一方で、例えば、現在EUで行われている臨床試験Aの結果を見越した上で、その次の臨床試験Bを企画するといったことがよく行われますが、日本では臨床試験Aが実施されておらず、ベースとなる臨床試験Aの治療法が検証されていないといった場合、日本で臨床試験Bを共同企画することはできなくなります。また、新規治療法を今までの標準治療と比較する場合なども同様に国ごとに標準治療が異なる場合は、全体の治療法を揃えることが困難になります。

 三つ目は日本だけに限らない問題ですが、各国の臨床試験に対する法規制の違いとコミュニケーションの問題です。国際共同試験の場合、各国の臨床試験施行の制度に合わせた作業が必要になります。詳細には、プロトコール やIC文書等試験関連文書の母国語への翻訳や試験開始までにかかる各国の法規制に合わせた準備作業が国により異なります。また、各国とのやりとりでは、英語が必ずしも完全に通じるとは限らずコミュニケーションの問題も発生することがあります。

 これらの困難がありますが、やはり、EUやアジア、北南米など他の地域と協力して国際共同試験を行い、新規治療法や診断法を開発していくことの必要性は強く感じています。引き続き、EORTCでの研修の中で国際共同試験の企画や運用についてできる限り多くを吸収できるよう努めたいと思っています。


海外研修留学便り MDアンダーソン留学記 (喜多久美子氏)[第2回]

[レポーター紹介 ]
喜多 久美子(きだ くみこ)

[ 主な経歴 ]
横須賀共済病院 初期臨床研修修了
横須賀共済病院 外科後期研修修了
北里大学病院 形成外科
横浜市立大学附属市民総合医療センター 乳腺・甲状腺外科
横浜市立大学大学院医学研究科博士課程修了
聖路加国際病院乳腺外科クリニカルフェロー
テキサス大学MDアンダーソンがんセンター Breast Medical Oncology Postdoctoral Fellow  

 テキサス大学MDアンダーソンがんセンター乳腺腫瘍科に研究留学した喜多久美子氏に、留学までの経緯や現地での研究内容、日米の臨床や研究体制の違いなどについて4回にわたってレポートいただきます。 第2回では、現地での研究テーマ、免疫チェック阻害剤について、新研究の具体化プロセス、研究の支援環境についてお伺いしました。

第2回:現地での研究内容

 


ASCO2020速報 乳がん

harasense

|企画・制作|ケアネット

2020年5月29日から31日まで開催されたASCO20 Virtual Scientific Programの乳がんトピックを、がん研究会有明病院 原 文堅氏が速報レビュー。


レポーター紹介

harasense

原 文堅 ( はら ふみかた ) 氏
がん研究会有明病院 乳腺センター


掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
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