HER2+転移乳がんへのpyrotinib+カペシタビン、ラパチニブ併用よりPFS延長(PHOEBE)/ASCO2020

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 トラスツズマブと化学療法の治療歴のある転移を有するHER2陽性乳がんに対して、pan-ErbB阻害薬pyrotinibとカペシタビンの併用が、ラパチニブとカペシタビンの併用より無増悪生存期間(PFS)を延長したことが、第III相PHOEBE試験で示された。中国・Chinese Academy of Medical Sciences and Peking Union Medical CollegeのBinghe Xu氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO20 Virtual Scientific Program)で発表した。

 pyrotinibは、EGFRHER2HER4を標的とする不可逆的pan-ErbB受容体チロシンキナーゼ阻害薬である。第I/II相試験で、カペシタビンとの併用で転移を有するHER2陽性乳がん患者における臨床的ベネフィットと許容可能な忍容性が確認されている。今回、ラパチニブとカペシタビンとの併用と比較した多施設無作為化非盲検第III相試験であるPHOEBE試験の結果が報告された。

・対象:トラスツズマブとタキサンおよび/またはアントラサイクリンの治療歴のある転移を有するHER2陽性乳がん患者(転移後の化学療法は2ラインまで)
・試験群:pyrotinib(400mg、1日1回経口)+カペシタビン(1,000mg/m2、1日2回経口、Day 1~14、21日ごと)134例(pyrotinib併用群)
・対照群:ラパチニブ(1,250mg、1日1回経口)+カペシタビン(試験群と同じ)132例(ラパチニブ併用群)
・評価項目:
[主要評価項目]盲検下独立中央判定によるPFS
[副次評価項目]全生存期間(OS)、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、クリニカルベネフィット率(CBR)、無増悪期間(TTP)、安全性

 主な結果は以下のとおり。

・PFS中央値は、ラパチニブ併用群の6.8ヵ月に比べて、pyrotinib併用群が12.5ヵ月と有意に延長した(ハザード比[HR]:0.39、95%CI:0.27~0.56、片側p<0.0001)。
・トラスツズマブ抵抗性症例におけるPFS中央値も、ラパチニブ併用群6.9ヵ月に比べてpyrotinib併用群12.5ヵ月と延長する傾向がみられた(HR:0.60、95%CI:0.29~1.21)。
・ORRはpyrotinib併用群67.2% vs.ラパチニブ併用群51.5%、CBRは73.1% vs.59.1%、DOR中央値は11.1ヵ月 vs.7.0ヵ月であった。
・OS中央値は両群とも未達だが、1年OSはpyrotinib併用群91.3%、ラパチニブ併用群77.4%で、pyrotinib併用群で大きく改善する傾向がみられた。
・Grade 3以上の治療関連有害事象は、pyrotinib併用群が57.5%に、ラパチニブ併用群が34.1%に発現し、下痢(30.6% vs.8.3%)および手足症候群(16.4% vs.15.2%)が多かった。

(ケアネット 金沢 浩子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

PHOEBE(ClinicalTrials.gov)

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高リスクHER2+乳がんの術後補助療法、T-DM1+ペルツズマブの効果(KAITLIN)/ASCO2020

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 高リスクのHER2陽性早期乳がんの術後補助療法で、アントラサイクリン投与後、トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)+ペルツズマブは、標準治療であるトラスツズマブ+ペルツズマブ+タキサンに比べて、無浸潤疾患生存期間(IDFS)を延長しなかったことが、第III相無作為化非盲検試験であるKAITLIN試験で示された。ドイツ・ミュンヘン大学のNadia Harbeck氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO20 Virtual Scientific Program)で発表した。

 HER2陽性早期乳がんの術後補助療法における標準治療である化学療法と1年間のHER2標的治療には、とくに高リスク患者における再発や化学療法関連有害事象などの課題がある。本試験では、タキサンとトラスツズマブをT-DM1に置き換えた場合の有効性と安全性を検討した。

・対象:HER2陽性の早期乳がんで、リンパ節転移陽性またはリンパ節転移陰性かつホルモン感受性(HR)陰性かつ腫瘍径2cm超の患者
・試験群:手術後9週間以内にアントラサイクリンを3~4サイクル投与後、T-DM1(3.6 mg/kg)+ペルツズマブ(420mg、初回840mg)を3週ごとに18サイクル(1年間)投与(AC-KP群)928例
・対照群: 手術後9週間以内にアントラサイクリンを3~4サイクル投与後、タキサンを3~4サイクル投与と同時にトラスツズマブ(6mg/kg、初回8mg/kg)+ペルツズマブ(420mg、初回840mg)を3週ごとに18サイクル(1年)投与(AC-THP群)918例
・評価項目:
[主要評価項目]リンパ節転移陽性患者、ITT集団でのIDFS
[副次評価項目]リンパ節転移陽性患者、ITT集団での全生存期間(OS)、安全性など

 主な結果は以下のとおり。

・データカットオフは2019年11月27日で、観察期間中央値はAC-THP群で57.1ヵ月、AC-THP群で57.0ヵ月であった。両群とも白人が約60%、アジア人が約30%であった。
・主要評価項目であるリンパ節転移陽性患者におけるIDFSは、ハザード比(HR)が0.97(95%CI:0.71~1.32、p=0.8270)で有意差が認められなかった。3年IDFSはAC-KP群92.8%、AC-THP群94.1%であった。
・ITT集団におけるIDFSにおいても同様でHRが0.98(95%CI:0.72~1.32)で、3年IDFSはAC-KP群93.1%、AC-THP群94.2%であった。
・Grade 3以上の有害事象(AE)は、AC-KP群(51.8%)、AC-THP群(55.4%)と差はなかった。AEのためにT-DM1またはトラスツズマブを中止した割合は、AC-KP群(26.8%)がAC-THP群(4.0%)より高かった。

(ケアネット 金沢 浩子)


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KAITLIN(ClinicalTrials.gov)

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veliparib、gBRCA変異のないBRCA-like型TN乳がんでPFS改善(SWOG S1416)/ASCO2020

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 転移を有するトリプルネガティブ(TN)乳がんで、生殖細胞系列BRCA遺伝子(gBRCA)変異はないが、相同組み換え修復不全(HRD)スコアや体細胞系列BRCA1/2変異などの分析でBRCA-like型に分類された患者に対し、PARP阻害薬veliparibをシスプラチンに追加することで無増悪生存期間(PFS)が延長したことが、第II相SWOG S1416試験で示された。米国・University of Kansas Medical CenterのPriyanka Sharma氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO20 Virtual Scientific Program)で発表した。

 PARP阻害薬は、gBRCA1/2変異のある進行乳がんでPFSを改善することが報告されている。また、TN乳がんの40~60%はHRDを示し、HRDはPARP阻害薬の感受性に関連することが示唆されている。

・対象:転移/局所再発のTN乳がんまたはgBRCA1/2変異HER2陰性の進行乳がん患者
・試験群:シスプラチン(75mg/m2)+veliparib(300mg経口投与、1日2回、Day 1~14)、3週ごと(veliparib群)
・対照群:シスプラチン(75mg/m2)+プラセボ(プラセボ群)
・評価項目:
[主要評価項目]3グループ(gBRCA陽性、BRCA-like、非BRCA-like)におけるPFS
[副次評価項目]奏効率(ORR)、全生存期間(OS)、クリニカルベネフィット率(CBR)、安全性

 3グループの分類については、veliparib群とプラセボ群に割り付けた後にgBRCA検査を実施し、変異がない場合は追加のバイオマーカー分析(myChoiceによるHRDスコアが42以上、体細胞系列BRCA1/2変異、BRCA1遺伝子プロモーター領域のメチル化、生殖細胞系列の相同組み換え修復遺伝子変異)を実施し、gBRCA変異あり、BRCA-like(追加のバイオマーカー分析で陽性であった患者)、非BRCA-likeに分類した。

 主な結果は以下のとおり。

・無作為に割り付けられた335例中、321例(95.8%)が有効性評価の適格基準を満たした(veliparib 群161例[50.2%]、プラセボ群160[49.8%])。
・平均年齢は56歳、TNBCが95%、白人が76%、未治療患者が69%であった。
・gBRCA変異ありが37例(11.5%)、BRCA-like が99例(30.8%)、非BRCA-like が110例(34.3%)、未分類が75例(23.4%)であった。
・gBRCA変異ありにおいて、veliparib群のPFS中央値が6.2ヵ月、プラセボ群6.4ヵ月で有意差が認められなかった(HR:0.66、95%CI:0.30~1.44、p=0.29)
・gBRCA-likeにおいて、veliparib群のPFS中央値が5.9ヵ月、プラセボ群4.2ヵ月に比べて有意に延長した(HR:0.53、95%CI:0.34~0.83、p=0.006)。
・非BRCA-like、未分類では、PFSの有意な改善は見られなかった。
・サブグループ解析では、BRCA-likeにおいて、veliparibを1次治療で投与された患者のPFS中央値が、veliparib群が6.1ヵ月でプラセボ群の4.2ヵ月より有意に延長し(HR:0.49、95%CI:0.29~0.83、p=0.008)、OS中央値もveliparib群が17.8ヵ月とプラセボ群の10.3ヵ月より有意に延長した(HR:0.53、95%CI:0.28~0.99、p=0.048)。さらにHRDスコアが42以上のPFS中央値も、プラセボ群4.2ヵ月に対してveliparib群6.1ヵ月と有意に延長していた(HR:0.53、95%CI:0.31~0.89、p=0.016)。
・Grade3/4の有害事象は、好中球減少症(46% vs.19%)、貧血(23% vs.7%)、白血球減少症(27% vs.7%)、血小板減少症(19% vs.3%)において、veliparib群でプラセボ群より有意に発現率が高かった(すべてp<0.001)。

 Sharma氏は、gBRCA変異ありのグループで有意差が見られなかった理由として、患者数が37例と少ないことによるパワー不足を挙げ、第III相BROCADE3試験ではveliparibの追加でPFSが改善していることを紹介した。最後に、BRCA-likeのTN乳がんにおける有効性を示した本試験は、PARP阻害薬の役割をgBRCA変異を越えて広げるための大きな前進である、と結んだ。

(ケアネット 金沢 浩子)


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SWOG S1416(ClinicalTrials.gov)

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非浸潤性乳管がん、浸潤性病変・乳がん死に長期リスク/BMJ

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 イングランドでは、乳がん検診で非浸潤性乳管がん(DCIS)が発見された女性は、診断されていない一般人口の女性に比べ、全死因死亡率が低いにもかかわらず、診断後20年以上にわたり浸潤性乳がん(IBC)および乳がん死の長期的なリスクが高いことが、英国・オックスフォード大学のGurdeep S. Mannu氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2020年5月27日号に掲載された。DCISの発生率は、近年、実質的に上昇しており、とくに乳がん検診プログラムの導入以降の増加が著しいという。その一方で、検診で発見されたDCISにおける手術後のIBCおよび乳がん死の長期的リスクは知られていない。

イングランド女性3万5,024人のコホート研究

 研究グループは、乳がん検診でDCISと診断された女性におけるIBCの発生および乳がん死の長期的リスクを評価する目的で、人口ベースの観察的コホート研究を行った(Cancer Research UKなどの助成による)。

 解析には、英国のNational Health Service(NHS)Breast Screening Programme(NHSBSP)と、National Cancer Registration and Analysis Service(NCRAS)のデータを用いた。対象は、NHSBSP(1988年の開始時から2014年3月まで)でDCISと診断されたイングランドの女性3万5,024人であった。

 乳がん検診でDCISと診断された女性におけるIBCおよび乳がん死の発生を、診断されていない一般人口における期待値と比較した。

 主要アウトカムは、IBCおよび乳がん死であった。

IBCは期待値の約2.5倍、乳がん死は1.7倍に

 乳がん検診で初発DCIS診断時の年齢は、55歳未満が32%、55~59歳が22%、60~64歳が23%、65歳以上は24%であった。2014年12月の時点で、追跡期間が5年までの女性は1万3,606人、5~9年は1万998人、10~14年は6,861人、15~19年は2,620人、20年以上は939人だった。

 これらの女性のうち、2,076人でIBCが発生した(同側乳房1,029人、対側乳房860人、不明187人)。IBCの年間発生率は1,000人当たり8.82人(95%信頼区間[CI]:8.45~9.21)であり、一般人口における全国的ながん発生率の期待値の2.5倍以上であった(期待値に対する観測値の比:2.52、95%CI:2.41~2.63、p<0.001)。このIBCの増加は、DCIS診断から2年後には始まっており、フォローアップ終了まで持続した。

 同じ集団の女性のうち、310人が乳がんで死亡した。乳がん死の年間発生率は1,000人当たり1.26人(95%CI:1.13~1.41)であり、全国的乳がん死亡率の期待値よりも70%高かった(観測値/期待値比:1.70、95%CI:1.52~1.90、p<0.001)。

 DCIS診断から最初の5年間では、乳がん死亡率は全国的な死亡率の期待値とほぼ同等であった(観測値/期待値比:0.87、95%CI:0.69~1.10)が、その後は増加に転じ、5~9年の観測値/期待値比は1.98(1.65~2.37)、10~14年は2.99(2.41~3.70)、15年以降は2.77(2.01~3.80)に達した。

 手術を受けた片側乳房のDCIS患者2万9,044人のうち、より強度の高い治療(乳房切除術、乳房温存術後の放射線照射、エストロゲン受容体陽性病変への内分泌療法)を受けた女性や、最終的な腫瘍切除断端の幅が広い女性は、IBCの発生率が低かった。

 著者は、「悪性度が低~中のDCISでも、長期的には浸潤性病変のリスクがあることを示すエビデンスが得られた」としている。

(医学ライター 菅野 守)


【原著論文はこちら】

Mannu GS, et al. BMJ. 2020;369:m1570.

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ER+/HER2-乳がんのアジュバントへのS-1上乗せ効果、リスク別解析(POTENT)/ASCO2020

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 エストロゲン受容体(ER)陽性HER2陰性乳がんの術後ホルモン療法へのS-1の上乗せ効果は、再発リスクが中〜高リスクの患者で大きく、5年無浸潤疾患生存率(iDFS)で約7〜8%の上乗せ効果が得られたことが、第III相POTENT試験の探索的解析で報告された。京都大学の高田 正泰氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO20 Virtual Scientific Program)のポスターセッションで発表した。

 POTENT試験は医師主導による国内多施設共同非盲検無作為化比較第III相試験である。2019年のサンアントニオ乳がんシンポジウムにおいて、ER陽性HER2陰性乳がんのアジュバントで標準的ホルモン療法にS-1を追加することにより5年iDFSを改善したことを報告している。今回は、S-1の追加投与に適した患者を特定するために、被験者を再発リスク(複合リスク)スコアで分類しS-1上乗せによるiDFSの改善効果を評価した。

・対象:Stage I~IIIBのER陽性HER2陰性乳がん患者(リンパ節転移状況は問わず)1,930例
・試験群:S-1(1日2回経口、3週ごと)+標準的ホルモン療法(S-1併用群)957例
・対照群:標準的ホルモン療法 973例
・主要評価項目:iDFS

 1930例中、データ欠損のない1,897例について解析された。各患者の再発リスク(複合リスク)は、腫瘍の大きさ、リンパ節転移の有無、グレード、ER発現、Ki-67発現レベルを組み込んだCoxモデルで決定した。また、複合リスクスコアにより低リスク群(下位四分位数以下、677例)、中リスク群(四分位範囲、767例)、高リスク群(上位四分位数超、453例)に分け、各群におけるS-1の上乗せ効果を評価した。

 主な結果は以下のとおり。

・5年iDFSは、複合リスクスコアによる低リスク群、中リスク群、高リスク群の順に、標準的ホルモン療法群が91.6%、82.0%、67.2%、S-1併用群が92.5%、88.7%、75.3%であった。
・S-1追加によるiDFSの差は、低リスク群、中リスク群、高リスク群の順に0.9%、6.7%、8.1%で、ハザード比はそれぞれ0.86(95%CI:0.45~1.63、p=0.642)、0.51(95%CI:0.34~0.78、p=0.001)、0.71(95%CI:0.49~1.02、p=0.064)であった。

 主任研究者の戸井 雅和氏(京都大学)は、「参加研究者全体も高い興味を持って取り組んでおり、重要な知見と捉えている」とコメントしている。

(ケアネット 金沢 浩子)


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HR+/HER2-乳がんへのパルボシクリブ併用、フルベストラント vs.レトロゾール(PARSIFAL)/ASCO2020

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 内分泌療法感受性のホルモン受容体陽性HER2陰性(HR+/HER2-)進行乳がんに対する1次治療として、CDK4/6阻害薬パルボシクリブ+アロマターゼ阻害薬レトロゾールの併用療法が標準治療として使われている(PALOMA-1、PALOMA-2試験)。一方、抗エストロゲン薬フルベストラントは、同患者に対しアナストロゾールに優れることが確認されている(FALCON試験)。また、内分泌療法後に進行した患者に対して、パルボシクリブ+フルベストラント併用が生存にベネフィットをもたらしている(PALOMA-3試験)。これらを受け、同患者に対するパルボシクリブ併用療法において、フルベストラントとレトロゾールを比較する第II相PARSIFAL試験の結果を、米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO20 Virtual Scientific Program)でスペイン・University Hospital Arnau de VilanovaのAntonio Llombart-Cussac氏が発表した。

・対象:進行乳がんに対する全身治療歴のない、閉経後/閉経前、内分泌療法感受性(内分泌療法歴なし、または内分泌療法終了後12ヵ月以上での再発)のHR+/HER2-進行乳がん患者 486例
・試験群:パルボシクリブ(125mg/日を3週経口投与、1週休薬)+フルベストラント(500mg/日を1、14、29日目に筋肉内投与、その後は1月おきに投与)243例
・対照群:パルボシクリブ+レトロゾール(2.5mg/日を経口投与)243例
・評価項目:
[主要評価項目]治験責任医師の評価による無増悪生存期間(PFS)
[副次評価項目]PFSの事前に規定されたサブグループ解析、全生存期間(OS)、奏効率(ORR)、クリニカルベネフィット率(CBR)、安全性

 主な結果は以下のとおり。

・2020年3月9日までに、256例のPFSイベントが発生した。
・ベースライン特性は両群でバランスが取れており、年齢中央値は63歳(範囲:25~90)、56.6%がECOG PS 0、40.7%が「de novo」転移を有し、47.9%が内臓転移、43.6%が3臓器以上に転移を有していた。
・追跡期間中央値32ヵ月におけるPFS中央値は、フルベストラント群27.9ヵ月に対し、レトロゾール群32.8ヵ月(ハザード比[HR]:1.13、95%信頼区間[CI]:0.89~1.45、p=0.321)で有意差は認められず、優越性は示されなかった。また、あらかじめ設定された非劣性マージン1.21が95%CIに含まれ(0.89<1.21<1.45)、非劣性も示されなかった。
・内臓転移を有する患者におけるPFS中央値は、フルベストラント群17.9ヵ月 vs. レトロゾール群25.6ヵ月(HR:1.27、95%CI:0.91~1.77、p=0.143)。内臓転移のない患者におけるPFS中央値は、36.6ヵ月 vs.35.9ヵ月(HR:0.97、95%CI:0.67~1.40、p = 0.871)となり、有意差はみられなかった(交互作用のp=0.275)。
・再発患者におけるPFS中央値は、27.7ヵ月 vs.32.9ヵ月(HR:1.14、95%CI:0.82~1.56、p=0.425)。「de novo」転移を有する患者におけるPFS中央値は、28.1ヵ月 vs.31.6ヵ月(HR:1.13、95%CI:0.77~1.75、p = 0.53)となり、有意差はみられなかった(交互作用のp=0.979)。
・3年OS率は79.4% vs.77.1%(HR:1、95%CI:0.68~1.48、p=0.986)。
・ORRは46.5% vs.50.2%(p= 0.414)、CBRは70.8% vs.69.1%(p=0.692)とともに差はみられなかった。
・Grade 3以上の有害事象の発現は両群で類似しており、好中球減少症と白血球減少症が最も多かった。

 研究者らは、パルボシクリブとの併用において、フルベストラントとレトロゾールの間に差はみられず、最終的な治療法の決定は、患者と医師が、その優先事項やその後の治療戦略のバランスをとって決めていく必要があるとまとめている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


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PARSIFAL試験(Clinical Trials.gov)

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tucatinib追加、HER2+乳がん脳転移例でOS改善(HER2CLIMB)/ASCO2020

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 脳転移を有する既治療のHER2陽性乳がん患者に対し、トラスツズマブ+カペシタビンへのtucatinib追加投与はプラセボの追加投与と比較して、頭蓋内奏効率(ORR-IC)が2倍となり、CNS無増悪生存(CNS-PFS)および全生存(OS)アウトカムが良好であったことが示された。米国・ダナファーバーがん研究所のNancy U. Lin氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO20 Virtual Scientific Program)で第II相HER2CLIMB試験の探索的解析結果を発表した。

・対象:18歳以上、ベースライン時に脳転移を有し、トラスツズマブ、ペルツズマブ、T-DM1による治療後に病勢進行が認められた、HER2陽性乳がん患者(ECOG PS 0/1) 291例
・試験群:tucatinib(1日2回300mg、経口投与)+トラスツズマブ(21日ごとに6mg/kg[1サイクル目の1日目だけ8mg/kg])+カペシタビン(21日ごとに1日目から14日まで1日2回1,000mg/m2、経口投与) 191例
・対照群:プラセボ+トラスツズマブ+カペシタビン 93例
・評価項目:
[脳転移を有する全患者]CNS-PFS、OS
[測定可能な頭蓋内病変を有する患者]ORR-IC、頭蓋内奏効期間(DOR-IC)
[CNSの局所治療を受け、孤立性CNS病変の進行後に本試験の治療を継続した患者] 無作為化から2回目の進行あるいは死亡までの期間、1回目の孤立性CNS病変の進行から2回目の進行あるいは死亡までの期間

 主な結果は以下のとおり。

・ベースライン特性は、平均年齢tucatinib群53歳 vs.プラセボ群52歳、ECOG PS 1が53.5% vs.59.1%、ホルモン(ERおよび/またはPR)陽性が54.0% vs.63.4%。
・CNS進行あるいは死亡リスクは、tucatinib群で68%減少した(ハザード比[HR]:0.32、95%信頼区間[CI]:0.22~0.48、p<0.00001)。CNS-PFS中央値は、9.9ヵ月 vs. 4.2ヵ月。
・全死亡リスクはtucatinib群で42%減少した(OS HR:0.58、95%CI:0.40~0.85、p = 0.005)。OS中央値は18.1ヵ月 vs.12.0ヵ月。
・ORR-ICは47.3%(95%CI:33.7~61.2)vs.20.0%(95%CI:5.7~43.7)とtucatinib群で高かった。内訳は完全奏効(CR):3例(5.5%)vs.1例(5.0%)、部分奏効(PR):23例(41.8%)vs.3例(15.0%)。
・DOR-IC中央値は6.8ヵ月(95%CI:5.5~16.4)vs.3.0ヵ月(95%CI:3.0~10.3)であった。
・局所治療後も本試験の治療を継続した孤立性CNS病変を有する患者(30例)では、2回目の進行または死亡リスクが67%減少し(HR:0.33、95%CI:0.13~0.85、p=0.02)、無作為化から2回目の進行または死亡までの期間中央値は 15.9ヵ月 vs.9.7ヵ月で、tucatinib群で優れていた。

 ディスカッサントを務めたスペイン・Hospital Clinic de BarcelonaのAleix Prat氏は、「トラスツズマブ+カペシタビンへのtucatinib追加投与は、脳転移例を含む既治療のHER2陽性乳がん患者の新たな標準治療となるだろう」と話した。またtucatinibのCNS転移・進行の予防効果について評価されるべきとし、より早期の治療段階での投与の可能性についても言及した。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


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HER2CLIMB試験(Clinical Trials.gov)

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TN乳がんへのカペシタビンの術後メトロノミック療法(SYSUCC-001)/ASCO2020

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 手術や術前または術後の標準的な化学療法を受けたトリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対する、カペシタビンのメンテナンス投与(メトロノミック療法)が、経過観察に比べ無病生存期間(DFS)を改善するという報告が、米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO20 Virtual Scientific Program)で、中国・Sun Yat-Sen University Cancer CenterのXi Wang氏より発表された。

 本試験は、中国国内で実施された多施設共同第III相比較試験である。

・対象:Stage Ib〜IIIcのTNBCで、標準的な周術期治療(手術、術前または術後の化学療法、放射線療法)を終了した症例。症例登録期間は、2010年4月から2016年12月。
・試験群:カペシタビン650mg/m2×2/日を1年間投与(Cape群)
・対照群:経過観察(観察群)
・評価項目:
[主要評価項目]DFS
[副次評価項目]全生存期間(OS)、無遠隔転移生存期間(DDFS)、安全性

 主な結果は以下のとおり。

・Cape群222例、観察群221例の計443例が無作為化割り付けされ、Cape群221例、観察群213例が解析対象とされた。
・各群の平均年齢はCape群45.8歳、観察群46.1歳で、閉経前はそれぞれ71.0%、62.4%であった。また腫瘍径2cm以下が35.8%と37.1%、2.1~5cmが55.2%と58.2%であり、リンパ節転移陰性は61.1%と62.4%であった。Ki-67値は、30%以上が80.1%と73.2%であった。
・Cape群の91.4%(202例)が1年間のプロトコール治療を完遂し、その相対的治療強度(RDI)の中央値は84.7%であった。
・観察期間中央値57ヵ月時点における、主要評価項目である5年DFS率はCape群83% vs.観察群73%で、そのハザード比(HR)は0.63(95%CI:0.42〜0.96)、p=0.027と統計学的な有意差が認められた。
・5年DDFS率は、Cape群85% vs.観察群76%で、HR0.63(95%CI:0.37〜0.90)、p=0.016と、こちらも統計学的な有意差が認められた。
・5年OS率は、Cape群86%、観察群81%で統計学的な有意差はなかった(HR0.74、95%CI:0.47〜1.18、p=0.203)。
・Cape群の主な有害事象は、手足症候群が全Gradeで45.2%、Grade3以上で7.7%であった。その他の主な有害事象はGrade3以上の事象はなく、全Gradeで白血球減少が23.5%、高ビリルビン血症が12.7%、腹痛・下痢が6.8%、ALT/AST上昇が5.0%だった。

 演者のWang氏は「この第III相試験の結果から、1年間のカペシタビンのメトロノミック療法は、忍容性も問題なく、TNBC患者の予後改善に有望である」と結んだ。

(ケアネット)


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PD-L1陽性TN乳がん1次治療、ペムブロリズマブ+化療でPFS改善(KEYNOTE-355)/ASCO2020

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 手術不能な局所再発または転移を有するPD-L1陽性(CPS≧10)のトリプルネガティブ(TN)乳がんの1次治療で、化学療法にペムブロリズマブを追加することにより、無増悪生存期間(PFS)が有意に改善することが、無作為化二重盲検第III相KEYNOTE-355試験で示された。スペイン・IOB Institute of Oncology, Quiron Group/Vall d’Hebron Institute of OncologyのJavier Cortes氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO20 Virtual Scientific Program)で発表した。

・対象:18歳以上の手術不能な局所再発または転移を有するPD-L1陽性のTN乳がん(ECOG PS 0/1)847例
・試験群:ペムブロリズマブ(200mg、3週ごと)+化学療法(ナブパクリタキセル、パクリタキセル、ゲムシタビン/カルボプラチンの3種類のうちいずれか)566例
・対照群:プラセボ+化学療法 281例
・評価項目:
[主要評価項目]PD-L1陽性患者(CPS≧10およびCPS≧1)およびITT集団におけるPFSと全生存期間(OS)
[副次評価項目]奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、病勢コントロール率(DCR)、安全性

 主な結果は以下のとおり。

・カットオフ時点(2019年12月11日)で、観察期間中央値はペムブロリズマブ+化学療法群が25.9ヵ月、化学療法単独群が26.3ヵ月であった。
・CPS≧10のPD-L1陽性患者におけるPFS中央値は、ペムブロリズマブ+化学療法群9.7ヵ月、化学療法単独群5.6ヵ月で、ハザード比(HR)が0.65(95%CI:0.49~0.86、片側p=0.0012)と有意に改善した。
・CPS≧1のPD-L1陽性患者におけるPFS中央値は、ペムブロリズマブ+化学療法群7.6ヵ月、化学療法単独群5.6ヵ月(HR:0.74、95%CI:0.61~0.90、片側p=0.0014)だったが、有意な改善は認められなかった(事前に規定されたp値の境界値:0.00111)。
・ITT集団におけるPFS中央値は、ペムブロリズマブ+化学療法群7.5ヵ月、化学療法単独群5.6ヵ月(HR:0.82、95%CI:0.69~0.97)で、統計学的有意性は検定されていない。
・Grade3~5の治療関連有害事象(TRAE)は、ペムブロリズマブ+化学療法群の68.1%、化学療法単独群の66.9%に発現した。ペムブロリズマブ+化学療法群において全Gradeで20%以上発現したTRAEは、貧血(48.9%)、好中球減少症(41.1%)、悪心(39.3%)、脱毛(33.1%)、疲労(28.5%)、好中球減少症(22.2%)、ALT上昇(20.5%)であった。
・Grade3~5の免疫関連有害事象(irAE)は、ペムブロリズマブ+化学療法群の5.2%に発現し、化学療法単独群では発現しなかった。ペムブロリズマブ+化学療法群において全Gradeで10例以上に発現したirAEは、甲状腺機能低下症(15.5%)、甲状腺機能亢進症(4.8%)、肺炎(2.5%)、大腸炎(1.8%)、重篤な皮膚障害(1.8%)であった。

 なお、2020年2月に、独立データモニタリング委員会(IDMC)がもう1つの主要評価項目であるOSを評価するべく本試験の継続を勧告している。

(ケアネット 金沢 浩子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

KEYNOTE-355(ClinicalTrials.gov)

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COVID-19と乳がん診療ガイドライン―欧米学会発表まとめ(吉村吾郎氏)

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 新型コロナウイルス (COVID-19) パンデミック下での乳がん診療の優先順位をどう考えるべきか。欧米関連学会が発表したガイドラインを市立岸和田市民病院 乳腺外科部長 吉村 吾郎氏が解説する。

 新型コロナウイルス (COVID-19) パンデミック下での乳がん診療について、欧州臨床腫瘍学会 European Society for Medical Oncology Cancer (ESMO) 1) と米国乳がん関連学会2)がガイドラインを作成している。いずれのガイドラインも COVID-19 リスクの最小化と診療利益の最大化を目的とする、乳がん患者の優先順位付けを推奨している。その内容に大差はなく、診療内容別に高優先度/中優先度/低優先度に分類し、米国ガイドラインは中および低優先度をさらに3段階に細分している。本邦の臨床事情に合わせて若干改変した両ガイドラインの概略を以下に記載する。

【外来診療】

○高優先度

  • ・ 感染や血腫などで病状が不安定な術後患者
  • ・ 発熱性好中球減少症や難治性疼痛など腫瘍学的緊急事態
  • ・ 浸潤性乳がんの新規診断

○ 中優先度

  • ・ 非浸潤性乳がんの新規診断
  • ・ 化学療法や放射線療法中の患者
  • ・ 病状が安定している術後患者

○ 低優先度

  • ・ 良性疾患の定期診察
  • ・ 経口アジュバント剤投与中、あるいは治療を受けていない乳がん患者の定期診察
  • ・ 生存確認を目的とする乳がん患者の定期診察

【診断】

○高優先度

  • ・ 重症乳房膿瘍や深刻な術後合併症評価目的の診断
  • ・ しこりやその他乳がんが疑われる自覚症状を有する症例に対する診断
  • ・ 臨床的に明らかな局所再発で、根治切除が可能な病変に対する診断

○中優先度

  • ・ マンモグラフィ検診で BI-RADS カテゴリ4または5病変の診断
  • ・ 転移再発が疑われ、生検が必要とされる乳がん患者への診断

○低優先度

  • ・ マンモグラフィ検診
  • ・ BRCAキャリアなど高リスク例に対する検診
  • ・ マンモグラフィ検診で BI-RADS カテゴリ3病変の診断
  • ・ 無症状の初期乳がん患者に対するフォローアップ診断

【手術療法】

○高優先度

  • ・ 緊急で切開ドレナージを要する乳房膿瘍および乳房血腫
  • ・ 自家組織乳房再建の全層虚血
  • ・ 術前化学療法を終了した、あるいは術前化学療法中に病状が進行した乳がん患者
  • ・ トリプルネガティブ乳がん、あるいはHER2陽性乳がん患者で、術前化学療法を選択しない場合

○中優先度

  • ・ ホルモンレセプター陽性/HER2陰性/低グレード/低増殖性のがんで、術前ホルモン療法の適応となる乳がん患者
  • ・ 臨床診断と針生検結果が不一致で、浸潤性乳がんの可能性が高い病変に対する外科生検

○低優先度

  • ・ 良性病変に対する外科切除
  • ・ 広範囲高グレード非浸潤性乳管がんを除く、非浸潤性乳がん
  • ・ 臨床診断と針生検結果が不一致で、良性の可能性が高い病変に対する外科生検
  • ・ 二次乳房再建手術
  • ・ 乳がん高リスク例に対するリスク軽減手術

【放射線療法】

○高優先度

  • ・ 出血や疼痛を伴う手術適応のない局所領域病変に対する緩和照射
  • ・ 急性脊髄圧迫、症候性脳転移、その他の腫瘍学的緊急事態症例に対する緩和照射
  • ・ 高リスク乳がん症例に対する術後照射 (炎症性乳がん/リンパ節転移陽性/トリプルネガティブ乳がん/HER2陽性乳がん/術前化学療法後に残存病変あり/40歳未満)

○中優先度

  • ・ 65歳未満でホルモンレセプター陽性かつ HER2 陰性の中間リスク乳がんに対する術後照射

○低優先度

  • ・ 非浸潤性乳がんに対する術後照射
  • ・ 65歳以上でホルモンレセプター陽性かつ HER2 陰性の低リスク乳がんに対する術後照射

【初期乳がんに対する薬物療法】

○高優先度

  • ・ トリプルネガティブ乳がんに対する術前および術後化学療法
  • ・ HER2 陽性乳がん患者に対する抗 HER2 療法併用の術前および術後化学療法
  • ・ 炎症性乳がん患者に対する術前化学療法
  • ・ すでに開始された術前/術後化学療法
  • ・ 高リスクのホルモンレセプター陽性かつ HER2 陰性乳がんに対する術前および術後ホルモン療法±化学療法
  • ・ 術前ホルモン療法

○具体的推奨事項

  • ・ 化学療法と放射線療法の適応となるホルモンレセプター陽性症例において、放射線療法の先行は許容される
  • ・ ホルモンレセプター陽性かつHER2 陰性で臨床ステージI-II乳がんでは、6~12ヶ月間の術前ホルモン療法がオプションとなる
  • ・ ホルモンレセプター陽性かつHER2 陰性で化学療法の適応となる乳がん症例では、術前化学療法がオプションとなる
  • ・ 通院回数を減らす目的での化学療法スケジュール変更 (毎週投与を2週間または3週間毎投与に変更) は許容される。好中球減少症リスクを最小限とするため、G-CSF 製剤を併用し、抗生剤投与も行うべきである。免疫抑制を避けるため、デキサメタゾンは必要に応じて制限すべきである
  • ・ 低リスク、あるいは心大血管疾患やその他の合併症を有する HER2 陽性乳がん症例では、術後の抗 HER2 療法の期間を6ヵ月に短縮することはオプションとなる
  • ・ LHRH アナログ製剤を、通院回数を減らすために長時間作用型へ変更すること、患者自身または訪問看護師による在宅投与することを、ケースバイケースで相談する
  • ・ アロマターゼ阻害剤を投与されている症例では、骨量検査を中止する (ベースラインおよびフォローアップとも)
  • ・ 可能であれば、自宅の近くの医療機関で画像検査や血液検査を実施する
  • ・ 可能であれば、遠隔医療による副作用のモニタリングを実施する

【進行再発乳がんに対する薬物療法】

○高優先度

  • ・ 高カルシウム血症、耐えられない痛み、有症状の胸水貯留、脳転移など、腫瘍学的緊急事態症例に対する薬物療法
  • ・ 重篤内蔵転移に対する薬物療法
  • ・ 予後を改善する可能性の高い一次治療ラインでの化学療法、内分泌療法、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬

○中優先度

  • ・ 予後を改善する可能性のある二次、三次以降の治療ラインでの薬物療法

○低優先度

  • ・ 緊急性の低い高Ca血症や疼痛コントロール目的での骨修飾薬 (ゾレドロン酸、デノスマブ)

○具体的推奨事項

  • ・ 化学療法が推奨される場合、通院回数を減らす目的での経口薬治療は許容される
  • ・ 通院回数を減らす目的での化学療法スケジュール変更 (毎週投与を2週間または3週間毎投与に変更) は許容される
  • ・ 発熱性好中球減少症リスクの低いレジメンを選択することは許容される
  • ・ 化学療法による好中球減少症リスクを最小限とするため、G-CSF 製剤を併用し、抗生剤投与も行うべきである。免疫抑制を避けるため、デキサメタゾンは必要に応じて制限すべきである
  • ・ トラスツズマブとペルツズマブの投与間隔を延長することは許容される (例:4週毎投与)
  • ・ 腫瘍量の少ない HER2 陽性転移性乳がんでトラスツズマブやペルツズマブによる治療が2年間以上にわたり行われている症例では、病状経過を3〜6ヵ月ごとにモニターしながら抗 HER2 療法の中止を考慮する
  • ・ 耐容性を最適化し、有害事象を最小化するため、標的治療剤を減量投与することは許容される
  • ・ 転移再発乳がん一次治療としての標的治療剤 (CDK4/6阻害剤、mTOR阻害剤、PIK3CA 阻害剤) とホルモン療法の併用を、ホルモン療法単独とすることは許容される
  • ・ CDK4/6阻害剤による好中球減少症と COVID-19 発症リスクの関連は明らかではなく、感染徴候を注意深く観察し、COVID-19 を疑い症状が出現した場合は速やかに治療を中止する
  • ・ 免疫チェックポイント阻害剤とCOVID-19 発症リスクの関連は明らかではなく、感染徴候を注意深く観察し、COVID-19 を疑い症状が出現した場合は速やかに治療を中止する
  • ・ LHRH アナログ製剤を、通院回数を減らすために長時間作用型へ変更すること、患者自身または訪問看護師による在宅投与することを、ケースバイケースで相談する
  • ・ 多職種キャンサーボードでの議論と患者の希望を踏まえて、晩期治療ラインにおける休薬、最善支持療法、投与間隔の拡大、低容量維持療法は許容される
  • ・ 骨転移患者に対する骨修飾薬は、通院回数を最小限にして投与されるべきである
  • ・ 病状が安定している転移性乳がん症例では、ステージング目的の定期診察や画像検査の間隔を空ける
  • ・ 抗 HER2療法中の心機能モニター検査は、臨床的に安定していれば遅らせることが許容される
  • ・ 可能であれば、自宅の近くの医療機関で画像検査や血液検査を実施する
  • ・ 可能であれば、遠隔医療による副作用のモニタリングを実施する

( ケアネット )


講師紹介

吉村 吾郎 ( よしむら ごろう ) 氏
市立岸和田市民病院 乳腺外科部長


【 参考文献・参考サイトはこちら 】

1.ESMO magagement and treastment adapeted recommentaions in the COVID-19 ERA: Breast cancer.

2.Recommendations for prioritization, treatment, and triage of breast cancer patients during the COVID‐19 pandemic. the COVID‐19 pandemic breast cancer consortium.

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