PD-L1陽性TN乳がん1次治療、ペムブロリズマブ+化療でPFS改善(KEYNOTE-355)/ASCO2020

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 手術不能な局所再発または転移を有するPD-L1陽性(CPS≧10)のトリプルネガティブ(TN)乳がんの1次治療で、化学療法にペムブロリズマブを追加することにより、無増悪生存期間(PFS)が有意に改善することが、無作為化二重盲検第III相KEYNOTE-355試験で示された。スペイン・IOB Institute of Oncology, Quiron Group/Vall d’Hebron Institute of OncologyのJavier Cortes氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO20 Virtual Scientific Program)で発表した。

・対象:18歳以上の手術不能な局所再発または転移を有するPD-L1陽性のTN乳がん(ECOG PS 0/1)847例
・試験群:ペムブロリズマブ(200mg、3週ごと)+化学療法(ナブパクリタキセル、パクリタキセル、ゲムシタビン/カルボプラチンの3種類のうちいずれか)566例
・対照群:プラセボ+化学療法 281例
・評価項目:
[主要評価項目]PD-L1陽性患者(CPS≧10およびCPS≧1)およびITT集団におけるPFSと全生存期間(OS)
[副次評価項目]奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、病勢コントロール率(DCR)、安全性

 主な結果は以下のとおり。

・カットオフ時点(2019年12月11日)で、観察期間中央値はペムブロリズマブ+化学療法群が25.9ヵ月、化学療法単独群が26.3ヵ月であった。
・CPS≧10のPD-L1陽性患者におけるPFS中央値は、ペムブロリズマブ+化学療法群9.7ヵ月、化学療法単独群5.6ヵ月で、ハザード比(HR)が0.65(95%CI:0.49~0.86、片側p=0.0012)と有意に改善した。
・CPS≧1のPD-L1陽性患者におけるPFS中央値は、ペムブロリズマブ+化学療法群7.6ヵ月、化学療法単独群5.6ヵ月(HR:0.74、95%CI:0.61~0.90、片側p=0.0014)だったが、有意な改善は認められなかった(事前に規定されたp値の境界値:0.00111)。
・ITT集団におけるPFS中央値は、ペムブロリズマブ+化学療法群7.5ヵ月、化学療法単独群5.6ヵ月(HR:0.82、95%CI:0.69~0.97)で、統計学的有意性は検定されていない。
・Grade3~5の治療関連有害事象(TRAE)は、ペムブロリズマブ+化学療法群の68.1%、化学療法単独群の66.9%に発現した。ペムブロリズマブ+化学療法群において全Gradeで20%以上発現したTRAEは、貧血(48.9%)、好中球減少症(41.1%)、悪心(39.3%)、脱毛(33.1%)、疲労(28.5%)、好中球減少症(22.2%)、ALT上昇(20.5%)であった。
・Grade3~5の免疫関連有害事象(irAE)は、ペムブロリズマブ+化学療法群の5.2%に発現し、化学療法単独群では発現しなかった。ペムブロリズマブ+化学療法群において全Gradeで10例以上に発現したirAEは、甲状腺機能低下症(15.5%)、甲状腺機能亢進症(4.8%)、肺炎(2.5%)、大腸炎(1.8%)、重篤な皮膚障害(1.8%)であった。

 なお、2020年2月に、独立データモニタリング委員会(IDMC)がもう1つの主要評価項目であるOSを評価するべく本試験の継続を勧告している。

(ケアネット 金沢 浩子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

KEYNOTE-355(ClinicalTrials.gov)

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COVID-19と乳がん診療ガイドライン―欧米学会発表まとめ(吉村吾郎氏)

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 新型コロナウイルス (COVID-19) パンデミック下での乳がん診療の優先順位をどう考えるべきか。欧米関連学会が発表したガイドラインを市立岸和田市民病院 乳腺外科部長 吉村 吾郎氏が解説する。

 新型コロナウイルス (COVID-19) パンデミック下での乳がん診療について、欧州臨床腫瘍学会 European Society for Medical Oncology Cancer (ESMO) 1) と米国乳がん関連学会2)がガイドラインを作成している。いずれのガイドラインも COVID-19 リスクの最小化と診療利益の最大化を目的とする、乳がん患者の優先順位付けを推奨している。その内容に大差はなく、診療内容別に高優先度/中優先度/低優先度に分類し、米国ガイドラインは中および低優先度をさらに3段階に細分している。本邦の臨床事情に合わせて若干改変した両ガイドラインの概略を以下に記載する。

【外来診療】

○高優先度

  • ・ 感染や血腫などで病状が不安定な術後患者
  • ・ 発熱性好中球減少症や難治性疼痛など腫瘍学的緊急事態
  • ・ 浸潤性乳がんの新規診断

○ 中優先度

  • ・ 非浸潤性乳がんの新規診断
  • ・ 化学療法や放射線療法中の患者
  • ・ 病状が安定している術後患者

○ 低優先度

  • ・ 良性疾患の定期診察
  • ・ 経口アジュバント剤投与中、あるいは治療を受けていない乳がん患者の定期診察
  • ・ 生存確認を目的とする乳がん患者の定期診察

【診断】

○高優先度

  • ・ 重症乳房膿瘍や深刻な術後合併症評価目的の診断
  • ・ しこりやその他乳がんが疑われる自覚症状を有する症例に対する診断
  • ・ 臨床的に明らかな局所再発で、根治切除が可能な病変に対する診断

○中優先度

  • ・ マンモグラフィ検診で BI-RADS カテゴリ4または5病変の診断
  • ・ 転移再発が疑われ、生検が必要とされる乳がん患者への診断

○低優先度

  • ・ マンモグラフィ検診
  • ・ BRCAキャリアなど高リスク例に対する検診
  • ・ マンモグラフィ検診で BI-RADS カテゴリ3病変の診断
  • ・ 無症状の初期乳がん患者に対するフォローアップ診断

【手術療法】

○高優先度

  • ・ 緊急で切開ドレナージを要する乳房膿瘍および乳房血腫
  • ・ 自家組織乳房再建の全層虚血
  • ・ 術前化学療法を終了した、あるいは術前化学療法中に病状が進行した乳がん患者
  • ・ トリプルネガティブ乳がん、あるいはHER2陽性乳がん患者で、術前化学療法を選択しない場合

○中優先度

  • ・ ホルモンレセプター陽性/HER2陰性/低グレード/低増殖性のがんで、術前ホルモン療法の適応となる乳がん患者
  • ・ 臨床診断と針生検結果が不一致で、浸潤性乳がんの可能性が高い病変に対する外科生検

○低優先度

  • ・ 良性病変に対する外科切除
  • ・ 広範囲高グレード非浸潤性乳管がんを除く、非浸潤性乳がん
  • ・ 臨床診断と針生検結果が不一致で、良性の可能性が高い病変に対する外科生検
  • ・ 二次乳房再建手術
  • ・ 乳がん高リスク例に対するリスク軽減手術

【放射線療法】

○高優先度

  • ・ 出血や疼痛を伴う手術適応のない局所領域病変に対する緩和照射
  • ・ 急性脊髄圧迫、症候性脳転移、その他の腫瘍学的緊急事態症例に対する緩和照射
  • ・ 高リスク乳がん症例に対する術後照射 (炎症性乳がん/リンパ節転移陽性/トリプルネガティブ乳がん/HER2陽性乳がん/術前化学療法後に残存病変あり/40歳未満)

○中優先度

  • ・ 65歳未満でホルモンレセプター陽性かつ HER2 陰性の中間リスク乳がんに対する術後照射

○低優先度

  • ・ 非浸潤性乳がんに対する術後照射
  • ・ 65歳以上でホルモンレセプター陽性かつ HER2 陰性の低リスク乳がんに対する術後照射

【初期乳がんに対する薬物療法】

○高優先度

  • ・ トリプルネガティブ乳がんに対する術前および術後化学療法
  • ・ HER2 陽性乳がん患者に対する抗 HER2 療法併用の術前および術後化学療法
  • ・ 炎症性乳がん患者に対する術前化学療法
  • ・ すでに開始された術前/術後化学療法
  • ・ 高リスクのホルモンレセプター陽性かつ HER2 陰性乳がんに対する術前および術後ホルモン療法±化学療法
  • ・ 術前ホルモン療法

○具体的推奨事項

  • ・ 化学療法と放射線療法の適応となるホルモンレセプター陽性症例において、放射線療法の先行は許容される
  • ・ ホルモンレセプター陽性かつHER2 陰性で臨床ステージI-II乳がんでは、6~12ヶ月間の術前ホルモン療法がオプションとなる
  • ・ ホルモンレセプター陽性かつHER2 陰性で化学療法の適応となる乳がん症例では、術前化学療法がオプションとなる
  • ・ 通院回数を減らす目的での化学療法スケジュール変更 (毎週投与を2週間または3週間毎投与に変更) は許容される。好中球減少症リスクを最小限とするため、G-CSF 製剤を併用し、抗生剤投与も行うべきである。免疫抑制を避けるため、デキサメタゾンは必要に応じて制限すべきである
  • ・ 低リスク、あるいは心大血管疾患やその他の合併症を有する HER2 陽性乳がん症例では、術後の抗 HER2 療法の期間を6ヵ月に短縮することはオプションとなる
  • ・ LHRH アナログ製剤を、通院回数を減らすために長時間作用型へ変更すること、患者自身または訪問看護師による在宅投与することを、ケースバイケースで相談する
  • ・ アロマターゼ阻害剤を投与されている症例では、骨量検査を中止する (ベースラインおよびフォローアップとも)
  • ・ 可能であれば、自宅の近くの医療機関で画像検査や血液検査を実施する
  • ・ 可能であれば、遠隔医療による副作用のモニタリングを実施する

【進行再発乳がんに対する薬物療法】

○高優先度

  • ・ 高カルシウム血症、耐えられない痛み、有症状の胸水貯留、脳転移など、腫瘍学的緊急事態症例に対する薬物療法
  • ・ 重篤内蔵転移に対する薬物療法
  • ・ 予後を改善する可能性の高い一次治療ラインでの化学療法、内分泌療法、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬

○中優先度

  • ・ 予後を改善する可能性のある二次、三次以降の治療ラインでの薬物療法

○低優先度

  • ・ 緊急性の低い高Ca血症や疼痛コントロール目的での骨修飾薬 (ゾレドロン酸、デノスマブ)

○具体的推奨事項

  • ・ 化学療法が推奨される場合、通院回数を減らす目的での経口薬治療は許容される
  • ・ 通院回数を減らす目的での化学療法スケジュール変更 (毎週投与を2週間または3週間毎投与に変更) は許容される
  • ・ 発熱性好中球減少症リスクの低いレジメンを選択することは許容される
  • ・ 化学療法による好中球減少症リスクを最小限とするため、G-CSF 製剤を併用し、抗生剤投与も行うべきである。免疫抑制を避けるため、デキサメタゾンは必要に応じて制限すべきである
  • ・ トラスツズマブとペルツズマブの投与間隔を延長することは許容される (例:4週毎投与)
  • ・ 腫瘍量の少ない HER2 陽性転移性乳がんでトラスツズマブやペルツズマブによる治療が2年間以上にわたり行われている症例では、病状経過を3〜6ヵ月ごとにモニターしながら抗 HER2 療法の中止を考慮する
  • ・ 耐容性を最適化し、有害事象を最小化するため、標的治療剤を減量投与することは許容される
  • ・ 転移再発乳がん一次治療としての標的治療剤 (CDK4/6阻害剤、mTOR阻害剤、PIK3CA 阻害剤) とホルモン療法の併用を、ホルモン療法単独とすることは許容される
  • ・ CDK4/6阻害剤による好中球減少症と COVID-19 発症リスクの関連は明らかではなく、感染徴候を注意深く観察し、COVID-19 を疑い症状が出現した場合は速やかに治療を中止する
  • ・ 免疫チェックポイント阻害剤とCOVID-19 発症リスクの関連は明らかではなく、感染徴候を注意深く観察し、COVID-19 を疑い症状が出現した場合は速やかに治療を中止する
  • ・ LHRH アナログ製剤を、通院回数を減らすために長時間作用型へ変更すること、患者自身または訪問看護師による在宅投与することを、ケースバイケースで相談する
  • ・ 多職種キャンサーボードでの議論と患者の希望を踏まえて、晩期治療ラインにおける休薬、最善支持療法、投与間隔の拡大、低容量維持療法は許容される
  • ・ 骨転移患者に対する骨修飾薬は、通院回数を最小限にして投与されるべきである
  • ・ 病状が安定している転移性乳がん症例では、ステージング目的の定期診察や画像検査の間隔を空ける
  • ・ 抗 HER2療法中の心機能モニター検査は、臨床的に安定していれば遅らせることが許容される
  • ・ 可能であれば、自宅の近くの医療機関で画像検査や血液検査を実施する
  • ・ 可能であれば、遠隔医療による副作用のモニタリングを実施する

( ケアネット )


講師紹介

吉村 吾郎 ( よしむら ごろう ) 氏
市立岸和田市民病院 乳腺外科部長


【 参考文献・参考サイトはこちら 】

1.ESMO magagement and treastment adapeted recommentaions in the COVID-19 ERA: Breast cancer.

2.Recommendations for prioritization, treatment, and triage of breast cancer patients during the COVID‐19 pandemic. the COVID‐19 pandemic breast cancer consortium.

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BRCA変異HER2-乳がんへのveliparib追加、HR+でもTNでもPFS改善(BROCADE3)/ESMO BC2020

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 生殖細胞系列のBRCA遺伝子(gBRCA)変異のあるHER2陰性進行乳がんに対して、カルボプラチン+パクリタキセルへのPARP1/2阻害薬veliparibの上乗せ効果を検討した第III相BROCADE3試験のサブグループ解析で、ホルモン受容体(HR)陽性でもトリプルネガティブ(TN)でも無増悪生存期間(PFS)を改善させることが示された。カナダ・Centre Hospitalier de l’Universite de MontrealのJean-Pierre Ayoub氏が、欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer Virtual Meeting 2020、2020年5月23~24日)で報告した。なお、主要評価項目であるPFSについては、すでに2019年の欧州臨床腫瘍学会(ESMO2019)で有意に改善することが報告されている。また、HRの有無によるPFSの解析は事前に規定されていた。

・対象:gBRCA1/2変異陽性のHER2陰性進行乳がん(転移に対する細胞傷害性の抗がん剤治療が2レジメン以下、プラチナ製剤は1レジメン以下、投与終了から12ヵ月以内に進行なし)
・試験群:veliparib(120mg 1日2回、Day -2~5)+カルボプラチン(AUC 6、Day 1)/パクリタキセル(80mg/m2、Day 1、8、15)21日ごと 337例
・対照群:プラセボ+カルボプラチン/パクリタキセル 172例
・主要評価項目:PFS

 主な結果は以下のとおり。

・ITT集団509例のうち、HR陽性が266例(52%)、TNが243例(48%)であった。
・HR陽性患者において、治験責任医師の評価によるPFS中央値は、veliparib群(174例)が13.0ヵ月(95%CI:12.1~16.6)、プラセボ群(92例)が12.5ヵ月(95%CI:10.2~13.2)であった(ハザード比[HR]:0.69、95%CI:0.52~0.93、p=0.013)。2年PFSはveliparib群27.5%、プラセボ群15.3%、3年PFSはveliparib群17.5%、プラセボ群が8.6%であった。
・TN患者において、治験責任医師の評価によるPFS中央値は、veliparib群(163例)が16.6ヵ月(95%CI:12.3~22.7)、プラセボ群(80例)が14.1ヵ月(95%CI:11.0~15.8)であった(HR:0.72、95%CI:0.52~1.00、p=0.051)。2年PFSはveliparib群40.4%、プラセボ群25.0%、3年PFSはveliparib群35.3%、プラセボ群13.0%であった。
・HR陽性患者において、OS中央値は、veliparib群が32.4ヵ月(95%CI:26.5~37.9)、プラセボ群が27.1ヵ月(95%CI:22.9~35.2)であった(HR:0.96、95%CI:0.68~1.36、p=0.829)。
・TN患者において、OS中央値は、veliparib群が35.0ヵ月(95%CI:24.9~NE)、プラセボ群が30.0ヵ月(95%CI:24.5~NE)であった(HR:0.92、95%CI:0.62~1.36、p=0.683)。
・HR陽性、TNの両サブグループにおいて、全Gradeの貧血、好中球減少症、悪心、下痢の発現率がveliparib群でプラセボ群より5%以上高かった。

(ケアネット 金沢 浩子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

NCT02163694(Clinical Trials.gov)

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BRCA変異HER2-乳がんへのveliparib追加、HR+でもTNでもPFS改善(BROCADE3)/ESMO BC2020

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 生殖細胞系列のBRCA遺伝子(gBRCA)変異のあるHER2陰性進行乳がんに対して、カルボプラチン+パクリタキセルへのPARP1/2阻害薬veliparibの上乗せ効果を検討した第III相BROCADE3試験のサブグループ解析で、ホルモン受容体(HR)陽性でもトリプルネガティブ(TN)でも無増悪生存期間(PFS)を改善させることが示された。カナダ・Centre Hospitalier de l’Universite de MontrealのJean-Pierre Ayoub氏が、欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer Virtual Meeting 2020、2020年5月23~24日)で報告した。なお、主要評価項目であるPFSについては、すでに2019年の欧州臨床腫瘍学会(ESMO2019)で有意に改善することが報告されている。また、HRの有無によるPFSの解析は事前に規定されていた。

・対象:gBRCA1/2変異陽性のHER2陰性進行乳がん(転移に対する細胞傷害性の抗がん剤治療が2レジメン以下、プラチナ製剤は1レジメン以下、投与終了から12ヵ月以内に進行なし)
・試験群:veliparib(120mg 1日2回、Day -2~5)+カルボプラチン(AUC 6、Day 1)/パクリタキセル(80mg/m2、Day 1、8、15)21日ごと 337例
・対照群:プラセボ+カルボプラチン/パクリタキセル 172例
・主要評価項目:PFS

 主な結果は以下のとおり。

・ITT集団509例のうち、HR陽性が266例(52%)、TNが243例(48%)であった。
・HR陽性患者において、治験責任医師の評価によるPFS中央値は、veliparib群(174例)が13.0ヵ月(95%CI:12.1~16.6)、プラセボ群(92例)が12.5ヵ月(95%CI:10.2~13.2)であった(ハザード比[HR]:0.69、95%CI:0.52~0.93、p=0.013)。2年PFSはveliparib群27.5%、プラセボ群15.3%、3年PFSはveliparib群17.5%、プラセボ群が8.6%であった。
・TN患者において、治験責任医師の評価によるPFS中央値は、veliparib群(163例)が16.6ヵ月(95%CI:12.3~22.7)、プラセボ群(80例)が14.1ヵ月(95%CI:11.0~15.8)であった(HR:0.72、95%CI:0.52~1.00、p=0.051)。2年PFSはveliparib群40.4%、プラセボ群25.0%、3年PFSはveliparib群35.3%、プラセボ群13.0%であった。
・HR陽性患者において、OS中央値は、veliparib群が32.4ヵ月(95%CI:26.5~37.9)、プラセボ群が27.1ヵ月(95%CI:22.9~35.2)であった(HR:0.96、95%CI:0.68~1.36、p=0.829)。
・TN患者において、OS中央値は、veliparib群が35.0ヵ月(95%CI:24.9~NE)、プラセボ群が30.0ヵ月(95%CI:24.5~NE)であった(HR:0.92、95%CI:0.62~1.36、p=0.683)。
・HR陽性、TNの両サブグループにおいて、全Gradeの貧血、好中球減少症、悪心、下痢の発現率がveliparib群でプラセボ群より5%以上高かった。

(ケアネット 金沢 浩子)


【参考文献・参考サイトはこちら】

NCT02163694(Clinical Trials.gov)

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T-DXd、HER2+乳がん脳転移例で良好な結果(DESTINY-Breast01)/ESMO BC2020

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 CNS転移を有する既治療のHER2陽性乳がん患者に対する、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd、DS-8201)の有効性が示された。ベルギー・リエージュ大学のGuy Jerusalem氏が、欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer Virtual Meeting 2020、2020年5月23~24日)でDESTINY-Breast01試験のサブグループ解析結果を報告した。

 DESTINY-Breast01試験は、トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)治療を受けたHER2陽性の再発・転移を有する乳がん患者を対象としたグローバル第II相試験。独立中央判定委員会による奏効率は60.9%、PFS中央値は16.4ヵ月であり、持続的な腫瘍縮小効果が示されている。

 この結果に基づき、本邦では2020年3月に「化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能又は再発乳癌(標準的な治療が困難な場合に限る)」を適応として、国内製造販売承認を取得。5月25日に発売された。

・対象:切除不能または転移を有するHER2陽性乳がんで、全身状態(ECOG PS)が0/1であり、T-DM1による治療歴のある患者。今回のサブグループ解析は、ベースライン時にCNS転移を有する患者が対象。
・第1部では、5.4、6.4、7.4mg/kg(3週ごとに静脈内投与)の3つの用量に無作為に割り付けられ、推奨用量が決定された。第2部では、5.4mg/kg(3週ごとに静脈内投与)の用量で登録された184例を対象にT-DXdの有効性と安全性の評価が行われた。
・評価項目:
[主要評価項目]中央判定による奏効率(ORR、完全奏効[CR]+部分奏効[PR])
[副次評価項目]病勢コントロール率(DCR、CR+PR+安定[SD])、臨床的有用率(CBR)、奏効期間、無増悪生存(PFS)期間、安全性など

 主な結果は以下のとおり。

・ベースライン時に24例(13%)がCNS転移を有していた。
・CNS転移を有する患者は全体集団と比較して、全身状態が良好で(ECOG PS 0がCNS転移有:62.5%、全体集団:55.4%)、ホルモン受容体陰性患者が多かった(58.3%、45.1%)。
・治療歴数の中央値は全体集団と同じく6。CNS転移を有する患者の治療歴は、トラスツズマブ、T-DM1が100%、ペルツズマブ、HER2 TKIが62.5%、ホルモン療法が45.8%、その他の全身療法が100%、放射線療法が88.3%であった。
・CNS転移を有する患者において、ORRは58.3%(95%信頼区間[CI]:36.6~77.9]。DCRは91.7%で、内訳はCR :4.2%、PR:54.2%、およびSD:33.3%であった。
・PFS中央値は18.1ヵ月(95%CI:6.7~18.1)であった。
・増悪がみられた部位は全体集団と同様の傾向がみられ、肺、肝臓、リンパ節などであった。CNS転移を有する患者のうち、脳において増悪がみられたのは2例(8.3%)。全体集団では4例(2.2%)であった。
・脳における増悪は、CNS転移を有する患者では78日目と85日目に、CNS転移のない患者では323日目と498日目に発生した。
・TEAEは、CNS転移を有する患者と全体集団の間で一致しており、主に消化器系または血液系であった。TEAEによる治療中止(2例以上みられたもの)は、全体集団で肺炎(11例)、ILD(5例)だったのに対し、CNS転移を有する患者では、肺炎とILD以外のTEAEにより2例が中止された。

 発表では、HER2陽性(IHC3+)/ホルモン受容体陰性の転移を有する乳がん患者で、治療歴数17の48歳の女性が、T-DXd投与中に転移性脳病変の55%の退縮を示した症例についても報告された。

 T-DXdについては、HER2陽性患者対象にT-DM1後の標準治療と有効性を比較するDESTINY-Breast02試験のほか、2つの第III相試験が進行中である。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【参考文献・参考サイトはこちら】

DESTINY-Breast01試験(Clinical Trials.gov)

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TN乳がん1次治療へのipatasertib+PTXのOS結果(LOTUS)/ESMO BC2020

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 手術不能な局所進行または転移を有するトリプルネガティブ乳がん(TNBC)の1次治療において、経口AKT阻害薬ipatasertibをパクリタキセル(PTX)に併用することにより、全生存期間(OS)が延長する可能性が、二重盲検プラセボ対照無作為化第II相試験であるLOTUS試験の最終解析で示された。シンガポール・National Cancer Centre SingaporeのRebecca Dent氏が、欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer Virtual Meeting 2020、2020年5月23~24日)で報告した。なお、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)については、すでに有意に延長することが報告されている。

・対象:測定可能病変のある、治癒切除が不可能な局所進行または転移を有する未治療のTNBCで、6ヵ月以上化学療法を受けておらず、ECOG PSが0または1の患者
・試験群:PTX 80mg/m2(Day1、8、15)+ipatasertib 400mg(Day1~21)を1サイクル28日で進行(PD)または許容できない毒性発現まで投与(ipatasertib群)62例
・対照群:PTX 80mg/m2(Day1、8、15)+プラセボ(Day1~21)(プラセボ群)62例
・評価項目:
[主要評価項目]ITT集団およびPTEN-low患者におけるPFS
[副次評価項目]OS、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)(ITT集団、PTEN-low患者、PI3K/AKT経路活性化患者)、PI3K/AKT経路活性化患者におけるPFS、安全性

 主な結果は以下のとおり。

・最終データカットオフは2019年9月3日で、それまでに全患者が主にPDで治療中止となった。
・ITT集団におけるOS中央値は、ipatasertib群25.8ヵ月(95%信頼区間[CI]:18.6~28.6)、プラセボ群16.9ヵ月(95%CI:14.6~24.6)で、層別ハザード比(HR)が0.80(95%CI:0.50~1.28)とipatasertib群で良好であった。1年OSはipatasertib群83%、プラセボ群68%であった。
・PTEN-low患者(48例)におけるOS中央値は、ipatasertib群23.1ヵ月(95%CI:18.3~28.6)、プラセボ群15.8ヵ月(95%CI:9.0~29.1)で、非層別HRが0.83(95%CI:0.42~1.64)であった。1年OSはipatasertib群79%、プラセボ群64%であった。
・PIK3CA/AKT1/PTEN変異患者(42例)におけるOS中央値は、ipatasertib群25.8ヵ月(95%CI:18.6~35.2)、プラセボ群22.1ヵ月(95%CI:8.7~NE)で、非層別HRが1.13(95%CI:0.52~2.47)であった。1年OSはipatasertib群88%、プラセボ群63%であった。
・サブグループ解析では、50歳未満のOS中央値がipatasertib群35.2ヵ月、プラセボ群15.1ヵ月で、HRが0.41(95%CI:0.20~0.85)と有意にipatasertib群が延長していた。
・Grade 3以上の有害事象(AE)の発現率は、ipatasertib群56%、プラセボ群45%であった。また、ipatasertib群においてAE関連の中止は4例(7%)、中断は22例(36%)、減量は13例(21%)であった。

 現在、無作為化第III相試験であるIPATunity130試験が日本も参加して行われている。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

NCT02162719(Clinical Trials.gov)

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COVID-19に伴う乳がん診療トリアージについて/日本乳癌学会

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 日本乳癌学会は5月25日、COVID-19に伴う乳がん診療トリアージについて指針を公開した。欧米の診療トリアージを参考に、日本における現在の診療に即した形となるようまとめたもの。外来診療、画像診断、外科療法、放射線療法、薬物療法それぞれについて、緊急度を高優先度/中優先度/低優先度の3つに分けて指針を示している。本稿では、外科療法、放射線療法、薬物療法について抜粋して下記紹介する。

【外科療法】
A)高優先度(できるかぎり通常通りの迅速な対応を要する)
1)膿瘍の切開排膿
2)術後合併症に対するサルベージ手術(血腫除去術や血流不全の皮弁に対する処置など)
3)自家再建組織の血行再建術・修復術
4)急速に増大する葉状腫瘍
B)中優先度(治療の遅延が後に生存に影響を与える可能性がある)
1)StageI・IIホルモン受容体陽性症例*に対しては、術前内分泌療法を施行して手術を延期することは可能である。
*ルミナルAタイプや小葉がんの症例に対する6~12ヵ月の術前内分泌療法は、安全性および有効性が示されている。
2)術前化学療法中の症例の方針変更
T2またはN1のホルモン受容体陽性HER2陰性症例:状況によっては術前内分泌療法へ変更できる。
トリプルネガティブまたはHER2陽性症例:施設環境などの状況によるが、易感染性の症例は手術に切り替えてもよい。
3)局所再発の腫瘤切除術
4)再建を伴う手術は、人工物再建として自家組織再建は極力行わない。
C)低優先度(緊急性はなくパンデミックの期間中は延期することができる)
1)良性疾患
2)予防的切除
3)非浸潤がんが確実な症例
4)追加切除術
5)術前内分泌療法が奏効している症例*
*中優先度の外科治療の項参照

【放射線療法】
A)高優先度
1)他に有効な手段がない出血を伴う腫瘍
2)術後照射中および再発巣に対する治療中の症例
3)脊髄圧迫や脳転移、その他致命的な転移性病変を有する症例
B)中優先度
1)高リスク症例に対する照射
炎症性乳がん、リンパ節転移陽性およびトリプルネガティブ乳がん、術前化学療法後に残存病変がある症例、若年(40歳未満)などの高リスク症例は、手術・化学療法終了後から20週以内に照射を行う。
2)低〜中間リスク症例に対する照射
65歳未満のStage I、Stage IIのホルモン受容体陽性乳がんなど低〜中間リスク症例は、手術・化学療法終了後から6ヵ月以内に照射を行う。また来院回数を減らすために寡分割照射も考慮する。
C)低優先度
1)65~70歳以上のホルモン受容体陽性/HER2陰性のStage I症例では、術後内分泌療法が行われている場合、生存率に影響を与えずに放射線照射を延期または省略できる。
2)非浸潤がん症例では、術後内分泌療法を行われている場合、放射線照射は生存率に影響を与えないので省略できる。

【薬物療法】
A)高優先度
1)トリプルネガティブまたはHER2陽性症例に対する術前・術後化学療法
2)すでに開始されている術前・術後治療*の継続
3)予後改善が見込まれる転移再発乳がんの初期化学療法
[考慮すべき事項]
・術前・術後治療*でも内分泌療法中の高齢者や、5年以上経過している症例などでは一時的な休薬も考慮する。
・来院回数を減らすため、用量用法または投与間隔を調整する。
・発熱性好中球減少症を避けるため、PEG-GCSF製剤は積極的に投与する。
・免疫機能を考慮してデキサメタゾンの使用は適切な範囲で制限する。
・トラスツズマブ・ペルツズマブやフルベストラントは免疫機能に影響を与えない。
・LHRHアゴニストは長期製剤を使用する。
B)中優先度
1)緩和的化学療法
[考慮すべき事項]
・術後トラスツヅマブ治療中の症例では、12ヵ月間から7ヵ月間に短縮することは可能である。
・転移再発例に対する抗HER2療法は、投与間隔の延長は可能である。
・HER2陽性転移再発症例で、抗HER2療法が2年以上奏効している症例では、進展がなければ抗HER2療法の休止を考慮してもよい。
・内分泌療法単独で治療可能な症例や奏効している症例に対しては、CDK4/6阻害薬や mTOR阻害薬の追加を延期する。
C)低優先度
1)骨転移に対する骨吸収抑制薬
2)ポートフラッシュ

(ケアネット 遊佐 なつみ)


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HER2陽性乳がんに、トラスツズマブ デルクステカン発売/第一三共

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 第一三共は、トラスツズマブ デルクステカン(商品名:エンハーツ)、HER2に対する抗体薬物複合体(ADC)について、2020年5月25日、国内で新発売したと発表。

 同剤は、T-DM1治療を受けたHER2陽性の再発・転移性乳がん患者を対象としたグローバル第II相臨床試験(DESTINY-Breast01、北米、欧州及び日本を含むアジアで実施)の結果に基づき、2020年3月に「化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能又は再発乳癌(標準的な治療が困難な場合に限る)」を適応として、国内製造販売承認を取得した。

製品概要
・販売名:エンハーツ点滴静注用100mg
・一般名:トラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組換え)
・効能又は効果:化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能又は再発乳癌(標準的な治療が困難な場合に限る)
・用法及び用量:通常、成人にはトラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組換え)として1回5.4mg/kg(体重)を90分かけて3週間間隔で点滴静注する。なお、初回投与の忍容性が良好であれば2回目以降の投与時間は30分間まで短縮できる。
・薬価:エンハーツ点滴静注用100mg :100mg 1瓶 165,074円

(ケアネット 細田 雅之)


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乳がん患者、治療開始の遅れが生存に及ぼす影響

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 早期乳がん患者では、乳がんと診断されてから術前化学療法開始までが61日以上となると、死亡リスクの増加と関連することが示唆された。これまでに、手術や術後化学療法開始の遅れが生存に影響することが報告されてきたが、術前化学療法を必要とする患者は一般的に高リスクの腫瘍を有するため、より影響が大きい可能性が考えられた。ブラジル・Hospital Beneficencia PortuguesaのDebora de Melo Gagliato氏らは、米国・MDアンダーソンがんセンターで術前化学療法を受けた早期乳がん患者のデータを解析した。Oncologist誌オンライン版2020年5月20日号掲載の報告より。

 研究者らは、1995年1月~2015年12月にMDアンダーソンがんセンターで術前化学療法を受けた原発性浸潤性乳がん患者(Stage I~III)を特定。乳がんと診断されてから術前化学療法までの時間(日数)に従って、3つのサブグループに分類した:0~30日、31~60日、および≧61日。主要評価項目は全生存期間(OS)、記述統計とCox比例ハザードモデルが用いられた。

 主な結果は以下のとおり。

・5,137例の患者が登録された。追跡期間中央値は6.5年。
・5年OSの推定値は、診断から術前化学療法までの時間ごとに、0~30日:87%、31~60日:85%、≧61日:83%であった(p=0.006)。
・多変量解析では、0~30日と比較して61日以上となると死亡リスクが増加した(31~60日:ハザード比[HR]=1.05、95%信頼区間[CI]=0.92~1.19、≧61日:HR = 1.28、95%CI=1.06~1.54)。
・層別解析では、術前化学療法開始の遅れと死亡リスク増加との関連は、Stage I、II(31~60日:HR=1.22、95%CI=1.02~1.47、≧61日:HR =1.41、95%CI=1.07~1.86)およびHER2陽性(≧61日:HR=1.86、95%CI:1.21~2.86)の患者で有意に認められた。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


【原著論文はこちら】

Gagliato DM, et al. Oncologist. 2020 May 20. [Epub ahead of print]

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高齢者のがん、発症前に歩行速度が急激に減少

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 高齢者におけるがん診断前と後におけるサルコペニアの尺度の減少度をがんではない高齢者と比較した場合、診断前に歩行速度の減少度が大きいことがわかった。米国・アラバマ大学のGrant R. Williams氏らが報告した。JAMA Network Open誌2020年5月1日号に掲載。

 著者らは、サルコペニアの3つの尺度(四肢除脂肪量[ALM]、握力、歩行速度)について、がんと診断された高齢者の診断前の減少度と診断後の減少度を、がんではない高齢者の減少度と比較し、さらにサルコペニアの尺度とがん患者の全生存率および主な身体障害との関連を評価した。

 このコホート研究は、Health, Aging, and Body Composition研究の参加者(ペンシルベニア州ピッツバーグおよびテネシー州メンフィスとその周辺の白人のメディケア被保険者とすべての黒人居住者のランダムサンプルから募集した70~79歳の地域住民3,075人)を対象とし、1997年1月から2013年12月まで17年間観察した。データは2018年5月~2020年2月に分析した。年に一度、ALM、握力、歩行速度を調査し、線形混合効果モデルを使用して、それぞれの変化についてがん発症者の診断前と診断後、非がん発症者で比較した。さらに、サルコペニアの尺度とがん診断日からの全生存および主な身体障害との関連について、多変量Cox回帰を用いて評価した。

 主な結果は以下のとおり。

・3,075人のうち、男性が1,491人(48.5%)、黒人が1,281人(41.7%)、平均年齢は74.1(SD:2.9)歳であった。
・研究開始から7年の間に515人(16.7%)ががんを発症した。多いがんは前立腺がん(117人、23.2%)、大腸がん(63人、12.5%)、肺がん(61人、12.1%)、乳がん(61人、12.1%)で、165人(32.0%)に転移が認められた。
・がん発症者の診断前の各尺度の減少率は、非がん発症者と比べ、歩行速度では大きかった(β=-0.02、95%CI:-0.03~-0.01、p<0.001)が、ALM(β=-0.02、95%CI:-0.07~0.04、p=0.49)、握力(β=-0.21、95%CI:-0.43~0、p=0.05)は差がなかった。
・がん発症者の診断後の各尺度の減少率は、非がん発症者に比べ、ALMでは大きかった(β=-0.14、95%CI:-0.23〜-0.05、p<0.001)が、握力(β=-0.02、95%CI:-0.37〜0.33、p=0.92)、歩行速度(β=0、95%CI:-0.01〜0.02、p=0.51)は差がなかった。
・転移のある患者では、がん診断後のALMの減少率が最も大きかった(β=-0.32、95%CI:-0.53〜-0.10、p=0.003)。
・歩行速度が遅いと、死亡率が44%増加(HR:1.44、95%CI:1.05〜1.98、p=0.02)、身体障害が70%増加(HR:1.70、95%CI:1.08〜2.68、p=0.02)したが、ALMや握力が低い場合には死亡率と身体障害の増加は認められなかった。

(ケアネット 金沢 浩子)


【原著論文はこちら】

Williams GR, et al. JAMA Netw Open. 2020;3:e204783.

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