乳がん検診への超音波併用のベネフィット、非高濃度乳房でも/日本乳癌学会

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 マンモグラフィ検査の限界として、高濃度乳房で腫瘍が発見されにくくなる“マスキング効果”が指摘されている。そのため、「高濃度であれば追加検査を推奨し、非高濃度であれば安心」という論調がある。しかし、少なくとも40代の女性においては、高濃度か非高濃度かによらず、超音波検査の追加によってベネフィットが得られる可能性が示唆されている。第27回日本乳癌学会学術総会にて、東北医科薬科大学医学部・乳腺内分泌外科の鈴木 昭彦氏が、「J-STARTからみたDense Breast対策」と題して講演した。

  米国では、2019年3月に乳がん検診に関する新たな方針案が示された。この方針案では、受診者への乳房構成の通知を義務付けることで、検診受診の判断を個人の裁量に委ねる方向性となっている。一方本邦では、40代後半から50代前半で最も乳がん罹患率が高いにもかかわらず、この年代でマンモグラフィの感度が低いため、いかに有効な検診を提供できるかが重要となる。

約1万人のデータを解析、非高濃度乳房でもがん発見率と感度上昇

 鈴木氏らは、J-START試験参加者のうち、乳房構成のデータのある一部(11,432人)の症例を対象に、高濃度乳房群と非高濃度乳房群における超音波検査の影響を解析した。マンモグラフィ+超音波検査の介入群と、マンモグラフィのみのコントロール群の人数はそれぞれ5,781人 、5,651人であった。

 全体の初回検診結果をみると、がん発見率:介入群0.74% vs.コントロール群0.42%、要精検率:14.1% vs.9.8%、感度:93.5%(95%信頼区間:0.86~1.01)vs.72.7%(0.58~0.88)でp=0.02、特異度:86.6%(85.7~87.5)vs.90.6%(89.8~91.4)でp<0.001と、J-START試験の全国集計値とほぼ同様の傾向であった。

 次に、高濃度乳房群(きわめて高濃度+不均一高濃度)と非高濃度乳房群(乳腺散在+脂肪性)で初回検診結果を比較すると、がん発見率は、高濃度乳房群で介入群0.74% vs.コントロール群0.40%と介入群で上昇した。一方の非高濃度乳房群でも、0.75% vs.0.46%と介入群で高く、非高濃度乳房であっても、超音波検査の追加によって一定数の乳がんが新たに発見されていることが明らかとなった。

 感度においても、高濃度乳房群で96.2%(88.8~103.2)vs. 72.2%(51.5~92.9)と介入群で約24%上昇し、非高濃度乳房群でも90.0%(95%CI:76.9~103.6)vs. 73.3%(51.0~95.7)と介入群で約17%上昇した。

40代女性、乳腺散在の場合もマンモグラフィの精度低い?

 鈴木氏らによる2008年発表の研究1)において、年齢別・乳房構成別にマンモグラフィのがん発見感度をみると、40代女性では高濃度乳房だけでなく、乳腺散在の場合も50代以上と比較して感度が低い傾向がみられている(40代:69.2%、50代:80.7%、60代:79.7%)。

 また、不要な要精検率の増加という“検診による不利益”についても検討。J-START試験参加者のうち、2007~08年の参加者6,731人をサンプル調査し、介入群とコントロール群の初回および2回目検診における要精検率の変化を調査した。その結果、介入群の要精検率は初回13.1%、2回目5.6%、コントロール群の要精検率は初回6.9%、2回目4.3%であった。しかし、陽性反応的中率(PPV)は介入群で初回3.6%、2回目6.4%と上昇しており、検診の精度は保たれていた。

 鈴木氏は、「検診の真の有効性を証明する指標は死亡率減少であり、現状で超音波検査を無条件で推奨できるエビデンスは存在しない。しかし、40代の日本人女性への超音波検査の上乗せは、乳がん発見率を大きく改善し、その効果は高濃度乳房でとくに顕著だが、非高濃度乳房でも明確にみられる。精度管理により不利益を最小化する努力が重要なのではないか」と締めくくった。

(ケアネット 遊佐 なつみ)


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1)Suzuki A et al. Cancer Sci. 2008;99:2264-7.

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砂糖入り飲料、がんのリスク増大/BMJ

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 砂糖入り飲料の消費は、全がんおよび乳がんのリスクを増加させ、100%果物ジュースも全がんのリスクと関連することが、フランス・パリ第13大学のEloi Chazelas氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2019年7月10日号に掲載された。砂糖入り飲料の消費は最近10年で世界的に増加しているという。砂糖入り飲料と肥満リスクには明確な関連が認められ、肥満は多くのがんの強力なリスク因子とされる。

10万人以上の住民を対象とするフランスのコホート研究

 研究グループは、100%果物ジュースを含む砂糖入り飲料および人工甘味料入り飲料と、がんのリスクとの関連の評価を目的とする住民ベースの前向きコホート研究を行った(フランス保健省などの助成による)。

 解析には、フランスで2009年にWebベースで登録が開始されたNutriNet-Santeコホートの2018年までのデータ(10万1,257例)を用いた。

 砂糖入り飲料および人工甘味料入り飲料の消費の評価には、3,300項目の食品および飲料に関して、参加者の日常的な消費状況が記録されるようデザインされた反復的24時間食事記録法を用いた。飲料のタイプごとに、男女別の消費量をそれぞれ4段階に分けて解析した。

 主要アウトカムは、飲料の消費と全がん、乳がん、前立腺がん、大腸がんの関連とした。競合リスクを考慮し、多変量で補正したFineとGrayのハザードモデルを用いて評価を行い、部分分布のハザード比(HR)を算出した。

がん予防における修正可能なリスク因子である可能性

 10万1,257例(平均年齢42.2[SD 14.4]歳)のうち、女性が7万9,724例(78.7%)を占め、男性は2万1,533例(21.3%)であった。飲料のタイプ別の割合は、砂糖入り飲料(100%果物ジュースを除く)が36%、100%果物ジュースが45%で、人工甘味料入り飲料は19%だった。

 追跡期間中央値5.1年(49万3,884人年)の間に、2,193例が初発のがんを発症した。内訳は、乳がんが693例(閉経前283例、閉経後410例)、前立腺がんが291例、大腸がんは166例で、診断時の平均年齢は58.5±12.0歳だった。

 砂糖入り飲料の消費は、全がん(消費量100mL/日増加の部分分布HR:1.18、95%信頼区間[CI]:1.10~1.27、p<0.001)および乳がん(1.22、1.07~1.39、p=0.004)のリスクと有意な関連が認められた。乳がんは、閉経前(p=0.02)が閉経後(p=0.07)よりも関連性が明確であったが、砂糖入り飲料の消費量中央値は、閉経期(88.2mL/日)のほうが閉経前(43.2mL/日)に比べ多かった。

 砂糖入り飲料の消費は、前立腺がんおよび大腸がんとは関連がなかった。また、肺がんにも関連は認めなかったが(p=0.1)、統計学的検出力がきわめて低かった。

 人工甘味料入り飲料の消費は、がんのリスクとは関連しなかったが、全サンプルに占める消費の割合が相対的に低かったことから、統計学的検出力が不十分であった可能性がある。
 サブ解析では、100%果物ジュースの消費は全がん(消費量100mL/日増加の部分分布HR:1.12、95%CI:1.03~1.23、p=0.007)のリスクと有意な関連を示した。

 著者は、「これらの結果は、他の大規模な前向き研究で再現性を検証する必要がある」とし、「欧米諸国で広く消費されている砂糖入り飲料は、がん予防における修正可能なリスク因子である可能性が示唆される」と指摘している。

(医学ライター 菅野 守)


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Chazelas E, et al. BMJ. 2019;366:l2408.

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周術期化学療法による脱毛の程度や経過は/日本乳癌学会

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 化学療法による有害事象の治療後の経過についての報告は少なく、とくに脱毛に関しての報告はきわめて少ない。また、正確な頻度や程度、経過についてまとまったエビデンスはない。今回、群馬大学乳腺・内分泌外科の藤井 孝明氏らは、アンケート調査による前向き観察研究でこれらを検討した。その結果、治療終了後でも有害事象が継続する症例が多く認められること、頭髪以外の部位の脱毛も高頻度で起こりうることが明らかになった。第27回日本乳癌学会学術総会にて報告された。

 本研究の対象は、FEC療法、タキサンの順次投与を周術期に施行し、化学療法終了後、半年後の経過観察とアンケート調査の評価が可能であった45例。レジメン変更時、治療終了時、治療終了半年後および1年後に、アンケート調査を実施した。悪心、嘔吐、しびれ(末梢神経障害)、口内炎、味覚障害、不眠症、排便、爪脱落については、CTCAE v4.0に準じたアンケートで調査した。脱毛については、頻度、程度(0、25、50、75、100%で評価)、脱毛の部位(頭髪、眉毛、睫毛、体毛)、脱毛・発毛の開始時期、発毛後の毛質、脱毛時のケア、症状についてアンケートを行った。

 主な結果は以下のとおり。

・治療開始時の年齢中央値は53歳(38~74歳)、術前化学治療が23例、術後化学治療が22例であった。HER2陽性例ではトラスツズマブを投与していた。
・治療終了時と治療終了半年後の有害事象(全Grade)の頻度の変化は、悪心71.1%→4.4%、嘔吐8.9%→0%、口内炎57.8%→20.0%、便秘77.8%→34.8%、下痢48.9%→22.2%、味覚障害84.4%→40.0%、不眠症77.8%→35.6%、末梢神経障害55.6%→80.0%、爪脱落13.3%→44.4%であった。悪心、嘔吐は治療終了半年後に改善を認め、末梢神経障害は継続例が多かった。
・脱毛の頻度と75%以上の脱毛の頻度は、頭髪100%/100%、眉毛88.9%/34.1%、睫毛88.9%/28.9%、体毛97.8%/48.9%であった。
・脱毛開始時期の中央値は治療開始から14日目(9~28日)であった。
・脱毛時のケアは全例で行っており、ウイッグ88.9%、帽子91.1%、バンダナ22.2%であった。
・発毛の開始時期は、頭髪では治療中が10例(中央値:4ヵ月)、治療後が34例(同:2ヵ月)、眉毛では治療中が7例(同:4ヵ月)、治療後が29例(同:1.5ヵ月)、睫毛では治療中が6例(同:4.5ヵ月)、治療後が29例(同:1.5ヵ月)、体毛では治療中が6例(同:5ヵ月)、治療後が31例(同:2ヵ月)であった。
・治療後の毛髪の変化は、太さでは「細くなった」が40.9%、硬さでは「柔らかくなった」が52.3%、質では「巻き髪になった」が59.1%、色では「白髪になった」が22.7%であった。

(ケアネット 金沢 浩子)


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疼痛・疲労・精神的苦痛の支援を受けたことがない―がん患者の3~5割/JCO

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 どれほどのがん患者が疼痛、疲労、精神的苦痛を有し、またそれらに対するケアは行われているのか。米国・がん協会のTenbroeck G. Smith氏らは、地域のがんセンターで治療を受けている患者を対象に、それらの有症率などを調査した。その結果、30~50%のがん患者が、疼痛、疲労および精神的苦痛について、話し合ったり、アドバイスを受けたり、期待した支援を受けたことがないと回答したという。著者は、「これら3つのがん関連症状の管理に関して改善の余地がある」と述べたうえで、それぞれの症状の有症率の高さについても「重要と思われる」と指摘している。Journal of Clinical Oncology誌2019年7月1日号掲載の報告。

 研究グループは、米国のCommission on Cancer認定がんセンター17施設から、local/regional乳がん(82%)または大腸がん(18%)の患者を抽出してアンケート調査を行い、2,487例の回答を得た(回答率61%)。

 主な結果は以下のとおり。

・疼痛、疲労および苦痛について、臨床医と話し合ったと報告した患者の割合はそれぞれ76%、78%および58%、アドバイスをもらったと報告した患者の割合はそれぞれ70%、61%および54%であった。
・疼痛、疲労および苦痛を経験した患者の割合は、それぞれ61%、74%および46%であった。
・疼痛、疲労および苦痛を経験した患者の中で、支援を得たと報告した患者はそれぞれ58%、40%および45%であった。
・根治的治療を受けている(または最近治療が完了した)患者は、根治的治療から時間が経った患者に比べ、症状に対する良好なケアを受けていると回答した。

(ケアネット)


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Smith TG, et al. J Clin Oncol. 2019;37:1666-1676.

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ASCO2019レポート 乳がん

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レポーター紹介

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下村 昭彦 ( しもむら あきひこ ) 氏
国立がん研究センター中央病院 乳腺・腫瘍内科
国立国際医療研究センター 乳腺・腫瘍内科


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 2019年5月31日~6月4日まで5日間にわたり、ASCO2019が開催された。2019年のテーマは“Caring for every patient, Learning from every patient”であった。薬物療法の大きな演題が少なかった代わりに、支持療法やサバイバーケアの演題が多く取り上げられているように感じた。乳がんにおいては直接私たちの実臨床を変えるような試験の発表はなかったが(残念ながらプレナリーセッションもなし)、日常臨床の中で解決しなければならないクリニカルクエスチョンに回答する試験、今後の開発の方向性を示唆する試験の発表が多かったように感じる。その一方で、日本が参加していない試験の報告も多く、わが国の世界の治療開発の中での課題を再認識させられた学会でもあった。乳がんのLocal/Regional口演から2演題、Metastatic口演から5演題を紹介する。

臨床的リスク因子がOncotypeDXによる再発スコアに及ぼす影響(TAILORx追加解析)

  OncotypeDXは乳がん組織中の21遺伝子のメッセンジャーRNA発現を解析することにより再発リスクの予測、化学療法の上乗せ効果を予測する検査である。TAILORx試験は、再発スコア(RS)を11以下の低リスク、12~25の中間リスク、25以上の高リスクに分け、中間リスクに対する化学療法の上乗せ効果を検証した第III相試験である。主たる解析結果は昨年のASCOで発表され、中間リスクに対する化学療法の上乗せ効果は認められなかった。サブグループ解析では50歳以下でRSが16~20では2%の、21~25では7%の化学療法上乗せ効果が示唆された(Sparano JA, et al. N Engl J Med.2018;379:111-121.)。今回の発表では、RSに臨床的リスク因子を加えた解析が行われた。臨床的低リスクは3cm以下かつ低グレード、2cm以下かつ中間グレード、1cm以下かつ高グレードと定義され、臨床的低リスクに当てはまらない症例が臨床的高リスクと分類された。臨床的高リスクは30%であった。無病生存期間(disease free survival:DFS)および遠隔無再発生存期間は、RS11~25の中間リスクにおいて臨床リスクによる差を認めなかった。化学療法の有益性が示唆されている50歳以下のRS16~25に限った解析では、RS16~20かつ臨床低リスクでは化学療法上乗せ効果を認めなかった。また、この集団における化学療法の上乗せ効果は化学療法誘発閉経によるものである可能性が示唆された。今回の結果はOncotypeDXの実臨床での使い方に大きな影響を及ぼすものではないが、50歳以下(未閉経)RS16~25の場合に化学療法を上乗せするかどうかの参考にはなりえるかもしれない。本研究の結果は発表同日、論文発表された(Sparano JA, et al. N Engl J Med. 2019;380:2395-2405.)。

HER2陽性乳がんに対する術前ペルツズマブ+化学療法vs.T-DM1+ペルツズマブ (KRISTINE試験)

  本試験はHER2陽性早期乳がんを対象とした、ペルツズマブ+トラスツズマブ+カルボプラチン+ドセタキセル(TCH+P)とT-DM1+ペルツズマブ(T-DM1+P)を比較する第III相試験である。各施設判定での主要評価項目は病理学的完全奏効(pathological complete response:pCR)率であり、pCRは56% vs.44%でTCH+P群で良好であった (Hurvitz SA, et al. Lancet Oncol. 2018;19:115-126.)。一方で、Grade3の有害事象や重篤な有害事象の発生頻度などでT-DM1+ペルツズマブ群のほうが安全性は良好であった。今回の発表では、副次評価項目の無イベント生存率(event free survival: EFS)、無浸潤がん生存率(invasive disease free survival:IDFS)などについて発表された。3年EFSはTCH+P群 vs.T-DM1+P群で94.2% vs.85.3%(層別化ハザード比:2.61、95%CI:1.36~4.98)とTCH+P群で良好であり、主要評価項目のpCR率と同様の傾向を示した。イベントとしては手術前の増悪がT-DM1+P群で15例(6.7%)と、イベントの約半数を占めていた。TCH+P群では0例であり、手術前の増悪がEFSの差につながったと考えられる。手術前に増悪した15例のうち14例についてHER2のmRNA発現が解析されており、全例で中央値を下回っていた。また、HER2の免疫組織化学染色は15例のうち10例(66.7%)が2+であり、このようなHER2の発現状況がT-DM1+Pの効果に影響を及ぼした可能性が考えられる。3年IDFSは92.0% vs.93.0%で両群に差は認めなかった。KATHERINE試験(von Minckwitz G, et al. N Engl J Med. 2019;380:617-628.)では術前治療で腫瘍が残存した症例に対してT-DM1の術後治療が無病生存(disease free survival:DFS)、全生存期間(overall survival:OS)を改善している。今回の結果との違いはHER2の発現の違いによる可能性は示唆されるが、さらなる検討が必要であろう。

抗HER2療法で進行したHER2陽性転移乳がんに対するmargetuximab+化学療法 vs.トラスツズマブ+化学療法の比較第III相試験(SOPHIA試験)

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  本試験は新しい抗HER2抗体であるmargetuximabと化学療法の併用をトラスツズマブと化学療法の併用と比較する試験である。margetuximabはトラスツズマブと同様の特異性と結合性の抗体認識部分を持ち、下流シグナルの抑制効果も同等である。トラスツズマブと異なるのはFCγ受容体結合部位であり、IgG1の野生型のままのトラスツズマブと異なり、CD16Aを活性化し、CD32Bを抑制するよう改変されている。CD16Aの遺伝子型が抗HER2抗体の治療効果予測因子となることが示唆されているため、margetuximabはCD16Aの変異型を有する腫瘍に対しても有効性が高いことが期待された。本試験は2レジメン以上の抗HER2治療歴(転移乳がんに対して1~3レジメン)の症例を対象として、主治医選択化学療法(カペシタビン、エリブリン、ゲムシタビンまたはビノレルビン)と併用して抗HER2抗体を1:1に割り付けた。margetuximab群に266例、トラスツズマブ群に270例が割り付けられた。主要評価項目は無増悪生存期間(progression free survival:PFS)およびOSであった。前治療としてトラスツズマブおよびペルツズマブは両群で全例が、T-DM1はそれぞれ約91%が受けていた。PFSの中央値は5.8ヵ月 vs.4.9ヵ月(ハザード比:0.76、95%CI:0.59~0.98、p=0.033)とmargetuximab群で良好であった。事前に計画されたCD16Aの遺伝子型によるサブ解析ではCD16A-FFもしくはFVではmargetuximab群で良好であったが、VVでは有意差を認めなかった。FF、FVのみでの解析では有意差を認めなかったが、margetuximab群で良好な傾向であった。また、OSについては有意差を認めなかった。奏効率、臨床的有用率についてもmargetuximabで良好であった。有害事象においてはmargetuximab群でinfusion-related reactionが多い傾向を認めた。今後、抗HER2抗体で進行した転移乳がんの治療として、margetuximabは1つの選択肢となってくる可能性があるが、残念ながら日本からはこの試験には参加していない。

転移のあるHER2陽性乳がんにおけるneratinib+カペシタビンvs.ラパチニブ+カペシタビンの比較第III相試験(NALA試験)

  neratinibはHERファミリーのチロシンキナーゼドメインに不可逆的に結合することにより、下流シグナルを抑制する少分子化合物である。NALA試験は転移乳がんに対し2レジメン以上の抗HER2治療の既往がある症例を対象としてneratinib+カペシタビンvs.ラパチニブ+カペシタビンを比較する第III相試験で、主要評価項目はPFSおよびOSであった。neratinib群に307例が、ラパチニブ群に314例が登録された。PFSはハザード比0.76(p=0.0059)とneratinib群で良好であった。もう1つの評価項目であるOSではneratinib群で良好な傾向は認めたものの、統計学的には有意ではなかった。副次評価項目の中枢神経転移に対する介入の割合はneratinib群の22.8%に対し、ラパチニブ群で29.2%とneratinib群で良好であった(p=0.043)。有害事象は下痢(とくにGrade3/4の下痢)、悪心、嘔吐、食欲低下がneratinib群で多く、手足症候群はラパチニブ群で多い傾向にあった。患者報告によるQOLでは両群間に差を認めなかった。

トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対するアテゾリズマブ+nab-PTX併用試験のOSアップデート(IMpassion130)

  アテゾリズマブ+nab-PTX併用療法のTNBCに対する初回治療の結果は昨年の欧州臨床腫瘍学会で発表され、乳がんへの適応拡大が期待されている(Schmid P, et al. N Engl J Med. 2018;379:2108-2121.)。本試験ではPD-L1の発現(1%以上または未満)によって層別化が行われた。PD-L1は41%の症例で陽性であった。主要評価項目はPFSであり、ITT集団では7.2ヵ月 vs.5.5ヵ月、PD-L1陽性集団では7.5ヵ月 vs.5.0ヵ月で、アテゾリズマブ群で良好であった。今回は2回目の中間解析の結果が発表された。観察期間の中央値は18.0ヵ月であり、ITT集団で59%の死亡イベントが発生していた。ITT集団における生存期間中央値(median survival time:MST)は21.0ヵ月 vs.18.7ヵ月(ハザード比:0.86、95%CI:0.72~1.02、p=0.0777)、24ヵ月生存率は42% vs.39%であり、アテゾリズマブ群で良好な傾向を認めたものの、統計学的有意差は認めなかった。PD-L1陽性集団における解析はITT集団で陽性だった場合にのみ行う統計手法が用いられていたため参考値ではあるが、MSTは25.0ヵ月 vs.18.0ヵ月、24ヵ月生存率は51% vs.37%であり、より差が開く傾向がみられた。PD-L1陰性では、MSTは19.7ヵ月 vs.19.6ヵ月であり、アテゾリズマブ追加の有無にかかわらず差を認めなかった。MST、24ヵ月生存率のいずれもプラセボ群ではPD-L1陽性の場合に短い傾向がみられ、PD-L1が予後予測因子でもある可能性が示されている。乳がんにもついに免疫チェックポイント阻害剤の波が到達しようとしている。有害事象のマネジメントも含めて、先人たちに学びながら有効な治療を安全に患者さんに届けるようにしていきたい。なお、余談ではあるが本試験の共同演者には愛知県がんセンターの岩田 広治先生が入っていた。最近では国内からの参加のある国際共同試験の多くで共同演者に日本の先生が入っていることも多く、非常にうれしく感じている。

ホルモン受容体陽性乳がんを対象としたエリブリン+ペムブロリズマブ併用療法とエリブリン単剤療法のランダム化第II相試験

  ホルモン受容体陽性乳がんは免疫学的には“コールド”と考えられており、免疫チェックポイント阻害剤の効果が得られにくいと考えられている。免疫チェックポイント阻害剤単剤では2.8~12%の奏効率が報告されている。一方で化学療法との併用の術前治療ではpCR率を上げることが報告されており、化学療法と免疫チェックポイント阻害剤の併用はホルモン受容体陽性乳がんの治療として有望である可能性が残されていた。本研究ではエストロゲン受容体および/またはプロゲステロン受容体陽性HER2陰性で、2レジメン以上のホルモン療法歴(術後治療含む)、転移乳がんに対する0~2レジメンの化学療法歴を有する症例を対象として、エリブリン+ペムブロリズマブ併用療法とエリブリン単剤療法を比較した第II相試験である。主要評価項目はPFS、副次評価項目として奏効率・臨床的有用率とOSが設定されていた。44例が併用群、46例が単剤群に割り付けられた。PFSは4.1ヵ月 vs.4.2ヵ月(ハザード比:0.8、95%CI:0.5~1.3、p=0.33)であり両群間に差を認めなかった。PD-L1陽性集団に限った解析でも同様の傾向であった。奏効率はITT集団で27% vs.34%、PD-L1陽性集団で23% vs.45%と、併用群で低い傾向であった。OSは両群間に差を認めなかった。有害事象は多くの項目で両群間に大きな差を認めなかったが、併用群では2例の免疫関連有害事象による治療関連死を認め、単剤群では認めなかった。本試験の結果をもって、ホルモン受容体陽性乳がんに対する免疫チェックポイント阻害剤の有用性を結論付けることはできないが、併用群で奏効率が低下した理由についてはreverse translational researchが必要であろう。

MONALEESA-7 副次評価項目の全生存期間の中間解析で有意に延長

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  MONALEESA-7は閉経前転移乳がんを対象に1次ホルモン療法に対するCDK4/6阻害剤であるribociclibの上乗せをみた第III相試験である。ホルモン療法としてはタモキシフェンもしくはアロマターゼ阻害剤とLHRHアゴニストであるゴセレリンが併用された。前治療としてホルモン療法は許容されておらず、化学療法は1レジメンのみ許容されていた。主要評価項目はPFS、キー副次評価項目としてOSが設定されていた。PFSの結果は昨年のSan Antonio Breast Cancer Symposiumで発表され、ribociclib群で23.8ヵ月に対しプラセボ群で13ヵ月(ハザード比:0.55、95%CI:0.44~0.69、p<0.0001)とribociclib群で良好であり、閉経前の症例においてもこれまでに閉経後を対象として行われてきたCDK4/6阻害剤と同様の上乗せ効果が得られることが示された。今回の発表では観察期間中央値34.6ヵ月時点でのOSの中間解析結果が発表された。生存期間中央値はribociclib群では未達であり、プラセボ群では40.9ヵ月であり、中間解析に割り振られたp値を下回りribociclib群で有意に長かった(ハザード比:0.712、95%CI:0.535~0.948、p=0.00973)。点推定値では、36ヵ月で71.2% vs.64.9%、42ヵ月で70.2% vs.46.9%と観察期間が延長するにつれて差が開いていく傾向を認めた。本試験はCDK4/6の1次治療への上乗せを検証した試験の中で、OSの結果を公表し統計学的有意差を認めた初の試験である。本試験の対象は閉経前であるため、現在の国内で1次治療に使用できるCDK4/6阻害剤に直接応用することはできない。また、中間解析でありイベントが十分に発生していないことなどから、今後の結果については最終解析の結果を待つ必要がある。本試験結果は発表同日New England Journal of Medicine誌に論文公表された( Im SA, et al. N Engl J Med. 2019 Jun 4. [Epub ahead of print])。なお、ribociclibは国内での開発が中止となっているため、本試験には日本からは不参加である。閉経前に対するCDK4/6の国内における開発は非常に重要であり、閉経前後を含めてタモキシフェンにパルボシクリブの上乗せを検証する、日本を含めたアジア共同医師主導治験のPATHWAY試験(UMIN000030816)の症例集積が完了する見込みである。結果の公表が待たれる。

(ケアネット)


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乳がん患者への予後情報の開示は効果的か/Cancer

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 がん患者へ明確な予後を知らせる効果に関する知見が示された。聖隷三方原病院 緩和ケアチームの森 雅紀氏らは、日本人乳がん女性患者に対して、予後の明確な開示の有無という点で異なる2つのビデオ(患者と医師のコミュニケーション場面を撮影したもの)を見せ、患者が抱く不確実性や不安、満足感などに変化が認められるかを無作為化試験により調べた。その結果、明確な予後の開示はそれらのアウトカムを改善することが示されたという。結果を踏まえて著者は、「がん患者に予後について質問をされたら、医療従事者は、その要望を尊重すべきであり、適切であれば明快に話し合うことが推奨されるだろう」と述べている。Cancer誌オンライン版2019年6月17日号掲載の報告。

 研究グループは、「アジアでは臨床において、進行がん患者への予後は、非開示が典型的なままである。予後を伝える重要性が世界的にますます認識されるようになっているが、アジア人の進行がん患者に対する、明確な予後の開示が及ぼす影響については、ほとんどわかっていない」として、がん再発を伴う患者に対する、明確な予後の伝達効果を、無作為化ビデオ描写試験にて調べた。

 根治手術を受けた日本人乳がん女性に対して、再発難治乳がんを有する患者と患者のがん担当医との予後に関するコミュニケーションを撮影したビデオを見せた。ビデオは、明確な予後の開示の有無のみが異なる2つのパターンが用意された。

 主要評価項目は、被験者が抱く不確実性(Uncertainty、範囲:0~10)である。副次評価項目は、不安(State-Trait Anxiety Inventory-Stateで測定、範囲:20~80)、満足度(Patient Satisfaction Questionnaire、範囲:0~10)、自己効力感(Self efficacy、範囲:0~10)、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)について話し合う意欲(範囲:1~4)などであった。

 主な結果は以下のとおり。

・合計105例の女性が参加した(平均年齢53.8歳)。
・被験者の不確実性のスコアは、予後の開示が多いビデオを見た後のほうが、少ないビデオを見た後よりも有意に低下した(それぞれの平均スコアは5.3 vs.5.7、p=0.032)。
・同様に、満足度は上昇し(それぞれ5.6 vs.5.2、p=0.010)、不安は増加しなかった(State-Trait Anxiety Inventory-Stateスコアの変化はそれぞれ0.06 vs.0.6、p=0.198)。
・一方で、自己効力感(それぞれ5.2 vs.5.0、p=0.277)、ACPについて話し合う意欲(それぞれ2.7 vs.2.7、p=0.240)については、有意な変化はみられなかった。

(ケアネット)


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Mori M, et al. Cancer. 2019 Jun 17. [Epub ahead of print]

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FoundationOne CDx、エヌトレクチニブのコンパニオン診断として承認/中外

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 中外製薬は、2019年6月27日、遺伝子変異解析プログラムFoundationOne CDx がんゲノムプロファイルに関し、ROS1/TRK阻害剤エヌトレクチニブ(商品名:ロズリートレク)のNTRK融合遺伝子陽性の固形がんに対するコンパニオン診断としての使用目的の追加について、6月26日に厚生労働省より承認を取得したと発表。FoundationOne CDx がんゲノムプロファイルは、NTRK融合遺伝子(NTRK1NTRK2NTRK3遺伝子と他の遺伝子の融合遺伝子)を検出することにより、エヌトレクチニブの適応判定補助を行う。 エヌトレクチニブ は、成人および小児の NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形がんに対する治療薬として本年6月18日に承認を取得している。

 本プログラムは、米国のファウンデーション・メディシン社 により開発された、次世代シークエンサーを用いた包括的ながん関連遺伝子解析システムである。患者の固形がん組織から得られたDNAを用いて、324の遺伝子における置換、挿入、欠失、コピー数異常および再編成などの変異等の検出および解析、ならびにバイオマーカーとして、マイクロサテライト不安定性の判定や腫瘍の遺伝子変異量の算出を行う。また、国内既承認の複数の分子標的薬のコンパニオン診断として、適応判定の補助に用いることが可能である。

FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル、コンパニオン診断の適応
 [EGFRエクソン19 欠失変異及びエクソン21 L858R変異]
  がん種:非小細胞肺がん
  関連する医薬品:アファチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、オシメルチニブ

 [EGFRエクソン 20 T790M変異]
  がん種:非小細胞肺がん
  関連する医薬品:オシメルチニブ

 [ALK融合遺伝子]
  がん種:非小細胞肺がん
  関連する医薬品:アレクチニブ、クリゾチニブ、セリチニブ

 [BRAF V600Eおよび V600K変異]
  がん種:悪性黒色腫
  関連する医薬品:ダブラフェニブ、トラメチニブ、ベムラフェニブ

 [ERBB2コピー数異常(HER2遺伝子増幅陽性)
  がん種:乳がん トラスツズマブ

 [KRAS/NRAS野生型]
  がん種:直腸・結腸がん
  関連する医薬品:セツキシマブ(遺伝子組換え)、パニツムマブ(遺伝子組換え)

 [NTRK1/2/3融合遺伝子]
  がん種:固形がん
  関連する医薬品:エヌトレクチニブ

(ケアネット)


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早期乳がんへの術後トラスツズマブ投与、PHERE試験の最終解析/Lancet

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 早期乳がんの術後トラスツズマブ治療において、6ヵ月投与は12ヵ月投与に対し非劣性ではないことが、フランス・Centre Paul StraussのXavier Pivot氏らが行った「PHARE試験」の最終解析で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2019年6月6日号に掲載された。本試験の2013年の中間解析では非劣性が確認できず、今回は、事前に規定されたイベント発生数に基づき、予定された最終解析の結果が報告された。

無病生存を評価するフランスの無作為化非劣性試験

 PHAREは、フランスの156施設が参加した非盲検無作為化第III相非劣性試験であり、2006年5月~2010年7月の期間に患者登録が行われた(フランス国立がん研究所の助成による)。

 対象は、年齢18歳以上、転移がなく、HER2陽性の切除可能な腺がんで、腋窩リンパ節転移の有無は問わず、腫瘍径が10mm以上であり、化学療法を4サイクル以上受け、術後トラスツズマブ治療を開始した患者であった。

 被験者は、術後トラスツズマブ治療開始後3~6ヵ月の治療期間中に、6ヵ月または12ヵ月投与の群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。

 主要評価項目は、intention-to-treat(ITT)集団における無病生存の、6ヵ月投与群の12ヵ月投与群に対する非劣性とした。事前に規定されたハザード比(HR)のマージンは1.15であった。

標準投与期間は12ヵ月のままに

 3,380例(ITT集団)が登録され、6ヵ月投与群に1,690例(年齢中央値55歳[範囲23~85]、リンパ節転移陰性54.7%、ホルモン受容体陰性38.5%)、12ヵ月投与群にも1,690例(54歳[21~86]、55.4%、39.6%)が割り付けられた。化学療法は、タキサン系薬+アンスラサイクリン系薬剤が、それぞれ72.7%、73.9%で施行された。

 フォローアップ期間中央値7.5年(IQR:5.3~8.8)の時点で、無病生存関連イベントが704件認められた(6ヵ月投与群359件[21.2%]、12ヵ月投与群(345件[20.4%])。層別因子で補正したHRは1.08(95%信頼区間[CI]:0.93~1.25、p=0.39)であった。事前に規定された非劣性マージン(1.15)が95%CI内に含まれたため、非劣性仮説は証明されなかった。

 サブグループ解析(年齢、リンパ節転移、腫瘍サイズ、ホルモン受容体など)では、トラスツズマブの投与期間の違いで無病生存率に差はみられなかった。

 6ヵ月投与群の186例(11.0%)、12ヵ月投与群の170例(10.1%)が死亡した(HR:1.13、95%CI:0.92~1.39、p=0.26)。3年生存率は、6ヵ月投与群が89.3%、12ヵ月投与群は92.2%であり、5年生存率はそれぞれ84.2%、86.2%、7年生存率は80.6%、82.3%であった。

 また、遠隔再発は6ヵ月投与群が249例(14.7%)、12ヵ月投与群は224例(13.3%)に認められ、無転移生存率のHRは1.15(95%CI:0.96~1.37、p=0.14)であった。

 トラスツズマブ投与終了後に、安全性関連のイベントはほとんど発現しなかった。前回の報告以降、心不全は発現せず、12ヵ月投与群で新たに3例に左室駆出率50%未満を認めたのみだった。

 著者は、「治療曝露の削減には疑問が残るため、術後トラスツズマブ治療の標準投与期間は12ヵ月のままとすべきと考えられる」としている。

(医学ライター 菅野 守)


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Pivot X, et al. Lancet. 2019 Jun 6. [Epub ahead of print]

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HER2陽性早期乳がん、トラスツズマブ投与期間短縮で効果は?/Lancet

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 HER2陽性早期乳がんの治療において、トラスツズマブの6ヵ月投与は、12ヵ月投与に対し非劣性であることが、英国・ケンブリッジ大学のHelena M. Earl氏らが行った「PERSEPHONE試験」で示された。研究の成果はLancet誌オンライン版2019年6月6日号に掲載された。術後のトラスツズマブ治療は、HER2陽性早期乳がん患者のアウトカムを有意に改善する。標準的な投与期間は12ヵ月だが、より短い期間でも有効性はほぼ同様で、毒性は軽減し、費用は削減される可能性が示唆されている。

英国の152施設が参加した無作為化非劣性試験

 PERSEPHONE試験は、英国の152施設が参加した非盲検無作為化第III相非劣性試験であり、2007年10月~2015年7月の期間に患者登録が行われた(英国国立衛生研究所[NIHR]の助成による)。

 対象は、年齢18歳以上、HER2陽性で、化学療法の明確な適応がある浸潤性早期乳がん患者であった。被験者は、化学療法との併用(同時または逐次投与)で、3週ごとにトラスツズマブを静脈内投与(負荷用量8mg/kgののち、維持用量6mg/kg)または皮下投与(600mg)され、これを6ヵ月間または12ヵ月間施行する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。

 主要評価項目は無病生存期間とした。非劣性マージンは4年無病生存率の3%であった。

4年無病生存率:89.4% vs.89.8%、全生存率:93.8% vs.94.8%

 4,088例が登録され、6ヵ月投与群に2,043例(年齢中央値56歳[範囲23~83])、12ヵ月投与群には2,045例(56歳[23~82])が割り付けられた。

 全体の69%がエストロゲン受容体陽性であった。術前化学療法を受けた620例では、89%がアンスラサイクリン系薬剤とタキサン系薬、9%がアンスラサイクリン系薬のみ、2%がタキサン系薬のみを投与され、術後化学療法を受けた3,468例では、それぞれ41%、47%、11%の投与であった。

 フォローアップ期間中央値5.4年(IQR:3.6~6.7)の時点で、無病生存イベントは6ヵ月投与群が265例(13%)、12ヵ月投与群は247例(12%)に認められた。4年無病生存率は、それぞれ89.4%、89.8%で、ハザード比(HR)は1.07(90%信頼区間[CI]:0.93~1.24、非劣性のp=0.011)であり、6ヵ月投与群の非劣性が示された。

 全生存率は、6ヵ月投与群が93.8%、12ヵ月投与群は94.8%であり、非劣性が確認された(HR:1.14、90%CI:0.95~1.37、非劣性のp=0.0010)。

 6ヵ月投与群は、12ヵ月投与群に比べ重篤な有害事象(19%[373/1,939例] vs.24%[459/1,894例]、p=0.0002)が少なく、心毒性による早期治療中止(3%[61/1,939例] vs. 8%[146/1,894例]、p<0.0001)も少なかった。

 著者は、「これらの結果は、再発リスクが本試験の患者と同程度の女性における、トラスツズマブ投与期間の短縮の検討を支持する」としている。

(医学ライター 菅野 守)


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Earl HM, et al. Lancet. 2019 Jun 6. [Epub ahead of print]

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終末期14日間の化学療法、5%未満に減少/JCO

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 終末期(end of life、以下EOL)がん患者の積極的治療について、わが国でも高齢者においては中止を支持する機運が醸成されつつあるのではないだろうか。米国ではEOL化学療法は、最も広く行われている、不経済で、不必要な診療行為として、ベンチマーキングで医師のEOL14日間の化学療法使用を減らす取り組みが行われている。その結果、同施行は2007年の6.7%から2013年は4.9%に減少したことが、米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのPenny Fang氏らによる調査の結果、明らかになった。著者は、「首尾よく5%未満に減少した。この結果を現行のEOLオンコロジー戦略に反映することで、さらに高レベルのEOLの実践が期待できるだろう」と述べている。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2019年5月29日号の掲載報告。

 研究グループは全米のEOL化学療法と標的療法の最近の傾向を評価するため、SEER-Medicareデータベースを用いて、2007~13年に乳がん(1万9,887例)、肺がん(7万9,613例)、大腸がん(2万9,844例)、前立腺がん(1万7,910例)で死亡した65歳以上の患者について、EOL14日間の化学療法の使用に関するガイドラインベンチマーク指標を評価した。

 EOL6ヵ月間の各タイムポイントでの化学・標的療法の非ベンチマーク指標を比較アウトカムとし、Cochran-Armitage検定法で時間的傾向を評価。また、医師レベルによるEOL化学療法の使用のばらつきを、マルチレベル・ロジスティックモデルおよび級内相関係数(ICC)を用いて評価した。

 主な結果は以下のとおり。

・EOL14日間の化学療法は、2007年6.7%から2013年は4.9%まで減少した(傾向のp<0.001、Δ=-1.8%)。
・同様の減少傾向は、EOL1ヵ月間(傾向のp<0.001、Δ=-1.8%)および同2ヵ月間(傾向のp<0.001、Δ=-1.3%)にも認められた。
・対象的に、EOL4~6ヵ月間の化学療法使用は増加していた(傾向のp≦0.04、Δ=0.7→1.7%)。
・EOL6ヵ月間で化学療法を受けた患者は、全体の43.0%であった。
・EOL6ヵ月間のすべてのタイムポイントの標的療法の頻度は、2007~13年にわずかだが安定的に上昇していた(傾向のp=0.09~0.82、Δ=-0.2→1.8%)
・標的療法を受けた患者は、EOL14日間で1.2%、同1ヵ月間で3.6%であった。同6ヵ月間では13.2%であった。
・マルチレベルモデルの評価(ICC法による)において、医師レベルに起因すると考えられるEOL14日間の化学療法のばらつきは5.19%であった。

(ケアネット)


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Fang P, J Clin Oncol. 2019 May 29. [Epub ahead of print]

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