2010年03月 岡山大学 医学部医学科卒業 2010年04月 亀田総合病院 ジュニアレジデント 2012年04月 聖路加国際病院 乳腺外科 シニアレジデント 2015年04月 聖路加国際病院 乳腺外科 フェロー 2016年05月 岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 呼吸器・乳腺内分泌外科学 2018年10月 国立がん研究センター中央病院 JCOG運営事務局 レジデント 2019年08月 European Organisation for Research and Treatment of Cancer (EORTC) フェロー
ヨーロッパ最大の多施設共同臨床研究グループEORTC(European Organisation for Research and Treatment of Cancer)に留学中の高橋 侑子氏に、fellowとしての研修の日々、大規模臨床試験を推進する現場からのリアルな情報をレポートいただきます。 第2回では留学の手続きの実際と、ベルギーでの生活についてお伺いしました。
主要評価項目である独立中央判定委員会による奏効率(objective response rate:ORR)は60.9%と非常に高い効果を示した。病勢制御率(disease control rate:DCR)は97.3%、6ヵ月以上の臨床的有用率(clinical benefit rate:CBR)は76.1%であった。奏効期間の中央値は14.8ヵ月であり、3次治療以降としては非常に長い奏効期間を有した。65.8%がペルツズマブによる治療歴を有し、ペルツズマブ治療歴のない症例でより奏効率が高い傾向を示した。無増悪生存期間(progression-free survival:PFS)の中央値は16.4ヵ月、全生存期間(overall survival:OS)の中央値は未到達であった。有害事象(adverse event:AE)はGrade3以上の治療関連AEが57.1%(薬剤との因果関係ありが48.8%)、SAEが22.8%(同12.5%)、治療関連死は4.9%(同1.1%)であった。とくに注目されているAEである肺障害は全Gradeで13.6%と高頻度に発生していた。多くはGrade1または2であったが、2.2%がGrade5であり、やはり注意が必要なAEであるといえよう。総じて毒性が強く、とくに肺障害に注意が必要なものの、非常に高い奏効率と奏効期間を有する薬剤であるといえる。本試験の結果は同日New England Journal of Medicine(NEJM)誌オンライン版に掲載された。筆者は本薬剤の開発の初期段階から関わってきたが、実際に自分が使って感じている実感と本臨床試験の結果は合致している。
[ レポーター紹介 ] 山本 眞基子 1997年30代で乳がんを発症。 NPO法人BCネットワーク(Young Japanese Breast Cancer Network)を設立 。
米国在住の1997年に、30代で乳がんを発症。仕事や子育てなど多忙な年代で、海外生活の中乳がんになった自身の経験、そして日本国内だけでなく米国在住の日本人女性においても乳がん患者が年々増加傾向にあることから、日本語での乳がんの情報発信を目的としたNPO法人、BCネットワーク(Young Japanese Breast Cancer Network)を設立した山本 眞基子さんに、米国の乳がん診療の状況を患者目線からご紹介いただきます。後編では、米国では20年以上前から行われているという遺伝子検査や、食事・運動療法の実際などについてお聞きしました。
2019年9月4~6日の3日間にわたり、米国・サンフランシスコで5th World Congress on Controversies in Breast Cancer (CoBrCa)が開催されました。CoBrCaは通常の学会とは形式が異なり、多くの臨床医が診療上で遭遇する疑問点に対し、それぞれの分野のエキスパートが登壇して“Yes”、“No”それぞれの立場に分かれてエビデンスに基づいたディベートを行います。扱うトピックは、外科治療、薬物治療、放射線治療、画像診断、病理診断、乳房再建といった広範囲にわたっています。 これまで、1回目はスペイン、2回目はオーストラリア、3回目は日本、4回目はオーストラリアで開催されてきました。今年で5回目の開催となり、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)主催の下、メインテーマは“When is Less More?”でした。患者のリスク因子を層別化し、de-escalationとescalationをどのように行っていくかというセッションが多くみられました。
“ほとんどのDCISは精査の対象とすべきではないのか”、“ACOSOG Z0011(Z11)とAMAROS試験の結果によらず、センチネルリンパ節生検陽性で腋窩リンパ節郭清を行うべき症例はあるのか”、“免疫チェックポイント阻害薬は転移のあるトリプルネガティブ乳がんのstandardとなるのか”、 “CDK4/6阻害薬は転移のあるホルモン陽性乳がんの1st line治療とすべきか”、 “RCTのみが日常臨床を変える方法となるのか”など、大変興味深いテーマが多くありました。最終セッションは、“Vision for breast cancer 2025”で締めくくられました。 本稿では、ゲノム医療とHER2陽性乳がんについて、それぞれのセッションでの議論をご紹介します。
1 ゲノム医療
パネル検査は多くの患者に必要? それとも意義なし? [テーマ:That most patients with breast cancer should be panel tested] Yesでプレゼンテーションを行ったのは、「MammaPrint」の開発に携わったUCSFのvan’t Veer博士で、乳がんの罹患リスク上昇に関わる遺伝子異常の相対リスクや頻度についての報告を行いました。遺伝子検査の目的としては、2nd cancer riskを考慮した術式選択の決定、術前化学療法の効果予測、サーベイランスを行ううえでの再発リスク評価を挙げたうえで、「今の時代は患者個人が自分の遺伝子について当然知るべきである」と発言しました。
Noの立場からは、パネル検査は病的意義を持たないvariant of uncertain significance(VUS)が多く、pathogenic variant(PV)は比較的稀であることが挙げられました。また、近年VUS/PVの誤った解釈が、とくに術式選択の場面で行われている現状について報告が挙げられています。KurianらによるアメリカSEERデータベースを使用した乳がん症例(全例で遺伝子検査を施行)の報告では、BRCA1/2の遺伝子異常のある患者で両側乳房切除が行われた患者は57.5%であったが、遺伝子異常がない患者でも23.6%、ATM 、CHEK2 、PALB2などの乳がん発症において中等度の発症リスクとなる遺伝子のPVでも34.0%の患者で両側乳房切除が行われており、over surgeryとなっている現状があります。さらにこの研究ではホルモン陽性、21遺伝子アッセイでRS<18の再発低リスクとされる患者で、36.5%と高率に化学療法が行われていたことについても報告されています(遺伝子異常がない患者では23.0%に化学療法が行われていた)。
遺伝子異常の有無によって予防的切除を判断すべきか [テーマ:That all gene carries with early breast cancer should have a bilateral mastectomy] Yesの立場からは、BRCA1/2遺伝子異常を持つ患者の場合、2nd cancer riskの発症が高率である点(20年間の追跡の結果、対側の乳がん発症率はBRCA1異常で28~40%、BRCA2遺伝子異常で16~26%と報告されている)、また、費用対効果の面からMRIサーベイランスより予防的切除のほうが優れるとする報告がある点から、両側乳房切除を推奨すべきと意見されていました。 Noの立場からは、乳房切除による患者の心理的負担を考慮したうえでMRIによる1年ごとのサーベイランスを行えば、予防切除を行った患者と比較し10年間のOSに差はないという報告が挙げられていました。
[ レポーター紹介 ] 山本 眞基子 1997年30代で乳がんを発症。 NPO法人BCネットワーク(Young Japanese Breast Cancer Network)を設立 。
米国在住の1997年に、30代で乳がんを発症。仕事や子育てなど多忙な年代で、海外生活の中乳がんになった自身の経験、そして日本国内だけでなく米国在住の日本人女性においても乳がん患者が年々増加傾向にあることから、日本語での乳がんの情報発信を目的としたNPO法人、BCネットワーク(Young Japanese Breast Cancer Network)を設立した山本 眞基子さんに、米国の乳がん診療の状況を患者目線からご紹介いただきます。前編では、保険制度や地域による格差、病院や治療法選択の実際についてお聞きしました。