戸﨑光宏|乳腺MRIガイド下生検【Chap2】

提供元:がん@魅せ技

執刀: 相良病院附属ブレストセンター 戸﨑光宏 医師


Chapter 2:乳腺MRIガイド下生検

同症例のChapter一覧

Chapter 1 : 乳腺MRIガイド下生検について
Chapter 2 : 乳腺MRIガイド下生検

乳がんのほか消化器がん、肺がん領域等の手術手技コンテンツが充実の「がん@魅せ技」はこちら

戸﨑光宏|乳腺MRIガイド下生検【Chap1】

提供元:がん@魅せ技

執刀: 相良病院附属ブレストセンター 戸﨑光宏 医師


Chapter 1:乳腺MRIガイド下生検について

同症例のChapter一覧

Chapter 1 : 乳腺MRIガイド下生検について
Chapter 2 : 乳腺MRIガイド下生検

乳がんのほか消化器がん、肺がん領域等の手術手技コンテンツが充実の「がん@魅せ技」はこちら

リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その2【「実践的」臨床研究入門】第16回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

 

見逃していたかもしれない関連研究を調べる

 前回は“CONNECTED PAPERS”の概要と使い方のはじめのステップについて解説しました。今回は、われわれのリサーチ・クエスチョンのトピックについて、見逃していたかもしれない関連研究を調べてみたいと思います。

 “CONNECTED PAPERS”を用いると「Key論文」1)を中心とした関連研究の関係性がリンクのように中央のウィンドウに図示されます。個々の論文のノード(連載第15回参照)にマウスオーバーすると、その論文のタイトルとAbstractがWebページの向かって右側のウィンドウに表示されます。そこにはその論文のDigital Object Identifier(DOI)(連載第15回参照)やPubMedへのリンクも貼られています。向かって左側のウィンドウには「Key論文」1)を筆頭に関連研究が列挙されています。こちらのウィンドウにある“Expand”というボタンをクリックすると、ウィンドウが拡大し、関連研究論文各々の「論文タイトル」、「著者」、「出版年」、「被引用数」、「引用論文数」、(「Key論文」1)からの)「類似性」という文献情報が列記されていることがわかります。

 デフォルトでは「類似性」順に並んでいますが、上記の文献情報項目毎にソート(並べ替え)することができます。ここでは、コクラン・フル・レビュー論文である「Key論文」1)以降の関連研究をまずは見てみたいので、「出版年」の降順でソートしてみましょう。すると、連載第16回執筆時点(2022年1月)では、「Key論文」1)が出版された2007年以降に以下の関連研究論文が出版されていることがわかります(臨床研究かつDOIが確認されたものに限定)。

・ランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)1編2)
・システマティック・レビュー(SR: systematic review)8編3-10)
・総説1編11)

 なんと、RCTをメタ解析したSRが2008年以降に8編もヒットしました。そのうち連載第12回で取り上げた非糖尿病患者をP(対象)としたコクランSR1編4)、非糖尿病患者もPに組み入れている非コクランSR2編6,9)を除外し、Pを糖尿病性腎疾患患者にしぼった非コクランSR5編の一覧を下記の表にまとめました。「Key論文」1)でメタ解析されていた腎機能低下の指標である推定糸球体濾過量(eGFR)低下速度の変化(連載第14回参照)というO(アウトカム)について、点推定値と95%信頼区間(95% confidence interval:95%CI)を記述し整理してみました。

表

 表に示したとおり、非コクランSR3編3,7,8)ではコクランSRである「Key論文」1)の結果と同様、糖尿病性腎疾患に対する低たんぱく食の効果は認められなかった、と結論しています。一方、他の非コクランSR2編5,10)では、eGFR低下速度の変化の95%CIがゼロをまたいでおらず、低たんぱく食群は対照群と比較して統計学的有意に腎機能低下が緩やかであったことを示しています。


【 引用文献 】

講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学統括研究推進センター研究推進部門 教授
昭和大学医学部内科学講座腎臓内科学部門/衛生学公衆衛生学講座 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


バックナンバー

48. いよいよ多変量解析 その1

47. 何はさておき記述統計 その8

46. 何はさておき記述統計 その7

45. 何はさておき記述統計 その6

44. 何はさておき記述統計 その5

43. 何はさておき記述統計 その4

42. 何はさておき記述統計 その3

41. 何はさておき記述統計 その2

40. 何はさておき記述統計 その1

39. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その2

38. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その1

37. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その2

36. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その1

35. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その2

34. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その1

33. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その8

32. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その7

31. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その6

30. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その5

29. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その4

28. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その3

27. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その2

26. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その1

25. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その5

24. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その4

23. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その3

22. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その2

21. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その1

20. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その3

19. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その2

18. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その1

17. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その3

16.リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その2

15. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その1

14. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その3

13. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その2

12. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用その1

11. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その2

10. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その1

9. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その3

8. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その2

7. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その1

6. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その3

5. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その2

4. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その1

3. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビューその2

2. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー その1

1. 臨床上の疑問とリサーチ・クエスチョン

▼ 一覧をもっと見る

 

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

 

サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2021)レポート

sabcs

[ レポーター紹介 ]
akihiko_shimomura
下村  昭彦 ( しもむら あきひこ ) 氏
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 乳腺・腫瘍内科  


 

 2021年12月7日から10日まで4日間にわたり、SABCS 2021がハイブリッド形式で開催された。米国では現地サンアントニオに集まって学会が行われ、近い将来、日常が戻ってくる予兆を感じさせるものであった。

 もう2年リバーウォークを歩いておらず寂しい気持ちでいっぱいであるが、今年も乳がんについて網羅的に勉強する良い機会となった。今年のSABCSは直接日常臨床を変えるものは多くなかったが、近い将来どのように変化していくかを示唆するものが多かった。今回は、それらの中から4演題を紹介する。

EMERALD試験

 近年、経口選択的エストロゲン受容体分解薬(selective estrogen receptor degrader:SERD)の開発が非常に活発に行われ、製薬企業は各社しのぎを削っている状況である。その中で、初の第III相試験の結果としてSABCSで報告されたのがelacestrantのEMERALD試験である。

 SERDは理論的にホルモン耐性の中で最も強力なESR1変異に有効な薬剤として知られるが、elacestrantは現在臨床で使えるSERDであるフルベストラントよりさらに効果が高いことが基礎実験で示されている。本試験は、内分泌療法とCDK4/6阻害薬の併用療法の治療歴があるホルモン受容体陽性HER2陰性転移乳がん(metastatic breast cancer:MBC)において、主治医選択治療に対するelacestrantの優越性を検証したランダム化試験である。

 主治医選択治療としてはフルベストラント、アナストロゾール、レトロゾール、エキセメスタンが許容されていた。主要評価項目は全患者における無増悪生存期間(progression free survival:PFS)と、ESR1変異のある患者(mESR1)におけるPFSであった。477例がランダム化され、239例がelacestrant群に、238例が標準治療群に割り付けられた。

 主要評価項目の全患者におけるPFSにおいて、elacestrant群で2.79ヵ月、標準治療群で1.91ヵ月(ハザード比[HR]:0.697、95%CI:0.552~0.880、p=0.0018)とelacestrant群で有意に良好であった。さらにmESR1では3.78ヵ月 vs.1.87ヵ月(HR:0.546、95%CI:0.387~0.768、p=0.0005)であり、mESR1でより効果が高かった。同効薬であるフルベストラントとの比較においても同様の傾向であり、elacestrantが有意に良好であった。全生存期間(overall survival:OS)は統計学的有意差を認めなかったものの、全患者でもmESR1でもelacestrantで良好な傾向を認めた。有害事象はelacestrantで多い傾向を認めたが、Grade3以上の有害事象は7.2%であり、頻度としてはさほど高くないと考えられた。とくに悪心の頻度が高かった。現在、経口SERDは多くの試験が行われており、近い将来、標準治療の1つとなっていくと考えられる。

PADA-1試験

 ホルモン受容体陽性MBCにおいて、1次治療としてアロマターゼ阻害薬(aromatase inhibitor:AI)ベースの治療が有効であるか、SERDベースの治療が推奨されるかは1つの大きな議論となっている。とくにESR1変異によるAI耐性をSERDで回避可能かを検証する試験が実施されてきた。

 PADA-1試験はそのような試験の1つであり、循環腫瘍DNA(circulating tumor DNA:ctDNA)を用いた治療戦略を検証した試験である。PADA-1試験ではAI+パルボシクリブによる治療中にctDNAによるESR1変異が検出され、画像上の病勢進行(progressive disease:PD)が認められない患者を対象として、AI+パルボシクリブ継続とフルベストラント+パルボシクリブへの治療変更をランダム化し、主要評価項目として安全性と主治医判断によるPFSを検証した。

 1,017例のAI+パルボシクリブ投与中の患者が登録され、279例でctDNAによるESR1変異が検出された。172例でPDが認められずランダム化が実施され、84例がAI継続、88例がフルベストラントへのスイッチに割り付けられた。

 術後治療としてAI治療歴のある患者が35%前後、ctDNAによるESR1変異が見つかるまでの期間が12ヵ月以上ある患者が60%強であった。ランダム化後のPFSはAI群で5.7ヵ月に対しフルベストラント群で11.9ヵ月(HR:0.63、95%CI:0.45~0.88、p=0.007)と、約6ヵ月の差をもってフルベストラント群で有意に良好であった。

 サブグループ解析では、ほとんどのグループでフルベストラント群が良好であった。骨転移単独ではAI群で良好な傾向が見られたが、症例数が少なく結論は出せない。毒性は両群で大きな差はなく、頻度の高い有害事象は血球減少であり、パルボシクリブによるものと考えられた。AI群でPD後にフルベストラントへクロスオーバーした患者のクロスオーバー後のPFSは3.5ヵ月(95%CI:2.7~5.1)であり、AI治療中と合計してもPFSはフルベストラント群で良好であった。現在、日本では繰り返し測定できる承認されたctDNAアッセイはないが、今後ctDNAによるモニタリングを行いながら、画像上のPDの前に治療を変更する戦略が標準治療となってくる可能性がある。

TROPION-PanTumor01試験

 皆さんご存じように、現在は多数の抗体医薬複合体(Antibody Drug Conjugate:ADC)が開発されている。2019年のSABCSで発表されたトラスツズマブ デルクステカン(trastuzumab deruxtecan:T-DXd)の有効性を見た時の驚きは記憶に新しい。また、2020年のESMOで発表され、すでに米国食品医薬品局(US Food and Drug Administration:FDA)に承認されているsacituzumab govitecan(SG)も、トリプルネガティブ乳がん(Triple-Negative Breast Cancer:TNBC)の治療を大きく変えた。datopotamab deruxtecan(Dato-DXd)は、SGと同様にTrophoblast Cell-Surface Antigen 2(TROP-2)を標的分子としたADCで、ペイロードとしてDXdが結合されている。TROPION-PanTumor01試験はDato-DXdの安全性を確認する第I相試験で、非小細胞肺がん、TNBC、HR+/HER2-乳がんなどで拡大パートの開発が実施されている。SABCSでは、そのうちTNBCパートの結果が発表された。

 44例の患者が登録され、現在13例(30%)が治療継続中である。前治療歴の中央値は3レジメンで、2ライン以上の治療歴のある患者が68%であった。30%にTopo I阻害薬ベースのADC(SG、T-DXdなど)の治療歴があった。奏効率は34%、Topo I阻害薬ベースのADC治療歴がない患者に限ると52%であり、高い有効性を示した。Grade3以上の有害事象は45%で認め、頻度の高い有害事象は悪心、口内炎、嘔吐、倦怠感、脱毛、血液毒性などであった。TNBC治療ではすでに免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)やPARP阻害薬が標準治療となっているが、新たなADC製剤への期待も大きく、TNBCの治療戦略は今後大きく変わる可能性が高い。 

KEYNOTE-522試験

 転移TNBCではICIが標準治療となった。PD-L1陽性転移TNBCでは、アテゾリズマブとnab-PTXの併用、あるいはペムブロリズマブと化学療法の併用が1次治療の標準治療である。TNBCに対するICIの開発は術前でも活発に行われており、KEYNOTE-522試験はその1つである。

 本試験では術前化学療法としてのカルボプラチン+パクリタキセル→アンスラサイクリンにペムブロリズマブ/プラセボを上乗せすることの有効性を、病理学的完全奏効(pathological complete response:pCR)と無イベント生存(event free survival:EFS)を主要評価項目として検証した。術後は、ペムブロリズマブ/プラセボがpCR/non-pCRにかかわらず投与された。pCRの結果は以前に発表され、ペムブロリズマブの上乗せ効果が証明されていたが、EFSについてはESMOならびに今回のSABCSで詳細が発表されている。

 本試験では1,174例が登録され、784例がペムブロリズマブ群に、390例がプラセボ群に2:1で割り付けられた。3年EFSはペムブロリズマブ群で84.5%、プラセボ群で76.8%(HR:0.63、95%CI:0.48~0.82、p=0.00031)とペムブロリズマブ群で有意に良好であった。今回の発表では打ち切りの条件をさまざまに変更したsensitivity analysisが実施されたが、いずれも主解析と同様の結果であり、ペムブロリズマブの有効性が再確認された。リンパ節転移の陽陰性、病期(StageII or III)でのサブ解析も実施されたが、ベースラインのリスクにかかわらず上乗せ効果があることが示された。

 悩ましいのは、(今回の発表には含まれていないが)pCR、non-pCRのいずれにおいてもペムブロリズマブのEFSに対する上乗せ効果があることである。すでに国内から出されたエビデンスによって、TNBCの術前化学療法でnon-pCRの場合にはカペシタビンが術後治療の標準治療である(国内未承認)。また、生殖細胞系列のBRCA1/2遺伝子変異がある場合はPARP阻害薬であるオラパリブが術後治療の候補となる(国内未承認)。今回の結果をもって、術前化学療法とペムブロリズマブの併用を実施した場合は、術後にペムブロリズマブを使用することが標準治療となる。その場合に、他の治療(カペシタビン、オラパリブ)とどのように使い分けていくのか(あるいは併用のエビデンスを出していくのか)、今後の議論が重要となってくるであろう。


掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

本コンテンツに関する下記情報は掲載当時のものです。
[データ、掲載内容、出演/監修者等の所属先や肩書、提供先の企業/団体名やリンクなど]

海外研修留学便り 【米国留学記(山下 奈真氏)】第4回

[ レポーター紹介 ]
山下 奈真やました なみ

2002年3月 東北大学医学部卒業
2002年4月 麻生飯塚病院(初期研修医、外科系後期研修医、外科医員)
2008年4月 済生会福岡総合病院 外科
2009年4月 九州大学大学院医学系研究科外科系専攻博士課程
2013年4月 九州大学大学院 消化器・総合外科 乳腺グループ
2015年4月 九州大学大学院 九州連携臨床腫瘍学
2017年4月 九州大学大学院 消化器・総合外科 乳腺グループ
2019年6月 Dana-Farber Cancer Institute(DFCI), Medical Oncology, Postdoctoral fellow

 一般外科・乳腺外科での臨床医としての経験、大学院進学を経て、米国Dana-Farber Cancer Instituteに留学中の山下 奈真氏に、米国での研究環境、キャリア構築、ボストンでの生活などについてレポートいただきます。第4回では米国での研究を取り巻く状況についてお伺いしました。

 

給料はどこから?米国のラボ運営事情

 2022年1月初旬現在、COVID-19オミクロン株が猛威を振るい、毎日マサチューセッツ州だけで新規に2万人が感染している状況です。まだまだCOVID-19との戦いは終わりそうにありません。

 今回は米国での研究を取り巻くエコシステムに焦点を当てたいと思います。まず米国と日本で最も異なるのは、米国ではラボで雇用されている人の給料がグラントで賄われている点です。現在所属している、ハーバード大学および関連施設では100%、PI(principal investigator)の持つグラントより私達の給料が支給されています。大学によっては70%前後、教育目的という名目で大学が支給する場合もあるようです。つまり、グラント更新が続かなければ、雇用されているポスドクに加え、PI自体にも給料が払えなくなり、ラボが存続できないシステムとなっています。通常PIは複数の単独PIグラントに加え、co-PIグラント(複数のPIが共同で獲得するグラント)を並走させ、ラボを運営しています。グラントを循環させるには、もちろん仮説・新規性も重要ですが、計画実現性がかなり重視されており、獲得したグラントで次の更新までには論文発表の目処が立っていないと更新は厳しくなります。

 

ポスドクの立ち位置とその後の進路

 ポスドクはというと、博士課程を終えた者が、次は独立してラボを持つための修練期間と捉えられています。PIのラボ運営を学びながら、自分では業績をあげ、かつPIの力を借りて人脈を築き上げる期間とも言えます。世界各国から一旗揚げようという研究者が切磋琢磨する、非常に新陳代謝の激しい環境となっています。確かにアカデミアで自分のラボを持ち、オリジナルの研究をすることはやりがいがありますし、とても魅力的です。一方、日本と同様にアメリカでもアカデミアのファカルティポジションは非常に狭き門であり、「普通」ではありません。

 現実はかなり厳しく、ポスドクのうち、ファカルティポジションにつける研究者はCell, Nature, Science(CNS)のfirst authorで10%、そうでなければ2%と言われています(Nature 584, 315, 2020)。また普段の研究では、グラントが自分たちの雇用に直結しますので、グラントシーズンに合わせて、効率的に基礎データを取りに行く瞬発力もトレーニングされていきます。このような厳しいエコシステムのなか、一緒に働いているポスドクとは戦友のような絆が育まれています。

日本人を含む外国人研究者を取り巻く状況は?

 さて日本人ポスドクはというと、日本も研究費獲得は難しいですが、米国留学した外国人が米国でグラント獲得をするとなると、すでにハンデがある状況であるということを認識しておかなければなりません。日本人を含め、アメリカ永住権を持っていない外国人ポスドクは申請できるグラントが限られます。例えば、将来性のあるポスドクが獲得できるNIH F32 Postdoctoral Fellowshipは“U.S. citizen or permanent resident, with research or clinical doctoral degree.“と記載がされており、アメリカ国籍もしくは永住権を持っている学位取得者に限られています。

臨床と研究の両立

 医師が研究するという点では、米国はPhysician-scientistsというポジションがあります。研究をするために臨床のeffortを半分にして残り半分を研究に費やす(年間を6ヵ月ずつにするか、一日を午前・午後に分けるかさまざまな方法があります)というものです。研究を続行するにはエネルギーと時間が必要であり、このようなポジションは医療の発展という意味でも肝要なのではないかと思っております。医師が日頃の臨床から得た疑問をbenchに落とし込み、それを検証し、臨床に還元するシステム作りが今後ますます重要になってくるのではないでしょうか。

 


リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その3【「実践的」臨床研究入門】第14回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

 

コクラン・ライブラリー~該当フル・レビュー論文を読み込んでみる2

 今回は前回に引き続き、われわれのリサーチ・クエスチョン(RQ)のブラッシュアップに参考となりそうな、コクラン・ライブラリーの検索で挙がった2編目のフル・レビュー論文(下記)を読み込んでみましょう。

・Protein restriction for diabetic renal disease(糖尿病性腎疾患に対する蛋白摂取制限)1)

 このシステマティック・レビュー(systematic review:SR)に組み入れられたランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)は9編でした。

 末期腎不全(透析導入)というハードエンドポイント(連載第3回参照)についての解析に組み込まれたRCTは、前回読み込んだ非糖尿病の慢性腎臓病(Choronic kidney disease: CKD)患者を対象としたコクランSR2)では6編(解析対象患者数1,814名)でしたが、今回取り上げたフル・レビュー論文1)では1編(解析対象患者数72名)でした。したがって、複数の研究結果を統合するメタ解析は行われていませんが、下記のように1つのRCTで示された相対リスク(Rlative risk:RR)の点推定値と95%信頼区間(95% confidence interval:95%CI)は記述されています。

・0.6g/kg/標準体重/日の低たんぱく食群は対照群(通常食)と比較して末期腎不全(透析導入)または死亡に到るRRは0.23(95%CI:0.07~0.72)であった(筆者による意訳)。

 前回読み込んだ非糖尿病CKD患者における低たんぱく食の臨床効果を検証したフル・レビュー論文2)では、末期腎不全(透析導入)というハードエンドポイントについては6編のRCT(解析対象患者数1,814名)をメタ解析し、

・低たんぱく食群(0.5~0.6g/kg/標準体重/日)の対照群(通常食)に対する末期腎不全(透析導入)に到るRRは1.05(95%CI:0.73~1.53)であった(筆者による意訳)。

 と述べています2)。ここで着目したいのは、上述の2つの解析結果の95%CIの範囲の違いです。95%CIの範囲が狭いということは、その点推定値の精度の高さを示しており、解析対象患者数の増加によるメタ解析の「ご利益」のひとつです。

 さて、糖尿病性腎疾患に対する低たんぱく食の腎機能低下速度というサロゲートエンドポイント(連載第3回参照)についてはどうでしょうか。1型糖尿病患者のみを対象とした7編のRCT(解析対象患者数222名)を組み入れたメタ解析の結果1)が下記のように報告されています。

・対照群(通常食)と比較した低たんぱく食群での推定糸球体濾過量(eGFR)低下速度の変化は0.1 ml/分/月(95%CI:0.1~0.3)であり、統計学的有意ではなかった(筆者による意訳)。

 eGFR 低下速度0.1ml/分/月の改善は統計学的にだけでなく臨床的にも有意でない僅かな変化だと考えます。前回取り上げた非糖尿病CKD患者を対象としたフル・レビュー論文2)での結果も併せて、腎機能低下速度に対する低たんぱく食の効果は不確かであると言えるでしょう。

 下記はこれまでにブラシュアップしてきた、われわれのCQとRQ(PECO)です。

CQ:食事療法を遵守すると非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病患者の腎予後は改善するのだろうか

P:非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病(CKD)患者
E:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の遵守
C:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の非遵守
O:腎予後

 まだ、O(アウトカム)が「腎予後」と漠然としています。これまで見てきたコクランSRや個別のRCTでは、末期腎不全(透析導入)やeGFR低下速度の変化、というように明確に定義されていました。われわれのRQのOもこれらの先行研究に準じて、下記のように改訂することとします。

P:非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病(CKD)患者

E:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の遵守
C:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の非遵守
O:1)末期腎不全(透析導入)、 2)eGFR低下速度の変化 

 Oは1)プライマリと2)セカンダリに分けて設定されることが多くあります。一般的にプライマリなOはその研究で最もみたいOが置かれ、臨床的に重要なハードエンドポイントであればより望ましいかもしれません。セカンダリなOはプライマリの次に関心のあるOで、サロゲートエンドポイントが設定されることが多いかと思います。

 


【 引用文献 】

講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学統括研究推進センター研究推進部門 教授
昭和大学医学部内科学講座腎臓内科学部門/衛生学公衆衛生学講座 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


バックナンバー

48. いよいよ多変量解析 その1

47. 何はさておき記述統計 その8

46. 何はさておき記述統計 その7

45. 何はさておき記述統計 その6

44. 何はさておき記述統計 その5

43. 何はさておき記述統計 その4

42. 何はさておき記述統計 その3

41. 何はさておき記述統計 その2

40. 何はさておき記述統計 その1

39. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その2

38. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その1

37. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その2

36. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その1

35. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その2

34. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その1

33. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その8

32. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その7

31. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その6

30. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その5

29. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その4

28. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その3

27. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その2

26. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その1

25. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その5

24. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その4

23. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その3

22. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その2

21. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その1

20. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その3

19. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その2

18. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その1

17. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その3

16.リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その2

15. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その1

14. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その3

13. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その2

12. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用その1

11. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その2

10. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その1

9. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その3

8. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その2

7. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その1

6. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その3

5. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その2

4. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その1

3. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビューその2

2. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー その1

1. 臨床上の疑問とリサーチ・クエスチョン

▼ 一覧をもっと見る

 

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

 

リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その2【「実践的」臨床研究入門】第13回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

 

コクラン・ライブラリー―該当フル・レビュー論文を読み込んでみる

CQ:食事療法を遵守すると非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病患者の腎予後は改善するのだろうか

P:非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病(CKD)患者
E:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の遵守
C:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の非遵守
O:腎予後

 上記は、これまでブラッシュアップしてきた、われわれのCQとRQ(PECO)です。前回、コクラン・ライブラリーで”low protein diet”をキーワードに関連先行研究を検索したところ、読み込むべきフル・レビュー論文(Cochrane Reviews)として、下記の2編が挙げられました。

・Low protein diets for non‐diabetic adults with chronic kidney disease(慢性腎臓病を有する非糖尿病成人のための低たんぱく食)1)

・Protein restriction for diabetic renal disease(糖尿病性腎疾患に対するたんぱく摂取制限)2)

 文献1)の書誌情報を確認してみると、連載第11回でUpToDate®の活用法を解説した際に引用した文献3)と論文タイトルが若干異なり、また筆頭著者名が変更され、出版年も2009から2020に変わっています。しかし、コクラン・ライブラリー収載フル・レビュー論文の固有IDであるCD番号(CD001892)は同一であり、文献1)は文献3)の「アップデート論文」であることに気が付きます。コクランでは新しいエビデンスを取り入れるために、定期的なフル・レビュー論文のアップデートを著者に求めています。コクラン・ライブラリーのホームページでこの最新のフル・レビュー論文1)を見ると、タイトル、著者名の直下に、

Version published: 29 October 2020 Version history

 との記載があります。また、“Version history”には更新履歴のリンクが貼られており、クリックすると2000年11月出版の初版から、2006年4月、2009年7月3)、2018年10月、そして2020年10月の最新版まで計5回にわたってアップデートされていることがわかります。

 連載第11回執筆時点(2021年8月)では UpToDate®では2018年10月および2020年10月のアップデート論文1)はカバーされていないようでしたので、最新版1)のフル・レビュー論文の内容をチェックしてみましょう。UpToDate®で引用されたバージョン3)と比較すると、システマティック・レビュー(SR:systematic review)に組み込まれたランダム化比較試験(RCT:randomized controlled trial)は10編(解析対象患者数2,000名)から17編(解析対象患者数2,996名)に増えていました。また、UpToDate®で引用されたバージョン3)では行われていなかった、低たんぱく食(0.5~0.6g/kg/標準体重/日)と超低たんぱく食(0.3~0.4g/kg/標準体重/日)の比較もなされています。その結果は下記の様に記述されています。

・超低たんぱく食は低たんぱく食と比較して末期腎不全(透析導入)に到るリスクは35%減少する(リスク比[RR]: 0.65、95%信頼区間[CI]:0.49~0.85)が、推定糸球体濾過量(eGFR)の変化に影響を及ぼすかは不明であり、死亡のリスク(RR:1.26、95%CI:0.62~2.54)にはおそらく差はなかった(筆者による意訳)。

  われわれのリサーチ・クエスチョン(RQ) は0.5g/kg/標準体重/日未満という厳格な低たんぱく食の効果を検証しようとするものです。このRQにより役立つ先行研究からの知見が、UpToDate®では網羅されてない最新のフル・レビュー論文(Cochrane Reviews)で言及されていることに気が付きます。これまで述べてきたように、診療ガイドライン、UpToDate®、コクラン・ライブラリー、などの質の高い2次情報源を補完的に活用することにより、効率的で網羅的な関連先行研究のレビューを行うことができるのです。

 


【 引用文献 】

講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学統括研究推進センター研究推進部門 教授
昭和大学医学部内科学講座腎臓内科学部門/衛生学公衆衛生学講座 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


バックナンバー

48. いよいよ多変量解析 その1

47. 何はさておき記述統計 その8

46. 何はさておき記述統計 その7

45. 何はさておき記述統計 その6

44. 何はさておき記述統計 その5

43. 何はさておき記述統計 その4

42. 何はさておき記述統計 その3

41. 何はさておき記述統計 その2

40. 何はさておき記述統計 その1

39. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その2

38. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その1

37. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その2

36. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その1

35. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その2

34. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その1

33. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その8

32. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その7

31. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その6

30. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その5

29. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その4

28. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その3

27. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その2

26. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その1

25. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その5

24. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その4

23. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その3

22. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その2

21. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その1

20. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その3

19. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その2

18. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その1

17. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その3

16.リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その2

15. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その1

14. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その3

13. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その2

12. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用その1

11. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その2

10. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その1

9. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その3

8. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その2

7. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その1

6. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その3

5. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その2

4. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その1

3. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビューその2

2. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー その1

1. 臨床上の疑問とリサーチ・クエスチョン

▼ 一覧をもっと見る

 

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

海外研修留学便り 【米国留学記(山下 奈真氏)】第3回

[ レポーター紹介 ]
山下 奈真やました なみ

2002年3月 東北大学医学部卒業
2002年4月 麻生飯塚病院(初期研修医、外科系後期研修医、外科医員)
2008年4月 済生会福岡総合病院 外科
2009年4月 九州大学大学院医学系研究科外科系専攻博士課程
2013年4月 九州大学大学院 消化器・総合外科 乳腺グループ
2015年4月 九州大学大学院 九州連携臨床腫瘍学
2017年4月 九州大学大学院 消化器・総合外科 乳腺グループ
2019年6月 Dana-Farber Cancer Institute(DFCI), Medical Oncology, Postdoctoral fellow

 一般外科・乳腺外科での臨床医としての経験、大学院進学を経て、米国Dana-Farber Cancer Instituteに留学中の山下 奈真氏に、米国での研究環境、キャリア構築、ボストンでの生活などについてレポートいただきます。第3回ではCOVID-19の流行によって大きな影響を受けた留学生活、その中で生まれた新たな活動についてお伺いしました。

 

留学中にまさかのCOVID-19

 COVID-19で世界中が未曽有の事態に陥った2020年。ボストンでは2020年3月23日から本格的なquarantineが開始されました。およそ3ヵ月は生活必需品の購入、運動目的の外出以外はできず、一日言葉を発することなく終わる日もたびたびありました。実験室も物品管理目的の入室しか許可されず、インキュベーターのCO2供給も停止され、完全に実験ができない状況に陥りました。このような異常事態の中、研究をしに渡米したにもかかわらず、実験もできず、日本にいるときのように診療することもできず、自分の社会的存在意義が揺らぐ感覚を多くのポスドクが感じたことは確かです。

 

何かできることはないか、という想いからBC Tube誕生

 ただ、悪いことばかりではありませんでした。同僚の乳腺外科医の発案で、少しでも社会の役に立つことはできないかと皆で考え、多くの人に1)分かりやすさ、2)正確さ、3)アクセスしやすさを兼ね揃えたブレストアウェアネス・乳がんの医療情報を届けるという目的で「一般社団法人BC Tube」としてYouTubeチャンネル「乳がん大事典【BC Tube編集部】」で情報発信を開始しました。本取組の中心となる動画の制作は、複数名の乳がん専門医(コアメンバー)で十分に議論を行った上で行い、さらにコアメンバーとは独立した複数乳腺科医によるピアレビュー制を導入し、科学的妥当性を担保しています。

 市民・患者さんからなる後援会の事前視聴も加え、内容の理解しやすさにも配慮した上で最終的に動画のアップロードを行いました。これはまさにPPI(Patient and Public Involvement):患者・市民参画の実践により医療の受け手、いわば当事者である患者や市民の声を医学研究や臨床試験の分野に取り入れることで、より良い医学・医療を実現しようという試みです。

 また各種SNSを用いて動画拡散、乳がん啓発活動も行っています。現在計36本の動画をアップロードし、チャンネル登録者数も3,000人を超えるまでになりました。その他ボストンにはさまざまな分野のエキスパートである留学生が集いますので、歯科医、整形外科医、放射線科医等と次々コラボ動画も実現しました。COVID-19による閉塞感が漂う中、本活動を通じて、多くの方々と繋がり、高い熱量で仕事をすることができたことは何物にも代え難い経験となりました。

 昨日までの普通を突如失い、今何ができて、今何をしなければいけないのか? COVID-19とボストン留学がなければ考えもしなかったことでしょう。今日できることを一つづつ丁寧に積み上げていきたいと思います。

  


【参考】