海外研修留学便り 【フランス留学記(尾崎 由記範氏)】第4回

レポーター紹介 ]
尾崎 由記範おざき ゆきのり

2008年慶應義塾大学医学部、2022年東京医科歯科大学大学院を卒業。
2014年より虎の門病院、2020年よりがん研究会 有明病院 乳腺センター 乳腺内科勤務、先端医療開発科併任。
乳腺を専門とする腫瘍内科医としてがん薬物療法、臨床研究、新規治療戦略の開発に従事している。

帰国後も留学先での関係性をいかに維持するか

Breast Unitのメンバーと滞在中最終ミーティングにて

 フランス留学から帰国してしばらく経ちました。パリで過ごした日々は、今振り返っても非常に新鮮で、私自身の価値観に影響し(帰国してからは美味しいバゲットを探し求め、買い回っています!)、また臨床医・研究者としての視野を大きく広げてくれた時間であったと感じています。

 多様な文化的背景や価値観をもつ多国籍チームにおいて議論を重ねる現地での経験は、自身の思考様式を相対化する貴重な機会となりました。日本では自分の意見を明言しない場面がよくありますが、国際共同研究では自身の考えや感じていることを言語化し、相手に伝えることが求められます。そのプロセスは時に時間を要しますが、合意形成のために重要なプロセスであると考えるようになりました。

 3ヵ月で何かを達成することは難しいので、本当の勝負は「帰国してからいかに関係性を維持できるか」であると考えています。帰国後の現在も数週間に一度のオンラインミーティングを重ねながら、複数のプロジェクトを同時並行で進めています。さらに、帰国後に新たな共同研究のお誘いをいただく機会もあり、留学で築いた関係性が確実に次の展開へと広がっていることを実感しています。

 欧米諸国で進められている「共同研究の輪」は、制度や資金だけで成り立っているのではなく、個人的なつながり、すなわち顔が見える関係性の上に築かれていることを改めて学びました。それ以来、海外の先生方から共同研究のお誘いをいただいた際に私が留意していることは、まずはオンラインであっても顔を合わせ、自分の声と表情でコミュニケーションをとることです。そして、相手の考えや立場を理解しようとしていることを率直に伝えることです。こうした人としてのつながりと信頼関係があってこそ、共同研究は成立し、さらに継続していくのであろうと考えています。

国内での連携をより一層大切にしていく姿勢も不可欠

October Roseイベント, Gustave Roussyのメインホールにて

 一方で、海外との関係性以上に、日本国内でこれまでどのような研究やデータ創出が積み重ねられてきたのかを深く理解することの重要性も、改めて強く感じました。国際共同研究の場では、「日本は何を持っているのか」「どのような強みがあるのか」が常に問われます。国内で築かれてきた臨床・研究の実績、蓄積、研究体制の歴史や文化を理解していなければ、対等に議論することは難しいです。また、当然ながら国内の先生方との連携がなければ、海外とのネットワークに意味はありません。国内で築かれてきた土台を理解し、その強みを世界に広め、そして新たな知見を共同で創出してく、そのためには、国内の先生方との連携をより一層大切にしていく姿勢が不可欠であると実感しています。これまで支えてくださった先生方への敬意と感謝を忘れず、謙虚に学び続ける姿勢を持ち続けたいと考えています。

 今回の留学で得たものは、バゲットに対する愛着だけでなく、国境を越えて協働するネットワーク、積極的なコミュニケーションに基づく信頼関係の重要性を常に意識する感覚だと思います。フランス滞在を新たなスタートとして、こうしたつながりを継続し、時間をかけて広げていくことが、これからの自分の役割でもあると感じています。

 


バックナンバー

4 海外研修留学便り【フランス留学記(尾崎 由記範氏)】第4回

3 海外研修留学便り【フランス留学記(尾崎 由記範氏)】第3回

2 海外研修留学便り【フランス留学記(尾崎 由記範氏)】第2回

1 海外研修留学便り【フランス留学記(尾崎 由記範氏)】第1回

ロジスティック回帰分析 その2【「実践的」臨床研究入門】第61回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

ロジスティック回帰モデルの基本的な考え方 その2

 オッズ比(odds ratio:OR)はロジスティック回帰モデルにおいて、ある事象の起こりやすさが説明変数の影響によって、どの程度変化するかを示す重要な指標として用いられます。今回は前回のオッズの解説に引き続き、ORについて説明します。

 オッズは「ある事象が起こる確率と起こらない確率の比」であり、Aという事象が起こる確率をp(A)とした場合、事象Aのオッズは

でした。ORは2つの群のオッズの比であり、事象Aがある群で起こる確率をp(A)、別の群で起こる確率をq(A)とした場合、

となり、ORの取りうる値の範囲はオッズと同様に0から∞になります(連載第60回参照)。

 ここからは、ロジスティック回帰モデルの考え方の説明に戻ります。前回解説したように、ロジスティック回帰モデルの基本的な形は、以下のような数式で表されます。

 今回も、われわれのResearch Question(RQ)を題材に具体的な事例で解説します(連載第60回参照)。

 たとえば、「厳格低たんぱく食の遵守あり」という事象Aの起こりやすさを、対象患者特性の1つである、糖尿病(DM)の有無でORを用いて比較することを考えてみます。

 DMありの場合に事象Aの起こる確率がp(A)、DMなしの場合の事象Aの起こる確率がq(A)だとした場合、そのロジットはそれぞれ下記の数式になります(連載第60回参照)。

 次に求めるのは、DMの有無による事象AのORの対数(log OR)です。高校の数学で習った次の公式を用いると、

 DMの有無による事象AのORの対数(log OR)は、下記のように計算できます。

 ORの値の取りうる範囲はオッズと同様に0から∞ですが、その対数(log OR)をとることで-∞から∞の範囲の値として扱えるようになります。

 上記の式のとおり、DMの有無による事象AのORの対数(log OR)は、DMあり・なしの項以外はすべて相殺されて、DMの項の回帰係数b1となります。

 また、これも高校の数学で習った次の公式より、

 xの自然対数をyとした場合、xは自然対数の底eのy乗となります。したがって、DMの有無による事象AのORは、eb1として、計算で求めることができるのです。

 では、この計算式から得られるORはどのように解釈できるでしょうか。ロジスティック回帰モデルを用いた多変量解析により、交絡因子を調整して算出されたORは「調整OR」です。これは、注目している説明変数(DMの有無)以外の交絡因子(年齢、性別、血圧、eGFR、蛋白尿定量、血清アルブミン値、ヘモグロビン値)の影響を統計学的に制御し、それらがすべて同一であるとみなした条件下で、注目している説明変数(DMの有無)のみが変化した場合の事象AのORを示しています。そのため、単純な2群比較で求めたORよりも、交絡となりうる要因の影響をある程度取り除いた、より信頼性の高い指標として解釈できます。

 

講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和医科大学臨床疫学研究所 所長・教授
昭和医科大学大学院医学研究科 衛生学・公衆衛生学分野/腎臓内科学分野 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学(現昭和医科大学)医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


バックナンバー

61. ロジスティック回帰分析 その2

60. ロジスティック回帰分析 その1

59. 生存時間分析 その5

58. 生存時間分析 その4

57. 生存時間分析 その3

56. 生存時間分析 その2

55. 生存時間分析 その1

54. 線形回帰(重回帰)分析 その5

53. 線形回帰(重回帰)分析 その4

52. 線形回帰(重回帰)分析 その3

51. 線形回帰(重回帰)分析 その2

50. 線形回帰(重回帰)分析 その1

49. いよいよ多変量解析 その2

48. いよいよ多変量解析 その1

47. 何はさておき記述統計 その8

46. 何はさておき記述統計 その7

45. 何はさておき記述統計 その6

44. 何はさておき記述統計 その5

43. 何はさておき記述統計 その4

42. 何はさておき記述統計 その3

41. 何はさておき記述統計 その2

40. 何はさておき記述統計 その1

39. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その2

38. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その1

37. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その2

36. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その1

35. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その2

34. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その1

33. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その8

32. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その7

31. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その6

30. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その5

29. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その4

28. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その3

27. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その2

26. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その1

25. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その5

24. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その4

23. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その3

22. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その2

21. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その1

20. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その3

19. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その2

18. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その1

17. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その3

16.リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その2

15. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その1

14. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その3

13. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その2

12. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用その1

11. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その2

10. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その1

9. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その3

8. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その2

7. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その1

6. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その3

5. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その2

4. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その1

3. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビューその2

2. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー その1

1. 臨床上の疑問とリサーチ・クエスチョン

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サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2025)レポート

[ レポーター紹介 ]
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下村  昭彦 ( しもむら あきひこ ) 氏
国立健康危機管理研究機構 国立国際医療センター
がん総合内科/乳腺・腫瘍内科


 

 60年に1回の丙午の年を迎えた。2025年は乳がん診療において激動の1年であった。米国臨床腫瘍学会(ASCO)、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)で薬物療法の標準治療を変えるエビデンスが、サブタイプ、周術期/転移再発のセッティングを問わず多数発表された。乳がんを専門に診療・研究をしている立場でも、広範なエビデンスのキャッチアップはかなり大変な年であった。

 ASCO、ESMOでここまで多くのエビデンスが発表されてしまうと、San Antonio Breast Cancer Symposium(SABCS)では薬物療法の話題は枯れてしまって、局所療法の話題が中心となるのではないかと思っていた。ところが。蓋を開けてびっくり、今回のSABCSでは新しい標準治療のエビデンスが多数発表された。以下に、厳選した5演題の結果を解説する。なお、SABCS2024からBest of SABCSのサイトで各演題の解説が見られるようになっている。登録が必要であるが無料なので、詳細を知りたい方はアクセスしてみてはいかがだろうか。なお、今回から日本のエキスパートによる日本語の解説も聞けるようである(私は未聴講)。

1.lidERA試験(HR+/HER2-早期乳がん)

 lidERA試験はホルモン受容体陽性(HR+)/HER2陰性(HER2-)乳がん周術期において、経口選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)の有効性を示した初めての試験である。転移乳がんにおいてはelacestrantやイムルネストラントがESR1変異を有するHR+HER2-乳がんにおける有効性を示した。

 lidERA試験では高リスクStageIを含むStageIIIまでのHR+HER2-早期乳がんを対象として、術後内分泌療法としてgiredestrantと標準的内分泌療法(ET)を比較する試験である。N0は腫瘍径が1cmを超えるかつG3/Ki-67≧20%、ゲノムプロファイリング検査で高リスク、あるいはT4を対象とした。周術期化学療法は許容された。閉経前患者は卵巣機能抑制を併用(タモキシフェン以外)した。12週以内のET±CDK4/6阻害薬は許容された。主要評価項目は無浸潤疾患生存期間(iDFS)であった。

 giredestrant群には2,084例、標準治療群には2,086例が割り付けられ、約40%が閉経前であった。StageIIが約50%、StageIIIが約40%、リンパ節転移はN1が約45%、N2以上が30%強と、比較的リスクが高いと考えられる患者が含まれた。それを反映して、約80%の患者で化学療法歴があった。内服期間は5年以上とされた。

 32ヵ月の観察期間中央値において、iDFSイベントはgiredestrant群で6.7%、標準治療群で9.4%で発生し、ハザード比(HR):0.70(95%信頼区間[CI]:0.57~0.87、p=0.00141)とgiredestrant群で有意に少なかった。休薬はgiredestrant群で多かったが、中止は両群ともに少数であった。有害事象は関節痛、ホットフラッシュなどが主であり両群間の差はほぼみられなかったが、関節痛、高血圧のGrade3以上はgiredestrant群でやや多い傾向がみられた。

 本試験をもって、高リスクHR+HER2-早期乳がんの術後治療に経口SERDの選択肢が現れた。一方で、本試験では現在高リスク患者に対する標準治療であるアベマシクリブ、ribociclibなどのCDK4/6阻害薬は併用されていない。また、日本においてはS-1も選択肢になりうる。2.75年時点でのiDFS絶対差2.8%は、monarchE試験における2年時点での3.5%とほぼ同等である(Johnston SRD, et al.J Clin Oncol. 2020;38:3987-3998.)。現時点ではET+CDK4/6阻害薬に対するオプションであるが、今後周術期治療における経口SERD+CDK4/6阻害薬のエビデンスの創出が求められる。

2.EMBER-3試験(HR+/HER2-転移乳がん)

 イムルネストラントは第III相試験での有効性が初めて検証された経口SERDであり、EMBER-3試験の最初の結果が2024年のSABCSで発表された。今回はそのアップデートの結果が発表された。EMBER-3試験ではCDK4/6阻害薬併用を含む術後ET/終了後12ヵ月以内の再発、もしくは転移乳がん(MBC)に対する内分泌療法で病勢進行したHR+HER2-MBCを対象として、イムルネストラント(A)、標準ET(フルベストラントもしくはエキセメスタン)(B)、イムルネストラント+アベマシクリブ(C)、にランダム化された。主要評価項目は、ESR1変異を有する患者におけるA vs.B、全患者におけるA vs.B、全患者におけるC vs.Aを主治医判断における無増悪生存期間(PFS)で評価した。

 今回のSABCSではそのアップデートされた結果が発表された。まずひとつ目の主要評価項目であるESR1変異を有する患者におけるイムルネストラント単剤と標準ETを比較したPFS中央値は、5.5ヵ月vs.3.8ヵ月(HR:0.62、95%CI:0.47~0.82、p=0.0007)と、イムルネストラント群における統計学的有意な改善が維持されていた。全生存期間(OS)の中間解析は50%のイベント発生割合で中央値が34.5ヵ月vs.23.1ヵ月(HR:0.60、95%CI:0.43~0.86、p=0.0043)とイムルネストラント群で良好な傾向を認めた。中間解析のため、この時点で定められた有意水準は満たしておらず、統計学的な有意差はまだ認められていない。探索的な評価項目である化学療法導入までの期間は15.6ヵ月vs.10.2ヵ月(HR:0.66、95%CI:0.48~0.92)と、イムルネストラント群で長い傾向を認めた。

 全患者におけるイムルネストラント+アベマシクリブとイムルネストラント単剤の比較では、PFS中央値10.9ヵ月vs.5.5ヵ月(HR:0.59、95%CI:0.47~0.74、p<0.0001)とアベマシクリブ併用群で有意に良好な結果であった。その有効性はCDK4/6阻害薬治療歴のある患者群でも同様であり、またESR1変異の有無、PI3キナーゼ経路の変異の有無によらずアベマシクリブ併用群で良好であった。OS中央値は33%のイベント発生割合でアベマシクリブ併用群は未到達、イムルネストラント群は34.4ヵ月(HR:0.82、95%CI:0.59~1.16、p=0.2622)と若干併用群で良さそうな傾向は認めたものの、有意差は認められなかった。

 EMBER-3試験の結果を踏まえて、本邦でもイムルネストラントはET中に進行したESR1変異を有する患者に対する標準治療となった。HR+HER2-MBCに対する内分泌療法は経口SERDを含め多くのエビデンスが存在し、またongoingの試験が多数実施されている。オプションが増えることは患者にとって良いことではあるが、それぞれの薬剤に異なるコンパニオン診断が設定されていること、薬剤が上乗せされることによる医学的、また経済的な毒性が増すことなど、実臨床では悩むことが多くなる。エビデンスを整理しそれぞれの患者にとっての最適な、有効かつ無駄のない治療戦略を立てていくことが、臨床医に求められている。

3.ASCENT-07試験(HR+/HER2-転移乳がん)

 サシツズマブ・ゴビテカン(SG)はHR+HER2-ならびにトリプルネガティブ(TN)MBCの3次治療以降でPFSならびにOSを有意に改善した、TROP-2をターゲットとした抗体薬物複合体(ADC)である(Bardia A, et al. N Engl J Med. 2021;384:1529-1541.)。ASCENT-07試験はHR+HER2-MBCの化学療法の1次治療において、SGを主治医選択化学療法(TPC)と比較した第III相試験である。

 ASCENT-07試験では転移/切除不能病変に対する化学療法歴のないHR+HER2-MBCのうち、2ライン以上のET歴がある、もしくは1次治療としてのET±CDK4/6阻害薬治療中6ヵ月以内に増悪、あるいはET+CDK4/6阻害薬の術後治療開始後24ヵ月以内に再発した患者を対象として、SGとTPC(カペシタビン、パクリタキセル、nab-パクリタキセル)を比較した。主要評価項目は盲検化されたPFSとされた。690例の患者が登録され、SG群に456例、TPC群に234例が割り付けられた。年齢の中央値は57~58歳、白人が約半数と、アジア人が40%含まれた。PS 0は60%であった。2ラインのETを受けた患者が約60%、1ラインのETを受けた患者が27%であった。約90%がCDK4/6阻害薬の投与を受けた。周術期にCDK4/6阻害薬を受けた患者は5%未満であり、アンスラサイクリン、ならびにタキサンを受けた患者が約半数であった。

 主要評価項目のPFS中央値は8.3ヵ月vs.8.3ヵ月(HR:0.85、95%CI:0.69~1.05、p=0.130)と両群間の差を認めなかった。副次評価項目の主治医評価のPFSは8.4ヵ月vs.6.4ヵ月(HR:0.78、95%CI:0.64~0.93、p=0.008)とSG群で有意に良好であったが、これはバイアスの可能性がある。副次評価項目のOSは27%のイベント発生割合で中央値は両群ともに未到達(HR:0.72、95%CI:0.54~0.97、p=0.029)とSG群で良好な傾向がみられた。TPC群の61%が後治療としてADCによる治療を受けていた。SGの安全性についてはこれまでの報告と変わらず、最も高頻度に起きる有害事象は好中球減少症であった。

 本試験はHR+HER2-MBCの化学療法の1次治療としてのSGの有効性を検証した試験であったが、主要評価項目のPFSにおける優越性は示せなかった。2次治療以降ではPFS、OSともに化学療法に対する優越性が示されているにもかかわらず、本試験で示されなかった理由は現時点では不明である。もう少しイベントが発生した段階でのOSについては慎重に評価する必要があるだろう。

4.HER2CLIMB-05試験(HER2+転移乳がん)

 HER2CLIMB-05試験はHER2+MBCの1次治療におけるtucatinib(まもなく本邦でも承認が期待されている)の上乗せ効果を検証した第III相プラセボ対照二重盲検化試験である。tucatinibはHER2を対象とした新たなチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)で、HER2+MBCの3次治療(Murthy RK, et al. N Engl J Med. 2020;382:597-609.)や2次治療(Hurvitz SA, et al. Ann Oncol. 2025 Nov 17. [Epub ahead of print] )における有効性が示されている。

 本試験ではHER2+MBCに化学療法の1次治療としてトラスツズマブ+ペルツズマブ(HP)およびタキサンの併用療法(THP)を受け、4~8サイクルまでのTHP中に病勢進行しなかった患者を対象として、HPにtucatinib 300mg BIDもしくはプラセボを維持療法として投与した。主要評価項目は主治医判断によるPFS、副次評価項目はOSや盲検化PFS、中枢神経(CNS)-PFSなどとされた。326例がtucatinib群、328例がプラセボ群に割り付けられ、HR+患者では内分泌療法の併用が許容された。PSは0が60%強、HRは陽性が50%程度、脳転移の既往が約12%に認められた。De novo StageIVが約70%であり、再発例は30%にとどまった。

 主要評価項目の主治医判断によるPFSは中央値が24.9ヵ月vs.16.3ヵ月(HR:0.641、95%CI:0.514~0.799、p<0.0001)とtucatinib群で有意に良好であった。サブグループ解析はいずれもtucatinib群で良好な傾向がみられた。HRステータスごとの解析ではHR-でより差が強まる傾向を認めた。OSはいずれも未到達(HR:0.539、95%CI:0.303~0.957、p=0.0320)とtucatinib群で良好な傾向がみられた。CNS-PFS(脳転移の増悪もしくは死亡をイベントと定義)については全体集団では差がみられなかったものの、登録時に脳転移を有していた患者ではtucatinib群で良好な傾向がみられた。これは過去の試験結果とも共通している。

 有害事象も既報と大きな違いはないが、tucatinib群で下痢が73%、肝機能障害が30%弱と毒性が強い傾向にあった。とくに、Grade3以上のALT上昇は13.5%に認められており、tucatinib投与の際には注意が必要である。プラセボ対照とはいえ両群間の毒性が明確に異なるため、いわゆるfunctional unblindingが起きて主要評価項目に影響を及ぼした可能性は否定できない。

 本試験をもって、HER2+MBCに対するTHPによる導入療法の後のHP+tucatinib療法が標準治療の候補となった。一方で、HER2+MBCの1次治療としてはDB-09試験(Tolaney SM, et al. N Engl J Med. 2025 Oct 29. [Epub ahead of print])の結果からT-DXd+ペルツズマブも今後有力な候補になってくる。HER2+MBCの1次治療はPFSの延長に伴い、治療期間が以前と比べて大幅に延長している。これらの薬剤の使い分けに当たっては、有効性は当然のことながら有害事象の程度、頻度、重篤度も十分に加味して選択する必要がある。

5.LORETTA試験(DCIS)

 最後に日本からのオーラルの演題を紹介する。LORETTA試験は低リスク非浸潤性乳管がん(DCIS)を対象として、非切除かつタモキシフェン(TAM)による治療の有効性を検証した単群検証的試験である。日本臨床試験グループ(JCOG)で実施され、研究事務局は新潟県立がんセンターの神林 智津子先生、発表したのは前JCOG乳がんグループ代表である名古屋市立大学岩田 広治先生である。

 JCOG1505 LORETTA試験では、浸潤がんを伴わない低リスクDCISと診断された40歳以上の女性を対象として、手術を行わずにTAM 20mg/日を5年間投与する試験である。DCISはコメド壊死を伴わず、核グレードが1~2、ER+かつHER2-であることが低リスクと定義された。3~6ヵ月ごとに評価を実施し、浸潤がんが疑われる、もしくは腫瘍径の増大があれば針生検を実施し、浸潤がんもしくはグレード3 DCISの診断となれば手術が行われた。評価項目は5年累積同側乳房内浸潤がん(IPIC)発生割合であった。IPICは2.5%を期待値、7%を閾値と設定された。これはすなわち、全登録患者におけるIPICが14%以下であれば仮説が検証されることになる予定であった。344例が登録され、337例が適格とされた。

 登録患者のうち、核グレード1が70%、ER+は100%、PgR+は97%であった。MRIによる腫瘍径は78%で2cm未満であった。中間解析における主要評価項目の評価で18例のIPIC発生があり、本試験は早期中止となった。IPICは腫瘍径が2cm以上の患者で多い傾向が認められた。副次評価項目の5年OSは98.8%、5年対側乳房無病生存率は97.5%と予後は非常に良好であった。6年同側乳房内浸潤がん無発生生存率は89.7%、6年無手術生存率は76.4%であった。

 2024年に同様の試験であるCOMET試験(Hwang ES, et al. JAMA. 2025;333:972-980.)で、低グレードDCISに対する非切除療法の安全性が示されている。COMET試験ではガイドライン遵守群の同側浸潤がん5.9%に対してアクティブモニタリング群では4.2%であり、アクティブモニタリングの非劣性が示された。LORETTA試験では主要評価項目は達成できなかったものの、同側浸潤がんの発生は当初の予想より著しく多いわけではなく、また予後は非常に良好であることが示された。非切除を希望する一部の患者にとっては、非切除療法がオプションになりうることを示したとも言えるだろう。 


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海外研修留学便り【米国留学記(高橋 洋子氏)】第4回

[レポーター紹介]
高橋 洋子(たかはし ようこ)

山形大学医学部 卒業
東京医療センター 外科研修医
慶應義塾大学 一般・消化器外科 乳腺班
国際医療福祉大学/医療法人順和会 山王病院 乳腺外科
帝京大学医学部 外科
がん研究会有明病院 乳腺外科
University of Hawai`i Cancer Center, Translational and Clinical Research, Cancer Biology, Research Scholar

 早いもので、この連載も最終回となりました。留学を開始してから2年が経過し、最初の1年は目の前のことに必死でしたが、ようやく少し立ち止まって振り返る余裕が出てきたように感じています。

「サンキュー」の国、アメリカ

マウイ島・ハレアカラ国立公園からのサンセット
天気を確認し日帰りで友達とマウイ島へ。気軽に近隣の島に行き、そして島々で異なる大自然に触れることができるのもハワイに住んでいる醍醐味です。

 日本では「アメリカには敬語がない」と聞いたことがありましたが、実際に来てみると、メールのやり取り1つをとっても非常に気を使う文化だと感じました。渡米当初、日本語を直訳したような表現でメールを返信したところ、そのストレートさに驚いたアメリカ人もいたようで、軽く注意を受けたことがあります。ただ、この経験はその後の生活に大いに役立ちました。

 アメリカでは、とにかく感謝の言葉を口にします。「メールをくれてありがとう」「対応してくれてありがとう」、さらには相手が遅刻した場合でも「Thank you for your patience」と伝えます。日本であれば「すみません」と言ってしまいそうな場面が、こちらでは「サンキュー」になる。この違いはとても象徴的だと感じました。

 また、「アメリカ人はあまり働かない」と言われることもありますが、実際には仕事の分業化が徹底されているだけだと思います。契約に基づいて役割が明確に決められており、それ以外の仕事に手を出さないという考え方です。日本人のように「他人の仕事を手伝う」という文化はやや乏しい一方で、上司が部下の仕事を管理し、仕事が円滑に回る仕組みを作ることが重視されています。こうした背景を理解すると、自分自身も少し楽になるように感じました。なお、私の勤務先はがんセンターということもあり、ハワイという土地のイメージとは異なり、仕事のスピードは非常に速く、時に日本より早いと感じる場面も多々ありました。

ハワイでの留学生活2年目、留学後のキャリアをどう考えるか

友人とのハイキングは探検気分で楽しんでいます。この日はオアフ島の東側、ジュラシックパークなど映画の撮影に使用されたエリアを一望できる絶景へ。さまざまなGreenとBlueを見られるのはハワイならではの景色。

 留学2年目になると、「帰国後はどうするのか」と聞かれることが増えてきます。日本人医師の場合、大学医局や病院に戻る方が多い一方で、世界中から集まるポスドクたちは、アメリカに残って研究職を探したり、製薬企業などのIndustryに進んだりと、選択肢はさまざまです。近年の政治情勢の変化を受け、ヨーロッパでのポジションを模索するという話も珍しくありません。すべてはタイミングだと思いますが、次のステップへと世界に飛び出していく仲間たちの背中から学ぶことも多いと感じています。

 仕事が早く終わった同僚は、「本国では忙しくてできなかったが、今は毎日夕方から子どもと過ごしている」と話してくれました。私自身も、家族や友人が日本のものをたくさん持って訪ねてきてくれたり、頻繁には会えないからこそ感謝の気持ちを言葉にして伝えたりと、日本にいたときとは少し違った形で家族や人とのつながりを感じています。こうした経験もまた、留学だからこそ得られる貴重な学びの1つだと感じています。

 留学の形は人それぞれですが、「留学した」という事実そのものにとらわれる必要はないと思います。自分は何をしたいのか、キャリアを一時中断してまで得たいものは何か、その留学先での経験は自分のVisionやMissionにどのようにつながるのか。可能であれば、実際にそのラボで働いている人に直接話を聞くことを強く勧めます。そして、隣の芝生は青く見えるものです。自分の選んだ道を信じ、前に進むことが何より大切なのではないかと思っています。

 この留学記のお話をいただいたことは突然でしたが、自分自身を振り返る良い機会となり、貴重な経験ができたことに感謝しています。本連載を通じて何か感じることがありましたら、お気軽にご連絡いただければ幸いです。

 


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4 海外研修留学便り【米国留学記(高橋 洋子氏)】第4回

3 海外研修留学便り【米国留学記(高橋 洋子氏)】第3回

2 海外研修留学便り【米国留学記(高橋 洋子氏)】第2回

1 海外研修留学便り【米国留学記(高橋 洋子氏)】第1回

ロジスティック回帰分析 その1【「実践的」臨床研究入門】第60回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

ロジスティック回帰モデルの基本的な考え方

 今回からは、ロジスティック回帰を用いた多変量解析について解説します。以前説明した線形回帰(重回帰)ではアウトカム指標は連続変数でしたが、ロジスティック回帰ではアウトカム指標が2値のカテゴリ変数の場合に適用されます(連載第50回参照)。それでは、下記に示したわれわれのResearch Ques-tion(RQ)を題材にして、ロジスティック回帰の実際について考えてみます(連載第49回参照)。

・P(対象):慢性腎臓病(CKD)患者
・E(要因):厳格低たんぱく食の遵守あり
・C(対照):厳格低たんぱく食の遵守なし
・O(アウトカム):1)末期腎不全(透析導入)、2)糸球体濾過量(GFR)低下速度
・交絡因子:年齢、性別、糖尿病の有無、血圧、eGFR、蛋白尿定量、血清アルブミン値、ヘモグロビン値

 これまで厳格低たんぱく食の遵守というEと、末期腎不全、GFR低下速度というOとの関連について、それぞれ生存時間分析、線形回帰(重回帰)分析を用いた多変量解析で交絡因子を調整して検討しました。今回は、Eである厳格低たんぱく食の遵守の有無(2値のカテゴリ変数)をアウトカム指標におき、ロジスティック回帰を用いて交絡因子として挙げた種々の患者背景要因を調整したうえで、Eという診療パターンが「起こりやすい」患者特性について検討します。

 ロジスティック回帰モデルの考え方として、まずオッズについて説明します。オッズとは「ある事象が起こる確率と起こらない確率の比」で表される指標です。今回の題材では、Aという事象、「厳格低たんぱく食の遵守あり」が起こる確率をp(A)とすると、Aという事象が起こらない、すなわち「厳格低たんぱく食の遵守なし」である確率は1-p(A)で表されます。

 したがって、事象Aのオッズは

 という数式で表されます。

 p(A)の取りうる範囲は確率ですので0から1までの値であり、1を超えたり負の値になったりすることはありません。ここでp(A)を目的変数として、複数の説明変数からこれを推測することを考えます。たとえば説明変数として連続変数xをおき、xの値が変動するとp(A)になる確率が大きくなったり小さくなったりする関係があるとします。たとえば、年齢という連続変数が大きくなる、高齢になるほど、p(A)、すなわち「厳格低たんぱく食の遵守あり」の確率が低くなる、というような関係です。

 ある目的変数を複数の説明変数によって推測する、ということを線形回帰(重回帰)分析ですでに説明しました(連載第50回参照)。

上記の重回帰式yの取りうる範囲は-∞から∞です。

 しかし今回この左辺に置きたいのはAという事象が起こる確率p(A)であり、その取りうる範囲は0から1までの値であり、左辺と右辺の取りうる範囲が揃いません。そこで、先ほど説明したオッズの出番です。

 事象Aのオッズは

 であり、p(A)の取りうる範囲は0から1でしたので、数式から事象Aであるオッズの取りうる値は0から∞になります。しかし、重回帰式yの取りうる範囲は-∞から∞ですので、まだ左辺と右辺の取りうる範囲は一致しません。そこでさらに、オッズの自然対数をとるロジット変換を行い、事象Aのロジットを求めると下記の数式になります。

 ロジット変換を行うと、その取りうる範囲は-∞から∞となります。このロジットを目的変数として左辺に置き、右辺に重回帰式を当てはめることにより、下記の数式で示すように、ようやく左辺と右辺で取りうる範囲が揃います。

 この数式がロジスティック回帰モデルの基本形です。左辺は事象Aが起こる確率p(A)のロジット(対数オッズ)を示します。右辺は切片aと複数の説明変数xiのそれぞれの回帰係数biの項の総和と残差eで表されます。

 この数式を用いて、重回帰分析と同様に複数の独立変数と2値のカテゴリ変数である目的変数との関連を検討することが、ロジスティック回帰分析を用いた多変量解析の基本的な考え方です。

 

講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和医科大学臨床疫学研究所 所長・教授
昭和医科大学大学院医学研究科 衛生学・公衆衛生学分野/腎臓内科学分野 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学(現昭和医科大学)医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


バックナンバー

61. ロジスティック回帰分析 その2

60. ロジスティック回帰分析 その1

59. 生存時間分析 その5

58. 生存時間分析 その4

57. 生存時間分析 その3

56. 生存時間分析 その2

55. 生存時間分析 その1

54. 線形回帰(重回帰)分析 その5

53. 線形回帰(重回帰)分析 その4

52. 線形回帰(重回帰)分析 その3

51. 線形回帰(重回帰)分析 その2

50. 線形回帰(重回帰)分析 その1

49. いよいよ多変量解析 その2

48. いよいよ多変量解析 その1

47. 何はさておき記述統計 その8

46. 何はさておき記述統計 その7

45. 何はさておき記述統計 その6

44. 何はさておき記述統計 その5

43. 何はさておき記述統計 その4

42. 何はさておき記述統計 その3

41. 何はさておき記述統計 その2

40. 何はさておき記述統計 その1

39. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その2

38. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その1

37. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その2

36. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その1

35. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その2

34. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その1

33. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その8

32. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その7

31. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その6

30. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その5

29. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その4

28. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その3

27. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その2

26. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その1

25. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その5

24. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その4

23. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その3

22. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その2

21. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その1

20. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その3

19. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その2

18. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その1

17. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その3

16.リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その2

15. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その1

14. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その3

13. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その2

12. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用その1

11. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その2

10. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その1

9. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その3

8. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その2

7. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その1

6. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その3

5. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その2

4. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その1

3. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビューその2

2. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー その1

1. 臨床上の疑問とリサーチ・クエスチョン

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海外研修留学便り 【フランス留学記(尾崎 由記範氏)】第3回

[ レポーター紹介 ]
尾崎 由記範おざき ゆきのり

2008年慶應義塾大学医学部、2022年東京医科歯科大学大学院を卒業。
2014年より虎の門病院、2020年よりがん研究会 有明病院 乳腺センター 乳腺内科勤務、先端医療開発科併任。
乳腺を専門とする腫瘍内科医としてがん薬物療法、臨床研究、新規治療戦略の開発に従事している。

第3回:国際共同プロジェクトへの挑戦

 

 

 


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4 海外研修留学便り【フランス留学記(尾崎 由記範氏)】第4回

3 海外研修留学便り【フランス留学記(尾崎 由記範氏)】第3回

2 海外研修留学便り【フランス留学記(尾崎 由記範氏)】第2回

1 海外研修留学便り【フランス留学記(尾崎 由記範氏)】第1回

海外研修留学便り 【フランス留学記(尾崎 由記範氏)】第2回

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尾崎 由記範おざき ゆきのり

2008年慶應義塾大学医学部、2022年東京医科歯科大学大学院を卒業。
2014年より虎の門病院、2020年よりがん研究会 有明病院 乳腺センター 乳腺内科勤務、先端医療開発科併任。
乳腺を専門とする腫瘍内科医としてがん薬物療法、臨床研究、新規治療戦略の開発に従事している。

第2回:フランスの医療制度と生活

 

 

 


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尾崎 由記範おざき ゆきのり

2008年慶應義塾大学医学部、2022年東京医科歯科大学大学院を卒業。
2014年より虎の門病院、2020年よりがん研究会 有明病院 乳腺センター 乳腺内科勤務、先端医療開発科併任。
乳腺を専門とする腫瘍内科医としてがん薬物療法、臨床研究、新規治療戦略の開発に従事している。

第1回:Gustave Roussy留学のきっかけ

 

 

 


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ESMO2025 レポート 乳がん(転移再発乳がん編)

提供元:CareNet.com

レポーター: 下井 辰徳氏
(国立がん研究センター中央病院 腫瘍内科)

 2025年10月17~21日にドイツ・ベルリンで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)では、3万7,000名を超える参加者、3,000演題弱の発表があり、乳がんの分野でも、現在の標準治療を大きく変える可能性のある複数の画期的な試験結果が発表された。

 とくに、抗体薬物複合体(ADC)、CDK4/6阻害薬、およびホルモン受容体陽性乳がんに対する新規分子標的治療に関する発表が注目を集めた。臨床的影響が大きい主要10演題を早期乳がん編・転移再発乳がん編に分けて紹介する。

[目次]転移再発乳がん編

ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がん
 1.evERA
 2.VIKTORIA-1

HER2陽性乳がん
 3.DESTINY-Breast09

トリプルネガティブ乳がん
 4.ASCENT-03
 5.TROPION-Breast02

ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がん

1.evERA:ESR1陽性HR+/HER2-転移乳がんに対するgiredestrant(経口SERD)+エベロリムス併用療法の有効性の報告

 evERAは、ホルモン受容体(ER)陽性、HER2陰性の進行/転移乳がん患者に対する新規経口SERD「giredestrant(ギレデストラント)」にエベロリムス(mTOR阻害薬)併用の、対照群として医師選択の内分泌療法(エキセメスタン/タモキシフェン/フルベストラント)+エベロリムスに対する、有効性と安全性を検証した国際第III相臨床試験である。対象は、CDK4/6阻害薬による治療歴があるER陽性/HER2陰性進行/転移乳がん患者(ESR1変異陽性も含む)であった。373例が参加し、日本人患者も参加していた。

 ITT集団において、giredestrant+エベロリムス群の無増悪生存期間(PFS)中央値は8.77ヵ月(95%信頼区間[CI]:6.60~9.59)に対し、対照群(内分泌療法+エベロリムス)では 5.49ヵ月(95%CI:4.01~5.59)(ハザード比[HR]:0.56、95%CI:0.44~0.71、p<0.0001)であり、統計学的有意にgiredestrant群のPFSが良好であった。ESR1変異陽性サブ集団では、PFS中央値が9.99ヵ月(95%CI:8.08~12.94)に対し、対照群で5.45ヵ月(95%CI:3.75~5.62)、PFSのHR:0.38(95%CI:0.27~0.54、p<0.0001)であり、統計学的有意にgiredestrant群のPFSが良好であった。

 全生存期間(OS)データは未成熟だが、ITT集団ではHR:0.69(95%CI:0.47~1.00、p=0.0473)、ESR1変異陽性ではHR:0.62(95%CI:0.38~1.02、p=0.0566)と、良好な傾向であった。安全性については、giredestrant+エベロリムス併用群は、既知の薬剤プロファイルに準じた有害事象(AE)が観察され、新たな安全信号は確認されていないと報告。主要な有害事象としては、口内炎(stomatitis)、下痢、貧血など、エベロリムスでよく知られた有害事象が中心であり、giredestrantに特徴的な有害事象としてはGrade 1/2の徐脈(3.8%)であり、忍容性は良好と報告されていた。

 日本ではあまり積極的に使用されていないエキセメスタンなどの内分泌療法とエベロリムスの併用療法であるが、欧米ではCDK4/6阻害薬治療後の2次治療での主要な選択肢になっている。このため、evERAの結果を受けて、今後のCDK4/6阻害薬による治療で病勢進行した場合の主要な選択肢としてgiredestrantとエベロリムスが期待される結果となった。PFSとOSのトレンドとしては、ESR1変異のある症例での有効性に、ITTも引っ張られている様子で、ESR1変異のない集団では試験治療群と対照群のPFSやOSの差はほとんどない様子であった。このため、これまでのほかの経口SERD同様に、ESR1変異のある症例での承認を目指していくことと思われる。

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2.VIKTORIA-1:PAM経路(PI3K/AKT/mTOR)阻害によるホルモン耐性乳がんの克服

 VIKTORIA-1は、CDK4/6阻害薬とアロマターゼ阻害薬による治療後に進行したHR+/HER2-/PIK3CA野生型進行乳がん患者を対象とした第III相ランダム化試験である。VIKTORIA-1にはPIK3CA変異コホートもあるが、今回は報告されていない。392例の患者が、「gedatolisib(ゲダトリシブ)」(PI3K/mTORC1/mTORC2阻害薬、点滴)+パルボシクリブ+フルベストラント(3剤併用群)、gedatolisib +フルベストラント(2剤併用群)、またはフルベストラント単独群にランダム割付された。

 3剤併用群は、フルベストラント単独群と比較して、HR:0.24、95%CI:0.17~0.35、p<0.0001と、PFSを改善させた。PFSの中央値は3剤併用群9.3ヵ月に対してフルベストラント単独群2.0ヵ月(差:+7.3ヵ月)であった。2剤併用群は、フルベストラント単独群と比較して、HR:0.33(95%CI:0.24~0.48、p<0.0001)と、PFSを改善させた。PFSの中央値は2剤併用群7.4ヵ月に対してフルベストラント単独群2.0ヵ月であった。

 gedatolisibベースの治療は良好に忍容され、治療関連有害事象により中止した患者はごく少数であった。

 これまでも、CDK4/6阻害薬耐性HR+乳がん患者に対して、PAM経路標的化は新しい治療戦略を提供することを示唆してきた。gedatolisibの二重特異的阻害特性により、より強力な細胞周期制御と耐性機序の同時阻害が期待されるが、VIKTORIA-1の結果は、トリプレット療法がこの高度に耐性のある患者集団に対してとくに有望であることを示唆した。CDK4/6阻害薬の治療後にCDK4/6阻害薬のbeyond progressionの使用の有効性を示したpostMONARCHやMAINTAINは別のCDK4/6阻害薬からの変更が主体であったが、VIKTORIA-1で3剤併用群のパルボシクリブ併用の症例のうち約4割はパルボシクリブによる前治療歴があり、パルボシクリブのシークエンスでもある程度上乗せ効果が期待できる可能性を示唆している。また、VIKTORIA-1は日本では実施されておらず、今後はドラッグロスの1つとなる可能性が懸念される。

 来年度以降の1次、2次内分泌療法のシークエンス(予想)は以下のとおり。

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HER2陽性乳がん

3.DESTINY-Breast09サブグループ解析:サブグループによらずT-DXd+PERが標準治療に

 DESTINY-Breast09(第III相、トラスツズマブ デルクステカン[T-DXd]+ペルツズマブ[T-DXd+PER群]vs.標準療法:タキサン+トラスツズマブ+ペルツズマブ[THP群])は、ASCO2025で、すでにその主要評価項目が発表され、T-DXd+PER群のTHP群に対するPFSの優越性が検証された。今回ESMO Congress 2025では、すべてのサブグループでT-DXd+ペルツズマブがPFSを大きく延長したことが報告された。T-DXd+PER群のPFSのHRや中央値は既存標準治療を大きく上回る結果で、今後、1次治療の標準になる可能性が示された。

サブグループ解析結果のまとめを以下に示す。

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トリプルネガティブ乳がん

4.ASCENT-03:PD-L1陰性のTNBCの初回治療にサシツズマブ ゴビテカンが名乗りを上げる

 ASCENT-03は、免疫療法が適応とならないPD-L1陰性またはPD-1/PD-L1阻害薬不適格の未治療転移トリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者を対象とした第III相ランダム化試験である。558例が、サシツズマブ ゴビテカン(SG)群または化学療法(パクリタキセル、アルブミン懸濁パクリタキセル、またはゲムシタビン+カルボプラチン)群にランダム割付された。

 中央値13.2ヵ月のフォローアップで、PFSの中央値はSG群で9.7ヵ月、化学療法群で6.9ヵ月(HR:0.62、p<0.0001)であり、統計学的有意にPFSの改善を示した。奏効期間(DOR)の中央値はSG群で12.2ヵ月、化学療法群で7.2ヵ月で、SG群で著しく長かった。奏効率(ORR)は両群で同程度であった(48%vs.46%)。発表時点でOSデータはまだ未成熟であったが、試験としては、対照群では2次治療以降で希望者は企業提供によりSG治療のクロスオーバーが可能であった。このため、82%が2次治療以降でSGを受けたとされる。

 有害事象は、SG群の好中球数減少など、これまでに知られている内容から大きな違いはなかった。約40~60%の転移TNBC患者はPD-L1陰性であり、そういった患者に対するより有効な治療が期待されている。本試験結果は、現在2次治療以降で使用されているSGが初回治療の標準治療となりうる可能性を示した重要な結果であった。

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5.TROPION-Breast02:もう1つのADC TNBC初回治療成績

 TROPION-Breast02は、免疫療法が適応とならない未治療の転移・局所再発TNBC患者644例を対象に、抗TROP2 ADC「ダトポタマブ デルクステカン(Dato-DXd)」の1次治療としての有効性・安全性を主治医選択の化学療法と比較した国際第III相試験である。主要評価項目はPFSとOSであった。

 結果として、PFS中央値はDato-DXd群10.8ヵ月、化学療法群5.6ヵ月であり、PFSのHR :0.57(95%CI:0.47~0.69、p<0.0001)、OS中央値はDato-DXd群23.7ヵ月、化学療法群18.7ヵ月であり、OSのHR:0.79(95%CI:0.64~0.98、p=0.0291)と、いずれも統計学的有意にDato-DXd群が良好であった。ORRもDato-DXd群62.5%、化学療法群29.3%と、Dato-DXd群が良好であった。安全性としては主なGrade3以上有害事象は口内炎・粘膜炎、視覚障害であり、これまでの報告に比べて新たな有害事象報告は認めなかった。

 以下に、ASCENT-03とTROPION-Breast02の違いをまとめる。

 なお、対照群の治療内容が異なるため、奏効率も各試験で異なっている。ASCENT-03は人道的配慮から、企業が対照群の病勢進行後のSGを提供することでクロスオーバーを許容しており、OSの差が検出されづらくなっていた。一方でTROPION-Breast02はクロスオーバーが実質的に不可能であるため、OSの差が中間解析の段階で検証されたと思われる。奏効率に関しては、試験治療群の結果を見る限りでは、Dato-DXdのほうが高いように思われた。来年以降将来的には、PD-L1陽性群ではSG+ペムブロリズマブがASCENT-04に基づいて初回治療として検討され、PD-L1陰性群ではSGまたはDato-DXdが検討される時代になると想定される。その際には、SGまたはDato-DXdのいずれを優先するか、次治療で別のTROP2 ADCへのシークエンスをどうするか、HER2低発現でT-DXdへのシークエンスをどうするか、などの検討が生まれるだろう。現時点でのデータの状況であれば、SGまたはDato-DXdのいずれを優先するかについては、有害事象の違いを考慮する必要があるが、OS利益がはっきりしているDato-DXdのほうに分があるように思われる。

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終わりに

 今回のESMO Congress2025では、数多くのランダム化第III相試験の結果が報告され、実臨床を大きく変える研究結果が報告された。各試験の限界や問題点を考慮しつつ、来年以降の標準治療のあるべき姿と、生まれてきた新たなクリニカルクエスチョンに関して、創出すべきエビデンスを考えていきたいと思う。

 


レポーター紹介

下井 辰徳 ( しもい たつのり )
国立がん研究センター中央病院 腫瘍内科

ESMO2025 レポート 乳がん(早期乳がん編)

提供元:CareNet.com

レポーター: 下井 辰徳氏
(国立がん研究センター中央病院 腫瘍内科)

 2025年10月17~21日にドイツ・ベルリンで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)では、3万7,000名を超える参加者、3,000演題弱の発表があり、乳がんの分野でも、現在の標準治療を大きく変える可能性のある複数の画期的な試験結果が発表された。

 とくに、抗体薬物複合体(ADC)、CDK4/6阻害薬、およびホルモン受容体陽性乳がんに対する新規分子標的治療に関する発表が注目を集めた。臨床的影響が大きい主要10演題を早期乳がん編・転移再発乳がん編に分けて紹介する。

[目次]早期乳がん編

ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がん
 1.monarchE

HER2陽性乳がん
 2.DESTINY-Breast05
 3.DESTINY-Breast11

トリプルネガティブ乳がん
 4.PLANeT

その他
 5.POSITIVE

ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がん

1.monarchE:HR陽性/HER2陰性早期乳がん患者における術後療法の全生存期間の改善効果

 monarchEは、高リスクホルモン受容体陽性(HR+)、HER2陰性早期乳がん患者における術後療法の有効性を評価する第III相ランダム化試験である。5,120例が内分泌療法単独または2年間のアベマシクリブと内分泌療法の組み合わせにランダム割付された。高リスク患者は、腋窩リンパ節≧4個陽性、または1~3個陽性で組織学的グレード3および/または腫瘍径≧5cm、あるいはKi67≧20%と定義された。

 中央値76ヵ月のフォローアップで、アベマシクリブ+ホルモン療法はホルモン療法単独と比較して、死亡リスクを15.8%低下させた(ハザード比[HR]:0.842、p=0.0273)。7年時点での無浸潤疾患生存(iDFS)イベントリスクの低下は26.6%(名目上のp<0.0001)、無遠隔再発生存(DRFS)イベントリスクの低下は25.4%(名目上のp<0.0001)であった。約7年追跡時点で、標準内分泌療法+アベマシクリブ群の全生存(OS)率は86.8%、内分泌療法単独群は85.0%であり、絶対差は1.8%であった。これらの成績は、アベマシクリブ中止後も長期間持続し、乳がん術後内分泌療法におけるCDK4/6阻害薬併用が微小転移性疾患を持続的に抑制する可能性を示している。

 術後治療でHR陽性HER2陰性乳がんのみに限定して、全生存期間の改善を示した臨床試験は限られており、その意味でも非常に意義深い結果である。 

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HER2陽性乳がん:T-DXdの“治癒可能”病期への本格進出

2.DESTINY-Breast05:HER2陽性乳がん再発高リスク患者における術前薬物療法後に残存病変を有する症例に対するトラスツマブ デルクステカンの追加効果の検証

 DESTINY-Breast05は、術前薬物療法後に非pCR(残存浸潤病変を有する)の高リスクHER2陽性早期乳がん患者を対象とした、第III相ランダム化試験である。本試験では、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)と、標準治療であるトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)を比較した。

 1,635例が登録され、3年iDFS率はT-DXd群92.4%(95%信頼区間[CI]:89.7~94.4)に対し、T-DM1群83.7%(95%CI:80.2~86.7)であった。浸潤性再発または死亡のリスクはT-DXd群で53%減少した(HR:0.47、95%CI:0.34~0.66、p<0.0001)。

 Grade3以上の有害事象発生率は両群でほぼ同等であった(T-DXd群50.6%、T-DM1群51.9%)。ただし、薬剤性間質性肺疾患(ILD)はT-DXd群でより多く報告され(9.6%vs.1.6%)、2例の致死例(Grade 5)が認められた。左室機能障害は低率であった(1.9%)。

 これらの結果は、T-DXdが治癒を目指す術前療法領域に進出しうることを示唆しており、高リスク残存病変例における新たな標準治療候補として位置付けられる。さらに、本試験結果を実臨床で運用する上でのILDの評価と早期介入が必要であることを示唆した。

 DB-05とKATHERINEの患者対象の違いは以下のとおり。

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3.DESTINY-Breast11:HER2陽性乳がんにおける術前抗がん剤治療におけるアントラサイクリン除外戦略

 DESTINY-Breast11は、高リスクHER2陽性早期乳がんに対し、アントラサイクリン非使用戦略を評価した第III相試験である。T3以上、リンパ節転移陽性、または炎症性乳がんを対象に、640例がT-DXd-THP(T-DXd単独→パクリタキセル+トラスツズマブ+ペルツズマブ)群またはddAC-THP(ドキソルビシン+シクロホスファミド→THP)群に割り付けられた。

 pCR(病理学的完全奏効)割合はT-DXd-THP群で67.3%、ddAC-THP群で56.3%(差:11.2ポイント、95%CI:4.0~18.3、p=0.003)であった。ホルモン受容体状態にかかわらず一貫した傾向を示した。無イベント生存期間(EFS)ではT-DXd-THP群に有利なトレンドがみられた(HR:0.56、95%CI:0.26~1.17)。

 有害事象(Grade≧3)はT-DXd-THP群で37.5%、ddAC-THP群で55.8%と低率で、左室機能障害も少なかった(1.9%vs.9.0%)。ILDの発生は両群で低頻度かつ同等であった。

 この結果から、HER2陽性乳がんの周術期治療としてアントラサイクリンの使用が必須ではないことが示唆され、T-DXdを基盤とする新術前療法が高い奏効割合と毒性の低減を両立しうることが検証された。とくに海外においては、アントラサイクリン系抗がん剤の使用に対する忌避が強く、カルボプラチンとドセタキセル併用のレジメンが中心となってきているが、今回の結果はアントラサイクリン系の省略に向けたさらなる示唆を提示した。

 早ければ来年度中に、本邦でもDB05、DB11レジメンが適応拡大される可能性がある。先のDB05と相まって、いずれも選択可能となった場合に、術前療法でT-DXdを使用するのか、EFSなど長期成績がT-DXd群で改善することが証明されてからDB11が運用されていくべきなのか、pCR割合の改善をもって標準治療としてよいと考えるか、現在議論になっている。

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トリプルネガティブ乳がん

4.PLANeT:TNBCの周術期治療における低用量ペムブロリズマブの併用

 PLANeTは、インド・ニューデリーのがん専門施設単施設において実施された第II相ランダム化試験である。StageII~IIIのトリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者に対して、標準的術前化学療法に「低用量ペムブロリズマブ(50mg/6週間ごと×3回)」を併用する群vs.化学療法単独群(dose dense AC療法とdose denseパクリタキセル療法)の比較であった。主要評価項目は術前化学療法+低用量ペムブロリズマブ併用群と化学療法単独群のpCR割合の比較であり、副次評価項目にiDFSやQOLが含まれていた。すでに、TNBC患者に対する周術期治療におけるペムブロリズマブの通常用量(200mg/3週間ごとなど)の併用は、KEYNOTE-522試験においてpCR割合、EFS、OS改善が証明されており、標準治療となっている。一方で、低〜中所得国・医療資源制限環境では高額薬剤/免疫療法アクセスが課題となっており、“低用量併用”戦略がコスト・アクセス面で代替案になりうる可能性が検討されている。

 本試験では、157例が各群に割り付けられ(低用量併用群78例、対照群79例)、治療が実施された。ITT解析でのpCR割合は低用量併用群53.8%(90%CI:43.9~63.5)、対照群40.5%(90%CI:31.1~50.4)、絶対差:13.3%(90%CI:0.3~26.3、片側p=0.047)であり、ペムブロリズマブ低用量併用による、統計学的有意なpCR割合の改善が示された。また、有害事象としても、Grade 3以上の有害事象は低用量併用群50%、対照群59.5%で、重篤毒性はむしろ低率であった。とくにirAEとして、甲状腺機能障害は低用量併用群10.3%と、KEYNOTE-522試験よりも低めであった。ただし、低用量併用群で1例の治療関連死亡(中毒性表皮壊死症)が報告された。

 本試験はフォローアップ期間・無病生存データ・最終OSデータなどはまだ不十分で、「仮説生成的(hypothesis‐generating)」段階であるものの、コスト・アクセス改善(低用量による医療経済性改善)を重視した設計であり、とくに資源制約のある地域で免疫療法併用治療を普及させる可能性が示唆された。ただ、問題としてはペムブロリズマブ50mgという投与量が十分か? という科学的根拠はほとんどない様子であり、KEYNOTE-522試験レジメンが使用可能な国における標準治療に影響を与えるものではない。

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その他

5.POSITIVE:妊娠試みによる内分泌療法中断の予後や出産児に与える影響の検討

 POSITIVE(Pregnancy Outcome and Safety of Interrupting Therapy for young oNco‐breast cancer patients)は、若年HR+乳がん患者において、術後内分泌療法を一時中断して、再発リスクを増やさずに妊孕(妊娠を試みること)可能かを検証した前向き試験である。ESMO Congress 2025では、5年フォローアップ成績が報告されており、“妊娠試みによる内分泌療法中断”が少なくとも5年時点では再発リスクを有意に増加させていないという結果が報告された。

 518例のHR陽性 StageI~III乳がん患者が、術後18~30ヵ月内分泌療法を継続した後、最大2年間の内分泌療法中断で妊娠を試み、その安全性と妊孕性、再発への影響を評価された。登録時の平均年齢は35~39歳が最多。対象の75%は出産歴がなく、62%が化学療法も受けていた。

 5年乳がん無発症割合(BCFI)は、POSITIVE群12.3%、外部対照のSOFT/TEXT群13.2%と差は−0.9%(95%CI:−4.2%~2.6%)であった。5年無遠隔再発率(DRFI)はPOSITIVE群6.2%、SOFT/TEXT群8.3%(差:−2.1ポイント%、95%CI:−4.5%~0.4%)で、内分泌療法一時中断による再発・転移リスク増加は認められなかった。HER2陰性のサブ解析でも同様の結果。年齢やリンパ節転移、化学療法歴などで層別しても有意差なしだった。

 試験期間中、76%が少なくとも一度妊娠し、91%が少なくとも一度生児出産。365人の子供が誕生した。出生児の8.6%が低出生体重、1.6%が先天性欠損だったが、これは一般母集団と同等であった。また、ART(胚・卵子凍結など)を利用した女性でも再発リスクは非利用者と同等であり、母乳育児も高率で実現し、安全であることも確認された。内分泌療法中断後、82%が内分泌療法を再開した。

 POSITIVE試験は、妊娠希望のHR陽性乳がん女性が、内分泌療法を最大2年中断して妊娠・出産しても短期再発リスクは増加しないこと、妊娠やART、母乳育児の成績・安全性も良好で、安心材料となるエビデンスを提供しており、患者さんへのShared decision makingに非常に役立つ結果であった。

 


レポーター紹介

下井 辰徳 ( しもい たつのり )
国立がん研究センター中央病院 腫瘍内科