ASCO2025 レポート 乳がん

提供元:CareNet.com

レポーター: 下村 昭彦氏
(国立健康危機管理研究機構 国立国際医療研究センター病院 がん総合内科/乳腺・腫瘍内科)

 

 2025年5月30日~6月3日にかけて開催されたASCO2025は、”Driving Knowledge to Action:Building a Better Future”というテーマで実施された。昨年つらい思いをした円安も若干改善され(1ドル145円前後)、航空運賃の高騰は変わらないものの、若干参加しやすくなったと言えるだろうか(とはいえ、ハンバーガーとコーラで2,500円はつらい…)。

 乳がん領域では明日からの臨床が変わる演題が多数公表された。トラスツズマブ・デルクステカン(T-DXd)の試験は昨年に引き続き、Plenary session押し出しの早朝専用セッションが設けられていた。本稿では、日常臨床を変える4演題と、日本からの発表の1演題を概説する。

SERENA-6試験

 ホルモン受容体(HR)陽性HER2陰性進行乳がんでは、内分泌耐性をどう乗り越えるかが重要な話題となっており、ASCO2025でも複数の演題が発表された。

 SERENA-6試験は、HR陽性HER2陰性進行乳がんにおいて、アロマターゼ阻害薬(AI)+CDK4/6阻害薬(CDK4/6i)治療中に循環腫瘍DNA(ctDNA)で検出されたESR1変異を有する患者を対象とした盲検化ランダム化第III相試験である。この試験では、画像上の病勢進行(PD)前にAIを経口選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)であるcamizestrantに切り替えることで無増悪生存期間(PFS)の改善が得られるかを検証した。

 主要評価項目である主治医評価によるPFSは、16.0ヵ月vs.9.2ヵ月(ハザード比[HR]:0.44(95%信頼区間[CI]:0.31~0.60、p<0.00001)とcamizestrant群で有意に良好であった。副次評価項目のPFS2(次治療でPDとなるまでの期間)についてもHR:0.52(95%CI:0.33~0.81、p=0.0038)とcamizestrant群で有意に良好であった。また、EORTC QLQ-C30を用いたQOL評価では、QOL悪化をイベントとしたtime to deterioration(TTD)がエンドポイントとされ、TTD中央値が23.0ヵ月vs.6.4ヵ月(HR:0.53、95%CI:0.33~0.82、p<0.001)とcamizestrant群で有意に良好であった。Grade3以上の有害事象は33.2%にみられたが、忍容性はおおむね良好であり、ctDNAを用いた個別化介入の有用性を示した重要な結果といえる。なお、この結果はNew England Journal of Medicine(NEJM)に同日掲載された(Bidard FC, et al. N Engl J Med. 2025 Jun 1. [Epub ahead of print])。

 ctDNAでESR1変異の出現をモニタリングし画像PDとなる前に治療を変更する戦略は、すでにPADA-1試験でその有効性が示され期待されている(Bidard FC, et al. Lancet Oncol.2022;23:1367-1377. )。PADA-1試験ではSERDとして注射剤のフルベストラントが使用された。SERENA-6試験では経口SERDが用いられており、効果ならびに投与の簡便性の向上が期待される画期的な試験であると言える。その一方で、本試験の結果を日常臨床で用いるには多くの懸念点が残る。ESR1変異の出現をモニタリングして治療を変更する群と変更しない群を比較する試験というのは、治療戦略(画像PDを待つか待たないか)を比較する試験である。PADA-1試験ではAI継続群でフルベストラント+CDK4/6iへのクロスオーバーが許容されていたが、SERENA-6試験ではcamizestrant±CDK4/6iにクロスオーバーされているのはわずかに3%である。本来は「早く治療変更するか」「画像PDを待って治療変更するか」を比較するべき試験であるにもかかわらず、クロスオーバーされないということは戦略を比較する試験とはなっていない、と言わざるを得ない。ESR1変異はAI耐性の予測因子であり、AI群でPFSが短いことは当然の帰結である。

 PFS2の結果についてもcamizestrantへのクロスオーバーがなく他の経口SERDがどの程度使用されたか不明である以上、評価が困難である(camizestrant群では常に薬剤の使用ラインが多いため、比較できない)。本試験のデザインでは、真にこの戦略が有効であるかどうかは、全生存期間(OS)の結果を見なければ判断できないが、それも後治療に不均衡があれば評価できない。QOLについてもTTDがcamizestrant群で良好なのは当然で、AI群のほうが早く病勢進行するため、症状出現によるQOL低下で説明できる。

 さらなる問題はESR1変異を検出するctDNA検査を2~3ヵ月ごとに行うコストの問題である。本試験ではリキッドバイオプシーとしてGuardant360が使用されていたが、非常に高価である。ESR1に特化した独自アッセイの開発とバリデーションが必要である。またESR1のサーベイランスに参加した3,256例のうち、ESR1変異が検出されたのは548例(画像PDを伴うものを含む)、ランダム化されたのは315例と10%弱である。果たしてこの10%のために高価な検査を定期的に実施することが有効であろうか? またサーベイランス期間中にESR1変異が検出されず、PDともならなかった患者は1,949例である。CDK4/6i併用1次内分泌療法のPFSが30ヵ月程度と考えられる中で、全例にctDNAの評価をし続けるのか? 本試験結果を日常臨床に用いるには、OSを含めた「戦略の有効性」の証明と、ctDNAサーベイランスの対象となる症例群の絞り込みが必要であろう。

VERITAC-2試験

 内分泌耐性をこれまでと異なる作用機序で克服しようとしたのがVERITAC-2試験である。vepdegestrantはPROTACと呼ばれる薬剤であり、エストロゲン受容体(ER)のユビキチン化を促進してERを分解する新たな機序を有する。VERITAC-2試験は、vepdegestrantの2次治療における有効性を検証した非盲検ランダム化第III相試験である。ESR1にフォーカスしたSERENA-6試験と異なり、作用機序そのものが違う薬剤の効果を確認している。前治療として1レジメンまでの内分泌療法歴がある患者を対象に、vepdegestrantとフルベストラントが比較された。

 主要評価項目であるESR1変異陽性集団における盲検下独立中央判定(BICR)によるPFSは、5.0ヵ月vs.2.1ヵ月(HR:0.57、95%CI:0.42~0.77、p<0.001)とvepdegestrant群で有意に良好であった。一方、もう1つの主要評価項目である全患者集団におけるPFSは3.7ヵ月vs. 3.6ヵ月(HR:0.83、95%CI:0.68~1.02、p=0.07)と両群間の有意差を認めなかった。主治医評価によるPFSも同様の結果であった。有害事象はGrade 3以上が23%vs.18%とvepdegestrant群でやや多い傾向であり、倦怠感の頻度が最も高かった。本試験もNEJMに同日掲載された(Campone M, et al. N Engl J Med. 2025 May 31. [Epub ahead of print])。

 PROTACはこれまでの内分泌療法とはまったく異なる機序で効果を発揮する薬剤で、今後が期待される。一方で、なぜERを分解する作用を有する薬剤にもかかわらず(ESR1変異の有無にかかわらず効果が期待できると考えられる)、ESR1変異を有する場合にのみフルベストラントに対する優越性を示せたのかは、現時点では不明である。また、今後臨床に応用するには試験デザインに課題が残る。CDK4/6i併用内分泌療法後の治療としては、PIK3CAAKT1PTENなどの変異の有無によって、SERDとAKT阻害薬(Turner NC, et al. N Engl J Med. 2023;388:2058-2070.)やPI3K阻害薬(Andre F, et al. N Engl J Med 2019;380:1929-1940.)、あるいはCDK4/6iの併用(Kalinsky K, et al. J Clin Oncol. 2025;43:1101-1112.)が行われる。CDK4/6i後の治療として内分泌療法単独が選択されることは多くなく、vepdegestrantも他の分子標的薬との併用療法の開発が期待される。

DESTINY-Breast09(DB-09)試験

 HER2陽性進行乳がんの治療は、2010年代はじめのペルツズマブ、トラスツズマブ・エムタンシン(T-DM1)の承認で大きく変化したが(Swain SM, et al. N Engl J Med. 2015;372:724-734.Verma S, et al. N Engl J Med. 2012;367:1783-1791.)、2019年のT-DXdの登場はまた新たに大きく地図を塗り替えた(Modi S, et al. N Engl J Med. 2020;382:610-621.Cortes J, et al. N Engl J Med. 2022;386:1143-1154.)。T-DXdはHER2陽性乳がんに対する試験で既存治療と比較して圧倒的な有効性を示し、2次治療以降の標準治療となっている。一方で、血球減少や悪心、またT-DXdを特徴付ける有害事象である薬剤性肺障害(ILD)など、長期間有効であるからこそ悩ましい有害事象の管理が必要である。

 DB-09試験は、HER2陽性進行/転移乳がんの初回治療として、T-DXd+ペルツズマブ(T-DXd+P)併用の有効性を検証した非盲検ランダム化第III相試験である。対照群は標準治療であるタキサン+トラスツズマブ+ペルツズマブ(THP)で、主要評価項目はBICRによるPFSであった。

 結果は、PFS中央値40.7ヵ月vs.26.9ヵ月(HR:0.56、95%CI:0.44~0.71、p<0.00001)とT-DXd+P群がTHP群に対して圧倒的に良好な結果となった。主治医判定のPFSではTHP群のPFSが若干悪く(20.7ヵ月、95%CI:17.3~23.5)、非盲検化試験であることによるバイアスの存在が疑われるものの、傾向としてはBICRと同様であった。また、奏効率(ORR)は85.1%vs.78.6%で、PRの割合は70%と両群間で差がないものの、CRは15.1%vs.8.5%とT-DXd+P群で良好であった。OSはimmatureなものの、HR:0.84(95%CI:0.59~1.19)とT-DXd+P群でやや良好な傾向がみられた。後治療としてTHP群ではT-DXdやT-DM1などの抗体薬物複合体(ADC)が用いられている割合が多かったが、T-DXd+P群では抗HER2抗体を含むレジメンが多かった。2次治療までのPFSであるPFS2もHR:0.60(95%CI:0.45~0.79、p=0.00038)と、T-DXd+Pで良好であった。Grade 3以上の毒性の頻度は両群間で差はなかったが、 ILDの発現頻度は12.1%vs.1.0%とT-DXd+P群で多いものの大多数はGrade 2までであり、大きな安全性の懸念はないと考えられた。

 実臨床で使う中で、THPは非常に有効な治療であることは臨床医全員が実感していることだと思う。DB-09試験の結果から、T-DXd+P療法はHER2陽性初回治療の新たな選択肢となる可能性が示された。一方で、いくつかの懸念点が残る。DB-09試験ではペルツズマブを併用しないT-DXd群が設定されていたが、その結果はまだ発表されていない。ペルツズマブを併用しないことで、有害事象が軽減する可能性がある。また、T-DXd±P群では毒性によるT-DXd中止後に、抗HER2抗体による維持療法が許容されていたが、実際に維持療法が行われた症例はわずか8.7%であった。一方で、THP群の約70%は毒性もしくは別の理由(タキサンは通常6~10コースの投与後に中止する)でタキサンが中止されている。THP群でタキサン中止後はHP(ほとんど有害事象が気にならない)による維持療法を実施するが、現在は皮下注製剤があり投与時間も大幅に短縮されている。したがって、T-DXd+Pの有効性は圧倒的であるものの、有害事象が継続し、さらに時間毒性という点ではTHPに軍配が上がると言わざるを得ない。有効な治療でありPFSが非常に長いからこそ、いかに患者負担を減らすことができるかが今後の課題となる。

ASCENT-04試験

 PD-L1陽性進行トリプルネガティブ乳がん(TNBC)は、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)併用化学療法により予後が改善したが(Cortes J, et al. N Engl J Med. 2022;387:217-226.Schmid P, N Engl J Med.2018;379:2108-2121.)、それでも十分ではない。また、TNBCに対してはサシツズマブ・ゴビテカン(SG)(Bardia A, et al. N Engl J Med.2021;384:1529-1541.)や、HER2低発現に対するT-DXd(Modi S, et al. N Engl J Med.2022;387:9-20.)など、ADCの導入により予後の改善が期待される。では、PD-L1陽性進行TNBCに対してADCとICIの併用は有用なのであろうか。

 ASCENT-04試験は、未治療のPD-L1陽性進行TNBCに対して、SG+ペムブロリズマブ(P)併用の有効性を検証した非盲検ランダム化第III相試験である。比較対照は化学療法+Pで、主要評価項目であるBICR評価によるPFSは、SG+P群で11.2ヵ月 vs.7.8ヵ月(HR:0.65、95%CI:0.51~0.84、p<0.001)と、SG+P群で有意に良好であった。主治医評価PFSも同様であった。OSはHR:0.89(95%CI:0.62~1.29)とSG+P群で良さそうな傾向はみられたものの、immatureで統計学的な差は認めなかった。ORRは60%vs.53%とSG+P群でやや良好な傾向がみられ、とくにCRが13%vs.8%とSG+P群で多かった。安全性については、Grade 3以上の下痢(10%vs.2%)がSG+P群で多かった以外に両群間に差はなく、好中球減少症(約65%)や過敏反応(約20%)など予測された毒性がみられたが、許容範囲内であった。本試験の結果をもって、SG+P療法はPD-L1陽性進行TNBCの初回治療における新たな標準療法となった。

CECILIA試験

 最後に日本から発表された試験を紹介する。タキサンによる末梢神経障害(CIPN)は対処の難しい有害事象であり、冷却や圧迫による予防が試みられている(Hanai A, et al. J Natl Cancer Inst. 2018;110:141-148.Tsuyuki S, et al.Breast. 2019;47:22-27.)。一方、冷却による苦痛で予防を継続できない患者も少なくない。CECILIA試験は、パクリタキセルによるCIPN予防のために四肢冷却装置を用いる際に、13℃と25℃の冷却温度における有効性を検証したランダム化比較試験である。パクリタキセルによる治療を受ける乳がん患者を対象に、13℃による冷却の25℃(最低限の予防効果が期待される冷却温度)に対する優越性を検証するデザインとなっている。主要評価項目はパクリタキセル終了時点でのPNQ(patient neurotoxicity questionnaire)スコアD以上の割合とされた。

 結果は、25℃群で29.3%(95%CI:19.4~21.0)、13℃群で33.3%(95%CI:22.8~45.2)、p=0.76と両群間の差は検出されなかった。他の評価項目であるパクリタキセル終了3ヵ月時点でのPNQスコアD以上は25℃で16.2%、13℃で32.0%(p=0.035)と25℃で少ない傾向を認めた。CTCAE、患者報告CTCAEによるGrade 2以上のCIPNは両群間に差がなかった。手足の表面温度は13℃群で低かった。これらから、CIPN予防として手足を冷却する際には25℃で十分な可能性があるが、あくまでも13℃の優越性を検証する試験で、優越性を示せなかったという結果であり、真の至適温度については今後も検討が必要である。


レポーター紹介

下村 昭彦 ( しもむら あきひこ ) 氏
国立健康危機管理研究機構 国立国際医療研究センター病院
 がん総合内科/乳腺・腫瘍内科

生存時間分析 その2【「実践的」臨床研究入門】第56回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

Cox比例ハザード回帰モデルの基本的な考え方 その2

 前回は、生存時間分析における基本的な概念である「ハザード」と「ハザード比」、また「比例ハザード性」の前提について説明しました。今回からは、筆者らが出版した実際の臨床研究論文1)のリサーチ・クエスチョン(RQ)に沿って、Cox比例ハザード回帰モデルの考え方を解説します。

 われわれは、以下のクリニカル・クエスチョン(CQ)とRQ(PECO)を立案しました。

・CQ:透析導入前腎専門医診療は透析導入後早期の予後を改善するか?
・P(対象):新規透析導入患者
・E(要因):透析導入前腎専門医診療あり
・C(対照):透析導入前腎専門医診療なし
・O(アウトカム):透析導入後早期(1年以内)の死亡

 このRQの背景を簡単に説明します。筆者は、初期研修以降「都市型」地域中核病院の腎臓内科に長らく勤務しておりました。そこでは腎臓/透析専門医が多く在籍し他科連携も良く、早期からの腎専門医診療は当たり前の環境で育ちました。米国留学直後、医局人事により地方型地域中核病院にいわゆる「ひとり医長」として赴任し、腎臓/透析専門医診療へのアクセス格差を実感しました。このような実体験に基づき、「透析導入前腎専門医診療は透析導入後早期の予後に影響するのでは?」というCQを着想したという訳です。

 それでは、透析導入前腎専門医診療を受けた群と受けなかった群の比較を考えたときに、透析導入後1年以内の早期死亡のハザード(瞬間的なイベント発生率)はどのような変数に影響されるかを考えてみます。まず、透析導入前腎専門医診療を受けたか否か、という変数です。次に考慮すべき変数は時間です。前回説明したとおり、ハザードは時々刻々と変化することが予想されるからです。実際、このRQで設定した透析導入後1年以内の早期死亡のハザードは、透析導入後半年以内という前半で高く、半年以降の後半は低くなることが先行研究で知られています。

そして、透析導入後1年以内の早期死亡のハザードは、透析導入前腎専門医診療の有無という変数と時間という変数の積(かけ算)モデルで規定できる、とします。この関連性を、以下の数式で表します。

ht,X)=h0t)×exp(b×X

 もし、透析導入前の腎専門医診療が「あり」ならX=1、「なし」ならX=0となります。それぞれの群の変化するハザードは、時間の効果である基準ハザード関数h0t)と、透析導入前腎専門医診療の効果であるexp(b×X)の積で決まるということです。データからbという回帰係数を推定することになりますが、これは統計解析ソフトが計算してくれます。

 この数式から、透析導入前腎専門医診療あり群のハザード、腎専門医診療なし群のハザードはそれぞれ以下に示したようになります。

透析導入前腎専門医診療あり群のハザード
ht,1)=h0t)×exp(b×1)=h0t)×exp(b

透析導入前腎専門医診療なし群のハザード
ht,0)=h0t)×exp(b×0)=h0t

よって透析導入前腎専門医診療あり群となし群のハザード比は
ht,1)/ht,0)=h0t)×exp(b)/h0t)=exp(b)

つまり、ハザード比はexp(b)となります。

 ところで、透析導入前腎専門医診療あり群となし群のハザードを示した数式をあらためて眺めてみると、どちらの式にもh0t)という時間の関数が含まれています。すなわち、いずれも時間の効果の影響を受けていることがわかります。しかし、ハザード比の数式では時間の関数h0t)が分子と分母で相殺されて消えているので、ハザード比は時間の効果の影響を受けていません。したがって、このハザード比の数式からも、ハザード比が時間によらず一定という比例ハザード性の前提が用いられていることがわかります。このように比例ハザード性の前提が用いられた回帰モデルのことを比例ハザードモデルと呼びますが、開発したCox博士の名前を冠して、Cox比例ハザードモデルやCox回帰モデルとも言います。

【 引用文献 】


講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和医科大学臨床疫学研究所 所長・教授
昭和医科大学大学院医学研究科 衛生学・公衆衛生学分野/腎臓内科学分野 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学(現昭和医科大学)医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


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5. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その2

4. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その1

3. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビューその2

2. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー その1

1. 臨床上の疑問とリサーチ・クエスチョン

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生存時間分析 その1【「実践的」臨床研究入門】第55回

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本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

Cox比例ハザード回帰モデルの基本的な考え方

 今回からは、生存時間分析における多変量解析について解説します。

 われわれのResearch Question(RQ)のプライマリアウトカムは末期腎不全であり、そのアウトカム指標は末期腎不全の発生率です(連載第40回参照)。仮想データ・セットを使ってExcel関数で末期腎不全の発生率を計算する方法を示しました(第41回参照)。ここで用いた仮想データ・セットには「打ち切り」(連載第37回参照)のデータも含まれています。この「打ち切り」という事象も考慮し、Kaplan-Meier法を用いた生存時間曲線を描き、さらに厳格低たんぱく食遵守群と非遵守群の2群でLog-rank検定を用いて比較するまでのEZR(Eazy R)の操作手順についても解説しました(連載第42回第43回第44回参照)。

 発生率やKaplan-Meier曲線は生存時間に関する記述統計です(連載第50回参照)。この項では、アウトカム指標(目的変数)の型が生存時間である場合に適応される多変量解析手法、「Cox比例ハザード回帰モデル」(連載第49回第50回参照)の基本的な考え方とその実際について述べていきます。まず初めに、生存時間分析において使用される「ハザード」と「ハザード比」、さらに「比例ハザード性」といった生物統計学の重要な概念について説明します。

ハザードとハザード比

 ハザードとは、「ある瞬間におけるイベント発生のリスク」のことであり、「瞬間的なイベント発生率」と言い換えることもできます。

 ハザードは時間とともに変化する(時間依存的)ことがあります。

例:透析導入直後は死亡のリスクが高く(ハザードが高い)、透析導入後ある程度時間が経過するにつれて安定しリスクが下がる(ハザードが低い)が、加齢に伴いリスクが再上昇する(ハザードが高い)、など。

 ハザード比(Hazard ratio:HR)は2つの比較群におけるハザードの比です。HRは、一方の群が他方の群と比較して、どの程度イベント発生のリスクが高いかを相対的に示しています。HRは単に「イベントが発生したかどうか」だけでなく、「いつイベントが発生したか」という「時間」の要素を考慮したリスク指標です。それゆえ、HRは時間経過が重要な生存時間分析において、治療効果やリスク要因の影響を評価する際によく使われ、主に「Cox比例ハザード回帰モデル」を用いて推定されます。

比例ハザード性

 HRを解釈するうえでの重要な前提条件の1つに「比例ハザード性」があります。「比例ハザード性」とは、異なる群間におけるハザードの比が時間によらず一定である、という仮定です。前述したように、ハザード(瞬間的なイベント発生率)自体は観察期間中に経時的に変化し得るものの、HRは観察期間を通じて一定である、ということです。生存時間分析において、「Cox比例ハザード回帰モデル」はこの「比例ハザード性」の仮定のもとにHRを推定します。

 Kaplan-Meier曲線は生存時間分析において、イベントが発生するまでの時間(生存時間)の分布を視覚的に表現するグラフでした(連載第42回参照)。主に、異なる群間の生存率(イベント非発生率)の時間経過に伴う変化を比較する際に用いられます(連載第43回第44回参照)。

 Kaplan-Meier曲線は「比例ハザード性」の仮定を視覚的に評価する簡便な手段でもあります。それでは、以前に仮想データ・セットからEZRで描画したKaplan-Meier曲線を確認してみましょう(連載第43回第44回参照)。

 この図のように、2つのKaplan-Meier曲線がおおむね平行に推移し、観察期間の途中で交差したり、曲線間の距離が大きく変化したりしていない場合は、「比例ハザード性」の仮定が成立している可能性が高いとされます。したがって、われわれのRQの生存時間分析の多変量解析手法として、「Cox比例ハザード回帰モデル」を適用することは妥当と考えられます。


講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和医科大学臨床疫学研究所 所長・教授
昭和医科大学大学院医学研究科 衛生学・公衆衛生学分野/腎臓内科学分野 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学(現昭和医科大学)医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


バックナンバー

56. 生存時間分析 その2

55. 生存時間分析 その1

54. 線形回帰(重回帰)分析 その5

53. 線形回帰(重回帰)分析 その4

52. 線形回帰(重回帰)分析 その3

51. 線形回帰(重回帰)分析 その2

50. 線形回帰(重回帰)分析 その1

49. いよいよ多変量解析 その2

48. いよいよ多変量解析 その1

47. 何はさておき記述統計 その8

46. 何はさておき記述統計 その7

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39. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その2

38. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その1

37. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その2

36. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その1

35. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その2

34. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その1

33. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その8

32. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その7

31. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その6

30. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その5

29. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その4

28. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その3

27. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その2

26. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その1

25. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その5

24. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その4

23. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その3

22. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その2

21. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その1

20. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その3

19. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その2

18. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その1

17. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その3

16.リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その2

15. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その1

14. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その3

13. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その2

12. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用その1

11. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その2

10. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その1

9. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その3

8. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その2

7. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その1

6. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その3

5. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その2

4. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その1

3. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビューその2

2. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー その1

1. 臨床上の疑問とリサーチ・クエスチョン

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ASCO2025 FLASH 乳がん

|企画・制作|ケアネット

2025年5月30日~6月3日(現地時間)に開催の世界最大のがん学会、米国臨床腫瘍学会(ASCO 2025)。ここで発表された旬な乳がんのトピックを、がん研有明病院の尾崎 由記範氏がレビューします。


レポーター紹介

尾崎 由記範 ( おざき ゆきのり ) 氏
がん研究会有明病院 乳腺センター 乳腺内科/先端医療開発科


掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。
(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

線形回帰(重回帰)分析 その5【「実践的」臨床研究入門】第54回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

重回帰分析の前提条件・留意点の検証と結果の記述

 前回は、重回帰分析におけるEZR(Eazy R)の操作手順と解析結果の解釈について仮想データ・セットを用いて説明しました。今回は、EZRを用いた重回帰分析の前提条件および留意点の検証方法を解説し、解析結果のまとめを示します。

重回帰分析モデルの前提条件と留意点

 重回帰分析モデルには下記のようないくつかの前提条件(連載第52回参照)や留意点があります。

前提条件
・線形性:目的変数と説明変数に線形性(直線的な関係)があること。
 ⇒残差-予測値プロットで確認します。
・残差の正規性:残差(予測値と実測値の差)が正規分布に従うこと。
 ⇒Q-Qプロットで確認します。

留意点
・多重共線性:説明変数同士が強く相関していること。多重共線性があると、回帰係数の推定が不安定になる。
 ⇒VIF(Variance Inflation Factor)の値で確認します。

 それでは、実際にEZRの下記の操作手順でこれらの前提条件や留意点を検証してみましょう(連載第53回参照)。

仮想データ・セットの取り込み

 仮想データ・セットをダウンロードする

※ダウンロードできない場合は、右クリックして「名前をつけてリンク先を保存」を選択してください。

・「ファイル」→「データのインポート」→「Excelのデータをインポート」

重回帰分析の実行

・「統計解析」→「連続変数の解析」→「線形回帰(単回帰、重回帰)」の順でメニューバーを選択。
・ポップアップウィンドウにて、下図のように目的変数および説明変数を指定し、モデル名(例:「重回帰分析_GFR変化量」)を入力。
・オプションで「基本的診断プロットを表示する」にチェックを入れ、「OK」をクリック。

基本的診断プロットによる前提条件の確認

 「基本的診断プロットを表示する」をチェックすると、4つのプロット(グラフ)が表示されます。ここでは、下記の2つのプロットの出力結果を解説します。

・残差-予測値プロット(Residuals vs.Fitted)

 y軸が残差(実測値-予測値)、x軸が重回帰分析モデルの予測値。残差が0を中心に特定のパターンを持たず、おおむねランダムに分布し、赤い平滑曲線が水平に近ければ、線形性が保たれていると考えられます。

・Q-Qプロット(Q-Q Residuals)

 残差が正規分布に従っていれば、プロット上の点は y=x の直線上にほぼ沿って並びます。

重回帰分析結果で重回帰分析モデルの前提条件を確認

 EZRの出力ウィンドウには各説明変数のVIFが表示されます(下図)。

・VIF

 いずれの説明変数のVIFも5未満(多重共線性がほとんどない)であることが確認できます。

 以上の検証から、この重回帰分析モデルの前提条件(線形性と残差の正規性)は満たしており、多重共線性の問題もほとんどないと考えられました。

 ここであらためて、GFR変化量(diff_eGFR5)を厳格低たんぱく食の遵守の有無(treat)で層別し、要約してみましょう(下図参照)。

・「統計解析」→「連続変数の解析」→「連続変数の要約」の順でメニューバーを選択。
・開いたポップアップウィンドウの変数(1つ以上選択)は「diff_eGFR5」を指定。
・さらに、層別変数のボタンをクリックし、ポップアップウィンドウの層別変数(1つ選択)で「treat」を指定。
・「OK」をクリックすると、EZRの出力ウィンドウに下に示した解析結果が表示されます。

 それでは、前回の重回帰分析結果の解釈も併せて、解析結果の記述を下記のようにまとめてみました。

・GFR変化量の推定平均値(SD)は、厳格低たんぱく食遵守群と非遵守群で、それぞれ-12.5(4.41)、-16.1(4.49)mL/分/1.73m2であった。
・重回帰分析結果から、GFR変化量には遵守群と非遵守群間で2.03(95%CI:1.61〜2.45)mL/分/1.73m2の差が認められた(連載第53回参照)。
※SD:Standard deviation(標準偏差)、95%CI:95% confidence interval(95%信頼区間)


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長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和医科大学臨床疫学研究所 所長・教授
昭和医科大学大学院医学研究科 衛生学・公衆衛生学分野/腎臓内科学分野 兼担教授
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[略歴]
1996年昭和大学(現昭和医科大学)医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
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海外研修留学便り【米国留学記(矢崎 秀氏)】第4回

[レポーター紹介]
矢崎 秀(やざき しゅう)

2012年  3月 日本大学医学部 卒業
2012年  4月    聖路加国際病院 初期研修医
2014年  4月    聖路加国際病院 内科専門研修医
2015年  4月    聖路加国際病院 内科チーフレジデント
2016年  4月    聖路加国際病院 腫瘍内科フェロー                
2019年  4月    国立がん研究センター中央病院 腫瘍内科・先端医療科 がん専門修練医
2021年  4月    国立がん研究センター中央病院 国際開発部門・腫瘍内科 研究員
2023年  6月    Memorial Sloan Kettering Cancer Center,
                       Department of Radiation Oncology, Research Fellow

 こちらでは3月初旬にサマータイムに切り替わり、長い冬が明けました。ニューヨークでは桜も満開を迎え、春の到来を感じています。日本でも、いよいよ新年度の始まりですね。

 このコラムも最終回になりますが、最後に留学後のキャリアについて考えてみたいと思います。

留学後のキャリア、どうやって選択していくか

 留学後のキャリアは、大きく分けて「日本に戻るか海外に残るか」「アカデミアに残るかインダストリーに進むか」という軸で語られることが多いように思います。日本に帰国してアカデミアに就職する方が多い印象ですが、製薬企業などインダストリーに進む方も一定数います。また、帰国せず海外で就職活動を行う方もいます。

 海外での就職はアカデミア・インダストリーを問わず、ポスドク採用よりもさらにハードルが高いのが現実ですが、現地にいるからこそ挑戦できるチャンスでもあります。とくにアメリカでの就職を目指す場合は、永住権がないと不利になることもあるため、早めの準備が必要となるそうです。

 自身のキャリアを振り返ると、初期研修、専門研修、博士課程と、あまり悩むことなく一気に駆け抜けてきました。ポスドク採用のインタビューでも留学後のキャリアについて聞かれるため、漠然とした目標を描いていましたが、留学生活も2年近くが経過し、いよいよ本格的に考える時期にさしかかっています。これまでは(ほぼ)自分のことだけを考えてキャリアを選択してきましたが、年齢を重ね、子供も成長し、家族との時間もより大切にしたい、という思いが強くなってきました。

 さらに、留学期間が長くなるほど、日本で医師研究者としての生活に戻れるかという不安も大きくなります。研究成果を患者さんに直接還元できるアカデミアに魅力を感じる一方、現在は研究に専念しているからこそ、日々の臨床業務や夜間休日の当番をこなしながら研究を継続することの難しさも実感しています。「自分のコアバリューは何か」「残りの人生をかけて何を成し遂げたいのか」といった問いに改めて向き合い、後悔のないキャリアを歩んでいきたいと思います。

New York MetsのホームスタジアムのCiti Field。
野球観戦にはまっています。

留学を考えている先生方へのメッセージ

 海外留学は間違いなく人生を豊かにしてくれます。もちろん、日本にいても素晴らしい研究を行うことはできますし、キャリアの連続性も保てます。今は円安、インフレなど経済的負担も大きく、日本の常識が通じないことも多くありますが、新しい土地で世界中から集まった仲間と共に研究に打ち込む経験は非常に刺激的です。また、家族や友人との海外での思い出は何ものにも代えがたく、日本の良さを再認識する機会にもなります。もし今、迷っている方がいらっしゃいましたら、ぜひ挑戦してみてください。

NYではミュージカル鑑賞も外せません。
ダイカーハイツのクリスマスイルミネーション。
個人宅というのが驚き。

 


バックナンバー

4 海外研修留学便り【米国留学記(矢崎 秀氏)】第4回

3 海外研修留学便り【米国留学記(矢崎 秀氏)】第3回

2 海外研修留学便り【米国留学記(矢崎 秀氏)】第2回

1 海外研修留学便り【米国留学記(矢崎 秀氏)】第1回

線形回帰(重回帰)分析 その4【「実践的」臨床研究入門】第53回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

重回帰分析の実際

 前回は重回帰分析の考え方を説明しました。今回は実際に仮想データ・セットを用いて、EZR(Eazy R)を使用した重回帰分析の操作手順と結果の解釈について解説します。

仮想データ・セットの取り込み

 仮想データ・セットをダウンロードする

※ダウンロードできない場合は、右クリックして「名前をつけてリンク先を保存」を選択してください。

 まずは以下の手順で仮想データ・セットをEZRに取り込みましょう。

・「ファイル」→「データのインポート」→「Excelのデータをインポート」

重回帰分析の実行

 次に

・「統計解析」→「連続変数の解析」→「線形回帰(単回帰、重回帰)」

 の順にメニューバーを選択すると、ポップアップウィンドウが開きます(下図)。

・モデル名:「重回帰分析_GFR変化量」などと入力します。
・目的変数(1つ選択):「diff_eGFR5」を選択します。

※「diff_eGFR5」は、われわれのResearch Question(RQ)のセカンダリアウトカム(O)に設定されている、ベースラインから5年後の糸球体濾過量(GFR)変化量(低下速度)(連載第49回参照)。

・説明変数(1つ以上選択):以下の複数の変数を選択します(連載第46回第48回第49回第52回参照)。

※複数の変数を選択するには、キーボードの「Ctrl」キーを押しながらクリックします。

・検証したい要因(E):treat(厳格低たんぱく食の遵守の有無)
・交絡因子:age (年齢)、sex(性別)、dm(糖尿病の有無)、sbp(血圧)、eGFR(ベースラインeGFR)、Loge_UP(蛋白尿定量_対数変換)、albumin(血清アルブミン値)、hemoglobin(ヘモグロビン値)

重回帰分析結果の確認

 「OK」をクリックすると、EZRの出力ウィンドウに下に示したコードが表示されます。

・lm(diff_eGFR5~age+albumin+dm+eGFR+hemoglobin+Loge_UP+sbp+sex+treat, da-ta=Dataset)

 このコードの意味は下記のとおりです(連載第52回参照)。

・lm:線形回帰モデル(Linear Model)関数を用いて重回帰分析を実行。
・diff_eGFR5~age+albumin+dm+eGFR+hemoglobin+Loge_UP+sbp+sex+treat:
・左辺の目的変数(diff_eGFR5)を右辺の説明変数(複数の交絡因子+E)で予測する重回帰モデルの「式」を指定。
・data=Dataset:解析に使用するデータ・セット名(Dataset)。

 重回帰分析の主要な結果である、回帰係数とその統計量は下図のように表示されます。

 ここでは、検証したい要因(E)であるtreat(厳格低たんぱく食の遵守の有無)の解析結果に注目します。

・回帰係数推定値:2.03(以下、数値はすべて有効数字3桁で丸めています)。
・95%信頼区間(95% confidence interval:95%CI):1.61~2.45
・P値:2.99e-20=2.99×10-20(連載第51回参照)
※p値は通常、小数点以下3桁までの記載が推奨されます。非常に小さな値の場合、「p<0.001」と上限を示す形で表記するのが一般的です(連載第51回参照)。

重回帰分析結果の解釈

 この結果の解釈は以下の通りです。

・厳格低たんぱく食遵守群(treat=1)は非遵守群(treat=0)と比較して、「diff_eGFR5」が統計学的有意(p<0.001)に2.03mL/分/1.73m2高い。

 したがって、

・厳格な低たんぱく食の遵守は、種々の交絡因子を調整したうえでもGFR低下速度を抑制する可能性を示唆する。

 という解釈になります。


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長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和医科大学臨床疫学研究所 所長・教授
昭和医科大学大学院医学研究科 衛生学・公衆衛生学分野/腎臓内科学分野 兼担教授
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1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
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26. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その1

25. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その5

24. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その4

23. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その3

22. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その2

21. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その1

20. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その3

19. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その2

18. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その1

17. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その3

16.リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その2

15. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その1

14. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その3

13. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その2

12. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用その1

11. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その2

10. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その1

9. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その3

8. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その2

7. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その1

6. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その3

5. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その2

4. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その1

3. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビューその2

2. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー その1

1. 臨床上の疑問とリサーチ・クエスチョン

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線形回帰(重回帰)分析 その3【「実践的」臨床研究入門】第52回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

重回帰分析の考え方

 前回解説したのは、線形回帰のうち、1つの目的変数に対して1つの説明変数を用いる「単回帰」分析でした。今回からは、複数の説明変数を扱うことができる「重回帰分析」について説明します。

 重回帰式は、ある目的変数が複数の説明変数によってどのように影響されているかを数式で示したものです。重回帰式は下記のような数式で示され、目的変数yが切片aと複数の説明変数xiのそれぞれの回帰係数biの項の総和と残差eで表されます(連載第51回参照)。

・y=a+b1x1+b2x2+…+bixi+e

 「重回帰分析」の目的変数は連続変数に限定されますが(連載第49回参照)、説明変数は連続変数以外のカテゴリ変数、たとえば2値変数も適用可能です。

 ここで、残差eについて簡単に説明します。上記の重回帰式をeを左辺にして変形すると、以下のようになります。

・e=y-(a+b1x1+b2x2+…+bixi)

 残差eとは上記の式のとおり、実際に観察された目的変数yと重回帰モデルで予測された値(a+b1x1+b2x2+…+bixi)の差分として定義されます。残差が小さいほど重回帰モデルのデータへの適合度が高いことを示しています。また、「残差の正規性(残差が正規分布していること)」が「重回帰分析」の前提条件になります。

 それでは、われわれのResearch Question(RQ)を重回帰式に当てはめて考えてみましょう(連載第49回参照)。

 ここでは、「低たんぱく食の遵守」が、連続変数である糸球体濾過量(GFR)の低下速度に影響を与えているかどうかを検証します。検証したい要因(E)である「低たんぱく食の遵守」と、アウトカム(O)である「GFR低下速度」の関連を歪める可能性のある交絡因子として、以下の要因を挙げ、重回帰分析による調整を試みます。

・年齢、性別、糖尿病の有無、血圧、ベースラインeGFR、蛋白尿定量、血清アルブミン値、ヘモグロビン値

 Oである「GFR低下速度」を重回帰式によって表すと、下記のようになります。

・「GFR低下速度」=a+b1「低たんぱく食の遵守」+b2「年齢」+b3「性別」+b4「糖尿病の有無」+b5「血圧」+b6「ベースラインeGFR」+b7「蛋白尿定量」+b8「血清アルブミン値」+b9「ヘモグロビン値」+e

 すなわち、目的変数yである「GFR低下速度」は、切片aと主たる要因である「低たんぱく食の遵守」と以下の交絡因子(「年齢」、「性別」、「糖尿病の有無」、「血圧」、「ベースラインeGFR」、「蛋白尿定量」、「血清アルブミン値」、「ヘモグロビン値」)とそれぞれの回帰係数の項と残差eの総和で表されます。

 ここで必要な仮定が「重回帰分析」における線形性の前提です。重回帰モデルでは、上述の式で表したように説明変数と目的変数の間に直線的な関係があると仮定します。つまり、説明変数が 1 単位変化すると、目的変数が常に一定の割合で増減するということです。この線形性の前提は、前述の「残差の正規性」を確認することで検証できます。

 「重回帰分析」を用いた多変量解析結果の解釈について、われわれの RQ を適用した重回帰式を用いて具体的に説明します。O である「GFR低下速度」が、検証したい E である「低たんぱく食の遵守」のあり・なしでどの程度違うのかを考えてみます。

 「低たんぱく食の遵守」あり、の場合は下記の式で示したとおり、その回帰係数b1の項は残ります。

・「GFR低下速度」=a+b1「低たんぱく食の遵守の程度(あり=1)」+b2「年齢」+b3「性別」+b4「糖尿病の有無」+b5「血圧」+b6「ベースラインeGFR」+b7「蛋白尿定量」+b8「血清アルブミン値」+b9「ヘモグロビン値」+e

 一方、「低たんぱく食の遵守」なし、の場合は下記の式で示したように、その回帰係数b1はゼロとの積になるため、項は消えます。

・「GFR低下速度」=a+b1「低たんぱく食の遵守の程度(なし=0)」+b2「年齢」+b3「性別」+b4「糖尿病の有無」+b5「血圧」+b6「ベースラインeGFR」+b7「蛋白尿定量」+b8「血清アルブミン値」+b9「ヘモグロビン値」+e

 多変量解析を行うことにより、その他の交絡因子の影響はすべて一定に保ったうえで(他の説明変数の影響を除外して)分析ができます。したがって、他の交絡因子を調整したうえでの、「低たんぱく食の遵守」あり(なし、と比較して1単位増加)の場合の、「GFR低下速度」に与える影響は、回帰係数b1で表されるのです。


講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学臨床疫学研究所 所長・教授
昭和大学大学院医学研究科 衛生学・公衆衛生学分野/腎臓内科学分野 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


バックナンバー

56. 生存時間分析 その2

55. 生存時間分析 その1

54. 線形回帰(重回帰)分析 その5

53. 線形回帰(重回帰)分析 その4

52. 線形回帰(重回帰)分析 その3

51. 線形回帰(重回帰)分析 その2

50. 線形回帰(重回帰)分析 その1

49. いよいよ多変量解析 その2

48. いよいよ多変量解析 その1

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40. 何はさておき記述統計 その1

39. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その2

38. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その1

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31. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その6

30. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その5

29. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その4

28. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その3

27. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その2

26. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その1

25. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その5

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線形回帰(重回帰)分析 その2【「実践的」臨床研究入門】第51回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

直線回帰

 一方の連続変数x(説明変数)が大きくなると、他方の連続変数y(目的変数)が直線的に増加する、もしくは減少するような関係を直線回帰(linear regression)といいます。すなわち、説明変数xと目的変数yの関係がy=a+bx の式で表されます。これは中学校の数学で勉強する1次方程式です。bは回帰直線の傾き(回帰係数)で、xの値が1増加すると、yがどの程度増加するかを表しています。aは切片でxが0の時のyの値であり、回帰直線がy軸と交差する点のyの値に相当します。この式を用いてデータに最もよく合う1次方程式を求める、言い換えると、最も適当なa、bの値を決める、ということを考えます。

 前回、「2つの連続変数間の直線的な関係」を表す散布図を描き、最小二乗法を用いた回帰直線を描く手順を示しました(連載第50回参照)。今回は、前回描いた回帰直線の切片aと回帰係数bの求め方と結果の解釈について解説します。

 まず、以下の手順で仮想データ・セットをEZR(Eazy R)に取り込みます。

 仮想データ・セットをダウンロードする

※ダウンロードできない場合は、右クリックして「名前をつけてリンク先を保存」を選択してください。

・「ファイル」→「データのインポート」→「Excelのデータをインポート」

 次に

・「統計解析」→「連続変数の解析」→「線形回帰(単回帰、重回帰)」

 を選択、ポップアップウィンドウ(下図)のとおり、目的変数は「diff_eGFR5」を、説明変数は「age」を指定します。

※「diff_eGFR5」は、われわれのResearch Question(RQ)のセカンダリO(アウトカム)に設定されている、ベースラインから5年後の糸球体濾過量(GFR)変化量

 「OK」をクリックすると。EZRの出力ウィンドウに下図の結果が表示されます。

 “Intercept”は切片であり、y=a+bxにおける“a”の値です。“Intercept”の推定値は-12.6(以下、可読性を高めるために数値はすべて有効数字3桁で丸めます)とありますが、これは説明変数xが0の場合の目的変数yの推定値です。

 説明変数「age」の目的変数「diff_eGFR5」に対する回帰係数推定値は-0.038と表されています。これは説明変数「age」が1単位(1歳)増加した時の目的変数「diff_eGFR5」の変化量を示しており、回帰係数が負の値であるので、説明変数と目的変数は負の相関関係にあることを意味します。

 95%信頼区間(95%confidence interval:95%CI)の上限〜下限は-0.007〜-0.069で0をまたいでいません。またp値は1.57e-02と表記されています。この表記法は科学的記数法と呼ばれるもので、”e-02″は10の-2乗(0.01)を表しており、1.57×0.01=0.0157となり有意水準0.05を下回っています。ここのp値は回帰係数が0であるという帰無仮説が棄却される確率です(連載第44回参照)。p値が0.05未満であるので、説明変数「age」は目的変数「diff_eGFR5」に対して統計学的に有意な影響を与えていると判断されます。

 結果の解釈をまとめると下記のようになります。

・切片:-12.6⇒年齢が0の場合のベースラインから5年後の糸球体濾過量(GFR)変化量「diff_eGFR5」の推定値です。
・回帰係数:-0.038⇒年齢が1歳増加すると、「diff_eGFR5」は-0.038減少すると推定されます(p<0.05)。


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長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学臨床疫学研究所 所長・教授
昭和大学大学院医学研究科 衛生学・公衆衛生学分野/腎臓内科学分野 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

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1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
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30. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その5

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海外研修留学便り【米国留学記(矢崎 秀氏)】第3回

[レポーター紹介]
矢崎 秀(やざき しゅう)

2012年  3月 日本大学医学部 卒業
2012年  4月    聖路加国際病院 初期研修医
2014年  4月    聖路加国際病院 内科専門研修医
2015年  4月    聖路加国際病院 内科チーフレジデント
2016年  4月    聖路加国際病院 腫瘍内科フェロー                
2019年  4月    国立がん研究センター中央病院 腫瘍内科・先端医療科 がん専門修練医
2021年  4月    国立がん研究センター中央病院 国際開発部門・腫瘍内科 研究員
2023年  6月    Memorial Sloan Kettering Cancer Center,
                       Department of Radiation Oncology, Research Fellow

Memorial Sloan Kettering Cancer Center(MSKCC)の研究環境

 海外研究留学の目的の1つとして、有名誌に掲載されるような論文を発表することが挙げられます。私が所属するMSKCCからも日々多くの論文が有名誌に公表されています。では、MSKCCの研究環境の強みはどのような点にあるのでしょうか?

 世界中から集まる優秀な研究者(ポスドク)の能力、質が高く豊富な臨床検体、潤沢な研究費、最先端の技術といったさまざまな要因が考えられますが、MSKCCには施設としての強みが2つあると感じています。

 まずは、臨床ゲノム情報が統合されたデータベースの存在です。MSKCC開発のがん遺伝子パネル検査であるMSK-IMPACTのシークエンスデータと臨床病理情報が統合されており、これらは仮説の設定や得られた結果のバリデーションに力を発揮します。最近では、カルテ記載や病理、放射線レポートといった非構造化テキストから情報を自動抽出することで、より詳細なデータを効率的に活用できるようになっています。

 次に、コアファシリティ部門の充実です。フローサイトメトリーや次世代シークエンスを行うコア部門に加え、シングルセル解析や空間トランスクリプトーム解析を行う部門まであります。これらの解析は専用サイトからオーダーが可能で、専門家が確立したプロトコールで高品質の実験や解析を実施してくれます。コア部門に依頼することで、人的資源や時間の節約となり、効率的にさまざまな解析を行うことができます。

最近のポスドク事情

メトロポリタン美術館もニューヨーク市民はPay for wish(1ドル〜)入館できます。

 次に、ポスドクの研究生活についてお話したいと思います。私自身、こちらでは臨床業務がないため肉体的な負担は軽減されました。職場ではオンオフがはっきりしており、業務時間は研究に集中し、それ以外の時間は自分の趣味や家族との時間を楽しむことができます。

 しかし、金銭面では厳しい状況があります。コロナ禍以降、米国ではインフレが進行し物価が高騰しています。とくにニューヨークは家賃を含めた生活費が全米でもトップクラスに高く、NIH基準のサラリーでの生活は厳しいものがあります(とくに家族連れの場合はなおさらです)。

 

 2023年12月には、近隣のマウントサイナイ医科大学のポスドクが給与や福利厚生の見直しを求めてストライキを行いました。この動きはMSKCCを含む近隣の研究施設にも波及し、ポスドクの待遇改善に向けた取り組みが進められています。

ブライアントパークのスケートリンクも無料で楽しめます。

 それでも、海外のトップ施設で世界中の研究者と切磋琢磨しながら研究生活を送ることは非常に貴重な経験です。この環境で得られるスキルや経験は、今後のキャリアを発展させるうえで大きな糧となると信じ日々努力しています。幸いニューヨークには多くの日本人研究者や駐在員の方々がおり、皆で助け合い、励まし合いながら、楽しく生活しています。また、ニューヨークはスポーツやアートなどのエンタメも充実しており、市民は無料で楽しめるものも多く、研究以外の時間も充実しています。

 


バックナンバー

4 海外研修留学便り【米国留学記(矢崎 秀氏)】第4回

3 海外研修留学便り【米国留学記(矢崎 秀氏)】第3回

2 海外研修留学便り【米国留学記(矢崎 秀氏)】第2回

1 海外研修留学便り【米国留学記(矢崎 秀氏)】第1回