
[レポーター紹介]
家里 明日美(いえさと あすみ)

2008年3月 信州大学医学部医学科 卒業
2008年4月~2018年3月 信州大学医学部附属病院 初期研修医~乳腺内分泌外科 医員
2017年9月 信州大学医学部医学科博士課程大学院 卒業
2018年4月~2021年10月 Harvard Medical School, Beth Israel Deaconess Medical Center, postdoctoral fellow
2020年5月~現在 一般社団法人BC TUBE 理事
2021年11月-2022年12月 がん研有明病院 乳腺外科 医員
2023年1月-現在 がん研究会 NEXT-Gankenプログラム クリニカルリサーチフェロー
第3回では、留学先での研究内容と研究環境についてお話しします。私の留学先での研究は甲状腺がんが中心でしたが、腫瘍微小環境や血管生物学の視点は、現在取り組んでいる乳がん研究にも大きくつながっています。
留学先では、複数の研究テーマを並行して担当
第1回でも書きましたとおり、私は大学院で甲状腺未分化がんを研究していたため、留学先も甲状腺がん、あるいはがん種を問わず難治がんの研究ができるラボを探しました。最終的に、Beth Israel Deaconess Medical Center(BIDMC)のCarmelo Nucera先生のラボに留学することになりました。
Carmeloラボは、ボス、ポスドク1~2名、学生数名からなる比較的小規模なラボでした。高悪性度甲状腺がんについて複数の研究テーマを並行して進めていました。メンバーが個別のテーマだけを担当するのではなく、全員が複数のテーマに関わる形式でした。限られた留学期間の中で、多くの手技や研究の考え方を学ぶことができ、私にとって非常にありがたい環境でした。
私の主なテーマはnon-coding RNAでしたが、同時に、臨床的な疑問をもとにした研究テーマも考えるように言われました。そこで取り組んだのが、「マルチキナーゼ阻害薬(multi TKI)がなぜ甲状腺がんに有効なのか」というテーマでした。甲状腺がんの過半数でBRAFV600E変異が認められ、MAPK経路が恒常的に活性化しています。理論的には、MAPK経路の上流にある受容体型チロシンキナーゼをmulti TKIで阻害しても、腫瘍細胞内シグナルを直接抑える効果は限定的であるはずです。しかしmulti TKIはBRAFV600E変異の有無にかかわらず高い有効性を示します。この機序を考えるうえで、腫瘍微小環境に注目するようになりました。
血管生物学のの拠点で学んだこと

CVBR(写真右)はFenway Park(写真左)の向かいにあり、Longwood Medical Areaとは少し異なる雰囲気の中にありました。
Carmeloラボは、BIDMCの中のCenter for Vascular Biology Research(CVBR)という施設の中にありました。CVBRの創設者は、VEGFを発見されたHarold Dvorak先生です。留学当時もDvorak先生はご健在で、研究への助言をくださったり、ユーモアのある講演をされたりしていました。また、2代目の施設長であるJack Lawler先生はThrombospondin-1(TSP1)を発見された先生で、Carmelo先生のメンターでもありました。
このような環境の中で、私は血管構成因子でありかつTSP1を産生するペリサイトに注目して研究を進めることになりました。今振り返ると、自分の興味のあるテーマに加えて、ボスの興味、施設の環境や共同研究者とのつながりが合わさって、研究テーマが形作られていったように思います。
研究環境の日米差

Fenway Parkでの野球観戦。BIDMCはBoston Red Soxのスポンサーで、職員は当日券であれば5ドルでナイターを観戦することができました。
ボストンで強く感じたのは、共同研究の距離の近さとスピード感です。必要な技術や知識を持つ研究者が近くにおり、相談から共同研究につながるまでが非常に早いと感じました。一方で、共同研究先にお願いできる環境に甘えて、自分で勉強しなかった部分もあり、帰国後に学び直すことになりました。恵まれた環境だからこそ、自分で理解する、できるようになる姿勢が重要だと感じました。
CVBRには、肝移植、腎血管、整形外科、泌尿器、卵巣がん、甲状腺がんなど、多様な分野のラボが所属していました。「Vascular Biology」という共通項でさまざまな研究者が集まっており、物品の貸し借りや日常的な相談もしやすい、和気あいあいとした雰囲気でした。毎週金曜日にはCVBR全体の集まりがあり、分野の違う研究に触れる機会も多くありました。
Carmelo先生は非常におしゃべりなイタリア人で、毎朝ラボに来ると、しばらく研究雑談の時間が始まりました。当時は、朝のうちに済ませたい実験が進まず、もどかしく感じることもありましたが、今振り返ると、毎日のように実験結果や疑問を話し、研究の方向性や進路について相談できたことは、とても貴重でした。その時間があったからこそ、基礎研究を続けていこうと考えるようになり、現在の研究にもつながっていると思います。
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