海外研修留学便り 【米国留学記(大場 崇旦氏)】第2回

[ レポーター紹介 ]
大場  崇旦(おおば たかあき )

2009年3月 信州大学医学部医学科卒業
2009年4月 JA長野厚生連長野松代総合病院初期臨床研修
2011年4月 信州大学医学部外科学教室医員
2013年4月 信州大学医学部外科学教室乳腺内分泌外科学分野医員
2017年3月 信州大学大学院医学系研究科修了 博士号(医学)取得
2018年8月 Roswell Park Comprehensive Cancer Center, Center for immunotherapy, Postdoctoral fellow
2020年8月 信州大学医学部外科学教室乳腺内分泌外科学分野診療助教

 外科医としてキャリアをスタート後、米国Roswell Park Comprehensive Cancer Centerに基礎研究留学され、現在は帰国して信州大学外科学教室で乳腺内分泌外科学分野の診療助教として勤務する大場 崇旦氏に、日米の研究環境の違い、帰国後のキャリアプランニングなどについてレポートいただきます。第2回では留学直後、学生時代は避けがちだったという免疫学に英語で真っ向から向き合った苦労や、実際の研究内容についてお伺いしました。

 

がん免疫研究に特化したラボで研究生活スタート、最初の関門となったのは…

 留学先のlabであるRoswell Park Conmprehensive Cancer Center, Center for immunotherapyはその名の通り、がん免疫の研究に特化した研究室でした。免疫チェックポイント阻害薬の登場以降、がん治療をrevolutionizeしたがん免疫療法は米国でもhot topicとなり、悪性黒色腫や肺がんといった免疫療法が効きやすいがん腫に対する研究はものすごい勢いで進み、多くの知見が得られていますが、留学した当時の2018年は、乳がんや膵がんといった免疫療法抵抗性のいわゆる“cold tumor”に対する研究がまさにがん免疫研究のhot topicとなっているように感じました。

 しかし、ここにきて学生時代から免疫学というと、なんとなく難しそうだなと避けてしまい、しっかり勉強してこなかったことを後悔したものです。免疫学の「め」の字も知らずに渡米してしまったようなものですから、留学当初はとても苦労しました。おそらく日本語で考えても理解が難しい実験系を、英語で説明し、説明され、考え、自分で行えるようになるまでには本当に大変でしたが、数ヵ月経ったころからはなんとか自分ひとりでできる実験が増えてきて、自分主導のprojectも任されるようになりました。

 

無我夢中で取り組む日々、良好な結果に思わず手が震えた経験も

 任された研究projectは、“抗原提示能力に特化したBatf3-dependent conventional type1 dendritic cells(cDC1)という特殊な樹状細胞を用いて、免疫療法抵抗性の乳がんを免疫療法反応性に変える”ことを目的とした研究で、臨床にも繋がりうるとても魅力的なprojectと感じました。

  実際には乳がんマウスモデルを用いて、Flt3LというcDC1への分化に必要なサイトカインを腫瘍内に打ち込み、cDC1を腫瘍内誘導し、放射線治療や補助シグナルの刺激でそれらを活性化することで腫瘍特異的な免疫を誘導し、免疫チェックポイント阻害剤耐性を解除する、という内容の研究でした。初めて、この治療法をマウスに試して、腫瘍の大きさを確認に行った日のことは今でも鮮明に覚えています。本当にこれで腫瘍が小さくなるかなぁ、と半信半疑でラボに行きましたが、実際にマウスを手に取ってみると明らかに腫瘍が小さくなっており、思わず 「すごい…!」、と動物舎で声を出してしまい、手も震えました。

  そこから先は、とんとん拍子で解析が進み、サイトカインの注入は毎日しなければならなかったので、平日、休日問わずにラボにいくのが当たり前にはなってしまいましたが、毎日結果を見るのが楽しみで、2年間の研究生活は本当に楽しく、充実したものであったと思います。無事に論文もpublishすることができました(Nat Commun. 2020 27;11(1):5415)。留学当初の苦労など忘れ、無我夢中で研究に取り組めた2年間は本当に幸せだったと思います。

 


HBOC予防的切除の保険適用後、医師に求められている役割(中村清吾氏)第3回

  遺伝子パネル検査の広がりやオラパリブの適応拡大により、遺伝性腫瘍の診療は大きな変化の中にあります。HBOCの予防的切除が保険適用となって約1年、昭和大学病院 乳腺外科教授/昭和大学病院ブレストセンター長の中村清吾氏に、今、現場の医師に求められる対応についてお話いただきます。
  第3回では、 施設間連携の考え方と日本の潜在的HBOC患者数についてお伺いしました。

 

施設間連携の考え方、日本の潜在的HBOC患者数とは?

 

[演者紹介]

中村 清吾(なかむら せいご)

[所属・役職]
昭和大学病院 乳腺外科教授/昭和大学病院ブレストセンター長

[学会・役職]
日本乳癌学会理事長
日本外科学会理事
NPO法人日本乳腺甲状腺超音波医学会(JABTS)監事
NPO法人日本HBOCコンソーシアム理事長
NPO法人日本乳がん情報ネットワーク代表理事
日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会副理事長
日本癌治療学会代議員
日本医学会評議員
Breast Surgery International (BSI)カウンシルメンバー

リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用 その3【「実践的」臨床研究入門】第6回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

 

「観察研究」と「介入研究」

CQ: 慢性腎臓病(CKD) の進行を抑制するためにたんぱく質摂取量を制限することは推奨されるか?
推奨 : CKD の進行を抑制するためにたんぱく質摂取量を制限することを推奨する。ただし、画一的な指導は不適切であり、個々の患者の病態やリスク、アドヒアランスなどを総合的に判断し、腎臓専門医と管理栄養士を含む医療チームの管理の下で行うことが望ましい (推奨グレード B 1)。

 前回までに、設定したCQに類似する上記のCQの記載と回答(推奨)を、「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」で見つけ、本文の解説を読み込みました。解説文(筆者がまとめた概要)では、下記のように先行研究を引用して、CKD患者における食事療法(低たんぱく食)に関するエビデンスが述べられています。

  • ・CKD患者におけるたんぱく質制限による腎保護効果は、これまで多くのランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)1-11)や、それらを統合(メタ解析)した、いくつかのシステマティック・レビュー12-18)で検討されている。
  • ・CKD患者(とくに糖尿病非合併例)に対するたんぱく質制限は、腎機能低下抑制に有効な可能性がある。

 RCTやシステマティック・レビューといった臨床疫学用語が出てきたので、ここでは臨床研究の「型」について簡単に解説してみたいと思います。

 臨床研究の「型」は「観察研究」と「介入研究」に大別されます。「観察研究」では研究目的を意識した介入(I)は加えずに、ある疾患やそれに対する診療の実態をありのままに観察します。一方、「介入研究」は、研究者が研究の対象(P)に対して意図した介入(I)を加えたうえでアウトカム(O)を追跡します。

 「介入研究」は介入(I)を対象(P)にランダム(無作為)に割り付けるか否かによって、RCTとnon-RCTに分類されます。「介入」の効果を科学的に検証するためには介入(I)群と対照(C)群の「比較の妥当性」をできる限り担保する必要があります。「ランダム割付」によって、介入(I)群と対照(C)群の間でアウトカムに影響する可能性のある背景因子を揃えることが期待でき、高い「比較の妥当性」を得ることができます(non-RCTはこの「ランダム割付」という「介入研究」の最大の「強み」を活かしていないので、「介入研究」≒RCTと捉えて良いのではないか、と筆者は考えています)。

 

「内的妥当性」と「外的妥当性」

 また、前回まとめたように、「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」では、上記のCQに対する推奨(回答)が根拠とするこれまでのエビデンスのひとつの限界として、以下のように言及されています。

・これらのエビデンスはほとんどが適格基準が厳しいRCTで示されたものである。また、腎臓専門医ならびに管理栄養士の指導の遵守率が高い状態の研究結果でもあり、CKD診療一般にあてはめることは難しい可能性がある。

 われわれが行おうとしている研究は「観察研究」です(連載第1回冒頭のダイアローグ参照)。「ランダム割付」した「介入研究」、いわゆるRCTは、介入(I)群と対照(C)群を公平に比較できることが期待されます。したがって、前述したとおりRCTは「比較の妥当性」が高く(別の言い方で、「内的妥当性」が高い、とも言います)、エビデンスレベルも「観察研究」より高く位置づけられています。

 それでは、「観察研究」の価値はRCTと比べて著しく低いのでしょうか、そんなことはありません。「内的妥当性」に対して「外的妥当性」という臨床疫学用語があります。「外的妥当性」とは、ざっくり言うと、ある特定の臨床研究で得られた結果を、その臨床研究で対象としたサンプル(研究対象集団)以外の集団に対しても当てはめることができるか、ということです(別の言い方で、「一般化可能性」、とも言います)。

 確かにRCTは前述したとおり「内的妥当性」には優れています。しかしRCTの適格基準を満たし、かつRCTの参加に同意する患者集団は、現実の一般的な診療で対象としている患者集団とかけ離れているかもしれません。なぜなら、RCTでは高齢者や重篤な併存疾患があるようなリスクの高い患者さんは適格基準を満たさず除外されてしまうことが多いからです。また、RCTへの参加に同意する患者さんは、そうでない患者さんに比べて健康意識が高く、日常の診療でも治療遵守の程度も高いかもしれません。

 このようなことから、一般にRCTは「内的妥当性」は高いけれども「外的妥当性」が低いことが多い、と言われます。「内的妥当性」と「外的妥当性」のバランスの観点から、われわれが行う「観察研究」でも新たなエビデンスを積み上げる余地(ニッチ)がはあると判断して、研究デザインの検討を前に進めて行きます。もちろん「観察研究」はRCTと比較して「内的妥当性」が低いことは否めません。研究デザインや統計解析計画で「観察研究」の「内的妥当性」を高める工夫についても、おいおい、解説して行きたいと思います。

 


【 引用文献 】

【 参考文献 】

  • 1)福原俊一. 臨床研究の道標 第2版. 健康医療評価研究機構;2017.
  • 2)木原雅子ほか訳. 医学的研究のデザイン 第4版. メディカル・サイエンス・インターナショナル;2014.
  • 3)矢野 栄二ほか訳. ロスマンの疫学 第2版. 篠原出版新社;2013.
  • 4)中村 好一. 基礎から学ぶ楽しい疫学 第4版. 医学書院;2020.
  • 5)片岡 裕貴. 日常診療で臨床疑問に出会ったときに何をすべきかがわかる本 第1版.中外医学社;2019.

講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学統括研究推進センター研究推進部門 教授
昭和大学医学部内科学講座腎臓内科学部門/衛生学公衆衛生学講座 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


バックナンバー

53. 線形回帰(重回帰)分析 その4

52. 線形回帰(重回帰)分析 その3

51. 線形回帰(重回帰)分析 その2

50. 線形回帰(重回帰)分析 その1

49. いよいよ多変量解析 その2

48. いよいよ多変量解析 その1

47. 何はさておき記述統計 その8

46. 何はさておき記述統計 その7

45. 何はさておき記述統計 その6

44. 何はさておき記述統計 その5

43. 何はさておき記述統計 その4

42. 何はさておき記述統計 その3

41. 何はさておき記述統計 その2

40. 何はさておき記述統計 その1

39. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その2

38. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その1

37. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その2

36. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その1

35. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その2

34. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その1

33. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その8

32. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その7

31. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その6

30. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その5

29. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その4

28. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その3

27. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その2

26. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その1

25. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その5

24. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その4

23. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その3

22. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その2

21. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その1

20. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その3

19. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その2

18. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その1

17. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その3

16.リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その2

15. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その1

14. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その3

13. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その2

12. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用その1

11. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その2

10. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その1

9. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その3

8. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その2

7. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その1

6. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その3

5. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その2

4. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その1

3. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビューその2

2. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー その1

1. 臨床上の疑問とリサーチ・クエスチョン

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(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)

HBOC予防的切除の保険適用後、医師に求められている役割(中村清吾氏)第2回

  遺伝子パネル検査の広がりやオラパリブの適応拡大により、遺伝性腫瘍の診療は大きな変化の中にあります。HBOCの予防的切除が保険適用となって約1年、昭和大学病院 乳腺外科教授/昭和大学病院ブレストセンター長の中村清吾氏に、今、現場の医師に求められる対応についてお話いただきます。
  第2回では、 保険適用の範囲と対象についてお伺いしました。

 

保険適用の範囲、誰が対象となるのか?

 

[演者紹介]

中村 清吾(なかむら せいご)

[所属・役職]
昭和大学病院 乳腺外科教授/昭和大学病院ブレストセンター長

[学会・役職]
日本乳癌学会理事長
日本外科学会理事
NPO法人日本乳腺甲状腺超音波医学会(JABTS)監事
NPO法人日本HBOCコンソーシアム理事長
NPO法人日本乳がん情報ネットワーク代表理事
日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会副理事長
日本癌治療学会代議員
日本医学会評議員
Breast Surgery International (BSI)カウンシルメンバー

海外研修留学便り 【米国留学記(大場 崇旦氏)】第1回

[ レポーター紹介 ]
大場  崇旦(おおば たかあき )

2009年3月 信州大学医学部医学科卒業
2009年4月 JA長野厚生連長野松代総合病院初期臨床研修
2011年4月 信州大学医学部外科学教室医員
2013年4月 信州大学医学部外科学教室乳腺内分泌外科学分野医員
2017年3月 信州大学大学院医学系研究科修了 博士号(医学)取得
2018年8月 Roswell Park Comprehensive Cancer Center, Center for immunotherapy, Postdoctoral fellow
2020年8月 信州大学医学部外科学教室乳腺内分泌外科学分野診療助教

 外科医としてキャリアをスタート後、米国Roswell Park Comprehensive Cancer Centerに基礎研究留学され、現在は帰国して信州大学外科学教室で乳腺内分泌外科学分野の診療助教として勤務する大場 崇旦氏に、日米の研究環境の違い、帰国後のキャリアプランニングなどについてレポートいただきます。第1回ではご自身が留学を決めた経緯から、実際の試験内容や必要な準備についてお伺いしました。

 

 2018年8月から2020年8月までの2年間、米国New York州 BuffaloにあるRoswell Park Comprehensive Cancer Centerに研究留学をしていました。この連載では、留学に至った経緯、留学先での研究、また実際のアメリカでの生活のことなどつづらせていただきます。今後、基礎研究での米国留学を考えていらっしゃる方に有用な情報をお届けできればと思います。

基礎研究は面白い! 留学を志した経緯

 初期臨床研修終了後、信州大学外科学教室に入局し、2年間の外科後期研修の後、乳腺内分泌外科を専門に決め、1年間の専門研修を信州大学医学部附属病院にて行いました。その後大学院に入学し、伊藤 研一教授のご指導の元、乳がんの基礎研究をスタートしました。当初は留学してまで基礎研究を続けていきたい、といったような強い気持ちはあまりなく、正直学位を取得できればその後は基礎研究とは距離を置き、また臨床に復帰したいと思っていました。
 しかしながら、研究を開始してみると、臨床医でなくては持てない視点から創出し、実臨床に繋がる可能性のある基礎研究の面白さとその重要性に気づき、できればこのまま基礎研究にも携わりながら臨床を続けていきたいと思うようになりました。実際、大学院卒業後も臨床の傍ら、基礎研究を続けることができ、臨床業務が終わってからの研究は体力的にはきつかったですが、充実感のあるものでした。そんな折、伊藤教授より、研究留学に行かないか? というご提案をいただき、ぜひ行かせてください、と即答しました。

ダメで当然の気持ちで初めてのアプライ

 具体的な行先は自分でこれから探さなくてはいけない状況でしたが、研究テーマとして、乳がん領域でもhot topicとなりつつある免疫療法の研究を行っているラボを希望し、様々な情報を検索すると、Roswell Park Comprehensive Cancer Centerの免疫療法部門でポスドクを募集しているという情報を見つけ、メールにてCVを送りアプライしてみました。 

 初めてのアプライだったのでダメで当然くらいの気持ちでおりましたが、翌日に、後のBossとなるDr.Fumito Itoより返信が来て、興味があるのでSkypeで面談しようということでした。本当に運がよかったのですが、Ito labではちょうど乳がん領域の免疫療法の研究を展開しようとしていたところで、乳がんが専門ということ、またある程度の基礎研究の経験がある、ということで採用していただけることとなりました。また、Dr.Itoは日本出身の外科医であり、自分が外科医であったことも採用される一つのポイントであったのではないかと思います。それが2018年1月の出来事であったと記憶しています。

ビザ発行要件の高い壁、妻のキャリアプランや子供の教育環境は?

 採用とは言っていただいたものの、ビザ発行の要件がTOEFLで90点以上、もしくは当該施設での英語教育者との面談での合格判定、という当時の自分にとってはあまりにもハードルの高い壁が突き付けられました。当然そこからは英語の猛勉強で何とか3月末に行ってもらった面談にて合格判定をもらい、ほっと胸をなでおろしました。また、私には麻酔科医の妻と二人の子供(当時7歳と4歳)がおります。当然、妻のキャリアプラン、子供の教育にも大きく影響する選択でしたが、医局と相談し、妻は2年間休職して渡米し、共に生活できることとなりました。

 


HBOC予防的切除の保険適用後、医師に求められている役割(中村清吾氏)第1回

  遺伝子パネル検査の広がりやオラパリブの適応拡大により、遺伝性腫瘍の診療は大きな変化の中にあります。HBOCの予防的切除が保険適用となって約1年、昭和大学病院 乳腺外科教授/昭和大学病院ブレストセンター長の中村清吾氏に、今、現場の医師に求められる対応についてお話いただきます。
  第1回では、HBOCの最新データと予防的切除の現状についてお伺いしました。

 

HBOCの最新データ、予防的切除の現状は?

 

[演者紹介]

中村 清吾(なかむら せいご)

[所属・役職]
昭和大学病院 乳腺外科教授/昭和大学病院ブレストセンター長

[学会・役職]
日本乳癌学会理事長
日本外科学会理事
NPO法人日本乳腺甲状腺超音波医学会(JABTS)監事
NPO法人日本HBOCコンソーシアム理事長
NPO法人日本乳がん情報ネットワーク代表理事
日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会副理事長
日本癌治療学会代議員
日本医学会評議員
Breast Surgery International (BSI)カウンシルメンバー

リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用 その2【「実践的」臨床研究入門】第5回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

 

診療ガイドラインの解説を読み込んでみる

 下記は、本連載でこれまでに少しずつブラッシュアップしてきた架空の臨床シナリオに基づいたCQとRQ(PECO)です 。

CQ:食事療法(低タンパク食)を遵守すると慢性腎臓病患者の腎予後は改善するのだろうか

P:慢性腎臓病(CKD)患者
E:食事療法(低タンパク食)の遵守
C:食事療法(低タンパク食)の非遵守
O:腎予後

  前回、このCQに関連した診療ガイドラインを検索したところ、「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」1)がヒットしました。この診療ガイドラインの目次をパラパラと眺めてみると、われわれのCQにかなり似通ったCQの記載が見つかります(下記)。

CQ:CKD の進行を抑制するためにたんぱく質摂取量を制限することは推奨されるか?

 このCQの該当ページの冒頭には下記の推奨が述べられています。

 推奨:CKDの進行を抑制するためにたんぱく質摂取量を制限することを推奨する。ただし、画一的な指導は不適切であり、個々の患者の病態やリスク、アドヒアランスなどを総合的に判断し、腎臓専門医と管理栄養士を含む医療チームの管理の下で行うことが望ましい (推奨グレード B1)。

 今回は、この回答(推奨)の根拠となる本文の解説を読み込んでみました。すると、このガイドラインにおける、CKD患者に対する食事療法(低たんぱく食)に関するエビデンスの概要は以下のようにまとめられました(筆者による抜粋、一部改変)。

・過剰なたんぱく質摂取は糸球体過剰ろ過を促進して腎機能に影響を与え、腎機能低下時にはたんぱく質の代謝産物が尿毒症物質として蓄積する。

・たんぱく質制限の目安として、この診療ガイドラインの編者である日本腎臓学会は「慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版」2)で、CKDステージ1)別のたんぱく質摂取量の基準を提示している(ステージG3a:0.8~1.0g/kg標準体重/日、G3b以降:0.6~0.8g/kg標準体重/日)。

・CKD患者におけるたんぱく質制限による腎保護効果は、これまで多くのランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)3-13)や、それらを統合(メタ解析)した、いくつかのシステマティック・レビュー14-20)で検討されている。

・CKD患者(特に糖尿病非合併例)に対するたんぱく質制限は、腎機能低下抑制に有効な可能性がある。

・これらのエビデンスはほとんどが適格基準が厳しいRCTで示されたものである。また、腎臓専門医ならびに管理栄養士の指導の遵守率が高い状態の研究結果でもあり、CKD診療一般にあてはめることは難しい可能性がある。

・特に高齢CKD患者において、たんぱく質制限による低栄養、QOL悪化、生命予後悪化などの懸念があるが、これらの可能性を明らかに示した研究結果はこれまでに認められていない。

 

新たなエビデンスを積み上げる余地(ニッチ)はあるか

 たんぱく質摂取量は、腎機能障害の程度であるCKDステージ1)別に示されてはいますが、0.6g/kg標準体重/日を下限として0.8g/kg標準体重/日前後が推奨されているようです。これまで検討している架空の臨床シナリオに基づいたCQは、単施設での臨床データを用いることを想定しています(連載第1回冒頭のダイアローグ参照)。実は、この施設は非常に厳格なたんぱく質制限(低たんぱく食0.5g/kg標準体重/日)を指導することで有名であったとします。すると、このRQ(PECO)のEは以下のように、より具体的なカタチで定義することが出来ます。

P:慢性腎臓病(CKD)患者
E:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の遵守
C:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の非遵守
O:腎予後

 エビデンスの隙間(ニッチ)を埋めるひとつの方策として、PECOの各要素のうちE/Cの変更・修正を工夫することが挙げられます。その結果、新規性のあるRQを考案することができるのです。このガイドラインの解説には、非常に厳格なたんぱく質制限の臨床的なメリットとデメリットに関する記述は見当たりません。したがって、われわれが行う臨床研究でエビデンスの隙間(ニッチ)を埋められるかもしれません。次回は、引き続き診療ガイドラインの解説を読み込んで、新たなエビデンスを積み上げる余地(ニッチ)について更に検討していきます。

 


【 引用文献 】

【 参考文献 】

  • 1)福原俊一. 臨床研究の道標 第2版. 健康医療評価研究機構;2017.
  • 2)木原雅子ほか訳. 医学的研究のデザイン 第4版. メディカル・サイエンス・インターナショナル;2014.
  • 3)矢野 栄二ほか訳. ロスマンの疫学 第2版. 篠原出版新社;2013.
  • 4)中村 好一. 基礎から学ぶ楽しい疫学 第4版. 医学書院;2020.
  • 5)片岡 裕貴. 日常診療で臨床疑問に出会ったときに何をすべきかがわかる本 第1版.中外医学社;2019.

講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学統括研究推進センター研究推進部門 教授
昭和大学医学部内科学講座腎臓内科学部門/衛生学公衆衛生学講座 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


バックナンバー

53. 線形回帰(重回帰)分析 その4

52. 線形回帰(重回帰)分析 その3

51. 線形回帰(重回帰)分析 その2

50. 線形回帰(重回帰)分析 その1

49. いよいよ多変量解析 その2

48. いよいよ多変量解析 その1

47. 何はさておき記述統計 その8

46. 何はさておき記述統計 その7

45. 何はさておき記述統計 その6

44. 何はさておき記述統計 その5

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42. 何はさておき記述統計 その3

41. 何はさておき記述統計 その2

40. 何はさておき記述統計 その1

39. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その2

38. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その1

37. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その2

36. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その1

35. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その2

34. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その1

33. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その8

32. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その7

31. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その6

30. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その5

29. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その4

28. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その3

27. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その2

26. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その1

25. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その5

24. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その4

23. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その3

22. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その2

21. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その1

20. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その3

19. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その2

18. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その1

17. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その3

16.リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その2

15. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その1

14. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その3

13. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その2

12. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用その1

11. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その2

10. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その1

9. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その3

8. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その2

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6. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その3

5. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その2

4. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その1

3. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビューその2

2. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー その1

1. 臨床上の疑問とリサーチ・クエスチョン

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早期乳がん、“切らない治療”の実現を目指す:AMATERAS-BC試験

提供元:CareNet.com

出演:群馬県立がんセンター 乳腺科 藤澤 知巳氏
  :呉医療センター 乳腺外科   重松 英朗氏

 術前補助療法で完全奏効となったcT1~2N0M0のHER2陽性乳がんに対する非切除治療を評価するJCOG1806/AMATERAS-BC試験が始まる。研究代表者の群馬県立がんセンター 藤澤知巳氏と研究事務局の呉医療センター 重松英朗氏に研究実施の背景と目標について聞いた。

 

AMATERAS-BC試験 実施の背景

 

AMATERAS-BC試験の概要

 

Q&A:非切除療法の根拠は?

 

Q&A:完全奏効の証明は確実なのか

 

Q&A:非説療法後のフォローは?

 

レポーター紹介

藤澤 知巳 ( ふじさわ ともみ ) 氏
群馬県立がんセンター 乳腺科

重松 英朗 ( しげまつ ひでお ) 氏
呉医療センター 乳腺外科


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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用 その1【「実践的」臨床研究入門】第4回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

 

診療ガイドラインとは

  各専門分野の診療ガイドラインは、日本医療機能評価機構が運営するMinds*1ガイドラインライブラリで検索することができます。診療ガイドラインはMindsでは以下のように定義されています。「診療上の重要度の高い医療行為について、エビデンスのシステマティック・レビューとその総体評価、益と害のバランスなどを考量して、患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書」1)。Mindsガイドラインライブラリでは無料で閲覧できない診療ガイドラインもありますが、ご自身のRQに関連する先行研究をレビューする際に、まずはじめにチェックしてみる価値のある質の高い2次情報源です。

*1:Medical Information Distribution Service

 

診療ガイドラインを活用した関連研究レビューの実際

 近年の診療ガイドラインは、1)クリニカル・クエスチョン(CQ)および、2)CQに対する回答の提示とその推奨グレード、という2段階構造で記述されています。下記は本連載で、これまでに作成してきた架空の臨床シナリオに基づいたCQです。

CQ:食事療法(低タンパク食)を遵守すると慢性腎臓病患者の腎予後は改善するのだろうか

P:慢性腎臓病患者
E:食事療法(低タンパク食)の遵守
C:食事療法(低タンパク食)の非遵守
O:腎予後

 例えば、このCQに関連した診療ガイドラインを、まずはPである「慢性腎臓病」をキーワードにMindsガイドラインライブラリで探してみましょう。すると、「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」2)が検索結果の筆頭に挙げられてきます。

 この診療ガイドラインの目次を見てみると、「第3章 栄養」のセクションで列記されているCQの中に、われわれのCQにかなり合致した下記の記載が見つかります。

CQ:CKD の進行を抑制するためにたんぱく質摂取量を制限することは推奨されるか?

推奨:CKD の進行を抑制するためにたんぱく質摂取量を制限することを推奨する。ただし、画一的な指導は不適切であり、個々の患者の病態やリスク、アドヒアランスなどを総合的に判断し、腎臓専門医と管理栄養士を含む医療チームの管理の下で行うことが望ましい (推奨グレード B 1)。

 推奨グレードは1)そのCQに対する回答の依拠するエビデンスの質と2)推奨の強さによって構成されます。推奨グレードの決定も含め、診療ガイドラインの作成にGRADE*システム3, 4)という手法を用いることが、現在では世界標準となっています。GRADEシステムでは、1)エビデンスの質および2)推奨の強さが、下記のとおり、それぞれ4段階と2段階に格付けされています4)

*2:Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation

1)エビデンスの質
A(高)    :真の効果が効果推定値に近いことに大きな確信がある。
B(中)    :効果推定値に対し中等度の確信がある。
C(低)    :効果推定値に対する確信性には限界がある。
D(非常に低い):効果推定値に対し、ほとんど確信がもてない。

2)推奨の強さ
1:強い推奨:推奨する。
2:弱い/条件付き推奨:提案する。

 この診療ガイドラインで挙げられた前述のCQに対する回答の内容は推奨グレードB1ですので、根拠となるエビデンスの質は中等度であるが強く推奨する、という意味合いになります。次回は、このCQに関する本文の解説を読み込んで、われわれが行う臨床研究で新たなエビデンスを積み上げる余地(ニッチ)があるかどうかを検討してみたいと思います。

 


【 引用文献 】

1 )福井次矢、山口直人 監修.Minds診療ガイドライン作成の手引き2014.医学書院.2014.
2 )日本腎臓学会編集.エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018, 東京医学社.
3 )Guyatt G et al. J Clin Epidemiol. 2011;64:383-94.
4 )診療ガイドラインのためのGRADEシステム 第3版.中外医学社

【 参考文献 】

1)福原俊一. 臨床研究の道標 第2版. 健康医療評価研究機構;2017.
2)木原雅子ほか訳. 医学的研究のデザイン 第4版. メディカル・サイエンス・インターナショナル;2014.
3)矢野 栄二ほか訳. ロスマンの疫学 第2版. 篠原出版新社;2013.
4)中村 好一. 基礎から学ぶ楽しい疫学 第4版. 医学書院;2020.
5)片岡 裕貴. 日常診療で臨床疑問に出会ったときに何をすべきかがわかる本 第1版.中外医学社;2019.

講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学統括研究推進センター研究推進部門 教授
昭和大学医学部内科学講座腎臓内科学部門/衛生学公衆衛生学講座 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


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サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2020)レポート

sabcs

[ レポーター紹介 ]
akihiko_shimomura
下村  昭彦 ( しもむら あきひこ ) 氏
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 乳腺・腫瘍内科 / 臨床ゲノム科

sabcs

 2020年12月8日から12月11日まで4日間にわたり、SABCS 2020がVirtual Meetingとして行われた。最近のSABCSは非常に重要な演題が多く、今回もプラクティスを変えるものもあれば、議論が深まるものも多かった。リバーウォークでステーキを食べながら議論はできなかったが、その分オンデマンド配信を繰り返し見て、何度も発表の内容を確認することが出来た。また、例年よりも多くのSpotlight Poster Discussionが設定されていたように思う。
 今回は、それらの演題の中から3演題を紹介する。

 


 

RxPONDER試験

 2018年にTAILORx試験の結果が発表されて以降、ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がんでリンパ節転移陰性の場合はOncotypeDXの再発スコア(recurrence score:RS)が25以下であれば原則として化学療法となった。一方、リンパ節転移陽性の場合のRSが低〜中間リスク(25以下)の場合の化学療法の上乗せ効果については閉経後女性に対する限られたデータのみしかなかった。

 RxPONDER試験は、ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がんでリンパ節転移が1〜3個の症例を対象として、RSが25以下の場合に化学療法を実施する群と内分泌療法単独群とで化学療法の上乗せ効果を検証した試験である。統計学的にはやや複雑な手法が取られており、まずRSと化学療法の間に無浸潤疾患生存率(invasive disease free survival:IDFS)において連続的な相関関係があるかどうかを検証している。RSと化学療法の間に相関関係が示された場合は、RS 0~25の症例においてRSが化学療法の有効性を示す指標として結論付けられるとされた。相関関係が示されなかった場合はRSと化学療法がそれぞれ独立したIDFSの予後予測因子となるかを検証している。

 2011年2月から2017年9月の間に9,383例がスクリーニングされ、最終的に内分泌療法単独群に2,536例、化学療法群に2,547例が割り付けられた。両群の患者背景はほぼ均等であり、RS 0~13が40%強、RS 14~25が60%弱であった。リンパ節転移は1個が65%前後、2個が25%前後、3個は10%弱であった。化学療法とRSの相関関係については証明されなかった。続いて化学療法とRSはそれぞれがIDFSの予測因子であること(化学療法を実施したほうがハザード比[HR]が低く、RSが高いほうがHRが高い)ことが示された。

 全体集団の解析での5年IDFSは化学療法群で92.4%、内分泌療法群で91.0%(HR:0.81、95%CI:0.67~0.98、p=0.026)であり、化学療法群で有意に良好であった。引き続いて閉経状態での解析が実施された。閉経後では5年IDFSは化学療法群で91.6%、内分泌療法群で91.9%(HR:0.97、95%CI:0.78~1.22、p=0.82)と両群間に差を認めなかったが、閉経前では化学療法群で94.2%、内分泌療法群で89.0%(HR:0.54、95%CI :0.38~0.76、p=0.0004)であり、化学療法群で有意に良好であった。RS 13までと14以上に更にサブグループに分けた解析も実施され、閉経後ではRSにかかわらず化学療法のメリットはなく、一方閉経前ではRSにかかわらず(RS 13までのほうが絶対リスク減少は減るものの)化学療法のメリットが認められた。リンパ節転移の個数による解析も同様であった。

 全生存(OS)においても閉経後は両群間に差を認めなかったが、閉経前では5年OSは化学療法群で98.6%、内分泌療法群で97.3%(HR:0.47、95%CI:0.24~0.94、p=0.032)であった。閉経前ではリンパ節転移陽性の場合は化学療法がOSに寄与することが示されたと言えよう。

 RxPONDER試験は今回のSABCSの演題の中で日常臨床に最もインパクトを与える試験であったと言える。

 

PENELOPE-B試験

 前回の欧州臨床腫瘍学会(ESMO)年次総会では2つのCDK4/6阻害剤の術後治療への上乗せに関する試験が発表された。アベマシクリブを上乗せするMonarchE試験と、パルボシクリブを上乗せするPALAS試験である。MonarchE試験はpositive、PALAS試験はnegativeとなり、明暗を分けた。そんなわけで、パルボシクリブをレスポンスガイドで用いるPENELOPE-B試験も非常に注目された。

 PENELOPE-B試験はホルモン受容体陽性HER2陰性乳がんに対し術前化学療法を実施した後に病理学的完全奏効(pCR)が得られなかった症例(non-pCR)を対象として、CPS-EGスコアというnon-pCRの予後を予測するスコア(J Clin Oncol.2011 May 20;29:1956-1962Eur J Cancer. 2016 Jan;53:65-74.)が3以上のハイリスク、もしくは2で術後にリンパ節転移が陽性であるという、本試験でのハイリスク症例を対象として、術後に標準的内分泌療法に加えパルボシクリブ(125mg/日、day1~21内服、28日間隔)もしくはプラセボを同スケジュールで13コース内服し、IDFSにおいてパルボシクリブ群で良好であることを検証する優越性試験である。両群間の患者背景に大きな差はなかった。

 追跡期間の中央値が42.8ヵ月のデータが発表され、2年IDFSではパルボシクリブ群で88.3%に対してプラセボ群で84.0%とパルボシクリブ群で良好な傾向を認めたものの、3年IDFSでは81.2% vs. 77.7%、4年IDFSでは73% vs. 72.4%と両群間の差は認められなかった(HR:0.93、95%CI:0.74~1.17、p=0.525)。様々なサブグループ解析も実施されたが、パルボシクリブの上乗せ効果が認められた群はなかった。OSの中間解析結果も発表され、4年IDFSで90.4% vs. 87.3% (HR:0.87、95%CI:0.61~1.22、p=0.420)と両群間の差は認めなかった。

 PALAS試験では内服に関する規定が非常に厳しく、完遂率が32%と非常に低かったことがnegativeとなった理由ではないかと考察されていたが、PENELOPE-Bでは完遂率は80%であり必ずしも内服のアドヒアランスで結果が左右されたとは言えなさそうである。non-pCRに対して術後に化学療法を追加したり、治療薬を変更するというアプローチはトリプルネガティブ乳がん(TNBC)やHER2陽性乳がんでは確立しているが、ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がんに対してはPENELOPE-Bが初の結果である。ひとつはnon-pCRの予後を推定する際にCPS-EGスコアが適切なリスク評価方法であったかということが重要である。CPS-EGスコアは術前と術後の病期と核異型度で予後を予測したものであり、病期の高いがん(あるいはダウンステージできなかったがん)では予後不良というある意味単純な事実を見ているだけかも知れない。また、ここには薬剤感受性の概念はなく、ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がんにおけるpCR率は低いことから、正確にリスク層別ができていなかった可能性は高いであろう。

 加えて、術後にCDK4/6阻害剤を内服する際の至適投与期間は不明である。MonarchEとPALASは24ヵ月、PENELOPE-Bでは12ヵ月であり、その投与期間は(同じ薬であっても)試験によって異なる。PENELOPE-Bは2年IDFSではパルボシクリブ群で良好な傾向を認めており、もしかするとパルボシクリブの内服は再発を遅らせる働きを持っているのかも知れない(がわからない)。

 

KEYNOTE-355試験

 乳がんでは他領域に遅れながらもTNBCを中心に免疫チェックポイント阻害薬の開発が進んでいる。とくに先行しているのが抗PD-L1抗体であるアテゾリズマブと、抗PD-1抗体であるペムブロリズマブである。KEYNOTE-355試験は前治療歴のないTNBCを対象として化学療法(アルブミン結合パクリタキセル[nab-PTX]、パクリタキセル[PTX]、またはゲムシタビン+カルボプラチン[GEM+CBDCA])+ペムブロリズマブもしくは化学療法+プラセボを比較する第III相試験である。主要評価項目はPD-L1陽性集団(CPS≧10およびCPS≧1)とITT集団における無増悪生存期間(PFS)、PD-L1集団とITT集団におけるOSとされた。前回のESMO年次集会では主たるPFSの解析が発表され、SABCSではレジメンごとのサブグループ解析を含めて566例がペムブロリズマブ群に、281例がプラセボ群に2:1に割り付けられた。CPS≧1のPD-L1陽性が約75%、CPS≧10のPD-L1陽性が40%弱であった。化学療法としてはnab-PTXが30〜34%、PTXが11〜15%、GEM+CBDCAが55%であった。同クラスの化学療法を受けたことのある症例は22%程度であった。

 主要評価項目のPFSはCPS≧10ではペムブロリズマブ群で9.7ヵ月、プラセボ群で5.7ヵ月 (HR:0.65、95%CI:0.49~0.86、p=0.012)であり、ペムブロリズマブ群で有意に長かった。一方、CPS≧1では7.6ヵ月 vs. 5.6ヵ月 (HR:0.74、95%CI:0.61~0.90、p=0.0014 ※注:有意水準は0.00111)、ITTでは7.5ヵ月 vs. 5.6ヵ月 (HR:0.82、95%CI:0.69~0.97)であり、いずれも両群間の差は認められなかった。レジメンごとのサブグループ解析では、nab-PTX、PTXでは有意差を認めているものの、GEM+CBDCAでは有意差を認めなかった。

 このサブグループ解析はTNBCにおける免疫チェックポイント阻害薬の位置付けにおいて重要な結果となっている。ESMOではTNBC初回治療におけるアテゾリズマブの試験であるIMpassion131試験の結果が発表された。IMpassion130試験はnab-PTXに対するアテゾリズマブの上乗せ効果を証明した試験であったが、IMpassion131試験ではパクリタキセルに対するアテゾリズマブの上乗せが検証され、両群間の差は(傾向としても)認められなかった。対して、KN-355試験ではパクリタキセルに対するペムブロリズマブの上乗せ効果が示され、薬剤ごとに明暗を分けた。

 アテゾリズマブとペムブロリズマブは同じセッティングの薬剤であるものの、コンパニオン診断薬が異なり(SP-142と22C3)、また併用化学療法も異なっている。今後はこれら2剤の使い分けについての議論も必要であろう。


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