[ レポーター紹介 ]
下村 昭彦 ( しもむら あきひこ ) 氏
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 乳腺・腫瘍内科 / 臨床ゲノム科
2020年12月8日から12月11日まで4日間にわたり、SABCS 2020がVirtual Meetingとして行われた。最近のSABCSは非常に重要な演題が多く、今回もプラクティスを変えるものもあれば、議論が深まるものも多かった。リバーウォークでステーキを食べながら議論はできなかったが、その分オンデマンド配信を繰り返し見て、何度も発表の内容を確認することが出来た。また、例年よりも多くのSpotlight Poster Discussionが設定されていたように思う。
今回は、それらの演題の中から3演題を紹介する。
RxPONDER試験
2018年にTAILORx試験の結果が発表されて以降、ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がんでリンパ節転移陰性の場合はOncotypeDXの再発スコア(recurrence score:RS)が25以下であれば原則として化学療法となった。一方、リンパ節転移陽性の場合のRSが低〜中間リスク(25以下)の場合の化学療法の上乗せ効果については閉経後女性に対する限られたデータのみしかなかった。
RxPONDER試験は、ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がんでリンパ節転移が1〜3個の症例を対象として、RSが25以下の場合に化学療法を実施する群と内分泌療法単独群とで化学療法の上乗せ効果を検証した試験である。統計学的にはやや複雑な手法が取られており、まずRSと化学療法の間に無浸潤疾患生存率(invasive disease free survival:IDFS)において連続的な相関関係があるかどうかを検証している。RSと化学療法の間に相関関係が示された場合は、RS 0~25の症例においてRSが化学療法の有効性を示す指標として結論付けられるとされた。相関関係が示されなかった場合はRSと化学療法がそれぞれ独立したIDFSの予後予測因子となるかを検証している。
2011年2月から2017年9月の間に9,383例がスクリーニングされ、最終的に内分泌療法単独群に2,536例、化学療法群に2,547例が割り付けられた。両群の患者背景はほぼ均等であり、RS 0~13が40%強、RS 14~25が60%弱であった。リンパ節転移は1個が65%前後、2個が25%前後、3個は10%弱であった。化学療法とRSの相関関係については証明されなかった。続いて化学療法とRSはそれぞれがIDFSの予測因子であること(化学療法を実施したほうがハザード比[HR]が低く、RSが高いほうがHRが高い)ことが示された。
全体集団の解析での5年IDFSは化学療法群で92.4%、内分泌療法群で91.0%(HR:0.81、95%CI:0.67~0.98、p=0.026)であり、化学療法群で有意に良好であった。引き続いて閉経状態での解析が実施された。閉経後では5年IDFSは化学療法群で91.6%、内分泌療法群で91.9%(HR:0.97、95%CI:0.78~1.22、p=0.82)と両群間に差を認めなかったが、閉経前では化学療法群で94.2%、内分泌療法群で89.0%(HR:0.54、95%CI :0.38~0.76、p=0.0004)であり、化学療法群で有意に良好であった。RS 13までと14以上に更にサブグループに分けた解析も実施され、閉経後ではRSにかかわらず化学療法のメリットはなく、一方閉経前ではRSにかかわらず(RS 13までのほうが絶対リスク減少は減るものの)化学療法のメリットが認められた。リンパ節転移の個数による解析も同様であった。
全生存(OS)においても閉経後は両群間に差を認めなかったが、閉経前では5年OSは化学療法群で98.6%、内分泌療法群で97.3%(HR:0.47、95%CI:0.24~0.94、p=0.032)であった。閉経前ではリンパ節転移陽性の場合は化学療法がOSに寄与することが示されたと言えよう。
RxPONDER試験は今回のSABCSの演題の中で日常臨床に最もインパクトを与える試験であったと言える。
PENELOPE-B試験
前回の欧州臨床腫瘍学会(ESMO)年次総会では2つのCDK4/6阻害剤の術後治療への上乗せに関する試験が発表された。アベマシクリブを上乗せするMonarchE試験と、パルボシクリブを上乗せするPALAS試験である。MonarchE試験はpositive、PALAS試験はnegativeとなり、明暗を分けた。そんなわけで、パルボシクリブをレスポンスガイドで用いるPENELOPE-B試験も非常に注目された。
PENELOPE-B試験はホルモン受容体陽性HER2陰性乳がんに対し術前化学療法を実施した後に病理学的完全奏効(pCR)が得られなかった症例(non-pCR)を対象として、CPS-EGスコアというnon-pCRの予後を予測するスコア(J Clin Oncol.2011 May 20;29:1956-1962, Eur J Cancer. 2016 Jan;53:65-74.)が3以上のハイリスク、もしくは2で術後にリンパ節転移が陽性であるという、本試験でのハイリスク症例を対象として、術後に標準的内分泌療法に加えパルボシクリブ(125mg/日、day1~21内服、28日間隔)もしくはプラセボを同スケジュールで13コース内服し、IDFSにおいてパルボシクリブ群で良好であることを検証する優越性試験である。両群間の患者背景に大きな差はなかった。
追跡期間の中央値が42.8ヵ月のデータが発表され、2年IDFSではパルボシクリブ群で88.3%に対してプラセボ群で84.0%とパルボシクリブ群で良好な傾向を認めたものの、3年IDFSでは81.2% vs. 77.7%、4年IDFSでは73% vs. 72.4%と両群間の差は認められなかった(HR:0.93、95%CI:0.74~1.17、p=0.525)。様々なサブグループ解析も実施されたが、パルボシクリブの上乗せ効果が認められた群はなかった。OSの中間解析結果も発表され、4年IDFSで90.4% vs. 87.3% (HR:0.87、95%CI:0.61~1.22、p=0.420)と両群間の差は認めなかった。
PALAS試験では内服に関する規定が非常に厳しく、完遂率が32%と非常に低かったことがnegativeとなった理由ではないかと考察されていたが、PENELOPE-Bでは完遂率は80%であり必ずしも内服のアドヒアランスで結果が左右されたとは言えなさそうである。non-pCRに対して術後に化学療法を追加したり、治療薬を変更するというアプローチはトリプルネガティブ乳がん(TNBC)やHER2陽性乳がんでは確立しているが、ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がんに対してはPENELOPE-Bが初の結果である。ひとつはnon-pCRの予後を推定する際にCPS-EGスコアが適切なリスク評価方法であったかということが重要である。CPS-EGスコアは術前と術後の病期と核異型度で予後を予測したものであり、病期の高いがん(あるいはダウンステージできなかったがん)では予後不良というある意味単純な事実を見ているだけかも知れない。また、ここには薬剤感受性の概念はなく、ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がんにおけるpCR率は低いことから、正確にリスク層別ができていなかった可能性は高いであろう。
加えて、術後にCDK4/6阻害剤を内服する際の至適投与期間は不明である。MonarchEとPALASは24ヵ月、PENELOPE-Bでは12ヵ月であり、その投与期間は(同じ薬であっても)試験によって異なる。PENELOPE-Bは2年IDFSではパルボシクリブ群で良好な傾向を認めており、もしかするとパルボシクリブの内服は再発を遅らせる働きを持っているのかも知れない(がわからない)。
KEYNOTE-355試験
乳がんでは他領域に遅れながらもTNBCを中心に免疫チェックポイント阻害薬の開発が進んでいる。とくに先行しているのが抗PD-L1抗体であるアテゾリズマブと、抗PD-1抗体であるペムブロリズマブである。KEYNOTE-355試験は前治療歴のないTNBCを対象として化学療法(アルブミン結合パクリタキセル[nab-PTX]、パクリタキセル[PTX]、またはゲムシタビン+カルボプラチン[GEM+CBDCA])+ペムブロリズマブもしくは化学療法+プラセボを比較する第III相試験である。主要評価項目はPD-L1陽性集団(CPS≧10およびCPS≧1)とITT集団における無増悪生存期間(PFS)、PD-L1集団とITT集団におけるOSとされた。前回のESMO年次集会では主たるPFSの解析が発表され、SABCSではレジメンごとのサブグループ解析を含めて566例がペムブロリズマブ群に、281例がプラセボ群に2:1に割り付けられた。CPS≧1のPD-L1陽性が約75%、CPS≧10のPD-L1陽性が40%弱であった。化学療法としてはnab-PTXが30〜34%、PTXが11〜15%、GEM+CBDCAが55%であった。同クラスの化学療法を受けたことのある症例は22%程度であった。
主要評価項目のPFSはCPS≧10ではペムブロリズマブ群で9.7ヵ月、プラセボ群で5.7ヵ月 (HR:0.65、95%CI:0.49~0.86、p=0.012)であり、ペムブロリズマブ群で有意に長かった。一方、CPS≧1では7.6ヵ月 vs. 5.6ヵ月 (HR:0.74、95%CI:0.61~0.90、p=0.0014 ※注:有意水準は0.00111)、ITTでは7.5ヵ月 vs. 5.6ヵ月 (HR:0.82、95%CI:0.69~0.97)であり、いずれも両群間の差は認められなかった。レジメンごとのサブグループ解析では、nab-PTX、PTXでは有意差を認めているものの、GEM+CBDCAでは有意差を認めなかった。
このサブグループ解析はTNBCにおける免疫チェックポイント阻害薬の位置付けにおいて重要な結果となっている。ESMOではTNBC初回治療におけるアテゾリズマブの試験であるIMpassion131試験の結果が発表された。IMpassion130試験はnab-PTXに対するアテゾリズマブの上乗せ効果を証明した試験であったが、IMpassion131試験ではパクリタキセルに対するアテゾリズマブの上乗せが検証され、両群間の差は(傾向としても)認められなかった。対して、KN-355試験ではパクリタキセルに対するペムブロリズマブの上乗せ効果が示され、薬剤ごとに明暗を分けた。
アテゾリズマブとペムブロリズマブは同じセッティングの薬剤であるものの、コンパニオン診断薬が異なり(SP-142と22C3)、また併用化学療法も異なっている。今後はこれら2剤の使い分けについての議論も必要であろう。
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