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本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。
UpToDate®―エビデンスベースの臨床意思決定支援リソース
UpToDate®は「臨床上の疑問」にすばやく答えることを目的とした臨床支援ツールで、オンラインで使える優れた2次情報源です。多数の専門家によるエビデンスに基づいた執筆・査読を経て作られており、広範な医学専門分野における多くのテーマを網羅しています。年3回、最新の知見に沿って更新されており、各トピックでエビデンスが不足しているポイントを指摘している場合もあります。
多くの先行研究論文が引用され、また個々の引用論文のPubMed上のアブストラクトへのリンクも貼られており、1次情報の参照がワンクリックで可能です。難点は有料サービスであるという点ですが、大学病院をはじめとする多くの教育研修病院では施設契約しているところが多いのではないでしょうか。もし自施設で無料利用が可能でしたら、UpToDate®を是非活用してみてください。
UpToDate®を活用した関連研究レビューの実際
下記は、これまでにブラッシュアップしてきた、架空の臨床シナリオに基づいた下記のCQとRQ(PECO)です(第5回参照)。
CQ:食事療法を遵守すると慢性腎臓病患者の腎予後は改善するのだろうか
↓
P:慢性腎臓病(CKD)患者
E:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の遵守
C:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の非遵守
O:腎予後
ここでは、このトピックに関連する先行研究のレビューをUpToDate®を活用して行ってみたいと思います。
UpToDate®のトップページを開くと、「UpToDateを検索する」と注釈の付いた検索窓があります。UpToDate®の現行バージョンでは、英語はもちろん日本語のキーワードでもトピックの検索が可能です。それでは、われわれのRQの対象(P)の疾患である「慢性腎臓病」および曝露要因(E)である「食事療法」という2つのキーワードを日本語で入力し検索してみます。すると、これらのキーワードに関連するトピックが関連度順に表示されますが、その筆頭にリストアップされたのは下記のトピックの標題でした。
人工透析を受けていない慢性腎臓病患者に推奨する食事療法
われわれのRQにぴったりマッチしたトピックですね。ちなみに日本語で表示されるのは、残念ながらトピック標題のリストアップの段階までです。本文(英語)へのリンクはトピック標題をワンクリックするだけですので、早速、内容を確認してみますと、
Dietary recommendations for patients with nondialysis chronic kidney disease
というタイトルのトピック本文が表示されます。この本文はWeb上で通読することも可能ですが、筆者はPDF形式のファイルで保存してから読み込むことが多いです。検索にヒットしたトピック本文のボリュームにもよりますが、最初から全文を精読することが時間的に厳しいこともあります。ざっくりとした内容を把握するために、まずはトピック本文末にある ”SUMMARY AND RECOMMENDATIONS” に目を通すことを、筆者はお勧めしています。
早速、このトピックの ”SUMMARY AND RECOMMENDATIONS” を読んでみましょう。すると、保存期(人工透析を受けていない)CKD患者に推奨される食事療法の基準としては、下記の項目に分類して論考されているようです。
1) たんぱく質摂取量
2) 食塩摂取量
3)カリウム、カルシウム、リン摂取量
4) カロリー摂取量
5) その他
われわれのRQは食事療法のなかでもとくに「たんぱく質摂取量」に焦点を当てています。ここでは、たんぱく質摂取量の推奨基準としては、下記の記述があります。
“Among patients with eGFR <60 mL/min/1.73 m² who are not on dialysis and do not have nephrotic syndrome, we restrict daily protein intake to approximately 0.8 g/kg.”
「ネフローゼ症候群を発症していない糸球体濾過量(GFR)<60mL/分/1.73m²未満の保存期CKD患者では0.8g/kg標準体重/日が推奨される (筆者による意訳) 。 」
詳細については”Protein intake”の項を参照、とあります。次回はこちらの項を読み込んで、関連先行研究をレビューし、われわれのRQのさらなるブラッシュアップに活かしたいと思います。
【 参考文献 】
- 1)福原俊一. 臨床研究の道標 第2版. 健康医療評価研究機構;2017.
- 2)木原雅子ほか訳. 医学的研究のデザイン 第4版. メディカル・サイエンス・インターナショナル;2014.
- 3)矢野 栄二ほか訳. ロスマンの疫学 第2版. 篠原出版新社;2013.
- 4)中村 好一. 基礎から学ぶ楽しい疫学 第4版. 医学書院;2020.
- 5)片岡 裕貴. 日常診療で臨床疑問に出会ったときに何をすべきかがわかる本 第1版.中外医学社;2019.
- 6)康永 秀生. 必ずアクセプトされる医学英語論文.金原出版;2021.
講師紹介

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学統括研究推進センター研究推進部門 教授
昭和大学医学部内科学講座腎臓内科学部門/衛生学公衆衛生学講座 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授
[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。
バックナンバー
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38. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その1
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